【0033】
図1は、(a)本発明の強化繊維/樹脂繊維複合体50を製造するための組物作製機100の一例を示した模式図、及び(b)強化繊維/樹脂繊維複合体50の外観図である。
図1(a)に示すように、組物作製機100は、組物(強化繊維/樹脂繊維複合体50)のコアとなる中心糸(強化繊維)40に対して、中央糸(強化繊維)15を供給する中央糸供給部10と、組糸(樹脂繊維)25を供給する組糸供給部20とを備えている。組物の形成に先立ち、準備のため、組糸供給部20は中央糸供給部10の周囲にスタンバイされている。中央糸供給部10と組糸供給部20とはセットで設けられる。
図1(a)では、一つの中央糸供給部10と一つの組糸供給部20とがセットにされているが、一つの中央糸供給部10に対して組糸供給部20を複数設けたセットとすることも可能である。組糸供給部20の数は、設計する強化繊維/樹脂繊維複合体50の構造に応じて適宜設定することが可能である。中央糸供給部10は、強化繊維が巻回されたロービング(図示せず)につながっており、ロービングから巻き戻された強化繊維を先端部11から中央糸15として排出する。組糸供給部20は、組糸25が巻回されたスピンドル21と、スピンドル21から引き出された組糸25が経由される巻戻しバー22とを備えている。組糸供給部20は、セットをなす中央糸供給部10の周囲を公転する。このとき、上方視で、スピンドル21と巻戻しバー22との相対位置が変化する。これにより、スピンドル21に巻回された組糸25は、巻戻しバー22を通じてスピンドル21から連続的に解離される。解離された組糸25は、中央糸15の周囲を取り囲むように集められ、中央糸供給部10及び組糸供給部20が組機軌道30を移動することにより中央糸15の長手方向に対して組角度θで相互に組み上げられ、組紐が形成される。中央糸15及び組糸25によって形成された組紐は、中心糸40の周囲を取り囲むように配置される。このようにして、中心糸40の周囲に、中央糸15に対して組糸25が組角度θで組まれた
図1(b)に示す組物としての強化繊維/樹脂繊維複合体50(これを「ハイブリッド化繊維複合体」と称する場合がある)が連続的に形成される。出来上がった強化繊維/樹脂繊維複合体50は、そのまま又は所望の形状に整えて熱成形することにより、目的の長繊維強化熱可塑性樹脂構造物を得る。熱成形時における樹脂繊維の溶融は、いわゆるIn−situポリマーブレンドの一種であり、簡単に行うことができる。
【実施例】
【0035】
上記の組紐技術を利用して製造した本発明の強化繊維/樹脂繊維複合体(ハイブリッド化繊維複合体)に関する実施例について説明する。本実施例では、強化繊維である長繊維として炭素繊維を使用し、熱可塑性樹脂繊維としてポリプロピレン(PP)繊維、及びPP繊維をマレイン酸を用いて酸変性した酸変性ポリプロピレン(MAPP)繊維を使用した。先に説明したように、PP繊維は、樹脂の含浸性に優れているが、界面特性(例えば、界面せん断強度)がやや劣っている。一方、MAPP繊維は、樹脂の含浸性がやや劣っているが、界面特性には優れている。そこで、組紐技術を利用して、PP繊維及びMAPP繊維を炭素繊維の表面に組み上げてハイブリッド化することにより、炭素繊維への熱可塑性樹脂の含浸特性と、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面特性とを両立させることを試みた。
【0036】
〔強化繊維/樹脂繊維複合体の組み方〕
図2は、炭素繊維15a(中央糸15)に対するPP繊維25a及びMAPP繊維25b(組糸25)の組み方を説明するための強化繊維/樹脂繊維複合体50の断面模式図である。本実施例では、1本の炭素繊維15aに対して、16本のPP繊維25a、及び16本のMAPP繊維25bを組み上げることにより、長繊維強化熱可塑性樹脂構造物の中間材料となる炭素繊維/PP繊維/MAPP繊維複合体(ハイブリッド化繊維複合体)を得た。樹脂繊維の組み方は、
図2(a)及び(b)に示す2通りを実行した。(a)は、一段目として炭素繊維15aの表面を包囲するようにPP繊維25aのみを組み上げ、次いで、二段目として一段目の上にMAPP繊維25bのみを組み上げたものである。(a)の組み方を「二層配置」と称する。(b)は、一段目として炭素繊維15aの表面を包囲するようにPP繊維25aとMAPP繊維25bとを交互に組み上げ、次いで、二段目として一段目と同様にPP繊維25aとMAPP繊維25bとを交互に組み上げたものである。(b)の組み方を「交互配置」と称する。
図3に、炭素繊維に対して2種の熱可塑性樹脂繊維が組み上げられた本実施例の炭素繊維/樹脂繊維複合体の外観写真、及び構造図を示す。
【0037】
〔含浸特性評価〕
炭素繊維/樹脂繊維複合体(ハイブリッド化繊維複合体)を熱成形して得られる長繊維強化熱可塑性樹脂構造物(これを「ハイブリッド化構造物」と称する場合がある)の含浸特性について、顕微鏡による断面観察から評価した。
【0038】
先ず、二層配置及び交互配置の各構造を有する炭素繊維/樹脂繊維複合体を用いて熱形成を行い、長繊維(炭素繊維)強化熱可塑性樹脂構造物(ハイブリッド化構造物)の試験片を得た。各試験片の熱成形条件は、成形温度200℃、成形圧力10MPa、成形時間5分、10分、20分、40分とした。次に、各試験片の断面を観察し、炭素繊維に対する熱可塑性樹脂の含浸状態(未含浸率)を評価した。
図4は、二層配置及び交互配置について、成形時間による含浸状態の変化を表した試験片断面写真である。各写真の右隅に記載されている数値は、炭素繊維における未含浸率である。未含浸率は、以下の手順で求められる。
【0039】
図5は、炭素繊維における未含浸率を求めるための画像データの一例であり、(a)試験片の画像処理前の断面、及び(b)画像処理後の断面を示してある。炭素繊維(繊維束)の断面画像(a)を画像処理により、所定の閾値で二値化し、白色領域を含浸領域S1、黒色領域を未含浸領域S2とする断面画像(b)を得る。断面画像(b)から得られたS1及びS2の値を用いて、未含浸率(%)を、以下の式(1)から求める。
未含浸率(%) = S2/(S1+S2) ・・・ (1)
【0040】
図6は、二層配置及び交互配置における各試験片の未含浸率を成形時間に対してプロットしたグラフである。
図6より、二層配置及び交互配置のいずれにおいても、成形時間の経過とともに、炭素繊維に対する熱可塑性樹脂の未含浸率が徐々に低下した。すなわち、成形時間の経過とともに、炭素繊維に熱可塑性樹脂が十分に含浸することが確認された。また、二層配置と交互配置との比較では、二層配置の方が交互配置よりも含浸特性に優れた材料が得られることが判明した。特に、二層配置で組み上げた炭素繊維/樹脂繊維複合体を用いて20分以上、好ましくは40分以上熱成形を行うと、炭素繊維の略中心まで熱可塑性樹脂を含浸させることが可能となることが判明した。
【0041】
〔界面特性評価〕
炭素繊維/樹脂繊維複合体(ハイブリッド化繊維複合体)を熱成形して得られる長繊維強化熱可塑性樹脂構造物(ハイブリッド化構造物)について、曲げ試験機を用いた三点曲げ試験を実施し、界面特性を評価した。三点曲げ試験により長繊維強化熱可塑性樹脂構造物の長手方向における力学的特性を測定し、弾性率及び強度の値が大きいほど、界面特性が良好であることが間接的に推定できる。
【0042】
長繊維強化熱可塑性樹脂構造物の試験片として、長さ50mm、幅20mm、厚み2mmの板状体を熱成形により作製した。試験片には、
図2に示した二層配置の炭素繊維/樹脂繊維複合体、及び交互配置の炭素繊維/樹脂繊維複合体から得られた成形体を用意した。また、参考として、炭素繊維/PP繊維複合体、及び炭素繊維/MAPP繊維複合体から得られた成形体も合わせて用意した。各試験片の熱成形条件は、成形温度200℃、成形圧力10MPa、成形時間5分、10分、20分、40分とした。次に、各試験片において、スパン間距離32mmの中央にクロスヘッドスピード1mm/分で負荷を印加し、試験片が破壊されるまで三点曲げ試験を継続した。
図7は、各試験片の三点曲げ試験による測定データ(荷重−撓み曲線)のグラフである。この測定データに基づき、以下の式(2)及び式(3)を用いて、各試験片の曲げ弾性率E(MPa)、及び曲げ応力σ(MPa)を見積もった。曲げ応力σの最大値を曲げ強度とする。なお、これらの計算は、JIS K7017に準拠した方法で行った。
E=L
3/(4bh
3)・(ΔF/ΔS) ・・・ (2)
σ=3FL/(2bh
2) ・・・ (3)
L :支点間距離(mm)
b :試験片の幅(mm)
h :試験片の厚さ(mm)
F :荷重(N)
ΔS:曲げ歪みε’=0.0005及びε”=0.0025に対応する曲げ撓みS’及びS”間の撓みの差(mm)
ΔF:S’及びS”における夫々の荷重F’とF”との差(N)
試験結果を以下の表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
上記結果より、二層配置の炭素繊維/樹脂繊維複合体(試験No.1)、及び交互配置の炭素繊維/樹脂繊維複合体(試験No.2)から成形した長繊維強化熱可塑性樹脂構造物(ハイブリッド化構造物)は、炭素繊維/PP繊維複合体(試験No.3)から成形した長繊維強化熱可塑性樹脂構造物(非ハイブリッド化構造物)よりも弾性率及び強度が大きく向上することが確認された。特に、二層配置の炭素繊維/樹脂繊維複合体(試験No.1)は、炭素繊維/MAPP繊維複合体(試験No.4)に対しても同等の弾性率及び強度を示した。従って、炭素繊維/樹脂繊維複合体において、樹脂繊維としてPP繊維とMAPP繊糸とをハイブリッド化したものを使用して熱成形すれば、MAPP繊維による含浸特性の低下を抑制しながら、炭素繊維/MAPP繊維複合体並みの高い界面特性を実現しつつ、長繊維方向(長手方向)において十分な強度を有する高性能な長繊維強化熱可塑性樹脂構造物を得ることができる。
【0045】
〔別実施形態〕
(1)炭素繊維/樹脂繊維複合体(ハイブリッド化繊維複合体)を構成する少なくとも2種の樹脂繊維は、上記実施形態で説明したPP繊維、及びMAPP繊維の他にも種々の組み合わせの材料を選択することが可能である。例えば、樹脂繊維複合体として、以下の樹脂繊維の組合せが挙げられ、各組合せを選択した場合の補完可能(両立可能)な物性について列挙する。
〔1〕ポリ乳酸(PLA)繊維/ポリオキシメチレン(POM)繊維:界面特性及び含浸性/靭性
〔2〕ポリプロピレン(PP)繊維/ポリアミド(PA)繊維(ナイロン繊維):含浸性/界面接着性、低コスト/界面接着性
〔3〕ポリアミド(PA)繊維/ポリオキシメチレン(POM)繊維:界面接着性/耐摩耗性及び摺動性
〔4〕ポリプロピレン(PP)繊維/ポリオキシメチレン(POM)繊維:含浸性/耐摩耗性及び摺動性
〔5〕ポリアミド(PA)繊維/ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維:界面接着性/耐熱性、界面接着性/含浸性
〔6〕ポリプロピレン(PP)繊維/ポリカーボネート(PC)繊維:含浸性/耐衝撃性
〔7〕ポリアミド(PA)繊維/ポリカーボネート(PC)繊維:界面接着性/耐衝撃性
その他にも樹脂繊維複合体を構成する少なくとも2種の樹脂繊維として、例えば、ポリエチレン(PE)繊維、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)繊維、ポリエーテル・ケトン・ケトン(PEKK)繊維等の熱可塑性樹脂繊維が挙げられる。また、補完可能な熱可塑性樹脂繊維の物性としては、上述した物性の他に、吸水性、耐疲労性、耐薬品性、耐溶剤性、難燃性、電気的特性、耐寒性、耐候性等が挙げられる。
【0046】
(2)組紐技術によって作製されるハイブリッド化繊維複合体は、目的の長繊維強化熱可塑性樹脂構造物に応じて、種々の構造物とすることができる。組紐には伝統的な組み方の角打紐、平打紐、丸打紐等が知られているが、これらの組紐をベースとしてハイブリッド化繊維複合体を構成することができる。例えば、自動車のボディの一部であるピラーを製造する場合、中間材料となる強化繊維/樹脂繊維複合体をリボン状の平打紐として作製し、これを環状に巻き上げて成形する。これにより、軽量且つ高強度の中空ピラーを製造することができる。
【0047】
(3)組物(強化繊維/樹脂繊維複合体)の作製に際し、上記実施形態では、中心糸40及び中央糸15に強化繊維を使用し、組糸25に樹脂繊維を使用しているが、中心糸40、中央糸15、組糸25に対して、どの種の繊維を組み合わせるかは特に限定されず、作製する強化繊維/樹脂繊維複合体に応じて、適宜決定することができる。例えば、中央糸15に強化繊維を使用し、中心糸40及び組糸25に樹脂繊維を使用することも可能である。