【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって説明する。以下の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明を制限するものではない。
【0037】
以下の実施例において、ポリマー層の作製は電気化学測定システム(Model842B、ALS社製)を用いて行ない、検出用電極には金電極(水晶振動子の一方の電極11に対応)、参照電極にはAg/AgCl(飽和KCl)、対電極(第1対電極)にはPt棒(直径1mm、長さ4cm、(株)ニラコ製)を用いた。下記において、電位はこの参照電極の電位に対する値を記載している。また、両方の面に金電極が設けられた水晶振動子(電極面積0.196cm
2、基本振動周波数9MHz、ATカット、角型、(株)セイコー・イージーアンドジー製)を用いた。
【0038】
実施例1,4では検出対象の微生物として、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、ゼータ電位:−33.87mV)を用い、実施例2ではアシネトバクター(Acinetobactor calcoaceticus、ゼータ電位:−28.14mV)、実施例3では大腸菌(Escherichia coli)、実施例5では緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、アシネトバクター(Acinetobactor calcoaceticus)、セラチア菌(Serratia marcescens)用いた。
図4、
図5はそれぞれ緑膿菌、アシネトバクターの電子顕微鏡写真を示す。
図4、
図5に示す顕微鏡写真から、緑膿菌の形状は俵形であり、アシネトバクターの形状はそれよりも球状に近い形状であることがわかる。
【0039】
[実施例1]
<センサーの作製>
(金電極の粗面化工程)
金電極の表面に、過酸化ポリピロール層との密着性向上のため以下の手順にしたがい水晶振動子積層体の金電極表面の粗面化処理を行なった。
1.プラズマエッチング装置(SEDE/meiwa fosis)により、金電極表面に30秒間エッチングを行なった。
2.水晶振動子を、
図3に示すようなQCMセンサー33のセル27の底部に設置した。その後、30nmのクエン酸保護金ナノ粒子(0.0574wt%)を含んだ溶液500μLをセル27に添加し、室温で24時間放置した。
3.金電極を純水で洗浄後、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム溶液(0.1M)9mL、
四塩化金酸(0.01M)250μL、NaOH(0.1M)50μL、アスコルビン酸(0.1M)50μLを混合して出来た溶液(成長液)500μLをセル27に添加し、室温で24時間静置した。
4.セル27内の溶液を除去し、金電極を超純水で洗浄した。
【0040】
(微生物の鋳型を備えた過酸化ポリピロール層の作製)
以下の手順に従って金電極上に過酸化ポリピロール層を作製した。
1.緑膿菌、リン酸緩衝液(0.2M、pH2.56)を含む0.1Mのピロール水溶液を調製して修飾溶液とした。
2.上記で粗面化処理を施した金電極が配置されているQCMセンサー33のセル27内に、修飾溶液を添加し、修飾溶液内に第1対電極および参照電極を差し込んだ。
3.修飾溶液中において定電位電解(+0.975V、90秒間)することで金電極上にポリピロールを析出させ、ポリピロール層を作製した(重合工程)。重合工程においては、水晶振動子の共振周波数のモニターも行なった。
4.作製したポリピロール層にリゾチーム(10mg/mL)を滴下し、120分間振盪し、その後非イオン性界面活性剤(商品名:triton)の10%溶液を添加し、80分間振盪した(溶菌工程)。
5.超純水で数回のポリピロール層の洗浄を行った後、セル27内に0.1MのNaOH溶液を添加し、定電位+975mVを120秒間印加して過酸化処理を施し過酸化ポリピロール層を得た(過酸化工程)。過酸化工程においては、水晶振動子の共振周波数のモニターも行なった。
【0041】
(結果)
図6は、重合工程後のポリピロール層表面の電子顕微鏡写真を示す。ポリピロール層の表面に緑膿菌が取り込まれた様子が観察された。
図7は、重合工程における時間と電流の関係、および時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。定電位電解開始時点の時間を0秒とする。また、
図8は、
図7に示した共振周波数の変化量から水晶振動子の質量変化量を算出し、時間と質量変化の関係を示すグラフである。これらのグラフから、電解時間に比例して水晶振動子表面の質量が増加し、90秒間で十分な質量変化、すなわち十分なポリピロール層の重合が達成されることがわかる。
【0042】
図9は、溶菌工程および過酸化工程後の過酸化ポリピロール層表面の電子顕微鏡写真を示す。過酸化ポリピロール層の表面に緑膿菌が観察されず、したがって過酸化ポリピロール層の表面から緑膿菌が放出されたことがわかる。
図10は、上記実施例1とは、溶菌工程におけるリゾチームを滴下した後の振盪時間、および非イオン性界面活性剤を添加した後の振盪時間の条件を変更して作製した過酸化ポリピロール層表面の電子顕微鏡写真を示す。
図10(a)は、リゾチームを滴下した後の振盪時間が30分で非イオン性界面活性剤を添加した後の振盪時間が20分とした場合、
図10(b)は、リゾチームを滴下した後の振盪時間を60分、非イオン性界面活性剤を添加した後の振盪時間を40分とした場合、
図10(c)はリゾチームを滴下した後の振盪時間が90分で非イオン性界面活性剤を添加した後の振盪時間が60分とした場合の電子顕微鏡写真を示す。
図10(a)〜(c)から、これらの条件においては緑膿菌の放出が十分ではなく、したがって実施例1の溶菌工程の条件が好適な条件であることがわかる。
【0043】
図11は、過酸化工程における時間と電流の関係、および時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。過酸化工程における定電位印加時点の時間を0秒とする。電流値は時間とともに低下し過酸化処理が進行していることがわかる。また、共振周波数は増加し、電極表面の質量が低下していることがわかる。これは、緑膿菌が放出されたことによるものであると理解される。
【0044】
<微生物の検出>
(検出実験)
上述のようにして作製した、緑膿菌鋳型を有する過酸化ポリピロール層が表面に形成された水晶振動子をセルの底部に備えたQCMセンサーを用いて微生物の検出を行なった。セル内に微生物を含む試料溶液を添加した。その後、金電極と第1対電極間に交流電圧を印加し、誘電泳動により微生物を過酸化ポリピロール層の表面へ濃縮させた。波形発生装置(7075、日置電機(株)製)により、交流電圧(波形:正弦波、電圧:2Vpp、周波数:10MHz)を発生させた。さらに増幅器(HAS4101,(株)エヌエフ回路設計ブッロク製)で電圧を10倍に増幅し、20Vppとして印加した。また、電圧印加時の水晶振動子の共振周波数をモニタリングした。
【0045】
(結果)
図12は、交流電圧印加時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。
図12に示す結果から、緑膿菌を含む試料溶液を添加した検出実験では、共振周波数が大きく減少することが分かった。共振周波数の減少は水晶振動子表面の質量の増加を意味しており、緑膿菌に誘電泳動力が作用し過酸化ポリピロール層の鋳型に取り込まれることで水晶振動子表面の質量が増加したものと考えられる。一方、形状の異なるアシネトバクターに対してはブランクと同様にほとんど変化が見られなかった。よって、鋳型の形状とは異なるアシネトバクターは緑膿菌ほど容易に過酸化ポリピロール層に取り込まれていないと考えられ、センサーは細菌の種類を高精度に認識していると判断できる。
【0046】
[実施例2]
<センサーの作製>
実施例1の緑膿菌に代えて、アシネトバクターを用いた点以外は、実施例1と同様に金電極の粗面化工程を行ない、さらに上述の重合工程、溶菌工程、過酸化工程を行なった。
【0047】
(結果)
図13は、重合工程後のポリピロール層表面の電子顕微鏡写真を示す。ポリピロール層の表面にアシネトバクターが取り込まれた様子が観察された。
図14は、重合工程における時間と電流の関係、および時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。定電位電解開始時点の時間を0秒とする。このグラフから、電解時間に比例して水晶振動子表面の質量が増加したことがわかる。
【0048】
図15は、溶菌工程および過酸化工程後の過酸化ポリピロール層表面の電子顕微鏡写真を示す。過酸化ポリピロール層の表面にアシネトバクターが観察されず、したがって過酸化ポリピロール層の表面からアシネトバクターが放出されたことがわかる。
【0049】
図16は、過酸化工程における時間と電流の関係、および時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。過酸化工程における定電位印加時点の時間を0秒とする。電流値は時間とともに低下し過酸化処理が進行していることがわかる。また、共振周波数は増加し、電極表面の質量が低下していることがわかる。これは、アシネトバクターが放出されたことによるものであると理解される。
【0050】
<微生物の検出>
(検出実験)
上述のようにして作製した、アシネトバクター鋳型を有する過酸化ポリピロール層が表面に形成された水晶振動子をセルの底部に備えたQCMセンサーを用いて微生物の検出を行なった。実験条件は、実施例1と同様とした。
【0051】
(結果)
図17は、交流電圧印加時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。
図17に示す結果から、アシネトバクターを含む試料溶液を添加した検出実験では、共振周波数が大きく減少することが分かった。共振周波数の減少は水晶振動子表面の質量の増加を意味しており、アシネトバクターに誘電泳動力が作用し過酸化ポリピロール層の鋳型に取り込まれることで水晶振動子表面の質量が増加したものと考えられる。一方、形状の異なる緑膿菌に対してはブランクと同様にほとんど変化が見られなかった。よって、鋳型の形状とは異なる緑膿菌はアシネトバクターほど容易に過酸化ポリピロール層に取り込まれていないと考えられ、センサーは細菌の種類を高精度に認識していると判断できる。
【0052】
[実施例3]
<センサーの作製>
実施例1の緑膿菌に代えて、大腸菌を用いた点以外は、実施例1と同様に金電極の粗面化工程を行ない、さらに上述の重合工程、溶菌工程、過酸化工程を行なった。
【0053】
<微生物の検出>
(検出実験)
上述のようにして作製した、大腸菌鋳型を有する過酸化ポリピロール層が表面に形成された水晶振動子をセルの底部に備えたQCMセンサーを用いて微生物の検出を行なった。測定サンプルとしては、緑膿菌・大腸菌・アシネトバクターのそれぞれの溶液を用いた。
【0054】
(結果)
図18は、交流電圧印加時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。
図18に示す結果から、大腸菌を含む試料溶液を添加した検出実験では、共振周波数が大きく減少することが分かった。共振周波数の減少は水晶振動子表面の質量の増加を意味しており、大腸菌に誘電泳動力が作用し過酸化ポリピロール層の鋳型に取り込まれることで水晶振動子表面の質量が増加したものと考えられる。一方、形状の異なる緑膿菌やアシネトバクターに対してはブランクと同様にほとんど変化が見られなかった。よって、鋳型の形状とは異なる緑膿菌やアシネトバクターは大腸菌ほど容易に過酸化ポリピロール層に取り込まれていないと考えられ、センサーは細菌の種類を高精度に認識していると判断できる。
【0055】
[実施例4]
<センサーの作製>
緑膿菌を用いて、実施例1と同様に金電極の粗面化工程を行ない、さらに上述の重合工程、溶菌工程、過酸化工程を行なった。
【0056】
<微生物の検出>
(検出実験)
上述のようにして作製した、緑膿菌鋳型を有する過酸化ポリピロール層が表面に形成された水晶振動子をセルの底部に備えたQCMセンサーを用いて微生物の検出を行なった。測定サンプルとしては、緑膿菌・大腸菌・アシネトバクター・セラチア菌の各溶液を混合した溶液(a)と、大腸菌・アシネトバクター・セラチア菌の各溶液を混合した溶液(b)の2種類を用いた。
【0057】
(結果)
図19は、交流電圧印加時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。
図19に示す結果から、緑膿菌を含む試料溶液を添加した検出実験では、共振周波数が大きく減少することが分かった。共振周波数の減少は水晶振動子表面の質量の増加を意味しており、緑膿菌に誘電泳動力が作用し過酸化ポリピロール層の鋳型に取り込まれることで水晶振動子表面の質量が増加したものと考えられる。一方、形状の異なる大腸菌やアシネトバクターやセラチア菌に対してはブランク(c)と同様にほとんど変化が見られなかった。よって、鋳型の形状とは異なる大腸菌やアシネトバクターやセラチア菌は緑膿菌ほど容易に過酸化ポリピロール層に取り込まれていないと考えられ、センサーは細菌の種類を高精度に認識していると判断できる。
【0058】
[実施例5]
<センサーの作製>
緑膿菌、大腸菌、アシネトバクター、及びセラチア菌の全てを含む修飾溶液を用いて、実施例1と同様に金電極の粗面化工程を行ない、さらに上述の重合工程、溶菌工程、過酸化工程を行なった。
【0059】
<微生物の検出>
(検出実験)
上述のようにして作製した、4種類の微生物を含む鋳型を有する過酸化ポリピロール層が表面に形成された水晶振動子をセルの底部に備えたQCMセンサーを用いて微生物の検出を行なった。測定サンプルとしては、緑膿菌、大腸菌、アシネトバクター、セラチア菌をそれぞれを含む4種類の溶液を用いた。
【0060】
(結果)
図20〜
図23は、交流電圧印加時間と水晶振動子の共振周波数の関係を示すグラフである。
図20〜
図23は、緑膿菌、大腸菌、アシネトバクター、セラチア菌をそれぞれを含む試料溶液を添加した検出実験における結果を示し、いずれの試料溶液を添加した場合であっても共振周波数が大きく減少することが分かった。これより、複数種の微生物の鋳型を有するセンサーによって、複数種の微生物が検出されていると判断できる。