(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014835
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】CMPパッドコンディショナおよび当該CMPパッドコンディショナの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 53/12 20060101AFI20161013BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20161013BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20161013BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
B24B53/12 Z
B24B53/00 J
B24B37/00 A
H01L21/304 622M
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-273901(P2011-273901)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-123771(P2013-123771A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年12月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594014513
【氏名又は名称】帝国イオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(73)【特許権者】
【識別番号】512109161
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】前田 美規代
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝司
(72)【発明者】
【氏名】片山 武志
(72)【発明者】
【氏名】清水 章弘
(72)【発明者】
【氏名】相馬 和人
(72)【発明者】
【氏名】生野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森河 務
(72)【発明者】
【氏名】中出 卓男
(72)【発明者】
【氏名】雄島 大貴
【審査官】
大山 健
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−239663(JP,A)
【文献】
森河 務、横井昌幸,”非晶質めっきとその応用”、[online]、1998年5月6日,2015年10月22日,5.1、5.3欄,森河 務、横井昌幸、江口晴一郎:科学と工業,65(5),213-221(1991),URL,http://tri-osaka.jp/fields/kinpyou/surface/morikawa/R3/P3.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/12
B24B 37/00 −37/34
H01L 21/304
B24D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に形成されたニッケルめっき層により保持された複数の砥粒を備え、当該砥粒により化学機械研磨に用いられるCMPパッドを砥削加工するCMPパッドコンディショナであって、
前記ニッケルめっき層は、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層により被覆されており、
前記非晶質クロムめっき層は、前記ニッケルめっき層を保護する保護層であり、かつ他の異なる層を介して、前記ニッケルめっき層よりも上層に形成されていることを特徴とするCMPパッドコンディショナ。
【請求項2】
前記非晶質クロムめっき層は、部分的に結晶化されており、且つ、ビッカース硬度がHV1100以上、HV1800以下であることを特徴とする請求項1に記載のCMPパッドコンディショナ。
【請求項3】
前記非晶質クロムめっき層の表面に酸化膜が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のCMPパッドコンディショナ。
【請求項4】
基材表面に形成されたニッケルめっき層により保持された複数の砥粒を備え、当該砥粒により化学機械研磨に用いられるCMPパッドを砥削加工するCMPパッドコンディショナの製造方法であって、
前記ニッケルめっき層を、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層により被覆する被覆ステップを含み、
前記非晶質クロムめっき層は、前記ニッケルめっき層を保護する保護層であり、かつ前記被覆ステップにおいて、他の異なる層を介して、前記ニッケルめっき層よりも上層に形成されることを特徴とするCMPパッドコンディショナの製造方法。
【請求項5】
前記被覆ステップにおいて、前記非晶質クロムめっき層を、200℃以上、300℃以下、または500℃以上、600℃以下の温度範囲で熱処理することを特徴とする請求項4に記載のCMPパッドコンディショナの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理を大気中で行うことを特徴とする請求項5に記載のCMPパッドコンディショナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMPパッドのコンディショニングに用いられるCMPパッドコンディショナおよび当該CMPパッドコンディショナの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業の進展と共に、金属、半導体、セラミックスなどの表面を高精度に仕上げる加工技術の必要性が高まっており、特に、半導体ウエハー(以下、単にウエハーと称する)では、その集積度の向上と共にナノメーターオーダーの表面仕上げが要求されている。
【0003】
このような高精度の表面仕上げに対応するために、シリコンインゴットから切り出したウエハーの表面を化学的かつ機械的に研磨するCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)が用いられている。
【0004】
CMPとは、微粒子シリカなどによる機械研磨の作用がある遊離砥粒と、シリコンウエハーなどの被研磨物を化学的に溶解する作用がある酸或いはアルカリ溶液とを用いた複合的なメカノ・ケミカル研磨法である。例えば、シリコンウエハーの研磨に際しては、遊離砥粒と酸或いはアルカリ溶液とを混合したスラリ溶液を研磨パッド(以下、CMPパッドと称する)に供給して、シリコンウエハー表面を研磨する。このスラリ溶液には、過酸化水素や過硫酸アンモニウムなどの酸化剤が添加されるほか、金属配線ウエハーでは金属イオンを安定化させるための有機錯化剤や過渡エッチングを抑制する腐食抑制剤、或いは溶液の表面張力を下げる界面活性剤などが適量添加されている。
【0005】
ここで、CMPパッドは、研磨時間が経過していくにつれて目詰まりや圧縮変形が生じて、研磨面の平坦性が失われる。研磨面の平坦性が失われた場合、ウエハーの研磨速度の低下や、ウエハーの表面が不均一になるなどの好ましくない現象が生じる。
【0006】
そのため、CMPパッドの研磨面の状態を一定に保つために、CMPパッドに対して砥削加工を施すためのCMPパッドコンディショナが用いられている。このCMPパッドコンディショナは、通常、ニッケル或いはニッケル基合金などの金属固定層によって、ステンレスなどの台座の所定的位置にダイヤモンドなどの砥粒が電着されたものが用いられる。
【0007】
ところが、CMPパッドコンディショナでCMPパッドを砥削加工していくと、砥粒の摩耗、CMPパッドコンディショナ表面の摩耗、金属固定層の溶解、それに伴う砥粒の脱落などの問題が生じる。また、脱落した砥粒がCMPパッド表面に付着したままCMPを行うと、ウエハーの表面にスクラッチ痕が発生する。さらに、金属固定層に含まれる溶解したニッケルなどの金属イオンがCMPパッドへ付着すると、ウエハーのシリコン面などに汚染を引き起こす。そのため、このような問題の発生を予防するために、CMPパッドコンディショナについては、砥削寿命の前であっても定期的な交換を行っていた。
【0008】
金属固定層が溶解する主な要因は、CMPにおいて用いられるスラリ溶液が、CMPパッドコンディショナ表面に付着することにある。なぜなら、CMPパッドを介してCMPパッドコンディショナ表面に付着したスラリ溶液中の腐食成分(酸、アルカリ、酸化剤、有機錯化剤など)の作用によって金属固定層が溶解することで、砥粒の脱落などが生じるためである。
【0009】
そこで、金属固定層が溶解することを防止する方法として、CMPパッドコンディショナの金属固定層がスラリ溶液に接触することを抑制する技術が提案されている。具体的には、耐薬品性に優れたNi−W合金めっきなどでCMPパッドコンディショナを被覆する方法(特許文献1)、PVDやCVD法によってSiC膜でCMPパッドコンディショナを被覆する方法(特許文献2)、Au或いはRhなどのめっきでCMPパッドコンディショナを被覆する方法(特許文献3)、環状パーフルオロエーテル構造を有するフッ素樹脂でCMPパッドコンディショナを被覆する方法(特許文献4)、二フッ化樹脂或いは三フッ化樹脂でCMPパッドコンディショナを被覆する方法(特許文献5)、ゾルゲルやエアロゾルによって酸化物でCMPパッドコンディショナを被覆する方法(特許文献6、特許文献7)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−264014号公報(2002年03月31日公開)
【特許文献2】特開2003−094332号公報(2003年04月03日公開)
【特許文献3】特開2003−117822号公報(2003年04月23日公開)
【特許文献4】特開2004−025377号公報(2004年01月29日公開)
【特許文献5】特開2004−066409号公報(2004年03月04日公開)
【特許文献6】特開2008−073825号公報(2008年04月03日公開)
【特許文献7】特開2008−073826号公報(2008年04月03日公開)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】森河 務、江口晴一郎、「シュウ酸浴からのクロムめっきの硬さ」、金属表面技術、Vol.37,NO.7,p.341-345,1986
【非特許文献2】森河 務、横井昌幸、江口清一郎、福本幸男,「硫酸クロム(III)−シュウ酸アンモニウム浴からの非晶質Cr−C合金めっき」,表面技術,Vol.42,No.1,p.100-104,1991
【非特許文献3】S. Hoshino, H.A. Laitinen, G.B. Hoflund; J. Electrochem. Soc., 133, 681(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、例えば、特許文献1に開示されたNi−W合金めっきによる被覆方法では、金属固定層の腐食速度を多少遅れさせることはできるが、Ni−Wめっき合金がスラリ溶液に溶解するため、十分な腐食防止効果が得られないという課題がある。
【0013】
また、特許文献2に開示されたPVDやCVD法を用いたSiC膜による被覆方法では、ドライコーティング法により処理コストが増大すると共に、被覆膜が形成されない部分が生じ易く当該部分の金属固定層が腐食するという課題がある。
【0014】
また、特許文献3に開示されたAu或いはRhなどによる被覆方法では、金、ロジウムなどの高価な金属が必要であり、CMPパッドコンディショナの製造コストが増大する。さらに、金属固定層を構成するニッケルとの腐食の電位差が大きいため、被覆層のピンホールを介して浸入したスラリ溶液による金属固定層の溶解が加速するという課題がある。
【0015】
また、特許文献4〜7に開示されたフッ素樹脂やゾルゲルなどによる酸化物を用いた被覆方法では、被覆層と金属固定層との密着性が十分ではなく、CMPパッドの砥削加工時に被覆層の脱落が生じる。さらに、被覆層に生じたピンホールを介して侵入したスラリ溶液より金属固定層が溶解するという課題がある。
【0016】
このように、これらの技術では金属固定層の溶解を効果的に防止することができないため、種々のスラリ溶液に対する優れた耐食性を有するCMPパッドコンディショナの開発が望まれている。
【0017】
さらに、CMPパッドコンディショナの寿命を延ばすには、上述したスラリ液による金属固定層の溶解を抑えるだけでなく、CMPパッドコンディショナ表面の耐摩耗性および砥粒の保持力などを向上させることが望まれる。
【0018】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、種々のスラリ溶液に対する耐食性、耐摩耗性および砥粒の保持力を向上させたCMPパッドコンディショナおよび当該CMPパッドコンディショナの製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るCMPパッドコンディショナは、上記の課題を解決するために、基材表面に形成された金属固定層により保持された複数の砥粒を備え、当該砥粒により化学機械研磨に用いられるCMPパッドを砥削加工するCMPパッドコンディショナであって、前記金属固定層は、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層により被覆されていることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るCMPパッドコンディショナの製造方法は、上記の課題を解決するために、基材表面に形成された金属固定層により保持された複数の砥粒を備え、当該砥粒により化学機械研磨に用いられるCMPパッドを砥削加工するCMPパッドコンディショナの製造方法であって、前記金属固定層を、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層により被覆する被覆ステップを含むことを特徴とする。
【0021】
上記の構成では、複数の砥粒を保持した金属固定層が、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層によって被覆されている。なお、本発明における被覆には、非晶質クロムめっき層を金属固定層上に直接形成する直接的被覆と、非晶質クロムめっき層を金属固定層上に他の異なる層を介して形成する間接的被覆との双方が含まれる。
【0022】
非晶質クロムの化学的な性質は、酸性、酸化性、アルカリ性溶液などに対して優れた耐食性を有しており、この非晶質クロムで形成した非晶質クロムめっき層は、CMPで用いられる種々のスラリ溶液に対して優れた耐食性を有する。そのため、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層によって金属固定層を被覆することにより、金属固定層をスラリ溶液から保護して、金属固定層が溶解することを効果的に防止することができる。
【0023】
また、通常のクロムめっき層では、ポーラス膜で厚さが約0.5μm以上になると、クロムめっき層に残留する電着応力によりクロムめっき層が破断してクラックが発生してしまう。そのため、通常のクロムめっき層では、このクラックの発生により金属固定層の腐食を十分に防止することは困難である。
【0024】
これに対して、非晶質クロムめっき層は電着応力が小さいため、非晶質クロムめっき層の厚さが約0.5μmを超えた場合であっても、クラックの発生を抑制することが可能となる。また、非晶質クロムめっき層は、表面における不動態化現象を引き起こし易く、通常のクロムめっき層に比べてスラリ溶液に対する耐食性が著しく優れているので、金属固定層の腐食を効果的に防止することができる。
【0025】
さらに、非晶質クロムめっき層のビッカース硬度は、通常、HV800〜1100程度であり、ニッケルなどで構成される金属固定層の硬度(HV200〜300程度)よりも高い。そのため、非晶質クロムめっき層により金属固定層を被覆することにより、CMPパッドコンディショナの耐摩耗性および砥粒の保持力を向上させることができる。
【0026】
従って、上記の構成によれば、種々のスラリ溶液に対する耐食性、耐摩耗性および砥粒の保持力を向上させたCMPパッドコンディショナおよび当該CMPパッドコンディショナの製造方法を実現するこができる。
【0027】
以上のように、本発明者らは、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層によって金属固定層を被覆することにより、CMPパッドコンディショナの種々のスラリ溶液に対する耐食性、耐摩耗性および砥粒の保持力が著しく向上することを見出し、本発明に至った。このような技術思想は、これまで開示されていない。
【0028】
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナでは、前記非晶質クロムめっき層は、部分的に結晶化されており、且つ、ビッカース硬度がHV1100以上、HV1800以下であることが好ましい。
【0029】
上述したように、非晶質クロムめっき層のビッカース硬度は、HV800〜1100程度であるが、非晶質クロムめっき層を部分的に結晶化することで、ビッカース硬度をHV1100以上、HV1800以下まで高めることができる。
【0030】
従って、上記の構成によれば、CMPパッドコンディショナの耐摩耗性および砥粒の保持力をさらに向上させることができる。
【0031】
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナでは、前記非晶質クロムめっき層の表面に酸化膜が形成されていることが好ましい。
【0032】
上記の構成によれば、非晶質クロムめっき層の表面に酸化膜が形成されているため、スラリ溶液に対するCMPパッドコンディショナの耐食性をさらに向上させることができる。
【0033】
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナの製造方法では、前記被覆ステップにおいて、前記非晶質クロムめっき層を、200℃以上、300℃以下、または500℃以上、600℃以下の温度範囲で熱処理することが好ましい。
【0034】
非晶質クロムめっき層を、200℃以上、300℃以下、または500℃以上、600℃以下の温度範囲で熱処理することで、非晶質クロムめっき層における結晶化反応を促進することができる。
【0035】
そのため、被覆ステップにおいて、非晶質クロムめっき層を、200℃以上、300℃以下、または500℃以上、600℃以下の温度範囲で熱処理することにより、非晶質クロムめっき層を効率的に結晶化することができる。
【0036】
従って、上記の方法によれば、非晶質クロムめっき層の一部を効率的に結晶化して、CMPパッドコンディショナの耐摩耗性および砥粒の保持力をさらに向上させることができる。
【0037】
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナの製造方法では、前記熱処理を大気中で行うことが好ましい。
【0038】
上記の方法では、熱処理を大気中で行うこ
とにより、非晶質クロムめっき層の結晶化と同時に、非晶質クロムめっき層の表面に酸化膜を形成することができる。
【0039】
従って、上記の構成によれば、スラリ溶液に対するCMPパッドコンディショナの耐食性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0040】
以上のように、本発明に係るCMPパッドコンディショナは、基材表面に形成された金属固定層により保持された複数の砥粒を備え、当該砥粒により化学機械研磨に用いられるCMPパッドを砥削加工するCMPパッドコンディショナであって、前記金属固定層は、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層により被覆されている。
【0041】
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナの製造方法は、基材表面に形成された金属固定層により保持された複数の砥粒を備え、当該砥粒により化学機械研磨に用いられるCMPパッドを砥削加工するCMPパッドコンディショナの製造方法であって、前記金属固定層を、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層によって被覆する被覆ステップを含んでいる。
【0042】
それゆえ、本発明によれば、種々のスラリ溶液に対する耐食性、耐摩耗性および砥粒の保持力を向上させたCMPパッドコンディショナおよび当該CMPパッドコンディショナの製造方法を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】(a)は、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナを示す上面図であり、(b)は、(a)に示されるCMPパッドコンディショナの断面を示す模式図である。
【
図2】
図1(b)に示されるCMPパッドコンディショナの破線囲み部分を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明に係るCMPパッドコンディショナの実施の一形態について、
図1〜3に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0045】
〔CMPパッドコンディショナ1の構成〕
まず、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナ1の構成について、
図1および
図2を参照して説明する。
【0046】
図1(a)は、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナ1を示す上面図であり、(b)は、(a)に示されるCMPパッドコンディショナ1の断面を示す模式図である。
【0047】
図1(a)(b)に示されるように、CMPパッドコンディショナ1は、円形の台座(基材)2を備え、この台座2の表面には、複数の砥削部3が設けられている。
【0048】
台座2は、金属などからなる円板状の部材である。本実施形態では、台座2は、ステンレスから構成されており、直径が105mm、厚さが5mmのである。この台座2の表面には、同心円状に複数の砥削部3が設けられている。
【0049】
砥削部3は、台座2の表面の一部が突出した部分であり、各砥削部3には複数の砥粒4(
図2参照)がそれぞれ固着されている。
【0050】
本実施形態では、砥削部3は、円柱状の砥削部3aと環状の砥削部3bとを含んでいる。円柱状の砥削部3aは、台座2の表面に3つの同心円を形成するように3列に並んで複数設けられており、さらにその外側に、環状の砥削部3bが台座2の外周側に沿って設けられている。
【0051】
図2は、
図1(b)に示されるCMPパッドコンディショナ1の破線囲み部分を示す拡大図である。
図2に示されるように、砥削部3の上面には複数の砥粒4がそれぞれ固着されている。
【0052】
砥粒4は、CMPパッドの表面を砥削加工するためのものであり、例えば、ダイヤモンド、cBN、アルミナAl
2O
3、炭化珪素SiO
2などを用いることができる。砥粒4は、後述するように、ニッケルめっき層(金属固定層)11により砥削部3の上面に電着固定されている。
【0053】
なお、台座2の表面に設けられた砥削部3の位置、大きさ、形状などは、必要に応じて適宜変更可能である。また、台座2の表面に砥削部3を設けずに、平坦な台座2の表面に砥粒4を直接固着させてもよい。
【0054】
〔CMPパッドコンディショナ1の層構造〕
次に、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナ1の層構造について、
図3を参照して説明する。なお、以下では、砥削部3aにおける層構造を例にして、CMPパッドコンディショナ1の層構造を説明する。
【0055】
図3は、
図2に示される砥削部3aを示す拡大図である。
図3に示されるように、砥削部3aの上面には、ニッケルめっき層11と、非晶質クロムめっき層12とがこの順番で積層されている。
【0056】
ニッケルめっき層11は、砥粒4を保持するためのものであり、電気ニッケルめっき法などによって、砥削部3aを含む台座2の表面に亘って形成されている。さらに、砥削部3a・3bのニッケルめっき層11には、複数の砥粒4が埋め込まれている。本実施形態では、各砥粒4は、その粒径の55%以上、80%以下程度の部分が埋め込まれた状態でNiめっき層11により保持されている。
【0057】
ここで、従来のCMPパッドコンディショナでは、CMPで用いられるスラリ溶液がこのニッケルめっき層11に付着し、付着したスラリ溶液中の腐食成分(酸、アルカリ、酸化剤、有機錯化剤など)の作用によりニッケルめっき層11が溶解することで、砥粒の脱落などが生じていた。
【0058】
そこで、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナ1では、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層12によってニッケルめっき層11を被覆することで、ニッケルめっき層11を保護している。
【0059】
非晶質クロムの化学的な性質は、酸性、酸化性、アルカリ性溶液などに対して優れた耐食性を有しており、この非晶質クロムで形成した非晶質クロムめっき層12は、CMPで用いられる種々のスラリ溶液に対して優れた耐食性を有する。そのため、非晶質クロムめっき層12によってニッケルめっき層11を被覆することにより、ニッケルめっき層11がスラリ溶液によって溶解することを効果的に防止することができる。
【0060】
また、通常のクロムめっき層では、ポーラス膜で厚さが約0.5μm以上になると、クロムめっき層に残留する電着応力によりクロムめっき層が破断してクラックが発生してしまう。そのため、通常のクロムめっき層では、このクラックの発生により金属固定層の腐食を十分に防止することは困難である。
【0061】
これに対して、非晶質クロムめっき層12は電着応力が小さいため、非晶質クロムめっき層12の厚さが約0.5μmを超えた場合であってもクラックの発生を抑制することが可能となる。また、非晶質クロムめっき層12は、表面における不動態化現象を引き起こし易く、通常のクロムめっき層に比べてスラリ溶液に対する耐食性が著しく優れているので、ニッケルめっき層11の腐食を効果的に防止することができる。
【0062】
さらに、非晶質クロムめっき層12のビッカース硬度は、HV800〜1100程度であり、ニッケルで形成されるニッケルめっき層11の硬度(HV200〜300程度)よりも高い。そのため、台座2の表面に形成されているニッケルめっき層11を非晶質クロムめっき層12により被覆することにより、CMPパッドコンディショナ1の耐摩耗性および砥粒の保持力を向上させることができる。
【0063】
〔CMPパッドコンディショナ1の製造方法〕
次に、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナ1の製造方法について説明する。なお、CMPパッドコンディショナ1の製造方法のうち、台座2の表面にニッケルめっき層11を形成して、砥削部3a・3bに砥粒4を電着するまでの工程は、従来と同様であるため、以下では、非晶質クロムめっき層12によってニッケルめっき層11を被覆する工程(以下、被覆ステップと称する)について説明する。
【0064】
非晶質クロムめっき層12は、例えば、炭素が共析されたCr-C合金などを用いて形成することができる。具体的には、炭素(C)を0.1wt%以上、0.5wt%以下に共析したシュウ酸浴からのCr−C合金などを用いることができる。このように、Cr−C合金を用いて非晶質クロムめっき層12を形成することにより、酸に対する耐食性をさらに向上させることができる。
【0065】
また、非晶質クロムめっき層12の耐食性や平滑性を向上させることを目的として、リン(P)や硫黄(S)などの合金成分をCr-C合金に含有させて、非晶質クロムめっき層12を形成してもよい。
【0066】
この非晶質クロムめっき層12をニッケルめっき層11上に形成する方法としては、例えば、非特許文献1〜3などに開示されためっき方法などを適用することができる。
【0067】
形成する非晶質クロムめっき層12の厚さは、スラリ溶液に対する耐食性を確保すると共に、ピットやクラックの発生を抑制するために、0.1μm以上、5μm以下であることが好ましい。
【0068】
なお、非晶質クロムめっき層12の形成によって砥粒4の砥削力を低下させないためには、非晶質クロムめっき層12の厚みを、ニッケルめっき層11から露出した砥粒4の高さ未満にする必要がある。例えば、ニッケルめっき層11から露出した砥粒4の高さが30μmの場合には、非晶質クロムめっき層12の厚さの最大値は30μm未満とする。
【0069】
ここで、被覆ステップにおいて、ニッケルめっき層11上に形成した非晶質クロムめっき層12を200℃以上、600℃以下の温度範囲で、0.5〜2.0時間程度の間、熱処理を行うことで、非晶質クロムめっき層12の特性を改質することができる。
【0070】
具体的には、200℃以上、600℃以下の温度範囲で非晶質クロムめっき層12に熱処理を施すことで、非晶質クロムめっき層12のCrを結晶化することができる。特に、200℃以上、300℃以下の温度範囲で熱処理することで、非晶質クロムめっき層12の一部におけるCrの結晶化反応を促進することができる。
【0071】
また、500℃以上で非晶質クロムめっき層12に熱処理を施すことで、非晶質クロムめっき層12のCr
26C
7などの炭化物を結晶化することができる。特に、500℃以上、600℃以下の温度範囲で熱処理することで、非晶質クロムめっき層12の一部におけるCr
26C
7などの炭化物の結晶化反応を促進することができる。
【0072】
被覆ステップにおいて、上述した熱処理を施すことにより、結晶析出させた非晶質クロムめっき層12のビッカース硬度を、HV1100以上、HV1800以下まで高めることができるので、CMPパッドコンディショナ1の耐摩耗性および砥粒4の保持力をさらに向上させることができる。
【0073】
さらに、この熱処理を大気中で行うことで、非晶質クロムめっき層12の表面が酸化され、厚さ数十nmの酸化層を形成することができる。この酸化層を形成することにより、スラリ溶液に対するCMPパッドコンディショナ1の耐食性をさらに向上させることができる。
【0074】
一方、大気中で行う熱処理の温度が700℃以上となると、非晶質クロムめっき層12の酸化が激しくなり、CMPパッドコンディショナ1の台座2の軟化、砥粒4を固着するニッケルめっき層11の酸化、砥粒4の分解反応などが生じ得る。そのため、熱処理の温度は、700℃未満の温度で行うことが好ましい。
【0075】
なお、非晶質クロムめっき層12の結晶化度は、共析した炭素の含有量に依存するが、非晶質クロムめっき層12の全体を結晶化させる必要はない。そのため、非晶質クロムめっき層12の炭素含有量は、上述したように0.1wt%以上、0.5wt%以下の範囲であることが好ましい。
【0076】
〔実施形態の総括〕
以上のように、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナ1は、台座2の表面に形成されたニッケルめっき層11により保持された複数の砥粒4を備え、当該砥粒4により化学機械研磨に用いられるCMPパッドを砥削加工するCMPパッドコンディショナ1であって、ニッケルめっき層11は、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層12により被覆されている。
【0077】
また、実施形態に係るCMPパッドコンディショナの製造方法は、台座2の表面に形成されたニッケルめっき層11により保持された複数の砥粒4を備え、当該砥粒4により化学機械研磨に用いられるCMPパッドを砥削加工するCMPパッドコンディショナの製造方法であって、ニッケルめっき層11を、少なくとも非晶質構造を含む非晶質クロムめっき層12によって被覆する被覆ステップを含んでいる。
【0078】
上記の構成によれば、非晶質クロムめっき層12によってニッケルめっき層11が被覆されているため、ニッケルめっき層11をスラリ溶液から保護して、ニッケルめっき層11が溶解することを効果的に防止することができる。
【0079】
従って、本実施形態によれば、種々のスラリ溶液に対する耐食性、耐摩耗性および砥粒の保持力を向上させたCMPパッドコンディショナ1および当該CMPパッドコンディショナ1の製造方法を実現するこができる。
【0080】
〔変形例〕
上述した実施形態では、ニッケルめっき層11上に非晶質クロムめっき層12を直接形成する構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。非晶質クロムめっき層12は、ニッケルめっき層11よりも上層に形成されていればよく、ニッケルめっき層11と非晶質クロムめっき層12との間に、他の異なる層が形成された構成であってもよい。
【0081】
すなわち、本発明における被覆には、非晶質クロムめっき層12をニッケルめっき層11上に直接形成する直接的被覆と、非晶質クロムめっき層12をニッケルめっき層11上に他の異なる層を介して形成する間接的被覆との双方が含まれる。
【0082】
いずれの構成であっても、下層に位置するニッケルめっき層11は非晶質クロムめっき層12によって保護されるため、種々のスラリ溶液に対する耐食性、耐摩耗性および砥粒の保持力を向上させたCMPパッドコンディショナを実現するこができる。
【0083】
〔実施例〕
次に、非晶質クロムめっき層によって被覆された本発明に係るCMPパッドコンディショナに対して行った耐食性試験について説明する。
【0084】
本耐食性試験では、電気ニッケルめっき法で形成したニッケルめっき層によって、ステンレス製の台座2上にダイヤモンドが固着されたCMPパッドコンディショナを、シュウ酸浴からのCr−C合金めっき層で被覆したものを用いた。Cr−C合金めっき層の炭素含有量は0.5wt%であり、その膜厚は5μmである。
【0085】
このCMPパッドコンディショナに対して行った浸漬試験および噴霧試験の結果を下記の表に示す。なお、CMPパッドコンディショナ表面の腐食の有無は、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって観察した。
【0087】
この表に示されるように、本耐食性試験では、各種の腐食成分に対するCMPパッドコンディショナの浸漬試験および噴霧試験を行ったが、いずれの試験においてもCMPパッドコンディショナ表面に腐食は観察されなかった。
【0088】
これは、各種の腐食成分に対して高い耐食性を有するCr−C合金めっき層をニッケルめっき層の上層に形成することにより、下層に位置するニッケルめっき層の腐食成分による溶解が抑制されたためである。
【0089】
このように、非晶質クロムめっき層によってニッケルめっき層を被覆することにより、CMPパッドコンディショナの耐食性が大幅に向上することが確認された。
【0090】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0091】
〔補足〕
なお、本発明に係るCMPパッドコンディショナは、下記のように表現することもできる。すなわち、本発明に係るCMPパッドコンディショナは、複数の砥粒がめっきによる金属結合相で固着された砥粒層を有するCMPパッドコンディショナの最上層に非晶質クロムめっきを施したことを特徴とする。
【0092】
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナは、非晶質クロムめっき層としては、結晶状態に非晶質構造を有し、クラックがないことを特徴とする。
【0093】
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナは、非晶質クロムめっきされたCMPパッドコンディショナを、200℃以上、600℃以下の温度範囲で熱処理することによって、非晶質クロムめっき層を部分的に結晶化させることで、ビッカース硬度がHV1100以上、HV1800以下に硬化させたことを特徴とする。
【0094】
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナは、非晶質クロムめっきされたCMPパッドコンディショナを大気中で200℃以上、600℃以下の温度範囲で熱処理することによって、非晶質クロムめっき層上に酸化膜を形成させたことを特徴とする。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、CMPパッドのコンディショニングに用いられるCMPパッドコンディショナおよび当該CMPパッドコンディショナの製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 CMPパッドコンディショナ
2 台座(基材)
3 砥削部
3a 砥削部
3b 砥削部
4 砥粒
11 ニッケルめっき層(金属固定層)
12 非晶質クロムめっき層