(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0012】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るオーディオシステム1の装置構成を示す概略図である。オーディオシステム1は、外部から変調信号を受信するアンテナ2と、ノイズ源からのノイズ参照信号を取得するノイズ参照センサ3と、変調信号を復調してオーディオ信号を出力するオーディオ装置4と、オーディオ信号から音楽または音声を発生させるスピーカー5を備える。さらに、オーディオシステム1は、変調信号のノイズ除去およびオーディオ信号のノイズ除去を行うノイズ除去装置10を備える。ノイズ除去装置10は、アンテナ2、ノイズ参照センサ3、オーディオ装置4およびスピーカー5に接続されており、変調信号およびオーディオ信号を中継しながら、それぞれに対してノイズ除去処理を行う。
【0013】
アンテナ2は、オーディオ信号が変調されてなる変調信号を受信するアンテナである。アンテナ2はノイズ除去装置10に配線により接続されており、アンテナ2により受信された変調信号は該配線を介してノイズ除去装置10に伝搬される。
アンテナ2としては、FMアンテナ、AMアンテナ等の、オーディオシステム1で受信する変調信号に対応した任意のアンテナを用いることができる。
【0014】
ノイズ参照センサ3は、変調信号を汚染するノイズ源に接してまたは近傍に配置され、該ノイズ源からのノイズを取得するセンサである。ノイズ参照センサ3はノイズ除去装置10に配線により接続されており、ノイズ参照センサ3により取得されたノイズはノイズ参照信号として該配線を介してノイズ除去装置10に伝搬される。
複数のノイズ源が存在する場合には、ノイズ参照センサ3を該複数のノイズ源の数の分だけ複数設けることができる。その場合には、複数のノイズ参照センサ3はそれぞれノイズ源に接してまたは近傍に配置され、それぞれ配線によりノイズ除去装置10に接続される。
ノイズ参照センサ3としては、電流トランスやホール素子等の、ノイズ源に対応した任意のセンサを用いることができる。
【0015】
オーディオ装置4は、ノイズ除去装置10によりノイズ除去された変調信号を復調してオーディオ信号に変換し、それを再度ノイズ除去装置10に出力するオーディオ装置である。つまり、オーディオ装置4は復調器として動作する。オーディオ装置4は、ノイズ除去装置10に2本の配線により接続されており、一方の配線を介してノイズ除去装置10から変調信号を受信し、他方の配線を介してノイズ除去装置10へオーディオ信号を送信する。
オーディオ装置4としては、FMラジオ受信機、AMラジオ受信機等の、オーディオシステム1で受信する変調信号に対応した任意のオーディオ装置を用いることができる。
【0016】
スピーカー5は、オーディオ信号に基づいて音楽や音声といったオーディオ信号の元となった音を発生させる任意のスピーカーである。スピーカー5は、ノイズ除去装置10に配線により接続されており、該配線を介してノイズ除去装置10からノイズ除去されたオーディオ信号を受信する。ノイズ除去装置10とスピーカー5との間に、オーディオ信号を増幅するアンプが設けられてもよい。
【0017】
ノイズ除去装置10は、変調信号およびオーディオ信号に対して、それぞれノイズ除去を行う装置である。
図2は、ノイズ除去装置10が有する機能を示す機能ブロック図である。ノイズ除去装置10は、アンテナ2により受信された変調信号に対してノイズ除去を行う前処理部10Aと、オーディオ装置4が変調信号を復調することにより得られるオーディオ信号に対してノイズ除去を行う後処理部10Bとを備える。
【0018】
前処理部10Aおよび後処理部10Bは、共通して、アンテナ2により受信された変調信号またはオーディオ装置4により復調されたオーディオ信号と、ノイズ参照センサ3により取得されたノイズ参照信号とを用いて、ノイズの性質を表す統計パラメータを算出する統計パラメータ推定部20を有する。
ここで、統計パラメータ推定とは、アンテナ2により受信された変調信号またはオーディオ装置4により復調されたオーディオ信号と、ノイズ参照センサ3により取得されたノイズ参照信号とを用いて、ノイズの統計的な性質を表す統計パラメータを算出することをいう。
【0019】
前処理部10Aは、アンテナ2により受信された変調信号と、ノイズ参照センサ3により取得されたノイズ参照信号と、統計パラメータ推定部20により算出された統計パラメータとを用いて、変調信号に対するノイズ除去を行うロバスト多重参照ノイズ除去部30を有する。
ここで、ロバスト多重参照ノイズ除去とは、複数の統計パラメータを参照してノイズ除去方法を選択し、ノイズ除去処理に統計パラメータを用いることによって、インパルス性ノイズを含む様々な種類のノイズに対応可能な、すなわちロバストなノイズ除去方法をいう。
【0020】
前処理部10Aは、さらに、ロバスト多重参照ノイズ除去を行わない場合(例えば、ノイズ参照センサ3が設けられていない場合)に、アンテナ2により受信された変調信号と、統計パラメータ推定部20により算出された統計パラメータとを用いて、変調信号に対するノイズ除去を行う主アンテナ処理部40を有する。
ここで、主アンテナ処理とは、ノイズ参照信号が設けられていない場合に、アンテナ2からの変調信号と、該変調信号からのみ算出された統計パラメータとを用いて行うノイズ除去処理をいう。
【0021】
本実施形態において、前処理部10Aはアンテナ2により受信された変調信号をノイズ除去の対象にしているが、該変調信号を中間周波数の信号に変換してからノイズ除去を行ってもよい。その場合でも、本実施形態と同じノイズ除去処理が適用される。
【0022】
後処理部10Bは、オーディオ装置4により復調されたオーディオ信号と、統計パラメータ推定部20により算出された統計パラメータとを用いて、オーディオ信号に対するノイズ除去を行うオーディオノイズ除去部50を有する。
【0023】
さらに、後処理部10Bは、オーディオ信号に対する歪み除去を行う歪み除去部60を有する。
【0024】
図3は、ノイズ除去装置10の装置構成を示す概略図である。ノイズ除去装置10は、インターフェース11と、CPU12と、記憶装置13とを備える。
【0025】
インターフェース11は、アンテナ2、ノイズ参照センサ3、オーディオ装置4およびスピーカー5に配線で接続され、それらとの信号の授受を行う。外部からノイズ除去装置10に信号を受信する配線の途中にはADC(アナログ−デジタルコンバーター)11Aが設けられており、ノイズ除去装置10から外部に信号を送信する配線の途中にはDAC(デジタル−アナログコンバーター)11Bが設けられている。
【0026】
記憶装置13は、ROM、RAM、ハードディスクドライブ等の任意の記憶装置を含む。また、記憶装置13はCD−ROM、フラッシュメモリ等の可搬記憶媒体を含んでもよい。ノイズ除去装置10が有する機能、すなわち統計パラメータ推定部20、ロバスト多重参照ノイズ除去部30、主アンテナ処理部40、オーディオノイズ除去部50および歪み除去部60は、それぞれプログラムの形態で記憶装置13に記憶されている。CPU12は、記憶装置13に記憶されたプログラムを読み出し、該プログラムに従って種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行する。
【0027】
本実施形態では、ノイズ除去装置10は1つの装置(つまり、1セットのインターフェース11、CPU12および記憶装置13)内に全ての機能を実装しているが、各機能を別々の処理装置内や電気回路内に実装しても構わない。
【0028】
本実施形態では、ノイズ除去装置10はオーディオ装置4から独立した構成とされているが、ノイズ除去装置10がオーディオ装置4に内蔵または一体化された構成とされてもよい。その場合には、CPU12や記憶装置13は、オーディオ装置4とノイズ除去装置10との間で共用してもよい。
【0029】
図4は、本実施形態に係るノイズ除去処理全体のフローチャートを表す図である。
まず、アンテナ2は、変調信号を受信する(ステップS1)。該変調信号はノイズ除去装置10に入力される。
【0030】
次に、前処理として、ノイズ除去装置10は、アンテナ2により受信された変調信号に対してノイズ除去を行う(ステップS2)。前処理は、統計パラメータ推定(ステップS10)と、ロバスト多重参照ノイズ除去(ステップS20)と、主アンテナ処理(ステップS30)とを含む。
前処理が終わると、ノイズ除去装置10はノイズ除去された変調信号をオーディオ装置4に出力し、オーディオ装置4は該変調信号を復調してオーディオ信号にする(ステップS3)。該オーディオ信号はノイズ除去装置10に入力される。
【0031】
次に、後処理として、ノイズ除去装置10は、オーディオ装置4により復調されたオーディオ信号に対してノイズ除去を行う(ステップS4)。後処理は、統計パラメータ推定(ステップS40)と、オーディオノイズ除去(ステップS50)と、歪み除去(ステップS60)とを含む。
後処理が終わると、ノイズ除去装置10はノイズ除去されたオーディオ信号をスピーカー5に出力し、スピーカー5は該オーディオ信号に基づいて音楽または音声を発生させる(ステップS5)。
【0032】
以下では、本実施形態に係るノイズ除去処理に含まれるそれぞれの処理を詳細に説明する。
【0033】
(統計パラメータ推定)
信号を汚染するノイズの種類により、適切なノイズ除去方法が異なる。本実施形態に係るノイズ除去装置においては、ノイズの統計的な性質を表す統計パラメータを用いることによって、ノイズの種類に応じて適切なノイズ除去方法を選択しているため、様々な環境に対応可能な、すなわちロバストなノイズ除去処理を行うことができる。
【0034】
統計パラメータ推定部20は、アンテナ2により受信された変調信号またはオーディオ装置4により復調されたオーディオ信号と、ノイズ参照センサ3により取得されたノイズ参照信号とを用いて、統計パラメータを算出する。統計パラメータは、信号とノイズとの相関関係(コヒーレンス)を表すパラメータ、ノイズの分布を表すパラメータα、およびノイズの定常性を表すパラメータを含む。
【0035】
図5は、本実施形態に係る統計パラメータ推定(ステップS10)のフローチャートを表す図である。統計パラメータ推定部20は、コヒーレンスを表すパラメータ算出するコヒーレンス推定(ステップS11)と、ノイズ分布を表すパラメータαを算出するノイズ分布推定(ステップS12)と、ノイズの定常性を表すパラメータを算出する定常性推定(ステップS13)とを実行する。
コヒーレンス推定、ノイズ分布推定および定常性推定はそれぞれ独立した処理であるため、それらを並行実行することができ、また必要に応じてそれらの一部のみを実行することができる。
【0036】
(コヒーレンス推定)
本実施形態に係るコヒーレンス推定(ステップS11)の処理内容を以下に説明する。
ノイズ除去処理を行うと、多少なりともオーディオ信号の品質が劣化するため、必要が無いときにはノイズ除去処理を行わないことが望ましい。本実施形態で用いる適応フィルタは線形フィルタであるため、変調信号とノイズ参照信号との間に線形伝達がある場合には適用されうるが、そうでない場合には適用できない。
本実施形態では、変調信号とノイズ参照信号との間のコヒーレンス、つまり線形伝達の存在を評価することによって、ノイズ除去処理の必要性の有無を判断している。それによって、不要なノイズ除去処理を行わないようにし、オーディオ信号の品質の劣化を低減することができる。
【0037】
コヒーレンスを表すパラメータ(以下では単にコヒーレンスともいう)は、変調信号とノイズ参照信号との間の線形伝達の指標である。本実施形態において、コヒーレンスは、以下の式(1)を用いることによって導出される。
【0039】
coherence
kは、k時点におけるコヒーレンスである。S
ar,k(f)は、k時点における変調信号aとノイズ参照信号rとの間のクロスパワースペクトル密度である。S
aa,k(f)は、k時点における変調信号aのパワースペクトル密度である。S
rr,k(f)は、k時点におけるノイズ参照信号rのパワースペクトル密度である。パワースペクトル密度は、信号の強度(電力)が周波数fに対してどのように分布しているかを表している。なお、パワースペクトル密度は原点に関して対称である(例えば、S
aa,k(f)=S
aa,k(−f))。
【0040】
パワースペクトル密度の計算には、周知の手法を用いればよい。具体的には、以下の方法でパワースペクトル密度を求めることができる。まず、統計パラメータ推定部20は、変調信号とノイズ参照信号とにそれぞれ窓関数(例えば、ハニング窓関数)を掛け、それぞれ高速フーリエ変換(FFT)を行う。その後、統計パラメータ推定部20は、FFTされた変調信号と、該FFTされた変調信号の複素共役との積をとることで、S
aa,k(f)を得る。また、統計パラメータ推定部20は、FFTされたノイズ参照信号と、該FFTされたノイズ参照信号の複素共役との積をとることで、S
rr,k(f)を得る。さらに、統計パラメータ推定部20は、FFTされた変調信号と、FFTされたノイズ参照信号の複素共役との積をとることで、S
ar,k(f)を得る。
統計パラメータ推定部20は、S
aa,k(f)、S
rr,k(f)、S
ar,k(f)を式(1)に代入することによって、coherence
kを算出する。
【0041】
コヒーレンスは0から1までの値となる。コヒーレンスが所定のしきい値(例えば0.4)より大きい場合に変調信号とノイズ参照信号との間に線形伝達があると判定することができ、そうでない場合には線形伝達がないと判定することができる。線形伝達がある場合には、適応フィルタ処理を行うことができる。
【0042】
線形伝達が特定の周波数領域のみで現れ、それ以外の周波数領域では現れない場合がある。本明細書では、この状態を部分的なコヒーレンスがある、という。その場合には、線形伝達が現れている周波数領域のみで適応フィルタ処理を行うことが望ましい。
【0043】
複数のノイズ参照センサ3が設けられている場合には、それぞれのノイズ参照センサ3からのノイズ参照信号についてコヒーレンスを算出する(つまり、ノイズ参照センサ3の数の分だけコヒーレンスを算出する)。
【0044】
(ノイズ分布推定)
本実施形態に係るノイズ分布推定(ステップS12)の処理内容を以下に説明する。
従来の適応フィルタを用いるノイズ除去処理では、ノイズ分布としてはガウス分布を想定しているものが多い。しかし、ノイズにインパルス性ノイズが多く含まれる場合には、ノイズ分布がアルファ安定分布となる。アルファ安定分布では、分散が無限になり、2次モーメント(分散)を用いている従来の適応フィルタは収束しないという問題が発生する。本実施形態では、ノイズ分布を表すパラメータαを適切なノイズ除去方法(例えば、適応フィルタの種類)の選択に用い、そしてノイズ除去の計算に用いることによって、収束性の問題を解決し、インパルス性ノイズを十分に除去することができる。
【0045】
アルファ安定分布は4つのパラメータにより特徴付けられることが知られているが、本明細書では、そのうち、インパルス性のレベルを与えるパラメータαを用いる。パラメータαが小さいほど、ノイズのインパルス性が大きいといえる。
α=2の場合、ノイズはガウス分布である。α<2の場合、ノイズはインパルス性であり、アルファ安定分布を有しており、このとき2次モーメント(分散)は定義できない。さらに、α<1の場合、一次モーメント(平均)も定義できなくなる。
【0046】
パラメータαは、周知の手法により求めることができる。パラメータαはアンテナ2により受信された変調信号から算出することも、ノイズ参照センサ3により取得されたノイズ参照信号から算出することも可能である。ノイズ参照信号からパラメータαを算出する方が、ノイズ分布をより正確に推定できるため、好ましい。
【0047】
本実施形態における、パラメータαの算出方法を以下に示す。この算出方法は一例であり、その他の任意の手法でパラメータαを算出してよい。
統計パラメータ推定部20は、k時点におけるノイズ参照信号の長さNのフレームを、L個の長さMのサブフレームに分割する。つまり、ML=Nとなる。統計パラメータ推定部20は、k時点、l番目(l=1〜L)のサブフレームについて、式(2)を用いて、振幅の最大値および最小値を求める。
【0049】
xは、各サブフレームにおけるノイズ参照信号の振幅である。Xmax
l,kは、k時点、l番目のサブフレームにおける振幅の最大値である。Xmin
l,kは、k時点、l番目のサブフレームにおける振幅の最小値である。
【0050】
統計パラメータ推定部20は、全てのサブフレームについて振幅の最大値および最小値を求めた後、式(3)を用いて、αを求める。
【0052】
α
kは、k時点におけるノイズ分布を表すパラメータαである。複数のノイズ参照センサ3が設けられている場合には、それぞれのノイズ参照センサ3からのノイズ参照信号についてαが算出される。複数のαを用いることによって、推定がより正確になる。
【0053】
(定常性推定)
本実施形態に係る定常性推定(ステップS13)の処理内容を以下に説明する。
ノイズはその変化の仕方により分類することができる。定常性ノイズとは、そのモーメント(つまり、平均、分散等)が時間に依存しておらず、モーメントが時間経過に対して同一であるというエルゴード性の仮定のもとに、その統計値が定数となるものをいう。循環定常性ノイズとは、その統計値が周期的に繰り返すものをいい、例えばインバータからのインパルス性ノイズが信号を汚染している場合に発生するものである。本明細書では、循環定常性ノイズも定常性ノイズとして扱う。非定常性ノイズとは、そのモーメントが時間とともに(遅くも速くも)変化するものをいう。
【0054】
従来の適応フィルタの中には収束に時間の掛かるものがあり、そのような適応フィルタは非定常性ノイズに対して適用できない(収束させることができない)。本実施形態では、定常性を表すパラメータを算出し、非定常性ノイズの場合には高速な変化に追従できるように設計された適応フィルタを用いることによって、非定常性ノイズに対応している。
【0055】
本実施形態における定常性を表すパラメータは、以下のように算出される。まず、統計パラメータ推定部20は、ノイズ参照信号の長さNのフレームを、L個の長さMのサブフレームに分割する。つまり、ML=Nとなる。次に、統計パラメータ推定部20は、それぞれのサブフレームについて平均および分散を計算する。そして、統計パラメータ推定部20は、サブフレームの平均および分散を互いに比較し、その差異が所定の割合以下(例えば、−10%から+10%の範囲内)である場合には、そのフレームの変調信号を汚染しているノイズは定常性ノイズであると判定し、そうでない場合には非定常性ノイズであると判定する。例えば、定常性のパラメータとして、定常性ノイズの場合には0を出力し、そうでない場合には1を出力する。
定常性を表すパラメータとしては、ここで説明されたものに限定されず、ノイズの定常性の指標となるものであれば、任意のパラメータを用いることができる。
【0056】
(ロバスト多重参照ノイズ除去)
ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、統計パラメータ推定部20により算出された統計パラメータに基づいて、適切なノイズ除去方法を選択して実行する。これにより、信号に含まれるノイズの種類に対して効果的なノイズ除去方法を選択できるため、ノイズ除去効率を向上させることができる。また、必要な場合にのみ処理時間の掛かる(すなわち、計算コストの高い)ノイズ除去方法を行うため、処理時間の掛かるノイズ除去方法を固定的に使用する場合に比べて、処理時間を低減することができる。さらに、ノイズとコヒーレンスのある信号または該信号の一部の周波数領域に対してのみノイズ除去を行うことができるため、ノイズ除去処理による信号の劣化を低減することができる。
【0057】
ノイズ参照センサ3が設けられていない場合には、ロバスト多重参照ノイズ除去(ステップS20)を行わず、主アンテナ処理(ステップS30)に進む。また、ノイズ参照センサ3が設けられていない場合には、ロバスト多重参照ノイズ除去部30自体を設けなくてもよい。
【0058】
図6は、本実施形態に係るロバスト多重参照ノイズ除去(ステップS20)のフローチャートを表す図である。まず、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、統計パラメータ推定部20にて取得された統計パラメータに含まれるコヒーレンスを表すパラメータに基づいて、全帯域コヒーレンスがあるか否かを判定する(ステップS21)。具体的には、上述のコヒーレンスの値が、信号の全帯域で所定のしきい値(例えば、0.4)より大きければ全帯域コヒーレンスがあると判定し、そうでなければ全帯域コヒーレンスがないと判定する。
【0059】
ステップS21で全帯域コヒーレンスがあると判定された場合に、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、統計パラメータ推定部20にて取得された統計パラメータに含まれる定常性を表すパラメータに基づいて、定常性があるか否かを判定する(ステップS22)。具体的には、上述の定常性を表すパラメータが所定の値(例えば、0)であれば定常性があると判定し、そうでなければ定常性がないと判定する。
【0060】
ステップS22で定常性があると判定された場合に、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、統計パラメータ推定部20にて取得された統計パラメータに含まれるノイズ分布を表すパラメータαに基づいて、適用する適応フィルタの種類を判定する(ステップS23)。具体的には、αが1.7以上の場合にはLMSを適用すると判定し、1.7未満の場合にはRobust LMSを適用すると判定する。
【0061】
ステップS22で定常性がないと判定された場合に、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、ノイズ分布を表すパラメータαに基づいて、適用する適応フィルタの種類を判定する(ステップS24)。具体的には、αが1.7以上の場合にはRLSを適用すると判定し、1.7未満の場合にはRobust RLSを適用すると判定する。
【0062】
ステップS21で全帯域コヒーレンスがないと判定された場合に、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、コヒーレンスを表すパラメータに基づいて、部分コヒーレンスがあるか否かを判定する(ステップS25)。具体的には、上述のコヒーレンスの値が、信号の一部の周波数領域で所定のしきい値(例えば、0.4)より大きければ部分コヒーレンスがあると判定し、そうでなければ部分コヒーレンスがないと判定する。
【0063】
ステップS25で部分コヒーレンスがあると判定された場合に、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、ノイズ分布を表すパラメータαに基づいて、適用する適応フィルタの種類を判定する(ステップS26)。具体的には、αが1.7以上の場合にはBounded LMSを適用すると判定し、1.7未満の場合にはRobust Bounded LMSを適用すると判定する。
【0064】
ステップS25で部分コヒーレンスがないと判定された場合には、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、ロバスト多重参照ノイズ除去において適応フィルタによるノイズ除去処理は行わず、後述する主アンテナ処理に進む。
【0065】
本実施形態ではパラメータαの判定は1.7を基準にしているが、これはαが1.7以上であればノイズがガウス分布に近い(インパルス性ノイズが少ない)とみなしているからである。パラメータαの判定基準はこの数値に限られるものではなく、実験やシミュレーションにより、所定のしきい値を求めてもよい。
【0066】
図6において選択されるノイズ除去方法は、統計パラメータにより判定されたそれぞれのノイズの種類に対して有効となるように、用いられる方程式が変更された適応フィルタ処理である。ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、
図6の選択結果に基づいて、適応フィルタ処理で用いられる方程式を変更する。
【0067】
図7は、
図6において選択されるノイズ除去方法における適応フィルタ処理の概念図である。この適応フィルタ処理では、変調信号A
kとノイズ参照信号R
kとを入力とし、エラー信号ε
kとしてノイズ除去された変調信号を出力する。
【0068】
以下に本実施形態に係るロバスト多重参照ノイズ除去で用いられるそれぞれのノイズ除去方法を説明する。これらのノイズ除去方法は一例であり、統計パラメータにより判定されたそれぞれのノイズの種類に対して効果的な、その他の任意のノイズ除去方法を適用してもよい。
【0069】
(LMS)
全帯域コヒーレンスがあり、ノイズに定常性があり、αが1.7以上の場合には、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムが用いられる。
LMSは計算コストが低いが、ガウス性ノイズを前提としている。ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、LMSアルゴリズムとして、以下の式(4)を用いてノイズ除去を行う。
【0071】
μはステップサイズを表す。W
k(f)はk時点でのフィルタ更新係数であり、P
k(f)は正規化のための平滑化されたノイズ強度の更新係数である。
【0072】
(Robust LMS)
全帯域コヒーレンスがあり、ノイズに定常性があり、αが1.7未満の場合には、Robust LMSアルゴリズムが用いられる。
αが1.7未満の場合にはインパルス性ノイズが強いため、LMSでは収束性が悪化する。そのため、LMSをロバストにし、収束性を保つように変更することが望ましい。そこで、本実施形態では、分数低次モーメント(Fractional Low Order Moments)を用いるLMP(Least Mean p−norm)アルゴリズムをLMSに適用する(これをRobust LMSという)。
ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、Robust LMSアルゴリズムとして、以下の式(5)を用いてノイズ除去を行う。
【0074】
μはステップサイズを表す。W
k(f)はk時点でのフィルタ更新係数であり、P
k(f)は正規化のための平滑化されたノイズ強度の更新係数である。式(5)中の記号の意味は、式(6)の通りである。
【0076】
式はLMSと全体としては同様だが、W
k(f)の定義にパラメータαを用いるように変更されている点が異なる。pは分数低次モーメントの次数であり、統計パラメータ推定で算出されたパラメータαを用いて、1<p<α<2とする。pの値は適宜定めることができるが、本実施形態ではp=α−0.1とする。
【0077】
(RLS)
全帯域コヒーレンスがあり、ノイズに定常性がなく、αが1.7以上の場合には、RLSアルゴリズムが用いられる。
ノイズが非定常性である場合には、収束が遅いLMSでは、ノイズの変化に追従して除去することが難しい。そのため、素早く収束するアルゴリズムを用いることが望ましい。そこで本実施形態では、RLS(Recursive Least Square)アルゴリズムを用いる。RLSは計算コストが高いが、様々な高速な実装方法が実装されており、任意の実装方法を用いることができる。本実施形態では、高速な実装方法であるFast Transversal RLSを用いている。
ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、RLSアルゴリズムとして、以下の式(7)を用いてノイズ除去を行う。
【0079】
W
kはk時点のチャネルベクトルである。A
kはk時点の入力ベクトルである。R
kは参照入力ベクトルである。C
k−1は共分散行列である。δは忘却係数である。
【0080】
(Robust RLS)
全帯域コヒーレンスがあり、ノイズに定常性がなく、αが1.7未満の場合には、Robust RLSアルゴリズムが用いられる。
αが1.7未満の場合にはインパルス性ノイズが強いため、RLSでは収束性が悪化する。そのため、RLSをロバストにし、収束性を保つように変更することが望ましい。そこで、本実施形態では、Robust LMSと類似の変更をRLSに適用する(これをRobust RLSという)。
ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、Robust RLSアルゴリズムとして、以下の式(8)を用いてノイズ除去を行う。
【0082】
W
kはk時点のチャネルベクトルである。A
kはk時点の入力ベクトルである。R
kは参照入力ベクトルである。C
k−1は共分散行列である。δは忘却係数である。V
i,kは重み係数である。
【0083】
式はRLSと全体としては同様だが、W
kの定義にパラメータαを用いるように変更されている点が異なる。pは分数低次モーメントの次数であり、統計パラメータ推定で算出されたパラメータαを用いて、1<p<α<2とする。pの値は適宜定めることができるが、本実施形態ではp=α−0.1とする。
【0084】
(Bounded LMS)
全帯域コヒーレンスがないが部分コヒーレンスがあり、αが1.7以上の場合には、Bounded LMSアルゴリズムが用いられる。
コヒーレンスがない部分にまでノイズ除去を行うと信号の劣化を招くため、ノイズ除去処理の対象をコヒーレンスがある部分(例えば、コヒーレンスの値が0.4より大きい領域)のみに限定することが望ましい。そこで、本実施形態では、一体窓を用いてLMSの適用範囲を限定する(これをBounded LMSという)。一体窓は、コヒーレンスのある領域では係数を1に設定し、それ以外の領域では係数を0に設定する第1の窓と、それと反対の値に設定する第2の窓のことを含む。
具体的には、一体窓は式(9)で表される。
【0086】
第1の窓w
k,procはノイズ除去処理を行う部分を示すのに用いられ、第2の窓w
k,notprocはノイズ除去処理を行わない部分を示すのに用いられる。これを用いて、変調信号A
kおよびノイズ参照信号R
kは、以下の式(10)により、ノイズ除去処理が行われる部分と行われない部分に分けて表される。
【0088】
これにLMSアルゴリズムを適用すると、式(11)となる。ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、式(11)を用いてノイズ除去を行う。
【0090】
その後に、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、式(12)を用いて、ノイズ除去処理されたエラー信号に、ノイズ除去処理されなかった変調信号を加えることによって、完全なエラー信号(ノイズ除去後の変調信号に相当)を再構築する。
【0092】
以上の方法により、コヒーレンスのある周波数領域にのみノイズ除去処理を行うことができる。
【0093】
(Robust Bounded LMS)
全帯域コヒーレンスがないが部分コヒーレンスがあり、αが1.7未満の場合には、Robust Bounded LMSアルゴリズムが用いられる。
αが1.7未満の場合にはインパルス性ノイズが強いため、LMSをロバストにし、収束性を保つように変更することが望ましい。そこで、本実施形態では、Robust LMSと同様に、パラメータαを用いるように数式を変更することによって、Bounded LMSをロバストにする(これをRobust Bounded LMSという)。
ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、Robust Bounded LMSアルゴリズムとして、式(13)を用いてノイズ除去を行う。
【0095】
式(13)中の記号の意味は、式(6)、式(9)および式(10)の通りである。さらに、Bounded LMSと同様に、ロバスト多重参照ノイズ除去部30は、式(12)を用いて、ノイズ除去処理後のエラー信号に、ノイズ除去処理されなかった変調信号を加えることによって、完全なエラー信号(ノイズ除去後の変調信号に相当)を再構築する。
【0096】
この方法により、コヒーレンスのある周波数領域にのみ、ロバストなノイズ除去処理を行うことができる。
【0097】
以上で説明したロバスト多重参照ノイズ除去の方法は一例であり、本発明はこれら具体的な分岐条件やアルゴリズムに限定されるものではない。ここで重要なことは、パラメータαを含む統計パラメータに基づいて適切なノイズ除去方法を選択し、さらに該当系パラメータを用いてノイズ除去処理を行うことであり、それによってインパルス性ノイズなど様々なノイズに対して有効なノイズ除去処理を実現することができる。
【0098】
(主アンテナ処理)
主アンテナ処理部40は、ロバスト多重参照ノイズ除去を行わない場合(例えば、ノイズ参照センサ3が設けられていない場合)に、アンテナ2により受信された変調信号と、統計パラメータ推定部20により算出された統計パラメータとを用いて、変調信号に対するノイズ除去を行う。
【0099】
ノイズ参照センサが設けられていない場合には、ノイズ参照信号を用いる上述のロバスト多重参照ノイズ除去は行うことができない。そのような場合には、ノイズ参照信号を用いない主アンテナ処理によるノイズ除去を行う。
【0100】
図8は、本実施形態に係る主アンテナ処理(ステップS30)のフローチャートを表す図である。まず、主アンテナ処理部40は、ロバスト多重参照ノイズ除去が行われたか否かを判定する(ステップS31)。具体的には、
図6のステップS25で部分コヒーレンスがないと判定された場合に、該判定の情報が主アンテナ処理部40に送られることによって、ロバスト多重参照ノイズ除去が行われなかったと判定することができる。
【0101】
ステップS31でロバスト多重参照ノイズ除去が行われたと判定された場合に、主アンテナ処理部40は、主アンテナ処理でのノイズ除去は行わずに、ロバスト多重参照ノイズ除去が行われた後の変調信号をオーディオ装置4へ出力する(ステップS32)。そして、オーディオ装置4において、変調信号の復調が行われ、オーディオ信号に変換される。
【0102】
ステップS31でロバスト多重参照ノイズ除去が行われなかったと判定された場合に、主アンテナ処理部40は、自然時間周波数ノイズ除去を行う(ステップS33)。
【0103】
自然時間周波数ノイズ除去の方法を以下に説明する。自然時間周波数ノイズ除去では、処理をロバストにするために、ノイズの統計(パラメータα)に基づいた分数低次モーメントを用いている。自然時間周波数ノイズ除去では、分数低次モーメントを用いて、アンテナからの変調信号をサイン基底およびコサイン基底へ射影することによって、信号からインパルス性ノイズを除去している。
【0104】
具体的には、以下の方法で自然時間周波数ノイズ除去を行う。まず、主アンテナ処理部40は、変調信号に窓関数(例えば、ハニング窓関数)を掛けた後、FFTを行うことによって、該変調信号を周波数領域に変換する。次に、主アンテナ処理部40は、該FFTされた変調信号の位相は操作せず、振幅をp乗(分数乗)する。ここで、pは、統計パラメータ推定で算出されたパラメータαを用いて、1<p<α<2とする。pの値は適宜定めることができるが、本実施形態ではp=α−0.1としている。最後に、主アンテナ処理部40は、逆高速フーリエ変換(IFFT)ならびに重畳加算法(Overlap−add)または重畳保留法(Overlap−save)を用いることによって、時間領域の変調信号を再構築する。この再構築された変調信号からは、インパルス性ノイズが除去されている。
【0105】
時間周波数解析ができる手法であれば、本実施形態で用いた短時間FFT法の他に、ウィグナー分布解析(Wigner−DeVille法)等を用いてもよい。
【0106】
その後、主アンテナ処理部40は、自然時間周波数ノイズ除去が行われた後の変調信号をオーディオ装置4へ出力する(ステップS34)。そして、オーディオ装置4において、変調信号の復調が行われ、オーディオ信号に変換される。
【0107】
(オーディオノイズ除去)
オーディオ装置4により復調された信号がノイズ除去装置10で受け取られると、後処理としてオーディオノイズ除去および歪み除去が行われる。スピーカーが複数ある場合には、オーディオ装置4からそれぞれのスピーカーへのオーディオ信号が出力されるため、それぞれのオーディオ信号についてオーディオノイズ除去および歪み除去を並行して行う。
【0108】
オーディオノイズ除去部50は、オーディオ装置4により復調されたオーディオ信号と、統計パラメータ推定部20により算出された統計パラメータとに基づいて、オーディオ信号に対するしきい値処理を行う。本実施形態では、しきい値処理にノイズの分布を表すパラメータαを用いているため、効果的にインパルス性ノイズの除去を行うことができる。
【0109】
図9は、本実施形態に係るオーディオノイズ除去(ステップS50)のフローチャートを表す図である。まず、オーディオノイズ除去を行う前に、統計パラメータ推定部20は、統計パラメータ推定を行う(ステップS40)。後処理における統計パラメータ推定は、ノイズ参照信号ではなく予測エラー信号を対象とする点で、前処理と異なる。予測エラー信号の算出方法を以下に示す。まず、統計パラメータ推定部20は、以下の式(14)を用いてオーディオ信号の自己相関関数を求める。
【0111】
Rは自己相関信号である。NはFFTの長さである。x
k,nはk時点においてn番目のスピーカーに向けられたオーディオ信号である。統計パラメータ推定部20は、自己相関信号からP次(Pは多項式の次数)の線形予測係数を得るために、(例えば、Levinson−Durbinアルゴリズムを用いて)Yule−Walker方程式を解く。それにより、統計パラメータ推定部20は、P次の線形予測係数を推定し、推定信号を以下の式(15)により算出する。
【0113】
そして、統計パラメータ推定部20は、予測エラー信号e(n)を、以下の式(16)により算出する。
【0115】
オーディオノイズ除去においてはパラメータαのみが必要になるため、統計パラメータ推定部20は、後処理の統計パラメータ推定(ステップS40)として、
図5のうちノイズ分布推定(ステップS12)のみを行う。統計パラメータ推定部20は、予測エラー信号e(n)をノイズ参照信号とみなして、式(2)および式(3)より、後処理におけるパラメータαを算出する。
【0116】
同時に、統計パラメータ推定部20は、後処理の統計パラメータ推定(ステップS40)として、しきい値を決定するためのノイズ電力の計算を行う。本実施形態では、ノイズ参照センサ3により取得されたノイズ参照信号の電力をノイズ電力として使用する。
ノイズ参照センサ3が設けられていない場合には、オーディオ信号に含まれる各成分について統計的にパラメータαを算出し、パラメータαが低い成分をノイズとみなし、それらの成分の電力の合計値をノイズ電力として使用することができる。
【0117】
次に、オーディオノイズ除去部50は、オーディオ信号の時間周波数平面分割を行う(ステップS51)。時間周波数平面分割において、まず、オーディオノイズ除去部50は、受信したオーディオ信号に窓関数(例えば、ハニング窓関数)を掛けた後、FFTを行う。そして、オーディオノイズ除去部50は、FFTされたオーディオ信号を、M個(例えば、M=10)バッファする。
【0118】
オーディオノイズ除去部50は、FFTされたオーディオ信号を、時間周波数平面上で分割する。分割された各々の領域を、グリッドという。
図10は、時間周波数平面上での分割方式を模式的に説明する図である。
図10のAは時間軸上における該FFTされたオーディオ信号の分布範囲を表し、Bは周波数軸上における該FFTされたオーディオ信号の分布範囲を表している。ここで、オーディオノイズ除去部50は、パラメータαに基づいて、分割数を決定する。例えば、1.9<α≦2.0の場合は分割せず(
図10(a))、1.6<α≦1.9の場合は各軸を2分割し(
図10(b))、1.2<α≦1.6の場合は各軸を4分割し(
図10(c))、α≦1.2の場合は各軸を8分割する(
図10(d))。
分割数とその条件はこれに限定されるものではなく、実験やシミュレーションにより適宜定めることができる。
【0119】
オーディオノイズ除去部50は、時間周波数平面分割されたオーディオ信号に対して、しきい値処理を行う(ステップS52)。オーディオノイズ除去部50は、予め統計パラメータ推定において算出されたノイズ電力に基づいて、しきい値を決定しておく。そして、オーディオノイズ除去部50は、各グリッドにおける信号の電力を計算する。その後、オーディオノイズ除去部50は、該しきい値を下回る電力を有するグリッドをノイズとみなし、該グリッドの信号の電力をゼロに設定する。
【0120】
信号の電力がゼロに設定される、すなわちキャンセルされるグリッドが本当にノイズであることを保証するために、異なるスピーカー間の相関を用いることもできる。実際、オーディオ信号はスピーカーのチャネル間で独立しているのに対して、オーディオ信号を汚染するノイズ源は共通であるため、ノイズはチャネル間で強く相関する。
【0121】
ノイズのインパルス性が高い(すなわち、αが小さい)場合には、グリッドを大きくするとノイズが信号に埋もれてしまい、しきい値処理によるノイズ除去が難しくなる。そのため、αが小さい場合には時間周波数平面を細かく分割することによってインパルス性ノイズを除去しやすくしている。一方、ノイズのインパルス性が低い(すなわち、αが大きい)場合には、時間周波数平面を粗く分割することによって、計算コストを低減している。
このようにパラメータαに基づいて分割数を決定し、しきい値処理をすることによって、ノイズの種類に対して適切なノイズ除去を行うことができる。
【0122】
本実施形態では、オーディオ信号に対するノイズ除去にしきい値処理を採用しているが、オーディオ信号からのノイズ除去が可能であればこれに限られるものではない。例えば、オーディオ信号に対してロバスト多重参照ノイズ除去(ステップS20)を適用してもよい。その場合には、オーディオ信号に対して統計パラメータ推定(ステップS10)を行って統計パラメータを算出する。次に、該統計パラメータを用いてロバスト多重参照ノイズ除去(ステップS20)を行って適切な適応フィルタ処理を選択し、実行する。
【0123】
(歪み除去)
以上に説明した一連のノイズ除去を行った後には、アーティファクト(すなわち、人工的なノイズ)が残存することがある。オーディオ信号においては、長い定常性成分は存在しないと仮定できるため、そのような成分は除去されるべき干渉(すなわち、歪み)であるとみなすことができる。
【0124】
歪み除去部60は、オーディオノイズ除去が行われた後のオーディオ信号に対する歪み除去を行う。
図11は、本実施形態に係る歪み除去(ステップS60)のフローチャートを表す図である。まず、歪み除去部60は、歪み周波数推定を行う(ステップS61)。本実施形態では、ESPRIT法を用いて歪みの周波数を推定する。
【0125】
ESPRIT法を行う前に、推定をロバストにするために、歪み除去部60は、入力されるオーディオ信号に対してHuber関数を適用する。Huber関数は以下の式(17)により表される。
【数17】
【0126】
式(17)中の記号の意味は式(6)の通りである。x
nはn番目のスピーカーのオーディオ信号である。Kは切り抜きしきい値であり、任意に定めることができる。このフィルタにより、歪み周波数推定に対する外れ値の影響を低減することができる。
【0127】
ESPRIT法は、入力信号の周波数推定を行う周知の手法である。具体的には、まず、歪み除去部60は、オーディオノイズ除去がされたオーディオ信号の共分散行列を作成する。次に、歪み除去部60は、該共分散行列に対して特異値分解(SVD)を行い、固有値の大きい順にK個取り出してなる信号部分空間Usと、残りの雑音部分空間Unとに分割する。Usのうち、1〜(M−1)行目を取り出した行列をU
1とし、2〜M行目を取り出した行列をU
2とすると、U
2=U
1Ψと書ける。歪み除去部60は、このΨの固有値分解を行い、得られた各固有値から推定周波数を算出する。
歪み周波数推定により得られた推定周波数のうち、最小の推定周波数は長い定常性成分に対応しており、これを歪みとみなす。
【0128】
歪み周波数推定が終了した後、歪み除去部60は、適応フィルタ処理を行う(ステップS62)。
図12は、歪み除去における適応フィルタ処理の概念図である。この適応フィルタ処理では、まずオーディオ信号に対して、歪みの推定周波数の逆数(すなわち、歪み周期)の分、遅延を与える。次に、オーディオ信号と遅延されたオーディオ信号とを適応フィルタに入力し、エラー信号として歪みが除去されたオーディオ信号を出力する。適応フィルタとしては、LMS等の任意のアルゴリズムを用いることができる。
【0129】
歪みが除去されたオーディオ信号は、最終的にスピーカーに出力される。
【0130】
本実施形態では、変調信号またはオーディオ信号からノイズを除去する処理に関わる一要素を、ノイズの分布を表すパラメータαに応じて変更することによって、変調信号またはオーディオ信号からノイズを効果的に除去することができる。すなわち、ロバスト多重参照ノイズ除去(ステップS20)では、パラメータαを含む統計パラメータにしたがってノイズ除去方法を選択しており、さらにパラメータαに応じて適応フィルタ処理に用いられる数式の一部を変更している。また、主アンテナ処理(ステップS30)では、自然時間周波数ノイズ除去の計算式にパラメータαを用いている。さらに、オーディオノイズ除去(ステップS50)では、パラメータαに応じてしきい値処理のグリッド分割を変更している。
【0131】
このように、ノイズの分布を表すパラメータαを含む統計パラメータをノイズ除去に利用することによって、ノイズの種類に応じて適切なノイズ除去方法を選択することができ、またノイズ除去方法をノイズの種類に対応するように変更できるため、様々な種類のノイズ、特にインパルス性ノイズに対して効果的にノイズ除去が可能となる。
【0132】
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。