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特許6015103有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015103
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20161013BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   H05B33/10
   H05B33/14 A
   H05B33/22 D
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-103307(P2012-103307)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-232315(P2013-232315A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】徳永 圭治
(72)【発明者】
【氏名】武田 利彦
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−103332(JP,A)
【文献】 特開2008−311608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50−51/56
H01L 27/32
H05B 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、前記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、前記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された陰極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層を形成する成膜工程、および、前記正孔注入輸送層に前記金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いてリンス処理を行うリンス処理工程を有する正孔注入輸送層形成工程と、
前記正孔注入輸送層上に塗布法により任意の層を形成する積層工程と
を有し、
前記金属錯体の中心金属が、モリブデン、タングステン、バナジウム、レニウム、または金であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記正孔注入輸送層用材料が、正孔輸送性有機化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記任意の層が正孔輸送層または前記発光層であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体を用いて正孔注入輸送層を形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光層に到達した電子と正孔とが再結合する際に生じる発光を利用した電荷注入型の自発光素子である。以下、エレクトロルミネッセンスをELと称する場合がある。
【0003】
有機EL素子の素子構造は、陽極/有機層/陰極から構成される。陽極と陰極の間に形成される層は、初期の有機EL素子においては発光層/正孔注入層の二層構造であったが、現在では、高い発光効率と長駆動寿命を得るために、電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層の五層構造等、様々な多層構造が提案されている。これら電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層等の発光層以外の層には、電荷を発光層へ注入または輸送しやすくする効果、あるいはブロックすることにより電子電流と正孔電流のバランスを保持する効果や、光エネルギー励起子の拡散を抑制する効果等があるといわれている。
【0004】
有機EL素子においては、高い発光効率を得るために、電極から発光層に電荷を効率的に注入することが必要であるが、一般的に陽極や陰極の仕事関数と発光層のイオン化ポテンシャルまたは電子親和力とはエネルギー準位の差が大きく、電荷を容易に注入できない。そのため、従来では、陽極と発光層との間に正孔輸送層や正孔注入層を設けたり、陰極と発光層との間に電子輸送層や電子注入層を設けたりして、陽極や陰極から発光層に向かって各層界面の電荷注入のエネルギー障壁を小さくすることが行われている。
陽極に接する正孔注入層は、陽極から正孔輸送層または発光層へ正孔を注入しやすくするという目的に使用される。したがって、正孔注入層に用いられる材料は、陽極から正孔輸送層または発光層に向かって各層界面での正孔注入のエネルギー障壁を小さくするようなイオン化ポテンシャルを持つことが望ましい。
【0005】
最近、正孔注入特性の向上を目的として、金属錯体を用いて正孔注入層を形成することが試みられている。例えば特許文献1および特許文献2には、遷移金属錯体を用いて正孔注入輸送層を形成することが提案されている。
【0006】
ところで、近年、有機EL素子の製造方法においては、大面積の有機EL素子を低コストかつ簡易なプロセスで製造できることから、塗布法が注目されている。塗布法においては、塗布される層表面の濡れ性が良好であること、均一な厚みで成膜できること等が求められる。
そこで、例えば特許文献3には、陽極に、プラズマやUV照射等の表面改質処理を行うことが提案されている。また特許文献4には、PEDOT/PSS等の導電性ポリマーを用いた中間層に、溶剤による洗浄処理を行うことで、中間層表面に付着している余分な遊離成分を除去したり、表面平滑性を高めたり、表面エネルギーを調整したりする方法が提案されている。また特許文献5には、パターン状に形成されたバンクの開口部に有機層を塗布法により形成する場合において、バンクの開口部に存在するバンク形成用組成物の残渣を除去して、均一な厚みの有機層を形成するために、極性有機溶媒で洗浄することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−290205号公報
【特許文献2】特開2011−096733号公報
【特許文献3】国際公開第2006/100868号パンフレット
【特許文献4】特開2006−303412号公報
【特許文献5】特開2010−103105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、金属錯体を用いた正孔注入輸送層上に塗布法により発光層や正孔輸送層等を形成することを試みたところ、金属錯体を用いた正孔注入輸送層は、公知の有機材料を用いた正孔注入輸送層と比較して、表面の濡れ性が大きく劣る傾向があることがわかった。濡れ性が悪いと、ハジキが起こり平滑性の悪い膜しか形成できず、短絡の原因になったり正孔注入効率が低下したりする。さらに本発明者らは検討を行い、金属錯体を用いた正孔注入輸送層の濡れ性不良の要因を突き止めた。すなわち、金属錯体は、分子の中心に金属が存在し、金属に配位子が配位した化合物であることから、金属錯体を用いた正孔注入輸送層表面には配位子が露出しており、この配位子が濡れ性に影響を及ぼしているものと考えられる。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、金属錯体を用いた正孔注入輸送層表面の濡れ性を改善することが可能な有機EL素子の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、金属錯体を用いた正孔注入輸送層表面の濡れ性を改善するために種々の表面処理について鋭意検討した結果、配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いたリンス処理を行うことにより濡れ性が向上すること、さらに金属錯体および正孔輸送性有機化合物を用いて正孔注入輸送層を形成する場合には上記リンス処理により濡れ性が大幅に改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子の製造方法であって、金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層を形成する成膜工程、および、上記正孔注入輸送層に上記金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いてリンス処理を行うリンス処理工程を有する正孔注入輸送層形成工程と、上記正孔注入輸送層上に塗布法により任意の層を形成する積層工程とを有することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いてリンス処理を行うことにより、正孔注入輸送層表面の濡れ性を向上させることが可能である。
【0013】
上記発明においては、上記正孔注入輸送層用材料が、正孔輸送性有機化合物をさらに含有していてもよい。正孔注入輸送層用材料が金属錯体および正孔輸送性有機化合物を含有する場合には、金属錯体のみを含有する場合と比較して、正孔注入輸送層表面の濡れ性がさらに劣る傾向があるため、リンス処理を行うことにより正孔注入輸送層表面の濡れ性を効果的に改善することができる。
【0014】
また本発明においては、上記任意の層が正孔輸送層または上記発光層であることが好ましい。本発明においてはリンス処理を行うことにより正孔注入輸送層表面の濡れ性が向上するため、密着性良く表面平滑性の良好な正孔輸送層または発光層を形成することができ、正孔注入効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いてリンス処理を行うことにより、正孔注入輸送層表面の濡れ性が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。
図2】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
図3】本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。
図4】本発明の有機EL素子の製造方法により製造される有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法について詳細に説明する。
【0018】
本発明の有機EL素子の製造方法は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有する有機EL素子の製造方法であって、金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層を形成する成膜工程、および、上記正孔注入輸送層に上記金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いてリンス処理を行うリンス処理工程を有する正孔注入輸送層形成工程と、上記正孔注入輸送層上に塗布法により任意の層を形成する積層工程とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明の有機EL素子の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図1(a)〜(g)は本発明の有機EL素子の製造方法の一例を示す工程図である。まず、図1(a)に示すように陽極3が形成された基板2を準備する。次に、図1(b)に示すように陽極3上に、金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を塗布し、乾燥させ、正孔注入輸送層4を形成する成膜工程を行う。次いで、図1(c)に示すように正孔注入輸送層4を金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤11でリンスするリンス処理工程を行う。次に、図1(d)に示すように正孔注入輸送層4上に正孔輸送層用材料を塗布し、乾燥させ、正孔輸送層5を形成する積層工程を行う。続いて、図1(e)に示すように正孔輸送層5上に発光層6を形成する。次いで、図1(f)に示すように発光層6上に電子注入層7を形成し、さらに図1(g)に示すように電子注入層7上に陰極8を形成する。このようにして、有機EL素子1が作製される。
【0020】
図2(a)〜(f)は本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。まず、図2(a)に示すように陽極3が形成された基板2を準備する。次に、図2(b)に示すように陽極3上に、金属錯体および正孔注入輸送性有機化合物を含有する正孔注入輸送層用材料を塗布し、乾燥させ、正孔注入輸送層4を形成する成膜工程を行う。次いで、図2(c)に示すように正孔注入輸送層4を金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤11でリンスするリンス処理工程を行う。次に、図2(d)に示すように正孔注入輸送層4上に発光層用材料を塗布し、乾燥させ、発光層6を形成する積層工程を行う。次いで、図2(e)に示すように発光層6上に電子注入層7を形成し、さらに図2(f)に示すように電子注入層7上に陰極8を形成する。このようにして、有機EL素子1が作製される。
【0021】
図3(a)〜(g)は本発明の有機EL素子の製造方法の他の例を示す工程図である。まず、図3(a)に示すように陰極8が形成された基板2を準備する。次に、図3(b)に示すように陰極8上に電子注入層7を形成し、続いて図3(c)に示すように電子注入層7上に発光層6を形成する。次に、図3(d)に示すように発光層6上に、金属錯体および正孔輸送性有機化合物を含有する正孔注入輸送層用材料を塗布し、乾燥させ、正孔注入輸送層4を形成する成膜工程を行う。次いで、図3(e)に示すように正孔注入輸送層4を金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤11でリンスするリンス処理工程を行う。次に、図3(f)に示すように正孔注入輸送層4上に保護層用材料を塗布し、乾燥させ、保護層10を形成する積層工程を行う。次いで、図3(g)に示すように保護層10上に陽極3を形成する。このようにして、有機EL素子1が作製される。
【0022】
本発明においては、金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて形成された正孔注入輸送層に、金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いたリンス処理を行うことにより、正孔注入輸送層表面の濡れ性を向上させることができる。この理由は明らかではないが、金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料には余剰の配位子が含まれている場合や、正孔注入輸送層の熱硬化のために熱処理を行う場合にはこの熱処理によって配位結合が外れた配位子が正孔注入輸送層中に残存している場合があり、正孔注入輸送層表面に存在するこれらの配位子がリンス処理により除去されることで、濡れ性が改善されると考えられる。中でも、金属錯体および溶媒を含有する正孔注入輸送層用材料を塗布し、溶媒を乾燥させて正孔注入輸送層を形成する場合には、溶媒の乾燥時に余剰の配位子や配位結合が外れた配位子が正孔注入輸送層表面に浮き出るため、リンス処理によって濡れ性をさらに改善することができると考えられる。特に、金属錯体と正孔輸送性有機化合物と溶媒とを含有する正孔注入輸送層用材料を塗布し、溶媒を乾燥させて正孔注入輸送層を形成する場合には、溶媒の乾燥時に上記配位子が正孔注入輸送層表面に浮き出てきやすくなるため、リンス処理による濡れ性改善の効果が大きいと推量される。
【0023】
したがって本発明においては、正孔注入輸送層上に塗布法により任意の層を形成する積層工程にて、ハジキを防ぎ、塗布適性を高めることができる。例えば図1(d)に示すように正孔注入輸送層4上に正孔輸送層5を塗布法により形成したり、図2(d)に示すように正孔注入輸送層4上に発光層6を塗布法により形成したりする場合には、正孔注入輸送層表面の濡れ性が良好であるので、密着性良く表面平滑性の良好な正孔輸送層または発光層を形成することができる。また、図3(f)に例示するように正孔注入輸送層4上に保護層10を塗布法により形成する場合には、正孔注入輸送層表面の濡れ性が良好であるので、密着性良く表面平滑性の良好な保護層を形成することができる。正孔注入輸送層と発光層もしくは正孔輸送層または保護層との密着性が良く、発光層もしくは正孔輸送層または保護層の表面平滑性が良くなれば、正孔注入効率を向上させることが可能になる。
【0024】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法における各工程について説明する。
【0025】
1.正孔注入輸送層形成工程
本発明における正孔注入輸送層形成工程は、金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層を形成する成膜工程と、上記正孔注入輸送層に上記金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いてリンス処理を行うリンス処理工程とを有する。
【0026】
なお、本発明において、「正孔注入輸送層」とは、少なくとも正孔注入性を有するものをいう。正孔注入輸送層は、正孔注入性のみを有していてもよく、正孔注入性および正孔輸送性の両方を有していてもよい。
【0027】
以下、正孔注入輸送層形成工程における各工程について説明する。
【0028】
(1)成膜工程
本発明における成膜工程は、金属錯体を含有する正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層を形成する工程である。
以下、正孔注入輸送層用材料および正孔注入輸送層の形成方法について説明する。
【0029】
(a)正孔注入輸送層用材料
本発明に用いられる正孔注入輸送層用材料は、金属錯体を含有するものであり、さらに正孔輸送性有機化合物を含有していてもよい。正孔注入輸送層用材料が金属錯体および正孔輸送性有機化合物を含有する場合には、金属錯体のみを含有する場合と比較して、正孔注入輸送層表面の濡れ性がさらに劣る傾向にあるため、リンス処理を行うことにより正孔注入輸送層表面の濡れ性を効果的に改善することができる。また、正孔注入輸送層用材料が金属錯体および正孔輸送性有機化合物を含有する場合、正孔注入性および正孔輸送性を有する単一の層を形成することができ、正孔注入性を有する正孔注入輸送層と正孔輸送性を有する正孔輸送層とを二層積層する必要がないため、工程数を減らすことができ、製造コストを削減することができる。さらに、金属錯体と正孔輸送性有機化合物との間で電荷移動錯体を形成させることができ、正孔注入特性を向上させることもできる。
以下、金属錯体および正孔輸送性有機化合物に分けて説明する。
【0030】
(i)金属錯体
金属錯体は、分子の中心に金属が存在し、金属に配位子が配位した化合物である。
金属錯体は、金属の価数によって正孔注入性や正孔輸送性を制御することができる。また、金属錯体は、配位子中に有機部分を含み得るため、正孔注入輸送層用材料が溶媒を含有する場合には、金属錯体の分散安定性が良好になる。
【0031】
金属錯体の中心金属としては、その金属錯体が正孔注入性を示すものであれば特に限定されるものではなく、例えば、モリブデン、タングステン、チタン、パラジウム、白金、ニッケル、バナジウム、レニウム、ロジウム、金等を挙げることができる。中でも、モリブデン、タングステンが好ましい。モリブデン錯体およびタングステン錯体は、金属錯体同士あるいは正孔輸送性有機化合物との間で電荷移動錯体を形成しやすく、正孔注入特性を向上させることができると考えられるからである。
【0032】
なお、電荷移動錯体を形成していることは、例えば、H NMR測定により、金属錯体を正孔輸送性有機化合物の溶液へ混合した場合、正孔輸送性有機化合物の6〜10ppm付近に観測される芳香環に由来するプロトンシグナルの形状やケミカルシフト値が、金属錯体を混合する前と比較して変化する現象が観測されることによって示唆される。
【0033】
正孔注入性を考慮すると、陽極から発光層に向かって各層の仕事関数またはイオン化ポテンシャルの絶対値が階段状に大きくなるような中心金属を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、陽極と発光層との間の正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
【0034】
配位子としては、中心金属の種類、金属錯体の分散安定性等に応じて適宜選択されるが、中でも、金属錯体の分散安定性が向上する点から、有機部分を含むことが好ましい。
また、配位子は、低分子配位子であっても高分子配位子であってもよいが、中でも、後述のリンス処理により除去しやすいことから、低分子配位子であることが好ましい。なお、低分子配位子とは、分子量が1000以下である配位子をいう。
【0035】
単座配位子としては、例えば、アシル、カルボニル、チオシアネート、イソシアネート、シアネート、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0036】
また、配位子は、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミド基、スルホンアミド基、リン酸基、ホスフィン酸基、P=O基等の親水性基を含んでいてもよい。中でも、配位子としては、下記一般式(1a)〜(1o)で示される官能基から選択される1種以上であることが好ましい。これらの配位子は、リンス処理により容易に除去することができるからである。
【0037】
【化1】
【0038】
(式中、Z1、Z2およびZ3は、各々独立にハロゲン原子またはアルコキシ基を表す。)
【0039】
また、配位子は、芳香環および複素環の少なくともいずれかを含んでいてもよい。芳香環および複素環の少なくともいずれかを含む構造としては、具体的には、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、およびこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
また、本発明の効果を損なわない限り、芳香環および複素環の少なくともいずれかを含む構造に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
【0040】
また、配位子としては、単座配位子または二座配位子が、金属錯体の反応性が高くなる点から好ましい。金属錯体自身が安定になりすぎると反応性が劣る場合がある。
【0041】
例えば、モリブデン錯体としては、酸化数−2から+6までの錯体がある。
酸化数0以下のモリブデン錯体としては、例えば、金属カルボニル[Mo-II(CO)5]2-、[(CO)5Mo-IMo-I(CO)5]2-、[Mo(CO)6]等が挙げられる。
また、酸化数が+1のモリブデン(I)錯体としては、ジホスファンやη5−シクロペンタジエニドを含む非ウェルナー型錯体が挙げられ、具体的には、[MoI6-C66)2]+、[MoCl(N2)(diphos)2](diphosは、二座配位子(C652PCH2CH2P(C652)が挙げられる。
【0042】
酸化数が+2のモリブデン(II)錯体としては、モリブデンが二核錯体となって、(Mo24+イオンの状態で存在するMo2化合物が挙げられ、例えば、[Mo2(RCOO)4]や[Mo222(RCOO)4]などが挙げられる。ここで、RCOOのうちのRは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、各種カルボン酸を用いることができる。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸や酪酸、吉草酸などの脂肪酸、トリフルオロメタンカルボン酸等のハロゲン化アルキルカルボン酸、安息香酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、2−フェニルプロパン酸、ケイ皮酸、フルオレンカルボン酸などの炭化水素芳香族カルボン酸、フランカルボン酸やチオフェンカルボン酸、ピリジンカルボン酸等の複素環カルボン酸等が挙げられる。中でも、カルボン酸に、上述のような芳香環および複素環の少なくともいずれかを含む構造が好適に用いられる。カルボン酸は選択肢が多く、分散安定性を最適化したり、正孔注入輸送機能を最適化したりするのに適した配位子である。また、Xはハロゲンやアルコキシドであり、塩素、臭素、ヨウ素やメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、sec−ブチトキシド、tert−ブチトキシドを用いることができる。また、Lは中性の配位子であり、P(n−C493やP(CH33などのトリアルキルホスフィンやトリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィンを用いることができる。
酸化数が+2のモリブデン(II)錯体としては、その他、[MoII244]、[MoII24]等のハロゲン錯体を用いることができ、例えば、[MoIIBr4(P(n−C4934]や[MoII2(diars)2](diarsは、ジアルシン(CH3)2As−C64−As(CH3)2)等が挙げられる。
【0043】
酸化数が+3のモリブデン(III)錯体としては、例えば、[(RO)3Mo≡Mo(OR)3]や、[Mo(CN)7(H2O)]4-等が挙げられる。Rは炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基である。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。
また、酸化数が+4のモリブデン(IV)錯体としては、例えば、[Mo{N(CH3)2}4]、[Mo(CN)8]4-、それにオキソ配位子をもつMoO2+の錯体や、O2-で二重架橋したMo224+の錯体が挙げられる。
【0044】
酸化数が+5のモリブデン(V)錯体としては、例えば、[Mo(CN)8]3-や、Mo=Oがトランス位でO2-で架橋された二核のMo234+を有するオキソ錯体としては例えばキサントゲン酸錯体Mo23(S2COC254、Mo=Oがシス位でO2-で二重架橋された二核のMo242+を有するオキソ錯体としては例えばヒスチジン錯体[Mo24(L−histidine)2]・3H2O等が挙げられる。
また、酸化数が+6のモリブデン(VI)錯体としては、例えば、[MoO2(acetylacetonate)2]が挙げられる。なお、二核以上の金属錯体の場合には、混合原子価錯体もある。
【0045】
(ii)正孔輸送性有機化合物
本発明に用いられる正孔輸送性有機化合物としては、陽極から注入された正孔を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
【0046】
正孔輸送性低分子化合物としては、例えば特開2009−290205号公報に記載の正孔輸送性低分子化合物を用いることができ、具体的には、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体等を挙げることができる。アリールアミン誘導体としては、例えば、N,N′−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N′−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、4,4′,4″−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)および4,4′,4″−トリス(N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)等が挙げられる。
【0047】
また、正孔輸送性高分子化合物としては、例えば特開2009−290205号公報に記載の正孔輸送性高分子化合物を用いることができ、具体的には、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体等を繰り返し単位に含む重合体を用いることができる。アリールアミン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、非共役系の高分子として、コポリ[3,3′−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)、PTPDESおよびEt−PTPDEK等、共役系の高分子としてポリ[N,N′−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N′−ビス(フェニル)−ベンジジン]を挙げることができる。フルオレン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4′−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N′−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N′−{1,4−ジフェニレン})]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0048】
正孔注入輸送層用材料が正孔輸送性有機化合物を含有する場合、正孔輸送性有機化合物の含有量は、金属錯体100重量部に対して、10重量部〜10000重量部であることが好ましい。正孔輸送性を高くし、かつ、正孔注入輸送層の安定性が高く長寿命を達成することができるからである。正孔輸送性有機化合物の含有量が少なすぎると、正孔輸送性有機化合物を混合した相乗効果が得られ難い。一方、正孔輸送性有機化合物の含有量が多すぎると、金属錯体を用いる効果が得られ難くなる。
【0049】
(iii)溶媒
本発明において、正孔注入輸送層用材料を塗布して正孔注入輸送層を形成する場合には、正孔注入輸送層用材料は溶媒を含有していてもよい。
【0050】
本発明に用いられる溶媒としては、金属錯体が良好に溶解もしくは分散するものであれば特に限定されるものではなく、非極性溶媒および極性溶媒のいずれも用いることができる。
非極性溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチルおよび安息香酸ブチル等が挙げられる。
極性溶媒は親水性溶媒である。親水性溶媒とは、ある割合で水と相溶する溶媒である。親水性溶媒としては、水への溶解度(20℃)が50g/L以上であることを目安として、特に限定されることなく用いることができる。親水性溶媒は、任意の割合で水と混合可能な溶媒であることが好ましい。このような親水性溶媒としては、例えば、グリセリン、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、ブチルグリコール、イソブチルグリコール、メチルプロピレンジグリコール、プロピルプロピレングリコール、ブチルプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等を挙げることができる。
【0051】
(iv)その他の成分
正孔注入輸送層用材料は、本発明の効果を損なわない限り、バインダー樹脂や硬化性樹脂や塗布性改良剤等の添加剤を含んでいてもよい。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。また、熱または光等により硬化するバインダー樹脂を含有していてもよい。熱または光等により硬化する材料としては、上記正孔輸送性有機化合物において分子内に硬化性の官能基が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。具体的に、硬化性の官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基等のアクリル系の官能基、またはビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0052】
(b)正孔注入輸送層の形成方法
正孔注入輸送層の形成方法としては、上記正孔注入輸送層用材料を用いて正孔注入輸送層を形成することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、塗布法、蒸着法等が挙げられる。
中でも、塗布法が好ましい。製造プロセスが容易な上、短絡が発生しにくく歩留まりが高いからである。
なお、「塗布法」とは、上記の金属錯体が溶媒に溶解もしくは分散された正孔注入輸送層用材料を用い、この正孔注入輸送層用材料を下地となる陽極または発光層もしくは正孔輸送層の上に塗布する方法である。
【0053】
塗布法としては、正孔注入輸送層用材料を所定の膜厚で塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、ノズルコーティング法等が挙げられる。薄膜で平滑な正孔注入輸送層を得たい場合には、スピンコート法が好適に用いられる。また、正孔注入輸送層のパターンを得る場合には、基板上に位置選択的に正孔注入輸送層を形成可能なインクジェット法が好適に用いられる。また、大面積にて正孔注入輸送層を形成する必場合には、ディップコート法が好適に用いられる。
【0054】
塗布法の場合、正孔注入輸送層用材料を塗布した後に乾燥させる。乾燥方法としては、正孔注入輸送層用材料に含有される溶媒を除去できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥等の一般的な乾燥方法を適用することができる。
【0055】
また、正孔注入輸送層用材料が熱硬化性の成分を含む場合には、正孔注入輸送層用材料を塗布した後に熱硬化のための熱処理を行ってもよい。
熱処理の雰囲気としては、窒素等の不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。配位子同士の反応を防ぐことができるからである。また、大気中で熱硬化させると、大気中の水分や酸素が硬化反応を阻害し十分に硬化が進行しないと考えられるからである。
【0056】
(2)リンス処理工程
本発明におけるリンス処理工程は、上記正孔注入輸送層に上記金属錯体の配位子に対して溶解性を有する溶剤を用いてリンス処理を行う工程である。
【0057】
本発明に用いられる溶剤としては、金属錯体の配位子に対して溶解性を有するものであれば特に限定されるものではなく、配位子の種類に応じて適宜選択されるものであり、非極性溶媒および極性溶媒のいずれも用いることができる。非極性溶媒および極性溶媒としては、上記の正孔注入輸送層用材料に用いられる溶媒を使用することができる。中でも、リンス処理後の正孔注入輸送層表面の濡れ性がより良くなることから、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキサノン、安息香酸エチル、1−ブタノール、テトラリン、アニソール、クロロホルムが好ましい。
【0058】
正孔注入輸送層表面に溶剤を供給する方法としては、正孔注入輸送層全面に溶剤を供給することができ、正孔注入輸送層表面に存在する余剰の配位子や配位結合が外れた配位子を溶剤で除去することができれば特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、溶剤を直接垂らすドロップ法等が挙げられる。
【0059】
また、正孔注入輸送層表面に溶剤を供給した後は乾燥させる。乾燥方法としては、溶剤を除去できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥等の一般的な乾燥方法を適用することができる。
【0060】
(3)正孔注入輸送層
正孔注入輸送層の膜厚は、正孔注入輸送層用材料の種類に応じて適宜決定することができる。正孔注入輸送層用材料が金属錯体を含有し、正孔輸送性有機化合物を含有しない場合、正孔注入輸送層の膜厚は、通常5nm〜100nm程度であり、好ましくは10nm〜50nmの範囲内である。また、正孔注入輸送層用材料が金属錯体および正孔輸送性有機化合物を含有する場合、正孔注入輸送層の膜厚は、通常5nm〜200nm程度であり、好ましくは10nm〜100nmの範囲内である。正孔注入輸送層の膜厚が薄すぎると短絡が生じるおそれがあり、厚すぎると駆動電圧が高くなるおそれがあるからである。
【0061】
正孔注入輸送層は通常は一層であるが、上記の成膜工程およびリンス処理工程を繰り返し行い、正孔注入輸送層を二層積層してもよい。
【0062】
2.積層工程
本発明における積層工程は、上記正孔注入輸送層上に塗布法により任意の層を形成する工程である。
【0063】
任意の層としては、正孔注入輸送層上に形成される層であればよく、有機EL素子の構成や各層の形成順に応じて適宜選択されるものであり、例えば、発光層、正孔輸送層、保護層が挙げられる。
具体的には、陽極側から各層を順に形成する場合であって、正孔注入輸送層用材料が金属錯体を含有し、正孔輸送性有機化合物を含有しない場合には、図1(d)に例示するように正孔注入輸送層4上に任意の層として正孔輸送層5を塗布法により形成する積層工程が行われる。また、陽極側から各層を順に形成する場合であって、正孔注入輸送層用材料が金属錯体および正孔輸送性有機化合物を含有する場合には、図2(d)に例示するように正孔注入輸送層4上に任意の層として発光層6を塗布法により形成する積層工程が行われる。また、陰極側から順に各層を形成する場合には、図3(f)に例示するように正孔注入輸送層4上に任意の層として保護層10を塗布法により形成する積層工程が行われる。
中でも、正孔注入輸送層上に形成される任意の層は、発光層または正孔輸送層であることが好ましい。正孔注入輸送層と発光層または正孔輸送層との密着性を高めることができるとともに、発光層または正孔輸送層の表面平滑性を向上させることができ、正孔注入効率を向上させることができるからである。
【0064】
なお、塗布法については、上記正孔注入輸送層を塗布法により形成する場合と同様であるので、ここでの説明は省略する。
また、発光層、正孔輸送層、保護層については後述するので、ここでの説明は省略する。
【0065】
3.有機EL素子の構成
本発明における有機EL素子は、陽極と、上記陽極上に形成された正孔注入輸送層と、上記正孔注入輸送層上に形成された発光層と、上記発光層上に形成された陰極とを有するものである。
有機EL素子においては、図1(a)〜(g)および図2(a)〜(f)に例示するように陽極側から順に各層を形成する場合には基板上に陽極が形成されていてもよく、図3(a)〜(g)に例示するように陰極側から順に各層を形成する場合には基板上に陰極が形成されていてもよい。
また有機EL素子においては、図4に例示するように、正孔注入輸送層4と発光層6との間に正孔輸送層5が形成されていてもよく、発光層6と陰極8との間に電子輸送層9や電子注入層7が形成されていてもよい。また、陰極側から順に各層を形成する場合には、図3(g)に例示するように正孔注入輸送層4と陽極3との間に保護層10が形成されていてもよい。
以下、有機EL素子における正孔注入輸送層以外の各層について説明する。
【0066】
(1)基板
本発明に用いられる基板は、本発明における有機EL素子の支持体になるものである。
【0067】
基板は、光透過性を有していてもよく有さなくてもよく、発光層から放射される光の取出し側に応じて適宜選択される。基板上に陽極または陰極が形成され、基板側から光を取り出す場合には、基板には光透過性を有する透明基板が用いられる。
【0068】
基板は、フレキシブルな基板であっても、リジッドな基板であってもよい。基板としては、例えば特開2009−290205号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、ガラス、石英等のガラス基板、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基板を挙げることができる。樹脂基板を使用する場合には、ガスバリア性を有することが望ましい。
中でも、樹脂基板が好ましく用いられる。樹脂基板はフレキシブル性を有する基板にすることができ、種々の用途に応用できるだけでなく、ロールツーロールにより有機EL素子を作製可能であり生産効率を向上させることができる。
【0069】
基板の厚さは特に限定されないが、通常、0.5mm〜2.0mm程度である。
【0070】
(2)陽極および陰極
陽極および陰極は、発光層から放射される光の取出し側に応じて、いずれか一方の電極に光透過性が要求される。陽極側から光を取り出す場合、陽極には光透過性を有する透明電極が用いられ、陰極側から光を取り出す場合、陰極には光透過性を有する透明電極が用いられる。
【0071】
陽極および陰極に用いられる材料としては、一般的に有機EL素子の電極に用いられる導電性材料であればよく、例えば金属、金属酸化物を挙げることができる。例えば特開2009−290205号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、アルミニウム、金、銀等の金属、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化インジウム亜鉛等の金属酸化物が挙げられる。
【0072】
陽極および陰極の形成方法としては、一般的な電極の形成方法であればよく、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等が挙げられる。
【0073】
電極の厚さは、光透過性の有無等に応じて適宜調整され、例えば、10nm〜1000nm程度にすることができ、好ましくは20nm〜500nm程度である。
【0074】
(3)発光層
発光層は、発光材料を含有するものである。発光材料としては、一般的な発光材料であれば特に限定されるものではなく、蛍光材料および燐光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料等を挙げることができ、低分子化合物および高分子化合物のいずれも用いることができる。
【0075】
色素系材料としては、例えば特開2009−290205号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、フェニルアントラセン誘導体等を挙げることができる。またこれらの二量体や三量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0076】
金属錯体系材料としては、例えば特開2009−290205号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体等、あるいは中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0077】
高分子系材料としては、上記低分子系材料を分子内に直鎖あるいは側鎖あるいは官能基として導入されたもの、重合体およびデンドリマー等を使用することができる。例えば特開2009−290205号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体およびポリフルオレン誘導体ならびにそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0078】
発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーパントを添加してもよい。高分子系材料の場合は、これらを分子構造の中に発光基として含んでいてもよい。このようなドーパントとしては、例えば特開2009−290204号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、カルバゾール誘導体およびフルオレン誘導体を挙げることができる。またこれらにスピロ基を導入した化合物も用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0079】
発光層の形成方法としては、例えば、塗布法、蒸着法、転写法が挙げられる。中でも、塗布法が好ましい。発光層や正孔注入輸送層等の有機EL素子を構成する有機層のすべてを塗布法で形成することにより、大面積の有機EL素子を効率良く製造することができるともに、製造コストを低減することができるからである。
なお、塗布法については、上記正孔注入輸送層の形成方法と同様である。
【0080】
発光層の膜厚は、例えば1nm〜500nm程度であり、好ましくは20nm〜100nmの範囲内である。
【0081】
(4)正孔輸送層
有機EL素子においては、正孔注入輸送層と発光層との間に正孔輸送層が形成されていてもよい。
【0082】
正孔輸送層に用いられる材料としては、有機EL素子の正孔輸送層に一般的に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。具体的には、上記正孔注入輸送層に用いられる正孔輸送性有機化合物が挙げられる。
【0083】
正孔輸送性を考慮すると、陽極から発光層に向かって各層の仕事関数またはイオン化ポテンシャルの絶対値が階段状に大きくなるような材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、陽極と発光層との間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
【0084】
正孔輸送層の形成方法としては、上記発光層の形成方法と同様にすることができる。
正孔輸送層の膜厚は、例えば1nm〜1μm程度であり、好ましくは1nm〜500nmの範囲内である。
【0085】
(5)電子注入層
有機EL素子においては、発光層または電子輸送層と陰極との間に電子注入層が形成されていてもよい。
【0086】
電子注入層に用いられる材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば特開2011−171243号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、Ba、Ca、Li等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、アルミニウムリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化リチウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、8−ヒドロキシキノリノラトLi(Liq)、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属錯体等を挙げることができる。また、Ca/LiFのように、これらを積層して用いることも可能である。
【0087】
また、電子注入層は、電子注入性に加えて電子輸送性を有していてもよい。電子注入性および電子輸送性を有する電子注入層に用いられる材料としては、例えば、8−ヒドロキシキノリノラトLi(Liq)等のアルカリ金属錯体やアルカリ土類金属錯体がドープされた電子輸送性材料を挙げることができる。電子輸送性材料としては、上述の発光材料や後述の電子輸送層の材料が挙げられる。
【0088】
電子注入層の形成方法としては、例えば蒸着法が挙げられる。
電子注入層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定される
ものではないが、具体的には0.1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜100nmの範囲内である。
【0089】
(6)電子輸送層
有機EL素子においては、発光層と陰極または電子注入層との間に電子輸送層が形成されていてもよい。
【0090】
電子輸送層に用いられる材料としては、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば特開2011−171243号公報に記載のものを用いることができ、具体的には、オキサジアゾール類、トリアゾール類、フェナントロリン類等を挙げることができる。具体的には、オキサジアゾール類としては(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)等が挙げられ、フェナントロリン類としてはバソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられ、アルミニウム錯体としてはトリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)等が挙げられる。
【0091】
電子輸送層の形成方法としては、上記発光層の形成方法と同様にすることができる。
電子輸送層の膜厚としては、その機能が十分に発揮される膜厚であれば特に限定されるものではないが、具体的には1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1nm〜100nmの範囲内である。
【0092】
(7)保護層
有機EL素子においては、陰極側から順に各層を形成する場合であって、正孔注入輸送層上に陽極をスパッタリング法により形成する場合には、正孔注入輸送層と陽極との間に、スパッタリング時に正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等を保護する保護層が形成されていてもよい。保護層が形成されていることにより、正孔注入輸送層上に陽極をスパッタリング法により形成する際に、正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等へのダメージを軽減することができる。
【0093】
保護層としては、陽極をスパッタリング法により成膜する際のダメージから正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等を保護することができるものであれば特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用することができる。例えば特開2007−96270号公報に記載の電荷輸送性材料を用いることができ、具体的には、Alq等のキノリン誘導体、BND、PBD等のオキサジアゾール誘導体、TAZ等のトリアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、正孔輸送性材料として知られている材料の中でもTPD等のように、正孔だけでなく電子の移動度も高い材料であれば用いることができる。
【0094】
保護層の厚みとしては、陽極をスパッタリング法により成膜する際のダメージから正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等を保護することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、10nm〜1μmの範囲内にすることができ、好ましくは50nm〜500nmの範囲内、より好ましくは70nm〜150nmの範囲内である。
【0095】
保護層の形成方法としては、正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層等へのダメージが少ない方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、塗布法や、抵抗加熱蒸着法等の真空蒸着法を用いることができる。中でも、リンス処理によって正孔注入輸送層表面の濡れ性が向上することから、塗布法が好ましい。なお、塗布法については、上記正孔注入輸送層の形成方法と同様である。
【0096】
(8)その他の構成
有機EL素子においては、正孔ブロック層や電子ブロック層のような正孔もしくは電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層が形成されていてもよい。
このように有機EL素子は、種々の層を積層した積層構造を有することが多く、積層構造としては多くの種類がある。
【0097】
4.その他の工程
本発明の有機EL素子の製造方法は、上記の正孔注入輸送層形成工程および積層工程を有していればよいが、発光層を形成する発光層形成工程、正孔輸送層を形成する正孔輸送層形成工程、電子注入層を形成する電子注入層形成工程、電子輸送層を形成する電子輸送層形成工程、陽極を形成する陽極形成工程、陰極を形成する陰極形成工程等を有していてもよい。各工程の順序は、各層の形成順に応じて適宜選択される。
【0098】
5.用途
本発明における有機EL素子は、例えば、表示装置、照明装置、光源等に適用することができる。
また、本発明においては、正孔注入輸送層表面の濡れ性を改善できることから、大面積の正孔注入輸送層上に任意の層を塗布法により効率的に形成することができ、大型の有機EL素子の製造に適している。
【0099】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0100】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0101】
[実施例1]
透明陽極付ガラス基板の上に、正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に、下記の手順に従って製膜して積層し、最後に封止して有機EL素子を作製した。透明陽極以外は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作業を行った。
【0102】
まず、三容真空社製の、陽極として厚み150nmのITOの薄膜付きのガラス基板を用いた。このサイズ25mm×25mmのガラス基板のITO膜をストライプ状にパターン形成し、得られた基板を、中性洗剤、超純水の順に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。
【0103】
次に、[Mo(CO)6]を0.5重量%の濃度でシクロヘキサノンに溶解させ、洗浄されたITOガラス基板の上にスピンコート法により塗布し、薄膜を形成した。溶剤を蒸発させるためにホットプレートを用いて大気中200℃で30分乾燥させた。乾燥後の正孔注入輸送層の厚みは10nmであった。その後、上記膜上にトルエンを2g滴下し、回転数1500rpmでスピンコートして膜表面をリンス洗浄した。
【0104】
次に、正孔注入輸送層の上に、正孔輸送層として、厚み20nmの共役系の高分子材料であるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)の薄膜を形成した。TFB薄膜は、TFBをキシレンに0.5重量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。TFB溶液の塗布後、ホットプレートを用いてグローブボックス中で200℃で30分乾燥させた。
【0105】
上記正孔輸送層の上に、発光層として、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy))を発光性ドーパントとして含有し、4,4’−ビス(2,2−カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)をホストとして含有する混合薄膜を蒸着形成した。混合薄膜は、圧力1×10−4Paの真空中で抵抗加熱法によりホストとドーパントの体積比20:1、合計膜厚が30nmになるように共蒸着で形成した。
【0106】
上記発光層の上に、正孔ブロック層として、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)薄膜を蒸着形成した。BAlq薄膜は、圧力1×10−4Paの真空中で抵抗加熱法により膜厚が10nmになるように形成した。
【0107】
上記正孔ブロック層の上に、電子輸送層として、トリス(8−キノリラト)アルミニウム錯体(Alq)薄膜を蒸着形成した。Alq薄膜は、圧力1×10−4Paの真空中で抵抗加熱蒸着法により膜厚が40nmになるように成膜した。
【0108】
上記電子輸送層の上に、電子注入層として厚み0.5nmのフッ化リチウム(LiF)、陰極として厚みの100nmのAlを順次、圧力1×10−4Paの真空中で抵抗加熱蒸着法により成膜した。
【0109】
陰極形成後、グローブボックス内で、無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例1の有機EL素子を得た。
【0110】
[実施例2]
透明陽極付ガラス基板の上に、正孔注入輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に、下記の手順に従って製膜して積層し、最後に封止して有機EL素子を作製した。透明陽極以外は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作業を行った。
【0111】
まず、実施例1と同様にして、ITOガラス基板を準備した。
【0112】
次に、[MoO2(acac)2]を0.1重量%の濃度で安息香酸エチルに溶解させた(溶液1)。これとは別に、正孔輸送性有機化合物として、共役系の高分子材料であるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)をキシレンに1.25重量%の濃度で溶解させた(溶液2)。この2つの溶液を溶液1:溶液2=1:4で混合し80℃で30分加熱した。その後、混合溶液をスピンコート法により塗布して成膜した。塗布後、ホットプレートを用いてグローブボックス中で200℃で30分乾燥させた。その後、上記膜上にトルエンを2g滴下し、回転数1500rpmでスピンコートして膜表面をリンス洗浄した。
【0113】
以降は、実施例1と同様にして、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層および陰極を形成し、有機EL素子を作製した。
【0114】
[比較例1]
正孔注入輸送層のリンス処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0115】
[比較例2]
正孔注入輸送層のリンス処理を行わなかったこと以外は実施例2と同様にして有機EL素子を作製した。
【0116】
[比較例3]
正孔注入輸送層を形成せず、正孔輸送層を下記のように形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
正孔輸送層として、厚み20nmの共役系の高分子材料であるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)の薄膜を形成した。TFB薄膜は、TFBをキシレンに0.5重量%の濃度で溶解させた溶液を、スピンコート法により塗布して成膜した。TFB溶液の塗布後、ホットプレートを用いてグローブボックス中で200℃で30分乾燥させた。その後、上記膜上にトルエンを2g滴下し、回転数1500rpmでスピンコートして膜表面をリンス洗浄した。
【0117】
[評価]
実施例1〜2および比較例1〜2の有機EL素子について、正孔注入輸送層形成後に、正孔注入輸送層表面の濡れ性を評価した。また、比較例3の有機EL素子について、正孔輸送層形成後に、正孔輸送層表面の濡れ性を評価した。濡れ性の評価は、液体の接触角を協和界面科学社製の接触角計により測定することで行った。液体にはトルエンを使用した。
結果を表1に示す。なお、表中、接触角は、実施例2の有機EL素子における正孔注入輸送層表面の液体の接触角を1としたときの比を表す。
【0118】
【表1】
【0119】
実施例1、2より、正孔注入輸送層のリンス処理を行うことで濡れ性が向上することが確認された。また、比較例1、2では、正孔注入輸送層表面の濡れ性が悪いため、正孔輸送層用材料または発光層用材料をはじきやすく、均一に塗布できなかった。
また、実施例1、2および比較例3より、正孔注入輸送層が金属錯体を含有する場合にリンス処理により濡れ性が改善されることが確認された。これにより、濡れ性不良の要因は、層表面の異物や汚れ等ではなく、金属錯体であると考えられる。
【符号の説明】
【0120】
1 … 有機EL素子
2 … 基板
3 … 陽極
4 … 正孔注入輸送層
5 … 正孔輸送層
6 … 発光層
7 … 電子注入層
8 … 陰極
11 … 溶剤
図1
図2
図3
図4