特許第6014503号(P6014503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6014503-無段変速機 図000002
  • 特許6014503-無段変速機 図000003
  • 特許6014503-無段変速機 図000004
  • 特許6014503-無段変速機 図000005
  • 特許6014503-無段変速機 図000006
  • 特許6014503-無段変速機 図000007
  • 特許6014503-無段変速機 図000008
  • 特許6014503-無段変速機 図000009
  • 特許6014503-無段変速機 図000010
  • 特許6014503-無段変速機 図000011
  • 特許6014503-無段変速機 図000012
  • 特許6014503-無段変速機 図000013
  • 特許6014503-無段変速機 図000014
  • 特許6014503-無段変速機 図000015
  • 特許6014503-無段変速機 図000016
  • 特許6014503-無段変速機 図000017
  • 特許6014503-無段変速機 図000018
  • 特許6014503-無段変速機 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014503
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 29/04 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
   F16H29/04
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-13199(P2013-13199)
(22)【出願日】2013年1月28日
(65)【公開番号】特開2014-145390(P2014-145390A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 優史
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/008624(WO,A1)
【文献】 特開2013−007464(JP,A)
【文献】 特表2005−502543(JP,A)
【文献】 特開昭54−151768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源からの駆動力が伝達される入力部と、
前記入力部の回転中心軸線と平行に配置された出力軸と、
前記出力軸に揺動自在に軸支される揺動リンクを有し、前記入力部の回転運動を前記揺動リンクの揺動運動に変換する複数のてこクランク機構と、
前記揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構とを備え、
前記てこクランク機構が、調節用駆動源と、該調節用駆動源の駆動力を用いて前記入力部の側の回転運動の半径を調節自在な回転半径調節機構と、該回転半径調節機構と前記揺動リンクとを連結するコネクティングロッドとを備える無段変速機であって、
前記回転半径調節機構は、
前記入力部の回転中心軸線に対して偏心した状態で前記入力部と一体的に回転するカム部と、
前記カム部に対して偏心した状態で回転自在な回転部と、
前記調節用駆動源の駆動力が伝達されるピニオンとを備え、
前記カム部には、前記回転中心軸線と同心に貫通する貫通孔が設けられ、
前記入力部と前記カム部とでカムシャフトを構成し、
該ピニオンは、前記調節用駆動源の駆動力が伝達されるピニオンシャフトにスプライン結合し、
前記ピニオンには、前記ピニオンシャフトを介して、前記調節用駆動源の動力が伝達され、
前記カムシャフトには、前記ピニオンシャフトを挿通させる挿通孔が設けられ、
前記ピニオンは、前記挿通孔の径よりも大径に形成されることを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機であって、
前記カムシャフトの挿通孔は、前記カム部の貫通孔が連なって構成されることを特徴とする無段変速機。
【請求項3】
請求項1に記載の無段変速機であって、
前記入力部は、中空軸状に形成され、前記カム部の貫通孔に前記入力部を挿通させて前記カム部と前記入力部とをスプライン結合させることにより、前記入力部と前記カム部とが一体的に回転するように構成し、
前記カムシャフトの挿通孔は、前記入力部の内周面からなることを特徴とする無段変速機。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載された無段変速機の組立方法であって、
前記回転半径調節機構は、前記回転中心軸線の方向に分割された複数の前記カム部を備え、
前記回転半径調節機構は、前記複数のカム部のうち前記回転中心軸線の方向の一方端側の前記カム部の貫通孔に前記ピニオンシャフトを挿通させてから、前記ピニオンに前記ピニオンシャフトを挿通させて前記ピニオンを前記ピニオンシャフトにスプライン結合させた後で、前記複数のカム部のうち前記回転中心軸線の方向の他方端側の前記カム部の貫通孔に挿通させることを特徴とする無段変速機の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てこクランク機構を用いた四節リンク機構型の無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられたエンジン等の駆動源からの駆動力が伝達される入力軸と、入力軸と平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた複数の回転半径調節機構と、出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、一方の端部に回転半径調節機構に回転自在に外嵌される入力側環状部を有し、他方の端部が揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドとを備える四節リンク機構型無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、各回転半径調節機構は、入力軸に偏心して設けられた円板状のカム部と、このカム部に偏心して回転自在に設けられた回転部と、複数のピニオンを軸方向に一体に備えるピニオンシャフトとからなる。また、揺動リンクと出力軸との間には、一方向クラッチが設けられている。一方向クラッチは、揺動リンクが出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに、出力軸に揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに、出力軸に対して揺動リンクを空転させる。
【0004】
各カム部は、入力軸の軸方向に貫通する貫通孔と、入力軸に対する偏心方向に対向する位置に設けられ、カム部の外周面と貫通孔とを連通させる切欠孔とを備える。また、切欠孔は、カム部の軸方向一方の端面から他方の端面に亘って設けられている。隣接するカム部同士はボルトで固定され、これにより、カム部連結体が構成される。カム部連結体の軸方向一端は、入力軸に連結され、カム部連結体と入力軸とでカムシャフトが構成されている。
【0005】
カム部連結体は、各カム部の貫通孔が連なることにより、中空となっており、その内部にはピニオンシャフトが挿入される。挿入されたピニオンシャフトは各カム部の切欠孔から露出している。回転部にはカムシャフトを受け入れる受入孔が設けられている。この受入孔を形成する回転部の内周面には内歯が形成されている。
【0006】
内歯は、カムシャフトの切欠孔から露出するピニオンシャフトと噛合する。入力軸とピニオンシャフトとを同一速度で回転させると、回転半径調節機構の入力軸側の回転運動の半径が維持される。入力軸とピニオンシャフトの回転速度を異ならせると、回転半径調節機構の入力軸側の回転運動の半径が変更されて、変速比が変化する。
【0007】
入力軸を回転させることにより回転半径調節機構を回転させると、コネクティングロッドの入力側環状部が回転運動して、コネクティングロッドの他方の端部と連結される揺動リンクの揺動端部が揺動する。即ち、回転半径調節機構、コネクティングロッド、及び揺動リンクで、てこクランク機構が構成される。揺動リンクは、一方向クラッチを介して出力軸に設けられているため、一方側に回転するときのみ出力軸に回転駆動力(トルク)を伝達する。
【0008】
各回転半径調節機構のカム部の偏心方向は、夫々位相を異ならせて入力軸周りを一周するように設定されている。従って、各回転半径調節機構に外嵌されたコネクティングロッドによって、揺動リンクが順にトルクを出力軸に伝達するため、出力軸をスムーズに回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の四節リンク型の無段変速機では、カム部の貫通孔の内径をピニオンシャフトのピニオンよりも大きくしなければ、カム部に設けられた貫通孔内をピニオンシャフトが通過できない。このため、カム部が大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
カム部を小さくすべく、ピニオンと共にピニオンシャフトを小さくすることも考えれる。しかしながら、ピニオンには、コネクティングロッドやカム部等から比較的大きな力が加わる。このため、ピニオンを小さくすると、ピニオンに要求される強度が得られないという問題がある。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑み、ピニオンの強度を維持しつつ、従来よりもカム部の小型化を図ることができる四節リンク型の無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、走行用駆動源からの駆動力が伝達される入力部と、前記入力部の回転中心軸線と平行に配置された出力軸と、前記出力軸に揺動自在に軸支される揺動リンクを有し、前記入力部の回転運動を前記揺動リンクの揺動運動に変換する複数のてこクランク機構と、前記揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構とを備え、前記てこクランク機構が、調節用駆動源と、該調節用駆動源の駆動力を用いて前記入力部の側の回転運動の半径を調節自在な回転半径調節機構と、該回転半径調節機構と前記揺動リンクとを連結するコネクティングロッドとを備える無段変速機であって、前記回転半径調節機構は、前記入力部の回転中心軸線に対して偏心した状態で前記入力部と一体的に回転するカム部と、前記カム部に対して偏心した状態で回転自在な回転部と、前記調節用駆動源の駆動力が伝達されるピニオンとを備え、前記カム部には、前記回転中心軸線と同心に貫通する貫通孔が設けられ、前記入力部と前記カム部とでカムシャフトを構成し、該ピニオンは、前記調節用駆動源の駆動力が伝達されるピニオンシャフトにスプライン結合し、前記ピニオンには、前記ピニオンシャフトを介して、前記調節用駆動源の動力が伝達され、前記カムシャフトには、前記ピニオンシャフトを挿通させる挿通孔が設けられ、前記ピニオンは、前記挿通孔の径よりも大径に形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、ピニオンとピニオンシャフトとが別体で構成される。従って、ピニオンシャフトを挿通させるための挿通孔の径をピニオンに合わせて大径とする必要がない。故に、ピニオンを小径にする必要が無く、ピニオンの強度を低下させることなく、ピニオンシャフト及びカムシャフトの挿通孔を小径に形成することができる。これにより、本発明は、従来よりもカムの小型化を図ることができる。
【0015】
[2]また、本発明においては、カムシャフトの挿通孔を、カム部の貫通孔を連ならせて構成することができる。
【0016】
[3]また、本発明においては、入力部を中空軸状に形成し、カム部の貫通孔に入力部を挿通させてカム部と入力部とをスプライン結合させることにより、入力部と記カム部とが一体的に回転するように構成し、カムシャフトの挿通孔を入力部の内周面で構成することもできる。
【0017】
[4]また、本発明の無段変速機の回転半径調節機構は、回転中心軸線の方向に分割された複数のカム部を備え、回転半径調節機構は、複数のカム部のうち回転中心軸線の方向の一方端側のカム部の貫通孔にピニオンシャフトを挿通させてから、ピニオンにピニオンシャフトを挿通させてピニオンをピニオンシャフトにスプライン結合させた後で、複数のカム部のうち回転中心軸線の方向の他方端側のカム部の貫通孔に挿通させることにより組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明が適用される無段変速機の基本構成を示す斜視図。
図2】本発明が適用される無段変速機の基本構成を一部切り欠いて示す斜視図。
図3】本発明が適用される無段変速機の基本構成を示す断面図。
図4図3の一部を拡大して示す断面図。
図5】本発明が適用される無段変速機の基本構成を軸方向から示す断面図。
図6】(a)は本発明が適用される無段変速機の基本構成を説明すべく、回転部を軸方向から示す説明図。(b)は、図6(a)のB−B線切断断面図。
図7】本発明が適用される無段変速機の回転半径調節機構の回転半径(偏心量)の変化を示す説明図であり、(a)は偏心量が最大、(b)は偏心量が中、(c)は偏心量が小、(d)は偏心量が「0」であるときを夫々示している。
図8】本発明の無段変速機の第1実施形態のピニオンとピニオンシャフトとを示す説明図。
図9】第1実施形態の無段変速機の組立方法を示す説明図。
図10】第1実施形態の無段変速機の回転半径調節機構の部分を拡大して示す断面図。
図11】第1実施形態の無段変速機の挿通孔とピニオンシャフトとピニオンの径の大きさの関係を示す説明図。
図12】第2実施形態の無段変速機を一部切り欠いて示す斜視図。
図13】第2実施形態の無段変速機を示す断面図。
図14図13の一部を拡大して示す断面図。
図15】第2実施形態の無段変速機の回転半径調節機構の部分を拡大して示す断面図。
図16】第2実施形態の無段変速機の挿通孔とピニオンシャフトとピニオンの径の大きさの関係を示す説明図。
図17】参考例1の無段変速機の回転半径調節機構の部分を拡大して示す断面図。
図18】参考例2の無段変速機の回転半径調節機構の部分を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図を参照して、本発明の四節リンク機構型の無段変速機の実施形態を説明する。まず、図1から図7を参照して、本発明が適用される無段変速機の基本構成を説明する。本発明が適用される無段変速機は、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂IVT(Infinity Variable Transmission)の一種である。
【0020】
図1から図5を参照して、四節リンク機構型の無段変速機1は、内燃機関であるエンジンや電動機等の走行用駆動源からの回転駆動力を受けることで回転中心軸線P1を中心に回転する入力部2と、回転中心軸線P1に平行に配置され、図外のデファレンシャルギアやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪に回転動力を伝達させる出力軸3と、入力部2に設けられた6つの回転半径調節機構4とを備える。
【0021】
各回転半径調節機構4は、カム部としてのカムディスク5と、回転部としての回転ディスク6とを備える。カムディスク5は、円盤状であり、回転中心軸線P1から偏心されると共に、1つの回転半径調節機構4に対して2個1組となるように、各回転半径調節機構4に設けられている。また、カムディスク5には、回転中心軸線P1の方向に貫通する貫通孔5aが設けられている。また、カムディスク5には、回転中心軸線P1に対して偏心する方向とは逆の方向に開口し、カムディスク5の外周面と貫通孔5aとを連通させる切欠孔5bが設けられている。
【0022】
各1組のカムディスク5は、夫々位相を60度異ならせて、6組のカムディスク5で入力部2の周方向を一回りするように配置されている。
【0023】
カムディスク5は、隣接する回転半径調節機構4のカムディスク5と一体的に形成されて一体型カム部5cが構成されている。この一体型カム部5cは、一体成型で形成してもよく、または、2つのカム部を溶接して一体化してもよい。各回転半径調節機構4の2個1組のカムディスク5同士はボルト(図示省略)で固定されている。回転中心軸線P1上の最も走行用駆動源側に位置するカムディスク5は入力部2と一体的に形成されている。このようにして、入力部2とカムディスク5とでカムシャフト51が構成されることとなる。
【0024】
カムシャフト51は、カムディスク5の貫通孔5aが連なることによって構成される挿通孔60を備える。これにより、カムシャフト51は、走行用駆動源とは反対側の一方端が開口した中空形状に構成される。走行用駆動源側の他方端に位置するカムディスク5は、入力部2と一体的に形成されている。即ち、走行用駆動源側の端部に位置するカムディスク5は、入力部2と一体的に形成されている。このカムディスク5と入力部2とを一体的に形成する方法としては、一体成型を用いてもよく、また、カムディスク5と入力部2とを溶接して一体化してもよい。
【0025】
また、各1組のカムディスク5には、カムディスク5を受け入れる受入孔6a(図6(a)、(b)参照)を備える円盤状の回転ディスク6が偏心された状態で回転自在に外嵌されている。
【0026】
図5に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5の中心点をP2、回転ディスク6の中心点をP3として、回転中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、カムディスク5に対して偏心している。
【0027】
回転ディスク6の受入孔6aには、1組のカムディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。
【0028】
カムシャフト51の挿通孔60には、回転中心軸線P1と同心に、且つ、回転ディスク6の内歯6bと対応する個所に位置させて、ピニオン70がカムシャフト51と相対回転自在となるように配置されている。
【0029】
ここで、図17に示すように、従来のピニオン70’は、ピニオンシャフト72’と一体に形成されている。このため、カムシャフト51の挿通孔60は、ピニオン70’を挿通できるように、ピニオン70’の外径よりも大きく形成する必要がある。従って、従来の無段変速機1では、カムシャフト51が大きくなってしまうという問題がある。ピニオン70’を小さくすることも考えられるが、これではピニオン70’に要求される強度、剛性を得られなくなる虞がある。
【0030】
これに対し、図8に示すように、本発明の無段変速機1の第1実施形態のピニオン70は、ピニオンシャフト72とは別体であり、ピニオンシャフト72にスプライン結合されるように構成されている。
【0031】
従って、第1実施形態の無段変速機1では、挿通孔60は、ピニオンシャフト72の外径よりも大きく設定すればよく、ピニオン70の外径よりも大きく設定する必要が無い。よって、ピニオン70を小さくすることなくピニオンシャフト72のみを小さくすることができ、カムシャフト51の小型化を図ることができる。
【0032】
ピニオン70は、カムディスク5の切欠孔5bを介して、回転ディスク6の内歯6bと噛合する。ピニオンシャフト72には、隣接するピニオン70の間に位置させて軸受74が設けられている。この軸受74を介して、ピニオンシャフト72は、カムシャフト51を支えている。
【0033】
ピニオンシャフト72には、差動機構8が接続されている。差動機構8は、遊星歯車機構で構成されており、サンギア9と、カムシャフト51に連結された第1リングギア10と、ピニオンシャフト72に連結された第2リングギア11と、サンギア9及び第1リングギア10と噛合する大径部12aと、第2リングギア11と噛合する小径部12bとから成る段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを備える。
【0034】
サンギア9には、ピニオンシャフト72用の電動機から成る調節用駆動源14の回転軸14aが連結されている。調節用駆動源14の回転速度を入力部2の回転速度と同一にすると、サンギア9と第1リングギア10とが同一速度で回転することとなり、サンギア9、第1リングギア10、第2リングギア11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギア11と連結するピニオンシャフト72が入力部2と同一速度で回転する。
【0035】
調節用駆動源14の回転速度を入力部2の回転速度よりも遅くすると、サンギア9の回転数をNs、第1リングギア10の回転数をNR1、サンギア9と第1リングギア10のギア比(第1リングギア10の歯数/サンギア9の歯数)をjとして、キャリア13の回転数が(j・NR1+Ns)/(j+1)となる。そして、サンギア9と第2リングギア11のギア比((第2リングギア11の歯数/サンギア9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギア11の回転数が{j(k+1)NR1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
【0036】
カムシャフト51に接続された入力部2の回転速度とピニオンシャフト72の回転速度とが同一である場合には、回転ディスク6はカムディスク5と共に一体に回転する。入力部2の回転速度とピニオンシャフト72の回転速度とに差がある場合には、回転ディスク6はカムディスク5の中心点P2を中心にカムディスク5の周縁を回転する。
【0037】
図5に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されているため、回転ディスク6の中心点P3を回転中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、回転中心軸線P1と中心点P3との距離、即ち偏心量R1を「0」とすることもできる。
【0038】
回転ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の大径環状部15aを備え、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを備えるコネクティングロッド15の大径環状部15aが、ローラベアリングからなるコンロッド軸受16を介して回転自在に外嵌されている。なお、コンロッド軸受16は、ボールベアリングを軸方向に2個並べて2個一組で構成してもよい。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
【0039】
一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17は、揺動リンク18と出力軸3との間に設けられ、出力軸3に対して一方側に相対回転しようとするときに出力軸3に揺動リンク18を固定し、他方側に相対回転しようとするときに出力軸3に対して揺動リンク18を空転させる。揺動リンク18は、一方向クラッチ17によって出力軸3に対して空転する状態のときに、出力軸3に対して揺動自在となる。
【0040】
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の小径環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する差込孔18cが穿設されている。差込孔18c及び小径環状部15bには、連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
【0041】
図7は、回転半径調節機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト72と回転ディスク6との位置関係を示す。図7(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、回転中心軸線P1と、カムディスク5の中心点P2と、回転ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト72と回転ディスク6とが位置する。このときの変速比iは最小となる。
【0042】
図7(b)は偏心量R1を図7(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図7(c)は偏心量R1を図7(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図7(b)では図7(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図7(c)では図7(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図7(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、回転中心軸線P1と、回転ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比iは無限大(∞)となる。第1実施形態の無段変速機1は、回転半径調節機構4で偏心量R1を変えることにより、入力部2側の回転運動の半径を調節自在としている。
【0043】
第1実施形態においては、回転半径調節機構4と、コネクティングロッド15と、揺動リンク18とで、てこクランク機構20(四節リンク機構)が構成される。そして、てこクランク機構20によって、入力部2の回転運動が揺動リンク18の揺動運動に変換される。第1実施形態の無段変速機1は合計6個のてこクランク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力部2を回転させると共に、ピニオンシャフト72を入力部2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が60度ずつ位相を変えながら、偏心量R1に基づき入力部2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力部2側に引いたりを交互に繰り返して揺動する。
【0044】
コネクティングロッド15の小径環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各回転半径調節機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各回転半径調節機構4で順に回転させられる。
【0045】
次に、図9を参照して、第1実施形態の回転半径調節機構4の組立方法を説明する。回転半径調節機構4は、先ず、複数のカムディスク5のうち回転中心軸線P1の方向の一方端側のカムディスク5の貫通孔5aにピニオンシャフト72を挿通させる。そして、図9(a)に示すように、ピニオン70にピニオンシャフト72を挿通させて、ピニオン70をピニオンシャフト72にスプライン結合させる。
【0046】
そして、軸受74にピニオンシャフト72を挿通させる。そして、図9(b)に示すように、複数のカムディスク5のうち回転中心軸線P1の方向の他方端側のカムディスク5の貫通孔5aに挿通させることにより、図9(c)に示す如く回転半径調節機構4を組み立てることができる。なお、図9(c)は、隣接する回転半径調節機構4のピニオン70及び軸受74をも、ピニオンシャフト72に取り付けた状態で示している。
【0047】
第1実施形態の無段変速機1によれば、ピニオン70とピニオンシャフト72とが別体で構成される。従って、ピニオンシャフト72を挿通させるための挿通孔60の径をピニオン70に合わせて大径とする必要がない。故に、ピニオン70を小径にする必要が無く、ピニオン70の強度を低下させることなく、ピニオンシャフト72及びカムシャフト51の挿通孔60を小径に形成することができる。これにより、本実施形態の無段変速機1は、従来よりもカム部たるカムディスク5及びカムシャフト51の小型化を図ることができる。
【0048】
なお、図12から図16に示す第2実施形態の無段変速機1の如く、入力部2’を一端が開口するように挿通孔60を有する中空軸状に構成し、円盤状のカムディスク5’に入力部2’を挿通できるように貫通孔5aを第1実施形態のものよりも大きく形成して、カムディスク5’を中空軸状に構成された入力部2’の外周面にスプライン結合させてもよい。第2実施形態の無段変速機1においても、「カム部たるカムディスク5’及びカムシャフト51の小型化を図ることができる」という本発明の作用効果を得ることができる。
【0049】
第2実施形態の無段変速機1においては、中空軸からなる入力部2’には、カムディスク5’の切欠孔5bに対応させて切欠孔2a’が設けられている。そして、入力部2’内に挿入されるピニオンシャフト72は、入力部2’の切欠孔2a’及びカムディスク5’の切欠孔5bを介して、回転ディスク6の内歯6bと噛合する。
【0050】
また、第1実施形態及び第2実施形態においては、一方向回転阻止機構として、一方向クラッチ17を用いているが、本発明の一方向回転阻止機構は、これに限らず、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達可能な揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向を切換自在に構成される二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)で構成してもよい。
【0051】
なお、図18は、第2実施形態に対応する従来例を示しており、ピニオン70’とピニオンシャフト72’とが一体に形成されたものを示している。
【符号の説明】
【0052】
1 無段変速機
2 入力部(第1実施形態)
2’ 入力部(第2実施形態)
2a’ 切欠孔(第2実施形態)
3 出力軸
4 回転半径調節機構
5 カムディスク(第1実施形態のカム部)
5’ カムディスク(第2実施形態のカム部)
5a 貫通孔
5b 切欠孔
5c 一体型カム部
6 回転ディスク(回転部)
6a 受入孔(内周部)
6b 内歯
8 差動機構(遊星歯車機構)
9 サンギア
10 第1リングギア
11 第2リングギア
12 段付きピニオン
12a 大径部
12b 小径部
13 キャリア
14 調節用駆動源(電動機)
14a 回転軸
15 コネクティングロッド
15a 大径環状部
15b 小径環状部
16 コンロッド軸受
17 一方向クラッチ(一方向回転阻止機構)
18 揺動リンク
18a 揺動端部
18b 突片
18c 差込孔
19 連結ピン
20 てこクランク機構(四節リンク機構)
51 カムシャフト
60 挿通孔
70 ピニオン
72 ピニオンシャフト
74 軸受
P1 回転中心軸線
P2 カムディスクの中心点
P3 回転ディスクの中心点
Ra P1とP2の距離
Rb P2とP3の距離
R1 偏心量(P1とP3の距離)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18