(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の車輪(FR,FL)に設けられたホイルシリンダ(27a,27b)内にブレーキ液を供給して前記ホイルシリンダに対応する前記車輪に液圧制動力を発生させる液圧制動力発生装置(2)と、
前記車輪に回生制動力を発生させる回生制動力発生装置(3)と、を備える車両用の制動装置(1)に適用され、
前記液圧制動力発生装置および前記回生制動力発生装置を制御して前記車輪に目標とする制動力を付与する車両用制動制御装置であって、
前記液圧制動力発生装置による液圧制動力の少なくとも増加直前の前記ホイルシリンダ内の液量を所定の最低液量以上にする液量制御手段(4)と、
前記回生制動力発生装置が前記回生制動力を発生している状態において、前記車両の車両速度が所定車両速度から前記車両速度の低下に伴って前記回生制動力を前記液圧制動力にすり替える低速すり替えが開始される開始車両速度にまで減速される期間の前記最低液量を第一液量に設定し、前記期間以前の前記最低液量を前記第一液量よりも少ない第二液量に設定する最低液量設定手段(4)と、を備え、
前記最低液量は、前記ホイルシリンダ内の液量と同ホイルシリンダ内の液圧との関係において、前記ホイルシリンダ内の液量の増加に対する同ホイルシリンダ内の液圧の上昇幅が所定値以上になるように設定されている車両用制動制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態の車両制動制御装置を備えた車両用制動装置について
図1を参照して説明する。
図1に示すように、車両用制動装置1は、車輪に液圧制動力を発生させる液圧制動力発生装置2と、車輪に回生制動力を発生させる回生制動力発生装置3と、液圧制動力発生装置2を制御するブレーキECU4と、回生制動力発生装置3を制御するハイブリッドECU5等とを備えて構成される。
【0018】
液圧制動力発生装置2は、運転者が操作するブレーキ操作手段としてプレーキペダル21と、ブレーキペダル21に設けられてブレーキペダル21の操作量を検出するストロークセンサ22と、ブレーキペダル21に掛けられる運転者の踏力を倍力するバキュームブースタ23と、その倍力された踏力により基礎液圧から操作液圧を発生するマスタシリンダ24と、基礎液圧を貯留するリザーバ25と、液圧を制御する液圧制御用アクチュエータ26と、ホイルシリンダ27a,27bと、車輪速度を検出する車輪速度センサ28と、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ29等とを備えて構成される。なお、液圧制御用アクチュエータ26は、右前輪FRおよび左前輪FLを油圧制動するF系統と図略の右後輪および左後輪を油圧制動するR系統とを備えて構成されるが、両者の構成は同一であるため、
図1においてはF系統のみを示す。
【0019】
マスタシリンダ24は、シリンダ内孔41を有するシリンダボディ42と、このシリンダボディ42におけるシリンダ内孔41の後方部位(図示右方)に組付けられ、スプリング43により後方に付勢された入力ピストン44と、シリンダボディ42におけるシリンダ内孔41の前方部位(図示左方)に組付けられ、一対のスプリング45,46により後方に付勢された一対のマスタピストン47,48等とを備えている。このマスタシリンダ24には、ブレーキペダル21の操作量が所定量以上になるまで運転者の踏力が直接反映されない領域(アイドルストローク)が設けられている。液圧制動力と回生制動力との協調は、アイドルストロークの間で行われるようになっている。
【0020】
液圧制御用アクチュエータ26は、電磁弁としてマスタカット弁と一体となった差圧弁61と、ポンプ62と、ポンプ62を駆動する電動モータ63と、絞り64と、保持弁65a,65bと、減圧弁66a,66bと、リザーバ67等とが配管接続されて構成されている。すなわち、管路の入口側には分岐点Aが設けられ、分岐点Aから左側に分岐した管路には差圧弁61が配置されている。差圧弁61の下流側の管路には分岐点Bが設けられ、分岐点Bの下流側の一方の管路には右前輪FR用の保持弁65aが配置され、他方の管路には左前輪FL用の保持弁65bが配置されている。一方、分岐点Aから右側に分岐した管路はリザーバ67に連通されている。リザーバ67と分岐点Bとは、ポンプ62と絞り64を介して管路により連通されている。
【0021】
保持弁65aの下流側の管路には分岐点Cが設けられ、分岐点Cの下流側の一方の管路には右前輪FRのホイルシリンダ27aが連通され、他方の管路は減圧弁66aを介してリザーバ67に連通されている。保持弁65bの下流側の管路には分岐点Dが設けられ、分岐点Dの下流側の一方の管路には左前輪FLのホイルシリンダ27bが連通され、他方の管路は減圧弁66bを介してリザーバ67に連通されている。
【0022】
回生制動力発生装置3は、両前輪FL,FRを連結する車軸に接続された例えば交流同期型のモータ31と、モータ31によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ33に充電し、バッテリ33の直流電流を交流電流に変換してモータ31へ供給するインバータ32等とを備えて構成される。
【0023】
ブレーキECU4は、CPU、ROM、RAM、I/O等を備えた周知のマイクロコンピュータであり、ROM等に記憶されたプログラムに従って各種演算処理や各種制御等の実行が可能に構成されている。例えば、ブレーキECU4は、ストロークセンサ22の検出信号に基づくブレーキペダル21の操作量の演算処理や、車輪速度センサ28の検出信号に基づく車両速度や車両の減速度の演算処理を実行する。また、液圧制動力発生装置2の液圧制御用アクチュエータ26による液圧制動力を例えば両前輪FL,FRに対して発生させるときは、差圧弁61を差圧状態にした状態で電動モータ63を駆動することにより、マスタシリンダ24内のブレーキ液をポンプ62に吸入させ、各ホイルシリンダ27a,27bに吐出させて各ホイルシリンダ27a,27bを加圧する制御を実行する。また、回生制動力発生装置3による回生制動力を発生させるときは、ハイブリッドECU5に対して周知の回生協調制御にて求められる回生制動力を表す回生指令値を出力する。
【0024】
ハイブリッドECU5は、バッテリ33の充電状態を管理し、また、ブレーキECU70と協調して回生ブレーキ制御を実行する。すなわち、両前輪FL,FRの回転力でモータ31を駆動させることにより発電を行い、得られた電力によりバッテリ33を充電する。そして、この発電の際のモータ31の抵抗力により発生する回生制動力を求めてブレーキECU4に対して出力する。
【0025】
ここで、回生制動から液圧制動への低速すり替えの初期段階においてはホイルシリンダ27a,27bの消費液量が多いため、
図5(a)に示すように、ホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量Qの増加に対するホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液圧Pの上昇幅は漸増傾向にある。よって、
図5(b)に示すように、ホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液圧Pを容量が小さく吐出量が一定であるポンプ63により高める(液圧0から液圧Paまで高める)ことには時間が掛かる(時点0から時点ta)。よって、
図5(c)に示すように、車両の減速度Gを高める(減速度0から減速度Gaまで高める)ことには時間が掛かる(時点0から時点ta)ため、液圧制動の応答遅れが懸念される。特に、回生制動力の最大値が目標制動力よりも大きい場合、回生効率の向上のため回生制動力のみで目標制動力を得ることが一般的である。この状態で低速すり替えが行われた場合、液圧を0から高めることには時間が掛かるため、液圧制動の応答遅れが発生することが考えられる。
【0026】
そこで、本発明では、ホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量Qを所定の最低液量以上にする。これにより、液圧制動力の増加開始時点での応答性を高めることができる。すなわち、回生制動力の増加終了時から液圧制動力の増加開始時までホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量Qを最低液量に設定する。この最低液量としては、ホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量Qの増加に対するホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液圧Pの上昇幅が所定値以上になる液量、例えばQaやQb(本発明の「第一液量」、「第二液量」に相当する)を設定する。
【0027】
次に、車両制動制御装置の動作を
図2のフローチャートを参照して説明する。車両制動制御装置は、各センサ信号、例えばストロークセンサ22や車輪速度センサ28等の検出信号を取込み(
図2のステップS1)、回生協調中であるか否かを判断する(
図2のステップS2)。回生協調中でない場合は処理を終了するが、回生協調中である場合は、マスタシリンダ圧センサ29の検出信号を取込んで求めたマスタ圧および差圧弁61に対する指示値に基づいて、ホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量Qを演算する。
【0028】
そして、車両制動制御装置は、演算したホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量Qと最低液量Qbとを比較し(
図2のステップS3)、演算した液量Qが最低液量Qb以上のときはステップS5に進む。一方、演算した液量Qが最低液量Qb未満のときは、ステップS4でホイルシリンダ27a,27b内の液量Qが少なくとも最低液量Qbとなるようにホイルシリンダ27a,27b内にブレーキ液を導入する(本発明の「液量制御手段」に相当する)。
【0029】
ステップS5では、車両制動制御装置は、回生制動力から液圧制動力への低速すり替えを開始する車両速度(以下、「開始車両速度」という)Vsよりも高い所定車両速度Viを、車両減速度に基づいて(例えば、次式(1)に次式(2)を代入して)演算し(本発明の「開始速度設定手段」に相当する)、ステップS6に進む。
Vi=Vs+G×ΔT・・・(1)
ΔT=(Qa−Qb)/A・・・(2)
ここで、Gは、車両減速度、Qaは、Qbよりも液量が多い最低液量、Aは、ポンプ62の吐出能力(単位時間当たりの吐出量)である。
【0030】
ステップS6では、車両制動制御装置は、車輪速度センサ28の検出信号から求めた車両速度VとステップS5で演算した所定車両速度Viとを比較し、車両速度Vが所定車両速度Viよりも高いときは、低速すり替えにより液圧制動力が増加することを予測することなく(本発明の「予測手段」に相当する)、処理を終了する。一方、車両速度Vが所定車両速度Vi以下のときは、低速すり替えにより液圧制動力が増加することを予測して、ステップS7に進む(本発明の「予測手段」に相当する)。
【0031】
ステップS7では、車両制動制御装置は、マスタシリンダ圧センサ29の検出信号から求めたマスタ圧および差圧弁61に対する指示値に基づいて、ホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量Qを演算する。そして、演算したホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量Qと最低液量Qaとを比較する。演算した液量Qが最低液量Qa以上のときは処理を終了する。一方、演算した液量Qが最低液量Qa未満のときは、ホイルシリンダ27a,27b内の液量Qが少なくとも最低液量Qaとなるようにホイルシリンダ27a,27b内にブレーキ液を導入し(
図2のステップS8、本発明の「最低液量設定手段」に相当する)、処理を終了する。
【0032】
次に、低速すり替え時に上記制御を適用した場合の作動を
図3のタイムチャートを参照して説明する。
図3では、ブレーキペダル21の操作量が、時点t0から時点t2まで増加し、時点t2以降は所定量に保持されていることを想定している。時点t0において、プレーキペダル21が踏み込まれると(
図3(b))、車両速度がVoから減速し始め(
図3(a)の時点t1〜)、回生協調が開始される(
図3(c)の時点t1〜)。そして、時点t1から時点t2では、ブレーキペダル21の操作量増加に伴って液圧制動力が増加し、時点t2から時点t3では、車両速度の低下に伴って液圧制動力が減少する。その結果、
図3(c)の時点t3においてブレーキ液の液量Qが最低液量Qbになる。その後、ホイルシリンダ27a,27b内の液量が最低液量Qbよりも少なくなるとホイルシリンダ27a,27b内にブレーキ液が導入される(
図2のステップS3、S4)ため、時点t3から時点t4ではホイルシリンダ圧がPbに保持される。時点t4において車両速度が所定車両速度Viになると、ホイルシリンダ27a,27b内の液量が最低液量Qaになるまでホイルシリンダ27a,27b内にブレーキ液が導入される(
図2のステップS5〜S8)ため、時点t4から時点t5ではホイルシリンダ圧がPaに保持される。すなわち、時点t5において、低速すり替えの開始車両速度Vsになると、液圧制動力が増加し始めるが、その時点ではホイルシリンダ27a,27b内の液量が最低液量Qaになっている。
【0033】
このように、予測可能な低速すり替えに備えてホイルシリンダ27a,27b内の液量を最低液量Qaにすることにより、低速すり替え時(
図3(c)の時点t5〜)の液圧制動力増大の応答性を確実に高めることができる。また、所定車両速度Viが車両減速度Gに基づいて設定されるため、ポンプ62の吐出能力に応じた必要最低限の期間だけホイルシリンダ27a,27b内の液量を最低液量Qbよりも多い液量にして液圧制動力増大の応答性を確実に高めることができる。すなわち、液圧制動力増大の応答性の向上と回生効率の向上との両立を図ることができる。
【0034】
次に、踏み増し時に上記制御を適用した場合の作動を
図4のタイムチャートを参照して説明する。
図4では、ブレーキペダル21の操作量が、時点t0から時点t2まで増加し、時点t2から時点t7まで所定量に保持され、時点t7以降に増加することを想定している。時点t0から時点t7までの作動は、
図3の時点t0から時点t4までの作動と同一である。すなわち、時点t7において、ブレーキペダル21の操作量が増加すると、目標制動力の増大に伴って液圧制動力が増加するが、その時点ではホイルシリンダ27a,27b内の液量が最低液量Qbになっている。
【0035】
このように、ブレーキペダル21の操作量増加(踏み増し)に備えて、ホイルシリンダ27a,27b内の液量を最低液量Qbにすることにより、踏み増し時の液圧制動力増大の応答性を高めることができる。また、最低液量Qbを最低液量Qaよりも少ない液量にすることにより、踏み増し時の液圧制動力増大の応答性の向上と回生効率の向上との両立を図ることができる。
【0036】
上記実施形態では、最低液量Qbを回生制動力の増加終了時(
図3(c)の時点t3)から所定車両速度Viへの減速時(
図3(c)の時点t4)まで設定する制御としたが、かかる最低液量Qbを設定せず、最低液量Qaを液圧制動力の増加直前(
図3(c)の時点t4からt5)に設定する制御としてもよい。この場合、液圧制動力の少なくとも増加開始時点での応答性を高めることができる。
【0037】
また、上述の低速すり替え時および踏み増し時に上記制御を適用した場合においては、最低液量Qb,Qaに対応する液圧制動力だけ回生制動力を減少させて目標制動力を得る回生協調制御を例示したが、最低液量Qb,Qaが十分に小さいときは、回生制動力を減少させることなくホイルシリンダ27a,27b内のブレーキ液の液量を最低液量Qb,Qaにする回生協調制御としてもよい。また、最低液量Qb,Qaが十分に小さくなくても、最大の回生制動力に所定の比率を掛けた回生制動力を発生させて目標制動力を得るように構成してもよい。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の車両制動制御装置によれば、液圧制動力の増加が予測されている場合にホイルシリンダ27a,27b内の液量を最低液量Qa以上にすることにより、液圧制動力増大の応答性を確実に高めることができる。また、液圧制動力の増加が予測されていない場合にホイルシリンダ27a,27b内の液量を最低液量Qa以上にしないことにより、回生効率を高めることができる。すなわち、液圧制動力増大の応答性の向上と回生効率の向上との両立を図ることができる。そして、液圧制動力が増加することを車両速度に基づいて予測することにより、コストアップすることなく、液圧制動力増大の応答性の向上と回生効率の向上との両立を図ることができる。
【0039】
なお、回生制動力は、バッテリ33の充電状態で変化するため、低速すり替えの開始が、車両速度Vsとなる時点よりも早まる場合がある。このような場合であっても、バッテリ33の充電状態に基づいて低速すり替えの開始時点を推測することにより、本発明を適用することができる。