特許第6014891号(P6014891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6014891磁気誘導された視覚効果を生成するための装置、システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014891
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】磁気誘導された視覚効果を生成するための装置、システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/369 20140101AFI20161013BHJP
   B42D 25/30 20140101ALI20161013BHJP
   B42D 25/41 20140101ALI20161013BHJP
   B41M 3/14 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B42D15/10 369
   B42D15/10 300
   B42D15/10 410
   B41M3/14
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-529660(P2013-529660)
(86)(22)【出願日】2011年9月23日
(65)【公表番号】特表2013-544666(P2013-544666A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】EP2011066583
(87)【国際公開番号】WO2012038531
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】10010506.3
(32)【優先日】2010年9月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】デゴット, ピエール
(72)【発明者】
【氏名】デスプランド, クロード‐アラン
(72)【発明者】
【氏名】シュミッド, マチュー
【審査官】 佐藤 洋允
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−532941(JP,A)
【文献】 米国特許第05667850(US,A)
【文献】 特開2005−277299(JP,A)
【文献】 特開昭55−121468(JP,A)
【文献】 特表2005−532907(JP,A)
【文献】 特開2007−111930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D25/00−25/485
B41M3/00−3/18
G03G19/00
H01L33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気誘導された視覚効果を生成するための装置であって、
配向可能な磁性粒子を含むコーティング組成物を用いて、基板の第1の面に画像を印刷するように構成された印刷ユニットと、
前記印刷された画像の前記コーティング組成物において前記磁性粒子を配向させるための、少なくとも1つの磁界発生素子を備える配向手段と、
前記配向手段と接触している前記基板の第2の面を保持するように構成される基板案内システムと、
前記基板の前記第1の面に印刷された前記画像を照射して、前記画像の前記コーティング組成物を硬化させるが、前記基板の前記第2の面は依然として前記配向手段に接触するように、前記配向手段に対して構成された放射源を備える光硬化ユニットと
を備え、
前記放射源が、
−発光ダイオード(LED)可視光ランプもしくは発光ダイオード(LED)紫外線ランプ、または、
−前記紫外線ランプの放射を円筒形本体に向けて導いて、前記基板の前記第1の面に印刷された前記画像を照射するための導波管であって、前記基板の前記第2の面が前記円筒形本体に接触している、前記導波管を備える紫外線ランプ、または、
−紫外線スペクトル波長に対応する紫外線ランプの放射を前記基板に向けて導き、赤外線スペクトル波長に対応する前記放射源の放射を前記基板から逸れるように導く、少なくとも1つのダイクロイック反射器を備える紫外線ランプを備え、
前記光硬化ユニットは、前記配向手段およびその少なくとも1つの磁界発生素子を、100℃を超える平均温度(T1)まで加熱しないよう、前記配向手段に向かうその熱放射エネルギーの放出が制限されるように構成されることを特徴とする、装置。
【請求項2】
導波管を備える前記紫外線ランプ、ダイクロイック反射器を備える前記紫外線ランプが、それぞれ水銀ランプである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光硬化ユニットは、前記配向手段およびその少なくとも1つの磁界発生素子を、70℃を超える平均温度(T1)まで加熱しないよう、前記配向手段に向かうその熱放射エネルギーの放出が制限されるようにさらに構成される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記配向手段が、少なくとも1つの磁界発生素子を備える円筒形本体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記基板案内システムが、グリッパおよび/または真空システムを備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
磁気誘導された視覚効果を生成するためのシステムであって、
請求項1〜のいずれか一項に記載の装置と、
配向可能な磁性粒子を含むコーティング組成物と
を備えるシステム。
【請求項7】
磁気誘導された視覚効果を生成するための方法であって、
配向可能な磁性粒子を含むコーティング組成物を用いて、基板の第1の面に画像を印刷するステップと、
磁界を生成する配向手段と接触する、前記基板の第2の面を保持するステップと、
前記配向手段の前記磁界により、前記印刷された画像の前記コーティング組成物内の前記磁性粒子を配向させるステップと、
放射源を備える硬化ユニットによって前記画像を照射して、前記配向された磁性粒子を含む前記コーティング組成物を少なくとも部分的に硬化させるが、前記基板の前記第2の面が依然として円筒形本体に接触しているステップと
を含み、
−発光ダイオード(LED)可視光ランプもしくは発光ダイオード(LED)紫外線ランプ、または、
−前記紫外線ランプの放射を前記円筒形本体に向けて導いて、前記基板の前記第1の面に印刷された前記画像を照射する導波管であって、前記基板の前記第2の面が前記円筒形本体と接触している、前記導波管を備える紫外線ランプ、または、
−紫外線スペクトル波長に対応する紫外線ランプの放射を前記基板に向けて導き、赤外線スペクトル波長に対応する前記放射源の放射を前記基板から逸れるように導く、少なくとも1つのダイクロイック反射器を備える紫外線ランプを備えるように前記放射源を選択するステップと、
前記配向手段に向かう光硬化ユニットの熱放射エネルギーの放出が、前記配向手段を、100℃を超える平均温度まで加熱しないよう制限されるように、前記光硬化ユニットを構成するステップと
を特徴とする、方法。
【請求項8】
導波管を備える前記紫外線ランプ、ダイクロイック反射器を備える前記紫外線ランプが、それぞれ水銀ランプである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
硬化ユニットによって前記画像を照射することにより、前記配向された磁性粒子を含む前記コーティング組成物が完全に光硬化されるが、前記基板の前記第2の面が依然として前記円筒形本体に接触している、請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
前記画像を照射するステップの開始後のある時刻(t2)において、前記配向手段から前記基板を取り出すステップをさらに含む、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記基板が前記配向手段から取り出される前記時刻(t2)の前またはそれと同時の時刻(t3)において、前記印刷された画像の前記照射が停止される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基板が前記配向手段から取り出される前記時刻(t2)の後の時刻(t3)において、前記印刷された画像の前記照射が停止される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記磁気誘導された画像が、銀行券もしくは他の文を保護するためのセキュリティ要素、または物品を飾るための装飾要素である、請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記コーティング組成物が、反射性および/または板状の、少なくとも1つのタイプの配向可能な磁性粒子を含む、請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記配向可能な磁性粒子が光学的に可変の粒子である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記コーティング組成物がさらに、
−非カラー・シフト磁性粒子と、
−無色の磁性粒子と、
−カラー・シフト非磁性顔料粒子と、
−非カラー・シフト非磁性顔料粒子と、
−無色の非磁性顔料粒子と
のうちの少なくとも1つを含む、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、銀行券および貴重な文書または物品を保護するためのセキュリティ要素の分野に関し、詳細には、配向可能な磁性粒子を含むコーティングにおいて磁気誘導された視覚効果を生成するための装置、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形組成物およびコーティング組成物内で磁性粒子を配向させるための様々な材料および技術が、たとえば、米国特許出願公開第2005/0,123,764号明細書、米国特許第2,418,479号明細書、米国特許第2,570,856号明細書、国際公開第2000/12,622号パンフレット、欧州特許出願公開第A−0,686,675号明細書、国際公開第2008/153,679号パンフレット、米国特許出願公開第2008/0,292,862号明細書、米国特許第5,364,689号明細書、米国特許出願公開第2004/0,251,652号明細書、独国特許出願公開第A−2,006,848号明細書、米国特許第3,791,864号明細書、および国際公開第1998/56,596号パンフレットに開示されてきた。
【0003】
配向可能な磁性粒子はまた、特にセキュリティ機能または装飾機能を印刷するための印刷処理で使用される。具体的には、特別な視覚効果およびカラー・シフト効果を生成するために、光学的に可変の板状磁性粒子を使用することが開示されてきた。それらを生成するのに利用される装置および技術が知られており、これらの装置および技術は、たとえば、欧州特許第B−1,641,624号明細書、欧州特許第B−1,819,525号明細書、欧州特許第B−1,937,415号明細書、欧州特許出願公開第A−1,880,866号明細書、欧州特許第B−2,024,451号明細書、国際公開第2010/066,838号パンフレット、米国特許第6,759,097号明細書、国際公開第2002/090,002号パンフレット、および国際公開第2004/007,095号パンフレットに記載されている。
【0004】
配向可能な磁性粒子を含むコーティングを塗布すること、およびこれらの磁性粒子の配向に基づいて視覚効果を生成することは、通常、以下の一連の個別ステップ、すなわち、
a)配向可能な磁性粒子を含むコーティングを基板上に塗布するステップであって、コーティング材料が液状であるか、または低粘度を有する必要があるステップと、
b)外部磁気デバイスによって生成される磁界にコーティングを露出させることにより、磁性粒子を配向させるステップと、
c)コーティングの粘度を上げることより、磁性粒子の配向を固定化するステップと
に従って進行する。
【0005】
ステップc)は、コーティングを硬化させるステップを含む。このステップは、当業者には知られているように、たとえば、物理的乾燥(溶媒の蒸発)、紫外線硬化、電子ビーム硬化、ヒートセット、酸化重合、これらの組合せ、または他の硬化機構によって実行することができる。この硬化機構は、コーティング材料に依存する。たとえば、米国特許第B−7,691,468号明細書には、セキュリティ機能向けに使用されるインクが記載されており、これらの機能は、インクの組成に応じて熱風または紫外線硬化のいずれかによって乾燥させる。
【0006】
(乾燥の前後での)コーティングの粘度および層の厚さが、磁性粒子の配向にとって重要なパラメータである。実現可能な最良の効果を達成するには、硬化ステップが完了するまで磁性粒子の配向を保持することが不可欠である。印刷プロセスにおいては、板状の磁性粒子の配向を保持することにより、実現可能な最良の画像の鮮明さおよび実現可能な最良の総合的な視覚効果が確実に実現する。
【0007】
米国特許出願公開第A−2,829,862号明細書は、外部磁石を取り外した後に磁性粒子が再配向することを防止するために、キャリア材料の粘弾性特性の重要性を教示している。
【0008】
欧州特許第B−2,024,451号明細書には、乾燥プロセス中にコーティングされた層の量を変化させることによって最終パターンに影響を及ぼすことにより、コーティング・キャリアのタイプがプロセスにおいて決定的な役割を演じていること、物理的な乾燥プロセスでは、溶媒が蒸発するにつれて前記キャリアの量が低減する傾向にあること、この収縮によりフレーク(flake)の配向に著しい影響を与える可能性があること、紫外線プロセスによって硬化されたキャリアはそれほど収縮する傾向にはなく、したがって板状磁性粒子の元の配向を保持することが教示してある。
【0009】
さらに、基板のタイプおよびコーティング組成物の粘度が、濡れたコーティング組成物の基板による吸収、したがって層の厚さに影響を及ぼすことがある。したがって、欧州特許第2,024,451号明細書には、配向可能な板状磁性粒子を含むコーティング組成物を使用する際の、層の厚さの重大な役割が開示されている。国際公開第2010/058,026号パンフレットには、磁性粒子を含むインク・ビヒクルの多孔質基板による吸収を低減させるために、下塗層を使用することの利点が開示してある。
【0010】
硬化プロセス中に磁界内でコーティングを保持することにより、磁性粒子の配向を保持することができる。たとえば、米国特許第A−2,570,856号明細書には、磁性粒子を含むコーティングを形成するためのプロセスが教示されている。コーティングされた基板は、十分に乾燥して磁性粒子が再配向することなく磁界から取り外されるまで、磁界内に保持される。類似のプロセスが、国際公開第2008/153,679号パンフレットおよび米国特許第2,418,479号明細書に開示されている。
【0011】
しかし、前述のこれら文書の全ては、印刷用途に適していないプロセス、または工業印刷用途に求められる処理スピードをはるかに下回る速度で実行されるプロセスのいずれかを単に説明するだけである。
【0012】
国際公開第A−1998/56,596号明細書には、高分子基板に何らかの透かしを生成するための方法が開示してあり、この方法は、磁性粒子を配向させる前に基板を熱処理することを含む。次いで、組成物を最終的に冷却することにより、磁性粒子の配向が凝固することになる。
【0013】
国際公開第A−2004/007,095号明細書には、細長い薄板である基板上にセキュリティ機能を工業的に印刷するためのツールが開示されている。この装置は、磁性素子を担持するシリンダ、および、磁性シリンダの直後またはその上に配置された拡散乾燥用エネルギー源を備える。乾燥エネルギーは、熱エネルギーおよび/または光化学エネルギーでもよい。しかし、この装置にはいくつかの欠点が見られる。すなわち、
【0014】
(a)一方では、この装置が枚葉給紙プロセス用に使用されるとき、たとえば、シリンダ上でシートがずれ、滑り、曲がり、または波打って、シリンダから離れる際にシートの端が浮くことなど、特にシートの端において様々な機械的な問題が発生することがある。また、ツールの硬化装置は、これらの問題を解決しないし、枚葉給紙プロセスにおいてこれらの問題にどのように取り組むべきかを説明していない。
(b)他方では、硬化装置に関連する様々な問題が発生することがある。具体的には、
−達成すべき視覚効果に従って磁性粒子を最適に位置合わせする前に、硬化装置の拡散エネルギー源によってコーティングが十分に乾燥しないこともある。
−磁性シリンダ本体の上方にある拡散硬化エネルギー源が放出する熱から生じることがある、硬化プロセスの熱的な側面、および、たとえばコーティング組成物への効果などが問題を引き可能性がある。具体的には、熱により、コーティング組成物の粘度が低下し、したがって基板がコーティング組成物を吸収するのを助長することがある。したがって、エネルギー源が放出する熱は、磁性粒子の配向を乱し、したがって達成すべき視覚効果を乱すことがある。
−熱により、紙の水分含有量が低減し、したがって基板の寸法が変化し、したがって位置合わせの問題につながる。この影響は、紙基板および枚葉給紙プロセスで特に重要である。
−熱により、印刷機械の何らかの機械的な構成要素が膨張し、したがって位置合わせの問題またはミスアライメントの問題が生じることがある。
−熱エネルギーにより、磁界発生素子の特性が変化することがある。磁性材料の特性は、温度によって変化することが知られている。すなわち、強磁性およびフェリ磁性の材料での磁区のアラインメントは、温度が上昇するにつれて低下する。磁性材料は、キュリー温度と呼ばれる臨界温度まで過熱されると常磁性になる。キュリー温度は、材料に依存するパラメータである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、特にセキュリティ機能または装飾機能向けの磁気誘導された視覚効果を生成する改良された方式が必要であり、これにより前述の欠点を軽減し、または回避することさえある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明は、配向可能な磁性粒子を含むコーティングにおいて磁気誘導された視覚効果生成するための装置、システム、および方法に関する。具体的には、本発明は、配向可能な磁性粒子を含むセキュリティ機能または装飾機能の、工業印刷機械での印刷および硬化に関する。具体的には、印刷機械は枚葉給紙タイプでもよい。
【0017】
本発明の第1の態様によれば、請求項1による磁気誘導された視覚効果を生成するための装置が提供される。
【0018】
この装置は、印刷ユニット、配向手段、基板案内システム、および光硬化ユニットを備える。印刷ユニットは、配向可能な磁性粒子を含むコーティング組成物を用いて、基板の第1の面に画像を印刷するように構成される。配向手段は、印刷された画像のコーティング組成物において磁性粒子を配向させるための、少なくとも1つの磁界発生素子を備える。基板案内システムは、配向手段と接触している基板の第2の面を移動させて保持するように構成される。光硬化ユニットは、基板の第1の面に印刷された画像を照射して、画像のコーティング組成物を少なくとも部分的に硬化させるが、基板の第2の面は依然として配向手段に接触するように、配向手段に対して構成された放射源を備える。光硬化ユニットは、配向手段およびその少なくとも1つの磁界発生素子を、100℃を超える平均温度T1まで加熱しないよう、その熱放射エネルギーの放出が制限されるように構成される。この構成により、基板、印刷された画像、および装置自体への前述の悪影響を、実質的に低減または回避することができる。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、磁気誘導された視覚効果を生成するためのシステムが提供される。このシステムは、本発明の第1の態様による装置、および配向可能な磁性粒子を含むコーティング組成物を備える。
【0020】
本発明の第3の態様では、磁気誘導された視覚効果を生成するための方法が提供される。
【0021】
本発明の好ましい実施形態が、従属クレームに提示される。
【0022】
添付図面は、本明細書に組み込まれ、その一部分を構成しており、本発明のある種の態様を示しているが、本発明をそれらに限定するものではない。具体的には、各図には、少なくとも1つの磁界発生素子を備える円筒形本体の形で配向手段が提供され、基板が、1枚の紙、ポリマー、または複合材の基板など薄く細長い基板である、いくつかの実施形態が示してある。
【0023】
図1〜3には、本発明の実施形態による、磁性シリンダ本体、硬化ユニット、および上部に塗布されたコーティング組成物の画像を有する薄く細長い基板(シート)を示す概略断面図が示してある。具体的には以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】光硬化ユニットが紫外線LEDランプを備える一実施形態を示す。
図2】光硬化ユニットが、ダイクロイック・フィルタを装着した紫外線ランプを備える一実施形態を示す。
図3】光硬化ユニットが、導波管を装着した紫外線ランプを備える一実施形態を示す。
図4a】本発明の実施形態による、磁気誘導された視覚効果を生成するプロセスのある段階の相対的なタイミングの変化を示す図である。
図4b】本発明の実施形態による、磁気誘導された視覚効果を生成するプロセスの別の段階の相対的なタイミングの変化を示す図である。
図4c】本発明の実施形態による、磁気誘導された視覚効果を生成するプロセスの更に別の段階の相対的なタイミングの変化を示す図である。
図5】基板案内システムが1組のローラを備える、本発明の一実施形態の概略図である。
図6】基板案内システムが1組のブラシを備える、本発明の代替実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1から図4a〜4cには、本発明の好ましい実施形態が示してあり、配向可能な磁性粒子に基づいてセキュリティ機能および装飾機能を印刷し硬化させることにより、磁気誘導された視覚効果を生成するための装置が、磁性シリンダ上に配置された光硬化ユニットを備える。図5および6には、磁性シリンダに密に接触してコーティング組成物を担持する基板(シート)を保持する基板案内システムの様々な好ましい実施形態が示してある。
【0026】
ここで、「磁性シリンダ」という用語は、磁性粒子の配向を可能にして視覚効果を生成する、少なくとも1つの磁界発生素子をもつシリンダ本体を指す。このような磁界発生素子は、たとえば、欧州特許第1,641,624号明細書、欧州特許第1,937,415号明細書、米国特許出願公開第2010/0,040,845号明細書、または国際公開第2004/007,095号パンフレットに記載されてきた。
【0027】
磁性粒子を配向させるのに使用される1つまたは複数の磁界発生素子は、たとえば、ネオジミウム鉄ボロン、サマリウムコバルト、アルミニウムニッケルコバルト(アルニコ)合金、フェライト、または、磁性箔もしくはプラストフェライトなどの高分子結合磁石など、広範囲の磁性材料から組み立ててもよいが、それらには限定されない。このような材料は、たとえば、Maurer Magnetic AG社から市販されている。磁性材料用の商品カタログは通常、材料の最高使用温度を示している。最高使用温度は、材料に依存しており、材料のキュリー温度をはるかに下回っている。たとえばアルニコ合金においては、キュリー温度は約850℃であり、最高使用温度は約500℃である。ハード・フェライトにおいては、キュリー温度は約450℃であり、最高使用温度は約250℃である(Maurer Magnetic AGのカタログ参照)。高分子結合磁性材料においては、最高使用温度は、やはりポリマー化合物それ自体に依存する。したがって、プラストフェライトにおける最高使用温度は、通常80℃〜100℃の範囲にある。
【0028】
本発明によれば、磁性シリンダ本体の温度は、100℃を超えないように制限され、好ましくは、磁界発生素子の磁性材料の最高使用温度に達することさえないように制限される。したがって、磁性シリンダ本体の平均温度は、100℃未満、好ましくは70℃未満、最も好ましくは50℃未満でなければならない。これは、放射源を備える機器である光硬化ユニットを使用することによって達成され、このユニットは、装置の機械部品、この実施形態では具体的には磁性シリンダ本体および磁界発生素子を、100℃を超える平均温度T1まで加熱しないよう、動作中のその熱放射エネルギーの放出が制限されるように構成される。より好ましくは、光硬化ユニットは、装置および磁界発生素子の機械部品の平均温度が、動作中に温度T1≦100℃、またはより好ましくは温度T1≦70℃、または最も好ましくは温度T1≦50℃に維持できるように構成される。
【0029】
したがって、光硬化ユニットは、温度の影響を受けやすい磁性材料と両立することが可能であり、たとえば、前記基板の水分含有量が減少することによる基板寸法の変化を回避することにより、また装置の機械部品の熱膨張を回避することにより、基板と磁界発生素子との位置合わせおよびミスアライメントの問題を防止する。
【0030】
具体的には、光硬化ユニットは、図1に示すように、紫外線ランプ、好ましくは紫外線LEDランプを備えてもよい。図2に示すように、紫外線ランプには、紫外線スペクトル波長に対応する放射をコーティングされた基板に向けて導き、赤外線スペクトル波長に対応する放射をコーティングされた基板から逸らすよう導くように構成された少なくとも1つのダイクロイック反射器を備えてもよい。光硬化ユニットはまた、コーティングされた基板に向けて照射エネルギーを導く導波管を備えた紫外線ランプとして実装してもよい。
【0031】
光硬化ユニットが、温度T1を超えて磁性シリンダを加熱するために磁性シリンダに向けてそれほど多くの熱エネルギーを放出しない場合、多数の非常に様々な紫外線および/または可視域の光源が、光硬化ユニットの放射源として適している。照射中にシリンダ本体の温度をT1未満に維持するために、光源は、たとえば、前述の何らかのダイクロイック反射器装置および/または何らかの導波管ユニットを必要とすることがある。
【0032】
点光源、線光源、およびアレイ(「ランプのカーテン」)が、光硬化ユニットの放射源として適している。例としては、カーボン・アーク・ランプ、キセノン・アーク・ランプ、中圧、超高圧、高圧および低圧の水銀ランプ、場合によっては金属ハロゲン化ドープされた(金属ハロゲン・ランプ)、マイクロ波誘導金属蒸気ランプ、エキシマー・ランプ、超化学線蛍光管、蛍光ランプ、アルゴン白熱ランプ、電子フラッシュ・ライト、写真用フラッド・ランプ、ならびにレーザが挙げられる。ランプの例としては、たとえばIST METZグループなどの紫外線ランプ供給業者から知られている。
【0033】
好ましい光硬化ユニットは、LED(発光ダイオード)の可視光ランプもしくは紫外線ランプ、または導波管を装着した水銀ランプ、またはダイクロイック反射器を装着した水銀ランプを備え、少なくとも1つの前記ダイクロイック反射器が、紫外線スペクトル波長に対応する放射をコーティングされた基板に向けて導き、少なくとも1つの前記ダイクロイック反射器が、赤外線スペクトル波長に対応する放射をコーティングされた基板から逸らすように導く。最も好ましい光硬化ユニットは、たとえば、Phoseon Technologyから供給されるLED紫外線ランプである。ダイクロイック反射器の例としては、たとえばIST METZグループなどの紫外線ランプ供給業者から知られている。
【0034】
光硬化ユニットは、配向可能な板状磁性粒子を含むコーティング組成物を完全に硬化させるためか、または代替的に、基板が磁性シリンダから取り外されるとき、かつ/または取り外された後に、配向された磁性粒子が完全にもしくは部分的にその配向を失うことを防止するような粘度にまで、コーティング組成物をほんの部分的に硬化させるための、いずれかに使用してもよい。コーティング組成物をほんの部分的に硬化させる場合、この硬化は、このコーティング組成物に追加の熱処理および/または光化学処理を実行することにより、基板が磁性シリンダから取り外された後に完了する。
【0035】
本明細書では、「配向可能な磁性粒子」という用語は、磁界内で配向させて、セキュリティ機能または装飾機能として使用される視覚効果を生成することができる粒子を指す。ここで「配向可能な磁性粒子」は、好ましくは磁性非球面粒子であり、より好ましくは磁性針状粒子であり、最も好ましくは磁性板状粒子である。
【0036】
さらに、好ましい配向可能な磁性粒子は、やはり反射する粒子である。本明細書において、「反射性粒子」という用語は、高い反射率効果を生み出す粒子である。高い反射率を実現する粒子は、欧州特許第1,305,373号明細書または米国特許第7,449,239号明細書に記載されているように、可視スペクトルにわたって高い正反射率成分を有する。反射性粒子は、たとえば米国特許第4,321,087号明細書もしくは米国特許第6,929,690号明細書に記載されているように、具体的には金属製粒子であり、または反射性粒子は、たとえば米国特許第6,838,166号明細書に開示されているように、干渉性の多層板状粒子である。
【0037】
本明細書では、「配向可能な反射性磁性粒子」という用語には、それだけには限定されないが、たとえば国際公開第2003/000,801号パンフレットもしくは国際公開第2002/090,02号パンフレットに開示されている、配向可能な光学的に可変の板状磁性粒子、または米国特許第6,838,166号明細書に開示されている配向可能な反射性磁性粒子が含まれる。
【0038】
したがって、本発明によれば、好ましい配向可能な磁性粒子は、配向可能な反射性板状磁性粒子である。本発明の最も好ましい実施形態では、配向可能な反射性板状磁性粒子は、配向可能な光学的に可変の反射性板状磁性粒子である。
【0039】
任意選択的に、本発明のコーティング組成物は、様々な配向可能な反射性磁性粒子の混合物を含んでもよく、より好ましくは、少なくとも1つのタイプの配向可能な光学的に可変の反射性板状磁性粒子を含む混合物を含んでもよい。本発明において使用される磁気インクは、たとえば国際公開第A−2003/000,801号明細書または国際公開第02/073,250号パンフレットで知られている。
【0040】
任意選択的に、コーティング組成物はまた、配向可能な反射性磁性粒子に加えて、または様々な配向可能な反射性磁性粒子の混合物に加えて、色付きもしくは無色の磁性顔料粒子、光学的に可変の、または色付きもしくは無色の非磁性顔料粒子からなるグループから選択されるさらなる顔料粒子を含んでもよい。
【0041】
コーティング組成物は、国際公開第2007/131,833号パンフレット、または欧州特許第B−2,024,451号明細書に記載されているように配合してもよく、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷、またはグラビア印刷によって付着されることが好ましい。
【0042】
磁性粒子の配向は、国際公開第2004/007,095号パンフレット、国際公開第2005/002,866号パンフレット、国際公開第2008/009,569号パンフレット、または国際公開第2008/046,702号パンフレットで知られているように、それ相応に構成された磁界を加えることによって実行できることが好ましい。
【0043】
図4a〜cに示すように、磁気誘導された視覚効果を生成するためのプロセスの順序は、以下のステップによって定義することができる。すなわち、
−時刻t0以前:配向可能な磁性粒子を含むコーティング組成物を用いて、基板の第1の面に画像が印刷される。
−時刻t0:印刷された画像(104)とは反対側の基板の面が、磁性素子(101)を備える配向手段と接触するように移動され、配向可能な磁性粒子を含むコーティング組成物が、依然として濡れている段階である。磁性粒子の配向は、時刻t0に開始する。
−時刻t1:光硬化ユニットによる、印刷された画像(104)の照射が開始する。t0とt1の間の時間差は、セキュリティ機能または装飾機能などを作成するために磁性粒子の配向を実行するのに必要となる時間である。
−時刻t2:t2は、基板上に印刷された画像(104)が、配向ユニットすなわちここでは磁性シリンダ本体から解放される時刻として定義される。
−時刻t3:基板上に印刷された画像が、照射域から離れる。時刻t3は、時刻t2の前でも、同時でも、または後でもよい。
【0044】
光硬化ユニットは、具体的には、配向手段の上側、すなわち図示した実施形態では磁性シリンダの上に配置してもよい。ここで、光硬化ユニットが磁性シリンダの「上側」に配置されていることは、光硬化ユニットと磁性シリンダの相対位置が、コーティングされた基板上への印刷された画像の照射が時刻t1からt3の間で発生するようになっていることを意味する。
【0045】
図4a〜cでは、位置x0は、基板(103)がシリンダ本体に直接接触するようになる位置に対応する横座標である。時刻t0は、基板(103)上に印刷された所与の画像(104)が位置x0にある瞬間である。
【0046】
位置x1は、基板が照射域に入る位置に対応する横座標である。時刻t1は、前記印刷された画像が位置x1に達する瞬間である。
【0047】
位置x2は、基板がシリンダ本体から解放される位置に対応する横座標である。時刻t2は、前記印刷された画像(104)が位置x2にある瞬間である。
【0048】
位置x3は、照射域が終了する位置に対応する横座標である。時刻t3は、印刷された画像が位置x3にある瞬間であり、これは印刷された画像が照射域を離れる時を意味する。
【0049】
前記印刷された画像(104)の配向可能な磁性粒子は、座標x0および時刻t0において基板(103)がシリンダ本体(100)に接触するようになるとき、磁界発生素子(101)によって配向が開始する。画像が時刻t1において座標x1に達するとき、配向可能な磁性粒子は、視覚機能の最適なアラインメントに従って配向され、光硬化ユニット(102)からの照射によって硬化が開始する。基板は、位置x2に達すると、シリンダ本体(100)から解放される。
【0050】
位置x3は、x2に対して3つの異なる位置に配置してもよい。すなわち、x3は、x2の前(x3(1)、図4a)、またはx2と同じ位置(x3(2)、図4b)、またはx2の後(x3(3)、図4c)のいずれかに配置される。それに応じて、時刻t3は、装置の構成に応じて、時刻t2に対して前、同時、または後でもよい。
【0051】
本発明は、具体的には、コーティング組成物を吸収する傾向がある基板上への、配向可能な板状磁性粒子を含むコーティング組成物の印刷および硬化に有利である。図4a〜cに示すように、配向可能な板状磁性粒子が配向した直後に、コーティング組成物の部分的または完全な乾燥(硬化)を実行することができる。したがって、国際公開第2004/007,095号パンフレットに例示した最新技術のプロセスと比較して、本発明によるプロセスでの期間がはるかに短い場合には、コーティング組成物は濡れたままである。したがって、基板によるコーティング組成物の吸収を、強力に低減させることができる。
【0052】
本明細書において、「基板案内システム」は、配向手段、すなわちここでは磁性シリンダと密接に接触している基板(たとえばシート)を保持する装置を指す。
【0053】
既知の印刷機械では通常、基板は、逆圧シリンダによって様々な印刷シリンダと密接に接触して保持される。
【0054】
しかし、配向可能な磁性粒子の印刷においては、基板表面上のインクが依然として濡れている間は、磁性シリンダに逆圧シリンダを使用することができないことがある。したがって、基板(シート)は、代わりにグリッパおよび/または真空システムによって、配向手段上で保持してもよい。具体的には、グリッパは、シートの前縁を保持し、シートが印刷機械のある部分から次の部分へと移動できるようにするという目的に適い、真空システムは、配向手段の表面に対してシートの表面を引っ張り、このシートの表面を真空システムにしっかりと位置合わせした状態で維持する働きをすることができる。それにもかかわらず、特に、基板がシートである場合にシートの後続端において、磁性シリンダへの基板(シート)の配置に関連するいくつかの機械的な問題が発生することがある。すなわち、シートは横方向もしくは基板が移動する方向にずれ、または滑ることがあり、またはシートはシリンダ上で折り重なることがあり、またはシートはシリンダ上に隆起を形成することがあり、またはシートは特にその縁部で浮くこともある。したがって、本発明のさらに好ましい実施形態によれば、基板案内システムは、グリッパおよび/もしくは真空システムに加えて、またはそれに代えて、ローラもしくは狭いローラでもよい1組のローラ(図5)、ブラシもしくは1組のブラシ(図6)、ベルトおよび/もしくは1組のベルト、刃もしくは1組の刃、または、ばねもしくは1組のばねなど、限定することなく、基板案内装置の他の部品を備えてもよい。
【0055】
コーティングは、紙、不透明なまたは不透明にされたポリマー基板、および透明なポリマー基板を含め、広範囲の様々な基板に塗布することができる。本発明は、濡れたコーティング組成物を吸収する傾向にある基板を使用するとき、特に有利である。具体的には、本発明は、配向可能な板状磁性粒子を含むコーティング組成物を、銀行券または貴重な文書に使用される紙に印刷および硬化するのに使用されることが有利である。銀行券もしくは他の貴著な文書を保護するためのセキュリティ要素として、または物品を飾るための装飾要素として、特にコーティング内の磁気誘導された画像を使用することができる。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5
図6