(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性樹脂被膜が、粒径1μ〜20μの黒鉛粒子又は/及び導電性セラミックスを含み、その重量分率が30%〜70%の導電性樹脂被膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材。
前記プラズマ処理チャンバ内に導電性炭素被膜の形成に必要な原料ガスを導入して炭素イオンを含む放電プラズマを生成し、当該放電プラズマ中に前記金属基材を曝し、前記金属基材に負のバイアス電圧を印加して前記導電性炭素を含むガスバリヤ被膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法。
前記金属基材表面に化学蒸着法によって金属カーバイド、金属オキシカーバイド、金属ナイトライド、金属ボライド、及び金属シリサイドのいずれかの化合物、或いはこれらの混合物を含む前記ガスバリヤ被膜を形成することを特徴とする請求項5記載の燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法。
前記金属基材表面に真空蒸着法、又は化学蒸着法によって所望の金属被膜を形成し、炭素イオン、酸素イオン、窒素イオン、ホウ素イオン及び珪素イオンから選択される少なくとも1種のイオンを含むプラズマ雰囲気中で、前記金属基材に負のバイアス電圧を印加して前記イオンを注入することによって金属カーバイド、金属オキシカーバイド、金属ナイトライド、金属ボライド、金属シリサイドのいずれかの化合物、或いはこれらの混合物を含む前記ガスバリヤ被膜を形成することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法。
前記プラズマ処理チャンバ内に原料ガスとして所望の金属を含む金属ヘキサカルボニルガスを導入し、当該ガスを含む雰囲気中で基材温度を130℃〜450℃に保持して化学蒸着法によって所望の金属被膜、金属カーバイド被膜、金属オキシカーバイド被膜、或いはこれらの混合物被膜を含む前記ガスバリヤ被膜を形成することを特徴とする請求項5記載の燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示される燃料電池用セパレータは、アモルファスカーボンが絶縁性膜であるため、セパレータとガス拡散電極材( 例えば、カーボンペーパー) との接触抵抗は10mΩ・cm
2以上で、十分低くできないという課題があった。また、アモルファスカーボン被覆層は耐食性に優れているとされているが、耐食性劣化の要因となるピンホール等の微小欠陥の発生を完全に回避することは困難で製造上の大きな課題であった。
【0012】
特許文献2に開示される方法は、製造工程が複雑であるだけでなく、特許文献1と同様な課題を有する。また、技術文献3に開示される方法は、耐食性に優れるとされているが、厚さ5μm〜30μmの導電性樹脂層を積層するため、電極との接触抵抗を5mΩ・cm
2以下に低減することは困難とされている。接触抵抗の更なる低減が要求されている。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、耐食性に優れ、かつ接触抵抗が低い固体高分子電解質型燃料電池用セパレータ又は固体高分子電解質型燃料電池用集電部材を安価に提供すること、及びその製造方法を提供することにある。また、本発明によって製造された燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材、及び当該燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材を用いた固体高分子電解質型燃料電池を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために成されたもので下記の燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材、及び当該燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法を提供する。
【0015】
請求項1に係る発明は、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、チタニウム(Ti)、これらの金属を
主成分とする合金
、又はこれらの金属を積層したものからなる基材と、前記基材の少なくとも一方の面に形成されたガスバリヤ被膜と、前記ガスバリヤ被膜の表面に形成された導電性樹脂被膜とを有
し、前記ガスバリヤ被膜が、抵抗率が0.01Ω・cm〜10Ω・cmの導電性アモルファスカーボン或いは導電性ダイヤモンドライクカーボンからなる被膜、又は、抵抗率が1Ω・cm未満の金属カーバイドからなる被膜であることを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材である。
これならば、ガスバリヤ被膜と導電性被膜を積層することにより、例えばガスバリヤ被膜に形成されたピンホールなどの欠陥を実質的に封孔することができ、耐食性を向上させることができる。そのうえ、ガスバリヤ被膜の表面に導電性樹脂被膜を形成することにより、接触抵抗を低減することができる。
なお、上述した欠陥の封孔に例えばオキシカーバイドや他の薄膜を用いることが考えられるが、この場合は、欠陥部分の構造が例えば塵埃などの陰となっていた場合、上述した薄膜では確実に封孔することができず、耐食性を補償することができない。
これに対して、導電性樹脂被膜は、僅かな厚さであったとしても(1μm以上)、塵埃などの欠陥部分の陰まで包み込むことができ、これにより、その欠陥部分に腐食液が浸入することを確実に阻止することができる。
【0016】
請求項
2に係る発明は、請求項1記載の前記ガスバリヤ被膜の厚さが10nm〜500nmであることを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材である。
これならば、被膜生成時間が長時間にならず、生産性を担保しながらも、ガスバリヤ被膜の効果を十分に発揮させることができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1
又は2に記載の前記導電性樹脂被膜が、粒径1μ〜20μの黒鉛粒子又は/及び導電性セラミックスを含み、その重量分率が30重量%〜70重力%の導電性樹脂被膜であることを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材である。
重量分率が上述した範囲が好ましい理由は、重量分率が大きすぎると、導電性樹脂被膜の表面に亀裂が生じ、重量分率が小さすぎると、接触抵抗が大きくなるからである。
【0018】
請求項
4に係る発明は、請求項1から
3のいずれか1項に記載の前記導電性樹脂被膜の厚さが、1.0μm〜30.0μmであることを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材である。
これならば、導電性樹脂被膜の耐食性を担保しながらも、製造時間及び製造コストを低く抑えることができる。
【0019】
請求項
5に係る発明は、
(a)燃料電池用金属基材をプラズマ処理チャンバ内に搬送する
工程と、
(b)前記金属基材を100℃〜450℃に加熱
しながらプラズマ処理法によって前記金属基材の表面をクリーニングする工程と、
(c)前記金属基材の表面に
導電性ガスバリヤ被膜を形成する工程と、
(d)前記ガスバリヤ被膜の表面に導電性樹脂被膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法である。
これならば、上述した作用効果を発揮する燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材を製造することができる。
【0020】
請求項
6に係る発明は、前記プラズマ処理チャンバ内に導電性炭素被膜の形成に必要な原料ガスを導入して炭素イオンを含む放電プラズマを生成し、当該放電プラズマ中に前記金属基材を曝し、前記金属基材に負のバイアス電圧を印加して前記導電性炭素を含むガスバリヤ被膜を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法である。
これならば、燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材に必要な導電性を確実に得ることができる。
【0021】
請求項
7に係る発明は、前記金属基材表面に化学蒸着法によって金属カーバイド、金属オキシカーバイド、金属ナイトライド、金属ボライド、金属シリサイドのいずれかの化合物、或いはこれらの混合物を含む前記ガスバリヤ被膜を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法である。
【0022】
請求項
8に係る発明は、前記金属基材表面に真空蒸着法、又は化学蒸着法によって所望の金属被膜を形成し、炭素イオン、酸素イオン、窒素イオン、ホウ素イオン及び珪素イオンから選択される少なくとも1種のイオンを含むプラズマ雰囲気中で、前記金属基材に負のバイアス電圧を印加して前記イオンを注入することによって金属カーバイド、金属オキシカーバイド、金属ナイトライド、金属ボライド、金属シリサイドのいずれかの化合物、或いはこれらの混合物を含む前記ガスバリヤ被膜を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法である。
【0023】
請求項
9に係る発明は、請求項
5に記載の前記ガスバリヤ被膜の形成方法が、前記プラズマ処理チャンバ内に原料ガスとして所望の金属を含む金属ヘキサカルボニルガスを導入し、当該ガスを含む雰囲気中で基材温度を130℃〜450℃に保持して化学CVD法によって所望の金属被膜、金属カーバイド被膜、金属オキシカーバイド被膜、或いはこれらの混合物被膜を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材の製造方法である。
【0024】
請求項
10に係る発明は、前記請求項1から
4のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材を用いた固体高分子電解質型燃料電池である。
これならば、上述した燃料電池用セパレータ又は燃料電池用集電部材と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、アルミニウムや鉄など安価な金属基材表面にガスバリヤ被膜と導電性樹脂被膜とを積層することによって、耐食性に優れ、かつ接触抵抗が低くい固体高分子電解質型燃料電池用セパレータ、或いは集電部材を提供することができる。また、生産性に優れた製造方法を提供することができる。更に、本発明によって製造された燃料電池用セパレータや集電部材、及び当該燃料電池用電極部材を用いた固体高分子電解質型燃料電池を安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
始めに、本実施形態の固体高分子電解質型燃料電池Xについて説明する。
前記固体高分子電解質型燃料電池Xは、例えば、燃料電池自動車などに用いられるものであり、
図1に示すように、燃料極1、空気極2及びこれらに挟まれた電解質3からなるセル4が積み重なって構成されたものである。また、上段部及び下段部には集電部材5が設けられ、セル4とセル4との間にはセパレータ110が設けられている。
前記集電部材5は、前記セパレータ110よりも厚く形成されているものの、前記セパレータ110と同様の製造方法で製造されるとともに、前記セパレータ110と同様の構成を有している。
【0028】
以下、前記集電部材5及び前記セパレータ110を代表し、本実施形態の燃料電池用セパレータ110について図面を用いて説明する。
図2に、本発明に係る燃料電池用セパレータ110の断面概略図を示す。セパレータ110は、金属基材11の少なくとも一方の主面に形成されたガスバリヤ被膜12と、当該ガスバリヤ被膜の表面に積層された導電性樹脂被膜13と、からなることを特徴とする。本発明は、アルミニウムや鉄などの安価な金属基材11表面にガスバリヤ被膜12と導電性樹脂被膜13とを積層することによって、耐食性の向上と接触抵抗の低減を実現したものである。本発明で用いるガスバリヤ被膜12は、導電性を有し、かつ酸素及び水蒸気の浸透を抑制する被膜であり、導電性炭素被膜、金属カーバイド被膜、金属オキシカーバイド被膜、金属ナイトライド被膜、金属ボライド被膜及び金属シリサイド被膜を含む。
【0029】
例えば、酸化され易いアルミニウムや鉄基材表面に直接導電性樹脂被膜13を積層する従来の構成では、導電性樹脂被膜13は耐薬品性に優れるが、水蒸気や酸素は容易に浸透し、アルミニウムや鉄基材表面に絶縁性の酸化被膜を生成するため接触抵抗が増加する要因となっていた。
【0030】
金属基材11表面に、例えば、導電性を有するダイヤモンドライクカーボン被膜(以下、導電性DLC被膜とも記す)や導電性を有するアモルファスカーボン被膜(以下、導電性a−C被膜とも記す)、或いは酸化され難い金属カーバイド被膜や金属オキシカーバイド被膜などのガスバリヤ被膜12を挟着することによって耐食性と低接触抵抗を保持することができる。導電性DLC被膜や導電性a−C被膜は酸やアルカリ性溶液に対して優れた耐食性を示すと同時に優れたガスバリヤ特性を有する。しかし、
図2(c)に示すように金属基材11表面には多くの凹凸や欠陥部分16が存在する。導電性炭素被膜として前記導電性DLC被膜や導電性a−C被膜を形成してもピンホールなどの欠陥部分16を完全に被覆することは困難で、耐食性の低下の大きな要因となっている。従って、金属基材11表面にガスバリヤ被膜12を形成し、その表面を導電性樹脂被膜13で被覆することによって、前記ガスバリヤ被膜12の欠陥部分16を実質的に封孔することができ、酸性溶液やアルカリ性溶液のみならず、酸素や水蒸気の拡散を抑制して金属基材11表面の酸化や腐食を阻止し、接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0031】
本発明によれば、前記金属基材11にアルミニウム、鉄、亜鉛及びマグネシウムなどの安価な金属基材、又はこれらの金属を主成分とする合金基材、又はこれらの金属の積層基材を用いることができる。云うまでもなくチタニウムやニッケル、ステンレス鋼材などの高価な金属基材を使用することもできる。
【0032】
アルミニウム基材11として、純度99.0重量%以上の高純度アルミニウム、例えば、JIS規定の1000系合金(工業用純アルミニウム)を使用することができる。高純度アルミニウムは熱伝導率(約200W/m・K)が高く、セパレータ110として好適である。耐食性や加工性、機械的強度等を考慮すればアルミニウム合金が好ましい。耐食性および加工性の点では、3000系合金(Al−Mn系合金)、5000系合金(Al−Mg系合金)、6000系合金(Al−Mg−Si系合金)、又は8000系合金(Al−Fe−Si系合金)を使用することができる。
【0033】
また、
図2(b)に示すように、例えば、鉄材や鉄を主成分とする合金をコア金属14とし、その表面に高純度アルミニウムもしくはアルミニウム合金層15、或いはニッケルやチタニウム層15を積層した積層金属基材11、或いは亜鉛やマグネシウムをメッキした積層金属基材11を使用することができる。例えば、鉄基材表面にアルミニウム材(高純度アルミニウム及びアルミニウム合金を含む)を溶融メッキ法等により積層することによって熱伝導率が優れ、機械的強度が大きい積層型セパレータ110を実用化することができる。
【0034】
前記ガスバリヤ被膜12である導電性炭素被膜の抵抗率は小さいほど好ましいが、導電性DLC被膜の場合、抵抗率は1mΩ・cm程度が限度である。前記導電性DLC膜の抵抗率の好適な範囲は、1mΩ・cm〜100Ω・cm、より好適な範囲は、1mΩ・cm〜1Ω・cmである。これは、導電性DLC膜の抵抗率が大きすぎると、燃料電池の内部抵抗が大きくなってしまい、電力損失が大きくなり、実用的でないからである。
また、導電性DLC膜の厚さの好適な範囲は、10〜500nm、より好適な範囲は30〜300nmである。厚さが10nm以下では十分なガスバリヤ被膜12の効果が得られず、300nm以上になると、被膜形成時間が長くなり生産性の点で不利になる。
【0035】
ガスバリヤ被膜12の素材は導電性炭素に特定されるものではなく、酸素ガスや水蒸気などと化学反応して絶縁性の金属酸化膜を生成しない素材であればよい。例えば、クロムやジルコニウム、ニッケルなど遷移金属の金属カーバイド被膜や金属オキシカーバイド被膜を使用することができる。導電性樹脂被膜13を拡散してガスバリヤ被膜12の表面に到達した酸素や水蒸気は、100℃以下の金属カーバイドや金属オキシカーバイド被膜12とは化学反応せず、更に拡散して金属基材11表面まで浸透して絶縁性の酸化被膜を生成することはなく、接触抵抗の経時変化(増加)を抑制することができる。
【0036】
具体的な化合物ガスバリヤ被膜12としては、クロムカーバイド(CrC)、ニッケルカーバイド(NiC)、ジルコニウムカーバイド(ZrC)、タングステンカーバイド(WC)、モリブデンカーバイド(Mo
2C)及びチタニウムカーバイド(TiC)などの金属カーバイド被膜、クロムオキシカーバイド(CrCO)、ニッケルオキシカーバイド(NiCO)、タングステンオキシカーバイド(WCO)、モリブデンオキシカーバイド(MoCO)及びチタニウムオキシカーバイド(TiCO)などの金属オキシカーバイド被膜を挙げることができる。
【0037】
本発明によれば、前記ガスバリヤ被膜12は、前記金属カーバイドと前記金属オキシカーバイドの混合物でもよく、その割合は任意であってもよい。多くの金属カーバドの抵抗率は0.1mΩ・cm以下であり、クロムオキシカーバイドの抵抗率は約0.2mΩ・cmであることが知られている。金属オキシカーバイド被膜ではクロムオキシカーバイドを主成分とする金属オキシカーバイド被膜が好適である。前記金属カーバイド被膜、前記クロムオキシカーバイドを主成分とするガスバリヤ被膜12の厚さは特定されるものではないが、生産性を考慮すれば1μm以下、好ましくは10nm〜500nmである。
【0038】
更に、これらの金属カーバイド被膜、金属オキシカーバイド被膜のみならず、抵抗率が1Ω・cm未満の導電性を有し、耐食性に優れる金属ナイトライド被膜、金属ボライド被膜、金属シリサイド被膜などを使用することができる。
【0039】
前記金属ナイトライド被膜の具体例としては、クロムナイトライド(Cr
2N)被膜、ニッケルナイトライド(NiN)被膜、ジルコニウムナイトライド(ZrN)被膜、タンタルナイトライド(TaN)被膜、バナジウムナイトライド(VN)被膜及びチタニウムナイトライド(TiN)被膜などが挙げられる。
【0040】
前記金属ボライド被膜としては、クロムボライド(CrB)被膜、ジルコニウムボライド(ZrB)被膜、タンタルボライド(TaB)被膜、モリブデンボライド(MoB)被膜、ニオビウムボラド(NbB
2)被膜及びチタニウムボライド(TiB)被膜などが挙げられる。
【0041】
前記金属シリサイド被膜の具体例としては、クロムシリサイド(CrSi
2)被膜、ジルコニウムシリサイド(ZrSi
2)被膜、タンタルシリサイド(TaSi
2)被膜、モリブデンシリサイド(MoSi
2)被膜、ニオビウムシリサイド(NbSi
2)被膜及びチタニウムシリサイド(TiSi
2)被膜などが挙げられる。
【0042】
導電性樹脂被膜13は黒鉛粒子や導電性セラミックス粉末など導電性フィラーとバインダー樹脂とからなる。従来、前記バインダー樹脂の中に導電性フィラーとして長径1μm〜100μmの針状または扁平な鱗状の黒鉛粒子が使用されていた。接触抵抗は黒鉛粒子の重量分率によって左右され、通常30重量%〜70重量%が好適とされている。導電性樹脂被膜13に含まれる黒鉛粒子の体積分率が70%以上であると、表面に亀裂が生じ、重量分率が30%以下であると、接触抵抗が50mΩ・cm
2以上になるので好ましくない。また、導電性樹脂被膜13の厚さは5μm〜30μmであることが好ましく、厚さが5μm未満では、十分な耐食性が得られず、30μm超では、形成に要する時間が不必要に長くなる。前記導電性樹脂被膜13を構成するバインダー樹脂としては、フェノール系樹脂やエポキシ系樹脂等様々なバインダー樹脂が挙げられるが、中でもフェノール系樹脂やフッ素系樹脂が好ましい。
【0043】
本発明によれば、前記金属基材11と前記導電性樹脂被膜13との間にガスバリヤ被膜12を挟着することによって耐食性を著しく向上させることができる。また、前記導電性樹脂被膜13の導電性フィラーとして膜厚(垂直)方向の抵抗値が低い粒径1μm〜30μmの粒状黒鉛粉末、又は/及び金属カーバイドや金属ナイトライドなどの導電性セラミックス粉末を使用することによって、導電性樹脂被膜13の厚さを15μm以下とすることが可能になり、接触抵抗も5mΩ・cm
2程度まで低減とすることが可能になった。導電性樹脂被膜13の好適な厚さは1μm〜30μm、より好適な厚さは3μm〜15μmである。
【0044】
前記導電性フィラーとして前記粒状黒鉛粉末、金属カーバイドや金属ナイトライドなどの導電性セラミックス粉末に加えて、金属オキシカーバイド、金属オキシナイトライド、金属ボライド及び金属シリサイドなどの導電性セラミックスを使用することができる。
【0045】
上述した構成により、例えばオキシカーバイドや他の薄膜によってDLC被膜のピンホールや微小欠陥の封孔処理を行った場合に比べて、導電性樹脂被膜13を用いることで、耐食性を著しく向上させることができる。これは、導電性樹脂被膜13が、オキシカーバイドや他の薄膜に比べて、僅かな厚さであったとしても(1μm以上)、塵埃などの蔭による欠陥部分まで包み込むことができ、その欠陥部分に腐食液が浸入することを阻止することができるからと考えられる。
また、導電性フィラーとして黒鉛を用いているので、導電性樹脂被膜13を化学的に安定なものにすることができる。
さらに、バインダー樹脂としてフェノール系樹脂を用いていることで、バインダー樹脂と基材との接着性を向上させることができる。また、バインダー樹脂としてフッ素系樹脂を用いることで、バインダー樹脂を耐熱性や耐食性、撥水性に優れたものとすることができる。
【0046】
本発明に係る燃料電池用セパレータ110の製造方法は、化学蒸着法等による前記ガスバリヤ被膜12の形成工程と、ディッピング法又はスプレー法又は電着法等による導電性樹脂被膜13の形成工程の二つに大別される。本発明で用いる化学蒸着法は、熱CVD法、プラズマCVD法、スパッタリング法、リアクティブスパッタリング法及びイオンプレーティング法を含む。
【0047】
以下に本発明に係る燃料電池用セパレータ110の製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0048】
図3に前記ガスバリヤ被膜12の形成に用いるプラズマ処理装置200の概略図を示す。プラズマ処理装置200の真空チャンバ20の側板には高周波放電プラズマを励起するための誘導結合型高周波アンテナ22がフィードスルー23を介して導入されている。これと対向してプラズマ処理チャンバ内21に金属基材11を係止する基材取り付け治具32が前記高周波アンテナ22と略平行に設置されている。前記金属基材11は前記基材取り付け治具32を介して加熱板30及び温度制御器31によって所定温度に加熱される。金属基材11は前記基材取り付け治具32、フィードスルー23を介してバイアス電源27に接続されている。前記高周波アンテナ22の一端は整合器26を介して高周波電源25に接続され、他端は接地されている。20aは作業ガスの導入口であり、20bは排気口である。
【0049】
前記ガスバリヤ被膜12の形成工程では、例えば図示しないチェーン駆動機構等により前記燃料電池用金属基材11をプラズマ処理チャンバ内21に搬送して、真空排気手段(図示せず)によってプラズマ処理チャンバ内21を高真空に排気するとともに、例えば加熱板30によって金属基材11を100℃〜450℃に加熱してガス出しを十分に行う。次に、例えばアルゴンと水素の混合ガスをプラズマ処理チャンバ内21に導入して所定のガス圧力に保持し、前記高周波アンテナ22に高周波電源25から整合器26を介して高周波電力を給電してプラズマ処理チャンバ内21に放電プラズマを発生させる。一方、基材取り付け治具32を介してバイアス電源27から前記金属基材11に、例えば、5〜15kVの負のパルス電圧を印加する。金属基材11表面をイオンボンバードすることによって金属基材11表面のクリーニングを行う。いわゆるPBII(Plasma Based Ion Implantation)法と呼ばれるプラズマ処理法によってクリーニングすることができる。
【0050】
前記ガスバリヤ被膜12となる導電性炭素被膜の形成方法は、前記クリーニング工程によって金属基材11表面の汚染物や金属酸化膜を除去して金属基材温度を250〜400℃に保持し、例えば、原料ガスとしてメタンとアセチレンの混合ガスをプラズマ処理チャンバ内21に導入し、前記クリーニング工程と同様に前記高周波アンテナ22に高周波電力を給電して金属基材11の表面近傍に炭素イオンを含む放電プラズマを発生させ、前記金属基材11に負の直流電圧又は負のパルス電圧を印加することによって導電性のDLC被膜、或いはa−C被膜を形成することができる。
【0051】
原料ガスとしては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエンおよびシクロヘキサン、ベンゼン等からなる炭化水素系化合物の群より選択される少なくとも1種を主成分とした原料ガスを使用することができる。ガス圧は0.1〜100Pa、好ましくは0.3〜30Paである。高周波電源25から整合器26を介して前記高周波アンテナ22に高周波電力を供給して放電プラズマを発生させ、同時に、金属基材11に負のバイアス電圧を印加して導電性DLC被膜12を形成する。また、必要に応じて水素ガス、アルゴンガス、窒素ガス、ホウ素化合物ガス等を添加することができる。
【0052】
高周波電源25としては、10MHz〜60MHz、例えば13.56MHz、出力300W〜5kWの高周波電源を用いることが好ましい。バイアス電源27には、繰り返し周波数0.5kHz〜5kHz、出力電圧300V〜15kVの負のパルス電圧を給電できるものを使用することができる。また、周波数10kHz〜500kHz、プラズマ電位に対して−300V〜−1kVの負の脈流電圧を印加することができるバイアス電源を使用することができる。更に、好ましくは周波数30kHz〜200kHzの脈流電源である。
【0053】
本発明によれば、ガスバリヤ被膜12となる導電性DLC被膜の形成には、主として前記高周波電力によって原料ガスの放電プラズマを発生させ、前記バイアス電圧の印加によって所望の抵抗率を有する導電性DLC被膜を形成することができる。また、原料ガスとして前記炭化水素系化合物ガスに窒素ガス、或いはホウ素化合物ガスを混合した原料ガスを使用することによって窒素元素、或いはホウ素元素を含有する導電性DLC被膜を形成することができ、より導電性に優れたガスバリヤ被膜12を形成することができる。
【0054】
本発明による他のガスバリヤ被膜12の形成方法は、前記金属基材11表面に真空蒸着法、或いはスパッタリング法等により所望の金属被膜、例えば、クロム金属被膜を形成する。次に、原料ガスとして炭化水素系化合物ガス、例えばアセチレンガスと水素の混合ガスをプラズマ処理チャンバ内21に導入し、前記クリーニング工程と同様に前記金属基材11に5〜15kVの負のパルス電圧(バイアス電圧)を給電して金属基材11の近傍に炭素イオンを含む放電プラズマを発生させ、前記クロム金属被膜に炭素イオンを注入する。炭素イオンを注入することによって、前記クロム金属被膜表面にクロムカーバイド被膜を形成することができる。クロムカーバイド被膜の厚さは印加する前記パルス電圧の波高値に依存するが、5〜20nmである。
【0055】
また、原料ガスとして、例えば前記アセチレンガスと水素の混合ガスに炭酸ガスや水蒸気など酸素化合物ガスを添加することによって、前記クリーニング工程と同様に前記金属基材11に5〜15kVの負のパルス電圧を印加することによって前記クロム金属被膜に炭素イオンと酸素イオンを注入する。炭素イオンと酸素イオンを同時注入することによって、前記クロム金属被膜表面にガスバリヤ被膜12となるクロムオキシカーバイド被膜を形成することができる。
【0056】
前記クロム金属被膜にイオン注入してクロムカーバイドやクロムオキシカーバイド被膜を形成する過程では、注入される炭素及び酸素の濃度は最表面が最も高く、表面から深部に進むに従って減少する、いわゆる傾斜層が形成される。従って、最表面はクロムカーバイドやクロムオキシカーバイドが形成されても深部では、クロムカーバイドとクロム金属が混在するガスバリヤ被膜12が形成される。本発明によれば、これらの混合被膜もガスバリヤ被膜12として有効であることが明らかになった。
【0057】
前記製造方法は、クロム金属に限定されるものではなく、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、ニッケル等の金属カーバイドや金属オキシカーバイド、或いはこれらの混合物を含むガスバリヤ被膜12の製造に適用することができる。
【0058】
また、窒素イオン、ホウ素イオン及び珪素イオンから選択される少なくとも1種のイオンを含むプラズマ雰囲気中で、前記金属基材11に負のバイアス電圧を印加して前記イオンを注入することによって金属ナイトライド、金属ボライド、金属シリサイドのいずれかの化合物、或いはこれらの混合物を含む前記ガスバリヤ被膜12を形成することができる。
なお、
図3では、前記金属基材11の一方の面に誘導結合型高周波アンテナ22を配置する構成について説明したが、前記金属基材11の両面に高周波アンテナ22を配置し、金属基材11の両面に同時にガスバリヤ被膜12を形成できることは云うまでもない。
【0059】
また、本発明による他のガスバリヤ被膜12の形成方法は、前記金属基材11表面に化学蒸着法によって金属カーバイド、金属オキシカーバイド、金属ナイトライド、金属ボライド、金属シリサイドのいずれかの化合物、或いはこれらの混合物を含む前記ガスバリヤ被膜12を形成することができる。
【0060】
図4は本発明に係る他のガスバリヤ被膜12を形成するプラズマ処理装置300の要部構成を示す概略図面である。一例として
図4を用いて他のガスバリヤ被膜12の形成方法を説明する。プラズマ処理チャンバ内21に前記金属基材11と、これに対向して所定の金属からなる網状のターゲット金属板24、例えば網状のクロム金属板が配置されている。前記金属基材11及び前記ターゲット金属板24は連動切り換えスイッチ29及び整合器26を介して高周波電源25に接続され、またバンドパスフィルタ33を介してバイアス電源27に接続される。所謂、CCP(Charge Coupled Plasma)方式のプラズマ処理装置である。20aは作業ガスの導入口であり、20bは排気口である。
【0061】
前記ガスバリヤ被膜12の形成は、例えば図示しないチェーン駆動機構等により前記燃料電池用金属基材11をプラズマ処理チャンバ内21に搬送して、真空排気手段(図示せず)によってプラズマ処理チャンバ内21を高真空に排気してガス出しを十分に行う。次に、例えばアルゴンと水素の混合ガスをプラズマ処理チャンバ内21に導入して所定のガス圧力に保持し、前記金属基材11に高周波電源25から整合器26及び切り換えスイッチ29を介して高周波電力を給電して金属基材11の近傍に放電プラズマを発生させる。一方、前記ターゲット金属板24は接地する。バイアス電源27からバンドパスフィルタ33を介して金属基材11に好適な負のバイアス電圧を印加して基材表面11をイオンボンバードすることによってクリーニングすることができる。云うまでもなく、前記金属基材11に高周波電力のみを給電しても、発生する自己バイアス電圧(負のバイアス電圧)を利用してクリーニングすることができる。
【0062】
次に、連動切り換えスイッチ29によって極性を反転する。即ち、前記金属基材11を接地し、ターゲット電極板24を高周波電源25とバイアス電源27に接続する。原料ガスとして炭化水素ガス、例えばメタンとアセチレンの混合ガス、及びアルゴンをプラズマ処理チャンバ内21に導入して所定のガス圧力に調整し、前記ターゲット電極板24に高周波電力を給電してターゲット電極板24近傍に放電プラズマを励起し、負のバイアス電圧を印加すればターゲット電極板24がスパッタリングされ、例えばクロムターゲット電極板であれば、クロム原子がスパッタされてプラズマ中の炭素原子と反応してクロムカーバイドが生成され金属基材11表面に堆積させることができる。所謂、リアクティブスパッタリングによって前記金属基材11表面にクロムカーバイドを含むガスバリヤ被膜12を形成することができる。云うまでもなく、前記ターゲット電極板24に高周波電力のみを給電しても、発生する負の自己バイアス電圧を利用してガスバリヤ被膜12を形成することができるが、負のバイアス電圧を制御することによって所望の特性を有するガスバリヤ被膜12を形成することができる効果がある。
【0063】
同様に、前記ターゲット金属板29と前記原料ガスの任意の組み合わせによって、前記金属カーバイド、金属オキシカーバイド、金属ナイトライド、金属ボライド、金属シリサイドのいずれかの化合物、或いはこれらの混合物を含む前記ガスバリヤ被膜12を形成することができる。
【0064】
更に、本発明による他のガスバリヤ被膜12の形成方法は、前記金属基材11の温度を350〜400℃に保持し、原料ガスとして、例えば、ヘキサカルボニルクロムを水素に随伴させて
図4に示すプラズマ処理装置のプラズマ処理チャンバ内21に導入する。ガス圧力を10〜130Paに調整して前記金属基材11に周波数13.56MHz、出力100〜500Wの高周波電力を給電して金属基材11近傍に放電プラズマを生成し、前記金属基材11に−50〜−400Vの直流バイアス電圧を給電してクロムオキシカーバイド被膜を形成することができる。また、ヘキサカルボニルニッケルやヘキサカルボニルタングステンなど他の金属ヘキサカルボニルガスを用いることができる。所謂、プラズマCVD法によって所望の金属オキシカーバイド被膜を形成することができる。
【0065】
前記ガスバリヤ被膜12の形成には、前述の形成法に特定されるものではなく、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法など、他の化学蒸着法を適用することができる。
【0066】
次に、前記金属基材11表面に形成したガスバリヤ被膜12表面に導電性樹脂被膜13を形成する工程について説明する。導電性樹脂被膜13の種類としては特に限定されものではない。例えば、樹脂バインダー中に導電性物質としてのカーボン系粒子を含むカーボン系導電性樹脂被膜であっても、樹脂バインダー中に導電性物質として金属カーバイドや金属ナイトライドなどの導電性セラミックス粉末、金属粒子や金属化合物粒子を含む金属系導電性樹脂被膜であってもよい。樹脂バインダーの種類は特に限定されるものではなく、耐熱性の高いフェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂やフッ素樹脂を好適に用いることができる。
【0067】
導電性樹脂被膜13は、セパレータ110の導電性及び集電性の低下を抑えつつ金属基材11の耐食性を向上させる効果を有する。即ち、導電性樹脂被膜13はガスバリヤ被膜12の欠陥部分も含めて被覆することによって化学的に不動態化し、耐食性を向上する。導電性樹脂被膜13の厚さが薄すぎると、この耐食性効果が不十分になる。一方、導電性樹脂被膜13が厚すぎると、セパレータ110の接触抵抗(面積抵抗)が増大し、導電性及び集電性が低下する。従って、導電性樹脂被膜13の厚さは1〜30μmとすることが好ましく、3〜15μmとすることがより好ましい。
【0068】
導電性樹脂被膜13の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば、ディピング法、スプレー法、電着法、或いはブレードコート法等により、ガスバリヤ被膜12の表面に塗着することができる。金属基材11が複雑なガス流路(溝や貫通孔)を有する場合は、電着法が均一な厚さの導電性樹脂被膜13を形成しやすいという利点がある。塗着された導電性樹脂被膜13は100〜160℃で10〜30分間乾燥、熱処理(焼き付け)することが好ましい。熱処理温度、処理時間は樹脂バインダーの種類によって異なる。耐熱性が要求される場合は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂やフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を変えない限り、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0070】
(実施例1)
金属基材11として厚さ0.4mmのアルミニウム合金シート(5052)を用意し、3cm×10cmサイズに切断して有機溶剤による超音波洗浄を施した後、
図3に示すプラズマ処理チャンバ内21に設けた加熱板30表面に載置された基材取り付け治具32に係止した。プラズマ処理チャンバ21内を真空排気装置(図示せず)によって10
−2Pa以下の高真空に排気し、前記アルミニウム基材を加熱板30によって350℃に加熱して十分にガス出しを行った。
【0071】
次に、プラズマ処理チャンバ21内にアルゴンと水素の混合ガスを導入してガス圧力を0.8Paに調整し、高周波電源25から13.56MHz、500Wの高周波電力を整合器26を介して前記高周波アンテナ22に給電してアルミニウム基材の近傍に放電プラズマを発生させた。同時に、前記アルミニウム基材に周波数2kHz、波高値15kVの負のパルス電圧を印加して20分間イオン照射することによりクリーニングを行った。
【0072】
引き続き、プラズマ処理チャンバ21内にメタンとアセチレンの混合ガスを導入してガス圧力を1.5Paに調整した。前記クリーニング工程と同様に、前記アルミニウム基材に周波数2kHz、波高値15kV、パルス幅3μsの負のパルス電圧を印加して導電性炭素被膜である導電性DLC被膜を形成した。10分間の運転で厚さ120nmの導電性DLC被膜を得た。前記製造方法を繰り返し、前記アルミニウム基材の両面に導電性DLC被膜を形成した。
【0073】
導電性DLC被膜の膜厚と抵抗率は、シリコン基板表面の酸化膜上に同時成膜した導電性DLC被膜について測定評価した。抵抗率は4端子法による測定結果、16mΩ・cmであることが確認された。
【0074】
次に、導電性樹脂被膜13を形成した。本実施例では、平均粒径約10μmの黒鉛粒子を55重量%含む導電性塗料(日本黒鉛工業株式会社製商品名エブリオーム30CE−300、以下e−樹脂とも記す)を用いた。前記導電性塗料と同量のエタノールで希釈し、前記導電性DLC被膜を形成した金属基材11の両面に浸漬法によって導電性樹脂被膜13を塗布した。塗布後、室温で十分乾燥したあと、大気中で160℃に加熱して30分間ベーキングすることによって導電性樹脂被膜13を形成し、「Al/DLC/e-樹脂」構成のセパレータ110を作製した。導電性樹脂被膜13の厚さは16〜24μm、平均約20μmであった。
【0075】
(実施例2)
金属基材11として鋼鈑表面にアルミニウム合金を溶融メッキした厚さ0.4mmの商品名アルシートSA1D(新日鐵住金株式会社製)を用意し、3cm×10cmサイズに切断して有機溶剤による超音波洗浄を施した後、実施例1と同じ作製プロセスで基材表面のクリーニングと導電性DLC被膜の作製を行った。
【0076】
引き続いて、実施例1と同じ作製プロセスで導電性樹脂被膜13を形成した。本実施例では、平均粒径約10μmの黒鉛粒子を55重量%含む導電性塗料(日本黒鉛工業株式会社製商品名エブリオーム30CE−300)を用いて「Fe/Al/DLC/e−樹脂」構成のセパレータ110を作製した。導電性樹脂被膜13の厚さは14〜20μm、平均約17μmであった。
【0077】
(実施例3)
金属基材11として鋼鈑表面にアルミニウム合金を溶融メッキした厚さ0.4mmの商品名アルシートSA1D(新日鉄住金株式会社製)を用意し、両面にバフ研磨を施した後、
図4に示すプラズマ処理装置の加熱手段31表面に載置された基材取り付け治具32に係止した。プラズマ処理チャンバ21内にアルゴンガス(80%)と水素ガス(20%)の混合ガスを導入して圧力1.5Paに調整し、アルシート基材に高周波電源25から13.56MHz、500Wの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させて基材表面のクリーニングを行った。次に、プラズマ処理チャンバ21内にアルゴンガス(40%)とメタンガス(40%)の混合ガスを導入してガス圧力1.8Paに調整した。前記連動切り換えスイッチ29を反転することによって、前記アルシート基材11を接地し、前記ターゲット電極(クロム金属網)24に高周波電源25から13.56MHz、500Wの高周波電力と負のパルス電圧を重畳して給電し、ターゲット電極の近傍に放電プラズマを発生させ、リアクティブスパッタリング法によって前記アルシート基材11表面にクロム金属とクロムカーバドの混合被膜を形成した。
【0078】
引き続いて、導電性樹脂被膜13を形成した。実施例2と同じ作製プロセスによって、厚さは14〜20μmの導電性樹脂被膜13(e−樹脂)を形成して「Fe/Al/CrC/e−樹脂」構成のセパレータ110を作製した。
【0079】
(実施例4)
金属基材11として、厚さ1.2mmの鋼鈑表面に厚さ5μmのニッケルメッキを施した積層基材を用意し、実施例1と同じ作製プロセスによって「Fe/Ni/DLC/e−樹脂」構成のセパレータ110を作製した。
【0080】
(実施例5)
金属基材11として、厚さ1.2mmの鋼鈑表面に厚さ5μmのニッケルメッキを施した積層基材を用意し、有機溶剤による超音波洗浄を施した後、
図3に示すプラズマ処理チャンバ内21に設けた加熱板30表面に載置された基材取り付け治具32に係止した。プラズマ処理チャンバ21内を真空排気装置(図示せず)によって10
−2Pa以下の高真空に排気し、前記積層基材を加熱板30によって250℃に加熱して十分にガス出しを行った。実施例1と同じプロセスで基材表面をクリーニングし、引き続き、プラズマ処理チャンバ21内にメタンガスを導入してガス圧力を0.8Paに調整し、前記高周波アンテナ22に500Wの高周波電圧を給電して前記積層基材11近傍に放電プラズマを発生させ、同時に周波数2kHz、波高値15kV、パルス幅3μsの負のパルス電圧を印加して炭素イオンを注入し、前記積層基材表面にニッケルカーバイドを含むガスバリヤ被膜12を形成した。
【0081】
引き続いて、導電性樹脂被膜13を形成した。実施例2と同じ作製プロセスによって、厚さは14〜20μmの導電性樹脂被膜13(e−樹脂)を形成して「Fe/Ni/NiC/e−樹脂」構成のセパレータ110を作製した。
【0082】
(実施例6)
金属基材11として、厚さ1.2mmの鋼鈑表面に厚さ5μmのクロムメッキを施した積層基材を用意し、実施例2と同じ作製プロセスによって「Fe/Cr/DLC/e−樹脂」構成のセパレータ110を作製した。
【0083】
(実施例7)
金属基材11として、厚さ1.2mmの鋼鈑表面に厚さ5μmのクロムメッキを施した積層基材を用意し、実施例5と同じ作製プロセスによって「Fe/Cr/CrC/e−樹脂」構成のセパレータ110を作製した。
【0084】
(実施例8)
金属基材11として厚さ0.2mmのステンレス基材(SUS316L)を用意し、実施例2と同じ作製プロセスによって「SUS/DLC/e−樹脂」構成のセパレータ110を作製した。
【0085】
以下、ガスバリヤ被膜12を有しないセパレータを比較例として説明する。
【0086】
(比較例1)
金属基材11として鋼鈑表面にアルミニウム合金を溶融メッキした厚さ0.4mmの商品名アルシートSA1D(新日鉄住金株式会社製)を用意し、有機溶剤による超音波洗浄を施した。本比較例では、平均粒径約10μmの黒鉛粒子を65重量%含む導電性塗料(日本黒鉛工業株式会社製商品名バニーハイトUCC2、以下v−樹脂とも記す)を用いた。前記導電性塗料と同量のトルエンで希釈し、前記アルシート基材11の両面に浸漬法によって導電性樹脂被膜13を塗布した。塗布後、室温で十分乾燥したあと、大気中で100℃に加熱して30分間ベーキングすることによって導電性樹脂被膜13を形成し、「Fe/Al/v−樹脂」構成のセパレータを作製した。導電性樹脂被膜13の厚さは16〜24μm、平均約20μmであった。
【0087】
(比較例2)
金属基材11として鋼鈑表面にアルミニウム合金を溶融メッキした厚さ0.4mmの商品名アルシートSA1D(新日鉄住金株式会社製)を用意し、有機溶剤による超音波洗浄を施した後、その両面に直接実施例2と同じプロセスで導電性樹脂被膜13(e−樹脂)を形成し、「Fe/Al/e−樹脂」構成のセパレータを作製した。
【0088】
(比較例3)
金属基材11として厚さ1.2mmの鋼鈑表面に厚さ5μmのクロムメッキした積層基材を用意し、有機溶剤による超音波洗浄を施した後、その両面に直接実施例1と同じプロセスで導電性樹脂被膜13(e−樹脂)を形成し、「Fe/Cr/e−樹脂」構成のセパレータを作製した。
【0089】
(比較例4)
金属基材11として厚さ0.2mmのステンレス基材(SUS316L)を用意し、有機溶剤による超音波洗浄を施した後、その両面に直接実施例1と同じプロセスで導電性樹脂被膜13(e−樹脂)を形成し、「SUS316L/e−樹脂」構成のセパレータを作製した。
【0090】
「接触抵抗の評価方法」
燃料電池用セパレータとガス拡散電極材との接触抵抗の評価は、
図5に模式的に示す4端子法による測定系400を用いて行った。測定試料41(燃料電池用セパレータ110)の両面を面積1cm
2のガス拡散電極材(東レ株式会社製カーボンペーパーTGP−H−090)42を介して銅板に金メッキした金電極板43でサンドイッチ状に挟み、加圧板44を介して1MPa/cm
2の荷重を加えて1A/cm
2の直流電流を流したときの電位差から接触抵抗を評価した。表1に示す接触抵抗は、測定電位差から予め測定されたガス拡散電極材42と金電極板43間の接触抵抗を減じた値である。
【0091】
「耐食性の評価方法」
燃料電池用セパレータ110の耐食性及び接触抵抗の変化について、pH3、80℃の硫酸溶液中における分極試験、pH3、80℃の硫酸溶液中において0.88Vの電位を印加しての定電位試験及び、1%塩水中における煮沸試験を行った。
【0092】
<pH3、80℃の硫酸溶液中における分極試験>
分極試験では、試験片(燃料電池用セパレータ110)の露出面積を1cm
2とし、露出部以外は絶縁テープとシリコン樹脂でマスキングして測定した。試験液は高純度硫酸(和光純薬株式会社)をイオン交換水に点滴してpH3に調整した。試験液量は500mlとし、全て脱気処理を行った。液温は80℃とした。
【0093】
分極曲線の測定には、電気化学測定システム(北斗電工株式会社HZ5000)を用いた。照合電極は飽和塩化カリウム中のAg/AgCl電極、計測機器は電位掃引速度を1mV/秒とした。自然電位で300秒保持後、−0.4Vから自然電位までカソード分極し、その後反転して+1.0Vまでアノード分極した。実験中の試験片と参照電極の距離は7mmとした。
【0094】
<pH3、80℃の硫酸溶液中における定電位試験>
試験液は高純度硫酸をイオン交換水に点滴してpH3に調整した。試験液量は500mlとし、全て脱気処理を行った。液温は80℃とした。試験片(燃料電池用セパレータ110)の露出面積を1cm
2とし、露出部以外は絶縁テープとシリコン樹脂でマスキングして測定した。前記pH3、80℃の硫酸溶液中において0.88Vの電位験を印加して電流値の経時変化を測定した。
【0095】
<1%塩水中における煮沸試験>
試験液はイオン交換水に1%の食塩を加えて調整した。試験液量は200mlとし、予め沸騰させて脱気処理を行った。セパレータ110を95℃の塩水中に60分浸漬した後、接触抵抗の変化及び導電性樹脂膜13の剥離の有無、基材の腐食状態について評価した。
【0096】
実施例1から8、比較例1から4の接触抵抗及び耐食性の評価結果を表1に示す。表面洗浄後のアルミニウム基材表面、アルシート基材表面、鉄/ニッケルメッキ基材表面、鉄/クロムメッキ基材表面及びSUS316L基材表面の接触抵抗は、それぞれ14、16、6.2、7.8及び450mΩ・cm
2であった。これらの基材表面にガスバリヤ被膜12及び導電性樹脂被膜13を形成した後の接触抵抗は、実施例1から7では4.8〜8.5mΩ・cm
2、実施例8では11.3mΩ・cm
2であった。一方、ガスバリヤ被膜12を有しない比較例1から4では、70〜760mΩ・cm
2であった。比較例1から4では導電性樹脂の焼成中に金属基材11表面に絶縁性の金属酸化膜が形成され、接触抵抗が著しく増加したものと考えられる。ガスバリヤ被膜12であるDLC被膜、或いは炭素イオン注入によるニッケルカーバイド被膜やクロムカーバイド被膜を形成した実施例では接触抵抗の増加は見られない。ガスバリヤ被膜12の有効性が明らかになった。
【0097】
【表1】
【0098】
アルシート基材表面に導電性DLC被膜を形成し、その表面に導電性樹脂膜13を形成した試料(実施例2)について、pH3、80℃の硫酸溶液中における分極試験結果を
図6に示す。この試料の印加電位0.4〜0.6Vにおける電流密度は、0.5〜1μA/cm
2である。また、自然電位は0.3Vで、導電性樹脂被膜13に含まれる黒鉛粒子の自然電位(約0.25V)と略一致し、アルミニウム基材表面はDLC被膜と導電性樹脂被膜13で完全に被覆されていて、電流は黒鉛粒子を介して流れていることを示している。例えば、燃料電池用セパレータ110として使用する場合、基材金属元素の溶出に起因する発電特性の劣化が起こらないことを示唆するものである。また、
図6に示す分極特性は、実施例2の部材構成に固有なものではなく、他の実施例及び比較例についてもほぼ同じ特性を示すものである。
【0099】
実施例2の試料について、pH3、80℃の硫酸溶液中における定電位試験を行った結果を
図7に示す。前記セパレータ110に0.88Vの電位を印加し、120分間の電流変化を示すものである。電位印加後約20分で電流密度は約0.9μA/cm
2から0.6μA/cm
2に低下し、以降終了時間120分まで一定値であった。目視検査では表面の変色、剥離、腐食等は認められなかった。
【0100】
このように、本発明に係る燃料電池用セパレータ110は、鉄やアルミニウムなど安価な基材表面にガスバリヤ被膜12と導電性樹脂被膜13を積層することによって、ガス拡散電極材(例えば、東レ株式会社製カーボンペーパーTGP−H−090)との接触抵抗を5mΩ・cm2程度の極めて低い値を実現することができる。耐食性加速試験であるpH3、80℃の硫酸溶液中における120分間の定電位試験の結果、一定の電流値が維持され、経時変化しないことが確認できた。本発明のセパレータ110は極めて耐食性に優れ、また、接触抵抗も殆ど変化しなかった。本発明のセパレータ110を用いた燃料電池は長時間の運転が可能であることが分かる。