特許第6014838号(P6014838)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6014838複数のサファイア単結晶及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6014838
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】複数のサファイア単結晶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20161013BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C30B29/20
   C30B15/34
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-174567(P2015-174567)
(22)【出願日】2015年9月4日
【審査請求日】2015年10月7日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古滝 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 弘倫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正幸
(72)【発明者】
【氏名】樋口 数人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 次男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 訓彦
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−120612(JP,A)
【文献】 特表2007−532458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/20
C30B 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットを有する複数のダイを坩堝に収容し、
坩堝に酸化アルミニウム原料を投入して加熱し、
酸化アルミニウム原料を坩堝内で溶融して酸化アルミニウム融液を用意し、
スリットを介してスリット上部に酸化アルミニウム融液溜まりを形成し、
そのスリット上部の酸化アルミニウム融液に種結晶を接触させ、種結晶を引き上げることで、共通の種結晶から、少なくともスプレーディング部分を介して、互いに略平行に連結され、互いに略平行で対向する側面で規定される直胴部分を成長させて、前記直胴部分の幅が等しく平板形状である複数のサファイア単結晶を製造する方法であって、
前記複数のサファイア単結晶の数nは、n≧2であり、
前記複数のサファイア単結晶のうち、スプレーディング部分から直胴部分への移行が最も早く開始された点を最初の移行開始点A、最も遅く開始された点を最後の移行開始点Bとし、
前記複数のサファイア単結晶の引き上げ方向における前記A-B間の間隔をΔTm、
前記サファイア単結晶の直胴部分の幅をWとしたとき、
前記種結晶を前記酸化アルミニウム融液に接触させる前に、前記複数のダイの中央部に配置される各ダイの中心部と、前記複数のダイの最も外側に配置される各ダイの中心部との温度勾配が5℃以上25℃以内、且つ、前記各ダイにおけるダイ中心部とダイ両端部の温度勾配が0℃以上25℃以内となるように調整し、
ΔTm値を0.3W以下とすることを特徴とする複数のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記ΔTm値を0.2W以下とすることを特徴とする請求項に記載の複数のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記各サファイア単結晶間の厚みtのばらつきを、0.10t以下とすることを特徴とする請求項またはに記載の複数のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記各サファイア単結晶の厚みtの変動を、前記各サファイア単結晶の直胴部分全面において0.10t以下とすることを特徴とする請求項のいずれかに記載の複数のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記サファイア単結晶の直胴部分の幅Wを、1.0cm以上26.0cm以下とすることを特徴とする請求項のいずれかに記載の複数のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記サファイア単結晶の直胴部分の幅Wを、1.0cm以上26.0cm以下、前記各サファイア単結晶の厚みtを、0.05cm以上1.5cm以下とすることを特徴とする請求項のいずれかに記載の複数のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項またはにおいて、前記幅Wを、5.0cm以上22.0cm以下とすることを特徴とする複数のサファイア単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のサファイア単結晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶を成長させる方法として、チョクラルスキー(CZ)法、ヒートエクスチェンジ(HEM)法、ベルヌイ法、エッジデファインド・フィルムフェッド・グロース(EFG)法などが知られている。このうち、平板形状の単結晶を製造する方法としてはEFG法が唯一の方法として知られている。EFG法は、所定の結晶方位を有する単結晶を製造する場合に極めて利用価値が高い結晶製造方法であり、EFG法を用いて育成されたサファイア単結晶は、基板加工への工数を減らすことができるという利点があることから、青色発光素子のエピタキシャル成長基板をはじめとする様々な用途に用いられている。
【0003】
EFG法を用いたサファイア単結晶の量産方法として、特許文献1が知られている。特許文献1には、平板形状の単結晶を成長させる原料溶融液面の長手方向と直交する方向に結晶成長用の種結晶を配置して引き上げることにより、一枚の種結晶から複数枚の単結晶を育成するサファイア単結晶の製造方法が記載されている。特許文献1の製造方法では、種結晶と原料の溶融液面との接触面積を小さくすることにより、結晶欠陥の発生確率を小さくすることができ、これにより製造するサファイア単結晶の歩留まりを向上させることが可能となる。
【0004】
また、特許文献2には幅25cm以上、厚さ0.5cm以上で、ネックと本体を有するサファイア単結晶であって、ネックから本体部分への移行が、本体の側面のそれぞれ第一および第二の移行点によって規定され、サファイア単結晶の長さ方向に投影された該移行点間の間隔ΔTが4.0cm以下であることを特徴とするサファイア単結晶が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4465481号公報
【特許文献2】特許第5091662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように、一枚の種結晶から複数枚の単結晶を引き上げるいわゆるマルチ育成では、通常、ネック部分を形成した後、原料溶融液を降温してダイの長手方向の長さに達するまで結晶の幅を広げるスプレーディング(Spreading)工程を経て、直胴部分の結晶成長が開始される。
【0007】
しかし、サファイア単結晶のマルチ育成においては、各サファイア単結晶間のスプレーディング速度のばらつきが発生してしまい問題となっていた。即ち、直胴部分への移行が極端に遅いサファイア単結晶があると、スプレーディング部分が単結晶の長さ方向に延長形成されるので、直胴部分の面積が減少し、サファイア基板への加工枚数が減少するという問題があった。また、スプレーディング速度が極端に遅く、直胴部分がダイの既定の幅(ダイの長手方向の長さ)まで広がりきらないまま結晶成長が進行してしまうと、規定サイズのサファイア基板に加工できなくなる。更に、このようなサファイア単結晶では結晶欠陥が発生しやすい等、結晶品質が悪化するという問題もあった。
【0008】
また、特許文献2には、ダイに沿った温度勾配を調整することにより、前記ΔTを4.0cm以下とする技術内容が開示されているが、サファイア単結晶のサイズは幅25cm以上の大きなものに限られている。従って、市場から要求される様々な基板サイズ(特に10インチ未満)の結晶を量産することを目的としたマルチ育成には適用できないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、マルチ育成において発生していた各サファイア単結晶間のスプレーディング速度のばらつきを制御することにより、様々なサイズにおけるサファイア単結晶の量産性と結晶品質とを向上させることを目的とする。更には、サファイア基板の量産性をも向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、サファイア単結晶のマルチ育成において、ダイの長手方向の温度勾配と、ダイの長手方向に直交する方向であるダイの並び方向における温度勾配のバランスを最適化することにより、スプレーディング速度のばらつきを制御し、直胴部分への移行開始点をサファイア単結晶の直胴部分の幅に応じた所定の範囲内の値に設定することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明に係る複数のサファイア単結晶は、共通の種結晶に、少なくともスプレーディング部分を介して、互いに略平行に連結され、互いに略平行で対向する側面で規定される直胴部分を有し、前記直胴部分の幅が等しく平板形状である複数のサファイア単結晶であって、前記複数のサファイア単結晶の数nは、n≧2であり、前記複数のサファイア単結晶のうち、スプレーディング部分から直胴部分への移行が最も早く開始された点を最初の移行開始点、最も遅く開始された点を最後の移行開始点とし、前記複数のサファイア単結晶の引き上げ方向における前記A-B間の間隔をΔTm、前記サファイア単結晶の直胴部分の幅をWとしたとき、ΔTm値が0.3W以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の一実施形態は、前記ΔTm値が0.2W以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の他の実施形態は、前記各サファイア単結晶間の厚みtのばらつきが、0.10t以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の他の実施形態は、前記各サファイア単結晶の厚みtの変動が、前記各サファイア単結晶の直胴部分全面において0.10t以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の他の実施形態は、前記サファイア単結晶の直胴部分の幅Wが、1.0cm以上26.0cm以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の他の実施形態は、前記サファイア単結晶の直胴部分の幅Wが、1.0cm以上26.0cm以下、前記各サファイア単結晶の厚みtが、0.05cm以上1.5cm以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の他の実施形態は、前記幅Wが、5.0cm以上22.0cm以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の製造方法は、スリットを有する複数のダイを坩堝に収容し、坩堝に酸化アルミニウム原料を投入して加熱し、酸化アルミニウム原料を坩堝内で溶融して酸化アルミニウム融液を用意し、スリットを介してスリット上部に酸化アルミニウム融液溜まりを形成し、そのスリット上部の酸化アルミニウム融液に種結晶を接触させ、種結晶を引き上げることで、共通の種結晶から、少なくともスプレーディング部分を介して、互いに略平行に連結され、互いに略平行で対向する側面で規定される直胴部分を成長させて、前記直胴部分の幅が等しく平板形状である複数のサファイア単結晶を製造する方法であって、前記複数のサファイア単結晶の数nは、n≧2であり、前記複数のサファイア単結晶のうち、スプレーディング部分から直胴部分への移行が最も早く開始された点を最初の移行開始点、最も遅く開始された点を最後の移行開始点とし、前記複数のサファイア単結晶の引き上げ方向における前記A-B間の間隔をΔTm、前記サファイア単結晶の直胴部分の幅をWとしたとき、ΔTm値を0.3W以下とすることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の製造方法の一実施形態は、前記ΔTm値を0.2W以下とすることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の製造方法の他の実施形態は、前記各サファイア単結晶間の厚みtのばらつきを、0.10t以下とすることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の製造方法の他の実施形態は、前記各サファイア単結晶の厚みtの変動を、前記各サファイア単結晶の直胴部分全面において0.10t以下とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の製造方法の他の実施形態は、前記サファイア単結晶の直胴部分の幅Wを、1.0cm以上26.0cm以下とすることが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の製造方法の他の実施形態は、前記サファイア単結晶の直胴部分の幅Wを、1.0cm以上26.0cm以下、前記各サファイア単結晶の厚みtを、0.05cm以上1.5cm以下とすることが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶の他の実施形態は、前記幅Wを、5.0cm以上22.0cm以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、サファイア単結晶のマルチ育成において、各サファイア単結晶間のスプレーディング速度のばらつきを制御して、直胴部分への移行開始点を該サファイア単結晶の直胴部分の幅に応じた所定の範囲内に設定可能となり、サファイア単結晶の量産性と結晶品質とを向上させることができる。更には、サファイア基板の量産性をも向上させることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る複数のサファイア単結晶を説明する斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るΔTmの一例を説明する斜視図である。
図3】EFG法によるサファイア単結晶の製造装置を示す概略構成図である。
図4】(a) 本発明の実施形態に係るダイの一例を模式的に示す平面図である。(b) 同図(a)の正面図である。(c) 同図(a)の側面図である。
図5】(a) 本発明の実施形態に係る種結晶の一例を示す説明図である。(b) 本発明の実施形態に係る種結晶の他の例を示す説明図である。(c) 本発明の実施形態に係る種結晶の更に他の例を示す説明図である。
図6】本発明の実施形態における種結晶と仕切り板との位置関係を模式的に示す斜視図である。
図7】(a) 本発明の実施形態における種結晶と仕切り板との位置関係を模式的に示す正面図である。(b) 本発明の実施形態における、種結晶の一部を溶融する様子を示す説明図である。
図8】本発明の実施形態におけるネック部分が成長する様子を模式的に示す斜視図である。
図9】(a) 本発明の実施形態に係る種結晶において、下辺が櫛歯形状の種結晶を示す説明図である。(b) 本発明の実施形態に係る種結晶において、下辺が鋸型形状の種結晶を示す説明図である。
図10】本発明の実施形態に係るサファイア単結晶のスプレーディング工程を模式的に示す斜視図である。
図11】EFG法により得られる複数のサファイア単結晶を模式的に示す斜視図である。
図12】本発明の実施形態の変更例における、種結晶と仕切り板との位置関係を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図1及び図2を参照して、本発明に係る複数のサファイア単結晶について詳細に説明する。
【0030】
本発明に係る複数のサファイア単結晶1は、図1に示すように、共通の種結晶に、少なくともスプレーディング部分3を介して、互いに略平行に連結され、互いに略平行で対向する側面で規定される直胴部分4を有し、直胴部分4の幅は等しく平板形状である。該複数のサファイア単結晶1は、図1に示すような形態で共通の種結晶2から成長させたものであり、サファイア単結晶の数nは2以上の複数枚とする。
【0031】
また、EFG法でサファイア単結晶を成長させる場合、通常は、ネック部分5を形成した後でスプレーディング部分3が形成される。後述するように、ネック部分5は、種結晶の厚み若しくは融液溜まりの幅程度の細い径を有する結晶部分であり、結晶育成の初期の段階で結晶欠陥を低減又は除去するために形成されるものである。スプレーディング部分3は、ダイの長手方向の長さに達するまで結晶の幅を広げ、サファイア単結晶の直胴部分を成長させるために形成されるものである。
【0032】
そして、各々のサファイア単結晶に注目すると、スプレーディング速度のばらつきによる直胴部分への移行開始点のずれが、僅かに発生している。ここで、図2に示すように、複数のサファイア単結晶1のうち、スプレーディング部分3から直胴部分4への移行が最も早く開始された点を最初の移行開始点A、最も遅く開始された点を最後の移行開始点Bとすると、ΔTmは、該サファイア単結晶の引き上げ方向におけるA-B間の間隔である。
【0033】
本発明に係る複数のサファイア単結晶は、サファイア単結晶の直胴部分の幅をWとしたとき、ΔTmがWに応じた値、具体的には0.3W以下に抑えられている。ここで、サファイア単結晶の直胴部分の幅Wは、ダイの長手方向の長さによって規定される。即ち、理想的には、サファイア単結晶の直胴部分の幅W=ダイの長手方向の長さとなる。Wが大きいほど、直胴部分への移行時間がかかるため、スプレーディング速度のばらつきが大きくなる傾向があり、ΔTmは大きな値となる。
【0034】
ΔTmが0.3Wを超えると、ダイの長手方向の温度勾配と、ダイの並び方向の温度勾配のバランスが良好とは言えなくなり、スプレーディング速度のばらつきが大きくなってしまう。即ち、サファイア単結晶の結晶品質の低下と量産性の低下を招く。ΔTm値を0.3W以下とすることで、結晶品質の良いサファイア単結晶を製造でき、さらに量産性を向上させることができるという効果を有する。
【0035】
また、ΔTmを0.2W以下、さらに好ましくは0.1W以下に抑えることで、サファイア単結晶の量産性をさらに向上させることができ、結晶品質の更なる向上を図ることが可能となる。
【0036】
前述したように、ΔTmの値は、ダイの長手方向の温度勾配と、ダイの並び方向の温度勾配に関係しているため、ΔTmが大きくなる程、ダイの二軸方向に亘る温度勾配のバランスが良好でないと言える。従って、ΔTmは0であることが理想的ではあるが、実際には、二軸方向に亘る若干の温度勾配は常に発生するものである。
【0037】
さらに、本発明に係る複数のサファイア単結晶は、ΔTmを0.3W以下に抑えることにより、各サファイア単結晶間の厚みtのばらつきが、0.10t以下に抑えられている。ここで、各サファイア単結晶の厚みtは、ダイの厚みによって規定される。即ち、理想的には、各サファイア単結晶の厚みt=ダイの厚みとなる。しかしながら実際には、各サファイア単結晶間の厚みtには僅かにばらつきが生じる。
【0038】
各サファイア単結晶間の厚みtのばらつきとは、ダイの並び方向に沿って複数枚育成されるサファイア単結晶のうち、各々のサファイア単結晶が有する厚みtのばらつきを意味する。各サファイア単結晶間の厚みtのばらつきを0.10t以下とすることで、サファイア単結晶の量産性をさらに向上させることができる。
【0039】
さらに、各サファイア単結晶の厚みtの変動は、ΔTmを0.3W以下に抑えることにより、前記各サファイア単結晶の直胴部分全面において0.10t以下に抑えられている。よって、サファイア単結晶の量産性をさらに向上させることができる。
【0040】
上述した各サファイア単結晶間の厚みtのばらつき及び各サファイア単結晶の厚みtの変動は、理想的には0であるが、僅かな厚み変動は常に発生するものである。
【0041】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶は、サファイア単結晶の直胴部分の幅Wが、1.0cm以上26.0cm以下であり、0.5インチ未満から約10インチまでの様々なサイズのサファイア単結晶の量産性を向上させることが可能となる。幅Wを1.0cm以上とすることで、極小サイズのサファイア基板を製造し、その量産性を向上させることが可能となる。また、幅Wを26.0cm以下とすることで、大型サイズの10インチサファイア基板を製造し、その量産性を向上させることが可能となる。
【0042】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶は、サファイア単結晶の直胴部分の幅Wが、1.0cm以上26.0cm以下、前記各サファイア単結晶の厚みtが、0.05cm以上1.5cm以下であり、0.5インチ未満から約10インチまでの様々なサイズにおけるサファイア単結晶の量産性を向上させることが可能となる。厚みtを0.05cm以上とすることで、育成されたサファイア単結晶自身の強度と自立性を確保することができる。さらに、サファイア基板に加工する場合でも、十分な加工代を確保することができる。また、厚みtが1.5cmを超えると結晶品質に優れたサファイア単結晶を得ることが困難となるため、1.5cm以下とするのが好ましい。
【0043】
また、本発明に係る複数のサファイア単結晶において、サファイア単結晶の直胴部分の幅Wは、5.0以上22.0cm以下が特に好ましい。Wを前述の数値範囲とすることで、サファイア基板としての汎用性が特に高い約2インチ(50.8cm)から約8インチ(203.2cm)までの様々なサイズにおけるサファイア単結晶の量産性を向上させることができる。尚、前記幅Wは、2〜8インチ基板への加工代を加味して、5.0以上22.0cm以下としている。
【0044】
本発明によって、サファイア単結晶の量産性を向上させることができ、さらにはサファイア基板の量産性をも向上させることができる。
【0045】
以下、本発明に係る複数のサファイア単結晶の製造方法について、図3図12を参照しながら詳細に説明する。以下、「複数のサファイア単結晶」を必要に応じて単に「サファイア単結晶」と表記する。
【0046】
図3に示すように、サファイア単結晶の製造装置6は、サファイア単結晶を育成する育成容器7と、育成したサファイア単結晶を引き上げる引き上げ容器8とから構成され、EFG法により複数のサファイア単結晶1を成長させる。
【0047】
育成容器7は、坩堝9、坩堝駆動部10、ヒータ11、電極12、ダイ13、及び断熱材14を備える。坩堝9はモリブデン製であり、酸化アルミニウム原料を溶融する。坩堝駆動部10は、坩堝9をその鉛直方向を軸として回転させる。ヒータ11は坩堝9を加熱する。また、電極12はヒータ11を通電する。ダイ13は坩堝9内に設置され、サファイア単結晶を引き上げる際の酸化アルミニウム融液(以下、必要に応じて単に「融液」と表記)の液面形状を決定する。また断熱材14は、坩堝9とヒータ11とダイ13を取り囲んでいる。
【0048】
更に育成容器7は、雰囲気ガス導入口15と排気口16を備える。雰囲気ガス導入口15は、雰囲気ガスとして例えばアルゴンガスを育成容器7内に導入するための導入口であり、坩堝9やヒータ11、及びダイ13の酸化消耗を防止する。一方、排気口16は育成容器7内を排気するために備えられる。
【0049】
引き上げ容器8は、シャフト17、シャフト駆動部18、ゲートバルブ19、及び基板出入口20を備え、種結晶2から育成成長した複数のサファイア単結晶1を引き上げる。シャフト17は種結晶2を保持する。またシャフト駆動部18は、シャフト17を坩堝9に向けて昇降させると共に、その昇降方向を軸としてシャフト17を回転させる。ゲートバルブ19は育成容器7と引き上げ容器8とを仕切る。また基板出入口20は、種結晶2を出し入れする。
【0050】
なお製造装置6は、図示されない制御部も有し、この制御部により坩堝駆動部10及びシャフト駆動部18の回転を制御する。
【0051】
次に、ダイ13について説明する。ダイ13はモリブデン製であり、図4に示すように多数の仕切り板21を有する。図4ではダイの一例として、仕切り板21が30枚であり、ダイ13が15個形成されている場合を示している。仕切り板21は同一の平板形状を有し、微小間隙(スリット)22を形成するように互いに平行に配置されて、1つのダイ13を形成している。
【0052】
スリット22は、ダイ13のほぼ全幅に亘って設けられる。また複数のダイ13は同一形状を有すると共に、その長手方向が互いに平行となるように所定の間隔で並列に配置されているため、複数のスリット22が設けられることとなる。各仕切り板21の上部は斜面31が形成されており、互いの斜面31が向かい合わせで配置されることで、鋭角の開口部23が形成されている。またスリット22は融液24を毛細管現象によって、各ダイ13の下端から開口部23に上昇させる役割を有している。
【0053】
坩堝9内に投入される酸化アルミニウム原料は、坩堝9の温度上昇に基づいて溶融(原料メルト)し、融液24となる。この融液24の一部は、ダイ13のスリット22に侵入し、前記のように毛細管現象に基づいてスリット22内を上昇し開口部23から露出して、開口部23で酸化アルミニウム融液溜まり25が形成される(図7(a)参照)。EFG法では、酸化アルミニウム融液溜まり(以下、必要に応じて「融液溜まり」と表記)25で形成される融液面の形状に従って、サファイア単結晶1が成長する。図4に示したダイ13では、融液面の形状は細長い長方形となるので、平板形状のサファイア単結晶1が製造される。
【0054】
次に、種結晶2について説明する。図3図6、及び図7に示すように本実施形態では、種結晶2として平板形状の基板を用い、更にc軸が主面(結晶面29と直交する面)の面方向に沿って水平なサファイア単結晶製の基板を用いる。更に、種結晶2の平面方向とダイ13の長手方向は、互いに90°の角度で以て直交となるように、種結晶2が配置される。従って、種結晶2のc軸は、仕切り板21と垂直になる。また、種結晶2とサファイア単結晶1も90°の角度で以て直交する。図3ではサファイア単結晶1の側面を示している。
【0055】
種結晶2の平面方向と仕切り板21の長手方向との位置関係を垂直にする(種結晶2を仕切り板21と交叉させる)ことにより、融液24と種結晶2との接触面積を最小にすることが可能となる。従って、種結晶2の接触部分が融液24と馴染み易くなり、サファイア単結晶1での結晶欠陥の発生が低減又は解消される。
【0056】
種結晶2は、シャフト17の下部の基板保持具(図示せず)との接触面積が大きいと、熱膨張率の差による応力のため変形し、場合によっては破損してしまう。反対に熱膨張率の差により種結晶2の固定が緩む場合もある。従って、種結晶2と基板保持具との接触面積は小さい方が好ましい。また、種結晶2は基板保持具に確実に固定できる基板形状の必要がある。
【0057】
図5は種結晶2の基板形状の一例を示した図である。このうち、同図(a)及び(b)は、種結晶2の上部に切り欠き部26を設けたものである。この切り欠き部26を利用して、例えば2カ所の切り欠き26の下側からU字形の基板保持具を差し込んで、接触面積を小さくしつつ確実に種結晶2を保持することが可能となる。
【0058】
また、図5(c)に示したように、種結晶2の内側に切り欠き穴を設けても良い。この切り欠き穴27を利用して、例えば2カ所の切り欠き穴27に係止爪を差し込んで、基板保持具と種結晶2との接触面積を小さくしつつ、確実に種結晶2を保持することが可能となる。
【0059】
次に、前記製造装置6を使用したサファイア単結晶1の製造方法を説明する。最初にサファイア原料である造粒された酸化アルミニウム原料粉末(99.99%酸化アルミニウム)をダイ13が収納された坩堝9に所定量投入して充填する。酸化アルミニウム原料粉末には、製造しようとするサファイア単結晶の純度又は組成に応じて、酸化アルミニウム以外の化合物や元素が含まれていても良い。
【0060】
続いて、坩堝9やヒータ11若しくはダイ13を酸化消耗させないために、育成容器7内をアルゴンガスで置換し、酸素濃度を所定値以下とする。
【0061】
次に、ヒータ11で加熱して坩堝9を所定の温度とし、酸化アルミニウム原料粉末を溶融する。酸化アルミニウムの融点は2050℃〜2072℃程度なので、坩堝9の加熱温度はその融点以上の温度(例えば2100℃)に設定する。加熱後しばらくすると原料粉末が溶融して、酸化アルミニウム融液24が用意される。更に融液24の一部はダイ13のスリット22を毛細管現象により上昇してダイ13の表面に達し、スリット22上部に融液溜まり25が形成される。
【0062】
ここで、本発明に係る前記ΔTm値を0.3W以下に収めた複数のサファイア単結晶を得るためには、後述する種結晶2を該融液に接触させる前に、ダイ上面における温度勾配を以下の範囲に設定すればよいことを本出願人は検証により見出した。
【0063】
具体的には、複数のダイの中央に配置される各ダイの中心部と、複数のダイの最も外側に配置される各ダイの中心部との温度勾配(差分)が、5℃以上25℃以内となるように調整すると共に、各ダイにおけるダイ中心部とダイ両端部の温度勾配(差分)が0℃以上25℃以内となるように調整する。該調整には、熱シールド等の断熱材のバランス調整を用いて、前記所定の範囲内に収めればよい。また、ダイ上面の温度勾配は、放射温度計等で温度を測定することによって確認できる。
【0064】
ここで、ダイの長手方向の長さは、成長させるサファイア単結晶の直胴部分の幅Wに対応して、1.0cm〜26.0cmの範囲で設定される。なお、Wには、サファイア基板への加工代を加味した値が設定される。
【0065】
ダイ13の厚みtは、成長させるサファイア単結晶の厚みtに対応して、0.05cm〜1.5cmの範囲で設定される。なお、サファイア単結晶の厚みtは、サファイア基板への加工代を加味した値が設定される。
【0066】
ダイの枚数は、成長させるサファイア単結晶の枚数に対応し、坩堝の大きさや成長させるサファイア単結晶の直胴部分の幅、さらに量産性を考慮して、2枚以上の複数枚が適宜設定される。
【0067】
前述したように、マルチ育成では、ダイの長手方向の温度勾配に加えて、ダイの並び方向の温度勾配がスプレーディング速度のばらつきに影響し、この両者のバランスをとることが重要であることを本出願人は検証により見出した。ダイ上面の温度勾配は、結晶成長が進むにつれ、成長していく結晶同士の放射熱が影響することにより変化していくことが考えられる。しかしながら、種結晶と融液を接触させる前のダイ上面の温度勾配を、上記の温度範囲とすることで、スプレーディング速度のばらつきを抑えることが可能となる。
【0068】
次に図6及び図7に示すように、スリット22上部の融液溜まり25の長手方向に対して垂直な角度に種結晶2を保持しつつ降下させ、種結晶2を融液溜まり25の融液面に接触させる。なお、種結晶2は、予め基板出入口20から引き上げ容器8内に導入しておく。図6ではスリット22や開口部23の見易さを優先するため、融液24と融液溜まり25の図示を省略している。
【0069】
図6は、種結晶2と仕切り板21との位置関係を示した図である。前記の通り、種結晶2の平面方向を仕切り板21の長手方向と直交させることにより、種結晶2と融液24との接触面積を小さくすることが可能となる。従って、種結晶2の接触部分が融液24となじみ、育成成長されるサファイア単結晶1に結晶欠陥が生じにくくなる。更に、融液24と種結晶2との接触面積を小さくすることで、後述するネック5を細く形成することができ、この点でもサファイア単結晶1の結晶欠陥の発生を低減又は解消して、結晶品質を高品質に保つことが可能となる。従って、サファイア単結晶1の歩留まりを向上させることが出来る。
【0070】
種結晶2を融液面に接触させる際に、種結晶2の下部を仕切り板21の上部に接触させて溶融しても良い。図7(b)は、種結晶2の一部を溶融する様子を示した図である。このように種結晶2の一部を溶融することで、種結晶2と融液24との温度差を速やかに解消ことができ、サファイア単結晶1での結晶欠陥の発生を更に低減することが可能となる。
【0071】
続いて基板保持具を所定の上昇速度で引き上げて、種結晶2の引き上げを開始し、図8に示すようにネック部分5を形成する。具体的には、まずシャフト17により基板保持具を高速で上昇させながら細いネック部分5を作製(ネッキング)する。以降ではこの工程をネッキング工程と称する。図8はネック部分5が成長する様子を示した説明図である。
【0072】
ネック部分5は、種結晶2の厚みT若しくは融液溜まり25の幅程度の細い径を有する結晶部分であり、結晶欠陥を低減又は除去するために形成される。またネック部分5の長さは、その径の3倍程度まで形成される。この程度まで結晶成長されると、ネック部分5で結晶欠陥が発生しても、その欠陥はサファイア単結晶1まで形成されることが防止される。従ってネッキング工程を経ることにより、結晶欠陥が低減又は解消された平板形状のサファイア単結晶1を製造することが可能となる。
【0073】
なお、ネッキング工程をより容易にするため、種結晶2の下辺に凹凸を設けてもよい。図9は、種結晶2の下辺の形状を例示した図であり、同図(a)は下辺が櫛歯形状の場合を、同図(b)では鋸型形状の場合を示している。
【0074】
この凹凸の間隔は、開口部23の間隔に合わせ、凸部分を融液溜まり25の中心に合わせる。凸部分を設けることで凸部分をサファイア単結晶1の成長開始点とすることができ、ネック部分5がより容易に形成可能となる。なお、凹凸の形状は図9に示したものには限定されず、例えば波形の凹凸形状であっても良い。
【0075】
ネッキング工程を経た後、ヒータ11を制御して坩堝9の温度を降下させると共に、基板保持具の上昇速度を所定の速度に設定し、種結晶2を中心に、図10に示すようにサファイア単結晶1をダイ13の長手方向に拡幅するように結晶成長させる(スプレーディング工程)。図10は、スプレーディング工程により該サファイア単結晶1の幅が広がる様子を示した模式図である。
【0076】
サファイア単結晶1が、ダイ13の全幅(仕切り板21の端)まで拡幅すると(フルスプレッド)、ダイ13の長手方向の長さで規定される幅Wを有する直胴部分の育成が開始される(直胴工程)。直胴工程では、互いに略平行で対向する側面で規定される直胴部分を有する複数のサファイア単結晶1が製造される。直胴長さは特に限定されないが、2インチ以上(50.8mm以上)が好ましい。図11は、直胴工程により得られる該サファイア単結晶1を模式的に示す図である。
【0077】
前述のネッキング工程、スプレーディング工程及び直胴工程を経て、図11に示すようにダイ13の形状で規定された、前記複数のサファイア単結晶1が得られる。
【0078】
なお、図10及び図11では、理想的な状態として、二軸方向に亘る温度勾配が0の状態で育成された場合のサファイア単結晶を示している。しかし実際には、前述のように二軸方向に亘る温度勾配を0とすることは困難であり、図2に示すような複数のサファイア単結晶1が得られる。
【0079】
ここで、本発明に係る複数のサファイア単結晶1は、図2に示すように、スプレーディング部分3から直胴部分4への移行が最も早く開始された点を最初の移行開始点A、最も遅く開始された点を最後の移行開始点Bとしたとき、該サファイア単結晶の引き上げ方向におけるA-B間の間隔ΔTmが0.3W以下となるように製造される。
【0080】
前述したように、ダイ上面の温度勾配は、結晶成長が進むにつれ成長していく結晶同士の放射熱が影響することによってそのバランスが変化していくことが考えられるが、前述した方法によりダイ上面の温度勾配を前記所定値に設定することで、ΔTmが0.3W以下となるようにサファイア単結晶を成長させることができる。よって、直胴部分の面積を十分に確保することが可能となり、サファイア単結晶の量産性と結晶品質を向上させることができる。更に、サファイア基板の量産性をも向上させることができる。また、スプレーディング速度のばらつきが抑えられることで、従来、スプレーディング速度が極端に遅いサファイア単結晶で発生していた直胴部分の幅や結晶品質に対する問題を解決することが可能となった。
【0081】
前述したように、ΔTmの値は、ダイの長手方向の温度勾配とダイの並び方向の温度勾配に関係しているため、ΔTmが大きくなる程、ダイの二軸方向に亘る温度勾配のバランスが良好でないと言える。従って、ΔTmは0であることが理想的ではあるが、ダイの温度勾配はネッキング工程及びスプレーディング工程の間にも常に変化するため、実際には、二軸方向に亘る僅かな温度勾配は常に発生する。
【0082】
この後、得られた複数のサファイア単結晶1を放冷し、ゲートバルブ19を空け、引き上げ容器8側に移動して、基板出入口20から取り出す。
【0083】
以上説明したような製造装置6、種結晶2、及びダイ13を用いることにより、共通の種結晶2から複数のサファイア単結晶1を製造することが出来る。
【0084】
またEFG法では、サファイア単結晶の主面28の面方向が、種結晶2の結晶面29と同じ結晶方向を取りながら、複数のサファイア単結晶1が育成成長される。一例として、種結晶2がサファイア単結晶製で結晶面29がc面の場合、得られる平板形状のサファイア単結晶1の全ての主面28を、c面とすることが出来る。従って、複数のサファイア単結晶1を結晶方向の観点から見てばらつきの無い状態で得ることが出来る。
【0085】
従って、種結晶2、及び仕切り板21を含めたダイ13は、精密に位置決めする必要がある。よって図3に示したように製造装置6は、ダイ13を設置する坩堝9を回転する坩堝駆動部10、及びその回転を制御する制御部(図示せず)が設けられている。またシャフト17に関しても、シャフト17を回転するシャフト駆動部18、及びその回転を制御する制御部(図示せず)が設けられている。即ち、ダイ13に対する種結晶2の位置決めは、制御部によりシャフト17又は坩堝9を回転させて調整する。
【0086】
なお、種結晶2とダイ13との精密な位置決めについては、各仕切り板21の斜面31の一部を切り欠いたダイ13を使用することによっても行うことが出来る。図12は、ダイ13に切り欠き部30を設けた例を示した図である。図12では一例として、斜面31の長手方向での中央に、V字形の切り欠き部27をそれぞれ設けたダイ13を図示している。
【0087】
切り欠き部30は、ダイ13の厚さ方向において一直線上に形成されている。このような切り欠き部30を設けることにより、種結晶2と融液面との接触時における位置決めが容易となり、各サファイア単結晶1間の製品品質のばらつきを低減若しくは解消することが可能となる。
【0088】
尚、種結晶2の結晶面はc面に限定されず、例えばr面、a面、m面等、所望の結晶面に設定することが可能である。このように結晶面29を任意に設定することで、サファイア単結晶1の主面28の面方向も任意に変更することが可能となる。
【0089】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。図3に示したサファイア単結晶の製造装置6を用いて、本発明に係る複数のサファイア単結晶を製造した。
【実施例1】
【0090】
本実施例では、ダイの長手方向の長さ5.5cm、ダイの厚み0.3cm、マルチ育成用の複数枚のダイをモリブデン製坩堝にセットして結晶育成を行った。種結晶は、図5(a)に示す平板形状で主面がc面のものを用い、その厚みは0.2cmであった。
【0091】
サファイア単結晶の原料である造粒された高純度酸化アルミニウム原料粉末(99.99%)を、モリブデン製坩堝に充填し、育成容器内をアルゴンガス雰囲気とした。次にヒータで加熱することによって酸化アルミニウム原料粉末を溶融し、酸化アルミニウム融液を安定化させた。
【0092】
融液が安定化した後、ダイ上部の温度を計測し、温度勾配を調整した。具体的には、複数あるダイの中央に配置される各ダイの中心部と、複数あるダイの最も外側に配置される各ダイの中心部の温度勾配が5℃以上25℃以内となるように調整すると共に、各ダイにおけるダイ中心部とダイ端部の温度勾配が5℃以上25℃以内となるように調整が行われた。該調整は、熱シールド等の断熱材のバランス調整によって行われた。
【0093】
続いて、種結晶をダイの長手方向と直交する配置でダイ中心部に降下させ、ダイ上部の融液溜まりに接触させた後、引き上げを開始しネック部分を成長させた。続いて、ヒータの温度を降温させながら、単結晶の幅を拡げるスプレーディング工程を行った。
【0094】
本スプレーディング工程において、複数あるダイの中央付近に配置されるサファイア単結晶のスプレーディングが比較的早く進み、その中の一枚で、片側がダイ端点に達し直胴部分への育成が開始される様子が観察された。この最初の移行開始点の位置をAとした。引き続きスプレーディング工程を進めた結果、複数あるダイの最も外側に配置されるサファイア単結晶のスプレーディングが進む様子が観察され、最後の一枚でスプレーディングが完了し直胴部分への育成が開始された。この最後の移行開始点の位置をBとした。
【0095】
続いて、サファイア単結晶の直胴部分の育成を開始し、複数のサファイア単結晶を成長させた。サファイア単結晶の長さが所定の長さに達したら高速で引き上げ、育成結晶をダイから切り離した。
【0096】
本実施例で得られたサファイア単結晶は、直胴部分の幅Wが5.5cm、厚みtが0.3cmであった。そして、サファイア単結晶の長さ方向に投影された最初の移行開始点Aと最後の移行開始点Bとの間隔は1.0cmであり、ΔTm値が0.3W以下に抑えられていた。本実施例において、ΔTm値を0.3W以下とすることで、2インチ基板加工に十分な直胴部分の面積を有した複数のサファイア単結晶を作製できることが確認され、量産性の向上も可能になることが分かった。また、得られたサファイア単結晶は、結晶欠陥等の発生のない結晶品質にも優れたものであった。
【0097】
さらに、ΔTm値を0.3W以下とすることで、全てのサファイア単結晶が、スプレーディング工程でダイの全幅まで広がりきることができ、安定した状態で結晶育成が行われることが確認された。それによって、得られた各サファイア単結晶間の厚みtのばらつきは0.1t以下に抑えられていることが確認できた。また、各サファイア単結晶の厚みtの変動も、各サファイア単結晶の直胴部分全面において0.10t以下に抑えられていることが確認できた。
【実施例2】
【0098】
本実施例では、ダイの長手方向の長さ16.0cm、ダイの厚み0.6cm、マルチ育成用の複数枚のダイをモリブデン製坩堝にセットして結晶育成を行った。種結晶は、図5(a)に示す平板形状で主面がc面のものを用い、その厚みは0.25cmであった。
【0099】
実施例1と同様にして酸化アルミニウム融液を安定化させた後、ダイ上部の温度を計測し、温度勾配を調整した。具体的には、複数あるダイの中央付近に配置される各ダイの中心部と、複数あるダイの最も外側に配置される各ダイの中心部の温度勾配が5°以上25°以内となるように調整すると共に、各ダイにおけるダイ中心部とダイ端部における温度勾配が5°以上25°以内となるように調整が行われた。該調整は、実施例1と同様に熱シールド等の断熱材のバランス調整によって行われた。
【0100】
続いて、種結晶をダイの長手方向と直交する配置でダイ中心部に降下させ、ダイ上部の融液溜まりに接触させた後、引き上げを開始しネック部分を成長させた。続いて、ヒータの温度を降温させながら、単結晶の幅を拡げるスプレーディング工程を行い、上述の実施例1と同様に、サファイア単結晶の直胴部分の育成を開始し、複数のサファイア単結晶を成長させた。サファイア単結晶の長さが所定の長さに達したら高速で引き上げ、育成結晶をダイから切り離した。
【0101】
本実施例で得られたサファイア単結晶は、直胴部分の幅Wが16.0cm、厚みtが0.6cmであった。そして、サファイア単結晶の長さ方向に投影された最初の移行開始点Aと最後の移行開始点Bとの間隔は3.0cmであり、ΔTm値が0.3W以下に抑えられていた。本実施例において、ΔTm値を0.3W以下とすることで、6インチ基板加工に十分な直胴部分の面積を有した複数のサファイア単結晶を作製できることが確認され、量産性の向上も可能になることが分かった。また、得られたサファイア単結晶は、結晶欠陥等の発生のない結晶品質にも優れたものであった。
【0102】
さらに、ΔTm値を0.3W以下とすることで、全てのサファイア単結晶が、スプレーディング工程でダイの全幅まで広がりきることができ、安定した状態で結晶育成が行われることが確認された。それによって、得られた各サファイア単結晶間の厚みtのばらつきは0.1t以下に抑えられていることが確認できた。また、各サファイア単結晶の厚みtの変動も、各サファイア単結晶の直胴部分全面において0.10t以下に抑えられていることが確認できた。













【符号の説明】
【0103】
1 複数のサファイア単結晶
2 種結晶
3 スプレーディング部分
4 直胴部分
5 ネック部分
A 最初の移行開始点
B 最後の移行開始点
W サファイア単結晶の直胴部分の幅
t サファイア単結晶の厚み
6 サファイア単結晶の製造装置
7 育成容器
8 引き上げ容器
9 坩堝
10 坩堝駆動部
11 ヒータ
12 電極
13 ダイ
14 断熱材
15 雰囲気ガス導入口
16 排気口
17 シャフト
18 シャフト駆動部
19 ゲートバルブ
20 基板出入口
21 仕切り板
22 スリット
23 開口部
24 酸化アルミニウム融液
25 酸化アルミニウム融液溜まり
26 種結晶の切り欠き部
27 種結晶の切り欠き穴
28 主面
29 結晶面
30 仕切り板の切り欠き部
31 斜面
T 種結晶の厚み
【要約】
【課題】
サファイア単結晶のマルチ育成において、各サファイア単結晶間のスプレーディング速度のばらつきを制御することにより、量産性に優れた複数のサファイア単結晶及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
ダイの長手方向の温度勾配と、ダイの並び方向の温度勾配のバランスを最適化することにより、スプレーディング速度のばらつきを制御し、直胴部分への移行開始点をサファイア単結晶の直胴部分の幅に応じた所定の範囲内の値に設定する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12