(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015163
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】蒸着方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
C23C14/24 B
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-144011(P2012-144011)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-5525(P2014-5525A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江畑 崇
(72)【発明者】
【氏名】伊関 清司
(72)【発明者】
【氏名】北野 朋彦
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−168560(JP,A)
【文献】
特開平02−034773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空装置内で被蒸着材の表面に薄膜を堆積させる方法であって、加熱波源と昇華しやすい蒸着材料を収容する容器とチムニーから成り、該容器内に充填された材料を、該加熱波源からの赤外線を主な波長とする加熱波を透過可能な材質からなる窓を介して容器の外部から蒸着材料の表面より直接加熱してガス化する蒸着・昇華方法であり、且つ少なくともチムニー内面を昇華温度以上に加熱することで、該チムニー内部壁面への固化を防ぐ機構を持つことを特徴とする蒸着・昇華方法。
【請求項2】
材料を連続供給して、一定箇所のみを照射することを防ぎ、連続的に蒸着材料の熱劣化が起こらないようにした請求項1に記載の蒸着・昇華方法。
【請求項3】
加熱波を集光させて、全方位ではなく一定方向にのみ照射し、加熱波源のロスを低減した請求項2に記載の蒸着・昇華方法。
【請求項4】
蒸発温度を昇華温度より高く、表面に高分子生成物が生成しない温度以下であることを特徴とする請求項3に記載の蒸着・昇華方法。
【請求項5】
真空装置内で被蒸着材の表面に薄膜を堆積させる装置であって、加熱波源と昇華しやすい蒸着材料を収容する容器とチムニーから成り、該容器内に充填された材料を、該加熱波源からの赤外線を主な波長とする加熱波を透過可能な材質からなる窓を介して容器の外部から蒸着材料の表面より直接加熱してガス化する蒸着・昇華装置であり、且つ少なくともチムニー内面を昇華温度以上に加熱することで、該チムニー内部壁面への固化を防ぐ機構を持つことを特徴とする蒸着・昇華装置。
【請求項6】
材料を連続供給して、一定箇所のみを照射することを防ぎ、連続的に蒸着材料の熱劣化が起こらないようにした請求項5に記載の蒸着・昇華装置。
【請求項7】
加熱波を集光させて、全方位ではなく一定方向にのみ照射し、加熱波源のロスを低減した請求項6に記載の蒸着・昇華装置。
【請求項8】
蒸発温度を昇華温度より高く、表面に高分子生成物が生成しない温度以下であることを特徴とする請求項7に記載の蒸着・昇華装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置並びに蒸着方法に関するものである
【背景技術】
【0002】
一般的に食品包装用途などの蒸着バリア性フィルムは、無機物を利用している。たとえばアルミニウム蒸着フィルム、アルミナ蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルムがある。しかし、工業用途、例えば太陽電池や有機EL用途などでは、極微量の酸素・水蒸気が素子に悪影響を及ぼすために、これらのフィルムではバリア性能が不十分であり、さらなる高バリア化が必要である。この解決方策の一つとして有機層と無機層との積層が検討されている。
【0003】
有機層の形成は通常のコーティングにより形成する方法もあるが、有機物と無機物を連続的に真空製膜することで、コスト低減・時間の短縮による効率向上が期待されている。
【0004】
真空製膜では有機材料を有する薄膜物の作製方法として、一般的には真空蒸着方法が用いられる。
【0005】
この真空蒸着方法としては、るつぼ内に有機材料を充填させて、その外部にヒーター線などを巻き、ヒーターの両端に電圧をかけ、るつぼ内の有機材料を蒸発させる抵抗加熱法がある。
【0006】
食品包装用途でバリアフィルムを使用するためには、価格が低いことが重要である。このため高速で且つ大量に製造することが必要である。
また、有機材料は長時間熱にさらされると、重合、分解等の化学変化が起こるため短時間で目標とする温度に上げ、しかもすばやく基板に付着させる必要がある
。
【0007】
上記目的のため下部より加熱波を当てて蒸発・昇華させ、また光をリフレクターなどで反射させて再度未蒸発材料に光を当てて再蒸着・再昇華することが提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0008】
また、加熱壁を設け蒸着物が固化することを防ぎつつ、材料の熱伝導を上げるために、有機材料内に混入物を添加し、るつぼ内の温度を均一にすることが提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0009】
さらに、目標温度に即座に達し、有機材料の熱劣化を防ぐことと、防着板へ材料が固化しても、加熱波が当たることで再度蒸発させることができる方法が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0010】
しかしながら、特許文献1の方法では、加熱波を下部から当てることで突沸がおき、蒸着時に基板に微小な粒子が付着することが問題であった。
さらに、特許文献2では温度を上昇させるまで時間がかかり材料の熱劣化が防げない。
また、特許文献3では同じく材料が飛ばされることが防げないばかりか、蒸発中に壁面に材料が付着し蒸発の妨げになる。また、取り除くために再蒸発させる時間が必要となったり、蒸発速度が変化し形成する有機薄膜の膜厚を制御することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−146516号公報
【特許文献2】特開2005−82872号公報
【特許文献3】特開2011−256427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点を解決して、蒸着材料の劣化・微小な粒子が付着することを防止しつつ長期間にわたる連続運転が可能な真空蒸着装置における蒸着材料の蒸発、昇華方法および真空蒸着用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、真空装置内で蒸発・昇華し、被蒸着材の表面に堆積させる方法であって、容器内に充填された材料を、赤外線を主な波長とする加熱波を透過可能な材質からなる加熱波透過容器を介して容器の外部から赤外線を主な波長とする加熱波を放射し、蒸着材料の表面より直接加熱してガス化する蒸着・昇華方法であり、容器内面を昇華温度以上に加熱することで、該壁面への固化を防ぐ機構を持つことを特徴とする蒸着・昇華方法及び装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蒸着装置は、加熱波を上部より照射することで、瞬時に目標温度に達させ熱劣化の少ない有機薄膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の詳細な説明を以下に述べる。
本発明の真空容器とは少なくとも1.0×10
−2Pa以下まで真空が保持できる装置を指す。
【0016】
本発明の被蒸着材とは、高分子を溶融して作製されるものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。またホモポリマーではなく、ブレンドなどを行ってもよい。
【0017】
本発明でいう薄膜(蒸着材料)とは、有機薄膜のことを指し、主に昇華しやすい材料、例えば太陽電池用途に使用されるチオフェンやフラーレン、バリア性を発現するメラミン、メラム、メレム、メロン、シアヌル酸、アンメリド、アンメリン、ウレイドメラミン、トリアジンジチオール、グアナミンなどのトリアジン系化合物など、及びこれらの混合物うを用いる。これらを用いて高分子生成物からなる有機薄膜を作成する。
【0018】
本発明の加熱波源とは、主に赤外線を主な波長とする加熱波であるが、それ以外にも、遠赤外線などもある。
【0019】
蒸着材料を収容する容器とは、容器内部にるつぼを設置し、チムニー以外の箇所を密封した形をとることで、蒸発物がチムニーを介して放出されることを特徴とする容器である
また、特許文献3には、るつぼを蒸発温度以上にしていることや、るつぼを囲う壁面についての記載はない。
【0020】
本発明でいう加熱波を透過可能な材質とは、例えば石英ガラスのことを指す。
【0021】
本発明のガス化とは、昇華温度以上に加熱し、分解温度以下に制御することで、目的物質のみ蒸発させることができる。
【0022】
より蒸発量を増やすには単純に加熱波源を増設する方法が考えられる。
【0023】
本発明でいう壁面とは、るつぼに対して周り四面のことと、るつぼを設置した底面と、対向した面の加熱波を透過可能な材質以外の箇所のことをいう。
【0024】
本発明の材料表面とIRヒーターの位置は、近ければ近いほどよいが、るつぼから加熱波を透過可能な材質以内に近づけると、蒸発の妨げになるので、40mm〜200mmにする。好ましくは50mm〜100mmにする。
【0025】
本発明でいうチムニーとは、従来の抵抗加熱式や下部照射方式では、突沸による蒸着カスが問題であったが、チムニー部分に防壁板を設けることにより、発生した蒸気のみを導出し基板へ到達させることができ、非常にクリーンで均一なサンプルを作製できる。
【0026】
本発明でいう集光とは、リフレクター(反射鏡)などを用いて加熱波を集光させることをいう。
【0027】
本発明でいう一定方向とは、加熱波の真正面方向をいう。
【0028】
今回の作製した蒸着・昇華装置、及び方法によって、蒸着時にクリーンな上記のみを基板に到達させることができ、今後の有機無機積層の際でもパーティクルなどによるピンホールが生成される確率が格段に減少したことが特徴である。
【0029】
本発明でいう高分子生成物とは、材料同士が熱エネルギーを媒体に化学結合した状態をいう。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
本発明の具体的な実施例について
図1〜4を用いて説明するが、これらに限定されるものではない。
上記記載の形態と同様であるセラミック製のるつぼ(縦90mm×横350mm×高さ60mm)を用意し、坩堝の内部に温度測定のための熱電対を挿入し、蒸着材料を充填した。蒸着する有機材料はメラミンを用いた。また赤外線ヒーターがるつぼにきちんと照射されるように位置を設定した。
【0031】
ついで、加熱波透過用に石英ガラスをるつぼ・赤外線ヒーターの間にセットし、容器内の密封性が取れるように
図1,2のようにした。
【0032】
図3のチムニーもるつぼ同様に熱電対を取り付けて、容器に設置した。チムニーはヒーター線を巻きつけて加熱できるようにした。チムニーは事前に、350℃まで加熱し、蒸着材料が固化しないようにした。
【0033】
圧力が2.0×10
−4Paとなるまで装置を真空引きした後、赤外線ヒーターを蒸着材料に当て、LS1m/min蒸着を開始した。実際の結果では材料がチムニーに固着せずに蒸着されたことを確認した。
【0034】
(比較例1)
抵抗加熱式の蒸着装置にカーボンるつぼをセットし、メラミンを充填した。
【0035】
温度を250℃まで上げLS1m/minで連続蒸着を開始した。
【0036】
蒸着後のサンプルには多数のパーティクルが確認された。
【0037】
作製したサンプルのOTR(=Oxygen transmission rate(酸素透過率))の結果を表1に記載する。基板は全てPET12μmを使用した。
【0038】
上記の結果より、サンプル表面にパーティクルなどが付着せず、照射加熱式の蒸着装置が非常に優秀であることがわかる。
【0039】
上記結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【符号の説明】
【0042】
1:水冷壁
2:内部壁面
3:加熱波透過可能な板
4:蒸発材料
5:るつぼ
6:チムニー
7:加熱波照射源装置
8:防壁板
9:加熱波源
10:リフレクター
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、瞬時に目的温度に達することで、分解劣化を防ぎ且つ、均一で生産コストも下げることができることより、産業界に大きく寄与することが期待される。
【0044】
より蒸発量を増やすには単純にヒーターを増設する方法が考えられる。
【0045】
今回の作製した蒸着・昇華装置、及び方法によって、蒸着時にクリーンな上記のみを基板に到達させることができ、今後の有機無機積層の際でもパーティクルなどによるピンホールが生成される確率が格段に減少したことが特徴である。