特許第6015132号(P6015132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6015132-複合型吸収式ヒートポンプ装置 図000002
  • 特許6015132-複合型吸収式ヒートポンプ装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015132
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】複合型吸収式ヒートポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 27/02 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   F25B27/02 K
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-121572(P2012-121572)
(22)【出願日】2012年5月29日
(65)【公開番号】特開2013-245902(P2013-245902A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】坪内 修
【審査官】 柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−299107(JP,A)
【文献】 特開2002−372385(JP,A)
【文献】 特開昭63−302267(JP,A)
【文献】 特開2004−311106(JP,A)
【文献】 特開2012−038538(JP,A)
【文献】 特開昭62−247999(JP,A)
【文献】 特開2004−028460(JP,A)
【文献】 特開2012−066611(JP,A)
【文献】 特開平08−121900(JP,A)
【文献】 特開平09−053864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排ガスが流通する排ガス流路部と、
吸収液と希釈剤との混液を前記排ガスにより加熱する再生部と、前記再生部において加熱された前記混液を気相状の前記希釈剤と液相状の前記吸収液とに分離する分離部と、を持つ再生器と、
クーラントが流通する冷却経路を持ち、前記再生器で得られた気相状の前記希釈剤と前記クーラントとを熱交換させることで前記希釈剤を凝縮させて液相状の前記希釈剤を得る凝縮器と、
前記凝縮器で得られた液相状の前記希釈剤を蒸発させて気相状の前記希釈剤を得る蒸発器と、
前記再生器で得られた液相状の前記吸収液と前記蒸発器で得られた気相状の前記希釈剤とを接触させることにより、前記吸収液に前記希釈剤を吸収させて前記混液を得るとともに得られた前記混液を前記再生器に供給する吸収器と、
前記冷却経路に流通する前記クーラントと外気とを熱交換させることで前記クーラントを冷却する冷却器と、を持ち、
前記再生部は、
前記排ガス流路部に連絡し前記排ガスが流入する交換部と、前記交換部と熱的に接続され前記混液が流通する混液流路部と、を持ち、前記排ガスと前記混液とを熱交換させることにより前記混液を加熱するとともに前記排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて凝縮水を得る排熱回収部と、
前記排熱回収部で得られた前記凝縮水を前記冷却器にて蒸発させる冷却部と、を持ち、
前記排熱回収部は、前記凝縮水の流通経路内に、前記排ガスに含まれ前記凝縮水に溶解している酸性成分を除去するためのフィルタ部を持ち、
さらに、前記吸収器で得られた前記混液を前記混液流路部に輸液する第1ポンプと、前記分離部で分離された前記吸収液を前記混液流路部に輸液する第2ポンプと、を備え、前記第1ポンプは通常運転時に作動し、前記第2ポンプは前記通常運転時よりも前記混液の温度が低い低温運転時と、場合により前記通常運転時に前記第1ポンプと同時に作動する複合型吸収式ヒートポンプ装置。
【請求項2】
前記排熱回収部は、前記凝縮水の出口となる凝縮水流出口と、該凝縮水流出口を開閉可能な開閉弁とを持ち、
前記開閉弁は、前記排熱回収部内における前記凝縮水の量が所定以下になったときに前記凝縮水流出口を閉じる請求項1に記載の複合型吸収式ヒートポンプ装置。
【請求項3】
前記冷却部は、前記凝縮水を前記冷却器に輸送する輸液要素を持ち、
前記輸液要素は、毛細管現象により前記凝縮水を輸送する請求項1または請求項に記載の複合型吸収式ヒートポンプ装置。
【請求項4】
前記冷却器は、前記外気を取入れるためのファンを持ち、
前記冷却部は、前記凝縮水を前記冷却器に輸送する輸液要素を持ち、
前記輸液要素は、前記ファンの動圧により前記凝縮水を前記冷却器に輸送する請求項1または請求項に記載の複合型吸収式ヒートポンプ装置。
【請求項5】
車両用の複合型吸収式ヒートポンプ装置であり、
外気を取入れる吸気ダクトを持ち、
前記冷却部は、前記凝縮水を前記冷却器に輸送する輸液要素を持ち、
前記輸液要素は、走行時に前記吸気ダクトにおいて生じる空気の流体圧によって前記凝縮水を前記冷却器に輸送する請求項1または請求項に記載の複合型吸収式ヒートポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸収式ヒートポンプ(吸収式冷凍機)に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンで生じる熱(排熱)を有効利用する方法として、エンジンから流出する排ガスを吸収式ヒートポンプに利用する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に紹介されている技術においては、排ガスの顕熱を回収して吸収式ヒートポンプの熱源にしている。
【0003】
しかし、この種の技術によってもエンジンの排熱の回収効率は低く、エンジン排熱の回収効率を向上させ得る技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−262806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、吸収式ヒートポンプを用いてエンジン排熱の回収効率を向上させ得る複合型吸収式ヒートポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る複合型吸収式ヒートポンプ装置は、エンジンの排ガスが流通する排ガス流路部と、
吸収液と希釈剤との混液を前記排ガスにより加熱する再生部を持ち、前記再生部において加熱された前記混液を気相状の前記希釈剤と液相状の前記吸収液とに分離する再生器と、
クーラントが流通する冷却経路を持ち、前記再生器で得られた気相状の前記希釈剤と前記クーラントとを熱交換させることで前記希釈剤を凝縮させて液相状の前記希釈剤を得る凝縮器と、
前記凝縮器で得られた液相状の前記希釈剤を蒸発させて気相状の前記希釈剤を得る蒸発器と、
前記再生器で得られた液相状の前記吸収液と前記蒸発器で得られた気相状の前記希釈剤とを接触させることにより、前記吸収液に前記希釈剤を吸収させて前記混液を得るとともに得られた前記混液を前記再生器に供給する吸収器と、
前記冷却経路に流通する前記クーラントと外気とを熱交換させることで前記クーラントを冷却する冷却器と、を持ち、
前記再生部は、
前記排ガス流路部に連絡し前記排ガスが流入する交換部と、前記交換部と熱的に接続され前記混液が流通する混液流路部と、を持ち、前記排ガスと前記混液とを熱交換させることにより前記混液を加熱するとともに前記排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて凝縮水を得る排熱回収部と、
前記排熱回収部で得られた前記凝縮水を前記冷却器にて蒸発させる冷却部と、を持つものである。
【0007】
本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置は、再生器、凝縮器、蒸発器および吸収器を持ち一般的な吸収式ヒートポンプに相当する部分(以下、特に断りのない場合、単に吸収式ヒートポンプと略する)と、排ガスの流路たる排ガス流路部と、を持ち、吸収式ヒートポンプにおける再生部に、排ガスの排熱を回収するための機構(排熱回収部、冷却部)を一体化したものである。排熱回収部においては、排ガスの顕熱により吸収式ヒートポンプの混液(吸収液と希釈剤との混和液)を加熱するとともに、混液により排ガスを冷却することで、排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて温熱(凝縮熱;潜熱)を回収し、吸収式ヒートポンプを動作させるのに必要な混液の加熱工程に用いることができる。
【0008】
また、ここで水蒸気が凝縮されてなる凝縮水は、冷却部によって冷却器に供給され蒸発する。このとき生じる冷熱(気化熱;潜熱)により、冷却器の冷却作用が増強される。つまり本発明においては、排ガスの排熱として、排ガス全体の顕熱、排ガスに含まれる水の潜熱(凝縮熱および気化熱)の3種を利用し、これらの排熱を吸収式ヒートポンプにて活用している。したがって本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置によると、エンジン排熱の回収効率を向上させることが可能であり、ひいてはエンジンおよび吸収式ヒートポンプを含む装置全体(例えば車両、家庭用発電システム等)の熱効率を向上させることが可能である。
【0009】
本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置は下記の(1)〜(5)の何れかを備えるのが好ましく、複数を備えるのがより好ましい。
(1)前記排熱回収部は、前記凝縮水の出口となる凝縮水流出口と、該凝縮水流出口を開閉可能な開閉弁とを持ち、
前記開閉弁は、前記排熱回収部内における前記凝縮水の量が所定以下になったときに前記凝縮水流出口を閉じる。
(2)前記排熱回収部は、前記凝縮水の流通経路内に、前記排ガスに含まれ前記凝縮水に溶解している酸性成分を除去するためのフィルタ部を持つ。
(3)前記冷却部は、前記凝縮水を前記冷却器に輸送する輸液要素を持ち、
前記輸液要素は、毛細管現象により前記凝縮水を輸送する。
(4)前記冷却器は、前記外気を取入れるためのファンを持ち、
前記冷却部は、前記凝縮水を前記冷却器に輸送する輸液要素を持ち、
前記輸液要素は、前記ファンの動圧により前記凝縮水を前記冷却器に輸送する。
(5)車両用の複合型吸収式ヒートポンプ装置であり、
外気を取入れる吸気ダクトを持ち、
前記冷却部は、前記凝縮水を前記冷却器に輸送する輸液要素を持ち、
前記輸液要素は、走行時に前記吸気ダクトにおいて生じる空気の流体圧によって前記凝縮水を前記冷却器に輸送する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置によれば、エンジンの排ガスに由来する排熱を効率良く回収し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1の排熱回収器付き吸収式ヒートポンプシステムの概念を表す説明図である。
図2図1の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置は、エンジンを持ちかつ吸収式ヒートポンプで得られた冷却作用を必要とする装置に適用することができる。例えば自動車等の車両に搭載しても良いし、住宅等の建造物に設置しても良い。本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置を車両用の装置とする場合には、車両のエンジンで生じた排ガスの排熱を用い、かつ、吸収式ヒートポンプで得られた冷却作用により車室を冷房できる。本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置を建造物用の装置とする場合には、発電用等の据え置き型エンジンで生じた排ガスの排熱を用い、かつ、吸収式ヒートポンプで得られた冷却作用により建造物の室内を冷房できる。或いは、吸収式ヒートポンプで得られた冷却作用を冷蔵庫や冷凍庫等の冷蔵冷凍装置に利用しても良い。エンジンは、水蒸気を含む排ガスを燃焼作用により生じるものであれば良く、その燃料や構造等は特に問わない。
【0013】
以下、具体例を挙げて本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置を説明する。
【0014】
(実施形態1)
図1は実施形態1の概念を示す説明図であり、図2図1の要部拡大図である。実施形態1の複合型吸収式ヒートポンプ装置は、車載用の装置であり、図1に示すように、再生器3(再生部2および分離部1)、凝縮器4、蒸発器5、吸収器6、冷却器7および排ガス流路部73を持つ。
【0015】
排ガス流路部73は、エンジン72の排気側に接続されている。排ガス流路部73にはエンジン72で生じた排ガスが流通する。排ガス流路部73は、吸収式ヒートポンプにおける再生器3の一部を構成する再生部2に連通している。なお、エンジン72の前側(より具体的には車両進行方向の前側)には、ラジエータ70およびラジエータファン71を持つ冷却器7が配置されている。ラジエータ70の内部には流路84が形成されている。流路84は本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置における冷却経路の一部に相当し、流路84にはクーラントが流通する。流路84の一部は分岐してエンジン72の内部に流通する。
【0016】
再生器3は、再生部2および分離部1を持つ。分離部1については後述する。図2に示すように、再生部2は、排熱回収部および冷却部を持つ。排熱回収部は、箱状をなすケース20、ケース20の内部に導入されている混液流路部81、ケース20の内部において混液流路部81近傍に位置する部分からなる交換槽部21、ケース20の底部に位置する液槽部22、交換槽部21と液槽部22との間を区画するフィルタ部23、および、液槽部22に配置されているフロート弁24を持つ。
【0017】
交換槽部21は排ガス流路部73の一部を構成し、排ガスの入口となる排ガス流入口21aと、排ガスの出口となる排ガス流出口21bとを持つ。混液流路部81のなかでケース20の外部に位置する部分は、後述する吸収器6と分離部1とに連絡する。混液経路部81には吸収器6から流出した吸収液と希釈液(実施形態では水)との混液すなわち希釈吸収液が流通する。混液流路部81の内部とケース20の内部(つまり交換槽部21の内部)とは気密に区画されている。このため混液流路部81を流通する混液と交換槽部21を流通する排ガスとは直接接触せず、混じり合わない。つまり、交換槽部21において混液と排ガスとは熱交換するだけである。
【0018】
実施形態の複合型吸収式ヒートポンプ装置における吸収式ヒートポンプは、所謂単効用型の吸収式ヒートポンプであるため、吸収器6から流出し混液流路部81に流通する混液の温度は比較的低温である。このため、交換槽部21において混液と熱交換した排ガスは100℃未満にまで冷却される。したがって、このとき排ガスに含まれる水蒸気は凝縮し、凝縮水が生じる。混液は、排ガスの熱(顕熱)で加熱されるとともに、凝縮水が生じる際の凝縮熱(潜熱)によっても加熱される。したがって、実施形態の複合型吸収式ヒートポンプ装置は、このとき排ガスの顕熱と、潜熱の一部(凝縮熱)とを回収する。交換槽部21において混液と熱交換した排ガスは、排ガス流出口を経て排ガス流路部73に戻り、その後外界に排気される。
【0019】
フィルタ部23は、金網状をなすフィルタ基部23aと、石灰粒からなる浄化部23bとを持つ。フィルタ基部23aのメッシュは、浄化部23b(石灰粒)を通さない程度である。交換槽部21で生じた凝縮水は重力によってフィルタ部23に至り、フィルタ部23に含まれる浄化部23bすなわち石灰に接触する。凝縮水には排ガスに含まれる酸性成分(硫酸、硝酸等)が溶解しているため、このままの状態で気化させると、冷却器7や冷却部の材料等によってはこれらを劣化させる恐れがある。このため、実施形態においてはフィルタ部23の浄化部23bによって酸性成分を中和し、凝縮水中の酸性成分を実質的に除去する。酸性成分を中和させるための中和剤としては、石灰以外にも、水酸化マグネシウム、苛性ソーダ等を好ましく使用できる。その他、フィルタ部23には活性炭等の濾過材を追加しても良い。
【0020】
フィルタ部23を通過した凝縮水は、重力により、フィルタ部23の下方に位置する液槽部22に至る。そして、液槽部22に形成されている凝縮水流出口22aを経て、冷却部に向けて流出する。
【0021】
なお、凝縮水流出口22aにはフロート弁24が配置されている。フロート弁24は液槽部22に溜まった凝縮水に浮かぶフロート部24aと、フロート部24aに固定されフロート部24aとともに移動可能な弁部24bと、を持つ。凝縮水流出口22aは液槽部22の底部に開口形成され、凝縮水の出口となる。液槽部22に溜まった凝縮水の水位が一定以上であれば、フロート弁24が上昇して弁部24bと凝縮水流出口22aとが離間するために、フロート弁24は凝縮水流出口22aを開く。また、液槽部22に溜まった凝縮水の水位が一定に満たない場合には、フロート弁24が下降して弁部24bと凝縮水流出口22aとが近接するために、フロート弁24は凝縮水流出口22aを閉じる。フロート弁24は、本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置における開閉弁に相当する。なお、実施形態においては開閉弁としてフロート弁24を用いたが、これに限らず各種の開閉弁を用いても良い。例えば、液槽部22に水量センサを配置するとともに凝縮水流出口22aに電磁弁を配設し、水量センサで検知した水量(つまり液槽部22に存在する凝縮水の量)に基づいて電磁弁を開閉制御しても良い。これに限らず、既知の種々の方法で凝縮水流出口22aを開閉することができる。液槽部22に溜まった凝縮水の量が所定量以下の場合に凝縮水流出口22aを閉じることで、凝縮水の量が少ない場合にも、凝縮水流出口22aから冷却部に向けて排ガスが流れることはない。凝縮水の量が少ない場合、つまり、排ガスが比較的高温の状態で冷却部に流れると、冷却器7が排ガスによって加熱される恐れがある。本実施形態においては排熱回収部から冷却部に向けた排ガスの流路を遮断することで、冷却器7によって信頼性高くクーラントを冷却することが可能である。
【0022】
冷却部は、冷却器7よりも車両進行方向の先側に配置されているエジェクタ25と、エジェクタ25と凝縮水流出口22aとを連絡する輸液流路26と、を持つ。エジェクタ25の先側にはラジエータファン71が配置されている。実施形態においては、エジェクタ25とラジエータファン71とは接続されており、ラジエータファン71の回転により生じる負圧によって凝縮水が汲み上げられ、エジェクタ25からラジエータ70に向けて噴射される。この場合、エジェクタ25およびラジエータファン71は、本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置における輸液要素に相当する。なお、凝縮水を冷却器7に輸液する機構はこれに限定されない。例えば、上記したラジエータファン71の回転により生じる負圧にかえて、車両の走行時に車体に作用する空気の流体圧を用いることもできる。この場合、エンジン72に外気を供給するための吸気ダクトをエジェクタ25に接続すれば、上記の流体圧を効率良く回収できる。または、毛細管現象等により凝縮水を直接冷却器7に導いても良い。
【0023】
<吸収式ヒートポンプ>
以下、実施形態1の複合型吸収式ヒートポンプ装置における吸収式ヒートポンプの動作を説明する。図1に示すように、実施形態1の複合型吸収式ヒートポンプ装置における吸収式ヒートポンプは、排熱回収部および冷却器を持つこと以外は一般的な吸収式ヒートポンプと略同様に構成されている。
【0024】
吸収式ヒートポンプ(吸収式冷凍機)は、分離室10を持つ分離部1とケース20を持つ再生部2とを持つ再生器3と、凝縮室40を持つ凝縮器4と、高真空状態に維持されている蒸発室50を持つ蒸発器5と、吸収室60を有する吸収器6と、を持つ。分離器1の分離室10と吸収器6の吸収室60とは、流路80および流路81により連絡されている。蒸発器5の蒸発室50と吸収器6の吸収室60とは流路82により連絡されている。分離器1の分離室10と凝縮器4の凝縮室40とは流路83により連絡されている。凝縮器4の凝縮室40と蒸発器5の蒸発室50とは流路85により連絡されている。
【0025】
図1に示すように、凝縮器4には冷却器70から流出した冷水(クーラント)が流通する流路84が導入されている。なお、流路84の冷却水はポンプ95によって循環している。凝縮器4では、再生器3(分離部1)から流路83を介して供給された水蒸気を、流路84で冷却し凝縮させて液相水に相転移させるとともに、凝縮潜熱を放出する。凝縮器4で形成された凝縮水(すなわち液相水)は、流路85を介して蒸発器5に移動する。流路85にはバルブ90が設けられ、蒸発器5に供給する液相水の流量を調整可能である。蒸発器5では、流路85の孔から液相水が蒸発室50に滴下され。滴下された液相水は、熱交換器75に到着する。熱交換器75には、車室内の空気(クーラント)が流通している。蒸発器5の内部は真空雰囲気であるため低温であり、熱交換器75を流通する空気は、これに比べると温かい。このため、熱交換器75は冷風により温められている。熱交換器75に付着した液相水は、高真空状態の蒸発室50において温められて水蒸気となる。このように蒸発器5では、凝縮器4で形成された凝縮水である液相水を蒸発させて水蒸気に相変化させるとともに、気化潜熱(吸熱作用)を得る。この気化潜熱によって熱交換器75が冷却され、熱交換器75を流通する空気は冷却される。冷却された空気は車室内に輸送され、車室内の空気と熱交換(冷房作用)して温められ、再度熱交換器75に戻される。蒸発器5で蒸発した水蒸気は、流路82を介して吸収器6の吸収室60に供給される。
【0026】
吸収器6では、高濃度の吸収液が、流路80から重力により滴下する。吸収器6には冷却器70から流出した冷水(クーラント)が流通する流路84が導入されている。吸収液は、吸収室60において水蒸気(希釈剤)を吸収し、クーラントに熱を放出しつつ希釈吸収液(混液)となる。希釈吸収液は流路81に流入し、液−液熱交換部76を流通し、分離器1から流出し流路80を流通する吸収液と熱交換する。流路81を流通する希釈吸収液の温度は、再生器3の分離部1から流出し流路80を流通する吸収液の温度よりも低い。流路81は、本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置における混液流路部に相当する。流路81を流通する希釈吸収液は、ポンプ96によって輸液されている。
【0027】
その後、液−液熱交換器76を通過した希釈吸収液は再生器3の再生部2に移動する。再生部2のケース20に移動した希釈吸収液は、排ガスと熱交換し、加熱されて分離器1の分離室10に移動する。そして加熱された希釈吸収液は、分離室10において吸収液と水蒸気とに分離する。このうち水蒸気は、流路83から凝縮器4に供給される。水蒸気が分離されることで希釈吸収液は濃縮される。したがって分離室10には高濃度の吸収液が残る。この高濃度の吸収液は、分離室10から流路80に流入して液−液熱交換器76を流通し、流路81を流通する希釈吸収液と熱交換して(希釈吸収液により冷却されて)吸収器6に戻される。
【0028】
このように吸収式ヒートポンプでは、凝縮器4、吸収器6で生じる熱を放熱し、再生器2で熱を回収する。また、蒸発器5で生じる気化潜熱により吸熱作用(冷却作用)が得られる。
【0029】
なお、実施形態1の複合型吸収式ヒートポンプ装置においては、分離器1と流路81とが流路86によってショートカットされている。流路86にはポンプ97が設けられている。また、流路80にはバルブ91が設けられている。
【0030】
運転開始直後等、希釈吸収液の温度が低い場合には、吸収式ヒートポンプを動作させるために希釈吸収液を大きく昇温させる必要がある。この場合、ポンプ97のみを作動させ、希釈吸収液の温度を迅速に上昇させることが可能である。なお、通常の吸収式ヒートポンプ運転時には、ポンプ96によってシステム内の吸収液流量に対応する所定量の混液を送液するのが良い。排ガス熱量が大きい場合には、それに加えて、ポンプ97によっても混液を送液することで、排ガス熱量の変動に応じた流量の混液を送液でき、排熱回収部で回収する熱量をコントロールできる。なお、ポンプ96とポンプ97との間の流路81には、逆流防止弁91が配置されている。この逆流防止弁91によって、ポンプ97から送液された混液がポンプ96に向けて逆流することが防止される。
【0031】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。例えば本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置は、以下に付記項として挙げるように、エンジンを含むエンジン−吸収式ヒートポンプ複合ユニットとして具現化することも可能である。この場合、エンジンは上述したようにエンジン車やハイブリッド車に搭載される車両用のエンジンであっても良いし、建造物に配設される発電システム用のエンジンであっても良い。なお、このようなエンジン−吸収式ヒートポンプ複合ユニットにおいて、エンジン以外の構成要素は本発明の複合型吸収式ヒートポンプ装置と同様に構成するのが好ましい。
【0032】
(付記項1)
エンジンと、
前記エンジンの排ガスが流通する排ガス流路部と、
吸収液と希釈剤との混液を前記排ガスにより加熱する再生部を持ち、前記再生部において加熱された前記混液を気相状の前記希釈剤と液相状の前記吸収液とに分離する再生器と、
クーラントが流通する冷却経路を持ち、前記再生器で得られた気相状の前記希釈剤と前記クーラントとを熱交換させることで前記希釈剤を凝縮させて液相状の前記希釈剤を得る凝縮器と、
前記凝縮器で得られた液相状の前記希釈剤を蒸発させて気相状の前記希釈剤を得る蒸発器と、
前記再生器で得られた液相状の前記吸収液と前記蒸発器で得られた気相状の前記希釈剤とを接触させることにより、前記吸収液に前記希釈剤を吸収させて前記混液を得るとともに得られた前記混液を前記再生器に供給する吸収器と、
前記冷却経路に流通する前記クーラントと外気とを熱交換させることで前記クーラントを冷却する冷却器と、を持ち、
前記再生部は、
前記排ガス流路部に連絡し前記排ガスが流入する交換部と、前記交換部と熱的に接続され前記混液が流通する混液流路部と、を持ち、前記排ガスと前記混液とを熱交換させることにより前記混液を加熱するとともに前記排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて凝縮水を得る排熱回収部と、
前記排熱回収部で得られた前記凝縮水を前記冷却器にて蒸発させる冷却部と、を持つエンジン−吸収式ヒートポンプ複合ユニット。
【符号の説明】
【0033】
1は分離部、2は再生部、3は再生器、4は凝縮器、5は蒸発器、6は吸収器、7は冷却器、20はケース、21は交換槽部、22は液槽部、23はフィルタ部、24はフロート弁、70はラジエータ、71はラジエータファン、72はエンジン、73は排ガス流路部、81は混液流路部を示す。
図1
図2