(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014865
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】液体分割方法及び液体分割用キット
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20161013BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20161013BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20161013BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20161013BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
G01N35/00 D
G01N1/00 101F
B01J19/00 321
B81B1/00
G01N35/08 A
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-65911(P2012-65911)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-195370(P2013-195370A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】西垣 功一
(72)【発明者】
【氏名】木下 保則
(72)【発明者】
【氏名】シャミム アハメッド
(72)【発明者】
【氏名】高松 祥太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 斉
(72)【発明者】
【氏名】武居 修
【審査官】
土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/088162(WO,A1)
【文献】
特表2002−502955(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/081530(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/077695(WO,A1)
【文献】
特開2009−281779(JP,A)
【文献】
特表2003−505711(JP,A)
【文献】
特表2004−510996(JP,A)
【文献】
特表2001−509272(JP,A)
【文献】
西垣功一, 上野(辻)幸香, GU Ran, 木下保則,新型マイクロアレイMMVを利用した多因子対象医療診断キットの開発,埼玉大学工学部紀要 第1部 論文集(Web),日本,2011年12月,No.44 ,Page.3-4 (WEB ONLY)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00〜1/44、35/00〜37/00、B01L1/00〜9/00、B04B1/00〜15/00、B01J19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなる第1のマルチウェルプレート(1)の少なくとも一部のウェルから、このウェル内に格納された液体の一部を、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなる第2のマルチウェルプレート(2)のウェル内に移行させて、前記液体を分割する方法であって、
(A)前記第1のマルチウェルプレート(1)と前記第2のマルチウェルプレート(2)とを、膜の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する隔離シートを介在させて、前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように、かつ前記貫通孔が前記対向するウェル同士の各開口に対して少なくとも2つ存在するように固定する工程、及び
(B)前記隔離シートを介在させて固定した前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)に対して、前記ウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力を与える工程、を含み、
工程(B)において、前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)に対して与えられる遠心力の向きは、隔離シートを平面視した状態において、ウェルの各開口に対して少なくとも2つ存在する貫通孔のうちの2つの貫通孔A及びBの開口縁に対して遠心力に直交する接線を想定し、
貫通孔Aにおける、遠心力を付与する回転軸に近い側の接線をA1及び前記回転軸に遠い側の接線をA2とし、
貫通孔Bにおける、前記回転軸に近い側の接線をB1及び前記回転軸に遠い側の接線をB2とし、
前記接線A1は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も近い側の接線であり、
前記接線B2は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も遠い側の接線であり、
前記接線A1は前記接線B1より前記回転軸に近い側に位置し、かつ
前記接線A2は前記接線B2より前記回転軸に近い側に位置するように設定され、
それにより、前記第1のマルチウェルプレート(1)の前記ウェル内に格納された液体の一部が前記第2のマルチウェルプレート(2)の前記ウェル内に前記少なくとも2つの貫通孔の少なくとも1つを通過して移行する、前記方法。
【請求項2】
前記隔離シートは少なくとも2層の膜からなり、かつ各膜の前記貫通孔は互いに連通している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(B)の後に、(C)前記隔離シートを構成する一方の膜は前記第2のマルチウェルプレート(2)の主表面に配置した状態、前記隔離シートを構成する他方の膜は前記第1のマルチウェルプレート(1)の主表面に配置した状態となるように、前記第2のマルチウェルプレート(2)と前記第1のマルチウェルプレート(1)とを分離する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(C)の後に、 (D)前記膜を主表面に配置した少なくとも一方のマルチウェルプレートを、各ウェルの開口から底の方向に遠心力を与える工程、及び
(E)工程(D)で遠心力を与えたマルチウェルプレートから前記膜を分離して、ウェル中に分割後の液体を含むマルチウェルプレートを得る工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のマルチウェルプレート(1)の前記ウェルと前記第2のマルチウェルプレート(2)の前記ウェルの開口寸法および形状、ならびに配列が、同一であり、かつ前記隔離シートは、各ウェルに対して、前記貫通孔を2つ有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のマルチウェルプレート(1)の前記ウェルと前記第2のマルチウェルプレート(2)の前記ウェルの開口寸法および形状、容量ならびに配列の少なくとも一部が相違し、前記隔離シートは、何れか一方のマルチウェルプレートの前記各ウェルに対して、前記貫通孔を2つ有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記隔離シートは、開口寸法が小さい方の前記マルチウェルプレートの前記各ウェルに対して、前記貫通孔を2つ有する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のマルチウェルプレート(1)及び第2のマルチウェルプレート(2)の前記ウェルは、前記ウェルの開口が上向きの状態で、前記第1のマルチウェルプレート(1)及び第2のマルチウェルプレート(2)を静置したときには、前記ウェルの開口が前記液体で覆われても、前記ウェル内に前記液体は注入されない、寸法、形状および表面状態を有し、かつ前記ウェルの開口が下向きの状態で前記第1のマルチウェルプレート(1)及び第2のマルチウェルプレート(2)を静置したときに、前記ウェル内から前記液体が流出しない、寸法、形状および表面状態を有する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記工程(B)における遠心分離は、バケット式遠心分離機を用いて行い、
前記隔離シートを介在させて固定した前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)は、前記遠心分離機の停止時に、前記仮想直線が、遠心分離操作時の遠心力の向きと平行になるように、前記バケット式遠心分離機のバケットに配置される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなる第1のマルチウェルプレート(1)、
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなる第2のマルチウェルプレート(2)、及び
膜の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する隔離シートを含む液体分割用キットであって、
前記貫通孔は、前記第1のマルチウェルプレート(1)と前記第2のマルチウェルプレート(2)とを、前記隔離シートを介在させて、前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定したときに、前記第1のマルチウェルプレート(1)及び第2のマルチウェルプレート(2)の少なくとも一方のマルチウェルプレートの少なくとも一部のウェルの開口に対して少なくとも2つ存在するように設けられ、
前記キットは、
(A)前記第1のマルチウェルプレート(1)と前記第2のマルチウェルプレート(2)とを、前記隔離シートを介在させて、前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように、かつ前記貫通孔が前記対向するウェル同士の各開口に対して少なくとも2つ存在するように固定する工程、及び
(B)前記隔離シートを介在させて固定した前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)に対して、前記ウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力を与える工程、を含み、
工程(B)において、前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)に対して与えられる遠心力の向きは、隔離シートを平面視した状態において、
ウェルの各開口に対して少なくとも2つ存在する貫通孔のうちの2つの貫通孔A及びBの開口縁に対して遠心力に直交する接線を想定し、
貫通孔Aにおける、遠心力を付与する回転軸に近い側の接線をA1及び前記回転軸に遠い側の接線をA2とし、
貫通孔Bにおける、前記回転軸に近い側の接線をB1及び前記回転軸に遠い側の接線をB2とし、
前記接線A1は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も近い側の接線であり、
前記接線B2は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も遠い側の接線であり、
前記接線A1は前記接線B1より前記回転軸に近い側に位置し、かつ
前記接線A2は前記接線B2より前記回転軸に近い側に位置するように設定され、
それにより、前記第1のマルチウェルプレート(1)の前記ウェル内に格納された液体の一部が前記第2のマルチウェルプレート(2)の前記ウェル内に前記少なくとも2つの貫通孔の少なくとも1つを通過して移行する、液体を分割する方法に用いるための、前記キット。
【請求項11】
前記隔離シートは、少なくとも2層の膜からなり、かつ各膜の貫通孔は、互いに連通している、請求項10に記載の液体分割用キット。
【請求項12】
前記第1のマルチウェルプレート(1)のウェルと第2のマルチウェルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、ならびに配列が、同一であり、かつ前記隔離シートは、各ウェルに対して、2つの貫通孔を有する請求項10〜11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
前記第1のマルチウェルプレート(1)のウェルと第2のマルチウェルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、容量ならびに配列の少なくとも一部が相違し、前記隔離シートは、何れか一方のマルチウェルプレートの各ウェルに対して、2つの貫通孔を有する請求項10〜11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
前記隔離シートは、開口寸法が小さい方のマルチウェルプレートの各ウェルに対して、2つの貫通孔を有する請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記第1のマルチウェルプレート(1)及び第2のマルチウェルプレート(2)のウェルは、前記ウェルの開口が上向きの状態で、マルチウェルプレートを静置したときには、前記ウェルの開口が前記液体で覆われても、ウェル内に液体は注入されない、寸法、形状および表面状態を有し、かつ前記ウェルの開口が下向きの状態でマルチウェルプレートを静置したときに、前記ウェル内の液体がウェルから流出しない、寸法、形状および表面状態を有する請求項10〜14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
前記工程(B)における遠心分離は、バケット式遠心分離機を用いて行い、
前記隔離シートを介在させて固定した前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)は、前記遠心分離機の停止時に、前記仮想直線が、遠心分離操作時の遠心力の向きと平行になるように、前記バケット式遠心分離機のバケットに配置される、請求項10〜15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなる第1のマルチウェルプレート(1)および少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなる第2のマルチウェルプレート(2)を、膜の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する隔離シートを介在させて、前記第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように、かつ前記第1のマルチウェルプレート(1)及び第2のマルチウェルプレート(2)の少なくとも一方のマルチウェルプレートの少なくとも一部のウェルの開口に対して少なくとも2つ存在するように固定したキット、並びに遠心分離機を含み、
前記遠心分離機の停止時に、前記隔離シートを平面視した状態において、
ウェルの各開口に対して少なくとも2つ存在する貫通孔のうちの2つの貫通孔A及びBの開口縁に対して遠心分離操作時の遠心力に直交する接線を想定し、
貫通孔Aにおける、遠心力を付与する回転軸に近い側の接線をA1及び前記回転軸に遠い側の接線をA2とし、
貫通孔Bにおける、前記回転軸に近い側の接線をB1及び前記回転軸に遠い側の接線をB2とし、
前記接線A1は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も近い側の接線であり、
前記接線B2は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も遠い側の接線であり、
前記接線A1は前記接線B1より前記回転軸に近い側に位置し、かつ
前記接線A2は前記接線B2より前記回転軸に近い側に位置するように、
前記遠心分離機に前記隔離シートを介在させて固定した第1のマルチウェルプレート(1)および第2のマルチウェルプレート(2)が配置される、液体分割用装置。
【請求項18】
前記第1のマルチウェルプレート(1)の前記ウェル内に格納された液体の一部が前記第2のマルチウェルプレート(2)の前記ウェル内に前記少なくとも2つの貫通孔の少なくとも1つを通過して移行する、液体を分割する方法に用いるための、請求項17に記載の液体分割用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体分割方法及び液体分割用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーニングの分野では、多種多様で微量な液体試料を並列的に取り扱う技術が求められている。液体試料の定量的分取は中心的技術の一つである。現在、ウェル容量が大きく、並列性も低いマイクロプレートが多用されており、分取操作は手動多連ピペットや自動ロボットによって行われている。しかし、操作の煩雑性、効率性、経済性などの観点から新しいデバイスおよび操作技術の開発が期待されている。
【0003】
本発明者らは、多数の微量液体試料を多段階に取り扱うデバイスとしてMMV(
Multi
Micro
Vessel、多重並列微小容器)チップを開発した(
図1、特許文献1参照)。このチップは、例えば、1インチ角に1024個のウェル(典型的にはウェル直径約0.6mm、深さ約2mm、容積約0.5マイクロリットル)をマトリクス状に有している。そして、このチップを2つ、互いが有するガイドピンを利用して各チップのウェルの開口面を合わせると、双方の全ウェルの開口部が互いに向き合って重なるように設計することができる(
図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2006/088162 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MMVに充填された液体試料の一部を分取する必要があるときは、一方のMMVのウェル容積を他方のMMVのウェル容積より小さいMMVを準備し、ウェル容積の大きいMMVからウェル容積の小さいMMVに遠心により液体試料を部分的に移送することができる。
【0006】
しかし、上記方法では、ウェル容積の異なる二種類のMMVチップを準備する必要がある。さらに、上記方法では、ウェル容積の小さいMMVからウェル容積の大きいMMVへ液体試料の一部を分取することはできない。
【0007】
そこで本発明の第1の目的は、上記MMVチップのような微量液体試料を格納できる多数のウェルを有するマルチウェルプレートを二つ用いて、液体試料を分割するに際して、二つのマルチウェルプレートが有するウェル容積による制限があるという課題を解決できる、新たな液体分割方法及びこの方法に用いられる液体分割用キットを提供することにある。
【0008】
さらに、上記特許文献1に記載の方法では、二つのMMV同士を分離する際に、液滴の飛散や毛細管現象などにより、ウェル中の試料が相互に行き来して、試料の相互汚染が発生することも、その後の本発明者らの検討で明らかになった。
【0009】
そこで本発明の第2の目的は、上記MMVチップのような微量液体試料を格納できる多数のウェルを有するマルチウェルプレートを二つ用いて、液体試料を分割するに際して、二つのマルチウェルプレートが有するウェル容積による制限があるという課題及びウェル間の試料の相互汚染という課題を解決できる、新たな液体分割方法及びこの方法に用いられる液体分割用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的は、下記本発明の態様1A(液体分割方法)および1B(液体分割用キット)により達成された。
本発明の態様1A
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(1)の少なくとも一部のウェルから、このウェル内に格納された液体の一部を、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(2)のウェル内に移行させて、前記液体を分割する方法であって、
(A)前記マルチウェルプレート(1)と前記マルチウェルプレート(2)とを、膜の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する隔離シートを介在させて、前記マルチウェルプレート(1)および(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように、かつ前記貫通孔が前記対向するウェル同士の各開口に対して少なくとも2つ存在するように固定する工程、及び
(B)前記隔離シートを介在させて固定した前記マルチウェルプレート(1)および(2)に対して、前記ウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力を与える工程、を含み、
工程(B)において、前記マルチウェルプレート(1)および(2)に対して与えられる遠心力の向きは、隔離シートを平面視した状態において、ウェルの各開口に対して少なくとも2つ存在する貫通孔のうちの2つの貫通孔A及びBの開口縁に対して遠心力に直交する接線を想定し、
貫通孔Aにおける、遠心力を付与する回転軸に近い側の接線をA1及び前記回転軸に遠い側の接線をA2とし、
貫通孔Bにおける、前記回転軸に近い側の接線をB1及び前記回転軸に遠い側の接線をB2とし、
前記接線A1は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も近い側の接線であり、
前記接線B2は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も遠い側の接線であり、
前記接線A1は前記接線B1より前記回転軸に近い側に位置し、かつ
前記接線A2は前記接線B2より前記回転軸に近い側に位置するように設定され、
それにより、前記マルチウェルプレート(1)の前記ウェル内に格納された液体の一部が前記マルチウェルプレート(2)の前記ウェル内に前記少なくとも2つの貫通孔の少なくとも1つを通過して移行する、前記方法。
【0011】
態様1B
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(1)、
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(2)、及び
膜の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する隔離シートを含む液体分割用キットであって、
前記貫通孔は、前記マルチウェルプレート(1)と前記マルチウェルプレート(2)とを、前記隔離シートを介在させて、前記マルチウェルプレート(1)および(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定したときに、前記マルチウェルプレート(1)及び(2)の少なくとも一方のマルチウェルプレートの少なくとも一部のウェルの開口に対して少なくとも2つ存在するように設けられ、
前記隔離シートを介在させて固定したマルチウェルプレート(1)および(2)は、前記ウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力を与えるように用いられる、
前記キット。
【0012】
さらに上記第2の目的は、下記本発明の態様2A(液体分割方法)および2B(液体分割用キット)により達成された。
本発明の態様2A
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(1)の少なくとも一部のウェルから、このウェル内に格納された液体の一部を、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(2)のウェル内に移行させて、前記液体を分割する方法であって、
(A)前記マルチウェルプレート(1)と前記マルチウェルプレート(2)とを、膜の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する隔離シートを介在させて、前記マルチウェルプレート(1)および(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように、かつ前記貫通孔が前記対向するウェル同士の各開口に対して少なくとも2つ存在するように固定する工程、
但し、前記隔離シートは少なくとも2層の膜からなり、かつ各膜の前記貫通孔は互いに連通している、
及び
(B)前記隔離シートを介在させて固定した前記マルチウェルプレート(1)および(2)に対して、前記ウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力を与える工程、
但し、工程(B)において、前記マルチウェルプレート(1)および(2)に対して与えられる遠心力の向きは、隔離シートを平面視した状態において、ウェルの各開口に対して少なくとも2つ存在する貫通孔のうちの2つの貫通孔A及びBの開口縁に対して遠心力に直交する接線を想定し、
貫通孔Aにおける、遠心力を付与する回転軸に近い側の接線をA1及び前記回転軸に遠い側の接線をA2とし、
貫通孔Bにおける、前記回転軸に近い側の接線をB1及び前記回転軸に遠い側の接線をB2とし、
前記接線A1は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も近い側の接線であり、
前記接線B2は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も遠い側の接線であり、
前記接線A1は前記接線B1より前記回転軸に近い側に位置し、かつ
前記接線A2は前記接線B2より前記回転軸に近い側に位置するように設定され、
それにより、前記マルチウェルプレート(1)の前記ウェル内に格納された液体の一部が前記マルチウェルプレート(2)の前記ウェル内に前記少なくとも2つの貫通孔の少なくとも1つを通過して移行し、
前記工程(B)の後に、(C)前記隔離シートを構成する一方の膜は前記マルチウェルプレート(2)の主表面に配置した状態、前記隔離シートを構成する他方の膜は前記マルチウェルプレート(1)の主表面に配置した状態となるように、前記マルチウェルプレート(2)と前記マルチウェルプレート(1)とを分離する工程、
前記工程(C)の後に、 (D)前記膜を主表面に配置した少なくとも一方のマルチウェルプレートを、各ウェルの開口から底の方向に遠心力を与える工程、及び
(E)工程(D)で遠心力を与えたマルチウェルプレートから前記膜を分離して、ウェル中に分割後の液体を含むマルチウェルプレートを得る工程を含む、前記方法。
【0013】
本発明の態様2B
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(1)、
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(2)、及び
膜の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する隔離シートを含む液体分割用キットであって、
前記隔離シートは、少なくとも2層の膜からなり、かつ各膜の貫通孔は、互いに連通しており、
前記貫通孔は、前記マルチウェルプレート(1)と前記マルチウェルプレート(2)とを、前記隔離シートを介在させて、前記マルチウェルプレート(1)および(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定したときに、前記マルチウェルプレート(1)及び(2)の少なくとも一方のマルチウェルプレートの少なくとも一部のウェルの開口に対して少なくとも2つ存在するように設けられ、
前記隔離シートを介在させて固定したマルチウェルプレート(1)および(2)は、前記ウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力を与えるように用いられる、前記キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明の態様1Aおよび1Bによれば、二つのマルチウェルプレートを用いて、二つのマルチウェルプレートが有するウェル容積による制限なしに、液体試料を分割することができる。さらに本発明の態様2Aおよび2Bによれば、二つのマルチウェルプレートを用いて、二つのマルチウェルプレートが有するウェル容積による制限なしに、かつウェル間の試料の相互汚染を抑制して、液体試料を分割することができる。
【0015】
本発明はさらに以下の効果を奏する。
(1)多数の液体試料を一斉に分離処理することができる。
(2)ウェル形状を選択することで、ウェル形状に応じて液体試料を任意の割合に分割することができる。
(3) ウェル寸法を選択することで、サブマイクロリットルからサブミリリットルスケールの液体試料の分離に有効である。
(4)懸濁液やエマルジョンの分割にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】特許文献1に記載のMMVチップにおける液体試料分配の説明図。
【
図3-1】ウェルと貫通孔と遠心力方向との関係を示す説明図。
【
図3-2】ウェルと貫通孔と遠心力方向との関係を示す説明図。
【
図3-3】ウェルと貫通孔と遠心力方向との関係を示す説明図。
【
図6】バケット式遠心分離機を用いる場合の説明図。
【
図7】ウェルの貫通孔と遠心力方向との関係を途中で変えた例の説明図。
【
図8】実施例1における固形物と液体試料あるいは密度の異なる液体試料の分割の説明図。
【
図9】MMVのウェルの寸法と隔離シートの二つの貫通孔の寸法、及びそれらの位置関係並びに遠心力gの向きを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<液体分割用キット>
本発明の液体分割用キットは、
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(1)、
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウェルプレート(2)、及び
膜の厚み方向に複数の貫通孔を有する、少なくとも2層の膜からなる隔離シートを含む。
【0018】
マルチウェルプレート(1)及び(2)は、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなる。複数のウェルは、マルチウェルプレートの表裏両主表面に設けられても良いし、いずれか一方の主表面だけに設けられても良い。マルチウェルプレートの一方の主表面に設けられるウェルの数には特に制限はないが、例えば、平方インチ(2.5×2.5cm
2)当たり1000個以上であり、1000〜100,000の範囲とすることができる。ウェルの数は、マルチウェルプレートを用いる目的に応じて適宜決定できる。
【0019】
ウェルの内容量には特に制限はなく、基板の大きさ、ウェルの数、反応(液体の容量)等を考慮して、適宜決定される。ウェルの内容量は、例えば、10μL以下であることができ、1μL以下であることもできる。基板の材質には特に制限はなく、例えば、プラスチック、シリコン、ゲル等からなることができる。
【0020】
前記ウェルは、ウェルの開口が上向きの状態で、マルチウェルプレートを静置したときには、ウェルの開口がウェルに充填されるべき液体で覆われても、ウェル内に液体は注入されない、寸法、形状および表面状態を有することができる。ウェルの開口がある程度の大きさを有する場合、ウェルを設けた主表面に一定量以上の液体を置けば、液体は自然とウェル内に流れ込み、充填される。しかるに、ウェルの開口の寸法が一定以下になると、表面張力により、液体は自然とはウェル内に流れ込まず、マイクロシリンジ等を使用して、注入する必要がある。このような現象は、ウェルの開口の寸法のみならず、ウェルの開口の形状およびウェルの開口およびウェル内の親液性、濡れ性などの表面状態(特に、開口に近い部分の表面状態)によっても生じる。さらには、ウェル内に注入しようとする液体(液体)の物性よっても、このような現象は生じる。本発明の方法は、このように、ウェルを設けた主表面に一定量以上の液体を置いても、液体が自然とはウェル内に流れ込まない、マルチウェルプレートを用いても、ウェル内の液体を分割することできる。
【0021】
ウェルを設けた主表面に一定量以上の液体を置いても、液体が自然とはウェル内に流れ込まないウェルは、ウェルの寸法、形状および表面状態により決まるが、例えば、ウェルの開口の最大内径が、5mm以下である場合、ほとんどの場合、液体は自然とはウェル内に流れ込まない。さらに、3mm以下である場合、通常、液体は自然とはウェル内に流れ込まない。ウェルの開口の最大内径が、1mm以下である場合、液体が自然とウェル内に流れ込むことはない。ウェルの開口の最大内径が、1mm以下である場合、ウェルの開口の最大内径は、例えば、0.1〜0.9mm、好ましくは0.4〜0.8mmの範囲であることができる。
【0022】
ウェルの開口の形状には特に制限はないが、例えば、円形、方形(正方形、長方形)、菱形、多角形(例えば、六角形、八角形等)等であることができる。さらに、ウェルの開口は、突出した端(リップ)のあるものや、逆に端を面取りしたものであることもできる。
【0023】
ウェルの深さ(開口から底までの長さ)は、ウェルの開口の寸法とウェル内に充填する液体の容量等を考慮して、適宜決定される。ウェルの開口寸法やウェル内壁の親液性にもよるが、一般に、ウェルの開口の寸法に対するウェルの深さの割合が大きいほど、液体はウェル内に充填されにくい。ウェルの開口の寸法に対するウェルの深さの比率は、例えば、1〜10の範囲であることができ、2〜8の範囲であることが好ましく、2.5〜5の範囲であることがより好ましい。但し、ウェルの深さは、あくまでもウェル内に充填されるべき液体の容量とウェルの開口の寸法を考慮して適宜決定されるものであり、ウェルの開口の寸法に対するウェルの深さの比率が、10を超えても、液体の分割は可能である。
【0024】
マルチウェルプレートのウェルパターン、ウェル形状、ウェルサイズは、具体的には、例えば、ウェルの配置:正方形パターン(N個×N個)、1インチ平方当たりのウェル数:64から4096個、ウェルの直径(mmφ):0.1〜2、ウェルの深さ(mm):0.2〜2、ウェルの形状:円筒(但し、四角柱等の多角柱であることもできる)であることができる。但し、これらはあくまでも例示であり、これらに限定する意図ではない。
【0025】
マルチウェルプレートを構成する基板の厚みは、上記ウェルの深さと、マルチウェルプレートに要求される強度、特に、ウェルの底に要求される強度を考慮して、適宜決定される。通常、基板の厚みは、上記ウェルの深さと同程度以上であることが適当である。
【0026】
隔離シート
隔離シートは、膜の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有するシート状の物である。さらに、各膜の貫通孔は、2つのマルチウェルプレート(1)とマルチウェルプレート(2)とを、隔離シートを介在させて、マルチウェルプレート(1)および(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定したときに、マルチウェルプレート(1)及び(2)の少なくとも一方のマルチウェルプレートの少なくとも一部のウェルの開口に対して少なくとも2つ存在するように設けられる。
【0027】
さらに、隔離シートは、好ましくは少なくとも2層の膜からなるものである(態様2B)。少なくとも2層の膜からなる隔離シートにおいては、各膜の貫通孔は、互いに連通するように上記膜は重ねられる。
【0028】
隔離シートを構成する膜を形成する材料は、プレート表面との密着性が良好であることを考慮して適宜決定され、例えば、弾性材料からなるものであることができる。また、隔離シートが少なくとも2層の膜からなる場合には、上記プレート表面との密着性に加えて、膜同士の密着性が良好であることが好ましく、その点からも、弾性材料からなるものであることが好ましい。弾性材料としては、例えば、ゴム類を例示出来るがこれらに限定される意図ではない。ゴム類としては、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリイソブチレンゴム、天然ゴムなどを挙げることができる。何れも市販の材料を適宜利用できる。隔離シートを構成する膜の厚みは、特に制限はないが、プレート表面への設置及びプレート表面からの剥離等の操作性及び貫通孔を設ける際の加工性、膜に形成される貫通孔に対する液体の透過性等を考慮すると、単独で使用する場合および2以上を重ねて使用する場合のいずれの場合も、例えば、0.1〜5mmの範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。上記操作性や加工性等を考慮すると、膜の厚みは、好ましくは0.2〜1mmの範囲であり、より好ましくは0.3〜0.5mmの範囲である。
【0029】
隔離シートを構成する膜は、マルチウェルプレートの少なくとも一部のウェルの各開口に対して貫通孔を有するように、複数の貫通孔を有する。これらの貫通孔は、膜に対して、例えば、レーザー加工による穴開けを行うことで形成することができる。貫通孔の孔径は、ウェルの開口径及び液体の透過性等を考慮して適宜決定でき、例えば、0.01〜2mmの範囲とすることができる。2つの貫通孔の径は同一であっても異なっても良い。また、貫通孔は、ウェルの各開口に対して少なくとも2つあればよく、3つ以上有っても良い。但し、2つあれば液体分割には、支障はなく、好ましくは、1つのウェル開口に対して2つの貫通孔が設けられる。
【0030】
さらに、この2つの貫通孔は、2つのマルチウェルプレート(1)とマルチウェルプレート(2)とを、隔離シートを介在させて、マルチウェルプレート(1)および(2)が有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定したときに、マルチウェルプレート(1)及び(2)の少なくとも一方のマルチウェルプレートの少なくとも一部のウェルの開口に対して少なくとも2つ存在するように設けられる。
【0031】
さらに後述するように、本発明のキットを、(B)隔離シートを介在させて固定したマルチウェルプレート(1)および(2)に対して、ウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力を与える工程を含む液体を分割する方法に用いた場合に、上記工程(B)において、マルチウェルプレート(1)および(2)に対して与えられる遠心力の向きは、隔離シートを平面視した状態において、ウェルの各開口に対して少なくとも2つ存在する貫通孔のうちの2つの貫通孔A及びBの開口縁に対して遠心力に直交する接線を想定し、下記のように設定される。
貫通孔Aにおける、遠心力を付与する回転軸に近い側の接線をA1及び前記回転軸に遠い側の接線をA2とし、貫通孔Bにおける、前記回転軸に近い側の接線をB1及び前記回転軸に遠い側の接線をB2とする。
前記接線A1は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も近い側の接線であり、
前記接線B2は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も遠い側の接線である。換言すると、上記接線A1を引ける貫通孔が貫通孔Aであり、上記接線B2を引ける貫通孔が貫通孔Bとなる。その上で、前記接線A1は前記接線B1より前記回転軸に近い側に位置し、かつ前記接線A2は前記接線B2より前記回転軸に近い側に位置するように、遠心力の向きは、設定される。それによって、工程(B)において、上記マルチウェルプレート(1)のウェル内に格納された液体の一部がマルチウェルプレート(2)のウェル内に少なくとも2つの貫通孔の少なくとも1つを通過して移行する。通常、遠心力を与える遠心分離機中における隔離シートを介在させて固定したマルチウェルプレート(1)および(2)の配置が決まれば、マルチウェルプレートに対する遠心力の向きは決まるので、この遠心力の向きに応じて、上記接線を引けるように、隔離シート表面における開口の配置を適宜決定する。尚、マルチウェルプレート(1)および(2)の平面形状は方形である場合には、方形の対向する二辺が遠心力の向きと、平行かまたは直交することが多いため、隔離シート表面における開口の配置は、この点を考慮して、適宜決定できる。
【0032】
上記状態を、
図3を例に説明する。尚、例1、2、5、6は本発明の態様であり、例3、4は本発明の上記遠心力の向きに関する条件を満たさない様態である。
図3の例1では、外側の円がウェル開口を示し、その中に左右に位置する貫通孔の開口A及びBが示されている。例1では、遠心力の向きは、接線A1は接線B1より回転軸に近い側に位置し、かつ接線A2は接線B2より回転軸に近い側に位置するように、設定されている。この状態であれば、上記工程(B)において、二つの貫通孔の一方は空気流通孔として機能し、他方は、液体流通孔として機能する。
【0033】
図3の例2には、2つの貫通孔を有する例を示す。外側の円はウェル開口を示し、その中の左下に位置する貫通孔の開口A、及び右上に位置する貫通孔の開口Bが示されている。例1に比べれば、貫通孔開口A及びBの位置が近づいているが、依然として、遠心力の向きは、接線A1は接線B1より回転軸に近い側に位置し、かつ接線A2は接線B2より回転軸に近い側に位置するように、設定されている。例3では、接線B1が接線A2より回転軸に近い側に位置しているが、接線A1と接線B1の位置関係及び接線A2は接線B2の位置関係は上前記条件を満たしている。従ってこの状態であれば、工程(B)において、二つの貫通孔の一方は空気流通孔として機能し、他方は、液体流通孔として機能する。
【0034】
図3の例3は、2つの貫通孔を有する例を示す。外側の円はウェル開口を示し、図中の縦に貫通孔の開口A及び開口Bが配置され、開口Aの接線A1及び開口Bの接線B1は重複しており、かつ開口Aの接線A2及び開口Bの接線B2が重複している。この状態では、工程(B)において、二つの貫通孔の一方が空気流通孔として機能させ、他方が液体流通孔として機能させることはできず、ウェル中の液体分割は困難である。なお、図示していないが、接線A1及び接線B1または接線A2及び接線B2のいずれか一方が、重複してない場合であっても、工程(B)において、二つの貫通孔の一方が空気流通孔として機能させ、他方を液体流通孔として機能させることはできず、ウェル中の液体分割は困難である。
【0035】
図3の例4には、2つの貫通孔を有する例を示す。外側の円はウェル開口を示し、図中の下側に大きさが大きい貫通孔の開口A、及び上側に大きさが小さい貫通孔の開口Bが示されている。この状態では、接線A1は接線B1より回転軸に近い側に位置し、かつ接線B2は接線A2より回転軸に近い側に位置する。このような状態になるように遠心力の向きを設定すると、接線A1と接線B1の位置関係は上前記条件を満たしているが、接線A2は接線B2の位置関係は上前記条件を満たしておらず逆転している。従ってこの状態では、工程(B)において、二つの貫通孔の一方は空気流通孔として機能させ、他方を液体流通孔として機能させることはできず、ウェル中の液体分割は困難である。
【0036】
図3の例5は、例1においてさらに貫通孔開口Cが加わった例である。貫通孔開口Cが存在するとしても、遠心力の向きは、接線A1は接線B1より回転軸に近い側に位置し、かつ接線A2は接線B2より回転軸に近い側に位置するように、設定されている。この状態では、工程(B)において、例えば、貫通孔開口A及びCが液体流通孔として機能し、貫通孔開口Bが空気流通孔として機能する。尚、例5には、図示しないが、貫通孔開口C以外にも接線A1と接線Bの間で、これらの接線に接触しない第4の貫通孔開口を設けることもできる。この場合、工程(B)において、空気流通孔として機能する貫通孔および液体流通孔がとして機能する貫通孔が複数存在することになる。空気流通孔及び/又は液体流通孔として機能する貫通孔が複数あることで、液体の移動が容易となり、遠心力の軽減や遠心時間の短縮が可能である。
【0037】
例6は、外側の円がウェル開口を示し、その中に中央部に縦に位置する3つの貫通孔の開口A、B及びCが示され、開口Cが接線A2及び接線B1を横切る配置となっている。しかし、遠心力の向きは、接線A1は接線B1より回転軸に近い側に位置し、かつ接線A2は接線B2より回転軸に近い側に位置するように、設定されている。従って、上記のような開口Cが存在しても、この状態であれば、上記工程(B)において、二つの貫通孔の一方は空気流通孔として機能し、他方は、液体流通孔として機能する。
【0038】
隔離シートが少なくとも2層の膜からなるものである(態様2B)場合、各膜の貫通孔は、互いに連通している。各膜の貫通孔が連通していることで、隔離シートの貫通孔を、マルチウェルプレート(2)のウェルとマルチウェルプレート(1)のウェルとの間で、液体や気体(例えば、空気)が流通することができる。互いに連通する貫通孔の開口径は、同一であることも異なることもできる。
【0039】
マルチウェルプレート(1)のウェルとマルチウェルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、ならびに配列が、同一であり、かつ隔離シートは、各ウェルに対して、貫通孔を2つ有するものであることができる。あるいは、マルチウェルプレート(1)のウェルとマルチウェルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、容量ならびに配列の少なくとも一部が相違し、隔離シートは、何れか一方のマルチウェルプレートの前記各ウェルに対して、前記貫通孔を2つ有するものであることができる。この場合、隔離シートは、開口寸法が小さい方のマルチウェルプレートの各ウェルに対して、貫通孔を2つ有することができる。
【0040】
隔離シート分離用シート
隔離シートが少なくとも2層の膜からなるものである(態様2B)場合には、2枚の隔離シートの分離を行う際に、隔離シートの分離を容易にすることを目的として、隔離シートと同様の貫通孔を有する分離用シートを隔離シートの間に挿入することかできる。分離用シートを構成する膜を形成する材料は、隔離シートとの密着性が良好であることを考慮して適宜決定され、例えば、プラスチックシート、金属シートを利用できる。分離用シートを構成する膜の厚みは、特に制限はないが、隔離シートへの設置及び隔離シート表面からの剥離等の操作性及び貫通孔を設ける際の加工性等を考慮すると、例えば、0.01〜5mmの範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。上記操作性や加工性等を考慮すると、膜の厚みは、好ましくは0.05〜1mmの範囲であり、より好ましくは0.1〜0.5mmの範囲である。
【0041】
上記工程(B)における遠心分離は、バケット式遠心分離機を用いて行うことができる。その場合、前記隔離シートを介在させて固定した前記マルチウェルプレート(1)および(2)は、前記遠心分離機の停止時に、前記仮想直線が、遠心分離操作時の遠心力の向きと平行になるように、前記バケット式遠心分離機のバケットに配置される。
【0042】
本発明は、上記本発明のキットにおける隔離シートを介在させて固定したマルチウェルプレート(1)および(2)、並びに遠心分離機を含む液体分割用装置を包含する。この液体分割用装置においては、遠心分離機の停止時に、隔離シートを平面視した状態において、ウェルの各開口に対して少なくとも2つ存在する貫通孔の開口のうち1つを横切り、かつ他の開口のうちの少なくとも1つを横切らない仮想直線が、遠心分離操作時の遠心力の向きと平行になるように、遠心分離機に隔離シートを介在させて固定したマルチウェルプレート(1)および(2)が配置される。この液体分割用装置において、遠心分離機は、例えば、バケット式遠心分離機であることができるが、それ以外の、例えば、アングル式遠心機のような遠心分離機を用いることができる。アングル式ローターは、遠心停止時および遠心操作時にかかわらず、遠心操作時の遠心力の向きに対して遠心試料を一定の角度に固定して遠心する方式のローターである。その場合、前記隔離シートを介在させて固定した前記マルチウェルプレート(1)および(2)は、前記仮想直線が、遠心分離操作時の遠心力の向きと垂直になるように、前記アングル式遠心分離機のローターに配置される。
【0043】
<液体分割方法>
本発明の態様1Aの液体分割方法は、前記マルチウェルプレート(1)のウェル内に、前記マルチウェルプレート(2)の少なくとも一部のウェルから、このウェル内に格納された液体の一部を移行させて、前記液体を分割する方法であって、以下の工程(A)および(B)を含む。さらに本発明の態様2Aの液体分割方法は、上記工程(B)に続いて工程(C)〜(E)を含む。
図4及び5を参照しながら以下に説明する。尚、
図4及び5では、隔離シートが2層の膜からなるものである場合を例に説明する。
【0044】
工程(A)
工程(A)は、マルチウェルプレート(1)と少なくとも一部のウェルに移行させるべき液体を注入したマルチウェルプレート(2)とを、前記隔離シートを介在させて、両プレートが有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように、かつ前記隔離シート有する貫通孔が対向するウェル同士の各開口に対して少なくとも2つ存在するように固定する工程である。マルチウェルプレート(1)、マルチウェルプレート(2)及び隔離シートは上記液体分割用キットにおいて説明したものと同様のものである。
【0045】
図4(1)に示すように、少なくとも一部のウェルに移行させるべき液体を注入したマルチウェルプレート(1)(MMV1)と、前記液体の移送(分割)先であるマルチウェルプレート(2) (MMV2)とを準備する。次に、
図4(2)に示すように、マルチウェルプレート(1)(MMV1)と、マルチウェルプレート(2) (MMV2)との間に、隔離シートを構成することになる2枚の膜(1)及び(2)を配置する。次に、
図4(3)に示すように、膜(1)及び(2)が有する各貫通孔が連通できるようにして膜(1)及び(2)が隔離シートを構成するようにし、かつマルチウェルプレート(1)(MMV1)の液体を格納した少なくとも一部のウェルとマルチウェルプレート(2) (MMV2)の液体の移送(分割)先となる少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定する。ウェルを有効に利用するという観点からは、両プレートが有する全てのウェル同士が対向するように固定することが好ましい。両プレートの固定には、例えば、クリップ、クランプ、固定用治具等を用いることができる。
【0046】
工程(B)
工程(B)は、 前記隔離シートを介在させて固定した前記マルチウェルプレート(1)および(2)に対して、前記ウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力を与える工程であり、かつマルチウェルプレート(1)および(2)に対して与えられる遠心力の向きは、隔離シートを平面視した状態においてウェルの各開口に対して少なくとも2つ存在する貫通孔のうちの2つの貫通孔A及びBの開口縁に対して遠心力に直交する接線を想定し、
貫通孔Aにおける、遠心力を付与する回転軸に近い側の接線をA1及び前記回転軸に遠い側の接線をA2とし、
貫通孔Bにおける、前記回転軸に近い側の接線をB1及び前記回転軸に遠い側の接線をB2とし、
前記接線A1は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も近い側の接線であり、
前記接線B2は、前記少なくとも2つ存在する貫通孔の開口縁に想定された遠心力に直交する接線の中で前記回転軸に最も遠い側の接線であり、
前記接線A1は前記接線B1より前記回転軸に近い側に位置し、かつ
前記接線A2は前記接線B2より前記回転軸に近い側に位置するように設定される。
遠心力の向きを上記のように設定することで、マルチウェルプレート(1)のウェル内に格納された液体の一部がマルチウェルプレート(2)のウェル内に少なくとも2つの貫通孔の少なくとも1つを通過して移行する。
【0047】
図5の左上に示すように、工程(A)で両プレートの間に隔離シートを固定した後に、右上に示すように、両プレートのウェルの開口から底の向きと直交する向きに遠心力gを与える。このとき、隔離シートの各開口に設けられる2つの貫通孔(液体流通孔および気体流通孔)は、隔離シート表面上において、設定された遠心力の向きと直交する仮想の直線が、上記2つの貫通孔の開口を横切らない配置とする。
図5の左下図は、遠心力gを与える前の状態を示す図であり、右下図は、遠心力gを与えた後の状態を示す図である。遠心力gを与えることで、MMV1のウェル中の液体は、遠心力gの向きの下(底)側の貫通孔からMMV2のウェル中に移動し、それに伴って、MMV2のウェル中の気体(例えば、空気)は、MMV1のウェル中に移動する。
図5に示す例では、MMV1とMMV 2のウェルは同じ形状なので、液体は等分割される。
【0048】
遠心力gは、ウェル開口の寸法等、隔離シートの貫通孔における液体の流通性等を考慮して、適宜決定されるが、例えば、10×g以上であることができる。例えば、貫通孔の開口の最大内径が、0.15mmである場合、遠心力は例えば、20×g以上であることが好ましい。さらに、貫通孔の開口の最大内径が、0.1mmである場合には、遠心力は例えば、100×g以上であることが好ましく、より好ましくは100〜2000×gの範囲である。但し、貫通孔の開口径や液体の種類(特に固形分や粘性物を含有する場合)によっては、さらに高い遠心力を与えることも可能である。バケット式遠心分離機を用いる場合には、通常のバケット式遠心分離機の場合、装置を安全に使用するという観点から、遠心力の上限は約2000×gである。但し、使用する遠心分離機は、バケット式遠心分離機に限られない。
【0049】
図6に、バケット式遠心分離機を用いる場合のウェル開口に対する2つの貫通孔の配置並びに静止状態および遠心を付与するための回転状態における重力または遠心力の向きを示す。図面の上方は平面概略図、下方が側面概略図であり、回転軸の左側が静止状態、右側が回転状態におけるバケットとその中に格納された、マルチウェルプレートホルダに保持された、隔離シートを介在させて固定したマルチウェルプレートを記載する。平面概略図(上方)においては、マルチウェルプレートの側面側がマルチウェルプレートホルダとして描かれ(マルチウェルプレートは図示せず)、側面概略図(下方)においては、マルチウェルプレートの平面が描かれ、さらに、ウェル開口と2つの貫通孔の配置および重力(静止状態)と遠心力(回転状態)の向きが矢印で描かれている。隔離シートを介在させて固定したマルチウェルプレートは、遠心分離機の停止時(静止状態)に、遠心力の向きと直交する仮想直線が、遠心分離操作時の遠心力の向きと平行になるように、バケット式遠心分離機のバケットに配置される。
【0050】
本発明の態様1Aの液体分割方法では、上記工程(A)および(B)により、マルチウェルプレート(1)のウェル内に格納された液体の一部がマルチウェルプレート(2)のウェル内に少なくとも2つの貫通孔の少なくとも1つを通過して移行することで、マルチウェルプレート(1)のウェル内に格納された液体を分割することができる。工程(B)の後は、マルチウェルプレート(1)のウェル内に残った液体およびマルチウェルプレート(2)のウェル内に移行した液体を適宜利用することができる。
【0051】
尚、
図7の左に示した貫通孔の配置を有する隔離シートを用いた場合、工程(B)の後にさらに工程(B)とは異なる向きに遠心力を付与して、隔離シートの貫通孔に付着または残存する液体を各マルチウェルプレートのウェル内移行させることができる。この状態を、
図7を参照して説明する。
図7の左に示した遠心力と貫通孔の配置において1回目の遠心(工程(B)における遠心力)で試料を双方のウェルに分配後、
図7の右に示した遠心力と貫通孔の配置にMMVにかける遠心力の方向をかえて2回目の遠心(遠心力gの向きと直交する直線が液体流通孔および気体流通孔を横切る向きで、且つ両流通孔を回転中心側に配置)を行うことにより両方の流通孔が気相にくるように配置している。このようにすることで、対向する2つのウェル内の液体を隔離シートの貫通孔が形成されていない領域で分断した状態で2つのMMVを分離でき、ウェル間の相互汚染の可能性を低減できる。
【0052】
本発明の態様2Aの液体分割方法では、上記工程(A)および(B)に続けて、以下の工程(C)〜(E)実施する。
【0053】
工程(C)
工程(C)は、前記隔離シートを構成する一方の膜は前記マルチウェルプレート(2)の主表面に配置した状態、前記隔離シートを構成する他方の膜は前記マルチウェルプレート(1)の主表面に配置した状態となるように、前記マルチウェルプレート(2)と前記マルチウェルプレート(1)とを分離する工程である。
【0054】
工程(B)における遠心力の付与が完了したら、
図4(4)に示すように、MMV1とMMV 2とをMMV1には膜1が付着した状態、MMV 2には膜2が付着した状態で分離する。膜が付着した状態で、MMV1とMMV 2とを分離することで、MMV1のウェルとMMV 2のウェルとの間での試料の相互汚染の発生を防止できる。隔離シートに設けられた貫通孔の径は、ウェルの開口径より遥かに小さく、MMV1とMMV 2とを分離したときに、貫通孔から試料である液体が漏れだすことはない。
【0055】
工程(D)
工程(D)は、前記膜を主表面に配置した少なくとも一方のマルチウェルプレートを、各ウェルの開口から底の方向に遠心力を与える工程である。
【0056】
図4(5)に示すように、膜1が付着したMMV1及び膜2が付着したMMV 2には、それぞれ各ウェルの開口から底の方向に遠心力を与える。この遠心力の付与により、膜のウェルの開口に面している表面から液体を退避させる。膜のウェルの開口に面している表面から液体を退避させるためには、遠心力は、例えば、10×g以上であることができ、好ましくは50×g以上、より好ましくは500×g以上である。遠心力の上限は特にないが、バケット式遠心分離機を用いる場合には、通常のバケット式遠心分離機の場合、装置を安全に使用するという観点から、遠心力の上限は約2000×gである。
【0057】
尚、一方または両方の膜が付着したMMVは、遠心力を付与することなく、再度、工程(A)の液体を保持したMMVとして用いることもできる。その場合、再度工程(A)から工程(C)を経た後に、工程(D)に供することができる。
【0058】
工程(E)
工程(E)は、工程(D)で遠心力を与えたマルチウェルプレートから前記膜を分離して、ウェル中に分割後の液体を含むマルチウェルプレートを得る工程である。
図4(6)に示すように、各ウェルの開口から底の方向に遠心力を与えた後に、MMV1から膜1を分離し、またはMMV 2から膜2を分離する。各ウェルの開口から底の方向に遠心力を与え、膜のウェルの開口に面している表面から液体を退避させた後に膜を分離することで、膜の分離の際の、1つのMMV上でのウェル間の試料の相互汚染の発生を防止できる。
【0059】
本発明の方法及びキットは、様々な用途を有する。多重並列かつ微量な実験系において、多段階反応を可能とするMMVは、主に、3つ分野で大きな影響がある。
【0060】
1つ目は、創薬の分野である。例えば、ガンをアポトーシスさせるリガンドを核酸アプタマーやペプチドアプタマーから見つけるためのスクリーニングパフォーマンスが10000倍以上向上すると期待される(マイクロプレート法に比べ、試料が2桁以上少なくてよいし、スクリーニング効率が2桁以上向上するため)。さらに、これまでアッセイできなかった特性(刺激応答)、例えば、細胞内のmRNA変動などを調べることができるようになり、創薬の幅が広がる。
【0061】
2つ目は、‘不明’病原微生物検出の分野への応用である。これまで、見当のついている病原微生物(インフルエンザウイルス、O157、赤痢菌等)に関しての検査試薬は開発されてきたが、まったく見当が付かないものに対しては、検査のしようがないというのが実情であった。本発明の方法を利用する分子増幅可能なスクリーニングシステムによれば、一細胞の微生物からDNAを増幅し、種を同定する[GP(GenomeProfiling)法の偉力]と同時に、微生物集団中の少数派(例えば0.1%の構成割合なら、1000ウェル中の1つに出現することが期待される)であっても同定可能となった(このようなことをするのに必要なコストが微量性のおかげで2桁下がるのは大きい)。そのため、痰の中からジンジバリスなどの口内微生物と区別して結核菌を見つける事が可能になると考えられる。
【0062】
3つ目は、組合せ問題の分野への貢献である。たとえば、タンパク質などの分子の結晶化条件を見つけるのは、種々の試薬の組合せ(イオン強度、pH、界面活性剤・・・)を探るしかなく、実際「タンパク3000プロジェクト」では、結晶化条件を見つけるための巨大なロボットが組み上げられたほどである。しかし、本発明で提供されるキットを用いると1024通りの組合せが容易に発生できる(2N法と名称)。山中先生のiPS細胞は結局4種(最初は5種)の転写調節因子の組合せを見つけるのが難しかったという課題であったし、今後、iPSからさらに種々な細胞に分化誘導する因子の組合せを見つける事は、またまた困難な組合せ問題となる。このような問題解決に“微量”で迅速に対応できる本開発装置は大きな偉力を発揮する。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0064】
実施例1
ウレタンゴム製の隔離シートおよび射出成形によって作製されたポリカーボネート製の2つのマルチウェルプレート(MMV)を用いて、本発明 の液体分割方法を実施した。
図9にMMVのウェルと隔離シートの二つの貫通孔(レーザー加工機による穴開け加工で形成)との寸法および位置関係、さらには遠心力gの向きを示す。また、使用したMMVのウェルサイズ等、隔離シートの気体流通孔および液体流通孔のサイズ等、さらには遠心の条件等を以下の表1に示す。遠心にはバケット式遠心分離機を用いた。分割する液体としては純水を使用した。結果を表2に示す。具体的には、2枚のプレートの間に2枚の隔離シートが挿入されるように組み上げたものを、さらに2枚のプラスチック板で挟み、クリップで固定した。これを遠心用バケットに装着して遠心操作を施した。遠心後、プレートの間にある2枚の隔離シートの間に楔(本実施例では、ミクロスパーテル)を挿入し、徐々に隙間を押し広げるようにして分離した(工程C)。表面に隔離シートを保持したプレートは、開口面を上にして再度遠心操作を施し、液体試料をプレートの底に移動させた(工程D)。その後、隔離シートとプレートの間に楔を挿入し、隙間を押し広げるようにして分離した(工程E)。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示す移送率は、供与側MMVのウェル内に充填した水の総重量と遠心操作後に受容側MMVのウェル内に移動した水の総重量から算出した。MMV内での移送有無のバラツキを肉眼で観察したとろ、移送が確認できなかったウェルは1%程度(MMV内での偏りなし)で、ほぼ全面移送が確認された。さらに、顕微鏡観察により全てのウェルにおいて水の移動を確認した。
【0068】
本発明においては、二つのMMVのウェル形状(ウェルの深さや形)に応じて、任意の割合で液体試料を分配可能である。また、孔の位置を変えることで固形物と液体あるいは密度の高い液体と軽い液体を分割することもできる(
図8参照)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、多重並列かつ微量な実験系を扱う種々の分野において有用である。