(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014727
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】計時器用バレル
(51)【国際特許分類】
G04B 1/18 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
G04B1/18
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-141091(P2015-141091)
(22)【出願日】2015年7月15日
(65)【公開番号】特開2016-24193(P2016-24193A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2015年7月15日
(31)【優先権主張番号】14177987.6
(32)【優先日】2014年7月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ポリクロニス・ナキス・カラパティス
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・サルチ
(72)【発明者】
【氏名】ルネ・ピゲ
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ジュノー
【審査官】
櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0083633(US,A1)
【文献】
実公昭31−017477(JP,Y1)
【文献】
特公昭25−000494(JP,B1)
【文献】
米国特許第03621650(US,A)
【文献】
実開昭59−132928(JP,U)
【文献】
特公昭45−035868(JP,B1)
【文献】
特開2012−042469(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0044789(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/10− 1/22
3/10
5/24
F16F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのメインばね(2)を有する計時器用バレル(1)であって、前記メインばね(2)は、その内側端(3)においてピボット軸(D)を中心に回転するコア(4)と、及びその外側端(5)において弾性スライディングブライドル(8)によってバレルドラム(7)の内側トラック(6)と連係しており、
前記内側トラック(6)及び前記弾性スライディングブライドル(8)は、それぞれ非円形であり、かつ、前記弾性スライディングブライドル(8)の自由状態において、前記弾性スライディングブライドル(8)を前記内側トラックの入れ子にし、
前記弾性スライディングブライドル(8)に与えられるトルクがトルク限界値よりも小さい場合には、前記弾性スライディングブライドル(8)における少なくとも1つの半径方向外側に出っ張っている出っ張り部(12)が、前記内側トラック(6)における少なくとも1つの半径方向内側に出っ張っている敷居部(11)と当接して係合しており、
前記弾性スライディングブライドル(8)に与えられるトルクが前記トルク限界値よりも大きい場合には、前記弾性スライディングブライドル(8)の少なくとも1つの前記出っ張り部(12)が、半径方向に縮み、
これによって、前記出っ張り部(12)が前記敷居部(11)を通り越すことが可能になり、また、前記弾性スライディングブライドル(8)が、前記敷居部(11)の1つと前記出っ張り部(12)の1つとの間の次の遭遇まで前記トルクの影響の下で角度的に移動することが可能になり、
前記弾性スライディングブライドル(8)は、閉じた輪郭を形成し、前記出っ張り部(12)を複数有する
ことを特徴とするバレル(1)。
【請求項2】
前記内側トラック(6)は、複数の周部収容部(9)を有し、これらはそれぞれ、前記ピボット軸(D)からの最大距離(DMAX)にあるベース部(10)を有し、
前記収容部(9)はそれぞれ、ピボット軸(D)からの最小距離(DMIN)にある前記敷居部(11)によって次の収容部と分けられており、
前記スライディングブライドル(8)は、前記メインばね(2)と一体化されており、前記メインばね(2)と一個体のアセンブリーを形成しており、かつ、前記出っ張り部(12)を複数有し、これらのそれぞれは、自由状態において、前記ピボット軸(D)からの最大半径(RMAX)を有し、
前記ピボット軸(D)からの最小半径(RMIN)の領域を有する接合面(13)によって次の出っ張り部と分けられており、
自由状態における前記最大半径(RMAX)は、前記最小距離(DMIN)よりも大きく前記最大距離(DMAX)よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項3】
前記出っ張り部(12)の半径方向の縮みによって、前記ピボット軸(D)に対する前記出っ張り部(12)の半径を最小距離(DMIN)以下の値まで小さくして、前記出っ張り部(12)が前記敷居部(11)を越えることが可能になる
ことを特徴とする請求項2に記載のバレル(1)。
【請求項4】
前記メインばね(2)の最大巻き位置において、前記出っ張り部(12)が前記敷居部(11)を越えるごとに、前記バレルドラム(7)における利用可能なトルクが、高い滑り値(MGS)から、前記高い滑り値(MGS)よりも低い滑り値(MGI)の低いモーメントに戻る
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項5】
前記内側トラック(6)は、サイクロイド状の複数の周部収容部(9)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項6】
前記内側トラック(6)及び前記弾性スライディングブライドル(8)は、同一形状であって相似の寸法構成である
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項7】
前記内側トラック(6)及び前記弾性スライディングブライドル(8)は、異なる形状である
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項8】
前記メインばね(2)は、前記弾性スライディングブライドル(8)の複数の点で固定される
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項9】
前記内側トラック(6)が前記敷居部(11)を第1の数有し、前記弾性スライディングブライドル(8)が前記出っ張り部(12)を第2の数有するとした場合に、前記第2の数は、前記第1の数以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項10】
前記内側トラック(6)が前記敷居部(11)を第1の数有し、前記弾性スライディングブライドル(8)が前記出っ張り部(12)を第2の数有するとした場合に、前記第2の数は、前記第1の数以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項11】
前記巻き動作時において、前記メインばね(2)は、最大巻き度合いに到達するまで、前記コア(4)のまわりに徐々に巻かれ、前記弾性スライディングブライドル(8)の前記出っ張り部(12)と、前記バレルドラム(7)の前記内側トラック(6)の前記敷居部(11)との間の連係によって、前記弾性スライディングブライドル(8)が、与えられるトルクの作用の下で変形して、
係合外れが発生し、その結果、前記弾性スライディングブライドル(8)及び前記メインばね(2)が1ノッチ進む
ことを特徴とする請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項12】
前記バレルドラム(7)の前記内側トラック(6)と、前記弾性スライディングブライドル(8)の前記出っ張り部(12)との間の相対的な形は、前記係合外れが所定の最大トルクで発生するように構成している
ことを特徴とする請求項11に記載のバレル(1)。
【請求項13】
前記係合外れは、前記弾性スライディングブライドル(8)の周囲の50%よりも大きい前記弾性スライディングブライドル(8)の1つの部分の弾性変形によって、もっぱら得られる
ことを特徴とする請求項11に記載のバレル(1)。
【請求項14】
請求項1に記載のバレル(1)を有する計時器用ムーブメント(30)であって、
前記コア(4)は、手動式巻き手段(20)と連係するように構成する
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(30)。
【請求項15】
請求項1に記載のバレル(1)を1つ有する少なくとも1つの機構を有する
ことを特徴とする計時器(40)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのメインばねを有する計時器用バレルに関し、前記メインばねは、その内側端においてピボット軸を中心に回転するコアと、及びその外側端においてメインばね用の弾性スライディングブライドルによってバレルドラムの内側トラックと連係しており、前記内側トラック及び前記弾性スライディングブライドルは、それぞれ非円形であり、かつ、前記弾性スライディングブライドルの自由状態において一方を他方の入れ子にし、前記弾性スライディングブライドルに与えられるトルクがトルク限界値よりも小さい場合には、前記弾性スライディングブライドルにおける少なくとも1つの半径方向外側に出っ張っている出っ張り部が、前記内側トラックにおける少なくとも1つの半径方向内側に出っ張っている敷居部と当接して係合しており、前記弾性スライディングブライドルに与えられるトルクが前記トルク限界値よりも大きい場合には、前記弾性スライディングブライドルの少なくとも1つの前記出っ張り部が、半径方向に縮み、これによって、前記出っ張り部が前記敷居部を通り越すことが可能になり、また、前記弾性スライディングブライドルが、前記敷居部の1つと前記出っ張り部の1つとの間の次の遭遇まで前記トルクの影響の下で角度的に移動することが可能になる。
【0002】
本発明は、コアが手動式巻き手段と連係するように構成するようなバレルを1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0003】
本発明は、さらに、このようなムーブメントを1つの有する計時器、及び/又はこのようなバレルを1つ有する少なくとも1つの機構に関する。
【0004】
本発明は、ばねを有しエネルギーを格納する計時器用バレルの分野に関する。
【背景技術】
【0005】
本発明は、伝統的にブライドル(bridle)と呼ばれる要素を介してのメインばねによるエネルギーのバレルドラムへの伝達に関する。一般的には、手動で巻かれるムーブメントにおいては、メインばねは、固定されたブライドルを介してドラムに接続される。自己巻き式の自動ムーブメントでは、スライディングブライドル又はスリップばねを介して力が伝達される。これによって、係合外れ限界トルクよりも大きいトルクが与えられると、メインばねの端がバレルから一時的に係合外れとなることが可能になる。
【0006】
固定されたブライドルによって、メインばねの特性(特に、巻数)を最大化することが可能になるが、メインばねがその最大巻き度合いに達したときに過大トルクを発生させてしまうという課題がある。トルクが相当に大きくなっても、ユーザーは、ばねが全体的に巻かれたと思うだけである。この過大トルクによって、疲労(破損)の問題だけではなく、クロノメーター的な問題をも引き起こすことがある。
【0007】
スライディングブライドルは、自己巻き式のムーブメントのために不可欠であるが、手動でムーブメントを巻くユーザーにとって、パワーリザーブインジケータなしでは、バレルが完全に巻かれたときに、そのことを知ることは難しい。スライディングブライドル又はスリップばねの存在によって、最大滑りモーメント(MGS)と最小滑りモーメント(MGI)の間の最大巻き度合いにバレルが達したときのトルクにおいて、ばらつきが発生する。また、このシステムでは、係合外れが発生するトルク値よりもトルク値を小さく抑えるようなトルク値の適切な制御ができない。最後に、これらの部品、特に、バレルドラムは、経年劣化試験時にしばしば劣化が問題となる。
【0008】
Daniel ODOM名義の米国特許US1495348Aは、内周に規則的な波形を有するドラムを備えたバレルを開示している。そのメインばねのスライディングブライドルは、そのメインばねの折り曲げられた部分を有する遠位端と、曲がっている横断方向のリブとの弾性係合によって波形部と連係することができる。その輪郭は、波形部の溝に対して局所的に実質的に相補的となっている。
【0009】
Daniel ODOM名義の米国特許US1720289Aは、外側コイルの約4分の1で大きく外側に出っ張っている折り曲げられた部分を有するばねと連係する同様なドラムを開示している。この折り曲げられた部分は、波形部の溝に対して実質的に相補的な輪郭を局所的に形成する。過大トルクがない場合には、外側コイルの外側の4分の3は、バレルが巻かれるにしたがって、波形部の上側部分を押す。
【0010】
ETA Manufacture Horlogere Suisse名義の欧州特許出願EP2420899は、出っ張っている角を形成するロック構造と入れ違いになっている摩擦面を内周上に有するメインばねを開示している。ばねの遠位端は、内壁に摩擦連結しており、この内壁に対してスリップすることができる。摩擦面は、丸まった縁又は反り返った縁によって、外側コイルの滑りの方向に対して下流に制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ブライドルとバレルドラムの間の力の伝達のための新システムを提案する。これは、特定のバレルドラム形(非円筒状)及び可撓性を有するブライドルからなり、その形は、メインばねの形に適応している。実際に、このブライドルは、メインばねからドラムに力を伝達することができなければならず、また、本発明によれば、所定のトルクに到達すると、ブライドルはドラムから離れ、これによって、ドラムを回転させずにメインばねの巻きをわずかにほどくことができるように、ブライドルが変形することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このために、本発明は、少なくとも1つのメインばねを有する計時器用バレルに関し、前記メインばねは、その内側端においてピボット軸を中心に回転するコアと、及びその外側端においてメインばね用の弾性スライディングブライドルによってバレルドラムの内側トラックと連係しており、前記内側トラック及び前記弾性スライディングブライドルは、それぞれ非円形であり、かつ、前記弾性スライディングブライドルの自由状態において一方を他方の入れ子にし、前記弾性スライディングブライドルに与えられるトルクがトルク限界値よりも小さい場合には、前記弾性スライディングブライドルにおける少なくとも1つの半径方向外側に出っ張っている出っ張り部が、前記内側トラックにおける少なくとも1つの半径方向内側に出っ張っている敷居部と当接して係合しており、前記弾性スライディングブライドルに与えられるトルクが前記トルク限界値よりも大きい場合には、前記弾性スライディングブライドルの少なくとも1つの前記出っ張り部が、半径方向に縮み、これによって、前記出っ張り部が前記敷居部を通り越すことが可能になり、また、前記弾性スライディングブライドルが、前記敷居部の1つと前記出っ張り部の1つとの間の次の遭遇まで前記トルクの影響の下で角度的に移動することが可能になる。
【0013】
本発明は、コアが手動式巻き手段と連係するように構成するようなバレルを1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0014】
本発明は、さらに、このようなムーブメントを1つ及び/又はこのようなバレルを1つ有する少なくとも1つの機構を有する計時器に関する。
【0015】
添付図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るバレルについての概略平面図を示す。これにおいて、メインばねが、複数の出っ張り部を支える成形済みのブライドルを支え、これは、敷居部によって分離される一連の収容部を有するバレルドラムにマウントされる。この構成において、メインばねは、完全に巻かれている。
【
図3】
図1のメインばねの概略斜視図を示す。これは、交互に出っ張り部と凹んだ接合面とを有する成形済みのブライドルを装備している。
【
図4】
図3の変種の1つに係るメインばねの概略斜視図を示す。これにおいて、出っ張り部が多くなっており、これは、
図2のドラムにも適している。
【
図5】
図3の変種の1つに係るメインばねの概略斜視図を示す。これにおいて、交互に出っ張り部と平坦な接合面があり、これは、
図2のドラムにも適している。
【
図6】本発明に係るバレルを
図1と同様な方法で示す。これにおいて、ブライドルは出っ張り部を1つのみ有し、バレルドラムは収容部を1つのみ有する。
【
図8】この種のバレルを有するムーブメントを有する計時器のブロック図を示す。これは、つまみによって作動される手動式巻き機構によって動作する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、少なくとも1つのメインばね2を有する計時器用バレル1に関する。このメインばね2は、
− その内側端3にて、ピボット軸Dを中心に回転するコア4と、
− その外側端5にて、弾性スライディングブライドル8によってバレルドラム7の内側トラック6と、
連係している。
【0018】
本発明によると、内側トラック6及び弾性スライディングブライドル8はそれぞれ、非円形であって、かつ、弾性スライディングブライドル8の自由状態において、一方が他方の内側で入れ子になっている。
【0019】
弾性スライディングブライドル8は、半径方向外側に出っ張っている少なくとも1つの出っ張り部12を有する。
【0020】
内側トラック6は、ピボット軸Dの方に半径方向内側に出っ張っている少なくとも1つの敷居部11を有する。
【0021】
内側トラック6及び弾性スライディングブライドル8は、弾性スライディングブライドル8に与えられるトルクがトルク限界値よりも小さい場合に、このような出っ張り部12の少なくとも1つがこのような敷居部11の少なくとも1つと当接して係合するように構成する。
【0022】
このような出っ張り部12の少なくとも1つは、弾性スライディングブライドル8に与えられるトルクがトルク限界値よりも大きい場合に、弾性スライディングブライドル8の弾性によって、半径方向に押し込まれる。これによって、出っ張り部12が敷居部11を越えることが可能になり、また、敷居部11と出っ張り部12との次の遭遇までトルクの影響の下でブライドル8が角度的に移動することが可能になる。
【0023】
好ましい変種の1つにおいて、弾性スライディングブライドル8は、閉じた輪郭を形成する。
【0024】
巻き動作時に、最大巻き度合いに達するまで、メインばね2は、コア4のまわりに徐々に巻かれ、弾性スライディングブライドル8の出っ張り部12と、バレルドラム7の内側トラック6の敷居部11との間の連係によって、与えられるトルクの作用の下で弾性スライディングブライドル8が変形し、これによって、係合外れが発生し、その結果、弾性スライディングブライドル8及びばね2は、1ノッチ進む。
【0025】
バレルドラム7の内側トラック6と、弾性スライディングブライドル8の出っ張り部12との相対的な形は、係合外れが所定の最大トルクで発生するように構成している。
【0026】
好ましくは、弾性スライディングブライドル8の周囲の50%を超える弾性スライディングブライドル8の一部が弾性変形となる場合にのみ係合外れとなる。
【0027】
図1は、完全に巻かれたメインばね2を示している。このことは、メインばね2がさらに巻かれると(手動で又は自動的に)、成形済みのブライドル8は変形し、バレルドラム7から自身が離れることを意味する。
【0028】
標準形状のメインばね2を、ボンディング、ろう付け又ははんだ付けの方法によって、独立した成形済みのブライドル8に接続することができ、あるいは好ましくは、単一の材料で好ましくは作られる一個体の部品を成形済みのブライドル8と形成する。
【0029】
バレルの巻きが完全に戻ると、成形済みのブライドル8にコイルが直接巻かれる。
【0030】
巻き時には、最大巻き度合いに到達するまで、メインばね2がコア4のまわりに徐々に巻かれる。その際、ドラムの特定の形状に起因して、成形済みのブライドル8が変形して係合外れが発生する。ドラム7と成形済みのブライドル8との相対的な形は、係合外れトルクが所望の最大トルクに対応するように最適化される。これは、メインばね2の特性及び摩擦係数の関数として決まる。
【0031】
係合外れが発生すると、すなわち、成形済みのブライドル8及びメインばね2が1ノッチ進むと、バレルドラムから利用可能なトルクは、より小さくなる(MGI:最小滑りモーメント)。
【0032】
特定の実施形態において、
図1及び2に示すように、内側トラック6は、複数の周部収容部9を有する。これらのそれぞれは、ピボット軸Dからの距離が最も大きな距離D
MAXにあるベース部10を有する。これらの収容部9はそれぞれ、ピボット軸Dからの距離が最も小さな距離D
MINにある敷居部11によって次の収容部と分けられている。
【0033】
スライディングブライドル8は、メインばね2と一体化されていて、これと一個体のアセンブリーを形成することが有利であって好ましい。
【0034】
このスライディングブライドル8は、
図1〜5の実施形態(これらに限定されない)において、上記の出っ張り部12を複数有し、これらはそれぞれ、自由状態において、ピボット軸Dに対して最大半径R
MAXの距離を有する。これらの出っ張り部12はそれぞれ、ピボット軸Dからの最小半径R
MINの距離の領域を有する接合面13によって、次の出っ張り部と分けられており、自由状態における最大半径R
MAXは、最小距離D
MINよりも大きく最大距離D
MAXよりも小さい。
【0035】
接合面13は、斜め、凹面又は凸面であることができ、あるいは
図5におけるように平坦であることができる。
【0036】
出っ張り部12の半径方向の縮みは、スライディングブライドル8の弾性及び与えられるトルクの作用に起因し、これによって、ピボット軸Dに対するスイング半径を最小距離D
MIN以下の値まで小さくすることが可能になり、出っ張り部12が敷居部11を越えることが可能になる。
【0037】
図6に示すように、本発明は、内側トラック6が収容部9を1つのみ有するようなバレルとともに用いることもできる。
図7は、同様に単一の収容部9であるが逆の形態で動作するような構成を示している。スライディングブライドル8は、その出っ張り部12が収容部9と連係しているとき以外は常に、内側トラック6の壁と摩擦接触している。手動で時計を巻くユーザーは、同様の感覚を逆に経験し、ノッチの変化を同じようにはっきりと感じる。これらの2つの
図6及び7は、単一の出っ張り部12を有するブライドル8も示している。
【0038】
また、
図2に示すように、単一の出っ張り部を有する1つのスライディングブライドル8を有するような複数の収容部9を備えたバレルを使用することもできる。
【0039】
メインばね2の最大巻き位置においては、出っ張り部12が敷居部11を越えるごとに、より高い滑り値MGSから、より高い滑り値MGSよりも低いより低い滑り値MGIまで、ドラム7内において利用可能なトルクが戻る。
【0040】
特定の変種において、
図1及び2に示すように、内側トラック6は、サイクロイド状の複数の周部収容部9を有する。
図2は、5つのサイクロイドを備えたブライドル8の別のバージョンを示している。所望の大きさに応じてこれよりも多いことや少ないこともありうる。例えば、
図4では、10個ある。
【0041】
特定の変種において、
図1及び2に示すように、内側トラック6及び弾性スライディングブライドル8は、同一形状であって相似の寸法構成を有する。
【0042】
特定の変種において、内側トラック6及び弾性スライディングブライドル8は、所望の大きさに応じて異なる形状を有する。例えば、
図4及び5のメインばね2を、
図2のドラム7と組み合わせることも可能である。
【0043】
特定の変種において、内側トラック6は、敷居部11を第1の数有し、弾性スライディングブライドル8は、出っ張り部12を第2の数有するとした場合に、第2の数は、第1の数以上である。他の変種において、内側トラック6が敷居部11を第1の数有し、弾性スライディングブライドル8が出っ張り部12を第2の数有するとした場合に、第2の数は、第1の数よりも小さい。
【0044】
特定の変種において、メインばね2は、弾性スライディングブライドル8に対して複数の点で固定される。
【0045】
本発明は、任意の種類のバレルに適用可能である。例えば、ムーブメントを駆動するバレル、打撃用バレル又は他のバレルである。
【0046】
本発明は、さらに、コア4が手動式巻き手段20と連係するように構成するようなバレル1を1つ有する計時器用ムーブメント30に関する。この手動式巻き手段20は、ラチェットなどを介して巻く。
【0047】
本発明は、このようなムーブメント30を1つ及び/又はこのようなバレル1を1つ有する少なくとも1つの機構を有する計時器40に関する。この機構は、例えば、打撃機構、アラーム機構である。好ましくは、この計時器は、腕時計である。
【0049】
− 本システムは、成形済みのブライドル8の寸法構成を介してドラム(MGS)から係合外れトルクを解放するメインばねの直接制御を可能にする。
【0050】
− 本システムは、つまみ21、ボルトなどによって制御される手動式巻き機構20に内蔵することができ、これによって、固定されたブライドルが使用される場合に、最大巻き度合いにおいて一般に発生する過大トルクを制限することができる。このようにして、直接又は疲労によって破損の原因となる応力の増加を制限することができ、また、過大トルク(特に、ノッキング)によって引き起こされるクロノメーター的な課題を回避することができる。
【0051】
− この種の幾何学的構成によって、ユーザーの巻き操作時に最大巻き度合いに到達したときに、ユーザーがノッチを感じることが可能になる。
【0052】
− 本発明によって、弾性部品の全体的な変形によって係合外し機能を行うことが可能になる。係合外れトルクが同じために、ブライドルにおける応力は、従来のバレルのものよりも小さい。
【0053】
− メインばねとブライドルの間の接続における応力をより良好に分散させるために、メインばねをブライドルの複数の点で固定することもできる。
【0054】
− 本発明は、エネルギー源としてメインばねを使用する、すべての計時器用ムーブメント又は機構、そして同様のデバイス、特に、オルゴール、に使用することができる。特に、固定されたブライドルの代わりに手動で巻かれるムーブメントを使用するものに対してである。
【符号の説明】
【0055】
1 バレル
2 メインばね
3 内側端
4 コア
5 外側端
6 内側トラック
7 バレルドラム
8 弾性スライディングブライドル
9 収容部
10 ベース部
11 敷居部
12 出っ張り部
13 接合面
20 手動式巻き手段
30 計時器用ムーブメント
D ピボット軸
D
MAX 最大距離
D
MIN 最小距離
R
MAX 最大半径
R
MIN 最小半径
MGI 低い滑り値
MGS 高い滑り値