【実施例】
【0026】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
<各種分析、測定方法>
1.X線光電子分光法(XPS)
使用装置:アルバック・ファイ製Quantum-2000 走査型X線光電子分光装置
測定条件:X線源 Al Kα (モノクロ:20W,15kV)、分析領域 100μmφ、帯電中和機構(電子線+イオンビーム)使用。試料は適当な大きさにカットし、Moマスクを用い、ホルダに固定後測定した。
【0028】
2.繊維強化用樹脂含浸試験
未処理、オゾン処理およびエキシマ処理した開繊糸それぞれについて、ガラス板上に幅約14cm、長さ約10cmの大きさで並べ、同じ方向に20枚積層して約1900g/m
2の目付の基材を準備した。これを
図2に示すインフュージョン成形の常法に従い、周囲をシーラント14a,14bで囲み、基材12の上にはく離フィルム13、メディアシート15、フィルム16を重ねて密閉し、長さ方向の一方の排出口19から矢印20方向へ一定の真空度で真空引きし、他方の供給口18からマトリックス樹脂17を流して、樹脂が含浸した面積(%)の時間経過をガラス板11の下面から観察した。
マトリックス樹脂:エポキシ系樹脂(HUNTSMAN社製)
主剤:Araldaite LY1564SP: 100重量部
硬化剤:Aradur 3416: 34重量部
を混合した(粘度200〜320mPa・s(25℃))。
【0029】
<炭素繊維>
炭素繊維は、形状:ラージトゥフィラメント、単繊維繊度7μmを使用した。この炭素繊維にはエポキシ樹脂がサイジング剤として付着されている。
【0030】
(比較例1)
未処理炭素繊維として、短冊状に開繊した前記炭素繊維(開繊糸)を使用した。目付は約94g/m
2であった。
【0031】
(実施例1)
実施例1はオゾン酸化処理の例である。前記未処理開繊糸(幅約3cm、長さ約10cm)をデシケータ内に入れ、真空にした後、オゾン雰囲気(濃度40000ppm)に30分間接触させてオゾン酸化処理した。オゾン生成能力は、1ユニットで2.16g/h(電圧100V、酸素ガス濃度90%、流量1L/min)のものを3台使用して約6g/hとなる。オゾン発生器は、リガルジョイント社製、型番:ORZ−3.2、生成方法:無声放電を使用した。
【0032】
(実施例2)
実施例2はエキシマ処理の例である。前記未処理開繊糸(幅約3cm、長さ約10cm)をエキシマランプ照射装置の石英ガラス板上に1列並行となるように載せ、キセノンランプ(波長172nm)、光強度5.5mW/cm
2の条件で表面と裏面各5分間、計10分間照射した。エキシマ照射装置はウシオ電機社製、型式:H0011を使用した。
【0033】
比較例1、実施例1〜2で得られた炭素繊維をX線光電子分光法(XPS)で分析した。
(1) 各試料のワイドスペクトルを
図3に示す。これより、いずれもC,O が検出され、その他に特異な元素は検出されていないことが分かる。
(2) 各元素のナロースペクトルを
図4〜5に示し、各元素のピーク強度より見積もられた表面原子濃度(at%)を表1に示す。また、同図中に各ピークの結合エネルギーより推察される結合状態を記載する。なお、各状態の同定にはアルバック・ファイ社製ハンドブックを参照した。これより、実施例1品では酸素原子(O)が他の試料に比べ多く検出されていることが分かる。一方、C1s スペクトルの変化より、比較例1品はC-C,C-H の結合状態の他にC-O の結合状態が認められているが、実施例1〜2品にはその他にC=O や-COO- の結合状態が認められていることが分かる。表面原子濃度の計算には、アルバック・ファイの相対感度因子を用いた。
(3) 各試料の化学状態の変化について詳細に調べるため、C1s スペクトルのピーク分離を行い、得られた結果を
図6〜8に示す。また、各ピークの面積比より各成分の構成割合を算出し、表面原子濃度と全炭素原子濃度に対する各結合状態の炭素原子濃度の比率(%)を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
以上の
図4〜8及び表1から以下のことが分かる。
(1)比較例1品:
C-Oの割合はO濃度の倍程度であり、結合エネルギーはC-C,C-Hの結合成分に対し+ 1.7 eV と算出されることから、C-O-C(エポキシ基)の結合状態が多く含まれている。
(2)実施例1品:
比較例1品に比べ、エステル結合(-COO-)が増加し
*1、C-O-C(エポキシ基)の結合状態が減少している。
(3)実施例2品:
比較例1品 に比べ、エステル結合(-COO-)が増加し、C-O-C(エポキシ基)の結合状態については実施例1品 に比べさらに減少している。
(4)以上から、実施例1〜2品にはエステル結合(-COO-)の成分が検出され、C-O-C(エポキシ基)については比較例1品>実施例1品>実施例2品の順に減少しているものと推察される
*2。
注(*1) 実施例1〜2品において、C1s スペクトルからCOO-H(カルボキシル基)とCOO-C(エステル結合)を区別することは困難であるが、検出されたCOO成分がCOO-H(カルボキシル基)であると仮定すると、C-O の結合成分が全てC-O-C であったと仮定してもO の量が足りなくなるため、COO-C(エステル結合)の結合状態であると判断した。
注(*2) 結合エネルギーは、C-O に対しC-O-C(エポキシ基)で約0.5 eV 高いと報告されているが、結合エネルギーが近いため、本ピーク分離解析において両成分を分離することはできなかった。しかしながら、C-O,C-O-C の結合成分のC-C,C-H の結合成分との結合エネルギーの差が、比較例1品、実施例1品、実施例2品の順に+1.7,1.4,1.3 eV と算出されており、この結合エネルギーの変化はC-O-C(エポキシ基)成分の割合の減少によるものと解釈することができる。
【0036】
次に比較例1、実施例1〜2で得られた炭素繊維を繊維強化用樹脂の含浸試験をした。この結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2から含浸速度(時間当たりの含浸面積)を最小二乗法により求めると、実施例1(オゾン酸化処理)、実施例2(エキシマ処理)の炭素繊維は、比較例1(未処理)のものと比較してそれぞれ約1.9倍、2.2倍含浸速度が上がったことがわかる。
【0039】
以上の実施例及び比較例から、エポキシ樹脂サイジング剤が付着した炭素繊維の表面に、前記エポキシ樹脂サイジング剤が変性して生成したエステル結合(-COO-)が存在することにより、マトリックス樹脂との濡れ性を高め、炭素繊維間にマトリックス樹脂が含浸しやすいことが確認できた。
【0040】
本発明の好ましい態様を列記する。
1. 本発明は、エポキシ樹脂サイジング剤が付着した炭素繊維をオゾン酸化、エキシマランプ照射や低圧水銀ランプ照射等の波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ照射からなる群から選ばれる少なくとも一つの処理をすることにより、サイジング剤を活性化し、エステル結合(-COO-)を生成させ、マトリックス樹脂との濡れ性を良好にして含浸性を高める繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
2.前記エステル結合は、全炭素原子濃度に対してエステル結合が1.0%未満の割合のエポキシ樹脂サイジング剤が付着された炭素繊維が表面活性化により生成したものであり、表面活性化後のエステル結合の炭素原子濃度は、全炭素原子濃度に対して1.0%以上の割合である前記1項に記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
3.前記表面活性化は、オゾン酸化、波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ処理からなる群から選ばれる少なくとも一つの処理である前記1又は2項に記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
4.前記波長400nm以下の紫外線照射は、エキシマランプ照射または低圧水銀ランプ照射である前記1〜3項のいずれかに記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
5.前記炭素繊維は、少なくとも一方向に揃えて配列されている前記1〜4項のいずれかに記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。
6.前記炭素繊維はシート状に形成されている前記1〜5項のいずれかに記載の繊維強化樹脂用繊維の製造方法である。