特許第6014812号(P6014812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6014812
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   E02D3/12 101
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-257396(P2015-257396)
(22)【出願日】2015年12月28日
【審査請求日】2016年1月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509023447
【氏名又は名称】強化土株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
(72)【発明者】
【氏名】小山 忠雄
【審査官】 竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4808241(JP,B2)
【文献】 特許第4300367(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑状ゲル注入材圧入装置からの圧入により地盤内に可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル体を徐々に拡大させながら形成して、地盤を周囲に押しやるように締め固める地盤改良工法において、前記可塑状ゲル注入材を地盤に挿入された注入管から圧入して塊状ゲル体を形成し、該注入管から地盤並びに/または注入管内の可塑状ゲル注入材の圧入と吸入を複数回繰り返すことにより、塊状ゲル体膨縮させて周辺地盤に加圧と負圧を交互に付与して塊状ゲル体周辺の土粒子同志の結合が解かれてせん断強度が低下したルーズな領域を形成し、その領域に可塑状ゲル注入材を圧入して塊状ゲル体を拡大させて周辺地盤の密度増大を図ると共に、圧入に伴う地盤変位をコントロールすることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
請求項1の地盤改良工法において、可塑状注入材の吸入は注入管内、又は地盤内の可塑状ゲル注入材が部分的に注入管内に自動吸入される塊状ゲル体内の圧力下で行われることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項3】
請求項1または2記載の地盤改良工法において、該可塑状ゲル注入材の圧入と吸入は、シリンダー内をピストンが所要設定ストロークで往復動することにより、地盤に挿入された注入管からの可塑状ゲル注入材の地盤内への圧入と地盤内または/並びに前記注入管内からの吸入を繰り返すように構成された可塑状ゲル注入材圧入装置から以下のいずれかの方法によって、行われることを特徴とする地盤改良工法。
(イ)前記可塑状ゲル注入材の固結時間を前記注入管の先端部から前記シリンダーの吐出口までの可塑状ゲル注入材の吸入時間より長く設定する。
(ロ)可塑状保持時間内に圧入・吸入を反復する。
(ハ)可塑状保持時間内に新たな可塑状ゲル注入材を追加しながら圧入・吸入を反復する。
(ニ)自動吸入と強制吸入のいずれか或いは併用する。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、圧入装置は、可塑状ゲル注入材を充填するシリンダーと当該シリンダー内を往復動するピストンと当該ピストンを作動させる駆動装置を備え、地盤の変位に対応して前記ピストンのストロークの往復運動をコントロールして、各注入深度の圧入・吸入を繰り返すことにより地盤変位をコントロールして塊状ゲル体を拡大させながら周辺地盤の高密度化を図ることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、塊状ゲル体の膨縮作用は同一のシリンダー内におけるピストンの往復動作用によって加圧と減圧を交互に繰り返すことにより行うことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、圧入装置は、複数のピストンポンプを有し、いずれかのピストンポンプがそれぞれ圧入、吸入を交互に或いは同時に行うことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、懸濁液の複数の素材を合流して可塑状ゲル注入材を形成した上で地盤に注入することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、可塑状ゲル注入材は複数の注入管に連続的に、または同時に、あるいは選択的に、更には間欠的のいずれかあるいは複数に注入することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、地盤内に挿入された注入管は外管と外管内に挿入されたパッカー付き内管とから構成され、前記外管は前記パッカー付き内管を通して注入された可塑状ゲル注入材の吐出口が設けられていることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、吐出孔の近傍に当該吐出孔から吐出した可塑状ゲル注入材により徐々に拡大しながら形成される塊状ゲル体の形状を保持するゴムスリーブが取り付けられていることを特徴する地盤改良工法。
【請求項11】
地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入して塊状ゲル体を形成し、当該可塑状ゲル注入材の圧入と吸入を交互に繰り返すことにより、該塊状ケル体を膨縮させて、前記塊状ゲル体の周辺の土粒子同志の結合が解かれてせん断強度が低下してルーズな領域を形成し、かつその領域に可塑状ゲル注入材を圧入することにより、前記塊状ゲル体を徐々に拡大させながら形成して地盤を周囲に押しやるように締め固めるための地盤改良装置であって、地盤内に設置された注入管と、当該注入管に接続され、前記注入管を介して地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入する圧入装置と、前記注入管内および/又は地盤内の可塑状ゲル注入材を吸引する吸入装置とを備え、前記圧入装置はシリンダー内をピストンが所要設定ストロークで往復動することにより地盤内への可塑状ゲル注入材の圧入を繰り返すように構成され、前記吸入装置はシリンダー内をピストンが所要設定ストロークで往復動することにより地盤内または/並びに前記注入管内からの可塑状ゲル注入材の吸入を繰り返すように構成されていることを特徴とする地盤改良装置。
【請求項12】
請求項11記載の地盤注入装置において、注入管または改良範囲近傍の地盤内に間隙水圧計が備えられ、可塑状ゲル注入材の圧入・吸入によって生じた間隙水圧の上昇を観測し、最適な圧入速度、周波数で効率的な改良を行えるように構成されていることを特徴とす地盤注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル固結体を地盤内で膨縮させながら徐々に拡大することにより、周辺地盤を周囲に押しやるように締め固めて強化する地盤改良工法および地盤注入装置に関し、可塑状ゲル注入材の圧入による地盤の隆起や沈下等の地盤変位をコントロールしつつ、かつ周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しつつ、地盤を締め固めて強化することができ、しかも固結体間の連続性と止水性の向上を図れるようにしたものである。
【0002】
また、地盤強度の劣る部分をピンポイトで改良することができ、さらに地盤の強度と止水性の均一化を自動的に行うことができ、かつ地盤の支持力を均一にして建物の不動沈下等を防止できるようにしたものである。
【0003】
また、本発明は、例えば宅地や工場建設地、あるいは道路などの地盤の安定化や斜面(法面)の強化などにも適用でき、さらには既存構造物直下の地盤改良にも適用が可能で、しかも地盤改良に伴う既存の建物や構造物の損傷等を回避しながら耐震補強も可能でき、また、工事や地震などによる液状化等で沈下した地盤の復旧工事にも適用できるようにしたものである。
【背景技術】
【0004】
地盤注入工法は、地盤に存在する土粒子を素材としてその土粒子を動かすことなく、土粒子間の間隙水(地下水)を薬液に置き換えることにより地盤を改良する点できわめて優れた特徴を有するが、注入材が浸透しにくい細粒土地盤には適用しにくく、無理に注入すると地盤を隆起させたり脈状注入されて、注入材が注入対象外へ逸脱して注入効果が得られないという問題があった。
【0005】
また、脈状注入された場合、注入材は局部的に長く伸び、所定領域に密実に脈状注入されることは困難であり、そのため浸透性の悪い地盤の改良には適用が困難である。
【0006】
また、一定の注入速度で注入する従来の注入工法において、上記問題を解決するため、動的注入工法として注入速度をsin波で変化させて注入速度と注入圧力を変化させて割裂・浸透・ゲル化を行なって脈状注入をできるだけ細かい密度で行う方法も開発されているが、広範囲を均等に改良することは困難である。
【0007】
また、高圧噴射工法のようにセメント懸濁液を高圧で噴射して、或いは水と空気を噴射して生じた空隙をセメント懸濁液と置き換えて地盤を強化する工法が多く採用されているが、この工法は産業廃棄物となる排土が大量に発生するという大きな問題があった。
【0008】
ところで、本出願人は、地盤内に可塑状ゲル注入材を連続的に圧入して、可塑状ゲルの固結体を地盤内で徐々に拡大させることにより、周辺地盤を周囲に押しやるように締め固めて地盤の高密度化を図る地盤強化工法を既に発明している(特許文献1参照)。
【0009】
この工法は、軟弱地盤の高密度化には優れているが、圧入した材料を吸引することにより、圧入時に上昇した間隙水圧を消散させながら生じた空隙(空洞)に材料を圧入して締め固める手法であり、間隙水圧が消散した後はせん断強度が回復するため、材料の圧入が充分行われにくいという問題があった。また、この場合、固結体が不均質のため、固結体どうしの連続性が得られにくいという点に課題が残っている。また、注入材製造プラントから注入地点までが長距離の場合などで、注入中に可塑状ゲルの流動性が低下すると固結体の拡大が困難になったり、作業性が低下するという問題があった。
【0010】
また、特許文献2並びに特許文献3には、流動性のほとんどない地盤改良材を地盤に圧入して改良体(塊)を形成し、この改良体による締固め効果によって周辺地盤を圧縮強化する地盤改良工法が開示されている。
【0011】
この工法は、骨材とセメント等からなる非流動性または低流動性の改良材を地盤に注入管を通して圧入することにより周辺地盤を締め固めるための改良体を形成すると共に、地盤に貫入した状態の注入管を繰り返しアップダウンさせることで地盤変位を抑制するといものである。
【0012】
すなわち、地盤に貫入した状態の注入管を改良体内でアップダウンさせ、アップダウンを繰り返すことで周辺地盤に沈下が生ずるため、改良材の圧入に伴う地盤の隆起を相殺させることができる。
【0013】
これらの特許における地盤改良材は、非流動性または低流動性であって地盤中に注入された後、注入管を打ち込んで直接力を加えることによって外側に拡大するか、或いは注入管を引き上げて生ずる負荷を加えることを繰り返して地盤の隆起を抑制する工法である。しかし、この工法は大きなエネルギーを必要とし、また注入プラントから注入地点までの距離が長いと注入材の圧送が困難となり施工効率が落ちる。
【0014】
また、圧入工程において圧入を中断した場合、間隙水圧が消散するため、有効応力が回復し、中断後のポンプの負荷が大きくなる傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第4808241号公報
【特許文献2】特許第4300367号公報
【特許文献3】特許第5598999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本出願人は、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入し、当該可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル固結体を周囲に逸脱することなく徐々に拡大させながら形成して地盤を締め固めて強化する地盤改良工法を開発している(特許文献1)。
【0017】
当該発明は、可塑状ゲルの特性を応用して可塑状ゲルの流動性と脱水による流動性の低下した薄膜の形成を巧妙に応用したすぐれた地盤改良工法である。
【0018】
しかし、可塑状ゲルは、それ自体で固結体を形成するものの固結体どうしの連続性と固結体間の止水効果はきわめて低いものであった。
【0019】
また、可塑状ゲル注入材の圧入により上昇した間隙水圧は、地盤中から材料を吸引すると低下或いは消散して空洞を生ずる一方、地盤の有効応力が回復してせん断強度が回復する。
【0020】
このため、さらなる材料の圧入による塊状ゲル体の拡大は困難になり、或いは不均質になって作業効率が大幅に低下するか、全くできなくなってしまうおそれがあった。
【0021】
また、都市部の狭隘な作業条件下で、住宅地などの地盤改良を可塑状ゲルの圧入によって実施する場合、一般に注入材は遠方の製造プラントから注入地点まで圧送管を通して送液し、そこで建造物直下の地盤中に斜めまたは水平に設置した圧入管を通して圧入するが、この場合、製造プラントから注入地点までの間で可塑状ゲルの流動性が低下して充分な圧入ができず作業性が大幅に低下する等の課題があった。
【0022】
一方、特許文献2に開示された締固め工法では、圧入を一度停止する手法であり、この間に上した間隙水圧が消散し、有効応力が回復するため、再度圧入する際に大きなエネルギーが必要な場合、あるいは圧入が不可能となる恐れがある。
【0023】
また、特許文献3に開示された締固め工法では、注入管自体を流動性のない固結物内で繰り返しアップダウンさせる必要があるため、作業が煩雑化する上にその作業に大きなエネルギーを必要とした。
【0024】
また、特許文献2と特許文献3による地盤改良は流動性のない材料を圧入するため大きな装置を必要とし、さらに材料を遠方から送液することができないため都市部の狭隘な施工条件下では適用が困難であった。
【0025】
また、水平方向または斜め方向から、或いは上方に向っての地盤改良も困難であり、また圧入に伴う周辺地盤の隆起を生じやすい等の問題もあった。
【0026】
その他、注入液に動的エネルギーを加えて脈動注入する注入工法も提案されているが、本発明における注入管を介しての注入液の圧入・吸入を繰り返して土粒子を押しやって流動性の塊状ゲル体を拡大する本発明とは、本質的に異なるものである。
【0027】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって圧入(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放すると共に間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により生じた固結体周囲に生じたルーズな領域に可塑状ゲル注入材を圧入して塊状ゲル体を徐々に拡大させることにより周辺地盤の密度増大を図り、同時に注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位を圧入と吸入の圧力、圧入量とそれぞれのサイクルをコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱や地盤隆起や地盤沈下を防止しながら、連続的に効率のよい地盤の締め固めを確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる地盤注入工法を提供することを目的とするものである。
【0028】
この圧入と吸引は任意の量、速度、回数で行うことが可能であり、これを繰り返すことにより、塊状ゲル体が徐々に拡大しながら地盤を締め固めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、注入管と当該注入管に接続されたピストンポンプ、或いは注入材吸入装置、さらには注入材の圧入と吸入の両方の機能を備えた装置(例えば圧入ポンプまたは吸入ポンプ、あるいは圧入と吸入の両方の機能を備えたポンプ)を用いて地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入、吸入することにより、地盤改良をきわめて効率的にかつ経済に実施することができる。
【0030】
また、注入管には先端に吐出口を有する単管式注入管や二重管構造のパッカー付き注入管などを使用することができ、後者のパッカー付き注入管としては、例えば外周に管軸方向に沿って複数の吐出口を有する外管と、先端に吐出口とパッカーを有し、前記外管内に挿入されたパッカー付き内管とからなる注入管がある。
【0031】
また、外管に設けられた吐出孔の近傍に当該吐出孔から吐出して塊状ゲル体となる可塑状ゲル注入材の形状を保持する所定の長さのゴムスリーブを吐出口上部に取り付けてもよい。
【0032】
この場合、ゴムスリーブの上部は、外管に固定し、下端は解放しておけば、塊状ゲル体は、ゴムスリーブの上部には形成されず、解放されている下方に形成される。また、ゴムスリーブの中間を解放し、上端と下端を固定しておけば、中間部を中心に塊状ゲル体が形成される。
【0033】
なお、上記において、ゴムスリーブの代わりに金網や強度のある合成樹脂製ネットを用いてもよい。また、ネットの目を適切な大きさにすれば、可塑状ゲル注入材の逸出を防いで拘束できるし、また、一部上下に逸出して上下の固結体を連続させて柱状固結体を網の引張力でで一体化することにより補強効果も生ずる。
【0034】
さらに、可塑状ゲル注入材の圧入により上昇する地盤内の過剰間隙水圧を測定する水圧計を取り付けることにより、より効率的な改良を行えることとなる。
【0035】
本発明を例えば、注入管と当該注入管に接続されたピストンポンプを用いて実施する場合、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合が解放されると共に、間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により塊状ゲル体の周囲にせん断強度の低下した領域が形成され、当該領域に可塑状ゲル注入材が圧入されて容易に塊状ゲル体が徐々に拡大することにより周辺地盤が締め固められて密度増大が図られる(図3a(イ),(ロ),(ハ)参照)。
【0036】
同時に、ピストンのストロークを変えて注入材の圧入量と吸入量をコントロールすることにより、注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位をコントロールすることで、周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【0037】
すなわち、本発明は、単に流動性注入材を地盤内に均等浸透させたり、或は脈状浸透させて地盤を固結強化する薬液注入工法とは異なり、地盤内で可塑状ゲル注入材そのものからなる塊状ゲル固結体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰返し付与して塊状ゲル体を膨縮させながら徐々に拡大させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放して塊状ゲル体周囲のルーズな周辺地盤の土粒子間の結合を解放することにより生じたせん断強度の弱い領域または液状化した領域に可塑状ゲル注入材を容易に圧入し、かつ塊状ゲル体を徐々に拡大させて周辺地盤の密度増大を図り、同時にピストンのストロークを変えて注入材の圧入量と吸入量を調整することにより、注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位をコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを行って地盤の高密度化を図り、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図れるようにしたものである。
【0038】
ピストンポンプを往復動させて可塑状ゲル注入材を地盤内に圧入すると、地盤隆起などの地盤の変位が起こることがあるが、地盤の変位に対応してピストンのストロークをコントロールして、各注入深度における圧入を繰り返すことにより地盤変位をコントロールして塊状ゲル固結体を徐々に拡大させながら周辺地盤の高密度化を図ることができる。
【0039】
また、可塑状保持時間内に可塑状ゲル注入材を追加しながら、可塑状ゲル注入材の圧入による塊状ゲル固結体の拡大と、可塑状ゲル注入材の吸入による塊状ゲル固結体の縮小を繰り返しながら、周辺地盤を緩ませながら塊状ゲル体を拡大させて地盤の変位を調整しながら地盤の高密度化を図ることができる。
【0040】
また、地盤の一地点に可塑状ゲル注入材を圧入する場合、一台のピストンポンプによりピストンを往復動させて、注入材の圧入と吸入を交互に繰り返すことにより塊状ゲル固結体の膨縮は可能であるが、複数台のピストンポンプにより各ピストンポンプのピストンを交互に往復動させて、注入材の圧入(載荷)と 吸入(減圧)を交互に繰り返す方が注入材を地盤内にきわめて効率的に圧入し、塊状ゲル固結体を拡大させて地盤の圧密化を行うことができる。
【0041】
また同様に、地盤内における塊状ゲル固結体を膨縮させる場合、一台のピストンポンプによりピストンを往復動させて加圧と減圧を交互に行うことにより可能であるが、複数台のピストンポンプにより各ピストンポンプのピストンを交互に往復動させて加圧と減圧を交互に付与するほうが塊状ゲル体をきわめて効率的に膨縮させることができる。また、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入する場合、懸濁液の素材、たとえば土、粘土またはシルト等を複数合流させたものを圧入してもよい。
【0042】
さらには、地盤内に可塑状ゲル注入材を複数の注入管を用いて圧入する場合、複数の注入管に連続的に、または複数の注入管に同時に、あるいは一部の注入管を選択して、更には間欠的に注入してもよい。
【0043】
ところで、砂の三軸試験結果より求められる変形特性として、同一の軸ひずみを繰り返し載荷した場合と単調載荷した場合とでは、繰返し載荷した方が大きな体積変化(ダイレイタンシー)を生じることが知られている。また、三軸繰返し載荷試験において、試料によって周波数の影響を受けることが知られている。
【0044】
このことから、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入して地盤中に可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル固結体を形成する際に、当該塊状ゲル体に圧入(載荷)と減圧(吸入)を交互に付与することにより膨縮させて体積変化を起させるようにすれば、より大きな塊状ゲル固結体を形成することができて大きな地盤の締固め効果を得ることができる。また、その効果を最大限に引き出すためには、最適な圧入・吸引速度および周波数で実施することが必要である。
【0045】
すなわち、地盤内の塊状ゲル体に圧入(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与することで、周辺地盤の間隙水圧を上昇させることにより、有効応力が上昇し、土粒子が浮遊して周辺地盤がゆるみ、そのゆるんだ領域に可塑状ゲル注入材が圧入されるため大きな塊状ゲル体が形成される。また、この工程を繰り返すことにより地盤に亀裂を生ずることなく、塊状ゲル体が拡大して周辺地盤が密実に締め固められる。
【0046】
すなわち、地盤内の塊状ゲル体に圧入(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与することで、周辺地盤の間隙水圧を上昇させることにより、有効応力が減少し、土粒子が浮遊して周辺地盤がゆるみ、そのゆるんだ領域に可塑状ゲル注入材が圧入されるため大きな塊状ゲル体が形成される。また、この工程を繰り返すことにより地盤に亀裂を生ずることなく、塊状ゲル体が拡大して周辺地盤が密実に締め固められる。
【0047】
本発明者の更なる研究の結果、本発明の実用に当って更に以下に記すような改良すべき点があることが判り、それを解決することによって本発明を完成させた。
【0048】
(1).可塑状ゲルをシリンダーよりも下方の位置に貯留して、シリンダー内に可塑状ゲルをピストンによって吸入することを行ったが、この方法では、シリンダー内に可塑状ゲルを吸入することが実用上非常に難しいことが判った。
【0049】
なぜならば、可塑状ゲルはそれ自体、力を加え続ければ流動し続けるものの、粘性が高く、また作業上、圧入・吸入を繰り返すに当って、力を加えることが中断された場合、ゲルが静止状態になり、シリンダー内におけるピストンの往復運動による吸入の力ではシリンダー内に可塑状ゲルを充填しにくくなり、稼働が困難になることが判った。
【0050】
(2).先願特許文献において、可塑状ゲルの圧入にあたって、圧入、吸入、圧入、吸入を繰り返すことによって、一方的に圧入し続けるよりも大きな固結体を形成することは判ったが、塊状固結体を大きくするために圧入量を多くすると地盤隆起を生じやすく、特に改良ステージが地表面に近くなるにつれて地盤隆起が大きくなるという問題があり、地盤隆起が大きくなるとその分締め固めが不十分になる。
【0051】
(3).特許文献において、圧入を中断あるいは最適でない速度・周波数で圧入を行った場合、上昇した過剰間隙水圧の消散によって有効応力が回復し、作業性・改良効率が低下する。
【0052】
(4).本発明者は、可塑状ゲルを地盤内に圧入した場合、地盤内の塊状ゲル体の外周部は脱水によって流動性を失うが、その内部は流動性を保ち、かつ圧入圧が残留しており、かつ外部からも圧力(地盤応力)を加えられているために可塑状保持時間内に圧入を中段すれば、その作用は大きくなり、容易に吸引することが可能であることがわかった。
【0053】
(5).ピストンの駆動源にスクリュージャッキまたは油圧ジャッキ等を利用して、ピストンを適宜往復動させて加圧と吸入を繰り返すことにより繰り返し載荷の過程を容易に実現することが可能なため、体積ひずみ(ダイレイタンシー)を容易に発生させることができ、より大きな地盤の締め固め効果を得ることができる。
【0054】
a.可塑状保持時間内に圧入・吸入を反復
b.可塑状保持時間を延長する。可塑状保持時間内に新たな可塑状ゲルを追加しながら圧入・吸入を反復して拡大
c.自動吸入と強制吸入のいずれか或いは併用
d.圧入吸入作業中に可塑状保持時間が経過してしまうと吸入が不充分になる。
【0055】
本発明の原理を以下に述べる。
【0056】
(1).可塑状ゲル注入材は、静止状態ではゲル状になって流動性を失うが、これに力が加わると流動性を保つ(可塑状保持時間)。その後、時間の経過と共に流動性を失って固化する(固結時間)。
【0057】
(2).可塑状ゲル注入材は、地盤内に加圧注入すると流動性をもって地盤内に注入されるが、地盤内で脱水されるため土粒子と混合することなく流動性を低下させ、塊状ゲルとなって周辺地盤を押し広げる。塊状ゲルの表面には、さらに周辺地盤に水分が押し出されて被覆が形成されるが、その内部は未だゲル状で流動性を保持しているため、ポンプ圧でその外側の被覆を押してその塊状ゲル化物は拡大する。
【0058】
(3).塊状ゲル化物の周辺地盤は加圧されて間隙水圧が上昇し、土粒子の摩擦がはずれて浮き上がり、そのまま加圧注入がなされると地盤は隆起する。しかし、加圧を停止させると土粒子は沈降して締め固まる。その際、地表面にその影響がある場合は地盤表面が沈下する。
【0059】
同様に、地表面から遠い深部において可塑状ゲル物に圧入・吸入を繰り返してその周辺部の土粒子が浮遊して液状化領域またはせん断強度が低減した領域が形成された時点で、そこに目的とする密度になるだけの量の可塑状ゲル注入材の圧入を行って地盤強度を増大させることができる。
【0060】
従って圧入・吸入を繰り返し、かつ地盤変位を計測しながら圧入・吸入の圧力、量、サイクルを制御することにより地盤変位を抑制しながら地盤密度を増大させることができる。以上が可塑状グラウトの圧入・吸入による地盤の高密度化の原理である。
【0061】
(4)特許文献では、すでに述べたように圧入量を多くして塊状ゲル固結体を大きくすることにより周辺地盤の高密度化を図り、或いは圧入孔間隔を広くして作業量と経済性を得るには地盤隆起がさけられない。また、間隙水圧が消散して土粒子が沈下して地盤が締るのを待つには時間がかかり、或は地盤が締ってから注入しても圧入抵抗が高くなり、不均質になり、締め固め度も低いという問題がある。
【0062】
(5)本発明は、以上の問題を解決するために可塑状ゲル注入材による塊状ゲル化物は外側が被覆で、内部は流動性があり、かつ外側の被覆は周辺からの圧力を内部に向かって受けており、また、内部のゲルも圧入圧力で加圧状態になっており、可塑状保持時間内に圧入を中断すれば、地中の可塑状ゲル体の中の可塑状ゲルの一部が注入管を通して逆流してくることを利用して注入管からの圧入と注入管内への吸入を繰り返すことによって、周辺地盤への載荷と負荷を繰り返して作用させ、簡便に外周の被覆面に外部への拡大、内部への収縮を繰り返すことによって周辺地盤の土粒子に地震動のような載荷を作用させ、間隙水圧の上昇による有効応力の低下を生じさせ、効率的な締め固めを行い、かつ短時間で高密度化をはかると共に地表面の隆起と沈下を制御して圧入による地盤変位を抑制することを可能にした。
【0063】
また、その地盤中における可塑状ゲル化物の圧入と吸入を繰り返して体積と地盤の変位量を容易に把握できるところから地盤変位を容易にコントロールすることを可能にした。
【0064】
特に、圧入と中断の繰返しだけで圧入量を増やすと、地盤の隆起が地盤の沈下を上まわることと沈下に時間がかかるため、工期が長引くという問題があるが、可塑状ゲルの流動性を効果的に利用することにより、圧入・吸入を繰り返して土粒子が浮遊している領域、或はせん断強度が低下しているルーズな領域に可塑状ゲル注入材を圧入して短い時間で密度を増大させることができるので、圧入量を増やしても地盤の変位を短時間のうちに制御できるという効果を得ることができる。
【0065】
また、本発明は、注入可能限界より細かい土粒子地盤においても、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮・収縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放することにより生じた領域に可塑状ゲル注入材を圧入し、かつ塊状ゲル体を徐々に拡大させて周辺地盤の密度増大を図り、同時に注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位をコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【0066】
表-1は、土の粒度による比表面積と透水係数を示すが、注入材の浸透し得る範囲はk=10-3cm/sec以上の細砂であって、シルト質砂には浸透が困難になる。
【表-1】
【0067】
また、液状化対策工法において、液状化の可能性のある土の粒土分布は、図1に図示する通りであるが、この図から分るように注入可能限界より細かい土の領域を含む。したがって、この領域は注入によっては液状化を防ぐことができない。また、セメント等の懸濁液は、k=10-2cm/sec以上しか浸透しない。
【0068】
しかし、本発明によれば、このような領域であっても、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放することにより生じたゆるんだ領域に可塑状ゲル注入材を圧入し、かつ塊状ゲル体を徐々に拡大させて周辺地盤の密度増大を図ることができる。
【0069】
また同時に、注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位を、ピストンのストロークの調整によりコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【0070】
本発明は、注入管を介して地盤中に注入された可塑状ゲル注入材に圧入による載荷と吸入による負荷を交互に繰り返し付与することで、ダイレイタンシーが生じを生じ、間隙水圧を上昇せしめ有効応力が低下し、そのせん断強度が低下した部分に可塑状ゲル注入材を圧入する工程を繰り返すことにより、可塑状ゲル固結体が徐々に拡大して周辺地盤が周囲に押しやられるように締め固められて地盤の高密度が図られる。
【0071】
地盤の改良効果は、圧入力を大きくすれば、密度が高くても或は有効応力が高くても、それを圧入力で破壊してかつ吸入することによって、固結体の強度と注入量を大きくすることによって地盤を強化することができる。したがって、その地盤を破壊できる強度に対応して、かつ地盤の変位の許容範囲になるように所定の強度の地盤改良を行なうことができる(図2b、表.2)。
【0072】
この工程を繰り返すことにより地盤に亀裂を生ずることなく、注入可能限界より細い地盤においても地盤中の固結体が拡大し、また、固結体同志が連続した地盤が形成される。
【0073】
本発明の装置の例を図4aに示す。ピストンの駆動源として油圧シリンダーを利用することで、ピストンを適宜往復動させて地盤内に圧入された可塑状ゲル注入材に加圧・減圧を繰り返すことにより周辺地盤に繰り返し載荷の過程を容易に実現することが可能なため、体積ひずみ(ダイレイタンシー)を容易に発生させることができ、生じたゆるんだ領域に可塑状ゲル注入材を圧入することにより塊状ゲル体を徐々に拡大させて周辺地盤を周囲に押しやるように締め固めて高密度を図ることができる。
【0074】
また、この場合、単調に注入材を圧入するよりも加圧力、減圧力、圧入量、吸入量、地盤変位に応じて加圧・減圧を繰り返し、或いは以下の方法を用いながら注入することにより地盤の体積ひずみ(ダイレイタンシー)が発生しやく固結体の固結範囲はさらに大きくなる。
【0075】
なお、図5(a),(b),(c)は、可塑状ゲル注入材をシリンダー内に供給する方式を図示したものである。可塑状ゲル注入材の供給は、油圧シリンダーを利用する他に重力を利用しても、シリンダー内に供給することができる。
【0076】
また、可塑状ゲル注入材の固結時間、あるいは可塑状ゲル注入材固結時間
が注入管の先端部からシリンダー吐出口までの吸入時間より長くなるようにしておけば、可塑状ゲル注入材がシリンダー内で固結することはない。また、注入管の先端部からシリンダーの吐出口までの距離を吸入時間より長くなるようにしておけば、シリンダー内で固結しないですむ。
【0077】
或いは、比較的密な地盤や粘質土の多い地盤で可塑状ゲル注入材を高い圧力で多く圧入して吸入を繰り返す場合、地盤隆起を抑えながら所定の強度を得るために吸入量を多くせざるを得ない場合は、図4(c)に図示するように別回路の貯留槽35に貯留して調整することもできる。
【0078】
上述したように、本発明は、圧入・吸入を繰り返すことによって、地盤は間隙水圧が上昇して、粒子は浮き上がり、その間に可塑状ゲル注入材を圧入すれば、その注入材が通常の注入では注入可能限界よりも細かい土でも注入材を圧入して地盤を強化することができる。その際、地盤変位を計測していることにより地盤変位を抑制しながら圧入と吸入の量と圧力とサイクルを管理することにより地盤強度の増大と固結地盤の拡大ができる。さらに注入液の圧力による周辺地盤への浸透による固結体同志の連続或いは止水性の連続が可能になる。以上が本発明の圧入・吸入による地盤強化の原理である。
【0079】
なお、圧入・吸入の際に空気を注入して、または可塑状ゲル注入材に気泡を混入して可塑状ゲル注入材の流動性を向上させることができる。また、可塑状ゲル注入材や気泡混入液や空気の強制噴射を併用することもできる。
【0080】
またさらに、注入管あるいは改良範囲に取り付けた水圧計により、過剰間隙水圧を計測することにより、地盤内の状態を把握しながら効率的な施工を行うこともできる。なお、図3b,図3c,図3dは、本発明と特許文献1-3に記載された発明の構成、動作、施工性を対比したものである。
【発明の効果】
【0081】
本発明は、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放すると共に、間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した有効応力の低下が生じた地盤に可塑状ゲル注入材を圧入して塊状ゲル体を徐々に拡大させることにより、周辺地盤を周囲に押しのやるように締め固めて地盤の密度増大を図ることができる。
【0082】
また同時に、可塑状ゲル注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位をコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを容易に、かつ確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【0083】
また、本発明は、注入管と当該注入管に接続されたピストンポンプ、注入材吸入装置、或いは注入材の圧入と吸入の両方の機能を備えた装置(例えば圧入ポンプまたは吸入ポンプ、あるいは圧入と吸入の両方の機能を備えたポンプ)を用いて地盤内に可塑状ゲル注入材を注入することにより、地盤改良をきわめて効率的にかつ経済的に実施することができる。
【0084】
なお、表-1は薬液を浸透注入する場合の適用限界を示す。
特に懸濁型注入材は細粒土(細砂以下、k=10-2cm/sec以下)には土粒子浸透しないで脈状に浸透しやすく逸脱しやすい。また溶液型注入材でも粘性土が多くなると(k=10-3cm/sec以下)浸透しないため脈状に逸脱して注入効果が得られない。
【0085】
図1は液状化しやすい地盤の粒径分布を示す。
【0086】
表-1から判るように薬液注入を行なっても液状化しやすい地盤にすべて浸透させることができない。特に懸濁液を用いて高強度を得ようとしても浸透し得ないことが判る。
【0087】
図2aは本発明の改良効果の原理を示す。
【0088】
図2a(イ)は土粒子の配列の例を示す。このような地盤の土の粒径が浸透限界外だと注入液は図2a(ロ)のように脈状注入によって対象範囲外へ逸脱する。
【0089】
しかし、本発明のように可塑状ゲル注入材の圧入・吸入を繰り返す(図2a(ハ))と、ルーズな地盤に載荷と負荷を繰り返して間隙水圧の上昇・減少を繰り返すことによって、土粒子同士の結合が失われて液状化のように土粒子が浮き上がり(図2a(ニ))、有効応力が低下してせん断強度が低下し、液状化領域を生ずる。その液状化領域に可塑状ゲル注入材が圧入することにより土粒子を外側に押しやる。この過程を繰り返すことによって可塑状ゲル体が拡大する(図2a(ホ))。このように、圧入と吸入を繰り返している間、その作用がさらに外部まで拡大する。
【0090】
勿論、圧入が充分行われ、或いは可塑状ゲル注入材の固化による流動性の低下が進行するにつれ、可塑状ゲル注入材の吸入は低減するので、さらに、圧入圧と吸入圧を高くして吐出量を調整して繰り返すか、或いは次の注入ステップに移動することになる。
【0091】
図3a(イ),(ロ),(ハ)は、本発明の原理を図示したものである。注入管と当該注入管に接続されたピストンポンプを用いて実施する場合、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入して地盤内に可塑状ゲル注入材の塊状ゲル体を形成する(図3(a))。
【0092】
次に、塊状ゲル体内の一部可塑状ゲル注入材をポンプ内に吸入して塊状ゲル体を縮少させる(図3a(ロ))。こうして、地盤内の塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させる。
【0093】
そうすると、塊状ゲル体の周辺地盤の土粒子間の結合が解放されると共に、間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により塊状ゲル体の周囲
の有効応力が低下し、地盤のせん断強度が失われる(図3a(ロ))。その領域に可塑状ゲル注入材が圧入され、土粒子が周辺に押しやられて塊状ゲル体が徐々に拡大する。その結果、締固めを効率的に行うことができる。また、加圧により空隙に可塑状ゲル注入材が圧入されて塊状ゲル体が徐々に拡大することにより周辺地盤が締め固められて密度増大が図られる(図3a(ハ)参照)。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1図1(a),(b)は、液状化の可能性のある土の粒径分布を示すグラフである。
図2a図2a(イ),(ハ),(ニ),(ホ)は、可塑状ゲル注入材の圧入・吸入を繰り返したときの土粒子間の結合の消滅および可塑状ゲル体の拡大を示す説明図、図2a(ロ)は単なる圧入のみの場合の脈状注入による注入材の逸脱を示す説明図である。
図2b】本発明の改良設計の一例を示した説明図である。
図3a図3a(イ),(ロ),(ハ)は、本発明の原理を示す
図3b】本発明を特許文献1-3に記載された発明と対比した説明図である。
図3c】本発明を特許文献1に記載された発明と対比した説明図である。
図3d】本発明を特許文献2,3に記載された発明と対比した説明図である。
図4a】地盤中で圧入・吸入を繰り返して、注入材からなる固結体を徐々に拡大させながら形成して地盤を固結強化する本発明の地盤改良工法を実施するための装置を示す説明図である。
図4b】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置を示す説明図である。
図4c図4bに図示する装置において、圧入・吸入を繰り返すことにより注入材が循環、補充、地盤変位を確認しながらも吸入の系からの一部除去(貯留槽から除去)、調整を行なう状態を示す説明図である。
図5a】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置によるシリンダーへの注入材の供給方法と地盤への注入材の圧入・吸入方法の説明図である。
図5b】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置によるシリンダーへの注入材の供給方法と地盤への注入材の圧入・吸入方法の説明図である。
図5c】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置によるシリンダーへの注入材の供給方法と地盤への注入材の圧入・吸入方法の説明図である。
図5d】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置によるシリンダーへの注入材の供給方法と地盤への注入材の圧入・吸入方法を示し、特に、リバーシブルモーターの正転・逆転によるシリンダーの上下運動を図示したものである。
図6a】本発明の地盤改良方法の原理を示し、圧入状況を図示したものである。
図6b】本発明の地盤改良方法の原理を示す説明図である。吸入状況を示す。
図6c】本発明の地盤改良方法の原理を示し、1シリンダーによる一回分の注入材を圧入・吸入を繰り返して圧入する状況を図示したものである。
図7】2台のピストンポンプと当該ピストンポンプに送液管を介して接続された1本の注入管によって注入材を地盤内に圧入・吸入する方法を示す説明図である。
図8図8図7の注入材の圧入・吸入方法を説明する一部フロー図である。
図9図7の注入材の圧入・吸入方法を説明する一部フロー図である。
図10a】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置の説明図である。
図10b】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置の説明図である。
図10c】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置の説明図である。
図10d】本発明の地盤改良工法を実施するための他の装置の説明図である。
図11図11(a),(b)は、本発明の地盤改良工法を実施するための改良方法の平面図である。
図12】地盤中に注入材のゲル化物からなる固結体を地盤の一定領域を取り囲むように徐々に拡大させながら形成して一定領域の地盤を強化する方法の説明図である。
図13図13(a),(b)は、既存の構造物直下の地盤中に注入材のゲル化物からなる固結体を徐々に拡大させながら形成して構造物直下の支持地盤を強化する方法の説明図である。
図14】外管と内管とからなる二重管構造の注入管を用いてA液とB液をそれぞれ地盤中に注入し、注入管先端部においてA液とB液を混合して形成した可塑状ゲル固結体を徐々に拡大させながら形成して地盤を強化する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
図4aは本発明に用いる具体的な装置の例であって、その施工法も説明する。
【0096】
Zは注入装置、Bは地盤変位計測装置、Cは制御装置、Dは油圧ピストン、Eはピストン変位タッチプレート、LはMS1,MS2間の長さに相当するピストン上下移動部、Iは地盤、3(S1)はピストン押圧部、1は圧入送液管、MSはタッチバーセンサー、2は吸入送液管、3はピストンシリンダー、MVはバルブ、Fは流量計、Pは圧力計、4は注入管、Gは可塑状ゲル注入材、5はホッパー、Hはシリンダー充填室である。
【0097】
まずホッパー5に充填された可塑状ゲル注入材GはバルブMV1-1が開いて供給流量計F1を通してシリンダー充填室Hに充填される。次に、油圧ピストンDが作動してピストン上下移動部Lが押されてピストン変位タッチプレートEがタッチバーセンサーMS1に接触するとバルブMV1-1、MV1-3が閉塞し、MV1-2が開放し、ピストン押圧3(S1)が注入材Gを注入材充填室Hから圧入送液管1、バルブMV1-2、圧入流量計F2を通して、注入管4から地盤中Iに圧入される。その際、バルブMV1-4は吸い込み送液管2方向を閉束して、注入管4のみの方向に開放する。
【0098】
ピストン上下移動部LのタッチプレートEがタッチバーセンサーMS2に接触するとピストン押圧部3(S1)は押圧を中止し、MV1-4は圧入送液管1方向を閉束し、吸い込み送液管2方向に開放し、バルブMV1-3を開放し、油圧ピストンDのタッチプレートEがセンサーMS1に接触するまで移動して、即ちピストン押圧部3(S1)が移動して、地盤中に注入された注入材GはMV1-4、吸い込み流量計F3、MV1-3を通してシリンダー内充填室Hに吸入される。
【0099】
なお、この状態を維持したまま、シリンダーピストンを往復させ、ゲルの圧入・吸引を繰り返す。これにより、地盤内で地震動のような載荷が生じ、砂骨格のダイレイタンシーによって過剰間隙水圧が上昇する結果、有効応力が低下する。この結果、せん断強度が低下した領域に可塑状ゲル注入材を圧入して効率的な締め固めを行うことができる。
【0100】
またこの際、注入管4の先端部から油圧シリンダー先端Hまでの管路内の体積より吸入量を少なくしておけば、地盤中の可塑状ゲル注入材がシリンダー内充填室H内まで入ることはない。
【0101】
しかし、この管路内の注入材の体積分に相当する注入量を繰り返して圧入・吸入で動かせば充分なダイレイタンシーを起すことができる。
【0102】
コントローラーCにはバルブMV1-1〜MV1-4の開閉、センサーMS1の感知と油圧ピストンの作動、センサーMS12とMS2の間隔、即ちピストン上下動の距離とピストン上下動の方向と速度の管理、流量計F1、F2、F3並びに圧力計P1、P2からの情報に基づく油圧シリンダーの作動、バルブの開閉、圧入と吸入の切り替え、圧入回数、吸入回数、圧入・吸入の繰り返し数、ホッパー5への注入材の充填、地盤変位計Bからの情報に基づく油圧ピストンや各バルブや注入量の制御、圧入と吸い込みの管理を予め地盤情報(深度毎の間隙率やN値等の強度分布、粒径分布等)、改良度、注入圧、注入量、地盤変位量等に基づき設定しておいた数値に基づき行うことができる。
【0103】
これによって、リアルタイムで所定の改良効果を得られる地盤注入を行うことができる。なお、流量計Fに圧入・吸入を計測できるタイプのものを用いる場合は、圧入管路と吸入管路の合流部に設けることができる。
【0104】
図4bは、本発明に用いる具体的な装置の他の例であり、当該装置による施工法と共に説明する。
【0105】
図において、符号4は地盤に挿入された注入管、17は注入材貯留槽18内の注入材を送液管19、圧入管20および注入管4を介して地盤内に圧入するための圧入ポンプである。
【0106】
また、符号21は、地盤内に圧入された可塑状ゲル注入材を注入管4、吸入管22および吸入管23を介して注入材貯留槽18内に吸入するための吸入ポンプである。圧入ポンプ17と吸入ポンプ21はピストンポンプに限られるものではなく、渦巻きポンプ、軸流ポンプ、プランジャーポンプ等が使用される。
【0107】
特に、吸入ポンプ21にはリバーシブルポンプや真空ポンプ(チャンバー式)等が利用され、また、地下水位低下工法(ウェルポイント工法)で利用される揚水ポンプ(真空ポンプ)とその排水管システムなども利用することができる。
【0108】
地下水位低下工法で利用される揚水ポンプ(真空ポンプ)と排水管システムは、複数の注入管を介して広域的に可塑状ゲル注入材の圧入と吸入を繰り返して地盤に載荷と負圧を交互に付与することにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放すると共に、間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により生じた塊状ゲル体周囲のゆるみの領域に可塑状ゲル注入材を圧入して塊状ゲル体を徐々に拡大させることにより、周辺地盤を周囲に押しやるように締め固めることができる。
【0109】
また、リバーシブルポンプは、渦巻きポンプの一種で、1台のポンプに1ケ所の吸入口と2カ所の吐出口を有し、羽根車の正転又は逆転に応じて、吸水口から吸入した流体をいずれか一方の吐出口に送り吐出せるように構成されている。また、正転用、逆転用の羽根車を1種類に統合してポンプの内部構造や駆動方式を簡単にし、羽根車の回転方向によってポンプ内の流水路を選択できるようにして、ポンプの小形化、コストの低減さらにはポンプ性能の向上等が図られている。
【0110】
図4bに図示する装置において、吸入ポンプ21にリバーシブルポンプを利用するには、吸入口を地盤に挿入された注入管4に接続し、2ケ所の吸入口を注入材貯留槽18に通じる吸入管23と注入材補充用貯留槽35に通じる吸入管34にそれぞれ接続すればよい。
【0111】
そして、注入管4と吸入管22を介して吸入ポンプ(リバーシブルポンプ)21内に吸入された地盤内の可塑状ゲル注入材は、吸入管23を介して注入材貯留槽18に吸入したり、或いは吸入管34を介して注入材補充層35に吸入することができる。
【0112】
圧入管20と吸入管22には圧力・流量計24と25がそれぞれ接続され、また、圧入管20と吸入管22との分岐部には流路切替バルブ26が接続され、さらに、送液管19と吸入管23にはバルブ33と27がそれぞれ接続されている。
【0113】
また、注入材貯留槽18に送液管28を介して注入材製造プラント29が接続され、さらに送液管28にバルブ30が接続されている。また、注入管4の周囲地盤上に地盤変位計31が設置されている。
【0114】
そして、これらは全てコントローラ32に信号ケーブを介してそれぞれ接続され、コントローラ32においてリアルタイムでコントロールされている。
【0115】
このような構成において、次に、図4bに図示する装置による地盤改良工法について説明する。なお、図4cは、可塑状ゲル注入材の圧入、吸入および補充、追加における可塑状ゲル注入材(または可塑状ゲル注入材と土粒子の混合物の流れを図示したものである。
【0116】
(1).最初に、バルブ30を開けて注入材製造プラント29から注入材貯留槽18内に所定量の可塑状ゲル注入材を送液する。
【0117】
(2).次に、バルブ30と27を閉め、バルブ33を開ける。また、流路切換バルブ26を圧入管20側に開け、吸入管22側を閉める。そして、圧入ポンプ17を作動させる。これにより、注入材貯留槽18内の注入材は送液管19、圧入ポンプ17、圧入管20および注入管4を通って地盤中に一定量圧入される。
【0118】
(3).次に、バルブ33を閉め、バルブ27を開ける。バルブ30は閉めたままとする。また、流路切換バルブ26を吸入管22側に開け、圧入管20側を閉める。そして、吸入ポンプ21を作動させる。これにより、地盤内に吸入された可塑状ゲル注入材が注入管4、吸入管22、吸入ポンプ21および吸入管23を通って注入材貯留槽18内に吸入される。
【0119】
(4).以下、このようにして圧入ポンプ17による注入材の圧入と吸入ポンプ21による可塑状ゲル注入材の吸入を交互に繰り返すことにより、地盤内の注入管4の先端部に可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル体が形成される。
【0120】
当該塊状ゲル体に圧入ポンプ17のピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)が交互に繰り返し付与されることにより塊状ゲル体が膨縮し、これにより塊状ゲル体の周辺地盤の土粒子間の結合が解放され、かつ間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により地盤が緩む。さらに、その領域に可塑状ゲル注入材が圧入されて塊状ゲル体が徐々に拡大することにより、周辺地盤が周囲に押しやられるように締め固められて地盤の密度増大が図られる。
【0121】
(5).また特に、圧入と吸入が繰り返されることにより、地盤内における可塑状ゲル注入材の濃度が一定濃度以下に希釈化した場合は、吸入管22と吸入管34を介し、吸入ポンプ21によって地盤中の可塑状ゲル注入材が注入材補充用貯留槽35内に吸入され、注入材補充用貯留槽35内で注入材を補充して注入材の濃度が高められた後、送液管36を介して注入材貯留槽18内に送液される。また、注入材貯留槽18内の注入材の量が少なくなったときは、バルブ30を開けて注入材貯留槽18に新たに可塑状ゲル注入材が補充される。
【0122】
符号37と38は、それぞれ吸入管34と送液管36に接続されたバルブであり、地盤内の可塑状ゲル注入材が吸入ポンプ21によって注入材補充用貯留槽35内に吸入されるとき、バルブ37が開いてバルブ38は閉じる。また、注入材補充用貯留槽35内の注入材が送液管36を介して注入材貯留槽18内に送液されるとき、バルブ37が閉じてバルブ38が開く。
【0123】
また、前記(1)〜(5)の工程中、地盤中に圧入される可塑状ゲル注入材の流量および圧入圧と、地盤中から吸入される可塑状ゲル注入材の流量および吸入圧は、それぞれ流量・圧力計24と25によってリアルタイムで計測され、また、注入管4周囲の地盤の変位(隆起および沈下)がリアルタイムで計測され、さらにコントローラ32において最適な状態で圧入と吸入がなされるようにコントロールされる。
【0124】
図5は、シリンダー内充填室Hに注入材Gがホッパー5から充填する構造の例である。図5(a)は可塑状ゲル注入材が重力によってシリンダー充填室Jからシリンダー内充填室H内に充填され、図5(b)は油圧シリンダーKの上下作動によって可塑状ゲル注入材Gがシリンダー充填室Jに充填されてシリンダー内充填室H内に充填される。
【0125】
そして、図5(c)は、シリンダー内充填室H内の圧力空間R内にはコンプレッサーまたはポンプUによって圧気または流体を圧入または吸入してピストンTを上下させてシリンダー充填室H内の可塑状ゲル注入材Gの圧入と吸入を行う。なお、符号Vはバルブである。
【0126】
また、図5(d)は、ピストンTに正逆回転を付与するリバーシブルポンプVを用いて、ピストンTを上下動させてシリンダー内充填室H内の注入材Gの圧入・注入を行う。
【0127】
なお、リバーシブルポンプVの正逆回転をコントローラCおいてコントロールすることによって、圧入・吸入時の圧入圧力と吸入圧力、回転並びに回転速度を自由に管理することができる。
【0128】
図6は、本発明による地盤改良の原理の具体例を示す。
【0129】
図6(a)は、可塑状ゲル注入材Gをシリンダー充填室H内に充填してのち、ピストンTによって地盤中に注入管4を通して圧入する、次に可塑状保持時間内でピストンTを引き上げると可塑状ゲル注入材Gは注入管4に沿って注入管4内、あるいはシリンダー内充填室H内に逆流する(図6(b))。
【0130】
そして、図6(c)に図示するように再び加圧して地盤に押し出すことを繰り返すことにより、塊状ゲル体が膨縮して周辺地盤の土粒子間の結合が解放されると共に、間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により塊状ゲル体の周囲にゆるみ領域が形成される。そして、当該ゆるみ領域に可塑状ゲル注入材が圧入されて塊状ゲル体が徐々に拡大することにより、周辺地盤が周囲に押しやられるように締め固められて地盤の密度増大が図られる。
【0131】
この際、バルブMVを開放して可塑状ゲル注入液を追加して圧入することができる。このようにして可塑状ゲル注入材の圧入・吸入を繰り返し、かつこれをコントロールすることにより地盤の変位をコントロールしながら、地盤の固結領域を拡大することができる。また、のような可塑状ゲル注入材の圧入と吸入は、可塑状ゲル注入材の可塑状保持時間内に行うことにより可能になる。
【0132】
図7は、2台のピストンポンプ3と当該ピストンポンプ3に送液管を介して接続された1本の注入管4によって可塑状ゲル注入材を地盤内に圧入する方法を示す説明図である。
【0133】
また、上記においてG1を主材、G2を反応材またはG1を主材、G2を促進剤とし、G1とG2を合流して注入することができる。
【0134】
また、図8図7の注入材の圧入方法を説明するフロー図であり、図9図8の続きを示すフローである。
【0135】
以下に図7の圧入方法を図8図9のフロー図に基づいて説明する。
【0136】
ホッパー5には内部に混合装置を設けてもよいし、起振機Mを設けて流動性の低下を防ぐこともできる。
【0137】
まず、ホッパー5よりシリンダー内充填室Hに可塑状ゲル注入材Gを充填する。その時、油圧シリンダー61が作動して油圧ピストンS1が引き上げられて油圧ピストンS1のタッチプレートEが上部のタッチセンサーMS1にタッチするまでMV1が開放させて可塑状ゲル注入材G1が油圧シリンダー充填室H1に充填される。タッチプレートE1がMS1にタッチするとMV1が閉束する。
【0138】
同じようにMV2が開放されて油圧シリンダー内充填室H2に可塑状ゲル注入材G2が油圧ピストンS2を引き上げてタッチプレートE2がMS3をたたくまでMV2が開放されて充填されてMV2が閉束する。
【0139】
次に、MV3が開放されて油圧シリンダー61が作動してタッチパネルE1がMS2にタッチするまでH1内のG1が地盤中に注入される。
【0140】
同様に油圧シリンダー62が作動してMV4が開放されて(MV3は閉束)タッチプレートE2がMS4をたたくまでG2が地盤内に注入される。
【0141】
これを交互に行えば連続的にG1、G2が地盤中に注入される。また同時に注入することもできる。G1を注入後MV1は閉塞したままでMV3を開放した状態で油圧ピストンS1をMS1まで引き上げればH1内は負圧になり、圧入された地盤中G(あるいは送液管内G)はH1中に逆流してくる。その時吸い込み流量計(吸い込み圧力計)で逆流量(吸入量)を計測できる。
【0142】
また、流量計、圧力計は圧入の際の流量、圧力と吸入の際の流量圧力それぞれ、いずれも計測できるタイプのものを用いることができるし、別々に計測できるタイプのものを使用してもよい。
【0143】
注入流量計、注入圧力計も注入流路に設ける事ができる。その工程を繰り返せば、地盤中で前述したように可塑状ゲルが拡大して周辺地盤の密度を増加させる。同様に油圧シリンダー6を作動させて地盤を締め固めることができる。
【0144】
また、油圧シリンダー6aで圧入を油圧シリンダー6bで吸入を交互に行なって地盤を締め固めることができる。
【0145】
また1ステージ中で油圧シリンダーにおける圧入設定回数、油圧シリンダーの吸入の設定回数、或いは交互の作動の設定回数を予め、中央集中管理システム(c)中でプログラムすることができる。その際、MV3、MV4の開放、閉束、MS1MS2のセンター、MS3、MS4のカウンターを設定することができる。
【0146】
また、吸い込み流量、注入流量、吸い込み圧力、注入圧力と地盤情報(地盤の密度、間隙率、N値、透水係数、粒径分布)、地盤変位計Bにより地盤変位状況等に応じて注入深度毎に注入中の情報に応じて注入作動、注入量をコントロールして所定の目標とする地盤改良を行う事ができる。
【0147】
図7において、シリンダー3側の流路を用いて図3cの本発明にあるように、圧入・吸入を細かく繰り返して塊状ゲル体の周辺に液状化状のゆるみの領域を形成し、そこにS2側の流路から目的とする密度になるだけの量の可塑状ゲル注入材の圧入に切り替える工程を繰り返して圧入圧と圧入量を増大することによって、目的とする地盤強度が得られるように締め固めすることが可能になる。
【0148】
このように、本発明は、塊状ゲル体の周辺地盤の液状化状態のゆるみ領域の形成と連続して、そのゆるんだ領域に所定量の可塑状ゲル注入材の必要量を一気に圧入することが可能なため、施工時間が短縮され、かつ施工が容易になるという効果が得られる。
【0149】
ここで、図7において上記操作は、図4aと同様にコントローラCによって管理できるが、また、流量計として圧入・吸入の流動を計測するタイプのものを用いることもできるが、図中では詳細を省略する。
【0150】
図10(a)は、図6で説明した装置を複数作動させて複数の注入地点に注入する方法を図示したものであり、2本のピストンポンプを用い、当該2本のピストンポンプの各シリンダー3A,3Bに送液管7,8を介して接続された2本の注入管4,4によって注入材を地盤中に圧入し、注入と吸入を交互に繰り返して地盤改良することが可能であり、この注入方法によれば、注入材を複数地点に同時に圧入することができて作業性がよい。また、隣接する注入領域を連続させ、一体的に地盤改良することができる。
【0151】
また、図10(b)は、図5(c)で説明した装置を複数作動させて複数の注入地点に同時注入する方法を図示したものであり、注入材供給プラント9に送液管10を介して接続された複数のピストンポンプ3と当該複数のピストンポンプ3のそれぞれに送液管11を介して接続された複数の注入管4によって複数の注入地点に可塑状ゲル注入材を同時注入することができる。
【0152】
可塑状ゲル注入材の圧入工程において、注入管4を徐々に引き抜いてステージ毎(深度毎)に固結体Aを形成し、かつ各ステージの固結体Aを鉛直方向に柱状に連続させて形成することにより複数のステージに渡って可塑状ゲル注入材を注入することができる。
【0153】
また、複数地点に間隔をおいて注入することにより工場建設地や宅地造成地などの広い地盤もきわめて効率的に地盤改良することができる。水平方向に連続して注入することにより地中連続固結壁を形成することもできる(図12参照)。符号12は複数のピストンポンプ3を制御するための制御装置であり、当該制御装置によって各ピストンポンプ3を制御することにより複数の注入地点に同時にまたは順に可塑状ゲル注入材を圧入することができる。
【0154】
図10(c),(d)は、図5(d)で説明した注入装置による注入方法であり、ピストンポンプ3にタンデム型ピストンポンプを用い、当該ピストンポンプ3の左右シリンダー3A,3BにそれぞれバルブMVをそれぞれ備えた送液管7,8を介して接続された2本の注入管4,4によって可塑状ゲル注入材を地盤中に注入する方法を図示したものである。
また特に、図10(d)は、ピストンポンプに複数のタンデム型ピストンポンプを用い、当該各ピストンポンプの左右シリンダー3A,3BにそれぞれバルブMVを備えた送液管7,8を介して接続された複数の注入管4,4によって注入材を複数地点の地盤中に注入する方法を図示したものである。
【0155】
いずれの実施形態においても、ピストンポンプを用い、その駆動源にサーボモーター、リバーシブルモーター、例えば油圧モーターや電動モーター、電動アクチュエーター、或いは油圧ジャッキが用いられる。ピストンポンプ3A,3Bの駆動源としてこれらのサーボモーターや油圧ジャッキを用いることにより、ピストンポンプ3A,3Bのストローク量を自由に設定することができるため、注入材の1シリンダー容積分と付与する加圧量と減圧量(吸入量)、さらに各ポンプのピストンが進退移動する速度等を自由に設定することができる。
【0156】
また、注入材供給プラント9は、ピストンポンプ3A,3Bより高所に設置することにより、水頭差を利用した自然流下方式によって注入材供給プラント9から各ポンプのシリンダー内に高粘性の注入材を効率的に給液することができ、また各ポンプの起動が容易になる。
【0157】
なお、タンデム型ピストンポンプとは、同一軸線上に間隔をおいて配置された一組のシリンダー3A,3Bと、駆動モーター13の出力軸13aの端部にピストンロッドが動力伝達部14を介して繋がれ、シリダー内を同一軸線上で交互に進退移動する一組のピストンを備えたポンプをいう。
【0158】
また、図11(a)に図示するように複数の注入管4を対象地盤の複数地点に間隔をおいて配置し、各注入地点の地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入することで、各注入地点の地盤中に可塑状ゲル注入材からなる固結体Aを形成して地盤全体を締め固めて改良することができる。
【0159】
また、図11(b)に図示するように近接する三地点または四地点の注入地点に注入材を同時に圧入することにより、互いに拘束しながら可塑状ゲル注入材からなる固結体を効果的に拡大形成することにより、きわめて経済的な地盤改良を行なうことができる。
【0160】
なお、可塑状ゲル注入材を複数地点に列状に圧入することで、可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル固結体を壁状に連続的に形成することができる。
【0161】
また、図12(a),(b)に図示するように、地盤を一定領域ごとに完全に取り囲むように、例えば平面矩形状または円形状に連続する固結体を形成することにより、地震時においても、固結体Aからなる固結壁は地震などの繰り返しせん断力を固結ゾーンによって遮断し、固結壁によって取り囲まれた内部の過剰間隙水圧の上昇を抑制して液状化を防止することができる。
【0162】
図13(a),(b)は、既存の建物や貯蔵タンク等の既存の構造物直下の地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入して、地盤内に可塑状ゲル注入材からなる固結体Aを形成することにより、既存建物15などの構造物直下の地盤を締め固めて強化する方法を図示したものである。
【0163】
この場合、可塑状ゲル注入材の可塑状保持時間を長く設定することにより、削孔長が長くても作業性に問題を生じることはない。
【0164】
図14は、外管16aと当該外管16a内に設置された内管16bとからなる二重管構造の注入管を利用して行う注入工法を図示したものであり、地盤中に外管16aによってA液、内管16bによってB液をそれぞれ注入し、かつ外管16aと内管16bの先端部においてA液とB液を混合させて固結体Aを形成することにより地盤を強化することができる。
【0165】
この場合、注入管は二重管構造の注入管でなくてもよい。例えば、三重管を用いて気体を注入して注入材と土粒子との混合性を向上させることができる。また、可塑状ゲル注入材に気泡を混合しても同様の効果を生じる。さらに、三重管などの鋼管を用いて空気を混入して混合性を良くすることもできる。
【0166】
このように、本発明によって地盤強度を増大し、地盤全体としての支持力が増大し、また流動化しにくい地盤が形成されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明は、可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル固結体を地盤内で膨縮させながら、その周辺地盤の間隙水圧を上昇させて、土粒子を浮遊させてせん断強度の低下した領域を形成し、その領域に可塑状ゲル注入材を侵入・拡大させて、徐々に塊状ゲル体を拡大させて形成することを繰り返すことにより、土粒子を周囲に押しやるように締め固めて強化することができ、また、可塑状ゲル注入材の圧入に伴う地盤の隆起や沈下等の地盤変位をピストンのストロークや圧入・吸入圧力や注入量、吸入量やサイクルを調整することによってコントロールしつつ、かつ周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しつつ、地盤の締め固めを確実に行うことができ、しかも固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0168】
Z 注入装置
B 地盤変位計測装置
C 制御装置
D 油圧ピストン
E ピストン変位タッチプレート
L ピストン上下タッチプレート間の長さ(上下移動部)
I 地盤
3(S1) ピストン押圧部
MS タッチバーセンサー、
MV バルブ
F 流量計
P 圧力計
G 注入材
S 油圧ピストン
H シリンダー内充填室
J シリンダー充填室
M 起振機
1 圧入送液管
2 吸入送液管
3 ピストンシリンダー
4 注入管
5 ホッパー
61 油圧シリンダー
62 油圧シリンダー
7 送液管
8 送液管
9 注入材供給プラント
10 送液管
11 送液管
12 制御装置
13 駆動モーター
14 動力伝達部
15 構造物
16 注入管
17 圧入ポンプ
18 注入材貯留槽
19 送液管
20 圧入管
21 吸入ポンプ
22 吸入管
23 吸入管
26 流路切替バルブ
27 バルブ
28 送液管
29 注入材製造プラント
30 バルブ
31 地盤変位計
32 コントローラ
33 バルブ
35 注入材補充用貯留槽
36 送液管
37 バルブ
38 バルブ
【要約】
【課題】可塑状ゲル注入材の圧入による地盤の隆起や沈下等の地盤変位をコントロールしながら地盤を締め固めて強化できる地盤改良工法および地盤注入装置を提供する。
【解決手段】地盤内に可塑状ゲル注入材を注入管4とピストンシリンダー3によって圧入する。ピストンスリンダー3のピストン3S1を複数回往復動させて圧入と吸入を交互に繰り返して地盤内の塊状ゲル注入材からなる塊状ゲル体に加圧と減圧を交互に付与することにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解く。土粒子間の結合を解くことによりルーズなせん断応力が低下した領域を形成し、その領域に可塑状ゲル注入材を圧入して徐々に拡大することにより地盤を周囲に押しやるように締め固めて強化する。
【選択図】図4
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図5c
図5d
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9
図10a
図10b
図10c
図10d
図11
図12
図13
図14