【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の各実施例の被覆膜各層の組成は、透過電子顕微鏡付属のEDS分析(エネルギー分散型X線分析)により特定することができる。
【0078】
<実施例1〜12および比較例1〜5>
以下のようにして、実施例1〜12および比較例1〜5の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、第1付着層、第2付着層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、第2付着層および耐溶着層を除く他の構成は共通である。
【0079】
基材は、超硬合金製ドリル(刃径:直径8.0mm、全長:115mm、溝長:65mm、油孔付き)を用いた。
【0080】
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、真空引きし、基材を500℃に加熱した後、Arイオンエッチングを行ない、その後N
2ガス雰囲気でアーク蒸着により、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層(厚み0.2μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は以下の通りである。
ターゲット:Ti
0.5Al
0.5
圧力:6Pa
アーク電流:120A
バイアス電圧:50V
なお、アーク式イオンプレーティング法で各層を形成する場合、ターゲットは、各層の組成となるように組成を調整したものを用いた。
【0081】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層(厚み3.9μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるA層は、厚み(Ta)が4nmのTi
0.5Al
0.5Nとした。AlおよびCrを含む窒化物からなるB層は、厚み(Tb)が10nmのAl
0.65Cr
0.35Nとした。A層およびB層それぞれの積層数は、280層であり、Tb/Ta=2.5である。この耐摩耗層の形成条件は以下の通りである。
ターゲット:Ti
0.5Al
0.5(A層)、Al
0.65Cr
0.35(B層)
圧力:5Pa
放電電流:100A(A層)、180A(B層)
バイアス電圧:40V
アーク式イオンプレーティング装置の炉内の所定の位置に上記のターゲットをセットし、各ターゲットに対し基材が対向するようにして基材を回転させた。そしてその回転速度を調整しながら、A層とB層とが交互に積層された多層構造を有する耐摩耗層を形成した。
【0082】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0083】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に、TiおよびAlを含む窒化物で構成される第1付着層(厚み30nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は以下の通りである。
ターゲット:Ti
0.5Al
0.5
放電電流:100A
バイアス電圧:100V
引続き、上記で形成した第1付着層上に、C層とD層とを交互に積層させた多層構造を有する第2付着層(厚み60nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるC層は、厚みが6nmのTi
0.5Al
0.5Nとした。D層は、厚み6nmであり、組成は以下の表1に記載の耐溶着層と同じ組成とした。C層およびD層それぞれの積層数は5層である。この第2付着層の形成条件は以下の通りである。
ターゲット:Ti
0.5Al
0.5(C層)、表1記載の耐溶着層と同じターゲット(D層)
放電電流:100A(C層)、100A(D層)
バイアス電圧:100V
上記の耐摩耗層を形成したのと同様に、各ターゲットに対し基材が対向するようにして基材を回転させ、そしてその回転速度を調整しながら、上記のような構成の第2付着層を形成した。
【0084】
この第2付着層の結晶構造を透過電子顕微鏡付属の透過電子回折(TED)により測定したところ、C層は立方晶型であり、D層はウルツァイト型であることが確認できた。
【0085】
次いで、上記で形成した第2付着層上に耐溶着層(厚み(T2)は1.5μmで共通)を形成した。この耐溶着層は、被覆層の最表面に位置するものであり、以下の表1に記載の組成を有していた。形成条件は以下の通りである。
ターゲット:表1に記載の組成となるように組成を調整したもの
放電電流:150A
バイアス電圧:100V
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、比較例2〜3を除きウルツァイト型であることが確認できた。比較例2〜3の結晶構造は、立方晶型であった。
【0086】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1をそれぞれ表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例1〜12および比較例1〜5の表面被覆切削工具を得た。
【0089】
<比較例6〜10>
耐摩耗層の構成を以下の表2の構成とすることを除き、他は全て上記の実施例6と同様にして表面被覆切削工具を作製した(ただし比較例10の耐溶着層は実施例6の耐溶着層の構成に代えてその組成をTi
0.5Al
0.5N(厚み2μm)とした)。なお、これらの比較例の耐摩耗層の結晶構造は、いずれも立方晶型であった。
【0090】
【表2】
【0091】
<実施例13〜16>
以下のようにして、実施例13〜16の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として耐摩耗層、第1付着層、第2付着層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、耐摩耗層を除く他の構成は共通である。
【0092】
基材は、上記の実施例1〜12と同様である。
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層を形成した。耐摩耗層の具体的な構成は以下の表3の通りであり、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0093】
【表3】
【0094】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0095】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される第1付着層(厚み50nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.3Al
0.7Nとし、形成条件はターゲットの組成を除き上記の実施例1〜12と同様である。
【0096】
引続き、上記で形成した第1付着層上に、C層とD層とを交互に積層させた多層構造を有する第2付着層(厚み60nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるC層は、厚みが6nmのTi
0.3Al
0.7Nとした。D層は、厚み6nmであり、組成は下記の耐溶着層と同じ組成とした。C層およびD層それぞれの積層数は5層である。この第2付着層の形成条件はターゲットの組成を除き上記の実施例1〜12と同様である。
【0097】
この第2付着層の結晶構造を透過電子顕微鏡付属の透過電子回折(TED)により測定したところ、C層は立方晶型であり、D層はウルツァイト型であることが確認できた。
【0098】
次いで、上記で形成した第2付着層上に耐溶着層(厚み(T2)は1.5μmで共通)を形成した。この耐溶着層は、被覆層の最表面に位置するものであり、組成はAl
0.84Cr
0.1Ti
0.06Nとした。形成条件はターゲットの組成を除き上記の実施例1〜12と同様である。
【0099】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0100】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1をそれぞれ表3に示す。
【0101】
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例13〜16の表面被覆切削工具を得た。
【0102】
<実施例17〜24>
以下のようにして、実施例17〜24の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、第1付着層、第2付着層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、耐摩耗層の厚みおよび耐溶着層の厚みを除く他の構成は共通である。
【0103】
基材は、上記の実施例1〜12と同様である。
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層(厚み0.3μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0104】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層(厚みは以下の表4の通り)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるA層は、厚み(Ta)が4nmのTi
0.5Al
0.5Nとした。AlおよびCrを含む窒化物からなるB層は、厚み(Tb)が10nmのAl
0.7Cr
0.3Nとした。A層およびB層それぞれの積層数は、以下の表4の通りであり、Tb/Ta=2.5である。この耐摩耗層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0105】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0106】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に、TiおよびAlを含む窒化物で構成される第1付着層(厚み30nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0107】
引続き、上記で形成した第1付着層上に、C層とD層とを交互に積層させた多層構造を有する第2付着層(厚み30nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるC層は、厚みが6nmのTi
0.5Al
0.5Nとした。D層は、厚み9nmであり、組成は以下の耐溶着層と同じ組成とした。C層およびD層それぞれの積層数は2層である。この第2付着層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0108】
この第2付着層の結晶構造を透過電子顕微鏡付属の透過電子回折(TED)により測定したところ、C層は立方晶型であり、D層はウルツァイト型であることが確認できた。
【0109】
次いで、上記で形成した第2付着層上に耐溶着層(厚み(T2)は以下の表4の通り)を形成した。この耐溶着層は、被覆層の最表面に位置するものであり、組成はAl
0.85Cr
0.1Ti
0.05Nとした。形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0110】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0111】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1を表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例17〜24の表面被覆切削工具を得た。
【0114】
<実施例25〜30>
以下のようにして、実施例25〜30の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、第1付着層、第2付着層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、耐摩耗層の厚みおよび耐溶着層の厚みを除く他の構成は共通である。
【0115】
基材は、上記の実施例1〜12と同様である。
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層(厚み0.1μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.7Al
0.3Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0116】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層(厚みは以下の表5の通り)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるA層は、厚み(Ta)が5nmのTi
0.7Al
0.3Nとした。AlおよびCrを含む窒化物からなるB層は、厚み(Tb)が19nmのAl
0.67Cr
0.33Nとした。A層およびB層それぞれの積層数は、以下の表5の通りであり、Tb/Ta=3.8である。この耐摩耗層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0117】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0118】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に、TiおよびAlを含む窒化物で構成される第1付着層(厚み70nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.33Al
0.67Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0119】
引続き、上記で形成した第1付着層上に、C層とD層とを交互に積層させた多層構造を有する第2付着層(厚み70nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるC層は、厚みが5nmのTi
0.33Al
0.67Nとした。D層は、厚み5nmであり、組成は以下の耐溶着層と同じ組成とした。C層およびD層それぞれの積層数は7層である。この第2付着層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0120】
この第2付着層の結晶構造を透過電子顕微鏡付属の透過電子回折(TED)により測定したところ、C層は立方晶型であり、D層はウルツァイト型であることが確認できた。
【0121】
次いで、上記で形成した第2付着層上に耐溶着層(厚み(T2)は以下の表5の通り)を形成した。この耐溶着層は、被覆層の最表面に位置するものであり、組成はAl
0.85Cr
0.1Ti
0.05Nとした。形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0122】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0123】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1を表5に示す。
【0124】
【表5】
【0125】
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例25〜30の表面被覆切削工具を得た。
【0126】
<実施例31〜37>
以下のようにして、実施例31〜37の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、耐摩耗層の構成を除く他の構成は共通である。
【0127】
基材は、上記の実施例1〜12と同様である。
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層(厚み0.07μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.45Al
0.55Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0128】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層を形成した。耐摩耗層の構成は以下の表6の通りであり、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0129】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0130】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に耐溶着層(厚み(T2)は1.5μm)を形成した。この耐溶着層は、被覆層の最表面に位置するものであり、組成はAl
0.85Cr
0.1Ti
0.05Nとした。形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0131】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0132】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1を表6に示す。
【0133】
【表6】
【0134】
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例31〜37の表面被覆切削工具を得た。
【0135】
<実施例38〜43および比較例11〜12>
以下のようにして、実施例38〜43および比較例11〜12の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、第1付着層、第2付着層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、耐摩耗層を除く他の構成は共通である。
【0136】
基材は、上記の実施例1〜12と同様である。
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層(厚み0.1μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0137】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層を形成した。耐摩耗層の構成は以下の表7の通りであり、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0138】
【表7】
【0139】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、実施例のものは立方晶型であることが確認できたが、比較例のものは立方晶型と六方晶型が混在していた。
【0140】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に、TiおよびAlを含む窒化物で構成される第1付着層(厚み40nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0141】
引続き、上記で形成した第1付着層上に、C層とD層とを交互に積層させた多層構造を有する第2付着層(厚み90nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるC層は、厚みが5.5nmのTi
0.5Al
0.5Nとした。D層は、厚み9.5nmであり、組成は以下の耐溶着層と同じ組成とした。C層およびD層それぞれの積層数は6層である。この第2付着層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0142】
この第2付着層の結晶構造を透過電子顕微鏡付属の透過電子回折(TED)により測定したところ、C層は立方晶型であり、D層はウルツァイト型であることが確認できた。
【0143】
続いて、上記で形成した第2付着層上に耐溶着層(厚み(T2)は1μm)を形成した。この耐溶着層は、被覆層の最表面に位置するものであり、組成はAl
0.82Cr
0.14Ti
0.04Nとした。形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0144】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0145】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1は各共通で0.5であった。
【0146】
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例38〜43および比較例11〜12の表面被覆切削工具を得た。
【0147】
<実施例44〜48>
以下のようにして、実施例44〜48の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、中間層の厚みおよび耐摩耗層の構成が異なることを除き他の構成は共通である。
【0148】
基材は、上記の実施例1〜12と同様である。
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は厚みを調整することを除き上記の実施例1〜12と同様である。この中間層の厚みは、実施例44は0.005μm、実施例45は0.04μm、実施例46は0.15μm、実施例47は0.4μm、実施例48は1μmであった。
【0149】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層を形成した。耐摩耗層の構成は以下の表8の通りであり、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0150】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0151】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に耐溶着層(厚み(T2)は0.9μm)を形成した。この耐溶着層は、被覆層の最表面に位置するものであり、組成はAl
0.88Cr
0.1Ti
0.02Nとした。形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0152】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0153】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1を表8に示す。
【0154】
【表8】
【0155】
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例44〜48の表面被覆切削工具を得た。
【0156】
<実施例49〜55>
以下のようにして、実施例49〜55の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、第1付着層、第2付着層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、第1付着層および第2付着層の厚みが異なることを除き、他の構成は共通である。
【0157】
基材は、上記の実施例1〜12と同様である。
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層(厚み0.3μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0158】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層(厚み2.8μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるA層は、厚み(Ta)が4nmのTi
0.5Al
0.5Nとした。AlおよびCrを含む窒化物からなるB層は、厚み(Tb)が10nmのAl
0.7Cr
0.3Nとした。A層およびB層それぞれの積層数は、200層であり、Tb/Ta=2.5である。この耐摩耗層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0159】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0160】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に、TiおよびAlを含む窒化物で構成される第1付着層(厚みは表9の通り)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.5Al
0.5Nとし、形成条件は厚みを調整することを除き上記の実施例1〜12と同様である。
【0161】
引続き、上記で形成した第1付着層上に、C層とD層とを交互に積層させた多層構造を有する第2付着層(厚みおよび積層数は表9の通り)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるC層は、厚みが9nmのTi
0.5Al
0.5Nとした。D層は、厚み11nmであり、組成は以下の耐溶着層と同じ組成とした。この第2付着層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0162】
この第2付着層の結晶構造を透過電子顕微鏡付属の透過電子回折(TED)により測定したところ、C層は立方晶型であり、D層はウルツァイト型であることが確認できた。
【0163】
【表9】
【0164】
続いて、上記で形成した第2付着層上に耐溶着層(厚み(T2)は1μm)を形成した。この耐溶着層は、被覆層の最表面に位置するものであり、組成はAl
0.82Cr
0.14Ti
0.04Nとした。形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0165】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0166】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1は0.36であった。
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例49〜55の表面被覆切削工具を得た。
【0167】
<評価>
以下の切削試験1〜5を行なうことによって、実施例/比較例の表面被覆切削工具を評価した。
【0168】
<切削試験1>
実施例1〜12、25〜30、比較例1〜5、10の各表面被覆切削工具を用いて、以下の条件で被削材に対して穴開け加工を行ない、折損するまでの穴数を計測した。ドリルの折損は、刃先に被削材が溶着し、その溶着を起点として発生するため、穴数が多いものほど耐溶着性に優れており、工具寿命に優れていることを示す。結果を表10に示す。
【0169】
(加工条件)
被削材:SCM415生材
切削速度:V=80m/分
1回転当りの送り量:f=0.2mm/rev.
1穴の深さ:H=40mm
給油方式:外部給油方式(切削液=エマルジョン)
【0170】
【表10】
【0171】
<切削試験2>
実施例44〜55の各表面被覆切削工具を用いて、切削試験1と同じ条件で被削材に対して穴開け加工を行ない、穴数が50毎に刃先の状態を観察した。そして、耐溶着層または被覆膜全体の剥離が初めて観察された穴数を確認した。穴数が多いものほど、被覆膜の耐剥離性に優れていることを示す。結果を表11に示す。
【0172】
【表11】
【0173】
<切削試験3>
実施例4、6、17〜43、比較例6〜9、11、12の各表面被覆切削工具を用いて、以下の条件で被削材に対して穴開け加工を行ない、シンニング部または刃先が欠損するまでの穴数を計測した。これらの欠損は、被削材が溶着し、その溶着を起点として発生するため、穴数が多いものほど耐溶着性に優れており、工具寿命に優れていることを示す。結果を表12に示す。
【0174】
(加工条件)
被削材:S50C(HB230)
切削速度:V=80m/分
1回転当りの送り量:f=0.25mm/rev.
1穴の深さ:H=40mm
給油方式:内部給油方式(切削液=エマルジョン)
【0175】
【表12】
【0176】
<切削試験4>
実施例13〜24の各表面被覆切削工具を用いて、切削試験3と同じ条件で被削材に対して穴数が200となる穴開け加工を行なった後、マージン損傷を顕微鏡で観察した。そして、マージン部に送りマークや被覆膜の剥離が発生している範囲の、先端からの長さ(mm)を測定した。該長さが短いものほど、耐溶着性、耐摩耗性、靭性等の切削特性に優れていることを示す。結果を表13に示す。
【0177】
【表13】
【0178】
<切削試験5>
実施例31〜37の各表面被覆切削工具を用いて、以下の条件で被削材に対して穴数が1000となる穴開け加工を行なった後、ドリルの顕微鏡観察により逃げ面外周側の摩耗幅(mm)を測定した。摩耗幅が小さいものほど耐摩耗性に優れていることを示す。結果を表14に示す。
【0179】
(加工条件)
被削材:S50C(HB230)
切削速度:V=130m/分
1回転当りの送り量:f=0.25mm/rev.
1穴の深さ:H=40mm
給油方式:内部給油方式(切削液=エマルジョン)
【0180】
【表14】
【0181】
表10〜表14より明らかなように、本発明の表面被覆切削工具が、優れた耐摩耗性と優れた耐溶着性を示し、以って欠損や折損を極めて有効に防止することができるという優れた効果を示すことが確認できた。
【0182】
<実施例56〜58および比較例13〜14>
以下のようにして、実施例56〜58および比較例13〜14の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、第1付着層、第2付着層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、耐溶着層を除く他の構成は共通である。
【0183】
基材は、超硬合金製ドリル(刃径:直径6.0mm、全長:100mm、溝長:48mm、油孔付き)、および超硬合金製板(20mm×10mm×1mm)を用いた。
【0184】
そして、この各基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層(厚み0.4μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.6Al
0.4Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0185】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層(厚み(T1)4.5μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるA層は、厚み(Ta)が8nmのTi
0.6Al
0.4Nとした。AlおよびCrを含む窒化物からなるB層は、厚み(Tb)が15nmのAl
0.7Cr
0.3Nとした。A層およびB層それぞれの積層数は196層であり、厚み比Tb/Ta=1.9である。この耐摩耗層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0186】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0187】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に、TiおよびAlを含む窒化物で構成される第1付着層(厚み60nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.6Al
0.4Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0188】
引続き、上記で形成した第1付着層上に、C層とD層とを交互に積層させた多層構造を有する第2付着層(厚み40nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるC層は、厚みが5nmのTi
0.6Al
0.4Nとした。D層は、厚み5nmであり、組成は以下の耐溶着層と同じ組成とした。C層およびD層それぞれの積層数は4層である。この第2付着層の形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0189】
この第2付着層の結晶構造を透過電子顕微鏡付属の透過電子回折(TED)を用いて測定したところ、C層は立方晶型であり、D層はウルツァイト型であることが確認できた。
【0190】
次いで、上記で形成した第2付着層上に耐溶着層(厚み(T2)は1.5μmで共通)を形成した。この耐溶着層は、被覆膜の最表面に位置するものであり、以下の表15に記載の組成を有していた。形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0191】
【表15】
【0192】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0193】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1は0.33である。
基材としての超硬合金製板の上に形成された被覆膜をナノインデンターを用いて耐摩耗層と耐溶着層の表面付近の硬度測定を実施した。耐摩耗層の硬度H1と耐溶着層の硬度H2(表面から測定したもの)との比である硬度比H2/H1をそれぞれ表15に示す。
【0194】
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例56〜58および比較例13〜14の表面被覆切削工具を得た。
【0195】
<実施例59〜63>
成膜時のバイアス電圧を以下の表16の通りとすることを除き、他は全て上記の実施例57と同様にして表面被覆切削工具を作製した。なお、これらの実施例の耐摩耗層の結晶構造は、いずれも立方晶であった。これらの実施例の第2付着層および耐溶着層の構造は、いずれもウルツァイト型であった。
【0196】
超硬合金製板(基材)の成膜前後の反り量を測定し、形成された被覆膜の膜厚をカロテストを用いて測定し、被覆膜の応力を計算した。その結果を表16に示す。
【0197】
【表16】
【0198】
<実施例64〜78>
以下のようにして、実施例64〜78の表面被覆切削工具を作製した。これらの表面被覆切削工具はいずれも、基材上に被覆膜として中間層、耐摩耗層、第1付着層、第2付着層、および耐溶着層をこの順でアーク式イオンプレーティング法により形成した構成を有し、構成は共通である。
【0199】
基材は、超硬合金製ドリル(刃径:直径6.0mm、全長:100mm、溝長:48mm、油孔付き)を用いた。
【0200】
そして、この基材をアーク式イオンプレーティング装置にセットし、まず基材上にTiおよびAlを含む窒化物で構成される中間層(厚み0.3μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.55Al
0.45Nとし、形成条件は上記の実施例1〜12と同様である。
【0201】
次いで、上記で形成した中間層上に、A層とB層とを交互に積層させた多層構造を有する耐摩耗層(厚み(T1)4.5μm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるA層は、厚み(Ta)が8nmのTi
0.55Al
0.45Nとした。AlおよびCrを含む窒化物からなるB層は、厚み(Tb)が15nmのAl
0.7Cr
0.3Nとした。A層およびB層それぞれの積層数は196層であり、厚み比Tb/Ta=1.9である。この耐摩耗層の形成条件は以下の通りである。
ターゲット:Ti
0.55Al
0.45(A層)、Al
0.7Cr
0.3(B層)
圧力:5Pa、N
2にArを10%入れて成膜。
放電電流:100A(A層)、180A(B層)
バイアス電圧:表17、表18、表19の通り
成膜温度:表17、表18、表19の通り。
【0202】
アーク式イオンプレーティング装置の炉内の所定の位置に上記のターゲットをセットし、各ターゲットに対し基材が対向するようにして基材を回転させた。そしてその回転速度を調整しながら、A層とB層とが交互に積層された多層構造を有する耐摩耗層を形成した。
【0203】
この耐摩耗層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、立方晶型であることが確認できた。
【0204】
続いて、上記で形成した耐摩耗層上に、TiおよびAlを含む窒化物で構成される第1付着層(厚み30nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物の組成はTi
0.55Al
0.45Nとし、形成条件は上記の耐摩耗層と同様である。
【0205】
引続き、上記で形成した第1付着層上に、C層とD層とを交互に積層させた多層構造を有する第2付着層(厚み60nm)を形成した。TiおよびAlを含む窒化物からなるC層は、厚みが6nmのTi
0.55Al
0.45Nとした。D層は、厚み6nmであり、組成は以下の耐溶着層と同じ組成とした。
【0206】
C層およびD層それぞれの積層数は5層である。この第2付着層の形成条件は上記の耐摩耗層(C層)および下記の耐溶着層(D層)と同様である。
【0207】
この第2付着層の結晶構造を透過電子顕微鏡付属の透過電子回折(TED)を用いて測定したところ、C層は立方晶型であり、D層はウルツァイト型であることが確認できた。
【0208】
次いで、上記で形成した第2付着層上に耐溶着層(厚み(T2)は1.5μmで共通)を形成した。この耐溶着層は、被覆膜の最表面に位置するものであり、組成はAl
0.85Cr
0.11Ti
0.04Nとした。形成条件は以下の通りである。
ターゲット:Al
0.85Cr
0.11Ti
0.04
放電電流:150A
バイアス電圧:表17、表18、表19の通り
成膜温度:表17、表18、表19の通り。
【0209】
このようにして形成された耐溶着層の結晶構造をX線回折装置を用いて測定したところ、ウルツァイト型であることが確認できた。
【0210】
なお、耐摩耗層の厚みT1と耐溶着層の厚みT2の比T2/T1は0.33である。
このようにして、基材上に被覆層を形成した表面被覆切削工具を冷却後アーク式イオンプレーティング装置から取り出した後、砥粒を含有したブラシにより被覆膜の表面を平滑化処理することにより、実施例64〜78の表面被覆切削工具を得た。
【0211】
このようにして形成された被覆膜のX線回折パターンの測定条件は以下の通りである。
測定部位:ドリルの逃げ面
使用X線:Cu−Kα
励起条件:45kV 200mA
使用コリメーター:φ0.3mm
測定法:θ−2θ法。
【0212】
実施例64〜68において、2θ=36°付近のピーク強度をK1とし、2θ=37.4°付近のピーク強度をK2とする場合の強度比K2/K1をそれぞれ表17に示す。なお、K1は耐溶着層の六方晶(002)のピーク強度を表わし、K2は耐摩耗層の立方晶(111)のピーク強度を表わしていると考えられる。
【0213】
実施例69〜73において、2θ=37.4°付近のピーク強度をK1とし、2θ=37.9°付近のピーク強度をK2とする場合の強度比K2/K1をそれぞれ表18に示す。なお、K1は耐摩耗層の立方晶(111)のピーク強度を表わし、K2は耐溶着層の六方晶(101)のピーク強度を表わしていると考えられる。
【0214】
実施例74〜78において、2θ=37.4°付近のピーク強度をK1とし、2θ=43.2°付近のピーク強度をK2とする場合の強度比K2/K1をそれぞれ表19に示す。なお、K1は耐摩耗層の立方晶(111)のピーク強度を表わし、K2は耐溶着層の立方晶(200)のピーク強度を表わしていると考えられる。
【0215】
【表17】
【0216】
【表18】
【0217】
【表19】
【0218】
<実施例79〜83>
耐摩耗層の成膜温度を以下の表20の通りとすることを除き、他は全て上記の実施例57と同様にして表面被覆切削工具を作製した。なお、これらの実施例の耐摩耗層の結晶構造は、いずれも立方晶であった。これらの実施例の第2付着層および耐溶着層の構造は、いずれもウルツァイト型であった。
【0219】
このようにして形成された耐摩耗層の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)も用いて観察したところ、柱状晶を形成したことを確認した。なお、実施例79〜83の耐摩耗層の柱状晶の平均粒径を表20(「耐摩耗層の平均粒径」の項)に示す。
【0220】
【表20】
【0221】
<実施例84〜87>
耐溶着層の組成と成膜温度を以下の表21の通りとすることを除き、他は全て上記の実施例57と同様にして表面被覆切削工具を作製した。なお、これらの実施例の耐摩耗層の結晶構造は、いずれも立方晶であった。これらの実施例の第2付着層および耐溶着層の構造は、いずれもウルツァイト型であった。
【0222】
このようにして形成された耐溶着層の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)も用いて観察したところ、ナノ粒子を形成したことを確認した。なお、実施例84〜87の耐溶着層のナノ粒子の平均粒径を表21(「耐溶着層の平均粒径」の項)に示す。
【0223】
【表21】
【0224】
<切削試験6>
実施例56〜87、比較例13〜14の各表面被覆切削工具(基材を超硬合金製ドリルとするもの)を用いて、以下の条件で被削材に対して穴開け加工を行ない、刃先が欠損するかまたはドリルが折損するまでの穴数を計測した。これらの欠損は、膜のハクリまたは耐溶着層の消耗により被削材が溶着し、その溶着を起点として発生するため、穴数が多いものほど耐溶着性に優れており、工具寿命に優れていることを示す。また、これらの折損は、耐溶着層がなくなり切り屑の排出性が悪くなることから発生するため、穴数が多いものほど耐溶着性に優れており、工具寿命に優れていることを示す。結果を表22に示す。
【0225】
<加工条件>
被削材:S50C(HB230)
切削速度:V=130m/分
1回転当りの送り量:f=0.25mm/rev.
1穴の深さ:H=40mm
給油方式:内部給油方式(切削液=エマルジョン)。
【0226】
ただし、実施例79〜83については、切削試験5の条件で評価を行ない、その結果を表23に示す。
【0227】
【表22】
【0228】
【表23】
【0229】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0230】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。