(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014844
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】エピルビシン塩酸塩の結晶化
(51)【国際特許分類】
C07H 1/06 20060101AFI20161013BHJP
C07H 15/252 20060101ALI20161013BHJP
A61K 31/704 20060101ALN20161013BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
C07H1/06
C07H15/252
!A61K31/704
!A61P35/00
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-513078(P2014-513078)
(86)(22)【出願日】2012年5月25日
(65)【公表番号】特表2014-515381(P2014-515381A)
(43)【公表日】2014年6月30日
(86)【国際出願番号】EP2012002248
(87)【国際公開番号】WO2012163508
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2014年2月3日
(31)【優先権主張番号】102011103751.2
(32)【優先日】2011年5月31日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】61/493,034
(32)【優先日】2011年6月3日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500150632
【氏名又は名称】メダック・ゲゼルシャフト・フューア・クリニッシェ・スペツィアルプレパラーテ・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】テロ クンナリ
【審査官】
早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−519698(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/004805(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/039159(WO,A1)
【文献】
国際公開第99/029708(WO,A1)
【文献】
特開平10−175991(JP,A)
【文献】
特開2007−261976(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/096665(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/076345(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/122309(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/118929(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102120750(CN,A)
【文献】
BERGE,S. M.,Pharmaceutical salts,JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES,米国,AMERICAN PHARMACEUTICAL ASSOCIATION,1977年,Vol.66,No.1,pp.1-19
【文献】
新医薬品の規格及び試験方法の設定について,医薬審発第568号,2001年
【文献】
川口洋子ら,医薬品と結晶多形,生活工学研究,2002年,Vol.4, No.2,p.310-317
【文献】
大島寛,結晶多形・擬多形の析出挙動と制御,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.48-53
【文献】
高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.20-25
【文献】
山野光久,医薬品のプロセス研究における結晶多形現象への取り組み,有機合成化学協会誌,2007年 9月 1日,Vol.65, No.9,p.907(69)-913(75)
【文献】
J. Med. Chem.,1975年,18,703−707
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 1/06
C07H 15/252
A61K 31/704
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性のエピルビシン塩酸塩の製造方法であって、
(a)エピルビシン塩酸塩を準備する工程、
(b)準備したエピルビシン塩酸塩と、1−ブタノール、2−プロパノール、及び水を含有する混合物を製造する工程、及び
(c)エピルビシン塩酸塩をこの混合物から結晶化させる工程
を含む、結晶性のエピルビシン塩酸塩の製造方法。
【請求項2】
工程(a)において、エピルビシン塩酸塩の溶液を準備する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
エピルビシン塩酸塩の水溶液を準備する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
エピルビシン塩酸塩の割合が、該エピルビシン塩酸塩を含有する水溶液の全容積を基準として、100〜400g/lである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、エピルビシン塩酸塩を結晶形又は無定形の形で準備する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
1−ブタノールの割合が、工程(b)における該混合物の全容積を基準として、5〜100容積%の範囲内である、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
2−プロパノールの割合が、該混合物の全容積を基準として、5〜95容積%の範囲内である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
2−プロパノールの容積対1−ブタノールの容積の比が、3:1〜20:1の範囲内である、請求項1又は7記載の方法。
【請求項9】
該混合物中の水の割合が、該混合物の全容積を基準として、0.5〜7容積%の範囲内である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
工程(b)において、エピルビシン塩酸塩の割合が、該混合物の容積を基準として、5〜100g/lの範囲内である、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
工程(b)における該混合物のpH値が、2.5〜4.5の範囲内である、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
工程(c)において、該混合物を、50〜75℃の範囲内の温度に加熱する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
該混合物を、50〜75℃の範囲内の温度で、2〜8時間の期間にわたって放置する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
得られた結晶を、その他の混合物から分離する、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性のエピルビシン塩酸塩及びその製造方法に関する。
【0002】
エピルビシン及びその酸付加塩、例えばエピルビシン塩酸塩は、アントラサイクリン類の群の化合物であり、これらは1980年代以降、多様なタイプの充実性腫瘍を処置するための細胞増殖抑止剤として使用されている。エピルビシン塩酸塩の構造は、次の式により表すことができる:
【化1】
【0003】
腫瘍を処置するためのエピルビシンの使用は、例えば、US 5,091,373の対象である。
【0004】
エピルビシンの製造は、とりわけ、特許US 4,112,076及びUS 5,874,550に記載されている。例えば、エピルビシン及びその酸付加塩は、ダウノルビシンから出発して、化学的経路で合成することができる。しかしながら、微生物の発酵によるエピルビシンの製造も同じように可能であり、かつ例えばEP 1990405に開示されている。エピルビシンの製造の際に、通常、有機及び無機の不純物が生じ、それらの割合は、製造される生成物混合物の25質量%までになりうる。この理由から、エピルビシン又はその対応する酸付加塩の該製造後の精製は、不可欠である。
【0005】
エピルビシン塩酸塩の精製に適した方法は、US 4,861,870から読み取れる。その際に、エピルビシン塩酸塩は水溶液から、アセトンを用いて沈殿させ、無定形の固体として得られる。この方法を用いて、無定形のエピルビシン塩酸塩を大幅に純粋な形で得ることに成功する。
【0006】
US 7,485,707及びWO 2010/039159には、異なるX線回折図形によりキャラクタリゼーションされているエピルビシン塩酸塩の特定の結晶形が、エピルビシン塩酸塩の公知の変態に比べて改善された熱安定性を示すことが記載されている。これらの結晶変態は、エピルビシン塩酸塩を溶液又はゲルから、親水性有機溶剤の添加により沈殿させることによって得ることができるとされる。しかしながら、これらの特許文献に記載された方法を追試した際に、前記のX線回折図形を有する結晶性のエピルビシン塩酸塩を前記の条件下で得ることができないことが確かめられた。
【0007】
更に、技術水準からは、エピルビシン塩酸塩の製造もしくは結晶化の際に、二量体及び分解生成物、例えばドキソルビシノンの望ましくない形成をまねくという問題が知られている。
【0008】
ゆえに、結晶性のエピルビシン塩酸塩の熱安定な変態及び高い純度の結晶性のエピルビシン塩酸塩のそのような熱安定な変態の単純で信頼できる製造方法への需要がなお存在する。
【0009】
ゆえに、本発明には、結晶性のエピルビシン塩酸塩の熱安定な変態を提供するという課題が基礎となっている。
【0010】
更に、本発明には、高い純度の結晶性のエピルビシン塩酸塩のそのような熱安定な変態の単純で信頼できる製造方法を提供するという課題が基礎になっている。
【0011】
これらの課題は、独立請求項の対象により解決される。
【0012】
ゆえに、本発明は、
(a)エピルビシン塩酸塩を準備する工程、
(b)準備したエピルビシン塩酸塩と、1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されている、少なくとも1種のアルコールとを含有する混合物を製造する工程、及び
(c)エピルビシン塩酸塩をこの混合物から結晶化させる工程
を含む、結晶性のエピルビシン塩酸塩の製造方法を提供する。
【0013】
更に、本発明は、この方法により得ることができる結晶性のエピルビシン塩酸塩を提供する。
【0014】
本発明によれば、結晶性のエピルビシン塩酸塩が製造される。
【0015】
この結晶性のエピルビシン塩酸塩は好ましくは、示差走査熱量測定(DSC)図において195〜205℃の温度範囲内で最大強度を有する、より好ましくは198〜202℃の温度範囲内で最大強度及び特に200℃の温度で最大強度を有するピークを有する。このピークは好ましくは、発熱ピークである。
【0016】
更に好ましい実施態様によれば、本発明の結晶性のエピルビシン塩酸塩は、示差走査熱量測定(DSC)図において240〜260℃の温度範囲内で最大強度及び特に245〜255℃の温度範囲内で最大強度を有する更なるピークを有する。この更なるピークは好ましくは、吸熱ピークである。
【0017】
該示差走査熱量測定(DSC)図は本発明の範囲内で、例えば、DSC熱量計中で該結晶性のエピルビシン塩酸塩の試料(例えばエピルビシン塩酸塩1〜8mgの量に相当)を、10〜20K/分、好ましくは10K/分の加熱速度で30℃から350℃に加熱することにより、得ることができる。
【0018】
本発明による結晶性のエピルビシン塩酸塩の典型的なDSC図は、
図1に示されている。
【0019】
本発明の結晶性のエピルビシン塩酸塩は好ましくは、粉末X線回折図において次の範囲内の回折角(2Θ)の平均値でのピークにより少なくとも特徴付けられている:5.04〜5.14、9.00〜9.20、13.50〜13.80、22.00〜22.20、22.40〜22.50、22.51〜22.60、23.90〜24.10及び25.70〜25.90。
【0020】
好ましい実施態様によれば、該結晶性のエピルビシン塩酸塩は、少なくともピークを、粉末X線回折図において回折角(2Θ)の次の平均値で有する:5.09、9.10、13.63、22.10、22.46、22.52、24.00及び25.77。
【0021】
特に好ましい実施態様によれば、該結晶性のエピルビシン塩酸塩は、次の表による回折角(2Θ)の平均値での相対強度P(%)を有する粉末X線回折図形により特徴付けられている:
【表1】
【0022】
更に好ましい実施態様によれば、この結晶性のエピルビシン塩酸塩は、好ましくは、粉末X線回折図における回折角(2Θ)の次の平均値でのピークにより少なくとも特徴付けられている:5.09、9.10、9.47、11.51、12.01、12.34、13.62、14.59、16.11、16.37、16.50、18.02、19.11、19.36、20.82、21.02、21.37、22.10、22.46、22.52、23.29、24.00、25.77、27.67及び29.69。
【0023】
更に特に好ましい実施態様によれば、該結晶性のエピルビシン塩酸塩は、次の表による回折角(2Θ)の平均値での相対強度P(%)を有する粉末X線回折図形により特徴付けられており、その際に、相対強度P≧10%のみが記載されている:
【表2】
【0024】
本発明によれば、"ピーク"という概念が、最大強度を有するこのピークの信号であると理解されることが好ましくありうる。
【0025】
本発明により製造される結晶性のエピルビシン塩酸塩の典型的な粉末X線回折図は、
図2に示されている。
【0026】
前記の値は、X線回折測定に関し、IPPSD検出器(イメージングプレート位置敏感型検出器)を備えたStoe社(ダルムシュタット)の粉末X線回折計を用い、Cu−Kα線(λ=1.5406Å)を使用して測定した(Geモノクロメーター)。2Θの測定範は3〜79であった。該測定装置を、Si 5N=99.999%に対して校正した。得られた値の精度は1.0%である。
【0027】
結晶性のエピルビシン塩酸塩を製造するために、工程(a)において、まず最初にエピルビシン塩酸塩が準備される。
【0028】
このエピルビシン塩酸塩は、知られた方法で、例えば発酵により又は合成化学的に、製造されていてよい。
【0029】
エピルビシン塩酸塩の該準備は、固体として、懸濁液で又は溶液で行われてよい。好ましくは、エピルビシン塩酸塩は固体形で又は溶液で準備される。
【0030】
エピルビシン塩酸塩が固体として準備される場合には、この固体は無定形のエピルビシン塩酸塩として又は結晶性のエピルビシン塩酸塩として存在してよい。
【0031】
エピルビシン塩酸塩が溶液で準備される場合には、これは好ましくは、エピルビシン塩酸塩の水溶液である。特に好ましい実施態様によれば、この水溶液は、エピルビシン塩酸塩の濃水溶液である。エピルビシン塩酸塩の水溶液は、本発明によれば、エピルビシン塩酸塩と水とを含有する溶液であると理解される。この溶液中の水の割合は、該エピルビシン塩酸塩を含有する水溶液の全容積を基準として、好ましくは30〜70容積%の範囲内及びより好ましくは40〜60容積%の範囲内である。しかしながら、エピルビシン塩酸塩及び水に加え、該水溶液は、場合によりなお更なる成分、特に少なくとも1種の更なる溶剤を含有してよい。この少なくとも1種の更なる溶剤は例えば、アルコールであってよい。アルコールとして、その際に、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール又はその混合物が好ましい。少なくとも1種の該アルコールの割合は、該エピルビシン塩酸塩を含有する水溶液の全容積を基準として、好ましくは30〜70容積%の範囲内及びより好ましくは40〜60容積%の範囲内である。この水溶液中でのエピルビシン塩酸塩の含量は、該エピルビシン塩酸塩を含有する水溶液の全容積を基準として、好ましくは100〜400g/l及びより好ましくは150〜350g/lである。好ましい実施態様によれば、該エピルビシン塩酸塩を含有する水溶液のpH値は、3.5〜4.5の範囲内である。
【0032】
工程(a)において準備されたエピルビシン塩酸塩は、工程(b)において混合物の製造に使用される。
【0033】
このためには、好ましくは固体として又は溶液で存在する、準備されたエピルビシン塩酸塩は、1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されている、少なくとも1種のアルコールと合一される。
【0034】
それに応じて、少なくともエピルビシン塩酸塩と、1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されている、少なくとも1種のアルコールとを含有する混合物が形成される。エピルビシン塩酸塩に加え、少なくとも1−ブタノールを含有する混合物を製造することが、該結晶化に特に有利であることが判明している。
【0035】
1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されているアルコール、特に1−ブタノールの存在は、意外なことに、エピルビシン塩酸塩にとってさもなければ典型的なゲル形成を防止することに貢献し、該ゲル形成はエピルビシン塩酸塩の結晶化の邪魔をしている。それに応じて、1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されている、少なくとも1種のアルコールの存在によって初めて、エピルビシン塩酸塩結晶の成長が可能になる。
【0036】
好ましい実施態様によれば、1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されている、少なくとも1種のアルコールの割合は、工程(b)における該混合物の全容積を基準として、5〜100容積%の範囲内、より好ましくは5〜50容積%の範囲内、更により好ましくは5〜30容積%の範囲内、特に好ましくは6〜20容積%の範囲内及び極めて特に好ましくは7〜15容積%の範囲内である。該混合物の全容積を基準として、1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されている、少なくとも1種のアルコールの5容積%未満の濃度の場合に、エピルビシン塩酸塩が結晶化する傾向がかなり低下することが示された。
【0037】
更に好ましい実施態様によれば、該混合物は工程(b)において、エピルビシン塩酸塩と、1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されている、少なくとも1種のアルコールに加え、少なくとも1種の更なるアルコールとを含有する。
【0038】
この更なるアルコールは、好ましくは、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールからなる群から選択されている。特に好ましい実施態様によれば、該更なるアルコールは、2−プロパノールである。
【0039】
好ましくは、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールからなる群から選択されている、少なくとも1種の更なるアルコールの割合は、該混合物の全容積を基準として、5〜95容積%の範囲内、より好ましくは10〜94容積%の範囲内、更により好ましくは50〜93容積%の範囲内、特に好ましくは75〜92容積%の範囲内及び極めて特に好ましくは80〜90容積%の範囲内である。
【0040】
該混合物中で、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールからなる群から選択されている、更なるアルコールが含まれている場合には、この更なるアルコールの容積対1−ブタノール、2−ブタノール及び1−ペンタノールからなる群から選択されているアルコールの容積の比は、3:1〜20:1の範囲内、より好ましくは5:1〜15:1の範囲内及び更により好ましくは7:1〜10:1の範囲内であることが好ましくありうる。
【0041】
工程(b)において製造される混合物は、付加的になお更なる成分を有していてよい。好ましい更なる成分は例えば、水であってよい。好ましくは、水の割合は、該混合物の全容積を基準として、7容積%未満である。該混合物中の水のより高い割合は、該収率の低下となりうる。好ましい実施態様によれば、水の割合は、該混合物の全容積を基準として、0.5〜7容積%の範囲内及びより好ましくは3〜5容積%の範囲内である。
【0042】
工程(b)において、エピルビシン塩酸塩に加え、該混合物の全容積を基準として、2−プロパノール80〜90容積%、1−ブタノール5〜15容積%及び水2〜6容積%含有する混合物が製造される場合に、特に有利であることがわかった。
【0043】
本発明によれば、エピルビシン塩酸塩の割合が、工程(b)における該混合物の全容積を基準として、5〜100g/lの範囲内、好ましくは6〜100g/lの範囲内、より好ましくは10〜50g/lの範囲内及び更により好ましくは25〜35g/lの範囲内であることが更に有利でありうる。この範囲内のエピルビシン塩酸塩の濃度は、結晶性のエピルビシン塩酸塩の意外に高い収率をもたらし、該収率はこの場合に例えば約95質量%であってよい。
【0044】
工程(b)において製造される混合物は、溶液又は懸濁液であってよい。エピルビシン塩酸塩の溶液は通常、該少なくとも1種のアルコールの添加前にエピルビシン塩酸塩の溶液、例えばエピルビシン塩酸塩の水溶液が存在する場合に、得られる。それに反して、該混合物は工程(b)において、該少なくとも1種のアルコールの添加前にエピルビシン塩酸塩が固体として存在する場合に、通常、懸濁液として存在する。
【0045】
2.5〜4.5の範囲内の工程(b)における該混合物のpH値が該結晶化に特に有利であることが判明している。最適な結晶化はその際に、工程(b)における該混合物のpH値が、3.0〜4.5の範囲内、より好ましくは3.5〜4.5の範囲内及び特に3.9〜4.1の範囲内である場合に得られる。該混合物が、固体としてのエピルビシン塩酸塩への該少なくとも1種のアルコールの添加により製造される場合には、該混合物は通常、既にこの範囲内のpH値を有する。該混合物の製造が、エピルビシン塩酸塩を含有する溶液への該少なくとも1種のアルコールの添加により行われる場合には、該混合物はより高いpH値を有しうる。この場合に、該pH値は、好ましい範囲に、例えば塩酸の添加により、調節してよい。
工程(c)において、エピルビシン塩酸塩の結晶化が行われる。
【0046】
そのためには、工程(b)において得られた混合物を、例えば、結晶性のエピルビシン塩酸塩が形成されるまで静置してよい。必要な場合には、該混合物をその際に撹拌してよい。
【0047】
しかしながら、該混合物は、該結晶化を促進するために、加熱してもよい。好ましい実施態様によれば、該混合物は、40〜80℃の範囲内、より好ましくは50〜75℃の範囲内及び更により好ましくは60〜70℃の範囲内の温度に加熱される。40℃未満の温度で、該混合物からのエピルビシン塩酸塩の結晶化は、ゆっくりとのみ行われるのに対し、80℃を超える温度で、該混合物中で得られるエピルビシン塩酸塩がゆっくりと分解される。該混合物の加熱は、好ましくは撹拌しながら、行われる。
【0048】
更に好ましい実施態様によれば、該混合物は、前記の範囲内の温度で、少なくとも2時間の期間、例えば2〜8時間、4〜8時間又は4〜6時間の範囲内の期間にわたって放置される。その際にも、該混合物を場合により撹拌してよい。
【0049】
引き続き、加熱された混合物を冷却してよい。該冷却は、例えば20〜30℃の範囲内の温度に、特に25℃の温度に、行ってよい。
【0050】
結晶性のエピルビシン塩酸塩が、無定形のエピルビシン塩酸塩よりも熱力学的により安定であることがわかった。溶液からのエピルビシン塩酸塩の結晶化の際に、通常、結晶性のエピルビシン塩酸塩が直接得られる。エピルビシン塩酸塩の結晶化が、無定形のエピルビシン塩酸塩を含有する懸濁液から行われる場合には、通常、固体として該懸濁液中にまず最初に存在している無定形のエピルビシン塩酸塩が徐々に、熱力学的により安定な結晶性のエピルビシン塩酸塩へ変換される。
【0051】
該結晶化後に、得られた結晶を、その他の混合物から分離してよい。該分離はその際に、好ましくはろ過又は蒸留により、行われる。必要な又は所望の場合には、該結晶をその後、洗浄してよい。該洗浄は例えば、ケトン、例えばアセトンで行ってよい。
【0052】
該結晶の任意の洗浄後に、該結晶を、該洗浄溶液から再び分離してよい。ここでも、該分離は通常、ろ過又は蒸留により行われる。
【0053】
単離された固体は、最後に乾燥させてよい。該乾燥は、好ましくは恒量までかつ同様に好ましくは真空下に、行われる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明による結晶性のエピルビシン塩酸塩の典型的なDSC図。
【
図2】本発明により製造される結晶性のエピルビシン塩酸塩の典型的な粉末X線回折図。
【0055】
本発明は、以下に、実施例に基づいて説明されるが、しかしながら実施例は保護範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0056】
例1:
無定形のエピルビシン塩酸塩9.0gを、水12ml、2−プロパノール258ml及び1−ブタノール30mlの混合物中に懸濁させた。この懸濁液を、撹拌しながら、65℃に加熱し、この温度で4時間放置した。その際に、該懸濁液中に含まれる固体は、完全に溶解するのではなくて、無定形変態から結晶変態へ徐々に変換した。該懸濁液を段階的に22℃の温度に冷却した。該懸濁液中に含まれる溶剤をろ過により除去した後に、該結晶をアセトンで洗浄し、アセトンの除去後に、真空中で24時間乾燥させた。
【0057】
引き続き、得られたエピルビシン塩酸塩の純度を調べた。二量体又は分解生成物の存在は確認されなかった。該収率は95%であった。
【0058】
得られた結晶性のエピルビシン塩酸塩を、熱安定性の試験にかけた。そのためには、得られた結晶を40℃の温度で、1週、2週もしくは3週の期間にわたって貯蔵した。この時間窓(Zeitfenster)内で該結晶性のエピルビシン塩酸塩の分解は確認できなかった。むしろ、該結晶は、未変化の形のままだった。
【0059】
例2:
無定形のエピルビシン塩酸塩10.0gを、水13ml及び2−プロパノール13mlの混合物中に溶解させて、エピルビシン塩酸塩を含有する溶液を準備した。この溶液を、引き続き、1−ブタノール33ml及び2−プロパノール274mlと混合した。得られた混合物を、65℃に加熱し、この温度で4時間静置し、その際にエピルビシン塩酸塩結晶が形成された。その後、得られた懸濁液を段階的に22℃の温度に冷却した。該懸濁液中に含まれる溶剤を、ろ過により除去し、ろ紙残留物として残っている結晶をアセトンで洗浄した。該アセトンの除去後に、該結晶を真空下に24時間乾燥させた。
【0060】
引き続き、得られたエピルビシン塩酸塩の純度を調べた。二量体又は分解生成物の存在は確認されなかった。該収率は95%であった。
【0061】
得られた結晶性のエピルビシン塩酸塩を、熱安定性の試験にかけた。そのためには、得られた結晶を40℃の温度で1週、2週もしくは3週の期間にわたって貯蔵した。この時間窓内で、該結晶性のエピルビシン塩酸塩の分解は確認できなかった。むしろ、該結晶は、未変化の形のままだった。
【0062】
比較例1:
水中のエピルビシン塩酸塩(10.0g)の溶液(pH 3.5)を製造し、これを、ゲルに似た状態に達するまで40℃の温度で真空下の乾燥にかけた。こうして得られた溶液を、アセトン300mlと混合して、エピルビシン塩酸塩をこの溶液から沈殿させた。得られた沈殿を、該溶液からろ過により取得し、アセトン50mlで洗浄した。
引き続き、得られたエピルビシン塩酸塩の純度を調べた。該収率はまず最初に95%であった。二量体の存在が確認された。
【0063】
得られたエピルビシン塩酸塩を、熱安定性の試験にかけた。そのためには、該エピルビシン塩酸塩を40℃の温度で1週、2週もしくは3週の期間にわたって貯蔵した。この時間窓内で、エピルビシン塩酸塩の、貯蔵期間が増えるにつれて強まる熱に起因する分解がそれぞれ2%観察された。
【0064】
比較例2:
US 7,485,707の例1に従い、まず最初に水中のエピルビシン塩酸塩(10.0g)の溶液(pH 3.5)を製造し、これを、ゲルに似た状態に達するまで40℃の温度で真空下の乾燥にかけた。こうして得られた溶液を、12倍の容積の1−プロパノールと混合し、60℃の温度で3時間撹拌した。本発明による結晶性のエピルビシン塩酸塩は得られなかった。