特許第6014904号(P6014904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014904
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】ERAP1由来ペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161013BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20161013BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20161013BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20161013BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20161013BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20161013BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20161013BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K7/08
   C07K7/06
   A61K37/02
   A61P35/00
   A61K48/00
   A61K31/7088
   A61P43/00 105
【請求項の数】14
【全頁数】103
(21)【出願番号】特願2013-526881(P2013-526881)
(86)(22)【出願日】2012年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2012069131
(87)【国際公開番号】WO2013018690
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2015年6月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-167171(P2011-167171)
(32)【優先日】2011年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502240113
【氏名又は名称】オンコセラピー・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】片桐 豊雅
(72)【発明者】
【氏名】角田 卓也
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−500003(JP,A)
【文献】 日本癌学会学術総会記事, 2008.09.30, Vol.67th, p.309
【文献】 Cancer Sci., 2009.08, Vol.100, No.8, p.1468-1478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位を含み、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害するペプチドであって、
前記結合部位が配列番号:35に記載のアミノ酸配列における165番目のグルタミン、169番目のアスパラギン酸及び173番目のグルタミンであり、かつ、
以下の(a)又は(b)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むペプチド:
(a)配列番号:31に記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号:31に記載のアミノ酸配列において1番目のグルタミン、5番目のアスパラギン酸及び9番目のグルタミン以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列
【請求項2】
以下の(a)〜(d)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む請求項に記載のペプチド:
(a)配列番号:27に記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号:27に記載のアミノ酸配列において1番目のグルタミン、5番目のアスパラギン酸及び9番目のグルタミン以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;
(c)配列番号:30に記載のアミノ酸配列;及び
(d)配列番号:30に記載のアミノ酸配列において5番目のグルタミン、9番目のアスパラギン酸及び13番目のグルタミン以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列。
【請求項3】
50残基以下のアミノ酸残基からなる、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
細胞膜透過性物質により修飾されている、請求項1〜のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
以下の(i)及び(ii)のいずれか一方又は両方の性質を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載のペプチド:
(i)ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、PHB2ポリペプチドの核内移行を促進する;及び
(ii)ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、核内及び/又は細胞膜に存在するエストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合を促進する。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、医薬組成物。
【請求項9】
癌を治療及び/又は予防するための、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
癌がエストロゲン受容体陽性である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
癌が乳癌である、請求項9又は10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
癌がタモキシフェン耐性である、請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜のいずれか一項に記載のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ホルモン療法剤の癌治療効果を増強するための医薬組成物。
【請求項14】
請求項1〜のいずれか一項に記載のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、エストロゲン受容体陽性細胞におけるエストロゲン受容体の活性化を抑制するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ERAP1由来ペプチド及びその治療的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の女性において最も多い癌である乳癌の多くはホルモン(エストロゲン:E2)依存性であり、その受容体(エストロゲン受容体:ER)の活性化を通じて増殖促進する。ER活性化による乳癌増殖機構には、転写制御因子としてERが機能するもの(ゲノム的活性化)と細胞膜に局在する膜型ERとして細胞内リン酸化カスケードの活性化に関与するもの(非ゲノム的活性化)とが報告されている(非特許文献1-3)が、ER活性化の分子機構は未だ不明な点が多い。
【0003】
また、抗エストロゲン剤であるタモキシフェン(TAM)は、術後補助療法や進行・再発乳癌の標準治療として顕著に生存率を向上させてきたが、ER陽性乳癌の約30%はTAM不応性である。またTAMは術後補助療法として、5年間投与が標準治療となっており、この長期使用による乳癌細胞の耐性獲得が深刻な問題となっている(非特許文献1-3)。このTAM不応性・耐性のメカニズムについては、エストロゲン感受性の亢進並びにEGFR、HER2及びIGFRなどの膜型受容体と増殖因子関連シグナル経路とのクロストークなどの機序が報告されている(非特許文献1-3)が、依然不明な点が多い。また、近年、アロマターゼ阻害剤やLH-RHアゴニスト製剤も乳癌治療に使用されているが、これらの薬剤はエストロゲン産生を抑制することから、エストロゲン量の低下による骨密度低下等の副作用が報告されている。以上のことから、E2依存性乳癌のER活性化制御機構の解明およびE2依存性乳癌に対する新規治療薬の開発は喫緊の課題である。
【0004】
本発明者らは、これまでにcDNAマイクロアレイを用いた乳癌の網羅的遺伝子発現解析を通じて、乳癌特異的に高頻度に高発現を認める新規ER活性化制御分子ERAP1(Estrogen Receptor Activity-regulated Protein 1/別名BIG3)を同定している(特許文献1、非特許文献4)。詳細な機能解析により、ERAP1は、ER陽性乳癌細胞において、細胞質内でER活性化抑制因子であるPHB2/REAタンパク質(prohibitin2/Repressor of Estrogen Activity)と結合することによりPHB2/REAのE2依存性的な核内移行を阻害し、その結果、PHB2/REAのERα活性化抑制機能を阻害して、乳癌細胞におけるERの恒常的活性化を導く可能性が示されている(特許文献1、非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/018642
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Osborne CK, Schiff R. J Clin Oncol. 2005; 23:1616-22.
【非特許文献2】Yager JD, Davidson NE. N Engl J Med. 2006; 354:270-82.
【非特許文献3】Johnston SR. Clin Cancer Res. 2010; 16:1979-87.
【非特許文献4】Kim JW, Akiyama M, Park JH, et al. Cancer Sci. 2009; 100:1468-78.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乳癌などの治療に有用なペプチドと、その乳癌治療への応用の提供を課題とする。また、本発明は、乳癌などの癌の治療及び又は予防に有用な薬剤の候補物質をスクリーニングするための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、PHB2との結合部位を含むERAP1のペプチド断片(ERAP1ペプチド)が、ERAP1とPHB2との結合を阻害し、その結果、PHB2の核内移行を導いてPHB2によるER転写活性化の抑制をもたらすことを見出した。さらに、ERAP1と解離したPHB2が細胞膜ERと結合することにより、Akt経路及びMAPK経路の活性化並びに核内ERのリン酸化が抑制されることを確認した。以上より、ERAP1ペプチドは、ERのゲノム的活性化経路及び非ゲノム的活性化経路の両方を抑制することが確認された。また、ERAP1ペプチドは、ER転写活性化に必須であるERのユビキチンプロテアソームによるタンパク質分解による下方制御(down-regulation)も抑制し、ER転写活性化を完全に抑制することが確認された。さらに、ERAP1ペプチドはER陽性乳癌細胞のエストロゲン依存的な細胞増殖を抑制した。また、乳癌細胞同所移植マウスを用いた試験においても、ERAP1ペプチドは抗腫瘍効果を示した。以上の結果より、ERAP1ペプチドは、エストロゲン依存性乳癌に対する抗腫瘍効果を有することが確認された。また、本発明者らは、ERAP1ペプチドが、エストロゲン受容体陽性乳癌細胞の非エストロゲン依存的細胞増殖に対しても抑制効果を有することを見出した。さらに、ERAP1ペプチドはタモキシフェン耐性乳癌細胞の細胞増殖を抑制することを見出した。また、ERAP1ペプチドとタモキシフェンとを併用すると、それぞれ単独で使用するよりも、より高い抗腫瘍効果が得られることを確認した。
【0009】
また、本発明者らは、PHB2のSer39のリン酸化がエストロゲン依存的な細胞増殖の抑制に重要であることを見出した。PHB2のSer39におけるリン酸化は、ERAP1を介して間接的に結合したPP1αにより脱リン酸化されることが確認された。さらに、PP1αのホスファターゼ活性は、PKA及びPKBによるERAP1のリン酸化により制御されていることを確認した。これらの結果は、ERAP1とPKA、PKBまたはPP1αとの結合が、エストロゲン依存的な細胞増殖に重要な役割を果たすことを示す。
【0010】
さらに、本発明者らは、ERAP1ペプチドが、エストロゲン受容体陰性乳癌細胞の増殖も抑制することを確認した。
【0011】
本発明は以上のような知見に基づくものであり、以下[1]〜[26]に関する:
[1] ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位を含み、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害するペプチド;
[2] 前記結合部位が配列番号:35に記載のアミノ酸配列における165番目のグルタミン、169番目のアスパラギン酸及び173番目のグルタミンである、[1]に記載のペプチド;
[3] 以下の(a)又は(b)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む[2]に記載のペプチド:
(a)配列番号:31に記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号:31に記載のアミノ酸配列において1番目のグルタミン、5番目のアスパラギン酸及び9番目のグルタミン以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;
[4] 以下の(a)〜(d)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む[3]に記載のペプチド:
(a)配列番号:27に記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号:27に記載のアミノ酸配列において1番目のグルタミン、5番目のアスパラギン酸及び9番目のグルタミン以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;
(c)配列番号:30に記載のアミノ酸配列;及び
(d)配列番号:30に記載のアミノ酸配列において5番目のグルタミン、9番目のアスパラギン酸及び13番目のグルタミン以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;
[5] 50残基以下のアミノ酸残基からなる、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のペプチド;
[6] 細胞膜透過性物質により修飾されている、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のペプチド;
[7] 以下の(i)及び(ii)のいずれか一方又は両方の性質を有する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のペプチド:
(i)ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、PHB2ポリペプチドの核内移行を促進する;及び
(ii)ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、核内及び/又は細胞膜に存在するエストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合を促進する。
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド;
[9] [8]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター;
[10] [1]〜[7]のいずれか一項に記載のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、および該ペプチドの薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む、医薬組成物;
[11] 癌を治療及び/又は予防するための、[10]に記載の医薬組成物;
[12] 癌がエストロゲン受容体陽性である、[11]に記載の医薬組成物;
[13] 癌が乳癌である、 [12]に記載の医薬組成物;
[14] 癌がタモキシフェン耐性である、[12]又は[13]に記載の医薬組成物;
[15] [1]〜[7]のいずれか一項に記載のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ホルモン療法剤の癌治療効果を増強するための医薬組成物;
[16] [1]〜[7]のいずれか一項に記載のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、エストロゲン受容体陽性細胞におけるエストロゲン受容体の活性化を抑制するための医薬組成物;
[17] [1]〜[7]のいずれか一項に記載のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与する工程を含む、癌を治療及び/又は予防する方法;
[18] ホルモン療法剤を対象に投与する工程をさらに含む、[17]に記載の方法;
[19] 以下の(a)及び(b)工程を含む、対象において、ホルモン療法剤の乳癌治療効果を増強する方法:
(a)ホルモン療法剤を対象に投与する工程;及び
(b)[1]〜[7]のいずれか一項に記載のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与する工程;
[20] [1]〜[7]のいずれか一項に記載のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドをエストロゲン受容体陽性細胞と接触させる工程を含む、エストロゲン受容体の活性化を抑制する方法。
[21] 乳癌を有する対象の予後を判定する方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を含む方法:
(a)該対象から採取された生体試料において、ERAP1遺伝子の発現レベルを検出する工程;
(b)工程(a)で検出された発現レベルを対照レベルと比較する工程;及び
(c)工程(b)の比較に基づいて、該対象の予後を判定する工程。
[22] 前記対照レベルが良好な予後対照レベルであり、かつ該対照レベルに対する前記発現レベルの増大が予後不良と判定される、[21]に記載の方法。
[23] 前記発現レベルが、以下の(a)又は(b)いずれか1つの方法によって求められる、[21]又は[22]に記載の方法:
(a)ERAP1ポリペプチドをコードするmRNAを検出すること;
(b)ERAP1ポリペプチドを検出すること。
[24] 癌細胞の増殖を抑制するため、又は癌を治療及び/若しくは予防するための候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)試験物質の存在下で、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を、PKAポリペプチド、PKBポリペプチド若しくはPP1αポリペプチド、またはそれらの機能的等価物と接触させる工程;
(b)(a)における前記ポリペプチド間の結合レベルを検出する工程;及び
(c)試験物質の非存在下で検出される結合レベルと比較して、前記ポリペプチド間の結合レベルを低下させる試験物質を、癌細胞の増殖を抑制するため、又は癌を治療及び/若しくは予防するための候補物質として選択する工程。
[25] 癌がエストロゲン受容体陽性である、[24]に記載の方法。
[26] 癌が乳癌である、[24]又は[25]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、癌、特にエストロゲン受容体陽性の癌の治療及び/又は予防に有用なERAP1ペプチドが提供された。本発明のERAP1ペプチドにより、癌、より具体的にはエストロゲン受容体陽性の癌の治療あるいは予防のための医薬組成物が提供される。本発明のERAP1ペプチドによる治療効果が期待できる癌には、エストロゲン依存性乳癌が含まれる。現在、新たな治療技術が待たれていたエストロゲン依存性乳癌に対して、本発明は、新しいメカニズムによる治療技術を実現した。
【0013】
また、本発明により、癌、特にエストロゲン受容体陽性の癌の治療及び/又は予防に有用な薬剤の候補物質をスクリーニングするための方法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1-1】細胞透過性ERAP1ペプチドがPHB2に結合し、ERAP1とPHB2との相互作用を阻害することを示す。(A)ヒトERAP1とその末端領域のいずれかを欠失させた3つのFlag-ERAP1断片クローンの模式図である。(B)ERAP1のPHB2結合領域を同定したイムノブロットの結果を示す。COS-7細胞をPHB2コンストラクトと一緒に図中に示すERAP1コンストラクト(全長ERAP1、ERAP11-434, ERAP1435-2177, ERAP11468-2177)のいずれかをトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、細胞を溶解し、抗Flag抗体を用いてFlagタグ化ERAP1を細胞溶解物から免疫沈降した。免疫沈降されたタンパク質及び細胞溶解物(input)を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析(IB)した。
図1-2】細胞透過性ERAP1ペプチドがPHB2に結合し、ERAP1とPHB2との相互作用を阻害することを示す。(C) ERAP11-434のFlag-ERAP1断片クローンとERAP11-434のC末端領域を欠失させた2つのFlag-ERAP1断片クローンの模式図である。(D)ERAP11-434においてPHB2との結合領域を同定したイムノブロットの結果を示す。COS-7細胞にPHB2コンストラクトと一緒に(C)に示したERAP1コンストラクト(ERAP11-434、 ERAP11-250, ERAP11-100)のいずれかをトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、細胞を溶解し、抗Flag抗体を用いてFlagタグ化ERAP1を細胞溶解物から免疫沈降した。免疫沈降されたタンパク質及び細胞溶解物(input)を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析(IB)した。
図1-3】細胞透過性ERAP1ペプチドがPHB2に結合し、ERAP1とPHB2との相互作用を阻害することを示す。(E)ERAP1欠損体がERAP1とPHB2との相互作用を阻害することを示すイムノブロットの結果である。COS-7細胞にFlag-全長ERAP1、HA-PHB2コンストラクト、及び図中に示した濃度のERAP1欠損体コンストラクト(ΔERAP1:ERAP11-434)をトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、細胞を溶解し、抗HA抗体を用いてHAタグ化PHB2を細胞溶解物から免疫沈降した。免疫沈降されたタンパク質及び細胞溶解物(input)を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。(F) ERαの転写活性におけるERAP1欠損体の阻害効果を評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。COS-7細胞にΔERAP1、全長ERAP1、PHB2、ERα及びERE-ルシフェラーゼベクターの各プラスミドをトランスフェクトすると同時に、1 μM E2で48時間刺激した。データは非処理細胞での値を1としたときの倍数で表されており、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P <0.01。
図1-4】細胞透過性ERAP1ペプチドがPHB2に結合し、ERAP1とPHB2との相互作用を阻害することを示す。(G)PISVERソフトウェアによって予測された相互作用部位とmutant ERAP1コンストラクトの配列を示す。PISVERソフトフェア上の(+)は、デフォルトの閾値の0.39以上であるアミノ酸残基を示し、太字のアミノ酸残基はERAP1とPHB2との間の相互作用に関して最高スコア(>=0.6)を示したアミノ酸残基を表す。(H)ERAP1の予測三次元構造における推定PHB2結合部位(Q165, D169, Q173)を示す。(I)ERAP1におけるPHB2結合領域を評価したイムノブロットの結果を示す。
図1-5】細胞透過性ERAP1ペプチドがPHB2に結合し、ERAP1とPHB2との相互作用を阻害することを示す。(J)ERAP-1 peptide、ERAP1-scramble peptide及びERAP1-mutant peptideの配列を示す。(K)MCF-7細胞(上図)及びKPL-3C細胞(下図)においてERAP1-PHB2相互作用に及ぼすERAP1-peptideの阻害効果を示した図である。MCF-7細胞又はKPL-3C細胞は10μMのERAP1-peptide(Pep)、ERAP1-scramble peptide(Scr)又はERAP1-mutant peptide(Mut)で処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。これらの細胞の細胞溶解物を図に示す抗体又はnormal rabbit IgGを用いて免疫沈降した後、抗ERAP1抗体又は抗PHB2抗体にてイムノブロットを行った。
図2】ERAP1-peptideのPHB2への結合を評価したイムノブロットの結果を示す。Flagタグ化ERAP1プラスミドで一過性にトランスフェクトされたCOS-7細胞の細胞溶解物を、6xHisタグ化組換えPHB2タンパク質(10μg)及び図中に示す各濃度のERAP1-peptide、ERAP1-scramble peptide又はERAP1-mutant peptideと共に1時間インキュベートした。その後、His-PHB2をNi-NTAアガロース(Ni-resin)を用いてpull-downした。
図3-1】ERAP1-peptide処理がPHB2の核移行を促進することを示す。(A)ERAP1とPHB2の局在を検出したイムノブロットの結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptide及び/又は10nM E2で24時間刺激した。比重遠心により細胞をミトコンドリア画分、細胞質画分及び核画分に分画し、抗ERAP1抗体及び抗PHB2抗体を用いたイムノブロット解析に供した。PRDX3、α/β-Tublin(Tublin)及びlamin Bは、それぞれミトコンドリア画分、細胞質画分及び核画分のマーカーである(上図)。各画分のタンパク質含量はクマシー染色したSDS-PAGEゲルにより評価した(下図)。(B)PHB2の細胞内局在を検出したイムノブロットの結果を示す。10μM HAタグ化ERAP1-peptide及び/又は10nM E2で24時間KPL-3C細胞を処理した後、比重遠心により細胞質画分及び核画分に分画し、抗ERα抗体、抗ERAP1抗体又は抗PHB2抗体を用いて各画分を免疫沈降した。その後、図中に示す各抗体(抗ERAP1抗体、抗ERα抗体、抗PHB2抗体及び抗HA抗体(Peptide))にてイムノブロットを行った。α/β-Tubulin(Tublin)及びLamin Bは、それぞれ細胞質画分及び核画分のマーカーである。
図3-2】ERAP1-peptide処理によるPHB2核移行の促進効果とER転写活性化の抑制効果を示す。(C)ERAP1-peptide(HAタグ化ERAP1-peptide)及びPHB2の局在性を示す代表的な免疫細胞染色画像である。MCF-7細胞を10nM E2の存在下又は非存在下において10μM HAタグ化ERAP1-peptideで24時間処理した。固定化後、細胞を抗HA抗体、抗PHB2抗体及びDAPI(核を判別するため)を用いた免疫蛍光染色に供した。矢印は核に移行したERAP1-peptideを示す。(D)ERAP1-peptideの阻害効果を評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。ERE-ルシフェラーゼレポーターベクターで一過性にトランスフェクトしたMCF-7細胞を図に示した濃度のHAタグ化ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。TAMはタモキシフェン処理を示す。データは非処理細胞での値を1としたときの比率で表されており、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P <0.01;***P <0.001。
図3-3】ERAP1-peptideの阻害効果を評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。ERE-ルシフェラーゼレポーターベクター(E)又はAP-1-ルシフェラーゼレポーターベクター(F)で一過性にトランスフェクトしたMCF-7細胞を、図に示した濃度のERAP1-peptide、scramble peptide又はmutant peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。TAMはタモキシフェン処理を示す。データは非処理細胞での値を1としたときの比率で表されており、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。***P <0.001;NS,有意差なし(no significance)。
図3-4】ERAP1-peptide処理によるER転写活性化の抑制効果とクロマチン再構成複合体の再構成を示す。(G)ERAP1-peptideの阻害効果を評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。ERE-ルシフェラーゼレポーターベクターで一過性にトランスフェクトしたKPL-3C細胞を、図に示した濃度のERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。TAMはタモキシフェン処理を示す。データは非処理細胞での値を1としたときの比率で表されており、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P <0.01;***P <0.001。(H)ERAP1-peptideの添加によるクロマチン再構成複合体の再構成を調べたイムノブロットの結果を示す。ERAP1-peptide及び/又はE2で24時間KPL-3C細胞を処理した後、抗ERα抗体又は抗PHB2抗体を用いて核画分を免疫沈降し、免疫沈降物を図に示した抗体を用いたイムノブロット解析に供した。
図4-1】ERAP1-peptideがPHB2の核移行を促進することを示す。(A)上図はPHB2の細胞内局在を示す代表的な免疫細胞染色画像である。10μM ERAP1-peptide又はERAP1-scramble peptideでMCF-7細胞を処理し、続いて10nM E2で処理した。固定化後、抗PHB2抗体及びDAPI(核を判別するため)を用いて細胞を蛍光免疫染色した。矢印は核移行したPHB2を示す。下図は核におけるPHB2シグナル強度の統計解析データを示す。データは非処理細胞での値を1としたときの比率で表されており、4回の独立した実験の平均値±SEを表す。*P <0.05;**P <0.01;***P <0.001。
図4-2】ERAP1-peptideがPHB2の核移行を促進することを示す。(B)PHB2の細胞内局在を検出したイムノブロットの結果を示す。ERAP1-peptide又はERAP1-scramble peptideでMCF-7細胞を処理し、続いて直ちに10nM E2で処理した。その1時間又は24時間後、細胞質画分と核画分に細胞を分画し、各画分を抗ERα抗体、抗ERAP1抗体又はPHB2抗体を用いて免疫沈降し、図中に示す各抗体にてイムノブロットを行った。α/β-Tublin(Tublin)及びLamin Bは、それぞれ細胞質画分及び核画分のマーカーである。
図4-3】ERAP1-peptideがPHB2の核移行を促進することを示す。(C, D)ERα転写活性におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。ERE-ルシフェラーゼレポーターベクター(C)又はAP-1-ルシフェラーゼレポーターベクター(D)を一過性にトランスフェクトしたMCF-7細胞を、図に示した濃度のERAP1-peptide又は10nM タモキシフェンで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。データは非処理細胞での値を1としたときの比率で表されており、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P <0.01;***P <0.001。
図4-4】ERAP1-peptideがPHB2の核移行を促進することを示す。(E)ERAP1-peptideによるクロマチン再構成複合体の変換を示したイムノブロットの結果を示す。ERAP1-peptide及び/又は10nM E2で24時間MCF-7細胞を処理した後、抗ERα抗体又は抗PHB2抗体を用いて核画分を免疫沈降し、免疫沈降物を図に示した抗体を用いたイムノブロット解析に供した。(F)ERAP1-peptide処理により形成されたクロマチン再構成複合体の脱アセチル化アッセイの結果を示す。ERAP1-peptide及び/又はE2で24時間MCF-7細胞を処理した後、細胞溶解物を抗PHB2抗体にて免疫沈降し、免疫沈降物におけるHDAC活性を市販キットにて測定した。HeLa細胞からの核抽出物及びPBSをポジティブコントロール(P)及びネガティブコントロール(N)としてそれぞれ用いた。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。
図4-5】ERAP1-peptideがPHB2の核移行を促進することを示す。(G)E2依存的なERαの下方制御(down-regulation)におけるERAP1-peptideの阻害効果を示す。ERAP1-peptide及び/又はE2で図中に示す様々な時間処理した後、ERαの発現を、ウェスタンブロッティング(上図:Protein)及び半定量的RT-PCR(下図:mRNA)により、タンパク質レベル及びmRNAレベルでそれぞれ求めた。β-アクチンはそれぞれのローディングコントロールである。(H)ERαのポリユビキチン化におけるERAP1-pepitdeの効果を示す。1μM MG-132の存在下で、1時間、ERAP1-peptide及び/又はE2でMCF-7細胞を処理した後、細胞溶解物を抗ERα抗体にて免疫沈降し、図に示した抗体を用いてイムノブロット解析を行った。
図5】ERαのポリユビキチン化及びプロテアソーム分解による下方制御(down-regulation)におけるERAP1-peptideの効果を評価したイムノブロットの結果を示す。上図は、ERAP1-peptide及び/又は10nM E2で1時間KPL-3C細胞を処理した後、ウェスタンブロッティング及び半定量的RT-PCRにより、ERαのタンパク質レベル及びmRNAレベルを調べた結果を示す。β-アクチンはローディングコントロールである。下図は、1μM MG-132の存在下で、1時間、ERAP1-peptide及び/又はE2でKPL-3C細胞を処理した後、細胞溶解物を抗ERα抗体で免疫沈降し、図に示した抗体を用いてイムノブロット解析を行った結果を示す。
図6-1】ERAP1-peptide処理が乳癌細胞株のERα依存的細胞増殖を抑制することを示す。(A,B)E2依存的細胞増殖におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。MCF-7細胞をERAP1-peptide(A, B)、ERAP1-scramble peptide(B)又はERAP1-mutant peptide(B)で処理し、その後直ちに10nM E2で図中に示す様々な時間(A)又は24時間(B)刺激した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。***P <0.001;NS,有意差なし(no significance)。(C)ERα及びERAP1陰性である乳腺上皮細胞、MCF-10Aの増殖においてはERAP1-peptideの効果がないことを示したMTTアッセイの結果を示す。細胞を図に示した濃度のERAP1-peptideで24時間処理し、細胞増殖を評価した。
図6-2】ERAP1-peptide処理が乳癌細胞株のERα依存的細胞増殖を抑制することを示す。(D)細胞周期におけるERAP1-peptideの効果を示したFACS解析の結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptide又は10nM タモキシフェンで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。固定化後、ヨウ化プロピジウムで細胞を染色し、フローサイトメトリーにより解析した。
図6-3】ERAP1-peptide処理が乳癌細胞株のERα依存的細胞増殖を抑制することを示す。(E)遺伝子発現におけるERAP1-peptideの効果を評価したリアルタイムPCRの結果を示す。MCF-7細胞を上記のようにERAP1-peptide及び/又はE2で処理した。RNA抽出及びcDNA合成後、遺伝子発現を評価した。データは0時間での値を1.0としたときの比率で表されており、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P <0.01;***P <0.001。
図7-1】ERAP1-peptide処理が乳癌細胞株のERα依存的細胞増殖を抑制することを示す。(A)KPL-3C細胞の増殖におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。KPL-3C細胞をERAP1-peptide、scramble peptide又はmutant peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。***P <0.001;NS,有意差なし(no significance)。(B)ERAP1-peptideでの長期間にわたる処理を評価したMTTアッセイの結果を示す。図に示した濃度のERAP1-peptideでMCF-7細胞を処理し、その後直ちに10nM E2で刺激した。その後、ERAP1-peptideを4日間毎日添加した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。矢印はERAP1-peptideの添加を示す。
図7-2】ERAP1-peptide処理が乳癌細胞株のERα依存的細胞増殖を抑制することを示す。(C)ERα陽性,ERAP1陽性乳癌細胞株の細胞増殖におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。図に示した様々なERα陽性,ERAP1陽性乳癌細胞株を10μM ERAP1-pepitde、scramble peptide又は10nMタモキシフェンで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P <0.01;***P <0.001。
図7-3】ERAP1-peptide処理が乳癌細胞株のERα依存的細胞増殖を抑制することを示す。(D)ERAP1-peptideの安定性を試験したMTTアッセイ及びルシフェラーゼアッセイの結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で刺激した(白四角)。その後、10μM ERAP1-peptideを4日間毎日添加した(黒四角)。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。
図7-4】ERAP1-peptide処理が乳癌細胞株のERα依存的細胞増殖を抑制することを示す。(E)細胞周期におけるERAP1-peptideの効果を示したFACS解析の結果を示す。KPL-3C細胞を10μM ERAP1-peptide又は10nM タモキシフェンで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。固定化後、ヨウ化プロピジウムで細胞を染色し、フローサイトメトリーにより解析した。
図8-1】ER標的遺伝子の発現におけるERAP1-peptideの阻害効果を示す。(A)ER標的遺伝子におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価した定量的RT-PCRの結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で図に示した時間にて刺激した。RNA抽出とその後のcDNA合成後、図に示した遺伝子の発現を定量的RT-PCRにより評価した。
図8-2】ER標的遺伝子の発現におけるERAP1-peptideの阻害効果を示す。(B)遺伝子発現におけるERAP1-peptideの効果を示す定量的RT-PCRの結果を示す。KPL-3C細胞をERAP1-peptide及び/又はE2で24時間処理した。RNA抽出とその後のcDNA合成後、遺伝子発現を評価した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。*P <0.05;**P <0.01;***P <0.001。
図9-1】ERAP1-peptide処理が非ゲノム的活性化経路を抑制することを示す。(A)各成長因子膜受容体の発現を示したイムノブロットの結果を示す。図に示したERα陽性乳癌細胞株の細胞溶解物を図に示した抗体を用いたイムノブロット解析に供した。(B)KPL-3C細胞でのERαとIGF-1Rβとの相互作用におけるERAP1-peptideの効果を評価したイムノブロットの結果を示す。ERAP1-peptide及び/又はE2で24時間KPL-3C細胞を処理した後、核画分を抗ERα抗体を用いて免疫沈降し、図に示した抗体を用いたイムノブロット解析を行った。
図9-2】ERAP1-peptide処理が非ゲノム的活性化経路を抑制することを示す。(C-E)E2誘導性リン酸化におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したイムノブロットの結果を示す。KPL-3C細胞(C,D)又はBT-474細胞(E)をERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で図に示した時間処理した。その後、Akt(C)、MAPK(C)及びERα(D,E)のリン酸化レベルをウェスタンブロットにより評価した。相対的リン酸化レベルをデンシトメトリー解析により定量し、非処理細胞における0時間での値に対する比率を算出した。これら上記のデータは2回の独立した実験の代表例である。
図10-1】ERAP1-peptideがIGF-1Rβ及びShcを介したE2誘導性の非ゲノム的活性化経路を制御することを示す。(A)ERα-IGF-1Rβの相互作用におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したイムノブロットの結果を示す。MCF-7細胞をERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。その後、細胞質画分を抗ERα抗体を用いて免疫沈降し、図に示した抗体を用いたイムノブロット解析を行った。(B)ERα-PI3Kの相互作用におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したイムノブロットの結果を示す。MCF-7細胞をERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。その後、細胞質画分を抗ERα抗体又は抗PHB2抗体にて免疫沈降し、図に示した抗体を用いたイムノブロット解析を行った。
図10-2】ERAP1-peptideがIGF-1Rβ及びShcを介したE2誘導性の非ゲノム的活性化経路を制御することを示す。(C)E2誘導性リン酸化におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したイムノブロットの結果を示す。MCF-7細胞をERAP1-peptide及び/又はE2で図に示した時間処理した後、Akt及びMAPKのリン酸化レベルを図に示した抗体を用いたウェスタンブロットにより評価した。(D)BT-474細胞においてERα-IGF-1Rβ、ERα-PI3K、ERα-EGFR及びERα-Her2の相互作用におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したイムノブロットの結果を示す。BT-474細胞をERAP1-peptide及び/又はE2で24時間処理した後、細胞質画分を抗ERα抗体を用いて免疫沈降し、図に示した抗体を用いたイムノブロット解析を行った。
図10-3】ERAP1-peptideがIGF-1Rβ及びShcを介したE2誘導性の非ゲノム的活性化経路を制御することを示す。(E)E2誘導性リン酸化におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したイムノブロットの結果を示す。BT-474細胞をERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で図に示した時間刺激した。その後、Akt及びMAPKのリン酸化レベルをウェスタンブロットにより評価した。(F)E2誘導性ERαリン酸化におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したイムノブロットの結果を示す。MCF-7細胞をERAP1-peptide又はERAP1-scramble peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で図に示した時間刺激した。その後、ERαのリン酸化レベルを図に示した抗体を用いたウェスタンブロットにより評価した。相対的リン酸化レベルをデンシトメトリー解析により定量し、未処理細胞における0時間での値に対する比率を算出した。これら上記のデータは3回の独立した実験の代表例である。
図11-1】ERAP1-peptideがヒト乳癌同所性移植マウスにおいて腫瘍増殖を阻害することを示す。(A,B)腫瘍体積に及ぼすERAP1-peptideの影響を示す。KPL-3細胞をBALB/cヌードマウスの乳房脂肪体内の皮下に移植した。E2の非存在下で腫瘍が約50-80mm3の体積に達したとき、治療試験(5個体/群)を開始した(day 0)。KPL-3C腫瘍同所性移植片担癌マウスに、ERAP1-peptide(14, 35, 70 mg/kg)、scramble peptide(14, 35, 70 mg/kg)又はタモキシフェン(4 mg/kg)を腹腔内注射により毎日投与した。同時に、E2(6μg/日)を毎日皮下投与した。(A)は腫瘍サイズを2週間測定した結果を示す。(B)はERAP1-peptide処理後11日目における平均腫瘍体積を示す。
図11-2】ERAP1-peptideがヒト乳癌同所性移植マウスにおいて腫瘍増殖を阻害することを示す。(C)図に示した処理後14日目におけるKPL-3C異種移植腫瘍(上図)及びマウス(下図)の代表例を示す。
図11-3】ERAP1-peptideがヒト乳癌同所性移植マウスにおいて腫瘍増殖を阻害することを示す。(D)ERAP1-peptide処理マウスの平均体重の変化を示す。(E)腫瘍での代表的なERα標的遺伝子の発現レベルにおけるERAP1-peptideの阻害効果を評価した定量的RT-PCRの結果を示す。14日目にマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、各腫瘍における下流遺伝子の発現レベルを定量的RT-PCRにより求めた。データは非処理群での遺伝子発現レベルを1としたときの比率で表されており、5匹のマウスの平均値±SEを表す。*P <0.05;**P <0.01;***P <0.001。
図11-4】ERAP1-peptideがヒト乳癌同所性移植マウスにおいて腫瘍増殖を阻害することを示す。(F)腫瘍において各種シグナルタンパク質のリン酸化レベルにおけるERAP1-peptideの効果を評価したイムノブロットの結果を示す。
図12】腫瘍体積に及ぼすERAP1-scramble peptideの影響を示す。KPL-3C腫瘍同所性移植片担癌マウスにERAP1-scramble peptide(14, 35, 70 mg/kg)を腹腔内注射により毎日投与した。
図13-1】ERAP1の転写活性化の正のフィードバック制御を示す。(A)E2刺激によるERAP1の上方制御(up-regulation)を評価した定量的RT-PCRの結果を示す。MCF-7細胞を10nM E2で図に示した時間刺激し、ERAP1の発現を定量的RT-PCRによりmRNAレベルで評価した。各サンプルはβ2-MGのmRNA含量で標準化し、相対的ERAP1発現レベルを非処理細胞における0時間での値を1としたときの比率で表した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。***P <0.001。(B)ERAP1発現におけるタモキシフェンの影響を評価した定量的RT-PCR及びイムノブロットの結果を示す。MCF-7細胞を図に示した濃度のタモキシフェン(TAM)で処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激し、定量的RT-PCR(左図)及びウェスタンブロット(右図)によりERAP1のmRNAレベル及びタンパク質レベルを求めた。定量的RT-PCRでは、データはβ2-MG含量で標準化し、非処理細胞での値を1としたときの比率で示した。ウェスタンブロット解析では、β-アクチンをローディングコントロールとして使用した。
図13-2】ERAP1の転写活性化の正のフィードバック制御を示す。(C)イントロン中のERE配列を介したERAP1の転写活性化を評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。ERAP1遺伝子のイントロン1中に位置するERE保存モチーフ(TCCAGTTGCATTGACCTGA)(配列番号:56)を含むコンストラクト、EREモチーフを含まないその上流配列からなるコンストラクト又はEREモチーフを含まないその下流配列からなるコンストラクト(下図)を含むルシフェラーゼレポーターベクターをMCF-7細胞にトランスフェクトした。その後、10nM E2で24時間細胞を刺激し、ルシフェラーゼ活性を測定した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。***P <0.001。(D)イントロン1内の予測ERE配列を介したERAP1の転写活性化を評価したChIPアッセイの結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptide又はscramble peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。クロマチンを調整し、図に示した抗体を用いて免疫沈降した。クロマチン免疫沈降解析はERAP1のイントロン中のERE領域に特異的なプライマーを用いて行った。(E)ERAP1の発現におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したリアルタイムPCRの結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で図に示した時間刺激した。RNA抽出とその後のcDNA合成の後、ERAP1の発現をリアルタイムPCRにより評価した。データは非処理細胞における0時間での値を1としたときの比率で表されており、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P <0.01;***P <0.001。
図14】タモキシフェン耐性MCF-7細胞に対するERAP1-peptideの抑制効果を示す。(A)タモキシフェン耐性MCF-7細胞の増殖におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。タモキシフェン耐性MCF-7細胞を各濃度のERAP1-peptide(0, 5, 10μM)で処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。*P <0.05;**P <0.01。(B)タモキシフェン耐性MCF-7細胞(Tam-R MCF7)及びその起源細胞であるMCF-7細胞(MCF-7WT)におけるAkt、MAPK(上図)及びERαのリン酸化(S104/106, S118, S167, S305, Y537)(下図)に対するERAP1-peptideの阻害効果をE2存在下及び非存在下にて評価したウェスタンブロットの結果を示す。
図15】E2非依存性の細胞機能に及ぼすERAP1-peptideの効果を示す。(A)MCF-7細胞の増殖におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。MCF-7細胞を各濃度(1,3, 5, 10μM )のERAP1-peptide又はポジティブコントロールとして10nMタモキシフェンにて24時間処理した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。*P <0.05;**P <0.01。(B) ERαとIGF-1Rβ又はShcとの相互作用に及ぼすERAP1-peptideの効果を評価したイムノブロットの結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptide処理のみ、10nM E2処理のみ、又は10μM ERAP1-peptideで処理した後直ちに10nM E2で24時間刺激し、各処理細胞から細胞質画分を単離した。その後、細胞質画分にて抗ERα抗体を用いて免疫沈降し、図に示した抗体を用いたウエスタンブロット解析を行った。
図16】E2非依存性乳癌細胞の増殖に及ぼすERAP1-peptideの影響を示す。ERα陽性乳癌細胞株(MCF-7, KPL-3C, ZR-75-1, T47D)の増殖におけるERAP1-peptideの阻害効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。各細胞を10μM ERAP1-peptideで24時間(MCF-7)、48時間(KPL-3C)又は96時間(ZR-75-1, T47D)処理した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。*P <0.05;**P <0.01。
図17】ERAP1のノックダウンがタモキシフェンによる乳癌細胞の増殖抑制効果に及ぼす影響を示す。(A)siRNA法によりERAP1をノックダウンしたときのタモキシフェン の阻害効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。*P <0.05;**P <0.01。(B) siRNA法によりERAP1をノックダウンしたときのタモキシフェンの阻害効果を評価したEREルシフェラーゼアッセイの結果を示す。データはsi-controlの非処理細胞での値を1としたときの比率で表されており、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。
図18】ERAP1-peptideとタモキシフェンとの併用がヒト乳癌移植マウスにおける腫瘍増殖に及ぼす影響を示す。KPL-3細胞をBALB/cヌードマウスの乳房脂肪体内の皮下に移植した。E2の非存在下で腫瘍が約50-80mm3の体積に達したとき、治療試験(5個体/群)を開始した(day 0)。(A)試験開始後14日目におけるKPL-3C同所性移植腫瘍(上図)及びマウス(下図)の代表例を示す。(B)は試験開始後14日目における平均腫瘍体積を示す。
図19】細胞周期におけるERAP1-peptideとタモキシフェンとの併用効果を示したFACS解析の結果を示す。
図20】配列の違いがE2依存性細胞増殖の抑制効果に及ぼす影響を評価した結果を示す。上図はE2依存性MCF-7細胞の増殖における2種類のペプチド(ERAP1-peptide,ERAP1-peptide-2)の阻害効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。MCF-7細胞を図に示した濃度のERAP1-peptide又はERAP1-peptide-2で処理し、その後直ちにE2で24時間刺激した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。*P <0.05;***P <0.001。下図は ERAP1-peptideおよびERAP1-peptide-2の配列を示す。囲まれた配列は、PISVERソフトウェアによって予測されたPHB2との相互作用領域を示す。
図21】ERAP1陰性乳癌細胞株HCC1395細胞ではPHB2はE2刺激により核に移行することを示す。(A)PHB2の局在性を検出したイムノブロットの結果を示す。HCC1395細胞を5μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに1μM E2で24時間刺激した。比重遠心により細胞を細胞質画分及び核画分に分画し、抗PHB2抗体を用いたイムノブロット解析に供した。Lamin及びTubulinは、それぞれ細胞質画分及び核画分のマーカーである。(B)ERαを中心とするクロマチン複合体の再構成を調べたイムノブロットの結果を示す。HCC1395細胞を5μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに1μM E2で24時間刺激した後、核画分を抗ERα抗体を用いて免疫沈降し、免疫沈降物を図に示した抗体を用いたイムノブロット解析に供した。(C) ERAP1陰性乳癌細胞株HCC1395細胞の増殖におけるERAP1-peptideの効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。HCC1395細胞を図に示した濃度のERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で96時間刺激した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。*P <0.05;NS,有意差なし(no significance)。
図22】PHB2のセリン・リン酸化がERαの転写活性を制御することを示す。(A) ERAP1-peptide処理がERαに結合したPHB2のリン酸化に及ぼす影響を評価したイムノブロットの結果を示す。MCF-7細胞及びHCC1395細胞を5μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに1μM E2で24時間刺激した。その後、各細胞の核画分を抗ERα抗体を用いて免疫沈降し、図に示した抗体とリン酸化抗体を用いたイムノブロット解析を行った。(B)PHB2の39位のセリン残基がERα転写活性化を制御することを評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。PHB2(又はPHB2変異ベクター、S39A及びS39G)、ERα、ERE-ルシフェラーゼベクター、内部標準としてpRL-TK の各プラスミドで一過性にトランスフェクトしたCOS-7細胞を、1μM E2で48時間刺激した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P <0.01。
図23】ヒト乳癌細胞株におけるERAP1、 PHB2、及びERαの発現を示したイムノブロットの結果を示す。図に示したヒト乳癌細胞株及び乳腺上皮細胞(MCF-10A)の細胞溶解物を図に示した抗体を用いたイムノブロット解析に供した。
図24】ヒト乳癌切除標本におけるERAP1の発現を示す。(A) 乳癌切除標本に対するERAP1の発現を評価した免疫組織染色の結果を示す。上図はパラフィン包埋乳癌切除標本におけるERAP1の発現を示す代表的な免疫組織染色画像である。免疫染色による癌部の染色性の判定は、癌組織がまったく染色されない症例を陰性(Negative:24症例、23%)、細胞質が淡く染色される症例を弱陽性(Weak:59症例、57%)、癌組織がほぼ均一に強く染色される症例を強陽性(Strong:20症例、19%)とした。下図は、各々の症例をWeak(陰性症例と弱陽性症例)とStrong(強陽性)に分類して、ERAP1発現と無再発生存期間との相関関係をKaplan-Meier法にて作成した無再発生存曲線である。(B)乳癌切除標本に対するPHB2の発現を評価した代表的な免疫組織染色画像である。
図25】PHB2/REAのSer39のリン酸化がERα転写活性に及ぼす影響を評価した結果を示す。(A)ERα転写活性におけるPHB2/REA(Ser39)のリン酸化の阻害効果を評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。全長REA(WT)および39番目のSerをAlaまたはGluに変異させたコンストラクト(S39A、S39E)を、ERE-ルシフェラーゼレポーターベクターおよびERαコンストラクトとともにHEK293T細胞に一過性にトランスフェクトし、10 nM E2で24時間刺激した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P < 0.01。(B)PHB2/REAのSer39のリン酸化をイムノブロットした結果を示す。HEK293T細胞にPHB2/REAコンストラクト(WT、S39A、S39E)をトランスフェクトし、48時間後に10 nM E2で24時間刺激した。その後、細胞を溶解し、抗HA抗体を用いてHAタグ化PHB2/REAを細胞溶解物から免疫沈降し、免疫沈降されたタンパク質を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データは2回の独立した実験の代表例である。(C)PHB2/REAのSer39が非ゲノム的活性化経路を抑制することを示す。HEK293T細胞にPHB2/REAコンストラクト(WT、S39A、S39E)をトランスフェクトし、48時間後に10 nM E2で24時間刺激した。その後、細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データは2回の独立した実験の代表例である。
図26-1】核に移行したPHB2/REAのSer39におけるリン酸化を評価した結果を示す。(A)細胞透過性ERAP1-peptideにより核移行したPHB2/REA(Ser39)のリン酸化をイムノブロット解析により評価した結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10 nM E2で24時間刺激した。比重遠心により細胞を細胞質画分と核画分に分画し、抗PHB2/REA抗体を用いて各画分を免疫沈降した。その後、細胞を溶解し、免疫沈降されたタンパク質および細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。(B)ERAP1-peptide処理により遊離したPHB2/REAのセリン・リン酸化を継時的イムノブロット解析により評価した結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10 nM E2で経時的に刺激した。各細胞溶解物を抗PHB2/REA抗体および抗リン酸化PHB2/REA(S39)抗体を用いてイムノブロット解析した。(C)REA(S39)のリン酸化を示す代表的な細胞免疫染色画像である。MCF-7細胞を10 nM E2の存在下でERAP1-peptideおよびλ-ホスファターゼ(400 U)で24時間処理した。固定化後、免疫蛍光染色に供した。
図26-2】核に移行したPHB2/REAのSer39におけるリン酸化を評価した結果を示す。(D)ERAP1の発現抑制により核移行したPHB2/REA(Ser39)のリン酸化をイムノブロット解析により評価した結果を示す。siRNA法によりERAP1の発現を抑制したMCF-7細胞を10nM E2で24時間刺激した後、比重遠心により細胞質画分(C)と核画分(N)に分画し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。(E)ERAP1の発現抑制によりERα下流遺伝子の発現を評価したリアルタイムPCRの結果を示す。siRNA法によりERAP1の発現を抑制したMCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。RNA抽出とその後のcDNA合成の後、ERα下流遺伝子(ERAP1、CCND1、TFF1、c-Myc)の発現をリアルタイムPCRにより評価した。データは非処理細胞における値を1.0としたときの比率で表し、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P < 0.01、***P < 0.001。
図27】ヒト乳癌同所性移植マウスにおけるERAP1-peptideの腫瘍増殖阻害効果を示す。(A)ERAP1-peptideを投与したヒト乳癌同所性移植マウスの移植腫瘍においてPHB2/REA(Ser39)のリン酸化をイムノブロット解析により評価した結果を示す。KPL-3細胞をBALB/cヌードマウスの乳房脂肪体内の皮下に移植し、E2の非存在下で腫瘍が約50-80mm3の体積に達したとき、治療試験(5個体/群)を開始した(day 0)。KPL-3C腫瘍同所性移植片担癌マウスにERAP1-peptide(Peptide:14 mg/kg)またはERAP1-scramble peptide(scrPeptide:14 mg/kg)を腹腔内注射により毎日投与した。同時に、E2(6μg/日)を毎日皮下投与した。14日目にマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出し、各腫瘍におけるPHB2/REA(S39)のリン酸化をイムノブロット解析により評価した。(B)ERAP1-peptideを投与したタモキシフェン耐性乳癌移植マウスにおいて腫瘍体積を評価した結果を示す。タモキシフェン耐性MCF7-細胞(Tam-R MCF-7)をBALB/cヌードマウスの乳房脂肪体内の皮下に移植し、タモキシフェン(37 ng/日、1.85μg/kg)の存在下で腫瘍が約50-80mm3の体積に達したとき、治療試験(5個体/群)を開始した(day 0)。Tam-R MCF-7腫瘍同所性移植片担癌マウスにERAP1-peptide(Peptide:3.5, 7, 14 mg/kg)またはERAP1-scramble peptide(scrPeptide:14 mg/kg)を腹腔内注射により毎日投与した。同時に、E2(6μg/日)を毎日皮下投与した。21日目におけるTam-R MCF-7異種移植腫瘍と平均腫瘍体積±SE(n=5)を示す。*P < 0.05、**P < 0.01、***P < 0.001。
図28-1】ERAP1とPP1αは相互作用することを示す。(A)ERAP1とPP1αとの結合を示すイムノブロット解析の結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、直ちに10 nM E2で24時間刺激した。その後、細胞を溶解し、抗ERAP1抗体を用いて細胞溶解物からERAP1を免疫沈降し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データは3回の独立した実験の代表例である。(B)ERAP1におけるPP1α結合領域を確認したイムノブロット解析の結果を示す。推定PP1α結合モチーフである1228-1232aa(KAVSF)を欠失させたERAP1コンストラクト(ΔPP1α)およびERαコンストラクトをHEK293T細胞にトランスフェクトし、48時間後に10 nM E2で24時間刺激した。その後、細胞を溶解し、抗FLAG抗体を用いてFLAGタグ化ERAP1を細胞溶解物から免疫沈降し、免疫沈降されたタンパク質を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データは2回の独立した実験の代表例である。
図28-2】ERAP1とPP1αは相互作用することを示す。(C)PP1αの発現抑制によりERAP1、PHB2/REAおよびERαが複合体を形成することを示すイムノブロット解析の結果である。siRNA法によりPP1αの発現を抑制したMCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10 nM E2で24時間刺激した。比重遠心により細胞質画分と核画分に分画し、抗ERα抗体を用いて各画分を免疫沈降した。その後、細胞を溶解し、免疫沈降されたタンパク質および細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。(D)PP1αがERAP1を介してPHB2/REAに間接的に結合することを示すイムノブロット解析の結果である。siRNA法によりERAP1の発現を抑制したMCF-7細胞を10 nM E2で24時間刺激した後、抗PHB2/REA抗体およびIgG抗体を用いて免疫沈降した。その後、細胞を溶解し、免疫沈降されたタンパク質および細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。
図29】ERAP1とPP1αとの結合阻害がPHB2/REA(S39)のリン酸化を誘導することを示す。(A)PP1αの発現抑制がPHB2/REA(Ser39)のリン酸化に及ぼす影響を評価したイムノブロット解析の結果を示す。siRNA法によりPP1αの発現を抑制したMCF-7細胞を10nM E2で24時間刺激した。その後、細胞を溶解し、抗ERAP1抗体を用いて細胞溶解物からERAP1を免疫沈降し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データは3回の独立した実験の代表例である。(B)PP1α結合領域を欠失したERAP1処理細胞におけるPHB2/REA(Ser39)のリン酸化を評価したイムノブロット解析の結果を示す。PP1α結合モチーフ(1228-1232aa)を欠失させたERAP1コンストラクト(ΔPP1α)およびERαコンストラクトをHEK293T細胞にトランスフェクトし、48時間後に10 nM E2で24時間刺激した。細胞を溶解したあと、抗PHB2/REA抗体を用いて細胞溶解物からPHB2/REAを免疫沈降し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データは2回の独立した実験の代表例である。(C)ERAP1とPP1αの結合阻害ペプチドで処理した細胞におけるPHB2/REA(Ser39)のリン酸化を評価したイムノブロット解析の結果を示す。MCF-7細胞を50、100μMの阻害ペプチドで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。これらの細胞溶解物を抗ERAP1抗体で免疫沈降し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。
図30-1】ERAP1のリン酸化がPP1αのホスファターゼ活性を誘導することを示す。(A)ERAP1がPP1α活性を負に制御していることを示すsiRNA試験の結果である。siRNA法によりERAP1またはPP1αの発現を抑制したMCF-7細胞を溶解し、そのホスファターゼ活性を算出した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。***P < 0.001。(B)PP1α活性に及ぼすERAP1の阻害効果を評価したホスファターゼ活性解析とイムノブロット解析の結果を示す。ERAP1コンストラクト(0.5、1.0、2.0μg)またはPP1α結合領域欠失ERAP1コンストラクト(ΔPP1α:2.0μg)をトランスフェクトしたHEK293T細胞を溶解し、抗PP1α抗体を用いて免疫沈降し、ホスファターゼ活性解析(上図)およびイムノブロット解析(下図)を行った。ホスファターゼ活性は3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P < 0.01、***P < 0.001。
図30-2】ERAP1のリン酸化がPP1αのホスファターゼ活性を誘導することを示す。(C)エストロゲン刺激がPP1α活性を誘導することを示したホスファターゼアッセイの結果を示す。MCF-7細胞を10 nM E2で6、12または24時間刺激した後、細胞溶解物のホスファターゼ活性を算出した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。***P < 0.001。(D)エストロゲン刺激によるERAP1のリン酸化をイムノブロット解析により評価した結果を示す。MCF-7細胞を10 nM E2で24時間刺激した後、細胞溶解物を図中に示す抗リン酸化抗体を用いてイムノブロット解析した。データは3回の独立した実験の代表例である。(E)ERAP1とPKAおよびPKBが結合することを示すイムノブロット解析の結果である。MCF-7細胞を10 nM E2で24時間刺激した後、細胞を溶解し、抗ERAP1抗体およびIgG抗体を用いて細胞溶解物を免疫沈降し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データは3回の独立した実験の代表例である。
図31-1】PKAおよびPKBによるERAP1のリン酸化がPP1α活性を介してPHB2/REA(S39)のリン酸化を制御することを示す。(A)PKAおよびPKBがPP1α活性を惹起していることを示すホスファターゼアッセイの結果を示す。siRNA法によりPKAもしくはPKB、またはPKAおよびPKBの両方を発現抑制したMCF-7細胞を10nM E2で24時間刺激した。その後、細胞溶解液を抗ERAP1抗体で免疫沈降し、ホスファターゼ活性を算出した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P < 0.01、***P < 0.001。(B)PKAおよびPKBがERAP1のリン酸化を惹起していることを示すイムノブロット解析の結果を示す。siRNA法によりPKAもしくはPKB、またはPKAおよびPKBの両方を発現抑制したMCF-7細胞を10μM ERAP1ペプチドで処理し、直ちに10 nM E2で24時間刺激した。その後、細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データはsiControl処理細胞におけるE2刺激によるリン酸化の値を1.0としたときの比率で表し、3回の独立した実験の代表例である。(C)H-89によるPKAの活性阻害がERAP1とPHB2/REAのリン酸化を制御していることを示すイムノブロット解析の結果である。MCF-7細胞をH-89で30分間処理してPBSで洗浄した後、10μM ERAP1-PEPTIDEで処理し、直ちに10 nM E2で24時間刺激した。その後、細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。
図31-2】PKAおよびPKBによるERAP1のリン酸化がPP1α活性を介してPHB2/REA(S39)のリン酸化を制御することを示す。(D)PKAの活性阻害によりERAP1のセリン・リン酸化が抑制されPHB2/REA(S39)のリン酸化が惹起されることを示すイムノブロット解析の結果を示す。siRNA法によりPKAを発現抑制したMCF-7細胞を10nM E2で24時間刺激した。また、MCF-7細胞をH-89で30分間処理してPBSで洗浄した後、直ちに10 nM E2で24時間刺激した。その後、細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。(E)PKAの活性阻害によりPHB2/REA(S39)のリン酸化が惹起されることを示すイムノブロット解析の結果を示す。MCF-7細胞をH-89およびオカダ酸で30分間処理してPBSで洗浄した後、直ちに10 nM E2で24時間刺激した。その後、細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。(F)PKCαがREA(S39)のリン酸化を惹起することを示すイムノブロットの結果を示す。siRNA法によりPKCαを発現抑制したMCF-7細胞を10μM ERAP1ペプチドで処理し、直ちに10 nM E2で24時間刺激した。比重遠心により細胞質画分と核画分に分画し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データはsiControl処理細胞をERAP1ペプチド処理したときのREAのリン酸化の値を1.0としたときの比率で表す。
図32】PP1αがERαの標的遺伝子であることを示す。(A)E2刺激によるPP1αの上方制御を評価したイムノブロット解析の結果を示す。MCF-7細胞およびBT-474細胞を10 nM E2で24時間刺激し、ウェスタンブロット解析によりPP1αのタンパク質レベルを評価した。データはβ-アクチンで標準化した。(B)E2刺激によるPP1αの上方制御を評価したリアルタイムPCRの結果を示す。MCF-7細胞、ZR-75-1 細胞、T47D細胞およびBT-474細胞を10 nM E2で24時間刺激し、リアルタイムPCRによりPP1αのmRNAレベルを求めた。データはβ2-MG含量で標準化し、3回の独立した実験の平均値±SEを表す。**P < 0.01、***P < 0.001。(C)Genomatixソフトウェア(Genomatix Software, Munchen, Germany)によって予測されたPP1α遺伝子の5'上流およびイントロン2に位置するERE保存モチーフを示す。(D)5'上流とイントロン2のERE配列を介したPP1αのトランス活性化を評価したChIPアッセイの結果を示す。MCF-7細胞を10 nM E2で24時間刺激したあとクロマチンを調製し、図に示した抗体を用いて免疫沈降した。クロマチン免疫沈降解析はPP1αの5'上流およびイントロン2のERE領域に特異的なプライマーを用いて行った。(E)PP1α遺伝子中のERE配列を介したPP1αのトランス活性化を評価したルシフェラーゼアッセイの結果を示す。PP1α遺伝子の5'上流およびイントロン2に位置するERE保存モチーフを含むコンストラクト(下図:5'-EREと5'- and intron2-ERE)からなるルシフェラーゼレポーターベクターをHEK293T細胞にトランスフェクトした。その後、10 nM E2で24時間細胞を刺激し、ルシフェラーゼ活性を測定した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。***P < 0.001。
図33】ERAP1-peptide処理がエストロゲン刺激によるタンパク質と遺伝子の発現亢進を抑制することを示す。(A)ERAP1-peptide処理した細胞におけるプロテオームの統計解析の結果示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptide(Peptide)およびERAP1-scramble peptide(scrPeptide)で処理し、直ちに10 nM E2で1時間刺激した後、その細胞溶解液をトリプシンで消化して2DICALに供した。データは0時間での値に対する比率を算出し、各プロテオームをbox plotで統計解析した。*P < 0.05。(B)ERAP1-peptide処理した細胞におけるトランスクリプトームの統計解析の結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、直ちに10 nM E2で5、10、15時間刺激した後、RNA抽出およびその後のCy3-cRNA合成を行い、マイクロアレイに供した。データはGeneSpringソフトウェアにより統計解析し、0時間での値に対する比率を算出した。**P < 0.01。
図34】ERAP1-peptideがPHB2/REAに特異的に結合することを示す。(A)ビアコアによりERAP1-peptideのPHB2/REAへの結合を評価した結果を示す。6xHisタグ化組換えPHB2/REAタンパク質をセンサーチップに固定化した後、図に示した濃度のHAタグ化ERAP1-peptideを反応させ、センサーグラムのカーブから解離速度定数(Kd)を算出した。(B)蛍光相互相関分光法によりERAP1-peptideへのPHB2/REAの結合を評価した結果を示す。10 nMのFITCタグ化ERAP1-peptide(Peptide)およびFITCタグ化ERAP1-scramble peptide(scrPeptide)と図中に示す様々な濃度の6xHisタグ化組換えPHB2/REAタンパク質を1時間反応させた後、FITC蛍光を測定した。
図35】抗ERAP1モノクローナル抗体を用いたイムノブロット解析の結果を示す。(A)抗ERAP1精製抗体がERAP1を特異的に検出することを示すイムノブロット解析の結果を示す。siRNA法によりERAP1の発現を抑制したMCF-7細胞を溶解し、ヒトERAP1(459-572aa)を抗原としたモノクローナル抗体を用いてイムノブロット解析した。(B)抗ERAP1精製抗体によりPHB2/REAの共沈を評価したイムノブロット解析の結果を示す。MCF-7細胞(M)およびT47D細胞(T)の溶解物を抗ERAP1精製抗体で免疫沈降し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。
図36】抗リン酸化PHB2/REA(S39)抗体がPHB/REAのSer39のリン酸化を特異的に検出することを示すイムノブロット解析の結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10 nM E2で24時間刺激した細胞溶解物を抗リン酸化PHB2/REA(S39)抗体、抗リン酸化セリン抗体および抗PHB/REA抗体を用いてイムノブロット解析した。
図37】ERAP1-peptideの安定性とERAP1-peptideが細胞内E2に及ぼす影響を評価した結果を示す。(A)ERAP1-peptideの安定性を評価したイムノブロット解析の結果を示す。MCF-7細胞を10μM HAタグ化ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10 nM E2で経時的に刺激した。その後、細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データはβ-アクチンで標準化し、1時間(n=1、3)または3時間(n=2)での値を100としたときの比率で表している。(B)ERAP1-peptideが細胞内E2濃度に及ぼす影響を評価した結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10 nM E2で経時的に刺激した。細胞溶解物を遠心後、その上清とメタノールで溶解した沈殿物を混合し(メタノール終濃度:10%)、市販のキット(17β-エストラジオール ELISA kit、和光純薬)で細胞内E2濃度を測定した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。
図38】PHBと結合するERAP1中のアミノ酸を同定したイムノブロット解析の結果を示す。COS-7細胞にPHB2コンストラクトと一緒にERAP1(1-434aa)、Q165, D169, Q173のアラニン変異体(Mutant)、Q165のアラニン変異体(Q165A)、D169のアラニン変異体(D169A)、Q173のアラニン変異体(Q173A)またはQ165, D169のアラニン変異体(Q165A, D169A)のいずれかをトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、細胞を溶解し、抗FLAG抗体および抗HA抗体を用いて免疫沈降した。免疫沈降されたタンパク質及び細胞溶解物を図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。データはERAP1(1-434aa)での共沈バンドを100としたときの比率で表す。
図39】KPL-3C細胞においてPKAとPKBによるERAP1のリン酸化がPP1α活性を介してPHB2/REA(S39)のリン酸化を制御していることを示す。(A)PP1αがPHB2/REAのセリン・リン酸化を制御していることを示すイムノブロット解析の結果を示す。siRNA法によりERAP1及びPP1αの発現を抑制したKPL-3C細胞を10 nM E2で24時間刺激した後、細胞を溶解し、抗ERAP1抗体を用いて細胞溶解物からERAP1を免疫沈降し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。(B)PKAおよびPKBがERAP1のリン酸化を惹起していることを示すイムノブロット解析の結果を示す。siRNA法によりPKAおよびPKBの発現を抑制したKPL-3C細胞を10 nM E2で24時間刺激した後、細胞を溶解し、抗ERAP1抗体を用いて免疫沈降し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。(C)PKAおよびPKBがPP1α活性を惹起していることを示すホスファターゼアッセイの結果を示す。siRNA法によりERAP1、PP1α、PKAおよびPKBの発現を抑制したKPL-3C細胞を10nM E2で24時間刺激した。その後、細胞溶解物を抗ERAP1抗体で免疫沈降し、そのホスファターゼ活性を算出した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。
図40】ERα陰性乳癌細胞株SK-BR-3細胞におけるERAP1-peptideの増殖抑制効果を評価したMTTアッセイの結果を示す。SK-BR-3細胞をERAP1-peptide(Peptide)またはERAP1-scramble peptide(scrPeptide))で24時間または48時間処理した。データは3回の独立した実験の平均値±SEを表す。* P < 0.05、***P < 0.001。
図41-1】E2刺激によるミトコンドリア内ROS産生がERAP1を介して誘導されることを示す。(A)ERAP1がミトコンドリアに局在していることを示すイムノブロット解析の結果を示す。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに10 nM E2で24時間刺激した。比重遠心により細胞をミトコンドリア画分(M)、細胞質画分(C)および核画分(N)に分画し、図中に示す抗体を用いてイムノブロット解析した。Lamin B、α/β-Tubulin(Tubulin)およびPRDX3は、それぞれ核画分、細胞質画分およびミトコンドリア画分のマーカーである。
図41-2】E2刺激によるミトコンドリア内ROS産生がERAP1を介して誘導されることを示す。(B)ERAP1を介したミトコンドリア内ROS産生を評価した結果を示す。MCF-7細胞ならびにERAP1を発現抑制したMCF-7細胞およびHCC1395細胞を10μM DHR123で15分間処理した。洗浄後、10μM ERAP1-peptideおよび10 nM E2で24時間刺激し、フローサイトメトリーにより解析した。ポジティブコントロールとして1 mM H2O2で24時間処理した細胞を用いた。データは2回の独立した実験の代表例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
本明細書において説明した方法及び材料と同様の又は同等の任意の方法及び材料が、本発明の態様の実践又は試験に使用され得るが、好ましい方法、装置及び材料をこれから説明する。しかし、本材料及び方法を説明する前に、本発明が本明細書において説明した特定のサイズ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコルなどに限定されないことを理解されたい。なぜなら、これらは規定どおりの実験及び最適化に従って変更され得るからである。また、この説明で使用される専門用語は単に特定のバージョン又は態様を説明する目的のためのものであり、添付の特許請求の範囲でのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されていないことも理解されたい。
【0016】
本明細書に記載した各刊行物、特許、又は特許出願の開示は、参照によりその全体が本明細書に明確に組み入れられる。しかし、本明細書のいかなる内容も、先行発明によって、そのような開示に本発明が先行しないとの承認と解釈されるものではない。
別段の定義がない限り、本明細書において使用される技術的及び科学的用語は全て、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先する。
【0017】
本明細書で使用する「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という言葉は、特に明記しない限り「少なくとも1つの」を意味する。
ある物質(例えば、ペプチド、ポリヌクレオチドなど)に関して使用される「単離された」及び「精製された」という用語は、物質が、天然源に含まれ得る少なくとも1つの物質を実質的に含まないことを示す。従って、単離された又は精製されたペプチドは、細胞材料、例えば、それらが得られた細胞または組織源に由来する炭水化物、脂質、もしくは他の混入タンパク質を実質的に含まないか、または化学合成された時には化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まないペプチドを指す。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、そのペプチドが単離された細胞または組換え生成された細胞の細胞成分から分離されたペプチドの調製物を含む。
【0018】
従って、細胞材料を実質的に含まないペプチドは、異種タンパク質を約30%、20%、10%、または5%(乾燥重量で)未満しか有しないペプチド調製物を含む。ペプチドが組換え生成された時には、いくつかの態様では、培地も実質的に含まず、これにはペプチド調製物の体積の約20%、10%、又は5%未満の混入培地しか有しないポリペプチド調製物が含まれる。ポリペプチドが化学合成によって生成された時には、いくつかの態様では、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まず、これにはペプチド調製物の体積の約30%、20%、10%、5%(乾燥重量で)未満の、ペプチド合成に関与する化学的前駆体又は他の化学物質しか有さないペプチド調製物が含まれる。好ましい態様では、本発明のペプチドは単離又は精製されている。
【0019】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書中で同義に用いられる。これらの用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が修飾残基又は非天然残基、例えば、対応する天然のアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマー、並びに天然のアミノ酸ポリマーに適用される。
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体を指すために本明細書中で用いられる。天然アミノ酸は、遺伝暗号でコードされるもの、並びに細胞内での翻訳後に修飾されるもの(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)であり得る。「アミノ酸類似体」という用語は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基と結合したα炭素)を有するが、修飾R基または修飾骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指すために本明細書中で用いられる。「アミノ酸模倣体」という用語は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、一般的なアミノ酸と同様に機能する化学的化合物を指すために本明細書中で用いられる。
【0020】
アミノ酸は、IUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commision)により勧告された、一般に知られている三文字記号または一文字記号のいずれかによって本明細書で示されることがある。
「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、ヌクレオチドのポリマーを指すために本明細書中で同義に用いられる。これらの用語は、天然の核酸ポリマーまたは非天然の核酸ポリマーの両方を含む。ヌクレオチドは、アミノ酸と同様に、一般的に認められた一文字記号によって言及される。
【0021】
本発明の文脈において、「治療」という用語は、対象疾患によって生じる少なくとも1つの症状を改善又は症状の進行を抑制することを意味する。「癌の治療」には、例えば、癌細胞の増殖阻害、癌の退縮、癌に伴う検出可能な症状の改善、緩和又は進行抑制、転移の抑制などが含まれる。
本発明の文脈において、「予防」という用語は、対象疾患の発生を回避、抑制又は遅延することを意味する。予防は一次的、二次的、および三次的な予防レベルで行うことができる。一次的な予防が疾患の発症を回避するのに対して、二次的および三次的なレベルの予防は、機能を回復すること及び疾患に関連する合併症を低減することにより、疾患の進行及び症状の出現の予防、ならびに既に確立された疾患の悪影響の低減を目的とする活動を包含する。「癌の予防」には、例えば、癌の発症の回避又は遅延、初期的段階からの症状の進行抑制又は遅延、外科手術後の転移の抑制などが含まれる。
【0022】
本明細書において、「ERAP1ポリペプチド」という用語は、ERAP1(Estrogen Receptor Activity-regulated Protein 1)遺伝子によってコードされるポリペプチドを指す。より具体的には、「ERAP1ポリペプチド」は、ヒトERAP1タンパク質である配列番号:35に記載のアミノ酸配列(GeneBank Accession No. BAH83562.1)からなるポリペプチドを指す。しかしながら、本発明において、ERAP1ポリペプチドはこれらに限定されるものではなく、これらのアイソフォームや変異体も包含する。「ERAP1」は、「BIG3(Brefeldin A-Inhibited Guanine nucleotide-exchange protein 3)」、「A7322」又は「KIAA1244」とも称される。本明細書において、「ERAP1ポリペプチド」は、「ERAP1」とも記載される。ヒトERAP1遺伝子配列の代表的な塩基配列の例を配列番号:34(GeneBank Accession No. AB252196.1)に示す。
【0023】
本明細書において、「PHB2ポリペプチド」という用語は、PHB2(prohibitin2)遺伝子によってコードされるポリペプチドを指す。より具体的には、「PHB2ポリペプチド」は、ヒトPHB2タンパク質である配列番号:37に記載のアミノ酸配列(GeneBank Accession No. NP_001138303.1)からなるポリペプチドを指す。しかしながら、本発明において、PHB2ポリペプチドはこれらに限定されるものではなく、これらのアイソフォームや変異体も包含する。「PHB2」は、「REA(Repressor of Estrogen Activity)」とも称される。本明細書において、「PHB2ポリペプチド」は、「PHB2」又は「PHB2/REA」とも記載される。ヒトPHB2遺伝子の代表的な塩基配列の例を配列番号:36(GeneBank Accession No. NM_001144831.1)に示す。
【0024】
本明細書において、「PP1αポリペプチド」という用語は、PPPCA(protein phosphatase 1, catalytic subunit, alpha isozyme)遺伝子によってコードされるポリペプチドを指す。より具体的には、「PP1αポリペプチド」は、ヒトPP1αタンパク質である配列番号:72、74 又は76に記載のアミノ酸配列(GeneBank Accession No. NP_001008709、NP_002699.1又はNP_996756.1)からなるポリペプチドを指す。しかしながら、本発明において、PP1αポリペプチドはこれらに限定されるものではなく、これらのアイソフォームや変異体も包含する。本明細書において、「PP1αポリペプチド」は、「PP1α」とも記載される。ヒトPP1α遺伝子の代表的な塩基配列の例を配列番号:71、 73及び75(GeneBank Accession No. NM_001008709、NM_002708.3及びNM_206873.1)に示す。
【0025】
本明細書において、「PKAポリペプチド」という用語は、PRKACA(protein kinase, cAMP-dependent, catalytic, alpha)遺伝子によってコードされるポリペプチドを指す。より具体的には、「PKAポリペプチド」は、ヒトPKA(Protein kinase A)タンパク質である配列番号:78又は80に記載のアミノ酸配列(GeneBank Accession No. NP_002721.1又はNP_997401.1)からなるポリペプチドを指す。しかしながら、本発明において、PKAポリペプチドはこれらに限定されるものではなく、これらのアイソフォームや変異体も包含する。本明細書において、「PKAポリペプチド」は、「PKA」とも記載される。ヒトPKA遺伝子の代表的な塩基配列の例を配列番号:77及び79(GeneBank Accession No. NM_002730.3及びNM_207518.1)に示す。
【0026】
本明細書において、「PKBポリペプチド」という用語は、AKT1(v-akt murine thymoma viral oncogene homolog 1)遺伝子によってコードされるポリペプチドを指す。より具体的には、「PKBポリペプチド」は、ヒトPKB(Protein kinase B)タンパク質である配列番号:82、84又は86に記載のアミノ酸配列(GeneBank Accession No. NP_001014431、NP_001014432又はNP_005154)を指す。しかしながら、本発明において、PKBポリペプチドはこれらに限定されるものではなく、これらのアイソフォームや変異体も包含する。「PKBポリペプチド」は、「PKB」とも称される。ヒトPKB遺伝子の代表的な塩基配列の例を配列番号:81、83及び85(GeneBank Accession No. NM_001014431、NM_001014432及びNM_005163)に示す。
【0027】
本明細書において使用される「エストロゲン受容体」という用語は、エストロゲン受容体α(ERα)及びエストロゲン受容体β(ERβ)の両方を包含する。ERα及びERβはそれぞれESR1遺伝子及びESR2遺伝子によってコードされている。代表的なヒトESR1遺伝子の塩基配列及びヒトERαのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:38(Gene Benk Accetion No. NM_000125.3)及び配列番号:39(Gene Benk Accetion No. NP_000116.2)に示す。また、代表的なヒトESR2遺伝子の塩基配列及びヒトERβのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:40(Gene Benk Accetion No. NM_001437.2)及び配列番号:41(Gene Benk Accetion No. NP_001428.1)に示す。しかしながら、本発明において、エストロゲン受容体の塩基配列及びアミノ酸配列はこれらに限定されるものではなく、これらのアイソフォームや変異体を包含する。好ましい態様では、エストロゲン受容体はERαである。ERα及びERβのいずれもPHB2ポリペプチドにより転写活性化が制御されることが報告されている(Montano MM, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1999; 96: 6947-52.)。
本明細書において、細胞又は癌に関して使用される「エストロゲン受容体陽性」という用語は、細胞又は癌を構成する癌細胞が、エストロゲン受容体を発現していることを意味する。エストロゲン受容体陽性か否かはELISA法や免疫組織化学染色法等の公知の方法により確認することができる。また、本明細書において、細胞又は癌に関して使用される「エストロゲン受容体陰性」という用語は、細胞又は癌を構成する癌細胞が、エストロゲン受容体を発現していないことを意味する。
【0028】
1.ERAP1ペプチド
本発明は、ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位を含み、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害するペプチドを提供する。本発明のペプチドは、本明細書において、「ERAP1ペプチド」とも記載される。
本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位を含むことによりPHB2ポリペプチドと結合する能力を有する。その結果、ERAP1ポリペプチドのPHB2ポリペプチドへの結合を競合的に阻害する。本発明におけるERAP1ペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチド間の結合を阻害する作用を有する限り、塩であることもできる。例えば、酸(無機酸、有機酸など)又は塩基(アルカリ金属、アルカリ土類金属、アミンなど)との塩であることができる。酸との塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メグルミン酸など)との塩などが挙げられる。塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウムとの塩などが挙げられる。本発明のペプチドの塩の好ましい例としては、例えば、酢酸塩、塩酸塩、メグルミン酸塩、及びアンモニウム塩などが挙げられる。
【0029】
「ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位」とは、ERAP1ポリペプチドを構成するアミノ酸配列において、PHB2ポリペプチドとの結合に関与するアミノ酸残基を意味する。そのようなアミノ酸残基としては、例えば、配列番号:33に記載のアミノ酸配列における165番目のグルタミン、169番目のアスパラギン酸及び173番目のグルタミンが挙げられる。したがって、好ましい態様では、本発明のペプチドは、配列番号:33に記載のアミノ酸配列における165番目のグルタミン、169番目のアスパラギン酸及び173番目のグルタミンを含むペプチドであって、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害するペプチドである。なお、本明細書において、アミノ酸配列における特定のアミノ酸残基の番号は、N末端から数えたアミノ酸残基の数を表す。
【0030】
より好ましい態様では、本発明のペプチドは、配列番号:33に記載のアミノ酸配列における165番目のグルタミンから173番目のグルタミンまでのアミノ酸配列(QMLSDLTLQ(配列番号:31))を含む。そのようなペプチドとしては、例えば、本明細書の実施例に記載されるERAP1-peptide(QMLSDLTLQLRQR(配列番号:27))及びERAP1-peptide-2(ATLSQMLSDLTLQ(配列番号:30))が挙げられる。したがって、本発明のペプチドの好ましい例として、以下の(a)〜(c)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる:
(a)配列番号:31に記載のアミノ酸配列/ QMLSDLTLQ;
(b)配列番号:27に記載のアミノ酸配列/ QMLSDLTLQLRQR;及び
(c)配列番号:30に記載のアミノ酸配列/ATLSQMLSDLTLQ。
しかしながら、本発明のペプチドは、これらに限定されず、ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位を含み、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性を有していれば、ペプチドを構成するアミノ酸配列は特に限定されない。
【0031】
一般的に、ペプチド中の1つ又は複数のアミノ酸の改変は、ペプチドの機能に影響しないことが知られている。実際に、1つ又は複数のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加によって改変されたアミノ酸配列を有するペプチドは、元のペプチドの生物活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984); ZollerおよびSmith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982); Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13(1982))。したがって、本発明のペプチドは、以下の(a')〜(c')からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、かつERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性を有するペプチドを包含する:
(a')配列番号:31に記載のアミノ酸配列において1番目のグルタミン/Q、5番目のアスパラギン酸/D及び9番目のグルタミン/Q以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;
(b')配列番号:27に記載のアミノ酸配列において1番目のグルタミン/Q、5番目のアスパラギン酸/D及び9番目のグルタミン/Q以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;及び
(c')配列番号:30に記載のアミノ酸配列において5番目のグルタミン/Q、9番目のアスパラギン酸/D及び13番目のグルタミン/Q以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列。
【0032】
上記(a')〜(c')において、置換されるアミノ酸残基は、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する能力が維持される限り、いずれのアミノ酸残基であってもよい。いずれのアミノ酸残基を置換するかは、例えば、PSIVERのような計算法を用いて、PHB2ペプチドとの結合に関与していないアミノ酸残基を予測して決定することもできる。例えば、図1Gにおいて、「-」と予測されたアミノ酸残基は、置換候補残基として好ましく選択され得る。置換されるアミノ酸残基の数もまた、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する能力が維持される限り特に限定されず、1個、2個又は数個のアミノ酸残基が置換され得る。「数個」とは、好ましくは6個、5個、4個又は3個である。
たとえば、(a')に定義されたERAP1ペプチドは、配列番号:31に記載のアミノ酸配列において1番目のグルタミン/Q、5番目のアスパラギン酸/D及び9番目のグルタミン/Q以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列を含み、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性を有するペプチドである。(a')には、たとえば配列番号:35のアミノ酸配列における165-173(配列番号:31)を含む連続するアミノ酸配列において、以下の3つのアミノ酸残基の全てがが保存され、その他の位置においてアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害するペプチドが含まれる。
配列番号:35の165番目のグルタミン/Q、
169番目のアスパラギン酸/D及び
173番目のグルタミン/Q
好ましい態様において、上記3つのアミノ酸以外の位置において許容されるアミノ酸残基の置換は、通常10以下、あるいは8以下、たとえば7以下、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、特に好ましくは3以下である。このようなERAP1ペプチドには、たとえば30残基、あるいは20残基、典型的には19残基、好ましくは18残基、より好ましくは17残基以下のアミノ酸で構成されるペプチドが含まれる。
【0033】
一般的に、元のアミノ酸残基のアミノ酸側鎖の特性が保存された別のアミノ酸残基への置換は、元のペプチドの機能に影響を及ぼさない傾向にあることが認識されている。そのような置換はしばしば「保存的置換」または「保存的改変」と称される。したがって、上記(a')〜(c')における置換は、保存的置換により行われることが好ましい。
機能的に類似したアミノ酸を示す保存的置換の表は、当技術分野において周知である。保存することが望ましいアミノ酸側鎖の特性の例には、例えば、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、並びに以下の官能基又は特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);並びに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、相互に保存的置換であるとして当技術分野で認められるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0034】
しかしながら、上記(a')〜(c')における置換はこれらに限定されず、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性が維持される限り、非保存的置換であってもよい。
本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性が維持される限り、ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位以外のアミノ酸残基を含み得る。例えば、ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位を含むERAP1ポリペプチドの断片は、本発明のペプチドとして好適である。したがって、165番目のグルタミン酸から173番目のグルタミン酸までのアミノ酸配列及びその周辺配列を含むERAP1ポリペプチド(配列番号:35)の断片は、本発明のペプチドの好ましい例として挙げられる。
【0035】
たとえば、配列番号:31のアミノ酸配列(9残基)を含み、たとえば30残基、あるいは20残基、典型的には19残基、好ましくは18残基、より好ましくは17残基以下のアミノ酸で構成されるペプチドを、本発明におけるERAP1ペプチドとして例示することができる。このようなペプチドとしては、配列番号:31のアミノ酸配列(9残基)と、ERAP1ポリペプチドを構成する全長アミノ酸配列から選択されたアミノ酸配列を含み、30残基、あるいは20残基、典型的には19残基、好ましくは18残基、より好ましくは17残基以下のアミノ酸で構成されるペプチドを示すことができる。
【0036】
本発明の好ましい態様において、配列番号:31のアミノ酸配列に付加するアミノ酸は、0(すなわち配列番号:31からなるアミノ酸配列)、ERAP1ポリペプチドを構成する全長アミノ酸配列(配列番号:35)から選択された1、あるいは2以上の連続するアミノ酸配列であることができる。配列番号:31のアミノ酸配列は、ERAP1ポリペプチドを構成する全長アミノ酸配列(配列番号:35)の165番目のグルタミン/Q、169番目のアスパラギン酸/D及び173番目のグルタミン/Qを含むアミノ酸配列である。したがって、本発明の好ましい態様において、配列番号:31に付加するアミノ酸残基、またはアミノ酸配列は、配列番号:35のアミノ酸配列における165-173に隣接するアミノ酸配列から選択することができる。言い換えれば、配列番号:31に記載のアミノ酸配列/QMLSDLTLQを含み、かつATLS+QMLSDLTLQ+LRQR(配列番号:27と配列番号:30によってカバーされる領域に相当)からなるアミノ酸配列から選択される連続するアミノ酸配列からなるペプチドは、本発明のERAP1ペプチドとして好ましい。
【0037】
本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性に加えて、以下の(i)及び(ii)のいずれか又は両方の性質を有することが望ましい:
(i)ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、PHB2ポリペプチドの核内移行を促進する;及び
(ii)ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、核内及び/又は細胞膜に存在するエストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合を促進する。
上記(i)及び(ii)のいずれか又は両方の性質を有することにより、本発明のペプチドは、ERAP1発現細胞において、エストロゲン受容体の活性化を抑制し、その結果としてエストロゲン受容体陽性細胞の細胞増殖の抑制を導く。ERAP1ペプチドの前記性質(i)および(ii)は、いずれも、後に述べる実施例に記載された方法に従って評価することができる。
【0038】
PHB2ポリペプチドは、エストロゲン受容体選択的なコレギュレーターであることが知られており、エストロゲン受容体との相互作用によりエストロゲン受容体の転写活性化を抑制する(Kasashima K, J Biol Chem 2006; 281: 36401-10)。一方、ERAP1ポリペプチドはPHB2ポリペプチドと結合することにより、PHB2ポリペプチドの核内移行を妨げ、核内におけるPHB2ポリペプチドとエストロゲン受容体との相互作用を阻害する(図3A,3B,4A,4B)。また、細胞膜に存在するエストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合を妨げる(図3A,3B,4B)。これらの作用の結果として、ERAP1ポリペプチドを過剰発現している細胞では、PHB2ポリペプチドによるエストロゲン受容体の活性化抑制が十分に働かず、細胞増殖の亢進が誘導される。
【0039】
本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を競合的に阻害することにより、ERAP1ポリペプチドとの結合によって阻害されたPHB2ポリペプチドのエストロゲン受容体活性化抑制機能を回復させる点に特徴を有する。したがって、本発明のペプチドは、PHB2ポリペプチドの核内移行を妨げず、またエストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合を妨げないものであることが望ましい。上記のように、PHB2ポリペプチドとの結合部位を含むERAP1ポリペプチドの断片は、本発明のペプチドとして好適ではあるが、ERAP1ポリペプチドの全長に近いペプチドは、ERAP1ポリペプチドほどではないとしても、PHB2ポリペプチドの核内移行を妨げたり、PHB2ポリペプチドとエストロゲン受容体との結合を妨げる可能性がある。よって、本発明のペプチドに含まれるERAP1ポリペプチドの部分アミノ酸配列は、100残基以下であることが好ましく、80残基以下であることがより好ましく、70残基以下であることがさらに好ましい。より好ましい態様では、本発明のペプチドに含まれるERAP1ポリペプチドの部分アミノ酸配列は、50残基以下、40残基以下、30残基以下、25残基以下、又は20残基以下である。
【0040】
また、本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性が維持される限り、ERAP1ポリペプチドに由来するアミノ酸配列以外のアミノ酸配列も含み得る。この場合も、PHB2ポリペプチドの核内移行や、PHB2ポリペプチドとエストロゲン受容体との結合を妨げないことが望ましい。そのため、本発明のペプチドは、100残基以下、80残基以下、又は70残基以下のペプチドであることが好ましい。より好ましい態様では、本発明のペプチドは、50残基以下、40残基以下、又は30残基以下のペプチドである。本発明のペプチドに含まれるアミノ酸配列の好ましい例としては、例えば後述する細胞透過性ペプチドを構成するアミノ酸配列、他の物質を結合するためのリンカー配列などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
また、本発明のペプチドは、他の物質により修飾されていてもよい。本明細書において、ペプチドに関して使用される「修飾された」という用語は、ペプチドに直接的又は間接的に他の物質が結合していることを指す。本発明のペプチドを修飾する他の物質としては、例えば、ペプチド、脂質、糖類、及び天然性又は合成性のポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性を維持する限り、任意の修飾を有し得る。また、本発明のペプチドは、修飾により追加的な機能を付与されてもよい。追加的な機能の例としては、例えば、標的指向性、安定性、細胞膜透過性などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明において、修飾の好ましい例としては、例えば、細胞膜透過性物質の導入が挙げられる。通常、細胞内構造は細胞膜によって外界と遮断されている。そのため、細胞外物質を細胞内に効率的に導入することは困難である。しかし、ある種の物質は、細胞膜透過性を有し、細胞膜に遮られることなく細胞内に導入され得る。このような細胞膜透過性を有する物質(細胞膜透過性物質)で修飾することにより、細胞膜透過性を有さない物質に細胞膜透過性を付与することが可能である。したがって、本発明のペプチドを細胞膜透過性物質で修飾することにより、本発明のペプチドを細胞内に効率的に導入することができる。なお、本明細書において、「細胞膜透過性」とは、哺乳動物の細胞膜を透過して細胞質に入ることのできる性質を指す。また、「細胞膜透過性物質」とは、「細胞膜透過性」を有する物質を指す。
【0043】
細胞膜透過性物質の例としては、例えば、膜融合性リポソーム、細胞膜透過性ペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、膜融合性リポソームは細胞膜と融合して、その内容物を細胞内に放出する。膜融合性リポソームは、例えば、膜融合性を有する物質でリポソーム表面を修飾することにより調整することができる。膜融合性リポソームの例としては、例えば、pH感受性リポソーム(Yuba E, et al., J. Control. Release, 149, 72-80 (2011))、センダイウィルス膜融合性リポソーム(WO97/016171)、細胞膜透過性ペプチドで修飾されたリポソームなどが挙げられる。本発明のペプチドは、細胞内に効率的に導入するために、膜融合性リポソーム内に封入されてもよい。本発明では、膜融合性リポソーム内へのペプチドの封入も、ペプチドの「修飾」に包含される。
【0044】
細胞膜透過性ペプチドについては、これまでに様々な天然の又は人工的に合成されたペプチドが報告されている(Joliot A. & Prochiantz A., Nat Cell Biol. 2004; 6: 189-96)。細胞膜透過性ペプチドの例としては、例えば、以下のペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。:
【0045】
ポリアルギニン(Matsushita et al., (2003) J. Neurosci.; 21, 6000-7.);
Tat/RKKRRQRRR(配列番号:42)(Frankel et al., (1988) Cell 55,1189-93., Green & Loewenstein (1988) Cell 55, 1179-88.);
Penetratin/RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号:57)(Derossi et al., (1994) J. Biol. Chem. 269, 10444-50.);
Buforin II/TRSSRAGLQFPVGRVHRLLRK(配列番号:43)(Park et al., (2000) Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50.);
Transportan/GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号:44)(Pooga et al., (1998) FASEB J. 12, 67-77.);
MAP (Model Amphipathic Peptide)/KLALKLALKALKAALKLA(配列番号:45)(Oehlke et al., (1998) Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39.);
K-FGF/AAVALLPAVLLALLAP(配列番号:46)(Lin et al., (1995) J. Biol. Chem. 270, 14255-8.);
Ku70/VPMLK(配列番号:47)(Sawada et al., (2003) Nature Cell Biol. 5, 352-7.);
Ku70/PMLKE(配列番号:48)(Sawada et al., (2003) Nature Cell Biol. 5, 352-7.);
Prion/MANLGYWLLALFVTMWTDVGLCKKRPKP(配列番号:49)(Lundberg et al., (2002) Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90.);
pVEC/LLIILRRRIRKQAHAHSK(配列番号:50)(Elmquist et al., (2001) Exp. Cell Res. 269, 237-44.);
Pep-1/KETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号:51)(Morris et al., (2001) Nature Biotechnol. 19, 1173-6.);
SynB1/RGGRLSYSRRRFSTSTGR(配列番号:52)(Rousselle et al., (2000) Mol. Pharmacol. 57, 679-86.);
Pep-7/SDLWEMMMVSLACQY(配列番号:53)(Gao et al., (2002) Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65.);及び
HN-1/TSPLNIHNGQKL(配列番号:54);(Hong & Clayman (2000) Cancer Res. 60, 6551-6)。
【0046】
上記に挙げたポリアルギニンは、任意の数のアルギニン残基から構成され得る。例えば、5〜20個のアルギニン残基から構成され得る。ポリアルギニンを構成するアルギニン残基の数は、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する本ペプチドの活性を妨げない限り、特に限定されないが、一般的には、11個のアルギニン残基からなるポリアルギニン(配列番号:55)がよく使用される。
【0047】
細胞膜透過性物質で修飾された本発明のペプチドは、以下の一般式で表すこともできる:
[R]-[D]
式中、[R]は細胞膜透過性物質を表し、[D]は、「ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位を含み、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害するペプチド」を表す。上記の一般式において、[R]及び[D]は直接的に連結させてもよく、又はリンカー等を介して間接的に連結させてもよい。間接的に連結させる場合、ペプチド、複数の官能基を有する化合物などをリンカーとして用いることができる。例えば、[R]が細胞膜透過性ペプチドである場合、好ましいリンカーの例として、グリシン残基からなるリンカーが挙げられる。リンカーを構成するグリシン残基の数は特に限定されないが、好ましくは1〜10残基であり、より好ましくは2〜7残基であり、さらに好ましくは3〜5残基である。また、細胞膜透過性物質と、「ERAP1ポリペプチドにおけるPHB2ポリペプチドとの結合部位を含み、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害するペプチド」とを、微小粒子の表面に結合させることにより、両者を間接的に連結してもよい。[R]は、[D]の任意の位置に連結させることができる。[R]を連結させる位置としては、例えば、 [D]のN末端若しくはC末端、[D]を構成するアミノ酸残基の側鎖が挙げられる。好ましくは、[R]は、[D]のN末端若しくはC末端に、直接的に又はリンカーを介して間接的に連結される。さらに、複数の[R]分子を1つの[D]分子に連結させることもできる。この場合、[R]分子は、[D]分子の複数の異なる位置に導入することができる。あるいは、[D]を互いに連結した複数の[R]で修飾することもできる。
【0048】
また、ペプチドのin vivo安定性を高めるために、特に有用な様々なアミノ酸模倣体又は非天然アミノ酸を導入することが当技術分野において公知である。したがって、本発明のペプチドは、インビボ安定性を高めるために、そのようなアミノ酸模倣体又は非天然アミノ酸を導入することができる。ペプチドの安定性は、例えば、ペプチダーゼ、並びにヒト血漿及び血清などの様々な生物学的培地を用いて確認することができる(例えば、Coos Verhoef et al. (1986) Eur. J. Drug Metab. Pharmacokin. 11: 291-302を参照されたい)。
【0049】
本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性を有する点に特徴を有する。作成したペプチドが、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性を有するか否かは、該ペプチドの存在下及び非存在下におけるERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合レベルを比較することにより、確認することができる。すなわち、該ペプチドの非存在下における結合レベルと比較して、該ペプチドの存在下における結合レベルの方が低い場合には、該ペプチドは、「ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性」を有すると判定できる。
【0050】
ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合レベルの測定は、種々の公知の方法を用いて行うことができる。例えば、抗ERAP1抗体又は抗PHB2抗体を用いた免疫沈降、アフィニティクロマトグラフィ、表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーなどが使用可能である。
【0051】
具体的な方法としては、例えば、試験ペプチドの存在下及び非存在下において、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとをインキュベートする。その後、反応液を抗ERAP1抗体又は抗PHB2抗体で免疫沈降し、免疫沈降物のウェスタンブロット解析を行う。ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合レベルは、抗ERAP1抗体で免疫沈降されたPHB2ポリペプチドレベル又は抗PHB2抗体で免疫沈降されたERAP1ポリペプチドレベルの少なくとも一方を検出することにより確認することができる。ここで使用するERAP1ポリペプチド及びPHB2ポリペプチドは、公知の遺伝子工学的手法によって調整することができる。また、これらのポリペプチドの産生細胞の細胞溶解物を用いることもできる。これらのポリペプチドの産生細胞としては、本明細書の実施例に記載されるような細胞株が利用可能である。
【0052】
あるいは、本明細書の実施例に記載されるような方法を用いることもできる。具体的には、試験ペプチドの存在下及び非存在下において、エストロゲン受容体陽性細胞を培養する。その後、細胞を適切な溶解バッファーで溶解し、その細胞溶解物を用いて上記と同様の免疫沈降及びウェスタンブロット解析を行ってもよい。
上記のような方法のいずれかにより、「ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性」が確認されたペプチドは、「ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害する活性」を有するペプチドであると判定される。
【0053】
また、本発明のペプチドは、好ましい性質として、以下の(i)及び(ii)のいずれか又は両方の性質を有し得る:
(i)ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、PHB2ポリペプチドの核内移行を促進する;及び
(ii)ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、核内及び/又は細胞膜に存在するエストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合を促進する。
【0054】
本発明のペプチドが、上記の性質を有するか否かは、本発明のペプチドの存在下及び非存在下における(i)PHB2ポリペプチドの核移行レベル、及び/又は(ii)エストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合レベル、を比較することにより、確認することができる。すなわち、本発明のペプチドの非存在下におけるレベルと比較して、本発明のペプチドの存在下におけるレベルの方が高い場合には、本発明のペプチドは、上記(i)及び/又は(ii)の性質を有すると判定できる。
【0055】
具体的な方法としては、例えば、本明細書の実施例に記載されるような方法を使用することができる。具体的には、上記(i)の性質について調べる場合には、本発明のペプチドを添加し又は添加しないで、エストロゲン受容体陽性細胞をエストラジオールで24時間刺激する。その後、比重遠心により細胞を分画し、核画分に存在するPHB2ポリペプチドをウェスタンブロット解析等により検出する。本発明のペプチドを添加した場合の方が、添加しなかった場合と比較して、核画分で検出されるPHB2ポリペプチドのレベルが増加していた場合には、本発明のペプチドは上記(i)の性質を有すると判定される。また、核内に存在するPHB2ポリペプチドのレベルは、本明細書の実施例に記載されるように、免疫細胞化学的染色により検出することもできる。
【0056】
上記(ii)の性質について調べる場合には、本発明のペプチドを添加し又は添加しないで、エストロゲン受容体陽性細胞をエストラジオールで24時間刺激する。その後、比重遠心により細胞を分画し、細胞質画分及び核画分を抗エストロゲン受容体抗体又は抗PHB2抗体で免疫沈降し、免疫沈降物のウェスタンブロット解析を行う。その結果、本発明のペプチドを添加した場合の方が、添加しなかった場合と比較して、細胞質画及び/又は核画分において、エストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合レベルが増加していた場合には、本発明のペプチドは上記(ii)の性質を有すると判定される。
【0057】
本発明のペプチドは、当業者に周知の方法を用いて製造することができる。例えば、そのアミノ酸配列に基づいた化学合成により、本発明のペプチドを得ることができる。ペプチドの化学合成方法は、公知であり、当業者であれば、本発明のペプチドとして選択されたアミノ酸配列に基づき、本発明のペプチドを化学合成することができる。ペプチドの化学合成方法については、例えば、以下のような文献に記載されている;
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)ペプチド合成,丸善, 1975;
(iv)ペプチド合成の基礎と実験, 丸善, 1985;
(v)医薬品の開発 続第14巻(ペプチド合成), 広川書店, 1991;
(vi)WO99/67288;及び
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, 「Solid Phase Peptide Synthesis」, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0058】
また、遺伝子工学的手法(例えば、Morrison J, J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (eds. Wu et al.) 1983, 101: 347-62)により、本発明のペプチドを得ることもできる。例えば、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを適切な発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞に導入して形質転換細胞を調製する。次いで、該宿主細胞を培養して本発明のペプチドを産生させ、その細胞抽出物を調整する。該細胞抽出物からの本ペプチドの精製には、タンパク質精製のための標準的な手法を用いることができる。例えば、カラムクロマトグラフィー、フィルター濾過、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、及び再結晶化を適切に選択し、組み合わせることにより、本ペプチドを精製することができる。また、本発明のペプチドは、タンパク質合成のために必要な要素がインビトロで再構成されたインビトロ翻訳系によっても合成することができる。
【0059】
遺伝子工学的手法を用いる場合には、本発明のペプチドを、他のペプチドとの融合タンパク質として発現させることもできる。本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドと他のペプチドをコードするポリヌクレオチドとを、インフレームとなるように連結して、適切な発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞に導入して形質転換細胞を調整する。次いで、該宿主細胞を培養して本発明のペプチドと他のペプチドとの融合タンパク質を産生させ、その細胞抽出物を調整する。該細胞抽出物からの該融合タンパク質の精製は、例えば、融合タンパク質と親和性を有する物質を結合させたカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより該融合タンパク質を捕捉することにより、行うことができる。また、本発明のペプチドと他のペプチドとを、ペプチダーゼ、プロテアーゼ、及びプロテアソームなどの酵素によって切断され得るリンカー配列を介して結合させておけば、カラムに捕捉された該融合タンパク質をこれらの酵素で処理することにより、本発明のペプチドをカラムから分離することができる。融合タンパク質の形成に使用し得る他のペプチドには、例えば、以下のようなペプチドが含まれるが、これらに限定されない:
FLAG(Hopp et al., (1988) BioTechnology 6, 1204-10);
ヒスチジン(His)残基からなる6xHis又は10xHis;
インフルエンザ血球凝集素(HA);
ヒトc-myc断片、VSV-GP断片;p18 HIV断片;
T7タグ; HSVタグ;
Eタグ;SV40T抗原断片;
lckタグ;
α-チューブリン断片;
Bタグ;
プロテインC断片;
GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ);
HA(インフルエンザ血球凝集素);
免疫グロブリン定常領域;
β-ガラクトシダーゼ;及び;
MBP(マルトース-結合タンパク質)。
【0060】
2.本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチド、ベクター、及び宿主細胞
本発明はまた、本発明のペプチドをコードするポリヌクレチドも提供する。また、本発明は、該ポリヌクレチドを含むベクター、及び該ベクターを含む宿主細胞も提供する。該ポリヌクレチド、該ベクター、及び該宿主細胞は、本発明のペプチドを製造するために使用することができる。
【0061】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に知られた方法によって作製することができる。例えば、Beaucage SL & Iyer RP, Tetrahedron 1992, 48: 2223-311;Matthes et al., EMBO J 1984, 3: 801-5に記載されるような固相技法を用いて、本発明のポリヌクレオチドを合成することができる。また、遺伝子工学的手法を用いて本発明のポリヌクレオチドを調整することもできる。例えば、本発明のペプチドとして選択したアミノ酸配列をコードするERAP1遺伝子(配列番号:34)の部分塩基配列に基づいて、プライマーを作成し、ERAP1ポリペプチドを発現する細胞から抽出したmRNAを鋳型として、逆転写PCRを行う。これにより、本発明のポリヌクレオチドを増幅することができる。
【0062】
本発明のポリヌクレオチドは、適切な発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞に導入することにより、宿主細胞内で本発明のペプチドを産生させることができる。
【0063】
例えば、大腸菌を宿主細胞として選択し、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)の内部で大量に増幅させる場合には、ベクターは、大腸菌内で増幅するための「ori」、及び、形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有する必要がある。例えば、M13シリーズのベクター、pUCシリーズのベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどを用いることができる。本発明のペプチドの産生のためにベクターを用いる場合には、発現ベクターが特に有用である。例えば、大腸菌内で発現させようとする発現ベクターは、大腸菌内で増幅させるための上記の特徴を有する必要がある。JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合には、ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現しうるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら、Nature 341: 544-6 (1989);FASEB J 6: 2422-7 (1992))、araBプロモーター(Betterら、Science 240: 1041-3 (1988))、又はT7プロモーターなどを有する必要がある。さらに、ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列をも含みうる。大腸菌の周辺質(periplasm)へのポリペプチド分泌を指令するシグナル配列の一例は、pelBシグナル配列(Leiら、J Bacteriol 169: 4379-83 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入するための手段には、例えば、塩化カルシウム法および電気穿孔法が含まれる。
【0064】
大腸菌以外に、例えば、哺乳動物細胞由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロジェン(Invitrogen))及びpEGF-BOS(Mizushima S., Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac-to-BACバキュロウイルス発現系」(ギブコBRL(GIBCO BRL))、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia発現キット」(インビトロジェン)、pNV11、SP-Q01)、及び枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)も使用可能である。
【0065】
ベクターをCHO細胞、COS細胞又はNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、ベクターは、この種の細胞における発現のために必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulliganら、Nature 277: 108-14 (1979))、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら、Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990))、CMVプロモーターなどを有する必要があるほか、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬剤(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有することが好ましい。これらの特徴を備えた既知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0066】
また、本発明のポリヌクレオチドは、標的細胞の細胞内で本発明のペプチドを産生させるために、適切なベクターに挿入されて、標的細胞内に導入されてもよい。標的細胞内で産生された本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害し、該標的細胞の細胞増殖の抑制を誘導する。この場合には、本発明のポリヌクレオチドが挿入されるベクターは、本発明のポリヌクレオチドを、標的細胞のゲノムに安定に挿入するためベクターであり得る(例えば、相同的組換えカセットベクターの記述についてはThomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8;米国特許第5,580,895号;米国特許第5,589,466号;米国特許第5,804,566号;米国特許第5,739,118号;米国特許第5,736,524号;米国特許第5,679,647号;及び国際公開公報第98/04720号を参照されたい。
【0067】
また、本発明のポリヌクレオチドは、例えば、ウイルスベクター又は細菌ベクターなどの発現ベクターにも挿入され得る。発現ベクターの例としては、例えば、牛痘又は鶏痘などの弱毒化ウイルス宿主が挙げられる(例えば、米国特許第4,722,858号を参照のこと)。使用可能なベクターの他の例としては、カルメットゲラン桿菌(Bacille Calmette Guerin;BCG)が挙げられる(Stover et al., Nature 1991, 351: 456-60)。他の例としては、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクターなどが挙げられる(Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71; Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806;およびHipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85)。
【0068】
3. 本発明のペプチド又はポリヌクレオチドを含む医薬組成物及びその使用
本発明はまた、本発明のペプチド又は本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む医薬組成物を提供する。
本発明のペプチドは、ERAP1ポリペプチドとPHB2ポリペプチドとの結合を阻害することにより、PHB2ポリペプチドによるエストロゲン受容体の活性化抑制を誘導し、その結果として、エストロゲン受容体陽性細胞における細胞増殖の抑制を導く。したがって、本発明の医薬組成物は、エストロゲン受容体の活性化に起因する細胞増殖性疾患の治療及び/又は予防に有用である。そのような細胞増殖性疾患としては、例えば、癌が挙げられる。
【0069】
癌の中でも、特に乳癌は、エストロゲン受容体の活性化と深い関連があることが知られている。ERAP1ポリペプチドは、新規のエストロゲン受容体活性化制御因子であり、多くの乳癌検体及び乳癌細胞で高頻度に発現している一方、正常組織ではほとんど発現が認められないことが確認されている(Kim JW, Akiyama M, Park JH, et al. Cancer Sci. 2009; 100:1468-78.)。したがって、乳癌では、ERAP1ポリペプチドが発現されることにより、PHB2ポリペプチドによるエストロゲン受容体の活性化抑制機能が阻害され、その結果として、乳癌細胞の増殖が促進されるものと考えられる。よって、本発明の医薬組成物は、乳癌の治療及び/又は予防に特に適している。また、乳癌の中でも、エストロゲン受容体陽性であって、ERAP1ポリペプチドを発現している乳癌に特に有用である。しかしながら、本発明の医薬組成物は、乳癌に対する使用に限定されるものではなく、エストロゲン受容体陽性であって、ERAP1ポリペプチドを発現している癌であれば、本発明の医薬組成物を使用することができる。乳癌以外のエストロゲン受容体陽性の癌としては、例えば、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌(Nelles JL, et al., Expert Rev Endocrinol Metab. 2011 May;6(3):437-451.)、肺癌(特に非小細胞肺癌)(Stabile LP, et al., Cancer Res. 2005 Feb 15;65(4):1459-70.; Marquez-Garban DC, et al., Steroids. 2007 Feb;72(2):135-43.)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
また、本発明のペプチドは、エストロゲン受容体陽性細胞において、エストロゲン依存性の細胞増殖のみならず、エストロゲン非依存性の細胞増殖に対しても抑制効果を有する(実施例3)。エストロゲン受容体陽性乳癌のうち、60〜70%はエストロゲン依存性の乳癌であるが、残りはエストロゲン非依存性である。エストロゲン非依存性乳癌は、タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤などの従来のホルモン療法剤に対して不応又は耐性となっており、従来のホルモン療法剤では治療を行うことができない。こうしたエストロゲン非依存性乳癌では、エストロゲン以外の要因(例えば、成長因子(EGF、IFGFなど)、エストロゲン受容体の変異、エストロゲン受容体のリン酸化など)によって、エストロゲン受容体が活性化され、細胞増殖が促進されると考えられる。本発明のペプチドは、エストロゲン受容体陽性乳癌のエストロゲン非依存的な細胞増殖に対しても抑制効果があることから、本発明の医薬組成物は、エストロゲン非依存性のエストロゲン受容体陽性乳癌の治療及び/又は予防にも適用することができる。
【0071】
さらに、本発明のペプチドは、エストロゲン受容体陰性の乳癌細胞に対しても、細胞増殖抑制効果を有することが確認された(図40)。したがって、本発明の医薬組成物は、エストロゲン受容体陰性乳癌の治療及び/又は予防にも適用することができる。
【0072】
また、本発明のペプチドは、タモキシフェン耐性の乳癌細胞の細胞増殖を効果的に抑制する(実施例2、実施例8)。タモキシフェンは、抗エストロゲン剤であり、エストロゲンと競合的にエストロゲン受容体に結合することにより、エストロゲン依存的な細胞増殖を抑制すると考えられる。タモキシフェンは、術後補助療法や進行・再発乳癌の標準治療として、広く使用されているが、エストロゲン受容体陽性乳癌の約30%はタモキシフェン不応性である。また、長期使用により、乳癌がタモキシフェンに対して耐性を獲得する場合もある。本発明のペプチドは、タモキシフェン耐性の乳癌細胞の細胞増殖抑制効果を有することから、本発明の医薬組成物は、こうしたタモキシフェン耐性乳癌に対して、好適に適用することができる。
【0073】
また、本発明のペプチドは、タモキシフェンと併用することで、エストロゲン受容体陽性細胞における細胞増殖抑制効果、及びin vivoでの抗腫瘍効果が顕著に促進された(実施例4)。上記のようにタモキシフェンは抗エストロゲン剤であり、本発明のペプチドとは細胞増殖抑制効果を発揮する機構が異なる。そのため、タモキシフェンを本発明のペプチドと併用することにより、本発明のペプチドが、タモキシフェンの癌治療効果を増強すると考えられる。したがって、本発明の医薬組成物は、タモキシフェンの癌治療効果を増強する目的で、タモキシフェンと併用して癌の治療及び/又は予防に使用することに適している。また、本発明の医薬組成物は、タモキシフェン以外のホルモン療法剤と併用することもできる。本明細書において、「ホルモン療法剤」という用語は、生体内において、エストロゲンの作用又はエストロゲンの生成を抑制することにより、エストロゲン依存的な細胞増殖を抑制する薬剤を指す。ホルモン療法剤の例としては、例えば、アロマターゼ阻害剤、LH-RHアゴニスト製剤、プロゲステロン製剤などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの従来のホルモン療法剤は、本発明のペプチドとは癌治療を誘導する機構が異なるため、本発明の医薬組成物と併用することにより、その癌治療効果の増強が期待できる。
【0074】
よって、本発明により、例えば、以下の(1)〜(7)に記載の医薬組成物が提供される:
(1)本発明のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、および該ペプチドの薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む医薬組成物;
(2)癌を治療及び/又は予防するための、(1)に記載の医薬組成物;
(3)癌が乳癌である、(2)に記載の医薬組成物;
(4)癌がエストロゲン受容体陽性である、(1)又は(2)に記載の医薬組成物;
(5)癌がタモキシフェン耐性である、(4)に記載の医薬組成物;
(6)本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ホルモン療法剤の癌治療効果を増強するための医薬組成物;及び
(7)本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、エストロゲン受容体陽性細胞におけるエストロゲン受容体の活性化を抑制するための医薬組成物。
本発明のペプチドの薬学的に許容される塩としては、薬学的に許容される酸(無機酸、有機酸など)や塩基(アルカリ金属、アルカリ土類金属、アミンなど)などとの塩が用いられる。好ましい態様としては、薬学的に許容される酸付加塩が挙げられる。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メグルミン酸など)との塩などが挙げられる。本発明のペプチドの薬学的に許容される塩の好ましい例としては、例えば、酢酸塩、塩酸塩、メグルミン酸塩、及びアンモニウム塩などが挙げられる。
【0075】
また、本発明は、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の医薬組成物の製造における、本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用を提供する。また、本発明はさらに、薬学的に許容される担体と、活性成分としての本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドとを処方する工程を含む、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の医薬組成物を製造するための方法又はプロセスを提供する。また、本発明は、活性成分と、薬学的に許容される担体とを混合する工程を含み、この活性成分が本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドである、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の医薬組成物を製造するための方法又はプロセスを提供する。また、本発明は、癌の治療、ホルモン療法剤の癌治療効果の増強、又はエストロゲン受容体陽性細胞におけるエストロゲン受容体の活性化の抑制に使用するための、本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0076】
また、本発明は、本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与する工程を含む、エストロゲン受容体の活性化に起因する細胞増殖性疾患を治療及び/又は予防する方法を提供する。本発明の方法によって治療及び/又は予防される細胞増殖性疾患としては、例えば、癌が挙げられる。本発明の方法の適用に好適な癌は、上述の本発明の医薬組成物と同様である。すなわち、本発明の方法は、エストロゲン受容体陽性であって、ERAP1ポリペプチドを発現している癌に、好ましく適用される。また、本発明は、本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドをエストロゲン受容体陽性細胞と接触させる工程を含む、エストロゲン受容体の活性化を抑制する方法を提供する。
本発明の医薬組成物は、好ましくはヒトに投与されるが、他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、及びチンパンジーに投与されてもよい。
【0077】
本発明の医薬組成物は、活性成分として、薬学的有効量の本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。「薬学的有効量」とは、本発明の医薬組成物がその目的を達成するために十分な量である。例えば、本発明の医薬組成物が癌を治療及び/又は予防するための医薬組成物である場合、薬学的有効量の一例は、患者に投与されたときに、癌の増殖速度の抑制、転移能の抑制、生存期間の延長、癌の発生の抑制若しくは遅延、又は癌に伴う様々な臨床症状の緩和を誘導する量であり得る。癌の増殖速度の抑制は、本発明の医薬組成物を投与しなかった場合と比較して、例えば、約5%以上の抑制であり得る。好ましくは、癌増殖速度の抑制は、約10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、75%以上、80%以上、90%以上、又は100%以上であり得る。
【0078】
また、本発明の医薬組成物がホルモン療法剤の癌治療効果を増強するための医薬組成物である場合、薬学的有効量の一例は、患者に投与されたときに、本発明の医薬組成物を投与しなかった場合と比較して、ホルモン療法剤の癌治療効果の増強を誘導する量であり得る。比較されるホルモン療法剤の癌治療効果は、例えば、癌の増殖速度の抑制、転移能の抑制、生存期間の延長、癌の発生の抑制若しくは遅延、又は癌に伴う様々な臨床症状の緩和であり得る。例えば、薬学的有効量は、本発明の医薬組成物を投与しなかった場合と比較して、ホルモン療法剤による癌の増殖速度の抑制効果を、約5%以上増強する量であり得る。好ましくは、ホルモン療法剤による癌増殖速度の抑制効果の増強は、約10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、75%以上、80%以上、90%以上、又は100%以上であり得る。
【0079】
また、本発明の医薬組成物がエストロゲン受容体陽性細胞におけるエストロゲン受容体の活性化を抑制するための医薬組成物である場合、薬学的有効量の一例は、患者に投与されたときに、本発明の医薬組成物を投与しなかった場合と比較して、エストロゲン受容体陽性細胞におけるエストロゲン受容体の活性化の抑制を誘導する量であり得る。エストロゲン受容体の活性化の抑制は、例えば、エストロゲン受容体による転写活性化標的遺伝子(エストロゲン応答性配列(ERE)を有する遺伝子)の発現レベルの抑制、エストロゲン受容体のリン酸化レベルの抑制、IGF-1Rβ、Shc、Akt、PI3K、MAPKなどのシグナル分子のリン酸化レベルの抑制等を検出することにより確認することができる。例えば、薬学的有効量は、本発明の医薬組成物を投与しなかった場合と比較して、上記に例示したレベルのいずれかを、約5%以上抑制する量であり得る。好ましくは、上記に例示したレベルのいずれかの抑制は、約10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、75%以上、80%以上、90%以上、又は100%以上であり得る。
【0080】
薬学的有効量は、対象の年齢及び性別、投与の目的、疾患の重篤度、投与経路を含む多くの要因に依拠し得る。しかしながら、本発明の医薬組成物における薬学的有効量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。例えば、本発明の医薬組成物における薬学的有効量は、最初に、細胞培養アッセイ及び/又は動物モデルから概算してもよい。例えば、薬学的有効量は、細胞培養において決定されたIC50(細胞の50%が望ましい効果を示す用量)を含む循環濃度範囲に達するように動物モデルにおいて処方することができる。薬学的有効量はまた、細胞培養又は実験動物において、例えば、LD50(集団の50%が死に至る用量)およびED50(集団の50%において治療に有効な用量)を決定するための標準的な薬学的手順によって決定することもできる。毒性作用と治療効果との用量比が治療指数(すなわち、LD50とED50との比)である。ヒトにおいて使用するための投与量範囲の処方において、これらの細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを使用し得る。このようなポリペプチド及びポリヌクレオチドの投与量は、毒性がほどんど無く又は全く無く、ED50を含む循環濃度の範囲内にあり得る。この範囲内で、投与量は、使用される単位剤形および利用される投与経路によって変えてもよい。正確な処方、投与経路、および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択することができる(例えば、Fingl et al. (1975) in 「The Pharmacological Basis of Therapeutics」, Ch.1 p1を参照されたい)。投与量及び投与間隔は、望ましい効果を維持するのに十分な活性成分の血漿中濃度を得るように個々に調節されてもよい。
【0081】
例示的な投与量としては、例えば、本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量で投与することができる。好ましくは、約0.5〜約200mg/kg/日、より好ましくは、約1.0〜約150mg/kg/日、さらに好ましくは、約3.0〜約100mg/kg/日である。成人(体重60kg)の用量範囲は一般に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、より好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。本発明の医薬組成物は、個別の単位で提供される錠剤又は他の単位用量形態において、本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを前述の量で含み得る。あるいは、例えば約5 mg〜約500 mg、好ましくは約50 mg〜約500 mgを含む単位で、複数の製剤として前述の用量を含み得る。
【0082】
本発明の医薬組成物は、任意で、活性成分として他の治療物質を含んでもよい。例えば、本発明の医薬組成物は、他のホルモン療法剤(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、LH-RHアゴニスト製剤、プロゲステロン製剤など)を含み得る。実施例に示されるように、本発明のペプチドは、タモキシフェンと共に投与された場合に、それぞれ単独で投与された場合と比較して、抗腫瘍効果が増大することが確認されている(実施例4)。したがって、本発明のペプチド及び他のホルモン療法剤を含む医薬組成物は、本発明の医薬組成物の好ましい態様として例示される。また、本発明の医薬組成物は、例えば、抗炎症剤、鎮痛剤、化学療法剤などを含んでもよい。これらのERAP1ペプチドに配合される各種の製剤は、プロドラッグや薬学的に許容される塩の形で配合することもできる。
【0083】
本発明の医薬組成物は、それ自体に他の治療物質を含めることに加えて、1種又は複数種の他の医薬組成物と同時に又は連続して投与されてもよい。上述のように、本発明のペプチドは、他のホルモン療法剤と併用した場合に、それぞれ単独で投与された場合と比較して、抗腫瘍効果の増大が期待される。したがって、本発明は、好ましい態様として、以下の方法を包含する:
・本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与する工程、及びホルモン療法剤を対象に投与する工程を含む、癌を治療及び/又は予防する方法;及び
・以下の(a)及び(b)工程を含む、対象において、ホルモン療法剤の乳癌治療効果を増強する方法:
(a)ホルモン療法剤を対象に投与する工程;及び
(b)本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与する工程。
【0084】
すなわち本発明は、ホルモン療法剤および化学療法剤のいずれか、または両方を投与された対象にERAP1ペプチドを投与する工程を含む、ホルモン療法剤および化学療法剤のいずれか、または両方の治療効果を増強する方法を提供する。あるいは本発明は、以下の(a)-(c)からなる群から選択されるいずれかの成分の、ホルモン療法剤および化学療法剤のいずれか、または両方の治療効果を増強するための医薬組成物の製造における使用に関する:
(a) 本発明のERAP1ペプチド;
(b) 当該ペプチドをコードするポリヌクレオチド;および
(c) 該ペプチドの薬学的に許容される塩。
さらに本発明は、上記(a)-(c)からなる群から選択されるいずれかの成分と薬学的に許容される担体を含む、ホルモン療法剤および化学療法剤のいずれか、または両方の治療効果を増強するための医薬組成物を提供する。合わせて本発明は、上記(a)-(c)からなる群から選択されるいずれかの成分と薬学的に許容される担体を配合する工程を含む、ホルモン療法剤および化学療法剤のいずれか、または両方の治療効果を増強するための医薬組成物の製造方法を提供する。本発明において、治療効果の増強が期待される疾患は、エストロゲン受容体陽性であって、ERAP1ポリペプチドを発現している癌である。このような癌には、ヒト乳癌が含まれる。
【0085】
本発明の一態様において、本発明の医薬組成物は、癌を治療及び/又は予防するのに有用な材料を含む製造物品及び/又はキットに含まれてもよい。より具体的には、
(i) ホルモン療法剤および化学療法剤のいずれか、または両方、および
(ii) 次の(a)-(c)からなる群から選択されるいずれかの成分を含む、エストロゲン受容体陽性であって、ERAP1ポリペプチドを発現している癌の治療用キットは、本発明のキットに含まれる:
(a) 本発明のERAP1ペプチド;
(b) 当該ペプチドをコードするポリヌクレオチド;および
(c) 該ペプチドの薬学的に許容される塩。
製造物品は、本発明の任意の医薬組成物の容器をラベルと共に含んでもよい。適切な容器には、ボトル、バイアル、及び試験管が含まれる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの種々の材料から形成されてもよい。容器のラベルは、医薬組成物が疾患の1つ又は複数の状態を治療及び/又は予防するのに用いられることを示さなければならない。ラベルはまた投与などの指示を示してもよい。
【0086】
前記の容器に加えて、本発明の医薬組成物を含むキットは、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収用する第2の容器をさらに含んでもよい。キットは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、注射器、及び使用説明書の付いた添付文書を含む、商業的視点及び使用者視点から望まれる他の材料をさらに含んでもよい。
【0087】
本発明の医薬組成物は、必要に応じて、活性成分を含む1つ又は複数の単位剤形を含み得る包装又はディスペンサー装置に入れることができる。包装は、例えば、ブリスター包装などの金属箔又はプラスチック箔を含んでもよい。包装又はディスペンサー装置には投与説明書が添付されてもよい。
【0088】
本発明の医薬組成物はまた、癌を治療及び/又は予防するのに有用な他の医薬組成物とのキットとして提供されてもよい。キットとして、本発明の医薬組成物と組み合わせ得る医薬組成物は、例えば、ホルモン療法剤、化学療法剤を含むがこれらに限定されない。好ましい態様では、本発明の医薬組成物は他のホルモン療法剤とのキットとして提供され得る。したがって、本発明の医薬組成物と他のホルモン療法剤とを含むキットもまた、本発明に包含される。あるいは本発明は、対象におけるエストロゲン受容体陽性であって、ERAP1ポリペプチドを発現している癌の治療における、以下の(i)と(ii)の組み合わせの使用に関する:
(i) ホルモン療法剤および化学療法剤のいずれか、または両方、および
(ii) 次の(a)-(c)からなる群から選択されるいずれかの成分;
(a) 本発明のERAP1ペプチド;
(b) 当該ペプチドをコードするポリヌクレオチド;および
(c) 該ペプチドの薬学的に許容される塩。
本発明の好ましい態様において、治療の対象とすることができる癌には、ヒト乳癌が含まれる。
【0089】
本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、対象に対して、適切な担体と共に直接投与されてもよく、または公知の薬剤調製法を用いて適切な剤形へと製剤化することもできる。あるいは、本発明のペプチドの薬学的に許容される塩もまた、ペプチドと同様に、適切な担体とともに対象に投与するか、あるいは投与のために製剤化することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、経口、直腸、鼻腔内、局所的(口腔内および舌下を含む)、腟内、若しくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与、又は吸入若しくは吹入による投与に適した形態に製剤化され得る。例えば、必要に応じて、本発明の医薬組成物を、糖衣錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、及びマイクロカプセルとして経口投与することもでき、又は、水若しくは他の任意の薬学的に許容される担体との滅菌溶液もしくは懸濁液である注射剤の形態として非経口的に投与することもできる。例えば、本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体又は媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、溶媒剤、保存剤、結合剤などと共に、一般に容認された薬剤使用に必要な単位用量剤形で混合することができる。「薬学的に許容される担体」という語句は、薬物のための希釈剤または溶媒剤として使用する不活性な物質を指す。したがって、本発明の医薬組成物は、本発明のペプチド又は該ペプチドをコードするポリヌクレオチドに加えて、任意の薬学的に許容される担体を含み得る。
【0090】
錠剤及びカプセル剤と混合可能な添加物の例は、結合剤(ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントガム、及びアラビアゴムなど);賦形剤(結晶性セルロースなど);膨張剤(コーンスターチ、ゼラチン、及びアルギン酸など);潤滑剤(ステアリン酸マグネシウムなど);甘味剤(ショ糖、乳糖、又はサッカリン);香味剤(ペパーミント、アカモノ油、及びチェリーなど)である。単位投与剤形がカプセルの場合、液状担体(オイルなど)も上記成分中にさらに含めることができる。注射用の滅菌成分を、通常の薬剤使用にしたがって、注射用蒸留水などの溶媒剤を用いて製剤化することができる。
【0091】
生理食塩水、並びに、グルコース、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、及び塩化ナトリウムなどのアジュバントを含む他の等張液を、注射用水溶液として使用することができる。これらは、アルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール(例えばプロピレングリコールやポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(商標)やHCO-50))などの適切な可溶化剤とともに使用することができる。
【0092】
ゴマ油又はダイズ油は、油性溶液として使用することができ、可溶化剤として安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールとともに使用することができ、かつ、緩衝液(リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液など);鎮痛薬(塩酸プロカインなど);安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど);並びに抗酸化剤を用いて製剤化することができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。
【0093】
経口投与に適した医薬製剤には、それぞれに所定量の活性成分が含まれている、カプセル、カシェ剤、および錠剤が含まれるが、これに限定されない。製剤には、薬物、液体、ゲル、シロップ、スラリー、丸剤、散剤、顆粒、溶液、懸濁液、エマルジョンなども含まれる。活性成分は、任意で、ボーラス、舐剤、又はペースト剤として投与される。経口投与用の錠剤及びカプセルは、結合剤、増量剤、潤滑剤、崩壊剤、及び湿潤剤などの従来の賦形剤を含んでもよい。適切な賦形剤は、特に、増量剤、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、及びソルビトールを含む糖;セルロース調製物、例えば、コーンスターチ、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびポリビニルピロリドン(PVP)である。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、及びアルギン酸又はその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤が添加されてもよい。
錠剤は、任意で、1種又は複数種の製剤成分と共に圧縮または成型することによって作られてもよい。圧縮錠は、散剤又は顆粒などの自由に流動することができる形をした活性成分を、任意で、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、界面活性剤、又は分散剤と混合して、適切な機械の中で圧縮することによって調製してもよい。湿製錠は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械の中で成型することによって作ることができる。錠剤は、当技術分野において周知の方法に従ってコーティングすることができる。経口液体調製物は、例えば、水性若しくは油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ、又はエリキシル剤の形をとってもよく、或いは、使用前に水又は他の適切なビヒクルと再構成するための乾燥品として提供されてもよい。このような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を含んでもよい)、および防腐剤などの従来の添加物を含んでもよい。
【0094】
非経口投与のための製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤及び対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含み得る水性及び非水性滅菌注射剤、並びに懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量又は複数回用量で容器、例えば密封アンプル又はバイアルに入れて提供されてもよく、滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存されてもよい。あるいは、製剤は持続注入用として提供されてもよい。即時注射用の可溶化液及び懸濁液は、上述したような無菌の散剤、顆粒剤、及び錠剤から調製されてもよい。
【0095】
直腸投与用製剤には、カカオバター又はポリエチレングリコールなどの標準的な担体を用いた坐剤が含まれる。口内、例えば、頬側又は舌下に局所投与するための製剤には、スクロース、及びアラビアゴム又はトラガカントゴムのような着香基剤中に活性成分を含むロゼンジ、並びにゼラチン、グリセリン、スクロース、又はアラビアゴムなどの基剤中に活性成分を含むトローチが含まれる。活性成分の鼻腔内投与のためには、液体スプレー若しくは分散性散剤又は滴剤の形が使用され得る。滴剤は、1種又は複数種の分散剤、可溶化剤、又は懸濁剤もまた含む水性又は非水性の基剤を用いて処方されてもよい。
【0096】
吸入による投与の場合、吸入器、ネブライザー、加圧パック、又は他のエアロゾル噴霧を送達するための適切な手段によって、本発明の医薬組成物は送達され得る。加圧パックは、適切な噴霧剤(ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、炭酸ガス、又は他の適切なガス)を含み得る。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、一定量を送達するバルブを提供することで決定することができる。あるいは、吸入若しくは吹入による投与の場合、本発明の医薬組成物は、乾燥粉末組成物、例えば本発明のペプチドと、乳糖又はデンプンのような適した粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、例えば、カプセル剤、カートリッジ、ゼラチン、又はブリスターパック中で、単位投与剤形で提供してもよく、粉末はそこから吸入器又は吹入器を利用して投与され得る。
【0097】
必要に応じて、本発明のペプチドが徐放性となるように適合させた上記の製剤を使用することもできる。本発明の医薬組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、又は保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
本発明の製剤は、上述した成分に加えて、当該の製剤の種類を考慮して当技術分野において従来的な他の物質を含み得ることが理解されるべきである。例えば、経口投与に適した製剤は香味剤を含み得る。
【0098】
本発明の医薬組成物は、活性成分であるペプチド又はポリヌクレオチドが胃酸又は腸内酵素ににより消化されることを回避するため、注射剤として非経口で投与されることが好ましい。例えば、当業者に周知の方法を用いて、本発明の医薬組成物を、動脈内注射、静脈内注射、皮内注射、皮下注射又は腫瘍内に投与し得る。好ましい態様では、本発明の医薬組成物は、活性成分をリポソームなどの適切な送達試薬に封入した形態で、静脈内注射により投与される。リポソームなどの送達試薬への活性成分の封入は、当業者に公知の方法により行うことができる。
活性成分が本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドである場合、本発明の医薬組成物は、該ポリヌクレオチドを挿入した遺伝子治療用のベクターを活性成分として含むことができる。この場合、ベクターを細胞内に導入するために、本発明の医薬組成物は適切なトランスフェクション増強剤を含み得る。
【0099】
4. 癌の予後を判定する方法
本明細書の実施例に示されるように、ERAP1ポリペプチドの発現は、乳癌の無再発生存期間と有意に相関している(実施例7)。したがって、本発明はまた、ERAP1ポリペプチドの発現を指標とした、癌を有する患者の予後を判定する方法も提供する。
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[8]の方法を提供する:
[1] 癌を有する患者の予後を判定する方法であって、以下の(A)、または(B)に記載の(a)〜(c)の工程を含む方法:
(A)
(a)該対象から採取された生体試料において、ERAP1遺伝子の発現レベルを検出する工程;
(b)工程(a)で検出された発現レベルを対照レベルと比較する工程;
(c)工程(b)の比較に基づいて、該対象の予後を判定する工程;
(B)
(a)対象由来の生体試料を単離、または採取する工程;
(b) ERAP1遺伝子の発現レベルを検出、測定、または決定するために該対象由来の生体試料をERAP1ポリヌクレオチドにハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはERAP1ポリペプチドに結合する抗体に接触させる工程;
(c) 該接触に基づいてERAP1遺伝子の発現レベルを検出、測定、または決定する工程;
(d)工程(c)で検出された発現レベルを対照レベルと比較する工程;
(e)工程(d)の比較に基づいて、該対象の予後を判定する工程;
[2] 前記対照レベルが良好な予後対照レベルであり、かつ該対照レベルに対する前記発現レベルの増大が予後不良と判定される、[1]に記載の方法;
[3] 前記発現レベルが、以下の(a)又は(b)いずれか1つの方法によって求められる、[1]又は[2]に記載の方法:
(a)ERAP1ポリペプチドをコードするmRNAを検出すること;
(b)ERAP1ポリペプチドを検出すること;
[4] 前記発現レベルが、免疫組織化学染色によって求められる、[3]に記載の方法;
[5] 前記生体試料が癌の切除標本である、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法;
[6] 癌がエストロゲン受容体陽性である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の方法;
[7] 癌が乳癌である、[6]に記載の方法;及び
[8] 判定される予後が術後再発である、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
以下に、本発明の方法の詳細を記載する。
本明細書において、「予後」という用語は、疾患の見込み転帰、疾患からの回復の可能性、及び疾患の再発可能性に関する予測を表す。したがって、良好ではない、又は不良である予後は、治療後の生存期間若しくは生存率の低下、又は治療後の再発率の上昇若しくは再発までの期間の短縮によって規定される。反対に、良好な予後は、治療後の生存期間若しくは生存率の上昇、又は治療後の再発率の低下若しくは再発までの期間の延長によって規定される。
【0101】
本明細書において、「予後を判定する」という語句は、癌の進行、特に癌の再発、転移拡散及び疾患再発の予測及び見込み解析を包含する。本発明の予後を判定する方法は、治療的介入、診断基準、例えば疾患の病期分類、並びに腫瘍性疾患の転移又は再発に関する疾患モニタリング及び監視を含む、治療法について結論を出す際に臨床的に使用されることが意図される。好ましい態様において、本発明の方法により予測される予後は、術後再発であり得る。したがって、本発明の方法により、癌切除手術を受けた患者において、癌再発の可能性を予測することが可能となる。
【0102】
本発明の方法により予後が判定される癌は、エストロゲン受容体陽性の癌であることが好ましい。エストロゲン受容体陽性の癌としては、例えば、乳癌、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌(特に非小細胞肺癌)などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい態様では、本発明の方法により予後が判定される癌は、乳癌である。
【0103】
本発明の方法において使用される患者から採取された生体試料は、特に限定されないが、患者由来の癌細胞を含むことが好ましい。生体試料の好ましい例としては、外科手術等により切除された癌切除標本が挙げられる。例えば、予後を判定される癌が乳癌である場合、好ましい生体試料の例として、乳癌切除標本が挙げられる。生体試料は、治療前、治療中及び治療後を含む様々な時点で、患者から採取することができる。例えば予後を判定される患者由来の乳癌細胞は、本発明の生体試料として特に好ましい。
【0104】
本発明の方法において、比較に使用される「対照レベル」は、例えば、治療後に癌の良好な予後を示した個体又は個体集団において、任意の種類の治療の前に検出されたERAP1遺伝子の発現レベルであり得る。この場合の対照レベルは、本明細書において、「良好な予後対照レベル」と称される。また、「対照レベル」は、治療後に癌の不良な予後を示した個体又は個体集団において、任意の種類の治療の前に検出されたERAP1遺伝子の発現レベルであり得る。この場合の対照レベルは、本明細書において、「不良な予後対照レベル」と称される。「対照レベル」は、単一の参照集団に由来する単一発現パターン又は複数の発現パターンであり得る。したがって、対照レベルは、予後が既知である癌の患者、又は患者の集団における任意の種類の治療の前に検出されたERAP1遺伝子の発現レベルに基づき求めることができる。あるいは、予後が既知の患者群におけるERAP1遺伝子の発現レベルの標準値が用いられる。標準値は、当該技術分野で既知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均±2S.D.又は平均±3S.D.の範囲を標準値として使用することができる。
対照レベルは、任意の種類の治療の前に、予後が既知の癌患者又は患者群からこれまでに採取及び保存された試料を使用することによって、試験生体試料と同時に求めることができる。
【0105】
あるいは、対照レベルは、対照群からこれまでに採取及び保存された試料におけるERAP1遺伝子の発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて統計的方法によって求めることができる。さらに、対照レベルは、これまでに収集された予後が既知の患者群の発現パターンのデータベースであり得る。また、本発明の一態様によれば、患者由来の生体試料におけるERAP1遺伝子の発現レベルは、複数の参照試料から求められる複数の対照レベルと比較することができる。好ましい態様では、患者から採取された生体試料のものと同じ組織型に由来する参照試料から求められる対照レベルが用いられる。
本発明の方法では、患者由来の生体試料におけるERAP1遺伝子の発現レベルと良好な予後対照レベルとが類似していた場合、該患者の予後は良好であると判定される。一方、患者由来の生体試料におけるERAP1遺伝子の発現レベルが良好な予後対照レベルに対して増大していた場合、該患者の予後は良好ではない又は不良であると判定される。また、患者由来の生体試料におけるERAP1遺伝子の発現レベルが不良な予後対照レベルに対して低減していた場合、該患者の予後は良好であると判定される。一方、患者由来の生体試料におけるERAP1遺伝子の発現レベルが不良な予後対照レベルと類似していた場合、該患者の予後は良好ではない又は不良であると判定される。良好な予後対照サンプルの好ましい例としては、例えば、治療後に良好な予後を示した患者由来の乳癌細胞が挙げられる。あるいは、不良な予後対照サンプルの好ましい例としては、治療後に不良な予後を示した患者由来の乳癌細胞が挙げられる。
生体試料におけるERAP1遺伝子の発現レベルは、対照レベルと1.0倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、5.0倍以上、10.0倍以上、又はそれ以上異なる場合に変化(即ち増大又は低減)していると考えられ得る。
【0106】
試験生体試料レベルと対照レベルとの間の発現レベルの相違は、対照、例えばハウスキーピング遺伝子により正規化することができる。例えば、発現レベルが癌細胞と非癌細胞との間で異ならないことが知られるポリヌクレオチド(例えば、βアクチン、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、リボソームタンパク質P1をコードする遺伝子)を、ERAP1遺伝子の発現レベルを正規化するのに使用することができる。
【0107】
発現レベルは、当該技術分野で既知の方法を用いて、患者から採取した生体試料において、ERAP1遺伝子の転写産物(mRNA)又は翻訳産物(タンパク質)を検出することにより求めることができる。
【0108】
例えば、ERAP1遺伝子のmRNAは、該mRNAに相補的な配列を有するプローブを使用して、ハイブリダイゼーション、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション解析によって検出することができる。検出はチップ又はアレイ上で行うことができる。あるいは、ERAP1遺伝子のmRNAに特異的なプライマーを使用する増幅ベースの検出法、例えば逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を検出に利用することができる。ERAP1遺伝子に特異的なプローブ又はプライマーは、ERAP1遺伝子の塩基配列(配列番号:34)の配列全体を参照することにより従来の技法を用いて設計及び調製することができる。例えば、実施例で使用されるプライマー(配列番号:17及び配列番号:18)を、RT-PCRによる検出に利用することができるが、それらに限定されない。
【0109】
本発明の方法で使用されるプローブ又はプライマーは、ストリンジェント、中程度ストリンジェント、又は低ストリンジェントの条件下でERAP1遺伝子のmRNAとハイブリダイズする。本明細書において、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブ又はプライマーがその標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件を表す。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、様々な状況下で異なる。長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高い温度で観察される。一般的に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度及びpHで、特定の配列の熱融解点(Tm)より約5℃低く選択される。Tmは、(規定のイオン強度、pH及び核酸濃度で)標的配列に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリダイズする温度である。一般的にTmでは標的配列が過剰に存在するので、プローブの50%が平衡状態で占められる。典型的に、ストリンジェント条件は、塩濃度がpH7.0〜8.3で約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的に約0.01M〜1.0Mのナトリウムイオン(又はその塩)であり、温度が、短いプローブ又はプライマー(例えば10個〜50個のヌクレオチド)では少なくとも約30℃であり、長いプローブ又はプライマーでは少なくとも約60℃である。ストリンジェント条件は、脱安定化剤、例えばホルムアミドの添加によっても達成することができる。
【0110】
本発明の方法では、ERAP1遺伝子の発現レベルを求めるために、ERAP1遺伝子の翻訳産物を検出することもできる。例えば、ERAP1ポリペプチドの量を求めることができる。翻訳産物としてERAP1ポリペプチドの量を求める方法としては、ERAP1ポリペプチドを特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が挙げられる。抗体はモノクローナル又はポリクローナルであり得る。さらに、抗体の任意の断片又は修飾断片(例えばキメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)は、断片がERAP1ポリペプチドとの結合能を保持していれば、検出に使用することができる。これらの種類の抗体を調製する方法は、当該技術分野で既知であり、かかる抗体及びそれらの等価物を調製するために、任意の方法を利用することができる。
【0111】
好ましい態様では、ERAP1遺伝子の発現レベルは、ERAP1ポリペプチドに対する抗体を用いて、免疫組織化学染色によって求めることができる。免疫組織化学染色の試料としては、癌切除標本が好ましく用いられる。ERAP1遺伝子の発現レベルと相関するERAP1ポリペプチドの存在量は、免疫組織化学染色の強度を観察することにより評価することができる。すなわち、癌組織がほぼ均一に強く染色される場合は、ERAP1ポリペプチドの存在量が多く、ERAP1遺伝子の発現レベルが高いことを示す。例えば、癌組織がほぼ均一に強く染色される場合を強陽性と判定し、該組織が採取された患者の予後は良好でないと判定してもよい。
また、本発明の方法は、患者の予後を判定する他の試験結果に加えて、中間結果も与え得る。かかる中間結果は、医者、看護師又は他の療法士が患者の予後を判定、判断又は推測するのを補助することができる。予後を判定するために、本発明によって得られる中間結果と組み合わせて考慮することができる付加的情報としては、患者の臨床症状及び身体状態が挙げられる。
言い換えれば、ERAP1遺伝子の発現レベルは、エストロゲン受容体陽性の癌 (例えば、例えば、乳癌、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌(特に非小細胞肺癌))に罹患している対象の予後を評価、予測、または判定するのに有用な予後マーカーである。したがって本発明はまた、エストロゲン受容体陽性の癌に罹患している対象の予後を評価、予測、または判定するために予後マーカーを検出するための方法も提供し、該方法は、
a)対象由来の生物学的試料中のERAP1遺伝子の発現レベルを検出または測定する段階、および
b)段階a)において検出または測定された発現レベルを該対象の予後と関連付ける段階
を含む。
詳細には、本発明によると、対照レベルに対する発現レベルの上昇は、予後不良(低い生存率)の可能性または疑いを示す。
本発明の方法の別の態様として、本発明はさらに、癌を有する患者の予後を判定するためのマーカーとして、癌を有する患者から採取された生体試料において、ERAP1遺伝子の発現レベルを検出する方法を提供する。検出されたERAP1遺伝子の発現レベルが、良好な予後対照レベルと比較して増大していることは、該患者の予後が良好ではない、又は不良であることを示す。
また、本発明の方法の別の態様として、本発明はさらに、癌を有する患者の予後を判定するための試薬を製造における、ERAP1遺伝子のmRNAに相補的な核酸又はERAP1ポリペプチドに特異的に結合する抗体の使用を提供する。
また、本発明の方法の別の態様として、本発明はさらに、癌を有する患者の予後を判定するためのERAP1遺伝子のmRNAに相補的な核酸又はERAP1ポリペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。
【0112】
5.癌の予後を評価するためのキット
本発明は、癌の予後を評価または判定するためのキットを提供する。具体的には、本キットは、以下の群より選択され得る、患者由来の生体試料中のERAP1遺伝子の発現を検出するための少なくとも1つの試薬を含む。本発明の癌は、好ましくはエストロゲン受容体陽性の癌であり、より好ましくは乳癌である。
(a) ERAP1遺伝子のmRNAを検出するための試薬
(b) ERAP1タンパク質を検出するための試薬
【0113】
ERAP1遺伝子のmRNAを検出するのに適した試薬には、ERAP1mRNAの一部に対する相補的配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、ERAP1 mRNAに特異的に結合するか、またはERAP1 mRNAを同定する核酸が含まれる。このような種類のオリゴヌクレオチドは、ERAP1 mRNAに特異的なプライマーおよびプローブによって例証される。このような種類のオリゴヌクレオチドは、当技術分野において周知の方法に基づいて調製することができる。必要に応じて、ERAP1 mRNAを検出するための試薬を固体基質上に固定化することができる。さらに、ERAP1 mRNAを検出するための2つ以上の試薬をキットに含めることもできる。
本発明のプローブまたはプライマーは、典型的には、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドは、典型的には、ERAP1配列を含む核酸の少なくとも約2000、1000、500、400、350、300、250、200、150、100、50、もしくは25の連続したセンス鎖ヌクレオチド配列、もしくはERAP1配列を含む核酸のアンチセンス鎖ヌクレオチド配列、またはこれらの配列の天然変異体とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含む。詳細には、例えば、好ましい態様において、5〜50の長さを有するオリゴヌクレオチドを、検出すべき遺伝子を増幅するためのプライマーとして用いることができる。あるいは、ハイブリダイゼーションに基づいた検出手法において、数百(例えば、約100〜200)塩基長〜数キロ(例えば、約1000〜2000)塩基長を有するポリヌクレオチドをプローブとして用いることもできる(例えば、ノーザンブロッティングアッセイまたはDNAマイクロアレイ解析)。
【0114】
一方、ERAP1タンパク質を検出するのに適した試薬には、ERAP1タンパク質に対する抗体が含まれる。該抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってよい。さらに、断片がERAP1タンパク質への結合能を保持する限りにおいて、抗体の任意の断片または修飾物(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fvなど)を試薬として用いることもできる。タンパク質を検出するためのこのような種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明において任意の方法を使用して、そのような抗体およびその等価物を調製することができる。さらに、直接連結または間接標識技法により、抗体をシグナル発生分子で標識することができる。標識、抗体を標識する方法、およびその標的への抗体の結合を検出する方法は当技術分野において周知であり、任意の標識および方法を本発明のために使用することができる。さらに、ERAP1タンパク質を検出するための2つ以上の試薬をキットに含めることもできる。
【0115】
キットは、上記の試薬のうち1つ以上を含み得る。さらに、キットは、ERAP1遺伝子に対するプローブまたはERAP1タンパク質に対する抗体を結合させるための固体基質および試薬、細胞を培養するための培地および容器、陽性および陰性の対照試薬、ならびにERAP1タンパク質に対する抗体を検出するための二次抗体を含み得る。例えば、予後良好または予後不良な患者から得られた組織試料は、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットは、緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用説明書を備えた包装封入物(例えば、文書、テープ、CD-ROMなど)を含む、商業上の観点および使用者の観点から望ましいその他の材料をさらに含んでもよい。これらの試薬などは、ラベルを貼った容器中に含まれ得る。適切な容器としては、瓶、バイアル、および試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成され得る。
【0116】
本発明の一態様として、試薬がERAP1 mRNAに対するプローブである場合には、該試薬を多孔性ストリップなどの固体基質上に固定化して、少なくとも1つの検出部位を形成させることができる。多孔性ストリップの測定または検出領域は、それぞれが核酸(プローブ)を含む複数の部位を含み得る。検査ストリップはまた、陰性および/または陽性対照用の部位を含み得る。あるいは、対照部位は、検査ストリップとは別のストリップ上に位置してもよい。任意で、異なる検出部位は異なる量の固定化核酸を含んでよい、すなわち、第1検出部位ではより大量の固定化核酸を、および以降の部位ではより少量の固定化核酸を含んでよい。試験試料を添加すると、検出可能なシグナルを呈する部位の数により、試料中に存在するERAP1 mRNAの量の定量的指標が提供される。検出部位は、適切に検出可能な任意の形状で構成することができ、典型的には、検査ストリップの幅全体にわたる縞またはドットの形状である。
【0117】
本発明のキットはさらに、良好な予後を示す対照サンプル、不良な予後を示す対照サンプル、またはこれらの両方を含むことができる。良好な予後を示す対照サンプルは、例えば、癌治療後の経過が良好である個人あるいは集団由来の試料とすることができる。一方不良な予後を示す対照サンプルは、癌治療後の経過が良くない個人あるいは集団由来の試料とすることができる。
好ましい態様において、良好な予後を示す対照サンプルは癌治療後の経過が良好である癌患者由来の臨床癌組織とすることができる。癌は、エストロゲン受容体陽性の癌であることが好ましい。エストロゲン受容体陽性の癌としては、例えば乳癌、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌(特に非小細胞肺癌)などが挙げられるがこれらに限定されない。あるいは本発明の良好な予後を示す対照サンプルは、カットオフ値よりも低いERAP1 mRNAまたはタンパク質量を含むサンプルであることが好ましい。本発明においてカットオフ値とは、予後良好な範囲と予後不良な範囲を区別する値を言う。カットオフ値は例えば、受信者操作特性(ROC)曲線を用いて決定することができる。本発明のERAP1標準サンプルは、カットオフ値に対応する量のERAP1 mRNAまたはポリペプチドを含むことができる。
一方、不良な予後を示す対照サンプルは癌治療後の経過が良くない癌患者由来の臨床癌組織とすることができる。本発明の不良な予後を示す対照サンプルは、カットオフ値よりも大きいERAP1 mRNAまたはタンパク質量を含むサンプルであることが好ましい。
【0118】
6.癌を治療及び/又は予防するための候補物質のスクリーニング方法
本発明はまた、癌を治療及び/又は予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0119】
本明細書の実施例に示されるように、PHBのSer39のリン酸化は、PHBのエストロゲン受容体活性化の抑制機能に重要な役割を果たしている。しかしながら、PHBのリン酸化されたSer39は、ERAP1を介したPP1αとの結合により、PP1αによって脱リン化される(実施例8)。その結果、PHBのエストロゲン受容体活性化の抑制機能が低下し、癌細胞の増殖が促進される。したがって、ERAP1とPP1αとの結合を阻害することにより、PP1αとPHBとの相互作用が阻害され、その結果、PHB2の脱リン化が抑制されて、PHB2のエストロゲン受容体活性化の抑制機能を維持することができる。よって、ERAP1とPP1αとの結合を阻害する物質は、癌を治療及び/又は予防するための候補物質となり得る。
【0120】
また、本明細書の実施例に示されるように、ERAP1がPKA及びPKBによってリン酸化されることにより、ERAP1に結合したPP1αのホスファターゼ活性が亢進することが確認された(実施例8)。したがって、ERAP1とPKA及びPKBとの結合を阻害することにより、ERAP1のリン酸化が阻害され、PP1αのホスファターゼ活性の亢進が抑制されて、その結果、PHB2の脱リン化が抑制され、PHB2のエストロゲン受容体活性化の抑制機能を維持することができる。
【0121】
よって、本発明は、ERAP1ポリペプチドと、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド又はPKBポリペプチドとの結合阻害を指標として、癌と治療及び/又は予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0122】
本発明のスクリーニング方法によりスクリーニングされる試験物質には、任意の化合物、又は幾つかの化合物を含む組成物が含まれる。さらに、本発明のスクリーニング方法によって細胞又はタンパク質に曝露される試験物質は、単一の化合物であっても、化合物の組み合わせであってもよい。化合物の組み合わせを本発明のスクリーニング方法において使用する場合には、化合物を逐次的に接触させてもよいし、又は同時に接触させてもよい。
【0123】
例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製されたタンパク質若しくは粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物(アンチセンスRNA、siRNA、リボザイム、およびアプタマー等などの核酸構築物を含む)、及び天然化合物等の任意の試験物質を、本発明のスクリーニング方法において使用することができる。本発明の試験物質は、(1)生物学的ライブラリ、(2)空間的にアドレス可能なパラレルな固相または液相のライブラリ、(3)デコンボリューションを必要とする合成ライブラリ法、(4)「一ビーズ一化合物」ライブラリ法、及び(5)アフィニティクロマトグラフィ選択を使用する合成ライブラリ法を含む、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリ法の多数のアプローチのいずれかを使用して入手され得る。アフィニティクロマトグラフィ選択を使用する生物学的ライブラリ法はペプチドライブラリに限定されるが、他の4つのアプローチは化合物のペプチドライブラリ、非ペプチドオリゴマーライブラリ、又は低分子ライブラリに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12: 145-67)。分子ライブラリの合成法の例は、当技術分野で見い出され得る(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13;Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91: 11422-6;Zuckermann et al., J Med Chem 37: 2678-85, 1994;Cho et al., Science 1993, 261: 1303-5;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2059;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2061;Gallop et al., J Med Chem 1994, 37: 1233-51)。化合物のライブラリは、溶液中(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13: 412-21を参照されたい)、またはビーズ上(Lam, Nature 1991, 354: 82-4)、チップ上(Fodor, Nature 1993, 364: 555-6)、細菌上(米国特許第5,223,409号)、胞子上(米国特許第5,571,698号;第5,403,484号、及び第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89: 1865-9)、もしくはファージ上(Scott and Smith, Science 1990, 249: 386-90;Devlin, Science 1990, 249: 404-6;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82;Felici, J Mol Biol 1991, 222: 301-10;米国特許出願第2002103360号)に提示され得る。
【0124】
本発明のスクリーニング方法よってスクリーニングされた化合物の構造の一部が、付加、欠失及び/又は置換により変換された化合物は、本発明のスクリーニング方法によって同定された試験物質に含まれる。
【0125】
さらに、スクリーニングされた試験物質がタンパク質である場合、タンパク質をコードするDNAを入手するためには、タンパク質の全アミノ酸配列を決定して、タンパク質をコードする核酸配列を推定することもできるし、または同定されたタンパク質の部分アミノ酸配列を分析して、その配列に基づきオリゴDNAをプローブとして調製し、そのプローブを用いてcDNAライブラリをスクリーニングして、タンパク質をコードするDNAを単離することもできる。単離されたDNAは、癌を治療又は予防するための候補物質である試験物質の調製に使用することができる。
【0126】
本発明のスクリーニング方法においてスクリーニングされる試験物質は、ERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド又はPKBポリペプチドに特異的に結合する抗体であってもよく、又はインビボで元のタンパク質の生物学的活性を欠くその部分ペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。あるいは、ERAP1ポリペプチドのPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド又はPKBポリペプチドへの結合部位に特異的に結合するPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド又はPKBポリペプチドのドミナントネガティブペプチドであってもよい。あるいは、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド又はPKBポリペプチドのERAP1ポリペプチドへの結合部位に特異的に結合するERAP1ポリペプチドのドミナントネガティブペプチドであってもよい。
【0127】
試験物質ライブラリの構築は当技術分野で周知であるが、本発明のスクリーニング方法のための試験物質の同定方法及び試験物質ライブラリの構築に関するさらなる指針を以下に示す。
【0128】
(i)分子モデリング
試験物質ライブラリの構築は、求められる特性を有することが既知である化合物の分子構造、並びに/又はERAP1ポリペプチド、及びPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチドの分子構造の知識により容易になる。好適な試験物質を予備スクリーニングするためのアプローチの1つとして、試験物質とその標的との間の相互作用のコンピュータモデリングを利用することができる。
【0129】
コンピュータモデリング技術により、選択された分子の三次元原子構造の可視化、及びその分子と相互作用する新たな化合物の合理的設計が可能になる。三次元構築物は、典型的には、選択された分子のX線結晶学的分析またはNMRイメージングからのデータに依存する。分子動力学は力場データを必要とする。コンピュータグラフィックスシステムは、新たな化合物が標的分子にどのように結合するかを予測可能にし、結合特異性を完全にするための化合物及び標的分子の構造の実験的操作を可能にする。一方又は両方に軽微な変化が加えられた場合に、分子−化合物相互作用がどのようになるかを予測するには、分子力学ソフトウェア及び計算集約型コンピュータが必要とされ、それらは、通常、分子設計プログラムと使用者との間のユーザーフレンドリーなメニュー方式のインターフェースと連結される。
【0130】
上記に概説された分子モデリングシステムの例には、CHARMMプログラムおよびQUANTAプログラム、Polygen Corporation, Waltham, Massが含まれる。CHARMMは、エネルギー最小化および分子動力学の機能を実行する。QUANTAは、分子構造の構築、グラフィックモデリング、および分析を実行する。QUANTAは、相互作用的構築、改変、可視化、および分子の互いの挙動の分析を可能にする。
【0131】
特定のタンパク質と相互作用する薬物のコンピュータモデリングを主題として、多数の論文が発表されており、その例には、Rotivinen et al. Acta Pharmaceutica Fennica 1988, 97: 159-66;Ripka, New Scientist 1988, 54-8;McKinlay & Rossmann, Annu Rev Pharmacol Toxiciol 1989, 29: 111-22;Perry & Davies, Prog Clin Biol Res 1989, 291: 189-93;Lewis & Dean, Proc R Soc Lond 1989, 236: 125-40, 141-62;および核酸成分のモデル受容体に関するAskew et al., J Am Chem Soc 1989, 111: 1082-90が含まれる。
【0132】
化学物質をスクリーニングし図示するその他のコンピュータプログラムは、BioDesign, Inc.(Pasadena,Calif.)、Allelix, Inc.(Mississauga,Ontario,Canada)、及びHypercube, Inc.(Cambridge,Ontario)などの会社から入手可能である。例えば、DesJarlais et al., J Med Chem 1988, 31: 722-9;Meng et al., J Computer Chem 1992, 13: 505-24;Meng et al., Proteins 1993, 17: 266-78;Shoichet et al., Science 1993, 259: 1445-50を参照されたい。
【0133】
推定の阻害剤が同定されたならば、以下に詳述されるように、同定された推定の阻害剤の化学構造に基づき、多数のバリアントを構築するため、コンビナトリアルケミストリー技術を利用することができる。その結果得られた推定の阻害剤又は「試験物質」のライブラリは、癌を治療及び/又は予防するための候補物質を同定するために、本発明の方法を使用してスクリーニングされ得る。
【0134】
(ii)コンビナトリアル化学合成
試験物質のコンビナトリアルライブラリは、既知の阻害剤に存在しているコア構造の知識を含む、合理的薬物設計プログラムの一部として作製され得る。このアプローチにより、ハイスループットスクリーニングを容易にする適度のサイズにライブラリを維持することが可能になる。あるいは、ライブラリを構成する分子ファミリーの全順列を単純に合成することにより、単純な、特に短い、重合体分子ライブラリを構築することもできる。この後者のアプローチの一例は、6アミノ酸長の全ペプチドのライブラリである。そのようなペプチドライブラリは、6アミノ酸配列のあらゆる順列を含み得る。この種類のライブラリは、線形コンビナトリアルケミカルライブラリと称される。
【0135】
コンビナトリアルケミカルライブラリの作製は、当業者に周知であり、化学合成又は生物学的合成のいずれかにより作製され得る。コンビナトリアルケミカルライブラリには、ペプチドライブラリ(例えば、米国特許第5,010,175号;Furka, Int J Pept Prot Res 1991, 37: 487-93;Houghten et al., Nature 1991, 354: 84-6を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。化学的多様性ライブラリを作製するためのその他の化学的手法を使用することもできる。そのような化学には、ペプチド(例えば、国際公開公報WO91/19735)、コードされたペプチド(例えば、国際公開公報WO93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、国際公開公報WO92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、及びジペプチドなどのダイバーソマー(diversomers)(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13)、ビニロガス(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al., J Amer Chem Soc 1992, 114: 6568)、グルコース足場を有する非ペプチド性ペプチド模倣体(Hirschmann et al., J Amer Chem Soc 1992, 114: 9217-8)、低分子化合物ライブラリの類縁有機合成物(Chen et al., J. Amer Chem Soc 1994, 116: 2661)、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 1993, 261: 1303)、及び/又はペプチジルホスホネート(Campbell et al., J Org Chem 1994, 59: 658)、核酸ライブラリ(Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology 1995 supplement;Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, USAを参照されたい)、ペプチド核酸ライブラリ(例えば、米国特許第5,539,083号を参照されたい)、抗体ライブラリ(例えば、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14(3): 309-14及び国際公開公報WO97/271を参照されたい)、炭水化物ライブラリ(例えば、Liang et al., Science 1996, 274: 1520-22;米国特許第5,593,853号を参照されたい)、並びに有機低分子ライブラリ(例えば、ベンゾジアゼピン、Gordon EM. Curr Opin Biotechnol. 1995 Dec 1; 6(6): 624-31.;イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノン及びメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号等を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。
【0136】
コンビナトリアルライブラリの調製のための装置は市販されている(例えば、357 MPS、390 MPS(Advanced Chem Tech, Louisville KY)、Symphony(Rainin, Woburn, MA)、433A(Applied Biosystems, Foster City, CA)、9050 Plus(Millipore, Bedford, MA)を参照されたい)。さらに、コンビナトリアルライブラリ自体も多数市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J.,Tripos, Inc., St. Louis, MO、3D Pharmaceuticals, Exton, PA、Martek Biosciences, Columbia, MD等を参照されたい)。
【0137】
(iii)その他の候補
もう1つのアプローチは、ライブラリを作製するために組換えバクテリオファージを使用する。「ファージ法」(Scott & Smith, Science 1990, 249: 386-90;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82;Devlin et al., Science 1990, 249: 404-6)を使用すれば、極めて大きなライブラリを構築することができる(例えば、106〜108個の化学物質)。第2のアプローチは、主として化学的な方法を使用し、Geysenの方法(Geysen et al., Molecular Immunology 1986, 23: 709-15;Geysen et al., J Immunologic Method 1987, 102: 259-74);およびFodorらの方法(Science 1991, 251: 767-73)がその例である。Furkaら(14th International Congress of Biochemistry 1988, Volume #5, Abstract FR: 013; Furka, Int J Peptide Protein Res 1991, 37: 487-93)、Houghten(米国特許第4,631,211号)、及びRutterら(米国特許第5,010,175号)は、アゴニスト又はアンタゴニストとして試験され得るペプチドの混合物を作製する方法を記載している。
【0138】
アプタマーは、特定の分子標的に強固に結合する核酸から構成された巨大分子である。Tuerk及びGold(Science. 249:505-510 (1990))は、アプタマーの選択のためのSELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法を開示している。SELEX法においては、核酸分子の大きなライブラリ(例えば、1015個の異なる分子)をスクリーニングに使用することができる。
【0139】
(vi)ERAP1ポリペプチドとPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド又はPKBポリペプチドとの間の結合レベルを低下させる物質のスクリーニング方法
上記のように、本発明は、ERAP1ポリペプチドと、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド又はPKBポリペプチドとの間の結合阻害を指標として、癌細胞の増殖を抑制するための候補物質、又は癌を治療及び/若しくは予防するための候補物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明のスクリーニング方法により同定された候補物質を適用し得る癌は、ERAP1ポリペプチドを発現している癌であり、より好ましくは、エストロゲン受容体陽性の癌である。そのような癌の例としては、例えば、乳癌が挙げられる。また、本発明のスクリーニング方法により同定された候補物質により、特に癌細胞のエストロゲン依存性の細胞増殖を効果的に抑制し得る。
【0140】
より具体的には、本発明の方法は、以下の工程を含む:
(a)試験物質の存在下で、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はそれらの機能的等価物と接触させる工程;
(b)(a)における前記ポリペプチド間の結合レベルを検出する工程;及び
(c)試験物質の非存在下で検出される結合レベルと比較して、前記ポリペプチド間の結合レベルを低下させる試験物質を選択する工程。
【0141】
本発明の方法により、スクリーニングに供した試験物質の癌細胞に対する増殖抑制効果又は癌に対する治療効果が評価され得る。したがって、本発明は、試験物質の癌細胞に対する細胞増殖抑制効果又は癌に対する治療若しくは予防効果を評価する方法も提供する。
【0142】
より具体的には、前記方法は、以下の工程を含む:
(a)試験物質の存在下で、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はそれらの機能的等価物と接触させる工程;
(b)(a)における前記ポリペプチド間の結合レベルを検出する工程;及び
(c)(b)において検出された前記ポリペプチド間の結合レベルを、試験物質の非存在下で検出されるものと比較する工程;及び
(d)(c)における比較によって求められた試験物質による前記ポリペプチド間の結合レベルの低下率を、試験物質の癌細胞に対する細胞増殖抑制効果又は癌に対する治療若しくは予防効果と相関させる工程。
【0143】
例えば、試験物質が、該試験物質の非存在下で検出される結合レベルと比較して、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物と、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はそれらの機能的等価物との結合のレベルを低下させる場合には、その試験物質を、癌細胞に対する細胞増殖抑制効果又は癌に対する治療若しくは予防効果を有する候補物質として同定又は選択することができる。あるいは、試験物質が、該試験物質の非存在下で検出される結合レベルと比較してERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物と、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はそれらの機能的等価物との結合レベルを低下させない場合には、その試験物質を、癌細胞に対して有意な細胞増殖抑制効果を有しない、又は癌に対して有意な治療若しくは予防効果を有しない物質として同定することができる。
【0144】
本発明のスクリーニング方法に関して使用される「ERAP1ポリペプチドの機能的等価物」という用語は、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、又はPKBポリペプチドとの結合能力を保持したERAP1ポリペプチドの変異体、断片ポリペプチド、断片ポリペプチド変異体、及びこれらのタグ化ポリペプチド等を指す。したがって、PP1αポリペプチドとの結合阻害を指標とする場合には、ERAP1ポリペプチドの機能的等価物は、PP1αポリペプチドとの結合能力を保持したERAP1ポリペプチドの変異体、断片ポリペプチド、断片ポリペプチド変異体、及びこれらのタグ化ポリペプチド等である。そのようなERAP1の機能的等価物の例としては、ERAP1ポリペプチドのPP1αポリペプチドとの結合ドメインを含むポリペプチドが挙げられる。具体的には、そのような機能的等価物の例として、配列番号:66に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は配列番号:67に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0145】
また、ERAP1ポリペプチドとPKAポリペプチドとの結合阻害を指標とする場合には、ERAP1ポリペプチドの機能的等価物は、PKAポリペプチドとの結合能力を保持したERAP1ポリペプチドの変異体、断片ポリペプチド、断片ポリペプチド変異体、及びこれらのタグ化ポリペプチド等である。そのようなERAP1ポリペプチドの機能的等価物の例としては、ERAP1ポリペプチドのPKAポリペプチドとの結合ドメインを含むポリペプチドが挙げられる。また、ERAP1ポリペプチドとPKBポリペプチドとの結合阻害を指標とする場合には、ERAP1ポリペプチドの機能的等価物は、PKBポリペプチドとの結合能力を保持したERAP1ポリペプチドの変異体、断片ポリペプチド、断片ポリペプチド変異体、及びこれらのタグ化ポリペプチド等である。そのようなERAP1の機能的等価物の例としては、ERAP1ポリペプチドのPKBポリペプチドとの結合ドメインを含むポリペプチドが挙げられる。
【0146】
また、本発明のスクリーニング方法に関して使用される「PP1αポリペプチドの機能的等価物」という用語は、ERAP1ポリペプチドとの結合能力を保持したPP1αポリペプチドの変異体、断片ポリペプチド、断片ポリペプチド変異体、及びこれらのタグ化ポリペプチド等を指す。そのようなPP1αポリペプチドの機能的等価物の例としては、PP1αポリペプチドのERAP1ポリペプチドとの結合ドメインを含むポリペプチドが挙げられる。
【0147】
また、本発明のスクリーニング方法に関して使用される「PKAポリペプチドの機能的等価物」という用語は、ERAP1ポリペプチドとの結合能力を保持したPKAポリペプチドの変異体、断片ポリペプチド、断片ポリペプチド変異体、及びこれらのタグ化ポリペプチド等を指す。そのようなPKAポリペプチドの機能的等価物の例としては、PKAポリペプチドのERAP1ポリペプチドとの結合ドメインを含むポリペプチドが挙げられる。
【0148】
また、本発明のスクリーニング方法に関して使用される「PKBポリペプチドの機能的等価物」という用語は、ERAP1ポリペプチドとの結合能力を保持したPKBポリペプチドの変異体、断片ポリペプチド、断片ポリペプチド変異体、及びこれらのタグ化ポリペプチド等を指す。そのようなPKBポリペプチドの機能的等価物の例としては、PKBポリペプチドのERAP1ポリペプチドとの結合ドメインを含むポリペプチドが挙げられる。
【0149】
「1.ERAP1ペプチド」の項で述べたように、一般的に、タンパク質における一つ、二つ、又は数個のアミノ酸の改変は、タンパク質の機能に影響を与えない。したがって、ERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、及びPKBポリペプチドの機能的等価物は、それぞれERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、及びPKBポリペプチドのアミノ酸配列において、一つ、二つ、又は数個のアミノ酸残基が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり得る。これらの機能的等価物は、ERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、及びPKBポリペプチドに対して、それぞれ少なくとも約80%の相同性(「配列同一性」とも呼ばれる)、より好ましくは少なくとも約90%〜95%の相同性、さらにより好ましくは少なくとも約96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むものであり得る。「%相同性」(「%同一性」とも呼ばれる)は、典型的には、最適に整列化された2つの配列間での比較に基づき算出することができる。比較のための配列の整列化法は、当技術分野において周知である。配列の最適な整列化及び比較は、例えば「Wilbur and Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」中のアルゴリズムを用いて実施できる。
【0150】
ERAP1ポリペプチドのPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、又はPKBポリペプチドへの結合能力が維持される限り、あるいはPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、又はPKBポリペプチドのERAP1ポリペプチドへの結合能力が維持される限り、アミノ酸変異の数は特に限定されない。しかしながら、一般的には、アミノ酸変異の数は、アミノ酸配列の5%以下であることが好ましい。したがって、好ましい態様において、上記ポリペプチドの機能的等価物において変異されるアミノ酸残基の数は、30アミノ酸以下、20アミノ酸以下、10アミノ酸以下、5若しくは6アミノ酸以下、又は3若しくは4アミノ酸以下であり得る。
【0151】
また、アミノ酸変異の種類が「置換」である場合には、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。しかしながら、ERAP1ポリペプチドのPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、又はPKBポリペプチドへの結合能力が維持される限り、あるいはPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、又はPKBポリペプチドのERAP1ポリペプチドへの結合能力が維持される限り、非保存的アミノ酸置換であってもよい。
【0152】
あるいは、ERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、及びPKBポリペプチドの機能的等価物は、ストリンジェントな条件下で、ERAP1遺伝子、PP1α遺伝子、PKA遺伝子、及びPKB遺伝子のそれぞれの天然のポリヌクレオチドに、それぞれハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるものであってもよい。
【0153】
「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という用語は、ある核酸分子が、典型的には核酸の複合混合物中で、その標的配列にはハイブリダイズするが、他の配列には検出可能な程度にはハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、イオン強度、pH及び核酸濃度等の条件によっても異なる。配列が長いほど、特異的にハイブリダイズする温度はより高くなる。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な指針は、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)において見出される。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度及びpHにおける特定の配列の熱融点(Tm)より約5〜10℃低くなるように選択される。Tmは、(規定のイオン強度、pH、及び核酸濃度下で)標的に相補的なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である(標的配列が過剰に存在するため、Tmでは50%のプローブが平衡状態で占有される)。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤を添加することによって実現してもよい。選択的ハイブリダイゼーション又は特異的ハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドのハイブリダイゼーションの10倍である。以下のような例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が可能である:50%ホルムアミド、5xSSC、及び1%SDS、42℃でインキュベーション、又は5xSSC、1%SDS、65℃でインキュベーションし、0.2xSSC及び0.1%SDS、50℃で洗浄。
【0154】
当業者であれば、ERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、及びPKBポリペプチドに対して、機能的に等価なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件を常法にしたがって選択することができる。例えば、ハイブリダイゼーションは「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加し、68℃で1時間以上加温することにより実施することができる。以降の洗浄工程は、例えば、低ストリンジェント条件下で行うことができる。例示的な低ストリンジェント条件としては、42℃、2xSSC、0.1%SDS、及び50℃、2xSSC、0.1%SDSが挙げられる。あるいは、より好適には、高ストリンジェント条件下で行うことができる。例示的な高ストリンジェント条件としては、例えば、室温で20分間、2xSSC、0.01%SDS中での3回の洗浄、次いで37℃で20分間、1xSSC、0.1%SDS中での3回の洗浄、および50℃で20分間、1xSSC、0.1%DSD中での2回の洗浄が挙げられる。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える可能性があり、当業者はそれらの要因を適切に選択して必要なストリンジェンシト条件を達成することができる。
【0155】
本発明のスクリーニング方法に関して使用される「タグ化ポリペプチド」という用語は、ポリペプチドのN末端又はC末端に、その特異性が明らかな任意のモノクローナル抗体のエピトープを付加したポリペプチドを指す。そのようなエピトープとしては、市販のエピトープ−抗体システムを使用することができる(Experimental Medicine 1995, 13:85-90)。例えば、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ポリヒスチジン(His−タグ)、インフルエンザ凝集体HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7−タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−タグ)、E−タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)等を、タグとして好適に使用することができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0156】
ERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド及びPKBポリペプチド、並びにこれらの機能的等価物は、「1.ERAP1ペプチド」で述べたような当業者に周知の方法を用いて製造することができる。好ましい態様では、本発明のスクリーニング方法で使用される上記のポリペプチドは、単離され、精製されている。
【0157】
また、本発明のスクリーニング方法で使用されるERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド及びPKBポリペプチド、並びにこれらの機能的等価物は、その結合能力を保持する限り、他の物質を連結してもよい。連結可能な物質としては、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然及び合成のポリマー等が挙げられる。これらの物質の連結は、ポリペプチドに付加的な機能を与えるため、又はポリペプチドを安定化させるために実施してもよい。
【0158】
ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物と、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物との間の結合を阻害する物質をスクリーニングする方法としては、当業者に周知の方法を使用することができる。例えば、インビトロアッセイシステムにより、そのようなスクリーニングを実施することができる。より具体的には、まず、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を支持体に結合させ、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物を試験物質と共にそれに添加する。次に、これらの混合物をインキュベートし、洗浄し、支持体に結合したPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物を検出又は測定する。検出されるPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物の量を低下させる試験物質を、癌細胞の増殖を抑制するための候補物質、並びに/又は癌を治療及び/若しくは予防するための候補物質として選択することができる。
【0159】
あるいは、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物を支持体に結合させ、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を試験物質と共にそれに添加してもよい。この場合、検出されるERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物の量を低下させる試験物質を、癌細胞の増殖を抑制するための候補物質、並びに/又は癌を治療及び/若しくは予防するための候補物質として選択することができる。
【0160】
上記のポリペプチドを結合するために使用し得る支持体の例としては、アガロース、セルロース、及びデキストランなどの不溶性多糖;並びにポリアクリルアミド、ポリスチレン、及びシリコンなどの合成樹脂がが挙げられる。好適には、上記の材料から調製された市販のビーズ及びプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップ等)が使用され得る。ビーズを使用する場合には、ビーズをカラムに充填してもよい。あるいは、同様に当技術分野において公知である磁気ビーズを使用すれば、ビーズ上に結合したポリペプチドを磁気によって容易に単離することが可能である。
【0161】
ポリペプチドと支持体との結合は、化学結合及び物理的吸着などの当技術分野において公知の方法によって実施され得る。あるいは、ポリペプチドを特異的に認識する抗体を介して、ポリペプチドを支持体に結合してもよい。またポリペプチドがタグ化ポリペプチドである場合には、当該タグを特異的に認識する抗体を介して、タグ化ポリペプチドを支持体に結合してもよい。さらに、アビジンおよびビオチンによっても、ポリペプチドと支持体との結合を実施することができる。緩衝液がポリペプチド間の結合を阻害しない限り、例えばリン酸緩衝液又はトリス緩衝液等の緩衝液中で、ポリペプチド間の結合を実施することができる。
【0162】
ポリペプチド間の結合を検出又は定量化する手段として、表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーを使用してもよい。そのようなバイオセンサーを使用した場合、極微量のポリペプチドを使用して、標識することなく、ポリペプチド間の結合を、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。したがって、BIAcoreなどのバイオセンサーを使用して、ポリペプチド間の結合を評価することが可能である。
【0163】
あるいは、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を標識し、当該標識を、ポリペプチド間の結合を検出又は測定するために使用してもよい。あるいは、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物を標識し、当該標識を、ポリペプチド間の結合を検出又は測定するために使用してもよい。具体的には、結合を検出するポリペプチドの一方を標識した後、試験物質の存在下で、標識されたポリペプチドをもう一方のポリペプチドと接触させ、次いで、洗浄後に、結合したポリペプチドを標識によって検出又は測定する。放射性同位元素(例えば、H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β‐ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、及びビオチン/アビジンなどの標識物質を、本方法において、ポリペプチドの標識のために使用することができる。ポリペプチドを放射性同位元素により標識する場合には、液体シンチレーションにより結合した標識化ポリペプチドを検出又は測定を実施することができる。ポリペプチドを酵素により標識する場合には、酵素の基質を添加して、発色などの、酵素による基質の変化を、吸光光度計等により検出することにより、結合した標識化ポリペプチドを検出又は測定することができる。さらに、蛍光物質を標識として使用する場合には、蛍光光度計を使用して、結合した標識化ポリペプチドを検出又は測定することができる。
【0164】
さらに、ERAP1ポリペプチド、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、PKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物に対する抗体を使用して、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物と、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物との間の結合を検出又は測定することもできる。例えば、支持体に固定化されたERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を、試験物質と共にPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物と接触させた後、これらの混合物をインキュベートし、洗浄し、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物に対する抗体を使用して、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物に結合したPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド、若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物を検出又は測定することができる。
【0165】
あるいは、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物を支持体上に固定化し、試験物質と共にERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物をそれに接触させた後、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物に対する抗体を使用して、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物に結合したERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を検出又は測定することができる。本発明のスクリーニング方法において抗体を使用する場合には、抗体は、前記標識物質のうちの1つにより標識され、該標識物質に基づき検出又は測定される得ることが好ましい。あるいは、標識物質により標識された二次抗体により検出される一次抗体として、上記ポリペプチドに対する抗体を使用してもよい。さらに、抗体を使用する場合には、ポリペプチドに結合した抗体を、プロテインGカラム又はプロテインAカラムを使用して検出又は測定することもできる。
【0166】
あるいは、他の実施態様では、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを使用することもできる(「MATCHMAKER Two-Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one-Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two-Hybrid Vector System」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0167】
ツーハイブリッドシステムにおいては、例えば、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を、SRF結合領域又はGAL4結合領域と融合させ、酵母細胞において発現させる。PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物を、VP16又はGAL4の転写活性化領域と融合させ、試験物質の存在下で、同様に酵母細胞において発現させる。あるいは、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物をSRF結合領域又はGAL4結合領域と融合させ、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物をVP16又はGAL4の転写活性化領域と融合させてもよい。ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物と、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はこれらの機能的等価物との結合は、レポーター遺伝子を活性化し、陽性クローンを検出可能にする。レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子に加えて、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等を使用することができる。
【0168】
本発明のスクリーニング方法に関して使用される「結合レベルを低下させる」という用語は、試験物質の非存在下において検出される結合レベルと比較して、少なくとも10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは75%、80%、85%、90%又は95%以上ポリペプチド間の結合レベルを低下させることを指す。したがって、試験物質が、ポリペプチド間の結合レベルを少なくとも10%以上低下させる場合には、当該試験物質は、「結合レベルを低下させる」物質として特徴付けられる。
【0169】
本発明のスクリーニング方法によって同定又は選択された候補物質は、さらなる試験により、その癌細胞に対する細胞増殖抑制効果又は癌に対する治療若しくは予防効果を評価することができる。 したがって、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含むことができる:
(a)試験物質の存在下で、ERAP1ポリペプチド又はその機能的等価物を、PP1αポリペプチド、PKAポリペプチド若しくはPKBポリペプチド、又はそれらの機能的等価物と接触させる工程;
(b)(a)における前記ポリペプチド間の結合レベルを検出する工程;
(c)試験物質の非存在下で検出される結合レベルと比較して、前記ポリペプチド間の結合レベルを低下させる試験物質を選択する工程;
(d)(c)で選択した試験物質について、癌細胞に対する増殖抑制効果を確認する工程;及び
(e)(d)において癌細胞に対する増殖抑制効果が確認された試験物質を、癌細胞の増殖を抑制するための物質として、又は癌を治療及び/若しくは予防するための候補物質として選択する工程。
【0170】
癌細胞に対する増殖抑制効果の確認は、インビトロ試験又はインビボ試験により行うことができる。好ましい実施態様において、そのようなインビトロ試験及びインビボ試験で使用され得る癌細胞は、ERAP1ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性の癌細胞である。そのような癌細胞の例としては、エストロゲン受容体陽性の乳癌細胞が挙げられる。また、インビトロ試験又はインビボ試験で評価される癌細胞の増殖抑制効果は、エストロゲン依存性細胞増殖に対する抑制効果であることが好ましい。
【0171】
同定又は選択された候補物質について、癌細胞に対する増殖抑制効果を確認するためのインビトロ試験は、例えば、当該候補物質の存在下にて、癌細胞又は正常細胞を培養し、その増殖速度を測定することにより、実施することができる。また、エストロゲン依存性細胞増殖の抑制効果を評価する場合には、癌細胞をエストロゲンで処理後、当該候補物質の存在下にて培養するか、あるいはエストロゲンと当該候補物質の存在下にて癌細胞を培養し、その増殖速度を測定することにより、実施することができる。同定又は選択された候補物質について、癌細胞に対する増殖抑制効果を確認するためのインビボ試験は、例えば、癌細胞を移植したマウスに当該候補物質を投与し、移植した癌細胞の増殖を確認することにより、実施することができる。また、エストロゲン依存性細胞増殖の抑制効果を評価する場合には、癌細胞を移植したマウスに、エストロゲンと当該候補物質を同時に又は逐次的に投与し、移植した癌細胞の増殖を確認することにより、実施することができる。このようなインビトロ試験及びインビボ試験の方法は、本明細書の実施例に例示されている。
【0172】
上記のスクリーニング方法において、「癌細胞に対する増殖抑制効果が確認された」という用語は、試験物質の非存在下において検出される癌細胞の増殖速度と比較して、少なくとも10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは75%、80%、85%、90%又は95%以上、試験物質の存在下において増殖速度が抑制されたことを意味する。したがって、試験物質が、癌細胞の増殖速度を少なくとも10%以上抑制する場合には、当該試験物質は、「癌細胞に対する増殖抑制効果が確認された」物質として特徴づけられる。
【0173】
以下、実施例を参照することにより、本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、以下の材料、方法、及び例は本発明の諸局面を例示しているに過ぎず、本発明の範囲を限定するものでは全くない。このため、本明細書で記載したものに類似するか同等である方法及び材料を、本発明の実施又は検討のために用いることができる。
【実施例】
【0174】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]エストロゲン依存性乳癌に対する効果
1. 材料と方法
細胞株及び臨床試料
ヒト乳癌細胞株(MCF-7, ZR-75-1, HCC1500, BT-474, YMB-1 and T47D)及びCOS-7は、American Type Culture Collection(ATCC, Rockville, MD, USA)から購入した。KPL-1及びKPL-3Cは、物質移動合意書の下で、紅林淳一博士(川崎医科大学, 岡山, 日本)から提供された。HBC4及びHBC5は、物質移動合意書(Material Transfer Agreement)の下で、矢守隆夫博士(公益財団法人がん研究会がん化学療法センター分子薬理部)から提供された。全ての細胞株は、それぞれの寄託者の推奨する条件下で培養された。
【0175】
細胞の処理
MCF-7細胞を、10%FBS(Nichirei Biosciences, Tokyo, Japan)、1% antibiotic/antimycotic solution(Invitrogen)、0.1mM NEAA(Invitrogen)、1mMピルビン酸ナトリウム及び10μg/mlインスリン(Sigma, St. Louis, MO, USA)で強化されたMEM(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)に懸濁し、48ウェルプレート(2 × 104 cells/200 μl)、24ウェルプレート(1 × 105 cells/1 ml)、6ウェルプレート(5 × 105 cells/2 ml)又は 10 cm dish (2 × 106 cells/10 ml)に播種した。細胞は、5%二酸化炭素を含む加湿の大気において、37℃で維持された。播種した次の日に、培地を、FBS、antibiotic/antimycotic solution, NEAA, ピルビン酸ナトリウム及びインスリンで強化したフェノールレッドフリーのDMEM/F12(Invitrogen)に交換した。24時間後に、細胞を10nM 17βエストラジオール(E2, Sigma)で処理した。阻害試験では、ERAP-1ペプチドは、E2刺激の直前に添加した。
【0176】
ウェスタンブロット解析
細胞を、0.1% protease inhibitor cocktail III(Calbiochem, San Diego, CA, USA)を含む溶解バッファー(50 mM Tris-HCl: pH 8.0, 150 mM NaCl, 0.1% NP-40, and 0.5% CHAPS)で溶解した。細胞溶解物を電気泳動し、ニトロセルロースメンブレンにブロットし、4% BlockAce solution(Dainippon Pharmaceutical, Osaka, Japan)で1時間ブロッキングした。メンブレンを、以下の抗体の存在下で1時間インキュベートした:
抗ERAP1抗体(Kim JW, et al. Cancer Sci. 2009; 100:1468-78.);
抗PHB2抗体(abcam, Cambridge, UK);
抗NcoR抗体(abcam, Cambridge, UK);
抗リン酸化ERα抗体(Tyr537)(abcam, Cambridge, UK);
抗ERα(AER314)抗体(Thermo Fisher Scientific, Fremont, CA, USA);
抗 SRC-1(128E7)抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗Shc抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗α/β-tubulin抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗Akt抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗リン酸化Akt抗体(Ser473)(587F11)(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗p44/42 Map Kinase抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗リン酸化p44/42 Map Kinase抗体(Thr202/Tyr204)(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗リン酸化ERα抗体(Ser104/106)(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗HDAC1 (H-11)抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);
抗IGF-1Rβ抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);
抗PI3-kinase p85α(U13)抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);
抗Ub (P4D1)抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);
抗lamin B1抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);
抗リン酸化ERα抗体(Ser118)(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);
抗リン酸化ERα抗体(Ser167)(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);
抗リン酸化ERα抗体(Ser305)抗体(Millipore,Billerica, MA, USA);
抗β-actin (AC-15)抗体(Sigma);
抗FLAG-tag M2抗体 (Sigma);
抗 HA-tag抗体 (Roche, Mannheim, Germany);又は
抗リン酸化チロシン抗体(Zymed, San Francisco, CA, USA)。
次いで、HRP-結合二次抗体(Santa Cruz Biotechnology)の存在下で1時間インキュベートした後、メンブレンを、enhanced chemiluminescence system(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK)で展開した。ブロットは、Image Reader LAS-3000 mini(Fujifim, Tokyo, Japan)を用いてスキャンした。
【0177】
免疫沈降
「ウェスタンブロット解析」の項で述べたように、細胞を0.1% NP-40溶解バッファーで溶解した。normal IgG及びrec-Protein G Sepharose 4B(Zymed, San Francisco, CA, USA)を用いて、4℃で3時間、細胞溶解物をプレクリーンした。遠心分離後、上清を抗ERAP1抗体、抗PHB2抗体及び抗ERα抗体の存在下で、4℃で6時間、インキュベートした。その後、rec-Protein G Sepharose 4Bの存在下で、4℃で1時間、インキュベートすることにより、抗原−抗体複合体を沈降させた。免疫沈降されたタンパク質複合体を溶解バッファーで3回洗浄し、SDS-PAGEにより分離した。その後、以前述べた方法により、ウェスタンブロット解析を行った(Kim JW, et al. Cancer Sci. 2009; 100:1468-78.)。
【0178】
ERAP1タンパク質におけるPHB-2結合領域の同定
ERAP1におけるPHB2結合領域を決定するために、ERAP1タンパク質の部分ペプチド(ERAP11-434, ERAP1435-2177, ERAP11468-2177,ERAP11-250, ERAP11-100)に対応する5つの異なるコンストラクトをN-terminal Flag-tagged pCAGGS vectorの適切なサイトにクローニングした。FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を使用して、COS-7細胞にFLAG-ERAP1及びHA-PHB2のそれぞれのプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、上記のように0.1% NP-40溶解バッファーで、細胞を溶解した。4℃で3時間、細胞溶解物をプレクリーンし、その後、4℃で6時間、抗Flag M2アガロース(Sigma)の存在下で、細胞溶解物をインキュベートした。その後、免疫沈降されたタンパク質又は細胞溶解物を電気泳動し、ニトロセルロースメンブレンにブロットした。メンブレンは、抗FLAG-tag M2抗体又は抗HA-tag抗体の存在下で、インキュベートした。
【0179】
ERAP1とREAの結合に対するERAP1欠損体(1-434)のドミナントネガティブ効果
ERAP1とPHB2との相互作用に重要と予測されたERAP1の1-434アミノ酸残基(配列番号:33)からなる発現ベクターコンストラクト(ERAP11-434)を用いて、ERAP1とPHB2との相互作用に及ぼす影響、及びE2刺激によるERE活性に及ぼす影響を検討した。結合阻害試験では、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)によりCOS-7細胞にFlag-ERAP1をHA-PHB2とともにトランスフェクトし、48時間後に0.1% NP-40溶解バッファーで細胞を溶解した。4℃で3時間、細胞溶解物をプレクリーンし、その後、4℃で6時間、抗HA抗体の存在下で細胞溶解物をインキュベートした。その後、免疫沈降されたタンパク質又は細胞溶解物を電気泳動し、ニトロセルロースメンブレンにブロットした。メンブレンは、抗FLAG-tag M2抗体又は抗HA-tag抗体の存在下で、インキュベートした。また、ERE活性阻害試験では、FuGENE6トランスフェクション試薬によりCOS-7細胞にERAP11-434、ERAP1、PHB2、ERα、ERE-ルシフェラーゼベクターの各プラスミドをトランスフェクトすると同時に、E2で48時間刺激した。細胞をハーベストし、Promega dual luciferase reporter assay(Tokyo, Japan)を用いて、ルシフェラーゼ及びRenilla-ルシフェラーゼ活性を評価した。トランスフェクション効率を考慮して、全てのデータをRenilla-ルシフェラーゼ活性により標準化した。
【0180】
ドミナントネガティブペプチド
ERAP1のPHB2結合ドメインに由来する13アミノ酸からなるペプチド(codon 165-177:QMLSDLTLQLRQR(配列番号:27))のアミノ末端に、細胞膜透過性の11個のアルギニンからなるポリアルギニン配列(11R)を共有結合的に結合した。ERAP1-scramble peptide(DRQLQLSTLQRML(配列番号:28))及びERAP1-mutant peptide(AMLSALTLALRQR(配列番号:29))をコントロールとして合成した。ERAP1-PHB2複合体形成の阻害における11R結合ERAP1-peptideの影響を試験するために、10nM E2存在下で、MCF-7細胞を10μM ERAP1ペプチドで処理した。24時間後、0.1% NP-40溶解バッファーで細胞を溶解し、「免疫沈降」の項で述べたように、抗ERAP1抗体及び抗PHB2抗体の存在下で、細胞溶解物をインキュベートした。その後、免疫沈降されたタンパク質又は細胞溶解物を電気泳動し、ニトロセルロースメンブレンにブロットした。最後に、抗ERAP1抗体又は抗PHB2抗体を用いてウェスタンブロット解析を行い、内在性のERAP1又はPHB2タンパク質をそれぞれ検出した。
【0181】
免疫細胞化学的染色
MCF-7細胞を5 ×104 cells/wellで8ウェルチャンバー(Laboratory-Tek II Chamber Slide System, Nalgen Nunc International, Naperville, IL, USA)に播種し、エストロゲンフリーの条件下で、24時間培養した。E2及び/又はERAP1-peptideへの曝露から24時間後、4%パラホルムアルデヒドで4℃で30分間処理することにより細胞を固定し、0.1% Triton X-100で2分間処理することにより、細胞を透過性にした。その後、3%BSAで細胞を被覆して非特異的ハイブリダイゼーションをブロックし、抗PHB2抗体の存在下で、さらに1時間、細胞をインキュベートした。PBSで洗浄後、Alexa 594結合抗ウサギ抗体(Molecular Probe, Eugene, OR, USA)の存在下で1時間インキュベートすることにより、細胞を染色した。核は、4,6-diamidine-2'-phenylindole dihydrochloride(DAPI, Vectashield, Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)でカウンター染色した。蛍光像はオリンパスIX71顕微鏡(Tokyo,Japan)の下で得た。
【0182】
核/細胞質分画
PHB2の局在性を評価するために、上記のようにMCF-7細胞を処理し、MCF7細胞の核及び細胞質抽出物を使用してrec-protein G sepharose存在下での抗ERAP1抗体、抗PHB抗体及び抗ERα抗体を用いた免疫沈降を行った。核及び細胞質抽出物は、NE-PER nuclear and cytoplasmic extraction reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いて製造業者の使用説明書に従って調整した。細胞質画分及び核画分のタンパク質含量は、クマシーブリリアントブルー染色で評価した。
【0183】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
EREレポーターアッセイのために、製造業者の使用説明書に従って、MCF-7細胞をEREレポーター(SABiosciences, Frederick, MD, USA)でトランスフェクトした。AP-1レポーターアッセイのために、AP-1レポーター(PGL2-basic vectorにサブクローン化された2つのタンデムAP-1サイトを含むマウスIL-11プロモーター)、c-fos、c-Jun及び 内部標準としてpRL-TKをMCF-7細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションから16時間後、培地をアッセイ培地(Opti-MEM、10% FBS、0.1 mM NEAA、1 mM Sodium pyruvate及び10 μg/ml インスリン)に交換した。トランスフェクションから24時間後、細胞をE2及び/又はERAP1-peptideで24時間処理した。細胞をハーベストし、Promega dual luciferase reporter assay(Tokyo, Japan)を用いて、ルシフェラーゼ及びRenilla-ルシフェラーゼ活性を評価した。トランスフェクション効率を考慮して、全てのデータをRenilla-ルシフェラーゼ活性により標準化した。
【0184】
脱アセチル化アッセイ
HDACアッセイは、製造業者の使用説明書に従って、HDAC Fluorescent Activity Assay/Drug Discovery Kit(Enzo Life Sciences, Plymouth Meeting, PA, USA)を用いて行った。6ウェルプレートにおいて、MCF-7細胞をE2及び/又はERAP1ペプチドで24時間処理した。その後、細胞抽出物を抗PHB2抗体を用いて免疫沈降し、免疫沈降された細胞抽出物を基質の存在下で、30℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、反応を停止させ、マイクロプレートフルオロメーター(Infinite M200, Tecan, Mannedorf, Switzerland)により蛍光を解析した。
【0185】
半定量的逆転写PCR
半定量的逆転写PCRにより、ERαの下方制御(down-regulation)を評価した。ERAP1ペプチドの存在下又は非存在下でE2処理された細胞から、RNeasy Mini purification kit(Qiagen)を用いて全RNAを抽出し、Superscript II reverse transcriptase(Invitrogen)、oligo dT primer (Invitrogen)及び25 mM dNTP Mixture(Invitrogen)を用いてcDNAに逆転写した。ERα及びβ-アクチンのmRNAをGeneAmp PCR system(Applied Biosystems, Foster, CA, USA)により測定した。プライマーは以下の通りである:
ERα:5'-GCAGGGAGAGGAGTTTGTGTG-3'(配列番号:1)及び
5'-TGGGAGAGGATGAGGAGGAG-3'(配列番号:2);
β-アクチン:5'-GAGGTGATAGCATTGCTTTCG-3'(配列番号:3)及び
5'-CAAGTCAGTGTACAGGTAAGC-3'(配列番号:4)。
【0186】
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRにより、ERαの標的遺伝子(pS2、cyclin D1、c-myc、SP-1、E2F1及びPgR)、ERAP1及びPHB2の発現を評価した。また、ネガティブコントロールとして、ERαの標的としては報告のないPHB2の発現量も測定した。内部標準コントロールとして、β2-MGを用いた。全RNAの抽出及びその後のcDNA合成は、上記のように行った。製造業者の使用説明書に従って、SYBR(登録商標) Premix Ex Taq(Takara Bio, Shiga, Japan)を用いた500 Real Time PCR System(Applied Biosystems)でのリアルタイムPCRにより、cDNAを解析した。各サンプルは、β2-MGのmRNA含量で標準化した。増幅のために使用したプライマーは以下の通りである:
pS2:5'-GGCCTCCTTAGGCAAATGTT-3'(配列番号:5)及び
5'-CCTCCTCTCTGCTCCAAAGG-3'(配列番号:6);
cyclin D1: 5'-CAGAAGTGCGAGGAGGAGGT-3'(配列番号:7)及び
5'-CGGATGGAGTTGTCGGTGT-3'(配列番号:8);
c-myc: 5'-CGTCTCCACACATCAGCACA-3'(配列番号:9)及び
5'-GCTCCGTTTTAGCTCGTTCC-3'(配列番号:10);
SP-1:5'-TGCTGCTCAACTCTCCTCCA-3'(配列番号:11)及び
5'-GCATCTGGGCTGTTTTCTCC-3'(配列番号:12);
E2F1: 5'-TACCCCAACTCCCTCTACCC-3'(配列番号:13)及び
5'-CCCACTCACCTCTCCCATCT-3'(配列番号:14);
PgR: 5'-CCCCGAGTTAGGAGACGAGA-3'(配列番号:15)及び
5'-GCAGAGGGAGGAGAAAGTGG-3'(配列番号:16);
ERAP1:5'-CTTGACAAGGCCTTTGGAGT-3'(配列番号:17)及び
5'-CAATATGCTTTTCCCGCTTT-3'(配列番号:18);
PHB2:5'-GGATCTGCTTCTCCAGTTTT-3'(配列番号:19)及び
5'-ACTGAGAAATCACGCACTGT-3'(配列番号:20);
β2-MG: 5'-AACTTAGAGGTGGGGAGCAG-3'(配列番号:21)及び
5'-CACAACCATGCCTTACTTTATC-3'(配列番号:22)。
【0187】
細胞増殖アッセイ
Cell-Counting Kit-8(CCK-8, Dojindo, Kumamoto, Japan)を用いて細胞増殖アッセイを行った。細胞をハーベストし、2 × 104 cells/wellで48ウェルプレートにプレートし、加湿化されたインキュベーターで37℃で維持した。指示された時点で、1:10で希釈されたCCK-8溶液を添加して1時間インキュベートし、450nmの吸光度を測定して各ウェルにおける生存細胞の数を計算した。
【0188】
細胞周期
細胞を冷70%エタノールで固定し、20μg/mlヨウ化プロピジウム(Sigma)及び1mg/ml リボヌクレアーゼA(Sigma)で細胞を染色し、FACSCalibur(BD, Franklin Lakes, NJ, USA)により解析した。CellQuest software (BD)を用いて細胞周期を評価した。
【0189】
in vivo腫瘍増殖阻害
KPL-3C細胞懸濁液(1 × 107 cells/mouse)を等量のMatrigel(BD)と混合し、6週齢メスBALB/cヌードマウス(CLEA Japan, Tokyo, Japan)の乳房脂肪体に注射した。マウスは、12時間明期/12時間暗期のサイクルで、無菌の隔離施設で飼育し、げっ歯類飼料と水を自由給餌した。腫瘍は、50〜80mm3(1/2×(幅×長さ2)として算出)のサイズに達するまで、1週間にわたって発育させた。その後、マウスを9つの処理群(5個体/群):無処理群、6μg/day のE2処理群、E2+0.28mg/day のERAP1-peptide処理群、E2+0.7mg/day のERAP1-peptide処理群、E2+1.4mg/day のERAP1-peptide処理群、E2+0.28mg/dayのscramble peptide処理群、E2+0.7mg/dayのscramble peptide処理群、E2+1.4mg/dayのscramble peptide処理群、E2+83μg/dayのタモキシフェン処理群に、無作為に分けた。マウスは、頚部皮膚への6μg/dayのE2溶液(100μl 2.2x10-4M)で毎日処理した。ERAP1-peptide又はscramble peptideは、0.28、0.7、又は1.4mg/day(14、35、70mg/kg)での腹腔内注射により、毎日マウスに投与した。タモキシフェンもまた、4mg/kgの用量で、毎日マウスに腹腔内投与した。腫瘍体積は、ノギスを用いて、2週間にわたって測定した。試験終了時に動物を殺し、さらなるERαの標的遺伝子発現解析のために腫瘍を摘出して液体窒素で凍結した。in vivoデータは、腫瘍体積平均値±平均値の標準誤差として示した。試験終了時のP値をスチューデントのt検定を用いて算出した。全ての試験を徳島大学の動物施設の指針に従って行った。
【0190】
ChIPアッセイ
EZ-ChIP(Millipore, Billerica, MA, USA)を用いて、製造業者の使用説明書に従い、ChIP解析を行った。MCF-7細胞をE2及び/又はERAP1-peptideで24時間処理し、その後、37%ホルムアルテヒドで固定し、溶解バッファーに再懸濁して、Microson XL-2000(Misonix, Farmingdale, NY, USA)で、10秒x10で超音波破砕した。上清をプロテインGアガロースビーズでプレクリアし、1% インプットを回収した。抗ERα抗体、抗PHB2抗体、抗HDAC1抗体、抗NCoR抗体、抗SRC-1抗体及びコントロールとして通常マウスIgGを用いて、免疫沈降(各1 x106 cells)を行った(一晩、4℃)。DNA-タンパク質複合体をプロテインGアガロースビーズでプルダウンし(1時間、4℃)、洗浄した。免疫沈降物をElutionバッファーに再懸濁し、架橋を解除するために、65℃で5時間、インキュベートし、付属の精製カラムを用いて精製した。DNA断片は25から28サイクルのPCRによって検出した。ERAP1ゲノムのERE領域に対するプライマーには、
5'-GGGGTACCTTATATCACTAGTCGACA-3'(配列番号:23)及び
5'-CCGCTCGAGAGAACTAGAGCAGACAA-3'(配列番号:24)を用いた。
統計解析
試験群間の差異の統計的有意性を決定するためにスチューデントのt検定を使用した。P値 <0.05で有意とみなした。
【0191】
相互作用部位の予測
ERAP1とPHB2の相互作用部位についてPSIVERを用いて予測した。PSIVER(Protein-protein interaction SItes prediction serVER)は配列の特徴(部位特異的スコア行列及び予測される溶媒接触表面積)のみを用いて他のタンパク質に結合する残基を予測するための計算法である。当該計算法では、カーネル密度推定を備えた単純ベイズ分類器(Naive Bayes classifier)を使用し、インターネット上に予測サーバーを公開している。本発明では、デフォルトの閾値である0.390を使用した。
【0192】
組換えPHB2タンパク質
ヒトPHB2の部分配列(残基77-244)を、ヘキサヒスチジンタグ、チオレドキシン(TrxA)及びTEVプロテアーゼ切断部位(TEV部位)とアミノ末端でインフレームとなるように、pTAT6発現ベクター(Dr. Marko Hyvonen, University of Cambridge. によるギフト:Peranen J, et al., (1996). Anal Biochem. 236, 371-373.を参照)のNcoI及びXhoIサイトにクローニングした。組換えタンパク質は、大腸菌 BL21 star(DE3)株(Invitrogen, Carlsbad, CA)で発現させ、Hi-Trap Kit(GE Healthcare)を用いて精製した。最後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でsuperdex 200 gel filtration column(GE Healthcare)を用いて、供給業者のプロトコールに従い、組換えタンパク質を精製した。
【0193】
2.結果
ERAP1-PHB2/REA結合阻害ペプチドの同定
本発明者らは、ERAP1とPHB2/REAの相互作用を標的とした阻害剤の開発を目指すことを目的に以下の実験を行った。まずERAP1におけるPHB2/REAとの結合領域の決定を試みた。ERAP1タンパク質全長をカバーするように3つの発現ベクターコンストラクト(ERAP11-434 :1-434アミノ酸、ERAP1435-2177 :435-2177アミノ酸、ERAP11468-2177 :1468-2177アミノ酸)を作製し(図1A)、これらを用いて免疫沈降-ウェスタンブロット法により結合領域を調べた。その結果、ERAP1の1-434アミノ酸残基の領域を介してPHB2/REAとの特異的な結合が確認された(図1B)。このPHB2/REAとの結合が確認されたERAP11-434において、結合領域のさらなる絞り込みを行った。発現ベクターコンストラクト(ERAP11-250 :1-250アミノ酸、ERAP11-100 :1-100アミノ酸)をさらに作製し(図1C)、これらを用いて同様に免疫沈降-ウェスタンブロット法により結合領域を調べた。その結果、ERAP1の101-250アミノ酸残基の領域を介してPHB2/REAとの特異的な結合が確認された(図1D)。
【0194】
次にこの結果を検証するために、ERAP1 1-434(1-434アミノ酸)の発現ベクターコンストラクトが、ERAP1-PHB2の結合及びERαのERE転写活性に与える影響について調べた。COS-7細胞にFlag-全長ERAP1、HA-PHB2コンストラクトと一緒に図1Eに示した濃度のERAP1欠損体コンストラクト(ΔERAP1:ERAP11-434)をトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、細胞を溶解し、抗HA抗体を用いてHAタグ化PHB2を細胞溶解物から免疫沈降した。その結果、導入したERAP1欠損体コンストラクト(ΔERAP1:ERAP11-434)の容量依存的にERAP1とPHB2/REAとの結合が阻害された(図1E)。また、ERAP1欠損体コンストラクト(ΔERAP1:ERAP11-434)の導入により、ERαのERE転写活性の抑制も認められた(図1F)。
【0195】
さらに詳細な結合アミノ酸配列を決定するために、医薬基盤研究所の水口らによって開発されたタンパク質―タンパク質相互作用予測システムPSIVER(5)を用いてERAP1の相互作用予測部位を調べた。その結果、157-173アミノ酸が最も見込みのある領域として予測された。さらにそのうち165番目のグルタミン(Q)、169番目のアスパラギン酸(D)及び173番目のグルタミンが相互作用予測アミノ酸残基として最も高いスコアを示した(図1G)。また、その領域の立体構造予測から、この3アミノ酸残基はαへリックス構造上に存在し、それらの側鎖はタンパク質表面に露出して同一方向を向いていることがわかった (図 1H)。この予測に基づいて、これらの3アミノ酸残基をアラニン(A)に置換した発現ベクターコンストラクト(ERAP1 mutant)を作製して、免疫沈降-ウェスタンブロット法によりPHB2/REAとの結合を調べた。その結果、これらの3アミノ酸残基の置換により、PHB2/REAとの結合が劇的に阻害されることが示された(図1I)。
【0196】
本発明者らは、ERAP1のこれら3アミノ酸残基近傍の領域がPHB2/REAとの相互作用に重要であると考え、これら3アミノ酸残基を含むαへリックス構造上の13アミノ酸残基 (165-177アミノ酸残基:QMLSDLTLQLRQR(配列番号:27))に着目した。そして、その13アミノ酸残基のN末端に細胞透過性機能を有する11個のアルギニン残基を付加したドミナントネガティブペプチド(ERAP1-peptide)を合成した。また、コントロールとして13アミノ酸残基配列をランダムに並び替えたペプチド(ERAP1-scramble peptide:DRQLQLSTLQRML(配列番号:28))、結合に重要な3アミノ酸残基を全てアラニンに置換したペプチド(ERAP1-mutant peptide:AMLSALTLALRQR(配列番号:29))もそれぞれ合成した(図1J)。これらのペプチドを用いてERAP1とPHB2/REAとの結合阻害について、抗ERAP1抗体及び抗PHB2/REA抗体を用いた免疫沈降-ウェスタンブロット法により検討した。ERα陽性乳癌細胞であるMCF-7(図1K上図)及びKPL-3C(図1K下図)においてERAP1-peptideを添加すると、内在性ERAP1と内在性PHB2/REAとの結合が顕著に阻害されることがわかった。一方、ERAP1-scramble peptide又はERAP1-mutant peptideを添加した場合には、どちらの細胞においても内在性ERAP1と内在性PHB2/REAとの結合阻害は認められなかった(図 1K)。
【0197】
次に、ERAP1-peptideが直接ERAP1-PHB2/REAタンパク質間の結合を阻害しているかを調べた。大腸菌発現系にて調製したヒスチジンタグ(His)を付加したPHB2/REA組換えタンパク質(6×His-PHB2/REA)と、ERAP1 (Flag-ERAP1)を強制発現させた後のCOS7細胞の細胞溶解物とを混合し、そこに各濃度のHAタグ付加peptide(ERAP1-HA-peptide)を添加して、その後Ni-レジンpull-down及びウェスタン法にて結合阻害を調べた。その結果、ERAP1-HA-peptideは, His-PHB2/REAと濃度依存的に直接結合し、その結果Flag-ERAP1とHis-PHB2/REAとの結合を競合的に阻害することがわかった(図2)。以上のことから、ERAP-peptideはその配列特異的にERAP1とPHB2/REAとの結合を直接阻害することがわかった。
【0198】
ERAP1-peptideによるERαの転写活性化への影響
PHB2/REAは、これまでに、細胞質から核内移行することでERの転写活性を抑制する機能を有すること(Montano MM, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1999; 96: 6947-52.)、ミトコンドリア内膜に局在してミトコンドリアの形態維持、ミトコンドリアの生合成、アポトーシス制御の機能を有すること(Kasashima K, et al., J Biol Chem. 2006; 281: 36401-10.; Artal-Sanz M and Tavernarakis N. Trends Endocrinol Metab. 2009 ;20:394-401.)、姉妹染色分体接着(sister-chromatid cohesin)の制御 に関連すること(Artal-Sanz M and Tavernarakis N. Trends Endocrinol Metab. 2009 ;20:394-401.; Tanaka H, et al., Current Biology. 2007; 17: 1356-61.)が報告されており、多機能タンパク質であると考えられる。そのため、その細胞内局在は依然議論されている。以上のことから、乳癌細胞における内在性PHB2/REAの局在、及びE2刺激又はERAP1-peptide投与によるPHB2/REAの局在の変化について検討した。E2処理、未処理又はERAP1-peptide処理の各条件における、乳癌細胞MCF-7のミトコンドリア、細胞質及び核画分をそれぞれ採取し、内在性PHB2/REAの局在をウェスタン法にて調べた。その結果、内在性PHB2/REAは、細胞質及びミトコンドリアの両方に局在が認められ、またE2処理後も局在の変化は認められなかった。一方、E2とERAP1-peptideを同時に投与すると、細胞質から核内へのPHB2/REAの顕著な移行が認められた。またERAP1-peptideの添加によってE2依存的にミトコンドリア内のPHB2/REAの若干のタンパク量の減少が認められ、ミトコンドリアから細胞質又は核内へのPHB2/REAの移行が示唆された(図3A)。
【0199】
次に、ERAP1-peptideによるPHB2/REAの細胞質から核内への移行について経時的に検討した。MCF-7細胞にてERAP1-peptide投与後1時間において速やかに内在性PHB2/REAの核内移行が認められ、その移行は24時間まで経時的に増加した(図4A,4B)。一方、ERAP1-scramble peptideではPHB2/REAの核内移行は認められなかった(図4A, 4B)。また、ERAP1-peptide の挙動を検討するためにHAタグを付加したERAP1-peptide(ERAP1-HA-peptide)を合成し、それを用いて調べたところ、ERAP1-HA-peptideはPHB2/REAに直接結合して、同時に核移行することが認められた(図3B, 3C)。
【0200】
続いて、ERAP1-peptide投与がERαの転写活性に与える影響について、MCF-7細胞を用いて、ERE(Estrogen-responsible element:エストロゲン応答配列)及びAP-1結合配列のレポーターアッセイにより検討を行った。その結果、ERAP1-peptide(又はERAP1-HA-peptide)の濃度依存的にERE(図4C, 図3D,3E)及びAP-1(図4D,図3F)におけるERαの転写活性の抑制をそれぞれ確認した。しかしながら、ERAP-scramble peptide又はERAP-mutant peptideを添加した細胞では変化は認められなかった(図3E, 3F)。さらに、もう1つのERα陽性細胞株であるKPL-3Cにおいても、同様にERAP1-peptideの投与によりERE-ERαの転写活性の抑制が認められた (図3G)。これらのことから、ERAP1-peptideは、PHB2/REAのE2依存的な核内移行を導き、その結果、古典的(ERE)及び非古典的(AP-1)なERαの転写活性化のどちらも抑制することがわかった。
【0201】
これまでに、PHB2/REAは、核内移行してERαと結合すると、転写共役抑制因子であるNcoRと複合体を形成することやヒストン脱アセチル化酵素であるHDAC1と相互作用することでERαの転写を抑制することが報告されている(Hurtev V, et.al., J Biol Chem. 2004; 279: 24834-43.)。以上のことより、ERAP1-peptide投与によるERαとこれら転写抑制因子との相互作用への影響をERα陽性細胞であるMCF-7細胞を用いて検討した。E2投与時においては、これまでの報告通り、ERαは転写活性化因子であるSRC-1と結合していること(Tai H, et al., Biochem Biophys Res Commun. 2000; 267: 311-6.)が認められた。一方、ERAP1-peptideを投与すると、ERαとSRC-1との結合は減弱するのに対して、ERαはPHB2/REAと相互作用して、さらにNcoR及びHDAC1をリクルートして複合体を形成することがわかった(図4E)。KPL-3C細胞においても同様に、ERAP1-peptideを投与すると、ERαはNcoR及びHDAC1をリクルートして複合体を形成することがわかった(図3H)。また、ERAP1-peptideを投与するとHDAC1活性の容量依存的な活性亢進が認められることから(図4F)、ERαがこれらの因子をリクルートして複合体を形成することで、ヒストンの脱アセチル化を引き起こし、その結果クロマチンを凝集させることでERαの転写活性を抑制することが示唆された。
【0202】
ERAP1-peptideによるERα分解機構への影響
近年、エストロゲン依存性のERαの下方制御がERαの転写活性化に必須であることが報告されている(Nawaz Z, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1999; 96: 1858-62.; Lonard DM, et al., Mol Cell. 2000; 5: 939-48.;Reid G, et al., Mol Cell. 2003; 11: 695-707.; Tateishi Y, et al., EMBO J. 2004; 23: 4813-23.)。これはERαがユビキチン-プロテアソーム系によって分解されることによるもので、転写活性化後のERαのエストロゲン応答性配列(ERE)上での結合と解離のサイクルにおいて重要な制御機構であることがわかっている(Tai H, et al., Biochem Biophys Res Commun. 2000; 267: 311-6.; Nawaz Z, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1999; 96: 1858-62.; Lonard DM, et al., Mol Cell. 2000; 5: 939-48.; Reid G, et al., Mol Cell. 2003; 11: 695-707.)。そこで、ERAP1-peptideのユビキチン-プロテアソーム系によるERαの分解機構への影響を調べた。既報通り、MCF-7細胞においてエストロゲンを投与すると、1-3時間後において、ERαのタンパク質レベルでの減少が認められた。
【0203】
一方、ERAP1-peptideを投与するとその減少が抑制されることがわかった(図4G)。次に、ERαのポリユビキチン化について検討を行った。26Sプロテアソーム阻害剤であるMG132存在下においてMCF-7細胞をE2処理したところ、ERαのタンパク質減少が抑制され、ERαのポリユビキチン化が認められた。しかしながら、ERAP1-peptideを投与すると、MG132存在下にも関わらず、ERαのポリユビキチン化が阻害され、またERαの減少も阻害された(図4H)。KPL-3C細胞(ERα陽性)においても同様に、MG132存在下にてERAP1-peptideの投与によりポリユビキチン化の阻害によるERαのタンパク質減少の抑制が認められた (図5)。以上のことから、ERAP1-peptideの投与によってERAP1から解離され、速やかに核内移行したPHB2/REAが直接ERαと結合することにより、ERαのポリユビキチン化を阻害してERαのエストロゲン応答性配列(ERE)上での結合と解離のサイクルを抑制し、最終的に転写活性化の抑制を導くことが示唆された。これは、PHB2/REAがERαのユビキチン化部位として報告されている302番目と304番目のリジン残基に結合することにより(Berry NB, et al., Mol Endocrinology. 2008; 22: 1535-51.)、これらのリジン残基へのポリユビキチン化の抑制が起こっていることによるかもしれない。
【0204】
ERAP1-peptideによる細胞増殖に与える影響
ERα、ERAP1ともに陽性であるMCF7細胞を用いて、ERAP1-peptideによる細胞増殖への影響を検討した。ERAP1-peptideの投与により、24時間まで容量依存的にE2依存性の細胞増殖抑制を認めた (図6A)。一方、ERAP1-scramble peptide又はERAP1-mutant peptideの投与では、細胞増殖抑制効果は認められなかった(図6B)。なお、MCF-7細胞における24時間での細胞増殖抑制効果のIC50は、2.18μMであった。KPL-3C細胞においても同様の結果を得た(図7A)。また24時間毎にERAP1-peptideを4日間連続で投与した試験により、5μM及び10μMの濃度のERAP1-peptideで完全にE2依存性乳癌細胞増殖が抑制されることがわかった(図7B)。しかしながら、ERα、ERAP1ともに陰性である正常上皮細胞株であるMCF-10A細胞では、ERAP1-peptideは全く細胞増殖には影響しなかった(図6C)。続いて、ERα、ERAP1ともに陽性である他の乳癌細胞株7種類(ZR-75-1, HCC1500, BT474, YMB-1, Y47D, KPL-1, HBC4)について、同様に10μM ERAP1-peptideの細胞増殖への影響を調べたところ、全ての細胞において顕著なE2依存性増殖の抑制効果を示した(図7C)。
【0205】
次に、ERAP1-peptideの安定性について検討した。MCF-7細胞においてERAP1-peptideの細胞増殖抑制効果を経時的に計測した結果、24時間まで完全なE2依存性増殖の抑制効果を認めたが(図7D, 左図)、48時間では細胞増殖が1.5倍程度回復し、ERE-ERαレポーター活性も回復することがわかった(図7D右図)。以上より、ERAP1-peptideは、24時間まで持続してE2依存性乳癌細胞増殖を抑制することがわかった。
【0206】
続いて、ERAP1-peptide投与が細胞周期に与える影響を調べた。MCF-7細胞にE2及び10μMのERAP1-peptide又は抗E2阻害剤であるタモキシフェン(TAM)を同時に投与し、24時間後にFACS解析を行った。その結果、10nM TAM投与と同様に、G1期における細胞周期の停止が観察された(図6D)。この結果はKPL-3Cを用いた場合にも同様に認められた(図7E)。以上より、ERAP1-peptideはG1期停止を誘導することにより細胞増殖抑制効果を導くことがわかった。
【0207】
次に、ERαの標的遺伝子として増殖に関連することが報告されているpS2, cyclinD1, c-Myc, SP-1, E2F1, PgR各遺伝子の発現に与えるERAP1-peptideの影響を検討した。MCF-7細胞にERAP1-peptideを添加後24時間において、各遺伝子の発現を定量的RT-PCR法にて調べた。その結果、どの遺伝子もERAP1-peptideの添加によって顕著な発現の抑制が認められた(図6E)。さらに、これら標的遺伝子の経時的な発現抑制効果を調べた結果、どの遺伝子もペプチド添加6時間後から有意な発現抑制効果が認められた(図8A)。また、ERα陽性乳癌細胞株であるKPC-3Cにおいても同様に、ERAP1-peptideの添加によってこれら全ての遺伝子の顕著な発現抑制が認められた(図8B)。以上のことから、ERAP1-peptideは、ERαの転写活性を抑制し、その結果標的遺伝子の発現を抑制することで細胞増殖抑制を導くことが示唆された。
【0208】
ERAP1-peptideによる非ゲノム的活性化経路への影響
ERαは細胞膜(又は細胞膜直下)に局在することが知られており、E2刺激により膜型増殖因子受容体であるIGF-1Rβ(Insulin-like growth factor-1 receptorβ)、HER2やEGFRと相互作用することで急速に細胞内シグナルカスケードを活性化して細胞増殖を促進するという、いわゆる「非ゲノム的ER活性化経路」が報告されている(Osborne CK, Schiff R. J Clin Oncol. 2005; 23:1616-22.; Yager JD, Davidson NE. N Engl J Med. 2006; 354:270-82.; Johnston SR. Clin Cancer Res. 2010; 16:1979-87.)。これまでの結果は、ERAP1-peptide投与が顕著なPHB2/REAの核移行を導き、その結果「ゲノム的活性化経路」を抑制することを示している。しかしながら、ERAP1-peptide添加後、大部分のPHB2/REAはERAP1と解離して核移行するものの、一部は、エストロゲンにより活性化された細胞膜ERαと結合することで細胞質にそのまま残存すると思われた(図3A, 3B,図4B)。以上のことにより、ERAP1-peptideによる非ゲノム的活性化経路(MAPK又はAKT経路)への影響を調べた。
【0209】
はじめに、これまでに報告のあるアダプター分子であるShcタンパクを介したIGF-1RβとERαの相互作用(Song RX, et al., Proc Natl Acad Sci USA.2004; 101: 2076-81.)及び、PI3Kタンパク質とERα相互作用におけるERAP1-peptideの影響をそれぞれ調べた。MCF-7細胞はIGF-1Rβ及びPI3Kタンパク質の発現を認めることから(図9A)、この細胞においてERAP1-peptideを添加24時間後に、細胞膜画分を含む細胞質画分を抽出し、抗ERα抗体にてそれぞれ免疫沈降を行った。その結果、ERAP1-peptideを投与するとPHB2/REAはERαと結合して、ERαとShc及びERαとIGF-1Rβとの結合をそれぞれ阻害し、その結果、細胞増殖シグナルに重要であるIGF-1Rβ及びShcのチロシン残基のリン酸化が抑制されることがわかった(図10A)。
【0210】
また、膜型ERαを介したE2依存的な非ゲノム的活性化経路のもう1つとして、ERαとPI3Kとの相互作用へのERAP1-peptideの影響を検討した。MCF-7細胞にERAP1-peptideを添加するとPHB2/REAはERαと結合して、ERαとPI3Kとの結合を阻害することがわかった(図10B)。続いて、IGF-1Rβ及びPI3Kの下流シグナル分子であるAkt及びMAPKのリン酸化への影響についても調べた。その結果、ERAP1-peptide添加3時間後までに、AktのSer473のリン酸化及びMAPKのリン酸化がそれぞれ阻害され、24時間後にも抑制は維持されていた(図10C)。一方、ERAP1-peptideの添加によりERAP1から解離したPHB2/REAのAkt及びMAPKへのそれぞれの直接的な結合は認められなかった(図10B)。以上より、ERAP1-peptideは、PHB2/REAをERAP1から解離させ、解離したPHB2/REAがE2依存性のIGF-1RβとERαとの結合及びPI3KとERαとの結合を直接阻害することで、それらのリン酸化による活性化を阻害し、その結果、それらの下流シグナル経路であるAKt及びMAPK経路の活性化を抑制することがわかった。IGF-1Rβ及びPI3Kタンパク質の発現を認めるKPL-3C細胞においても、ERαとShc及びERαとIGF-1Rβとの結合阻害(図9B)及びAKTとMAPKの活性化の抑制が認められた(図9C)。
【0211】
さらに、Her2、EGFR、IGF-1Rβ及びPI3K全ての発現を認めるERα陽性乳癌細胞BT474(図9A)を用いて、同様の試験を行った。その結果、ERAP1-peptideにより、ERαとHer2、EGFR、IGF1-Rβ及びPI3Kのそれぞれ全ての結合が阻害され(図10D)、その下流のシグナル経路であるAKt及びMAPK経路の活性化の抑制が認められた(図10E)。以上の結果から、ERAP1-peptideは、ERAP1からPHB2/REAを解離させてE2依存性に細胞膜ERαとPHB2/REAとを直接結合させることで、ERαのIGF-1Rβ、HER2やEGFRとの結合を阻害して、「非ゲノム的シグナル活性経路」を抑制し、最終的には細胞増殖の阻害を導くことが示唆された。
【0212】
ERAP1-peptideによるERαリン酸化への影響
近年、ERαの翻訳後修飾、特にリン酸化が細胞増殖における種々のシグナル伝達経路に重要な調節因子であると考えられている(Lannigan DA. Steroids. 2002; 68: 1-9.; Barone I, et al., Clin Cancer Res. 2010; 16:2702-08.;Murphy LC, et al., Endocrine-Related Cancer. 2011; 18: R1-14.)。E2依存的にERαは多くの部位にてリン酸化されることがこれまでに報告されているが、特に6つのアミノ残残基のリン酸化 (Ser104, Ser 106, Ser118, Ser167, Ser357, Tyr537)がERαの転写活性及びE2との結合に重要であることがわかっている(Lannigan DA. Steroids. 2002; 68: 1-9.; Barone I, et al., Clin Cancer Res. 2010; 16:2702-08.;Murphy LC, et al., Endocrine-Related Cancer. 2011; 18: R1-14.)。そこで、MCF-7細胞において、ERAP1-peptideによるE2添加後のERαリン酸化への影響を調べた。E2添加3時間後から24時間後まで継続して、ERαの6つの部位(Ser104, Ser106, Ser118, Ser167, Ser357, Tyr537)の全てにおいて、リン酸化の増強が確認されたが、ERAP1-peptideを投与するとこれら全てのリン酸化がE2非投与と同程度まで抑制された(図10F)。しかしながら、ERAP1-scramble peptideでは抑制効果は認められなかった(図10F)。
【0213】
以上のことから、ERAP1-peptideにより核内移行したPHB2/REAは、ERαのE2依存性リン酸化を抑制することでERαの転写活性化能及びE2との結合能を低下させて、ERαを不活性化させることが示唆された。さらに本発明者らは、他のER陽性乳癌細胞であるKPL-3C(図9D)及びBT-474(図9E)細胞においても同様の実験を行い、その結果、これらの細胞においても全ての部位のE2依存性のリン酸化がERAP1-peptideの投与により抑制されることを見いだした。これらは、triplicateの実験を3回独立して行った結果である。
【0214】
ERAP1-peptideのin vivo抗腫瘍効果の検討
次に、ERAP1-peptideによるin vivo抗腫瘍効果について検討した。ER陽性乳癌であるKPL-3C細胞をヌードマウスの乳腺へ同所性移植し、腫瘍が約70mm3に到達したときにE2を皮下投与するとともにERAP1-peptide、ERAP1-scramble peptide又はタモキシフェン(TAM)をそれぞれ腹腔内投与し、抗腫瘍効果を調べた。その結果、ERAP1-peptideを投与したマウスの腫瘍は全ての投与量において、E2非投与マウスと同程度まで、またTAMと同程度の抗腫瘍効果を認めた(図11A, 11B, 11C)。また体重の変化は認められなかった(図11D)。それに対して、ERAP1-scramble peptideを投与したマウスでは、どの投与量においても有意な腫瘍抑制効果は認められなかった(図11B, 11C, 図12)。
【0215】
次に、これらpeptideを投与したマウスの腫瘍におけるERαの標的遺伝子の活性化の状態を調べた。その結果、ERαの標的遺伝子であるPS2, cyclin D1, C-Myc及びSP-1の発現はERAP1-peptideを投与した腫瘍では完全に抑制されていたのに対して、ERAP1-scramble peptideを投与した腫瘍ではそれらの発現の抑制は認められなかった(図11E)。さらに、ERAP1-peptideを投与した腫瘍では、非ゲノム的活性化シグナル経路であるAkt及びMAPKのリン酸化の抑制も確認された(図11F)。以上のことから、in vivoにおいても、in vitroと同様に、ERAP1-peptideは、ERAP1とPHB2/REAとの結合を阻害することで、PHB2/REAとERαとの結合を誘導し、その結果、ERαの「ゲノム的活性化」及び「非ゲノム的活性化」の経路を抑制することで抗腫瘍効果を発揮することが示唆された。
【0216】
ERAP1-のpositive feedback機構による発現亢進
これまでに本発明者らは、E2刺激によりERAP1が発現亢進することを見いだしている(Kim JW, et al., Cancer Sci. 2009; 100:1468-78.)。このことから、ERAP1がERαの標的遺伝子の1つであるという仮説を立てて、以下の実験を行った。MCF-7細胞において、E2投与後のERAP1のmRNAレベルでの発現を定量的RT-PCR法にて調べた。その結果、E2投与後24時間まで時間依存的に発現の亢進が認められた(図13A)。次に、抗E2剤であるタモキシフェン(TAM)処理時のERAP1の発現も定量的RT-PCR法及びウェスタン法にて調べた。その結果、mRNAレベル及びタンパク質レベルのどちらにおいても、TAMの濃度依存的にERAP1の発現の抑制が認められた(図13B)。以上のことから、ERAP1は、ERα陽性乳癌細胞において、E2依存的な発現制御を受けていることがわかった。
【0217】
次に、ERAP1遺伝子上にERE(estrogen responsible element、E2応答性配列:AGGTCAnnnTGACCT(配列番号:25))が存在するかをコンピューター予測にて検索したところ、転写開始点から5626 bp〜5644 bp下流のイントロン1上のTCCAGTTGCATTGACCT(配列番号:26)という保存されたERE配列を確認した(図13C)。この予測されたERE配列を含む領域(ERE in ERAP1)、ERE配列を含まないその上流配列のみ(UP-)又はERE配列を含まないその下流配列のみ(Down-)からなる発現ベクターコンストラクトをそれぞれ作製し、ルシフェラーゼレポーター活性を調べた。その結果、ERAP1遺伝子上のERE配列を含むコンストラクトを導入した細胞においてのみ、E2刺激後のレポーター活性の亢進が確認された。続いて、ERαがこの予測ERE配列に直接結合するかどうかをERαとPHB2/REA及びこれらと複合体を形成することが証明されたHDAC1,NcoRに対する抗体を用いてクロマチン免疫沈降法(ChIP法)にて調べた。その結果、ERAP1-peptideの添加によって、どのタンパク質に対する抗体を用いた免疫沈降物においてもERAP1のDNA配列との結合が認められた(図13D)が、転写活性化因子であるSRC-1抗体を用いた際の免疫沈降物においては、その結合は減弱した(図13D)。
【0218】
以上のことから、ERAP1はERαの標的遺伝子の1つであり、E2依存的にERαの活性化が誘導されるとその発現が亢進される、正のフィードバック機構により制御されていることが示唆された。次に、ERAP1-peptideによるERAP1自身の発現への影響を調べた。ERAP1は、図13Aに示すとおり、E2依存性に発現亢進を認めたが、ERAP1-peptide投与によりその発現は経時的に抑制された。以上から、ERAP1-peptideは、E2依存性のERα陽性乳癌細胞におけるERAP1の正のフィードバック機構を阻害し、その結果よりPHB2/REAの解離を誘導し、あらゆるERα活性化機構を阻害して、細胞増殖抑制効果を導くことがわかった。
【0219】
[実施例2]タモキシフェン耐性MCF-7細胞に対するERAP1-peptideの抑制効果
1. 材料と方法
タモキシフェン耐性MCF-7細胞
タモキシフェン耐性MCF-7細胞株は、物質移動合意書(Material Transfer Agreement)の下で、井上聡博士(埼玉医大ゲノム医学研究センター)から提供されたものを以下の実験に供試した。タモキシフェン耐性MCF-7細胞の培養条件は、寄託者の推奨する条件下で行った。タモキシフェン耐性MCF-7細胞は、10%FBS(Nichirei Biosciences, Tokyo, Japan)、1% ペニシリン/ストレプトマイシン(Nacalai tesque, Kyoto, Japan)、1 μM タモキシフェン(Sigma, St. Louis, MO, USA)で強化されたDMEM(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)で培養した。
【0220】
タモキシフェン耐性MCF-7細胞に対するERAP1 peptideの増殖抑制効果
細胞増殖アッセイはCell-Counting Kit-8 (CCK-8、同仁堂社製)を用いて評価した。まず、フェノール・レッドを含有したDMEM/F12培地にてタモキシフェン耐性MCF-7細胞を48-ウェルプレートに2 × 104個/ウェルずつ播種して24時間CO2インキュベーターに放置後、10%FBS、1% ペニシリン/ストレプトマイシン、1μM タモキシフェンを含有したフェノール・レッドを含まないDMEM/F12培地に交換し、さらに24時間前培養した。上清を除去後、各濃度のERAP1-peptideを180 μlを添加し、引き続き100 nM E2を20μl添加して(終濃度10 nM)、24時間反応させた。反応液を除去後、10倍希釈したCCK-8溶液を各ウェルに125μlずつ添加し、CO2インキュベーター内で1時間の呈色反応を行ったあと、各ウェルから100μlを96ウェルプレートに移して、マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。
【0221】
タモキシフェン耐性MCF-7細胞のAk、MAPK及びERαのリン酸化に対するERAP1-peptideの抑制効果の検討
MCF-7細胞及びタモキシフェン耐性MCF-7細胞をフェノール・レッドを含有したDMEM/F12培地にて24-ウェルプレートに1 × 105個/ウェルずつ播種して24時間CO2インキュベーターに放置後、10%FBS、1% ペニシリン/ストレプトマイシン、1μMタモキシフェンを含有し、フェノール・レッドは含まないDMEM/F12培地に交換し、さらに24時間前培養した。上清を除去後、100μM ERAP1-peptideを180μlを添加し(終濃度10μM)、引き続き100 nM E2を20μl添加して(終濃度10 nM)、24時間反応させた。反応液を除去後、SDS-sample bufferを100μl添加して細胞を溶解した。95℃で5分間の煮沸処理後、ポリアクリルアミド電気泳動に供した。AktとMAPKのリン酸化は抗リン酸化Akt(Ser473)(587F11)と抗リン酸化p44/42 MAP Kinase(Thr202/Tyr204)抗体にて、またERαのリン酸化は、抗リン酸化ERα(Ser104/106)、抗リン酸化ERα(Ser118)、抗リン酸化ERα(Ser167)、抗リン酸化ERα(Ser305)、抗リン酸化ERα(Tyr537)抗体で検出した。
【0222】
2.結果
タモキシフェン耐性MCF7-細胞(Tam-R MCF-7)におけるERAP1-peptideによる細胞増殖への影響を検討した。ERAP1-peptideの投与24時間後において、E2及びタモキシフェン存在下で、ERAP1-peptideの容量依存的に顕著な細胞増殖抑制を認めた(図14A)。次に、これまでタモキシフェン抵抗性の原因の1つとして考えられている「タモキシフェンの非ゲノム的経路の活性化(Akt,MAPKリン酸化)」および「タモキシフェンによるERαのリン酸化」によるERαの活性化への影響について検討した。Tam-R MCF-7細胞に、タモキシフェン単独処理又はタモキシフェンとE2とを併用処理すると、それぞれAkt,MAPKのリン酸化の亢進が認められた(図14B上図)。それに対して、それぞれの条件においてERAP1-peptide処理をしたところ、MCF-7野生株(MCF-7WT)においてと同様に、顕著なAkt,MAPKのリン酸化の減弱が認められた。さらに、ERαの全てのリン酸化も減弱させることがわかった(図14B下図)。以上より、ERAP1-peptideは、タモキシフェン抵抗性乳癌においても、その原因の1つである非ゲノム的経路の活性化及びERαリン酸化を阻害することにより、細胞増殖抑制を導くことができることが示唆された。
【0223】
[実施例3]E2非依存性の細胞増殖に及ぼすERAP1-peptideの効果の検討
1. 材料と方法
E2非依存性の細胞増殖に及ぼすERAP1-peptideの効果の検討
48-ウェルプレートにMCF-7細胞又はZR-75-1細胞を2 × 104個/ウェルずつ、KPL-3C 細胞を1 × 104個/ウェルずつ播種して24時間CO2インキュベーターに放置後、MCF-7細胞は10%FBS(Nichirei Biosciences, Tokyo, Japan)、1% antibiotic/antimycotic solution(Invitrogen)、0.1mM NEAA48(Invitrogen)、1mMピルビン酸ナトリウム及び10μg/mlインスリン(Sigma, St. Louis, MO, USA)を含有したフェノール・レッドを含まないDMEM/F12培地に、ZR-75-1細胞とKPL-3C細胞は10%FBSと1% antibiotic/antimycotic solutionを含有したフェノール・レッドを含まないRPMI培地に交換し、さらに24時間前培養した。上清を除去後、各濃度のERAP1-peptideを200μl又はポジティブコントロールとしてタモキシフェンをそれぞれ添加して24時間反応させた。反応液を除去後、10倍希釈したCCK-8溶液を各ウェルに125μlずつ添加し、CO2インキュベーター内で1時間の呈色反応を行ったあと、各ウェルから100μlを96穴プレートに移して、マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。
【0224】
ERAP1-peptideがIGF-1Rβを介した非ゲノム的活性化経路へ及ぼす影響の検討
MCF-7細胞を10 μM ERAP1-peptide単独処理、10 nM E2単独での刺激、及びERAP1 peptideとE2の共刺激をそれぞれ行い、その24時間後、各処理の細胞から細胞質画分を単離した。normal IgG及びrec-Protein G Sepharose 4B(Zymed, San Francisco, CA, USA)を用いて、4℃で3時間、その細胞質画分をプレクリーンして、遠心分離後、上清を抗ERα抗体の存在下で、4℃で6時間、インキュベートした。その後、rec-Protein G Sepharose 4Bを添加して4℃で1時間インキュベートすることにより、抗原−抗体複合体を沈降させた。免疫沈降されたタンパク質複合体を溶解バッファーで3回洗浄し、SDS-PAGEにより分離した。その後のウェスタンブロットによる各全タンパク質の検出には、抗IGF-1Rβ、抗ERα、抗Shc、抗PHB2抗体を用い、各タンパク質のチロシンリン酸化の検出には、抗リン酸化チロシン抗体を用いた。
【0225】
2.結果
E2非存在下におけるERAP1-peptide処理による細胞増殖への影響をMTTアッセイにて調べた。すなわち、MCF-7細胞を各濃度(1,3, 5, 10μM )のERAP1-peptideまたはポジティブコントロールとしてTAMにて24時間処理した。その結果、ERAP1-peptide容量依存的に細胞増殖抑制効果を認めた(図15A)。
【0226】
次にその効果の分子機構について検討した。エストロゲン依存性のERの非ゲノム的経路の活性化と同様に、エストロゲン非依存性の非ゲノム的経路の活性化への影響を調べた。ERAP1-peptide処理することで細胞質におけるERαはPHB2との結合を認めたが、一方IGF-1Rβ及びShcとERαとの各相互作用のどちらも阻害され、その結果、シグナルカスケードに重要であるIGF-1RβおよびShcのチロシンリン酸化も抑制されることがわかった(図15B)。以上より、ER陽性であるMCF7細胞におけるE2非依存的な増殖も阻害することが示唆された。
【0227】
さらに、この結果を検証するために、他のER陽性乳癌細胞株を用いて、増殖抑制効果について調べた。24時間毎に10μM ERAP1-peptideの投与を行ったところ、KPL3細胞では、48時間目、またZR75-1細胞では、96時間目に有意な細胞増殖抑制効果が確認された(図16)。以上より、ERAP-1 peptideはERAP1-PHB2の結合を阻害することで、E2非依存性のER陽性乳癌細胞の増殖抑制効果を引き起こすことがわかった。
【0228】
[実施例4]ERAP1-peptideとタモキシフェンとの併用効果の検討
1. 材料と方法
乳癌細胞におけるERAP1のノックダウン
siRNA法によりERAP1をノックダウンしたときのタモキシフェン の阻害効果をMTTアッセイにより評価した。si-ERAP1, si-control(si-EGFP)の配列および実験方法は、Kimら(Cancer Science, 2009, 100; 1468-78)の報告に準じた。48-ウェルプレートに2×104個/ウェルずつ播種したMCF-7細胞を1μM E2で刺激し、24時間後にsi-ERAP1又は si-controlで処理し、その24時間後に10μM タモキシフェン処理して、96時間後にMTTアッセイにより生細胞数を評価した。
また、siRNA法によりERAP1をノックダウンしたときのタモキシフェン の阻害効果をERE-ルシフェラーゼアッセイにより評価した。96-ウェルプレートに2×104個/ウェルずつ播種したMCF-7細胞にERE-ルシフェラーゼレポーターを一過性にトランスフェクトしたあと、1μM E2で刺激し、24時間後にsi-ERAP1又は si-controlで処理し、その24時間後に10μM タモキシフェン処理して、96時間後にEREルシフェラーゼ活性を測定した。
【0229】
in vivo腫瘍増殖阻害試験
KPL-3細胞をBALB/cヌードマウスの乳房脂肪体内の皮下に移植した。E2の非存在下で腫瘍が約50-80mm3の体積に達したとき、治療試験(5個体/群)を開始した(day 0)。KPL-3C腫瘍異種移植片担持マウスに、ERAP1-peptide単独(3.5, 7, 14 mg/kg)、scramble peptide単独(14 mg/kg)、タモキシフェン単独(4 mg/kg)又はERAP1-peptide(14 mg/kg)とタモキシフェン(4 mg/kg)との併用を腹腔内注射により毎日投与した。
【0230】
細胞周期解析
MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptide及び/又は10nM タモキシフェンで処理し、その後直ちに10nM E2で24時間刺激した。固定化後、ヨウ化プロピジウムで細胞を染色し、フローサイトメトリーにより解析した。
【0231】
2.結果
ERAP1のノックダウンがタモキシフェンによる乳癌細胞増殖抑制効果に及ぼす影響
siRNA法によりMCF-7細胞においてERAP1を発現抑制した際のタモキシフェンの阻害効果について検討した。Si-controlをトランスフェクトした細胞においてタモキシフェン処理したものよりも、siERAP1をトランスフェクトした細胞においてタモキシフェン処理したものの方がより細胞増殖抑制が確認された(図17A)。また、その際のEREレポーター活性を調べたところ、同様にsiERAP1をトランスフェクトした細胞においてタモキシフェン処理した方がよりレポーター活性の抑制が確認された(図17B)。以上より、ERAP1の発現抑制及びタモキシフェンとの併用により相乗的な細胞増殖抑制効果を導くことができることが示唆された。
【0232】
ERAP1-peptide及びタモキシフェンとの併用よる抗腫瘍効果の検討
KPL-3細胞BALB/cヌードマウスの乳腺への同所性移植モデルを用いて、ERAP1-peptideとタモキシフェンとの併用による抗腫瘍効果について検討した。エストロゲン依存性乳癌の増殖はERAP1-peptideの単独投与によって容量依存的な(3.5, 7, 14 mg/kg)抗腫瘍効果が認められたが、scramble-peptide単独(14 mg/kg)では認められかった(図18)。ERAP1-peptide(14 mg/kg)とタモキシフェン(4 mg/kg)とを併用することで、さらに顕著な抗腫瘍効果が認められた(図18)。どの投与法においても体重変化は認められなかった。以上より、ERAP1-peptideは、ERのエストロゲンシグナルを阻害することで、in vivoにおいても顕著な抗腫瘍効果を発揮し、その効果はタモキシフェンと併用することでさらに高くなることがわかった。
【0233】
ERAP1-peptideとタモキシフェンとの併用が細胞周期に及ぼす影響
ERAP1-peptideとタモキシフェンの併用による細胞周期における影響をFACS解析により調べた。MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptide単独又は10nM タモキシフェン単独にて処理すると、G1期にて停止した細胞の増加が確認されたが、10μM ERAP1-peptide及び10nMタモキシフェンを併用すると、subG1期の細胞が顕著に増加して、細胞死が認められた(図19)。以上より、ERAP1-peptideは作用機序の異なるタモキシフェンと併用することで、in vitro, in vivoの両方において抗腫瘍効果を顕著に促進することがわかった。
【0234】
[実施例5]配列の異なるペプチドによる乳癌細胞増殖抑制効果の検討
1. 材料と方法
上記実施例で用いたERAP1-peptideとは異なる配列を有するペプチドにおいても同様の効果が得られるか否かを確認するために、PHB2/REAとの結合部位と予測された3アミノ酸残基を含み、ERAP1-peptideとは配列の異なるERAP1-peptide-2(161-173アミノ酸残基:ATLSQMLSDLTLQ(配列番号:30))を作成した(図20下図)。細胞増殖アッセイはCell-Counting Kit-8 (CCK-8、Dojindo, Kumamoto, Japan)を用いて評価した。まず、MCF-7細胞を10%FBSと1% antibiotic/antimycotic solutionを含有したフェノール・レッドを含まないDMEM/F12培地で48-ウェルプレートに2 × 104個/ウェルずつ播種してCO2インキュベーターに放置後、各濃度のERAP1-peptide(165-177アミノ酸残基)又はERAP1-peptide-2(pep-1:161-173アミノ酸残基)を180μl添加し、引き続き100 nM E2を20μl添加して(終濃度10 nM)、24時間反応させた。反応液を除去後、10倍希釈したCCK-8溶液を各ウェルに125μlずつ添加し、CO2インキュベーター内で1時間の呈色反応を行ったあと、各ウェルから100μlを96穴プレートに移して、マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。
【0235】
2. 結果
ERAP1-peptideと同様ERAP1-peptide-2の投与においても、24時間まで容量依存的にE2依存性の細胞増殖抑制を認めた(図20上図)。このことから、ERAP1-peptide-2においても上記実施例で解析を行ってきたERAP1-peptideと同様の機構により、乳癌細胞の細胞増殖抑制を引き起こすことが示唆された。また、ERAP1-peptideとERAP1-peptide-2との重複配列である165-173アミノ酸残基の配列(QMLSDLTLQ(配列番号:31))が乳癌細胞の細胞増殖抑制に関与することが示唆された。
【0236】
[実施例6]ERα陽性・ERAP1陰性乳癌細胞株におけるPHB2リン酸化の検討
1. 材料と方法
核/細胞質分画
PHB2の局在性を評価するために、ERα陽性・ERAP1陰性乳癌細胞株であるHCC1395細胞をERAP1-peptide及び/又はE2処理し、HCC1395細胞の細胞質及び核抽出物をNE-PER nuclear and cytoplasmic extraction reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いて調製した。
【0237】
ERα陽性・ERAP1陰性乳癌細胞株HCC1395細胞に対するERAP1-peptideの効果
HCC1395細胞の増殖アッセイはCell-Counting Kit-8 (CCK-8、Dojindo, Kumamoto, Japan)を用いて評価した。まず、HCC1395細胞を10%FBSと1% antibiotic/antimycotic solutionを含有したフェノール・レッドを含まないRPMI培地で48-ウェルプレートに2 × 104個/ウェルずつ播種してCO2インキュベーターに放置後、各濃度のERAP1-peptideを180μl添加し、引き続き100 nM E2を20μl添加して(終濃度10 nM)、96時間反応させた。反応液を除去後、10倍希釈したCCK-8溶液を各ウェルに125μlずつ添加し、CO2インキュベーター内で1時間の呈色反応を行ったあと、各ウェルから100μlを96穴プレートに移して、マイクロプレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。
【0238】
ERAP1-peptide処理によるPHB2のリン酸化
MCF-7細胞およびHCC1395細胞を5μM ERAP1-peptideで処理し、その後直ちに1μM E2で24時間刺激した後、各処理の細胞から核画分を単離した。Normal IgG及びrec-Protein G Sepharose 4B(Zymed, San Francisco, CA, USA)を用いて、4℃で3時間、その核画分をプレクリーンして、遠心分離後、上清を抗ERα抗体の存在下で、4℃で6時間、インキュベートした。その後、rec-Protein G Sepharose 4Bを添加して4℃で1時間インキュベートすることにより、抗原−抗体複合体を沈降させた。免疫沈降されたタンパク質複合体を溶解バッファーで3回洗浄し、SDS-PAGEにより分離した。その後のウェスタンブロットによる各全タンパク質の検出には、抗ERα抗体及び抗PHB2抗体を用い、PHB2のリン酸の検出には、抗リン酸化チロシン抗体、抗リン酸化セリン抗体、及び抗リン酸化スレオニン抗体を用いた。
【0239】
PHB2の39位のセリン残基がERα転写活性に及ぼす影響
PHB2の39位のセリン残基をアラニンおよびグルタミン酸に変異させた発現ベクターコンストラクトを用いて、E2刺激がERE活性に及ぼす影響を検討した。FuGENE6トランスフェクション試薬によりCOS-7細胞にPHB2(又はPHB2変異ベクター)、ERα、ERE-ルシフェラーゼベクター、内部標準としてpRL-TKの各プラスミドをトランスフェクトして、6時間後に1μM E2で48時間刺激した。細胞をハーベストし、Promega dual luciferase reporter assay(Tokyo, Japan)を用いて、ルシフェラーゼ及びRenilla-ルシフェラーゼ活性を評価した。トランスフェクション効率を考慮して、全てのデータをRenilla-ルシフェラーゼ活性により標準化した。
【0240】
2. 結果
これまでの結果から、ERAP1は、ERαの標的遺伝子の1つとして、E2依存的にERαの活性化が誘導されるとその発現が亢進される、正のフィードバック機構により制御されている可能性が示された。さらに、ERAP1-peptideは、ERα陽性乳癌細胞におけるERAP1からのPHB2/REAの解離を誘導し、その結果、ERAP1の正のフィードバック機構を阻害し、あらゆるERα活性化機構を阻害して、細胞増殖抑制効果を導くことが確認された。しかしながら、ERAP1陰性であるER陽性乳癌細胞も存在し、そのような細胞におけるER標的遺伝子の発現亢進の機序はわかっていない。また、REA/PHB2は、上述の通り、ERに直接結合することで、その活性化を抑制する機能を有していることから、ERAP1陰性でER陽性の乳癌細胞におけるPHB2/REAのER抑制因子としての役割は不明である。そこで、ERAP1陰性ER陽性乳癌細胞株HCC1395細胞を用いて、PHB2の核内移行について、まず検討した(図21)。
【0241】
HCC1395細胞では、E2処理のみにて、PHB2/REAの核内移行が認められ(図21A)、さらに免疫沈降法により、核内でのERαとの結合が確認された(図21B)。その際のERαの各共役因子のリクルートについて検討したところ、共役抑制因子であるNcoRと脱アセチル化酵素であるHDAC1は、E2処理の有無での量的な変化は認められなかったが、ERαとの結合は認められた。しかしながら、共役活性化因子であるSRC-1においては、どの条件においてもERαとの結合は認められなかった。
【0242】
以上の結果から、ERAP1陰性・ER陽性乳癌細胞であるHCC1395細胞においては、E2依存的にPHB2は核内移行して核ERαと直接結合し、共役抑制因子であるNcoRと脱アセチル化酵素であるHDAC1をリクルートすることがわかった。また、ERAP1-peptideによる細胞増殖に与える影響は認められなかった(図21C)。しかしながら、このHCC1395細胞株はE2依存性の細胞増殖を認める(図21C)ことから、PHB2/REAがERαを不活性化に導くメカニズムについて、PHB2/REAの翻訳後修飾、特にリン酸化に着目し、そのリン酸化の有無によってERα活性の抑制が制御されるという仮説を考えた。
【0243】
これまでにPHB2/REAのERα活性の抑制に重要な領域は、19-49アミノ酸及び150-174アミノ酸であることが報告されている(PNAS, 1999, 96, 6947-6952)。また、網羅的なリン酸化解析において、PHB2/REAは、39 番目のセリン、及び42番目のスレオニン残基がリン酸化されるという報告がある(JBC, 283, 4699-4713, 2008)。以上のことから、この39Sと42Tのリン酸化に着目して、以下の実験を行った。
【0244】
ER陽性・ERAP1陽性の乳癌細胞株MCF-7細胞では、E2存在下にて、ERAP1-peptide投与にて、PHB2とERαの核内での結合が認められ、さらに結合の認められたPHB2/REAにおいて、チロシン及びセリン残基のリン酸化が認められたが、スレオニン残基におけるリン酸化はほとんど認められなかった。一方、HCC1395細胞では、E2処理により核内移行し、ERαと結合したPHB2/REAにおいて、チロシン残基のリン酸化は認められたが、セリン残基のリン酸化は確認されなかった。これらの結果は、上述のPHB2/REAの活性抑制に重要な領域内にある39Sがリン酸化候補部位となることが示唆された。次に、正常型PHB2/REA、PHB2/REAの39Sをアラニンに置換した発現ベクターコンストラクト(S39A)、又は恒常的にリン酸化状態と類似した状態にすることができるグルタミン酸残基に置換した発現ベクターコンストラクト(S39E)を、ERα、ERE-ルシフェラーゼベクター、及び内部標準としてのpRL-TK の各ベクターと共にCOS-7細胞に一過性にトランスフェクトし、その後E2処理を行って、EREレポーター活性を調べた。その結果、正常型のPHB2/REAを導入した細胞では、ERαの活性は抑制されていたが、S39Aの変異コンストラクトを導入した細胞では、ERαの活性抑制は認められなかった。また、S39Eコンストラクトでも、ERαの活性抑制が認められた(図22B) 。以上より、PHB2/REAのERαの活性の抑制には、その39番目のセリン残基のリン酸化が重要であり、ERAP1の発現していないER陽性乳癌細胞では、そのリン酸化が抑制されることによってPHB2/REAが不活性型になっていることが示唆された。
【0245】
[実施例7]ヒト乳癌細胞株及びヒト乳癌切除標本におけるERAP1とPHB2の発現
1. 材料と方法
乳癌細胞株におけるERAP1の発現解析
ヒトER陽性乳癌細胞株(KPL-3L、BT-474、ZR-75-1、YMB-1、T47D、HBC4、KPL-1)及び乳腺上皮細胞(MCF-10A)の細胞溶解物を、抗ERAP1抗体、抗PHB2抗体、抗ERα抗体を用いてイムノブロットした。
【0246】
ヒト乳癌切除標本におけるERAP1とPHB2の発現解析
103例のパラフィン包埋乳癌切除標本に対するERAP1及びPHB2/REAの発現を、抗ERAP1抗体(75倍希釈、7時間、4℃)及び抗PHB2抗体(300倍希釈、12時間、4℃)を用いた免疫組織染色により評価した。免疫染色による癌部の染色性の判定は、癌組織がまったく染色されない症例を陰性、並びに細胞質が淡く染色される症例を弱陽性, 癌組織がほぼ均一に強く染色される症例を強陽性とした。この免疫組織染色の結果は、病理医によって確認され、各症例の染色の強度については、3人の研究者が独立して評価した。ERAP1発現と各々の症例の無再発生存期間との相関関係は、Statview J-5.0を用いたKaplan-Meier法にて無再発生存曲線を作成し、Logrank検定により評価した。
【0247】
2. 結果
乳癌細胞株におけるERAP1の発現
ヒトER陽性乳癌細胞株のERAP1、PHB2、ERαの発現を検討した。ER陽性乳癌においては、HCC1395を除く細胞株全てでERAP1に発現を確認した(図23及びCancer Science, 2009;100:1468-78)。
【0248】
ヒト乳癌切除標本におけるERAP1とPHB2の発現
乳癌切除標本において免疫組織染色により、ERAP1の発現を評価した。評価した103症例中、癌組織がまったく染色されない陰性(Negative)は24症例(23%)、細胞質が淡く染色される弱陽性(Weak)は59症例(57%)、癌組織がほぼ均一に強く染色される強陽性(Strong)は20症例(19%)であった(図24A上図)。さらに、各々の症例をWeak(陰性症例と弱陽性症例)とStrong(強陽性)に分類して、ERAP1発現と無再発生存期間との相関関係をKaplan-Meier法にて作成した無再発生存曲線により評価した。その結果、ERAP1の発現と無再発生存期間とは有意な相関が認められた(図24A下図)。
また、PHB2の発現も同様に免疫組織染色により評価したところ、調査した乳癌切除標本のほぼ全例で、強陽性(Strong)であった(図24B)。
【0249】
[実施例8]ヒト乳癌細胞におけるERAP1ペプチドの作用メカニズムの検討
1. 材料と方法
細胞株
ヒト乳癌細胞株(MCF-7、ZR-75-1、BT-474、T47D、HCC1395)はAmerican Type Culture Collection(ATCC, Rockville, MD, USA)から購入した。KPL-3Cは、物質移動合意書の下で、紅林淳一博士(川崎医科大学, 岡山, 日本)から提供された。HEK293Tは理化学研究所(茨城,日本)から購入した。全ての細胞株は、それぞれの寄託者の推奨する条件下で培養された。
【0250】
細胞の処理
MCF-7細胞を10% FBS(Nichirei Biosciences, Tokyo, Japan)、1% antibiotic/antimycotic solution(Invitrogen)、0.1 mM NEAA(Invitrogen)、1 mMピルビン酸ナトリウムおよび10μg/mlインスリン(Sigma, St. Louis, MO, USA)で強化されたMEM(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)に懸濁し、24ウェルプレート(1 × 105 cells/1 ml)、6ウェルプレート(5 × 105 cells/2 ml)又は 10 cm dish (2 × 106 cells/10 ml)に播種した。細胞は、5%二酸化炭素を含む加湿の大気において、37℃で維持された。播種した次の日に、培地を、FBS、antibiotic/antimycotic solution, NEAA, ピルビン酸ナトリウムおよびインスリンで強化したフェノールレッドフリーのDMEM/F12(Invitrogen)に交換した。24時間後に、細胞を10 nM 17βエストラジオール(E2, Sigma)で処理した。阻害試験では、ERAP1-peptideはE2刺激の直前に添加した。
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
HEK293T細胞に市販のEREレポーター(SABiosciences, Frederick, MD, USA)およびPP1α遺伝子のEREレポーター(5'上流のEREモチーフと5'上流とイントロン2のEREモチーフからなるタンデム配列)と内部標準としてpRL-TKをトランスフェクトした。トランスフェクションから16時間後、培地をアッセイ培地(Opti-MEM、10% FBS)に交換した。トランスフェクションから24時間後、細胞を10 nM E2で24時間処理し、細胞をハーベストしてPromega dual luciferase reporter assay(Tokyo, Japan)によりルシフェラーゼおよびRenilla-ルシフェラーゼ活性を評価した。トランスフェクション効率を考慮して、全てのデータをRenilla-ルシフェラーゼ活性により標準化した。
【0251】
ウェスタンブロット解析
細胞を、0.1% protease inhibitor cocktail III(Calbiochem, San Diego, CA, USA)を含む溶解緩衝液(50 mM Tris-HCl: pH 8.0, 150 mM NaCl, 0.1% NP-40, 0.5% CHAPS)で溶解した。細胞溶解物を電気泳動し、ニトロセルロースメンブレンにブロットし、4% BlockAce solution(Dainippon Pharmaceutical, Osaka, Japan)で1時間ブロッキングした。メンブレンを、以下の抗体の存在下で1時間インキュベートした:
抗β-actin (AC-15)抗体(Sigma);
抗ERAP1精製抗体(抗hA7322 (His13))(Sigma);
抗FLAG-tag M2抗体 (Sigma);
抗 HA-tag抗体 (Roche, Mannheim, Germany);
抗PHB2/REA抗体(Abcam, Cambridge, UK);
抗ERα(AER314)抗体(Thermo Fisher Scientific, Fremont, CA, USA);
抗α/β-tubulin抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗Akt(PKB)抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗リン酸化Akt抗体(Ser473)(587F11)(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗p44/42 Map Kinase抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗リン酸化p44/42 Map Kinase抗体(Thr202/Tyr204)(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗PP2A A subunit抗体(81G5)(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA );
抗Lamin B抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);
抗PKA IIα reg抗体(C-20) (Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);又は
抗PP1抗体(FL-18)(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA) 。
【0252】
あるいは、メンブレンを、以下の抗体の存在下で一晩インキュベートした:
抗リン酸化PHB2/REA精製抗体(Ser39)(Scrum,Tokyo,Japan);
抗リン酸化チロシン抗体(Zymed, San Francisco, CA, USA);
抗リン酸化セリン抗体(Zymed, San Francisco, CA, USA);又は
抗リン酸化スレオニン抗体(Zymed, San Francisco, CA, USA)。
【0253】
HRP-結合二次抗体(Santa Cruz Biotechnology)の存在下で1時間インキュベートした後、メンブレンを、enhanced chemiluminescence system(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK)で展開した。ブロットは、Image Reader LAS-3000 mini(Fujifilm, Tokyo, Japan)を用いてスキャンした。
【0254】
免疫沈降
「ウェスタンブロット解析」の項で述べたように、細胞を0.1% NP-40溶解緩衝液で溶解した。Normal IgGおよびrec-Protein G Sepharose 4B(Zymed, San Francisco, CA, USA)を用いて、4℃で3時間、細胞溶解物をプレクリーンした。遠心分離後、上清を抗ERAP1精製抗体、抗PHB2/REA抗体、抗ERα抗体および抗FLAG-tag M2抗体の存在下で、4℃で6時間、インキュベートした。その後、rec-Protein G Sepharose 4Bの存在下で、4℃で1時間、インキュベートすることにより、抗原−抗体複合体を沈降させた。免疫沈降されたタンパク質複合体を溶解緩衝液で3回洗浄し、SDS-PAGEにより分離した。その後、ウェスタンブロット解析を行った。
【0255】
核と細胞質の分画
PHB2/REAの局在性とリン酸化を評価するために、MCF-7細胞の核および細胞質抽出物を使用してrec-protein G sepharose存在下で抗PHB2/REA抗体を用いた免疫沈降を行った。核および細胞質抽出物は、NE-PER nuclear and cytoplasmic extraction reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いて調製した。
【0256】
免疫細胞化学的染色
MCF-7細胞を5 ×104 cells/wellで8ウェルチャンバー(Laboratory-Tek II Chamber Slide System, Nalgen Nunc International, Naperville, IL, USA)に播種し、エストロゲンフリーの条件下で、24時間培養した。MCF-7細胞をERAP1-peptideおよびλ-ホスファターゼと10 nM E2に曝露してから24時間後、4%パラホルムアルデヒドで4℃、30分間処理することにより細胞を固定し、0.1% Triton X-100で2分間処理することで細胞を透過性にした。その後、3% BSAで細胞を被覆して非特異的ハイブリダイゼーションをブロックし、抗PHB2/REA抗体および抗リン酸化PHB2/REA抗体(Ser39)の存在下で、さらに1時間、細胞をインキュベートした。PBSで洗浄後、Alexa 594およびAlexa 488結合抗ウサギ抗体(Molecular Probe, Eugene, OR, USA)の存在下で1時間インキュベートすることにより、細胞を染色した。核は、4,6-diamidine-2'-phenylindole dihydrochloride(DAPI, Vectashield, Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)でカウンター染色した。蛍光像はオリンパスIX71顕微鏡(Tokyo,Japan)の下で得た。
【0257】
in vivo腫瘍増殖阻害
KPL-3C細胞懸濁液(1 × 107 cells/mouse)を等量のMatrigel(BD)と混合し、6週齢メスBALB/cヌードマウス(CLEA Japan, Tokyo, Japan)の乳房脂肪体に注射した。マウスは、12時間明期/12時間暗期のサイクルで、無菌の隔離施設で飼育し、げっ歯類飼料と水を自由給餌した。腫瘍は、50〜80 mm3(1/2×(幅×長さ2)として算出)のサイズに達するまで1週間にわたって発育させた。その後、マウスを9つの処理群(5個体/群):無処理群、6μg/day のE2処理群、E2 + 0.28 mg/day のERAP1-peptide処理群、E2 + 0.7 mg/day のERAP1-peptide処理群、E2 + 1.4 mg/day のERAP1-peptide処理群、E2 + 0.28 mg/dayのERAP1-scramble peptide処理群、E2 + 0.7 mg/dayのERAP1-scramble peptide処理群、E2 + 1.4 mg/dayのERAP1-scramble peptide処理群、E2 + 83 μg/dayのタモキシフェン処理群に無作為に分けた。マウスは、頚部皮膚への6μg/dayのE2溶液(100μl:2.2x10-4 M)で毎日処理した。ERAP1-peptide又はERAP1-scramble peptideは、0.28、0.7、又は1.4 mg/day(14、35、70 mg/kg)での腹腔内注射により、毎日マウスに投与した。タモキシフェンもまた4 mg/kgの用量で、毎日マウスに腹腔内投与した。腫瘍体積は、ノギスを用いて2週間にわたって測定した。試験終了時に動物を安楽死させ、PHB2/REAのセリン・リン酸化を評価するために腫瘍を摘出し、液体窒素下で粉砕してウェスタンブロットに供した。全ての試験を徳島大学の動物施設の指針に従って行った。
【0258】
PP1αホスファターゼ活性
PP1αのホスファターゼ活性は、Protein Phosphatase Assay Kit(AnaSpec, Fremont, CA, USA)を用いて測定した。MCF-7細胞をE2およびERAP1-peptideで24時間処理した後、細胞溶解液を抗PP1α抗体で免疫沈降し、免疫沈降された細胞抽出物を基質(p-Nitrophenyl phosphate)と室温で60分間インキュベートした後、反応を停止させ、405 nmの吸光度を測定した。PP1α活性(μmole/min)は、1分間当たり1μmoleの基質を触媒する酵素量として定義した。
【0259】
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRによりPP1αの発現を評価した。E2処理された細胞からRNeasy Mini purification kit(Qiagen)を用いて全RNAを抽出し、Superscript II reverse transcriptase(Invitrogen)、oligo dT primer (Invitrogen)および25 mM dNTP Mixture(Invitrogen)を用いてcDNAに逆転写した。SYBR(登録商標) Premix Ex Taq(Takara Bio, Shiga, Japan)を用いた500 Real Time PCR System(Applied Biosystems)でのリアルタイムPCRによりcDNAを解析した。各サンプルは、β2-MGのmRNA含量で標準化した。増幅のために使用したプライマーは以下の通りである;PP1α:5'-ACTATGTGGACAGGGGCAAG-3' (配列番号:58)と5'-CAGGCAGTTGAAGCAGTCAG-3' (配列番号:59)、β2-MG:5'-AACTTAGAGGTGGGGAGCAG-3' (配列番号:21)と5'-CACAACCATGCCTTACTTTATC-3' (配列番号:22)。
【0260】
ChIPアッセイ
EZ-ChIP(Millipore, Billerica, MA, USA)を用いてChIP解析を行った。MCF-7細胞を10 nM E2で24時間処理後、37%ホルムアルテヒドで固定し、溶解緩衝液に再懸濁して、Microson XL-2000(Misonix, Farmingdale, NY, USA)により10秒x10で超音波破砕した。上清をプロテインGアガロースビーズでプレクリアし、1% インプットを回収した。抗ERα抗体およびマウスIgGを用いて免疫沈降(各1 x106 cells)を行い(一晩、4℃)、DNA-タンパク質複合体をプロテインGアガロースビーズでプルダウンした(1時間、4℃)。洗浄後、免疫沈降物を溶出緩衝液に再懸濁し、架橋を解除するために65℃で5時間、インキュベートし、付属の精製カラムを用いて精製した。DNA断片は28サイクルのPCRによって検出した。PP1αゲノムのERE領域に対するプライマーは、-726/-704:5'-TCAAAAGCTAATTATGGGGC-3' (配列番号:60) と5'-TCAAGCGATTCTCCTGCCTCA-3' (配列番号:61)、+1851/+1873:5'-GAGATCCGCGGTCTGTGCCTG-3' (配列番号:62)と5'-CAGGACTGCGCTCAAGGGAGG-3' (配列番号:63)、+1936/+1959:5'-CACTGGACCCCACAGAGTTCC-3' (配列番号:64)と5'-TAGTTGCTCTCGGGAGGGAAA-3' (配列番号:65)を用いた。
【0261】
2DICAL
MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideおよびERAP1-scramble peptideで処理し、直ちに10 nM E2で刺激した後、メタノールで固定した。減圧乾燥後、2% デオキシコール酸ナトリウムと5 M 尿素の存在下で37℃、20時間トリプシン処理した。酢酸エチルでタンパク質を抽出して、減圧乾燥後、2DICAL(2 Dimentional Image Converted Analysis of LCMS)に供した。2DICALは超低速の液体クロマトグラフィーと質量分析で経時的に得られるスペクトラムをデジタル処理し、質量電荷比(m/z)、保持時間の2軸を持つ平面に描出するプロテオーム解析法である。データは0時間での値に対する比率を算出した。
【0262】
マイクロアレイ
MCF-7細胞を10μM ERAP1-peptideで処理し、直ちに10 nM E2で刺激した後、RNAを抽出した。Low Input Quick Amp Labeling Kit(Agilent Technologies, Loveland, CO, USA)によりCy3ラベル化cRNAを合成してカスタム・マイクロアレイと65℃で17時間ハイブリダイゼーションした。マイクロアレイを洗浄後、マイクロアレイスキャナ(Agilent)で計測し、Future Extractionソフトウェア(Agilent)により数値化した。データはGeneSpringソフトウェア(Agilent)により統計解析し、0時間での値に対する比率を算出した。
【0263】
ビアコア
PHB2/REAとERAP1-peptideの結合を評価するため、アミンカップリングにより6xHisタグ化組換えPHB2/REAタンパク質をセンサーチップ(CM5)に固定化した後、ビアコア3000(GE Healthcare, Tokyo, Japan)にセットし、各濃度のHAタグ化ERAP1-peptideをインジェクションした。解離速度定数はBIAevaluationソフトウェア(GE Healthcare)により算出した。
【0264】
蛍光相互相関分光法
PHB2/REAとERAP1-peptideの結合を評価するため、10 nMのFITCタグ化ERAP1-peptideおよびFITCタグ化ERAP1-scramble peptideと6xHisタグ化組換えPHB2/REAタンパク質を1時間反応させた後、FlucDeux装置(MBL, Tokyo, Japan)を用いてFITC蛍光を測定し、PHB2/REAタンパク質に結合したERAP1-peptideの割合を算出した。
【0265】
抗ERAP1モノクローナル抗体の精製
ヒトERAP1の部分配列(残基459-572aa)をラット(WKY/Izm、10週齢、雌)に感作させ、2週間後に腸骨リンパ節からリンパ球を回収し、SP2マウスのミエローマと細胞融合してハイブリドーマを培養した。ハイブリドーマによって産生・スクリーニングされた抗体をマウス腹水から回収し、陽イオン交換クロマトグラフィー(HiTrap SP HPカラム)により精製した。
【0266】
抗リン酸化PHB2/REA(S39)抗体の精製
ヒトPHB2/REAのSer39特異的抗リン酸化抗体を調製するため、ペプチド抗原(C+(PEG Spacer)+YGVRE pS VFTVE)を合成し、KLHにコンジュゲーションして、2週間毎に5回ウサギに感作した。2か月後、全採血して抗血清を調製して、リン酸化アフィニティーで抗リン酸化PHB2/REA(S39)抗体を精製した。
【0267】
細胞増殖アッセイ
Cell-Counting Kit-8(CCK-8, Dojindo, Kumamoto, Japan)を用いて細胞増殖アッセイを行った。細胞をハーベストし、2 × 104 cells/wellで48ウェルプレートにプレートし、加湿化されたインキュベーター(37℃)で維持した。指示された時点で、10倍希釈したCCK-8溶液を添加して1時間インキュベートし、450nmの吸光度を測定して生存細胞の数を計算した。
統計解析
試験群間の差異の統計的有意性を決定するためにスチューデントのt検定を使用し、P値 < 0.05で有意とみなした。
【0268】
2. 結果
PHB2/REAのSer39のリン酸化によるERα転写活性の抑制
PHB2/REAのERαの活性の抑制には、その39番目のセリン残基(Ser39)のリン酸化が重要であること(図22)を、上述の作製した抗PHB2/REA-Ser39特異的ポリクローナルリン酸化抗体を用いて、検証を行った。正常型PHB2/REA の39Sをアラニン(Ala)に置換した変異型発現ベクターコンストラクト(S39A)、又は恒常的にリン酸化状態と類似した状態にすることができるグルタミン酸残基に置換した発現ベクターコンストラクト(S39E)を、ERα、ERE-ルシフェラーゼベクターおよび内部標準としてのpRL-TK の各ベクターと共にHEK293T細胞に一過性にトランスフェクトし、その後E2処理を行って、EREレポーター活性を調べた。その結果、図22と同様に、正常型のPHB2/REAを導入した細胞では、ERαの活性は抑制されていたが(WT)、S39Aの変異コンストラクトを導入した細胞では、ERαの活性抑制は認められなかった(S39A)。また、S39Eコンストラクトでも、ERαの活性抑制が認められた(図25A)。 続いて、抗PHB2/REA-Ser39リン酸化抗体を用いて、PHB2/REA のリン酸化状態を調べた。その結果、正常型のPHB2/REAを導入した細胞でのみPHB2/REA のSer39のリン酸化が認められたが、他のコンストラクトを導入した細胞では認められなかった(図25B)。また、PHB2/REAのSer39リン酸化とE2依存的非ゲノム的ER活性化経路の抑制について調べたところ、正常型のPHB2/REAを導入した細胞でのみ,E2依存的にAkt, MAPK(T201/Y204)のリン酸化の減弱が認められたが、他のコンストラクトを導入した細胞では認められなかった(図25C)。以上の結果から、PHB2/REAのE2依存的ゲノム的および非ゲノム的ER活性化経路の抑制活性には、そのSer39リン酸化が重要であることが明らかとなった。
【0269】
核に移行したPHB2/REAのSer39リン酸化の検討
次に、MCF-7細胞をE2およびERAP1-peptideで処理後、細胞質画分と核画分の画分を回収し、それらにおけるPHB2/REAのリン酸化状態を調べた。その結果、ERAP1-peptideにより核に移行したPHB2/REAはSer39のリン酸化を認め、さらに細胞質に残存したPHB2/REAにおいても同様にSer39のリン酸化が確認された(図26A)。続いて、ERAP1-peptide処理により遊離した内在性PHB2/REAのセリン残基のリン酸化の継時的な変化を調べた。その結果、ERAP1-peptide 投与後1時間から24時間まで持続してE2依存的PHB2/REAのSerリン酸化が認められた(図26B)。さらに、免疫細胞染色によりリン酸化された内在性PHB2/REAの局在についても調べたところ、 MCF-7細胞にてERAP1-peptide投与後、速やかに内在性PHB2/REAの核内移行が認められ、Ser39のリン酸化が認められた(図26C)。また、細胞質PHB2/REAにおいても、同様にERAP1-peptide 投与により抗Ser39リン酸化抗体にて検出された。この蛍光シグナルは、λホスファターゼ処理より消失したことから、ERAP1-peptideによりERAP1から解離された核および細胞質に局在するPHB2/REAはリン酸化されていることがわかった。続いて、ERAP1特異的siRNAによりERAP1をknockdownした際のPHB2/REAのリン酸化について調べた。その結果、ERAP1の発現抑制により、核および細胞質においてPHB2/REAのSer39にてリン酸化が認められ(図26D)、その際のERα標的遺伝子であるCCND1、TFF1およびc-MycのE2依存性の発現亢進が有意に抑制されていることがわかった(図26E)。以上より、ERAP1から解放されたPHB2/REAは核および細胞質においてそのSer39がリン酸化されることが明らかとなった。
【0270】
ERAP1-peptideによるin vivoにおけるPHB2/REAのSer39リン酸化の検討
ERAP1-peptideを投与したマウスの腫瘍を用いて、それらにおけるPHB2/REAのSer39リン酸状態を調べた。その結果、ERAP1-peptideを投与した腫瘍ではPHB2/REAのSer39のリン酸化が確認されたのに対して、ERAP1-scramble peptideを投与した腫瘍ではE2のみを投与した腫瘍と同様に、PHB2/REAのリン酸化は認められなかった(図27A)。以上から、in vivoにおいても腫瘍抑制にはPHB2/REAのSer39リン酸が重要であることがわかった。
タモキシフェン耐性乳癌におけるERAP1-peptideのin vivo抗腫瘍効果の検討
続いて、タモキシフェン耐性乳癌細胞株(Tam-R MCF-7)のBALB/cヌードマウスの乳腺への同所性移植モデルを用いて、ERAP1-peptideによる抗腫瘍効果についても検討を行った。E2依存性乳癌の増殖はERAP1-peptideの投与(3.5, 7, 14 mg/kg)によって抗腫瘍効果が認められたが、ERAP1-scramble-peptide(14 mg/kg)では認められなかった(図27B)。以上より、ERAP1-peptideは、タモキシフェン耐性乳癌においてもin vivoにて顕著な抗腫瘍効果を発揮することがわかった。
【0271】
ERAP1とPP1αの相互作用の検討
脱リン酸化酵素であるPP1α(protein phosphatase 1α)の結合タンパク質の探索研究からin vitro GST-pull downアッセイ法にてPP1αはKIAA1244(ERAP1の別名)の部分長と結合することおよびERAP1の1228-1232アミノ酸残基にPP1αの結合モチーフ(KAVSF)が保存されていることが報告されていた(Chem. Biol., 16, 365, 2009)。このことから、まず乳癌細胞MCF-7における内在性PP1αとERAP1の相互作用を検証した。その結果、E2の有無にかかわらず、内在性ERAP1と内在性PP1αの結合が確認され、さらにPHB2/REAの結合も認められた(図28A)。次に、PP1α結合モチーフを欠損したERAP1コンストラクト (FLAG-ERAP1-ΔPP1α) を作製し、PP1αとの結合を検討した。その結果、WT-ERAP1コンストラクトと内在性PP1αとの結合は確認されたが、1228-1232aa(KAVSF)を欠失させたERAP1コンストラクト(ΔPP1α)では、結合が認められなかった(図28B)。次に、MCF-7細胞において、siRNAを用いた内在性PP1αの発現抑制によるERAP1、PHB2/REA、ERαそれぞれの相互作用に与える影響を調べた。その結果、興味深いことに、PP1α発現抑制したMCF-7細胞の細胞質画分において、ERAP1とERαの結合が認められたが、ERAP1-peptide処理した時に、ERαとPHB2/REAの結合が確認された(図28C)。一方、核画分においては、これまでの報告通り、ERAP1-peptide処理した時にのみ、ERαとPHB2/REAの結合が確認された(図28C)。続いて、siRNAによるERAP1の発現抑制の際における相互作用についても検討した結果、PHB2/REAとPP1αの相互作用は確認できなかった(図28D)。以上のことから、ERAP1はPP1αとPHB2/REAそれぞれと直接結合するが、PHB2/REAはERAP1を介してPP1αと間接的に結合することがわかった。
【0272】
ERAP1とPP1αの結合阻害のPHB2/REA(S39)リン酸化への影響
次に、PP1αの発現抑制におけるPHB2/REA(S39)のリン酸化への影響を調べた。その結果、 コントロールであるsiEGFP処理をした細胞に比して、siPP1α処理をした細胞ではE2依存的なPHB2/REAの(Ser39)のリン酸化の顕著な亢進を認めた(図29A)。次に、PP1α結合領域を欠失したERAP1コンストラクト(ΔPP1α)の発現によるPHB2/REA(Ser39)のリン酸化への影響も検討した。WT-ERAP1コンストラクトを導入した細胞に比べて、ΔPP1αコンストラクトを導入した細胞では、明らかなE2依存性の内在性PHB2/REA(Ser39)のリン酸化の亢進を認めた (図29B)。続いて、PP1α結合モチーフを有する細胞膜透過性ERAP1ドミナントネガティブペプチド(ERAP1/PP1α-Peptide)を合成し、MCF-7細胞に導入した際のERAP1-PP1α相互作用および内在性PHB2/REA(Ser39)のリン酸化に与える影響を調べた。その結果、細胞膜透過性ERAP1ドミナントネガティブペプチド投与により、E2依存的にERAP1-PP1αの結合の阻害が確認され、さらに、このドミナントネガティブペプチドを導入した際に、顕著な内在性PHB2/REA(Ser39)のリン酸化を認めた(図29C)。以上の結果から、ERAP1とPP1αの結合阻害は、E2依存的な内在性PHB2/REA(S39)のリン酸化を誘導することが明らかとなった。
【0273】
ERAP1リン酸化のPP1αホスファターゼ活性への影響
次に、ERAP1とPP1αのホスファターゼ活性の関係について検討した。MCF-7細胞において、siRNA法によりERAP1またはPP1αの発現をそれぞれ抑制した際の、ホスファターゼ活性を調べたところ、ERAP1発現の抑制された細胞において顕著なホスファターゼ活性の上昇が確認された(図30A)。続いて、このERAP1によるPP1αのホスファターゼ活性阻害効果を検証するために、ERAP1の過剰発現がPP1αホスファターゼ活性に及ぼす影響を調べた。ERAP1コンストラクト(0.5、1.0、2.0μg)およびPP1α結合領域欠失ERAP1コンストラクト(ΔPP1α:2.0μg)をHEK293T細胞にトランスフェクトし、抗PP1α抗体を用いて免疫沈降後にホスファターゼ活性を調べた。その結果、ERAP1の発現量の増加に伴い、PP1α活性の低下が確認された(図30B)。次に、エストロゲン刺激によるPP1α活性への影響を検討した。MCF-7細胞を10 nM E2で6、12、24時間刺激した後にホスファターゼ活性を調べたところ、E2処理6時間にはPP1αホスファターゼ活性の亢進が確認された(図30C)。
以上の結果から、1)ERAP1はPP1αと結合することで、PP1αのホスファターゼ活性を抑制するnegative regulatorであること、2)PHB2/REA はPP1αの調節ユニットであるERAP1と結合することで、そのSer39のリン酸化が脱リン酸化されることが明らかとなった。しかしながら、これらの結果は相反することから、この疑問点を解決するために、本発明者らはE2刺激によって、ERAP1のPP1αのホスファターゼ活性阻害活性が阻害されるのではないかと仮説をたて、まずE2刺激によるERAP1のリン酸化に着目した。ERAP1高発現細胞株であるMCF-7細胞において、10 nM E2で24時間刺激後に、各抗リン酸化抗体を用いてイムノブロット解析を行った。その結果、ERAP1はE2依存的にセリン、スレオニン、チロシン残基においてリン酸化されることがわかった(図30D)。以上のことから、E2刺激によってERAP1はリン酸化され、その結果PP1αのホスファターゼ活性抑制機能が抑えられることにより、PP1αのホスファターゼ活性が亢進するという可能性が示唆された。
【0274】
PP1α活性を介したPKAとPKBによるERAP1リン酸化によるPHB2/REA(S39)のリン酸化制御の検討
続いて、ERAP1をリン酸化するキナーゼについて検討した。ERAP1のファミー分子であるBIG1,BIG2はPKAおよびprotein phosphataseと複合体を形成することで、AKAPタンパク質の1つとして機能することが報告されていたこと(Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Feb 18;100(4):1627-32. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Feb 21;103(8):2683-8. Genes to Cells 11, 949-959, 2006; Journal of Biological chemistry 283, 25364-25371; Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Feb 27;104(9):3201-6; Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Apr 14;106(15):6158-63)から、ERAP1も同様にAKAP様タンパク質として機能する可能性を考えた。そこで、ERAP1とPKAとの結合を検討した。MCF-7細胞を10 nM E2で24時間刺激した後、抗ERAP1抗体による免疫沈降によって結合を調べたところ、内在性ERAP1と内在性PKAとの結合が認められた(図30E)。また、多くのAKAPタンパク質において結合が同定されているPKBについても同様に検討したところ、内在性ERAP1と内在性PKBの結合も確認された(図30E)。次に、siRNA法によりPKA、PKBをそれぞれ発現抑制した際のPP1αホスファターゼ活性に与える影響を調べたところ、E2依存性のホスファターゼ活性の亢進の有意な抑制が確認された(図31A)。 続いて、ERAP1とPHB2/REAのリン酸化状態を検討した。コントロールであるsiEGFPをトランスフェクトした細胞では、E2処理によりERAP1のセリン、スレオニン残基のリン酸化が認められ、さらにERAP1-peptide処理した細胞では、PHB2/REAのSer39のリン酸化が認められた。一方、PKAを発現抑制した細胞では、ERAP1のセリン残基のリン酸化の消失がERAP1-peptide処理の有無に関係なく認められ、さらにE2処理後のPHB2/REAのser39のリン酸化も確認された(図31B)。また、PKBを発現抑制した細胞においては、ERAP1のセリン残基のリン酸化に関しては変化が認められなかったが、スレオニン残基に関してリン酸化の顕著な減少が認められた。一方、E2処理によりPHB2/REAのSer39のリン酸化が回復を示したが、ERAP1のセリン、スレオニン残基のリン酸化にはほとんど影響がなかった(図31B)。次に、PKA阻害剤であるH-89化合物によるPKA活性阻害がERAP1とPHB2/REAのリン酸化に与える影響についても検討した。MCF-7細胞をH-89で処理後にERAP1とPHB2/REAのリン酸化を調べた結果、ERAP1のセリンおよびチロシン残基のリン酸化は、0.5μMで顕著な減少象を認め、またスレオニン残基のリン酸化についても容量依存的に減少認めた(図31C)。それに対して、PHB2/REAのSer39のリン酸化についてはH-89未処理の細胞では、ERAP1-peptide処理した時のみ認められたが、E2刺激ありのH-89処理した細胞では顕著な回復が認められた(図31C)。非常に興味深いことに、ERAP1-peptide投与したことにより、ERAP1とPHB2/REAの結合が阻害された場合においては、Ser39リン酸化のH-89容量依存的な減少が認められ、特に、20μM H-89処理した細胞では、そのリン酸化の完全な消失が認められた(図31C)。この結果は、H-89の非特異的なリン酸化阻害の可能性を示している。
【0275】
次に PKA阻害の特異性を検討するために、siRNAによるPKAの特異的発現抑制とH-89処理によるERAP1のセリン・リン酸化およびPHB2/REA(S39)のリン酸化に与える影響の比較を行った。siRNA法によりPKAを発現抑制したMCF-7細胞またはH-89処理したMCF-7細胞を用いて調べた結果、siPKAをトランスフェクトした細胞では、E2刺激の有無にかかわらず、ERAP1のセリン残基のリン酸化が全く認められなかった。一方、H-89処理細胞では、低濃度においてE2処理後にERAP1のリン酸化の回復が検出されるのに対して、H-89の容量増加に伴い、そのリン酸化の消失が確認された(図31D)。また、PHB2/REAのリン酸化については、siPKA処理細胞ではE2処理した時にその回復が認められた。それに対して、H-89処理細胞においては、低濃度の際にはsiPKA処理と同様にリン酸化の回復が確認されたが、H-89の容量増加に伴い、PHB2/REAのSer39リン酸化についても減少した(図31D)。H-89は、これまでにPKA以外のキナーゼにも作用することが報告されており(Science signaling 1, re4,2008)、今回の結果もPKA以外の非特異的なキナーゼ阻害による可能性が示唆された。次に、PP1αの阻害剤であるオカダ酸処理によるPHB2/REAのリン酸化およびAkt, MAPKのリン酸化への影響を調べた。MCF-7細胞にてPHB2/REAのSer39リン酸化は、オカダ酸のPP1αのIC50値である20nMで処理した際にE2依存性のPHB2/REAのリン酸化の回復が認められたが、40nMではそのリン酸化の減弱が確認された(図31E)。この現象も、オカダ酸のPP1α以外の非特異的な活性阻害による可能性が示唆される。
次に、PHB2/REAをリン酸化するキナーゼの同定を試みた。上述の結果から、40nMオカダ酸処理によりPHB2/REAのリン酸化の消失が確認されたこと、および、オカダ酸はPKC活性を阻害することが報告されていたこと、さらに、PHB2/REAのSer39近傍の配列がPKA、PKCαに関しても高度に保存されていたこと、PKCαが乳癌で高発現していることから、PHB2/REAをリン酸化するキナーゼとして、PKCαを候補として以下の実験を行った。siRNA法によりPKCαを発現抑制したMCF-7細胞をE2およびERAP1-peptideで処理後に、細胞質画分と核画分に分画してイムノブロット解析を行った。その結果、E2およびERAP1-peptide処理した細胞の核内および細胞質において、PHB2/REAのSer39のリン酸化の顕著な減少が認められた(図31F)。以上より、PKCαがREA(S39)をリン酸化する可能性が示唆された。以上の結果より、PKAはERAP1のセリン残基をリン酸化し、その結果、PP1αのホスファターゼ活性を亢進することによって、PP1α-ERAP1複合体に結合するPHB2/REAのSer39が脱リン酸化されることが示唆された。
【0276】
PP1αがERαの標的遺伝子であるかの検討
PP1αがERAP1の触媒ユニットとしての機能をもつことから、乳癌細胞において、ERAP1と同様にPP1αもERα標的遺伝子の1つではないかとの仮説をたてて、以下の実験を行った。ER陽性細胞株であるMCF-7細胞、ZR-75-1 細胞、T47D細胞およびBT-474細胞において、E2にて24時間刺激後のPP1αのタンパク質レベルおよびmRNAレベル発現をウェスタンブロットおよびリアルタイムPCRにより調べた(図32A, B)。その結果、タンパク質レベル(図32A)およびmRNAレベル(図32B)共に、すべての細胞株おいてE2依存的なPP1αの発現亢進を認めた。次に、PP1α遺伝子(PPP1CA)上にERE(estrogen responsible element、E2応答性配列:AGGTCAnnnTGACCT)が存在するかをGenomatixソフトウェア(Genomatix Software, Munchen, Germany)によって検索したところ、3箇所にて保存されたERE配列を確認した(図32C)。次に、ERαがこの予測ERE配列に直接結合するかどうかをERα抗体を用いたクロマチン免疫沈降法(ChIP法)にて調べた。その結果、翻訳開始点から-726から-704を含む領域と+1936から+1959を含む領域にて結合が認められた(図32D)が、+1851から+1873の領域では結合は認められなかった(図32D)。この予測された-726から-704を含む領域を5'-EREコンストラクトと、5'-EREと+1936から+1959の領域のタンデムからなる発現ベクターコンストラクト(5'-ERE and intron2 ERE)コンストラクトをそれぞれ作製し、ルシフェラーゼレポーター活性調べた(図32E)。その結果、5'-EREコンストラクトを導入した細胞では、コントロールに比して3倍の亢進を認め、さらに5'-ERE and intron2 EREコンストラクトでは5倍の亢進を認めた。以上より、PP1αはERAP1と同様に、ERαの標的遺伝子の1つであり、E2依存的にERαの活性化が誘導されるとその発現が亢進される、正のフィードバック機構により制御されていることが示唆された。
【0277】
ERAP1-peptide処理がエストロゲン刺激によるタンパク質および遺伝子発現亢進に及ぼす影響
これまでの結果から、ERAP1-peptideは、ER陽性細胞においてE2依存性のERゲノム的活性化経路と非ゲノム的活性化経路を抑制することを証明した。しかし、これまでは既知のER活性化経路への影響に関してのみを着目していたが、ゲノムワイドにどのような遺伝子、タンパク質の発現に影響するかは不明であった。そこで、E2およびERAP1-peptide投与後のMCF-7細胞において、mRNAおよびタンパク質の発現をマイクロアレイ・プロテオーム解析にて調べた。MCF-7細胞をERAP1-peptideまたはERAP1-scramble-peptide(scrPeptide)で処理し、当該処理1時間後の細胞を回収し、実験に供試した。その結果、興味深いことに、ERAP1-pepitde投与により、E2またはE2+ ERAP1-scramble-peptide投与時の発現変動に比較して、多くのタンパク質(図33A)およびmRNA(図33B)の有意な減少がゲノムワイドに認められた。さらに、表1に示すとおり、ERAP1-peptide処理後わずか1時間で、既知のエストロゲン応答遺伝子やER標的遺伝子をはじめ、これまでに報告ない多くの遺伝子の発現が抑制されており、これらの遺伝子の機能は多岐に渡っていることがわかった(表1および表2)。以上の結果から、PHB2/REAの抑制機能を誘導できるERAP1-peptide投与は、既知のE2シグナル経路に加えて、未知のE2シグナル経路も抑制することがわかった。
【0278】
【表1】
【0279】
表1は、ERAP1-peptide処理により発現抑制されたエストロゲン依存性の遺伝子を示す。0時間と比較してエストロゲン刺激により強く発現亢進し、ERAP1-peptideにより抑制された遺伝子の上位100個を列挙した。
【0280】
【表2】
【0281】
表2は、ERAP1-peptide処理により発現抑制されたエストロゲン依存性遺伝子のGO解析を示す。0時間と比較してエストロゲン刺激により強く発現亢進し、ERAP1-peptideにより抑制された遺伝子をGO解析した。データはフィッシャー正確確率検定により統計処理した。
【0282】
ERAP1-peptideのPHB2/REAへの特異的結合の検討
実施例1において、PHB2/REAにERAP1-peptideが特異的に結合することを証明したが、本実施例では、両者の相互作用について生化学的な指標としてKd(解離速度定数)値を求めた。はじめに、ビアコアによりERAP1-peptideとPHB2/REAの結合を調べた。6xHisタグ化組換えPHB2/REAタンパク質をセンサーチップに固定化した後、図34Aに示した濃度のHAタグ化ERAP1- peptide を反応させ、センサーグラムのカーブからKd値を算出した。その結果、ERAP1-peptideのKd値は、18.9μMであった(図34A)。次に、蛍光相互相関分光法において、PHB2/REAのKd値を測定した。10 nMのFITCタグ化ERAP1-peptideおよびFITCタグ化ERAP1-scramble peptide(scrPeptide)、6xHisタグ化組換えPHB2/REAタンパク質を1時間反応後、FITC蛍光を測定した。その結果、PHB2/REAリコンビナントタンパク質のKd値は14.4μMであった(図34B)。
【0283】
抗ERAP1モノクローナル抗体の作製
抗ERAP1モノクローナル抗体の作製を行った。まず、抗ERAP1精製モノクローナル抗体の特異性の確認を行った。siRNA法によりERAP1の発現を抑制したMCF-7細胞を用いて、抗ERAP1精製抗体を用いてイムノブロット解析を行った。その結果、抗ERAP1精製抗体は非特異的なバンドを認めず、ERAP1特異的なバンドを検出した(図35A)。続いて、抗ERAP1精製抗体が免疫沈降が可能かどうかを調べた。MCF-7細胞(M)およびT47D細胞(T)の溶解物を抗ERAP1精製抗体で免疫沈降したところ、結合蛋白質であるPHB2/REAの共沈を認めた(図35B)。以上より、今回樹立した抗ERAP1モノクローナル抗体はERAP1を特異的に認識し、免疫沈降可能であることがわかった。
【0284】
抗リン酸化PHB2/REA(S39)抗体の作成
PHB2/REAのSer39を特異的に認識するポリクローナル抗体の作製を行った。作製した抗リン酸化PHB2/REA(S39)抗体により、ER陽性乳癌細胞株MCF-7にて、E2処理後、ERAP1-peptide投与した時にのみ、PHB2/REAのSer39のリン酸化を検出した(図36)。以上の結果より、PHB2/REAはERAP1と結合している際には、そのSer39のリン酸化は脱リン酸化されており、ERAP1-peptideによりその結合が阻害され、ERAP1から遊離するとPHB2/REAはSer39にてリン酸化されることが示唆された。
【0285】
ERAP1-peptideの安定性と細胞内E2に及ぼす影響
ERAP1-peptideの安定性と細胞内E2に及ぼす影響を検討した。はじめに、MCF-7細胞を E2とHAタグ化ERAP1-peptide で処理後、イムノブロット解析を行った。その結果、投与後24時間では平均84%であり、30、36、48時間では、それぞれ56%、58%、54%であり、概ねERAP1-peptideの半減期は30時間程度であることがわかった(図37A)。次に、ERAP1-peptideが細胞内E2濃度に及ぼす影響を検討した。MCF-7細胞を10 nM E2と10μM ERAP1-peptide で処理後、経時的に細胞溶解物を回収し、細胞内E2濃度を測定した。その結果、投与後6時間にて約10nMと最大値を示し、48時間後ではその約80%であった(図37B)。
【0286】
PHB2/REAとの結合におけるERAP1の特定のアミノ酸の関与
実施例1では、ERAP1のQ165、D169およびQ173の3つアミノ酸がPHB2/REAとの結合に重要であることを示したが、これら3つのアミノ酸のうち、どのアミノ酸が最も結合に重要であるかを検討した。COS-7細胞にPHB2/REAコンストラクトとERAP1-WT正常型(1-434aa)、Q165、D169およびQ173のアラニン変異体(Mutant)、Q165のアラニン変異体(Q165A)、D169のアラニン変異体(D169A)、Q173のアラニン変異体(Q173A)、Q165およびD169のアラニン変異体(Q165A, D169A)のいずれかをトランスフェクト後48時間にて、細胞を回収し、免疫沈降-イムノブロット解析を行った。その結果、D169変異体コンストラクトを用いた実験が最もPHB2/REAとの結合阻害が認められ(抗FLAG抗体によるIPにて22%、抗HA抗体IPにて0%)、またQ165変異体コンストラクトを用いた時が次に結合阻害が認められた(抗FLAG抗体によるIPにて60%、抗HA抗体IPにて24%)(図38A)。続いて、この結果を検証するために、Q165およびD169のアラニン変異体(Q165A, D169A)を用いて、同様の実験を行ったところ、すべてのアミノ酸をAlaに変異したコンストラクトを使用した場合と比べて、同等程度の結合阻害が確認された(Mutant:Q165A,D169A=2%:12%)(図38B)。以上より、これら3アミノ酸のうち、PHB2/REAとの結合に重要なアミノ酸の順位は、D169>Q165>Q173であり、D169とQ165でこの結合の90%を占めることがわかった。
【0287】
PKAとPKBによるERAP1のリン酸化がPP1α活性の制御を介してPHB2/REA(S39)リン酸化に及ぼす影響(KPL-3C細胞)
次に、上述のMCF-7細胞と同様に、ERα陽性乳癌細胞株KPL-3CにおけるERAP1とPHB2/REAのリン酸化状態についても検討した。はじめに、siRNAによりERAP1またはPP1α発現を抑制したKPL-3C細胞をE2で24時間刺激後に、抗ERAP1抗体または抗PHB2/REA抗体を用いてERAP1、PHB2/REAを免疫沈降し、イムノブロット解析を行った。コントロールsiRNAをトランスフェクトした細胞では、E2処理によりERAP1のセリン、スレオニン残基のリン酸化、およびPHB2/REAのSer39の脱リン酸化が認められたのに対して、PP1αを発現抑制した細胞では、ERAP1のセリン、スレオニン残基のリン酸化には影響がなかったが、E2処理後のPHB2/REAのSer39のリン酸化の回復が確認された(図39A)。次に、siRNAにてPKAを発現抑制したKPL-3C細胞においては、ERAP1のセリン残基のリン酸化の消失が認められたが、PHB2/REAのSer39のセリン残基のリン酸化の回復が認められた(図39B)。一方、PKBを発現抑制した時には、ERAP1のセリン残基、スレオニン残基のリン酸化には影響が認められなかったが、PHB2/REAのSer39のリン酸化の回復は、PKAの発現抑制と同様に認められた(図39B)。続いて、KPL-3C細胞において、siRNAによるPP1α、PKA、PKBまたはERAP1の発現抑制がPP1αのホスファターゼ活性に与える影響についても検討した。その結果、ERAP1の発現を抑制するとE2の有無にかかわらず、PP1αのホスファターゼ活性の亢進が確認された。一方、PP1α、PKAおよびPKBのそれぞれを発現抑制することでPP1αのホスファターゼ活性の減弱が認められた。以上の結果より、ER陽性乳癌細胞株KPL-3CにおいてもMCF-7細胞と同様に、ERAP1は、PKAによるセリン残基リン酸化を通じて、PP1αのホスファターゼ活性の亢進を促進し、その結果、PHB2/REAのSer39の脱リン酸化が引き起こされることが示唆された。
【0288】
ERAP1-peptideによるERα陰性乳癌細胞株の増殖抑制
ERα陰性乳癌細胞株におけるERAP1-peptideの増殖抑制効果について検討を行った。ERα陰性乳癌細胞株SK-BR-3細胞をERAP1-peptideまたはERAP1-scramble peptide(scrPeptide)で処理し、処理後24時間および48時間において、細胞増殖に与える影響を調べた。その結果、ER陽性細胞株でのERAP1-peptideの抑制効果に比較して、効果の程度は低いが、処理後、24時間および48時間後ともに、ERAP1-peptide容量依存的な細胞増殖抑制効果が認められた(図40)。以上より、ER陰性、ERAP1陽性乳癌においてもERAP1-peptideによる増殖抑制効果が認められた。
【0289】
ERAP1を介して誘導されるE2刺激によるミトコンドリア内ROS産生の検討
ER陽性乳癌細胞株MCF-7細胞にて、ERAP1の局在の検討を行った。実施例1 において、乳癌細胞における内在性ERAP1は、主に細胞質に局在することが示されたが、ミトコンドリアへの局在も認められた。また、ERAP1の結合タンパク質であるPHB2/REAもミトコンドリアに局在することが認められることから、ERAP1のミトコンドリアでの機能について着目した。まずは、ERAP1およびPHB2/REAの局在について検討した。MCF-7細胞をE2およびERAP1-peptideで処理し、比重遠心により細胞をミトコンドリア画分(M)、細胞質画分(C)および核画分(N)に分画し、イムノブロット解析を行った。その結果、ERAP1は、細胞質とミトコンドリア分画にて、高い局在を認めた。一方、PHB2/REAも同様にミトコンドリアに局在し、ERAP1-peptideを投与すると核へ移行することがわかった(図41A)。続いて、ERAP1とPHB2/REAのミトコンドリアにおける役割を考える上で、ERAP1を介したミトコンドリア内ROS(reactive oxygen species)産生について検討した。MCF-7細胞、ERAP1を発現抑制したMCF-7細、およびHCC1395細胞をDHR123で15分間処理後、10μM ERAP1-peptideおよび E2で24時間刺激し、フローサイトメトリーにより解析した。その結果、MCF-7細胞において、コントロールsiRNAをトランスフェクトした細胞ではERAP1-peptide投与によって、顕著なROSの発生抑制が観察された。しかし、ERAP1を発現抑制した細胞では、ERAP1-peptideを投与してもROSの発生には影響を認めなかった。また、ER陽性・ERAP1陰性乳癌細胞株(HCC1395細胞)をポジティブコントロールとして観察を行ったが、全く有意な検出はできなかった(図41B)。 以上のことから、乳癌細胞のミトコンドリアにおいてE2刺激によるミトコンドリア内ROS産生はERAP1を介して誘導され、またERAP1-peptideによって抑制されることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0290】
本発明によって提供された、ERAP1ペプチドは、癌の治療に有用である。より具体的には、本発明のペプチドには、エストロゲン受容体陽性であって、ERAP1ポリペプチドを発現している癌において、新しいメカニズムによる治療効果を期待できる。本発明のERAP1ペプチドは、特にエストロゲン受容体陽性の癌に特異的に高発現するタンパク質であるERAP1を標的としているため、副作用が少ないことが期待される。また、本発明のペプチドはタモキシフェン耐性乳癌においても、治療効果が期待される。また、本発明のERAP1ペプチドは、自身が癌細胞の増殖を抑制することに加え、ホルモン療法剤や化学療法剤の治療効果を増強する作用を有する。したがって、本発明のERAP1ペプチドを、他のホルモン療法剤や化学療法剤と組み合わせて用いることによって、より効果的な癌治療が期待できる。本発明はまた、ERAP1ポリペプチドとPP1αポリペプチド、PKAポリペプチド又はPKBポリペプチドとの結合阻害を指標として用いる、癌を治療及び/又は予防するための薬物候補に関するスクリーニング方法を提供することにより、新規な癌治療戦略の開発に寄与しうる。
図1-1】
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]