(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
仮想音源法において、走査方向に並ぶ複数の送信焦点(仮想音源)を同じ深さに形成した場合、後に詳しく説明するように、隣接する低解像度イメージ間ごとに(あるいは走査面上における隣接仮想音源間ごとに)低音圧領域が生じてしまう。そのような低音圧領域は超音波イメージの画質を低下させるものである。なお、特許文献2には、振動子の各端部から出る球面波(エッジ波)を観測することにより、上記低音圧領域の問題を克服することが開示されている。しかし、その方法によって上記低音圧領域を十分に解消することは難しいと言わざるを得ない。
【0008】
本発明の目的は、仮想音源法に基づいて形成される超音波イメージの画質を高めることにある。あるいは、本発明の目的は、隣接サブイメージ(低解像度イメージ)間に低音圧エリア又は低画質エリアが生じないように、あるいは、それがあまり生じないようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、走査面上において隣接仮想音源間に低音圧エリア又は低画質エリアがあまり生じないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る超音波診断装置は、走査面上に複数の送信焦点として複数の仮想音源を形成する送信部と、前記各仮想音源の形成ごとに得られる受信信号列に対して仮想音源法に従う遅延加算処理を適用することによりサブイメージを形成するサブイメージ形成部と、前記複数の仮想音源に対応した複数のサブイメージを合成することにより超音波イメージを生成する合成部と、を含み、前記複数の仮想音源が前記走査面上に二次元的に広がる二次元仮想音源アレイを構成している、ことを特徴とするものである。
【0010】
上記構成によれば、超音波ビーム走査エリアである走査面上に、一次元仮想音源アレイではなく、二次元仮想音源アレイが形成される。それは走査面上において二次元パターンをもって広がる複数の仮想音源(つまり複数の送信焦点)からなるものである。走査方向に並ぶ複数の仮想音源の深さを揃えた場合、個々の隣接サブイメージ間に低音圧エリアが不可避的に生じてしまう。これに対して、走査方向に並ぶ複数の仮想音源が少なくとも2種類以上の深さを有していれば、走査面全体として、低音圧エリアの発生個数を少なくでき(あるいはそれをゼロにでき)、又は、低音圧エリアの総面積を小さくできる(あるいはそれをゼロにできる)。望ましくは、少なくとも観察対象となる走査面内の主要部(中央部分)において、低音圧エリアが生じないように、複数の仮想音源についての二次元パターンが定められる。
【0011】
上記構成において、送信ビームは、送信開口内の複数の振動素子を励振することにより形成される。望ましくは、上記の受信信号列は、受信開口内の複数の振動素子から出力される複数の素子受信信号からなるものである。仮想音源法に従う遅延加算処理は、少なくとも仮想音源から各受信点までの距離に対応する遅延時間が考慮された処理である。走査面上の少なくとも一部において、それに属する各受信点が複数の仮想音源に対応付けられ、つまり複数のサブイメージに覆われる。これによりその受信点について送信開口合成処理を適用できる。但し、走査面上の一部の受信点が1つの仮想焦点だけに対応付けられもよい。特に望ましくは、走査面上の実質的な全体において、各受信点が複数の仮想音源に対応付けられる。画質向上の観点からは、できるだけ多くの受信点ができるだけ多くの仮想音源に対応付けられるのが望ましい。望ましくは、受信時においてはパラレル受信技術が適用され、すなわち、1つの送信ビームの形成後に複数の受信ビームが並列的に形成される。上記のサブイメージは、個々の仮想音源ごとに生成される受信データ配列を表す概念である。望ましくは、サブイメージを構成する個々のデータは、検波処理される前のRFデータである。三次元データ取込空間中の少なくとも1つの平面(走査面)において、上記の二次元仮想音源アレイが形成されてもよい。
【0012】
望ましくは、前記仮想音源アレイは、第1の深さに設定された複数の第1仮想音源と、前記第1の深さとは異なる第2の深さに設定された複数の第2仮想音源と、を含む。望ましくは、前記複数の第1仮想音源と前記複数の第2仮想音源が走査方向に交互に形成される。このような構成によれば、形状の異なる2種類のサブイメージが交互に得られることになるので、個々の隣接サブイメージ間から低音圧エリアを除外することが容易となる。
【0013】
望ましくは、前記送信部は、第1開口サイズを有する第1送信開口から超音波を送波することにより前記第1の深さに設定された第1送信焦点を有する第1送信ビームを形成する機能と、前記第1開口サイズとは異なる第2開口サイズを有する第2送信開口から超音波を送波することにより前記第2の深さに設定された第2送信焦点を有する第2送信ビームを形成する機能と、を有し、前記サブイメージ形成部は、前記第1送信ビームの形成後に反射波を受信して得られる第1受信信号列に基づいて第1受信ビームデータ列を形成する機能と、前記第2送信ビームの形成後に反射波を受信して得られる第2受信信号列に基づいて第2受信ビームデータ列を形成する機能と、を有し、前記第1受信ビームデータに基づいて第1サブイメージが形成され、前記第2受信ビームデータに基づいて第2サブイメージが形成される。
【0014】
望ましくは、前記第1送信ビームは、前記第1送信焦点から手前側に広がる小さな逆三角形エリアと、前記第1送信焦点から奥側に広がる大きな三角形エリアと、からなる第1ビーム形状を有し、前記第2送信ビームは、前記第2送信焦点から手前側に広がる大きな逆三角形エリアと、前記第2送信焦点から奥側に広がる小さな三角形エリアと、からなる第2ビームパターンを有する。ここで、手前側は、送信焦点から浅い側であり、奥側は送信焦点から深い側である。
【0015】
望ましくは、前記サブイメージ形成部は、前記各仮想音源の形成ごとに得られる受信信号列に対して仮想音源法に従う遅延加算処理を適用することにより受信ビームデータ列を形成する遅延加算処理部と、前記受信ビームデータ列に対して重み分布を適用する重み付け部と、を含む。重み付け処理として、例えば、サブイメージ外に属する個々のデータを抑圧するための処理、サブイメージ内における音圧不均衡に対処するための重み付け処理、等があげられる。最終的な超音波イメージにおいて品質のむらができるだけ生じないように重み付け処理を行うのが望ましい。望ましくは、前記重み付け部は、前記受信ビームデータ列の内で送信ビームエリアから外れる部分に対して無効化用の重みを与える。この構成によれば、無効化対象となるデータ群を含んだサブイメージをいったん形成した上で、一般的な重み付けと同時に不要なデータ群を事後的に削除又は抑圧できる。
【0016】
望ましくは、前記送信部は、第1開口サイズを有する第1送信開口から超音波を送波することにより前記第1の深さに設定された第1送信焦点を有する第1送信ビームを形成する機能と、前記第1開口サイズとは異なる第2開口サイズを有する第2送信開口から超音波を送波することにより前記第1の深さとは異なる第2の深さに設定された第2送信焦点を有する第2送信ビームを形成する機能と、を含み、前記
遅延加算処理部は、前記第1送信ビームの形成後に反射波を受信して得られる第1受信信号列に基づいて第1受信ビームデータ列を形成する機能と、前記第2送信ビームの形成後に反射波を受信して得られる第2受信信号列に基づいて第2受信ビームデータ列を形成する機能と、を含み、前記重み付け部は、前記第1受信ビームデータ
列に対して第1重み分布を適用することにより第1サブイメージを形成する機能と、前記第2受信ビームデータ
列に対して第2重み分布を適用することにより第2サブイメージを形成する機能と、を含む。第1サブイメージの形成条件と第2サブイメージの形成条件とが相違するので、それぞれに応じた重み分布を用意しておき、適切な重み分布を適用するのが望ましい。更に、送信ビームごとに、つまり、走査方向の位置が異なるサブイメージごとに個別的に重み分布を用意しておいてもよい。
【0017】
(2)
後述する超音波診断装置は、走査面上に複数の送信焦点として複数の仮想音源を形成する送信部と、前記複数の仮想音源の形成により得られる複数の受信信号列をデータセットとして記憶する記憶部と、前記データセットに対して仮想音源法に従う遅延加算処理を適用することにより超音波イメージを生成する合成部と、を含み、前記複数の仮想音源が前記走査面上に二次元的に広がる二次元仮想音源アレイを構成している、ことを特徴とするものである。
【0018】
上記構成においては、複数の送信焦点としての複数の仮想音源の形成によりデータセットが取得され、それに対して仮想音源法に基づく遅延加算処理を適用することにより超音波イメージが形成される。この処理では、複数のサブイメージを生成することなく、データセットから直接的に超音波イメージが生成される。そのような場合でも、複数の仮想音源が同じ深さに形成されると、走査面上における仮想音源間に低音圧領域が不可避的に生じてしまう。上記構成によれば、複数の仮想音源が二次元的に広がっているので、低音圧領域が生じることを回避又は低減できる。
【0019】
望ましくは、前記仮想音源アレイは、第1の深さに設定された複数の第1仮想音源と、前記第1の深さとは異なる第2の深さに設定された複数の第2仮想音源と、を含む。望ましくは、前記複数の第1仮想音源と前記複数の第2仮想音源が走査方向に交互に形成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、仮想音源法に基づいて形成される超音波イメージの画質を高められる。あるいは、本発明によれば、隣接サブイメージ(低解像度イメージ)間に低音圧エリア又は低画質エリアがあまり生じないようにできる。あるいは、本発明によれば、走査面上において隣接仮想音源間に低音圧エリア又は低画質エリアがあまり生じないようにできる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
(1)一般的な送受信方式
まず、
図1を用いて、一般的な送受信方式について説明する。アレイ振動子10は、
図1において、x方向に沿って直線的に配列された複数の振動素子11により構成される。
図1において、x方向が走査方向(方位方向)であり、z方向が深さ方向(ビーム方向)である。アレイ振動子10上に送信開口12が設定され、それに属する複数の振動素子を一定の遅延関係をもって励振することにより送信ビーム14が形成される。送信ビーム14は、設定された深さに形成された送信焦点16を有する。送信ビーム14において、送信焦点よりも浅い側(上側)及び深い側(下側)は徐々に広がっている。なお、各図において、送信ビームは模式的に描かれている。
【0024】
送信ビームの形成後、反射波を受波することにより素子受信信号列が得られる。その際に受信ダイナミックフォーカス技術が適用され、これにより電子的に受信ビームが形成される。符号18は、受信ビームに相当する受信ビームデータを表している。受信開口内の複数の振動素子から出力された複数の素子受信信号に対して動的に遅延条件を変化させながら加算処理を適用することにより受信ビームデータ18が得られる。受信ビームデータ18は、深さ方向に並ぶ複数の受信点(サンプル点)に対応する複数の受信データ(エコーデータ)20からなるものである。なお、送信開口と受信開口とを一致させる場合と両者を異ならせる場合とがある。
【0025】
符号22は、送信ビーム14と、受信ビーム(
図1では受信ビームに対応する受信ビームデータ18が示されている)と、からなる送受信ビームセットを示している。方位方向(走査方向)の各位置において送受信ビームセット22を形成することにより、1走査面分つまり1受信フレーム分に相当する複数の受信ビームデータ18が得られる。なお、1つの送信ビーム14当たり、走査方向に並んだ複数の受信ビームを形成するパラレル受信技術が適用される場合もある。
【0026】
(2)仮想音源を利用した開口合成法(仮想音源法)
図2には仮想音源法の一例が示されている。図示の例では、アレイ振動子10に対して送信用信号線列24が接続されており、信号線列24の途中から受信用信号線列26が引き出されている。アレイ振動子10に対しては送信開口X0が設定されており、それに属する複数の振動素子に対し、遅延カーブ28で示される遅延関係を有する複数の送信信号が供給される。すると、送信ビーム30aが形成される。送信ビーム30aは送信焦点32aを有する。同様に、走査方向において送信位置を変えながら、送信ビーム30b、送信ビーム30c、・・・が形成される。それらは送信焦点32b、送信焦点32c、・・・を有する。
図2において、それらの深さは同一であり、つまりZ0である。なお、
図2には示されていないが、この例では、送信ビームごとに、パラレル受信技術の適用により、送信ビームエリアの全体又は主要部をカバーするように、1回の送受信で、複数の受信ビームが形成される。
【0027】
いま、受信点pに着目する。受信点pは図示の例において3つの送信ビーム30a,30b,30cに覆われている。換言すれば、3つの送信ビーム30a,30b,30cに対応付けられている。各送信焦点32a,32b,32cはそれぞれ仮想音源とみなせる(以下、場合により「送信焦点」を「仮想音源」と称する。)。つまり、その手前側及び奥側において、仮想音源を原点とした球面波を観念することができる。
図2には、仮想音源32aから出た球面波が図示されている。受信点pには、3つの仮想音源32a,32b,32cに由来する3つの球面波成分36a、36b、36cが到達する。それらの位相を合わせて合成することにより、受信点pにおいて大きな振幅を観測することが可能である。つまり、例えば、送信ビーム30a形成後の受信処理においては、受信点pにおいて通常の受信ダイナミックフォーカスを実現するための遅延条件に加えて、仮想音源32aと受信点pとの間の距離に応じた遅延条件を考慮して、遅延処理が実行される。
図2においては、受信点pから受信開口内の特定の振動素子11aまでの距離が符号38aで示されおり、その際の伝搬時間はt2である。受信ダイナミックフォーカスでは、振動素子11aからの素子受信信号に対して、伝搬時間t2に対応した遅延時間が与えられる。送信開口合成では、その信号に対して、球面波の伝搬時間t1に対応した遅延時間が与えられる。同様の受信処理が送信ビーム30b,30cの形成後の受信処理においても実行される。受信点pをカバーする送信ビーム数が多くなればなるほど(送信開口合成数が多くなればなるほど)、受信点においてより大きな振幅を得られ、つまり超音波イメージの画質を高められる。逆に言えば、仮想音源法では、超音波イメージの画質を高められるので、その分だけ送信ビーム本数を低減して、フレームレートを向上させることが可能である。
【0028】
なお、仮想音源法では、受信点pにおいて、送信開口合成で用いられる仮想音源範囲(つまり仮想音源開口)は、受信点pが存在する深さでの送信ビームの走査方向幅に相当する。具体的には、受信点pが仮想音源32bから離れれば離れるほど、深さ方向の距離Z1に比例して、仮想音源開口X1が大きくなる。つまり、仮想音源法では、受信点の深さによらずに、常に同じf
#(=Z1/X1)となる。このf
#は、実際の送信開口X0と送信焦点距離Z0とによって決まり、f
#=Z0/X0である。
【0029】
図3には、複数のサブイメージ40が示されている。1つのサブイメージ40は、1つの送受信ビームセットに対応する。図示の例では、1つの送信ビーム44ごとに、それをカバーするように、受信ビーム列46が形成されている。受信ビーム列46は、走査方向に並んだ複数の受信ビーム46a〜46eにより構成されている。但し、受信ビーム列46において、送信ビーム44のエリアからはみ出す部分は、画像化に適する感度を得られないので、無効とされている。例えば、受信ビーム46dにおける送信焦点
45の近傍の区間48は無効部分である。受信ビーム46dにおけるそれ以外が有効部分である。無効部分のデータの無効化処理は、例えば、受信ビームデータ形成時に行うことができ、あるいは、後に説明するように事後的な重み付け処理時に行うことができる。
【0030】
受信ビーム列46は、二次元の受信データアレイを構成しており、それはサブイメージ52として観念される。サブイメージ52は送信開口合成処理前のイメージであるため低解像度イメージである。ちなみに、サブイメージ52は、送信焦点
45よりも手前側に存在する逆三角形部分52Aと、送信焦点
45よりも奥側に存在する三角形部分52Bと、からなる。
図3に示す例では、超音波イメージを構成する複数のサブイメージがそれぞれ同じ形状を有している。
【0031】
図3に示されるように、個々の隣接サブイメージ間に、隙間としての低音圧領域58が生じている。
図3では、個々の低音圧領域58が菱形の図形で表されている。各低音圧領域58は送信ビーム44のエリアから外れる領域であり、画像化に適さない領域である。それ故に、受信ビームデータの処理においては上記のような無効化処理が適用されている。複数のサブイメージ52を合成して超音波イメージを構成した場合、複数の低音圧領域58に対応して複数の低画質領域が生じてしまう。このように、複数の仮想音源を一律に同じ深さに設定すると、超音波イメージの画質を高めることが困難である。
【0032】
(3)超音波診断装置の構成
図4には本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されている。この超音波診断装置は、医療機関に設置され、人体に対して超音波診断を実行するものである。この超音波診断装置は、仮想音源法に従って超音波イメージを形成する機能を備えている。超音波イメージは、例えば、Bモード断層画像である。本実施形態では、後に詳述するように、上記で説明した低音圧領域が生じないように、複数の仮想音源が二次元に配列されている。
【0033】
図4において、プローブ60は、生体に当接した状態で超音波の送受波を行う送受波器である。プローブ60はアレイ振動子を有している。アレイ振動子によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームが電子的に走査される。電子走査方式として、本実施形態では電子リニア走査方式が利用されている。
【0034】
送信部62は、電子回路として構成された送信ビームフォーマーである。送信部62からアレイ振動子に対して、所定の遅延関係をもった複数の送信信号が供給される。これにより送信ビームが形成される。走査方向に位置を異ならせながら、送信ビームが繰り返し形成される。本実施形態では、第1の深さの第1送信焦点を有する第1送信ビームと、第2の深さの第2送信焦点を有する第2送信ビームと、が交互に形成される。第1の深さは例えば浅い位置に設定され、第2の深さは、例えば、第1の深さよりも深い位置に設定される。第1送信ビームの形成に際しては、例えば、小さな第1送信開口が設定され、第2送信ビームの形成に際しては、例えば、第1送信開口よりも大きな第2送信開口が設定される。第1送信ビームの形状と第2送信ビームの形状は相互に相違する。以上のとおり、ビーム走査面上に、複数の送信焦点(つまり複数の仮想音源)の二次元パターンが構成される。これに関しては後に
図5乃至
図8を用いて詳述する。
【0035】
受信部64は、電子回路として構成された受信ビームフォーマーである。具体的には、受信部64は、1つの送信ビーム当たり、複数の受信ビーム(複数の受信ビームデータ)を形成するパラレル受信機能を備えている。個々の受信ビームの形成に際しては受信ダイナミックフォーカス技術が適用される。具体的には、受信部は、遅延処理及び加算処理を実行する遅延回路及び加算回路を有している。その他にA/D変換器等を有する。遅延回路においては、受信開口から取り出された複数の素子受信信号に対して遅延処理が施される。その場合における遅延時間には、受信ダイナミックフォーカス用の遅延時間と、仮想音源(送信焦点)からの球面波成分用の遅延時間と、が含まれる。すなわち、仮想音源法に従った遅延処理が実行される。遅延処理後の複数の素子受信信号は加算回路において加算され、これにより受信ビームデータが得られる。実際には、時分割処理により、1つの送信ビーム当たり、複数の受信ビームデータが得られることになる。それらはサブイメージを構成する。個々の受信ビームデータは複数の受信点に対応する複数の受信データからなり、個々の受信データはRF信号に相当する。
【0036】
本実施形態においては、受信部64は、複数のサブイメージを空間的に合成して超音波イメージを形成する合成回路を備えている。超音波イメージはスキャンコンバート前のデータアレイである。第1送信ビーム後の受信処理により、第1送信ビーム形状に従った形状を有する第1サブイメージが生成される。第2送信ビーム後の受信処理により、第2送信ビーム形容に従った形状を有する第2サブイメージが生成される。超音波ビームの走査に伴い、第1サブイメージと第2サブイメージとが交互に得られることになる。合成回路はそれらのサブイメージを順次加算し、最終的に超音波イメージを形成する。サブイメージの順次合成に際して、後述する重み付け処理が施される。受信部64が有する機能については後に
図9及び
図10を用いて説明する。
【0037】
制御部66は、CPU及び動作プログラムにより構成され、それが有する送受信制御機能が
図4においてブロック(送受信制御部)68として示されている。送受信制御部68は、仮想音源法を実現するために送信部62及び受信部64を制御している。二次元仮想音源配列を決定するパラメータ群は送受信制御部68によって設定されている。
【0038】
ビームデータ処理部70は、検波回路、対数圧縮回路、等の回路を備えている。それらによって個々の受信ビームデータが段階的に処理される。それらの処理を経た受信ビームデータが画像形成部72へ送られる。画像形成部72は、電子回路としてのデジタルスキャンコンバータにより構成されている。それは、送受波座標系に従うデータアレイを表示座標系に従うデータアレイに変換する機能、データを補間する機能、フレームレートを調整する機能、等を有している。画像形成部72において、表示フレームデータが生成され、それが表示処理部74を経由して表示器76に送られる。表示器には表示フレームデータが表示される。例えばBモード断層画像が画面上に表示される。本実施形態では、送信開口合成時に生じる低音圧領域の発生が防止されているため、Bモード断層画像の画質を高められる。操作パネル78は入力デバイスであり、それはトラックボール、キーボード等を有する。制御部66は、
図4に示されている各構成の動作制御を行うものである。
【0039】
(4)二次元配列型の仮想音源法
図5及び
図6には、本実施形態に係る超音波診断装置において、交互に形成される第1送受信ビームセット及び第2送受信ビームセットが模式的に示されている。
【0040】
図5に示される第1送受信ビームセットは、第1の深さに存在する第1送信焦点83を有する送信ビーム
82と、それを覆うように設けられた受信ビーム列84と、からなる。符号80は第1送信開口を示している。受信ビーム列84は、走査方向に並ぶ複数の受信ビームにより構成され、センターの受信ビームを除いて、各受信ビームには送信ビームエリアを外れる部分としての無効部分が生じている。受信ビーム列は受信ビームデータ列に相当し、それはサブイメージ86に相当する。
【0041】
図6に示される第2送受信ビームセットは、第1の深さよりも深い第2の深さに存在する第2送信焦点91を有する送信ビーム90と、それを覆うように設けられた受信ビーム列92と、からなる。符号88は第2送信開口を示している。その第2送信開口88は第1送信開口80よりも大きい。受信ビーム列92は、走査方向に並ぶ複数の受信ビームにより構成され、センターの受信ビームを除いて、各受信ビームには送信ビームエリアを外れる部分としての無効部分が生じている。受信ビーム列は受信ビームデータ列に相当し、それはサブイメージ94に相当する。
【0042】
図7には、走査方向に送受信位置を変えながら、第1送受信ビームセットと第2送受信ビームセットとを交互に繰り返し形成する場合の様子が示されている。まず、位置C1を中心として、送信開口(第1送信開口)A1が設定され、送信焦点(第1送信焦点)F1を有する送信ビーム(第1送信ビーム)が形成される。その後、仮想音源法及びパラレル受信技術に従った遅延加算処理により複数の受信ビームデータが得られる。それがサブイメージ(第1サブイメージ)LRI1である。サブイメージLRI1は、送信焦点F1よりも手前側に存在する小さな逆三角形エリアと、送信焦点F1よりも奥側に存在する大きな三角形エリアと、からなる。
【0043】
次に、位置C2を中心として、送信開口(第2送信開口)A2が設定され、送信焦点(第2送信焦点)F2を有する送信ビーム(第2送信ビーム)が形成される。その後、仮想音源法及びパラレル受信技術に従った遅延加算処理により複数の受信ビームデータが得られる。それがサブイメージLRI2である。サブイメージLRI2は、送信焦点F2よりも手前側に存在する大きな逆三角形エリアと、送信焦点F2よりも奥側に存在する小さな三角形エリアと、からなる。
【0044】
それ以降、上記同様に、第1サブイメージの形成と第2サブイメージの形成とが交互に繰り返される。
図7には、7つのサブイメージLRI1〜LRI7が示されている。走査面上の主要な部分(中間部分)に属する個々の受信点には2つ又はそれ以上の送信ビームが対応付けられており、つまり、当該受信点は2つ又はそれ以上のサブイメージによって覆われている。走査面内には1つの送信ビームのみに対応付けられている幾つかの受信点もある。実際には多数の受信点のそれぞれが多数のサブイメージによって覆われる。なお、C1〜C7は個々のサブイメージの中心位置を示している。F1〜F7は個々のサブイメージ中の仮想音源(送信焦点)を示している。A1〜A7は個々の送信開口を示している。
【0045】
以上のように第1サブイメージの形成と第2サブイメージの形成とを交互に繰り返すと、結果として、二次元ジグザグパターンをもった二次元仮想音源アレイが構成される。そのアレイにおいて、ある仮想音源の深さは、両隣の仮想音源の深さとは異なっている。
図7に示されるように、複数のサブイメージの部分的なオーバーラップの繰り返しにより、複数の低音圧領域の発生が防止されている。すなわち、第1サブイメージの仮想音源の両隣エリアが、少なくとも、当該第1サブイメージの両隣に存在する2つの第2サブイメージによって覆われている。走査方向における仮想音源ピッチを小さくすることにより、個々の受信点を覆うサブイメージ数を増大できる。そこで、要求フレームレートを満たす限りにおいて、仮想音源ピッチを小さくするのが望ましい。超音波イメージにおいて黒抜け(イメージ欠落)を防止するには観察対象となる主要エリアにおいて個々の受信点が少なくとも1つのサブエリアにカバーされるように二次元仮想音源配列、送信ビーム形状等を定めるのが望ましい。
【0046】
第1サブイメージと第2サブイメージとの間で走査方向分解能を均一にするためには、2つのサブイメージを形成するための2つの送信ビームの形成において、F
#(つまり送信焦点距離/送信開口幅)を一定とするのが望ましい。
【0047】
図8には、二次元仮想音源配列の第2例が示されている。この第2例では、走査方向において、仮想音源ピッチが最大限広げられている。この第2例でも、走査方向に送受信位置を変えながら、第1送受信ビームセットと第2送受信ビームセットとが交互に繰り返し形成される。
【0048】
まず、位置C1aを中心として、送信開口(第1送信開口)A1aが設定され、送信焦点(第1送信焦点)F1aを有する送信ビーム(第1送信ビーム)が形成される。その後、仮想音源法及びパラレル受信技術に従った遅延加算処理により複数の受信ビームデータが得られる。それがサブイメージ(第1サブイメージ)LRI1aである。次に、位置C2aを中心として、送信開口(第2送信開口)A2aが設定され、送信焦点(第2送信焦点)F2aを有する送信ビーム(第2送信ビーム)が形成される。その後、仮想音源法及びパラレル受信技術に従った遅延加算処理により複数の受信ビームデータが得られる。それがサブイメージ(第1サブイメージ)LRI2aである。この第2例では、送信焦点F1aを有する送信ビームの前縁(走査方向前側の縁)に対して、送信焦点F2aを有する送信ビームの後縁(走査方向後側の縁)に隙間無く僅かに重複するように、送信開口A2a、送信焦点F2a等が設定されている。
【0049】
以下同様に、3番目以降の各サブイメージLRI3a〜LRI7aが順次形成される。その場合においても、前に形成されたサブイメージに対して部分的に僅かに重複するように次に形成されるサブイメージの位置及び形状が定められている。なお、C1a〜C7aは個々のサブイメージの中心位置を示している。F1a〜F7aは個々のサブイメージ中の仮想音源(送信焦点)を示している。A1a〜A7aは個々の送信開口を示している。
【0050】
この第2例によると、多くの受信点において送信開口合成数が少なくなるが(1つになってしまうが)、超音波イメージにおいて画像欠落を防止することは可能であり、しかもフレームレートを大幅に引き上げられる。診断の目的その他に応じて仮想音源ピッチを含むその二次元配列を切り換えられるように構成するのが望ましい。
【0051】
(5)受信部の構成
図9には、受信部における処理内容の第1例が示されている。個々のブロックはハードウエア回路によって構成され得る。遅延加算処理100では、仮想音源法に従った遅延処理が適用される。本実施形態ではパラレル受信技術も適用される。具体的には、遅延加算処理100では、素子受信信号列に対する遅延処理、及び、遅延処理後の素子受信信号列に対する加算処理、が実行される。素子受信信号列に対する遅延加算処理100により受信ビームデータ列102が構成される。具体的には、第1送信ビームに対応する第1受信ビームデータ列と、第2送信ビームに対応する第2受信ビームデータ列と、が交互に生成される。それらは第1サブイメージ及び第2サブイメージを構成するものである。
【0052】
重み分布記憶部106はメモリにより構成される。重み分布記憶部106は、少なくとも、第1受信ビームデータ列に対して適用する第1重み分布108Aと、第2受信ビームデータ列に対して適用する第2重み分布108Bと、を備えている。実際には、送受信位置によって送受信条件が異なるために、本実施形態では、送信ビームごとに、つまり受信ビームデータ列ごとに、重み分布が用意されている。重み処理104では、個々の受信ビームデータ列に対してそれに対応する重み分布が適用され、これにより、重み付け処理後の第1受信ビームデータ列102Aと重み付け処理後の第2受信ビームデータ列102Bとが交互に生成される。加算処理108では、重み付け処理後の複数の受信ビームデータ列が合成され、超音波イメージ110が生成される。この処理は送信開口合成に相当するものである。実際には、超音波イメージ110は走査方向に並ぶ複数の受信ビームデータからなるものである。送信開口合成に際してライン間補間処理、フレーム間補間処理、等が適用されてもよい。超音波イメージ110は後段のビームデータ処理回路へ送られる。
【0053】
図9に示した第1例では、重み処理104において、送信ビームエリアから外れるデータを無効化する除外処理が実行される。つまり、送信ビームエリアから外れる地点に対しては重み0が乗算される。このように送信ビームエリア内における重み付けと一緒に送信ビームエリア外に対する無効化処理を実行すれば演算量を削減でき、ハードウエア構成を簡略化できる。
【0054】
これに対して、
図10に示される第2例では、遅延加算処理112の段階で、送信ビームエリアから外れるデータに対して無効化処理が施されている。すなわち、遅延加算処理では、仮想音源法及びパラレル受信技術に従った遅延処理が実行された上で加算処理が実行される。その際のいずれかの段階において、送信エリアから外れるデータが除外される。例えば、送信エリア内のデータだけを抽出するゲート処理を施してもよい。これにより、無効化処理後の第1及び第2受信ビームデータ114A,114Bが生成される。重み処理116においては、第1及び第2受信ビームデータ114A,114Bに対して、第1及び第2重み分布120A,120Bが乗算される。その際においてはこの第2例では送信ビームエリア内の重み付け処理だけが実行される。実際には個々の受信ビームデータごとに専用の重み分布を用意しておくのが望ましい。重み処理後の第1及び第2受信ビームデータ114A’,114B’が加算処理108に送られ、最終的に超音波イメージ110が生成される。
【0055】
(6)他の実施形態
図11には仮想音源法に基づく電子セクタ走査方式が示されている。通常、アレイ振動子
117の全体が送信開口及び受信開口を構成する。電子セクタ走査においても、方位方向に第1送信ビームと第2送信ビームとが交互に形成される。図示の例では、第1送信焦点120を有する第1送信ビーム126、第2送信焦点122を有する第2送信ビーム128、第1送信焦点124を有する第1送信ビーム130が順次形成されている。走査面118において、複数の送信焦点つまり複数の仮想音源が二次元ジグザグパターンを構成しており、その点において
図7及び
図8に示した実際形態と同じである。複数のサブイメージを形成した場合に、この態様においても、隣接サブイメージ間に低音圧領域が生じることが確実に防止されている。
【0056】
電子セクタ走査方式においては、例えば
図12及び
図13に示すような受信ビーム列を構成してもよい。
図12には上記第1送信ビーム140に対応して形成される第1受信ビーム列146が示されている。それは送信焦点142で互いにクロスする複数の受信ビーム148からなる。
図13には上記第2送信ビーム132に対応して形成される第2受信ビーム列136が示されている。それは送信焦点134で互いにクロスする複数の受信ビーム138からなる。このような構成によれば、受信ビームデータが送信ビームエリアからはみ出ないので、それに対する無効化処理が不要である。
【0057】
以上のように、仮想音源法において、均一の深さに複数の仮想音源を設定した場合、個々の仮想音源の左右に低音圧領域が生じるが、以上のような二次元仮想音源配列によれば、そのような低音圧領域の生成を防止することができる。パラレル受信技術においては、送信ビームの中心点に対する個々の受信ビームデータの位置に応じて感度や分解能が相違するので、また、開口合成法においては各受信点において複数の受信データを合成する際に個々の受信データ間で感度や分解能が相違するので、それらを踏まえて重み付け処理を適用するのが望ましい。その際に有効エリアから外れたデータの無効化処理を一緒に行えばデータ処理効率を高められる。
【0058】
上記処理において、送信ビームエリアの縁は、例えば、走査方向において音圧ピークから音圧が所定dB(例えば−3dB)降下した地点として定めることができる。また上記処理において、受信ビームを形成することなく、仮想音源法を用いて超音波イメージを形成することも可能である。その場合、所定の順序で、受信点ごとに受信開口処理が実行され、これにより画素データ配列が生成される。その場合においても、受信点で球面波の位相が合うように遅延条件が設定される。
【0059】
図14には、第2の実施形態における受信部の構成例が示されている。送信部の構成は、既に説明したものと同じである。すなわち、走査面上に二次元仮想音源アレイが形成される。各仮想音源の形成ごとに、受信信号列(受信開口からの複数の素子受信信号)が得られ、それは記憶部150に順次格納される。複数の仮想音源の形成により得られる複数の受信信号列が記憶部150に格納される。複数の受信信号列はデータセットを構成するものである。合成部152は、データセットを用いて、仮想音源法に基づく整相加算処理を実行することにより、超音波イメージを形成する。この第2の実施形態では、複数のサブイメージを形成することなく、データセットから直接的に超音波イメージが形成されている。この第2の実施形態においても、複数の仮想音源が二次元的に広がったアレイを構成しているので、走査面上において隣接仮想音源間に生じる低音圧領域又は低画質領域を除外又は軽減することが可能である。
【0060】
なお、三次元空間内に形成される個々の走査面上に上記二次元仮想音源アレイが形成されてもよい。更に、上記手法を発展させて仮想音源法に基づく三次元整相加算処理を実現するようにしてもよい。