【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本出願人は、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入し、当該可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル固結体を周囲に逸脱することなく徐々に拡大させながら形成して地盤を締め固めて強化する地盤改良工法を開発している(特許文献1)。
【0017】
当該発明は、可塑状ゲルの特性を応用して可塑状ゲルの流動性と脱水による流動性の低下した薄膜の形成を巧妙に応用したすぐれた地盤改良工法である。
【0018】
しかし、可塑状ゲルは、それ自体で固結体を形成するものの固結体どうしの連続性と固結体間の止水効果はきわめて低いものであった。
【0019】
また、可塑状ゲル注入材の圧入により上昇した間隙水圧は、地盤中から材料を吸引すると低下或いは消散して空洞を生ずる一方、地盤の有効応力が回復してせん断強度が回復する。
【0020】
このため、さらなる材料の圧入による塊状ゲル体の拡大は困難になり、或いは不均質になって作業効率が大幅に低下するか、全くできなくなってしまうおそれがあった。
【0021】
また、都市部の狭隘な作業条件下で、住宅地などの地盤改良を可塑状ゲルの圧入によって実施する場合、一般に注入材は遠方の製造プラントから注入地点まで圧送管を通して送液し、そこで建造物直下の地盤中に斜めまたは水平に設置した圧入管を通して圧入するが、この場合、製造プラントから注入地点までの間で可塑状ゲルの流動性が低下して充分な圧入ができず作業性が大幅に低下する等の課題があった。
【0022】
一方、特許文献2に開示された締固め工法では、圧入を一度停止する手法であり、この間に上した間隙水圧が消散し、有効応力が回復するため、再度圧入する際に大きなエネルギーが必要な場合、あるいは圧入が不可能となる恐れがある。
【0023】
また、特許文献3に開示された締固め工法では、注入管自体を流動性のない固結物内で繰り返しアップダウンさせる必要があるため、作業が煩雑化する上にその作業に大きなエネルギーを必要とした。
【0024】
また、特許文献2と特許文献3による地盤改良は流動性のない材料を圧入するため大きな装置を必要とし、さらに材料を遠方から送液することができないため都市部の狭隘な施工条件下では適用が困難であった。
【0025】
また、水平方向または斜め方向から、或いは上方に向っての地盤改良も困難であり、また圧入に伴う周辺地盤の隆起を生じやすい等の問題もあった。
【0026】
その他、注入液に動的エネルギーを加えて脈動注入する注入工法も提案されているが、本発明における注入管を介しての注入液の圧入・吸入を繰り返して土粒子を押しやって流動性の塊状ゲル体を拡大する本発明とは、本質的に異なるものである。
【0027】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって圧入(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放すると共に間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により生じた固結体周囲に生じたルーズな領域に可塑状ゲル注入材を圧入して塊状ゲル体を徐々に拡大させることにより周辺地盤の密度増大を図り、同時に注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位を圧入と吸入の圧力、圧入量とそれぞれのサイクルをコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱や地盤隆起や地盤沈下を防止しながら、連続的に効率のよい地盤の締め固めを確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる地盤注入工法を提供することを目的とするものである。
【0028】
この圧入と吸引は任意の量、速度、回数で行うことが可能であり、これを繰り返すことにより、塊状ゲル体が徐々に拡大しながら地盤を締め固めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、注入管と当該注入管に接続されたピストンポンプ、或いは注入材吸入装置、さらには注入材の圧入と吸入の両方の機能を備えた装置(例えば圧入ポンプまたは吸入ポンプ、あるいは圧入と吸入の両方の機能を備えたポンプ)を用いて地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入、吸入することにより、地盤改良をきわめて効率的にかつ経済に実施することができる。
【0030】
また、注入管には先端に吐出口を有する単管式注入管や二重管構造のパッカー付き注入管などを使用することができ、後者のパッカー付き注入管としては、例えば外周に管軸方向に沿って複数の吐出口を有する外管と、先端に吐出口とパッカーを有し、前記外管内に挿入されたパッカー付き内管とからなる注入管がある。
【0031】
また、外管に設けられた吐出孔の近傍に当該吐出孔から吐出して塊状ゲル体となる可塑状ゲル注入材の形状を保持する所定の長さのゴムスリーブを吐出口上部に取り付けてもよい。
【0032】
この場合、ゴムスリーブの上部は、外管に固定し、下端は解放しておけば、塊状ゲル体は、ゴムスリーブの上部には形成されず、解放されている下方に形成される。また、ゴムスリーブの中間を解放し、上端と下端を固定しておけば、中間部を中心に塊状ゲル体が形成される。
【0033】
なお、上記において、ゴムスリーブの代わりに金網や強度のある合成樹脂製ネットを用いてもよい。また、ネットの目を適切な大きさにすれば、可塑状ゲル注入材の逸出を防いで拘束できるし、また、一部上下に逸出して上下の固結体を連続させて柱状固結体を網の引張力でで一体化することにより補強効果も生ずる。
【0034】
さらに、可塑状ゲル注入材の圧入により上昇する地盤内の過剰間隙水圧を測定する水圧計を取り付けることにより、より効率的な改良を行えることとなる。
【0035】
本発明を例えば、注入管と当該注入管に接続されたピストンポンプを用いて実施する場合、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合が解放されると共に、間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により塊状ゲル体の周囲にせん断強度の低下した領域が形成され、当該領域に可塑状ゲル注入材が圧入されて容易に塊状ゲル体が徐々に拡大することにより周辺地盤が締め固められて密度増大が図られる(
図3a(イ),(ロ),(ハ)参照)。
【0036】
同時に、ピストンのストロークを変えて注入材の圧入量と吸入量をコントロールすることにより、注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位をコントロールすることで、周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【0037】
すなわち、本発明は、単に流動性注入材を地盤内に均等浸透させたり、或は脈状浸透させて地盤を固結強化する薬液注入工法とは異なり、地盤内で可塑状ゲル注入材そのものからなる塊状ゲル固結体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰返し付与して塊状ゲル体を膨縮させながら徐々に拡大させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放して塊状ゲル体周囲のルーズな周辺地盤の土粒子間の結合を解放することにより生じたせん断強度の弱い領域または液状化した領域に可塑状ゲル注入材を容易に圧入し、かつ塊状ゲル体を徐々に拡大させて周辺地盤の密度増大を図り、同時にピストンのストロークを変えて注入材の圧入量と吸入量を調整することにより、注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位をコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを行って地盤の高密度化を図り、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図れるようにしたものである。
【0038】
ピストンポンプを往復動させて可塑状ゲル注入材を地盤内に圧入すると、地盤隆起などの地盤の変位が起こることがあるが、地盤の変位に対応してピストンのストロークをコントロールして、各注入深度における圧入を繰り返すことにより地盤変位をコントロールして塊状ゲル固結体を徐々に拡大させながら周辺地盤の高密度化を図ることができる。
【0039】
また、可塑状保持時間内に可塑状ゲル注入材を追加しながら、可塑状ゲル注入材の圧入による塊状ゲル固結体の拡大と、可塑状ゲル注入材の吸入による塊状ゲル固結体の縮小を繰り返しながら、周辺地盤を緩ませながら塊状ゲル体を拡大させて地盤の変位を調整しながら地盤の高密度化を図ることができる。
【0040】
また、地盤の一地点に可塑状ゲル注入材を圧入する場合、一台のピストンポンプによりピストンを往復動させて、注入材の圧入と吸入を交互に繰り返すことにより塊状ゲル固結体の膨縮は可能であるが、複数台のピストンポンプにより各ピストンポンプのピストンを交互に往復動させて、注入材の圧入(載荷)と 吸入(減圧)を交互に繰り返す方が注入材を地盤内にきわめて効率的に圧入し、塊状ゲル固結体を拡大させて地盤の圧密化を行うことができる。
【0041】
また同様に、地盤内における塊状ゲル固結体を膨縮させる場合、一台のピストンポンプによりピストンを往復動させて加圧と減圧を交互に行うことにより可能であるが、複数台のピストンポンプにより各ピストンポンプのピストンを交互に往復動させて加圧と減圧を交互に付与するほうが塊状ゲル体をきわめて効率的に膨縮させることができる。また、地盤中に可塑状ゲル注入材を圧入する場合、懸濁液の素材、たとえば土、粘土またはシルト等を複数合流させたものを圧入してもよい。
【0042】
さらには、地盤内に可塑状ゲル注入材を複数の注入管を用いて圧入する場合、複数の注入管に連続的に、または複数の注入管に同時に、あるいは一部の注入管を選択して、更には間欠的に注入してもよい。
【0043】
ところで、砂の三軸試験結果より求められる変形特性として、同一の軸ひずみを繰り返し載荷した場合と単調載荷した場合とでは、繰返し載荷した方が大きな体積変化(ダイレイタンシー)を生じることが知られている。また、三軸繰返し載荷試験において、試料によって周波数の影響を受けることが知られている。
【0044】
このことから、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入して地盤中に可塑状ゲル注入材からなる塊状ゲル固結体を形成する際に、当該塊状ゲル体に圧入(載荷)と減圧(吸入)を交互に付与することにより膨縮させて体積変化を起させるようにすれば、より大きな塊状ゲル固結体を形成することができて大きな地盤の締固め効果を得ることができる。また、その効果を最大限に引き出すためには、最適な圧入・吸引速度および周波数で実施することが必要である。
【0045】
すなわち、地盤内の塊状ゲル体に圧入(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与することで、周辺地盤の間隙水圧を上昇させることにより、有効応力が上昇し、土粒子が浮遊して周辺地盤がゆるみ、そのゆるんだ領域に可塑状ゲル注入材が圧入されるため大きな塊状ゲル体が形成される。また、この工程を繰り返すことにより地盤に亀裂を生ずることなく、塊状ゲル体が拡大して周辺地盤が密実に締め固められる。
【0046】
すなわち、地盤内の塊状ゲル体に圧入(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与することで、周辺地盤の間隙水圧を上昇させることにより、有効応力が
減少し、土粒子が浮遊して周辺地盤がゆるみ、そのゆるんだ領域に可塑状ゲル注入材が圧入されるため大きな塊状ゲル体が形成される。また、この工程を繰り返すことにより地盤に亀裂を生ずることなく、塊状ゲル体が拡大して周辺地盤が密実に締め固められる。
【0047】
本発明者の更なる研究の結果、本発明の実用に当って更に以下に記すような改良すべき点があることが判り、それを解決することによって本発明を完成させた。
【0048】
(1).可塑状ゲルをシリンダーよりも下方の位置に貯留して、シリンダー内に可塑状ゲルをピストンによって吸入することを行ったが、この方法では、シリンダー内に可塑状ゲルを吸入することが実用上非常に難しいことが判った。
【0049】
なぜならば、可塑状ゲルはそれ自体、力を加え続ければ流動し続けるものの、粘性が高く、また作業上、圧入・吸入を繰り返すに当って、力を加えることが中断された場合、ゲルが静止状態になり、シリンダー内におけるピストンの往復運動による吸入の力ではシリンダー内に可塑状ゲルを充填しにくくなり、稼働が困難になることが判った。
【0050】
(2).先願特許文献において、可塑状ゲルの圧入にあたって、圧入、吸入、圧入、吸入を繰り返すことによって、一方的に圧入し続けるよりも大きな固結体を形成することは判ったが、塊状固結体を大きくするために圧入量を多くすると地盤隆起を生じやすく、特に改良ステージが地表面に近くなるにつれて地盤隆起が大きくなるという問題があり、地盤隆起が大きくなるとその分締め固めが不十分になる。
【0051】
(3).特許文献において、圧入を中断あるいは最適でない速度・周波数で圧入を行った場合、上昇した過剰間隙水圧の消散によって有効応力が回復し、作業性・改良効率が低下する。
【0052】
(4).本発明者は、可塑状ゲルを地盤内に圧入した場合、地盤内の塊状ゲル体の外周部は脱水によって流動性を失うが、その内部は流動性を保ち、かつ圧入圧が残留しており、かつ外部からも圧力(地盤応力)を加えられているために可塑状保持時間内に圧入を中段すれば、その作用は大きくなり、容易に吸引することが可能であることがわかった。
【0053】
(5).ピストンの駆動源にスクリュージャッキまたは油圧ジャッキ等を利用して、ピストンを適宜往復動させて加圧と吸入を繰り返すことにより繰り返し載荷の過程を容易に実現することが可能なため、体積ひずみ(ダイレイタンシー)を容易に発生させることができ、より大きな地盤の締め固め効果を得ることができる。
【0054】
a.可塑状保持時間内に圧入・吸入を反復
b.可塑状保持時間を延長する。可塑状保持時間内に新たな可塑状ゲルを追加しながら圧入・吸入を反復して拡大
c.自動吸入と強制吸入のいずれか或いは併用
d.圧入吸入作業中に可塑状保持時間が経過してしまうと吸入が不充分になる。
【0055】
本発明の原理を以下に述べる。
【0056】
(1).可塑状ゲル注入材は、静止状態ではゲル状になって流動性を失うが、これに力が加わると流動性を保つ(可塑状保持時間)。その後、時間の経過と共に流動性を失って固化する(固結時間)。
【0057】
(2).可塑状ゲル注入材は、地盤内に加圧注入すると流動性をもって地盤内に注入されるが、地盤内で脱水されるため土粒子と混合することなく流動性を低下させ、塊状ゲルとなって周辺地盤を押し広げる。塊状ゲルの表面には、さらに周辺地盤に水分が押し出されて被覆が形成されるが、その内部は未だゲル状で流動性を保持しているため、ポンプ圧でその外側の被覆を押してその塊状ゲル化物は拡大する。
【0058】
(3).塊状ゲル化物の周辺地盤は加圧されて間隙水圧が上昇し、土粒子の摩擦がはずれて浮き上がり、そのまま加圧注入がなされると地盤は隆起する。しかし、加圧を停止させると土粒子は沈降して締め固まる。その際、地表面にその影響がある場合は地盤表面が沈下する。
【0059】
同様に、地表面から遠い深部において可塑状ゲル物に圧入・吸入を繰り返してその周辺部の土粒子が浮遊して液状化領域またはせん断強度が低減した領域が形成された時点で、そこに目的とする密度になるだけの量の可塑状ゲル
注入材の圧入を行って地盤強度を増大させることができる。
【0060】
従って圧入・吸入を繰り返し、かつ地盤変位を計測しながら圧入・吸入の圧力、量、サイクルを制御することにより地盤変位を抑制しながら地盤密度を増大させることができる。以上が可塑状グラウトの圧入・吸入による地盤の高密度化の原理である。
【0061】
(4)特許文献では、すでに述べたように圧入量を多くして塊状ゲル固結体を大きくすることにより周辺地盤の高密度化を図り、或いは圧入孔間隔を広くして作業量と経済性を得るには地盤隆起がさけられない。また、間隙水圧が消散して土粒子が沈下して地盤が締るのを待つには時間がかかり、或は地盤が締ってから注入しても圧入抵抗が
高くなり、不均質になり、締め固め度も低いという問題がある。
【0062】
(5)本発明は、以上の問題を解決するために可塑状ゲル注入材による塊状ゲル化物は外側が被覆で、内部は流動性があり、かつ外側の被覆は周辺からの圧力を内部に向かって受けており、また、内部のゲルも圧入圧力で加圧状態になっており、可塑状保持時間内に圧入を中断すれば、地中の可塑状ゲル体の中の可塑状ゲルの一部が注入管を通して逆流してくることを利用して注入管からの圧入と注入管内への吸入を繰り返すことによって、周辺地盤への載荷と負荷を繰り返して作用させ、簡便に外周の被覆面に外部への拡大、内部への収縮を繰り返すことによって周辺地盤の土粒子に地震動のような載荷を作用させ、間隙水圧の上昇による有効応力の低下を生じさせ、効率的な締め固めを行い、かつ短時間で高密度化をはかると共に地表面の隆起と沈下を制御して圧入による地盤変位を抑制することを可能にした。
【0063】
また、その地盤中における可塑状ゲル化物の圧入と吸入を繰り返して体積と地盤の変位量を容易に把握できるところから地盤変位を容易にコントロールすることを可能にした。
【0064】
特に、圧入と中断の繰返しだけで圧入量を増やすと、地盤の隆起が地盤の沈下を上まわることと沈下に時間がかかるため、工期が長引くという問題があるが、可塑状ゲルの流動性を効果的に利用することにより、圧入・吸入を繰り返して土粒子が浮遊している領域、或はせん断強度が低下しているルーズな領域に可塑状ゲル注入材を圧入して短い時間で密度を増大させることができるので、圧入量を増やしても地盤の変位を短時間のうちに制御できるという効果を得ることができる。
【0065】
また、本発明は、注入可能限界より細かい土粒子地盤においても、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮・収縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放することにより生じた領域に可塑状ゲル注入材を圧入し、かつ塊状ゲル体を徐々に拡大させて周辺地盤の密度増大を図り、同時に注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位をコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【0066】
表-1は、土の粒度による比表面積と透水係数を示すが、注入材の浸透し得る範囲はk=10
-3cm/sec以上の細砂であって、シルト質砂には浸透が困難になる。
【表-1】
【0067】
また、液状化対策工法において、液状化の可能性のある土の粒土分布は、
図1に図示する通りであるが、この図から分るように注入可能限界より細かい土の領域を含む。したがって、この領域は注入によっては液状化を防ぐことができない。また、セメント等の懸濁液は、k=10-
2cm/sec以上しか浸透しない。
【0068】
しかし、本発明によれば、このような領域であっても、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放することにより生じたゆるんだ領域に可塑状ゲル注入材を圧入し、かつ塊状ゲル体を徐々に拡大させて周辺地盤の密度増大を図ることができる。
【0069】
また同時に、注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位を、ピストンのストロークの調整によりコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【0070】
本発明は、注入管を介して地盤中に注入された可塑状ゲル注入材に圧入による載荷と吸入による負荷を交互に繰り返し付与することで、ダイレイタンシーが生じを生じ、間隙水圧を上昇せしめ有効応力が低下し、そのせん断強度が低下した部分に可塑状ゲル注入材を圧入する工程を繰り返すことにより、可塑状ゲル固結体が徐々に拡大して周辺地盤が周囲に押しやられるように締め固められて地盤の高密度が図られる。
【0071】
地盤の改良効果は、圧入力を大きくすれば、密度が高くても或は有効応力が高くても、それを圧入力で破壊してかつ吸入することによって、固結体の強度と注入量を大きくすることによって地盤を強化することができる。したがって、その地盤を破壊できる強度に対応して、かつ地盤の変位の許容範囲になるように所定の強度の地盤改良を行なうことができる(
図2b、表.2)。
【0072】
この工程を繰り返すことにより地盤に亀裂を生ずることなく、注入可能限界より細い地盤においても地盤中の固結体が拡大し、また、固結体同志が連続した地盤が形成される。
【0073】
本発明の装置の例を
図4aに示す。ピストンの駆動源として油圧シリンダーを利用することで、ピストンを適宜往復動させて地盤内に圧入された可塑状ゲル注入材に加圧・減圧を繰り返すことにより周辺地盤に繰り返し載荷の過程を容易に実現することが可能なため、体積ひずみ(ダイレイタンシー)を容易に発生させることができ、生じたゆるんだ領域に可塑状ゲル注入材を圧入することにより塊状ゲル体を徐々に拡大させて周辺地盤を周囲に押しやるように締め固めて高密度を図ることができる。
【0074】
また、この場合、単調に注入材を圧入するよりも加圧力、減圧力、圧入量、吸入量、地盤変位に応じて加圧・減圧を繰り返し、或いは以下の方法を用いながら注入することにより地盤の体積ひずみ(ダイレイタンシー)が発生しやく固結体の固結範囲はさらに大きくなる。
【0075】
なお、
図5(a),(b),(c)は、可塑状ゲル注入材をシリンダー内に供給する方式を図示したものである。可塑状ゲル注入材の供給は、油圧シリンダーを利用する他に重力を利用しても、シリンダー内に供給することができる。
【0076】
また、可塑状ゲル注入材の固結時間、あるいは可塑状ゲル注入材固結時間
が注入管の先端部からシリンダー吐出口までの吸入時間より長くなるようにしておけば、可塑状ゲル注入材がシリンダー内で固結することはない。また、注入管の先端部からシリンダーの吐出口までの距離を吸入時間より長くなるようにしておけば、シリンダー内で固結しないですむ。
【0077】
或いは、比較的密な地盤や粘質土の多い地盤で可塑状ゲル注入材を高い圧力で多く圧入して吸入を繰り返す場合、地盤隆起を抑えながら所定の強度を得るために吸入量を多くせざるを得ない場合は、
図4(c)に図示するように別回路の貯留槽35に貯留して調整することもできる。
【0078】
上述したように、本発明は、圧入・吸入を繰り返すことによって、地盤は間隙水圧が上昇して、粒子は浮き上がり、その間に可塑状ゲル注入材を圧入すれば、その注入材が通常の注入では注入可能限界よりも細かい土でも注入材を圧入して地盤を強化することができる。その際、地盤変位を計測していることにより地盤変位を抑制しながら圧入と吸入の量と圧力とサイクルを管理することにより地盤強度の増大と固結地盤の拡大ができる。さらに注入液の圧力による周辺地盤への浸透による固結体同志の連続或いは止水性の連続が可能になる。以上が本発明の圧入・
吸入による地盤強化の原理である。
【0079】
なお、圧入・吸入の際に空気を注入して、または可塑状ゲル注入材に気泡を混入して可塑状ゲル注入材の流動性を向上させることができる。また、可塑状ゲル注入材や気泡混入液や空気の強制噴射を併用することもできる。
【0080】
またさらに、注入管あるいは改良範囲に取り付けた水圧計により、過剰間隙水圧を計測することにより、地盤内の状態を把握しながら効率的な施工を行うこともできる。なお、
図3b,
図3c,
図3dは、本発明と特許文献1-3に記載された発明の構成、動作、施工性を対比したものである。
【発明の効果】
【0081】
本発明は、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入すると共に、当該注入材からなる塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させることにより、周辺地盤の土粒子間の結合を解放すると共に、間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した有効応力の低下が生じた地盤に可塑状ゲル注入材を圧入して塊状ゲル体を徐々に拡大させることにより、周辺地盤を周囲に押しのやるように締め固めて地盤の密度増大を図ることができる。
【0082】
また同時に、可塑状ゲル注入材の圧入と吸入に伴う周辺地盤の隆起や沈下などの地盤変位をコントロールすることにより周辺地盤の割裂や注入材の逸脱を防止しながら地盤の締め固めを容易に、かつ確実に行うことができ、さらに固結体間の連続性と止水性の向上を図ることができる。
【0083】
また、本発明は、注入管と当該注入管に接続されたピストンポンプ、注入材吸入装置、或いは注入材の圧入と吸入の両方の機能を備えた装置(例えば圧入ポンプまたは吸入ポンプ、あるいは圧入と吸入の両方の機能を備えたポンプ)を用いて地盤内に可塑状ゲル注入材を注入することにより、地盤改良をきわめて効率的にかつ経済的に実施することができる。
【0084】
なお、表-1は薬液を浸透注入する場合の適用限界を示す。
特に懸濁型注入材は細粒土(細砂以下、k=10
-2cm/sec以下)には土粒子浸透しないで脈状に浸透しやすく逸脱しやすい。また溶液型注入材でも粘性土が多くなると(k=10
-3cm/sec以下)浸透しないため脈状に逸脱して注入効果が得られない。
【0085】
図1は液状化しやすい地盤の粒径分布を示す。
【0086】
表-1から判るように薬液注入を行なっても液状化しやすい地盤にすべて浸透させることができない。特に懸濁液を用いて高強度を得ようとしても浸透し得ないことが判る。
【0087】
図2aは本発明の改良効果の原理を示す。
【0088】
図2a(イ)は土粒子の配列の例を示す。このような地盤の土の粒径が浸透限界外だと注入液は
図2a(ロ)のように脈状注入によって対象範囲外へ逸脱する。
【0089】
しかし、本発明のように可塑状ゲル注入材の圧入・吸入を繰り返す(
図2a(ハ))と、ルーズな地盤に載荷と負荷を繰り返して間隙水圧の上昇・減少を繰り返すことによって、土粒子同士の結合が失われて液状化のように土粒子が浮き上がり(
図2a(ニ))、有効応力が低下してせん断強度が低下し、液状化領域を生ずる。その液状化領域に可塑状ゲル注入材が圧入することにより土粒子を外側に押しやる。この過程を繰り返すことによって可塑状ゲル体が拡大する(
図2a(ホ))。このように、圧入と吸入を繰り返している間、その作用がさらに外部まで拡大する。
【0090】
勿論、圧入が充分行われ、或いは可塑状ゲル注入材の固化による流動性の低下が進行するにつれ、可塑状ゲル注入材の吸入は低減するので、さらに、圧入圧と吸入圧を高くして吐出量を調整して繰り返すか、或いは次の注入ステップに移動することになる。
【0091】
図3a(イ),(ロ),(ハ)は、本発明の原理を図示したものである。注入管と当該注入管に接続されたピストンポンプを用いて実施する場合、地盤内に可塑状ゲル注入材を圧入して地盤内に可塑状ゲル注入材の塊状ゲル体を形成する(
図3(a))。
【0092】
次に、塊状ゲル体内の一部可塑状ゲル注入材をポンプ内に吸入して塊状ゲル体を縮少させる(
図3a(ロ))。こうして、地盤内の塊状ゲル体にピストンの往復動によって加圧(載荷)と吸入(減圧)を交互に繰り返し付与して塊状ゲル体を膨縮させる。
【0093】
そうすると、塊状ゲル体の周辺地盤の土粒子間の結合が解放されると共に、間隙水圧の上昇に伴う液状化に類似した土粒子の浮遊により塊状ゲル体の周囲
の有効応力が低下し、地盤のせん断強度が失われる(
図3a(ロ))。その領域に可塑状ゲル注入材が圧入され、土粒子が周辺に押しやられて塊状ゲル体が徐々に拡大する。その結果、締固めを効率的に行うことができる。また、加圧により空隙に可塑状ゲル注入材が圧入されて塊状ゲル体が徐々に拡大することにより周辺地盤が締め固められて密度増大が図られる(
図3a(ハ)参照)。