特許第6014954号(P6014954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014954
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】焼結部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/10 20060101AFI20161013BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B22F3/10 E
   C22C38/00 304
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-127146(P2012-127146)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-249529(P2013-249529A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本山 裕彬
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−538156(JP,A)
【文献】 特開平05−271713(JP,A)
【文献】 特開昭55−128504(JP,A)
【文献】 特開平11−080807(JP,A)
【文献】 特開昭62−278206(JP,A)
【文献】 特開2005−220393(JP,A)
【文献】 特開2006−348335(JP,A)
【文献】 特開平04−017602(JP,A)
【文献】 特開2005−042812(JP,A)
【文献】 国際公開第02/090097(WO,A1)
【文献】 特開昭55−044567(JP,A)
【文献】 特開2003−253406(JP,A)
【文献】 特開平1−259103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/00 − 7/08
C22C 38/00
C21D 1/02 − 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を主成分とし、残部に炭素および銅を含む鉄系の金属粉末を加圧成形して粉末成形体を作製する工程、粉末成形体を雰囲気ガス中で焼成して焼結体を得る焼結工程、および焼結体に熱処理を施す工程を含む焼結部品の製造方法であって、
前記焼結工程における雰囲気ガスが、79〜94体積%の窒素ガス、5〜20体積%のRXガスおよび1体積%の水素ガスであることを特徴とする焼結部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結部品の製造方法に関する。さらに詳しくは、鉄系金属粉末の成形体を雰囲気ガス中で焼成する工程を含む焼結部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動二輪車、自動車などに用いられる各種部品を、鉄を主成分とする金属粉末を加圧成形した成形体を雰囲気ガス中で焼成することで製造する場合がある。例えば、チェーン伝動に使用されるスプロケットは、重量比で銅を1.5〜6.0%、炭素を0.2〜1.0%含み、残部が鉄である金属粉末を加圧成形して粉末成形体を作製し、この粉末成形体を所定の雰囲気ガスおよび焼成温度にて焼結し、得られた焼結体に高周波焼入れ・焼き戻しなどの熱処理を施すことで製造されている。そして、焼結工程における雰囲気ガスとしては、浸炭性ガスであるRXガスが多用されている。
【0003】
雰囲気ガスとして浸炭性ガスを用いると、焼結工程における加熱ゾーンで脱炭されたとしても、その後の冷却ゾーンで復炭されるので、焼結品に含まれる炭素量は焼結前の炭素量にほぼ戻っている。したがって、脱炭によって製品の硬度や強度が低下することがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、浸炭性ガスを雰囲気ガスとして用いる場合、加熱時における脱炭と、冷却時における復炭というプロセスを経ることにより、製品に大きな寸法バラツキが生じることがある。焼結部品の製造工程において、粉末成形体を成形する工程や、焼結品に高周波熱処理を施す工程では、寸法変化や歪が発生することがほとんどないことから、焼結工程における寸法バラツキが製品の寸法精度を決定する。したがって、製品の寸法バラツキを抑え、歩留まりを向上させるためには、焼結工程での寸法バラツキを抑えることが必要である。このことは、スプロケットのように、その機能上、寸法や歯形に高い精度が要求される製品においては特に必要とされることであり、寸法がばらつくと歩留まりが低下してコストに多大の影響を与えることになる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、脱炭による硬度・強度の低下を防ぎつつ、製品の寸法バラツキを抑えることができる焼結部品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の焼結部品の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)は、鉄を主成分とし、残部に炭素および銅を含む鉄系の金属粉末を加圧成形して粉末成形体を作製する工程、粉末成形体を雰囲気ガス中で焼成して焼結体を得る焼結工程、および焼結体に熱処理を施す工程を含む焼結部品の製造方法であって、
前記焼結工程における雰囲気ガスが、79〜94体積%の窒素ガス、5〜20体積%のRXガスおよび1体積%の水素ガスであることを特徴としている。
【0007】
本発明の製造方法では、焼結工程における雰囲気ガスとして、79〜94体積%の窒素ガス、5〜20体積%のRXガスおよび1体積%の水素ガを用いているので、寸法バラツキを最小限に抑えつつ、脱炭とそれに伴う硬度・強度の低下を抑制することができる。焼結工程における雰囲気ガスを窒素ガスにすると、脱炭および復炭というプロセスがないので焼結工程における寸法バラツキを抑えることができる。しかし、窒素ガスだけの雰囲気中の焼結では、焼結品に脱炭が起き、熱処理後の組織に硬度・強度の低下をもたらすフェライトが生じてしまう。そこで、本発明では、窒素ガスにRXガスを体積比で5〜20%混入させた雰囲気ガス中で焼結を行っている。また、1体積%の水素ガスを用いることで、この水素ガスがサビとして存在する酸素と結合し、かかる酸素がカーボンと結合しガスとして抜け出るのを防止することができる。これらにより、前述したように、寸法バラツキを最小限に抑えつつ、脱炭とそれに伴う硬度・強度の低下を抑制することができる。浸炭性ガスの割合が5%未満であると、脱炭防止効果が不十分であり、また、20%よりも多くなると寸法バラツキが大きくなってしまう。


【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、脱炭による硬度・強度の低下を防ぎつつ、製品の寸法バラツキを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】RXガス割合の変化に対する焼結体脱炭量の変化を示す図である。
図2】RXガス割合の変化に対する焼結体硬度(HRB)の変化を示す図である。
図3】RXガス割合の変化に対する焼結体寸法バラツキの変化を示す図である。
図4】RXガス割合の変化に対する熱処理品硬度(HRA)の変化を示す図である。
図5】RXガス割合の変化に対する熱処理品寸法バラツキの変化を示す図である。
図6】窒素ガス+1%水素の雰囲気ガス中で焼結された焼結体の組織を示す図である。
図7】RXガスだけの雰囲気ガス中で焼結された焼結体の組織を示す図である。
図8】窒素ガス+1%水素の雰囲気ガス中で焼結され、その後熱処理された熱処理品の組織を示す図である。
図9】RXガスだけの雰囲気ガス中で焼結され、その後熱処理された熱処理品の組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の製造方法には、粉末成形体を作製する工程、この粉末成形体を焼成して焼結体を得る工程、およびこの焼結体に熱処理を施す工程が含まれるが、これら以外に、例えば、焼結体に反りが生じた場合に、この反りを矯正するサイジング工程などが含まれていてもよい。
【0012】
粉末成形体は、鉄を主成分とし、残部に炭素および銅を含む鉄系の金属粉末、例えばFe−2%Cu−0.8%Cの金属粉末を金型内に給粉し、パンチで押圧成形することで得ることができ、その成分割合は、本発明において特に限定されるものではない。また、粉末成形体は、必要に応じて金型潤滑剤などを含んでいてもよい。
【0013】
粉末成形体は、通常の焼成炉において、例えば1130℃程度の焼成温度にて焼成され、焼結体となる。この焼結工程における雰囲気ガスとして、本発明では、窒素ガスを主成分とし、5〜20体積%の浸炭性ガスおよび1〜5体積%の水素ガスを含むガスを用いている。浸炭性ガスとしては、例えばRXガス、炭化水素ガス(メタン、プロパン、ブタンなど)などを用いることができるが、雰囲気の制御が容易である点より、RXガスを用いることが好ましい。
【0014】
前述したように、雰囲気ガスとして浸炭性ガスだけを用いた場合における寸法バラツキを防ぐためには、浸炭性ガスに代えて窒素ガスを用いればよい。焼結工程における雰囲気ガスを窒素ガスにすると、浸炭性ガスの場合のような脱炭および復炭というプロセスがないので焼結工程における寸法バラツキを抑えることができる。しかし、窒素ガスだけの雰囲気中の焼結では、焼結品に脱炭が起き、熱処理後の組織に硬度・強度の低下をもたらすフェライトが生じてしまう。これに対し、窒素ガスにRXガスなどの浸炭性ガスを体積比で5〜20%混入させると、寸法バラツキを最小限に抑えつつ、脱炭とそれに伴う硬度・強度の低下を抑制することができる。浸炭性ガスの割合が5%未満であると、脱炭防止効果が不十分であり、また、20%よりも多くなると寸法バラツキが大きくなってしまう。
【0015】
また、本実施の形態では、雰囲気ガス中に1〜5体積%の水素ガスを含有させている。還元性の強い水素ガスを1〜5体積%用いることで、脱炭を防ぐことできる。すなわち、水素ガスを混入させない場合、サビとして存在する酸素が混合してあるカーボン(C)と結合し、ガスとして抜け出てしまう(脱炭)が、水素を入れることで、この水素がサビとして存在する酸素と結合し、カーボンが酸素にとられるのを防ぐことができる。
【0016】
焼結体は、高周波焼入れ、焼き戻しなどの熱処理工程やサイジング工程などを経て、焼結部品とされる。
【0017】
つぎに本発明の製造方法の効果を検証するために、焼結工程における雰囲気ガスの組成を種々変更させて、得られる焼結体(スプロケット)の脱炭量、硬度(HRB)および寸法バラツキ、ならびに焼結体に熱処理(スプロケット歯部への高周波焼入れと焼き戻し炉による焼き戻し)を施した熱処理品の硬度(HRA)および寸法バラツキについて調べた。結果を表1に示す。なお、寸法バラツキに関し、焼結寸法バラツキは、50個のサンプルについて焼結体歯底径と成形体歯底径とのバラツキ(σ)をとることにより評価し、熱処理寸法バラツキは、同じく50個のサンプルについて熱処理品歯底径と焼結体歯底径とのバラツキ(σ)をとることにより評価した。また、雰囲気ガス中の水素ガスの割合は、1体積%であった。
【0018】
【表1】
【0019】
図1〜5は、表1に示される結果をグラフ化したものである。図1は、RXガス割合の変化に対する焼結体脱炭量の変化を示す図であり、図2は、RXガス割合の変化に対する焼結体硬度(HRB)の変化を示す図であり、図3は、RXガス割合の変化に対する焼結体寸法バラツキの変化を示す図である。また、図4は、RXガス割合の変化に対する熱処理品硬度(HRA)の変化を示す図であり、図5は、RXガス割合の変化に対する熱処理品寸法バラツキの変化を示す図である。
【0020】
表1および図1〜5より、窒素ガスを主成分とし、5〜20体積%の浸炭性ガスおよび1体積%の水素ガスを含むガスを雰囲気ガスとすることで、寸法バラツキを抑えつつ、硬度の低下を抑制できることが分かる。
【0021】
また、焼結体の組織を示す図6〜7、および熱処理品の組織を示す図8〜9より、窒素ガスと1%水素ガスからなる雰囲気ガス中で焼成を行った場合、フェライト(脱炭組織)が組織中に混在することが分かる。一方、RXガスだけからなる雰囲気ガス中で焼成を行った場合は、全面パーライト(焼結体)または全面マルテンサイト(熱処理品)という良好な組織となった。
【0022】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点において単なる例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、前記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
例えば、本発明の製造方法は、特定の焼結部品に限定されず、スプロケットや遊星歯車機構(プラネタリキャリヤ)などを含むあらゆる焼結部品に対し適用することができる。
また、焼成時における加熱、徐冷、冷却などの時間や温度条件も適宜設定することができる。さらに、熱処理方法も高周波焼入れ、焼き戻しに限らず、種々の熱処理を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9