特許第6014626号(P6014626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014626
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】プリント用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20161011BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20161011BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20161011BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C09D11/30
   B41J2/01 501
   B41M5/00 E
   B29C51/10
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-104613(P2014-104613)
(22)【出願日】2014年5月20日
(62)【分割の表示】特願2009-517445(P2009-517445)の分割
【原出願日】2007年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-205839(P2014-205839A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2014年6月9日
(31)【優先権主張番号】0613583.4
(32)【優先日】2006年7月5日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500007897
【氏名又は名称】セリコル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ゴールド,ナイジェル
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−028405(JP,A)
【文献】 特開2000−037943(JP,A)
【文献】 特開2005−075998(JP,A)
【文献】 特開2006−063276(JP,A)
【文献】 特開2003−226832(JP,A)
【文献】 特開2004−018716(JP,A)
【文献】 特開2004−090223(JP,A)
【文献】 特開2006−131797(JP,A)
【文献】 特開2003−118062(JP,A)
【文献】 特開2005−144800(JP,A)
【文献】 特開2004−018546(JP,A)
【文献】 特表2000−515920(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/089252(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/106437(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/007626(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/083473(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00〜C09D11/54
B41M5/00〜B41M5/52
B41J2/00〜B41J2/525
B29C51/00〜B29C51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの照射硬化型モノマーであり、前記少なくとも1つの照射硬化型モノマーが単官能性モノマーである前記照射硬化型モノマーと、
少なくとも1つの不活性熱可塑性樹脂と、
インクの重量に対して4から10重量%の少なくとも1つのラジカル光開始剤と、
少なくとも1つの着色剤とを含み、
25℃で100mPas未満の粘度を有し、
少なくとも1つの不活性樹脂が、全重量に対して2から15重量%で存在し、1,500から70,000の分子量を有する、実質的に水および揮発性有機溶媒を含まないインクジェット用インクであって、前記インクが、インクの全重量に対して15重量%以下の多官能性モノマーを含み、真空成型用または加熱真空成型用である、前記インクジェット用インク。
【請求項2】
前記少なくとも1つの照射硬化型モノマーがメタクリレート/アクリレートモノマーである、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記少なくとも1つの不活性樹脂がインクの全重量に対して3から10重量%で存在する、請求項1〜2のいずれか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、2,000から30,000の分子量を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、20から150℃のガラス転移温度を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、30から150℃の範囲内の融点範囲を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、ニトロセルロース樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、PVC樹脂、またはこれらの混合物から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、アクリル樹脂またはアクリル樹脂の混合物である、請求項7に記載のインクジェット用インク。
【請求項9】
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、5000から7000の分子量を有するメチルメタクリレート−ブチルアクリレート共重合体である、請求項8に記載のインクジェット用インク。
【請求項10】
前記インクが実質的に多官能性モノマーを含まない、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項11】
前記インクが、インクの全重量に対して10重量%以下のオリゴマーを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項12】
前記インクが実質的にオリゴマーを含まない、請求項11に記載のインクジェット用インク。
【請求項13】
前記少なくとも1つの照射硬化型モノマーが、単官能性メタクリレート/アクリレートである、請求項1〜12のいずれか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のインクジェット用インクを基板上にプリントする工程と、前記インクを硬化させる工程とを含む、インクジェットプリント方法。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか1つに記載のインクジェット用インクがプリントされた基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント用インクに関し、特に照射によって硬化するインクジェットプリント
用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリントでは、黒、白または色インクの小滴を、1以上のリザーバまたは
プリントヘッドから細いノズルを介して、リザーバに対して相対的に移動している基板に
向けて制御しながら射出する。射出されたインクが基板上に画像を形成する。高速プリン
トでは、インクはプリントヘッドから迅速に流れなければならず、これを保証するために
使用時に低粘度を有している必要がある。低粘度とは典型的には25℃で100mP未満
であるが、ほとんどの用途において粘度は50mPas未満でなければならず25mPa
s未満でなければならない場合も多い。ノズルから射出されたときのインクの粘度は典型
的には25mPas未満であり、好ましくは5〜15mPasであり、理想的には10.
5mPasである。これは約40℃まで上昇することが多い射出温度においてである(周
囲温度ではインクははるかに高い粘度を有し得る)。インクはさらにリザーバまたはノズ
ル内での乾燥または硬結に対する耐性を有する必要がある。これらの理由により、周囲温
度近傍での用途に用いるインクジェット用インクは通常、可動性の液体ビヒクルまたは溶
媒を高い割合で含むように生成される。1つの典型的なタイプのインクジェット用インク
では、上記液体は水である(例えば、Journal of Imaging Scie
nce, 35(3)、179−188頁(1991)のHenry R. Kangの
論文を参照のこと)。これらの系では、水の蒸発によってインクがヘッド内で乾燥しない
ことを保証するために多大な努力を払わなければならない。別の一般的なタイプでは、上
記液体は低沸点溶媒またはそれら溶媒の混合物である(例えばEP0 314 403号
およびEP0 424 714号を参照のこと)。残念なことに水または溶媒を高い割合
で含むインクジェット用インクは、プリント後インクが溶媒の蒸発または基板への吸収に
よって乾燥するまでは処理することができない。この乾燥プロセスは遅いことが多く、多
くの場合(例えば、紙などの感熱基板にプリントする場合)加速不能である。
【0003】
別のタイプのインクジェット用インクは、モノマーと呼ばれる不飽和有機化合物を含む
。モノマーは、光開始剤の存在下で通常紫外光によって照射されると重合する。このタイ
プのインクは、プリント物を乾燥させるために液相を蒸発させる必要がないという利点を
有する。代わりに、プリント物を照射に曝して硬化させるか又は固める。このプロセスは
中レベルの温度で溶媒を蒸発させるよりも迅速である。このようなインクジェット用イン
クの場合、低粘度を有するモノマーを用いる必要がある。
【0004】
しかし、主としてモノマーをベースとするインクジェット用インクは、溶媒を含むイン
クジェット用インク、またはスクリーンプリントシステムまたはフレキソ印刷システムな
どのようなもっと古くからあるインクに比べて重大な欠点を有し、より高い調剤自由度を
有する。
【0005】
照射により硬化したコーティングの、プラスチック製基板に対する接着性を高めるため
に不活性(passive)または活性でない(inert)樹脂を用いることは、スクリーンインク技術
で周知である。特に熱可塑性アクリル樹脂は、硬化速度と接着性とを高めるために一般的
に用いられる。これらは2つの意味で作用すると考えられている。1つ目は基板に対する
インクの湿潤性/親和力を向上させることであり、2つ目はインク中のモノマーおよび/
またはオリゴマーに取って代わることにより、硬化フィルムを得るために必要となるUV
架橋度を低減することである。
【0006】
しかしインクジェット用インクに不活性樹脂を配合することは従来避けられてきた。な
ぜならこれらの不活性材料の多くは溶液の粘度が高いために、有益な効果を提供するに十
分高い添加率でインクジェット用インクに用いることができないからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、当該分野においては、有益な特性を得るに十分な量の不活性樹脂を配合し、
しかも低粘度であることを損なうことのないインクジェット用インクが必要とされている
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って本発明は、少なくとも1つの照射硬化型モノマーと、少なくとも1つの不活性熱
可塑性樹脂と、少なくとも1つのラジカル光開始剤と、少なくとも1つの着色剤とを含む
インクジェット用インクであって、前記インクが25℃で100mPas未満の粘度を有
し、前記少なくとも1つの不活性樹脂が前記インクの全重量に対して2から15重量%で
存在し、1,500から70,000の分子量を有する、インクジェット用インクを提供
する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のインクジェット用インクは主に硬化により、すなわち上記のように存在するモ
ノマーの重合により乾燥し、従って硬化型インクである。そのためインクは乾燥するため
に水または揮発性有機溶媒の存在を必要としないが、このような成分が存在していてもよ
い。しかし好ましくは本発明のインクジェット用インクは実質的に水および揮発性有機溶
媒を含まない。
【0010】
本発明のインクは少なくとも1つの照射硬化型モノマー、典型的にはUV硬化型モノマ
ーをベースとする。このような成分は当該分野で周知である。モノマーは好ましくは単官
能性である。「単官能性」とは、モノマーが、硬化中に重合反応に携わる官能基を1つだ
け有することを意味する。好ましい例はメタクリレート/アクリレートモノマーである。
好ましい組合せは、反応性モノマーとしての単官能性メタクリレート/アクリレートであ
る。
【0011】
適した単官能性モノマーは、フェノキシエチルアクリレート(PEA)、環式TMPホ
ルマルアクリレート(CTFA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、テトラヒド
ロフルフリルアクリレート(THFA)、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレ
ート、オクタ/デシルアクリレート(ODA)、トリデシルアクリレート(TDA)、イ
ソデシルアクリレート(IDA)、ラウリルアクリレートまたはこれらの混合物を含む。
【0012】
好ましいモノマーは、N−ビニルカプロラクタム(NVC)およびフェノキシエチルア
クリレート(PEA)またはこれらの混合物を含む。
【化1】
【0013】
モノマー、例えば単官能性メタクリレート/アクリレートはインクの全重量に対して好
ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、最も好ましくは70重量%以
上で存在する。上限はインクの全重量に対して好ましくは95重量%以下、より好ましく
は90重量%以下、最も好ましくは85重量%以下である。
【0014】
本発明のインクはさらに不活性(または「活性でない」)熱可塑性樹脂を含む。不活性
樹脂は、硬化プロセスに入らない樹脂である。すなわちこのような樹脂は、インクが曝さ
れる硬化状態において重合する官能基を実質的に含まない。
【0015】
不活性熱可塑性樹脂は当該分野で公知である。樹脂の例は、アクリル樹脂、エポキシ樹
脂、ケトン樹脂、ニトロセルロース樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、PVC樹
脂またはこれらの混合物から選択される樹脂を含む。樹脂は好ましくは、アクリル樹脂ま
たはアクリル樹脂の混合物であり、例えばメチルメタクリレート/アクリレートと、ブチ
ル、イソブチルまたはイソボルニルメタクリレート/アクリレートとの共重合体である。
特に好ましい樹脂は、Rohm and Haasから入手可能なパラロイド(Paraloid)
(登録商標)DM55であり、メチルメタクリレートとブチルアクリレートとの共重合体
であり、6000の分子量を有する。
【0016】
不活性熱可塑性樹脂は、インクの全重量に対して2から15重量%で存在する。最小量
は好ましくは3重量%以上、より好ましくは4重量%以上、最も好ましくは5重量%以上
である。最大量は好ましくは12重量%以下、より好ましくは10重量%以下、最も好ま
しくは8重量%以下である。
【0017】
不活性熱可塑性樹脂は、1,500から70,000の重量平均分子量(Mw)を有す
る。分子量は好ましくは2,000以上、より好ましくは3,000以上、さらに好まし
くは4,000以上、最も好ましくは5,000以上であり、好ましくは30,000以
下、より好ましくは20,000以下、さらに好ましくは15,000以下、最も好まし
くは10,000以下である。Mwは当該分野で公知の技術、例えばゲル浸透クロマトグ
ラフィー(GPC)により測定し得る。
【0018】
Mwを測定するに適したGPC装置は、以下のパラメータを有するLC装置である。カ
ラム設定:MiniMix EまたはMiniMix D(分子量による)、溶離液:T
HF、検出器:UV/visおよび/またはELS、較正:従来対ポリスチレン。このア
プローチは400から400,000のMwを有するポリマーに適用可能である。
【0019】
樹脂の分子量が増加するにつれて、インク剤に配合し得る量は減少する。そのためイン
クに配合される樹脂の重量と樹脂の分子量とのバランスは、特定の用途において必要とさ
れる特性(硬化速度、接着性、基板タイプ、耐ブロック性、フィルム硬度/脆さ、および
製品耐性)の精密なバランスに依存する。最も重要なことは、重量と分子量とを選択する
際に、インクの粘度が100mPas未満、より好ましくは50mPas以下、さらに好
ましくは30mPas以下となるようにすることである。最低粘度はそれほど重要ではな
く、樹脂の重量と分子量とのバランスを、粘度が好ましくは5mPas以上、より好まし
くは10mPas以上、さらに好ましくは15mPas以上、最も好ましくは20mPa
s以上となるようにする。最も好ましい範囲は20から30mPasである。特に好まし
い組合せは、5,000から10,000の分子量を有する樹脂を4から10重量%で含
むことである。
【0020】
好ましい実施形態では本発明のインクは、3次元物体、例えばフェースマスクの製造に
用いられる。従って本発明は、3次元物体の製造方法であって、上記請求項のいずれかひ
とつに記載のインクジェット用インクを平面状の基板上にプリントすることと、前記イン
クを硬化させることと、前記基板を前記基板のガラス転移温度より高い温度まで加熱する
ことと、前記基板に真空成型を施して前記3次元物体を形成することとを含む方法を提供
する。真空成型は当該分野で周知である。技術の一部として、基板はそのガラス転移温度
より高い温度まで加熱しなければならない。典型的にインク中に存在する硬化オリゴマー
は、架橋度が高いために高いガラス転移温度を有する。
【0021】
従って本発明で用いる樹脂は、好ましくは20から150℃のガラス転移温度を有する
。より好ましくは、最低が30℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、最も好
ましくは45℃以上である。最高が120℃以下であり、より好ましくは100℃以下で
あり、最も好ましくは80℃以下である。
【0022】
好ましくは、樹脂はさらに30から150℃の範囲内の融点範囲を有する。より好まし
くは、融点範囲の下限は40℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。上限は1
20℃以下であり、より好ましくは100℃以下であり、最も好ましくは90℃以下であ
る。
【0023】
本発明のインクは上記のモノマーおよび樹脂に加えてさらに光開始剤を含む。光開始剤
は、例えば紫外光に照射されるとモノマーの重合を開始する。好ましい光開始剤は照射を
受けてフリーラジカルを生成するもの(フリーラジカル光開始剤)であり、例えば、ベン
ゾフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチ
ルアミノ−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、
ビス(2,6−ジメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキ
シド、またはこれらの混合物である。このような光開始剤は公知であり、例えば商品名イ
ルガキュア、ダロキュア(Cibaより)およびルセリン(BASFより)として市販さ
れている。
【0024】
光開始剤は好ましくは、インクに対して1から20重量%、好ましくは4から10重量
%で存在する。
【0025】
本発明のインクジェット用インクはさらに着色剤を含む。着色剤は、インクの媒液中に
溶解していてもよいし分散していてもよい。着色剤は好ましくは、当該分野で公知のタイ
プで且つ市販されている分散可能な顔料であり、例えば商品名パリオトール(BASFp
lcより入手可能)、シンカシア、イルガライト(共にCiba Speciality
Chemicalsより入手可能)、およびホスタパーム(Clariant、英国よ
り入手可能)である。顔料は望ましいいずれの色でもよく、例えばピグメントイエロー1
3、ピグメントイエロー83、ピグメントレッド9、ピグメントレッド184、ピグメン
トブルー15:3、ピグメントグリーン7、ピグメントバイオレット19、ピグメントブ
ラック7である。特に有用であるのは、黒と3色プロセスプリントに必要な色である。顔
料の混合物を用いてもよい。
【0026】
存在する顔料の割合の合計は好ましくは0.5から15重量%、より好ましくは1から
5重量%である。
【0027】
本発明のインクはフリーラジカルメカニズムで硬化するが、ラジカルおよび陽イオンメ
カニズムで硬化する所謂「ハイブリッド」インクであってもよい。そのためある実施形態
では、本発明のインクジェット用インクは、少なくとも1つの陽イオン硬化型モノマー(
ビニルエーテルなど)および少なくとも1つの陽イオン光開始剤(ヨードニウムまたはス
フホニウム塩など、例えばジフェニルヨードニウムフルオリドおよびトリフェニルスルホ
ニウムヘキサフルオロホスフェート)をさらに含む。適した陽イオン開始剤は、商品名イ
ルガキュア(Irgacure)184、イルガキュア500、ダロキュア(Darocure)1173、イ
ルガキュア907、ITX、ルセリン(Lucerin)TPO、イルガキュア369、イルガキ
ュア1700、ダロキュア4265、イルガキュア651、イルガキュア819、イルガ
キュア1000、イルガキュア1300、エサキュア(Esacure)KT046、エサキュア
KIP150、エサキュアKT37、エサキュアEDB、H−Nu470、およびH−N
u470Xで市販されている。
【0028】
一実施形態では、インクは実質的に多官能性モノマーを含まない。これは微量のみが、
例えば多官能性材料中の不純物または市販の顔料分散液中の成分として存在することを意
味する。多官能性モノマーが含まれる場合、多官能性モノマーはインクの全重量に対して
15重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、最も好まし
くは2重量%以下の量で存在する。量が制限される多官能性モノマーは、硬化反応に携わ
り得るいずれの多官能性モノマーであってもよく、例えば多官能性メタクリレート/アク
リレートモノマーまたは多官能性ビニルエーテルである。
【0029】
多官能性アクリレートモノマーの例は、ヘキサジオールジアクリレート、トリメチロー
ルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエチレング
リコールジアクリレート(例えばテトラエチレングリコールジアクリレート)、ジプロピ
レングリコールジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)トリアクリレート、ネオ
ペンチルグリコールジアクリレート、ビス(ペンタエリスリトール)ヘキサアクリレート
、ならびに、エトキシ化またはプロポキシ化グリコールおよびポリオールのアクリレート
エステル、例えばプロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシ化トリ
メチロールプロパントリアクリレート、およびこれらの混合物を含む。特に好ましいのは
、分子量が200を超える二官能性アクリレートである。さらに、適した多官能性アクリ
レートモノマーは、メタクリル酸のエステル(すなわちメタクリレート)、例えばヘキサ
ンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリマクリレート(trimacrylate)
、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、
エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレートを含む
。メタクリレート/アクリレートの混合物を用いてもよい。
【0030】
一実施形態では、インクは実質的に照射硬化型オリゴマーを含まない。これは微量のみ
が存在することを意味する。オリゴマーが含まれる場合、オリゴマーは、インクの全重量
に対して10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下の量で存在する。オリゴマー(例
えばアクリレートオリゴマー)は当該分野で公知であり、典型的には500を超える分子
量を有し、より好ましくは1000を超える分子量を有する。オリゴマーが本発明のイン
クに含まれる不活性熱可塑性樹脂と異なるのは、オリゴマーは硬化反応に携わる点である
【0031】
特性または性能を向上させるために、当該分野で公知の他のタイプの成分がインクに含
まれていてもよい。これらの成分は例えば、界面活性剤、消泡剤、分散剤、光開始剤用共
働薬、熱または光による劣化を防ぐ安定化剤、芳香剤、流性または滑性補助剤、殺虫剤お
よび識別トレーサーであり得る。
【0032】
本発明はさらに、上記のインクを用いてインクジェットプリントを行う方法と、硬化し
たインクを有する基板とを提供する。適した基板は、PVC(例えばBannerPVC
)、スチレン、修飾ポリエチレンテレフタレートグリコール(例えばVIVAK)、ポリ
カーボネート(例えばPolyCarb)、ポリプロピレン(例えばCorrex)、ガ
ラス、金属およびアクリレートシートを含む。本発明のインクは好ましくは紫外線照射に
よって硬化し、インクジェットプリントによる用途に適している。
【0033】
インクジェット用インクは、所望の低粘度を呈する。所望の低粘度とは25℃で100
mPas未満、好ましくは50mPas以下、最も好ましくは30mPas以下である。
最も好ましくはインクは25℃で20から30mPasの粘度を有する。粘度は、サーモ
スタット制御型カップおよびスピンドル構造(例えばモデルLDV1+)を取り付けたデ
ジタルBrookfield粘度計を用いて測定してもよい。
【0034】
本明細書において、「メタクリレート/アクリレート」はその標準的な意味、すなわち
アクリレートおよび/またはメタクリレートを示す。「単および多官能性」もその標準的
な意味、すなわちそれぞれ、硬化したときに重合反応に携わる1および2以上の基を示す
【0035】
本発明のインクは公知の方法によって調製してもよい。公知の方法とは例えば、高速水
冷却攪拌器で攪拌する、または水平ビーズミルで粉砕するなどである。
【実施例】
【0036】
本発明を以下の実施例により説明する(「部」は「重量部」である)。
(実施例1)
NVCおよびPEAモノマーをベースとするインクジェット用インク剤を用いて、硬化
速度、接着範囲、耐ブロック性、フィルム硬度/耐脆性および製品耐性に対する効果につ
いて、選択した一連の活性でない樹脂を評価した。テストに用いたインクジェット用イン
クは表1に示す配合を有していた。
【表1】

1.7〜1.0重量/重量の割合でPEA/NVCに溶解した。固形分は最終インク
粘度が20.0〜30.0mPas(cP)となるように調整した。
【0037】
表1に示す配合で評価した不活性樹脂を表2および表3に示す。
【表2】

【表3】
【0038】
上記各インク剤をKバーコーター(12μmフィルム)を用いてある範囲の基板にコー
ティングした。スベシアドライヤーに独立切換え可能な80W/cmの中レベル圧力水銀
ランプを2個取り付けたものを用いて硬化速度を評価した。その後、接着性、耐ブロック
性、可撓性、インストロン伸張性、真空成型性およびガソリン/耐アルコール性について
プリント物を評価した。コントロールとして、不活性樹脂を含まないサンプルを調製した
。結果を表4に示す。
【0039】
上記の全特性を、自己接着性PVCフィルムを用いたインストロンテストとは別に、2
20μm光沢性PVC上でチェックした。硬化以外の評価のために、2個のランプをフル
パワー(約600mJ/cm)で用いてすべてのプリント物を15m/分で硬化させた
【0040】
硬化量の結果として示しているのは、粘着性のないフィルムを提供するために必要なm
J/cmの数値である。
【0041】
耐ブロック性は以下の方法で評価する。硬化したプリント物を表面対表面、および表面
対裏面を合わせて積み重ね、20キロの重みの下に24時間保管する。この期間の後、イ
ンクの粘着度とインクフィルムの裏移りとを評価する。スコア1は、インクフィルムがひ
どく落ちた悪い結果を示し、スコア5は、跡形も粘着もない完璧な結果を示す。
【0042】
可撓性/基板脆さの結果は、いくつかのテストの結果を合わせたものである。1層、2
層および3層のインクを220μm光沢性PVCに適用して硬化させた。脆さを評価する
ために、インク面を外側にしてプリント物を管状に巻く。その後、管を鋭角のエッジ(例
えばベンチまたはテーブル表面のエッジなど)の上に積み重ねる。積み重ねたインクフィ
ルムによって基板が破れたときのインク層の数を観察する。5点は、3層積み重ねても破
れなかったことを示し、1点は、1層でひどく破れたことを示す。その間の点数は脆さと
、破れたときの層の数に従って割り当てられる。
【0043】
インストロン伸張性については2つの数値を示す。第1の数値は、基板とインクフィル
ムとを合わせたものが破れる延伸度をセンチメートルで示す。括弧内の数値は、インクフ
ィルムの接着に対する効果を1〜5の点数で示す。1点は、インクフィルムがひどく破れ
て接着性が失われた悪い結果を示し、5点は、完全性も接着性も失わずに完璧に均一に延
伸されたフィルムを示す。
【0044】
耐ガソリン性および耐アルコール性は共に、溶媒をしみこませた柔らかい布で硬化フィ
ルムを拭くことにより評価する。表に示す数値は、フィルムを破って基板を露出させるに
要する二重拭きの回数である。
【表4】

すべてのサンプルで、僅か1回二重拭きをした後に表面にひどい跡がついた。
【0045】
接着性は選択した一連の基板上で評価した。結果を表5に示す。80W/cmのランプ
を2個フルパワー(約600mJ/cm)で用いてすべてのフィルムを15m/分で硬
化させた。接着性について1(非常に悪い)から5(非常に良い)までランクをつけた。
各ケースにおいて、スコアはスクラッチ結果とクロスハッチテープ接着結果とを合わせた
ものである。
【表5】
【0046】
真空成型性は光沢性スチレン上で単層としてチェックした。すべてのフィルムを600
mJ/cmで硬化させた。結果を表6に示す。この表では、1はフィルムがひどく破れ
た悪い成型性を示し、5はクラックのない完璧な真空成型性を示す。
【表6】

*顔料分散液(SM988)中に存在するプロポキシ化NPGDAが、これらの結果に
悪影響を与えることが観察された。パラロイドDM55をベースとするインクを用いた実
験を、顔料分散液を加えない透明インクで反復した。この場合、5点の完璧な真空成型結
果が達成された。
【0047】
この実施例で得られた結果を表7にまとめる。
【表7】

凡例
= 不活性ではない樹脂を含む系と同等の性能
− 性能が劣る ++ 性能が優れる
+ 性能が僅かに優れる +++ 性能が非常に優れる
【0048】
表7からわかるように、不活性樹脂をインクジェット用インク剤に添加することは、硬
化応答および接着性範囲の面で大きな利点を提供する。テストしたインクのうち、ダイナ
ポール(Dynapol)411およびN/CチップH30を含むインクのみが悪影響を与えた(
硬化量)が、これらのインクも接着性ではある程度の利点を提供した。
【0049】
最良の範囲の特性はパラロイドDM55を含むインクによって提供された。パラロイド
DM55は、分子量6000およびガラス転移温度70℃を有するメチルメタクリレート
共重合体である。テスト用インク剤にこの材料を10%のレベルで添加すると、多くの重
要な性能が向上した。すなわち、硬化応答が83%向上し、接着範囲、特にガラス、金属
およびポリオレフィンなどの比較的接着困難な基板に対する接着性が大幅に向上し、基板
脆さは低下した。これによりプリント後の仕上げプロセス中に破壊される危険性が低下し
た。
【0050】
(実施例2)
この実施例では、不活性樹脂の分子量の重要性を調べるために更なるテストを行った。
表8は、インク粘度が25℃で約30mPas未満に維持される範囲で表1に示すインク
剤に配合し得る、様々な不活性樹脂の最大量を示す。
【表8】

このパラメータをさらに調べるために、生成したインクの粘度にかかわらず固定レベル
(7.0重量%)で上記アクリル樹脂を用いてインクを調製した。パラロイドDM55を
7.0%ロードしたときに最適粘度22.5mPasが達成されることが判明した。
【0051】
これらのインクの各々を、硬化応答および接着範囲について実施例1と同様にして評価
した。すなわち、1=低接着性、5=高接着性を示す。結果を表9に示す。
【表9】
【0052】
最初の数値は、樹脂を7.0%ロードしたときに達成された結果を表す。括弧内の数値
は比較のために提示したものであり、以前に、粘度が約30mPas未満に維持される範
囲で、許容最大率でロードを行って達成した接着性である。
【0053】
表9からわかるように、評価したすべてのアクリル樹脂は、同等の率でロードされた場
合には同様の接着特性を示した。さらに、別のアクリル樹脂を用いた場合の硬化応答も上
昇してパラロイドDM55をベースとするインクのものと合致したことが判明した。
【0054】
(実施例3)
UVインクジェット用インクにおける、熱可塑性アクリル不活性樹脂の分子量の効果を
さらに調べるために、類似の化学組成を有するが分子量が異なる一連の材料を得た。表1
0を参照のこと。
【表10】
【0055】
表11に示す一般配合率に従って、これらのアクリル不活性樹脂およびパラロイドDM
55標準(Mw6000)をベースとするインクジェット用インクを調製した。
【表11】

PEA/NVC中に溶解(重量割合1.7:1.0)
【0056】
固形分は、表12に示す最終インク粘度20.0〜24.0mPas(センチポアズ)
が得られるように調整した。
【表12】
【0057】
各インクを、硬化応答、耐ブロック性、耐脆性および接着範囲について評価した。各ケ
ースにおいてK3バーコーターを用いてシアンのインクをテストし、約12μmを堆積さ
せた。上記同様、一般的なフィルム特性を220μm光沢性PVC上でチェックした。
【0058】
耐ブロック性、粘着性のないフィルムを提供するに必要な硬化量、および耐脆性を表1
3に示す。耐ブロック性および耐脆性の場合、5=非常に良い結果、1=悪い結果を示す

【表13】
【0059】
これらのインクの各々を、硬化応答および接着範囲について実施例1および2と同様に
して評価した。すなわち、1=低接着性、5=高接着性を示す。結果を表14に示す。樹
脂の分子量は、表の一段目から最終段に向かって増加している。
【表14】

*比較的低い接着性
【0060】
表14に示す結果は、アクリル樹脂の分子量(Mw)が増加するにつれ、従って対象粘
度が維持される範囲でインクに配合可能な樹脂の量が減少するにつれて、フィルム特性の
一部が悪影響を受けることを示す。
【0061】
樹脂の分子量が増加するにつれて、硬化したインクフィルムの耐脆性が低下する。これ
はおそらく、不活性または活性でない樹脂の量が少ない組成の方が二重結合の割合が高い
ためである。インクの硬化速度も同様の傾向を示す。
【0062】
樹脂の分子量が増加し、従って式内の量が減少すると、接着性にも明らかに影響が見られる。分子量が一旦Mw6,000より増加すると、ポリプロピレン(Correx)への受容可能な接着性が大幅に低下する。分子量が一旦Mw34,000より増加すると、ガラスへの接着性が低下する。この傾向は分子量が増加してMw55,000になるまで続く。Mw55,000では接着性は非常に悪い。

本発明は以下の態様を含み得る。
[1]
少なくとも1つの照射硬化型モノマーと、
少なくとも1つの不活性熱可塑性樹脂と、
少なくとも1つのラジカル光開始剤と、
少なくとも1つの着色剤とを含み、
25℃で100mPas未満の粘度を有し、
少なくとも1つの不活性樹脂が、全重量に対して2から15重量%で存在し、1,500から70,000の分子量を有する、インクジェット用インク。
[2]
前記照射硬化型モノマーが単官能性モノマーである、上記[1]に記載のインクジェット用インク。
[3]
前記照射硬化型モノマーがメタクリレート/アクリレートモノマーである、上記[1]または[2]に記載のインクジェット用インク。
[4]
前記少なくとも1つの不活性樹脂がインクの全重量に対して3から10重量%で存在する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
[5]
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、2,000から30,000の分子量を有する、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
[6]
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、20から150℃のガラス転移温度を有する、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
[7]
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、30から150℃の範囲内の融点範囲を有する、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
[8]
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、ニトロセルロース樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、PVC樹脂、またはこれらの混合物から選択される、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
[9]
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、アクリル樹脂またはアクリル樹脂の混合物である、上記[8]に記載のインクジェット用インク。
[10]
前記少なくとも1つの不活性樹脂が、5000から7000の分子量を有するメチルメタクリレート−ブチルアクリレート共重合体である、上記[9]に記載のインクジェット用インク。
[11]
前記インクが、インクの全重量に対して15重量%以下の多官能性モノマーを含む、上記[1]〜[10]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
[12]
前記インクが実質的に多官能性モノマーを含まない、上記[11]に記載のインクジェット用インク。
[13]
前記インクが、インクの全重量に対して10重量%以下のオリゴマーを含む、上記[1]〜[12]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
[14]
前記インクが実質的にオリゴマーを含まない、上記[13]に記載のインクジェット用インク。
[15]
前記少なくとも1つの単官能性メタクリレート/アクリレートが選択される、上記[1]〜[14]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
[16]
上記[1]〜[15]のいずれかに記載のインクジェット用インクを基板上にプリントする工程と、前記インクを硬化させる工程とを含む、インクジェットプリント方法。
[17]
上記[1]〜[16]のいずれかに記載のインクジェット用インクを平面状の基板上にプリントする工程と、
前記インクを硬化させる工程と、
前記基板を前記基板のガラス転移温度より高い温度まで加熱する工程と、
前記基板に真空成型を施して前記3次元物体を成形する工程とを含む、3次元物体の製造方法。
[18]
上記[1]〜[15]のいずれかに記載のインクジェット用インクがプリントされた基板。