(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
潤滑油を直接軸受内部に吹き付ける、所謂ジェット給油法では、潤滑油に異物が含まれて軸受の隙間に異物が入り込み、軸受が損傷する可能性がある。この損傷は、過給機の静音性や振動特性の劣化要因となるとともに、過給機の寿命を低下させる。また、ジェット給油法では、潤滑油が軸受内部の転動体に勢いよく当たることで、軸受の回転の抵抗となって機械損失が生じてしまう。
【0006】
上述した特許文献1の構成であれば、潤滑油に含まれる異物は、タービン軸およびスリンガで弾かれ軸受に到達しない可能性もある。しかし、タービン軸が回転していないときには、潤滑油を軸受に供給すること自体が不可能となってしまう。
【0007】
本発明の目的は、機械損失を抑制し、過給機の稼働状態にかかわらず軸受に潤滑油を供給可能とし、軸受内部への異物の侵入を抑制することができる過給機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の過給機は、一端側にタービンハウジングが固定され、他端側にコンプレッサハウジングが固定されたベアリングハウジングと、前記タービンハウジング内に収容されるタービンインペラが一端に設けられ、前記コンプレッサハウジング内に収容されるコンプレッサインペラが他端に設けられたタービン軸と、前記ベアリングハウジングの内部に配され、互いに離間して前記タービン軸を回転自在に軸支する2つの軸受と、前記ベアリングハウジングの内部に配され、前記2つの軸受を保持するとともに、前記ベアリングハウジングとの間に油膜を形
成するオイルフィルムダンパと、前記オイルフィルムダンパに形成され、該オイルフィルムダンパの外部から前記軸受近傍まで貫通し、潤滑油が内部を流通する貫通孔と、を備え、前記2つの軸受の内輪には、前記タービン軸の軸方向であって該2つの軸受が互いに近接する方向に向かって、該2つの軸受の外輪よりも長く延在し、前記貫通孔から流出する前記潤滑油の流路に位置するテーパ面、または、曲面であって、該貫通孔
および該軸受の転動体に臨む導油部が形成されている。
【0011】
前記2つの軸受の間に配され、弾性力によって該2つの軸受を互いに離間する方向に付勢する間在部をさらに備え、前記間在部は、スプリングと、前記スプリングを前記タービン軸の軸方向の外側から挟み、前記2つの軸受それぞれに接触する2つのスプリング受けと、で構成され、前記スプリング受けは、前記貫通孔に連通するとともに前記導油部に対向する接続孔が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機械損失を抑制し、過給機の稼働状態にかかわらず軸受に潤滑油を供給可能とし、軸受内部への異物の侵入を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、過給機1の概略断面図である。以下では、
図1に示す矢印F方向を過給機1の前側とし、矢印R方向を過給機1の後側として説明する。
図1に示すように、過給機1は、ベアリングハウジング2と、ベアリングハウジング2の前側に締結ボルト3によって連結されるタービンハウジング4と、ベアリングハウジング2の後側に締結ボルト5によって連結されるコンプレッサハウジング6と、が一体化されて形成されている。
【0016】
各ハウジング2、4、6の内部にはタービン軸7が配される。タービン軸7の前端部(一端)にはタービンインペラ8が一体的に設けられており、このタービンインペラ8がタービンハウジング4内に回転自在に収容されている。また、タービン軸7の後端部(他端)にはコンプレッサインペラ9が一体的に設けられており、このコンプレッサインペラ9がコンプレッサハウジング6内に回転自在に収容されている。
【0017】
ベアリングハウジング2には、円筒形状の内周面を形成する配置孔2aが設けられており、この配置孔2aに円筒部材で構成されるオイルフィルムダンパ10が挿入されている。オイルフィルムダンパ10には、過給機1の前後方向に貫通する軸受孔10aが形成されており、この軸受孔10aに2つの軸受11が保持されている。タービン軸7は、2つの軸受11によって回転自在に軸支される。ここでは、軸受11は、ラジアル荷重に加えアキシアル荷重を同時に支持可能なアンギュラ玉軸受である。
【0018】
ベアリングハウジング2に設けられたオイル供給口2bから潤滑油が圧入されると、潤滑油は、配置孔2aを区画形成するベアリングハウジング2の内周面と、オイルフィルムダンパ10の外周面との間に形成される間隙に導かれ、オイルフィルムダンパ10とベアリングハウジング2との間に油膜が形成される。オイルフィルムダンパ10は、この油膜によって軸受11に軸支されたタービン軸7の振動を抑制する。
【0019】
そして、オイル供給口2bから供給された潤滑油は、オイルフィルムダンパ10の外周および内部を伝って、ベアリングハウジング2に設けられた排出口2cからベアリングハウジング2の外部に排出される。オイルフィルムダンパ10の内部構造については後に詳述する。
【0020】
コンプレッサハウジング6には、過給機1の後側に開口するとともに不図示のエアクリーナに接続される吸気口12が形成されている。また、締結ボルト5によってベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6とが連結された状態では、これら両ハウジング2、6の対向面によって、ディフューザ流路13が形成される。このディフューザ流路13は、タービン軸7(コンプレッサインペラ9)の径方向内側から外側に向けて環状に形成されており、上記の径方向内側において、コンプレッサインペラ9を介して吸気口12に連通している。
【0021】
また、コンプレッサハウジング6には、ディフューザ流路13よりもタービン軸7(コンプレッサインペラ9)の径方向外側に位置する環状のコンプレッサスクロール流路14が設けられている。コンプレッサスクロール流路14は、エンジンの吸気口と連通するとともに、ディフューザ流路13にも連通している。したがって、コンプレッサインペラ9が回転すると、吸気口12からコンプレッサハウジング6内に流体が吸気されるとともに、当該吸気された流体は、ディフューザ流路13およびコンプレッサスクロール流路14で昇圧されて不図示のエンジンの吸気口に導かれることとなる。
【0022】
タービンハウジング4には、過給機1の前側に向かって開口するとともに不図示の排気ガス浄化装置に接続される吐出口15が形成されている。また、タービンハウジング4内には、タービンインペラ8の径方向外側に位置するタービンスクロール流路16が設けられている。
【0023】
具体的には、タービンスクロール流路16は、例えば、エンジン等から排出される排気ガスが導かれる不図示のガス流入口と連通する。そして、ガス流入口からタービンスクロール流路16に排気ガスが導かれると、当該排気ガスがガス流入口からタービンスクロール流路16に沿ってタービン軸7の回転方向に周回しながら、当該タービンスクロール流路16の径方向内側に導かれる。このようにしてタービンスクロール流路16の径方向内側に導かれた排気ガスは、タービンインペラ8を介して吐出口15に導かれるとともに、その流通過程においてタービンインペラ8を回転させることとなる。そして、上記のタービンインペラ8の回転力は、タービン軸7を介してコンプレッサインペラ9に伝達されることとなり、コンプレッサインペラ9の回転力によって、上記のとおりに、流体が昇圧されてエンジンの吸気口に導かれることとなる。
【0024】
図2は、オイルフィルムダンパ10の内部構造を説明するための説明図である。特に、
図2(a)は、
図1のオイルフィルムダンパ10近傍の部分拡大図を示し、
図2(b)は、
図2(a)中、左上の軸受11近傍の部分拡大図を示す。
【0025】
図2(a)に示すように、オイルフィルムダンパ10には貫通孔10bが設けられる。貫通孔10bは、オイルフィルムダンパ10の外部から軸受11近傍まで、タービン軸7の径方向(以下、単に径方向と称す)に貫通し、潤滑油をオイルフィルムダンパ10の外部から内部へと導く。
【0026】
また、2つの軸受11の間には、間在部17が配される。間在部17は、2つの軸受11の間隔を維持するように、例えば、タービン軸7の軸方向(以下、単に軸方向と称す)に圧縮した状態で両軸受11間に配置され、弾性力によって2つの軸受11を互いに離間する方向(スラスト方向)に付勢する。本実施形態において、間在部17は、軸方向に圧縮されたスプリング18と、スプリング18を軸方向の外側から挟み、2つの軸受11それぞれに接触する2つのスプリング受け19とで構成される。
【0027】
図2(b)に示すように、スプリング受け19は、環状部材であり、スプリング18との対向面19aおよび軸受11との対向面19bがそれぞれ平面となっている。対向面19bは、径方向の肉厚が軸受11の外輪11aと大凡等しく、軸受11の外輪11aと面接触している。
【0028】
また、スプリング受け19は、軸受11の内輪11bと非接触状態を維持している。
【0029】
スプリング受け19には、オイルフィルムダンパ10の貫通孔10bに連通する接続孔19cが形成されており、貫通孔10bに導かれた潤滑油が、接続孔19cを介してスプリング受け19内に流れ込むように構成されている。
【0030】
従来用いられていたジェット給油法は、このようにオイルフィルムダンパの内部に導かれた潤滑油を、直接軸受に吹き付ける。ジェット給油法は、仮に、潤滑油に異物が含まれていると、軸受の隙間に異物が入り込んでしまい、軸受が損傷する可能性があるとともに、潤滑油が軸受に勢いよく当たることで、軸受の回転の抵抗となって機械損失が生じるおそれがある。
【0031】
そこで、軸受11の内輪11bには導油部11cが形成されている。導油部11cは、タービン軸7の軸方向であって2つの軸受11が互いに近接する方向に向かって、2つの軸受11の外輪11aよりも長く延在する。本実施形態において、接続孔19cは導油部11cに対向し、導油部11cは、接続孔19cを介し貫通孔10bから流出する潤滑油の流路に位置し、軸受11の内部の転動体11dおよび貫通孔10b(接続孔19c)に臨むテーパ面である。導油部11cは、例えば、貫通孔10bの延長線上、すなわち、貫通孔10bに対して径方向内側に設けられる。
【0032】
そして、導油部11cは、接続孔19cを介し貫通孔10bから供給された潤滑油を、
図2(b)に示す矢印Aの向きに、例えば、弾いたり飛散させたりすることで、潤滑油を転動体11dに導く。
【0033】
このように、本実施形態の過給機1は、オイルフィルムダンパ10の貫通孔10bを通じて、過給機1の稼働状態にかかわらず軸受11に潤滑油を供給できる。また、一旦、導油部11cで潤滑油を受けるため、潤滑油に異物が混入している場合であっても、異物は例えば潤滑油よりも比重が重い等の理由から潤滑油のように転動体11dに弾かれず、導油部11cに付着する。そして、異物は、導油部11cの回転の遠心力によって、導油部11cを伝ってスプリング受け19の内周面19dに弾かれる。内周面19dに弾かれた異物は、スプリング受け19とタービン軸7の隙間を通り、オイルフィルムダンパ10の落油孔10cを伝って、ベアリングハウジング2の排出口2cから排出されることが多い。そのため、過給機1は、軸受11内部の転動体11dへの異物の侵入が抑制されて、異物に起因する軸受11の損傷を防ぎ、ひいては静音性や振動特性の劣化を防止するとともに、寿命の低下を抑えることが可能となる。
【0034】
また、過給機1は、一旦、導油部11cに当たって勢いが弱まった潤滑油が転動体11dに到達するため、転動体11dが直接潤滑油を受ける場合に比べ、軸受11で生じる機械損失を抑制することが可能となる。
【0035】
また、スプリング受け19に接続孔19cを設ける構成により、接続孔19cを導油部11cに近接させることができ、接続孔19cから流出した潤滑油を導油部11cに確実に当てることが可能となる。
【0036】
ここでは、貫通孔10bおよび接続孔19cが軸方向に対して垂直な方向に直線的に穿孔された構成を例に挙げたが、貫通孔10bおよび接続孔19cは、軸方向に対して、垂直以外の角度で穿孔されてもよいし、例えば屈曲していてもよい。
【0037】
上述したように、導油部11cをテーパ面とする構成により、過給機1は、外輪11aよりも軸方向に長い内輪11bに対し、テーパを付けるといった簡易な加工によって、導油部11cを設けることができ、製造コストを低減できる。
【0038】
(第1変形例)
図3は、第1変形例および第2変形例を説明するための説明図であって、
図2(b)に対応する位置の断面図である。
図3(a)に示すように、第1変形例における軸受21の内輪21bに設けられた導油部21cは、上述したようなテーパではなく、接続孔19cを介し貫通孔10bから流出する潤滑油の流路に位置する曲面である。ここでは、特に、軸受21の外輪21aに近接する方向に凸状に突出している。
【0039】
導油部21cとして、凸方向に突出した曲面を設ける場合、潤滑油が広範囲に飛散するため、軸受21全体に潤滑油を導くことが可能となる。
【0040】
(第2変形例)
図3(b)に示すように、第2変形例における軸受31の内輪31bに設けられた導油部31cは、接続孔19cを介し貫通孔10bから流出する潤滑油の流路に位置する曲面であって、軸受31の外輪31aから内輪31bに近接する方向に凸状となる曲面で構成されている。
【0041】
導油部31cとして、上記の曲面を設ける場合、導油部31cで弾かれた潤滑油の方向が乱れ難く、潤滑油を効率的に軸受31の内部の転動体31dに導くことが可能となる。
【0042】
上述した第1変形例および第2変形例のいずれにおいても、導油部21c、31cを曲面とする構成により、外輪21a、31aよりも軸方向に長い内輪21b、31bに対し、丸み付けの加工をするといった簡易な処理によって導油部21c、31cを設けることができ、製造コストを低減できる。
【0043】
(第3変形例)
図4は、第3変形例を説明するための説明図である。特に、
図4(a)は、
図2(a)に対応する位置の断面図であり、
図4(b)は、
図4(a)中、左上の軸受11近傍の部分拡大図を示す。
【0044】
図4(a)に示すように、第3変形例における間在部47は、上述したようなスプリングおよびスプリング受けではなく、金属の円筒体で構成される間座である。また、
図4(b)に示すように、間在部47は、軸受11の内輪11bと接触して内輪11bと共に回転する。
【0045】
導油部11cは、上記の実施形態で説明したように、軸受11の内輪11bに設けられたテーパ面である。そして、導油部11cは、貫通孔10bから流出する潤滑油の流路に位置する。具体的に、導油部11cは、例えば、貫通孔10bの延長線上、すなわち、貫通孔10bに対して径方向内側に設けられ、貫通孔10bに臨むように設けられている。そして、導油部11cは、潤滑油を軸受11の内部の転動体11dに導く。また、導油部11cはテーパに限らず、第1変形例や第2変形例のように、曲面であってもよい。
【0046】
第1変形例、第2変形例および第3変形例においても、過給機1は、上述した実施形態の効果と同様、稼働状態にかかわらず軸受11、21、31に潤滑油を供給でき、異物に起因する軸受11、21、31の損傷を防ぎ、ひいては静音特性や振動特性の劣化を防止するとともに、寿命の低下を抑える。さらに、過給機1は、転動体11d、21d、31dが直接潤滑油を受ける場合に比べ、軸受11、21、31で生じる機械損失を抑制可能となる。
【0047】
上述した実施形態および変形例では、軸受11、21、31は、アンギュラ玉軸受を例に挙げたが、過給機1のタービン軸7を回転自在に軸支できれば、その種類は問わない。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。