【実施例1】
【0027】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。上記の実施形態におけるピニオンシャフト5とほぼ同様の構成のピニオンシャフトおよび上記の実施形態におけるニードルローラとほぼ同様の構成のニードルローラを製造し、転動疲労寿命評価後ピニオンシャフトの塑性変形曲がり量測定、転動疲労寿命試験、加締め部耐久性試験を行った。
【0028】
【表1】
【0029】
上記試験の結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
熱処理の内容および条件は以下の通りである。合金鋼製の線材を旋削加工することにより得た円柱状部材に、820〜950℃で3〜5時間浸炭窒化処理を施した後に焼入れを施し(冷却は油冷)、次に、150〜250℃、1.5時間の条件で焼戻しを施した。この浸炭窒化処理は、RXガス,エンリッチガス,アンモニアガスを含有する雰囲気下で行った。
最後に、ピニオンシャフトの両端部に、高周波にて600℃〜A1変態点未満で焼戻しによる軟化処理を施した。
【0032】
比較のために従来の熱処理の内容および条件は以下の通りである。
合金鋼製の線材を旋削加工することにより得た円柱状部材に、820〜950℃で3〜5時間浸炭窒化処理を施した後に
焼入れを施し(冷却は油冷)、次に、150〜780℃,2時間の条件で焼戻し(高温焼戻し)を施す。浸炭窒化処理は、RXガス,エンリッチガス,アンモニアガスを含有する雰囲気下で行う。
次に、900〜950℃,1秒〜20秒の条件で高周波焼入れを施し、最後に150〜180℃,1.5時間の条件で焼戻し(低温焼戻し)を施す。
【0033】
〔転動疲労寿命試験について〕
ピニオンシャフトを日本精工株式会社製のプラネタリニードル試験機に装着した。すなわち、ピニオンギアの中心穴にピニオンシャフトを挿通し、ピニオンシャフトの外周面とピニオンギアの内周面との間に、複数のニードルローラを転動自在に介装した。これにより、ピニオンギアはピニオンシャフトを軸として回転自在とされる。また、ニードルローラは、JIS鋼種SCM415製の保持器で保持されてケージアンドローラとされている。なお、保持器には浸炭窒化処理が施されている。
【0034】
そして、下記のような条件で回転試験を行い、ピニオンシャフト、ニードルローラ、ピニオンギアのうち少なくとも一つが破損した時点で寿命に至ったとし、それまでの回転時間を転動疲労寿命とした。結果を表2に示す。なお、表2の転動疲労寿命は、比較例6の転動疲労寿命を1とした場合の相対値で示してある。また、ピニオンシャフト、ニードルローラ、ピニオンギアのうちどの部材が最も破損しやすいか予備試験を行い、ピニオンシャフトが最も破損しやすいことを確認した後に回転試験を行っている。
【0035】
・寿命試験機:日本精工株式会社製のプラネタリニードル試験機
・基本動定格荷重C:15400N
・基本静定格荷重C0:16600N
・ラジアル荷重:6000N
・ピニオン自転数:8000rpm
・計算寿命L10=49時間
・潤滑油の種類:オートマチックトランスミッションフルード
・潤滑油量:10cc/min/ピニオン
・潤滑油の温度:100℃
【0036】
表2から分かるように、実施例1〜6は比較例3〜6と比べて転動疲労寿命が優れていた。
比較例3は、平均残留オーステナイト量が多いため、耐摩耗性、耐転動疲労性、耐熱性が不十分となって、転動疲労寿命が短くなった。
比較例4は、表層部の残留オーステナイト量が少なく、表面疲労を緩和する応力集中軽減効果が不十分であり、さらに、表面硬さがHv650未満であるため、耐摩耗性、耐転動疲労性、耐熱性が不十分となって、転動疲労寿命が短くなった。また、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が高いため、耐摩耗性の向上に対しては有利であるが、初析炭化物がネット状に発生して転動疲労寿命が低下した。
比較例6は、表層部の残留オーステナイト量が少なく、表面疲労を緩和する応力集中軽減効果が不十分であるため、転動疲労寿命が短くなった。
【0037】
〔転動疲労寿命評価後ピニオンシャフト塑性変形曲がり量について〕
サーフコム形状測定機を用いて、前述の転動疲労寿命試験を終えた後のピニオンシャフトの曲がり量を測定した。測定値は、ピニオンシャフトの両端部を結ぶ線と該線から最も離れた部分との間の荷重負荷方向(ピニオンシャフトの軸方向に垂直な方向)の距離である。結果を表2に示す。
【0038】
表2から分かるように、比較例3と比較例6が他の実施例や比較例に比して塑性曲がりが大きかった。
比較例3では、平均残留オーステナイト量が多いため、塑性曲がりが大きくなったと思われる。
比較例6では、表層部の残留オーステナイト量は少ないものの、浸炭窒化処理がされていないので、塑性曲がりが大きくなったと思われる。
【0039】
〔加締め部耐久性について〕
加締め部の耐久性を確認するため、加締め割れ試験および加締め部疲労試験を行った。加締め割れ試験はピニオンシャフトをキャリアに固定するとき靭性不足により加締め部クラックや割れの発生有無を確認し、加締め部疲労試験はピニオンシャフトをキャリアに固定した状態で強度不足により加締め部破損の発生有無を確認した。
加締め割れ試験は、日本精工株式会社製の加締めプレス試験機にて、加締め荷重2.0t、加締めスピード45mm/secの同一条件で行った。結果を表2に示す。
ピニオンシャフト端面部硬さHv350以下の実施例および比較例において、加締め部破損は認められなかった。比較例1はピニオンシャフト端面部硬(加締め端部硬さ)がHv350より大きく、靭性不足により加締め部に亀裂が確認された。
【0040】
加締め部疲労試験は、日本精工株式会社製の油圧式変動加振試験機にて抜け荷重4kN、加振周波数30Hz、試験サイクル120万回の同一条件で行った。結果を表2に示す。
ピニオンシャフト端面部硬さHv150以上の実施例および比較例において、加締め部破損は認められなかった。
比較例2はピニオンシャフト端面部硬(加締め端部硬さ)がHv150より低く、強度不足により加締め部が変形し加締め固定部から離脱した。