(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施例1〕
図1は実施例1の電動車両の充電ポート装置を備えた車両の充電時の様子を表す概略図である。車両3の前方であって、ボンネットフード31より更に前方側には、車両3のフロアに搭載された車載バッテリ6とケーブル43により電気的に接続された充電ポート4が設けられている。この充電ポート4は、タイヤホイルアーチ33の上端と略同じ高さであってサイドミラー34よりも低い位置に設けられ、非充電時は充電リッド32により閉塞されている。充電スタンド1には、電力供給用の充電用コネクタ2が設けられており、充電時には、充電リッド32を開き、充電用コネクタ2を充電ポート4に差し込んで接続することで、充電を実施する。尚、実施例1の車両では、急速充電器に接続する場合の急速充電ポートと、家庭用電気等で充電する場合の通常充電ポートとの両方を備えており、実施例1の場合は通常充電ポートを例に説明する。急速充電ポートを使用する場合、比較的短時間の接続であり、長時間放置するような場面は少ないからである。尚、急速充電ポート側にロック機構を備えてもよいことは言うまでもない。
【0010】
図2は実施例1の充電用コネクタと充電ポートとを接続した状態を表す概略断面図である。充電ポート4は、ボディ構成部材B1にブラケット74を介して車両側に固定され充電用コネクタ2が挿入される被挿入部材41と、被挿入部材41と車体内側において接続されたケーブル43と、このケーブル43の接続部を被覆するチューブ42とを有する。被挿入部材41の外周には凸部41a(被係合部)が形成され、被挿入部材41の内周には挿入部22と所定の位置関係においてのみ挿入可能とする挿入穴が形成されている。
【0011】
充電用コネクタ2は、一般に広く設置されるタイプであり、統一規格により形式やサイズが決定された規格品であり、操作者によって車両の充電ポート4に接続される。充電用コネクタ2は、操作者が把持するグリップ部21と、車両側の充電ポート4に対して挿入される挿入部22と、操作者により充電ポート4との間で係合・解除が可能な係合部材23とを有する。係合部材23は、充電用コネクタ2を充電ポート4に接続したときに、充電ポート4側に設けられた凸部41aと係合することで、充電ポート4から充電用コネクタ2を抜き出す方向への移動を規制する。
【0012】
係合部材23は、充電用コネクタ2のケース部材に対して固定された支持点23cを中心として回動する部材である。係合部材23は、図示しない弾性体により解除ボタン23aが
図2中上方に位置するように(爪部23dが
図2中下方に位置するように)付勢されている。グリップ部21側の端部には、操作者がグリップ部21を把持したまま押圧可能な解除ボタン23aを有する。一方、挿入部22側の端部には、凸部41aと係合する爪部23dを有する。爪部23dは先端部分が挿入方向に対して滑らかな曲面を有する曲面部23d1と、抜き方向に対して鋭角な段部23d2と、を有するカギ爪形状である。一方、凸部41aの車体外側となる端面には斜面41a1が形成され、車体内側となる端面には抜き方向に対して略垂直な係合面41a2が形成され、これにより異方凸形状を形成している。
【0013】
充電用コネクタ2を充電ポート4に挿入するときには、特段の解除ボタン23a操作をすることなく、爪部23dの先端部分の曲面部23d1が凸部41aの斜面を乗越えられる。その後、段部23d2が係合面41a2を通過すると、図外の弾性体の作用により爪部23dが下方に押し下げられ、爪部23dと凸部41aとが係合する。尚、解除ボタン23aを押しながら充電用コネクタ2を挿入してもよい。これにより、操作者が解除ボタン23aを操作しない状態で充電用コネクタ2を抜き出す方向に引っ張ったとしても、段部23d2と係合面41a2とが係合することで抜き出す方向への移動を規制する。この係合を解除する際には、解除ボタン23aを押し込むことで係合部材23を支持点23c中心に回動させ、爪部23dを係合面41a2よりも上方に移動させることで係合が解除される。
【0014】
図3は実施例1のロック機構の構成を表す側面図、
図4は実施例1のロック機構の構成を表す底面図である。
充電ポート4の上方には、係合部材23の回動を制限するロック機構7が設けられている。ロック機構7は、爪部23dが凸部41aから離間する方向に位置することで離間を制限する状態(以下、ロック状態)を達成し、離間する方向に位置しないことで離間を制限しない状態(以下、アンロック状態)を達成するスイングアーム71と、このスイングアーム71を駆動するロックアクチュエータ73と、ロックアクチュエータ73及び充電ポート4の被挿入部材41を固定支持するブラケット74とを有する。
【0015】
図3の側面図及び
図4の底面図に示すように、ブラケット74は、ロックアクチュエータ73をボルト74eにより固定支持する上面部74dと、上面部74dからスイングアーム71の可動範囲を覆うように延設された支持延設部74bと、上面部74dに対して略直角に折り曲げられ被挿入部材41等がボルトにより取り付けられる側面部74cと、上面部74dに対向する側から取り付けられ、ロックアクチュエータ73を上面部74dと挟み込むカバー部材74gを有する。上面部74dとロックアクチュエータ73とカバー部材74gとは、複数のボルト74e及びナット74fにより一体に組み付けられる。上面部74dには、後述する固定ネジ72を操作可能なフェール時強制作動用開口74aが形成され(
図2,7等参照)、操作者がボンネットフードを開けてドライバ等で回動可能とされている。尚、理由については後述する。また、支持延設部74bとスイングアーム71との間には、スイングアーム71の動作をアシストするトグルスプリング100が設けられている。トグルスプリング100は、スイングアーム71がロック状態となる位置よりも手前位置からロック状態となる位置に向けてトルクを付与する。同様に、スイングアーム71がアンロック状態となる位置よりも手前位置からアンロック状態となる位置に向けてトルクを付与する。尚、トグルスプリング100の詳細については後述する。
【0016】
図5は実施例1のロック機構の機械構成を表す内部構造図である。ロックアクチュエータ73は、外部電源及びコントローラと接続するコネクタ部73aと、指令信号に基づいて回転駆動するモータ731と、モータ731のロータと一体に回転するウォーム732と、ウォーム732と噛合し回転するウォームホイール734と、ウォームホイール734より小径であってウォームホイール734と同一回転軸を有し、ウォームホイール734と相対回転する駆動ギヤ734aと、駆動ギヤ734aと噛合し外周に歯面を有する従動部材735と、を有する。ウォームホイール734の盤面には部分的に隆起した係合凸部7341が設けられ、駆動ギヤ734aの外径には、略扇形に延在された被係合部734a1が形成されている。ウォームホイール734が回転すると、係合凸部7341も回動する。このとき、係合凸部7341と被係合部734a1とが係合していない状態では、駆動ギヤ734aは回動しない。係合凸部7341と被係合部734a1とが係合すると、これにより駆動ギヤ734aは回動を始める。この動作は、ウォームホイール734が
図5中、時計回りに回転する場合であっても、反時計回りに回転する場合であっても、同様に作用する。
【0017】
実施例1では、スイングアーム71がロック状態もしくはアンロック状態となる位置よりも手前側までモータ731のトルクにより回動させる構成(電気式駆動機構に相当)となっており、それ以降、すなわちロック状態もしくはアンロック状態となる位置まではトグルスプリング100のトルクによってスイングアーム71を回動させる(機械式駆動機構に相当)。このとき、従動部材735は、トグルスプリング100のトルクにより更に回動する。このとき、モータ731と一体に作動するウォームホイール734の係合凸部7341に対し、従動部材735と一体に作動する被係合部734a1とが離間する方向に回動するため、モータ731の動きはこの回動に影響を与えない。このように構成することで、仮に、モータ731に異常が生じて回転駆動できなくなった場合であっても、手動操作でスイングアーム71を回動させて解除する際、容易に回動することができるものである。尚、トグルスプリング100との関係については後述する。
【0018】
従動部材735は、略扇形であって外周に歯面が形成された噛合部735aと、スイングアーム71と一体となるように組みつけられる回動軸部735bとを有する。スイングアーム71は回動軸部735bを回動軸として作動する部材であり、言い換えると、充電用コネクタ2の抜き差し方向と異なる方向であって、かつ、係合部材23の回動軸方向と異なる回動軸を有する。実施例1のロック機構は、スイングアーム71が所定角度範囲で作動すればよいため、部分的に歯面を有する従動部材735を用いることで、小さなモータ731であってもトルクを確保した作動を実現できる。尚、このロックアクチュエータ73は、一般の車両のオートドアロック機構等にも採用されているものであり、これらの部品をそのまま流用することで製造コストの低減を図ることもできる。
【0019】
図6は実施例1のロック機構のスイングアームの構成を表す上面図である。スイングアーム71は、ロックアクチュエータ73の回動軸部735bに相対回転しないように取り付けられる取り付け部710と、取り付け部710の外周を覆う円筒状の円筒壁713とを有する。取り付け部710には円周上に三箇所の凹部712が形成され、この凹部712に回動軸部735b側に形成された凸部が嵌り込むことで回転方向への相対移動を規制する。取り付け部710の中心には貫通孔711が形成され、スイングアーム71と回動軸部735とを一体に固定する固定ネジ72が貫通する。この貫通孔711は、スイングアーム71の上部とロックアクチュエータ73側とを連通状態とするため、仮に凍結等によってスイングアーム71の作動が困難となり、お湯をかけて凍結状態を改善する場合には、お湯が流通する流通路としても機能することで、素早く凍結状態を改善するものである。固定ネジ72は、回動軸部735側に設けられた雌ネジ部によりネジ止めされ、これにより回動軸部735とスイングアーム71とが一体に作動する。
【0020】
ここで、固定ネジ72の締め付け方向は、スイングアーム71がロック解除方向に回動する方向と同じに設定している。すなわち、ロックアクチュエータ73にフェール等が発生し、全く解除動作が出来なくなった場合であっても、この固定ネジ72を締めこむことで、スイングアーム71を解除方向に回動させることを可能とするためである。
【0021】
図7は実施例1の充電用コネクタと充電ポートとを接続した状態における概略斜視図である。
図7及び
図2を参照して詳述すると、この固定ネジ72は、フェール時強制作動用開口74a内であって、ボンネットフード内に露出するように設けられている。ボンネットフードを開けるには、通常、車室内のボンネットフード解除レバーを操作する。この解除レバー操作ができれば、簡単にアクセス可能な位置とされており、言い換えると、充電リッド32を開けたとしてもアクセスできない位置とされている。よって、車室内にアクセスできない他者が勝手に操作することはできないように工夫されている。また、車載工具等に装備されているプラスドライバ等で簡単に操作可能とされているため、操作者により解除可能である。
【0022】
円筒壁713から
図6中の左側には板状のアーム部材71dが延在されている。このアーム部材71dは先端において扇状に拡大し、爪部23dと上面視において重なるように設計されている(係合部材の離間方向に位置したときに相当)。アーム部材71dには、軽量化を図るための肉抜き部71d1と、必要な強度を確保するためのリブ714が形成されている。
【0023】
スイングアーム71は、樹脂により成形されており、
図6に示すように上面視において上下非対称な形状に形成されている。以下、スイングアーム71の回動中心(スイングアーム71の厚さ方向の中心と回動軸とが一致する点)と、ロック状態において係合部材23の回動中心(係合部材23の幅方向の中心と回動軸と一致する点)とを結ぶ線である軸線01を上面視において基準線とし、上下で対称な対称仮想線を点線で描き、この対称仮想線との関係に基づいて説明する。軸線01よりも下側部分は、言い換えると、ロック機構による制限状態から非制限状態に移行するときにスイングアーム71が脱出していく領域である。よって、軸線01より下の領域を脱出領域、上の領域を通過領域と定義する。
【0024】
スイングアーム71が脱出領域と通過領域において対称形状であると、爪部23dよりも脱出領域側に位置する領域が多く存在する。この場合、以下に示す問題があった。すなわち、充電ポート4の位置は比較的車両の低い位置に設けられていることから、他車両が近くを走行するとシャーベット状の雪や泥水等を巻き上げ、充電ポート4に飛散してくる場合が想定される。また、極低温環境下で充電を行なう場合、これら飛散してきたシャーベット状の雪や泥水が凍結し、スイングアーム71のアーム部材71dを屋根としてツララ状の障害物を形成することが想定される。この場合、脱出領域においてアーム部材71dの領域が広いと、ツララ状の障害物等を形成しやすくなり、ロック解除指令を出力したとしても、スイングアーム71の障害物と爪部23dとが引っかかり、ロックを解除できないおそれがある。
【0025】
そこで、対称仮想線から爪部23dの辺りまでアーム部材71dを大きく削り取ることとした。言い換えると、アーム部材71dの脱出領域に存在する面積71d3(爪部23dの離間方向に位置したときのスイングアーム71の回動中心と爪部23dの回動中心とを結ぶ線を基準として、制限する状態への回動方向側の上面視面積)が、アーム部材71dの通過領域に存在する面積71d2(爪部23dの離間方向に位置したときの回動中心と爪部23dの回動中心とを結ぶ線を基準として、制限しない状態への回動方向側の上面視面積)よりも小さくすることとした。よって、脱出領域における屋根部分を小さくすることができ、ツララ状の障害物等が形成しにくくなるため、ロック解除時にスイングアーム71をスムーズに作動させることができる。特に、上面視において爪部23dと重なる領域ぎりぎりまで削り取ることで、爪部23dの離間方向への動きを確実に制限しつつ、より障害物等が形成される可能性を低くすることができる。
【0026】
次に、スイングアーム71の最外径部71fの上面視形状にあっては、軸線01を基準線として対称な形状とした。すなわち、ロックアクチュエータ73の作動によりスイングアーム71が回動するとき、フェール等によって十分に回動しない場合を想定すると、やはり最外径部71fの長さが確保されるほうが、より確実に爪部23dの離間方向にスイングアーム71を位置させることができるからである。
【0027】
図8は実施例1の充電用コネクタと充電ポートとを接続した状態における斜視図である。充電ポート4に充電用コネクタ2を挿入し、ロック機構7を作動させてスイングアーム71が爪部23dの離間方向に位置することで、解除ボタン23aを押しても爪部23dが離間方向に移動できない。これにより、凸部41aと爪部23dとの係合を外すことができず、充電用コネクタ2を抜き出すことを禁止している。このとき、車両の充電ポート4には、ロック機構7等へのゴミ等の侵入を保護するためのカバー部材9が設けられている。カバー部材9は、ロック機構7を充電用コネクタ2の抜き差し方向側から覆うと共に、爪部23dを挿入可能であってスイングアーム71の一部が露出する開口部91を有する。
【0028】
操作者が充電ポート4に充電用コネクタ2を挿入し、ロック機構7を作動させることで、その場を離れ、充電を開始したとする。このとき、
図8のように、スイングアーム71の最外径部71fは露出した状態となる。仮に、カバー部材9と最外径部71fとの隙間が大きいと、その隙間に指等を入れてスイングアーム71を強制的にこじ開けることが可能となる。そこで、スイングアーム71とカバー部材9との間の隙間は接触しない範囲で狭く設定する。
【0029】
更に、ロック機構7により充電用コネクタ2の取り外しが制限されている状態では、開口部91の全てがスイングアーム71の最外径部71fにより閉塞された状態とする。言い換えると、最外径部71fの回動方向長さは、開口部91の開口幅(回動方向の長さ)よりも長く設定した。これは、上述のように、開口部91の端部と、スイングアーム71の端部との間に隙間があった場合、そこに指等を入れてスイングアーム71が強制的にこじ開けられる可能性を排除するためである。
【0030】
更に、
図6に戻ってカバー部材9とスイングアーム71との関係について詳述する。
図6に示すように、カバー部材9の内周面とスイングアーム71が回動したときの最外径部71fの軌跡との間隔は、開口部91から離れるに連れて大きくなるように設定されている。すなわち、爪部23dにゴミ等(ガムや、泥、埃の塊等)が付着している状態で充電ポート4に充電用コネクタ2を接続した場合、スイングアーム71が回動することで、それらゴミを擦り取りながら(スウィープ)作動することになる。このとき、仮にカバー部材9の内周面と最外径部71fの軌跡との間隔が徐々に狭くなっていくように設定すると、擦り取られたゴミがこの間隔に嵌り込んでしまい、大きな抵抗となってスイングアーム71の作動を阻害するおそれがある。そこで、カバー部材9の内周面と最外径部71fの軌跡との間隔が、開口部91から離れるに連れて大きくなるように設定することで、擦り取られたゴミが適宜下方に落下し、ゴミ詰まり等を回避している。
【0031】
図9は実施例1の係合部材とスイングアームとの位置関係を表す概略断面図である。スイングアーム71の上面と支持延設部74bとの間には所定の隙間a1を有し、スイングアーム71の下面と爪部23dとの間にも所定の隙間b1を有する。よって、スイングアーム71が回動するにあたり、支持延設部74bや爪部23dと接触することがないため、スムーズにスイングアーム71を作動させることができる。ここで、充電用コネクタ2を抜き差しする方向から見て、段部23d2と係合面41a2の重なる領域の高さをc1とすると、c1>(a1+b1)の関係が成立するように構成されている。よって、
図10に示すように爪部23dを無理に押し上げて隙間a1,b1が無くなったとしても、段部23d2と係合面41a2との係合が維持される。
【0032】
図10は実施例1の係合部材を無理に離間方向に作動させたときの係合部材とスイングアームとの位置関係を表す概略断面図である。ロック機構7が作動し、係合部材23の離間方向への移動が制限されている状態で、仮に解除ボタン23aを押し込むと、爪部23dの上面がスイングアーム71の下面に当接してスイングアーム71を押し上げる。このとき、スイングアーム71自体は樹脂製であり、ロックアクチュエータ73の回動軸部735bもさほど強固に設計されているものではないため、スイングアーム71は変形もしくは回動軸の倒れによって容易に上方に押し上げられてしまう。しかしながら、支持延設部74bが設けられているため、この支持延設部74bとの当接によりそれ以上の変形は抑制される。また、スイングアーム71の厚み方向に力が加わるだけであるから、樹脂製のスイングアーム71であっても圧縮力に対して十分な強度を確保できる。すなわち、スイングアーム71の回動軸は、充電用コネクタ2の抜き差し方向と異なる方向であって、かつ、係合部材23の回動軸方向と異なる回動軸を有する。更に言い換えると、スイングアーム71の回動軸方向と係合部材23の回動軸方向とが平行関係になく、爪部23dの離間方向にスイングアーム71を介在させて制限する構成であり、かつ、支持延設部74bを備えた。よって、無理な力が爪部23dから入力されたとしても、スイングアーム71の回動方向には作用しないため、スイングアーム71を回動方向に対して頑強にする必要もなく、また、回動軸付近の構造を頑強にする必要もないまま、十分な制限状態の維持を達成することができる。
【0033】
次に、トグルスプリングの作用について説明する。
図11は実施例1のトグルスプリングを備えた部分の概略説明図、
図12は実施例1のトグルスプリングの機械的な動作を表す概略図、
図13は実施例1のトグルスプリング及びモータのトルク作用範囲とスイングアームの位置関係を表す特性図である。横軸はスイングアーム71の回動位置を表し、ロック状態の位置(以下、ロック位置)と、アンロック状態の位置(以下、アンロック位置)と、その中央位置とを表す。縦軸は、スイングアーム71に作用するトルクを示す。縦軸上方は、ロック方向に作用するトグルスプリングトルクを表し、縦軸下方は、アンロック方向に作用するトグルスプリングトルクを表す。
【0034】
図11に示すように、トグルスプリング100は弾性力を発生するコイル部100aと、コイル部100aから延在されスイングアーム71と係合するスイングアーム側足部101と、スイングアーム側足部101を略直角方向に屈曲し、スイングアーム71に形成された係合孔750内に回動自在に挿入される挿入部102を有する。同様に、トグルスプリング100は、コイル部100aから延在され支持延設部74bと係合する車体側足部103と、車体側足部103を略直角方向に屈曲し、支持延設部74bに形成された係合孔74b1内に回動自在に挿入される挿入部104を有する。
【0035】
図12の上面視概略図と対応して説明する。
図11はスイングアーム71が中立位置における横方向から見た概略図であり、対応する上面構成は、
図12の中立位置の部分に示す図である。このとき、トグルスプリング100は屈曲した状態とされている。この場合、トグルスプリング100はそれぞれの足部101及び103を押し広げようとするが、その力はスイングアーム71の回動中心に対して径方向に作用しており、スイングアーム71を回動させる方向には作用しない。この状態から、スイングアーム71がモータ731によりロック方向に回動すると、コイル部100aが
図12中の下方に変位する。これにより、トグルスプリング100のそれぞれの足部101及び103を押し広げようとする力は、スイングアーム71のロック方向への回転成分を有するようになり、このトルクによってスイングアーム71はロック位置に向けて付勢される。同様に、スイングアーム71がモータ731によりアンロック方向に回動すると、コイル部100aが
図12中の上方に変位する。これにより、トグルスプリング100のそれぞれの足部101及び103を押し広げようとする力は、スイングアーム71のアンロック方向への回転成分を有するようになり、このトルクによってスイングアーム71はアンロック位置に向けて付勢される。
【0036】
このように、スイングアーム71の回動とトグルスプリング100の動作の関係を見ると、トグルスプリング100がスイングアーム71と支持延設部74bとの間の隙間において移動していることが分かる。これらの移動に伴い、フリクションが発生することから、トグルスプリング100には、挿入部74b1と挿入部750とがスイングアーム回動中心と一列に並んだ位置(以下、スプリング中心位置と記載する。)を中心として両方向に所定の不感帯が生じる。言い換えると、トグルスプリング100がスプリング中心位置にあるときからある程度回動しないと、フリクションに打ち勝つ回動方向トルクを発生することはできないのである。
【0037】
上述のトグルスプリングの作用とモータ動作の関係を
図13の特性図及び
図14の係合部材とスイングアームとの位置関係を表す上面視概略図を用いて更に詳細に説明する。尚、実施例1における上面視とは、爪部23dが係合面41a2から離間する方向から見たものと略同一である。ロック機構において説明したように、モータ731は、スイングアーム71をロック位置もしくはアンロック位置に至る手前側まで動作させる。このとき、モータトルクを出力する範囲は、ロック方向に作用する領域についてはアンロック位置から中央を越えて所定のロック領域に至るまでの範囲(以下、第1の領域と記載する。)であり、一方、アンロック方向に作用する領域についてはロック位置から中央を越えて所定のアンロック領域に至るまでの範囲(以下、第2の領域と記載する。)である。ここで、トグルスプリング100には不感帯が存在することから、この不感帯内でモータ731の動作を止めてしまうと、スイングアーム71はトグルスプリング力によって移動することができない。よって、モータ731を動作する際は、必ずトグルスプリング100の不感帯を越えるように駆動する。言い換えると、第1の領域と第2の領域とがオーバーラップするようにモータ731を制御する。そして、トグルスプリング100の不感帯は、このオーバーラップする領域と重なる位置に形成されている。これにより、スイングアーム71をトグルスプリング100のトルクによってロック位置もしくはアンロック位置に移動させることができる。
【0038】
ここで、スイングアーム71がアンロック位置からロック位置に向けて移動する際のスイングアーム71と爪部23dとの位置関係について詳述する。
図14に示すように、第1の領域を形成する「手前側の位置」までスイングアーム71が回動した場合、上面視においてスイングアーム71と爪部23dとはオーバーラップする。言い換えると、電気式駆動機構であるモータ731により電気的にトルクを付与して「手前側の位置」まで移動させる際、スイングアーム71の一部である上面視側端部71gは、離間方向から見て爪部23dとオーバーラップする。スイングアーム71が「手前側の位置」まで回動したときには、スイングアーム71の上面視側端部71gが爪部中心線よりもロック側に位置するように構成されており、スイングアーム71の最外径部71fは、回動方向長さに着目したとき、「手前側の位置」において離間方向から見て爪部23dと半分以上オーバーラップするように構成されている。
【0039】
更に、実施例1では、スイングアーム71の回動位置が、
図14に示す「中央の位置」(手前側の位置よりもアンロック側の位置)において、スイングアーム71の上面視側端部71gが爪部中心線よりもロック側に位置しており、言い換えると、「手前側の位置」よりもアンロック側の「中央の位置」においても、最外径部71fが離間方向から見て爪部23dと半分以上オーバーラップしている。
【0040】
更に、アンロック位置から、「中央の位置」よりもアンロック側の位置である「不感帯開始位置」までスイングアーム71が回動した場合も、同様に、スイングアーム71の上面視側端部71gは爪部23dの中心線(
図14参照)をロック側に越える位置まで回動している。
【0041】
すなわち、実施例1では耐久性の向上等の観点から、モータ731を用いて電気的にトルクを付与する第1の領域と、トグルスプリング100を用いて機械的にトルクを付与する領域とを形成する。これにより、スイングアーム71の作動範囲全域をモータにより動作させないため、スイングアーム71はモータ等に過剰な負荷が作用することを回避して耐久性の向上を図り、トグルスプリング100により所定位置に付勢力を作用させることで安定して所定位置を維持する。
【0042】
ここで、仮に、トグルスプリング100のみで作動する領域に到達した際に、スイングアーム71と爪部23dとが全く係合していない、すなわち離間する方向から見て全くオーバーラップしていない場合、トグルスプリング100の弾性力のみにロック状態の達成を依存することになる。しかし、スイングアーム71にはコンタミ(ごみや泥等)や寒冷地における氷結等によって小さなトルクでは動作が十分に確保されない場面が想定され、そのような場面でトグルスプリング100の弾性力のみに依存すると、十分な回動が得られないおそれがあり、ロック動作に対する信頼性が懸念される。
【0043】
これに対し、モータ731により電気的にしっかりとトルクを付与可能な第1の領域が終了する前に、スイングアーム71と爪部23dとが上面視においてオーバーラップするように構成することで、ロック動作に対する信頼性を確保でき、耐久性の向上と信頼性の向上の両立を図ることができる。
【0044】
次に、不感帯は、スイングアーム71の中央位置よりもロック側にオフセットした領域に設定する。言い換えると、不感帯が中立位置からアンロック側に存在する領域内よりも中立位置からロック側に存在する領域内に多く重なる位置に形成されている。ここで、具体的な不感帯オフセット方法について説明する。上記
図12の説明では、説明の簡単のため、中立位置において、挿入部74b1と挿入部750とがスイングアーム回動中心と一列に並んだスプリング中心位置として説明したが、このスプリング中心位置を若干ロック側にオフセットして形成することで、不感帯をオフセット配置できる。このように、不感帯をロック側にオフセット配置することで、より確実にアンロック状態を確保することができる。
【0045】
次に、アンロック状態を確保する理由について説明する。基本的に車両停止時であれば、特に振動等が入力されることはなく、スイングアーム71が影響を受けることはないため、充電中のように車両停止状態であれば、ロック状態を維持することは困難ではない。これに対し、走行中は振動等が入力されるため、スイングアーム71の共振周波数振動が入力されると、スイングアーム71をアンロック状態にしているにも関わらずロック状態に移動するおそれがある。すると、いざ、操作者が車両を充電スタンドに停車して充電しようとしたときに、スイングアーム71がロック状態にあるため、充電用コネクタ2を差し込むことができない。操作者は、特にロック機構を操作する訳ではない為、このような状況は違和感となる。そこで、走行中に振動等が入力された場合であっても確実にアンロック状態を確保することで、操作者の違和感を回避するものである。
【0046】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を奏する。
(1)使用者の操作により充電用コネクタ2の係合部と係合する凸部41a(被係合部)を有し、係合状態において外部電源からの電力が供給される充電ポート4と、爪部23d(係合部)と凸部41aとが係合状態にある時に、爪部23dが凸部41aと離間する解除操作を規制することで、係合状態の解除を制限するスイングアーム71(制限部材)と、通電駆動によりスイングアーム71を動作させることで、離間方向から見て爪部23dとオーバーラップして爪部23dの解除操作を規制するロック状態と、爪部23dとオーバーラップせずに解除操作を許容するアンロック状態とを達成するロック機構7(ロック状態制御手段)と、を有し、ロック機構7は、スイングアーム71をロック状態もしくはアンロック状態である所定位置まで移動させるときに、所定位置よりも手前側までモータ731により電気的にトルクを付与することで移動させる電気式駆動機構と、手前側から所定位置までをスイングアーム71と車体側との間に設けたトグルスプリング100(機械的にトルクを付与することで移動させる機械式駆動機構)とを有し、スイングアーム71の一部は、ロック状態へ移動させるときの手前側位置において離間方向から見て爪部23dとオーバーラップすることとした。
よって、スイングアーム71の作動範囲全域をモータにより動作させないため、スイングアーム71はモータ等に過剰な負荷が作用することを回避することができ、耐久性の向上を図ることができる。また、トグルスプリング100により移動させるため、所定位置に付勢力を作用させることができ、安定して所定位置を維持することができる。また、電気的にトルクを付与可能な位置でスイングアーム71と爪部23dとがオーバーラップするため、ロック動作に対する信頼性を確保できる。
【0047】
(2)スイングアーム71の最外径部71fは、手前側位置において離間方向から見て爪部23dと半分以上オーバーラップする。よって、電気的にトルクを付与可能な位置でしっかりとロック状態を確保できるため、信頼性の向上を図ることができる。
【0048】
(3)ロック機構7は、トグルスプリング100のスプリング力によりスイングアーム71が動作しない不感帯を有し、スイングアーム71の最外径部71fは、不感帯において離間方向から見て爪部23dとオーバーラップすることとした。
よって、不感帯においてスイングアーム71の作動が確保できない場合であってもロック状態を確保できる。
【0049】
(4)ロック機構7は、スイングアーム71をロック状態に動作させるときにモータ731のトルクが作用する第1の領域と、アンロック状態に動作させるときにモータ731のトルクが作用する第2の領域とがオーバーラップするようにモータ731を制御すると共に、トグルスプリング100のスプリング力によりスイングアーム71が動作しない不感帯が、オーバーラップする領域と重なる位置に形成されている。
よって、不感帯にあってはモータ731により電気的にトルクを付与させることができるため、スイングアーム71の作動を確保できる。また、不感帯以外ではスイングアーム71をトグルスプリング100のトルクによってロック位置もしくはアンロック位置に移動させることができる。
【0050】
(5)機械式駆動機構として、トグルスプリング100を設けた。よって、簡単な構成で所望の領域にのみ付勢力を付与することができ、低コストで安定した作動を実現できる。
【0051】
(6)制限部材は、回動によりロック状態とアンロック状態とに切り替えるスイングアームである。よって、簡易な構成でありながら、十分な制限状態の維持を達成することができる。また、既存のオートドアロック機構等にも採用されている部品をそのまま流用することで製造コストの低減を図ることもできる。
【0052】
以上、実施例に基づいて本願発明を説明してきたが、他の構成であってもよい。実施例1では充電ポートとして車両前方に備えられた例を示したが、車両後方に備えた場合や車両側面に備えた場合でもよい。また、実施例では電気自動車について説明したが、プラグインハイブリッド車両等でも構わない。
【0053】
また、実施例1では、トグルスプリングとしてコイルばねを用いた構成を例に示したが、他の構成であっても同様の作用を示すものであれば、問題なく適用可能である。例えば、シーソー型のトグルスイッチのような付勢力の与え方でもよい。また、実施例1,2では、ロック機構として、回動により制限する状態と制限しない状態とを切り替える例について説明したが、回動に限らず、前後方向や左右方向にスライドする構成により切り替える構成であっても構わない。また、実施例では
図14に示すように、爪部中心線とロック位置とが同じ位置とされているが、ロック位置は更に回動した位置、もしくは若干手前側の位置であってもよい。