(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数本の内蔵ファイバの長手方向から見て、前記アーク放電を行う一対の電極を結ぶ線が、前記2以上の第1の内蔵ファイバと前記2以上の第2の内蔵ファイバとの間に位置するように、前記治具と前記一対の電極との相対位置を決定することを特徴とする、請求項1に記載の多心光コネクタの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、例えば、急激に進展するFTTxの施工の簡素化やメンテナンスの容易化などの為、現地付け可能な光コネクタへの要求が高まっている。例えば特許文献2や非特許文献1に記載されているように、現地付け可能な光コネクタは短尺の光ファイバを内蔵しており、光コネクタを光ファイバケーブルに組み付ける際には、この短尺の内蔵ファイバと光ファイバケーブルの光ファイバとを互いに融着接続する必要がある。
【0008】
また、近年の通信データ量の増大に伴い、複数本の光ファイバを集合させた多心光ファイバケーブルが実用化されつつある。そして、この多心光ファイバケーブルに組み付けられる光コネクタの複数本の内蔵ファイバと、多心光ファイバケーブルの複数本の光ファイバとを互いに融着接続することにより、光コネクタを現地付け可能とすることが望まれる。
【0009】
多心光ファイバケーブル用の光コネクタには、例えば24心MPOコネクタのように、レセプタクルとの接続端面において光ファイバが二列にわたって配列されたものがある。このような光コネクタを現地付け可能とするためには、光コネクタが内蔵する複数本の内蔵ファイバと、多心光ファイバケーブルの複数本の光ファイバとを互いに融着接続する必要がある。しかしながら、従来の融着接続方法では、例えば光ファイバの軸方向に対して直交する方向に並んだ複数のV溝に複数の光ファイバを収容してこれらの位置決めを行いつつ、アーク放電等により融着を行う。このような方法は内蔵ファイバが一列に並んでいる場合には有用であるが、24心MPOコネクタのように内蔵ファイバが二列にわたって配列されている場合には、一列ずつ融着せざるを得ず、また、その融着も容易でない場合がある。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、二列にわたって配列された複数の内蔵ファイバを備える多心光コネクタの製造方法であって、これらの内蔵ファイバと多心光ファイバケーブルの複数の光ファイバとの融着接続が容易な方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この製造方法によって製造される独特な構造の多心光コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明による多心光コネクタの製造方法は、複数本の光ファイバを有する多心光ファイバケーブルと、第1の軸線に沿って配列された2以上の第1保持部、及び第1の軸線に沿う第2の軸線に沿って配列された2以上の第2保持部を含むフェルールと、一端が2以上の第1保持部にそれぞれ保持された2以上の第1の内蔵ファイバ、及び一端が2以上の第2保持部にそれぞれ保持された2以上の第2の内蔵ファイバを含む複数本の内蔵ファイバとを備える多心光コネクタの製造方法であって、複数本の内蔵ファイバを支持する第1の部分、及び複数本の光ファイバを支持する第2の部分を有する治具を用い、複数本の内蔵ファイバと複数本の光ファイバとを互いに突き合わせた状態で該突き合わせ部分にアーク放電を行うことによって、複数本の内蔵ファイバの他端と複数本の光ファイバとを互いに融着して複数の融着接続部を形成したのち、複数の融着接続部を保護スリーブで一括して保持する工程を備え、治具の第1の部分が、2以上の第1の内蔵ファイバを収容する2以上の第1の溝と、2以上の第2の内蔵ファイバを収容する2以上の第2の溝とを有し、第1及び第2の溝が交互に並んで配置され、第1の溝と第2の溝とが互いに高低差を有しており、治具の第2の部分が、2以上の第1の内蔵ファイバに融着される2以上の光ファイバを収容する2以上の第3の溝と、2以上の第2の内蔵ファイバに融着される2以上の光ファイバを収容する2以上の第4の溝とを有し、第3及び第4の溝が交互に並んで配置され、第3の溝と第4の溝とが互いに高低差を有していることを特徴とする。
【0012】
この製造方法により製造される多心光コネクタは、第1の内蔵ファイバ及び第2の内蔵ファイバといった、二列にわたって配列された複数本の内蔵ファイバを備えている。そして、複数本の内蔵ファイバと複数本の光ファイバとを融着接続する際、治具の第1の部分の第1の溝が第1の内蔵ファイバを収容し、第2の溝が第2の内蔵ファイバを収容する。上記製造方法では、第1及び第2の溝が交互に並んで配置され、第1の溝と第2の溝とが互いに高低差を有するので、二列にわたって配列された第1の内蔵ファイバ及び第2の内蔵ファイバを好適に位置決めすることができる。また、これと同様に、治具の第2の部分においても、二列にわたって配列された複数本の光ファイバを第3及び第4の溝によって好適に位置決めすることができる。
【0013】
上記のように、この多心光コネクタの製造方法によれば、二列にわたって配列された複数本の内蔵ファイバを治具の複数の溝に収容することができ、これらを容易に位置決めすることができる。したがって、これらの内蔵ファイバと多心光ファイバケーブルの複数の光ファイバとの融着接続を容易にすることができる。また、従来の方法と異なり、上記の製造方法によれば、二列にわたって配列された複数本の内蔵ファイバを一括して融着するとともに、その融着接続部を一つの保護スリーブによって一括して保持することが可能となるので、歩留まり良く多心光コネクタを製造できる。
【0014】
また、多心光コネクタの製造方法は、複数本の内蔵ファイバの長手方向から見て、アーク放電を行う一対の電極を結ぶ線が、2以上の第1の内蔵ファイバと2以上の第2の内蔵ファイバとの間に位置するように、治具と一対の電極との相対位置を決定することを特徴としてもよい。これにより、放電による融着の程度のばらつきを抑えることができる。
【0015】
また、本発明による多心光コネクタは、複数本の光ファイバを有する多心光ファイバケーブルと、第1の軸線に沿って配列された2以上の第1保持部、及び第1の軸線に沿う第2の軸線に沿って配列された2以上の第2保持部を含むフェルールと、一端が2以上の第1保持部にそれぞれ保持され、他端が光ファイバに融着された2以上の第1の内蔵ファイバと、一端が2以上の第2保持部にそれぞれ保持され、他端が光ファイバに融着された2以上の第2の内蔵ファイバとを含む複数本の内蔵ファイバと、複数本の光ファイバと複数本の内蔵ファイバとの複数の融着接続部を一括して保持する保護スリーブとを備えることを特徴とする。
【0016】
前述した多心光コネクタの製造方法によれば、二列にわたって配列された複数本の内蔵ファイバを一括して融着できるので、その融着接続部を一つの保護スリーブによって一括して保持することが可能となる。したがって、上記の多心光コネクタのように、複数本の光ファイバと複数本の内蔵ファイバとの複数の融着接続部を一括して保持する保護スリーブを備える多心光コネクタを実現することができる。
【0017】
また、多心光コネクタは、保護スリーブが、補強板と、補強板を包囲する被覆部材とを有し、補強板を挟んで第1の領域と第2の領域とが画成されており、2以上の第1の内蔵ファイバが第1の領域に収容されており、2以上の第2の内蔵ファイバが第2の領域に収容されていることを特徴としてもよい。また、多心光コネクタは、保護スリーブが、補強板と、補強板を包囲する被覆部材とを有し、補強板を挟んで第1の領域と第2の領域とが画成されており、2以上の第1の内蔵ファイバ、及び2以上の第2の内蔵ファイバが第1の領域に収容されており、2以上の第1の内蔵ファイバと2以上の第2の内蔵ファイバとが交互に配列されていることを特徴としてもよい。さらに、多心光コネクタは、複数本の光ファイバが、2以上の第1の内蔵ファイバに融着される2以上の第1光ファイバと、2以上の第2の内蔵ファイバに融着される2以上の第2光ファイバとを含み、2以上の第1光ファイバが樹脂によって一括して被覆され、2以上の第1光ファイバのうち該樹脂に被覆された部分が第1の軸線の延伸方向に並んで配列されており、2以上の第2光ファイバが樹脂によって一括して被覆され、2以上の第2光ファイバのうち該樹脂に被覆された部分が第2の軸線の延伸方向に並んで配列されていることを特徴としてもよい。このようにすれば、光ファイバに負荷が加わって損傷することを防止して、複数の融着接続部を一括して保持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による多心光コネクタの製造方法によれば、二列にわたって配列された複数本の内蔵ファイバと多心光ファイバケーブルの複数本の光ファイバとの融着接続を容易にすることができる。また、本発明による多心光コネクタによれば、この製造方法によってのみ製造され得る独特な構造の多心光コネクタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明による多心光コネクタの製造方法、及び多心光コネクタの実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る多心光コネクタ1Aの外観を示す斜視図である。
図2は、
図1に示された多心光コネクタ1Aの分解斜視図である。
図3(a)は、
図1に示される多心光コネクタ1AのI−I線に沿った断面図である。
図3(b)は、
図3(a)に示される多心光コネクタ1AのII−II線に沿った断面図である。なお、
図2及び
図3には、多心光コネクタ1Aの中心軸線に沿った所定軸線Xが示されている。本実施形態の多心光コネクタ1Aは、MPO(Multi-fiber Push-on)型の光コネクタである。多心光コネクタ1Aは、MPOレセプタクルに光アダプタを介して接続される。
【0022】
多心光コネクタ1Aは、光通信網の施工の際、現地において多心光ファイバケーブルF1に組み付けられる、現地付け可能な光コネクタである。
図2、
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、多心光ファイバケーブルF1は、複数本の光ファイバ心線(単心光ファイバ心線)F2と、光ファイバ心線F2を覆う外被F3と、光ファイバ心線F2と外被F3との間に配置された抗張力繊維(アラミド繊維)F4とを有する。各光ファイバ心線F2は、光ファイバF5を所定の被覆で覆って構成されている。
【0023】
多心光コネクタ1Aは、フェルール2と、複数の短尺状の内蔵ファイバ23とを備えている。複数の内蔵ファイバ23は、所定軸線Xに沿った方向を長手方向として配置され、複数の内蔵ファイバ23それぞれの一端は、多心光ファイバケーブルF1の複数の光ファイバF5それぞれの一端に融着接続される。フェルール2は、MT型のフェルール本体21を有する。フェルール本体21には、所定軸線Xに沿った方向にフェルール本体21を貫通する複数のファイバ孔25が形成されている。複数のファイバ孔25は、所定軸線Xに対して垂直な断面において二列に配列されている。一実施例では、一つのファイバ孔列の中に12個のファイバ孔25が含まれる。
【0024】
複数のファイバ孔それぞれには、複数の内蔵ファイバ23それぞれの他端が挿入されている。つまり、フェルール2は、複数本の内蔵ファイバ23の他端を保持している。なお、フェルール2には、一対のガイドピン24が設けられている。
【0025】
ここで、
図4(a)は、複数の内蔵ファイバ23の断面を示す図であり、所定軸線Xに対して垂直な断面を示している。また、同図には、所定軸線Xを含む基準平面P1が示されている。同図に示されるように、複数の内蔵ファイバ23は、基準平面P1に沿った二つの列が基準平面P1に対して垂直な方向に並ぶように配列されている。すなわち、複数の内蔵ファイバ23のうち二以上(図では12本)の内蔵ファイバ(第1の内蔵ファイバ)23aは、一方のファイバ列を構成しており、基準平面P1によって仕切られる二つの領域A1、A2のうち一方の領域A1に配置されている。また、複数の内蔵ファイバ23のうち二以上(図では12本)の内蔵ファイバ(第2の内蔵ファイバ)23bは、他方のファイバ列を構成しており、二つの領域A1、A2のうち他方の領域A2に配置されている。
【0026】
また、本実施形態の第1の内蔵ファイバ23aは、所定軸線Xに対して垂直な断面において、基準平面P1に沿う直線La(第1の軸線)上に並んで配置されている。同様に、本実施形態の第2の内蔵ファイバ23bは、所定軸線Xに対して垂直な断面において、基準平面P1に沿う(すなわち、直線Laに沿う)直線Lb(第2の軸線)上に並んで配置されている。
【0027】
図4(b)は、所定軸線Xの方向から見たフェルール本体21を示す図である。同図には、フェルール本体21に形成された複数のファイバ孔25が示されている。本実施形態の複数のファイバ孔25は、上述した複数の内蔵ファイバ23の配列に応じて形成されている。すなわち、複数のファイバ孔25のうち二以上(図では12個)のファイバ孔25a
(第1保持部)は、フェルール本体21において基準平面P1によって仕切られる二つの部分のうち一方の部
分21aに配置されている。また、複数のファイバ孔25のうち二以上(図では12個)のファイバ孔25b
(第2保持部)は、フェルール本体21の上記二つの部分のうち他方の部
分21bに配置されている。
【0028】
また、本実施形態のファイバ孔25aは、所定軸線Xに対して垂直な断面において、基準平面P1に沿う直線La(第1の軸線)上に並んで配置されている。同様に、本実施形態のファイバ孔25bは、所定軸線Xに対して垂直な断面において、基準平面P1に沿う(すなわち、直線Laに沿う)直線Lb(第2の軸線)上に並んで配置されている。
【0029】
フェルール2は、第1保持部21a及び第2保持部21bと、上記のように配列された複数のファイバ孔25(25a,25b)とを有することにより、複数の内蔵ファイバ23(23a,23b)を前述した配列で保持することができる。
【0030】
再び
図1〜
図3を参照すると、多心光コネクタ1Aは、フロントハウジング(ハウジング)3を備えている。フロントハウジング3は、フェルール2と保護スリーブ4の一部とを収容する。保護スリーブ4は、光ファイバF5と内蔵ファイバ23との融着接続部を保護するためのものである。保護スリーブ4の長さは、例えば27mm程度である。
【0031】
図5(a)は保護スリーブ4の例を示す斜視図であり、
図5(b)は
図5(a)を所定軸線Xの方向から見た正面図である。また、
図5(c)は保護スリーブ4の別の例を示す斜視図であり、
図5(d)は
図5(c)を所定軸線Xの方向から見た正面図である。本実施形態の保護スリーブ4は、例えば、
図5(a)及び
図5(b)に示される保護スリーブ4A、或いは
図5(c)及び
図5(d)に示される保護スリーブ4Bによって好適に実現される。
【0032】
図5(a)及び
図5(b)を参照すると、保護スリーブ4Aは、保護スリーブ4Aの長手方向に延びる金属製の補強板43と、補強板43を包囲する被覆部材としての断面楕円状の熱収縮チューブ41とを有する。補強板43は、熱収縮チューブ41内において、該補強板43を挟んで配置される第1の領域44aと第2の領域44bとを画成している。また、保護スリーブ4Aは、熱収縮チューブ41内に配置された断面楕円状の2本の熱溶融性樹脂チューブ42を有している。第1の領域44aは一方の熱溶融性樹脂チューブ42に覆われており、第2の領域44bは他方の熱溶融性樹脂チューブ42に覆われている。第1の領域44aには、第1の内蔵ファイバ23a、及び、第1の内蔵ファイバ23aと光ファイバF5との融着接続部S1が収容されて保持されている。また、第2の領域44bには、第2の内蔵ファイバ23b、及び、第2の内蔵ファイバ23bと光ファイバF5との融着接続部S2が収容されて保持されている。なお、補強板43は、例えばSUS304等により形成された薄型平板である。補強板43の寸法は、例えば、厚さ0.2mm〜0.3mm×幅3.7mm×長さ26mm程度である。
【0033】
また、
図5(c)を参照すると、保護スリーブ4Bは、保護スリーブ4Bの長手方向に延びる金属製の補強板43と、補強板43を包囲する被覆部材としての断面楕円状の熱収縮チューブ41とを有する。補強板43は、熱収縮チューブ41内において、該補強板43を挟んで配置される第1の領域44aと第2の領域44bとを画成している。また、保護スリーブ4Bは、熱収縮チューブ41内に配置された断面楕円状の1本の熱溶融性樹脂チューブ42を有しており、第1の領域44aはこの熱溶融性樹脂チューブ42に覆われている。第1の領域44aには、第1の内蔵ファイバ23a、及び、第1の内蔵ファイバ23aと光ファイバF5との融着接続部S1が収容されて保持されている。また、この第1の領域44aには、第2の内蔵ファイバ23b、及び、第2の内蔵ファイバ23bと光ファイバF5との融着接続部S2も収容されて保持されている。そして、
図5(d)に示されるように、第1の内蔵ファイバ23aと第2の内蔵ファイバ23bとは、第1の領域44aにおいて交互に配列されている。
【0034】
再び
図1〜
図3を参照すると、フロントハウジング3には、光アダプタから多心光コネクタ1Aを引き抜くためのカップリング5が、フロントハウジング3の前後方向に移動可能に取り付けられている。ここで、
図6は、フロントハウジング3の外観を示す斜視図である。同図に示されるように、フロントハウジング3の両側面には、バネ収容溝31が形成されている。バネ収容溝31には、カップリング5をフロントハウジング3に対して前側に付勢するためのインジェクタばね32(
図2を参照)が配置されている。フロントハウジング3の後部には、2つの係止窓33が上下に形成されている。
【0035】
また、
図2及び
図3を参照すると、多心光コネクタ1Aは、リアハウジング(ハウジング)6を備えている。リアハウジング6は、フロントハウジング3の後端部に連結される。リアハウジング6は、フロントハウジング3と協働して保護スリーブ4を収容する。つまり、フロントハウジング3及びリアハウジング6は、光ファイバF5と内蔵ファイバ23との融着接続部S1,S2を保護するための保護スリーブ4をフェルール2と共に収容する。
【0036】
図7は、リアハウジング6の外観を示す斜視図である。同図に示されるように、リアハウジング6の上面及び下面の前部には、フロントハウジング3の各係止窓33と係合する係止突起61がそれぞれ設けられている。リアハウジング6の後端側部分は、断面略長円形状をなしている。リアハウジング6の後端部における各係止突起61の配置部位(上面及び下面)に対応する部位には、多心光ファイバケーブルF1の外被F3における引き裂かれた部分を載せるための凹み62がそれぞれ形成されている。
【0037】
外被F3は、二股に引き裂かれた状態で各凹み62に載せられる。凹み62は、リアハウジング6における凹み62の部分の肉厚が全体的に均一になるように切削加工されていることが望ましい。また、リアハウジング6における係止突起61と凹み62との間の領域の外周面には、雄ネジ部63が形成されている。リアハウジング6とフェルール2との間には、フェルール2をフロントハウジング3に対して前側に付勢するためのフェルールばね7が配置される。
【0038】
図1〜
図3を参照すると、多心光コネクタ1Aは、固定部材8、ブーツ9、及びスパイラルチューブ10を更に備えている。固定部材8は、円筒状を呈している。固定部材8の前側部分の内周面には、リアハウジング6の雄ネジ部63と螺合する雌ネジ部81が形成されている。固定部材8は、雄ネジ部63に雌ネジ部81を螺合することによりリアハウジング6にネジ止めされる。その際に、固定部材8は、多心光ファイバケーブルF1の外被F3及び抗張力繊維F4をリアハウジング6に挟み込んで固定する。また、ブーツ9は、固定部材8の後側部分に装着される。ブーツ9は、多心光ファイバケーブルF1に急激な曲げが作用しないように多心光ファイバケーブルF1を保護するものである。ブーツ9には、補強チューブ91が予め取り付けられている。また、スパイラルチューブ10は、多心光ファイバケーブルF1の外被F3から露出した光ファイバ心線F2を互いに結束する部材である。
【0039】
また、複数本の光ファイバF5は、第1の内蔵ファイバ23aに融着される2以上の第1光ファイバF5aと、第2の内蔵ファイバ23bに融着される2以上の第2光ファイバF5bとを含んでいる。ここで、
図8は、所定軸線Xに対して垂直な断面における多心光ファイバケーブルF1の断面図である。
図8に示されるように、多心光ファイバケーブルF1は、2以上の第1光ファイバF5aを含む光ファイバテープ心線F6aと、2以上の第2光ファイバF5bを含む光ファイバテープ心線F6bとを含んでいる。光ファイバテープ心線F6aは、第1光ファイバF5aが紫外線硬化性樹脂などの樹脂F7によって一括して被覆されて成る。光ファイバテープ心線F6aにおいて、第1光ファイバF5aのうち樹脂に被覆された部分は、
図5に示された直線Laの延伸方向に並んで配列されている。同様に、光ファイバテープ心線F6bは、第2光ファイバF5bが紫外線硬化性樹脂などの樹脂F8によって一括して被覆されて成る。光ファイバテープ心線F6bにおいて、第2光ファイバF5bのうち樹脂に被覆された部分は、
図5に示された直線Lbの延伸方向に並んで配列されている。
【0040】
続いて、以上のように構成される多心光コネクタ1Aの製造方法について説明する。なお、以下の工程は、多心光ファイバケーブルF1を生産する工場内にて実施されるほか、光通信網の施工の際、現地にて実施することも可能である。
【0041】
まず、
図9に示される治具50を用意する。治具50は、複数本の内蔵ファイバ23を支持する第1の部分51と、複数本の光ファイバF5を支持する第2の部分52とを有する。なお、第1の部分51と第2の部分52との間には、アーク放電を通すための空隙53が設けられている。なお、
図9には、理解の容易の為、XYZ直交座標系が示されている。この直交座標系に含まれるX軸は、
図2及び
図3に示される所定軸線Xと平行な軸である。また、Y軸は、X軸と共に、上述した基準平面P1と平行なXY平面を形成する軸である。Z軸は、基準平面P1の垂線と平行な軸である。
【0042】
図10は、
図9に示された治具50の第1の部分51のIII−III断面図であって、所定軸線Xに対して垂直な断面を示している。
図10には、複数の内蔵ファイバ23も併せて示されている。なお、
図10には、
図9と同様にXYZ直交座標系が示されている。
【0043】
図10に示されるように、第1の部分51は、第1の内蔵ファイバ23aを収容する2本以上(本実施形態では12本。
図10では理解の容易のために7本に省略)のV溝(第1の溝)51aと、第2の内蔵ファイバ23bを収容する2本以上(本実施形態では12本。
図10では理解の容易のために6本に省略)のV溝(第2の溝)51bとを有する。V溝51aは、X軸方向(すなわち所定軸線Xに沿った方向)に延びており、Y軸方向に並んで形成されている。同様に、V溝51bは、X軸方向に延びており、Y軸方向に並んで形成されている。
【0044】
また、V溝51aとV溝51bとは、Z軸方向から見て交互に並んで配置されている。そして、V溝51aとV溝51bとは、互いに高低差hを有している。より具体的に説明すると、V溝51aは、その底部がXY平面に沿った仮想平面P2に重なるように配置され、V溝51bは、その底部がXY平面に沿った仮想平面P3に重なるように配置され、仮想平面P2と仮想平面P3とは距離hを隔てて互いに平行に配置される。そして、V溝51aの底部とV溝51bの底部とは、それらのY軸方向位置が互いに交互になるように配置されている。
【0045】
図11は、
図9に示された治具50の第2の部分52のIV−IV断面図であって、所定軸線Xに対して垂直な断面を示している。
図11には、複数の光ファイバF5も併せて示されている。なお、
図11には、
図9と同様にXYZ直交座標系が示されている。
【0046】
図11に示されるように、第2の部分52は、複数の光ファイバF5のうち、第1の内蔵ファイバ23aに融着される第1光ファイバF5aを収容する2本以上(本実施形態では12本。
図11では理解の容易のために6本に省略)のV溝(第3の溝)52aと、複数の光ファイバF5のうち、第2の内蔵ファイバ23bに融着される第2光ファイバF5bを収容する2本以上(本実施形態では12本。
図11では理解の容易のために6本に省略)のV溝(第4の溝)52bとを有する。V溝52aは、X軸方向に延びており、Y軸方向に並んで形成されている。同様に、V溝52bは、X軸方向に延びており、Y軸方向に並んで形成されている。
【0047】
また、V溝52aとV溝52bとは、Z軸方向から見て交互に並んで配置されている。そして、V溝52aとV溝52bとは、互いに高低差hを有している。より具体的に説明すると、V溝52aは、その底部がXY平面に沿った仮想平面P4に重なるように配置され、V溝52bは、その底部がXY平面に沿った仮想平面P5に重なるように配置され、仮想平面P4と仮想平面P5とは距離hを隔てて互いに平行に配置される。そして、V溝52aの底部とV溝52bの底部とは、それらのY軸方向位置が互いに交互になるように配置されている。なお、V溝52a同士の間隔は
図10のV溝51a同士の間隔と等しく、V溝52b同士の間隔は
図10のV溝51b同士の間隔と等しい。
【0048】
上記のような治具50を用意したのち、複数本の内蔵ファイバ23をV溝51a,51bに収容するとともに、複数本の光ファイバF5をV溝52a,52bに収容する。そして、複数本の内蔵ファイバ23の一端と複数本の光ファイバF5の一端とを空隙53において互いに突き合わせ、その突き合わせた部分にアーク放電を行う。これにより、複数本の内蔵ファイバ23と複数本の光ファイバF5とを互いに融着接続する。
【0049】
図12は、アーク放電の様子を模式的に示す図であって、X軸方向から見た様子を示している。アーク放電は、Y軸方向における治具50の空隙53の両端に配置された一対の電極54,55の間で行われ、電極54と電極55との間に放電路Aが生じる現象である。放電路Aは、電極54と電極55とに挟まれる空間において中央部が膨らんだ形状をしており、この放電路Aに囲まれた領域の内部に、複数本の内蔵ファイバ23の一端と複数本の光ファイバF5の一端とが配置される。融着の際、これらのファイバ23及びF5の一端における温度は、例えば1000度以上となる。
【0050】
また、X軸方向から見た治具50と一対の電極54,55との相対位置は、一対の電極54,55を互いに結ぶ線Lcが、第1の内蔵ファイバ23aと第2の内蔵ファイバ23bとの間に位置するように決定されるとよい。
【0051】
以上に説明した多心光コネクタ1Aおよびその製造方法による効果について説明する。上述したように、多心光コネクタ1Aは、第1の内蔵ファイバ23a及び第2の内蔵ファイバ23b、すなわち二列にわたって配列された複数の内蔵ファイバ23を備えている。そして、複数本の内蔵ファイバ23と複数本の光ファイバF5とを融着接続する際、治具50の第1の部分51のV溝51aが第1の内蔵ファイバ23aを収容し、V溝51bが第2の内蔵ファイバ23bを収容する。また、V溝51a及び51bは交互に並んで配置されており、V溝51aとV溝51bとが互いに高低差を有する。したがって、二列にわたって配列された第1の内蔵ファイバ23a及び第2の内蔵ファイバ23bを好適に位置決めすることができる。また、これと同様に、治具50の第2の部分52においても、二列にわたって配列された複数本の光ファイバF5をV溝52a,52bによって好適に位置決めすることができる。
【0052】
上記のように、本実施形態の製造方法によれば、二列にわたって配列された複数本の内蔵ファイバ23を治具50の複数のV溝に収容することができ、これらを容易に位置決めすることができる。したがって、これらの内蔵ファイバ23と多心光ファイバケーブルの複数の光ファイバF5との融着接続を容易にすることができる。また、従来の方法と異なり、本実施形態の製造方法によれば、二列にわたって配列された複数本の内蔵ファイバ23を一括して融着するとともに、その融着接続部S1,S2を一つの保護スリーブ4によって一括して保持することが可能となるので、歩留まり良く多心光コネクタを製造できる。即ち、融着接続部S1,S2は互いに近接して存在しているため、これらを個別の保護スリーブによって保持する作業を実施することが難しいが、本実施形態の製造方法によれば、互いに近接した融着接続部S1,S2を確実に保持することができる。また、融着接続部S1,S2を一括して融着した後に、これらを一つの保護スリーブ4によって一括して保持する作業に直ちに移行できることから、融着接続部S1,S2の双方が剥き出しのまま外気にさらされることを防止できるため、融着接続部S1,S2が確実に保護される。
【0053】
また、このように製造された多心光コネクタ1Aにおいて、保護スリーブ4が、
図5(a)及び
図5(b)に示されたように、補強板43と、補強板43を包囲する被覆部材(例えば熱収縮チューブ41)とを有し、補強板43を挟んで第1の領域44aと第2の領域44bとが画成されており、2以上の第1の内蔵ファイバ23aが第1の領域44aに収容されており、2以上の第2の内蔵ファイバ23bが第2の領域44bに収容されていることが好ましい。このように、第1の内蔵ファイバ23aが収容される領域と第2の内蔵ファイバ23bが収容される領域とが補強板43を挟んでそれぞれ設けられることにより、内蔵ファイバ23a,23bを一つの領域内に収容する場合と比較して、直線La,Lbと交差する面内において内蔵ファイバ23a,23bに加わる曲げ応力を小さく抑えることができる。
【0054】
また、保護スリーブ4が、
図5(c)及び
図5(d)に示されたように、補強板43と、補強板43を包囲する被覆部材(例えば熱収縮チューブ41)とを有し、補強板43を挟んで第1の領域44aと第2の領域44bとが画成されており、2以上の第1の内蔵ファイバ23a、及び2以上の第2の内蔵ファイバ23bが第1の領域44aに収容されており、2以上の第1の内蔵ファイバ23aと2以上の第2の内蔵ファイバ23bとが交互に配列されていてもよい。このように、第1の内蔵ファイバ23aが収容される領域と第2の内蔵ファイバ23bが収容される領域とが共通の領域として設けられ、内蔵ファイバ23a,23bが交互に配列されることにより、次の効果が得られる。
図4(a)に示されたように、フェルール2では、2以上の第1の内蔵ファイバ23aが一定の間隔をあけて直線La上に配列され、2以上の第2の内蔵ファイバ23bが一定の間隔をあけて直線Lb上に配列されている。したがって、熱収縮チューブ41内で第1の内蔵ファイバ23aと第2の内蔵ファイバ23bとを分けて整列させると、第1の内蔵ファイバ23a同士の間隔、及び第2の内蔵ファイバ23b同士の間隔が狭まるので、直線La,Lbに沿った面内において曲げ応力が生じることとなる。これに対し、第1及び第2の内蔵ファイバ23a,23bを一つの領域内に収容して交互に配列すれば、第1の内蔵ファイバ23a同士の間隔、及び第2の内蔵ファイバ23b同士の間隔の変化を小さくすることができるので、直線La,Lbに沿った面内において内蔵ファイバ23a,23bに加わる曲げ応力を小さく抑えることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、複数本の光ファイバF5が、2以上の第1の内蔵ファイバ23aに融着される2以上の第1光ファイバF5aと、2以上の第2の内蔵ファイバ23bに融着される2以上の第2光ファイバF5bとを含んでいる。この場合、2以上の第1光ファイバF5aが樹脂によって一括して被覆され、これらの第1光ファイバF5aのうち該樹脂に被覆された部分が直線Laの延伸方向に並んで配列されており、2以上の第2光ファイバF5bが樹脂によって一括して被覆され、これらの第2光ファイバF5bのうち該樹脂に被覆された部分が直線Lbの延伸方向に並んで配列されていることが好ましい。
図5(a)及び
図5(b)に示されたように、第1の内蔵ファイバ23aが収容される領域と第2の内蔵ファイバ23bが収容される領域とが補強板43を挟んでそれぞれ設けられる場合、このように第1光ファイバF5a、第2光ファイバF5bがそれぞれ個別に被覆されて二列に並んで配置されることによって、直線La,Lbと交差する面内において第1光ファイバF5a及び第2光ファイバF5bに加わる曲げ応力を小さく抑えることができる。
【0056】
また、
図12に示されたように、一対の電極54,55を互いに結ぶ線Lcが、第1の内蔵ファイバ23aと第2の内蔵ファイバ23bとの間に位置するように、治具50と一対の電極54,55との相対位置が決定されることが好ましい。ここで、
図13は、アーク放電における温度分布の例を示す図である。同図において、領域B1はアーク放電の中心付近の領域であり、領域B3はアーク放電の外周付近の領域であり、領域B2は領域B1と領域B3との間の領域である。通常、領域B3、B2及びB1の順に温度が高くなる。すなわち、アーク放電では、電流路の中心付近の温度が最も低くなり、電流路の外周付近の温度が最も高くなる傾向がある。したがって、治具50と一対の電極54,55との相対位置が上記のように決定されることにより、複数本の内蔵ファイバ23及び複数本の光ファイバF5の各一端の融着温度のばらつきを抑えることができる。
【0057】
(変形例)
図14は、上記実施形態の変形例として、複数の内蔵ファイバ23の断面を示す図であり、所定軸線Xに対して垂直な断面を示している。また、同図には、所定軸線Xを含む基準平面P1が示されている。同図に示されるように、本変形例においても、複数の内蔵ファイバ23は、基準平面P1に沿った二つの列が基準平面P1に対して垂直な方向に並ぶように配列されている。但し、本変形例の第1の内蔵ファイバ23aは、所定軸線Xに対して垂直な断面において、基準平面P1から遠ざかる方向へ膨らむ湾曲線Ld上に並んで配置されている。また、同様に、本変形例の第2の内蔵ファイバ23bは、所定軸線Xに対して垂直な断面において、基準平面P1から遠ざかる方向へ膨らむ湾曲線Le上に並んで配置されている。なお、第1の内蔵ファイバ23aおよび第2の内蔵ファイバ23bのうちいずれか一方のみの配置が、このように基準平面P1から遠ざかる方向へ膨らむ湾曲線上であってもよい。
【0058】
本変形例のように複数の内蔵ファイバ23を配置することによって、アーク放電の放電路における定温領域(
図13を参照)に沿って内蔵ファイバ23の融着部位を配置できるので、融着の程度のばらつきをより効果的に抑えることができる。
【0059】
本発明による多心光コネクタの製造方法、及び多心光コネクタは、上述した実施形態及び変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記の実施形態及び変形例では内蔵ファイバが24本(一列につき12本)設けられた構成が例示されているが、各列における内蔵ファイバの本数はこれに限られない。