(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014750
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】枢動可能な電極支持体を備える医療用TFT器具
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20161011BHJP
A61B 17/32 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
A61B18/14
A61B17/32
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-506190(P2015-506190)
(86)(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公表番号】特表2015-515334(P2015-515334A)
(43)【公表日】2015年5月28日
(86)【国際出願番号】EP2013057662
(87)【国際公開番号】WO2013156400
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】102012103503.2
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502154016
【氏名又は名称】アエスキュラップ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェイスハウプト ディーター
(72)【発明者】
【氏名】ロスワイラー クリストフ
【審査官】
中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/097469(WO,A2)
【文献】
国際公開第2010/084684(WO,A1)
【文献】
特開2011−200586(JP,A)
【文献】
特開2010−051802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/14
A61B 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対して移動可能であるとともに、各々が少なくとも1つの封止/溶着電極または電極アレイ(6、7)を有する2つの電極脚部(1、2)を備える、バイポーラ構造の医療用HF器具であって、
電極または電極アレイ(6)は、電極脚部(1、2)の長手方向に延在しているとともに、長手方向の間隙を形成しており、
少なくとも1つの封止/溶着電極または電極アレイ(6)は、前記電極脚部(1、2)のうちの1つに回転可能に、枢動可能に、または傾斜して支持された別体の電極マウント(4)に設置されており、
少なくとも1つの封止/溶着電極または電極アレイ(6)は、前記別体の電極マウント(4)に柔軟に支持されていることを特徴とする、医療用HF器具。
【請求項2】
前記少なくとも1つの電極または電極アレイ(6)は、前記電極マウント(4)にばね弾性によって支持されることを特徴とする、請求項1に記載の医療用HF器具。
【請求項3】
前記電極脚部(1、2)は、前記器具の長手方向に延在し、かつ、鉗子状、ペンチ状、または鋏状の動作を得るために、器具ハンドルに結合されるか、または器具ハンドルを伴って形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の医療用HF器具。
【請求項4】
前記別体の電極マウント(4)に、前記器具の前記長手方向に延在する真直な電極または電極アレイ(6)が設けられることを特徴とする、請求項3に記載の医療用HF器具。
【請求項5】
前記電極マウント(4)は、前記電極脚部(1)の遠位端部に枢動可能に関節式に接続(ジョイント接続)されることを特徴とする、請求項4に記載の医療用HF器具。
【請求項6】
前記別体の電極マウント(4)の近位端部において、前記電極マウント(4)と前記電極脚部(1)との間に、調節可能な支持機構が設けられ、それにより、前記電極マウント(4)と前記電極脚部(1)との間の有効枢動角が調節可能であることを特徴とする、請求項5に記載の医療用HF器具。
【請求項7】
好ましくは、渦巻ばね、板ばね、またはエラストマー要素からなる複数個のばね要素(30)は、前記電極マウント(4)と、前記電極マウント(4)に設置される前記電極/電極アレイ(6)との間に挿入され、前記ばね要素は、前記電極/電極アレイ(6)を、対向する電極/電極アレイ(7)に向けて、前記電極マウント(4)から間隔を空けて配置された状態に保つことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の医療用HF器具。
【請求項8】
前記ばね要素(30)は、対でグループ化され、前記ばね要素の対は、前記電極の前記長手方向において互いに均一に間隔を空けて配置されていることを特徴とする、請求項7に記載の医療用HF器具。
【請求項9】
前記ばね要素(30)は、特に渦巻ばねのデザインで実現されているときに、前記電極マウント(4)内に形成された収容ポケット内に挿入されることを特徴とする、請求項7または8に記載の医療用HF器具。
【請求項10】
前記電極脚部(1、2)のうちの少なくとも1つ、好ましくは前記別体の電極マウント(4)が装備された脚部形状の前記電極脚部(1)には、手動で操作可能な距離調節装置(32)が設けられ、前記手動で操作可能な距離調節装置(32)により、最小電極間隔が調節および/または変更可能であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の医療用HF器具。
【請求項11】
前記ばね要素(30)は、さらに、前記ばね要素(30)によって支持されている前記電極または電極アレイ(6、7)と、前記電極マウントと、に熱結合された熱伝導要素として形成されることを特徴とする、請求項7から9のいずれかに記載の医療用HF器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブル部分による医療用HF器具(TFT器具)に関する。
【背景技術】
【0002】
以下においてHF外科手術とも称される高周波外科手術では、規定された箇所において組織を限定的に破壊または切断するために、高周波を有する交流電流が、人体または人体の或る組織領域を経由して誘導される。メスを使用する従来の切断技術を凌駕する大きな利点は、切断過程中に、影響の及んだ血管を閉鎖することによって、止血を行うことが可能である点である。したがって、たとえば肺部分切除または肝葉切除の場合などの組織の切除中において、このような介入は、クリップ縫合装置によって通常のようには実施されず、むしろ、組織は、このようなTFT器具のHF電流により「溶着」または「封止」される。この方法の利点は、体内に残存する埋植材(たとえば金属クリップ)が存在しないという事実において、明らかに認めることができる。
【0003】
基本的に、HF電気外科手術は、モノポーラ施用技法およびバイポーラ施用技法という2つの施用技法に分類され得る。
【0004】
モノポーラ技術は、今もなお使用されている最も一般的な技法である。ここでは、HF電圧源のうちの一方の極が、できるだけ大きな表面積を介して患者に接続される。この電極は、対極板(neutral electrode)と称される。他方の極は、外科医によって手動で誘導される実際の外科用器具(アクティブ電極)である。電流は、アクティブ電極から対極板に向けて、最小の抵抗で経路を経由して流れる。アクティブ電極のすぐ近傍では、電流密度が最高であり、これは、最も強い熱効果が生じる箇所である。
【0005】
対極板は、体内における電流密度が小さく保たれて熱傷が生じないように、できるだけ大きな表面積を有して形成される。この大きな表面積により、対極板上の皮膚は、著しく加熱されることはない。
【0006】
モノポーラ技術とは対照的に、バイポーラ技術を用いると、電流は、体のわずかな部分−実際には外科的嵌入(切断または凝固)が所望される部分−を経由してのみ流れる。2つの電極は、互いを基準として隔離されており、2つの電極の間間にHF電圧が印加され、手術の部位に直接導かれる。電気回路は、当該電極の間に配置された組織を介して閉鎖される。そして、これらの電極間の組織内に熱効果が生じる。
【0007】
モノポーラ技術と比較すると、必要とされる電力は、20〜30%少なくなる。電流の流れが存在しないため、周辺組織は損壊されず、患者に付けられたどのような計測機器(たとえばECG)も擾乱を受けない。したがって、この措置は、顕微外科手術、神経系外科手術、およびENT外科手術においてなどの、危急であってかつ高精度の用途に特に良く適する。
【0008】
特にバイポーラ施用技法において、組織の封止部または溶着部の破損を回避するために、組織に作用するパラメータの検出および調節が、器具にできるだけ正確に行われなければならない。このことを確保するためには、以下のパラメータの厳密なモニタリングが不可欠である。
− 電極間の組織上/内の温度、
− 電極によって組織に及ぼされる挟持圧、
− 組織インピーダンス、
− 電極の相互間距離、
− および、可能性として、器具の位置、または、互いに対する電極の位置。
【0009】
HF外科手術で使用される周波数に関して、生体組織はオーム抵抗のように振舞う。ここで、固有抵抗は、組織のタイプに大きく依存し、組織の同じ温度上昇を得るために入力される電力は、固有抵抗に正比例する。筋組織および高潅流組織の固有抵抗は、比較的低い。脂肪の固有抵抗は、約15倍高く、骨の固有抵抗は、1000倍高い。しかしながら、有効抵抗は、電極のタイプおよび形状に加え、組織の意図される破壊程度にも依存する。このため、手術が実施される組織のタイプに加え、利用される電極に対しても、電流の形状およびレベルが厳密に適合されなければならず、電流の形およびレベルは、電極長全体にわたって一定かつ均一の結果を生じるべきである。
【0010】
自然凝固が生じない場合には、凝固施用による迅速かつ効率的な止血が使用され、この止血が−小血管に関しては−大抵の場合、コストの嵩むフィブリン・シーラントか、または、高価な結紮糸に置き換わる。「凝固」という用語は、ここで、2つの異なる外科的技法、すなわち、深部凝固(in−depth coagulation)および(電気的)止血を含む。
【0011】
深部凝固において、組織は、大面積において50〜80℃まで加熱される。このことは、ボール、平板、またはローラー・タイプの電極を用いて実施され、それに続く組織の切除に役立つ。この過程においては、高い電流密度と、インパルス変調を伴わない電流とが使用される。凝固深度は、アンペア数の大きさによって影響を受けることがある。
【0012】
出血を止めるために、クランプおよび鉗子に、インパルス変調されたHF電流が使用される。血管は、ツールの先端で把持され、それらが完全に閉鎖されるまで脱水によって収縮させる。このことは、バイポーラ・モードで実施され、稀な場合には、モノポーラ鉗子が使用される。
【0013】
組織を切断する過程(メスを用いた切断に代わる)は、HF外科手術において電気切開と称される。切断過程中に、HF外科用装置(TFT器具)は、針または細幅薄板(刃)を用いてモノポーラ・モードで操作される。最近では、バイポーラ鋏も切断用に施用されて、大きな成功を収めている。
【0014】
関連する最新技術が、文書DE 10 2008 008 309 A1、DE 10 2010 031 569 A1、およびUS 2008/0 183 251 A1から知られている。参考文献DE 10 2010 031 569 A1は、組織を切断および封止するための電気外科用器具を開示しており、この器具は、
a)互いに対して対向関係にある第1および第2の頬要素(cheek element)であって、それらの間に組織を把持するために、当該第1の頬要素は、当該第2の頬要素の内側表面と協働するように適合された内側表面を備えており、当該頬要素のうちの少なくとも一方は、他方のものを基準として可動であり、それによって当該頬要素は、当該頬要素が互いに対して間隔を空けて配置された関係に設けられる開放位置と、当該頬要素の内側表面が共に働いて、それらの間に組織を把持する閉鎖位置との間で選択的に動作可能となる、第1および第2の頬要素と、
b)開放位置と閉鎖位置との間で頬要素を操作するために、1つの頬要素または各頬要素の動きを生じるための手段と、
c)頬要素のうちの1つの内側表面における、凝固電極としての第1の電極と、
d)頬要素のうちの1つの内側表面における、凝固電極としての第2の電極と、
e)第1および第2の電極を分離する隔離要素であって、当該第1および第2の電極が、電気外科用発電機のそれぞれの対極に接続可能である、隔離要素と、
f)第1の頬要素の内側表面における、切断電極としての第3の電極であって、当該第3の電極が、電気外科用発電機の1つの極に接続可能である、第3の電極と、
g)第1の頬要素の、内側表面から離れた外側表面における、第4の電極であって、当該第4の電極が、電気外科用発電機の1つの極に接続可能である、第4の電極と
を備え、
当該電気外科用器具が、第1の電極と第2の電極との間の組織の凝固、および/または、第3の電極が触れた組織を切断する工程、および/または、第4の電極が触れた組織の処置を選択的に生じることの可能な、器具である。
【0015】
しかしながら、鋏またはペンチの態様で枢動することの可能な2つの電極脚部から好ましくは成る、バイポーラ・タイプの外科用HF器具(TFT器具)を用いると、対向するHF電極(封止/溶着電極)が、電極脚部で構成される顎部分の閉鎖時に、厳密に平行な配向にならず、それにより、当該顎部分間に挟持された組織に及ぼされる挟持圧が、電極に沿って均質にならないという基本的な問題が存在する。挟持圧が、処置の結果に対して明らかに大きな影響を与える上述のパラメータのうちの1つであるために、挟持圧が非均質であるということは、2つの電極に沿った継ぎ目の品質に悪影響を及ぼす。加えて、不規則な間隙幅は、電極長にわたる電流の不規則な流れを示唆し、このこともまた、処置の結果(凝固品質)にとって不利である。ここでは、処置の結果に対する、述べられたパラメータの影響があまりにも強いために、最適値からわずかに外れることでさえもが重要な作用をもたらす恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
この問題群を考慮して、本発明の目的は、好ましくは鋏またはペンチのタイプにおける外科用バイポーラHF器具(TFT器具)であって、当該外科用バイポーラHF器具において、対向し、かつ、協働するHF電極が、顎部分の閉鎖時に互いに対して平行であり、当該外科用バイポーラHF器具が、有効電極長の全体にわたってHF外科手術についての一定の必要条件(組織インピーダンス)を確立することが想定される、外科用バイポーラHF器具を提供することである。ここで、1つの目標は、より的確な方式で、封止/溶着された組織部の品質を電気的に制御することができることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1の特徴を備える医療用HF器具によって達成される。この発明の有利な構成は、従属請求項の主題である。
【0018】
本発明の一実施態様によると、前述の目的を達成するために、バイポーラ構造の医療用HF器具が提案され、前記器具は、互いに対して移動可能であるとともに、各々が少なくとも1つの長手方向に延在する電極または電極アレイ(凝固電極または凝固電極アレイ)を有する、2つの電極脚部または電極(ベース)キャリアを備えている。少なくとも1つの電極または電極アレイは、電極脚部/電極ベース・キャリアのうちの1つに、回転可能な、枢動可能な、または傾斜して(可能性として浮動する態様で)支持された別体の電極マウントに設置され、したがって、好ましくは自動式の態様で、対向する電極に対して平行になるようにアライメントすることが可能になり、または、−電極脚部/ベース・キャリアの動きと協調して、かつ、器具の閉鎖状態において電極間の意図された間隙幅を有して−電極の平行な配向が器具の閉鎖状態において達成されるような態様で調節される、別体の電極マウントに設置される。この発明によると、別体の電極マウント上に装着された(その電極長の全体にわたる)少なくとも前記1つの電極または電極アレイは、別体の電極マウントに弾性的に/柔軟に設置される。少なくとも1つの電極と別体の電極マウントとの間における、前記設置されたばね機構により、器具の閉鎖状態における電極の平行性がさらに改善され、それにより、電極の距離が有効長全体に沿って等しくなる。電極長にわたり、実質的に一定であるように調節される/調節され得る電極間隔のおかげで、この電極間隔は、(挟持された)組織にHFエネルギーが均一に浸透することを自動的に生じる。
【0019】
ここで獲得することのできる利点は、以下のように要約することが可能である。
− まず、挟持された組織に対する過剰な/低減された力の衝撃によって生じ得る、意図されない(過剰なまたは過少な)組織損傷のいずれもが回避される。このことは、電極によって及ぼされる挟持圧が、より良好な方式で主として制御されることが可能であることを意味する。
− 特に、一定であってかつ再現可能な力の関係により、個々の組織成分の、信頼可能な融着が達成される。
− 電極間隔が有効電極長にわたって同じであり、それにより、実質的に厳密に事前に定められた/より良好に事前に規定可能なHF電流が、電極間において、電極の各長手位置において流れることが可能であるという点で、組織融着の品質も改善される。
【0020】
上述の目的に合致するための、この発明の任意の、付加的な、または独立した実施態様は、別体の電極マウントを−好ましくは、ペンチ状または鋏状のTFT器具が梁形状の(すなわち軸方向に延在する真直な)電極を備える状態において−回転可能な、枢動可能な、または傾斜した態様で、それぞれの電極脚部上における、その遠位端部または遠位端において支持することに対処し、それによって電極マウントは、電極脚部の枢動する動きとは反対にも電極脚部に対して回転することが可能である。このことは、電極脚部が、それらの近位端部において、HF器具の操作中に互いに対して回転されることを意味する。その一方で、別体の電極マウントは、好ましくは、それぞれの脚部に、その遠位端部において関節式に接続され、したがって、脚部の閉鎖する動き、または、枢動する動きに反して回転させることも可能である。この特別な実施形態では、別体の電極マウントの近位端部上において、電極マウントと脚部との間に、好ましくは(調節可能な)支持機構が設けられ、それにより、電極マウントと脚部との間の有効(鋭)角は調節可能である。
【0021】
この点において、脚部における電極マウントの枢支点、回転中心、または傾斜点は、電極マウントの遠位端部に必ずしも設けられる必要はなく、その中心部または近位端部に配置されてもよいことに留意しなければならない。
【0022】
この発明の、好ましいさらなる展開例によると、複数個のばね要素、たとえば渦巻ばね、板ばね、またはエラストマー要素は、電極マウントと、当該電極マウント上に設置される電極/電極アレイとの間に挿入され、前記ばね要素は、この電極/電極アレイを、対向する電極/電極アレイに向けて、電極マウントから間隔を空けて配置された状態に保つ。ばね要素は、ここでは対でグループ化されて、より大きな共通接触面を模擬するようにされてもよく、ここで、ばね要素の対は、電極の長手方向において互いに均一に間隔を空けて配置される。
【0023】
ばね要素は、特に渦巻ばねの設計において、電極マウント内に形成された収容ポケット内に挿入されることが、さらに好ましい。
【0024】
別体の電極マウント上に設置された少なくとも前記電極は、上面図で見たときにU字形状を有し、電極シャンク−脚部の長手方向において互いに平行に延在している−は、電極マウントの幅方向における間隙を規定し、当該間隙内では、薄板形状または刃形状のさらなる電極が、絶縁された態様で支持/誘導されて、切断電極として働く。したがって、電極脚部に加え、当該電極脚部上に設置された別体の電極マウントもまた、電極間隙と実質的に同一である長手方向のスリットを備え、当該スリットを経由して、さらなる切断電極が、絶縁される様式で挿入され、それによって当該切断電極は、挟持された組織への切断接触を得るために、電極脚部/電極マウントとは独立して移動可能である。
【0025】
最後に、この発明の付加的または代替的な実施態様によると、距離調節装置は、脚部のうちの少なくとも1つに、好ましくは別体の電極マウントを備える脚部に、設けられることも可能であり、当該距離調節装置により、HF器具の顎部分の閉鎖状態において存在する電極間隔が、調節/変更可能である。好ましくは、前記距離調節装置は、前記1つの脚部において、好ましくはその遠位端において、電極の有効長の外側にねじ込まれ、かつ、対向する脚部によって支持される、止めねじに関する。この代替例として、脚部を枢結するヒンジ上に調節可能な止めを設けることも可能であり、この止めにより、最大枢動角が、脚部の閉鎖方向において調節可能である。
【0026】
この点においては、ばね要素が熱伝導性材料から成ることも可能であり、この方式において、好ましくは伝熱要素として働くという事実を参照されたい。これにより、電極からばね要素を経由して電極マウント内へと熱を除去することが可能になる。除去することが可能な熱量は、設置されるばね要素の数によってさらに設定することが可能である。
【0027】
この発明について、好ましい例示的実施形態に基づき、以下の図を含む添付の図面を参照して、より詳細に以下に解説する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】電極距離調節装置を有さない、この発明によるHF器具の第1の好ましい例示的実施形態を、部分的に破断した側面図において示す図である。
【
図2】電極距離調節装置を備える、この発明によるHF器具の第2の好ましい例示的実施形態を、側面図において示す図である。
【
図3】
図1によるHF器具の顎部分を、部分的に破断した拡大側面図において示す図である。
【
図4】
図3による顎部分の遠位端部を、さらなる拡大図において示す図である。
【
図5】
図2によるHF器具の顎部分を、部分的に破断した拡大側面図において示す図である。
【
図6】
図5による顎部分を、電極距離調節装置の機能表現を伴って、側面図において示す図である。
【
図7】その上に関節式に接続された電極マウントと電極とを備える脚部を、上面図において示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に例示的に示された、この発明の第1の好ましい実施形態による(バイポーラ構造の)HF器具は、鉗子、ペンチ、または鋏の特質において互いに対して可動である2つの(細長い)電極脚部1、2から成る顎部分Mと、当該顎部分Mを操作する(および電気的に作動させる)ための器具ハンドルGとを基本的に備える。少なくとも1つの電極脚部1は、その上に関節式に接続された別体の電極マウント4(この電極マウントは、電極脚部1に対して枢動可能である)を有し、第1の電極6(
図4を参照)は次いで前記電極マウント上に弾発的に/柔軟に設置される。
【0030】
具体的には、
図1によるHF器具は、第1の電極脚部1(
図1によると上側のもの)と、第2の電極脚部2(
図1によると下側のもの)とから成り、当該第1の電極脚部1および当該第2の電極脚部2は、それらの近位端(全体としてHF器具の近位端にも対応する)においてヒンジ・ピン8により、ヒンジの態様で互いに関節式に接続されている。2つの脚部1、2は、HF器具の遠位部において顎部分Mを形成し、脚部1、2は、HF器具の近位部において器具ハンドルGを形成する。
【0031】
第1のブラケット状ハンドル(手動レバー)10は、器具ハンドルGの領域内において、第2の(下側)脚部2に、その中心部においてピン12を介して関節式に接続され、前記ハンドルは、第1の(上側)脚部1を第2の脚部2と共に閉鎖位置にロックするために、第1の(上側)脚部1の中心領域内でアンダーカットまたは鋲/突起16とロッキング係合することが可能なフック形状またはボルト形状のラッチ14を伴って形成される。ブラケット状ハンドル10には操作ボタン18が可動に統合され、当該操作ボタン18は、脚部1、2上の電極/電極アレイに(溶着/封止のために)HF電流をもたらすための電気スイッチ(さらに詳細には図示せず)を、好ましくは個々に作動することを可能にする。最後に、器具ハンドルGの領域において、第2のハンドル(手動レバー)20は、第1の(上側)脚部1に、または、近位ヒンジ・ピン8上に関節式に接続され、2つの脚部1、2に対して動作可能/枢動可能である。第2のハンドル20において、ロッキング要素またはロッキング・ボルト22は、当該ロッキング・ボルト22が第2のハンドル20を第1の(上側)脚部1と噛み合わせる拘束位置から、第2のハンドル20が脚部1、2に対して可動/枢動可能である解放位置へと切り替えられることが可能となるために、第2のハンドル20に対して可動であるように統合される。刃形状の切断電極24は、第2のハンドル20に結合(固定)されて、第2のハンドル20により、脚部1、2に対して移動可能である。第2のハンドル20には、切断電極24にHF電流を供給するためのさらなる電気スイッチ(例示せず)を(個々に)作動させるために使用することが可能な操作ボタン(同じく、さらに詳細には図示せず)も装備されていることが好ましい。
【0032】
図3および
図4は、
図1による顎部分Mの構造上の設計を詳細に示す。
【0033】
これによると、別体の電極マウント4は、第1の(上側)脚部1の遠位端部に設けられたヒンジ28を介し、好ましくは保持梁の形で第1の脚部1に関節式に接続される。このため、第1の脚部1は、保持梁4がヒンジ28の周囲を枢動することが可能になるように中に受けられる細長い溝26を伴って実現される。加えて、第1の脚部1には調節機構(より詳細に図示せず)が設けられ、この調節機構により、電極マウント/保持梁4の、第1の脚部1を基準とした相対位置(または相対角度)は調節可能である。
【0034】
図4によると、舌形状の電極または電極アレイ6、7は、互いに対向して平行であるように、両方の脚部1、2上の顎部分Mの領域内に設けられる。具体的には、第1の(上側)電極6は、好ましくは電気的に非伝導性の材料で製作された電極マウント4に、電気的に絶縁された態様で設置され、その一方で、第2の(下側)電極7は、本件においては、第2の脚部2に直接、電気的に絶縁された態様で設置される。したがって、電極マウント4と共に第1の電極6は、より詳細に以下に説明するように、第2の電極7を基準としてアライメントされ得るために、第1の脚部1に対して枢動可能である。
【0035】
本実施例において、関連付けられた別体の電極マウント4上の第1の電極6の支持は、本件において電極の長手方向に、対として(または個々にも)間隔を空けて配置された複数個のばね要素30によるばね弾性によって実現される。各ばね要素30は、収容ポケット/止り穴内に受けられるか、または支持され、前記穴またはポケットは、電極マウント4内に形成されている。ばね要素30は、第1の電極6を、電極マウント4を基準として第2の電極に向けて弾性的に支持するために、当該第1の電極6の平坦な側面上に付勢力を及ぼす。
【0036】
ここで、ばね性/弾性の支持体の代わりに、(たとえば電極マウントと電極との間の空間を絶縁体材料で充填することによる)専ら可撓性の支持体も可能であり、ここで、戻し力が好ましくは電極の固有の弾性から生じることに留意されるべきである。示される例示的実施形態において、ばね要素30はさらに、渦巻ばねとして例示されている。しかしながら、板ばねまたはエラストマー材料が使用されてもよい。基本的に、第1の電極6と電極マウント4との間に、弾力性の、好ましくはばね性の、分離層(たとえば弾性マット)を挿入することも考えられる。
【0037】
図7は、この発明の、提示された全ての例示的実施形態に当てはまる、第1の(上側)脚部1上の電極の基本平面図を示す。
【0038】
これによると、電極マウント4上に可撓性の態様で支持された電極/電極アレイ6は、上面図で見たときにU字形状に形成され、そのシャンクは、(中央の)長手方向の間隙を形成しながら脚部の長手方向に延在する。第1の脚部1は、また、第1の電極6の長手方向の間隙と実質的に一致する連続的な長手方向のスリットを伴って実現され、切断電極24は、当該スリット内に、絶縁された態様で、かつ、当該スリット内で比較的可動であるように挿入される。
【0039】
本発明の第1の好ましい例示的実施形態によるHF器具の機能は、以下のように略説することが可能である。
【0040】
まず、電極マウント4は、第1の(上側)脚部1を基準として調節機構(さらに図示せず)によって以下の態様で、すなわち、第1の電極6が、HF器具の閉鎖状態において第2の電極7を基準として規定画定された間隙幅を生じるような態様で、調節され(ヒンジ28上において自在回転され)、前記間隙幅は、好ましくは、有効電極長の全体にわたって実質的に一定である。
【0041】
処置されるべき組織を顎部分M内に固定する目的で、組織部分が脚部1、2に沿って電極6と電極7との間に挿入され、そして、第1のハンドル10は、ラッチ14を介して第1および第2の脚部1、2を挟持/ラッチするように操作される。
図1によるこの位置において、ラッチ14は、第1の(上側)脚部1上の突起16の後方に到達して、第2の(下側)脚部2に対し、第1の(上側)脚部1をその中心部において付勢する。2つの脚部1、2は、近位端においてはピン8を介して互いにヒンジ接続され、それらの遠位端においては事前に規定された接触点(例示せず)を有しているため、脚部1と2との間に、事前に規定されている隙間が生じ、その隙間の間隙幅は、電極マウント4において既に設定されている。このラッチされた位置において、脚部1と脚部2との間に、溶着/封止されるべき組織が挟持され、2つの電極/電極アレイ6、7が当該組織に対し、規定された挟持力(挟持圧)を及ぼす。
【0042】
押しボタン18が操作されると、述べられた2つの電極6、7には、最初に示された境界条件に依存して、挟持された組織を経由して流れるHF電流が供給され、事前に規定された態様で当該組織を損壊する。この手段によって、たとえば、組織の溶着/封止が達成される。
【0043】
押しボタン18を解放した後にロッキング・ボルト22がロック解除され、したがって第2のハンドル20が解放され、当該第2のハンドル20は、第2の脚部2に向けて、第1の脚部1を基準にして回転することがようやく可能になる。この過程において、その上に固定された薄板形状または舌形状の切断電極24は、第1の電極4のシャンク間の長手方向の間隙内に進入し、挟持された組織に圧力を印加する。この際に前記切断電極24にHF電流が供給された場合、脚部1と脚部2との間に配置された組織は分断される。
【0044】
この方式で、挟持された組織は、たとえば、突出する組織の皮弁/辺縁を分断するために、溶着/封止可能であり、および/または、切断可能である。
【0045】
図2、
図5、
図6、および
図7により、この発明の第2の好ましい実施形態について以下に説明する。本質的に、第1の実施形態との構造的および機能的差異のみについて論じる。第1の好ましい例示的実施形態に対応するさらなる全ての技術的特徴は、上述されている。
【0046】
これによると、(本件では止めねじの形での)脚部距離調節装置32は、第1の電極6/電極マウント4の外側に位置付けられるように、1つの脚部の、好ましくは第1の(上側)脚部1の、遠位端に設けられる。前記止めねじは、第1の脚部1内に直接ねじ込まれ、第2の脚部2に向けて突出する。したがって、止めねじ32は、2つの脚部1と脚部2との間における上記の遠位接触点に置き代わる/上記の遠位接触点を規定する。しかしながら、この場合、接触点は固定されるように設計されるのではなく、可撓性の/調節可能な特質を有し、それにより、顎部分Mの領域内の脚部距離が、閉鎖された器具において調節可能であり、したがって、処置されるべき組織に調整/適合することが可能である。
【0047】
第2の例示的実施形態によるHF器具の動作モードは、第1の例示的実施形態のものとほぼ同じであり、そのため、ここでは先出の文章の一節を参照することができる。しかしながら、処置されるべき組織に合致させた特定の脚部距離を調節するために、最初のステップにおいて始動される脚部距離調節装置32により、付加的機能が表される。この事前調節に対応して、電極マウント4を枢動させるための調節装置は、HF器具の閉鎖状態において電極6、7の平行性を達成するように操作される。
【0048】
最後の点として、先出の説明によるいくつかの技術的特徴が、以下に説明するように改変されてもよい実情について言及する。
【0049】
両方の例示的実施形態では、電極マウント4と第1の脚部1との間のヒンジ28は、電極マウントの遠位端位置において例示されている。代替的に、ヒンジ28’は、中心部に設けられてもよく、または、ヒンジ28’’は、電極マウント4の近位端部において、器具ハンドルGの付近に配置される。
【0050】
HF器具は、脚部1、2が器具ハンドルGも形成する手動器具として示されている。しかしながら、基本的には、介在させた器具シャフトを経由して顎部分Mが器具ハンドルGに結合された最小侵襲性の器具を得るために、この説明の上記の導入部分によるこの発明の基本原理を使用することも可能である。
【0051】
最後に、両方の脚部1、2に別体の電極キャリアを装備して、対応する態様でこれらを調節することも可能である。
【0052】
要約、および、この発明によると、鉗子またはペンチまたは鋏のように互いに向けて移動可能である2つの電極脚部から成る顎部分と、それぞれ、当該顎部分および当該顎部分の電極の、機械的操作および電気的作動のための器具ハンドルとを備える、バイポーラ構造の、好ましくは手動で操作可能なHF器具が提供される。顎部分の少なくとも1つの電極脚部には、当該電極脚部に対して枢動可能であるように、当該電極脚部に関節式に接続された別体の電極マウントが設けられ、電極、または、いくつかの直列配列された個々の電極から成る電極アレイは次いで、前記電極マウント上に弾性的に/柔軟に設置される。
以下の項目は、国際出願時の特許請求の範囲に記載の要素である。
(1)互いに対して移動可能であるとともに、各々が少なくとも1つの長手方向に延在する封止/溶着電極または電極アレイ(6、7)を有する2つの電極キャリア(1、2)を備える、バイポーラ構造の医療用HF器具であって、
少なくとも1つの封止/溶着電極または電極アレイ(6)は、前記電極キャリア(1、2)のうちの1つに回転可能に、枢動可能に、または傾斜して支持された別体の電極マウント(4)において、少なくとも前記1つの封止/溶着電極または電極アレイ(6)が前記別体の電極マウント(4)に柔軟に支持されることによって、設置されることを特徴とする、医療用HF器具。
(2)前記少なくとも1つの電極または電極アレイ(6)は、前記電極マウント(4)にばね弾性によって支持されることを特徴とする、上記項目(1)に記載の医療用HF器具。
(3)前記電極キャリア(1、2)は、前記器具の長手方向に延在し、かつ、鉗子状、ペンチ状、または鋏状の動作を得るために、器具ハンドルに結合されるか、または器具ハンドルを伴って形成される電極脚部として形成されることを特徴とする、上記項目(1)または(2)に記載の医療用HF器具。
(4)前記別体の電極マウント(4)に、前記器具の前記長手方向に延在する真直な電極または電極アレイ(6)が設けられることを特徴とする、上記項目(3)に記載の医療用HF器具。
(5)前記電極マウント(4)は、前記それぞれの電極脚部(1)の遠位端部に枢動可能に関節式に接続(ジョイント接続)されることを特徴とする、上記項目(4)に記載の医療用HF器具。
(6)前記別体の電極マウント(4)の近位端部において、前記電極マウント(4)と前記それぞれの電極脚部(1)との間に、好ましくは調節可能な支持機構が設けられ、それにより、前記電極マウント(4)と前記電極脚部(1)との間の有効枢動角が調節可能であることを特徴とする、上記項目(5)に記載の医療用HF器具。
(7)好ましくは、渦巻ばね、板ばね、またはエラストマー要素からなる複数個のばね要素(30)は、前記電極マウント(4)と、前記電極マウント(4)に設置される前記電極/電極アレイ(6)との間に挿入され、前記ばね要素は、前記電極/電極アレイ(6)を、前記対向する電極/電極アレイ(7)に向けて、前記電極マウント(4)から間隔を空けて配置された状態に保つことを特徴とする、上記項目(1)から(6)のいずれかに記載の医療用HF器具。
(8)前記ばね要素(30)は、各場合において対でグループ化され、前記ばね要素の対は、前記電極の前記長手方向において互いに均一に間隔を空けて配置されていることを特徴とする、上記項目(7)に記載の医療用HF器具。
(9)前記ばね要素(30)は、特に渦巻ばねのデザインで実現されているときに、前記電極マウント(4)内に形成された収容ポケット内に挿入されることを特徴とする、上記項目(7)または(8)に記載の医療用HF器具。
(10)前記別体の電極マウント(4)上に設置された前記電極または電極アレイ(6)は、上面図で見たときにU字形状を有し、前記電極マウント(4)の幅方向における間隙が、互いに平行に延在する前記電極脚部間に形成されることを特徴とする、上記項目(1)から(9)のいずれかに記載の医療用HF器具。
(11)前記電極キャリア(1)と前記電極キャリア(1)上に設置された前記別体の電極マウント(4)の各々が、前記電極間隙と実質的に同一である長手方向のスリットを備え、好ましくは刃形状の切断電極(24)が、絶縁された態様で前記スリット内に挿入され、それによって前記切断電極が、前記電極キャリア(1、2)間に挟持された任意の組織と切断用に係合するために、前記電極キャリア(1)と前記電極キャリア(1)上に設置された前記別体の電極マウント(4)とは独立して移動可能であることを特徴とする、上記項目(10)に記載の医療用HF器具。
(12)前記電極キャリア(1、2)のうちの少なくとも1つ、好ましくは前記別体の電極マウント(4)が装備された脚部形状の電極キャリア(1)には、手動で操作可能な距離調節装置(32)が設けられ、前記手動で操作可能な距離調節装置(32)により、最小電極間隔が調節および/または変更可能であることを特徴とする、上記項目(1)から(11)のいずれかに記載の医療用HF器具。
(13)前記ばね要素(30)は、さらに、前記ばね要素(30)によって支持されている前記電極または電極アレイ(6、7)と、前記電極マウントと、に熱結合された熱伝導要素として形成されることを特徴とする、上記項目(7)から(9)のいずれかに記載の医療用HF器具。