特許第6015101号(P6015101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015101
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】空間認識装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/08 20060101AFI20161013BHJP
   G09B 21/00 20060101ALI20161013BHJP
   G01S 17/42 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   A61F9/08
   G09B21/00 A
   G01S17/42
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-102133(P2012-102133)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-226345(P2013-226345A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】米澤 栄二
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−065721(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0316694(US,A1)
【文献】 米国特許第07706212(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0088469(US,A1)
【文献】 特開2006−305214(JP,A)
【文献】 特開2011−030584(JP,A)
【文献】 特開2010−057593(JP,A)
【文献】 特開2011−250928(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/055309(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0307172(US,A1)
【文献】 国際公開第1995/021595(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0234576(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/142689(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/08
A61F 9/007
A61H 3/06
G01S 17/42
G09B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に装着又は保持される距離情報取得部であって,該距離情報取得部からみて水平正面に対して上下方向に対して所定の角度範囲で複数の距離情報を取得し、左右方向に対して所定の角度範囲で複数の距離情報を取得することにより、前記患者の周囲にある物体までの距離情報を所定の基準座標系に基づき複数の測定方向で取得する距離情報取得部と、
該距離情報取得部で取得された前記距離情報のうち、距離情報取得部からみて基準座標系の略水平な方向の範囲を含む第1範囲に含まれる前記測定方向で測定された距離情報は、水平距離に換算し、基準座標系でみて前記第1範囲より上方の範囲及び下方の範囲に含まれる前記測定方向で測定された距離情報は、高さに換算する、距離情報演算手段と、
前記距離情報取得部で取得された前記距離情報を音として前記患者に対して出力する刺激信号出力部であって、前記第1範囲に含まれる距離情報と、前記第1範囲の上方の範囲に含まれる距離情報と、前記第1範囲の下方の範囲に含まれる距離情報とを識別できるように各々異なる周波数の音として前記患者に対して出力すると共に、該出力に当たっては、前記距離情報演算手段で求められた前記高さ、又は、前記水平距離に応じて前記音の大きさを異ならせて出力する刺激信号出力部と、
を備えることを特徴とする空間認識装置。
【請求項2】
請求項1の空間認識装置において、
前記距離情報取得部は前記基準座標系の鉛直方向に対する傾斜角度を検知するための姿勢センサーとを有し、
前記姿勢センサーの検知結果に基づき前記物体の鉛直方向の距離情報を補正する補正手段とを備えることを特徴とする空間認識装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
視覚障害者の歩行活動を補助するための空間認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
失明患者の視覚を再生する視覚再生補助装置は、患者の視神経に関する細胞を電気刺激して視覚の再生を促す。しかし現状の視覚再生補助装置は患者が歩行可能な程度に視覚の再生を行える段階には到っておらず、患者が外出等で移動する際には杖などの補助具を左右に振りながら前方にある障害物を確認したり、盲導犬などの介助に頼ることが必要となっている。
【0003】
しかし杖等の補助具を用いた歩行では、階段や壁などが接近していても、杖等が接触しない限り近くにあることを検知できない。検知が遅いと患者は障害物に衝突するおそれがある。また杖を動かすことのできる狭い範囲の情報しか得られないため、例えば障害物が杖などで検知しにくい高い位置にある場合には、障害物が顔面に激突してしまうおそれがある。またこのような事故が発生する危険性から、歩行速度を早くすることも困難である。
【0004】
そこで患者の頭部に複数の距離情報取得部を設置し、各センサーからの検知信号に基づき出力される音の高低によって、補助具に頼ることなく患者に物体の存在を知らせるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004‐105665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される従来技術は、患者の頭の中央及び左右に取り付けられた距離情報取得部によって、患者に対して左右方向の情報を検知するものである。その為、患者は前面(進行方向)にある上下方向の情報を得るためには首を上下方向に振らなければならなかった。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、患者に負担をかける事無く、患者の進行方向における上下方向にある障害物の情報を好適に検出可能な空間認識装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0009】
(1) 患者に装着又は保持される距離情報取得部であって,該距離情報取得部からみて水平正面に対して上下方向に対して所定の角度範囲で複数の距離情報を取得し、左右方向に対して所定の角度範囲で複数の距離情報を取得することにより、前記患者の周囲にある物体までの距離情報を所定の基準座標系に基づき複数の測定方向で取得する距離情報取得部と、該距離情報取得部で取得された前記距離情報のうち、距離情報取得部からみて基準座標系の略水平な方向の範囲を含む第1範囲に含まれる前記測定方向で測定された距離情報は、水平距離に換算し、基準座標系でみて前記第1範囲より上方の範囲及び下方の範囲に含まれる前記測定方向で測定された距離情報は、高さに換算する、距離情報演算手段と、前記距離情報取得部で取得された前記距離情報を音として前記患者に対して出力する刺激信号出力部であって、前記第1範囲に含まれる距離情報と、前記第1範囲の上方の範囲に含まれる距離情報と、前記第1範囲の下方の範囲に含まれる距離情報とを識別できるように各々異なる周波数の音として前記患者に対して出力すると共に、該出力に当たっては、前記距離情報演算手段で求められた前記高さ、又は、前記水平距離に応じて前記音の大きさを異ならせて出力する刺激信号出力部と、を備えることを特徴とする空間認識装置。
(2) (1)の空間認識装置において、前記距離情報取得部は前記基準座標系の鉛直方向に対する傾斜角度を検知するための姿勢センサーとを有し、前記姿勢センサーの検知結果に基づき前記物体の鉛直方向の距離情報を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、患者に負担をかける事無く、患者の進行方向における上下方向にある障害物の情報を好適に検出可能な空間認識装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を図面に基づき説明する。空間認識装置1は患者の周囲にある障害物を検出してその情報を患者に伝達する。図1に空間認識装置1の制御ブロック図を示す。空間認識装置1は、患者の頭部等に固定される距離情報取得部10、刺激発生装置20、視覚再生補助装置30、制御部50、記憶部60から構成され、制御部50に各構成要素が接続される。
【0012】
距離情報取得部10は、所定の基準座標系における患者の周囲(三次元の検出範囲S)にある障害物や床等の物体までの距離情報(距離、方向)を取得する。なおここで示される基準座標系とは、鉛直方向を上下軸としたときに、患者の顔の正面(又は距離情報取得部10の正面)を含む鉛直面と、鉛直面に垂直に交わる水平面の交線を前後方向とする座標系である。
【0013】
距離情報取得部10は、外部にレーザー光等の測定信号を照射する照射部11aを備え反射光を受光して距離を測定する測距部11、測距部11からのレーザー光を2軸方向(垂直方向と水平方向)に走査する走査ミラー12、走査ミラー12を駆動させる駆動部13、駆動部13に接続され走査ミラー12の2軸方向の走査角度を検出することでレーザー光の照射方向を検知する角度検知部13a、患者の頭部の傾きや歩行などで生じる距離状況の変動を補正する姿勢検出部14から構成される。
これ以外にも距離情報取得部10には、例えば超音センサーやマイクロ波レーダーを用いてもよい。なお、超音波やマイクロ波を走査して距離情報を取得する方法は周知なのでここでは説明を省略する。
【0014】
駆動部13は水平正面に対して上下方向に走査角度θ(例えば上方向に80度、下方向に80度)、左右方向に走査角度ω(例えば左方向に90度、右方向に90度)でレーザー光を偏向するように走査ミラー12を駆動する(図2図8参照)。なお走査ミラー12の走査角度は角度検知部13aで検知される。
【0015】
姿勢検出部14は、加速度センサー14aとジャイロセンサー(姿勢センサー)14bを備え、歩行による上下振動や距離情報取得部10の鉛直方向の軸(以下、鉛直軸と記す)に対する傾きを検出し、患者の歩行や頭部の傾き等で発生する距離情報の変動を補正し抑制する役割を持つ。
【0016】
つまり距離情報取得部10は、走査ミラー12の走査で上下方向の広い範囲(異なる距離及び高さ)にある物体の距離情報を取得できる一方で、頭部が前後に傾いた場合に、走査ミラー12の走査角度が同じであるのに関わらず異なる距離及び高さにある物体の距離情報が取得されてしまう。また走査ミラー12の走査速度が患者の歩行速度の影響を受ける程度に遅い場合には、患者の歩行に伴う上下方向の振動の影響によって物体の距離情報に揺らぎが生じてしまい患者に不快感を与えてしまう。そこで姿勢検出部14の検出結果に基づき、走査ミラー12の走査中は基準座標系の鉛直面と水平面が一定となるように物体の距離情報を補正する。
【0017】
刺激発生装置20は各種刺激信号を発生させる刺激部21を備え、距離情報取得部10による物体の距離情報の検出結果に基づいて、測定方向毎に算出された高さ又は水平距離に応じて患者の聴覚又は触覚等を刺激する刺激信号を刺激部21から出力させる。例えば刺激発生装置20の刺激部21には患者の聴覚を刺激するスピーカーや、患者の触覚を刺激するアクチュエータ等が使用される。なおアクチュエータ等による皮膚の振動や電気刺激で物体の距離情報が伝えられる場合には、患者の聴覚が無い場合にも物体の距離情報を知らせることができる。なお複数の情報を認識させるためには、複数のアクチュエータが使用されることが好ましい。なお以下の説明では刺激部21にスピーカー等の音を発生させるものを用いる例を示す。
【0018】
視覚再生補助装置30は、網膜の所定部位に埋植された電極から所定パルスの刺激電流を流し、患者の網膜を刺激して疑似光覚を発生し明暗パターンを認識できるようにする装置である。
ところで、本実施形態のように視覚再生補助装置30が患者に埋植されている場合には、視覚再生補助装置30の図示を略すカメラで撮影された撮影画像に基づく電気刺激と、距離情報取得部10で取得された距離情報に基づく刺激の両方が行なわれるが、通常は距離情報取得部10で取得された距離情報に基づく刺激が行われる設定になっていることが患者のスムーズな歩行を補助する上で好ましい。なお距離情報取得部10の距離情報による刺激と視覚再生補助装置30による刺激の動作切換は図示を略すスイッチで行われるとする。
【0019】
記憶部60には各種動作制御を行うためのプログラムが記憶される。また鉛直軸の下方向からの走査角度θn(n=1、2、・・・m)ごとに刺激信号の周波数fn(n=1、2、・・・m)が予め対応付けられて記憶されている。これにより距離情報取得部10からの距離情報に応じて、走査角度θn(測定方向pn)ごとに対応する周波数の刺激信号が出力されるようになる。
【0020】
なおここでは刺激信号に音が使用されるとし、患者が識別可能な周波数の音が割り当てられているとする。例えば鉛直軸の下方向からの走査角度θnが小さい場合には低い周波数の音を割り当て、走査角度θnが大きい場合には高い周波数の音を割り当てるように設定されている。なお反対に走査角度θnが小さい場合に高い周波数、走査角度θnが大きい場合に低い周波数の音を割り当てても良い。複数の周波数の音を同時に聞き取ることになるため患者にとって不快にならない周波数fnが選択されることが望ましい。
【0021】
例えば、図2において、基準座標系の水平方向の基準に対して(斜め)下方向にある床面を検知する走査角度θ1〜θ3のグループと、基準座標系の略水平方向にある水平面を検知する走査角度θ4〜θ6のグループと、基準座標系の水平方向の基準に対して(斜め)上方向にある天井面を検知する走査角度θ7〜θ9の3グループに分け、各走査角度のグループ内で和音を形成するように周波数を選択する。また、各グループ間の識別を容易にするように異なるグループ間では和音を形成しないようにすることも有効である。
【0022】
制御部50は空間認識装置1全体を駆動制御する。また距離情報演算手段である制御部50は、距離情報取得部10の検出結果(方向、距離)を姿勢検出部14の情報に基づいて補正したのち、基準座標系の水平方向の基準に対して斜め下方向(床)と斜め上方向(天井)の距離情報は高さに換算し、略水平方向(壁)からの距離情報については水平距離に換算する。
【0023】
また制御部50は物体の高さhまたは水平距離dの違いによって、刺激部21から出力される音の振幅を変える。つまり斜め下方向(走査角度θ1〜θ3のグループ)については走査角度θnに対応する周波数の振幅を検出された高さhが高いほど音の振幅を大きくし、高さhが低いほど音の振幅を小さくする。これにより患者は各周波数の音の大きさによって床面の傾斜や段差の存在を認識する。一方、斜め上方向(走査角度θ7〜θ9のグループ)については走査角度θnに対応する周波数の振幅を、検出された高さhが高いほど音の振幅を小さくし、高さhが低いほど音の振幅を大きくする。これにより患者は各周波数の音の大きさによって天井部の突起などの存在を認識する。一方、基準座標系の略水平方向(走査角度θ4〜θ6のグループ)については走査角度θnに対応する周波数の振幅を検出された水平距離が遠いほど音の振幅を小さくし、距離が近いほど音の振幅を大きくする。これにより患者は各周波数の音の大きさによって前方の障害物の高さや距離を認識する。
【0024】
次に以上の構成を備える空間認識装置1を用いた視覚障害者の歩行の補助動作を説明する。図2、3に床が傾斜している場合の説明図を示す。なお図3において横軸は音の周波数f、縦軸は音の振幅wである。検出範囲Sは距離情報取得部10の検出限界(リミット)であり、物体が検出範囲Sを超えて遠い位置にある場合には、制御部50は距離情報取得部10の振幅を0(ゼロ)とみなす。なお検出範囲Sの検出限界(リミット)の距離は室内、屋外などの周囲の状況に応じて切換えられることが好ましい。
【0025】
次に空間認識装置1を用いた動作の具体例を示す。なおここでは走査角度θ1〜θ9に対応する測定方向p1〜p9に対して所定周波数の刺激信号が割り当てられている例が示されている。
例えば図2(a)では、走査角度θ1〜θ3に対応する測定方向p1〜p3の検出範囲Sには床(地面)があるのに対し、走査角度θ4〜θ9に対応する測定方向p4〜p9では、検出範囲Sに物体が無い。この場合、制御部50は、図3(a)に示されるように、刺激部21の駆動制御によって、周波数f1からf3の周波数の音を加算したものを出力させる。なお測定方向p1〜p3での物体の高さは等しいので、制御部50は周波数f1〜f3の音を等しい振幅で出力させる。これにより患者は進行方向の床(地面)が水平になっており前方および上方に障害物が無いと認識できる。
【0026】
一方、図2(b)、(c)のように患者の前方にある床(地面)が斜面になっていると、制御部50は、図3(b)、(c)に示されるように、刺激部21から出力される周波数f1からf3の音の振幅を段階的に小さくする(大きくする)制御をする。これにより患者は複数の周波数の組み合わせで表された音の変化によって、その前方が次第に低く(高く)なる斜面であることを認識する。ここでも測定方向p4〜p9の走査角度θ4〜θ9では検出範囲Sに物体が含まれていないために、周波数f4からf9の音は出力されない。これにより患者は音に高音および中音が含まれていないことによって、遠方および前方に障害物が無いことを認識する。
【0027】
なお上述したように、本実施形態では姿勢センサー14bによる距離情報取得部10の上下方向の傾き検出結果に基づく距離情報の補正がリアルタイムで行われている。また患者が歩行等で移動する状況では、床および天井と患者との距離は振動により変わるため、制御部50は加速度センサー14aによる患者の鉛直方向の振動量の検知結果に基づき、距離情報取得部10で検出された物体の距離情報を補正する。具体的には走査の開始時点を基準とし走査の各時刻における距離情報取得部10の上下変動分を検出してこの分をキャンセル(相殺)するように距離情報を補正する。このようにすると走査部12の走査途中における患者の上下動の影響によるゆらぎの少ない距離情報が取得できる。
【0028】
次に患者の前方に段差がある例を示す。図4は患者と物体との位置関係の説明図であり、患者の移動に伴い物体(段差)が次第に近づいてくる例が示されている。また図5にこの場合の刺激発生装置20による音の出力変化についての説明図を示す。なお図5において横軸は音の周波数f、縦軸が音の振幅wである。
【0029】
図4(a)では、走査角度θ1〜θ3に対応する測定方向p1〜p3の高さhが一定であるため、図5(a)に示されるように、刺激部21からは周波数f1〜f3の一定振幅の音が出力される。これにより患者は足元が水平な状態であることを認識する。なおこの時、走査角度θ4〜θ9に対応する測定方向p4〜p9では反射信号が測距部11に受信されないため、周波数f4〜f9の音は出力されない。
【0030】
患者が次第に前方に移動して行き、図4(b)に示されるように走査角度θ3の位置に段差があると、測定方向p3からの反射信号の受信状態が変わる。制御部50は受信部14の検出結果に基づき物体の高さhを求める。この時、測定方向p1〜p2で検出された物体の高さよりも、測定方向p3で検出された物体の高さhが高いので、制御部50は周波数f1〜f2の音の振幅よりも、周波数f3の音の振幅が大きくなるように刺激信号を出力させる。これにより患者は前方に段差があることを認識する。
【0031】
更に患者が前方に移動すると次第に段差が接近してくる。図4(c)に示されるように、測定方向p2〜p3の範囲に段差があると、制御部50は刺激部21から出力される周波数f2〜f3の音の振幅を大きくする。これにより患者は聴覚で検知される音の変化に基づき段差が接近していることを認識する。
以上のように、各測定方向pnの物体の高さhの検出結果に基づき、予め対応付けられた音の出力振幅が変えられることで、患者は進行方向にある段差の接近状態を認識できるようになる。
【0032】
また図6に患者の正面に障害物が現れる例を示す。図7図6の状況での刺激出力装置20の出力変化の説明図を示す。なお図7において横軸は音の周波数f、縦軸が音の振幅wである。
図6(a)に示される状態では患者の前方にある床は水平であり周波数f1〜f3の一定振幅の音が刺激信号として出力される。一方、図6(b)、(c)に示されるように検知範囲S内に障害物が現れると、制御部50はその接近状態に応じて測定方向p1〜p9に対応する周波数f1〜f9の音の振幅を変える。ここでは障害物が比較的に低い位置から高い位置まであるため、測定方向p4〜p6までの音の振幅が大きく設定される。これにより患者は壁のような障害物が前方にあることを認識する。さらに近づくと、測定方向p4〜p6の音の振幅は更に大きくなり、障害物が接近していることがわかる。また、測定方向p2〜p3の音の振幅も大きくなり障害物が足元まであることがわかる。さらに、測定方向p7〜p8の音の振幅も大きくなることで障害物が高い位置まであることもわかる。
つまり従来のような補助具を使った歩行では検出が困難であった高い位置にある障害物が簡単に検知されるようになり、より安全でスムーズな歩行が可能となる。
【0033】
なお上記の説明では、便宜上9つの走査角度θ1〜θ9に対応する測定方向p1〜p9の検出結果に基づき、刺激信号が出力される例を示したが、更に多数の測定方向pnからの物体の距離情報が取得されても良い。また対応付けられる刺激信号の周波数は単一周波数である以外にも、ホワイトノイズにバンドパスフィルターを使用して得られる信号のようにある程度の帯域幅を持った音でも良い。
なお、周波数によって聞こえ方に大きな違いがある患者の場合には、水平な床や水平な天井をより正しく認識させるために各周波数の聴感度に応じて音の振幅を調整しても良い。
なお上記では刺激発生装置20からは音が出力される例を示したが、これ以外にも患者の皮膚を振動させて進行方向にある障害物の有無及びその接近状態を知らせても良い。
【0034】
また刺激部21から出力される刺激信号が左右個別に調節されると、物体が左右何れにあるかを患者に示せるようになる。図8に刺激発生装置20で左右の刺激を個別に調節する場合の説明図を示す。図8(a)、(b)に示されるように、制御部50は走査ミラー12の水平方向の走査角度ωに応じて、刺激発生装置20から出力される音の位相と音量とを変えることで左右方向から出力される刺激信号を個別に調節する。このようにすると患者は障害物のある方向をより詳細に把握できるようになり、首を左右方向に振らなくても左右方向にある物体の距離情報を簡単に取得できるようになる。
【0035】
なお刺激発生装置20を聴覚と触覚の刺激を異なる種類の刺激部21の組み合わせで構成しても良い。例えば患者の片耳に聴力がない場合、聴力が残されている耳にスピーカーを取り付けて水平方向の走査角度(方向)ωを考慮しない音による刺激信号を与える。一方、顔又は体の左右に一対のアクチュエータを装着させて、アクチュエータの検知結果に基づき水平方向の走査角度ωを認識させるようにしてもよい。
【0036】
また聴覚と触覚の両方の刺激信号を用いる場合には患者に対する物体の接近によって刺激方法を変えることもできる。例えば、物体が患者から所定距離よりも遠い位置にある場合にはスピーカーの駆動で聴覚のみを刺激する。一方、物体が患者から所定距離よりも近い位置にある場合には、聴覚の刺激に加えてアクチュエータの駆動で患者の触覚を振動又は電気刺激により刺激する。このようにすると物体の接近による危険度をより分かり易く示すことができる。またアクチュエータを患者の手足等の複数の部位に取り付けると、患者に対して物体が接近している位置を精度良く示せるようになる。なおこの場合の所定距離は図示を略すメモリに記憶されているとする。
【0037】
以上のように空間認識装置1によって上下方向の複数の測定方向での物体の距離情報が取得されることで、患者は頭部を上下方向に傾斜させることなく、上下方向の広い範囲での物体の距離情報を取得できるようになる。また距離情報補正部10によって刺激信号を出力させる際の基準位置が一定に定められるので、患者の頭部が傾いていたとしても、刺激発生装置20から出力される刺激信号によって物体の距離情報が正しく示されるようになる。
【0038】
なお空間認識装置1に視覚再生補助装置30が組み込まれている場合には、文字等の読解を行う場合に、図示を略すスイッチにて視覚再生補助装置30の刺激をカメラの映像によるものに切換える。これにより刺激発生装置20による遠方にある障害物検知から、視覚再生補助装置30による近距離にある文字情報などの検知に切換えられるので、患者は用途に応じて適切な情報を取得できるようになる。
【0039】
なお上記では患者の頭部に空間認識装置1が固定する例を示した。これ以外にも空間認識装置1は患者の進行方向にある障害物等の物体を検知出来る位置に固定される他、患者によって保持されても良い。
【0040】
以上のように、本実施形態では床面の傾きや段差を低音部の音色(複数の周波数の音量のバランス)で患者に容易に識別させることができる。また正面の障害物までの距離や高さを中音部の音量や音色(複数の周波数の音量のバランス)で患者に容易に認識させることができる。更に、衝突の危険性がある天井の高さの変化を高音部の音量や音色(複数の周波数の音量のバランス)で患者に容易に認識させることができる。これにより患者(視覚障害者)の歩行時のストレスや事故を大幅に低減することができる。また、床面の状態を検知できる機能はテーブル上の物体の場所や大きさを認識することにも役立ち患者のQOLを改善する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】空間認識装置の制御ブロック図である。
図2】床が傾斜している場合の説明図である。
図3】床が傾斜している場合の距離情報に基づく刺激発生装置の出力例である。
図4】前方に段差がある場合の説明図である。
図5】段差がある場合の距離情報に基づく刺激発生装置の出力例である。
図6】前方に障害物がある場合の説明図である。
図7】前方に障害物がある場合の距離情報に基づく刺激発生装置の出力例である。
図8】患者の左右を個別に刺激する場合の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 空間認識装置
10 距離情報取得部
11 測距部
12 走査ミラー
13 駆動部
14 姿勢検出部
20 刺激発生装置
30 視覚再生補助装置
50 制御部
60 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8