特許第6015275号(P6015275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015275
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】抵抗溶接装置および抵抗溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/25 20060101AFI20161013BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B23K11/25 511
   B23K11/11 510
   B23K11/25 512
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-204460(P2012-204460)
(22)【出願日】2012年9月18日
(65)【公開番号】特開2014-57979(P2014-57979A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】馬場 直人
(72)【発明者】
【氏名】田子 雅基
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−077323(JP,A)
【文献】 特開平04−358094(JP,A)
【文献】 特開平11−104848(JP,A)
【文献】 特開昭57−011784(JP,A)
【文献】 特開2000−263244(JP,A)
【文献】 特開平09−239556(JP,A)
【文献】 特開平09−196881(JP,A)
【文献】 特開2005−161391(JP,A)
【文献】 特開2006−026667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/25
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた二つのワークに一対の溶接電極から溶接用の電流を流すことにより前記二つのワーク間の抵抗で発熱させ、前記二つのワークを溶接する抵抗溶接装置であって、前記一対の溶接電極間の電圧を電極間電圧として測定する電極間電圧モニタ部と、前記二つのワーク内の通電経路の電圧を通電経路電圧として測定する通電経路電圧モニタ部と、前記一対の溶接電極の端面それぞれの容量値を測定する容量測定部と、前記電極間電圧モニタ部、前記通電経路電圧モニタ部および前記容量測定部の測定結果に基づいて、良好な溶接品質が得られるか否かを溶接動作の実施に先立って事前に判定し、良好な溶接品質が得られないと判定した場合、前記二つのワーク間の溶接を抑止し、溶接が不良になる発生要因を判別する溶接事前判定部と、を少なくとも備えていることを特徴とする抵抗溶接装置。
【請求項2】
重ね合わせた前記二つのワークの一方のワークの表面に、平行に配置した前記一対の溶接電極を平行に押圧して接触させ、前記二つのワークの平面方向に電流を流して溶接を行うパラレルギャップ溶接装置として構成していることを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接装置。
【請求項3】
前記通電経路電圧モニタ部は、前記一対の溶接電極とは別に、前記二つのワークそれぞれに接触させた部位の電位を読み取ることが可能な一対のプローブを備え、前記一対のプローブが、前記一対の溶接電極を挟んで両側に配置され、前記二つのプローブのうち一方のプローブが前記二つのワークの一方のワークに、他方のプローブが前記二つのワークの他方のワークに接触させることが可能な状態に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の抵抗溶接装置。
【請求項4】
前記容量測定部は、前記一対の溶接電極の端面それぞれの容量値の測定用に用いる測定用平板を備え、前記一対の溶接電極を前記測定用平板のあらかじめ定めた位置まで移動させ、前記一対の溶接電極の端面それぞれと前記測定用平板との距離をあらかじめ定めた距離に維持した状態、または、前記一対の溶接電極の端面それぞれと前記測定用平板との間にあらかじめ定めた厚さを有する誘電板を挟んだ状態に設定して、前記一対の溶接電極の端面それぞれと前記測定用平板間の容量値を測定し、測定した容量値とあらかじめ測定していた基準容量値との変化量が、あらかじめ設定した変化量閾値を超えているか否かを判定する機能を備えていることを特徴とする請求項2または3に記載の抵抗溶接装置。
【請求項5】
前記溶接事前判定部は、前記電極間電圧モニタ部が測定した前記電極間電圧から前記一対の溶接電極間の抵抗を全体抵抗として算出し、前記通電経路電圧モニタ部が測定した前記通電経路電圧から前記二つのワーク内の通電経路における抵抗を通電経路抵抗として算出し、前記容量測定部が測定した前記容量値とあらかじめ測定していた基準容量値との変化量を容量値変化量として算出し、算出した前記全体抵抗と前記通電経路抵抗と前記容量値変化量とに基づいて、良好な溶接品質が得られるか否かを判定するとともに、溶接が不良になる発生要因を判別することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の抵抗溶接装置。
【請求項6】
前記溶接事前判定部は、前記全体抵抗があらかじめ設定した第1の規定値以下であった場合には、良好な溶接品質が得られるものと判定して、前記二つのワークの溶接動作の実施を許可し、一方、前記全体抵抗が前記第1の規定値よりも大きく、かつ、前記通電経路抵抗があらかじめ設定した第2の規定値よりも大きい場合には、前記二つのワーク間に接触不良であるものと判定することを特徴とする請求項5に記載の抵抗溶接装置。
【請求項7】
前記溶接事前判定部は、前記全体抵抗が前記第1の規定値よりも大きく、かつ、前記通電経路抵抗があらかじめ設定した第2の規定値以下であり、かつ、前記容量値変化量があらかじめ設定した変化量閾値よりも大きい場合には、前記一対の溶接電極のうち該当する溶接電極の端面に形成された酸化膜の異常または該当する当該溶接電極の端面に付着したゴミがあるものと判定することを特徴とする請求項に記載の抵抗溶接装置。
【請求項8】
前記溶接事前判定部は、前記全体抵抗が前記第1の規定値よりも大きく、かつ、前記通電経路抵抗があらかじめ設定した第2の規定値以下であり、かつ、前記容量値変化量があらかじめ設定した変化量閾値以下であった場合には、前記一対の溶接電極と前記二つのワークの一方のワークとの間の接触不良、または、前記一対の溶接電極のうち該当する溶接電極が接触する前記一方のワークの表面に形成された酸化膜の異常または当該一方のワークの表面に付着したゴミがあるものと判定することを特徴とする請求項6または7に記載の抵抗溶接装置。
【請求項9】
重ね合わせた二つのワークに一対の溶接電極から溶接用の電流を流すことにより前記二つのワーク間の抵抗で発熱させ、前記二つのワークを溶接する抵抗溶接装置による抵抗溶接方法であって、前記一対の溶接電極間の電圧を電極間電圧として測定する電極間電圧モニタステップと、前記二つのワーク内の通電経路の電圧を通電経路電圧として測定する通電経路電圧モニタステップと、前記一対の溶接電極の端面それぞれの容量値を測定する容量測定ステップと、前記電極間電圧モニタステップ、前記通電経路電圧モニタステップおよび前記容量測定ステップにおける測定結果に基づいて、良好な溶接品質が得られるか否かを溶接動作の実施に先立って事前に判定し、良好な溶接品質が得られないと判定した場合、前記二つのワーク間の溶接を抑止し、溶接が不良になる発生要因を判別する溶接事前判定ステップと、を少なくとも有していることを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項10】
前記溶接事前判定ステップは、前記電極間電圧モニタステップにて測定した前記電極間電圧から前記一対の溶接電極間の抵抗を全体抵抗として算出し、前記通電経路電圧モニタステップにて測定した前記通電経路電圧から前記二つのワーク内の通電経路における抵抗を通電経路抵抗として算出し、前記容量測定ステップにて測定した前記容量値とあらかじめ測定していた基準容量値との変化量を容量値変化量として算出し、算出した前記全体抵抗と前記通電経路抵抗と前記容量値変化量とに基づいて、良好な溶接品質が得られるか否かを判定するとともに、溶接が不良になる発生要因を判別することを特徴とする請求項9に記載の抵抗溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接装置および抵抗溶接方法に関し、特に、溶接電極およびワークの状態を事前に測定することにより溶接品質を制御することが可能な抵抗溶接機を実現する抵抗溶接装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の抵抗溶接方法としては、例えば、特許文献1の特公昭61−050709号公報「抵抗溶接制御装置」や特許文献2の特開2012−045569号公報「抵抗溶接方法および抵抗溶接装置」に記載されているような技術がある。
【0003】
前記特許文献1および前記特許文献2には、溶接時の溶接状態をモニタする手段が記載されているが、いずれに記載の技術も、溶接用の電流印加時における溶接電極間の電圧を測定して、そこから計算される溶接電極間の抵抗値を利用して、溶接状態の良否を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭61−050709号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開2012−045569号公報(第5−6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1や前記特許文献2に記載されているように、溶接用の電流印加時における溶接電極間の電圧を測定する方法として、溶接初期の数サイクルの間印加した溶接電流を用いる方法や、溶接電流印加の前に測定用に印加する微小電流を用いる方法が一般的である。
【0006】
ここで、二つのワーク間を抵抗溶接する場合の等価回路を図7の説明図に示している。図7の説明図においては、一対の溶接電極である左電極Lおよび右電極Rを用いてワークaとワークbとを抵抗溶接する場合を示しており、図7に示す各抵抗は次のような意味を有している。
【0007】
(1)接触抵抗R1
一対の溶接電極と二つのワークのうち上側のワークaとが接触する箇所の接触抵抗であり、左接触抵抗R1_Lは、左電極Lとワークaとが接触している箇所の接触抵抗、右接触抵抗R1_Rは、右電極Rとワークaとが接触している箇所の接触抵抗である。
(2)通電経路抵抗R2
抵抗発熱が発生するワーク内の通電経路の抵抗であり、発熱を促し、二つのワーク間の溶融接合すなわちワークaとワークbとの間の溶融接合に寄与する抵抗である。
(3)全体抵抗RT
一対の溶接電極間の抵抗すなわち左電極Lと右電極Rとの間の抵抗であり、接触抵抗R1と通電経路抵抗R2とを加えた次の式(1)により与えられる。
[RT]=[R1_L]+[R1_R]+[R2]
【0008】
なお、図7に示す等価回路は、平行な一対の溶接電極を重ね合わせたワークの表面に平行に配置したパラレルギャップ溶接装置の場合の構成例を示しており、溶接電極との接触面を形成するワークaの上面側と対向するワークbの下面側は、絶縁体が貼り付けられている構成であるか、もしくは、固定用治具の表面に絶縁処理を施しておき、ワークaやワークbから固定用治具への電流パスが存在しない構成であるか、のいずれかの構成になっているものとする。
【0009】
ここで、接触抵抗R1すなわち左接触抵抗R1_L、右接触抵抗R1_Rの抵抗値は、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの電極状態の変化によって変動するものであり、溶接を行った際の溶接電極の端面(先端)に形成される酸化膜の状態変化、溶接を行った際の溶接電極の形状変化、ワークすなわちワークa、ワークbのカスなどの不純物(ゴミ)の付着、溶接電極との接触面を形成するワークaと溶接電極との接触状態の変化などの各種の溶接不良発生要因によって変動する。
【0010】
前記特許文献1や前記特許文献2に記載のような従来の電圧測定技術においては、図7の等価回路に示した全体抵抗RTを算出することが可能な電極間電圧の測定結果が得られるのみであって、全体抵抗RTの内訳となる、二つのワークa、ワークb間の抵抗溶接接合に寄与する通電経路抵抗R2と、その他の変動要因である接触抵抗R1との内訳が不明のままである。このため、溶接接合品質の制御を行うためのパラメータが少なく、溶接品質に問題があることが検出されても、溶接不良の発生要因を判別して正確な対策を講じるということができず、溶接品質の向上を図ることができないという問題がある。
【0011】
(本発明の目的)
本発明の目的は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、実際の溶接動作を実施することに先立って、事前に、溶接品質に問題があるか否かを判定し、溶接品質に問題があると判定した場合に、溶接不良の発生要因を正確に識別して、溶接品質の向上を図ることを可能にする抵抗溶接装置および抵抗溶接方法を提供することを、その目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するため、本発明による抵抗溶接装置および抵抗溶接方法は、主に、次のような特徴的な構成を採用している。
【0013】
(1)本発明による抵抗溶接装置は、重ね合わせた二つのワークに一対の溶接電極から溶接用の電流を流すことにより前記二つのワーク間の抵抗で発熱させ、前記二つのワークを溶接する抵抗溶接装置であって、前記一対の溶接電極間の電圧を電極間電圧として測定する電極間電圧モニタ部と、前記二つのワーク内の通電経路の電圧を通電経路電圧として測定する通電経路電圧モニタ部と、前記一対の溶接電極の端面それぞれの容量値を測定する容量測定部と、前記電極間電圧モニタ部、前記通電経路電圧モニタ部および前記容量測定部の測定結果に基づいて、良好な溶接品質が得られるか否かを溶接動作の実施に先立って事前に判定し、良好な溶接品質が得られないと判定した場合、前記二つのワーク間の溶接を抑止し、溶接が不良になる発生要因を判別する溶接事前判定部と、を少なくとも備えていることを特徴とする。
【0014】
(2)本発明による抵抗溶接方法は、重ね合わせた二つのワークに一対の溶接電極から溶接用の電流を流すことにより前記二つのワーク間の抵抗で発熱させ、前記二つのワークを溶接する抵抗溶接装置による抵抗溶接方法であって、前記一対の溶接電極間の電圧を電極間電圧として測定する電極間電圧モニタステップと、前記二つのワーク内の通電経路の電圧を通電経路電圧として測定する通電経路電圧モニタステップと、前記一対の溶接電極の端面それぞれの容量値を測定する容量測定ステップと、前記電極間電圧モニタステップ、前記通電経路電圧モニタステップおよび前記容量測定ステップにおける測定結果に基づいて、良好な溶接品質が得られるか否かを溶接動作の実施に先立って事前に判定し、良好な溶接品質が得られないと判定した場合、前記二つのワーク間の溶接を抑止し、溶接が不良になる発生要因を判別する溶接事前判定ステップと、を少なくとも有していることを特徴とする。


【発明の効果】
【0015】
本発明の抵抗溶接装置および抵抗溶接方法によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0016】
すなわち、溶接電極とワークとの間の接触不良、二つのワーク間の接触不良、二つのワーク間のゴミの付着、溶接電極端面(先端)の異常の検出、ワーク表面上のゴミの付着のそれぞれを分別して検出することができ、溶接品質の向上を図ることが可能である。その理由は、溶接状態をモニタする手段として、従来技術の同様の溶接電極間の全体抵抗の測定・算出手段に加え、ワーク間の抵抗(通電経路抵抗)の測定・算出手段と、溶接電極端面(先端)の容量値の測定手段および容量値変化量の算出手段を設け、それらの各測定・算出手段を組合せて、溶接状態の判定を総合的に行うことができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る抵抗溶接装置の内部構成の一例を説明するための説明図である。
図2】本発明に係る抵抗溶接装置の内部構成の他の例を説明するための説明図である。
図3】平行平板容量値の測定時において電極高さ合わせを行うための第1の仕組みを説明するための説明図である。
図4】平行平板容量値の測定時において電極高さ合わせを行うための第2の仕組みを説明するための説明図である。
図5A図1図2に示した抵抗溶接装置の動作の一例を説明するためのフローチャートの前半部である。
図5B図1図2に示した抵抗溶接装置の動作の一例を説明するためのフローチャートの後半部である。
図6図1および図2に示した抵抗溶接装置の溶接電極すなわち左電極、右電極の端面(先端)の状態変化の様子を説明するための説明図である。
図7】二つのワーク間のパラレルギャップ溶接を行う場合の等価回路を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による抵抗溶接装置および抵抗溶接方法の好適な実施形態について添付図を参照して説明する。
【0019】
(本発明の特徴)
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の特徴についてその概要をまず説明する。本発明は、二つのワーク間を溶接電極によって抵抗溶接する際に、抵抗溶接時の発熱に寄与する抵抗箇所(すなわち通電経路抵抗)と、ワークと接触する溶接電極の端面(先端)の酸化膜や不純物の付着さらには溶接電極とワークとの接触状態などのその他の変動要因になる接触抵抗とを切り分けて、溶接電極およびワークの状態を詳細にモニタし、そこから得られた情報を溶接行為にフィードバックすることにより、良好な溶接品質を確保することを主要な特徴としている。
【0020】
より具体的には、本発明は、溶接電極およびワーク内通電経路の状態を詳細にモニタするために、以下に示すような仕組みを備えている。
【0021】
(1)第1のモニタ手段
従来技術として図7の等価回路に示した電極間電圧を測定して全体抵抗RTを算出する電極間電圧モニタ回路に加え、さらに、ワーク内の通電経路電圧を測定して通電経路抵抗R2を算出する通電経路電圧モニタ回路を第1のモニタ手段として備える。ここで、通電経路電圧の測定に使用する電流は、従来の溶接電極間電圧を測定する際の電流を用いるので、通電経路の電圧は4端子法による測定になり、ワークに接触するプローブの接触抵抗を排除した測定を行うことができる。
【0022】
(2)第2のモニタ手段
抵抗溶接を実施する前に、溶接電極端面(先端)の酸化膜による形状変化およびゴミの付着を検出するために、溶接電極端面(先端)の容量値を事前に測定する容量測定装置を第2のモニタ手段として備える。抵抗溶接を連続的に実施すると、溶接電極の端面(先端)に形成される酸化膜の状態(厚さや形状)が変化し、さらに、それに加え、溶接時に発生するすす等のゴミが溶接電極の端面(先端)に付着する可能性がある。二つのワーク間の抵抗溶接を実施する前に、ワークと溶接電極との間の容量値を測定して、イニシャル状態の基準容量値と比較することにより、前述のごとき溶接電極端面(先端)の状態変化を検出し、電極端面の状態変化の管理を行うことができる。
【0023】
かくのごとき第1のモニタ手段および第2のモニタ手段を組合せて、実際の抵抗溶接動作の実施に先立って、事前に、溶接電極の二つの電極間における全体抵抗の算出のみならず、ワーク内の通電経路抵抗の算出、溶接電極端面(先端)状態の変化の検出を実施することにより、溶接電極とワークとの間の接触不良、ワーク同士の接触不良、電極端面(先端)の異常(酸化膜もしくはゴミの付着)、電極と接触するワーク上のゴミの付着、二つのワーク間のゴミの付着を、段階的に切り分けて検出することができる。
【0024】
(実施形態の構成例)
次に、本発明に係る抵抗溶接装置の一実施形態について詳細に説明する。まず、第1のモニタ手段として、事前に、一対の溶接電極間の電圧を測定して溶接事前判定部にて全体抵抗Rを算出することができる電極間電圧モニタ回路の他に、さらに、ワーク内の通電経路電圧を測定して溶接事前判定部にて通電経路抵抗Rを算出することができる通電経路電圧モニタ回路を備えている抵抗溶接装置の構成例について、図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る抵抗溶接装置の内部構成の一例を説明するための説明図であり、重ね合わせたワーク(金属)の一表面に平行な一対の溶接電極を平行に押圧させて、ワーク(金属)の平面方向に電流を流して溶接を行うというパラレルギャップ溶接装置の場合を例に採って示している。図1に示す抵抗溶接装置においては、電圧を測定するための第1のモニタ手段として、前述のように、一対の溶接電極間の電圧を測定して溶接事前判定部にて全体抵抗Rを算出することができる電極間電圧モニタ回路と、ワーク内の通電経路電圧を測定して溶接事前判定部にて通電経路抵抗Rを算出することができる通電経路電圧モニタ回路とを備えている場合を示している。
【0025】
図1の説明図において、一対の溶接電極すなわち左電極L、右電極R、二つのワークすなわちワークa、ワークb、左接触抵抗R1_L、右接触抵抗R1_R、全体抵抗RTは、従来技術の説明用として図7に示した説明図の場合と全く同様であり、ここでの重複する説明は省略する。また、図1の説明図においては、電圧を測定するための第1のモニタ手段として、従来技術と同様、全体抵抗RTを算出するために、一対の溶接電極すなわち左電極L、右電極R間の電圧を電極間電圧V1として測定する電極間電圧モニタ回路1に加えて、さらに、重ね合わせた二つのワークの接合に寄与する通電経路抵抗R2を算出するために、ワーク内の通電経路の電圧を通電経路電圧V2として測定する通電経路電圧モニタ回路2を備えた構成としている。
【0026】
ここで、電極間電圧モニタ回路1は、抵抗溶接機10本体に内蔵される通常回路であり、左電極L、右電極Rの一対の溶接電極に対する電流源となる抵抗溶接回路11に並列に接続されている。これに対して、通電経路電圧モニタ回路2には、接触させた部位の電位を読み取ることが可能な一対のプローブすなわち左プローブ21Lと右プローブ21Rとを接続し、一対のプローブは、一対の溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを挟んで両側に配置可能な状態に設置され、一方のプローブ例えば左プローブ21Lの測定端子先端は、下側のワークbの左電極L側の表面に接触するように配置され、他方のプローブ例えば右プローブ21Rの測定端子先端は、上側のワークaの右電極R側の表面に接触するように配置される。
【0027】
左プローブ21Lと右プローブ21Rとによってそれぞれ測定された電位は、通電経路電圧モニタ回路2により、ワークa、ワークbのワーク内の通電経路の電圧として検出される。左プローブ21Lと右プローブ21Rとの配置位置は、一対の溶接電極(左電極L、右電極R)のピッチ方向の延長線上に配置することにより、溶接電極(左電極L、右電極R)からの通電時におけるワーク内の通電経路の電圧をより正確に検出することができる。
【0028】
なお、左電極L、右電極Rの溶接電極の上下動作機構と左プローブ21L、右プローブ21Rのプローブの上下動作機構は、独立した別の機構であり、それぞれ、単独で動作することが可能な構成としている。
【0029】
ワークa、ワークbの実際の溶接動作に先立って、事前に、電極間電圧モニタ回路1により、一対の溶接電極間すなわち左電極L、右電極R間の電圧(電極間電圧)を測定して、溶接事前判定部30により、一対の溶接電極間すなわち左電極L、右電極R間の抵抗(全体抵抗RT)を算出するとともに、通電経路電圧モニタ回路2により、ワークa、ワークbのワーク内の通電経路電圧を測定して、溶接事前判定部30により、ワーク内の通電経路抵抗R2を算出することによって、それぞれの抵抗値が、抵抗溶接の品質が確保可能な値を示しているか否かを、溶接事前判定部30において判定することができる。さらに、溶接事前判定部30は、良好な抵抗溶接品質を確保できないと判定した場合には、溶接動作を抑止するとともに、溶接不良の発生要因を判別して、適切な対策を講じることをユーザに指示することができる。
【0030】
次に、第2のモニタ手段として、一対の溶接電極それぞれとワークとの間の容量を測定して溶接事前判定部にて溶接電極端面(先端)状態の変化を検出することができる容量測定装置を備えている抵抗溶接装置の構成例について、パラレルギャップ溶接装置の場合を例に採って、図2を用いて説明する。図2は、本発明に係る抵抗溶接装置の内部構成の他の例を説明するための説明図であり、溶接電極端面(先端)状態の変化を検出するために、一対の溶接電極それぞれの端面(先端)の状態を測定するために用いる測定用平板4と、一対の溶接電極すなわち左電極L、右電極Rそれぞれと測定用平板4との間の容量を測定する容量測定装置3とを備えている場合を示している。なお、該第2のモニタ手段は、図1に示した第1のモニタ手段と併設して配置する構成とすることも勿論可能である。
【0031】
容量測定装置3の一方の接続端子は、スイッチSWを介して図1に示した抵抗溶接回路11に接続されており、スイッチSWは、容量測定装置3を、抵抗溶接回路11と左電極Lとの接続部位に接続するか、または、抵抗溶接回路11と右電極Rとの接続部位に接続するかを切り替えるためのスイッチング動作を行うことにより、左電極L側、右電極R側それぞれと単独で接続することができる構成とされている。また、容量測定装置3の他方の接続端子は、測定用平板4の裏面側に接続されている。
【0032】
ここで、測定用平板4は、本来のワーク(ワークa、ワークb)表面上の溶接位置とは別の位置に独立して設けられるものであり、溶接事前判定部30の制御により、溶接電極の左電極L、右電極Rを、本来のワーク(ワークa、ワークb)表面上の溶接位置から該測定用平板4表面上のあらかじめ定めた位置まで移動させることが可能である。該測定用平板4の表面側に位置した場合の溶接電極の左電極L、右電極Rそれぞれの端面(先端)は、該測定用平板4の表面からあらかじめ定めた距離dだけ離れた位置に配置され、測定用平板4の表面と溶接電極の左電極L、右電極Rそれぞれの端面(先端)とは、平行平板を形成するように構成されている。溶接電極の左電極L、右電極Rを測定用平板4表面上のあらかじめ定めた位置まで移動させると、溶接事前判定部30の制御により、平行平板を形成する測定用平板4の表面と溶接電極の左電極L、右電極Rそれぞれの端面(先端)との間の容量値を容量測定装置3によって測定して、溶接事前判定部30において、該容量値の測定結果の変化に基づいて、溶接電極の左電極L、右電極Rそれぞれの端面(先端)における酸化膜やゴミの付着等の電極端面の状態変化を検出することができる。
【0033】
つまり、平行平板を形成する測定用平板4の表面と溶接電極の左電極L、右電極Rそれぞれの端面(先端)との間の容量値すなわち平行平板容量値Cは、次の式(1)として与えられる。
C=ε0×ε×S/d …(1)
ここで、ε0:真空の誘電率
ε:誘電体の比誘電率
S:平行平板電極面積
d:平行平板間距離
【0034】
平行平板電極面積Sは、平行平板を形成する溶接電極の左電極L、右電極Rそれぞれの端面(先端)の面積であり、その変化分は、式(1)に示すように、平行平板容量値Cの変化分と等しくなり、平行平板間距離dは、平行平板を形成する溶接電極の左電極L、右電極Rそれぞれの端面(先端)と測定用平板4との間の距離であり、その変化分は、式(1)に示すように、平行平板容量値Cの変化分の逆数と等しくなる。
【0035】
ここで、平行平板電極面積Sおよび平行平板間距離dの変化を精度良く検出するためには、平行平板容量値Cの測定時における電極高さ、すなわち、溶接電極の左電極L、右電極Rの端面(先端)が測定用平板4の表面側に配置される高さを、毎回、同一の高さに正確に合わせることが必要である。
【0036】
以下に、電極高さ合わせの具体的な仕組みについて2つの実施例を説明する。まず、電極高さ合わせの第1の仕組みについて、図3を用いて説明する。図3は、平行平板容量値Cの測定時において電極高さ合わせを行うための第1の仕組みを説明するための説明図である。
【0037】
図3の説明図に示すように、第1の仕組みにおいては、平行平板を形成する溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの高さを検出する高さ検出装置5を配置するとともに、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの高さを調整するための高さ調整機構6を溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを保持する溶接ヘッド7に備えている。
【0038】
図3に示す電極高さ合わせの第1の仕組みにおいては、まず、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)を測定用平板4の表面に押し付けて、その時の溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの高さを高さ合わせの基準位置とし、次に、高さ検出装置5により溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの高さをモニタしながら、高さ調整機構6を制御して、前記基準位置から溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを引き上げて、電極高さ合わせ用の位置としてあらかじめ定めた高さまで上昇させることによって、電極高さを調整する。この結果、平行平板容量値Cの測定時には、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)の測定用平板4からの高さを、毎回、同一の高さに位置するように調整することができる。
【0039】
なお、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)と測定用平板4との間の誘電体は、後述の第2の仕組みの場合とは異なり、図3に示すように、空気である。また、高さ検出装置5は、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの高さを精度良く検出するために、例えば、レーザ変位計による高さの検出機構として備えるようにしても良い。
【0040】
次に、電極高さ合わせの第2の仕組みについて、図4を用いて説明する。図4は、平行平板容量値Cの測定時において電極高さ合わせを行うための第2の仕組みを説明するための説明図である。
【0041】
図4の説明図に示すように、第2の仕組みにおいては、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)と測定用平板4との間の誘電体として、第1の仕組みの場合とは異なり、あらかじめ定めた厚さを有し、かつ、面精度が高い誘電板8を挿入し、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)を誘電板8に押し当てることによって、平行平板容量値Cの測定時には、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)の測定用平板4からの高さを、毎回、同一の高さに位置するように簡単に調整することができる。
【0042】
ここで、図4に示す電極高さ合わせの第2の仕組みにおいては、比誘電率がより高い誘電板8を挟むことによって、平行平板容量値Cの絶対値を大きい値にすることができ、平行平板容量値Cの変化の検出をより容易に行うことが可能になる。また、誘電板8の厚さは薄いほど、平行平板容量値Cの絶対値が大きくなり、平行平板容量値Cの変化の検出をより容易に行うことが可能になる。
【0043】
なお、図2の説明において式(1)を用いて説明した平行平板電極面積Sの変化の検出に関しては、測定用平板4の大きさを、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)の面積に対して十分に大きいサイズとすることによって、酸化膜やゴミ等の付着による平行平板電極面積Sが変化した場合であっても、測定用平板4とのX,Y方向の位置ずれによる容量値の変化を吸収することができるので、酸化膜やゴミ等の付着による平行平板電極面積Sの変化を確実に検出することができ、さらに、溶接電極すなわち左電極L、右電極RのX,Y方向の測定位置の位置精度が粗くても構わないようにすることもできる。
【0044】
(実施形態の動作の説明)
次に、本発明に係る抵抗溶接装置の一実施形態として図1図2に示した抵抗溶接装置の動作の一例について、図5A及び図5Bで示すフローチャートを用いて詳細に説明する。図5Aはそのフローチャートの前半部であり、図5Bはそのフローチャートの後半部である。図5A及び図5Bのフローチャートは、図1図2に示した抵抗溶接装置の動作の一例を示している。このフローチャートは、図1に示した第1のモニタ手段と図2に示した第2のモニタ手段との双方を備えた構成において、二つのワーク(ワークa、ワークb)間の実際の溶接動作に先立って、溶接事前判定部30において、事前に、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの状態およびワーク内の通電経路の状態を検出して、溶接動作の可否を判定し、溶接品質が不良になると判定した場合には、溶接不良の発生要因を識別するという手順の一例を示している。
【0045】
図5A及び図5Bのフローチャートにおいて、まず、ワーク内の通電経路電圧測定用のプローブすなわち左プローブ21L、右プローブ21Rを降下させて、左プローブ21Lを下側のワークbの表面に、また、右プローブ21Rを上側のワークaの表面に接触させることによって、通電経路電圧測定用のプローブとワークとを接触させて、ワーク内の通電経路の電圧測定が可能な状態に設定する(ステップS1)。
【0046】
次に、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rをワークaの表面上に降下させて、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rとワークaとを接触させ、通常溶接時と同じ荷重を印加する(ステップS2)。この際、荷重印加後も、プローブすなわち左プローブ21L、右プローブ21Rのワークすなわちワークb、ワークaとの接触状態が変わらないように、ワークすなわちワークa、ワークbの表面状態にダメージを与えない範囲で、プローブすなわち左プローブ21L、右プローブ21Rの降下時の高さ設定を事前に調整しておく。
【0047】
次に、図1に示したように、電圧測定用電流Iを抵抗溶接回路11から発生させて、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rに印加することにより(ステップS3)、電極間電圧モニタ回路1によって電極間電圧V1を測定し、通電経路電圧モニタ回路2によってワーク内の通電経路電圧V2を測定することによって、電極間の全体抵抗RTおよびワーク内の通電経路抵抗R2の各抵抗値を算出する(ステップS4)。
【0048】
電極間電圧モニタ回路1によって電極間電圧V1より算出された全体抵抗RTの抵抗値があらかじめ設定された第1の規定値以下であった場合には(ステップS5のYes)、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの状態およびワーク内の通電経路の状態が溶接に適した状態であると判断することができるので、通電経路電圧測定用プローブすなわち左プローブ21L、右プローブ21Rを上昇させて、ワークすなわちワークb、ワークaとの接触がない状態に設定した後(ステップS6)、重ね合わせた二つのワークすなわちワークa、ワークb間の通常溶接を実施し(ステップS7)、溶接が終了した時点で、荷重を開放させるとともに、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを上昇させて、ワークaとの接触がない状態に移行する(ステップS8)。
【0049】
これに対して、電極間電圧モニタ回路1によって電極間電圧V1より算出された全体抵抗RTの抵抗値があらかじめ設定された第1の規定値を超えた場合には(ステップS5のNo)、通電経路電圧モニタ回路2によって通電経路電圧V2より算出された通電経路抵抗R2の抵抗値があらかじめ設定された第2の規定値以下であるか否かの判定を行う(ステップS9)。
【0050】
ここで、通電経路抵抗R2の抵抗値があらかじめ設定された第2の規定値を超えていた場合には(ステップS9のNo)、全体抵抗RTの抵抗値が前記第1の規定値よりも大で、かつ、通電経路抵抗R2の抵抗値が前記第2の規定値よりも大となっているので、ワーク内の通電経路の抵抗の不良(つまりワークaとワークbとの接触不良)と判定することができる。したがって、かかる場合には、一旦、通電経路電圧測定用プローブすなわち左プローブ21L、右プローブ21Rを上昇させて、ワークすなわちワークb、ワークaとの接触がない状態に設定するとともに(ステップS11)、荷重を開放させるとともに、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを上昇させて、ワークaとの接触がない状態に移行する(ステップS12)。
【0051】
しかる後、通電経路抵抗R2の抵抗値が前記第2の規定値よりも大きいことを検出した検出回数が、あらかじめ設定された第3の規定値以下か否かを判定し(ステップS13)、検出回数が該第3の規定値以下であった場合には(ステップS13のYes)、ステップS1に復帰して、再度、溶接動作を開始する。つまり、荷重開放および再荷重の動作を行うことにより、ワークaとワークbとの接触状態が変化するため、全体抵抗RTの改善(全体抵抗RTの抵抗値が前記第1の規定値以下になる状況)や通電経路抵抗R2の改善を期待することができるので、ステップS1に復帰して、溶接動作を繰り返す。
【0052】
しかし、検出回数が前記第3の規定値を超えてしまった場合には(ステップS13のNo)、荷重開放および再荷重の動作を繰り返し行っても、全体抵抗RTの改善や通電経路抵抗R2の改善を図ることができなく、同様の状況が繰り返される場合であり、ワークaとワークbとの間にゴミなどの付着物が介在する可能性が考えられるので、双方のワークすなわちワークa、ワークbの接触面の清掃を行うことにし(ステップS14)、しかる後、ステップS1に復帰して、再度、溶接動作を開始する。
【0053】
また、ステップS9において、通電経路抵抗R2の抵抗値があらかじめ設定された第2の規定値以下であった場合には(ステップS9のYes)、全体抵抗RTの抵抗値が前記第1の規定値よりも大で、かつ、通電経路抵抗R2の抵抗値が前記第2の規定値以下になっているので、溶接電極すなわち左電極L、右電極R側の異常と判定することができる。かくのごとき溶接電極側の異常としては、溶接電極とワークaとの接触抵抗の不良もしくは溶接電極端面(先端)の酸化膜が異常に厚くなったことによる抵抗値の増大のいずれかの異常が想定される。したがって、前述の二つの異常(溶接電極とワークaとの接触抵抗の不良か、または、溶接電極端面(先端)の酸化膜が厚くなったことによる抵抗値の増大か)の切り分けを行うために、以下に示す切り分け動作を行う。
【0054】
まず、通電経路電圧測定用プローブすなわち左プローブ21L、右プローブ21Rを上昇させて、ワークすなわちワークb、ワークaとの接触がない状態に設定する(ステップS10)。
【0055】
次に、荷重を開放させるとともに、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを上昇させて、ワークaとの接触がない状態に移行させた後、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを、溶接電極端面(先端)の酸化膜の厚さを測定するために、図2に示したような平行平板容量値C測定用の測定用平板4上に移動させて(ステップS15)、溶接電極端面(先端)と測定用平板4との平行平板間容量Cの容量値の変化量を測定する(ステップS16)。つまり、溶接電極端面(先端)の状態変化により、平行平板間容量Cの容量値が変化するので、容量値変化の基準となる容量値(基準容量値)を事前に測定しておくことによって、基準容量値に対する変化量を求めることができる。
【0056】
測定した平行平板間容量Cの容量値の変化量があらかじめ設定した変化量閾値以下であった場合には(ステップS17のYes)、通電経路抵抗R2の抵抗値が前記第2の規定値以下であり、かつ、平行平板間容量Cの容量値の変化量が基準容量値以下であるので、ワークの傾きなどによる溶接電極端面(先端)とワークaとの接触不良が発生しているものと判定することができる。
【0057】
したがって、かかる場合には、一旦、通電経路電圧測定用プローブすなわち左プローブ21L、右プローブ21Rを上昇させて、ワークすなわちワークb、ワークaとの接触がない状態に設定し、さらに、荷重を開放させるとともに、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを上昇させて、ワークaとの接触がない状態に移行した後、平行平板間容量Cの容量値の変化量が前記基準容量値以下であったことを検出した検出回数が、あらかじめ設定された第4の規定値以下か否かを判定し(ステップS18)、検出回数が該第4の規定値以下であった場合には(ステップS18のYes)、溶接電極とワークaとの接触不良の可能性が高いものと判定して、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを測定用平板4上からワークa表面上の溶接位置まで戻した後(ステップS19)、ステップS1に復帰して、再度、溶接動作を開始する。つまり、荷重開放および再荷重の動作を行うことにより、溶接電極端面(先端)とワークaとの接触不良状態が変化するため、全体抵抗RTの改善(全体抵抗RTの抵抗値が前記第1の規定値以下になる状況)や溶接電極の端面(先端)状態の改善を期待することができるので、ステップS1に復帰して、溶接動作を繰り返す。
【0058】
しかし、検出回数が前記第4の規定値を超えてしまった場合には(ステップS18のNo)、荷重開放および再荷重の動作を繰り返し行っても、全体抵抗RTの改善や溶接電極の端面(先端)状態の改善を図ることができなく、同様の状況が繰り返される場合であり、ワークa表面にゴミなどの付着物が介在する可能性が考えられるので、ワークaの表面の清掃を行うことにし(ステップS20)、しかる後、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを測定用平板4上からワークa表面上の溶接位置まで戻した後(ステップS21)、ステップS1に復帰して、再度、溶接動作を開始する。
【0059】
また、ステップS17において、測定した平行平板間容量Cの容量値の変化量があらかじめ設定した変化量閾値を超えていた場合には(ステップS17のNo)、通電経路抵抗R2の抵抗値が前記第2の規定値以下であり、かつ、平行平板間容量Cの容量値の変化量が基準容量値よりも大きい場合であるので、溶接電極の端面(先端)に形成された酸化膜が正常値よりも厚くなっているか、もしくは、溶接電極の端面(先端)側にゴミが付着しているものと判定することができる。
【0060】
溶接電極の端面(先端)の状態変化の様子を図6の説明図に示している。すなわち、図6は、図1および図2に示した抵抗溶接装置の溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)の状態変化の様子を説明するための説明図である。
【0061】
図6の説明図において、図6(A)は、溶接電極の端面(先端)の初期状態を示し、溶接電極の端面(先端)には酸化膜9aが厚さd2で形成され、酸化膜9aの下面と測定用平板4の上面との間の距離は、共通の距離としてあらかじめ定めた距離d1に調整されている状態を示している。また、図6(B)は、溶接電極の端面(先端)に酸化膜9bが初期状態よりも厚く形成された場合を示し、図6(C)は(B)、溶接電極の端面(先端)の酸化膜9cの上にさらにゴミ9dが付着した場合を示している。
【0062】
電極高さ合わせの第1の仕組みおよび第2の仕組みにおいて前述したように、溶接電極の端面(先端)の高さを、毎回、同一に調整することができるので、図6(B)のような厚い酸化膜9bが形成された場合や図6(C)のようなゴミ9dが付着した場合等、溶接電極の端面(先端)の状態変化が発生した場合であっても、測定用平板4の上面との間の距離d1は、図6(B)や図6(C)に示すように、図6(A)の初期状態の場合と共通(同一の距離)になり、図6(B)のような酸化膜9bの厚さd2の変化、図6(C)のような酸化膜9cとゴミ9dとの合計の厚さd2の変化が、平行平板間容量値Cの初期状態からの変化として検出される。
【0063】
したがって、かくのごとき溶接電極すなわち左電極L、右電極Rの端面(先端)の状態変化(厚い酸化膜の形成状態やゴミの付着状態)が発生していた場合には、図5BのステップS22に示すように、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを研磨プレート上の位置に移動して、電極端面の研磨を行う(ステップS22)。電極端面の研磨により、不必要な電極端面の酸化膜の除去およびゴミの除去を行うことができる。
【0064】
電極端面の研磨後、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを、再度、酸化膜の測定を行うための測定用平板4上に移動させて(ステップS23)、平行平板間容量Cの容量値の変化量を測定した後(ステップS24)、溶接電極すなわち左電極L、右電極Rを測定用平板4上からワークa表面上の溶接位置まで戻した後(ステップS25)、ステップS1に復帰して、再度、溶接動作を開始する。
【0065】
以上のような動作を行うことにより、実際の溶接動作に先立って、良好な溶接品質が得られるか否かを判定することができ、良好な溶接品質が得られない場合には、その溶接不良の発生要因を識別することができる。
【0066】
なお、図5A及び図5Bのフローチャートにおいては、第1のモニタ手段の動作を実施した後、第2のモニタ手段の動作を実施する場合について説明したが、順番を入れ替えて、まず、第2のモニタ手段の動作を実施し、しかる後に、第1のモニタ手段の動作を実施するようにしても良い。
【0067】
また、以上の説明においては、抵抗溶接装置として、平行な一対の溶接電極を重ねたワーク(金属)の一表面に平行に押圧するパラレルギャップ溶接装置の場合について説明したが、本発明は、かかる場合のみに限るものではなく、例えば、重ねたワーク(金属)を一対の溶接電極間に挟み込み、ワーク(金属)の厚さ方向に電流を流すタイプのスポット溶接装置であっても良い。
【0068】
(実施形態の効果の説明)
以上に詳細に説明したように、本実施形態においては次のような効果が得られる。
【0069】
すなわち、溶接電極とワークaとの間の接触不良、ワークaとワークbとの間の接触不良、ワークaとワークbとの間のゴミの付着、溶接電極端面(先端)の異常、ワークa表面上のゴミの付着のそれぞれを分別して検出することができ、溶接品質の向上を図ることが可能である。その理由は、溶接状態をモニタする手段として、従来技術の同様の溶接電極間の全体抵抗RTの測定・算出手段に加え、ワーク間の抵抗(通電経路抵抗R2)の測定・算出手段と、溶接電極端面(先端)の容量値の測定手段および容量値変化量の算出手段を設け、それらの各測定・算出手段を組合せて、溶接状態の判定を総合的に行うことができるからである。
【0070】
以上、本発明の好適な実施形態の構成を説明した。しかし、かかる実施形態は、本発明の単なる例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の要旨を逸脱することなく、特定用途に応じて種々の変形変更が可能であることが、当業者には容易に理解できよう。
【符号の説明】
【0071】
1 電極間電圧モニタ回路
2 通電経路電圧モニタ回路
3 容量測定装置
4 測定用平板
5 高さ検出装置
6 高さ調整機構
7 溶接ヘッド
8 誘電板
9a 酸化膜
9b 酸化膜
9c 酸化膜
9d ゴミ
10 抵抗溶接機
11 抵抗溶接回路
21L 左プローブ
21R 右プローブ
30 溶接事前判定部
a ワーク
b ワーク
d 平行平板間距離
I 電圧測定用電流
L 左電極
R 右電極
R1 接触抵抗
R1_L 左接触抵抗
R1_R 右接触抵抗
R2 通電経路抵抗
RT 全体抵抗
S 平行平板電極面積
SW スイッチ
V1 電極間電圧
V2 通電経路電圧
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7