(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケイ素に、3族の半金属元素若しくは金属元素、4族(ただしケイ素は除く)の半金属元素若しくは金属元素又は5族の非金属若しくは半金属元素が1種又は2種以上固溶しているケイ素固溶体を含み、ケイ素に固溶している該元素が、該ケイ素固溶体における結晶粒の内部に比して結晶粒の粒界に多く存在していることを特徴とする非水電解液二次電池用負極活物質の製造方法であって、
ケイ素と、3族の半金属元素若しくは金属元素、4族(ただしケイ素は除く)の半金属元素若しくは金属元素又は5族の非金属若しくは半金属元素との混合溶融液を用意し、
該混合溶融液を液状の冷媒中に供給して、該冷媒中で混合溶融液を覆う蒸気膜を形成し、
該蒸気膜を崩壊させて該混合溶融液と冷媒とを直接接触させ、自発核生成による沸騰を生じさせ、
該沸騰によって生じた圧力波を利用して、該混合溶融液を引きちぎりながら微粒化するとともに冷却固化してケイ素固溶体を得、
該ケイ素固溶体を、500〜1200℃で0.3〜20時間にわたって不活性ガス雰囲気下又は真空下で熱処理する工程を有することを特徴とする非水電解液二次電池用負極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の負極活物質は、リチウム二次電池等の非水電解液二次電池に用いられるものである。この負極活物質は、ケイ素固溶体をマトリックスとすることによって特徴付けられる。このケイ素固溶体には、3族の半金属元素若しくは金属元素、4族(ただしケイ素は除く)の半金属元素若しくは金属元素又は5族の非金属若しくは半金属元素が固溶している(以下、これらの元素を「固溶元素」という。)。固溶元素の具体例としては、3族の半金属元素であるホウ素や、4族の半金属元素であるゲルマニウム及び金属元素であるスズ、5族の非金属元素である窒素及びリン並びに半金属元素であるヒ素、アンチモン及びビスマスが挙げられる。これらの元素のうち、3族の半金属元素であるホウ素や、4族の半金属元素であるゲルマニウム、5族の非金属元素であるリンを用いることが好ましい。これらの固溶元素は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせて用いる場合には、同族の固溶元素を用いることが好ましい。
【0014】
固溶元素はケイ素と固溶体を形成しているだけではなく、該固溶体における結晶粒の内部に比して結晶粒の粒界に多く存在している。つまり、一つの結晶粒内において、固溶元素は均一に存在しているのではなく、粒界に相対的に多く存在している(後述する
図2及び
図3参照)。しかしこのことは、結晶粒の中心域に固溶元素が存在していないことを意味するものではない。固溶元素は、結晶粒の全域にわたって存在しているが、その存在の程度が均一ではなく、粒界に相対的に多く存在しているのである。以下の説明では、この状態のことを便宜的に「粒界に偏在している」ともいう。ケイ素固溶体において固溶元素が粒界に偏在していることに起因して、粒界に電子の導電パスが形成され、ケイ素固溶体の電子伝導性が高まると本発明者は考えている。そしてこのような特性を有する負極活物質を備えた負極を用いて非水電解液二次電池を作製すると、該二次電池は充放電サイクル特性が向上する。また、初回充放電の可逆性が高くなる。更に本発明の負極活物質によれば、負極活物質の耐酸化性が高くなる。耐酸化性が高くなることは、電池を高温環境下で保存する場合に電池の劣化を効果的に防止できる点で有利である。また高温環境下で電池を繰り返し充放電する場合に、放電容量の低下が防止できる点で有利である。本発明において高温とは、当該技術分野において一般的に認識されている温度範囲である45〜80℃のことである。その上、本発明の負極活物質を用いると、負極活物質層の膨張も抑制され、しかも該負極活物質を有する非水電解液二次電池の使用時に、負極活物質への負荷を高くすることができる。
【0015】
ケイ素固溶体において、固溶元素が結晶粒の内部に比して結晶粒の粒界に多く存在しているか否かの判断は、例えば後述する
図2及び
図3に示すように、透過型電子顕微鏡(以下「TEM」とも言う。)観察及び電子エネルギー損失分光法(以下「EELS」とも言う。)によって判断することができる。
【0016】
特に本発明の負極活物質が、ケイ素にホウ素が固溶しているものである場合は、充放電のサイクル特性の向上効果に加え、純ケイ素や、他のケイ素合金を負極活物質として使用した場合に比べて、充放電時に生じる電解液分解などの副反応の程度が小さいという有利な効果が奏される。副反応物の発生は電極膨張の原因になるだけではなく、電極反応に活性なリチウムを消費するなどの不具合を生じさせる。ケイ素にホウ素が固溶してなる活物質における、副反応物の低減効果に関するメカニズムはまだ明確ではないが、本発明者は次のような推測をしている。すなわち、ケイ素にホウ素が固溶していることに起因して、固溶体中に多くの正孔が導入されていると考えられる。負極活物質上での電解液の副反応は主に求電子反応であるため、負極活物質に多くの正孔が存在することで、その副反応が低減するものと考えられる。
【0017】
前記のケイ素固溶体は、ケイ素合金と明確に区別されるべきものである。ケイ素固溶体は、これをXRD測定すると、ケイ素の回折ピークに対応した回折ピークを示す。一方、ケイ素合金は、これをXRD測定すると、該ケイ素合金に特有の回折ピークを示し、ケイ素に由来する回折ピークは示さない。ケイ素固溶体は、それのみから構成されていることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、ケイ素と固溶元素との合金ないし金属間化合物を少量含むことは許容される。
【0018】
上述のとおり、前記のケイ素固溶体は、これをXRD測定すると、マトリックスの元素であるケイ素の回折ピークに対応する回折ピークを有する。その回折ピークの位置が、ケイ素の回折ピークの位置に対して、低角度又は高角度側にシフトしていることが好ましいことが判明した。詳細には、ケイ素固溶体は、ダイヤモンド型構造を有するケイ素の(422)面に帰属されるXRDの回折ピークの位置に対して、該ピークに対応する該ケイ素固溶体のXRDの回折ピークの位置が、低角度又は高角度側にシフトしていることが好ましい(以下、このシフトの程度を「シフト量」ともいう。)。シフト量は、後述するケイ素固溶体の製造方法において、水蒸気爆発アトマイズ法によって得られたケイ素固溶体のシフト量S1と、水蒸気爆発アトマイズ法によって得られたケイ素固溶体を熱処理した後のシフト量S2との差であるΔS(=S1−S2)を尺度とすることが有利であることが、本発明者らの検討の結果判明した。具体的にはΔSが−0.45〜0.5、特に−0.1〜0.45であることが好ましい。S1及びS2の値は、高角度側にシフトした場合を正数とし、低角度側にシフトした場合を負数とする。したがってΔSが正数の場合は、回折ピークの位置が高角度側にシフトした場合に対応しており、ΔSが負数の場合は、低角度側にシフトした場合に対応している。ΔSがこの範囲であることによって、固溶元素が粒界に偏在していること相まって、該ケイ素固溶体を含む負極活物質を用いた非水電解液二次電池においては、充放電サイクル特性が一層良好になるという有利な効果が奏される。更に、初回充放電の可逆性が一層高まり、かつ耐酸化性が一層高まるという有利な効果も奏される。また、水蒸気爆発アトマイズ法によって得られたケイ素固溶体を熱処理した後のシフト量S2の値そのものは、高角度側へのシフトの場合、好ましくは0.001〜1.0であり、更に好ましくは0.001〜0.8であり、一層好ましくは0.005〜0.4である。低角度側へのシフトの場合には、好ましくは−0.001〜−1.0であり、更に好ましくは−0.001〜−0.8であり、一層好ましくは−0.001〜−0.4である。
【0019】
ピーク位置のシフトの方向(すなわち低角度側か、それとも高角度側か)は、ケイ素固溶体の格子定数で決定される。ケイ素固溶体の格子定数が、ケイ素の格子定数よりも大きい場合には、ケイ素固溶体のピーク位置は、そのピークに対応するケイ素のピーク位置よりも低角度側にシフトする。逆に、ケイ素固溶体の格子定数がケイ素の格子定数よりも小さい場合には、ケイ素固溶体のピーク位置は、そのピークに対応するケイ素のピーク位置よりも高角度側にシフトする。ピーク位置のシフトの方向は本発明において臨界的ではなく、シフトの程度の方が本発明の効果に影響を及ぼす。
【0020】
ピーク位置のシフトの程度を、ケイ素の(422)面に帰属される回折ピークを基準とした理由は、シフトの程度の再現性が良好であるという本発明者らの経験則によるものである。したがって、ケイ素の(422)面に帰属される回折ピークを、シフトの程度の基準とすることは、本発明において本質的なことではない。
【0021】
ケイ素の(422)面に帰属される回折ピークの位置及びそのシフト量を測定する場合には、X線源としてCuKα線を用い、得られる回折をCuKα1線とCuKα2線とに分離し、CuKα1線に基づく回折X線について解析を行う。
【0022】
本発明の負極活物質においては、前記のケイ素固溶体において固溶元素が粒界に偏在していることに加えて、該ケイ素固溶体が格子歪みを有していることも好ましいことが本発明者の検討の結果判明した。格子歪みは、ケイ素固溶体を構成する各結晶子の格子定数が、場所によって様々に変化していることによって生じる。
【0023】
ケイ素固溶体が格子歪みを有しているか否かは、定性的にはXRDの回折ピークの幅で判断できる。ケイ素の回折ピークと比較して、そのピークに対応するケイ素固溶体の回折ピークの幅が同程度であれば、該ケイ素固溶体には格子歪みが存在していないと判断できる。一方、ケイ素固溶体の回折ピークの幅が、ケイ素の回折ピークの幅と比較してブロードであれば、該ケイ素固溶体は格子歪みを有していると判断できる。
【0024】
格子歪みを定量的に評価するためには、X線結晶学の分野で良く知られている以下の式(1)で表されるHallの方法を用いることが有利である(Hall, W. H., J. Inst. Met., 75, 1127 (1950); idem, Proc. Phys. Soc., A62, 741 (1949))。
【0026】
格子歪みは、後述するケイ素固溶体の製造方法において、水蒸気爆発アトマイズ法によって得られたケイ素固溶体の格子歪みL1と、水蒸気爆発アトマイズ法によって得られたケイ素固溶体を熱処理した後の格子歪みL2との差であるΔL(=L1−L2)を尺度とすることが有利であることが、本発明者らの検討の結果判明した。具体的にはΔLが0.001〜1.0であることが好ましく、更に好ましくは0.01〜0.5であり、一層好ましくは0.05〜0.2である。ΔLがこの範囲であることによって、該ケイ素固溶体を含む負極活物質を用いた非水電解液二次電池においては、充放電サイクル特性が更に一層良好になり、また初回充放電の可逆性が更に一層高くなるという有利な効果が奏される。また、水蒸気爆発アトマイズ法によって得られたケイ素固溶体を熱処理した後の格子歪みL2の値そのものは、好ましくは0.01〜1.0であり、更に好ましくは0.1〜0.4である。
【0027】
本発明においては、ケイ素固溶体の格子歪みL1及びL2を以下の方法で測定する。X線源としてCuKα線を用いる。粉末法XRDによってケイ素固溶体の回折ピークを測定する。そして回折角2θ=120度以下に現れるすべての回折ピークの積分幅を実測する。この実測値に、上述したHallの方法を適用して格子歪みを算出する。積分幅を算出するときの装置関数を見積もるためには、X線回折用標準試料であるLaB
6を用いる。なお、120度以下の回折角に現れる代表的な回折ピークとしては、(111)面、(220)面、(311)面、(400)面、(331)面、(422)面、(333)面、(440)面、(531)面などが挙げられる。
【0028】
前記のケイ素固溶体における固溶元素の量は、ケイ素原子に対して好ましくは0.01〜10原子%、更に好ましくは1〜6原子%、一層好ましくは1〜3原子%である。固溶元素の量がこの範囲内であることによって、充放電サイクル特性及び初回充放電の可逆性等が一層向上する。固溶元素の量は、例えばICPによって測定することができる。
【0029】
本発明における負極活物質は、上述したケイ素固溶体のみから構成されていてもよく、あるいはケイ素固溶体とケイ素合金との混合体から構成されていてもよい。
図1に模式的に示すように、この混合体1は、ケイ素固溶体をマトリックス2とし、該マトリックス2中にケイ素合金相3が析出している状態になっている。したがって、ケイ素固溶体とケイ素合金との単純な混合物は、ここで言う混合体には包含されない。ケイ素固溶体とケイ素合金との混合体からなる負極活物質は、ケイ素固溶体のみからなる負極活物質に比較して導電性が高くなるという利点がある。特にケイ素合金相3が、ケイ素固溶体の粒界に析出していると、上述した各種の有利な効果が一層顕著なものとなるので好ましい。ケイ素固溶体のマトリックス中に、ケイ素合金相が析出しているか否かは、前記の混合体のXRD測定や、負極活物質の断面を対象とし、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いた微小領域での元素分布から判断できる。ケイ素合金相が析出している場合には、ケイ素固溶体に由来する回折ピークに、ケイ素合金相に由来する回折ピークが重畳して観察される。
【0030】
ケイ素合金としては、例えばケイ素と遷移金属との合金が挙げられる。遷移金属としては例えば鉄、ニッケル、チタン、コバルト、銅などが挙げられる。また、ケイ素とニオブとの合金を用いることもできる。特に、ケイ素とともに前記のケイ素合金を構成する金属Mとして、該ケイ素合金の共晶点での該ケイ素合金の組成における該金属の割合(金属Mの原子数/(Siの原子数+金属Mの原子数)×100)が、1〜50原子%のものを用いることが好ましい。そのような金属Mとしては例えば鉄(共晶点における鉄の割合:26.5原子%)、ニッケル(共晶点におけるニッケルの割合:42原子%)、チタン(共晶点におけるチタンの割合:16原子%)、ニオブ(共晶点におけるニオブの割合:2原子%)、コバルト(共晶点におけるコバルトの割合:22.5原子%)などが挙げられる。前記の混合体における遷移金属の割合は、該混合体中のSiの原子数に対して0.001〜10原子%であることが好ましく、0.001〜5原子%であることが更に好ましく、0.01〜3原子%であることが一層好ましい。
【0031】
本発明の負極活物質として用いられるケイ素固溶体は、好ましくは次の方法で製造される。すなわち第1の工程として(イ)固溶元素が偏在していないケイ素固溶体を製造し、次いで第2の工程として(ロ)得られたケイ素固溶体を熱処理して固溶元素を粒界に偏在させる。以下、(イ)及び(ロ)の工程について説明する。
【0032】
(イ)の工程において、ケイ素固溶体は種々の方法で製造することができる。粒子状のケイ素固溶体を製造する場合には、例えばいわゆる水蒸気爆発アトマイズ法(別名CANOPUS法)が好適に用いられる。水蒸気爆発アトマイズ法の詳細な内容については、例えば国際公開01/081032号パンフレット及び国際公開01/081033号パンフレット並びに電力中央研究所報告、研究報告T01024(平成14年4月)等に記載されている。この方法では、ケイ素及び固溶元素の混合溶融液を用意し、該混合溶融液を液状の冷媒中に供給し、該冷媒中で混合溶融液を覆う蒸気膜を形成する。そしてこの蒸気膜を崩壊させて該混合溶融液と冷媒とを直接接触させ、自発核生成による沸騰を起こさせる。この沸騰によって生じた圧力波を利用して、混合溶融液を引きちぎりながら微粒化するとともに冷却固化する。
【0033】
水蒸気爆発アトマイズ法を実施するための装置としては例えば国際公開01/081032号パンフレットの
図3及び
図4並びに国際公開01/081033号パンフレットの
図3及び
図4に記載のものを用いることができる。この装置は、前記の混合溶融液を貯留する坩堝を備える。坩堝の底面には、混合溶融液を滴下するための、開閉可能な注出部を有している。注出部の下方には、滴下された混合溶融液と冷媒とを混合するための混合ノズルが配置されている。混合ノズルは円筒状とすることができ、滴下された混合溶融液は、円筒内を落下するようになされている。また円筒の内壁には螺旋状のガイドワイヤが配置されており、冷媒が該ガイドワイヤに沿って円筒内を、上方から下方に向けて旋回するようになされている。冷媒を旋回させる理由は、円筒内において、滴下された混合溶融液と冷媒との速度差を可能な限り作らずに、かつ円筒内での滞留時間をかせぐためである。これによって、混合溶融液と冷媒との接触時間を長くして、混合溶融液が冷えて蒸気膜崩壊とそれに続く自発核生成による沸騰までの時間を確保するようにしている。円筒状の混合ノズルの内径は混合溶融液の液滴径よりも十分に大きく、かつ緩やかに流れる旋回流を形成できる程度に小さくされている。例えば約2〜8mm程度以上でかつ25mm程度以下の内径とされている。
【0034】
坩堝内において混合溶融液は、冷媒に直接接触した場合に、混合溶融液と冷媒との界面温度が自発核生成温度以上になる温度、好ましくは自発核生成温度よりも十分高い温度となるように加熱されている。また、混合溶融液の温度は、例えば冷媒に直接接触した場合に蒸気膜が崩壊する温度、すなわち膜沸騰下限温度以下となっている。この膜沸騰下限温度は、外力が全くない場合の混合溶融液と冷媒との温度で規定されるものである。
【0035】
冷媒としては、混合溶融液と接触して自発核生成による沸騰を起こし得る液体を用いればよい。例えば水や液体窒素、並びにメタノールやエタノール等の有機溶媒やその他の液体が好ましく、一般的には経済性及び安全性に優れる冷媒である水が使用される。
【0036】
坩堝から滴下された混合溶融液は、混合ノズル内で冷媒と衝突した際に、衝突の勢いで冷媒中に分散し、次いで、混合溶融液の温度が高いため膜沸騰で発生した蒸気の膜で覆われた粗混合状態になる。
【0037】
そこで、分散したどこかの粒子で蒸気膜が破れると、そこで発生した圧力波が他の粒子に及んで次々に自発核生成による沸騰を引き起こさせる。そしてこの混合溶融液の微粒化は、その比表面積を大きくして冷却を速めることから、それが更に冷媒からの蒸発が増やして更なる圧力波を生み出すという正のフィードバックがかかり、微粒化が促進されると同時に急速に冷却される。したがって、大きな固まりを残すことなく、効率的に微粒化できる。
【0038】
蒸気膜は、混合溶融液の熱を受けて冷媒が蒸発することによって混合溶融液の周りに発生する。この蒸気膜は、混合溶融液からの熱を受けて進行する蒸発と冷媒による冷却との熱収支がバランスすることによって定在し、やがて混合溶融液の温度が下がってくると、熱収支が崩れて凝縮する。すなわち、蒸気膜の崩壊が起こる。そして、この凝縮は、概ね同時に全面で起こる。したがって、混合溶融液の全面で同時に冷媒と接触して、その界面温度が自発核生成温度以上となることから、混合溶融液の粒子の周りの低温側の液体である冷媒中に自発核生成による沸騰が起こる。自発核生成による沸騰は急速な蒸発を生じ、蒸気泡を急膨張させて高い圧力波を発生させる。この圧力波は極めて高速で伝播し、混合溶融液の粒子の全体に一様に作用することから、粒子は圧力波で引きちぎられるように砕かれて微粒化する。同時に、微粒化によって比表面積が大きくなり、冷却速度が更に高まる。そのことは、冷媒からの蒸発を更に増やして、蒸気膜形成、蒸気膜崩壊、自発核生成による沸騰と発展して更なる圧力波を生み出す。
【0039】
混合溶融液は、数nmの自発核生成気泡から発生する圧力波を利用して微粒化するので、サブμmオーダーから100μmオーダーまでの粒子を容易に製造できる。しかも、従来の微粒子製造方法並びに装置では実現困難であった数μm、特に3μm程度の従来方法では得られなかった大きさの微粒子の製造を実現できる。しかも、全体が同時に微粒化することによって大きな固まりが残らないので、収率が大きく、歩留りが良い。更に、粒径分布が集中するので、所望とする径の微粒子が大量に得られる。そして、この場合、単位質量当たりの微粒化効率(微粒化割合)を良くできる。しかも、微粒化が進むと比表面積が大きくなって更に冷却速度も高まる。
【0040】
上述の水蒸気爆発アトマイズ法の操作条件としては、例えば、数gずつ混合溶融液を滴下させるとともに、混合ノズル内で旋回している冷媒の量を100ml程度にすることができる。
【0041】
以上の操作によってケイ素固溶体を得ることができる。混合溶融液として、ケイ素及び固溶元素のみを用いた場合には、該固溶元素が固溶したケイ素固溶体が得られる。混合溶融液として、ケイ素及び固溶元素並びにケイ素と合金を形成する元素を用いた場合には、該固溶元素が固溶したケイ素固溶体中にケイ素合金相が析出した混合体が得られる。目的とするケイ素固溶体の組成又は混合体の組成と一致させる。
【0042】
水蒸気爆発アトマイズ法によって得られたケイ素固溶体は粒子状のものとなる。その粒径は、レーザ回折散乱法によるD
50で表して2〜10μm、特に2〜3μmであることが好ましい。負極活物質としての好ましい粒径を得るために、水蒸気爆発アトマイズ法の後に、乾湿式法及び/又は湿式法による粉砕を行ってもよい。また分級を行い、粒度分布を調整してもよい。この状態でのケイ素固溶体は、上述したケイ素の(422)面に帰属されるXRDの回折ピークのシフトを有するものとなる。また、上述した格子歪みを有するものとなる。しかし、固溶元素は粒界に偏在した状態にはなっていない。そこで、固溶元素を粒界に偏在させるために、次に述べる(ロ)の熱処理工程を行う。
【0043】
(ロ)の熱処理工程においては、(イ)の工程で得られたケイ素固溶体を真空下に加熱する。例えば、真空加熱炉を用い、これを初めにアルゴン等の不活性ガスでパージし、次いで真空吸引して所定の真空度とする。引き続き、アルゴン等の不活性ガスで再びパージし、加熱炉内の圧力を好ましくは0.1MPa〜10
-4MPaに設定する。アルゴン等の不活性ガス雰囲気下に加熱する理由は、ケイ素固溶体の酸化を防止するためである。不活性ガス雰囲気下での加熱に代えて、真空下での加熱を行ってもよい。不活性ガス雰囲気下及び真空下のいずれの場合においても加熱温度は好ましくは500〜1200℃、更に好ましくは700〜1150℃、一層好ましくは700〜1100℃とする。加熱時間は、加熱温度がこの範囲内であることを条件として、好ましくは0.3〜20時間、更に好ましくは0.5〜20時間、一層好ましくは0.5〜10時間、更に一層好ましくは1〜3.5時間とする。このような条件下での加熱によって、ケイ素固溶体の各結晶粒中において固溶元素が粒界へと移動して、結晶粒の内部に比して結晶粒の粒界に多くの固溶元素が存在するようになる。偏在の程度は、加熱温度や加熱時間によって調整できる。なお、上述の加熱条件での加熱によって、ケイ素固溶体のXRDのシフト及び格子歪みには変化が生じる。
【0044】
負極活物質が粒子状の場合、該活物質は、常法にしたがい、結着剤、導電材及び溶媒とともに混合されて合剤となされる。これをCu等からなる集電体の表面に塗布し乾燥させることで、負極活物質層が形成される。必要に応じ、乾燥後の活物質層をプレスすることもできる。更に、塗布後の活物質層をめっき液中に浸漬して、負極活物質の粒子間にめっき液を浸透させた状態で電解めっき又は無電解めっきを行い、該活物質層内にめっき金属を析出させ、該めっき金属による連続した三次元のネットワーク構造を活物質層の全域にわたって形成してもよい。負極活物質の粒子は、その表面の少なくとも一部がめっき金属によって被覆されており、かつめっき金属の三次元ネットワーク構造内に保持されている。また、活物質層中にはその全域にわたり、非水電解液の流通が可能な三次元のネットワーク構造の空隙が形成されている。めっき金属としては、充電時にリチウムと化合物を形成しない金属が好適に用いられる。そのような金属としては、例えばCu、Ni、Fe、Coなどが挙げられる。このような構造の負極活物質を有する負極の詳細は、例えば特開2008−66278号公報に記載されている。
【0045】
本発明においては、前記の負極活物質に加えて、グラファイトからなる負極活物質を用いることも好ましい。この場合には、得られる負極の活物質層は、負極活物質及びグラファイトを備えたものとなる。このような活物質層を有する負極を具備する非水電解液二次電池によれば、先に述べた各種の有利な効果に加えて、ケイ素が有する高容量と、グラファイトが有する良好なサイクル特性とが両立するので好ましい。
【0046】
このようにして製造された負極は、正極、セパレータ、非水電解液等とともに用いられて非水電解液二次電池を構成する。正極は、例えば集電体の少なくとも一面に正極活物質層が形成されてなるものである。正極活物質層には活物質が含まれている。正極活物質としては、当該技術分野において従来知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば各種のリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。そのような物質としては、例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiCo
0.5Ni
0.5O
2、LiNi
0.7Co
0.2Mn
0.1O
2、Li(Li
xMn
2xCo
1-3x)O
2(式中、0<x<1/3である)、LiFePO
4、LiMn
1-zM
zPO
4 (式中、0<z≦0.1であり、MはCo、Ni、Fe、Mg、Zn及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素である。)などが挙げられる。
【0047】
負極及び正極とともに用いられるセパレータとしては、合成樹脂製不織布、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリテトラフルオロエチレンの多孔質フィルム等が好ましく用いられる。
【0048】
非水電解液は、支持電解質であるリチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液からなる。有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の1種又は2種以上の組み合わせが用いられる。リチウム塩としては、CF
3SO
3Li、(CF
3SO
2)NLi、(C
2F
5SO
2)
2NLi、LiClO
4、LiA1Cl
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCl、LiBr、LiI、LiC
4F
9SO
3等が例示される。こ
れらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0050】
〔実施例1〕
(1)負極活物質の製造
(1−1)ケイ素固溶体の製造
国際公開01/081033号パンフレットの
図3に記載の装置を用いて水蒸気爆発アトマイズ法を行い、ホウ素が固溶したケイ素固溶体を製造した。ホウ素の固溶量は、ケイ素100atm%に対して2atm%とした。同図に記載の装置において、円筒状の混合ノズル2の内径は2.0mmとした。混合ノズル内で旋回している冷媒の量は100L/minとした。冷媒には室温の水を用いた。ケイ素とホウ素との混合溶融液は1600℃に加熱しておき、13gずつ混合ノズル2内に滴下(自由落下)させた。
【0051】
(1−2)ケイ素固溶体の熱処理
真空加熱炉を用い、アルゴンガスを用いて内部をパージした。次いで真空吸引を行い内部の真空度を10
-2Paまで高めた。引き続き、アルゴンガスを再びパージして、加熱炉内の圧力を0.05MPaに維持した。この状態下に(1−1)で得られたケイ素固溶体の加熱を行った。加熱温度は950℃とし、この温度を1時間維持した。自然冷却後、加熱炉から取り出したケイ素固溶体を、カウンタージェットミル装置を用いて粉砕した。粉砕後のケイ素固溶体について、TEM及びEELSを用いてホウ素の偏在の状態を観察した。また、熱処理前でのケイ素固溶体についても同様の観察を行った。それらの結果を
図2及び
図3に示す。
図2に示す熱処理前のケイ素固溶体においては、結晶粒の粒界及び結晶粒中のいずれにおいてもホウ素が偏在している状態は観察されない。これに対して、
図3に示す熱処理後のケイ素固溶体においては、*1で示す粒界においてホウ素の存在が確認される。*2や*3で示す結晶粒の内部においてはホウ素の存在は確認されない。この結果から、熱処理によってホウ素が結晶粒の粒界に偏在することが確認された。なお
図3において*2や*3でホウ素の存在が確認されなかったことは、ホウ素の存在量が少ないために検出されなかったことに起因するものであり、ホウ素が全く存在していないことを意味するものではない。
【0052】
このようにして得られたケイ素固溶体からなる負極活物質のXRD測定を行った。この測定から、この負極活物質はケイ素の回折ピークを示すことが確認され、この負極活物質がケイ素固溶体であることが確認された。そして、得られたケイ素固溶体において、ダイヤモンド型構造を有するケイ素の(422)面に帰属されるXRDピークの位置に対して、該ピークに対応する該固溶体のXRDピークの位置のシフト量S2を、前記のXRD回折図から求めた(CuKα1基準)。また、同様の方法で、加熱前のケイ素固溶体のシフト量S1も求めた。そしてそれらの差ΔS=S1−S2を算出した。その結果を以下の表1に示す。また、XRD回折図をもとに、Hallの方法を用いて、熱処理前後でのケイ素固溶体の格子歪みL1及びL2を求め、それらの差ΔL=L1−L2を算出した。格子歪みL1及びL2は、(111)面、(220)面、(311)面、(400)面、(331)面、(422)面、(333)面、(440)面、(531)面の9個のピークを用いて算出した。その結果を以下の表1に示す。レーザ回折散乱法によって測定されたケイ素固溶体の粒径D
50は表1に示すとおりであった。平均粒径D
50は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置(No.9320−X100)を使用して測定した。
【0053】
(3)負極の製造
得られた負極活物質を用いて負極を製造した。負極活物質:導電材:結着剤=100:2:5(重量%)の混合比となるようにこれらを混合し、これらをN−メチルピロリドンに懸濁させて負極合剤を得た。導電材としてはアセチレンブラックを用いた。結着剤としてはポリアミドイミドを用いた。この負極合剤を、厚み18μmの電解銅箔上に塗布した。塗膜を乾燥して負極活物質層を形成し負極を得た。
【0054】
(4)電池の製造
得られた負極を直径14mmの円形に打ち抜き、160℃で6時間真空乾燥を施した。そして、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、2032コインセルを組み立てた。対極としては金属リチウムを用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積比混合溶媒に1mol/lのLiPF
6を溶解した溶液を用いた。セパレータとしては、ポリプロピレン製多孔質フィルムを用いた。
【0055】
(5)評価
得られた電池について初回充放電時の可逆性を測定した。その結果を以下の表1に示す。また充放電サイクル特性を測定した。その結果を
図4に示す。これらの測定を行ったときの充放電条件は、充電は、1.5Vまで行い、放電は0.001Vまで行った。充電及び放電のレートは、1回目は0.05C、2〜5回目は0.1C、6回目以降は0.5Cとした。また、負極活物質粒子について、高温下での耐酸化性を評価した。負極活物質粒子2gを、5mlの非水電解液と混合し、得られた混合物をアルミニウムラミネートからなる容器内に入れて密封した。これらの操作は、すべてアルゴン雰囲気下で行った。非水電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積比混合溶媒に1mol/lのLiPF
6を溶解した溶液を用いた。容器を45℃の環境下に4日間放置した。その後、アルゴン雰囲気下で容器を開き、充填されていた負極活物質粒子の元素分析を行い、酸素含有量を固体中酸素窒素分析装置(堀場製作所製のEMGA−620W)によって測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0056】
〔比較例1〕
負極活物質として純ケイ素の粒子(D
50=2.7μm)を熱処理せずに用いた。これ以外は実施例1と同様にして2032コインセルを得た。このコインセルについて実施例1と同様の評価を行った。結果を表1及び
図4に示す。
【0057】
〔参考例1〕
実施例1において、(1−1)で得られたケイ素固溶体を熱処理せずに粉砕し、負極活物質として用いた(D
50=2.6μm)。これ以外は実施例1と同様にして2032コインセルを得た。このコインセルについて実施例1と同様の評価を行った。この負極活物質についての前記のシフト量S1は0.49であり、格子歪みL1は0.43であった。結果を表1及び
図4に示す。なお、実施例1におけるΔS及びΔLを算出するための基準となるシフト量S1及び格子歪みL1の値は本参考例の値を用いた。
【0058】
【表1】
【0059】
〔実施例2ないし5〕
実施例1においてケイ素固溶体の加熱温度を750℃(実施例2)、850℃(実施例3)及び1050℃(実施例5)とし、かつ加熱後の粉砕を行わない以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。また、実施例1において加熱後の粉砕を行わない以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た(実施例4)。これらの負極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを得た。ただし、負極合剤の混合比率は、負極活物質:導電材:結着剤=100:5:10(重量%)とした。これらのコインセルについて実施例1と同様の評価を行った。(ただし酸素濃度の測定は除く)。その結果を表2に示す。なお、図には示していないが、実施例2ないし5で用いたケイ素固溶体は、TEM及びEELSによる観察の結果、粒界においてホウ素の偏在が確認された。
【0060】
〔参考例2〕
参考例1において、粉砕を行わない以外は参考例1と同様にして負極活物質を得た。得られた負極活物質を用い、実施例2と同様にしてコインセルを得た。これらのコインセルについて実施例1と同様の評価を行った。(ただし酸素濃度の測定は除く)。この負極活物質についての前記のシフト量S1は0.49であり、格子歪みL1は0.29であった。その結果を表2に示す。なお、実施例2ないし5におけるΔS及びΔLを算出するための基準となるシフト量S1及び格子歪みL1の値は本参考例の値を用いた。
【0061】
〔実施例6〕
負極活物質の組成を以下の表2に示すものとする以外は、実施例1と同様にして負極活物質を得た。このようにして得られた負極活物質は、ホウ素が固溶したケイ素固溶体のマトリックス中に、ケイ素ニッケル合金が析出した混合体から構成されるものであった。ケイ素ニッケル合金の析出は、EDXを用いた活物質粒子断面の微小領域における元素分布において、同位置にケイ素とニッケルとが検出されたことから確認された。得られた負極活物質を用い、実施例2と同様にしてコインセルを得た。これらのコインセルについて実施例1と同様の評価を行った。(ただし酸素濃度の測定は除く)。その結果を表2に示す。この負極活物質についての前記のシフト量S2(熱処理後)は0.11であり、格子歪みL2(熱処理後)は0.36であった。
【0062】
【表2】
【0063】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、各実施例の負極活物質を用いると、純ケイ素からなる負極活物質(比較例1)を用いる場合に比較して、初回充放電時のリチウムの可逆性が良好となることが判る。また、
図4に示す実施例1と比較例1及び参考例1との比較から明らかなように、実施例1の負極活物質を用いると、充放電サイクル特性も良好となることが判る。更に、酸素濃度に関する実施例1と比較例1との対比から明らかなように、実施例1の負極活物質は高温下での耐酸化性が比較例1の負極活物質よりも高いものであることが判る。
【0064】
〔実施例7〕
特開2008−66278号公報に記載の方法にしたがい負極を製造した。厚さ18μmの電解銅箔からなる集電体を室温で30秒間酸洗浄した。処理後、15秒間純水洗浄した。集電体の両面上に、実施例1で得られた負極活物質を含むスラリーを膜厚15μmになるように塗布し塗膜を形成した。スラリーの組成は、負極活物質:スチレンブタジエンラバー(結着剤):アセチレンブラック=100:1.7:2(重量比)であった。
【0065】
塗膜が形成された集電体を、以下の浴組成を有するピロリン酸銅浴に浸漬させ、電解により、塗膜に対して銅のめっきを行い、活物質層を形成した。電解の条件は以下のとおりとした。陽極にはDSEを用いた。電源は直流電源を用いた。電解めっきは、塗膜の厚み方向全域にわたって銅が析出した時点で終了させた。このようにして活物質層を形成し負極を得た。ピロリン酸銅浴におけるP
2O
7の重量とCuの重量との比(P
2O
7/Cu)は7とした。
・ピロリン酸銅三水和物:105g/l
・ピロリン酸カリウム:450g/l
・硝酸カリウム:15g/l
・浴温度:50℃
・電流密度:3A/dm
2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH8.2になるように調整した。
【0066】
得られた負極を用いてリチウム二次電池を作製し、充放電サイクル特性を評価した。二次電池は次の手順で作製した。正極活物質として、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2に、Li
1.05Ni
0.7Ti
0.2(Mn
2/3Li
1/3)
0.1O
2を20重量%添加したものを用いた。これを、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデンとともに、溶媒であるN−メチルピロリドンに懸濁させ正極合剤を得た。配合の重量比は、正極活物質:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン=88:6:6とした。この正極合剤をアルミニウム箔(厚さ20μm)からなる集電体にアプリケータを用いて塗布し、120℃で乾燥した後、荷重0.5ton/cmのロールプレスを行い、正極を得た。電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積比混合溶媒に1mol/lのLiPF
6を溶解した溶液を用いた。セパレータとして、ポリプロピレン製多孔質フィルムを用いた。これらを用いて得られたラミネートセル(電極サイズ:負極42mm×31mm、正極40mm×29mm)について充放電を繰り返し行いサイクル特性を測定した。その結果を
図5に示す。測定を行ったときの充放電条件は、充電は、4.2Vまで行い、定電流、定電圧(CC−CV)のモードでC/5となったところで充電完了とした。放電は、2.7Vまで行い、定電流(CC)のモードとした。充電及び放電のレートは、1回目は0.05C、2〜5回目は0.1C、6回目以降は0.5Cとした。
【0067】
〔参考例3〕
参考例1で用いた負極活物質(ホウ素が粒界に偏在していないケイ素固溶体)を用い、実施例7と同様にしてラミネートセルを得た。このラミネートセルについて、実施例7と同様の充放電サイクル特性を測定した。その結果を
図5に示す。
【0068】
図5に示す結果から明らかなように、ホウ素が粒界に偏在しているケイ素固溶体からなる負極活物質を用いることで、ホウ素が粒界に偏在していないケイ素固溶体からなる負極活物質を用いた場合に比較して、充放電サイクル特性が良好となることが判る。