【実施例】
【0067】
[実施例1]
オーバーヘッド機械式攪拌機、窒素ガスラインとディーン−スターク・トラップとを備えた水コンデンサー、温度調節器、マントルヒーター、および熱電対を取り付けた500mlの三つ口丸底フラスコに、数平均分子量(Mn)が750のポリイソブテニル基と139mgKOH/gのケン化価(SAP)とを有する無水ポリイソブテニルコハク酸(PIBSA)を252g加えた。混合物を約100℃まで加熱し、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)47.3g(PIBSAに対して0.8モル当量)を、添加用漏斗から混合物に滴下しながら加えた。添加の初期段階では、わずかな発泡が起きた。TEPAの添加後、温度を165℃まで約60分間かけて上昇させ、一晩、165℃を保った。
【0068】
生成物を冷却し、50.00g(0.0426モル)を、250mlの三つ口丸底フラスコに移した。無水マレイン酸を添加するため、フラスコを100℃に加熱した。次に、4.18g(TEPAに対して1モル当量)の無水マレイン酸を加えた。反応器の温度を1時間かけて160℃まで上昇させ、この温度を一晩維持した。
【0069】
混合物を85℃まで冷却してから、トルエン49.4g、三酸化モリブデン6.12g(TEPAに対して1モル当量)、蒸留水5g、および消泡剤2滴を加えた。混合物を攪拌し、100℃で一晩加熱した。次に生成物を、減圧下、暖めたブフナー漏斗中のセライト512を通して濾過した。濾液を集めて、回転蒸発器(最大温度が140℃の完全ポンプ吸引)を用いて濃縮し、トルエンと残存する水を除去した。生成物は、粘性を有する褐色のオイルで、以下の性質を有していた。
【0070】
Mo:2.35質量%
N: 5.7質量%
【0071】
全塩基価:140mgKOH/g
【0072】
[実施例2]
PIBSA:TEPAの添加モル比を0.5:1に変更した以外は、実施例1に示した操作および成分と基本的に同じものを用いてモリブデン化スクシンイミド複合体を製造した。モリブデン化スクシンイミド複合体が有するモリブデン含量は1.02質量%であった。
【0073】
[実施例3]
PIBSAが1000Mnのポリイソブテニル基と120mgKOH/gのSAP数とを有する以外は、実施例1に示した操作および成分と基本的に同じものを用いてモリブデン化スクシンイミド複合体を製造した。モリブデン化スクシンイミド複合体が有するモリブデン含量は5.9質量%であった。
【0074】
[実施例4]
PIBSA:TEPAの添加モル比を0.5:1に変更した以外は、実施例3に示した操作および成分と基本的に同じものを用いてモリブデン化スクシンイミド複合体を製造した。モリブデン化スクシンイミド複合体が有するモリブデン含量は0.4質量%であった。
【0075】
[実施例5]
PIBSAが2300Mnのポリイソブテニル基と56.4mgKOH/gのSAP数とを有する以外は、実施例1に示した操作および成分と基本的に同じものを用いてモリブデン化スクシンイミド複合体を製造した。モリブデン化スクシンイミド複合体が有するモリブデン含量は1.8質量%であった。
【0076】
[実施例6]
PIBSA:TEPAの添加モル比を0.5:1に変更した以外は、実施例5に示した操作および成分と基本的に同じものを用いてモリブデン化スクシンイミド複合体を製造した。モリブデン化スクシンイミド複合体が有するモリブデン含量は0.6質量%であった。
【0077】
[実施例7]
PIBSA:TEPAの添加モル比を1:1に変更した以外は、実施例3に示した操作および成分と基本的に同じものを用いてモリブデン化スクシンイミド複合体を製造した。モリブデン化スクシンイミド複合体が有するモリブデン含量は4.6質量%であった。
【0078】
[比較例A]
標準となる潤滑油の処方として、スクシンイミド分散剤3.8質量%、過塩基度が低いスルホン酸カルシウム3.5mモル/kg、高い過塩基度を有するスルホン酸カルシウム45mモル/kg、第二級アルコールから得られたジチオリン酸亜鉛5mモル/kg、第一級アルコールから得られたジチオリン酸亜鉛2mモル/kg、ジフェニルアミン酸化防止剤0.5質量%、流動点降下剤0.3質量%、オレフィン共重合体粘度指数改善剤4.8質量%、および発泡防止剤10ppmを、グループIIのベースオイル中に含むものを作製した。
【0079】
[比較例B]
比較例Aと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。ポリイソブテニル(1000M.W.)から得られる市販の酸化モリブデンスクシンイミド複合体を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0080】
[実施例8]
比較例Aと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例1の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0081】
[実施例9]
比較例Aと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例2の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0082】
[実施例10]
比較例Aと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例3の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0083】
[実施例11]
比較例Aと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例4の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0084】
[実施例12]
比較例Aと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例5の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0085】
[実施例13]
比較例Aと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例6の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0086】
[実施例14]
比較例Aと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した
。実施例7の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が50
0ppmとなるように配合した。
【0087】
(酸化性能)
酸化ベンチテストにおいて、本発明の潤滑油添加物を含む実施例8〜14の潤滑油組成物について、酸化性を分析し、比較例Aの標準潤滑油処方および比較例Bの潤滑油組成物における酸化性と比較した。酸化に関する検討は、E.S.ヤマグチ外、摩擦学会報、42巻(4)、895〜901頁(1999年)に記載されているバルクオイル酸化ベンチテストにおいて実施した。このテストでは、170℃において一定の圧力化で規定の質量のオイルが取り込む酸素の速度を監視する。酸素が急速に取り込まれる(自動酸化として知られる)段階に到達するまでに要する時間を、誘導時間として定義する。ベンチテストの結果は、一般に、±0.5時間の範囲内で再現性がある。この試験では、より長い導入時間が、より有効な抗酸化作用に対応する。酸化ベンチテストの結果を、第1表に示す。
【0088】
第1表
(酸化ベンチテストの結果)
──────────────────────────────
比較例/実施例 モリブデン(Mo)配合比 誘導時間
──────────────────────────────
比較例A − 15
比較例B 500ppm 29
実施例8 500ppm 55
実施例9 500ppm 25
実施例10 500ppm 27
実施例11 500ppm 61
実施例12 500ppm 30
実施例13 500ppm 33
実施例14 500ppm 24
──────────────────────────────
【0089】
上記データに示されるように、本発明の潤滑油組成物は、本発明の範囲外の潤滑油組成物と同等であり、場合によっては顕著に優れている。
【0090】
[比較例C]
電磁攪拌機、窒素ガスラインとディーン−スターク・トラップとを備えた水コンデンサー、温度調節器、マントルヒーター、および熱電対を取り付けた100mlの丸底フラスコに、無水ポリイソブテニル(1000M.W.)コハク酸(PIBSA)および一分子当たり約5個のアミン性基を有するポリアミンから製造され、4.6質量%のモリブデンと2.2質量%の窒素原子とを有する市販の酸化モリブデン処理モノスクシンイミド分散剤25.1gを加えた。ポリアミン:PIBSAの添加モル比は、約0.8:1であった。酸化モリブデン処理モノスクシンイミド分散剤を攪拌し、無水マレイン酸1.68g(1モル当量)を加えながら110℃まで加熱した。混合物を約160℃で1時間攪拌し、黒色の粘性オイルを得た。
【0091】
[比較例D]
電磁攪拌機、窒素ガスラインとディーン−スターク・トラップとを備えた水コンデンサー、温度調節器、マントルヒーター、および熱電対を取り付けた100mlの丸底フラスコに、無水ポリイソブテニル(1000M.W.)コハク酸(PIBSA)および一分子当たり約5個のアミン性基を有するポリアミンから製造され、4.6質量%のモリブデンと2.2質量%の窒素原子とを有する市販の酸化モリブデン処理モノスクシンイミド分散剤25.1gを加えた。ポリアミン:PIBSAの添加モル比は、約0.8:1であった。酸化モリブデン処理モノスクシンイミド分散剤を攪拌し、無水マレイン酸1.68g(2モル当量)を加えながら110℃まで加熱した。混合物を約160℃で1時間攪拌し、黒色の粘性オイルを得た。
【0092】
[比較例E]
標準となる処方として、スクシンイミド分散剤5質量%、ホウ素化スクシンイミド分散剤3質量%、過塩基度が低いカルシウムスルホネート4mモル/kg、カルボキシレート系清浄剤58mモル/kg、ジチオリン酸亜鉛8mモル/kg、ジフェニルアミン酸化防止剤0.5質量%、ヒンダードフェノール酸化防止剤0.5質量%、流動点降下剤0.3質量%、オレフィン共重合体粘度指数向上剤9.85質量%、および消泡剤5ppmを、グループIIのベースオイル中に含むものを作製した。
【0093】
[比較例F]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。ポリイソブテニル(1000M.W.)から得られる市販の酸化モリブデンスクシンイミド複合体を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0094】
[比較例G]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。ポリイソブテニル(1000M.W.)から得られる市販の酸化モリブデンスクシンイミド複合体を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0095】
[比較例H]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。比較例Cの潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0096】
[比較例I]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。比較例Cの潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0097】
[比較例J]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。比較例Dの潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0098】
[比較例K]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。比較例Dの潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0099】
[実施例15]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例1の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、Moを基準に500ppmで配合した。
【0100】
[実施例16]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例1の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0101】
[実施例17]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例2の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0102】
[実施例18]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例2の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0103】
[実施例19]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例3の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0104】
[実施例20]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例3の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0105】
[実施例21]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例4の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0106】
[実施例22]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例4の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0107】
[実施例23]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例5の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0108】
[実施例24]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例5の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0109】
[実施例25]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例6の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、処方中の全Mo含量が500ppmとなるように配合した。
【0110】
[実施例26]
比較例Eと同じ添加剤、ベースオイル、および配合比による標準潤滑油処方を製造した。実施例6の潤滑油添加剤を、上記標準潤滑油処方に対して、1質量%で配合した。
【0111】
(高速往復リグ(HFRR)評価)
本発明に従う実施例15〜26の潤滑油組成物について、HFRR耐久性と摩擦性能とを評価し、比較例Eの標準潤滑油処方および比較例F〜Kの潤滑油組成物と比較した。HFRR試験は、候補となる潤滑油について弁系列の耐久性を決定するための工業的に認知されているベンチテストである。PCS計測器は、電磁振動器を使用し、固定した試料(平板)に対して圧力を加えながら、小さな振幅で試料(ボール)を振動させる。振動の振幅と周期および負荷は、変更できる。ボールと平板との間の摩擦力および電気的な接触抵抗(ECR)を測定する。平らな固定した試料は、潤滑油を加えた浴中に保ち、加熱することができる。潤滑油は、潤滑油の全量に対して約6質量%のカーボンブラックで前処理する。カーボンブラックはオイル中で攪拌して湿らせ、さらに試験開始前、15分間均質化する。ボール表面の摩耗による傷を、光学顕微鏡による手作業で測定し、記録した。この試験において、より小さな摩耗による傷は、抗摩耗剤がより有効であることに対応する。また、より小さな摩擦係数は、摩擦緩和剤がより有効であることに対応する。HFRRによる摩耗および摩擦性能のデータを、第2表に示す。
【0112】
第2表
(HFRRによる摩耗および摩擦性能結果)
──────────────────────────────
比較例/実施例 濃度 摩擦係数 摩耗による傷(μm)
──────────────────────────────
比較例E − 0.139 195
比較例F 500ppm 0.124 171
比較例G 1質量% 0.130 195
比較例H 500ppm 0.139 145
比較例I 1質量% 0.139 151
比較例J 500ppm 0.132 149
比較例K 1質量% 0.138 146
実施例15 500ppm 0.081 158
実施例16 1質量% 0.124 182
実施例17 500ppm 0.133 195
実施例18 1質量% 0.136 211
実施例19 500ppm 0.140 135
実施例20 1質量% 0.132 137
実施例21 500ppm 0.113 191
実施例22 1質量% 0.137 193
実施例23 500ppm 0.135 170
実施例24 1質量% 0.138 150
実施例25 500ppm 0.132 196
実施例26 1質量% 0.138 173
──────────────────────────────
【0113】
上記データに示されるように、本発明の潤滑油組成物は、本発明の範囲外の潤滑油組成物と同等であり、場合によっては顕著に優れている。
【0114】
[比較例L]
オーバーヘッド機械式攪拌機、窒素ガスラインとディーン−スターク・トラップとを備えた水コンデンサー、温度調節器、マントルヒーター、および熱電対を取り付けた500mlの三つ口丸底フラスコに、無水オクタデセニルコハク酸(ODSA:シグマ・アルドリッチ社(Sigma Aldrich、セント・ルイス、ミズーリ州、米国)より入手可能)60.07g、中性オイル(エクソン150)60.08gおよび消泡剤(200〜350cSt:ダウ・コーニング社(Dow Corning)より入手可能)3滴を加えた。混合物を100℃まで加熱し、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)32.88g(ODSAに対して1.0モル当量)を、添加用漏斗から混合物に滴下しながら加えた。添加の初期段階では、わずかな発泡が起きた。TEPAの添加後、温度を160℃まで約60分間かけて上昇させ、3時間160℃に維持した。
【0115】
物質を100℃未満まで冷却し、三酸化モリブデン25.01g(TEPAに対して1モル当量)、トルエン69g、蒸留水17g、および消泡剤0.1gを加えた。混合物を100℃にして、攪拌すると泡の放出を伴いながらゲルが形成された。オイル(エクソン100N)116gを加え、混合物を一晩攪拌したところ、緑がかった茶色のゲルが生じた。そのため、ゲルと無水マレイン酸との反応は試みなかった。
【0116】
[比較例M]
オーバーヘッド機械式攪拌機、窒素ガスラインとディーン−スターク・トラップとを備えた水コンデンサー、温度調節器、マントルヒーター、および熱電対を取り付けた500mlの三つ口丸底フラスコに、120.3mgKOH/gのSAP数を有する無水ポリイソブテニル(1000M.W.)コハク酸を60.6g加えた。混合物を100℃まで加熱し、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)10.45g(1.0モル当量)を加えた。TEPAの添加後、温度を180℃まで約60分間かけて上昇させ、1時間160℃に維持した。一晩冷却後、オイル(エクソン100N)12.2gを加えたところ、粘性の茶色のオイルが生じた。
【0117】
生成物を約90℃まで加熱し、トルエン82gを加えて溶液を形成した。引き続き三酸化モリブデン7.9g(TEPAに対して1モル当量)および蒸留水8.3gを加えた。混合物を90℃で1.5時間攪拌し、次に温度を160℃に上昇させ、約4時間かけてトルエンと水とを除去した。生成物は粘性の茶色のオイルであった。次にトルエン64gを加え、混合物を95℃まで加熱し、濾過のため粘度を低下させた。生成物を、ワットマン社の濾紙#1および#4を通して濾過しようと何度も試みたが、珪藻土フィルターの補助の有無に拘わらず、生成物を濾過することができなかった。オイル(エクソン100N)による希釈を繰り返した後も、生成物を濾過することができなかった。そのため、生成物と無水マレイン酸との反応は試みなかった。
【0118】
ここに開示される態様について、様々な変更が可能である。従って、以上の説明は限定的に解釈されるべきではなく、好ましい態様の例示にすぎないとすべきである。例えば、上記および本発明を実施するための最良の態様として実行される機能は、説明のみを目的としている。その他の変更や方式も、本発明の範囲や精神を逸脱しない限り、当業者が実行できる。さらに当業者は、ここに書き添えられている請求項の範囲と精神の中で他の変更を実現できる。
本発明に包含され得る諸態様は、以下のとおり要約される。
[態様1]
(a)式(I)のポリアミンのスクシンイミドを、エチレン性不飽和カルボン酸または無水物と、式(I)のスクシンイミドに対するエチレン性不飽和カルボン酸または無水物の供給モル比を約0.9:1乃至約1.05:1の範囲にして反応させる工程;そして、
(b)工程(a)のスクシンイミド生成物を、酸性モリブデン化合物と反応させる工程;
を含む方法により製造されるモリブデン化スクシンイミド複合体:
[化1]
式中、Rは、約500乃至約5000の数平均分子量を有する炭化水素基であり;aおよびbは、独立に、2または3であり;そして、xは、0乃至10である。
[態様2]
Rが、約700乃至約2500の数平均分子量を有するポリイソブテニル基であり;aおよびbが、それぞれ2であり;そして、xが2乃至5である上記態様1のモリブデン化スクシンイミド複合体。
[態様3]
エチレン性不飽和カルボン酸または無水物がエチレン性不飽和モノカルボン酸または無水物である上記態様1または2に従うモリブデン化スクシンイミド複合体。
[態様4]
エチレン性不飽和カルボン酸または無水物がエチレン性不飽和ジカルボン酸または無水物である上記態様1または2に従うモリブデン化スクシンイミド複合体。
[態様5]
エチレン性不飽和カルボン酸または無水物が無水マレイン酸であり、そして、酸性モリブデン化合物が三酸化モリブデンである上記態様1または2に従うモリブデン化スクシンイミド複合体。
[態様6]
工程(a)のスクシンイミド生成物に対するモリブデン化合物のモル比が約0.1:1から約2:1までにある上記態様1乃至5のいずれかに従うモリブデン化スクシンイミド複合体。
[態様7]
(a)式(I)のポリアミンのスクシンイミドを、エチレン性不飽和カルボン酸または無水物と、式(I)のスクシンイミドに対するエチレン性不飽和カルボン酸または無水物の供給モル比を約0.9:1乃至約1.05:1の範囲にして反応させる工程;そして、
(b)工程(a)のスクシンイミド生成物を酸性モリブデン化合物と反応させる工程;
を含むモリブデン化スクシンイミド複合体の製造方法:
[化2]
式中、Rは、約500乃至約5000の数平均分子量を有する炭化水素基であり;aおよびbは独立に、2または3であり;そして、xは0乃至10である。
[態様8]
Rが、約700乃至約2500の数平均分子量を有するポリイソブテニル基であり;aおよびbが、それぞれ2であり;そして、xが2乃至5である上記態様7の方法。
[態様9]
エチレン性不飽和カルボン酸または無水物がエチレン性不飽和モノカルボン酸または無水物である上記態様7または8に従う方法。
[態様10]
エチレン性不飽和カルボン酸または無水物がエチレン性不飽和ジカルボン酸または無水物である上記態様7または8に従う方法。
[態様11]
エチレン性不飽和カルボン酸または無水物が無水マレイン酸であり、そして、酸性モリブデン化合物が三酸化モリブデンである上記態様7または8に従う方法。
[態様12]
工程(a)のスクシンイミド生成物に対するモリブデン化合物のモル比が約0.1:1から約2:1までである上記態様7乃至11のいずれかに従う方法。
[態様13]
(a)主要量の潤滑性粘度を有するベースオイル;および
(b)少量の上記態様1乃至6のいずれかに従うモリブデン化スクシンイミド複合体;
を含む潤滑油組成物。
[態様14]
組成物の全質量に対するリン含有量が0.05質量%以下であり、かつ組成物の全質量に対する硫黄含有量が0.4質量%以下である上記態様13の潤滑油組成物。
[態様15]
上記態様13または14に従う潤滑油組成物を用いて内燃機関を作動させる工程を有する内燃機関の作動方法。