(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<第一の実施形態>>
本発明を適用する実施形態について説明する。以下、実施形態を説明するための全図において、特に記載しない限り、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
<MRI装置の外観>
まず、本実施形態の磁気共鳴撮影装置(MRI装置)について説明する。
図1(a)〜
図1(c)は、本実施形態のMRI装置の外観図である。
図1(a)は、ソレノイドコイルで静磁場を生成するトンネル型磁石を用いた水平磁場方式のMRI装置100である。
図1(b)は、開放感を高めるために磁石を上下に分離したハンバーガー型(オープン型)の垂直磁場方式のMRI装置120である。また、
図1(c)は、
図1(a)と同じトンネル型磁石を用い、磁石の奥行を短くし且つ斜めに傾けることによって、開放感を高めたMRI装置130である。
【0017】
本実施形態では、これらの外観を有するMRI装置のいずれを用いることもできる。なお、これらは一例であり、本実施形態のMRI装置はこれらの形態に限定されるものではない。本実施形態では、装置の形態やタイプを問わず、公知の各種のMRI装置を用いることができる。以下、特に区別する必要がない場合は、MRI装置100で代表する。
【0018】
<MRI装置の機能構成>
図2は、本実施形態のMRI装置100の機能構成図である。本図に示すように、本実施形態のMRI装置100は、被検体101が置かれる空間に、静磁場を生成する静磁場コイル102と、x、y、z各軸方向にそれぞれ傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイル103と、静磁場分布を調整するシムコイル104と、被検体101の計測領域に対し高周波磁場を照射する計測用高周波コイル105(以下、単に送信コイルという)と、被検体101から発生する核磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイル106(以下、単に受信コイルという)と、送信機107と、受信機108と、計算機109と、傾斜磁場用電源部112と、シム用電源部113と、シーケンス制御装置114と、を備える。
【0019】
静磁場コイル102は、
図1(a)、
図1(b)、
図1(c)にそれぞれ示した各MRI装置100、120、130の構造に応じて、種々の形態のものが採用される。傾斜磁場コイル103及びシムコイル104は、それぞれ傾斜磁場用電源部112及びシム用電源部113により駆動される。なお、本実施形態では、送信コイル105と受信コイル106とに別個のものを用いる場合を例にあげて説明するが、送信コイル105と受信コイル106との機能を兼用する1のコイルで構成してもよい。送信コイル105が照射する高周波磁場は、送信機107により生成される。受信コイル106が検出した核磁気共鳴信号は、受信機108を通して計算機109に送られる。
【0020】
シーケンス制御装置114は、傾斜磁場コイル103の駆動用電源である傾斜磁場用電源部112、シムコイル104の駆動用電源であるシム用電源部113、送信機107及び受信機108の動作を制御し、傾斜磁場、高周波磁場の印加および核磁気共鳴信号の受信のタイミングを制御する。制御のタイムチャートはパルスシーケンスと呼ばれ、計測に応じて予め設定され、後述する計算機109が備える記憶装置等に格納される。
【0021】
計算機109は、MRI装置100全体の動作を制御するとともに、受け取った核磁気共鳴信号に対して様々な演算処理を行い、画像情報やスペクトル情報、温度情報を生成する。計算機109が実現する各機能については、後述する。計算機109は、CPU、メモリ、記憶装置などを備える情報処理装置であり、計算機109にはディスプレイ110、外部記憶装置111、入力装置115などが接続される。
【0022】
ディスプレイ110は、演算処理で得られた結果等をオペレータに表示するインタフェースである。入力装置115は、本実施形態で行われる演算処理に必要な条件、パラメータ等をオペレータが入力するためのインタフェースである。外部記憶装置111は、記憶装置とともに、計算機109が実行する各種の演算処理に用いられるデータ、演算処理により得られるデータ、入力された条件、パラメータ等を保持する。
【0023】
<脳脊髄液によるスペクトルピークの歪み>
本実施形態では、MRS/MRSIを用いた温度計測において、脳脊髄液の信号を抑制し、生体内の温度測定精度を向上させる。これを実現する本実施形態の計算機109の各機能の説明に先立ち、計測ボクセル内に脳脊髄液が混入した場合の影響を、
図3(a)〜
図3(f)を用いて説明する。
【0024】
図3(a)901は、脳脊髄液を含めずにMRS計測したときのボクセル位置、
図3(b)902は、脳脊髄液をわずかに含めてMRS計測したときのボクセル位置、
図3(c)903は、関心領域904で脳脊髄液を含めてMRSI計測したときのボクセル位置(
図3(b)902と同じボクセル位置)をそれぞれ表わす。また、
図3(d)、
図3(e)、および
図3(f)は、ボクセル位置901、902、903における水のスペクトルピーク911、912、913をそれぞれ示す。
【0025】
図3(e)に示すように、脳脊髄液が混入することで、スペクトルピーク912は、脳脊髄液が含まれない場合の
図3(d)のスペクトルピーク911とは異なる形状となることがわかる。これは、脳実質のT
1、T
2よりも長いT
1、T
2を持つ脳脊髄液の信号が混入したためである。
【0026】
また、
図3(f)に示すように、MRSI計測を行うと、スペクトルピーク913は、MRS計測時とはさらに異なるピーク形状となり、その歪みが大きいことがわかる。これは、脳実質のT
1、T
2よりも長いT
1、T
2を持つ脳脊髄液の信号が混入したことに加え、MRSIの計測マトリクス数が少ないために、点広がり関数が悪化し、周辺の脳脊髄液信号が混入したためと考えられる。
【0027】
上述のとおり、MRS/MRSIを用いて温度情報を算出する場合、各物質の共鳴周波数は、スペクトルピークをモデル関数にフィッティングすることにより得る。従って、計測したスペクトルピークの形状が歪んでいると、フィッティング精度が低下し、算出する温度の精度も低下する。そして、スペクトルピークの形状が歪む大きな要因の一つは、計測ボクセル(関心領域)内への脳脊髄液の混入である。
【0028】
本実施形態では、MRS/MRSIを用いた温度計測において、脳脊髄液の信号を抑制し、生体内の温度計測精度を向上させる。このため、MRS/MRSIによる信号計測に先立ち、脳脊髄液からの核磁気共鳴信号を抑制するパルスシーケンスである脳脊髄液抑制シーケンスを実行する。以下、本明細書では、物質からの核磁気共鳴信号を、単に、物質の信号と呼ぶこともある。
【0029】
<計算機の機能構成>
以下、本実施形態の計算機109が実現する機能について説明する。
図4は、本実施形態の計算機109の機能ブロック図である。
【0030】
本図に示すように、本実施形態の計算機109は、代謝物からの核磁気共鳴信号には影響を与えることなく、脳脊髄液からの核磁気共鳴信号を抑制したのち、脳脊髄液以外の水からの核磁気共鳴信号(水信号)および代謝物からの核磁気共鳴信号(代謝物信号)を計測するよう、MRI装置100の各部を制御する計測制御部210と、計測制御部210で得た核磁気共鳴信号から、被検体の温度情報を算出する温度情報算出部220と、を備える。
【0031】
計測制御部210は、代謝物からの核磁気共鳴信号には影響を与えることなく脳脊髄液からの核磁気共鳴信号を抑制する脳脊髄液抑制シーケンスを実行する脳脊髄液信号抑制部211と、前記脳脊髄液抑制シーケンス直後に、水および所望の代謝物質の核磁気共鳴信号をそれぞれ計測する信号計測シーケンスを実行する信号計測部212と、を備える。
【0032】
温度情報算出部220は、信号計測部212が前記信号計測シーケンスで得た水および所望の代謝物質の核磁気共鳴信号をスペクトルに変換するスペクトル算出部221と、変換したスペクトルから、水および代謝物質の共鳴周波数をそれぞれ得る共鳴周波数算出部222と、両共鳴周波数差を温度に換算し、被検体の温度情報を得る温度換算部223と、を備える。
【0033】
なお、計算機109が実現する各種の機能は、記憶装置が保持するプログラムを、CPUがメモリにロードして実行することにより実現される。また、計算機109が実現する各種の機能のうち、少なくとも一つの機能は、MRI装置100とは独立した、情報処理装置であって、MRI装置100とデータの送受信が可能な情報処理装置により実現されていてもよい。また、全部または一部の機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(field−programmable gate array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0034】
また、脳脊髄液信号抑制部211が実行する脳脊髄液抑制シーケンスおよび信号計測部212が実行する信号計測シーケンスのパルスシーケンスは、計算機109の記憶装置、あるいは、外部記憶装置111に予め記憶される。また、これらを規定する撮像パラメータは、予めこれらの記憶装置に保持されるか、または、ユーザにより設定され、これらの記憶装置に保持される。その他、各機能の処理に用いる各種のデータ、処理中に生成される各種のデータは、記憶装置または外部記憶装置111に格納される。
【0035】
<温度情報計測処理の流れ>
以下、上記各部による本実施形態のMRS/MRSIを用いた温度計測処理全体の流れについて簡単に説明する。
図5は、本実施形態の温度計測処理の流れの処理フローである。
【0036】
本実施形態では、脳脊髄液信号を抑制したのち、脳脊髄液以外の水信号および代謝物信号を計測する。したがって、まず、脳脊髄液信号抑制部211は、予め定められた脳脊髄液抑制シーケンスを実行する(ステップS1101)。ここでは、脳脊髄液抑制シーケンスに従って、シーケンス制御装置114を制御し、脳脊髄液の核磁化を抑制する。
【0037】
脳脊髄液制御シーケンス実行直後に、信号計測部212は、信号計測シーケンスを実行する(ステップS1102)。ここでは、予め定められた信号計測シーケンスに従って、シーケンス制御装置114を制御し、脳脊髄液からの信号が抑制された状態で、水信号と所望の代謝物信号とを取得する。以下、本実施形態では、所望の代謝物としてNAAを用いる場合を例にあげて説明する。
【0038】
計測制御部210は、脳脊髄液抑制シーケンスの実行と、それに続く信号計測シーケンスの実行とを、積算回数や位相エンコードステップ数など、予め定めた計測終了条件を満たすまで繰り返す(ステップS1103)。
【0039】
その後、温度情報算出部220は、脳脊髄液からの核磁気共鳴信号が抑制された、水の核磁気共鳴信号およびNAAの核磁気共鳴信号を用い、温度情報を算出する(ステップS1104)。
【0040】
<脳脊髄液抑制シーケンス例>
次に、脳脊髄液信号抑制部211が実行する脳脊髄液抑制シーケンスの一例を説明する。
図6は、本実施形態の脳脊髄液抑制シーケンス310の一例である。以下、
図6において、RFは高周波磁場パルスの印加タイミングを示す。Gx、Gy、Gzは、それぞれ、x、y、z各軸方向の傾斜磁場パルスの印加タイミングを示す。以下、本明細書において、同様とする。
【0041】
図6に示すように、脳脊髄液抑制シーケンス310は、水の核磁化のみを選択的に励起する狭帯域の周波数選択励起パルス(RFC1)311と、水の横磁化のみを選択的に反転させる狭帯域の周波数選択反転パルス(RFC2)312と、水の横磁化を縦磁化に変換する周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313と、周波数選択反転パルス(RFC2)312の前後に印加される脳脊髄液からの核磁気共鳴信号を減衰させる拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314と、周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313の印加後、残留する水の横磁化成分をスポイルするスポイラー傾斜磁場(Gc)315と、を備える。
【0042】
周波数選択励起パルス(RFC1)311と周波数選択反転パルス(RFC2)312との照射間隔、および、周波数選択反転パルス(RFC2)312と周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313との照射間隔は、それぞれ、t
eとする。時間t
eは、以下に記す所望の拡散因子b値をハードウェアの制約の範囲内で実現する時間に、予め定めておく。
【0043】
脳脊髄液信号抑制部211は、まず、水の核磁化のみを選択的に励起する狭帯域の周波数選択励起パルス(RFC1)311を照射する。このとき、周波数選択励起パルス(RFC1)311のフリップ角αは、予め定めた値に設定される。設定される値は、90°以下の値であって、代謝物の信号強度のSNRを最大にする受信ゲインにおいても水の信号強度が飽和しない値とする。これにより、脳脊髄液を含めた全ての水が励起され横磁化が生成される。ただし、代謝物は影響を受けない。
【0044】
そして、t
e時間後に、水の横磁化のみを選択的に反転させる狭帯域の周波数選択反転パルス(RFC2)312を照射し、脳脊髄液を含めたすべての水の横磁化を反転させる。このとき、周波数選択反転パルス(RFC2)312のフリップ角は、180°に設定される。
【0045】
そして、そのt
e時間後、水の横磁化のみを選択的にフリップバックさせる狭帯域の周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313を照射する。このタイミングは、周波数選択励起パルス(RFC1)311および周波数選択反転パルス(RFC2)312によるスピンエコー信号が生成される時刻である。これにより、脳脊髄液を含めたすべての水の横磁化を縦磁化に変換する。このとき、周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313のフリップ角は、90°に設定される。
【0046】
周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313を照射したのち、残留した水の横磁化成分をスポイルするスポイラー傾斜磁場(Gc)315を印加する。
【0047】
また、水の横磁化を反転させる周波数選択反転パルス(RFC2)312の前後に、1組の拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314を印加する。これにより、脳脊髄液の信号を減衰させ抑制する。
【0048】
ここで、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314が脳脊髄液の信号を減衰させる原理を説明する。
【0049】
まず、分子拡散の無い静止した水の横磁化について考える。分子拡散の無い静止した水の横磁化では、周波数選択反転パルス(RFC2)312の前に印加する拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314によりディフェイズされる量と、周波数選択反転パルス(RFC2)312の後に印加する拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314によりリフェイズされる量とのバランスが取れる。このため、一旦ディフェイズされた横磁化は、全てリフェイズされ、その和として表される巨視的磁化について信号量の減衰は生じない。
【0050】
一方、分子拡散がある場合、一旦ディフェイズされた横磁化は、リフェイズするタイミングでは既に位置が変わっている。このため、このような横磁化では、ディフェイズされる量とリフェイズされる量とが異なり、完全にはリフェイズされない。従って、巨視的磁化の信号量が減衰する。
【0051】
なお、その減衰量は、分子拡散の激しさと、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314のb値を用いて、以下の式(1)で表される。
【数1】
ここで、S(b)は、b値がbのときの信号強度、S
0はb値が0のときの信号強度、Dは拡散係数である。
【0052】
なお、b値[s/mm
2]は、MPGパルスの印加強度と印加時間に関するパラメータである拡散因子である。b値は、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314の印加強度Gと印加時間δと、印加間隔Δと、によって決まる値で、以下の式(2)により計算される。
【数2】
ここで、τは、周波数選択励起パルス(RFC1)311の照射から、周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313の照射までの時間[s]、γは、核磁気回転比[Hz/μT]、G(τ)は、時刻τでの傾斜磁場印加強度[μT/mm]である。特に、b値は、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314が2つのパルスで印加される場合、以下の式(3)により計算される。
【数3】
ここで、Gは拡散傾斜磁場の印加強度[μT/mm]、δは1つの拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314の印加時間[s]、Δは2つの拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314の印加間隔[s]である。
【0053】
一般に、白質や灰白質などに代表される脳実質内の水は、細胞壁によって拡散範囲が制約される制限拡散である。一方、脳脊髄液内の水は、細胞によって制約を受けない略液体のため,自由拡散に近い。従って、脳脊髄液の拡散係数Dは、脳実質内の水の拡散係数Dより数倍大きい。このため、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314を印加することにより、脳実質の水信号に対して、脳脊髄液の水信号を低減することができる。
【0054】
なお、印加する拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314の大きさを規定するb値は、シミュレーション結果等から所望の抑制効果のある値を見積もり、ハードウェアで実現可能な範囲の値に設定する。
【0055】
また、
図6の例では、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314およびスポイラー傾斜磁場(Gc)315は、x、y、z方向の全ての軸に印加しているが、これに限定されない。拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314およびスポイラー傾斜磁場(Gc)315は、x軸、y軸、z軸の少なくとも1軸方向に印加するだけでもよい。また、周波数選択励起パルス(RFC1)311のフリップ角αは90°以外の任意の値に設定してもよい。
【0056】
<信号計測シーケンス>
次に、信号計測部212が実行する信号計測シーケンスの一例について説明する。本実施形態では、信号計測シーケンスとして、例えば、MRSシーケンスおよびMRSIシーケンスのいずれかを用いる。ここでは、代謝物を画像化する領域選択型磁気共鳴スペクトロスコピックイメージングのパルスシーケンス(以降、MRSIシーケンスと呼ぶ)を例にあげて説明する。
【0057】
図7は、MRSIパルスシーケンス(信号計測シーケンス)420の一例である。以下、
図7において、A/Dは、信号の計測期間を示す。以下、本明細書において、同様とする。
【0058】
図7に示すMRSIパルスシーケンス420は、公知のMRSIパルスシーケンスと同じであり、1つの高周波磁場パルスである励起パルス(RF1)と、2つの反転パルス(RF2)および(RF3)とを用いて、所定の関心領域(ボクセル)を選択的に励起し、この関心領域(ボクセル)からFID信号(自由誘導減衰)FID1を得る。
【0059】
このMRSIパルスシーケンス420に従って、励起される領域を
図8(a)〜
図8(c)に示す。
図8(a)〜
図8(c)は、信号計測に先立って行われる計測により得る、位置決め用スカウト画像であって、それぞれ、
図8(a)はトランス像411、
図8(b)はサジタル像412、
図8(c)はコロナル像413である。以下、各部の動作と励起される領域との関係を
図7および
図8を用いて説明する。
【0060】
まず励起パルス(RF1)とz軸方向の傾斜磁場パルス(Gs1−1)、(Gs1−2)とを印加して、z軸に直交する断面(以下、単にz方向の断面と呼ぶ。)401を励起する。TE/4(ここで、TEはエコー時間)時間後に、反転パルス(RF2)とy軸方向の傾斜磁場パルス(Gs2)とを印加する。その結果、z方向の断面401とy軸に直交する断面(y方向の断面)402とが交差する領域における核磁化の位相のみがリフェイズする(戻る)。
【0061】
続いて、反転パルス(RF2)の印加からTE/2後に反転パルス(RF3)とx軸方向の傾斜磁場パルス(Gs3)とを印加する。それによって、z方向の断面401、y方向の断面402、x軸に直交する断面(x方向の断面)403が交差する関心領域404における核磁化の位相のみがリフェイズされ、ここから自由誘導減衰信号(FID1)が生じる。この自由誘導減衰信号(FID1)を計測する。
【0062】
なお、各方向の傾斜磁場パルス(Gd1−1)、(Gd2−1)、(Gd3−1)(Gd1−2)、(Gd2−2)、および、(Gd3−2)は、励起パルス(RF1)で励起された核磁化の位相をリフェイズし、反転パルス(RF2)および反転パルス(RF3)で励起された核磁化の位相をディフェイズするための傾斜磁場である。また、反転パルス(RF3)の後には、位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp1)および位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp2)を印加する。以上により、関心領域404の核磁気共鳴信号を得る。
【0063】
<温度情報算出>
次に、温度情報算出部220による温度情報算出処理ついて説明する。
図9は、本実施形態の温度情報算出処理の流れを説明するための処理フローである。本実施形態では、水およびNAAのスペクトルピークを、モデル関数でフィッティングし、各々の共鳴周波数を算出し、その差を温度に換算する。
【0064】
まず、スペクトル算出部221は、信号計測シーケンスで得た、水の核磁気共鳴信号およびNAAの核磁気共鳴信号を、それぞれ、時間方向にフーリエ変換し、水のスペクトルおよびNAAのスペクトルを算出する(ステップS1201)。
【0065】
次に、共鳴周波数算出部222は、水のスペクトルピークおよびNAAのスペクトルピークを、モデル関数にフィッティングし、それぞれの共鳴周波数を算出する(ステップS1202)。
【0066】
モデル関数には、例えば、以下の式(4)に示すローレンツ型関数を用いる。
【数4】
ここで、νは周波数、L
iは信号強度、ν
iは対象とする物質の共鳴周波数、a
iはスペクトルピークの半値幅、I
iはスペクトルピークの高さ、φ
iは位相、cは定数項である。
【0067】
計測した、水のスペクトルピークおよびNAAのスペクトルピークを、それぞれ、式(4)で示されるモデル関数にフィッティングし、パラメータの共鳴周波数ν
iとして、水の共鳴周波数ν
WとNAAの共鳴周波数ν
NAAとを、それぞれ得る。
【0068】
その後、温度換算部223は、水の共鳴周波数とNAAの共鳴周波数との差(共鳴周波数差)Δνを算出する(ステップS1203)。
【0069】
そして、温度換算部223は、周波数差を温度に換算する温度換算式を用いて、算出した共鳴周波数差を温度に換算する(ステップS1204)。温度換算式は、例えば、以下の式(5)を用いる。
T=A×Δν+B ・・・(5)
ここで、Tは温度、Aは温度/周波数の次元を持つ係数、Bは定数項である。式(5)のAおよびBは、文献に記された公知の値や、実験的に求めた値を用いる。
【0070】
<計算機シミュレーション>
次に、本実施形態の脳脊髄液抑制シーケンス310を信号計測シーケンス420の直前に実行することにより、脳脊髄液からの信号が抑えられることを計算機シミュレーションにて示す。
図10に、脳脊髄液抑制シーケンス310に続き、信号計測シーケンス420を実行し、脳脊髄液からの信号を取得するシミュレーション結果と、同白質からの信号を取得するシミュレーション結果を示す。
【0071】
このとき、脳脊髄液モデルのT
1、T
2、拡散係数Dをそれぞれ4000[ms]、2000[ms]、3.0×10
-3[mm
2/s]、白質モデルのT
1、T
2、拡散係数Dをそれぞれ556[ms]、79[ms]、0.7×10
-3[mm
2/s]とした。また、脳脊髄液抑制シーケンス310における周波数選択励起パルス(RFC1)311のフリップ角を5°、時間t
eを80[ms]とし、信号計測シーケンス420における繰り返し時間TRを1500[ms]、エコー時間TEを35[ms]とした。
【0072】
図10は、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314のb値を変化させたときの脳脊髄液の信号強度と白質の信号強度とをプロットしたグラフである。信号強度は、脳脊髄液モデルおよび白質モデルの核磁化の大きさ(プロトン密度)を100%として規格化したものである。
【0073】
図10に示すように、白質からの信号に対して、脳脊髄液からの信号が小さくなっていることがわかる。また、白質の信号強度は、b値を変化させても大きく変わらないことがわかる。一方、脳脊髄液の信号強度は、b値を大きくするほど低下していき、b値がおよそ1000[s/mm
2]以上になるとほぼ一定の値となることがわかる。
【0074】
以上の結果より、本実施形態の手法によれば、白質などの脳実質からの信号に対して脳脊髄液からの信号を抑制できることが示された。所定の値以下では、b値を大きくすればするほど、抑制効果は向上することが示された。従って、本実施形態によれば、脳脊髄液からの信号が抑制された状態で、信号計測がなされるため、得られる水のスペクトルピークの歪みが低減する。そして、歪みの少ないピークに基づいて温度が算出されるため、生体内の温度測定精度が向上する。
【0075】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置100は、脳脊髄液からの核磁気共鳴信号を抑制する脳脊髄液抑制シーケンス310を実行する脳脊髄液信号抑制部211と、前記脳脊髄液抑制シーケンス310直後に、水および所望の代謝物質の核磁気共鳴信号をそれぞれ計測する信号計測シーケンス420を実行する信号計測部212と、前記信号計測シーケンス420で得た水および所望の代謝物質の核磁気共鳴信号から被検体の温度情報を算出する温度情報算出部220と、を備える。
【0076】
そして、前記脳脊髄液抑制シーケンス310は、水の核磁化のみを選択的に励起する周波数選択励起パルス311と、水の横磁化のみを選択的に反転させる周波数選択反転パルス312と、水の横磁化を縦磁化に変換する周波数選択フリップバックパルス313と、前記周波数選択反転パルス312の前後に印加される前記脳脊髄液からの核磁気共鳴信号を減衰させる拡散強調傾斜磁場パルス314と、を含む。
【0077】
このように、本実施形態では、信号計測実行前に、代謝物からの信号には影響を及ぼさず、脳脊髄液信号を抑制する脳脊髄液抑制シーケンスを実行する。本実施形態では、脳脊髄液の拡散係数Dが、脳実質内の水の拡散係数Dより数倍大きいことを利用し、水の核磁化のみに作用する周波数選択パルスと、拡散強調傾斜磁場パルスとにより、脳脊髄液からの核磁気共鳴信号の抑制を実現する。そして、脳脊髄液からの信号を抑制した状態で、水信号を計測する。
【0078】
これにより、脳脊髄液信号による水のスペクトルピークの歪みを低減することができる。そして、歪みの少ないスペクトルピークを得ることができ、これを用いて算出する生体内の温度計測精度を向上させることができる。
【0079】
<脳脊髄液抑制シーケンスの他の例>
なお、脳脊髄液信号抑制部211が実行する脳脊髄液抑制シーケンスは、上記脳脊髄液抑制シーケンス310に限定されない。ここで、他の例を説明する。
図11は、本実施形態の脳脊髄液抑制シーケンス320の一例である。
【0080】
図11に示すように、この脳脊髄液抑制シーケンス320は、水の核磁化のみを選択的に励起する狭帯域の周波数選択励起パルス(RFC1)311と、複数の、水の横磁化のみを選択的に反転させる狭帯域の周波数選択反転パルス(RFC2)312と、水の横磁化を縦磁化に変換する周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313と、各周波数選択反転パルス(RFC2)312の前後に印加される脳脊髄液からの核磁気共鳴信号を減衰させる拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314と、周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313の照射後、残留する水の横磁化成分をスポイルするスポイラー傾斜磁場(Gc)315と、を備える。
【0081】
このとき、複数の周波数選択反転パルス(RFC2)312は、周波数選択励起パルス(RFC1)311と周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313との間に、連続して照射される。また、1つの周波数選択反転パルス(RFC2)312の前後に印加される1組の拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314は、周波数選択反転パルス(RFC2)312毎に、交互に極性を変えて印加される。なお、
図11では、周波数選択反転パルス(RFC2)312を2回照射する場合を例示する。
【0082】
周波数選択励起パルス(RFC1)311と周波数選択反転パルス(RFC2)312との照射間隔、および、周波数選択反転パルス(RFC2)312と周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313との照射間隔は、それぞれ、t
eとする。そして、各周波数選択反転パルス(RFC2)312の照射間隔は、2t
eとする。
【0083】
脳脊髄液信号抑制部211は、まず、水の核磁化のみを選択的に励起する狭帯域の周波数選択励起パルス(RFC1)311を照射する。このとき周波数選択励起パルス(RFC1)311のフリップ角αは、脳脊髄液抑制シーケンス310同様、予め定めた値αに設定される。これにより、脳脊髄液を含めたすべての水が励起され横磁化が生成される。
【0084】
そして、t
e時間後に、周波数選択反転パルス(RFC2)312を照射し、脳脊髄液を含めたすべての水の横磁化を反転させる。さらに、2t
e時間後に、再び、周波数選択反転パルス(RFC2)312を照射し、脳脊髄液を含めたすべての水の横磁化を反転させる。なお、本シーケンスにおいても、周波数選択反転パルス(RFC2)312のフリップ角は、180°に設定される。
図11では、1回目に照射する周波数選択反転パルス(RFC2)を、312−1、2回目に照射する周波数選択反転パルス(RFC2)を312−2で示す。
【0085】
その後、t
e時間後に、周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313を照射し、脳脊髄液を含めたすべての水の横磁化を縦磁化に変換する。このとき、周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313のフリップ角は、90°に設定される。
【0086】
周波数選択フリップバックパルス(RFC3)313を照射したのち、スポイラー傾斜磁場(Gc)315を印加する。
【0087】
なお、脳脊髄液抑制シーケンス320では、2つの周波数選択反転パルス(RFC2)312各々の前後に拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314を印加する。
図11では、周波数選択反転パルス(RFC2)312−1の前後に印加する拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)を、314−1、周波数選択反転パルス(RFC2)312−2の前後に印加する拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)を、314−2と示す。
【0088】
拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314−1と、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314−2とは、極性を反転させて、印加される。
図11では、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314−1を正極性で、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314−2を、負極性で印加する場合を例示する。既に述べたように、これらの拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314−1、314−2を印加することにより脳脊髄液の信号を抑制することができる。
【0089】
周波数選択反転パルス(RFC2)312の照射数は、この脳脊髄液抑制シーケンス320全体で印加される拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314のb値の合計が、目的とするb値を達成するよう決定される。
【0090】
また、本脳脊髄液抑制シーケンス320においても、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314は、x軸、y軸、z軸の少なくとも1軸方向に印加されればよい。
【0091】
上述の脳脊髄液抑制シーケンス310に比べ、本脳脊髄液抑制シーケンス320の方が脳脊髄液抑制シーケンスの時間が延長するものの、周波数選択反転パルス(RFC2)312と、拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314との組を、複数回印加することができる。例えば、装置の制約などにより、1回の拡散強調傾斜磁場パルス(Gd)314により、所望のb値を達成できない場合であっても、複数回繰り返すことにより、所望のb値を達成できる。従って、装置の制約によらず、脊髄液からの信号を抑制できる。
【0092】
<<第二の実施形態>>
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。第一の実施形態では、水の核磁化のみに作用する周波数選択パルスと、拡散強調傾斜磁場パルスとをプリパルスとして印加することにより脳脊髄液からの信号を抑制する。一方、本実施形態では、複数の周波数選択CHESSパルスをプリパルスとして照射し、脳脊髄液からの信号を抑制する。
【0093】
本実施形態のMRI装置100は、基本的に第一の実施形態と同様の構成を有する。計算機109が実現する機能構成も同様である。ただし、上述のように、脳脊髄液からの信号を抑制するために印加するプリパルスが異なる。従って、脳脊髄液抑制シーケンスが異なる。以下、本実施形態について、第一の実施形態と異なる構成に主眼をおいて、説明する。
【0094】
本実施形態では、脳脊髄液抑制シーケンスとして、水の核磁化のみを選択的に励起する周波数選択励起パルス(CHESSパルス)を少なくとも2回以上照射する。そして、各々のパルスの後に強度の異なるスポイラー傾斜磁場パルスを印加し、水信号の横磁化成分をスポイルする(位相分散させる)。これにより、T
1およびT
2の長い脳脊髄液の信号を抑制する。このとき、周波数選択励起パルスのフリップ角は所定の値βに設定する。
【0095】
<脳脊髄液抑制シーケンス例>
本実施形態の脳脊髄液信号抑制部211が実行する脳脊髄液抑制シーケンスの一例を説明する。
図12は、本実施形態における脳脊髄液抑制シーケンス330の一例である。
【0096】
図12に示すように、本実施形態の脳脊髄液抑制シーケンス330は、複数の、水の核磁化のみを選択的に励起する周波数選択励起パルス(RFC)331と、前記周波数選択励起パルスの印加毎に印加される、残留した水の横磁化成分をスポイルするスポイラー傾斜磁場パルス(Gc)332と、を備える。
【0097】
周波数選択励起パルス(RFC)331の照射数(パルス数)は、N(Nは、1以上の整数)とする。なお、複数の周波数選択励起パルス(RFC)331の各々を区別する場合、n番目(nは、1以上N以下の整数)に照射される周波数選択励起パルスを、(RFCn)331−nと表す。
図12には、N=3の場合を例示する。
【0098】
このとき、各周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βは、所定の値に設定される。所定の値は、例えば、90°とする。
【0099】
各周波数選択励起パルス(RFC)331の照射間隔は、t
eとする。照射間隔t
eは、周波数選択励起パルス(RFC)331の照射時間と、スポイラー傾斜磁場Gcの印加時間とを加味した上で、最も短い間隔(最小の時間)に設定する。周波数選択励起パルスの照射間隔t
eを短く設定することにより、脳実質よりも長いT
1、T
2を持つ脳脊髄液の信号を抑制することができる。
【0100】
周波数選択励起パルス(RFC)331の照射数Nは、繰り返し時間TRと信号計測シーケンスにかかる時間とにより定まる脳脊髄液抑制シーケンス330の実行可能時間内に、上述の照射間隔で照射可能な最大数とする。
【0101】
なお、周波数選択励起パルス(RFC)331の照射数nは、さらに比吸収率(SAR:Specific Absorption Rate)を考慮して、決定してもよい。すなわち、上述の最大数と、SARの制約により定まる最大数の、小さい方の数を照射数とする。
【0102】
スポイラー傾斜磁場(Gc)332の強度は、複数の周波数選択励起パルス(RFC)331の照射によってグラジエントエコーやスピンエコー、スティミュレイテッドエコーが発生しないような強度にそれぞれ設定される。また、たとえば、各々のスポイラー傾斜磁場332の強度は、最初のスポイラー傾斜磁場332の強度に対して整数倍にならないような強度に設定する。
【0103】
従って、本実施形態では、脳脊髄液信号抑制部211は、水の核磁化のみを選択的に励起する狭帯域の周波数選択励起パルス(RFC)331を、時間間隔t
eだけ空けて、N回照射する。また、各周波数選択励起パルス(RFC)331の照射後、残留した水の横磁化成分をスポイルするスポイラー傾斜磁場パルス(Gc)332を、それぞれ、印加する。
【0104】
<温度計測処理>
本実施形態の各部による温度計測処理の流れは、脳脊髄液抑制シーケンスとして、上記脳脊髄液抑制シーケンス330を用いる以外は、第一の実施形態と同様である。
【0105】
<フリップ角設定>
なお、脳脊髄液信号抑制部211が、
図13に示すように、フリップ角設定部231を備え、このフリップ角設定部231が、以下に記す手順により、周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βを設定してもよい。
【0106】
ここでは、フリップ角設定部231は、実際の計測(本計測)時に用いるフリップ角を定めるために、初期設定されたフリップ角を予め定めた量だけ変更しながら、脳脊髄液抑制シーケンス330および信号計測シーケンス420と同じシーケンスを実行し、得られた水の核磁気共鳴信号群の近似曲線の特徴点に対応する値を、本計測で用いるフリップ角に設定する。なお、周波数選択励起パルスの照射数Nが偶数の場合、特徴点として、極小値をとる点を用い、同Nが奇数の場合、特徴点として、変曲点を用いる。
【0107】
フリップ角設定部231が実行する周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βの設定手順を、
図14の処理フローを用いて説明する。
【0108】
まず、フリップ角設定部231は、周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βを任意の値(初期値β0)に設定する(ステップS1401)。その後、脳脊髄液抑制シーケンス330と同じシーケンスを実行し(ステップS1402)、続いて、信号計測シーケンス420と同じシーケンスを実行(ステップS1403)し、水の核磁気共鳴信号を計測する。
【0109】
フリップ角設定部231は、上記ステップS1401〜S1403を、周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βを連続的に変えながら(ステップS1405)、予め設定した繰り返し回数M回、繰り返す(ステップS1404)。このとき、フリップ角の変更量Δβは、予め定めておく。なお、Mは、3以上の整数とする。
【0110】
フリップ角設定部231は、M回の計測で得られたM個の水信号を用いて、周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βに対する水信号曲線を算出する(ステップS1406)。連続的な水信号曲線は、M個の離散的な水信号値を、照射数Nと同じ次数のN次関数でフィッティングすることにより得る。
【0111】
次に、フリップ角設定部231は、周波数選択励起パルス(RFC)331の照射数nが偶数か否かを判定する(ステップS1407)。
【0112】
偶数の場合は、N次関数の、フリップ角が90°近傍の狭い範囲において、極小値をとるフリップ角βminを算出し、周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βとする(ステップS1408)。
【0113】
奇数の場合は、N次関数の、フリップ角が90°近傍の狭い範囲において、変曲点をとるフリップ角βinfを算出し、周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βとする(ステップS1409)。
【0114】
以上の手順により、フリップ角の空間的な不均一が被検体101ごとに異なる場合にも安定したフリップ角βを調整できる。
【0115】
<シミュレーション結果>
次に、本実施形態の脳脊髄液抑制シーケンス330を、信号計測シーケンス420の直前に実行することにより、脳脊髄液からの信号が抑えられること、および、脳脊髄液抑制シーケンス330において、周波数選択励起パルス(RFC)331の照射数が増加すればするほど、周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角βの設定誤差に強くなることを示す。
【0116】
図15(a)および
図15(b)に、脳脊髄液抑制シーケンス330に続き、信号計測シーケンス420を実行し、脳脊髄液からの信号を取得するシミュレーション結果と、同白質からの信号を取得するシミュレーション結果を示す。
【0117】
このとき、脳脊髄液モデルのT
1、T
2を、それぞれ4000[ms]、2000[ms]、白質モデルのT
1、T
2を、それぞれ556[ms]、79[ms]とする。また、脳脊髄液抑制シーケンス330における周波数選択励起パルス(RFC)331の照射間隔t
eを30[ms]、信号計測シーケンス420における繰り返し時間TRを1500[ms]、エコー時間TEを35[ms]とした。
【0118】
図15(a)は、照射数Nが4のときの、フリップ角βの誤差に対する脳脊髄液と白質の信号強度をプロットしたグラフである。
図15(b)は、照射数Nが8のときの、フリップ角βの誤差に対する脳脊髄液と白質の信号強度をプロットしたグラフである。信号強度は、脳脊髄液モデルおよび白質モデルの核磁化の大きさ(プロトン密度)を100%として規格化したものである。
【0119】
図15(a)および
図15(b)に示すように、白質からの信号に対して脳脊髄液からの信号が小さくなっていることがわかる。また、照射数Nを4から8に増やすことにより、脳脊髄液の抑制効果の高いフリップ角誤差範囲が広がることがわかる。
【0120】
以上の結果より、本実施形態の手法によれば、白質などの脳実質の信号に対して脳脊髄液の信号を抑制できることが示された。従って、本実施形態によれば、脳脊髄液からの信号が抑制された状態で、信号計測がなされるため、得られる水のスペクトルピークの歪みが低減する。そして、歪みの少ないピークに基づいて温度が算出されるため、生体内の温度測定精度が向上する。
【0121】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置100は、脳脊髄液からの核磁気共鳴信号を抑制する脳脊髄液抑制シーケンス330を実行する脳脊髄液信号抑制部211と、前記脳脊髄液抑制シーケンス330直後に、水および所望の代謝物質の核磁気共鳴信号をそれぞれ計測する信号計測シーケンス420を実行する信号計測部212と、前記信号計測シーケンス420で得た水および所望の代謝物質の核磁気共鳴信号から被検体の温度情報を算出する温度情報算出部220と、を備える。
【0122】
そして、前記脳脊髄液抑制シーケンス330は、水の核磁化のみを選択的に励起する複数の周波数選択励起パルス331と、前記周波数選択励起パルス331の印加毎に印加される、残留した水の横磁化成分をスポイルするスポイラー傾斜磁場パルス332と、を含む。
【0123】
本実施形態によれば、第一の実施形態同様、脳脊髄液信号による水のスペクトルピークの歪みを低減することができ、これを用いて算出する生体内の温度計測精度を向上させることができる。
【0124】
さらに、本実施形態によれば、周波数選択励起パルス(RFC)331の数を増やすことにより、第一の実施形態に比べて周波数選択励起パルス(RFC)331のフリップ角に空間的な不均一があっても脳脊髄液信号を抑制できる。