特許第6014550号(P6014550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 倉敷紡績株式会社の特許一覧

特許6014550繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法
<>
  • 特許6014550-繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法 図000004
  • 特許6014550-繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法 図000005
  • 特許6014550-繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法 図000006
  • 特許6014550-繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法 図000007
  • 特許6014550-繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法 図000008
  • 特許6014550-繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法 図000009
  • 特許6014550-繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法 図000010
  • 特許6014550-繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014550
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂用炭素繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/55 20060101AFI20161011BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20161011BHJP
   D06M 10/02 20060101ALI20161011BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   D06M15/55
   D06M10/00 A
   D06M10/02 B
   D06M101:40
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-111140(P2013-111140)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-227641(P2014-227641A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正道
(72)【発明者】
【氏名】堀本 歴
(72)【発明者】
【氏名】田中 忠玄
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−355883(JP,A)
【文献】 特開2009−197143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00− 15/715, 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂サイジング剤が表面に付着した繊維強化樹脂用炭素繊維であって、
前記エポキシ樹脂サイジング剤には、エステル結合(-COO-)が存在し、前記エステル結合(-COO-)の炭素原子濃度は、前記エポキシ樹脂サイジング剤の全炭素原子濃度に対して7.0%以上の割合であることを特徴とする繊維強化樹脂用炭素繊維。
【請求項2】
前記エステル結合はX線光電子分光法により測定される請求項1に記載の繊維強化樹脂用炭素繊維。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂用炭素繊維の製造方法であって、
全炭素原子濃度に対してエステル結合の炭素原子濃度が1.0%未満の割合のエポキシ樹脂サイジング剤が表面に付着された炭素繊維をオゾン酸化処理によって表面活性化することで、エポキシ樹脂サイジング剤を変性させてエステル結合を生成して、エステル結合の炭素原子濃度がエポキシ樹脂サイジング剤の全炭素原子濃度に対して7.0%以上の割合になるようにすることを特徴とする繊維強化樹脂用炭素繊維の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の含浸性を高めた繊維強化樹脂用炭素繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、高強度、軽量等の特色を生かして、ゴルフクラブのシャフト、釣竿等の各種スポーツ用品、航空機、自動車、圧力容器などに広く応用され或いは今後の応用が期待されている。繊維強化樹脂の一般的な成形方法として、例えばハンドレイアップ法、スプレーアップ法などの接触圧成形法、フィラメント・ワインディング(FW)法、引き抜き法、連続積層法などの連続成形法などを使用して目的の成形物に成形している。使用されるマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されている。また、マトリックス樹脂との結合力を高めるため、マトリックス樹脂に応じたサイジング剤を強化用繊維表面に付着させている(以上、非特許文献1)。
【0003】
従来技術として、アクリル基とエポキシ基を有する炭素繊維用サイジング剤を使用する提案がある(特許文献1)。また、サイジング剤を付着させる前の炭素繊維表面をオゾン酸化させる提案もある(特許文献2)。さらにエポキシ基を有する炭素繊維用サイジング剤を使用する提案がある(特許文献3〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−355884号公報
【特許文献2】特開2009−79344号公報
【特許文献3】特開平7−279040号公報
【特許文献4】特開2005−146429号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】繊維学会編「第3版繊維便覧」,丸善,2004年12月15日,598−601頁,614−615頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術のサイジング剤を付着させた炭素繊維は、ガラス繊維に比べ繊維径が小さいため、ガラス繊維と比較してマトリックス樹脂が含浸しにくいという問題があった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、マトリックス樹脂との濡れ性を高め、繊維間にマトリックス樹脂が含浸しやすい樹脂強化用炭素繊維を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の繊維強化樹脂用炭素繊維は、エポキシ樹脂サイジング剤が表面に付着した繊維強化樹脂用炭素繊維であって、前記エポキシ樹脂サイジング剤には、エステル結合(-COO-)が存在し、前記エステル結合(-COO-)の炭素原子濃度は、前記エポキシ樹脂サイジング剤の全炭素原子濃度に対して7.0%以上の割合であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、エポキシ樹脂サイジング剤が付着した炭素繊維の表面に、前記エポキシ樹脂サイジング剤が変性して生成したエステル結合(-COO-)が存在することにより、マトリックス樹脂との濡れ性を高め、炭素繊維間にマトリックス樹脂が含浸しやすい炭素繊維を提供できる。これにより、含浸作業工程を短縮化できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施形態を示す多軸挿入たて編物の概念斜視図である。
図2図2は本発明の一実施例のインフュージョン成形を説明する模式図である。
図3図3は本発明の実施例1〜2品及び比較例1品のX線光電子分光法により測定されるワイドスペクトル重ね書きグラフである。
図4図4は同、ナロースペクトル重ね書きグラフである。
図5図5は同、ナロースペクトル重ね書きグラフである。
図6図6は比較例1品のX線光電子分光法により測定されるC1sスペクトル分析データである。
図7図7は本発明の実施例1品のX線光電子分光法により測定されるC1sスペクトル分析データである。
図8図8は本発明の実施例2品のX線光電子分光法により測定されるC1sスペクトル分析データである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
通常の炭素繊維は樹脂との親和性を上げるためにエポキシ樹脂サイジング剤が付着した状態で販売されている。本発明はこのような市販のエポキシ樹脂サイジング剤が付着した炭素繊維をオゾン酸化、エキシマランプ照射や低圧水銀ランプ照射等の波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ照射からなる群から選ばれる少なくとも一つの処理をする。これにより、サイジング剤を活性化し、エステル結合(-COO-)を生成させ、マトリックス樹脂との濡れ性を良好にして含浸性を高めることができる。
【0012】
前記エステル結合は一例としてX線光電子分光法により測定できる。より具体的な測定方法は実施例で説明する。
【0013】
前記エステル結合の炭素原子濃度は、全炭素原子濃度に対して1.0%以上の割合であることが好ましく、より好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは7.0%以上である。前記の範囲であればトリックス樹脂との濡れ性をさらに良好にして含浸性をさらに高めることができる。
【0014】
前記エステル結合は、全炭素原子濃度に対してエステル結合が1.0%未満の割合のエポキシ樹脂サイジング剤が付着された炭素繊維を表面活性化することにより生成したものである。より好ましくは、エステル結合をもたないエポキシ樹脂サイジング剤が付着された炭素繊維をオゾン酸化、エキシマランプ照射や低圧水銀ランプ照射等の波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ照射からなる群から選ばれる少なくとも一つの処理をする。これにより、サイジング剤を活性化し、エステル結合(-COO-)を生成させ、マトリックス樹脂との濡れ性を良好にして含浸性を高めることができる。
【0015】
(1)オゾン酸化
オゾンの発生方法としては、無声放電方式、沿面放電方式、紫外線照射方式、電気分解方式などがある。大容量のオゾン生成には効率の面から、主に無声放電方式が利用されている。現在、放電型オゾナイザとして最も一般的に用いられている放電方式である。一対の平行電極の一方または両方に誘電体(主にガラスやセラミックス)の層を設け、両電極間に交流高電圧が印加されると無声放電が生じる。オゾン濃度は例えば40000ppmとする。処理時間は2〜30分間が好ましい。
【0016】
(2)エキシマランプ照射
エキシマランプとは、誘電体バリア放電の短時間放電が多数生じる特徴を生かして、希ガス原子や、希ガス原子とハロゲン原子によって形成されるエキシマからの光を放射する放電ランプのことである。エキシマランプの代表的放射波長には、Ar2*(126nm)、Kr2*(146nm)、Xe2*(172nm)、KrCl*(222nm)、XeCl*(308nm)などがある。ランプは石英ガラスの二重構造になっており、内管の内側には金属電極、外管の外側には金属網電極がそれぞれ施され、石英ガラス管内には放電ガスが充填されている。電極に交流の高電圧を印加すると、2つの誘電体の間で細い針金状の放電プラズマ(誘電体バリア放電)が多数発生する。この放電プラズマは高エネルギーの電子を包含しており、かつ、瞬時に消滅するという特徴を持っている。この放電プラズマにより、放電ガスの原子が励起され、瞬間的にエキシマ状態となる。このエキシマ状態から元の状態(基底状態)に戻るときに、そのエキシマ特有のスペクトルを発光(エキシマ発光)する。発光スペクトルは、充填された放電ガスによって設定することができる。
【0017】
好ましい照射条件は波長によって異なる。波長172nmの場合、光強度は例えば5〜6mW/cm2とすると、照射時間は0.5〜30分程度が好ましい。波長222nmの場合、光強度は例えば40〜60mW/cm2とすると、照射時間は2〜30分程度が好ましい。ランプと被処理物との間に空気層(ギャップ)があると、波長172nmの場合、空気中の酸素が光エネルギーを吸収してオゾンが発生するので、オゾンによる酸化作用も起きる。
【0018】
(3)低圧水銀ランプ照射
低圧水銀ランプ(低圧UVランプ)は、点灯中の水銀圧力が100Pa以下の水銀蒸気中のアーク放電の発光を利用する。発光管にはアルゴンガスなどの希ガスと、水銀又はそのアマルガムが封入されている。波長185nm,254nmなどの紫外放射のランプがある。光強度は例えば40〜60mW/cm2とする。照射時間は2〜30分程度が好ましい。
【0019】
(4)プラズマ照射処理
プラズマは一般的には気体を構成する分子が部分的に又は完全に電離し、陽イオンと電子に分かれて自由に運動している状態のものである。プラズマ処理装置を使用して炭素繊維にプラズマ照射する条件は、照射量としてワット密度(W・分/m2)で表現すると、1000〜50000W・分/m2が好ましい。また、窒素ガス又は窒素+酸素ガス雰囲気で処理速度(被処理物移動速度)0.05〜1m/minが好ましい。
【0020】
以上の処理は単独でも任意に組み合わせても良い。これらの処理により、繊維表面のサイジング剤を活性化し、マトリックス樹脂との濡れ性をさらに良好にして含浸性をさらに高めることができる。より具体的にはサイジング剤の分子を切断したり、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アンモニウム基、或いはこれらの遷移状態の中間体や類似基を形成して活性化されると推測される。繊維表面のサイジング剤の活性化の程度は、水との接触角により評価できる。
【0021】
繊維は単繊維であっても良いし、複数本の場合は少なくとも一方向に揃えて配列されていてもよい。単繊維の繊度はいかなる繊度であっても良い。
【0022】
複数本の繊維はシート状に形成されていてもよい。このような繊維としては、例えば構成繊維を一方向に揃えたスダレ状基材、織物、編み物、組物又は多軸挿入たて編み物等がある。
【0023】
本発明では、汎用性の高いエポキシ樹脂サイジング剤を炭素繊維表面に付着させたものを使用するのが好ましい。サイジング剤の好ましい付着量は0.1〜5.0重量%であり、さらに好ましくは0.2〜3.0重量%である。
【0024】
マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂を使用でき、例としてエポキシ、不飽和ポリエステル、フェノールなどの樹脂がある。
【0025】
次に図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態における繊維シート10の斜視図である。この繊維シート10は、多軸挿入たて編み物の概念図を示している。サイジング剤が付着された炭素繊維又はガラス繊維1〜6は、予め本発明の活性化処理を行うか、または繊維シートにした後に活性化処理を行う。この複数本の繊維を束ねた繊維束が一方向に引き揃えられ繊維シート10が形成される。この繊維1〜6を図1に示すように複数方向に異ならせて積層し、編針7に掛けられたステッチング糸8,9によって厚さ方向にステッチング(結束)し、一体化する。このような多軸挿入たて編み物を繊維シート10とし、マトリックス樹脂と一体成形する。この多軸状の積層シートは、多方向の補強効果に優れた繊維強化樹脂を得ることが可能となる。ステッチング糸の代わりに、熱融着糸又は併用してバインダーを用いても良い。
【実施例】
【0026】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
<各種分析、測定方法>
1.X線光電子分光法(XPS)
使用装置:アルバック・ファイ製Quantum-2000 走査型X線光電子分光装置
測定条件:X線源 Al Kα (モノクロ:20W,15kV)、分析領域 100μmφ、帯電中和機構(電子線+イオンビーム)使用。試料は適当な大きさにカットし、Moマスクを用い、ホルダに固定後測定した。
【0028】
2.繊維強化用樹脂含浸試験
未処理、オゾン処理およびエキシマ処理した開繊糸それぞれについて、ガラス板上に幅約14cm、長さ約10cmの大きさで並べ、同じ方向に20枚積層して約1900g/m2の目付の基材を準備した。これを図2に示すインフュージョン成形の常法に従い、周囲をシーラント14a,14bで囲み、基材12の上にはく離フィルム13、メディアシート15、フィルム16を重ねて密閉し、長さ方向の一方の排出口19から矢印20方向へ一定の真空度で真空引きし、他方の供給口18からマトリックス樹脂17を流して、樹脂が含浸した面積(%)の時間経過をガラス板11の下面から観察した。
マトリックス樹脂:エポキシ系樹脂(HUNTSMAN社製)
主剤:Araldaite LY1564SP: 100重量部
硬化剤:Aradur 3416: 34重量部
を混合した(粘度200〜320mPa・s(25℃))。
【0029】
<炭素繊維>
炭素繊維は、形状:ラージトゥフィラメント、単繊維繊度7μmを使用した。この炭素繊維にはエポキシ樹脂がサイジング剤として付着されている。
【0030】
(比較例1)
未処理炭素繊維として、短冊状に開繊した前記炭素繊維(開繊糸)を使用した。目付は約94g/m2であった。
【0031】
(実施例1)
実施例1はオゾン酸化処理の例である。前記未処理開繊糸(幅約3cm、長さ約10cm)をデシケータ内に入れ、真空にした後、オゾン雰囲気(濃度40000ppm)に30分間接触させてオゾン酸化処理した。オゾン生成能力は、1ユニットで2.16g/h(電圧100V、酸素ガス濃度90%、流量1L/min)のものを3台使用して約6g/hとなる。オゾン発生器は、リガルジョイント社製、型番:ORZ−3.2、生成方法:無声放電を使用した。
【0032】
(実施例2)
実施例2はエキシマ処理の例である。前記未処理開繊糸(幅約3cm、長さ約10cm)をエキシマランプ照射装置の石英ガラス板上に1列並行となるように載せ、キセノンランプ(波長172nm)、光強度5.5mW/cm2の条件で表面と裏面各5分間、計10分間照射した。エキシマ照射装置はウシオ電機社製、型式:H0011を使用した。
【0033】
比較例1、実施例1〜2で得られた炭素繊維をX線光電子分光法(XPS)で分析した。
(1) 各試料のワイドスペクトルを図3に示す。これより、いずれもC,O が検出され、その他に特異な元素は検出されていないことが分かる。
(2) 各元素のナロースペクトルを図4〜5に示し、各元素のピーク強度より見積もられた表面原子濃度(at%)を表1に示す。また、同図中に各ピークの結合エネルギーより推察される結合状態を記載する。なお、各状態の同定にはアルバック・ファイ社製ハンドブックを参照した。これより、実施例1品では酸素原子(O)が他の試料に比べ多く検出されていることが分かる。一方、C1s スペクトルの変化より、比較例1品はC-C,C-H の結合状態の他にC-O の結合状態が認められているが、実施例1〜2品にはその他にC=O や-COO- の結合状態が認められていることが分かる。表面原子濃度の計算には、アルバック・ファイの相対感度因子を用いた。
(3) 各試料の化学状態の変化について詳細に調べるため、C1s スペクトルのピーク分離を行い、得られた結果を図6〜8に示す。また、各ピークの面積比より各成分の構成割合を算出し、表面原子濃度と全炭素原子濃度に対する各結合状態の炭素原子濃度の比率(%)を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
以上の図4〜8及び表1から以下のことが分かる。
(1)比較例1品:
C-Oの割合はO濃度の倍程度であり、結合エネルギーはC-C,C-Hの結合成分に対し+ 1.7 eV と算出されることから、C-O-C(エポキシ基)の結合状態が多く含まれている。
(2)実施例1品:
比較例1品に比べ、エステル結合(-COO-)が増加し*1、C-O-C(エポキシ基)の結合状態が減少している。
(3)実施例2品:
比較例1品 に比べ、エステル結合(-COO-)が増加し、C-O-C(エポキシ基)の結合状態については実施例1品 に比べさらに減少している。
(4)以上から、実施例1〜2品にはエステル結合(-COO-)の成分が検出され、C-O-C(エポキシ基)については比較例1品>実施例1品>実施例2品の順に減少しているものと推察される*2
注(*1) 実施例1〜2品において、C1s スペクトルからCOO-H(カルボキシル基)とCOO-C(エステル結合)を区別することは困難であるが、検出されたCOO成分がCOO-H(カルボキシル基)であると仮定すると、C-O の結合成分が全てC-O-C であったと仮定してもO の量が足りなくなるため、COO-C(エステル結合)の結合状態であると判断した。
注(*2) 結合エネルギーは、C-O に対しC-O-C(エポキシ基)で約0.5 eV 高いと報告されているが、結合エネルギーが近いため、本ピーク分離解析において両成分を分離することはできなかった。しかしながら、C-O,C-O-C の結合成分のC-C,C-H の結合成分との結合エネルギーの差が、比較例1品、実施例1品、実施例2品の順に+1.7,1.4,1.3 eV と算出されており、この結合エネルギーの変化はC-O-C(エポキシ基)成分の割合の減少によるものと解釈することができる。
【0036】
次に比較例1、実施例1〜2で得られた炭素繊維を繊維強化用樹脂の含浸試験をした。この結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2から含浸速度(時間当たりの含浸面積)を最小二乗法により求めると、実施例1(オゾン酸化処理)、実施例2(エキシマ処理)の炭素繊維は、比較例1(未処理)のものと比較してそれぞれ約1.9倍、2.2倍含浸速度が上がったことがわかる。
【0039】
以上の実施例及び比較例から、エポキシ樹脂サイジング剤が付着した炭素繊維の表面に、前記エポキシ樹脂サイジング剤が変性して生成したエステル結合(-COO-)が存在することにより、マトリックス樹脂との濡れ性を高め、炭素繊維間にマトリックス樹脂が含浸しやすいことが確認できた。
【0040】
本発明の好ましい態様を列記する。
1. 本発明は、エポキシ樹脂サイジング剤が付着した炭素繊維をオゾン酸化、エキシマランプ照射や低圧水銀ランプ照射等の波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ照射からなる群から選ばれる少なくとも一つの処理をすることにより、サイジング剤を活性化し、エステル結合(-COO-)を生成させ、マトリックス樹脂との濡れ性を良好にして含浸性を高める繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
2.前記エステル結合は、全炭素原子濃度に対してエステル結合が1.0%未満の割合のエポキシ樹脂サイジング剤が付着された炭素繊維が表面活性化により生成したものであり、表面活性化後のエステル結合の炭素原子濃度は、全炭素原子濃度に対して1.0%以上の割合である前記1項に記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
3.前記表面活性化は、オゾン酸化、波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ処理からなる群から選ばれる少なくとも一つの処理である前記1又は2項に記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
4.前記波長400nm以下の紫外線照射は、エキシマランプ照射または低圧水銀ランプ照射である前記1〜3項のいずれかに記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
5.前記炭素繊維は、少なくとも一方向に揃えて配列されている前記1〜4項のいずれかに記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
6.前記炭素繊維はシート状に形成されている前記1〜5項のいずれかに記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の炭素繊維強化樹脂は、風力発電に使用するブレード、ゴルフクラブのシャフト、釣竿等の各種スポーツ用品、航空機、自動車、圧力容器などに広く応用できる。
【符号の説明】
【0042】
1〜6 炭素繊維又はガラス繊維
7 編針
8,9 ステッチング糸
10 繊維シート
11 ガラス板
12 基材
13 はく離フィルム
14a,14b シーラント
15 メディアシート
16 フィルム
17 マトリックス樹脂
18 供給口
19 排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8