特許第6015087号(P6015087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015087有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015087
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20161013BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20161013BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   H05B33/10
   H05B33/14 A
   H05B33/22 C
   H05B33/22 D
   H05B33/02
【請求項の数】3
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-93867(P2012-93867)
(22)【出願日】2012年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-222615(P2013-222615A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】徳永 圭治
(72)【発明者】
【氏名】武田 利彦
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−119303(JP,A)
【文献】 特開2000−156291(JP,A)
【文献】 特開2009−44102(JP,A)
【文献】 特開2009−290204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50−51/56
H01L 27/32
H05B 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、前記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、前記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程が、
表面に保護剤が連結した金属ナノ粒子を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層形成用層を形成する正孔注入輸送層形成用層形成工程と、
前記正孔注入輸送層形成用層にプラズマ処理を施して前記金属ナノ粒子を酸化する酸化処理工程と
を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
基板上に前記陽極または前記陰極が形成され、前記基板が樹脂基板であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記正孔注入輸送層形成工程後、前記正孔注入輸送層上に正孔輸送層または前記発光層を塗布法により形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子または金属錯体を用いて正孔注入輸送層を形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光層に到達した電子と正孔とが再結合する際に生じる発光を利用した電荷注入型の自発光素子である。以下、エレクトロルミネッセンスをELと称する場合がある。
有機EL素子の素子構造は、陽極/有機層/陰極から構成される。陽極と陰極の間に形成される層は、初期の有機EL素子においては発光層/正孔注入層の二層構造であったが、現在では、高い発光効率と長駆動寿命を得るために、電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層の五層構造等、様々な多層構造が提案されている。これら電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層等の発光層以外の層には、電荷を発光層へ注入または輸送しやすくする効果、あるいはブロックすることにより電子電流と正孔電流のバランスを保持する効果や、光エネルギー励起子の拡散を抑制する効果等があるといわれている。
【0003】
有機EL素子においては、高い発光効率を得るために、電極から発光層に電荷を効率的に注入することが必要であるが、一般的に陽極や陰極の仕事関数と発光層のイオン化ポテンシャルまたは電子親和力とはエネルギー準位の差が大きく、電荷を容易に注入できない。そのため、従来では、陽極と発光層との間に正孔輸送層や正孔注入層を設けたり、陰極と発光層との間に電子輸送層や電子注入層を設けたりして、陽極や陰極から発光層に向かって各層界面の電荷注入のエネルギー障壁を小さくすることが行われている。
陽極に接する正孔注入層は、陽極から正孔輸送層または発光層へ正孔を注入しやすくするという目的に使用される。したがって、正孔注入層に用いられる材料は、陽極から正孔輸送層または発光層に向かって各層界面での正孔注入のエネルギー障壁を小さくするようなイオン化ポテンシャルを持つことが望ましい。
【0004】
従来、有機EL素子においては、正孔注入特性の向上を目的として、正孔注入層に金属酸化物を用いることが試みられている。しかしながら、モリブデン酸化物等の正孔注入性を有する金属酸化物は溶媒に不溶であり、塗布法により成膜できないという問題があった。また、モリブデン酸化物等の正孔注入性を有する金属酸化物には種々の酸化数を持つものがあるが、大気中で安定であり蒸着法により容易に成膜できる金属酸化物としては安定な価数を持つものに限定されてしまい、正孔注入性の良好な金属酸化物を使用できないという問題があった。
【0005】
そこで、正孔注入特性の良好な金属酸化物を含有する正孔注入輸送層を容易に形成することを目的として、例えば特許文献1および特許文献2には、遷移金属ナノ粒子あるいはモリブデン錯体またはタングステン錯体を含有するインクを用いて正孔注入輸送層を形成した後に、正孔注入輸送層中の遷移金属ナノ粒子あるいはモリブデン錯体またはタングステン錯体を酸化物にする方法、および、遷移金属ナノ粒子あるいはモリブデン錯体またはタングステン錯体を含有するインクを調製した後に、遷移金属ナノ粒子あるいはモリブデン錯体またはタングステン錯体を酸化物にし、酸化物にされた遷移金属ナノ粒子あるいはモリブデン錯体またはタングステン錯体を含有するインクを用いて正孔注入輸送層を形成する方法が提案されている。
【0006】
従来、金属ナノ粒子または金属錯体を酸化物にする方法としては、例えば200℃以上での熱処理が知られている。しかしながら、熱処理を行うと、例えば正孔注入輸送層の下に発光層等の有機層が形成されている場合には、有機層は熱的に不安定であるため、上述の方法が適用できないという問題があった。また、有機EL素子の支持基板として樹脂基板を用いる場合にも、樹脂基板は耐熱性が低いため、上述の方法を適用するのは困難である。
【0007】
ところで、有機EL素子の製造過程においてはプラズマ処理が行われる場合がある。
例えば、正孔注入効率の向上を目的として、陽極の仕事関数を大きくして正孔輸送層とのエネルギー障壁を小さくするために酸処理を行うことが試みられており、特許文献3には、酸処理としてハロゲンガス存在下でプラズマ処理を行うことが提案されている。また、特許文献4には、プラズマ洗浄によって陽極の濡れ性が高まり、陽極の表面に酸が強固に固定されて陽極の仕事関数が大きくなることが開示されている。なお、上記のハロゲンガス存在下でプラズマ処理およびプラズマ洗浄は、陽極表面に残っている有機溶剤等による残留有機成分を除去するための処理であり、金属を酸化物にするための処理ではない。
【0008】
また、特許文献5には、樹脂成分と溶剤を主成分とするビヒクルに蛍光体を練り込んだ蛍光体ペーストを塗布して蛍光体層を形成する場合に、蛍光体ペースト中に存在する樹脂成分を除去するために、基板上に塗布した蛍光体ペーストにアッシング処理としてプラズマ処理を施すことが提案されている。なお、上記のプラズマ処理によるアッシング処理は、樹脂成分を除去するための処理であり、金属を酸化物にするための処理ではない。
【0009】
また、特許文献6には、電荷輸送性に影響を及ぼす重合開始剤等の非存在下、電荷輸送材料を重合もしくは架橋させて硬化させるために、電荷輸送材料の塗膜に不活性ガス気流中でプラズマ処理を行うことが提案されている。なお、上記の不活性ガス気流中でのプラズマ処理は、電荷輸送材料を硬化させるための処理であり、金属を酸化物にするための処理ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−290204号公報
【特許文献2】特開2009−290205号公報
【特許文献3】特開2007−66916号公報
【特許文献4】特開2007−273487号公報
【特許文献5】特開2004−253205号公報
【特許文献6】特開2011−139031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、低温プロセスにより正孔注入特性の良好な正孔注入輸送層を形成することが可能な有機EL素子の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、正孔注入輸送層形成時の金属ナノ粒子および金属錯体の酸化について鋭意検討した結果、プラズマ処理により金属ナノ粒子および金属錯体の酸化が可能であり、かつ従来の熱処理による酸化と同等の特性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子の製造方法であって、上記正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程が、金属ナノ粒子または金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層形成用層を形成する正孔注入輸送層形成用層形成工程と、上記正孔注入輸送層形成用層にプラズマ処理を施して上記金属ナノ粒子または上記金属錯体を酸化する酸化処理工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、プラズマ処理により金属ナノ粒子または金属錯体を酸化物にするので、例えば常温等の低温で酸化処理を行うことが可能である。
【0015】
上記発明においては、基板上に上記陽極または上記陰極が形成され、上記基板が樹脂基板であることが好ましい。本発明においては、上述のように低温での酸化処理が可能であるので、耐熱性の低い樹脂基板も用いることができる。
【0016】
また本発明においては、上記正孔注入輸送層形成工程後、上記正孔注入輸送層上に正孔輸送層または上記発光層を塗布法により形成することが好ましい。本発明においてはプラズマ処理を行うため、熱処理の場合と比較して有機物が除去されやすく、正孔注入輸送層表面の濡れ性が向上することが期待される。そのため、正孔注入輸送層上に正孔輸送層または発光層を塗布法により形成することで、密着性良く安定的に正孔輸送層または発光層を形成することができると考えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、プラズマ処理により金属ナノ粒子または金属錯体を酸化するため、低温プロセスで正孔注入特性の良好な正孔注入輸送層を形成することが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。
図2】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
図3】本発明の有機EL素子の製造方法により製造される有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明の有機EL素子の製造方法は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子の製造方法であって、上記正孔注入輸送層を形成する正孔注入輸送層形成工程が、金属ナノ粒子または金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層形成用層を形成する正孔注入輸送層形成用層形成工程と、上記正孔注入輸送層形成用層にプラズマ処理を施して上記金属ナノ粒子または上記金属錯体を酸化する酸化処理工程とを有することを特徴とする。
【0021】
本発明の有機EL素子の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図1(a)〜(f)は本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、図1(a)に示すように陽極3が形成された基板2を準備する。次に、図1(b)に示すように陽極3上に、金属ナノ粒子または金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を塗布し、正孔注入輸送層形成用層4aを形成する正孔注入輸送層形成用層形成工程を行う。次いで、図1(c)に示すように正孔注入輸送層形成用層4aにプラズマ11を照射して正孔注入輸送層形成用層4a中の金属ナノ粒子または金属錯体を酸化する酸化処理工程を行う。これにより、正孔注入輸送層4が形成される。次に、図1(d)に示すように正孔注入輸送層4上に発光層5を形成する。次いで、図1(e)に示すように発光層5上に電子注入層6を形成し、さらに図1(f)に示すように電子注入層6上に陰極7を形成する。このようにして、有機EL素子1が作製される。
【0022】
図2(a)〜(g)は本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。まず、図2(a)に示すように陰極7が形成された基板2を準備する。次に、図2(b)に示すように陰極7上に電子注入層6を形成し、続いて図2(c)に示すように電子注入層6上に発光層5を形成する。次に、図2(d)に示すように発光層5上に、金属ナノ粒子または金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を塗布し、正孔注入輸送層形成用層4aを形成する正孔注入輸送層形成用層形成工程を行う。次いで、図2(e)に示すように正孔注入輸送層形成用層4aにプラズマ11を照射して正孔注入輸送層形成用層4a中の金属ナノ粒子または金属錯体を酸化する酸化処理工程を行う。これにより、正孔注入輸送層4が形成される。次に、図2(f)に示すように正孔注入輸送層4上に保護層10を形成し、さらに図2(g)に示すように保護層10上に陽極3を形成する。このようにして、有機EL素子1が作製される。
【0023】
本発明においては、プラズマ処理により金属ナノ粒子または金属錯体を酸化物にするので、例えば常温等の低温で酸化処理を行うことが可能である。そのため、例えば図1(a)および図2(a)に示すように基板2上に陽極3または陰極7が形成されている場合には、基板に耐熱性の低い樹脂基板を使用することもでき、すなわちフレキシブル性を有する基板を用いることができる。したがって、種々の用途に応用可能な有機EL素子を得ることができ、またロールツーロールにより有機EL素子を製造することができ生産効率を向上させることができる。また、例えば図2(d)〜(e)に示すように発光層5等の有機層上に正孔注入輸送層4を形成する場合には、金属ナノ粒子または金属錯体を酸化物にするために従来のような熱処理は不要であるので、熱による有機層の劣化を防止することができる。したがって、有機EL素子の特性を向上させることができる。
【0024】
また本発明においては、プラズマ処理を行うため、短時間で金属ナノ粒子または金属錯体を酸化物にすることができ、従来の熱処理と比較して酸化処理時間を大幅に短縮することが可能である。したがって、製造効率を向上させるとともに、製造コストを削減することができる。
【0025】
さらに、金属酸化物を用いた正孔注入輸送層では、金属の酸化の度合いにより正孔注入性が変化すると考えられる。従来の熱処理では、温度によって酸化の度合いを調整することができるが制御が困難である。一方、本発明においては、プラズマ処理の時間によって酸化の度合いを調整することができ、プラズマ処理では短時間で金属ナノ粒子または金属錯体を酸化物にすることができるので、熱処理と比較して制御が容易になると考えられる。
【0026】
また本発明においては、酸化処理としてプラズマ処理を行うため、従来のような熱処理の場合と比較して有機物が除去されやすいと推量される。すなわち、プラズマ処理では、後述するように金属ナノ粒子の表面に保護剤が連結している場合には、その保護剤が除去されやすく、金属ナノ粒子と保護剤との連結が切断されやすいと考えられる。また、金属錯体の場合には、金属錯体の中心金属に配位している配位子が除去されやすく、中心金属と配位子との配位が切断されやすいと考えられる。一方、熱処理では、金属ナノ粒子と保護剤との連結が切断されたり、中心金属と配位子との配位が切断されたりするのではなく、保護剤や配位子が熱分解されると考えられる。したがって、プラズマ処理では、熱処理と比較して、保護剤や配位子に由来する有機成分が残留しにくく、正孔注入輸送層表面の濡れ性を高める効果が大きいと推量される。よって、図1(d)に例示するように正孔注入輸送層4上に発光層5を塗布法により形成したり、また図示しないが正孔注入輸送層上に正孔輸送層を塗布法により形成したりする場合には、正孔注入輸送層表面の濡れ性が良好であるので、密着性良く安定的に発光層や正孔輸送層を形成することができる。また、図2(f)に例示するように正孔注入輸送層4上に保護層10を塗布法により形成する場合には、正孔注入輸送層表面の濡れ性が良好であるので、密着性良く安定的に保護層を形成することができる。正孔注入輸送層と発光層もしくは正孔輸送層または保護層との密着性が良くなれば、正孔注入効率を向上させることができる。
【0027】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法における各工程について説明する。
【0028】
1.正孔注入輸送層形成工程
本発明における正孔注入輸送層形成工程は、金属ナノ粒子または金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層形成用層を形成する正孔注入輸送層形成用層形成工程と、上記正孔注入輸送層形成用層にプラズマ処理を施して上記金属ナノ粒子または上記金属錯体を酸化する酸化処理工程とを有する。
【0029】
なお、本発明において、「正孔注入輸送層」とは、少なくとも正孔注入性を有するものをいう。正孔注入輸送層は、正孔注入性のみを有していてもよく、正孔注入性および正孔輸送性の両方を有していてもよい。
【0030】
以下、正孔注入輸送層形成工程における各工程について説明する。
【0031】
(1)正孔注入輸送層形成用層形成工程
本発明における正孔注入輸送層形成用層形成工程は、金属ナノ粒子または金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層形成用層を形成する工程である。
以下、正孔注入輸送層用材料および正孔注入輸送層形成用層の形成方法に分けて説明する。
【0032】
(a)正孔注入輸送層用材料
本発明に用いられる正孔注入輸送層用材料は、金属ナノ粒子または金属錯体を含有するものである。
以下、金属ナノ粒子および金属錯体に分けて説明する。
【0033】
(i)金属ナノ粒子
本発明において、「金属ナノ粒子」とは、直径がナノメートルオーダー、すなわち1μm未満の粒子をいう。
【0034】
金属ナノ粒子は、通常、金属から構成されるものである。金属ナノ粒子を構成する金属としては、その金属酸化物が正孔注入性を示すものであれば特に限定されるものではなく、例えば、モリブデン、チタン、白金、パラジウム、ニッケル、ロジウム等が挙げられる。中でも、モリブデンが好ましい。モリブデンナノ粒子は、後述の正孔注入輸送層形成用層にプラズマ処理を行う酸化処理工程により光触媒活性な金属酸化物となる。そのため、後述するように金属ナノ粒子の表面に保護剤が連結している場合には、酸化処理工程において正孔注入輸送層形成用層の内部から保護剤を分解することができ、得られる正孔注入輸送層表面の濡れ性を向上させることができると考えられる。
【0035】
また、金属ナノ粒子は、金属化合物から構成されていてもよい。金属化合物としては、酸化により正孔注入性を示す金属酸化物が得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、上記金属の硫化物、塩化物、ホウ化物、セレン化物、炭化物等が挙げられる。
【0036】
金属ナノ粒子は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
正孔注入輸送層用材料に2種類以上の金属ナノ粒子が含有されている場合には、例えば、イオン化ポテンシャルの異なる金属ナノ粒子を用い2種類の金属ナノ粒子を経由して階段状に正孔が移動できるようにすることで隣接層間のエネルギー障壁をさらに低下させることができ、また正孔注入性に特化した金属ナノ粒子と正孔輸送性に特化した金属ナノ粒子とを含有させることで単一の金属ナノ粒子の機能以上の正孔注入性および正孔輸送性を得ることができるという利点がある。
【0037】
正孔注入性を考慮すると、陽極から発光層に向かって各層の仕事関数またはイオン化ポテンシャルの絶対値が階段状に大きくなるような金属ナノ粒子を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、陽極と発光層との間の正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
【0038】
金属ナノ粒子は、その表面に保護剤が連結していてもよい。正孔注入輸送層用材料が溶媒を含有する場合には、保護剤によって金属ナノ粒子が溶媒に溶解もしくは分散しやすくなるからである。
なお、「連結」には、吸着、配位、イオン結合や共有結合等の化学結合が含まれる。
【0039】
保護剤としては、金属ナノ粒子や溶媒の種類等に応じて適宜選択されるものであるが、金属ナノ粒子の表面保護と分散安定性の点から、金属ナノ粒子と連結する作用を生ずる連結基と、疎水性を有する有機基とが含まれることが好ましい。保護剤としては、例えば、疎水性を有する有機基の末端に連結基として親水性基を有する構造が挙げられる。保護剤は低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
【0040】
連結基としては、金属ナノ粒子と連結する作用を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミド基、スルホンアミド基、リン酸基、ホスフィン酸基、P=O基等の親水性基が挙げられる。連結基としては、以下の一般式(1a)〜(1n)で示される官能基より選択される1種以上であることが好ましい。
【0041】
【化1】
【0042】
(式中、Z1、2およびZ3は、各々独立にハロゲン原子またはアルコキシ基を表す。)
【0043】
保護剤に含まれる有機基としては、炭素数が4以上、好ましくは6〜30、より好ましくは8〜20の、直鎖または分岐の飽和または不飽和アルキル基や、芳香族炭化水素、複素環等が挙げられる。中でも、保護剤が、金属ナノ粒子と連結する作用を生ずる連結基と、芳香族炭化水素および複素環の少なくともいずれかとを含むことが、金属ナノ粒子の分散安定性が向上する点から好ましい。
【0044】
芳香族炭化水素および複素環としては、具体的には、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、およびこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
また、本発明の効果を損なわない限り、芳香族炭化水素および複素環の少なくともいずれかを含む構造に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
【0045】
保護剤中の連結基の数は分子内に1つ以上であればいくつであってもよい。中でも、連結基は保護剤の一分子内に1つであることが好ましい。連結基が保護剤一分子内に2つ以上存在すると、保護剤同士が重合して溶媒と相溶性の悪い連結基部分が溶媒側に露出して、金属ナノ粒子の分散安定性を阻害する可能性があるからである。連結基の数が一分子内に1つの場合は、保護剤は金属ナノ粒子と連結するか、二分子反応で二量体を形成して反応が停止する。この二量体については、金属ナノ粒子との密着性が弱いため、容易に取り除くことができる。
【0046】
正孔注入輸送層用材料において、金属ナノ粒子と保護剤との含有比率は、金属ナノ粒子の分散安定性が得られれば特に限定されるものではなく、適宜調整されるが、例えば、金属ナノ粒子100重量部に対して、保護剤を10重量部〜20重量部程度にすることができる。
【0047】
金属ナノ粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、例えば0.5nm〜100nmの範囲内にすることができ、中でも0.5nm〜20nmの範囲内、特に1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。粒子径が小さすぎるものは、製造が困難であるからである。一方、粒子径が大きすぎると、単位重量当たりの表面積、すなわち比表面積が小さくなり、所望の効果が得られない可能性があり、さらに薄膜の表面粗さが大きくなり短絡が多発するおそれがあるからである。
なお、平均粒径は、動的光散乱法により測定される体積平均粒径または個数平均粒径であるが、正孔注入輸送層形成用層に分散された状態においては、平均粒径は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて得られた画像から、金属ナノ粒子が20個以上存在していることが確認される領域を選択し、この領域中の全ての金属ナノ粒子について粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる値とする。
【0048】
金属ナノ粒子の製造方法は、上述した金属ナノ粒子を得ることができる方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば液相法等が挙げられる。
【0049】
(ii)金属錯体
金属錯体は、分子の中心に金属が存在し、金属に配位子が配位した化合物である。
金属錯体は、金属の価数によって正孔注入性や正孔輸送性を制御することができる。また、金属錯体は、配位子中に有機部分を含み得るため、正孔注入輸送層用材料が溶媒を含有する場合には、金属錯体の分散安定性が良好になる。
【0050】
金属錯体の中心金属としては、その金属酸化物が正孔注入性を示すものであれば特に限定されるものではなく、例えば、モリブデン、チタン、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム等を挙げることができる。中でも、モリブデンが好ましい。モリブデン錯体は、後述の正孔注入輸送層形成用層にプラズマ処理を行う酸化処理工程により光触媒活性な金属酸化物となる。そのため、酸化処理工程において正孔注入輸送層形成用層の内部から配位子を分解することができ、得られる正孔注入輸送層表面の濡れ性を向上させることができると考えられる。
【0051】
正孔注入性を考慮すると、陽極から発光層に向かって各層の仕事関数またはイオン化ポテンシャルの絶対値が階段状に大きくなるような中心金属を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、陽極と発光層との間の正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
【0052】
配位子としては、中心金属の種類、金属錯体の分散安定性等に応じて適宜選択されるが、中でも、金属錯体の分散安定性が向上する点から、芳香環および複素環の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0053】
芳香環および複素環の少なくともいずれかを含む構造としては、具体的には、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、およびこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
また、本発明の効果を損なわない限り、芳香環および複素環の少なくともいずれかを含む構造に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
【0054】
また、配位子としては、単座配位子または二座配位子が、金属錯体の反応性が高くなる点から好ましい。金属錯体自身が安定になりすぎると反応性が劣る場合がある。
【0055】
例えば、モリブデン錯体としては、酸化数−2から+6までの錯体がある。
酸化数0以下のモリブデン錯体としては、例えば、金属カルボニル[Mo-II(CO)5]2-、[(CO)5Mo-IMo-I(CO)5]2-、[Mo(CO)6]等が挙げられる。
また、酸化数が+1のモリブデン(I)錯体としては、ジホスファンやη5−シクロペンタジエニドを含む非ウェルナー型錯体が挙げられ、具体的には、[MoI6-C66)2]+、[MoCl(N2)(diphos)2](diphosは、二座配位子(C652PCH2CH2P(C652)が挙げられる。
【0056】
酸化数が+2のモリブデン(II)錯体としては、モリブデンが2核錯体となって、(Mo24+イオンの状態で存在するMo2化合物が挙げられ、例えば、[Mo2(RCOO)4]や[Mo222(RCOO)4]などが挙げられる。ここで、RCOOのうちのRは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、各種カルボン酸を用いることができる。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸や酪酸、吉草酸などの脂肪酸、トリフルオロメタンカルボン酸等のハロゲン化アルキルカルボン酸、安息香酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、2−フェニルプロパン酸、ケイ皮酸、フルオレンカルボン酸などの炭化水素芳香族カルボン酸、フランカルボン酸やチオフェンカルボン酸、ピリジンカルボン酸等の複素環カルボン酸等が挙げられる。中でも、カルボン酸に、上述のような芳香環および複素環の少なくともいずれかを含む構造が好適に用いられる。カルボン酸は選択肢が多く、分散安定性を最適化したり、正孔注入輸送機能を最適化したりするのに適した配位子である。また、Xはハロゲンやアルコキシドであり、塩素、臭素、ヨウ素やメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、sec−ブチトキシド、tert−ブチトキシドを用いることができる。また、Lは中性の配位子であり、P(n−C493やP(CH33などのトリアルキルホスフィンやトリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィンを用いることができる。
酸化数が+2のモリブデン(II)錯体としては、その他、[MoII244]、[MoII24]等のハロゲン錯体を用いることができ、例えば、[MoIIBr4(P(n−C4934]や[MoII2(diars)2](diarsは、ジアルシン(CH3)2As−C64−As(CH3)2)等が挙げられる。
【0057】
酸化数が+3のモリブデン(III)錯体としては、例えば、[(RO)3Mo≡Mo(OR)3]や、[Mo(CN)7(H2O)]4-等が挙げられる。Rは炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基である。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
また、酸化数が+4のモリブデン(IV)錯体としては、例えば、[Mo{N(CH3)2}4]、[Mo(CN)8]4-、それにオキソ配位子をもつMoO2+の錯体や、O2-で二重架橋したMo224+の錯体が挙げられる。
【0058】
酸化数が+5のモリブデン(V)錯体としては、例えば、[Mo(CN)8]3-や、Mo=Oがトランス位でO2-で架橋された2核のMo234+を有するオキソ錯体としては例えばキサントゲン酸錯体Mo23(S2COC254、Mo=Oがシス位でO2-で二重架橋された二核のMo242+を有するオキソ錯体としては例えばヒスチジン錯体[Mo24(L−histidine)2]・3H2O等が挙げられる。
また、酸化数が+6のモリブデン(VI)錯体としては、例えば、[MoO2(acetylacetonate)2]が挙げられる。なお、二核以上の金属錯体の場合には、混合原子価錯体もある。
【0059】
(iii)溶媒
本発明において、正孔注入輸送層用材料を塗布して正孔注入輸送層形成用層を形成する場合には、正孔注入輸送層用材料は溶媒を含有していてもよい。
【0060】
本発明に用いられる溶媒としては、金属ナノ粒子または金属錯体が良好に溶解もしくは分散するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等が挙げられる。また、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−エトキシエタノール等のアルコール類も用いることができる。
【0061】
(b)正孔注入輸送層形成用層の形成方法
正孔注入輸送層形成用層の形成方法としては、上記正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層形成用層を形成することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、塗布法、蒸着法等が挙げられる。
中でも、塗布法が好ましい。製造プロセスが容易な上、短絡が発生しにくく歩留まりが高いからである。
なお、「塗布法」とは、上記の金属ナノ粒子または金属錯体が溶媒に溶解もしくは分散された正孔注入輸送層用材料を用い、この正孔注入輸送層用材料を下地となる陽極または発光層もしくは正孔輸送層の上に塗布する方法である。
【0062】
塗布法としては、正孔注入輸送層用材料を所定の膜厚で塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法等が挙げられる。薄膜で平滑な正孔注入輸送層を得たい場合には、スピンコート法が好適に用いられる。また、正孔注入輸送層のパターンを得る場合には、基板上に位置選択的に正孔注入輸送層を形成可能なインクジェット法が好適に用いられる。また、大面積にて正孔注入輸送層を形成する必場合には、ディップコート法が好適に用いられる。
【0063】
塗布法の場合、正孔注入輸送層用材料を塗布した後に乾燥させる。乾燥方法としては、正孔注入輸送層用材料に含有される溶媒を除去できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥等の一般的な乾燥方法を適用することができる。
【0064】
加熱乾燥における加熱温度としては、正孔注入輸送層用材料に含有される溶媒を除去できる温度であれば特に限定されるものではないが、具体的には20℃〜160℃の範囲内であることが好ましい。加熱温度が高すぎると、基板に樹脂基板を用いることが困難になったり、発光層等の有機層上に正孔注入輸送層を形成する場合に有機層が劣化したりするおそれがあるからである。
また、加熱乾燥における乾燥時間としては、正孔注入輸送層用材料に含有される溶媒を除去できれば特に限定されるものではないが、具体的には1分〜20分の範囲内であることが好ましい。乾燥時間が長すぎると生産効率が低下するからである。
【0065】
(2)酸化処理工程
本発明における酸化処理工程は、上記正孔注入輸送層形成用層にプラズマ処理を施して上記金属ナノ粒子または上記金属錯体を酸化する工程である。
【0066】
プラズマ処理での温度は、正孔注入輸送層の下に形成されている層、例えば、陽極、発光層、正孔輸送層等に悪影響を及ぼさない温度であれば特に限定されないが、常温であることが好ましい。簡易な工程でプラズマ処理が可能になるとともに、正孔注入輸送層の下に形成されている層への熱によるダメージを大幅に低減することができるからである。
なお、「常温」とは、5℃〜35℃程度をいう。
【0067】
プラズマ処理での圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれであってもよいが、中でも常圧が好ましい。簡易な工程でプラズマ処理が可能になるからである。
なお、「常圧」とは、大気圧をいう。また、減圧および加圧はそれぞれ低圧および高圧とも称される。
【0068】
プラズマ処理時の導入ガスとしては、酸素を含むガスであれば特に限定されるものではない。大気中でプラズマ処理を行う場合には、低コストで簡便な工程により酸化処理が可能になる。
【0069】
プラズマ処理を行う時間としては、プラズマ処理により金属ナノ粒子または金属錯体が酸化物になれば特に限定されないが、具体的には1秒〜15分の範囲内であることが好ましい。処理時間が長すぎると生産効率が低下するからである。
【0070】
(3)正孔注入輸送層
正孔注入輸送層の膜厚は、目的や隣接する層により適宜決定することができるが、通常0.1nm〜1000nm程度であり、好ましくは1nm〜500nmの範囲内である。
【0071】
正孔注入輸送層は通常は一層であるが、上記の正孔注入輸送層形成用層形成工程および酸化処理工程を繰り返し行い、正孔注入輸送層を二層積層してもよい。
【0072】
2.有機EL素子の構成
本発明における有機EL素子は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有するものである。
有機EL素子においては、図1(a)〜(f)に例示するように陽極側から順に各層を形成する場合には基板上に陽極が形成されていてもよく、図2(a)〜(g)に例示するように陰極側から順に各層を形成する場合には基板上に陰極が形成されていてもよい。
また有機EL素子においては、図3に例示するように、正孔注入輸送層4と発光層5との間に正孔輸送層8が形成されていてもよく、発光層5と陰極7との間に電子輸送層9や電子注入層6が形成されていてもよい。また、陰極側から順に各層を形成する場合には、図2(g)に例示するように正孔注入輸送層4と陽極3との間に保護層10が形成されていてもよい。
以下、有機EL素子における各層について説明する。
【0073】
(1)正孔注入輸送層
有機EL素子における正孔注入輸送層は、陽極および発光層の間に形成され、陽極から発光層への正孔の注入または注入および輸送を担う層である。
正孔注入輸送層については、上記正孔注入輸送層形成工程の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0074】
(2)基板
本発明に用いられる基板は、本発明における有機EL素子の支持体になるものである。
【0075】
基板は、光透過性を有していてもよく有さなくてもよく、発光層から放射される光の取出し側に応じて適宜選択される。基板上に陽極または陰極が形成され、基板側から光を取り出す場合には、基板には光透過性を有する透明基板が用いられる。
【0076】
基板は、フレキシブルな基板であっても、リジッドな基板であってもよい。基板としては、例えば特開2009−290204号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、ガラス、石英等のガラス基板、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基板を挙げることができる。樹脂基板を使用する場合には、ガスバリア性を有することが望ましい。
中でも、樹脂基板が好ましく用いられる。本発明においては低温プロセスにより正孔注入特性の良好な正孔注入輸送層を形成することができるので、ガラス基板と比較して耐熱性の低い樹脂基板であっても使用可能である。また、樹脂基板はフレキシブル性を有する基板にすることができ、種々の用途に応用できるだけでなく、ロールツーロールにより有機EL素子を作製可能であり生産効率を向上させることができる。
【0077】
基板の厚さは特に限定されないが、通常、0.5mm〜2.0mm程度である。
【0078】
(3)陽極および陰極
陽極および陰極は、発光層から放射される光の取出し側に応じて、いずれか一方の電極に光透過性が要求される。陽極側から光を取り出す場合、陽極には光透過性を有する透明電極が用いられ、陰極側から光を取り出す場合、陰極には光透過性を有する透明電極が用いられる。
【0079】
陽極および陰極に用いられる材料としては、一般的に有機EL素子の電極に用いられる導電性材料であればよく、例えば金属、金属酸化物を挙げることができる。例えば特開2009−290204号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、アルミニウム、金、銀等の金属、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化インジウム亜鉛等の金属酸化物が挙げられる。
【0080】
陽極および陰極の形成方法としては、一般的な電極の形成方法であればよく、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等が挙げられる。
【0081】
電極の厚さは、光透過性の有無等に応じて適宜調整され、例えば、10nm〜1000nm程度にすることができ、好ましくは20nm〜500nm程度である。
【0082】
(4)発光層
発光層は、発光材料を含有するものである。発光材料としては、一般的な発光材料であれば特に限定されるものではなく、蛍光材料および燐光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料等を挙げることができ、低分子化合物および高分子化合物のいずれも用いることができる。
【0083】
色素系材料としては、例えば特開2009−290204号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、フェニルアントラセン誘導体等を挙げることができる。またこれらの二量体や三量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0084】
金属錯体系材料としては、例えば特開2009−290204号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体等、あるいは中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0085】
高分子系材料としては、上記低分子系材料を分子内に直鎖あるいは側鎖あるいは官能基として導入されたもの、重合体およびデンドリマー等を使用することができる。例えば特開2009−290204号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体およびポリフルオレン誘導体ならびにそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0086】
発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーパントを添加してもよい。高分子系材料の場合は、これらを分子構造の中に発光基として含んでいてもよい。このようなドーパントとしては、例えば特開2009−290204号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、カルバゾール誘導体およびフルオレン誘導体を挙げることができる。またこれらにスピロ基を導入した化合物も用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0087】
発光層の形成方法としては、例えば、塗布法、蒸着法、転写法が挙げられる。中でも、塗布法が好ましい。発光層や正孔注入輸送層等の有機EL素子を構成する有機層のすべてを塗布法で形成することにより、大面積の有機EL素子を効率良く製造することができるともに、製造コストを低減することができるからである。
なお、塗布法については、上記正孔注入輸送層の形成方法と同様である。
【0088】
発光層の膜厚は、例えば1nm〜500nm程度であり、好ましくは20nm〜100nmの範囲内である。
【0089】
(5)正孔輸送層
有機EL素子においては、正孔注入輸送層と発光層との間に正孔輸送層が形成されていてもよい。
【0090】
正孔輸送層に用いられる材料としては、有機EL素子の正孔輸送層に一般的に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。例えば特開2009−290204号公報に記載の正孔輸送性化合物を用いることができ、具体的には、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体等を挙げることができる。アリールアミン誘導体としては、例えば、N,N′−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N′−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、4,4′,4″−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)および4,4′,4″−トリス(N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)等が挙げられる。
【0091】
また、正孔輸送層には、例えば特開2009−290204号公報に記載の正孔輸送性高分子化合物を用いることができ、具体的には、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体等を繰り返し単位に含む重合体を用いることができる。アリールアミン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、非共役系の高分子として、コポリ[3,3′−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)、下記構造で表されるPTPDESおよびEt−PTPDEK等、共役系の高分子としてポリ[N,N′−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N′−ビス(フェニル)−ベンジジン]を挙げることができる。フルオレン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4′−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N′−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N′−{1,4−ジフェニレン})]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0092】
正孔輸送性を考慮すると、陽極から発光層に向かって各層の仕事関数またはイオン化ポテンシャルの絶対値が階段状に大きくなるような材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、陽極と発光層との間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
【0093】
正孔輸送層の形成方法としては、上記発光層の形成方法と同様にすることができる。
正孔輸送層の膜厚は、例えば1nm〜1μm程度であり、好ましくは1nm〜500nmの範囲内である。
【0094】
(6)電子注入層
有機EL素子においては、発光層または電子輸送層と陰極との間に電子注入層が形成されていてもよい。
【0095】
電子注入層に用いられる材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば特開2011−171243号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、Ba、Ca、Li等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、アルミニウムリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化リチウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、8−ヒドロキシキノリノラトLi(Liq)、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属錯体等を挙げることができる。また、Ca/LiFのように、これらを積層して用いることも可能である。
【0096】
また、電子注入層は、電子注入性に加えて電子輸送性を有していてもよい。電子注入性および電子輸送性を有する電子注入層に用いられる材料としては、例えば、8−ヒドロキシキノリノラトLi(Liq)等のアルカリ金属錯体やアルカリ土類金属錯体がドープされた電子輸送性材料を挙げることができる。電子輸送性材料としては、上述の発光材料や後述の電子輸送層の材料が挙げられる。
【0097】
電子注入層の形成方法としては、例えば蒸着法が挙げられる。
電子注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には0.1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜100nmの範囲内である。
【0098】
(7)電子輸送層
有機EL素子においては、発光層と陰極または電子注入層との間に電子輸送層が形成されていてもよい。
【0099】
電子輸送層に用いられる材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば特開2011−171243号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、オキサジアゾール類、トリアゾール類、フェナントロリン類等を挙げることができる。具体的には、オキサジアゾール類としては(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)等が挙げられ、フェナントロリン類としてはバソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられ、アルミニウム錯体としてはトリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq3)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)等が挙げられる。
【0100】
電子輸送層の形成方法としては、上記発光層の形成方法と同様にすることができる。
電子輸送層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜100nmの範囲内である。
【0101】
(8)保護層
有機EL素子においては、陰極側から順に各層を形成する場合であって、正孔注入輸送層上に陽極をスパッタリング法により形成する場合には、正孔注入輸送層と陽極との間に、スパッタリング時に正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等を保護する保護層が形成されていてもよい。保護層が形成されていることにより、正孔注入輸送層上に陽極をスパッタリング法により形成する際に、正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等へのダメージを軽減することができる。
【0102】
保護層としては、陽極をスパッタリング法により成膜する際のダメージから正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等を保護することができるものであれば特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用することができる。例えば特開2007−96270号公報に記載の電荷輸送性材料を用いることができ、具体的には、Alq等のキノリン誘導体、BND、PBD等のオキサジアゾール誘導体、TAZ等のトリアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、正孔輸送性材料として知られている材料の中でもTPD等のように、正孔だけでなく電子の移動度も高い材料であれば用いることができる。
【0103】
保護層の厚みとしては、陽極をスパッタリング法により成膜する際のダメージから正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等を保護することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、10nm〜1μmの範囲内にすることができ、好ましくは50nm〜500nmの範囲内、より好ましくは70nm〜150nmの範囲内である。
【0104】
保護層の形成方法としては、正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等へのダメージが少ない方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、塗布法や、抵抗加熱蒸着法等の真空蒸着法を用いることができる。中でも、プラズマ処理によって正孔注入輸送層表面の濡れ性が向上することから、塗布法が好ましい。なお、塗布法については、上記正孔注入輸送層の形成方法と同様である。
【0105】
(9)その他の構成
有機EL素子においては、正孔ブロック層や電子ブロック層のような正孔もしくは電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層が形成されていてもよい。
このように有機EL素子は、種々の層を積層した積層構造を有することが多く、積層構造としては多くの種類がある。
【0106】
3.その他の工程
本発明の有機EL素子の製造方法は、上記正孔注入輸送層形成工程を有していればよく、有機EL素子の構成に応じて他の工程をさらに有していてもよい。例えば、本発明の有機EL素子の製造方法は、発光層を形成する発光層形成工程、正孔輸送層を形成する正孔輸送層形成工程、電子注入層を形成する電子注入層形成工程、電子輸送層を形成する電子輸送層形成工程、陽極を形成する陽極形成工程、陰極を形成する陰極形成工程等を有していてもよい。各工程の順序は、各層の形成順に応じて適宜選択される。
【0107】
中でも、図1(a)〜(f)に例示するように、陽極側から順に各層を形成することが好ましく、この場合、上記正孔注入輸送層形成工程後、正孔注入輸送層上に正孔輸送層または発光層を塗布法により形成することがさらに好ましい。上述したように、プラズマ処理により正孔注入輸送層表面の濡れ性が良くなるので、正孔注入輸送層上に発光層や正孔輸送層を塗布法により形成する場合には、正孔注入輸送層と発光層または正孔輸送層との密着性を高めることができ、正孔注入効率を向上させることができるからである。
【0108】
4.用途
本発明における有機EL素子は、例えば、表示装置、照明装置、光源等に適用することができる。
【0109】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0110】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0111】
[実施例1]
透明陽極付ガラス基板の上に、正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に、下記の手順に従って製膜して積層し、最後に封止して有機EL素子を作製した。透明陽極以外は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作業を行った。
【0112】
まず、三容真空社製の、陽極として厚み150nmのITOの薄膜付きのガラス基板を用いた。このサイズ25mm×25mmのガラス基板のITO膜をストライプ状にパターン形成し、得られた基板を、中性洗剤、超純水の順に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。
【0113】
次に、特開2009−290204号公報の[0147]の合成例1で合成したMoナノ粒子をシクロヘキサノン中に0.5重量%の濃度で溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布し、薄膜を形成した。溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中150℃で15分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の厚みは10nmであった。続いて、積水化学工業社製の常圧プラズマ表面処理装置AP−T05−S400を用いて、上記基板表面を10秒プラズマ処理し、正孔注入輸送層中のMoナノ粒子を酸化させた。
【0114】
次に、正孔注入輸送層の上に、正孔輸送層として、厚み20nmの共役系の高分子材料であるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)の薄膜を形成した。TFB薄膜は、TFBをキシレンに0.5重量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。TFB溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて200℃で30分乾燥させた。
【0115】
上記正孔輸送層の上に、発光層として、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy))を発光性ドーパントとして含有し、4,4’−ビス(2,2−カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)をホストとして含有する混合薄膜を蒸着形成した。混合薄膜は、圧力1×10−4Paの真空中で抵抗加熱法によりホストとドーパントの体積比20:1、合計膜厚が30nmになるように共蒸着で形成した。
【0116】
上記発光層の上に、正孔ブロック層として、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)薄膜を蒸着形成した。BAlq薄膜は、圧力1×10−4Paの真空中で抵抗加熱法により膜厚が10nmになるように形成した。
【0117】
上記正孔ブロック層の上に、電子輸送層として、トリス(8−キノリラト)アルミニウム錯体(Alq)薄膜を蒸着形成した。Alq薄膜は、圧力1×10−4Paの真空中で抵抗加熱蒸着法により膜厚が40nmになるように成膜した。
【0118】
上記電子輸送層の上に、電子注入層として厚み0.5nmのフッ化リチウム(LiF)、陰極として厚みの100nmのAlを順次、圧力1×10−4Paの真空中で抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0119】
陰極形成後、グローブボックス内で、無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例1の有機EL素子を得た。
【0120】
[比較例1]
下記のように正孔注入輸送層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
特開2009−290204号公報の[0147]の合成例1で合成したMoナノ粒子をシクロヘキサノン中に0.5重量%の濃度で溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布し、薄膜を形成した。溶剤を蒸発、Moナノ粒子を酸化させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。
【0121】
[比較例2]
正孔注入輸送層の形成においてプラズマ処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0122】
[評価]
実施例1および比較例1、2の有機EL素子は、いずれもIr(ppy)由来の緑色に発光した。
これらの有機EL素子について、トプコン社製の分光放射計SR−2を10mA/cmで駆動させて、発光輝度とスペクトルを測定した。電流効率は駆動電流と輝度から算出して求めた。
有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。
測定結果を表1に示す。ここでは、実施例1の電流効率、輝度半減寿命を1として比較した。
【0123】
【表1】
【0124】
実施例1と比較例1を比較すると、200℃の熱酸化処理をしなくても常温の常圧プラズマ処理でも十分特性が発現していることが分かる。フィルム基板上で200℃の熱酸化はフィルムの耐熱性を考慮すると非現実的である。一方、常温の常圧プラズマ処理では熱酸化に必要な高温は不要であり、フィルム上での酸化が可能となる点で技術的な効果が非常に大きい。
また、実施例1と比較例2を比較すると、プラズマ処理は必要であることが分かる。
【符号の説明】
【0125】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 正孔注入輸送層
4a … 正孔注入輸送層形成用層
5 … 発光層
6 … 電子注入層
7 … 陰極
図1
図2
図3