(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は本発明の一実施形態の電池1(電気デバイス)の製造装置を説明するための全体図、
図2は
図1のX−X線断面図、
図3は
図2に示されるA部の拡大図である。
【0011】
図1において、箱状の真空チャンバ11の中央には、鉛直上方に開口するトレー12がチャンバ底面11aより所定の高さだけ高い位置に配置されている。このトレー12内に注液前工程で電池1を収納する。トレー12は、略四角扁平状の電池1の外装材の内部に電解液を注入したとき電解液が電池1の外部に漏れ出ないように扁平状の電池1を両面から支持するためのものである。トレー12の底面には図示しない孔が開けられ、チャンバ11内のガスが自由に通過できるようになっている。
【0012】
上記電池1の構成を概説する。ここでの電池1は双極型でないリチウムイオン二次電池である。電池1は双極型のリチウムイオン二次電池であってもかまわない。電池1は全体として略四角薄板状の発電要素2、電池外装材であるアルミラミネートフィルム7などからなっている。アルミラミネートフィルムは高分子−金属複合ラミネートフィルムの具体例である。ただし、本発明は電池外装材がアルミラミネートフィルムに限定されるものでない。
【0013】
図3に示したように、発電要素2は負極3と正極4とを互い違いに配置して積層すると共に、負極3と正極4の間にセパレータ5を設けたものである。負極3は負極集電体3aの両面に負極活物質層3b、3cを、正極4は正極集電体4aの両面に正極活物質層4b、4cをそれぞれ配置したものである。セパレータ5は両電極3、4が接触することを防止する役目を有する他、電解液を保持することにより、電解質層を形成する。
【0014】
このように発電要素2を形成した後には、2枚の矩形のアルミラミネートフィルム7を電池外装材として用いて発電要素2の両面を被覆する。これによって電池全体の形状は略四角扁平状となるので、熱融着により被覆したアルミラミネートフィルム7の三つの周縁部を接合した状態とする。1枚のアルミラミネートフィルム7を折り畳んで用いる場合には、熱融着により折り畳んだ辺に隣接する二つの周縁部を接合した状態とする。
【0015】
そして、熱融着せずに残して置いた一つの周縁部から電解液を電池1の外装材(7)の内部に注入するため、熱融着せずに残しておいた一つの周縁部を鉛直上方に向けてトレー12の内部に収納する。このように鉛直上方に外装材(7)の一つの周縁部が開口した電池1を収納した状態を
図1、
図2に示している。すなわち、
図2にも示したように、発電要素2の左右の両面と底面とが外装材(7)に収容され、鉛直上方の外装材(7)の周縁部は開口している。
【0016】
図1に示したように電池1について発電要素2のうちのセパレータ5が見えるようにその縦断面図を示している。なお、各電極(負極及び正極)と導通する強電タブ8、9を一方向(
図1で左側)に取り付け、外装材(7)の周縁部に挟まれるようにして外装材(7)の外部に導出させている。
【0017】
さて、外装材(7)の一つの周縁部を開口させた状態の電池1を真空チャンバ11の内部に収納し、真空ポンプ13を作動させて真空チャンバ11の内部を大気圧より減圧した状態に保つ。そして、開口させたところから外装材(7)の内部に電解液を注入し、注入した電解液を発電要素2の内部へと含浸させるようにした従来の製造方法がある。
【0018】
この従来の製造方法では、電池1の外装材(7)の内部に電解液を注入したとき、電池1の鉛直上方からは電解液の浸透圧による、鉛直下方からは気体(酸素を含む空気)及び液体(電解液)の比重差による交換が生じる。しかしながら、従来の製造方法では、気体に空気(酸素ガス)を使用しているので、気体(空気)及び液体(電解液)の交換に時間がかかっている。言い換えると、電解液が発電要素2の電極3、4及びセパレータ5の空孔(電池1の全体)に行き渡る速度(電解液の含浸速度)が遅いという問題がある。
【0019】
そこで本発明の第1実施形態の電池1(電気デバイス)の製造方法では、外装材(7)の一部を開口させた状態で外装材(7)の内部に電解液を注入する注液工程と、この注液工程の後に電解液を発電要素2の内部へと含浸させる含浸工程とを含み、注液工程で電解液中に溶存させる第1ガスの比重は、電池1の置かれる雰囲気ガスである第2ガスの比重より小さいものとしている。
【0020】
また、第1実施形態の電池1(電気デバイス)の製造装置としては、外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1を収容(収納)すると共に、密閉状態とすることが可能な真空チャンバ11(チャンバ)と、この真空チャンバ11の内部のガスを真空チャンバ11の外部に追い出し得る真空ポンプ13(ポンプ)と、電解液を貯蔵する電解液タンク15と、電池1の置かれる雰囲気ガスである第2ガスより比重の小さいガスを第1ガスとしてこの第1ガスを貯留する第1ガスボンベと、電解液タンク15からの電解液を第1ガスボンベからの第1ガスでバブリングすることにより電解液に第1ガスを溶存させることが可能なバブリングタンク17と、このバブリングタンク17によりバブリングされた電解液を外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1に供給する第1供給装置(26、27)とを備え、真空チャンバ11を密閉状態に保ったまま真空ポンプ13を作動させて真空チャンバ11の内部を大気圧より低い減圧状態にすると共に、第1供給装置(26、27)を作動させてバブリングされた電解液を外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1に供給する。
【0021】
第1実施形態の電池1の製造装置としては、さらに、第1ガスボンベからの第1ガスを真空チャンバ11の内部に供給する第2供給装置(31、33)を備え、バブリングされた電解液を外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1に供給する前に、第2供給装置(31、33)を作動させて電池1の内部を第1ガスで置換する。
【0022】
ここで、第1実施形態の製造方法や製造装置でいう「電池1の置かれる雰囲気ガスである第2ガス」とは、空気あるいは空気中の酸素ガスのことである。この第2ガスより比重の小さいガスである「第1ガス」としては、例えばヘリウムを選択する。「第1ガス」としては、空気あるいは空気中の酸素ガスより比重の小さい不活性ガスであればよく、ヘリウムガスでなくてもかまわない。
以下詳述する。
【0023】
(電池の製造装置)
まず、第1実施形態の電池1の製造装置を説明する。前述したように、11は外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1(電気デバイス)を収納すると共に、密閉状態とすることが可能な真空チャンバである。13はこの真空チャンバ11の内部のガスを真空チャンバ11の外部に追い出し得る真空ポンプである。
【0024】
次に、従来の製造装置と異なる部分を説明する。
図1において電解液タンク15の内部の電解液20を供給ポンプ16よってバブリングタンク17に供給する。バブリングタンク17内には、鉛直上方から電解液20中にまで届く直管18を設けており、この直管18にヘリウムガスボンベ21(第1ガスボンベ)の内部のヘリウムガス(第1ガス)をヘリウムガス供給通路22を介して供給する。
【0025】
バブリングタンク17は電解液20中に溶存している酸素を取り去るためのものである。バブリングにより電解液中の酸素を取り去り、代わりにヘリウムガスを電解液中に溶存させることができるのは、次の理由による。すなわち、溶存酸素の量は、気体−液体間の平衡によって決まるのが原則である。いま、ヘリウムガスで電解液のバブリングを行うと、電解液中にヘリウムガスと電解液の気−液界面(泡の外周)がたくさん形成されることとなる。この状態では、酸素量はヘリウムガスと電解液の界面で平衡していない(つまり、電解液中には酸素が多く含まれているが、ヘリウムガス中には酸素が全く含まれていない)。従って、ヘリウムガスと電解液の界面において酸素量が平衡状態になろうとして、電解液から酸素が含まれていないヘリウムガスへと拡散する。こうしてヘリウムガスに取り込まれた酸素は浮力で上昇するヘリウムガスと共に上昇して電解液から除かれる。一方、ヘリウムガス量もヘリウムガスと電解液の界面で平衡していない(つまり、電解液中にはヘリウムガスが全く含まれていない)。従って、ヘリウムガスと電解液の界面においてヘリウムガス量が平衡状態になろうとして、ヘリウムガスがヘリウムガスの含まれていない電解液へと拡散する。こうしてヘリウムガスと電解液の界面でヘリウムガス量が平衡状態に達するまでヘリウムガスが電解液中に溶存してゆく。バブリングを継続することで、電解液中にヘリウムガスと電解液の気−液界面(泡の外周)が新たに形成され続ける。この新たな気−液界面においては酸素及びヘリウムガスが再び平衡状態になろうとする。この繰り返しによって、やがては電解液中の酸素がゼロとなり、代わりに電解液中に平衡状態のヘリウムガスが溶存した状態となる。このように、バブリングの前には電解液20中に酸素が溶存していても、電解液20をヘリウムガス25によって所定時間バブリングした後にはヘリウムガス25のみが電解液中に溶存することとなるのである。
【0026】
電解液20から離脱した酸素ガスを逃すため、バブリングタンク17の鉛直上方にドレン開口部19を設けている。ヘリウムガス供給通路22には第1遮断弁23と第1オリフィス24を設け、第1遮断弁23の開閉によりバブリングタンク17へのヘリウムガスの供給・遮断を行い、第1オリフィス24で供給するヘリウムガス流量を調整する。
【0027】
上記第1供給装置は、供給ポンプ26、第1ノズル27から構成されている。ヘリウムガスにより電解液をバブリングした後には、供給ポンプ26によって、ヘリウムガスを溶存させた電解液20を第1ノズル27に供給する。第1ノズル27は、ヘリウムガスを溶存させた電解液20の流量を調整するためのものである。鉛直上方に開口している外装材(7)の周縁部から外装材(7)の内部に入り込んだ位置に第1ノズル27の鉛直下端を配置する。
【0028】
第1ノズル27から発電要素2の鉛直上方の面2aに向けて流れ落ちる電解質は直ぐにこの面2aから発電要素2の内部に浸透するのではない。すなわち、第1ノズル27から外装材(7)の内部に供給される電解液の作動は次のようになる。ヘリウムガスを溶存させた電解液20は、
図1に示したように発電要素2の鉛直上方の面2aを伝って左右に流れ、発電要素2の左右の面2b、2cを伝って流れ下り、発電要素2の底面2dに回り込む。また、
図2に示したように電解液20は発電要素2の鉛直上方の面2aを伝って左右に流れ、発電要素の左右の面2e、2fを伝って流れ下り、発電要素2の底面2dに回り込む。所定量の電解液20を供給した後には、発電要素2の外周が全て電解液20で満たされた状態となり、発電要素の20全周から電解液20が発電要素2の内部へと浸透していく。ここで、電解液20として供給すべき量は、電極(3、4)及びセパレータ5の有する全空孔を満たす量に余裕分を加えた量である。
【0029】
上記第2供給装置は、分岐通路22、第2ノズル31、第2遮断弁33、第2オリフィス34から構成されている。すなわち、真空チャンバ11の鉛直上方には真空チャンバ11内に開口する第2ノズル31を備える。第2ノズル31には、ヘリウムガス供給通路22から分岐する通路32を介してヘリウムガスボンベ21内のヘリウムガスを直接供給する。分岐通路32には第2遮断弁33と第2オリフィス34を設け、第2遮断弁33の開閉により真空チャンバ11内へのヘリウムガスの供給・遮断を行い、第2オリフィス34で供給するヘリウムガス流量を調整する。
【0030】
(電池の製造方法)
次に、電池1の製造方法のうち、注液前工程、注液工程、含浸工程、後工程を、
図4のフローチャートを参照して説明する。
図4のフローは、これらの工程での各手順を示したものである。ここで、「注液前工程」とは、注液工程での作業の前に予め行っておくべき作業を行う工程(注液工程の前工程)のことをいう。「後工程」とは、含浸工程の後に後処理としての作業を行う工程のことをいう。ここでは、注液前工程にヘリウムガス置換工程(ガス置換工程)とヘリウムガス溶存工程(ガス溶存工程)を含ませている。
【0031】
<注液前工程>
注液前工程での作業はステップ1〜6である。注液前工程の開始に際しては、真空ポンプ13、2つの供給ポンプ16、26は作動停止状態に、2つの遮断弁23、33は全閉状態にしておく。
【0032】
ステップ1では、電池1を、熱融着せずに残して置いた一つの周縁部を鉛直上方にして真空チャンバ11内のトレー13にセット(収納)する。ステップ2ではチャンバ11を密閉状態とし、真空ポンプ13を作動させて真空チャンバ11内の真空引きを行う。
【0033】
この真空引きによって真空チャンバ11の内部が大気圧より低い所定の圧力(減圧状態)になった後、真空ポンプ13の作動を停止する。この真空引きによって真空チャンバ11内のほとんどの空気、つまり空気中の酸素ガスが取り去られる。
【0034】
ステップ3は、注液前工程のうちのヘリウムガス置換工程(ガス置換工程)での作業を記載したものである。ステップ3では、第2遮断弁33を開きヘリウムボンベ21内のヘリウムガスを直接真空チャンバ11内に導入する。電池1の内部を含めて真空チャンバ11の内部がヘリウムガスで満たされ、ステップ4で真空チャンバ11の内部が常圧(大気圧)に戻った後、第2遮断弁33を全閉状態とする。ヘリウムガスは空気中の酸素ガスや窒素ガスより軽いので、ヘリウムガスの導入によって真空チャンバ11内にわずかに残存していた酸素ガスや窒素ガスは鉛直下方に追いやられてチャンバ11の底面11aに貯まる。この結果、電池1の置かれる雰囲気ガスは全てヘリウムガスとなる。このように、チャンバ11内の空気をヘリウムガスで置換するのは、電池1の内部への酸素ガスの侵入を防止するためである。
【0035】
ステップ5では、真空ポンプ13により真空チャンバ11内の真空引きを再度行う。この真空引きによって真空チャンバ11内が大気圧より低い所定の圧力(減圧状態)になった後、真空ポンプ13の作動を停止する。この真空引きによって真空チャンバ11内のほとんどのヘリウムガスが取り去られ、わずかなヘリウムガスだけがチャンバ11の内部に残存する。
【0036】
ステップ6は、注液前工程のうちのヘリウムガス溶存工程(ガス溶存工程)での作業を記載したものである。ステップ6では、供給ポンプ16を作動させて電解液タンク15内の電解液20をバブリングタンク17に供給すると共に、第1遮断弁23を開いてヘリウムガスボンベ21内のヘリウムガスを導く。そして電解液20をヘリウムガスでバブリングする。このバブリングによって電解液20中に溶存していた酸素が全て離脱し、代わりにヘリウムガスが電解液20中に溶存していく。バブリングは、電池1をトレー12にセットした後の適当な時期に開始させればよい。
【0037】
<注液工程>
注液工程での作業はステップ7である。ステップ7では、供給ポンプ26を作動させ、第1ノズル27を介して電池1の外装材(7)の内部にヘリウムガスを溶存させた電解液20を所定量注入する。所定量、つまり電解液20として供給すべき量は、電極(3、4)及びセパレータ5の有する全空孔を満たす量に余裕分を加えた量である。
【0038】
電池1の外装材(7)の内部の発電要素2の外周を、ヘリウムガスを溶存させた電解液20で満たした後、供給ポンプ26の作動を停止する。このタイミングでヘリウムガスによるバブリングも不要となるので、供給ポンプ16の作動を停止すると共に第1遮断弁23を閉じる。ただし、電池1を真空チャンバ11の内部に次々とセットして注液工程を行う場合には、ヘリウムガスによるバブリングを継続して行わせておけばよい。
【0039】
<含浸工程>
含浸工程での作業はステップ8である。ステップ8では、注液の終了タイミングから所定時間が経過するまで待機する。電池1の外装材(7)の内部にヘリウムガスを溶存させた電解液20を注入したとき、電池1の鉛直上方からは電解液20の浸透圧による、鉛直下方からは気体(ヘリウムガス)及び液体(電解液)の比重差による交換が生じる。ここで、電池1の従来の製造方法の注液・含浸工程では、気体に空気(酸素ガス)を使用しているので、気体(空気)及び液体(電解液)の交換に時間がかかっている。このため、注液の終了タイミングから所定時間が経過すれば、発電要素2の内部の電極(3、4)及びセパレータ4の全ての空孔に電解液20が含浸していなくても含浸工程を終了させていた。そして、熱融着せずに残して置いた一つの周縁部を接合することにより封止を行いその後の充電工程に進ませていた。このため、充電工程で未反応部が発生するという問題が生じている。本実施形態では、電解液20に含まれる気体として空気(第2ガス)より比重の小さな気体であるヘリウムガス(第1ガス)を使用している。これによって、従来の製造方法における注液・含浸工程によるより気体及び液体の比重差が大きくなった分だけ気体及び液体の交換速度が速くなる。つまり、電解液20が発電要素2の内部の電極(3、4)及びセパレータ4の全空孔(発電要素2全体)に行き渡る速度(電解液20の含浸速度)が速くなる。このように、発電要素2の内部の電極(3、4)及びセパレータ4の全空孔に電解液を含浸させることができると、充電工程で、電解液20が浸み込んでいない部位の容量ロスを低減できることとなった。
【0040】
さらに詳述する。
図1には、特にセパレータ5の部位においてセパレータ5の空孔に含浸している電解液20からこの電解液に溶存させているヘリウムガスが、周囲の減圧状態のために気泡25となり、気泡25の有する浮力によって上昇するイメージを示している。電解液20中に溶存しているヘリウムガスが気泡25となって電解液20より抜けていくときの式は、ストークスの式を用いて、
Vs=Dp
2(ρp−ρf)g/18η …(1)
ただし、Vs:気泡の上昇速度
Dp:気泡の直径
ρp:気体(気泡)の比重
ρf:電解液の比重
η:電解液の粘度
の式により表される。この(1)式によれば、電解液と気泡との比重差が大きいほど、気泡の上昇速度Vsが大きいことを表している。この(1)式より、本発明者は、気泡として空気に代えて、空気(第2ガス)よりも比重の小さな気体であるヘリウムガス(第1ガス)を用いれば気泡の上昇速度を速めることができるのでないかと発想したのである。ここで、気体の標準状態(0℃、1atm)で、空気中の酸素ガスの比重は1.105であるのに対して、ヘリウムガスは0.138と小さい。本実施形態によれば、気泡25(ヘリウムガス)の比重が空気中の酸素ガスよりも小さいので、電解液との比重差が酸素ガスの場合より大きくなり、鉛直上方への気泡速度(上昇速度)を速めることができる。この結果、電解液20の発電要素2全体への含浸を従来の製造方法における注液・含浸工程によるよりも早期に終了させることができる。
【0041】
第1実施形態の製造方法における注液・含浸工程の効果を確かめるため、本発明者はヘリウムガスを溶存させた電解液20の注入終了後に仮り封止(後述する)を行った電池1に対し、超音波診断装置を用いて超音波を照射してみた。その結果、電池1内部に気泡(ヘリウムガス)は存在していないことが判明している。気泡が存在すれば周囲の液体部分との屈折率が異なるので、超音波を照射した画像に現れる。ところが、超音波を照射した画像に気泡は見られなかったのである。ということは、電池容量を実質的に低下させてしまうこととなる気泡を電池1内部から全て取り去ることができたことを意味している。さらに述べると、バブリングによって電解液20中から予め酸素を取り去っているので、気泡が存在しないということは、セパレータ5に酸素が存在しない(つまりセパレータ5に含まれる酸素分圧はゼロである)ことを意味している。
【0042】
ヘリウムガスを溶存させた電解液20の注入終了タイミングより電解液20中からヘリウムガスが気泡25となって全て抜けてしまうまで(つまり電解液20が発電要素2の全てに行き渡るまで)の時間(含浸時間)は、実験により予め知り得る。この含浸時間は適合により定めておく。従って、ヘリウムガスを溶存させた電解液20の注入終了タイミングから、この含浸時間が経過したタイミングで、電解液20の含浸を終了したと判断させることができる。本実施形態によれば、電解液20の含浸を終了したと判断し得るタイミングは、従来の製造方法における含浸工程によるより当然ながら早くなる。
【0043】
このように、電解液20の電池1全体への含浸を従来の製造方法における含浸工程によるより早期に終了させることができると、それ以降の操作を早めることができる。
【0044】
<後工程>
後工程での作業はステップ9〜12である。電解液20の含浸を終了(完了)したタイミングでステップ9に進み、第2遮断弁33を開いてヘリウムボンベ21内のヘリウムガスを真空チャンバ11内に導入する。電池1の内部を含めて真空チャンバ11の内部がヘリウムガスで満たされ常圧(大気圧)に戻った後、第2遮断弁33を全閉状態とする。このように電解液20の含浸を終了した電池1を常圧の雰囲気ガスの状態に戻すに際しても、ヘリウムガス雰囲気下で行わせるのは、電解液20の含浸を終了した電池1の外装材(7)の内部に空気(酸素ガス)が再び侵入することを防ぐためである。
【0045】
ステップ11では電解液20の含浸を終了した電池1をトレー12から真空チャンバ11の外に取り出す。
【0046】
ステップ12では、電解液20を注入するために開口していた一つの周縁部に、真空ポンプにつながるパイプの一端を入れると共に真空ポンプを作動させる。そして、電解液20の鉛直上部に残る気体部分を真空引きしながら、熱融着により電解液20を注入するために開口していた一つの周縁部を接合して電池1を仮封止する(密閉状態とする)。これで後工程を終了する。なお、電池1を真空チャンバ11の外に取り出すことなく、仮封止するまでを真空チャンバ11の内部で行わせてもかまわない。
【0047】
<充電工程>
ステップ13以降は初回充電工程での作業(操作)であり、これは従来の製造方法における初回充電工程での作業と同じである。すなわち、ステップ13では、図示しない充電装置を用いて仮封止した電池1に対して初回の充電を行う。この充電により、電極3、4と電解液20とが電気化学的に反応してガスが発生する。ステップ14では、仮封止のため熱融着した周縁部の近傍の外装材(7)にガス抜き孔を開け、電池1の内部に発生したガスを抜き取る。ガス抜き後には再び電解液20の鉛直上部に残る気体を真空引きしながらガス抜き孔より内周側の外装材(7)を熱融着により接合して電池1を本封止する(密閉状態とする)。仮封止のため熱融着した部分は切除して電池1を完成する。
【0048】
このように、本実施形態によれば、空気(酸素ガス)に代えてヘリウムガスを溶存させた電解液20を電池1の外装材(7)の内部に注入することで、電解液20中に溶存するガスがヘリウムガスとなり、電解液20中に溶存するガスが電解液20中を抜ける速度が上記(1)式に従って速くなる。空気に対しヘリウムガスでは気泡抜けの速度が約3倍に向上する。このため、電解液20の電極3、4及びセパレータ5への含浸性が向上するとともに、含浸工程に要する時間を短縮して電池1の生産性を向上することができる。
【実施例】
【0049】
(電池の製造方法)
次に、注液する前の電池1の製造方法を具体的に説明する。
【0050】
以下の材料を所定の比で混合して正極スラリーを作製した。正極活物質としてスピネルLiMn
2O
4(85wt% or 92wt%)、導電助剤としてアセチレンブラック(5wt%)、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデンPVDF(10wt%)もしくはスチレンブタジエンゴム(3wt%)を用い、スラリー粘度調整溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンNMPを塗布工程に最適な粘度となるまで添加し、正極スラリーを作製した。
【0051】
上記正極スラリーをアルミ集電箔(厚さ20μm)の両面に塗布し、乾燥させて正極4を成形した。正極電極厚みは片面で60μmになるようにプレスを行った。
【0052】
以下の材料を所定の比で混合して負極スラリーを作製した。負極活物質としてハードカーボン(90wt% )、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンPVDF(10wt% )を用い、スラリー粘度調整溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンNMPを塗布工程に最適な粘度となるまで添加し、負極スラリーを作製した。
【0053】
上記負極スラリーをCu集電箔(厚さ20μm)の両面に塗布し、乾燥させて負極3を形成した。負極電極厚みは片面で50μmになるようにプレスを行った。
【0054】
セパレータ5は厚み15μmとなるように微多孔ポリエチレンフィルムで作成した。
【0055】
電解液は、エチレンカーボネイト(EC)とジエチレンカーボネイト(DEC)を体積比1:1の配合比で混合した混合溶媒に、溶質として6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度に溶解したものを用いた。
【0056】
以上の正極4、セパレータ5、負極3を所定の大きさに切断した後、順に積層し、発電要素2を作成した。発電要素2はアルミラミネートフィルム7に収容し、収容したフィルムの四つの周縁部のうち一つの周縁部を残して熱融着により封止した。
【0057】
このように形成した電池1を、電解液20の注入のために残した一つの周縁部を鉛直上方にして真空チャンバ11内のトレー12に収納し、上記のようにして電解液20を注入した。
【0058】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0059】
本実施形態によれば、電極3、4及びセパレータ5を有する発電要素2を外装材(7)に収容した電池1(電気デバイス)の製造方法において、外装材(7)の一部を開口させた状態で外装材(7)の内部に電解液20を注入する注液工程(
図4のステップ7参照)と、この注液工程の後に電解液20を発電要素2の内部へと含浸させる含浸工程(
図4のステップ8参照)とを含み、注液工程で電解液20中に溶存させたヘリウムガス(第1ガス)の比重は、電池1(電気デバイス)の置かれる雰囲気ガスである空気(第2ガス)の比重より小さいので、空気とヘリウムガスとの両ガスの比重差の分だけ電解液20中からのガス(第1ガス)の抜け速度が早くなり、その分、セパレータ5への含浸性が向上し、含浸工程に要する時間を短縮することができる。含浸工程に要する時間を短縮できると、電池1の生産性を向上することが可能となる。
【0060】
本実施形態によれば、電極3、4及びセパレータ5を有する発電要素2を外装材(7)に収容した電池1(電気デバイス)の製造方法において、外装材(7)の一部を開口させた状態で外装材(7)の内部に電解液20を注入する注液工程(
図4のステップ7参照)と、この注液工程の後に電解液を前記発電要素の内部へと含浸させる含浸工程(
図4のステップ8参照)とを含み、注液前工程(注液工程の前工程)で電解液20に電池1(電気デバイス)の置かれる雰囲気ガスである第2ガスより比重の小さいガス(つまりヘリウムガス)を第1ガスとしてこの第1ガスを溶存させるので(
図4のステップ6参照)、空気(酸素ガス)より比重の小さい分だけ電解液20中からのガス(第1ガス)の抜け速度が早くなり、その分電解液20の特にセパレータ5への含浸性が向上し、含浸工程に要する時間を短縮することができる。
【0061】
本実施形態によれば、電解液20を空気より比重の小さいガスであるヘリウムガス(第
1ガス)でバブリングすることによって、注液前工程(注液工程の前工程)で電解液20に空気より比重の小さいガスであるヘリウムガス(第
1ガス)を溶存させるので(
図4のステップ6参照)、簡易な方法によって注液前工程(注液工程の前工程)で電解液20に空気より比重の小さいガスであるヘリウムガスを溶存させることができる。
【0062】
電池1(電気デバイス)の内部が空気(第2ガス)であれば、注液工程の後にも空気が電池1の内部に残存することが考え得るが、本実施形態によれば、電池1の内部を空気より比重の小さいガスであるヘリウムガス(第1ガス)で置換するガス置換工程を注液前工程(注液工程の前工程)に含むので(
図4のステップ3参照)、注液工程の後に空気(第2ガス)が電池1内部に残存することを回避できる。
【0063】
本実施形態によれば、注液工程において電池1の内部に存在するガスを、空気より軽い比重のガスであるヘリウムガス(第1ガス)とするので(
図4のステップ2、3、4、5参照)、空気より軽い比重のヘリウムガスとした分だけ、電解液20中からのヘリウムガス(第1ガス)の抜け速度が早くなり、その分電解液20の特にセパレータ5への含浸性が向上し、注液工程に要する時間を短縮することができる。
【0064】
ヘリウムガスは不活性ガスの中で最も比重の小さなガスである。本実施形態によれば、注液工程において電池1の内部に存在するガスをヘリウムガスとするので(
図4のステップ2、3、4、5参照)、電解液20中からのヘリウムガス(第1ガス)の抜け速度が最も早くなり、その分電解液20の特にセパレータ5への含浸性が向上し、含浸工程に要する時間を最も短縮することができる。
【0065】
本実施形態によれば、電極3、4及びセパレータ5を有する発電要素2を外装材(7)に収容した電池1(電気デバイス)の製造装置において、外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1を収納すると共に、密閉状態とすることが可能な真空チャンバ11(チャンバ)と、この真空チャンバ11の内部のガスを真空チャンバ11の外部に追い出し得る真空ポンプ13(ポンプ)と、電解液を貯蔵する電解液タンク15と、電池1の置かれる雰囲気ガスである空気(第2ガス)より比重の小さいガス(ヘリウムガス)を第1ガスとしてこの第1ガスを貯留する第1ガスボンベ(21)と、電解液タンク15からの電解液を第1ガスボンベ(21)からの第1ガス(ヘリウムガス)でバブリングすることにより電解液に第1ガスを溶存させることが可能なバブリングタンク17と、このバブリングタンク17によりバブリングされた電解液20を外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1に供給する第1供給装置(26、27)とを備え、真空チャンバ11を密閉状態に保ったまま真空ポンプ13を作動させて真空チャンバ11の内部を大気圧より低い減圧状態にすると共に、第1供給装置(26、27)を作動させてバブリングされた電解液20を外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1に供給するので、空気(第2ガス)より比重の小さい分だけ電解液20中からのガス(第1ガス)の抜け速度が早くなり、その分、セパレータ5への含浸性が向上し、含浸工程に要する時間を短縮することができる。
【0066】
本実施形態によれば、第2ガスボンベ(21)からの第2ガス(ヘリウムガス)真空チャンバ11の内部に供給する第2供給装置(31、32、33、34)を備え、バブリングされた電解液20を外装材(7)の一部を開口させた状態の電池1に供給する前に、第2供給装置を作動させて電池1の内部を第1ガスで置換するので(
図4のステップ3参照)、注液工程の後に空気(第2ガス)が電池1内部に残存することを回避できる。
【0067】
図5は
第1実施形態に対する比較例の電池1の製造装置を説明するための全体図、
図6は
比較例の注液前工程、注液工程、含浸工程、後工程を説明するためのフローチャートで、第1実施形態の
図1、
図4とそれぞれ置き換わるものである。
図5において
図1と同一部分には同一の符号を、
図6において
図4と同一部分には同一の番号を付している。
【0068】
第1実施形態ではバブリングタンク17で電解液20にヘリウムガスを通過させることにより、電解液にヘリウムガスを溶存させ、このヘリウムガスを溶存させた電解液20を電池1の内部に注入した。
比較例は、
図6に示したようにステップ21で電解液タンク15をあらかじめ真空引きすることにより電解液タンク15内の電解液20に溶存している酸素を取り去り、この酸素を取り去った電解液20を電池1の外装材(7)の内部に注入するものである。
【0069】
ステップ21で電解液タンク15を真空引きする目的は、電解液タンク15の内部の電解液20中に溶存している酸素を離脱させて取り去ることにある。例えば、電解液タンク15を丈夫な材質で密閉タンク状に形成し、この電解液タンク15の内部に電解液20を貯溜させたとき、タンク15内部の鉛直上方に気体部分が生じる。この部位の気体を真空ポンプ41で真空引きすれば、電解液20中に溶存している酸素を離脱させて取り去ることができる。酸素を取り去った後の電解液20は、供給ポンプ26により第1ノズル27に供給する。
【0070】
比較例によれば、電解液を貯蔵する電解液タンク15を備え、この電解液タンク15を注液前工程(注液工程の前工程)で真空引きするので(
図6のステップ21参照)、注液前工程で電解液20を真空引きをしない場合よりセパレータ5に含まれる酸素を低減することができる。
【0071】
実際には、
比較例よりも第1実施形態のほうが好ましい。というのも、
比較例によれば、電解液タンク15の内部の電解液20を第1ノズル27へと供給する途中で電解液20中に空気(酸素ガス)が再び溶存する可能性があるためである。一方、第1実施形態によれば、第1ノズル27にヘリウムガスが溶存している電解液20を供給する途中で、電解液20中に空気中の酸素ガスが溶け込もうとしてもヘリウムガスに邪魔されて溶け込むことができない。
【0072】
実施形態では、電池1がリチウムイオン二次電池である場合で説明したが、これに限られるものでない。例えば、電極及びセパレータを有するリチウムイオンキャパシタに電解液を注入する際にも本発明の適用がある。本発明では、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタを含む概念として「電気デバイス」を用いている。