特許第6015220号(P6015220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015220面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015220
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   H01S5/183
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-174544(P2012-174544)
(22)【出願日】2012年8月7日
(65)【公開番号】特開2014-36027(P2014-36027A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】武田 一隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 崇
【審査官】 百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−284722(JP,A)
【文献】 特開2012−009727(JP,A)
【文献】 特開2012−124433(JP,A)
【文献】 特開2011−124314(JP,A)
【文献】 特開2013−084909(JP,A)
【文献】 特開2011−134746(JP,A)
【文献】 特開2006−210429(JP,A)
【文献】 特開2011−014869(JP,A)
【文献】 特開2007−201398(JP,A)
【文献】 特開2010−40600(JP,A)
【文献】 特開2000−22271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡、活性領域、第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡、および高抵抗領域によって囲まれた導電領域を有する電流狭窄層を含む面発光型半導体レーザであって、
前記第2の半導体多層膜反射鏡上に形成される高次横モード抑制層であって、前記第2の半導体多層膜反射鏡の最上層は平坦な面を有しており、レーザ光を出射する出射面上の高次横モードが発生する領域に形成された高次横モード抑制層を含み、
前記高次横モード抑制層は、発振波長を透過可能な第1の屈折率を有する第1の絶縁膜と、第1の絶縁膜上に形成されかつ発振波長を透過可能な第2の屈折率を有する第2の絶縁膜と、第2の絶縁膜上に形成されかつ発振波長を透過可能な第3の屈折率を有する第3の絶縁膜とを含み、
第2の屈折率は、第1の屈折率よりも小さく、第3の屈折率は、第2の屈折率よりも大きく、第1の絶縁膜、第2の絶縁膜および第3の絶縁膜の光学膜厚は、発振波長の1/4の奇数倍であり、前記第1、第2および第3の絶縁膜は、前記第2の半導体多層膜反射鏡を構成する材料と異なる材料から構成されている、面発光型半導体レーザ。
【請求項2】
面発光型半導体レーザはさらに、レーザ光を出射する出射面上の基本横モードが発生する領域に形成された基本横モード促進層を含み、
前記基本横モード促進層は、前記高次横モード抑制層の内側に位置し、基本横モード促進層は、前記第1の絶縁膜によって露出された出射面上に前記第2の絶縁膜と、前記第2の絶縁膜上の前記第3の絶縁膜とを有する、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項3】
前記高次横モード抑制層は、前記出射面を露出する内径D0を有し、前記電流狭窄層の導電領域の径D1は、D1>D0の関係にある、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項4】
前記第1の絶縁膜の膜厚h1は、発振波長λ、第1の絶縁膜の屈折率n、空気の屈折率nに対して、以下の関係式を満たす膜厚である、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【数3】
【請求項5】
前記高次横モード抑制層が形成された領域の前記高次モード抑制層を含む第2の半導体多層膜反射鏡の反射率は、第2の半導体多層膜反射鏡の反射率、または前記基本横モード促進層が形成された領域の前記基本横モード促進層を含む第2の半導体多層膜反射鏡の反射率よりも少なくとも2%以上小さい、請求項1ないし4いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項6】
面発光型半導体レーザはさらに、前記電流狭窄層に至る柱状構造を含み、前記第3の絶縁膜は、前記柱状構造の底面、側面および頂部の周縁を覆う、請求項1ないし5いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項7】
前記電流狭窄層は、選択酸化領域によって囲まれた導電領域を有し、前記導電領域の径D1は少なくとも3μmよりも大きい、請求項1ないし6いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項8】
基板上に、第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡、活性領域、第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡、および高抵抗領域によって囲まれた導電領域を有する電流狭窄層を含む面発光型半導体レーザの製造方法であって、
レーザ光を出射する出射面上に、発振波長を透過可能な第1の屈折率を有する第1の絶縁膜を形成し、
前記出射面上の高次横モードが発生する領域に前記第1の絶縁膜が残存するように内径D0の開口を前記第1の絶縁膜に形成し、
前記開口を含む第1の絶縁膜上に、発振波長を透過可能な第2の屈折率を有する第2の絶縁膜を形成し、
前記第2の絶縁膜上に、発振波長を透過可能な第3の屈折率を有する第3の絶縁膜を形成する工程を含み、
第2の屈折率は、第1の屈折率よりも小さく、第3の屈折率は、第2の屈折率よりも大きく、前記第1の絶縁膜、前記第2の絶縁膜および前記第3の絶縁膜の光学膜厚は、発振波長の1/4の奇数倍である、面発光型半導体レーザの製造方法。
【請求項9】
製造方法はさらに、前記電流狭窄層に至る柱状構造を形成し、柱状構造の側面から前記電流狭窄層を選択的に酸化し、前記高抵抗領域を形成する工程を含み、前記導電領域の径D1は、D1>D0の関係にある、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第1の絶縁膜の光学膜厚は、発振波長の1/4の奇数倍である、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
製造方法はさらに、少なくとも前記第3の絶縁膜を加工する工程を含み、当該加工された第3の絶縁膜は、前記高次横モードが発生する領域、および前記柱状構造の底面、側面および頂部の周縁を覆う、請求項8ないし10いずれか1つに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザからの光を入射する光学部材と、
を実装した面発光型半導体レーザ装置。
【請求項13】
請求項12に記載された面発光型半導体レーザ装置と、
前記面発光型半導体レーザ装置から発せられたレーザ光を光媒体を介して伝送する伝送手段と、
を備えた光伝送装置。
【請求項14】
請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザから出射されるレーザ光を記録媒体に集光する集光手段と、
前記集光手段により集光されたレーザ光を前記記録媒体上で走査する機構と、
を有する情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光型半導体レーザは、通信装置や画像形成装置の光源に利用されている。このような光源に利用される面発光型半導体レーザとっては、単一横モードでありかつ大きな光出力が要求される。そこで、面発光型半導体レーザでは、出射領域の中央領域では主に基本横モード、周辺領域では主に高次横モードで発振するという性質を利用して、出射領域内に新たに絶縁膜を形成したり、出射領域内の最上層をエッチングするなどして、出射領域内の反射率を制御し、光出力を低下させることなく単一横モード発振させる技術が報告されている(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−156395号公報
【特許文献2】特表2004−529487号公報
【特許文献3】特開2003−115634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高次横モード発振を抑制し高出力の基本横モード発振を得ることができる面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置
を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1は、基板上に、第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡、活性領域、第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡、および高抵抗領域によって囲まれた導電領域を有する電流狭窄層を含む面発光型半導体レーザであって、前記第2の半導体多層膜反射鏡上に形成される高次横モード抑制層であって、前記第2の半導体多層膜反射鏡の最上層は平坦な面を有しており、レーザ光を出射する出射面上の高次横モードが発生する領域に形成された高次横モード抑制層を含み、前記高次横モード抑制層は、発振波長を透過可能な第1の屈折率を有する第1の絶縁膜と、第1の絶縁膜上に形成されかつ発振波長を透過可能な第2の屈折率を有する第2の絶縁膜と、第2の絶縁膜上に形成されかつ発振波長を透過可能な第3の屈折率を有する第3の絶縁膜とを含み、第2の屈折率は、第1の屈折率よりも小さく、第3の屈折率は、第2の屈折率よりも大きく、第1の絶縁膜、第2の絶縁膜および第3の絶縁膜の光学膜厚は、発振波長の1/4の奇数倍であり、前記第1、第2および第3の絶縁膜は、前記第2の半導体多層膜反射鏡を構成する材料と異なる材料から構成されている、面発光型半導体レーザ。
請求項2は、面発光型半導体レーザはさらに、レーザ光を出射する出射面上の基本横モードが発生する領域に形成された基本横モード促進層を含み、前記基本横モード促進層は、前記高次横モード抑制層の内側に位置し、基本横モード促進層は、前記第1の絶縁膜によって露出された出射面上に前記第2の絶縁膜と、前記第2の絶縁膜上の前記第3の絶縁膜とを有する、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項3は、前記高次横モード抑制層は、前記出射面を露出する内径D0を有し、前記電流狭窄層の導電領域の径D1は、D1>D0の関係にある、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項4は、前記第1の絶縁膜の膜厚h1は、発振波長λ、第1の絶縁膜の屈折率n、空気の屈折率nに対して、以下の関係式を満たす膜厚である、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【数3】
請求項5は、前記高次横モード抑制層が形成された領域の前記高次モード抑制層を含む第2の半導体多層膜反射鏡の反射率は、第2の半導体多層膜反射鏡の反射率、または前記基本横モード促進層が形成された領域の前記基本横モード促進層を含む第2の半導体多層膜反射鏡の反射率よりも少なくとも2%以上小さい、請求項1ないし4いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項6は、面発光型半導体レーザはさらに、前記電流狭窄層に至る柱状構造を含み、前記第3の絶縁膜は、前記柱状構造の底面、側面および頂部の周縁を覆う、請求項1ないし5いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項7は、前記電流狭窄層は、選択酸化領域によって囲まれた導電領域を有し、前記導電領域の径D1は少なくとも3μmよりも大きい、請求項1ないし6いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項8は、基板上に、第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡、活性領域、第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡、および高抵抗領域によって囲まれた導電領域を有する電流狭窄層を含む面発光型半導体レーザの製造方法であって、レーザ光を出射する出射面上に、発振波長を透過可能な第1の屈折率を有する第1の絶縁膜を形成し、前記出射面上の高次横モードが発生する領域に前記第1の絶縁膜が残存するように内径D0の開口を前記第1の絶縁膜に形成し、前記開口を含む第1の絶縁膜上に、発振波長を透過可能な第2の屈折率を有する第2の絶縁膜を形成し、前記第2の絶縁膜上に、発振波長を透過可能な第3の屈折率を有する第3の絶縁膜を形成する工程を含み、第2の屈折率は、第1の屈折率よりも小さく、第3の屈折率は、第2の屈折率よりも大きく、前記第1の絶縁膜、前記第2の絶縁膜および前記第3の絶縁膜の光学膜厚は、発振波長の1/4の奇数倍である、面発光型半導体レーザの製造方法。
請求項9は、製造方法はさらに、前記電流狭窄層に至る柱状構造を形成し、柱状構造の側面から前記電流狭窄層を選択的に酸化し、前記高抵抗領域を形成する工程を含み、前記導電領域の径D1は、D1>D0の関係にある、請求項8に記載の製造方法。
請求項10は、前記第1の絶縁膜の光学膜厚は、発振波長の1/4の奇数倍である、請求項8または9に記載の製造方法。
請求項11は、製造方法はさらに、少なくとも前記第3の絶縁膜を加工する工程を含み、当該加工された第3の絶縁膜は、前記高次横モードが発生する領域、および前記柱状構造の底面、側面および頂部の周縁を覆う、請求項8ないし10いずれか1つに記載の製造方法。
請求項12は、請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザからの光を入射する光学部材と、を実装した面発光型半導体レーザ装置。
請求項13は、請求項12に記載された面発光型半導体レーザ装置と、前記面発光型半導体レーザ装置から発せられたレーザ光を光媒体を介して伝送する伝送手段と、を備えた光伝送装置。
請求項14は、請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザから出射されるレーザ光を記録媒体に集光する集光手段と、前記集光手段により集光されたレーザ光を前記記録媒体上で走査する機構と、を有する情報処理装置。
【発明の効果】
【0006】
請求項1、8によれば、第1ないし第3の絶縁膜の高次横モード抑制層を持たない構成の面発光型半導体レーザと比較して、高次横モード発振を抑制することができる。
請求項2によれば、第2および第3の絶縁膜の基本横モード促進層を持たない構成の面発光型半導体レーザと比較して、基本横モード発振を促進することができる。
請求項3、9によれば、効果的に高次横モード発振を抑制することができる。
請求項4、10によれば、高次横モード発振で発生する光と基本横モード発振で発生する光の位相差を抑制することができる。
請求項5によれば、電流狭窄層の導電領域の径D1を大きくすることができる。
請求項6、11によれば、第3の絶縁膜を、高次横モード抑制層と柱状構造の保護の双方に利用することができる。
請求項7によれば、高出力の基本横モードの光を得ることができる。
請求項12ないし14によれば、高出力の基本横モード発振された面発光型半導体レーザを利用した面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(A)は、本発明の第1の実施例に係る面発光型半導体レーザの概略断面図、図1(B)は、高次横モード抑制層と電流狭窄層の大きさD0、D1の関係を説明する図である。
図2】本発明の第1の実施例の反射率と比較構造の反射率の一例を示す表である。
図2A】従来例1の面発光型半導体レーザの構成を示す断面図である。
図2B】従来例2の面発光型半導体レーザの構成を示す断面図である。
図3】本発明の第2の実施例に係る面発光型半導体レーザの概略断面図である。
図4】本発明の第2の実施例の面発光型半導体レーザの製造工程を説明する概略断面図である。
図5】本発明の第2の実施例の面発光型半導体レーザの製造工程を説明する概略断面図である。
図6】本発明の第2の実施例の面発光型半導体レーザの他の製造工程を説明する概略断面図である。
図7】本実施例の面発光型半導体レーザに光学部材を実装した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す概略断面図である。
図8】本実施例の面発光型半導体レーザを使用した光源装置の構成例を示す図である。
図9図7(A)に示す面発光型半導体レーザ装置を用いた光伝送装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
今後は、プリンターや画像形成装置等のさらなる高速化に向けて、基本横モードによる高出力の面発光型半導体レーザが求められている。従来の酸化狭窄型構造の面発光型半導体レーザにおいて基本横モードを得るためには酸化アパーチャを2〜3μm程度にまで小さくする必要がある。しかし、この酸化アパーチャ径では、3mW以上の基本横モード出力を安定的に得ることが難しい。他方、酸化アパーチャ径をさらに大きくすると高出力化は可能になるが、マルチモード発振となってしまう。酸化アパーチャ径を広げても基本横モードを維持する技術として、出射面に絶縁膜を設けて高次横モード発振を抑制する技術が有望である。
【0009】
具体的には、高次横モードが発生する領域の反射率が基本横モードの反射率よりも小さくなるように出射面に構造物(絶縁膜または誘電体膜)を作製することで、基本横モードと高次横モード間の反射率差を生じさせ、高次横モード発振を抑制して基本モード発振の高出力化を可能にする。しかし、面発光型半導体レーザの反射率は、DBR構造によりほとんど決まってしまうため、出射面上の絶縁膜で高次横モードを抑制する構造を作製しても、基本横モードと高次横モード間で大きな反射率差を得ることが難しく、高次横モードを抑制する効果が十分でないと、酸化アパーチャを大きくして高出力化を図れることができない。また、大きな反射率差を得ることができたとしても、バラツキの大きいプロセスであると、安定して高次横モードを抑制することが難しくなる。
【0010】
以下の説明では、酸化狭窄構造の面発光型半導体レーザを例示し、面発光型半導体レーザをVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)と称する。なお、図面のスケールは、発明の特徴を分かり易くするために強調しており、必ずしも実際のデバイスのスケールと同一ではないことに留意すべきである。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の第1の実施例に係るVCSELの概略断面図である。同図に示すように、本実施例のVCSEL10は、n型のGaAs基板100上に、Al組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたn型の下部分布ブラック型反射鏡(Distributed Bragg Reflector:以下、DBRという)102、下部DBR102上に形成された、上部および下部スペーサ層に挟まれた量子井戸層を含む活性領域104、活性領域104上に形成されたAl組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたp型の上部DBR106を含んで構成される。
【0012】
n型の下部DBR102は、例えば、Al0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層とのペアの複数層積層体で、各層の厚さはλ/4n(但し、λは発振波長、nは媒質の屈折率)であり、これらを交互に40周期で積層している。n型不純物であるシリコンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。
【0013】
活性領域104の下部スペーサ層は、アンドープのAl0.6Ga0.4As層であり、量子井戸活性層は、アンドープAl0.11Ga0.89As量子井戸層およびアンドープのAl0.3Ga0.7As障壁層であり、上部スペーサ層は、アンドープのAl0.6Ga0.4As層である。
【0014】
p型の上部DBR106は、例えば、Al0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層とのペアの複数層積層体で、各層の厚さはλ/4nであり、これらを交互に22周期積層してある。p型不純物であるカーボンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。また、上部DBR106の最上層には、p型のGaAsからなるコンタクト層106Aが形成され、上部DBR106の内部には、p型のAlAsまたはAlGaAsからなる電流狭窄層108が形成される。電流狭窄層108は、活性領域104に近接することが好ましく、上部DBR106の最下層に形成されるようにしてもよい。
【0015】
上部DBR106から下部DBR102の一部に至る半導体層をエッチングすることにより、基板100上に円筒状のメサ(柱状構造)Mが形成される。電流狭窄層108は、メサMの側面で露出され、当該側面から選択的に酸化された酸化領域108Aと酸化領域108Aによって囲まれた導電領域(酸化アパーチャ)108Bとを有する。電流狭窄層108の酸化工程において、AlAs層の酸化速度は、DBRのAlGaAs層よりも速く、メサMの側面から内部に向けてほぼ一定の速度で酸化が進行する。このため、導電領域108Bの基板100の主面と平行な面内の平面形状は、メサMの外形を反映した円形状となり、その中心は、メサMの軸方向の中心、すなわち光軸と一致する。導電領域108Bの径D1は、高次横モード発振が生じる大きさであることができ、例えば、780nmの波長帯で、5ミクロンまたはそれ以上である。
【0016】
メサMの頂部には、金属製の環状のp側電極110が形成される。p側電極110は、例えば、AuまたはTi/Auなどを積層した金属から構成され、上部DBR106のコンタクト層106Aにオーミック接続される。p側電極110の中央には、円形状の開口が形成され、当該開口は、光出射口110Aを規定する。光出射口110Aの径は、導電領域108Bの径よりも大きく、光出射口110Aの中心は、導電領域108Bの中心とほぼ一致する。メサMの底面、側面および頂部の周縁を覆うように層間絶縁膜112が形成される。p側電極110は、図示しない引き出し配線を介して電極パッドに接続される。
【0017】
p側電極110の光出射口110Aによって露出された出射面上には、絶縁膜もしくは誘電体膜の多層構造からなる環状の高次横モード抑制層120が形成される。高次横モード抑制層120は、第1の絶縁膜121、第2の絶縁膜122、第3の絶縁膜123を含んで構成される。
【0018】
第1の絶縁膜121は、発振波長の光を透過可能な屈折率nの材料から構成され、第1の絶縁膜121の膜厚は、発振波長λの1/4の奇数倍、つまり(2a−1)λ/4n(aは自然数、λは発光波長、nは屈折率)である。第1の絶縁膜121は、例えば、SiON、SiO、SiN、TiOなどの材料から構成される。図示する例では、第1の絶縁膜112の外径は、p側電極110上に延在するように光出射口110Aよりも大きいが、この外径は、光出射口110Aと同一であってもよい。
【0019】
第1の絶縁膜121上には、発振波長の光を透過可能な屈折率nの材料から構成された第2の絶縁膜122が形成される。好ましい例では、第2の絶縁膜122は、第1の絶縁膜121と同一形状にパターニングされる。第2の絶縁膜122の屈折率nは、第1の絶縁膜121の屈折率nよりも小さく、また第2の絶縁膜122の膜厚は、発振波長λの1/4の奇数倍、つまり(2b−1)λ/4n(bは自然数、nは屈折率、n<n)である。第2の絶縁膜122は、例えば、SiON、SiO、SiN、TiOなどの材料から構成される。
【0020】
第2の絶縁膜122上には、発振波長の光を透過可能な屈折率nの材料から構成された第3の絶縁膜123が形成される。好ましい例では、第3の絶縁膜123は、第1の絶縁膜121と同一形状にパターニングされる。第3の絶縁膜123の屈折率nは、第2の絶縁膜122の屈折率nよりも大きく、また第3の絶縁膜123の膜厚は、発振波長λの1/4の奇数倍、つまり(2c−1)λ/4n(cは自然数、nは屈折率、n<n)である。第3の絶縁膜122は、例えば、SiON、SiO、SiN、TiOなどの材料から構成される。
【0021】
好ましい態様では、層間絶縁膜112は、第3の絶縁膜123と同一材料で構成され、第3の絶縁膜123と層間絶縁膜112は、同時にパターンニングされる。
【0022】
高次横モード抑制層120の内径D0は、基本横モードのレーザ光が発生される領域に対応する。好ましくは、高次横モード抑制層120の内径D0は、図1(B)に示すように電流狭窄層108の導電領域D1の径よりも小さく、基本横モードの周辺に発生する高次横モードを効果的に抑制する。出射面(コンタクト層106A)上に、第1ないし第3の絶縁膜121、122、123の積層構造の高次横モード抑制層120を形成することにより、光軸近傍の高次横モードが発生する領域の反射率を大幅に低下させることがでる。
【0023】
好ましい例では、第1の絶縁膜121は、SiN(n=1.92)、第2の絶縁膜122は、SiON(n=1.57)、第3の絶縁膜123は、SiN(n=1.92)である。このときの高次横モード抑制層120を含む上部DBR106の反射率の理論計算値は、図2に示すように97.2%である。他方、このような高次横モード抑制層120を形成しないときの上部DBR106の反射率は、99.5%であり、反射率を約2%以上も小さくすることができる。言い換えれば、基本横モードが発生する領域(内径D0)と高次横モードが発生する領域の反射率差を2.3%にすることができる。また、他の比較例として、高次横モード抑制層の代わりに単一の絶縁膜(SiNを膜厚0.1μm)を形成したときの反射率は、98.1%である。
【0024】
導電領域(酸化アパーチャ)108Bの径D1をより大きくすれば、高出力のレーザ発振を得ることができるが、同時に高次横モードの発振の強度も大きくなる。本実施例の高次横モード抑制層120は、従来と比較して大幅に反射率を低下させることができるので、高次横モードの抑制効果がより顕著であり、それ故、導電領域108Bの径D1を大きくしても、よりガウシアン分布に近い単峰性の高出力の基本横モード発振を得ることができる。
【0025】
上記の実施例では、第1、第2、第3の絶縁膜121〜123を1組とする高次横モード抑制層120を形成したが、これに限らず、第1ないし第3の絶縁膜121〜123の組を複数組積層した高次横モード抑制層を形成するようにしてもよい。この場合には、上部DBR106を含む共振器部分の反射率をさらに低下させることができる。
【0026】
図2Aは、従来例1(特開2001−156395号)のVCSELの構成を示す断面図である。従来例1のVCSELは、出射面の一部に、単層の誘電体膜8Aを形成し、誘電体膜8Aの膜厚を発振波長の(2i+1)/4n倍(nは誘電体膜の屈折率、iは整数)にすることで、誘電体膜8Aが形成されている領域の反射率を下げ、モード制御を行っている。しかし、従来例1のVCSELでは、誘電体膜8Aは単層であり、誘電体膜8Aのある領域と無い領域の反射率差は、約0.8%であり、本実施例のVCSELのように大きな反射率差を得ることができない。
【0027】
図2Bは、従来例2(特開2006−210429号)のVCSELの構成を示す断面図である。従来例2のVCSELは、p側コンタクト層16の一部をエッチングして開口部を形成し、その中央領域23Aに、第1絶縁膜17および第2絶縁膜18を形成し、周辺領域23Bに第3絶縁膜19を形成することで、周辺領域の反射率R2を下げるものである。従来例2では、p側コンタクト層16をエッチングした後に絶縁膜構造を形成するため、p側コンタクト層16を精度良くエッチングしなければならない。しかし、エッチングを精度良く行なうことは難しく、エッチング量がばらつくことで反射率のばらつきに影響し、その結果、モード制御にもばらつきが生じる。これに対し、本実施例のVCSELは、コンタクト層106Aをエッチングすることなくその上に多層構造の絶縁膜を形成するので、従来例2のように反射率等のバラツキを生じさせない。さらに、従来例2では、周辺領域23Bには単層の第3絶縁膜19を形成するものであり、本実施例のように多層構造の絶縁膜を用いて反射率を十分に低下させるものではない。
【0028】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図3は、第2の実施例のVCSEL10Aの概略断面図である。第1の実施例は、主に高次横モードを抑制するものであるが、第2の実施例は、高次横モードの抑制に加えて基本横モードの促進を同時に行うものである。なお、第2の実施例における第1、第2、第3の絶縁膜131、132、133は、第1の実施例のときの第1、第2、第3の絶縁膜121、122、123と同様の構成を有する。
【0029】
第2の実施例のVCSEL10Aでは、図3に示すように、光出射口110Aの全体を覆うように反射率調整層130が形成される。反射率調整層130は、第1の実施例のときの高次横モード抑制層120と、その内側の基本横モード促進層とを含む。すなわち、反射率調整層130は、高次横モード発振が生じる領域に、第1の実施例のときと同様に、第1の絶縁膜131、第2の絶縁膜132、第3の絶縁膜133の3層構造の高次横モード抑制層を含み、その内側の基本横モード発振が生じる領域に、第2の絶縁膜132と第3の絶縁膜133の2層構造の基本横モード促進層とを含む。但し、第1の実施例のときと異なり、第1の絶縁膜131のみが環状に形成され、光出射口110Aを露出させている。そして、基本横モード発振が生じる領域には、高次横モード抑制層から第2の絶縁膜132および第3の絶縁膜133が延在されている。光出射口110A上に、屈折率n、λ/4の奇数倍の光学膜厚を有する第2の絶縁膜132と、屈折率n、λ/4の奇数倍の光学膜厚を有する第3の絶縁膜133とを積層することにより、基本横モードが発生する領域の反射率は、第2の絶縁膜132および第3の絶縁膜133を積層しないときと比較して高くなる。
【0030】
第2の実施例では、光出射面上に多層膜構造の反射率調整層130を形成することで、高次横モード発振が生じる領域の反射率を低下させつつ、基本横モード発振が生じる領域の反射率を増加させ、その結果、両者の反射率差を第1の実施例のときよりも大きくすることができる。これにより、ガウシアン分布に近い単峰性でありかつ高出力の基本横モード光を得ることができる。
【0031】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。基本横モードで発生する光と高次横モードで発生する光の位相差によって、基本横モードの裾野部分に高次横モードによる光が発生し、ビーム径の周辺に回折パターンが生じ得る。そこで、第3の実施例では、高次横モード抑制層120または反射率調整層130の膜厚を最適化することで、基本横モードと高次横モードの位相差を抑制し、基本横モードをよりガウシアン分布に近づけ、ビーム径の外周に発生し得る回折パターンの発生を防止する。
【0032】
第3の実施例の好ましい例では、第1の絶縁膜121、131の膜厚h1を、空気の屈折率をnとして以下の関係式を満たす膜厚にする。
【数2】
第1、第2の実施例において位相差を解消するための理論値は、0.85μmである。第1の絶縁膜121、131の膜厚を、λ×9/4=0.91μmにすることで、理論値に近似された最適値となり得る。これにより、高次横モードと基本横モードが発生する領域の反射率差を大きくしつつ、基本横モードと高次横モードの位相差を抑制し、ガウシアン分布に近い高出力の基本横モード光を得ることができる。
【0033】
次に、本発明の第2の実施例に係るVCSEL10Aの製造方法について図4および図5を参照して説明する。先ず、有機金属気相成長(MOCVD)法により、n型GaAs基板100上に、キャリア濃度3×1018cm-3のAl0.9Ga0.1AsとAl0.3Ga0.7Asとをそれぞれの膜厚が媒質内波長の1/4となるように交互に40周期積層したn型の下部DBR102、アンドープのAl0.6Ga0.4Asの下部スペーサ層、アンドープAl0.11Ga0.89As量子井戸層およびアンドープのAl0.3Ga0.7As障壁層、アンドープのAl0.6Ga0.4Asの上部スペーサ層で構成された活性領域104、キャリア濃度が3×1018cm-3のp型のAl0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層とをそれぞれの膜厚が媒質内波長の1/4となるように交互に22周期積層したp型の上部DBR106が積層される。上部DBR106の最上層には、キャリア濃度1×1019cm-3のp型GaAsコンタクト層106Aが形成され、上部DBR106の最下層もしくはその内部には、p型AlAs層108が形成される。ここでは例示しないが、基板100と下部DBR102の間に、バッファ層などを介在させてもよい。
【0034】
次いで、公知のフォトリソ工程により、図4(A)に示すように基板100上にメサMがRIE等のエッチングにより形成され、次いで、酸化工程によりメサM内の電流狭窄層108内に酸化領域108Aが形成される。導電領域108Bの径D1は、例えば5μmまたはそれ以上である。次に、コンタクト層106A上にレジストパターンが形成され、リフトオフ工程により、コンタクト層106A上にAu/Tiからなる環状のp側電極110が形成される。
【0035】
次に、図4(B)に示すように、CVDによりメサMを含む基板全面に第1の絶縁膜131が形成される。第1の絶縁膜131の膜厚は、例えば、λ/4である。次に、図4(C)に示すように、図示しないマスクパターンを用いて第1の絶縁膜131がエッチングによりパターニングされる。第1の絶縁膜131は、上記したように、光出射面であるコンタクト層106Aを露出するように内径D0を有する環状にパターンニングされる。このとき、第1の絶縁膜131の内径D0は、電流狭窄層108の導電領域108Bの径D1よりも小さい。また、第1の絶縁膜131のエッチングは、半導体層(GaAsコンタクト層106A)のエッチング量の選択比の大きいエッチング方式、例えばBHF(バッファードフッ酸)によるウェットエッチング、フッ素系混合ガスによるドライエッチングによって行われる。ここではメサM形成後に第1の絶縁膜131を形成しパターニングしたが、メサM形成前に第1の絶縁膜131を形成しパターニングしても良い。
【0036】
次に、図5(D)に示すように、CVDによりメサMを含む基板全面に第2の絶縁膜132が形成される。第2の絶縁膜132の膜厚は、λ/4の奇数倍であり、第1の絶縁膜131によって露出された光出射面を覆う。次に、図5(E)に示すように、図示しないマスクパターンを用いて第2の絶縁膜132が円形パターンにエッチングされる。第2の絶縁膜132も第1の絶縁膜131と同様に、メサM形成前に第2の絶縁膜132を形成しパターニングしても良い。
【0037】
次に、図5(F)に示すように、CVDにより第3の絶縁膜133がメサMを含む基板全面に形成される。第3の絶縁膜133の膜厚は、λ/4の奇数倍である。次に、図示しないマスクパターンを用いて第3の絶縁膜133がエッチングされ、図2に示すように、第2の絶縁膜132上に第3の絶縁膜133が形成されるとともに、メサMの頂部の周縁、側面および底面を覆うように層間絶縁膜112が形成される。
【0038】
なお、上記の製造工程では、第2の絶縁膜132を円形パターンに加工した後に第3の絶縁膜133を形成する例を示したが、これ以外にも図6(A)に示すように、第2の絶縁膜132を形成し、次いで第3の絶縁膜133を形成し、その後、図6(B)に示すように第2および第3の絶縁膜132、133を同時にエッチングにより加工するようにしてもよい。この場合、層間絶縁膜112は、第2の絶縁膜132と第3の絶縁膜133の積層構造になる。第2の絶縁膜132の形成に引き続いて第3の絶縁膜133を着膜するだけで、出射口内に反射率を上げる領域と下げる領域を作製することができるため、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0039】
上記実施例では、GaAs、AlAs、AlGaAsの半導体材料を用いたGaAs系のVCSELを例示したが、本発明は、他のIII−V族の化合物半導体を用いたVCSELにも適用することができる。また、上記実施例では、n側電極を基板裏面に形成したが、これに限らず、n側電極をp側電極と同じ側に形成するようにしてもよい。さらに上記実施例では、シングルスポットのVCSELを例示したが、基板上に多数のメサ(発光部)が形成されたマルチスポットのVCSELあるいはVCSELアレイであってもよい。
【0040】
次に、本実施例のVCSELを利用した面発光型半導体レーザ装置、光情報処理装置および光伝送装置について図面を参照して説明する。図7(A)は、VCSELと光学部材を実装(パッケージ)した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す断面図である。面発光型半導体レーザ装置300は、VCSELが形成されたチップ310を、導電性接着剤320を介して円盤状の金属ステム330上に固定する。導電性のリード340、342は、ステム330に形成された貫通孔(図示省略)内に挿入され、一方のリード340は、VCSELのn側電極に電気的に接続され、他方のリード342は、p側電極に電気的に接続される。
【0041】
チップ310を含むステム330上に矩形状の中空のキャップ350が固定され、キャップ350の中央の開口352内に光学部材のボールレンズ360が固定されている。ボールレンズ360の光軸は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。リード340、342間に順方向の電圧が印加されると、チップ310から垂直方向にレーザ光が出射される。チップ310とボールレンズ360との距離は、チップ310からのレーザ光の広がり角θ内にボールレンズ360が含まれるように調整される。また、キャップ内に、VCSELの発光状態をモニターするための受光素子や温度センサを含ませるようにしてもよい。
【0042】
図7(B)は、他の面発光型半導体レーザ装置の構成を示す図であり、同図に示す面発光型半導体レーザ装置302は、ボールレンズ360を用いる代わりに、キャップ350の中央の開口352内に平板ガラス362を固定している。平板ガラス362の中心は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。チップ310と平板ガラス362との距離は、平板ガラス362の開口径がチップ310からのレーザ光の広がり角度θ以上になるように調整される。
【0043】
図8は、VCSELを光情報処理装置の光源に適用した例を示す図である。光情報処理装置370は、図7(A)または図7(B)のようにVCSELを実装した面発光型半導体レーザ装置300または302からのレーザ光を入射するコリメータレンズ372、一定の速度で回転し、コリメータレンズ372からの光線束を一定の広がり角で反射するポリゴンミラー374、ポリゴンミラー374からのレーザ光を入射し反射ミラー378を照射するfθレンズ376、ライン状の反射ミラー378、反射ミラー378からの反射光に基づき潜像を形成する感光体ドラム(記録媒体)380を備えている。このように、VCSELからのレーザ光を感光体ドラム上に集光する光学系と、集光されたレーザ光を光体ドラム上で走査する機構とを備えた複写機やプリンタなど、光情報処理装置の光源として利用することができる。
【0044】
図9は、図7(A)に示す面発光型半導体レーザ装置を光伝送装置に適用したときの構成を示す断面図である。光伝送装置400は、ステム330に固定された円筒状の筐体410、筐体410の端面に一体に形成されたスリーブ420、スリーブ420の開口422内に保持されるフェルール430、およびフェルール430によって保持される光ファイバ440を含んで構成される。ステム330の円周方向に形成されたフランジ332には、筐体410の端部が固定される。フェルール430は、スリーブ420の開口422に正確に位置決めされ、光ファイバ440の光軸がボールレンズ360の光軸に整合される。フェルール430の貫通孔432内に光ファイバ440の芯線が保持されている。
【0045】
チップ310の表面から出射されたレーザ光は、ボールレンズ360によって集光され、集光された光は、光ファイバ440の芯線に入射され、送信される。上記例ではボールレンズ360を用いているが、これ以外にも両凸レンズや平凸レンズ等の他のレンズを用いることができる。さらに、光伝送装置400は、リード340、342に電気信号を印加するための駆動回路を含むものであってもよい。さらに、光伝送装置400は、光ファイバ440を介して光信号を受信するための受信機能を含むものであってもよい。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10、10A:VCSEL
100:基板
102:下部DBR
104:活性領域
106:上部DBR
106A:コンタクト層
108:電流狭窄層
108A:酸化領域
108B:導電領域
110:p側電極
110A:光出射口
120:高次横モード抑制層
121、131:第1の絶縁膜
122、132:第2の絶縁膜
123、133:第3の絶縁膜
130:反射率調整層
図1
図2
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9