【文献】
Jiyong WOO et al.,Effect of interfacial oxide layer on the switching uniformity of Ge2Sb2Te5-based resistive change memory devices,APPLIED PHISICS LETTERS,2011年10月21日,Vol. 99,pp. 162109-1−162109-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0025】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0026】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0027】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0028】
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0029】
(実施の形態1)
<相変化メモリのメモリ部の構成>
図1は、本実施の形態1における相変化メモリの要部であるメモリ部の模式的な構成を示す断面図である。
図1に示すように、メモリ部MUは、下部電極BEを有し、この下部電極BE上にシード層SDLが形成されている。そして、このシード層SDL上に下地膜FDFが形成され、下地膜FDF上に記録再生膜MRFが形成されている。さらに、記録再生膜MRF上には、上部電極UEが形成されている。これらの膜は、例えば、スパッタリング法により形成することができる。
【0030】
下部電極BEは、例えば、タングステン膜(W膜)から構成され、例えば、膜厚は、100nmである。また、シード層SDLは、例えば、窒化チタン膜(TiN膜)から構成され、例えば、膜厚は、1nmである。このシード層SDLは、上方に形成される下地膜FDFと記録再生膜MRFを稠密面配向させる機能を有している。さらに、下地膜FDFは、例えば、Sb
2Te
3膜から構成され、例えば、膜厚は、10nmである。この下地膜FDFも、上述したシード層SDLと同様に、上方に形成される記録再生膜MRFを稠密面配向させる機能を有している。そして、記録再生膜MRF上に形成される上部電極UEは、例えば、タングステン膜から形成され、例えば、膜厚は、50nmである。
【0031】
記録再生膜MRFは、Sn、Sb、および、Teを含有する膜から構成される。具体的に、
図2は、本実施の形態1における記録再生膜MRFを形成する方法を示す図である。
図2に示すように、記録再生膜MRFは、例えば、スパッタリング法を使用することにより、自由層FRLと固定層FXLを交互に積層することにより形成される。すなわち、記録再生膜MRFは、超格子膜を構成するように形成されることになる。
【0032】
このとき、例えば、自由層FRLは、Sn
XTe
100−X膜から構成され、その膜厚は、例えば、約1nmである。一方、固定層FXLは、Sb
2Te
3膜から構成され、その膜厚は、例えば、約4nmである。本明細書では、このような超格子膜をSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜と呼ぶことにする。このSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の総膜厚は、例えば、45nmである。ここで、本実施の形態1において、Sn
XTe
100−X膜のXは、4原子%≦X≦55原子%である。
【0033】
本実施の形態1における記録再生膜MRFは、
図2に示すようなSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜から形成されることになるが、
図2は、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の製造方法を模式的に示すものであり、実際の記録再生膜MRFの構造は、
図2に示す模式的な構造と相違することを本発明者は見出した。すなわち、
図2に示す方法で形成されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、
図2に示す構造とはなっておらず、実際に、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTeとSb
2Te
3からなるSnTe/Sb
2Te
3超格子相と、SnSbTe合金相と、Te相とを含むように構成され、SnTe/Sb
2Te
3超格子相は、SnSbTe合金相とTe相で希釈されている構成をしていることを本発明者は見出した。すなわち、本実施の形態1における記録再生膜MRFは、Sn、Sb、および、Teを含有するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜から構成されるが、このSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、上述した新規な構造を有していることになる。
【0034】
以下では、代表的なXについて、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜が、上述した新規な構造を有している点、および、このように構成されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜MRFとして採用することにより、相変化メモリの消費電力を大幅に低減できる点を実験データに基づきながら説明することにする。
【0035】
<実施例1:X=35原子%の場合>
図3は、X=35原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜のX線回折プロファイルを示す図である。
図3に示すように、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜には、SnSbTe合金相に対応する大きな複数のピークが観測されるとともに、Te相に対応する大きなピークも観測されていることがわかる。したがって、
図3から、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、少なくとも、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とを含む構造をしていることがわかる。ここで、
図3においては見えにくいが、2θ=24.5°付近に、SnTe(111)に対応する小さなピークが存在し、2θ=50.1°付近にSnTe(222)に対応する小さなピークが存在することが確認された。
【0036】
この点について、より詳細に説明する。
図4は、X=35原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の拡大X線回折プロファイルを示す図である。具体的に、
図4(a)は、2θ=24.5°付近を示す拡大X線回折プロファイルであり、
図4(b)は、2θ=50.1°付近を示す拡大X線回折プロファイルである。
図4(a)に示すように、2θ=24.5°付近に小さいながらも、SnTe(111)に対応するピークが存在することがわかる。同様に、
図4(b)に示すように、2θ=50.1°付近に小さいながらも、SnTe(222)に対応するピークが存在することがわかる。
【0037】
このように、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜には、SnTe(111)に対応するピークと、SnTe(222)に対応するピークが存在することから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTeとSb
2Te
3からなるSnTe/Sb
2Te
3超格子相(SnTe(111)/Sb
2Te
3(001)超格子相)を含むことがわかった。なお、
図3において、Sb
2Te
3に対応するピークは、SnSbTe合金相に対応するピークに隠れて見えないだけである。
【0038】
したがって、
図3および
図4から、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とが共存している構造を有していることが示唆されることになる。そして、SnTe(111)に対応するピークと、SnTe(222)に対応するピークが小さいことから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜において、大部分は、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相となっており、わずかな一部分として、SnTe/Sb
2Te
3超格子相が含まれている構造が示唆されることになる。
【0039】
以下に、
図3および
図4に示すX線結晶構造解析の結果から示唆されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の模式的な構造について説明する。
図5は、
図3および
図4に示すX線結晶構造解析の結果から示唆されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の模式的な構造を示す図である。
図5に示すように、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPは、SnSbTe合金相とTe相で囲まれている。すなわち、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPがSnSbTe合金相とTe相で構成される母体(マトリックス)MTX中に散在している構造していることが推測される。このとき、母体MTXは、主にSnSbTe合金相から構成されていると考えることができる。
【0040】
なお、
図5は、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の構造をわかりやすく説明するため、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPの量を誇張して描いている。実際のSnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPの占有面積および体積は、わずかである。このことは、後述する実施例2〜4でも同様である。
【0041】
以上のようにして、本実施例1における記録再生膜MRFを構成するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とが共存している構造を有しており、かつ、SnTe/Sb
2Te
3超格子相がSnSbTe合金相とTe相で構成される母体中に散在していることがわかる。言い換えれば、本実施例1における記録再生膜MRFを構成するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相が、SnSbTe合金相とTe相で希釈されているということができる。
【0042】
続いて、上述した新規な構造を有するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜MRFとして採用することにより、相変化メモリの消費電力を大幅に低減できる点について説明する。
【0043】
図6(a)は、本実施例1の相変化メモリにおいて、リード抵抗のパルス電圧(印加電圧)依存性を示す実験結果であり、
図6(b)は、本実施例1の相変化メモリにおいて、リード抵抗のダイナミック電流依存性を示す実験結果である。
図6(a)に示すように、リセット電圧(V
Reset)は、約0.65Vであり、
図6(b)に示すように、リセット電流(I
Reset)は、約175μAであることがわかる。このため、リセット電圧とリセット電流の掛算により得られるスイッチングパワーは、約114μWであることになる。この値は、同様の方法で作成および測定したGST225と呼ばれる従来の相変化メモリのスイッチングパワー(約6080μW)の約1/50となる。したがって、本実施例1における相変化メモリによれば、従来の相変化メモリに比べて、消費電力を約1/50に低減することができる。すなわち、半導体記録再生装置のメモリセルに、本実施例1における相変化メモリを採用することにより、消費電力を約1/50に低減した半導体記録再生装置を提供することができる。
【0044】
<実施例2:X=20原子%の場合>
図7は、X=20原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜のX線回折プロファイルを示す図である。
図7に示すように、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜には、SnSbTe合金相に対応する大きな複数のピークが観測されるとともに、Te相に対応する大きなピークも観測されていることがわかる。したがって、
図7から、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、少なくとも、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とを含む構造をしていることがわかる。ここで、
図7においては見えにくいが、2θ=24.5°付近に、SnTe(111)に対応する小さなピークが存在し、2θ=50.1°付近にSnTe(222)に対応する小さなピークが存在することが確認された。
【0045】
この点について、より詳細に説明する。
図8は、X=20原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の拡大X線回折プロファイルを示す図である。具体的に、
図8(a)は、2θ=24.5°付近を示す拡大X線回折プロファイルであり、
図8(b)は、2θ=50.1°付近を示す拡大X線回折プロファイルである。
図8(a)に示すように、2θ=24.5°付近に小さいながらも、SnTe(111)に対応するピークが存在することがわかる。同様に、
図8(b)に示すように、2θ=50.1°付近に小さいながらも、SnTe(222)に対応するピークが存在することがわかる。
【0046】
以上のことから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜には、SnTe(111)に対応するピークと、SnTe(222)に対応するピークが存在することから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTeとSb
2Te
3からなるSnTe/Sb
2Te
3超格子相(SnTe(111)/Sb
2Te
3(001)超格子相)を含むことがわかった。なお、
図7において、Sb
2Te
3に対応するピークは、SnSbTe合金相に対応するピークに隠れて見えないだけである。
【0047】
したがって、
図7および
図8から、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とが共存している構造を有していることが示唆されることになる。そして、SnTe(111)に対応するピークと、SnTe(222)に対応するピークが小さいことから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜において、大部分は、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相となっており、わずかな一部分として、SnTe/Sb
2Te
3超格子相が含まれている構造が示唆されることになる。
【0048】
以下に、
図7および
図8に示すX線結晶構造解析の結果から示唆されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の模式的な構造について説明する。
図9は、
図7および
図8に示すX線結晶構造解析の結果から示唆されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の模式的な構造を示す図である。
図9に示すように、X=20原子%に対応した本実施例2においても、X=35原子%に対応した前記実施例1と同様に、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPは、SnSbTe合金相とTe相で囲まれている。すなわち、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPがSnSbTe合金相とTe相で構成される母体MTX中に散在している構造していることが推測される。このとき、母体MTXは、主にSnSbTe合金相から構成されていると考えることができる。
【0049】
ここで、本実施例2では、前記実施例1に比べて、Snの組成比Xが小さいことから、母体MTX中に散在しているSnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPの量が少なくなっていることがわかる。
【0050】
以上のようにして、本実施例2における記録再生膜MRFを構成するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とが共存している構造を有しており、かつ、SnTe/Sb
2Te
3超格子相がSnSbTe合金相とTe相で構成される母体中に散在していることがわかる。言い換えれば、本実施例2における記録再生膜MRFを構成するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相が、SnSbTe合金相とTe相で希釈されているということができる。
【0051】
続いて、上述した新規な構造を有するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜MRFとして採用することにより、相変化メモリの消費電力を大幅に低減できる点について説明する。
【0052】
図10(a)は、本実施例2の相変化メモリにおいて、リード抵抗のパルス電圧依存性を示す実験結果であり、
図10(b)は、本実施例2の相変化メモリにおいて、リード抵抗のダイナミック電流依存性を示す実験結果である。
図10(a)に示すように、リセット電圧は、約1.81Vであり、
図10(b)に示すように、リセット電流は、約13.5μAであることがわかる。このため、リセット電圧とリセット電流の掛算により得られるスイッチングパワーは、約24μWであることになる。この値は、同様の方法で作成および測定したGST225と呼ばれる従来の相変化メモリのスイッチングパワー(約6080μW)の約1/250となる。したがって、本実施例2における相変化メモリによれば、従来の相変化メモリに比べて、消費電力を約1/250に低減することができる。すなわち、半導体記録再生装置のメモリセルに、本実施例2における相変化メモリを採用することにより、消費電力を約1/250に低減した半導体記録再生装置を提供することができる。
【0053】
<実施例3:X=10原子%の場合>
図11は、X=10原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜のX線回折プロファイルを示す図である。
図11に示すように、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜には、SnSbTe合金相に対応する大きな複数のピークが観測されるとともに、Te相に対応する大きなピークも観測されていることがわかる。したがって、
図11から、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、少なくとも、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とを含む構造をしていることがわかる。ここで、
図11においては見えにくいが、2θ=24.5°付近に、SnTe(111)に対応する小さなピークが存在し、2θ=50.1°付近にSnTe(222)に対応する小さなピークが存在することが確認された。
【0054】
この点について、より詳細に説明する。
図12は、X=10原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の拡大X線回折プロファイルを示す図である。具体的に、
図12(a)は、2θ=24.5°付近を示す拡大X線回折プロファイルであり、
図12(b)は、2θ=50.1°付近を示す拡大X線回折プロファイルである。
図12(a)に示すように、2θ=24.5°付近に小さいながらも、SnTe(111)に対応するピークが存在することがわかる。同様に、
図12(b)に示すように、2θ=50.1°付近に小さいながらも、SnTe(222)に対応するピークが存在することがわかる。
【0055】
以上のことから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜には、SnTe(111)に対応するピークと、SnTe(222)に対応するピークが存在することから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTeとSb
2Te
3からなるSnTe/Sb
2Te
3超格子相(SnTe(111)/Sb
2Te
3(001)超格子相)を含むことがわかった。なお、
図11において、Sb
2Te
3に対応するピークは、SnSbTe合金相に対応するピークに隠れて見えないだけである。
【0056】
したがって、
図11および
図12から、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とが共存している構造を有していることが示唆されることになる。そして、SnTe(111)に対応するピークと、SnTe(222)に対応するピークが小さいことから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜において、大部分は、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相となっており、わずかな一部分として、SnTe/Sb
2Te
3超格子相が含まれている構造が示唆されることになる。
【0057】
以下に、
図11および
図12に示すX線結晶構造解析の結果から示唆されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の模式的な構造について説明する。
図13は、
図11および
図12に示すX線結晶構造解析の結果から示唆されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の模式的な構造を示す図である。
図13に示すように、X=10原子%に対応した本実施例3においても、X=35原子%に対応した前記実施例1やX=20原子%に対応した前記実施例2と同様に、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPは、SnSbTe合金相とTe相で囲まれている。すなわち、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPがSnSbTe合金相とTe相で構成される母体MTX中に散在している構造していることが推測される。このとき、母体MTXは、主にSnSbTe合金相から構成されていると考えることができる。
【0058】
ここで、本実施例3では、前記実施例1や前記実施例2に比べて、Snの組成比Xが小さいことから、母体MTX中に散在しているSnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPの量が少なくなっていることがわかる。
【0059】
以上のようにして、本実施例3における記録再生膜MRFを構成するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とが共存している構造を有しており、かつ、SnTe/Sb
2Te
3超格子相がSnSbTe合金相とTe相で構成される母体中に散在していることがわかる。言い換えれば、本実施例3における記録再生膜MRFを構成するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相が、SnSbTe合金相とTe相で希釈されているということができる。
【0060】
続いて、上述した新規な構造を有するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜MRFとして採用することにより、相変化メモリの消費電力を大幅に低減できる点について説明する。
【0061】
図14(a)は、本実施例3の相変化メモリにおいて、リード抵抗のパルス電圧依存性を示す実験結果であり、
図14(b)は、本実施例3の相変化メモリにおいて、リード抵抗のダイナミック電流依存性を示す実験結果である。
図14(a)に示すように、リセット電圧は、約0.92Vであり、
図14(b)に示すように、リセット電流は、約3.2μAであることがわかる。このため、リセット電圧とリセット電流の掛算により得られるスイッチングパワーは、約2.9μWであることになる。この値は、同様の方法で作成および測定したGST225と呼ばれる従来の相変化メモリのスイッチングパワー(約6080μW)の約1/2100となる。したがって、本実施例3における相変化メモリによれば、従来の相変化メモリに比べて、消費電力を約1/2100に低減することができる。すなわち、半導体記録再生装置のメモリセルに、本実施例3における相変化メモリを採用することにより、消費電力を約1/2100に低減した半導体記録再生装置を提供することができる。
【0062】
<実施例4:X=5原子%の場合>
図15は、X=5原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜のX線回折プロファイルを示す図である。
図15に示すように、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜には、SnSbTe合金相に対応する大きな複数のピークが観測されるとともに、Te相に対応する大きなピークも観測されていることがわかる。したがって、
図15から、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、少なくとも、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とを含む構造をしていることがわかる。ここで、
図15においては見えにくいが、2θ=24.5°付近に、SnTe(111)に対応する小さなピークが存在し、2θ=50.1°付近にSnTe(222)に対応する小さなピークが存在することが確認された。
【0063】
この点について、より詳細に説明する。
図16は、X=5原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の拡大X線回折プロファイルを示す図である。具体的に、
図16(a)は、2θ=24.5°付近を示す拡大X線回折プロファイルであり、
図16(b)は、2θ=50.1°付近を示す拡大X線回折プロファイルである。
図16(a)に示すように、2θ=24.5°付近に小さいながらも、SnTe(111)に対応するピークが存在することがわかる。同様に、
図16(b)に示すように、2θ=50.1°付近に小さいながらも、SnTe(222)に対応するピークが存在することがわかる。
【0064】
以上のことから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜には、SnTe(111)に対応するピークと、SnTe(222)に対応するピークが存在することから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTeとSb
2Te
3からなるSnTe/Sb
2Te
3超格子相(SnTe(111)/Sb
2Te
3(001)超格子相)を含むことがわかった。なお、
図15において、Sb
2Te
3に対応するピークは、SnSbTe合金相に対応するピークに隠れて見えないだけである。
【0065】
したがって、
図15および
図16から、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とが共存している構造を有していることが示唆されることになる。そして、SnTe(111)に対応するピークと、SnTe(222)に対応するピークが小さいことから、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜において、大部分は、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相となっており、わずかな一部分として、SnTe/Sb
2Te
3超格子相が含まれている構造が示唆されることになる。
【0066】
以下に、
図15および
図16に示すX線結晶構造解析の結果から示唆されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の模式的な構造について説明する。
図17は、
図15および
図16に示すX線結晶構造解析の結果から示唆されるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の模式的な構造を示す図である。
図17に示すように、X=5原子%に対応した本実施例4においても、X=35原子%に対応した前記実施例1やX=20原子%に対応した前記実施例2やX=10原子%に対応した前記実施例3と同様に、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPは、SnSbTe合金相とTe相で囲まれている。すなわち、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPがSnSbTe合金相とTe相で構成される母体MTX中に散在している構造していることが推測される。このとき、母体MTXは、主にSnSbTe合金相から構成されていると考えることができる。
【0067】
ここで、本実施例4では、前記実施例1や前記実施例2や前記実施例3に比べて、Snの組成比Xが小さいことから、母体MTX中に散在しているSnTe/Sb
2Te
3超格子相SLPの量が少なくなっていることがわかる。
【0068】
以上のようにして、本実施例4における記録再生膜MRFを構成するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、hcp六方晶の結晶構造を有するSnSbTe合金相と、Te相とが共存している構造を有しており、かつ、SnTe/Sb
2Te
3超格子相がSnSbTe合金相とTe相で構成される母体中に散在していることがわかる。言い換えれば、本実施例4における記録再生膜MRFを構成するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、SnTe/Sb
2Te
3超格子相が、SnSbTe合金相とTe相で希釈されているということができる。
【0069】
続いて、上述した新規な構造を有するSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜MRFとして採用することにより、相変化メモリの消費電力を大幅に低減できる点について説明する。
【0070】
図18(a)は、本実施例4の相変化メモリにおいて、リード抵抗のパルス電圧依存性を示す実験結果であり、
図18(b)は、本実施例4の相変化メモリにおいて、リード抵抗のダイナミック電流依存性を示す実験結果である。
図18(a)に示すように、リセット電圧は、約0.41Vであり、
図18(b)に示すように、リセット電流は、約2.1μAであることがわかる。このため、リセット電圧とリセット電流の掛算により得られるスイッチングパワーは、約0.86μWであることになる。この値は、同様の方法で作成および測定したGST225と呼ばれる従来の相変化メモリのスイッチングパワー(約6080μW)の約1/7070となる。したがって、本実施例4における相変化メモリによれば、従来の相変化メモリに比べて、消費電力を約1/7070に低減することができる。すなわち、半導体記録再生装置のメモリセルに、本実施例4における相変化メモリを採用することにより、消費電力を約1/7070に低減した半導体記録再生装置を提供することができる。
【0071】
以上、実施例1〜実施例4で示したように、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜のXをX=5原子%、10原子%、20原子%、35原子%とすることにより、相変化メモリの消費電力を約1/50〜約1/7070に低減することができる。すなわち、半導体記録再生装置のメモリセルに、実施例1〜実施例4における相変化メモリを採用することにより、消費電力を約1/50〜約1/7070に低減した半導体記録再生装置を提供することができる。
【0072】
ここで、実施例1〜実施例4を考慮すると、Xの値を小さくすることにより、単調減少的に相変化メモリの消費電力が低減できることが示されている。このことから、実施例1〜実施例4の結果を考慮すると、5原子%≦X≦35原子%の範囲においても、相変化メモリの消費電力を約1/50〜約1/7070に低減することができるということができると考えられる。
【0073】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、前記実施の形態1における相変化メモリを使用した半導体記録再生装置について説明する。
【0074】
<メモリセルの構成>
図19は、本実施の形態2における半導体記録再生装置のメモリセルの構成を示す断面図である。
図19において、本実施の形態2におけるメモリセルMC1は、例えば、単結晶シリコンからなる半導体基板1Sの主面に形成され、メモリセルMC1を選択する選択トランジスタSTである電界効果トランジスタと、選択トランジスタSTの上方に形成されたメモリ部MUとを備えている。メモリセルMC1では、メモリ部に含まれる記録再生膜MRFの原子配列または原子位置の変化により、記録再生膜MRFの電気抵抗を低抵抗状態と高抵抗状態との間で変化させて情報を記録する。
【0075】
以下の説明では、記録再生膜MRFの抵抗が相対的に低い状態(低抵抗状態)を「セット状態」と呼び、記録再生膜MRFの抵抗が相対的に高い状態(高抵抗状態)を「リセット状態」と呼ぶことにする。また、記録再生膜MRFを高抵抗状態から低抵抗状態へ変化させる動作を「セット動作」と呼び、記録再生膜MRFを低抵抗状態から高抵抗状態へ変化させる動作を「リセット動作」と呼ぶことにする。
【0076】
なお、本実施の形態2では、半導体基板1Sを用いる例について説明するが、半導体基板1Sに代えて、ガラス基板やそのほかの各種の基板上に半導体層が形成された基板を用いることもできる。
【0077】
以下に、本実施の形態2におけるメモリセルMC1の具体的な構成について説明する。
図19に示すように、半導体基板1Sの主面上には、ゲート絶縁膜GOXを介して、ゲート電極GEが形成され、半導体基板1S内には、ゲート電極GEを挟むようにドレイン領域DRとソース領域SRが形成されている。ドレイン領域DR、ソース領域SR、および、ゲート電極GEは、電界効果トランジスタからなる選択トランジスタSTを構成している。そして、ゲート電極GEの両側の側壁には、サイドウォールスペーサSWが形成されており、このサイドウォールスペーサSWも選択トランジスタの一部を構成している。
【0078】
ゲート電極GEは、
図19では図示を省略するものの、例えば、タングステン(W)等からなるワード線と電気的に接続されており、ドレイン領域DRは、後述するように、配線M1a(M1)およびメモリ部MUを介して、ビット線BLと電気的に接続されている。
【0079】
半導体基板1Sの主面には、ドレイン領域DRまたはソース領域SRに接して素子分離領域STIが形成されており、半導体基板1S上には、ゲート電極GEおよび素子分離領域STIを覆うように、例えば、酸化シリコン膜からなる層間絶縁膜ILD1が形成されている。
【0080】
層間絶縁膜ILD1上には、例えば、金属膜からなる配線M1が形成されており、この配線M1は、層間絶縁膜ILD1を貫通するように形成されたコンタクトプラグCP1を介して、ドレイン領域DRあるいはソース領域SRと電気的に接続されている。コンタクトプラグCP1は、例えば、タングステン膜から構成されている。
【0081】
層間絶縁膜ILD1上には、配線M1を覆うように、例えば、酸化シリコン膜からなる層間絶縁膜ILD2が形成されている。層間絶縁膜ILD2のうち、ドレイン領域DRと電気的に接続された配線M1aの上部には、層間絶縁膜ILD2を貫通するように、下部電極BEが形成されている。この下部電極BEは、配線M1aと電気的に接続されている。
【0082】
層間絶縁膜ILD2上には、記録再生膜MRFが形成されている。この記録再生膜MRFには、例えば、前記実施例1〜4で説明したSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜が用いられている。この記録再生膜MRFは、下部電極BEと電気的に接続されている。すなわち、記録再生膜MRFは、下部電極BE、配線M1aおよびコンタクトプラグCP1を介して、ドレイン領域DRと電気的に接続されている。また、記録再生膜MRF上には、上部電極UEが形成されており、この上部電極UEは、記録再生膜MRFと電気的に接続されている。そして、上述した下部電極BE、記録再生膜MRF、および、上部電極UEによってメモリ部MUが形成され、このメモリ部MUは、選択トランジスタSTと電気的に接続されていることになる。
【0083】
層間絶縁膜ILD2上には、記録再生膜MRFおよび上部電極UEを覆うように、例えば、酸化シリコン膜からなる層間絶縁膜ILD3が形成されている。この層間絶縁膜ILD3のうち、上部電極UEの上部には、層間絶縁膜ILD3を貫通するように、例えば、タングステン等からなるコンタクトプラグCP2が形成されている。このコンタクトプラグCP2は、上部電極UEと電気的に接続されている。
【0084】
層間絶縁膜ILD3上には、例えば、タングステン等からなるビット線BLが形成されている。このビット線BLは、コンタクトプラグCP2と電気的に接続されている。すなわち、記録再生膜MRFは、上部電極UEおよびコンタクトプラグCP2を介して、ビット線BLと電気的に接続されている。したがって、選択トランジスタSTのドレイン領域DRは、コンタクトプラグCP1、配線M1a、下部電極BE、記録再生膜MRF、上部電極UEおよびコンタクトプラグCP2を介して、ビット線BLと電気的に接続されていることになる。なお、ビット線BLは、さらに他の回路と電気的に接続されている。
【0085】
なお、
図19では、1つのメモリセルMC1について、ビット線BLが延在する方向に沿った断面図の一例を示しているが、実際には、半導体基板1S上に、上述したメモリセルMC1と同様の構成をした複数のメモリセルが、平面視において、アレイ状に配置されている。
【0086】
<メモリセルアレイの構成>
次に、本実施の形態2における半導体記録再生装置のメモリアレイの構成例について説明する。
図20は、本実施の形態2における半導体記録再生装置のメモリセルアレイMA1の構成例を示す等価回路図である。
【0087】
図20に示すように、本実施の形態2における半導体記録再生装置は、第1方向に延在する複数のワード線WL(WL1〜WL5)、第1方向と交差する第2方向に延在する複数のビット線BL(BL1〜BL4)、および、各ワード線WLと各ビット線BLが交差する領域に配置された複数のメモリセルMC1を含むメモリセルアレイMA1を備えている。複数のメモリセルMC1のそれぞれは、選択トランジスタSTと、記録再生膜を含むメモリ部MUとを備えている。選択トランジスタSTのドレイン領域DRは、メモリ部MUを介して、ビット線BLと電気的に接続されている。また、選択トランジスタSTのソース領域SRは、例えば、基準電位(GND電位)に接地されている。
【0088】
なお、
図20では、記録再生膜を含むメモリ部MUを電気抵抗として表示している。また、
図20では、図示を簡単にするために、各ワード線WLと各ビット線BLが交差する領域に配置された複数のメモリセルMC1のうち1つにのみ符号を付している。
【0089】
<メモリセルアレイの動作>
本実施の形態2におけるメモリセルアレイMA1は、上記のように構成されており、以下に、その動作について説明する。具体的に、メモリセルアレイMA1は以下に示すように動作する。例として、前記実施例2に記載されたX=20原子%のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜に用いた場合について説明する。
【0090】
まず、選択セルSMCであるメモリセルMC1のゲート電極に接続されたワード線WL1に、例えば、2Vを印加し、選択セルSMCの選択トランジスタSTをオン状態にする。また、選択セルSMCのドレイン領域DRにメモリ部MUを介して接続されたビット線BL1に、リセット動作時には、例えば、1.85V、セット動作時には、例えば、1V、読み出し動作時には、例えば0.1Vを、それぞれ印加する。そして、ワード線WL1以外のワード線WL2、WL3、WL4、および、WL5の電位を、例えば、0Vとし、ビット線BL1以外のビット線BL2、BL3、および、BL4の電位を、例えば、0Vとする。
【0091】
このとき、選択セルSMCでは、選択トランジスタSTがオン状態であるため、メモリ部MUの記録再生膜に電流が流れる。リセット動作の際には、選択セルSMCの記録再生膜に流れる電流(リセット動作用のプログラミング電流)によって、記録再生膜に熱エネルギーを与えることにより、記録再生膜の原子配列または原子位置を変化させる。この結果、記録再生膜の抵抗値を高抵抗状態に変化させることにより、リセット動作が完了する。一方、セット動作の際には、選択セルSMCの記録再生膜に流れる電流(セット動作用のプログラミング電流)によって、記録再生膜に熱エネルギーを与えることにより、記録再生膜の原子配列または原子位置を変化させる。この結果、記録再生膜の抵抗値を低抵抗状態に変化させることにより、セット動作が完了する。読み出し動作の際には、選択セルSMCの記録再生膜に流れる電流値を判定することにより、情報の読み出しを行なう。
【0092】
これに対し、ビット線BL2、BL3、および、BL4のいずれかに接続され、かつ、ワード線WL1に接続されたメモリセルでは、ビット線BL2、BL3、および、BL4の電位が0Vであり、記録再生膜の両端に電位差が生じないため、記録再生膜に電流が流れず、動作しないことになる。また、ビット線BL1、BL2、BL3、および、BL4のいずれかに接続され、かつ、ワード線WL2、WL3、WL4、および、WL5のいずれかに接続されたメモリセルでは、選択トランジスタがオフ状態となり、電流が流れないため、動作しない。このように、メモリセルアレイMA1では、選択セルSMC以外のメモリセルを不活性状態にしながら、対象となる選択セルSMCについて活性状態にすることにより、選択セルSMCについて、リセット動作、セット動作、あるいは、読み出し動作を実施することができる。
【0093】
なお、上述したメモリセルアレイMA1の動作では、前記実施例2に記載された記録再生膜に用いた場合を例に挙げて、ワード線WLやビット線BLに印加する電圧を具体的に例示した。したがって、前記実施例1、3、4に記載された記録再生膜に用いた場合においては、ワード線WLやビット線BLに印加する具体的な電圧値は相違することになるが、基本的なメモリセルアレイMA1の動作は、上述した動作と同様に行なうことができる。
【0094】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜に使用した相変化メモリの低電力動作メカニズムについて説明し、その後、Xの下限値と上限値について説明することにする。
【0095】
Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜に使用した相変化メモリでは、(1)SnTe/Sb
2T
3超格子相で低電力動作している可能性と、(2)SnSbTe合金相で低電力動作をしている可能性が考えられる。以下に、それぞれについて説明する。
【0096】
<SnTe/Sb
2T
3超格子相で低電力動作している場合のメカニズム>
例として、前記実施例2に記載されているX=20原子%の場合について説明する。
【0097】
まず、動作原理を明らかにするため、SnTe/Sb
2Te
3超格子相(SnTe(111)/Sb
2Te
3(001)超格子相)のSnTe層の結晶構造解析を行った。
【0099】
(1)
図8(a)および
図8(b)に記載されている拡大X線回折プロファイルのSnTe(111)に対応したピークと、SnTe(222)に対応したピークから実験積分強度比(I
111/I
222)
obsを算出した。
【0100】
(2)考えられうる空孔をSnTe結晶構造に組み込んでモデル化した。
【0101】
(3)モデル化したすべてのSnTe結晶構造について、(式1)および(式2)に基づいて、理論積分強度比(I
111/I
222)
calを算出した。
I
hkl≒|F
hkl|
2・LZ・P
=|F
hkl|
2・P・(1+cos
22θ)/(sin
2θ・cosθ)
・・・(式1)
F
hkl=Σf
n・exp(2πi(hx(n)+ky(n)+lz(n)))
・・・(式2)
F
hkl:結晶構造因子
LZ:ローレンツ因子
P:多重度因子
θ:ブラッグ角
f
n:原子散乱因子
n:原子の種類
h、k、l:ミラー指数
x、y、z:原子の結晶格子内での分数座標
【0102】
(4)モデル化したすべてのSnTe結晶構造について、(式3)に示す規則度Sを算出した。
S
2=(I
111/I
222)
obs/(I
111/I
222)
cal ・・・(式3)
【0103】
(5)結晶が規則化しているとされる、0.7(±0.1)≦S≦1.0(±0.1)を満たす結晶構造を探した。
【0104】
この解析により、SnTe/Sb
2T
3超格子相中のSnTe層は、
図21(a)に示す結晶構造を有することが示唆された。すなわち、
図21(a)に示すように、SnTe層は、超格子成長方向であるSnTe[111]方向に、「−Te層−Sn層−Te層−空孔層−Te層−Sn層−Te層−」の順に積層され、空孔層には、1単位格子あたり、平均して約0.5個のSn原子が混入していることが示唆された。前記実施例2におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜は、スパッタリング法で成膜しており、不均一性が有る。この不均一性が有るということは、SnTe層の中には、Sn原子の混入が無い、「−Te層−Sn層−Te層−空孔層−Te層−Sn層−Te層−」の順に積層されているSnTe格子があることを意味する。この積層順は、関連文献1(「Soeya et al.,Journal of Applied Physics 112,034301(2012)」)に記載のある、GeTe/Sb
2Te
3超格子の中のGeTe格子の「−Te層−Ge層−Te層−空孔層−Te層−Ge層−Te層−」と一致する。すなわち、
図21(a)に示すSnTe格子の結晶構造は、
図21(b)に示すGeTe格子の結晶構造と一致する。
【0105】
非特許文献1および非特許文献2によると、GeTe/Sb
2Te
3超格子では、印加電場および印加電流に応じて、空孔層という空間を使い、GeTe[111]方向の積層状態が「−Te層−Ge層−Te層−空孔層−Te層−Ge層−Te層−」状態であるGe原子の6配位中心位置(As−dep.状態)と、「−Te層−空孔層−Te層−Ge層−Te層−空孔層−Te層−」状態であるGe原子の4配位中心位置との間で変化することにより、低電力動作すると開示されている(
図21(b))。この現象は、「Geスイッチ」と呼ばれる。
【0106】
上述したように、SnTe/Sb
2T
3超格子相の中には、SnTe[111]方向の積層状態が「−Te層−Sn層−Te層−空孔層−Te層−Sn層−Te層−」状態となっているSnTe格子がある。したがって、GeTe/Sb
2Te
3超格子から類推すると、このSnTe格子は、印加電場および印加電流に応じて、空孔層という空間を使い、「−Te層−Sn層−Te層−空孔層−Te層−Sn層−Te層−」状態であるSn原子の6配位中心位置状態(As−dep.状態)と、「−Te層−空孔層−Te層−Sn層−Te層−空孔層−Te層−」状態であるSn原子の4配位中心位置との間で変化する可能性がある。つまり、空孔層でSnの挿入と脱離が行なわれる「Snスイッチ」と呼ばれる現象が生じている可能性がある(
図21(a))。
【0107】
本実施の形態3におけるSnTe/Sb
2T
3超格子相は、SnTe格子とSb
2Te
3格子の積層構造をしており、SnTe格子で上述した「Snスイッチ」が発現した場合、Sn原子の配置位置の相違によって、SnTe格子の体積変化が生じると考えられる。この場合、Sb
2Te
3格子の中にファンデルワールスギャップ層(Te−Te弱結合層)が存在し、このファンデルワールスギャップ層が上述したSnTe格子の体積変化を吸収すると考えられる。つまり、SnTe/Sb
2T
3超格子相で「Snスイッチ」が発現するためには、SnTe格子の体積変化を吸収する必要性があるが、Sb
2Te
3格子の中のファンデルワールスギャップ層がこの体積変化を吸収する緩衝層として機能すると考えられる。したがって、SnTe/Sb
2T
3超格子相で「Snスイッチ」が発現することが可能と考えられる。
【0108】
特に、前記実施例2において、SnTe/Sb
2T
3超格子相は、SnSbTe合金相と、Te相で希釈されていると考えられる。このようにSnTe/Sb
2T
3超格子相が希釈されている場合、「Snスイッチ」する場所も少なくなる。したがって、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を記録再生膜に使用した相変化メモリで生じる低電力動作は、SnTe/Sb
2T
3超格子相で、「Snスイッチ」が起こり、この「Snスイッチ」を起こしているSnTe/Sb
2T
3超格子相が、SnSbTe合金相とTe相で希釈されているため生じている可能性がある。このような動作メカニズムが発現している場合、記録再生膜には、少なくとも、SnTe/Sb
2T
3超格子相が存在すれば、相変化メモリの低電力動作が実現できると考えることができる。
【0109】
なお、ここでは、X=20原子%である前記実施例2を例に挙げて説明したが、X=35原子%である前記実施例1、X=10原子%である前記実施例3、および、X=5原子%である前記実施例4の場合も、同様に考えることができる。
【0110】
<SnSbTe合金相で低電力動作している場合のメカニズム>
図22は、X=50原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜のX線回折プロファイルを示す図である。
図22に示すように、X=50原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜内では、SnTe/Sb
2Te
3超格子相と、NaCl型(fcc構造)の結晶構造を有するSnSbTe相が共存していることが推測される。
【0111】
図22に示す結果について検討したところ、観測されないはずのSnSbTe(111)に対応するピークが存在することが判明した。すなわち、X=50原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を製造するスパッタリング方法において、
図2に示すような積層形成法を使用せずに、一体膜として形成する場合には、上述したSnSbTe(111)に対応するピークは存在しない。これは、SnSbTe相が単純なNaCl型の結晶構造をしていることを示していると言える。
【0112】
具体的に、SnSbTe(111)に対応するピークの相対的理論積分強度I
111は、以下に示す(式4)で与えられる。
I
111≒|4f
(Sn、Sb)−4f
Te|
2・LZ・P ・・・(式4)
【0113】
このとき、単純なNaCl型の結晶構造では、f
Sn≒f
Sb≒f
Teであるので、この結果、I
111≒0となる。つまり、単純なNaClの結晶構造では、SnSbTe(111)に対応するピークは観測されないはずである。
【0114】
これに対し、
図2に示すように、Sn
XTe
100−X膜(X=50原子%)と、Sb
2Te
3膜とを、独立別個の膜として積層形成すると、
図22に示すように、観測されないはずのSnSbTe(111)に対応するピークが存在することを本発明者は見出した。このことは、
図2に示す積層方法でX=50原子%の場合におけるSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を形成する場合、SnSbTe相が単純なNaCl型の結晶構造とは別の結晶構造を取っている可能性を示唆していることを意味している。
【0115】
そこで、本発明者は、SnSbTe(111)に対応するピークが観測されても良いSnSbTe合金相の結晶構造を探した。この解析手順は、以下のとおりである。
【0116】
(1)
図22に記載されているX線回折プロファイルのSnSbTe(111)に対応したピークと、SnSbTe(222)に対応したピークから実験積分強度比(I
111/I
222)
obsを算出した。
【0117】
(2)考えられうる空孔をSnSbTe結晶構造に組み込んでモデル化した。
【0118】
(3)モデル化したすべてのSnSbTe結晶構造について、上述した(式1)および(式2)に基いて、理論積分強度比(I
111/I
222)
calを算出した。
【0119】
(4)モデル化したすべてのSnSbTe結晶構造について、上述した(式3)に示す規則度Sを算出した。
【0120】
(5)結晶が規則化しているとされる、0.7(±0.1)≦S≦1.0(±0.1)を満たす結晶構造を探した。
【0121】
この解析により、SnSbTe合金相の格子は、単純なNaCl型の結晶構造ではなく、格子の内部に空孔層が導入された結晶構造を有している可能性が高いことが判明した。すなわち、X=50原子%の場合のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜に含まれるSnSbTe合金相は、
図23(a)に示す結晶構造を有することがわかった。具体的には、
図23(a)に示すように、SnSbTe合金相は、SnSbTe[111]方向である超格子相成長方向に、「−Te層−(Sn、Sb)層−Te層−空孔層−Te層−(Sn、Sb)層−Te層−」の順に積層された結晶構造を有することがわかった。この結晶構造は、上述した関連文献1に記載のある、GeTe[111]方向である超格子成長方向に、「−Te層−Ge層−Te層−空孔層−Te層−Ge層−Te層−」の順に積層されているGeTe/Sb
2Te
3超格子相中のGeTe格子の結晶構造と一致する。すなわち、
図23(a)に示すSnSbTe合金相の格子の結晶構造は、
図23(b)に示すGeTe格子の結晶構造と一致する。
【0122】
図24は、
図23(a)に示すSnSbTe合金相の結晶構造をSnSbTe[111]方向である超格子成長方向に2つ重ねた構造を示す図である。
図23(b)に示すGeTe/Sb
2Te
3超格子の構造からの類推により、SnSbTe合金相は、上側の結晶構造に含まれている空孔層が「Snスイッチ」する上で重要な空間層である一方、下側の結晶構造においては、「Snスイッチ」の際の体積変化を吸収する緩衝層として機能するために必要な空間であるファンデルワールスギャップ層を有している超格子構造を取っている可能性が高い。
【0123】
したがって、SnSbTe合金相の格子においては、印加電場および印加電流に応じて、空孔層という空間を使い、「−Te層−(Sn、Sb)層−Te層−空孔層−Te層−(Sn、Sb)層−Te層−」状態であるSn原子の6配位中心位置(As−dep.状態)と、「−Te層−空孔層−Te層−(Sn、Sb)層−Te層−空孔層−Te層−」状態であるSn原子の4配位中心位置との間で積層構造が変化する可能性がある。つまり、SnSbTe合金相に存在する空孔層で、Snの挿入と脱離が行なわれる「Snスイッチ」が生じている可能性がある。
【0124】
以上は、X=50原子%の場合のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜中におけるNaCl型のSnSnTe合金相の結晶構造、および、X=50原子%の場合のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリの動作原理の一考察である。この点に関し、この考察は、前記実施例1〜4に記載されているSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜中のhcp六方晶のSnSbTe合金相の結晶構造、および、前記実施例1〜4に記載されているSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリの低電力動作の原理も類推して適用することができる。以下に説明する。
【0125】
まず、
図25は、hcp六方晶のSnSbTe合金相の〔001〕方向の結晶構造を示す図である。面心立方格子構造であるfcc(face centered cubic)構造と六方最密格子構造であるhcp(hexagonal closest packed)構造の稠密面方向の積層順は類似しており、fcc構造を座標変換するとhcp構造のようになることは知られた事実である。ブラベー格子は14種類であり、
図24のNaCl構造は、fcc構造に分類される。一方、
図24のfcc構造を座標変換すると、
図25のhcp構造のようになる。
【0126】
図25に示すように、SnSbTe合金相は、上側の結晶構造に含まれている空孔層が「Snスイッチ」する上で重要な空間層である一方、下側の結晶構造においては、「Snスイッチ」の際の体積変化を吸収する緩衝層として機能するために必要な空間であるファンデルワールスギャップ層を有している超格子構造を取っている可能性が高い。
【0127】
したがって、hcp六方晶のSnSbTe合金相の格子においても、印加電場および印加電流に応じて、空孔層という空間を使い、「−Te層−(Sn、Sb)層−Te層−空孔層−Te層−(Sn、Sb)層−Te層−」状態であるSn原子の6配位中心位置(As−dep.状態)と「−Te層−空孔層−Te層−(Sn、Sb)層−Te層−空孔層−Te層−」状態であるSn原子の4配位中心位置との間で積層構造が変化する可能性がある。つまり、hcp六方晶のSnSbTe合金相においても、空孔層でのSnの挿入と脱離による「Snスイッチ」が生じている可能性がある。
【0128】
前記実施例1〜4に記載されているSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜においては、hcp六方晶のSnSbTe合金相が最も支配的であると考えられる。したがって、前記実施例1〜4に記載されているSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜においては、面内のほとんどが、
図25の結晶構造を有するSnSbTe合金相で占められていると言っても過言ではない。このことから、Xを減らすと、(Sn、Sb)層内において、「Snスイッチ」するSn原子の数が減って、スイッチングパワーが小さくなっている可能性がある。つまり、Xを減らすことにより、(Sn、Sb)層内で「Snスイッチ」するSn原子の数が少なくなる結果、前記実施例1〜4に記載されているSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリで低電力動作をしている可能性が考えられる。このような動作メカニズムが発現している場合、記録再生膜には、少なくとも、SnSbTe合金相が存在すれば、相変化メモリの低電力動作が実現できると考えることができる。
【0129】
以上、相変化メモリの低電力動作のメカニズムとして、SnTe/Sb
2Te
3超格子相で「Snスイッチ(Snスイッチング)」が生じている可能性と、SnSbTe合金相で「Snスイッチ」が生じている可能性があることについて説明したが、いずれの可能性も考えられる。
【0130】
<Xの下限値>
次に、Xの下限値について説明する。例えば、SnSbTe合金相で「Snスイッチ」が生じている場合、Sn原子の量をどんなに減らしても、「Snスイッチ」し、低電力動作の下げ止まりがないと思われるかもしれない。しかしながら、そうではない。SnSbTe合金相内の「Snスイッチ」は、印加電場および印加電流に応じて、Sn原子が6配位中心位置と4配位中心位置の間で移動することで生じる。したがって、1部分格子あたり、最少1個のSn原子がないと、「Snスイッチ」は起こりようがない。
図25に示すように、hcp構造として1部分格子を組んでいる場合、1部分格子は、空孔サイトを含めて27個の原子で構成されている。したがって、Xの下限値は、X=(Sn原子の数:1個)/(1部分格子の原子の総数:27個)≒3.7であり、小数はあり得ないため、X=4原子%となる。
【0131】
<Xの上限値>
続いて、Xの上限値について説明する。
図26(a)は、X=50原子%の場合のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリにおいて、リード抵抗のパルス電圧依存性を示す実験結果であり、
図26(b)は、X=50原子%の場合のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリにおいて、リード抵抗のダイナミック電流依存性を示す実験結果である。
【0132】
図26(a)および
図26(b)に示すように、リセット電圧は、約1.0V、リセット電流は、約340μAであることが確認できる。リセット電圧にリセット電流を乗じることにより算出されるスイッチングパワーは、約340μWであった。この値は、同様の方法で作製および測定したGST225のスイッチングパワー(約6080μW)の約1/20である。言い換えれば、X=50原子%の場合のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリは、対GST225比で、消費電力が約1/20に低減することができる。この値は、例えば、非特許文献1および非特許文献2に記載されているGeTe/Sb
2Te
3超格子を使用した相変化メモリの約1/10を凌いでいる。
【0133】
さらに、前記実施例1〜4に記載された相変化メモリの消費電力は、対GST225比で、それぞれ、約1/50、約1/250、約1/2100、約1/7070であり、Xの値をX=50原子%から減らすと、相変化メモリの消費電力は下がることがわかる。
【0134】
図27は、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリにおいて、消費電力の対GST225比の組成比Xの依存性を示すとともに、Ge
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリにおいて、消費電力の対GST225比の組成比Xの依存性を示すグラフである。
【0135】
●印が、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリを示しており、■印が、Ge
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリを示している。
図27に示すように、組成比XをX=50原子%から減少させるにしたがって、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリの消費電力が減少することがわかる。また、X=50原子%で、既に、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリは、Ge
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリよりも低消費電力であることがわかる。以上のことから、Xの上限値は、少なくとも50原子%であると言える。
【0136】
なお、蛍光X線分析装置を使用して、Sn
50Te
50単層膜の組成分析を行った。この結果、
図28に示すように、Sn:Te≒55:45の組成も確認された。このことを踏まえると、Xの上限値は、55原子%であると言える。
【0137】
以上のことから、Xの下限値は、X=4原子%であり、Xの上限値は、X=55原子%であることがわかる。したがって、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜の組成比Xを4原子%≦X≦55原子%とすることにより、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリにおいては、従来の相変化メモリに比べて、スイッチングパワーおよび消費電力を小さくすることができることがわかる。
【0138】
ただし、X=50原子%のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリでは、Ge
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリの性能とあまり変わらないので、X<50原子%であることが望ましい。
【0139】
このように、Sn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜のXを4原子%≦X≦55原子%とすることにより、本願発明の相変化メモリの消費電力を低減することができる。すなわち、半導体記録再生装置のメモリセルに、本願発明の相変化メモリを採用することにより、消費電力を低減した半導体記録再生装置を提供することができる。
【0140】
<書き換え耐性>
最後に、本願発明の相変化メモリの書き換え耐性について説明する。
【0141】
図29(a)は、X=35原子%のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリの書き換え耐性を示すグラフである。
図29(a)に示すように、少なくとも、およそ10
5回の書き換え耐性があることを確認した。
図29(a)のセット状態およびリセット状態の抵抗値が、
図6と異なっているのは、電気的特性の評価に使用したプローバが異なっているからである。
【0142】
図29(b)は、X=50原子%のSn
XTe
100−X/Sb
2Te
3超格子膜を使用した相変化メモリの書き換え耐性を示すグラフである。
図29(b)に示すように、少なくとも、およそ10
8回の書き換え耐性があることを確認した。
図29(b)のセット状態およびリセット状態の抵抗値が、
図26と異なっているのは、電気的特性の評価に使用したプローバが異なっているからである。
【0143】
以上は、X=35原子%とX=50原子%の場合の書き換え耐性であるが、X=5原子%、10原子%、および、20原子%の場合、さらには、4原子%≦X≦55原子%の範囲であっても、同様の書き換え耐性を得ることができると考えられる。
【0144】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0145】
例えば、前記実施の形態1では、シード層SDLとして、TiN膜から構成する例について説明したが、これに限らず、例えば、シード層SDLは、TaN膜、ReO
3膜、TiO膜、NbO膜、MoO
3膜、RuO
2膜、MoO
2膜、WO
2膜、RhO
2膜、PtO
2膜、NiO膜、あるいは、CoO膜等の膜を含むように構成してもよい。さらに、シード層SDLは、Ta/Cu膜、Ta/NiFe膜、Ta/Ni膜、Ta/Co膜、Ta/CoFe膜等から構成してもよい。