(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の金属複合水素透過膜は、ガラスやプラスチック板等の仮支持担体の下塗り層表面に予め水素透過金属膜を被覆形成して、その後この水素透過金属膜を補強支持するために水素透過金属膜上に別種の金属膜を多孔状に被覆形成して多孔質金属膜で被覆補強して、さらに下塗り層を溶解して仮支持担体を取り外す、逆ビルドアップ法により作成されるが、水素透過金属膜上に施す金属補強支持体としてNiを用いた場合、この従来技術ではNi支持体層の多孔質化が困難であり、水素透過量を増大できないという課題がある。
【0006】
また、燃料改質装置等に使用される金属複合水素透過膜は、高温(例えば、500℃以上)で使用されることがある。高温条件下で水素透過処理を行うと、Ni支持体層と水素透過金属膜との間で金属拡散が進行する場合がある。
図1は、水素透過金属膜としてPd−Cu合金膜を用いた場合の金属複合水素膜の組成分布を示す模式図である。
図1(a)は水素透過処理前の組成分布を模式的に示すグラフであり、
図1(b)は水素透過処理後の組成分布を模式的に示すグラフである。
図1に示されるように、高温条件下で水素透過処理を行うと、Pd‐Cu合金膜とNi支持体層との間で金属拡散が進行し、その界面に、Pd、Cu、及びNiが混在する層が形成される。このような層が形成されると、水素透過性を低下し、初期性能の維持が困難になる。
【0007】
本発明は、従来技術の前記課題を解決するためになされたもので、多孔質金属補強支持体にNiを用いる場合、めっき浴中に特定の有機物質を添加することによりNi支持体層の多孔質化を可能とし、ガス透過性に優れ、かつ強度を確保できるめっき皮膜を有する金属複合水素透過膜とその製造方法を提案しようとするものである。
また、本発明の他の課題は、水素透過金属膜とNi支持体層との間の金属相互拡散を防止することができる、金属複合水素透過膜とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、逆ビルドアップ法により作成される金属複合水素透過膜に関して、Ni支持体層の多孔質化を可能とし、ガス透過性に優れ、かつ強度を確保できるめっき皮膜を有する金属複合水素透過膜を得る手段について種々研究を重ねた結果、Ni支持体層の多孔質化のためにはNiめっき浴中に特定の有機物質、即ち、界面活性剤を添加することが有効であることを知見し、特に、イオン性のもので、金属との吸着性が強い性質の界面活性剤を適度な濃度でNiめっき浴中に添加することにより、Ni支持体層の多孔質化が可能であることを見出した。
また、本発明者らは、CrやW等を含有する拡散防止層を水素透過金属膜とNi支持体層との間に設けることにより、水素透過金属膜とNi支持体層との間の金属拡散が抑制され、それによって水素透過性の低下を防止できることを見出した。
即ち、本発明に係る金属複合水素透過膜は、多孔質金属補強支持体にNiを用いた逆ビルドアップ法により作成される金属複合水素透過膜であって、水素透過金属膜上に、めっき浴中に添加された界面活性剤を共析させためっき皮膜を熱処理(高温加熱処理)して皮膜中界面活性剤のみを燃焼除去して得られた、めっき皮膜中に膜厚方向に貫通した空孔を有する多孔質化したNiめっき皮膜から成る多孔質Ni支持体層を有し、かつ、水素透過金属膜と多孔質Ni支持体層との間に拡散防止層が設けられていることを特徴とするものである。
又、本発明に係る金属複合水素透過膜の製造方法は、多孔質金属補強支持体にNiを用いた逆ビルドアップ法により作成される金属複合水素透過膜の製造方法において、仮支持担体の一表面上に設けた可溶性下塗り層上に水素透過金属膜であるPd及びPd−Ag合金膜あるいはPd及びPd−Cu合金膜等の合金層を形成した後、水素透過金属膜上に拡散防止層を形成し、該拡散防止層上に金属補強支持体としてNiめっきを施す工程において、界面活性剤を添加しためっき浴を調製し、直流あるいはパルス電解法を用い析出初期において前記界面活性剤を下地材料に分散吸着させ、得られためっき皮膜を電気炉等で熱処理することにより皮膜中の界面活性剤を焼散させて多孔質化したNiめっき皮膜を得ることを特徴とするものである。
ここで、Niめっき浴中の界面活性剤の種類と濃度、めっき皮膜成膜時の浴温及びパルス電解条件、めっき皮膜中の界面活性剤を焼散させるための熱処理条件(高温加熱処理条件)は、水素透過性に優れ、かつ強度が確保できるめっき皮膜が得られるように適正に設定する。
【発明の効果】
【0009】
上記したように、本発明の金属複合水素透過膜は、特許文献1に記載の従来の金属複合水素透過膜に比較してNiめっき皮膜が多孔質化されていることにより、単位面積あたりの水素透過量の増大がはかられ、水素透過性能が格段に優れかつ水素透過時の加圧力にも耐え得る強度を有するという、優れた効果を奏するものである。又、本発明の金属複合水素透過膜の製造方法によれば、Niめっき浴中有機添加剤、即ち、イオン性のもので、金属との吸着性が強い性質の界面活性剤を適正な濃度で添加し、かつめっき皮膜成膜時の浴温及びパルス電解条件、めっき皮膜中の界面活性剤を焼散させるための熱処理条件(高温加熱処理条件)等を適正に選択することにより、多孔質かつ高温強度の優れた水素透過膜用Ni支持体を得ることができるので、この水素透過性能の優れた金属複合水素透過膜を用いた燃料改質器によってより効率的に水素分離が可能となり、高効率・高純度水素製造に大きく寄与する。
加えて、本発明によれば、水素透過金属膜と多孔質Niめっき皮膜との間に拡散防止膜が設けられているため、水素透過金属膜とNi支持体層との間の金属相互拡散が防止され、水素透過性の低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の金属複合水素透過膜は、前記したように多孔質金属補強支持体にNiを用いた逆ビルドアップ法により作成される金属複合水素透過金属膜であって、めっき浴中に添加された界面活性剤を共析させためっき皮膜を熱処理(高温加熱処理)して皮膜中界面活性剤のみを燃焼除去して得られた、膜厚方向に貫通した空孔を有する多孔質化したNiめっき皮膜を備えたものである。具体的には、例えばPd及びPd−Ag合金膜あるいはPd及びPd−Cu合金膜(水素透過金属膜)と、多孔質化したNi支持体層と、水素透過金属膜とNi支持体層との間に設けられた拡散防止層とを含み、Ni支持体層において、界面活性剤が燃焼除去されて生じた貫通孔がガス(水素)通過路となることを特徴とするものである。なお、本発明においては、水素透過膜用の多孔質金属支持体を湿式めっきで作成することを前提とした場合、ベース金属としては低応力、高硬度、高温での相転移、コスト等を考慮し、多孔質金属支持体にNiを選定した。しかしながら本発明の方法は一般性があり、Ni以外のメッキ用金属にも適用でき、多孔質金属支持体の材質はNiに限定するものではない。
【0012】
又、本発明の金属複合水素透過膜の製造方法は、前記したようにNi支持体層の多孔質化のため、めっき浴に特定の有機物質、即ち界面活性剤を添加し、粗であり、かつ当該界面活性剤を複合させためっき皮膜を作成し、高温加熱により皮膜中含有界面活性剤のみを燃焼除去させて多孔質化したNiめっき皮膜を得ることを特徴とするものである。
ここで、Ni支持体層の多孔質化のために界面活性剤を採用したのは、以下に記載する理由による。
即ち、界面活性剤はNiに優先して素地表面に吸着し、Niの析出を阻害する成分であり、特にイオン性のもので、金属との吸着性が強い性質のものを適度な濃度で使用することにより、Niの析出を抑制しNiめっき皮膜を粗にさせることができるとともに、ある熱処理条件で高温加熱処理することにより、Ni皮膜中に共析した界面活性剤が燃焼除去されて、その痕跡として素地から表面まで貫通した空孔となることが確認されたことによる。
【0013】
また、本発明によれば、水素透過金属膜とNi支持体層との間に拡散防止層が設けられる。拡散防止層としては、水素透過金属膜とNi支持体層との間の金属拡散を防止できる層であれば特に限定されないが、好ましくはCr又はWを含有する層が用いられ、特に好ましくはCrを含有する層が用いられ、更に好ましくはCrだけからなる層が用いられる。拡散防止層は、複数の金属を含む層であってもよい。Crは、Niよりも、水素透過金属膜に含まれる金属との間で相互拡散を起こしにくい金属である。例えば、300℃におけるCuとNiとの間の拡散係数は、3.0×10
-13(cm
2s
-1)であるのに対し、CuとCrとの間の拡散係数は、4.2×10
-17(cm
2s
-1)である(S.I.Sidorenko, et al., Defect and Diffusion Forum Vol. 156, pp215−222 (1998)による)。従って、Crを含有する拡散防止層を設けることにより、高温条件下で水素透過処理を行った場合であっても、金属の拡散が防止でき、水素透過性の低下を抑制できる。
【0014】
上記した本発明の多孔質Ni支持体からなる金属複合水素透過膜の製造方法の一実施例を
図2A〜
図2Eに基づいて説明する。
本発明の金属複合水素透過膜の作成に用いる逆ビルドアップ法は、
図2Aに示すように、第1の工程で、仮支持担体4となるガラス板(プラスチック板に代えることもできる)の片面に下塗り層5としての可溶性の膜(樹脂層)を形成する。なお、仮支持担体4は、後述する多孔質Ni支持体層3が形成された後に、下塗り層5を適切な有機溶液により溶解させて、水素透過金属膜である合金層2から取り除かれるものである。
次に、第2の工程で、
図2Bに示すように、仮支持担体4の下塗り層5の面上に、例えば、水素透過金属膜であるPd及びPd−Ag合金あるいはPd及びPd−Cu合金等の薄膜からなる合金層2をスパッタ法等を用いて形成する。このPd及びPd−Ag合金あるいはPd及びPd−Cu合金等の薄膜が水素透過金属膜として作用する。なお、スパッタ法は、特に極薄の膜を形成することが可能であることから、膜厚10nm〜5μmの範囲の極薄の均一な膜の形成も可能である。又、スパッタ法は、仮支持担体4から水素透過金属膜であるPd及びPd−Ag合金あるいはPd及びPd−Cu合金等の合金層2を容易に剥離することができる。
続いて、第3の工程で、
図2Cに示すように、合金層2上に拡散防止層6を形成する。拡散防止層6は、例えばスパッタリング、めっき等により形成することができる。
続いて、第4の工程で、
図2Dに示すように、拡散防止層6の上に、電解めっき法によりNiからなる多孔質Ni支持体層3を形成する。その際、本発明では、Ni支持体層3の多孔質化をはかるため、界面活性剤を適切な濃度で添加しためっき浴を調整する。界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えばアニオン系界面活性剤を使用することができる。この界面活性剤を添加しためっき工程では、析出初期において界面活性剤を下地材料である拡散防止層6に分散吸着させ、又、めっき中においても共析を促すために、例えばパルス電解方法を用いる。
さらに、第5の工程で、
図2Eに示すように、下塗り層5を適切な有機溶液により溶解させて、仮支持担体4から、合金層2、拡散防止層6、及びNi支持体層3の積層体を取り外す。なお、下塗り層5を溶解させる有機溶液としては、アセトン、メタノール、エタノール、トルエン、メチレンクロライド、脂肪族溶液等が挙げられる。さらに、仮支持担体4から本発明の積層体を取り外す方法としては、光反応を利用して溶かす方法、化学的に溶解する方法があり、光反応を利用して下塗り層5を分解・除去する方法としては、仮支持担体4側から下塗り層5に光を当ててN
2ガスやCO
2ガス等を発生させる光化学反応、例えばキノンジアジド化合物を利用して剥離することも可能である。
続いて、第6の工程で、取り外した積層体を例えば電気炉にて、大気中、あるいは水素などの還元雰囲気中、もしくは窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中で、高温加熱(高温加熱条件としては、例えば500℃×30分)して、Ni支持体層3中の界面活性剤を燃焼除去することにより、その痕跡として素地から表面まで貫通した空孔を有する多孔質化したNi支持体層3を得る。尚、第6の工程は仮支持担体4から積層体を取り外す工程(第5の工程)の前に実施されてもよい。
【0015】
尚、第2の工程において形成される水素透過金属膜の膜厚は0.01μm〜100μmであることが好ましく、0.5μm〜10μmであることがより好ましく、0.5μm〜6μmであることが更に好ましい。水素透過金属膜の膜厚が大きすぎると水素透過性能が低下し、製造コストも上昇する。一方、水素透過金属膜の膜厚が小さすぎると、ピンホールによるガスのリークが発生しやすくなる。また所望する強度も得られにくくなる。
また、第3の工程において形成される拡散防止層6の厚さは、0.01μm〜5.0μmであることが好ましく、0.01μm〜1.0μmであることがより好ましく、0.01μm〜0.2μmであることが更に好ましい。拡散防止層6の厚みが大きすぎると、水素透過が困難となり、小さすぎると拡散防止が困難となる。
また、第4の工程において形成される多孔質Ni支持体層3の厚さは、0.1μm〜100μmであることが好ましく、1μm〜10μmであることがより好ましく、2μm〜5μmであることが更に好ましい。多孔質Ni支持体層3の厚さが大きすぎると、多孔質化が困難になり、加工難易度が上昇し、製造コストが上昇しやすくなる。一方、多孔質Ni支持体層3の厚さが小さすぎると、強度不足になりやすい。
また、第6の工程において、界面活性剤を除去するための加熱処理の温度は、界面活性剤が燃焼除去されるような温度であればよいが、例えば350℃〜900℃である。加熱時間は、例えば、10分〜120分である。加熱温度が高すぎると、量産加工時におけるコストが上昇しやすくなる。また、水素透過金属膜と多孔質Ni支持体層3との間で相互拡散層が形成しやすくなり、その結果、水素透過膜ユニットとしての性能が低下しやすくなる。一方、加熱処理温度が低すぎる場合、多孔質化が発現しにくくなる。また、加熱時間が長すぎると、相互拡散層の形成による水素透過膜ユニットとしての性能低下が起こりやすくなり、短すぎると多孔質化が発現しにくくなる。
【0016】
図3A及び
図3Bは仮支持担体4から取り外した本発明の金属複合水素透過膜1の断面を従来の金属複合水素透過膜と比較して模式的に示したもので、界面活性剤を使用しない電気めっき法による従来の製造方法によるものは、
図3Bに示すようにNi支持体層3´の多孔質化が不十分である金属複合水素透過膜1´であるのに対し、界面活性剤を適切な濃度で添加しためっき浴を用いた電気めっき法による本発明の製造方法によれば、
図3Aに示すように素地から表面まで貫通したガス通過路となる空孔3−1を有する十分に多孔質化したNi支持体層3を有する金属複合水素透過膜1が得られる。
【0017】
また、
図4は、本発明に係る金属複合水素透過膜における、水素透過金属膜とNi支持体層との界面部分の組成分布を模式的に示す図である。
図4には、金属複合水素透過膜としてPd‐Cu合金を用いた場合の例が示されている。
図4に示されるように、Crを含有する拡散防止層を設けることにより、
図1(b)に示したような水素透過金属膜の金属(Pd、Cu)とNiとが混在した層が形成されることが防止される。その結果、高温条件下で水素透過処理を行った場合であっても、水素透過性の低下を抑制することができる。
【0018】
[めっき浴及びめっき条件]
続いて、第3の工程で使用されるめっき浴について詳細に説明する。本発明で使用されるめっき浴は、ニッケル塩及び界面活性剤を含む。
ニッケル塩は、ニッケルイオンの供給源として作用する。ニッケル塩としては、特に限定されるものではないが、スルファミン酸Ni、塩化Ni、硫酸Ni、及びクエン酸Niからなる群から選ばれる化合物が好ましく用いられる。これらの中でも、ニッケル塩は、スルファミン酸Niを含んでいることが好ましい。スルファミン酸Niを用いることにより、内部応力が低く、柔軟性が高い皮膜が得られる。
めっき浴中におけるニッケル塩の濃度は、100g/L〜800g/Lであることが好ましい。ニッケル塩の濃度が高すぎると、界面活性剤の飽和溶解濃度が低下し、多孔質化が困難になる。ニッケル塩の濃度が低すぎると、金属塩の濃度不足により限界電流密度が低下し、皮膜形成時に水素ガスが発生しやすくなり、下地膜に水素が吸蔵し、割れが発生しやすくなる。また粗でピンホールが多いNiめっき皮膜になりやすい。
【0019】
界面活性剤としては、上述のように特に限定されるものではないが、イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。イオン性界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。
アニオン系界面活性剤の好適な例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸塩、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、第2級アルカンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、更に、高級アルコールリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテルリン酸塩、脂肪酸石けん、不均化ロジン石けん、及びロート油からなる群から選ばれる化合物が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩、及びアルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選ばれる化合物がより好ましい。
また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩は、下記式1で表される、エチレンオキサイド含有化合物であることが好ましい。
(式1):R1−O−(CH
2CH
2O)
n−X
尚、式1中、R1はアルキル基を表し、好ましくは炭素数10〜16、より好ましくは炭素数12〜14のアルキル基を表す。Xは、硫酸塩又はカルボン酸塩を示す。nは、1〜20、好ましくは2〜12である。
また、アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、アルキル基の炭素数が8〜16である化合物が好ましく、より好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸塩である。
アニオン系界面活性剤の塩に使用される対イオンとしては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩などが挙げられ、これらの中でもアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩であることがより好ましい。
【0020】
めっき浴中の界面活性剤の濃度は、0.1mL/L〜100mL/Lであることが好ましく、1mL/L〜50mL/Lであることがより好ましく、5mL/L〜30mL/Lであることが更に好ましい。界面活性剤の濃度が高すぎると、めっき析出を阻害し、緻密な皮膜が得られ難くなる。一方、濃度が低すぎると、多孔質化が困難になる。
【0021】
めっき浴には、更に、pH調整剤、pH緩衝剤、応力緩和剤等の他の添加剤が添加されていてもよい。pH調整剤としては、例えば、硫酸、スルファミン酸、水酸化Ni等が用いられる。応力緩和剤としては、例えば、サッカリン等が用いられる。
【0022】
めっき浴のpHは、2.0〜4.5であることが好ましい。pHが高すぎると、限界電流密度が低下し、水素ガスが発生しやすくなり、下地膜に水素が吸蔵しやすくなる。また、Niめっき皮膜が、硬くて脆くなりやすい。一方、pHが低すぎると、めっき浴成分の分解が促進されやすくなる。
【0023】
めっき時におけるめっき浴の浴温は、40℃〜65℃であることが好ましい。浴温が高すぎると浴成分の分解が進行しやすくなる。一方、浴温が低すぎると界面活性剤が沈殿しやすくなる。また、Niが異常析出しやすくなる。
【0024】
既述のように、めっきは、直流電解でも可能であるが、パルス電解めっきにより行われることがより好ましい。この場合、平均電流密度は、1A/dm
2〜20A/dm
2であることが好ましい。平均電流密度が高すぎると、過剰に水素が発生し、下地膜に影響を与える場合がある。また、Niの異常析出を招く場合がある。一方、平均電流密度が低すぎると多孔質化が進行しにくくなり、生産性が低下する。
パルス電流密度は、2A/dm
2〜20A/dm
2であることが好ましい。パルス電流密度が高すぎると、過剰に水素が発生を伴い、下地膜に影響を与える場合がある。また、Niの異常析出を招くことがある。一方、パルス電流密度が低すぎると、多孔質化が進行しにくくり、生産性が低下する。
パルス印加時間tonとパルス休止時間toffとの比(ton/toff)は、0.1〜10であることがより好ましい。比(ton/toff)が大きすぎると多孔質化が困難になり、低すぎても多孔質化が困難になる。
パルス周波数は、0.1〜1000(Hz)であることが好ましい。パルス周波数が大きすぎると多孔質化が困難になり、低すぎても多孔質化が困難になる。
【0025】
[検討例]
以下、検討例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0026】
1;界面活性剤の有無の検討
(例1)
仮支持担体となるガラス板(サイズ:76×52mm)の片面に下塗り層として可溶性の樹脂層(5μm)を形成した。ついで、下塗り層の上に膜厚3.8μmのPd合金層をスパッタ法を用いて形成した。続いて、Pd合金層の上にNiからなる支持体層をスルファミン酸Niを用いた電解めっき法により形成した。その電解めっきは、浴組成として、スルファミン酸Ni600g/L、塩化Ni10g/L、ホウ酸40g/L、アニオン系界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)10mL/L、pH3.5、浴温60℃のめっき浴を用い、平均電流密度が5.9A/dm
2、比(ton/toff)が1.4の電解条件で行った。その後、下塗り層を有機溶液(アセトン)により溶解させて、仮支持担体であるガラス板から、合金層と支持体層との積層体(厚み約7.1μm)を取り外した。しかる後、この積層体を電気炉にて大気中で500℃×30分加熱した。このようにして得られた本発明の金属複合水素透過膜の断面写真(電子顕微鏡写真)を
図5Aに示す。この水素透過膜の断面は、走査型電子顕微鏡(SEM:倍率3000倍)観察による。
【0027】
(例2)
仮支持担体となるガラス板(サイズ:76×52mm)の片面に下塗り層として可溶性の樹脂層(5μm)を形成した。次いで、下塗り層の上に膜厚4μmのPd−Ag合金層をスパッタ法を用いて形成した。続いて、Pd−Ag合金層の上にNiからなる支持体層をスルファミン酸Niを用いた電解めっき法により形成した。
その電解めっきは、浴組成として、スルファミン酸Ni600g/L、塩化Ni10g/L、ホウ酸40g/L、アニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム)10mL/L、pH3.5、浴温40℃のめっき浴を用い、平均電流密度が5.9A/dm
2、比(ton/toff)が1.4の電解条件で行った。その後、下塗り層を有機溶液(アセトン)により溶解させて、仮支持担体であるガラス板から、合金層と支持体層との積層体(厚み約7.1μm)を取り外した。しかる後、この積層体を電気炉にて大気中で500℃×30分加熱した。
このようにして得られた本発明の金属複合水素透過膜の断面写真(電子顕微鏡写真)を
図5Bに示す。この水素透過膜の断面も、前記例1と同様の走査型電子顕微鏡(SEM:倍率3000倍)観察による。
【0028】
(例3)
仮支持担体となるガラス板(サイズ:76×52mm)の片面に下塗り層として可溶性の樹脂層(5μm)を形成した。仮支持担体であるガラス板の下塗り層の上に膜厚4.5μmのPd合金層をスパッタ法を用いて形成した。続いて、Pd合金層の上にNiからなる支持体層を硫酸Niを用いた電解めっき法により形成した。その電解めっきは、浴組成として、硫酸Ni350g/L、塩化Ni60g/L、クエン酸三ナトリウム30g/L、pH4.6、浴温60℃のめっき浴を用い、電流0.1Aの一定条件で行った。その後、下塗り層を有機溶液(アセトン)により溶解させて、仮支持担体であるガラス板から合金層とNi支持体層からなる金属複合水素透過膜(厚み約13.5μm)を取り外した。
このようにして得られた従来の金属複合水素透過膜の断面写真(電子顕微鏡写真)を
図5Cに示す。この水素透過膜の断面も、前記例1、2と同様の走査型電子顕微鏡(SEM:倍率3000倍)観察による。
【0029】
図5Cに示されるように、界面活性剤を含有しないめっき浴を用いた例3の金属複合水素透過膜1´は、Ni支持体層3´の多孔質化が不十分なものであった。これに対し、
図5A及び
図5Bに示されるように、界面活性剤を適切な濃度で添加しためっき浴を用いた例1及び2の金属複合水素透過膜は、素地から表面まで貫通したガス通過路となる空孔3−1(
図3A参照)を有する十分に多孔質化したNi支持体層3を有する金属複合水素透過膜1であることが明らかである。
【0030】
上記例1乃至3の金属複合水素透過膜の水素透過試験の結果を
図6に、例1及び2の水素選択率を
図7A及び
図7Bにそれぞれ示す。
図6、
図7A、及び
図7Bに示すデータより明らかなように、例1及び2の多孔質Ni支持体層を備えた金属複合水素透過膜は共に、500℃での水素選択率は99%以上を示し、水素分離膜として機能した。又、特に例1の水素透過係数(φ)[mol m
-2 s
-1 Pa
-0.5]は、例3の水素透過金属膜の2倍以上向上した。これらの結果より、界面活性剤を添加しためっき浴を用いてNi支持体層を形成することにより、Ni支持体層が多孔質化され、水素透過性能に優れた金属複合水素透過膜が得られることが理解される。
【0031】
2;拡散防止層の有無の検討
(例4)
スライドガラス(76mm×52mm)上に下塗り層として樹脂層を形成した。次いで、スパッタリングにより、下塗り層上に、水素透過金属膜として、Pd(60wt%)−Cu(40wt%)合金層を形成した。更に、スパッタリングにより、Pd−Cu合金層上に、拡散防止層として、Cr層(0.2μm)を形成した。続いて、電気メッキにより、拡散防止層上にNi支持体層(15μm)を形成した。その後、下塗り層である樹脂層を溶解し、水素透過金属膜、拡散防止層、及びNi支持体層からなる金属複合水素透過膜を、スライドガラスから剥離した。
(例5)
拡散防止層を設けなかった以外、例4と同様の条件を採用し、水素透過金属膜とNi支持体層からなる金属複合水素透過膜を得た。
【0032】
例4及び例5の金属複合水素透過膜のそれぞれについて、水素透過処理(500℃、200時間)を行い、水素透過処理の前後における組成分布を測定した。尚、組成分布は、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて、Pd、Cr、Ni、及びCu濃度を測定することにより、測定した。
【0033】
図8Aは、例5のEDX分析結果を示す図であり、
図8Bは、例4のEDX分析結果を示す図である。
図8A及び
図8Bにおいて、縦軸は、最大検出量を1として規格化した、各元素の特性X線の相対強度を示す。また、横軸は、Pd-Cu合金層とNi支持体層との境界からの距離L(μm)を表す。尚、境界は、Pd分布曲線とNi分布曲線の交点により求めた。各図において、「as deposited」は水素透過処理前の結果を示し、「500℃、200h」は水素透過処理後の結果を示している。
【0034】
図8Aに示されるように、拡散防止層が設けられていない例5の金属複合水素透過膜においては、水素透過処理の前後において組成分布に大きな変化が見られ、水素透過処理後に、水素透過金属膜(Pd‐Cu合金層)中でNiが検出され、Ni支持体層中でPd及びCuが検出された。すなわち、水素透過処理により、水素透過金属膜とNi支持体層との間で金属の相互拡散が進行したことが示された。
一方、
図8Bに示されるように、拡散防止層としてCr層を設けた例4の金属複合水素透過膜においては、水素透過処理の前後で各元素の組成分布に大きな変化は見られなかった。すなわち、Cr層を拡散防止層として用いることにより、金属の相互拡散を抑制できることが確認された。
【0035】
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕水素透過金属膜と、
界面活性剤を含有するめっき浴を用いた電解めっきによりNiめっき皮膜を形成し、前記Niめっき皮膜中の界面活性剤を燃焼除去することにより形成された、多孔質Niめっき皮膜と、
前記水素透過金属膜と前記多孔質Niめっき皮膜との間の界面に設けられた拡散防止層と、
を備える、
金属複合水素透過膜。
〔2〕前記拡散防止層が、Crを含有する層である
前記〔1〕に記載された金属複合水素透過膜。
〔3〕前記水素透過金属膜が、Pdを含有する膜である
前記〔1〕又は〔2〕に記載された金属複合水素透過膜。
〔4〕前記拡散防止層の厚みが、0.01μm〜5.0μmである
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載された金属複合水素透過膜。
〔5〕水素透過金属膜を形成する工程と、
前記水素透過金属膜上に拡散防止層を形成する工程と、
前記拡散防止層上に、界面活性剤を含有するめっき浴を用いた電解めっきにより、Niめっき皮膜を形成する工程と、
前記Niめっき皮膜を形成する工程の後に、前記Niめっき皮膜中の界面活性剤を燃焼除去する工程と、
を備える
金属複合水素透過膜の製造方法。
〔6〕前記拡散防止層が、Crを含有する層である
前記〔5〕に記載された金属複合水素透過膜の製造方法。
〔7〕前記水素透過金属膜を形成する工程は、仮支持担体上に下塗り層を介して前記水素透過金属膜を形成する工程を含み、
金属複合水素透過膜の製造方法は、更に、前記Niめっき皮膜を形成する工程の後に、前記下塗り層を除去する工程を含む
前記〔5〕又は〔6〕に記載された金属複合水素透過膜の製造方法。
〔8〕前記水素透過金属膜が、Pdを含有する膜である
前記〔5〕乃至〔7〕に記載された金属複合水素透過膜の製造方法。
〔9〕前記拡散防止層を形成する工程が、スパッタリング又はめっきにより実施される、
前記〔5〕乃至〔8〕のいずれかに記載された金属複合水素透過膜の製造方法。
〔10〕前記Niめっき皮膜を形成する工程が、パルス電解めっきにより行われる、
前記〔5〕乃至〔9〕のいずれかに記載された金属複合水素透過膜の製造方法。
〔11〕前記〔5〕乃至〔10〕のいずれかに記載された製造方法により製造された、金属複合水素透過膜。
【解決手段】金属複合水素透過膜は、水素透過金属膜と、界面活性剤を含有するめっき浴を用いた電解めっきにより形成された、多孔質Niめっき皮膜と、前記水素透過金属膜と前記多孔質Niめっき皮膜との間の界面に設けられた拡散防止層とを備える。