特許第6014584号(P6014584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6014584ペンタクロロプロパンの液相フッ素化による2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO1233xf)の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014584
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】ペンタクロロプロパンの液相フッ素化による2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO1233xf)の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/20 20060101AFI20161011BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20161011BHJP
   C07C 17/25 20060101ALI20161011BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   C07C17/20
   C07C21/18
   C07C17/25
   !C07B61/00 300
【請求項の数】20
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-506766(P2013-506766)
(86)(22)【出願日】2011年3月21日
(65)【公表番号】特表2013-545715(P2013-545715A)
(43)【公表日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】IB2011000777
(87)【国際公開番号】WO2011135416
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年3月24日
(31)【優先権主張番号】PCT/FR2010/052422
(32)【優先日】2010年11月15日
(33)【優先権主張国】FR
(31)【優先権主張番号】61/327,817
(32)【優先日】2010年4月26日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】PCT/FR2010/050791
(32)【優先日】2010年4月26日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ピガモ,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンドランジャ, ロラン
(72)【発明者】
【氏名】ボネ,フィリップ
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−227675(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/015317(WO,A1)
【文献】 仏国特許出願公開第02916755(FR,A1)
【文献】 特表2010−534680(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/123148(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0191025(US,A1)
【文献】 特開平02−204437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/00−25/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンまたは1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンと1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンの混合物をフッ化水素と液相で反応させて2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンにする触媒フッ素化方法であって、
上記反応を反応条件下で不活性な有機溶剤中で実施し、
上記溶剤を1,2−ジクロロエタン、1,2,3−トリクロロプロパン、1−クロロ−1−フルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1−ジクロロエタンおよび1,3−ジクロロ−1−フルオロブタン、テトラクロロフルオロプロパン異性体、トリクロロジフルオロプロパン異性体およびジクロロトリフルオロプロパン異性体、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,2−トリクロロ−2,2−ジフルオロエタン、ニトロ化溶剤、ニトロメタンおよびニトロベンゼン、スルホン、テトラメチレンスルホンおよびジメチルスルホン、1,1,2−トリクロロ−2−フルオロエタンまたはペルクロロエチレンまたはこれらの混合物の中から選択する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
溶剤が少なくとも20%の希釈率になる量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒/有機溶剤のモル比を2〜90モル%にする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応中に塩素を、出発化合物1モルに対する塩素のモル比を0.05〜20モル%にして添加する請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ガスを注入しながら行う請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記ガスの流量を出発化合物の流量に対して0.5:1〜5:1にする請求項に記載の方法。
【請求項7】
反応生成物をガス状態で抜き出す請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンが20モル%以下の異性体1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンを含む請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応温度を30〜200℃にする請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
反応圧力を2バール以上にする請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
HF:出発化合物のモル比を0.5:1〜50:1にする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
安定剤の存在下で行う請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
安定剤を5〜1000ppmの量で用いる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
下記(i)および(ii)を含む請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法:
(i)1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンまたは1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンと1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンとの混合物を、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む反応混合物を形成するのに十分な条件下に上記有機溶剤中で液相でフッ化水素と接触させ、
(ii)反応混合物を、HClを含む第1の流れと、HFと2−クロロー3,3,3−トリフルオロプロペンとを含む第2の流れとに分離する。
【請求項15】
上記第2の流れが30〜70モル%の2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロぺン(1233xf)と、30〜70モル%のHFと、10モル%以下のトリクロロジフルオロプロパン(242)およびジクロロトリフルオロプロパン(243)シリーズの化合物とを含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
(ii)段階が蒸留段階である請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
上記第2の流れを主としてHFを含むHF流と、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む有機流とにさらに分離する請求項1416のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
上記有機流をさらに精製する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
(i)段階で生成された重質物を抜き出すパージ段階をさらに含む請求項1418のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
連続的に行う請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン(HCC 240db)および/または1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパン(HCC 240aa)を液相で触媒フッ素化して生成物である2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO 1233xf)にする方法にある。
【背景技術】
【0002】
クロロフルオロカーボン(CFC)の使用はオゾン層を保護するモントリオール議定書によって禁止され、クロロフルオロカーボンの代わりにオゾン層に対する影響の少ない化合物、例えばヒドロフルオロカーボン(HFC)、例えばHFC−134aが用いられるようになった。クロロフルオロカーボンは温室効果ガスであり、ODP(オゾン層破壊係数)が低く、GWP(地球温暖化係数)が低い技術を開発するというニーズがある。ヒドロフルオロカーボン(HFC)はオゾン層に影響を与えない化合物の重要な候補化合物ことが確認されているが、この化合物はGWP値がかなり高い。従って、GWP値がより低い化合物を見つけるというニーズが依然としある。ヒドロフルオロオレフィン(HFO)は極めて低いODP値およびGWP値を有する代替物であると考えられている。
【0003】
HFO化合物、特にプロペンの製造方法はいくつか開発されている。特に望ましい化合物は1233xf(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン)と1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)の2つである。
【0004】
特許文献1(国際特許第WO 2008/149011号公報)にはイオン液体の存在下でのプロペンの液相フッ素化が記載されている。1233xfおよび/または1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)が1230xaの変換によって得られることが一般的に記載されている。
【0005】
特許文献2(国際特許第WO 2009/003157号公報)には240dbの変換方法がその実施例3に開示されている。この実施例では、反応器に最初にHFおよび有機物を導入する。反応はが生成物の245eb(1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン)に向かって進行するとしている。
【0006】
特許文献3(国際特許第WO 2007/079431号公報)の実施例3では追加的な異なるフッ素化段階を必要とし、NaOH溶液中で240aaを反応させて対応する不飽和化合物とし、この反応を1233xfに変換する。
【0007】
特許文献4(国際特許第WO 90/08754号公報)の実施例4−1には240aaのフッ素化が開示されている。この実施例では反応器に有機化合物とHFとを導入する。触媒は五塩化アンチモンである。反応生成物は241(テトラクロロフルオロプロパン)、242(トリクロロジフルオロプロパン)、243(ジクロロトリフルオロプロパン)および244(クロロテトラフルオロプロパン)のシリーズから成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許第WO 2008/149011号公報
【特許文献2】国際特許第WO 2009/003157号公報
【特許文献3】国際特許第WO 2007/079431号公報
【特許文献4】国際特許第WO 90/08754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、化合物1233xfの製造方法に対するニーズが依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンおよび/または1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンを触媒の存在下で液相で触媒フッ素化して生成物の2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンにする方法を提供する。
【0011】
具体的には以下の方法を行う:
(1)プロセスは有機媒体中、場合によっては溶剤中で行う。溶剤を使用する場合、溶剤は少なくとも20%、好ましくは20〜80%、有利には40〜60%の希釈率になる量で存在することができる。溶剤は1,2−ジクロロエタン、1,2,3−トリクロロプロパン、1−クロロ−1−フルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1−ジクロロエタンおよび1,3−ジクロロ−1−フルオロブタン、テトラクロロフルオロプロパン異性体、トリクロロジフルオロプロパン異性体およびジクロロトリフルオロプロパン異性体、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,2−トリクロロ−2,2−ジフルオロエタン、ニトロ化溶剤、特にニトロメタンおよびニトロベンゼン、スルホン、特にテトラメチレンスルホンおよびジメチルスルホン、1,1,2−トリクロロ−2−フルオロエタンまたはペルクロロエチレンまたはこれらの混合物の中から選択でき、好ましくは1,1,2−トリクロロ−2,2−ジフルオロエタンにする。
【0012】
(2)触媒はイオン性液体であるのが好ましい。触媒/有機物のモル比は2〜90モル%、好ましくは4〜80モル%、より好ましくは6〜75モル%にすることができる。
(3)反応中に塩素を添加する。出発化合物1モルに対する塩素のモル比率は好0.05〜20モル%、好ましくは0.5〜15モル%にする。
(4)ガス、好ましくは無水HClを注入する。ガスの流量は、出発化合物の流量に対して0.5:1〜5:1、有利には1:1〜3:1にする。
【0013】
(5)反応の生成物をガス状態で抜き出す。
(6)1,1,1,2,−ペンタクロロプロパンは20モル%以下の異性体1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンを含む。
(7)反応温度30〜200℃、好ましくは40〜170℃、有利には50〜150℃である。
(8)反応圧力は2バール以上、好ましくは4〜50バール、特に5〜25バールである。
【0014】
(9)HF:出発化合物のモル比は0.5:1〜50:1、好ましくは3:1〜20:1、有利には約5:1にする。
(10)安定剤はp−メトキシフェノール、t−アミルフェノール、チモール、リモネン、d,l−リモネン、キノン、ハイドロキノン、エポキシド、アミンおよびこれらの混合物から成る群の中から選択するのが好ましい。安定剤の量は5〜1000ppm、好ましくは10〜500ppmにすることができる。
【0015】
(11)本発明方法は下記(i)および(ii)を含むのが好ましい:
(i)1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンおよび/または1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンを、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む反応混合物を形成するのに十分な条件下に、有機媒体中で、液相のフッ化水素と接触させ、
(ii)反応混合物を、HClを含む第1の流れと、HFと2−クロロー3,3,3−トリフルオロプロペンとを含む第2の流れに分離する。
【0016】
(12)上記第2の流れは30〜70モル%の1233xfと、30〜70モル%のHFと、10モル%以下、好ましくは5モル%以下の242および243シリーズの化合物とを含む。
(13)上記(ii)段階は蒸留段階にすることができる。上記第2の流れを、好ましくはデカンテーションによって、主としてHFを含むHF流と、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む有機流にさらに分離できる。有機流はさらに精製できる。本発明方法は(i)段階で生成した重質物を抜き出すパージ段階をさらに含むことができる。
(14)本発明方法は連続的に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例で使用する実験装置を示す図。
図2】本発明を実施する方法を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、240db/240aaを液相でフッ素化して1233xfにすることができ、さらに、プロセス条件は所望の生成物を得るのに実質的な選択率を有する反応が達成されるように選択できる、という驚くべき発見に基づいている。
【0019】
本発明の好ましい実施例では、液相プロセスを有機相で行う。1233xfを製造する反応ではHF相ではなく有機相を使用するのが有利である。上記の従来技術では大部分がHFである反応混合物、従って酸性相を用いる。酸性相では不飽和生成物のみが生じる。
【0020】
本発明者は、驚くべきことに、フッ素化によって1233xfを製造できる条件が存在することを見出した。特に、反応を有機相(出発材料の240および/または溶剤から成る)で行うと、1233xfを生成できる。初期媒体にHFを添加した時には、HFは反応するため媒体中に残らない。HFの量(または濃度)はその他の生成物に比べて非常に少ない。
【0021】
「有機相」とは触媒と、出発材料と、場合によって溶剤(用いる場合)とを含む反応相であって、HFを実質的に含まない反応相を意味する。特に、「有機相」中で行うプロセスは、従来技術と対照的に、初期添加物区中にHFを全く含まないプロセスを意味する。
【0022】
特定な操作条件のため、反応器から気相下のガス状1233xfを除去で、重合反応を低いレベルに維持できる。
液相フッ素化による240db/240aaの1233xfの製造は触媒の存在下で行う。
【0023】
反応は液体溶剤媒体中で実施できる。その場合には開始時に反応帯域中に初期量の有機物(出発材料)および/または必要量の溶剤を添加するか、この量の溶剤(場合によって原料と予備混合されている)を連続的に供給する。溶剤を用いて行うときは、開始時に溶剤を添加するのが好ましいが、必要に応じて溶剤を注入して、その量を調節することもできる。
【0024】
反応条件(特に圧力)は反応物が液体であるような条件である。実施例では、反応物は液体であり、反応生成物は気体である。反応生成物が気体であることによって反応帯域の出口で気相で回収できる。中間生成物、特に242化合物(トリクロロジフルオロプロパン)は、気流中でストリッピングできるが、反応条件下で液体であるのが好ましい。
【0025】
本発明ではこの段階は特に2バール以上の圧力下で実施する。
反応圧力は4〜50バール、特に5〜25バールであるのが有利である。
反応は例えば30〜200℃、好ましくは40〜170℃、有利には50〜150℃の温度で実施できる。
【0026】
HF:出発化合物のモル比は一般に0.5:1〜50:1、好ましくは3:1〜20:1である。約5:1の値が有利に利用できる。添加するHFの量は反応の化学量論(ここでは3)に対応する。この量に、通常共沸混合物である出口流(HFおよび有機物)中に存在するHFの量を加える。
【0027】
その他の反応条件、特に流量は周知の一般知識に従って、温度、圧力、触媒、反応物比などに応じて当業者が決定できる。(中間生成物を分離して)得られる主生成物が1233xfになるように、さらなるフッ素化反応を避けるように注意する。
【0028】
溶剤を用いる場合は、溶剤は反応条件下で不活性有機溶剤である。このような溶剤は追加の反応を避けるために一般に飽和したものであり、有利にはC2〜C6である。そうした溶剤は例えば特許文献5(フランス国特許出願第2733227号公報)に記載の溶剤にすることができる。
【特許文献5】フランス国特許出願第2733227号公報
【0029】
この溶剤は沸点(大気圧で測定)が例えば40℃以上、有利には50℃以上、特に60℃以上である。より高い反応温度はより高い圧力を意味するので、反応条件下での溶剤の沸点は反応の実施温度より高い。
【0030】
溶剤としては特に、エタン、プロパンまたはブタンの飽和化合物であって、塩素およびフッ素の中から選択されるハロゲンの少なくとも2つの原子によって置換されたもの、またはこれらの混合物が挙げられる。一例として、1,2−ジクロロエタン、1,2,3−トリクロロプロパン、1−クロロ−1−フルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1−ジクロロエタンおよび1,3−ジクロロ−1−フルオロブタン、テトラクロロフルオロプロパン異性体、トリクロロジフルオロプロパン異性体およびジクロロトリフルオロプロパン異性体、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,2−トリクロロ−2,2−ジフルオロエタンまたはこれらの混合物が挙げられる。ニトロ化溶剤、例えばニトロメタンまたはニトロベンゼンおよびスルホン、例えばテトラメチレンスルホン(スルホランともよばれる)またはジメチルスルホンも使用できる。好ましい溶剤は1,1,2−トリクロロ−2,2−ジフルオロエタン(F122)である。反応の生成物が非反応性溶剤である限り、反応性溶剤を用いることもできる。例えばF122の前駆体すなわちF121(CCl2F−CHCl、1,1,2−トリクロロ−2−フルオロエタン)またはペルクロロエチレンを用いることもできる。
【0031】
溶剤は少なくとも20%、好ましくは20〜80%、有利には40〜60%の希釈率になる量で存在することができる。
【0032】
反応には触媒を用いる。触媒は液相フッ素化の当業者に周知の触媒にすることができる。
【0033】
ルイス酸を用いることができる。ルイス酸は金属ハロゲン化物を含む触媒、特にアンチモン、スズ、タンタル、チタンのハロゲン化物、遷移金属、例えばモリブデン、ニオブ、ハロゲン化鉄、セシウム、遷移金属の酸化物、IVb族の金属のハロゲン化物、Vg族の金属のハロゲン化物、フッ素化クロムハロゲン化物、フッ素化クロム酸化物または両者の混合物を含む触媒である。金属塩化物および金属フッ化物を使用できるのが有利である。このような触媒の例は以下の通り:SbCl5、SbCl3、TiCl4、SnCl4、TaCl5、NbCl5、TiCl4、FeCl3、MoCl6、CsClおよびこれらの対応するフッ素化誘導体。五価金属ハロゲン化物が適している。
【0034】
イオン性液体を含む触媒を用いるのが有利である。このイオン性液体は液相中のHFによるフッ素化には特に重要である。本出願人による特許文献6(国際特許出願第WO2008/149011号)(特に4頁の1行〜6頁の15行まで、参考として本明細書の一部を成す)および特許文献7(国際特許出願第WO01/81353号)、および、非特許文献1(「液相HFフッ素化」、多相均一系触媒作用、Ed.Wiley-VCH, (2002),535)に記載のイオン液体を挙げることができる。
【特許文献6】国際特許出願第WO2008/149011号公報
【特許文献7】国際特許出願第WO01/81353号公報
【非特許文献1】「液相HFフッ素化」、多相均一系触媒作用、Ed.Wiley-VCH, (2002),535
【0035】
さまざまな触媒/有機物(溶剤を使用する場合は溶剤を含む)モル比を用いて運転できるが、一般に、このモル比は2〜90モル%、好ましくは4〜80モル%、より好ましくは6〜75モル%であるのが好ましい。
【0036】
出発材料はほぼ純粋な240dbおよび/またはほぼ純粋な240aaにするか、両者の混合物にすることができる。一実施例では、出発材料は典型的な240db供給物すなわち240aa異性体を20%以下の量で含む供給物にすることができる。
【0037】
触媒の寿命を延ばすために、出発化合物240db/240aa1モルに対する塩素のモルの量で、一般に0.05〜20モル%、好ましくは0.5〜15モル%の塩素流を用いることができる。塩素は純粋な塩素で導入するか、窒素のような不活性ガスと混合することができる。イオン触媒を用いることによって塩素の使用量を少なくすることができる。
【0038】
必要に応じて、原料の安定剤を5〜1000ppm、好ましくは10〜500ppmの量で使用できる。この安定剤は例えば、p−メトキシフェノール、t−アミルフェノール、チモール、リモネン、d,l−リモネン、キノン、ハイドロキノン、エポキシド、アミンおよびこれらの混合物にすることができる。
【0039】
軽質ガスを用いて機械的随伴によって反応の生成物をストリッピングすることもできる。ガス状1233xfを液相反応器から除去することで重合反応(重合可能な材料は媒体中で少量であるため)および副反応(例えば1233xfの二重結合への添加)を低いレベルに維持することができる。ガス状化合物の添加は反応に有利であり、反応は例えば撹拌の改良(バブリング)で良くなる。
【0040】
このガスは窒素またはヘリウムのような不活性ガスにすることができ、好ましくはこのガスはHClにすることができる。HClを用いた時には、反応生成物であるHClを媒体に添加しても反応は行われる。
【0041】
この添加ガスは無水塩酸であるのが有利である。ストリッピングガスの流量は操作条件に従って決定される。HClの流量は例えば出発生成物の流量と比べて、モル比HCl:出発生成物が0.5:1〜5:1、有利には1:1〜3:1になるような流量である。
【0042】
本発明の液相フッ素化方法は連続的または半連続的に実施できる。好ましい実施例では上記方法を連続的に実施する。
【0043】
反応物(出発生成物およびHF)および反応で用いられるその他の化合物(塩素、無水HCl)を反応器の同じ場所または反応器の異なる場所に供給できる。好ましい実施例ではガス状化合物を反応器の底に注入して機械的ストリッピングおよび混合を強化する。
【0044】
再循環を用いる場合、反応器の入口または独立したデップパイプ(封管)に直接再循環できる。
【0045】
反応はハロゲン反応専用の反応器で実施する。この反応器は当業者に周知であり、Hastelloy(登録商標)、Inconel(登録商標)、Monel(登録商標)またはフルオロポリマーを含むコーティングを有することができる。反応器には熱伝達手段を設けることができる。
【0046】
図2]は本発明の実施例方法の概念図である。液相反応用の反応器〔触媒ストリッピングカラム(図示せず)を備える〕中、触媒と、ペンタクロロプロパンと、溶剤(使用する場合)とを供給する。次いで、ペンタクロロプロパンおよびHFを連続供給する。無水HClの流れを注入することもできる。
【0047】
反応帯域から抜き出した流れはガス状で、主として1233xf、HCl、HFおよび痕跡量のストリッピングされた溶剤122(存在する場合)およびその他の副生成物、特に242異性体、場合によって243(ジクロロトリフルオロプロパン)、特に243db(1,1,1−トリフルオロ−2,3−ジクロロプロパン)を含む。この流れをHClの蒸留カラムに導入する。カラムの頂部では、HClの流れを抜き出し、カラムの底では、1233xf、242、HFおよび痕跡量の122および243dbを含む流れを抜き出す。一般に、この底部流は30〜70モル%の1233xf、30〜70モル%のHFおよび少量、一般に10モル%以下、好ましくは5モル%以下の242、243(特に243db)シリーズの化合物を含む。
【0048】
この流れはデカンテーションで分離する段階へ送られる。このデカンテーションでは2つの流れに分離される。第1の流れはHFと可溶な有機物と溶剤(存在する場合)とを含む。このHFリッチな流れをフッ素化反応に戻す。第2の流れは1233xf、242、依然として所定量のHFと、痕跡量の122および243dbを含む。この流れを蒸留カラムへ送ってそこで分離する。痕跡量の122および243dbを底部で回収し、フッ素化反応器へ戻す。242生成物(一般に240シリーズのより高度に飽和したフッ素化生成物)は中間化合物であるので、増加しない。HFおよび1233xfを含む流れを頂部で抜き出す。この頂部流はさらに分離するか、次の段階へ直接送ることができる。242異性体および/または243dbは本発明の方法で再循環できる。
【0049】
液相反応器の底部では重質物を含む流れを抜き出す。重質物はC662Cl2タイプのオリゴマーを含むと考えられるが、この考えに縛られるものではない。フッ素化反応器のボトムを重質物の堆積が避けられるような流量および頻度でパージする(パージ回数はパージの流量および頻度によって定義され、当業者は容易に決定できる)。この流れを重質物回収カラム内で処理する。これらの重質物をこのカラムの底部で除去する。カラムの頂部で、HF、122および242異性体および243dbを含む流れを回収する。この流れをフッ素化反応器へ再循環する。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
図1]を参照して使用する設備を説明する。この設備は磁気撹拌器を用いて撹拌される、1リットル容のジャケット付きステンレス鋼316L製のオートクレーブから成る。この設備は圧力および温度測定器を備える。オートクレーブのヘッドの開口部から反応物の導入およびガス抜きが可能になる。この設備は頂部に凝縮器および圧力調整弁を備える。凝縮器は独立した恒温槽を用いて温度を調節する。
【0051】
反応生成物は反応中に連続的に抜き出される。この生成物はスクラバーに入る。スクラバーは水素酸HFおよびHClを回収し、次いで、液体窒素中でコールドトラップする。スクラバーおよびトラップの重量を増やすことによって物質収支を確立できる。
【0052】
反応時間の最後に、反応媒体を脱気して残留HFを排気する。このガス抜き時間の間に、場合によって抜き出された有機物もトラップされ、このトラップはガス流からHFおよびHClを除去できるスクラバーを通過した後に常に行われる。最終段階で、オートクレーブを開けて空にし、有機相のサンプルを、加水分解して塩酸溶液で触媒を抽出した後に分析する。
【0053】
次いで、液体のサンプルをガス相クロトマトグラフィで分析する。クロマトグラフィによる分析はカラムCP Sil 8(寸法50m×0.32mm×5μm)を用いて行う。炉の温度プログラミングは以下の通り:40℃で10分、次いで200℃になるまで4℃/分の勾配。
【0054】
xiは原料の初期モル量、xfは原料の合計最終モル量とした場合、変換率(%)は:(xi−xf)/xi*100。生成物の選択率はこの生成物の回収されたモル量と、反応の生成物の合計モル量との比によって計算される。
【0055】
実施例1〜6(本発明ではない)
0.5モルの240dbまたは1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン、200mlの無水HFおよび0.2モルの触媒をオートクレーブに導入する。次いで、HFを1モル/時の一定流量で5時間、連続的に添加する。温度は約110℃で、絶対圧力は9バールである。種々の触媒を調べた:SnC14、0.03モルのCsClをドープしたSnC14、TaCl5、TiCl4、SbCl5、SbCl5触媒と組み合わされた液体イオンエチルメチルイミダゾリウム。
【0056】
実施例1で用いた240dbのサンプルは、10.7%の240aa異性体(1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパン)を含んでいる。各化合物の変換率を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例4〜6では、有機相が多少粘性であったため、有機相を分析しなかった。回収可能な軽質留分の分析のみを示す。
【0059】
【表2】
【0060】
従って、媒体がHF媒体の場合、1233xfへの変換は実質的に起こらない。
【0061】
実施例7、8
実施例1〜6と同じ装置を用いる。0.5モルの240dbまたは1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンおよび0.2モルの触媒(0.2モルの塩化エチルメチルイミダゾリウムと0.4モルのSbCl5とを結合して、0.2モルのフッ素化錯体触媒emim+Sb2F11-emimclにする)をオートクレーブに導入する。一つの例では、溶剤として151gのF122または1,1,2−トリクロロ−2,2−ジクロロエタンをオートクレーブに添加する。次いで、HFを1モル/時の一定流量で5時間、連続的に添加する。温度は133℃で、絶対圧力は9バールである。凝縮器の調整設定点は常に90℃に置く。いずれの場合も、HClをオートクレーブ中に流して混合を改良し、生成物のストリッピングを促進する。HClと240dbのモル比はほぼ2:1である。
【0062】
【表3】
【0063】
従って、1233xfを多量に製造できる。これは酸性媒体ではなく、有機媒体中で達成される。
【0064】
実施例9、10
上記実施例と同じ装置を用いる。0.5モルの原料サンプル(240dbまたは10%の240aaを有する240db)、0.2モルの触媒(0.2モルの塩化エチルメチルイミダゾリウムと0.4モルのSbCl5とを結合したもの、または、0.2モルのフッ素化錯体触媒emim+Sb2F11-emimclとしても表される)および2モルのF122をオートクレーブに導入する。次いで、HFを1モル/時の一定流量で5時間、連続的に添加する。温度は135℃で、絶対圧力は9バールである。凝縮器の調整設定点は常に90℃に置く。いずれの場合も、ヘリウムをオートクレーブ中に流して混合を改良し、生成物の運び出しを促進する。ヘリウムの流量は5 l/時である。
【0065】
【表4】
【0066】
従って、純粋な240dbまたは240aa異性体を含む240dbのどちらでも1233xfを調製できる。本発明者は、中間物242の存在は、240dbと同様の方法による240aaから、速度はより遅いが、反応が進行することを示す指標であると考えるが、この考えに縛られるものではない。
【0067】
実施例11、12
これらの実施例では、反応物を液体質量流量計によって連続的に導入する。100〜200mlのF122または1,1,2−トリクロロ−2,2−ジフルオロエタンおよび0.2モルの触媒(0.2モルの塩化エチルメチルイミダゾリウムと0.4モルのSbCl5とを結合して、0.2モルのフッ素化錯体触媒emim+Sb2F11-にする)を出発媒体としてオートクレーブに導入する。次いで、HFおよび240dbを、HFと有機反応物とのモル比がほぼ8になるように連続的に添加する。温度は約130〜135℃で、絶対圧力は8バールである。凝縮器の調整設定点は90℃に置く。実施例11ではこの有機反応物に安定剤を全く添加せず、実施例12では240db化合物に100ppmのp−メトキシフェノールを添加する。このようにして安定剤の影響を調べる。いずれの場合も、HClをオートクレーブ中に流して(約0.1モル/時)混合を改良し、生成物のストリッピングを促進する。HClと240dbのモル比はほぼ2:1である。出口ガスのモル組成の時間的変化をGC分析によって追跡する。結果は、特にC6化合物の量から推論できるように、安定剤の使用に関連する効果を示している。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
実施例13
100mlのF122または1,1,2−トリクロロ−2,2−ジフルオロエタンおよび0.2モルの触媒(0.2モルの塩化エチルメチルイミダゾリウムと0.4モルのSbCl5とを結合して、0.2モルのフッ素化錯体触媒emim+Sb2F11-にする)を出発媒体としてオートクレーブに導入する。次いで、HFおよび240dbを、HFと有機反応物とのモル比がほぼ8になるように連続的に添加する。240db溶液を最初に122(240db 1kg当たり400gの122)に希釈して、両方の成分を反応器に同時供給する。122を同時供給し、連続運転中の溶剤のストリッピングを補償する。温度は130〜135℃で、絶対圧力は8バールである。凝縮器の調整設定点は90℃に置く。HClをオートクレーブ中に流して(約0.1モル/時)混合を改良し、生成物のストリッピングを促進する。HClと240dbのモル比はほぼ2:1である。出口ガスのモル組成の時間的変化をGC分析によって追跡する。
【0071】
【表7】
図1
図2