特許第6015286号(P6015286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドヴィックスの特許一覧

<>
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000002
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000003
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000004
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000005
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000006
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000007
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000008
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000009
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000010
  • 特許6015286-車両用制動制御装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015286
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】車両用制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20161013BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20161013BHJP
   B60T 13/128 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B60T8/17 C
   B60T13/128
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-209124(P2012-209124)
(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公開番号】特開2014-61833(P2014-61833A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】石本 卓士
(72)【発明者】
【氏名】宮田 好洋
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−322660(JP,A)
【文献】 特開2001−206208(JP,A)
【文献】 特開2009−154814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/1769
B60T 8/32− 8/96
B60T13/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(20)内を摺動するピストン(21,22)と前記ピストンを移動させる液圧をアシスト室(3A)内に発生させるスプール弁とを備え、前記スプール弁は、スリーブ(331)とスプール(332)とを有し、前記スプールが前記スリーブに対して相対移動することにより、前記アシスト室を液圧源(7)に接続する第1通路と前記アシスト室をリザーバ(X)に接続する第2通路とをそれぞれ連通状態または遮断状態とし、前記ピストンの移動によりマスタ圧を変化させる液圧発生装置(2)を備えた車両用制動装置に適用され、
記ピストンが制動力増大方向に移動した後続いて停止している増大後停止状態と、前記ピストンが制動力減少方向に移動した後続いて停止している減少後停止状態と、を判別する停止状態判別手段(6)と、
前記停止状態判別手段による判別結果に応じて前記車両用制動装置を制御する制御手段(6)と、を備える車両用制動制御装置。
【請求項2】
前記液圧発生装置とホイルシリンダとの間のブレーキ液経路に設けられ、前記ホイルシリンダ側の液圧の前記液圧発生装置側の液圧に対する差圧を調整する電磁弁(51)と、
前記ブレーキ液経路の前記電磁弁よりも前記液圧発生装置側のブレーキ液を、前記ブレーキ液経路の前記電磁弁よりも前記ホイルシリンダ側に吐出するポンプ(54)と、を備えている車両用制動装置に適用され、
前記制御手段は、前記停止状態判別手段による判別結果に応じて、前記電磁弁による差圧を制御する請求項1の車両用制動制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別された後続いてブレーキ操作部材が制動力増大方向に操作された場合に、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別された後続いて前記ブレーキ操作部材が制動力増大方向に操作された場合よりも、前記電磁弁による差圧を大きくする請求項2の車両用制動制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電磁弁の差圧を減少させるに際し、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別されている場合に、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別されている場合よりも、前記電磁弁による差圧の単位時間当たりの減少幅を大きくする請求項2又は3の車両用制動制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記電磁弁の差圧を増大させるに際し、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別されている場合に、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別されている場合よりも、前記電磁弁による差圧の単位時間当たりの増大幅を小さくする請求項2から4の何れか一項の車両用制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置を制御する車両用制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ピストンがマスタシリンダ内を摺動する液圧発生装置を備える制動装置では、ピストンをマスタ圧が増大する方向(マスタ圧増大方向)に移動させる場合とピストンをマスタ圧が減少する方向(マスタ圧減少方向)に移動させる場合とで、ピストンを移動させる駆動力(例えば、ブレーキ操作部材に対する操作力)の大きさとその駆動力の大きさに対応するマスタ圧とにヒステリシスが存在することが知られている。
【0003】
これに対して、特開平9−132125号公報(特許文献1)に記載の発明では、ピストンがマスタ圧増大方向に移動する場合のアシスト量(マスタ圧増大方向アシスト量)と、ピストンがマスタ圧減少方向に移動する場合のアシスト量(マスタ圧減少方向アシスト量)を予め設定しておき、ピストンが制動力増大方向に移動した後に続いて停止又はマスタ圧減少方向に移動した場合に、アシスト量をマスタ圧増大方向アシスト量からマスタ圧減少方向アシスト量まで徐々に減少させることにより、ブレーキ操作にリニアリティを持たせようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−132125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明により、ピストンに係るヒステリシスに起因する問題が十分に改善することができたとは言い難い。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ピストンに係るヒステリシスに起因する問題を改善する車両用制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、マスタシリンダ内を摺動するピストンと前記ピストンを移動させる液圧をアシスト室内に発生させるスプール弁とを備え、前記スプール弁は、スリーブとスプールとを有し、前記スプールが前記スリーブに対して相対移動することにより、前記アシスト室を液圧源に接続する第1通路と前記アシスト室をリザーバに接続する第2通路とをそれぞれ連通状態または遮断状態とし、前記ピストンの移動によりマスタ圧を変化させる液圧発生装置を備えた車両用制動装置に適用され、前記ピストンが制動力増大方向に移動した後続いて停止している増大後停止状態と、前記ピストンが制動力減少方向に移動した後続いて停止している減少後停止状態と、を判別する停止状態判別手段と、前記停止状態判別手段による判別結果に応じて前記車両用制動装置を制御する制御手段と、を備えることである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記液圧発生装置とホイルシリンダとの間のブレーキ液経路に設けられ、前記ホイルシリンダ側の液圧の前記液圧発生装置側の液圧に対する差圧を調整する電磁弁と、前記ブレーキ液経路の前記電磁弁よりも前記液圧発生装置側のブレーキ液を、前記ブレーキ液経路の前記電磁弁よりも前記ホイルシリンダ側に吐出するポンプと、を備えている車両用制動装置に適用され、前記制御手段は、前記停止状態判別手段による判別結果に応じて、前記電磁弁による差圧を制御することである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記制御手段は、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別された後続いてブレーキ操作部材が制動力増大方向に操作された場合に、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別された後続いて前記ブレーキ操作部材が制動力増大方向に操作された場合よりも、前記電磁弁による差圧を大きくすることである。

【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3において、前記制御手段は、前記電磁弁の差圧を減少させるに際し、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別されている場合に、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別されている場合よりも、前記電磁弁による差圧の単位時間当たりの減少幅を大きくすることである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項2から4の何れか一項において、前記制御手段は、前記電磁弁の差圧を増大させるに際し、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別されている場合に、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別されている場合よりも、前記電磁弁による差圧の単位時間当たりの増大幅を小さくすることである。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1において、前記ピストンを駆動する駆動部を備える車両用制動装置に適用され、前記制御手段は、前記ピストンが停止している状態から前記駆動部により当該ピストンをマスタ圧増大方向に駆動するに際し、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態が判別されている場合に、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態が判別されている場合よりも、前記駆動部による前記ピストンのマスタ圧増大方向の駆動力を大きくすることである。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1又は6において、前記ピストンを駆動する駆動部を備える車両用制動装置に適用され、前記制御手段は、前記ピストンが停止している状態から前記駆動部により当該ピストンをマスタ圧減少方向に駆動するに際し、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態が判別されている場合に、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態が判別されている場合よりも、前記駆動部による前記ピストンのマスタ圧減少方向の駆動力を大きくすることである。
【発明の効果】
【0014】
発明者らは請求項1に記載の車両用制動装置では、「ピストンが増大後停止状態から、ピストンがマスタ圧増大方向に移動した場合とマスタ圧減少方向に移動した場合とで、ピストンを移動させる駆動力とその駆動力に対応するマスタ圧とにヒステリシスが存在する」ことを、「ピストンが減少後停止状態から、ピストンがマスタ圧増大方向に移動した場合とマスタ圧減少方向に移動した場合とで、ピストンを摺動させる力とマスタ圧とにヒステリシスが存在する」ことを見いだした。
【0015】
そこで、請求項1に記載の車両用制動制御では、増大後停止状態と減少後停止状態とを判別し、その判別結果に応じて上記車両用制動装置を制御するようにしている。
こうして、ピストンが停止している状態から移動するときのヒステリシスを補償することにより、制動力の制御性を高めることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、ピストンが停止している状態から移動するときのヒステリシスを電磁弁による差圧で補償することにより、制動力の制御性を高めることができる。
【0017】
減少後停止状態からピストンがマスタ圧増大方向に移動する場合は、同減少後停止状態からピストンがマスタ圧減少方向に移動する場合よりも、ピストンを移動させる駆動力の大きさに対するマスタ圧が低くなる。
【0018】
そこで、請求項3に記載の発明では、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別された後続いて前記ブレーキ操作部材が制動力増大方向に操作された場合に、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別された後続いて前記ブレーキ操作部材が制動力増大方向に操作された場合よりも、前記電磁弁による差圧を大きくすることである。こうして、ピストンが停止している状態からマスタ圧増大方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、制動力を増大させる際の制御性を高めることができる。
【0019】
ホイルシリンダ圧を減少させるべく電磁弁の差圧を減少させると、ブレーキ液がホイリシリンダから電磁弁を介してマスタシリンダに流れ込む。ここで、ピストンが増大後停止状態からマスタ圧減少方向に移動する場合は、ピストンが減少後停止状態からマスタ圧減少方向に移動する場合よりも、ピストンを移動させる駆動力の大きさに対応するマスタ圧は大きくなる。
【0020】
そこで、請求項4に記載の発明では、前記電磁弁の差圧を減少させるに際し、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別されている場合に、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別されている場合よりも、前記電磁弁による差圧の単位時間当たりの減少幅を大きくすることである。こうして、ピストンが停止している状態からマスタ圧減少方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、制動力を減少させる際の制御性を高めることができる。
【0021】
ホイルシリンダ圧を増加させるべく電磁弁の差圧を増大させると、マスタシリンダからブレーキ液が電磁弁を介してホイルシリンダに流れ込む。ここで、ピストンが増大後停止状態からマスタ圧増大方向に移動する場合は、ピストンが減少後停止状態からマスタ圧増大方向に移動する場合よりも、ピストンを移動させる駆動力の大きさに対応するマスタ圧は大きくなる。
【0022】
そこで、請求項5に記載の発明では前記電磁弁の差圧を増大させるに際し、前記停止状態判別手段により前記増大後停止状態であることが判別されている場合に、前記停止状態判別手段により前記減少後停止状態であることが判別されている場合よりも、前記電磁弁による差圧の単位時間当たりの増大幅を小さくすることである。こうして、ピストンが停止している状態からマスタ圧増大方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、制動性を増大させる際の制御性を高めることができる。
【0023】
請求項6に記載の発明では、マスタピストンが停止している状態から駆動部によりマスタピストンをマスタ圧増大方向に駆動するに際して、減少後停止状態が判別されている場合には、増大後停止状態が判別されている場合よりも、駆動部によるマスタ圧増大方向の駆動力を大きくすることである。こうして、マスタピストンが停止している状態からマスタ圧増大方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、マスタ圧を増大させる際の応答性を高めることができる。
【0024】
請求項7に記載の発明では、マスタピストンが停止している状態から駆動部によりマスタピストンをマスタ圧減少方向に駆動するに際して、増大後停止状態が制御されている場合には、減少後停止状態が判定されている場合よりも、駆動部によるマスタ圧減少方向の駆動力を大きくすることである。こうして、マスタピストンが停止している状態からマスタ圧減少方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、マスタ圧を減少させる際の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態に係る車両用制動制御装置で制御される車両用制動装置の構成を示す部分断面説明図である。
図2】車両用制動制御装置による増モードおよび減モードの判別動作を説明するためのフローチャートである。
図3】運転者がブレーキペダル1を踏み増した場合の車両用制動制御装置による制御動作を説明するためのフローチャートである。
図4】液圧制動から回生制動への高速すり替えを行う場合の車両用制動制御装置による制御動作を説明するためのフローチャートである。
図5】回生制動から液圧制動への低速すり替えを行う場合の車両用制動制御装置による制御動作を説明するためのフローチャートである。
図6】非増モードで低速すり替えを行う場合の車両用制動制御装置による制御動作を示すタイムチャートである。
図7】増モードで低速すり替えを行う場合の車両用制動制御装置による制御動作を示すタイムチャートである。
図8】アシスト室内の液圧とブレーキペダルの操作による踏力との関係を示す図である。
図9】マスタ室内の液圧とブレーキペダルの操作による踏力との関係を示す図である。
図10】本発明の他の実施の形態に係る車両用制動制御装置で制御される車両用制動装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態に係る車両用制動制御装置で制御される車両用制動装置は、図1に示すように、ブレーキペダル(「ブレーキ操作部材」に相当する)1と、ブースタハウジング10と、液圧発生装置2と、倍力装置3と、ホイルシリンダ4と、液圧制御装置5と、ブレーキECU6と、液圧源7と、ブレーキECU6と通信する後述する各種センサと、ハイブリッドECU(図示せず)と、を備えて構成される。上述のセンサとしては、ブレーキペダル1の操作量を検出するストロークセンサ8、液圧発生装置2の液圧を検出する圧力センサ9、液圧源7の液圧を検出する圧力センサ7d、車両速度を検出する速度センサ11等がある。なお、説明において、ブレーキペダル1の踏み込みにより後述するマスタピストン21、22が駆動する方向(図1左方向)を「前進方向」とし、その反対方向(図1右方向)を「後退方向」とする。
【0027】
液圧発生装置2は、マスタシリンダ20と、第1マスタピストン21と、第2マスタピストン22と、復帰スプリング23と、リザーバXと、を備えている。マスタシリンダ20は、ブースタハウジング10の前進側端部に接続されている。マスタシリンダ20は、公知のタンデム型のマスタシリンダと同様であり、詳細な説明は省略する。
【0028】
マスタシリンダ20内には、マスタシリンダ20内周面、第1マスタピストン21の前進側部位、及び第2マスタピストン22の後退側部位により「第1マスタ室2A1」が形成(区画)されている。同様に、マスタシリンダ20内には、マスタシリンダ20内周面、及び第2マスタピストン22の前進側部位により「第2マスタ室2A2」が形成(区画)されている。液圧発生装置2は、マスタピストン21、22がマスタシリンダ20に対して摺動することで、マスタ室2A内に液圧を発生させる。以下、第1マスタ室2A1及び第2マスタ室2A2は、マスタ室2Aと称する。
【0029】
マスタピストン21、22は、前進側が開口した有底筒形状に形成されており、復帰スプリング23により後退方向に付勢されている。ここで、第1マスタピストン21には、自身の後退側端部から後退方向に延びる筒状部21aが形成されている。リザーバXは、マスタシリンダ20のポート20a、20bに接続されている。マスタピストン21、22が初期位置にある場合にリザーバXとマスタ室2Aとが連通する。
【0030】
液圧源7は、リザーバXに接続されたポンプ7aと、ポンプ7aを駆動するモータ7bと、アキュムレータ7cと、圧力センサ7dと、を備えている。液圧源7は、圧力センサ7dによる検出圧力に基づいてモータ7bをオン、オフさせ、アキュムレータ7cに蓄える液圧を所定の上下限値内に保持する。
【0031】
倍力装置3は、ブースタハウジング10内に配置され、入力ロッド31と、出力部材32と、調圧部33と、を備えている。倍力装置3は、ブレーキペダル1の操作に応じて液圧源7から後述するアシスト室3A内に液圧を供給する装置である。
【0032】
入力ロッド31は、後退側端部でブレーキペダル1に接続されており、ブレーキペダル1の操作量又は操作力に応じで前後に移動する。出力部材32は、後述する反力付与部材Yの前進側端部に配置され、後述するブーストピストン331の前進に応じて前進する。
【0033】
調圧部33は、ブーストピストン331と、スプール弁332と、を備えている。ブーストピストン331は、略筒形状に形成されており、内部に入力ロッド31とスプール弁332と反力付与部材Yが収容されている。ブーストピストン331は、ブースタハウジング10内後退側においてアシスト室3Aを区画している。つまり、ブーストピストン331後退側には、ブーストピストン331とブースタハウジング10内周面とによりアシスト室3Aが形成されている。
【0034】
ブーストピストン331には、通路331a、331b、331cが設けられている。通路331aは、液圧源7とブーストピストン331内部とを連通させる通路である。通路331bは、アシスト室3Aとブーストピストン331内部とを連通させる通路である。通路331cは、リザーバXとブーストピストン331内部とを連通させる通路である。
【0035】
スプール弁332は、入力ロッド31よりも径が大きい部位(大径部)332a、332bを有し、大径部332a、332bのブーストピストン331に対する相対位置を前後に摺動させることで各通路331a〜331cが開閉する。スプール弁332は、入力ロッド31に接続されており、入力ロッド31の前進後退に応じて摺動する。ブーストピストン331には前進側端面に開口する有底の大径穴331dが形成され、大径穴331dに反力付与部材Yが配置されている。スプール弁332の前進側端部に形成された小径部分332cは、大径穴331dの底部を摺動可能に貫通して反力付与部材Yと当接している。
【0036】
調圧部33では、ブレーキペダル1が踏まれて入力ロッド31がブーストピストン331に対して前進し大径部332aが所定量前進すると、通路331aが開口し、液圧源31とアシスト室3Aとが連通する。これにより、高圧のブレーキ液がアシスト室3Aに流入する。調圧部33は、ブレーキペダル1の操作に応じて、アシスト室3Aに高圧の液圧を供給する。アシスト室3Aが高圧になると、ブーストピストン331が前進し、出力部材32を前進させる。出力部材32は、前進側において、第1マスタピストン21に連結されている。出力部材32の前進側端部は、筒状部21a内に配置されている。出力部材32の後退側に形成された大径部分32aは、ブーストピストン331の前進側端面に開口する大径穴331dに摺動可能に嵌合され、反力付与部材Yと当接している。反力付与部材Yは、ゴムディスクで形成された周知の部材であり、ブレーキ操作量に応じた反力を作り出すものである。なお、入力ロッド31及びスプール弁332が復帰スプリング333により最後退位置に押し戻された状態では、通路331b、331cが開口し、アシスト室3AとリザーバXとが連通する。
【0037】
液圧制御装置5は、マスタシリンダ20とホイルシリンダ4の間に配置され、ブレーキECU6の指令に基づき、マスタ室2Aから供給される液圧(マスタ圧)を調圧してホイルシリンダ4に供給するものである。例えば、ホイルシリンダ4にマスタ圧(基礎液圧)のみが供給されて発生した基礎制動力と回生制動力とだけでは制動力が不足する場合、液圧制御装置5は不足する制動力(制御制動力)に相当する制御液圧を発生し、基礎液圧に加えてホイルシリンダ4に供給しホイルシリンダ4にホイル圧を発生する。液圧制御装置5は、その他にも各種制御を行い、例えばABSでは、マスタ室2Aから供給される液圧を維持、増圧、又は減圧してホイル圧を制御することができる。
【0038】
液圧制御装置5は、弁装置51(「電磁弁」に相当する)と、増圧弁52と、減圧弁53と、ポンプ54と、モータ55と、リザーバ56と、を備えている。弁装置51は、常開型の電磁弁であって、マスタ室2Aに接続された配管511に接続されている。弁装置51は、連通状態(無通電状態)と差圧状態とに制御できる電磁弁であって、ポンプ54駆動状態において自身のソレノイドに流れる電流の電流値に応じて、ホイル圧とマスタ圧との差圧状態が変化する。この電流値が大きいほど差圧量が大きくなる。このように、弁装置51は、液圧発生装置2とホイルシリンダ4との間のブレーキ液の流れを制御する弁である。
【0039】
増圧弁52は、上流側(マスタ室2A側)が配管521を介して弁装置51及びポンプ54に接続され、下流側(ホイルシリンダ4側)が配管522を介してホイルシリンダ4に接続された常開型の電磁弁である。つまり、マスタ室2Aからのブレーキ液は、弁装置51及び増圧弁52を介してホイルシリンダ4に供給される。増圧弁52は、連通・遮断状態を制御できる2位置弁となっている。増圧弁52は、通常のブレーキ操作時には連通状態となっている。また、増圧弁52及び弁装置51には、それぞれ安全弁Zが並列に設けられている。
【0040】
減圧弁53は、一方が配管522に接続され、他方がリザーバ56及びポンプ54に接続された常閉型の電磁弁である。減圧弁53は、連通・遮断状態を制御できる2位置弁となっている。減圧弁53は、通常のブレーキ操作時には遮断状態となっている。
【0041】
ポンプ54は、吸入側がリザーバ56及び減圧弁53に接続され、吐出側が配管521(弁装置51の下流側及び増圧弁52の上流側)に接続されたポンプである。ポンプ54は、モータ54により駆動される。モータ54は、ブレーキECU6によりオン・オフ制御される。リザーバ56は、配管561を介してマスタ室2Aに接続され、配管562を介してポンプ54及び減圧弁53に接続されている。
【0042】
液圧制御装置5の制御は、公知の方法で行えば良い。簡単に説明すると、液圧制御装置5は、弁装置51によりマスタシリンダ20とホイルシリンダ4との間のブレーキ液の流れを制御した上で、ポンプ54により弁装置51よりもマスタシリンダ20側のブレーキ液を弁装置51よりもホイルシリンダ4側に吐出することにより、ホイル圧をマスタ圧に対して高い液圧に制御する。また、液圧制御装置5は、弁装置51によりマスタシリンダ20とホイルシリンダ4との間のブレーキ液の流れを開放することにより、ホイル圧をマスタ圧と実質的に同一の液圧に制御する。
【0043】
ハイブリッド車両において、制動力は、マスタ圧に制御液圧を加えたホイル圧による液圧制動力と回生ブレーキによる回生制動力との和である。したがって、ブレーキECU6は、ブレーキペダル1が操作されると、そのブレーキ操作量に応じた全制動力を演算し、全制動力から基礎制動力およびハイブリッドECUから受信した回生制動力を減算した制御制動力を演算し、制御制動力に対応する制御液圧を発生するように液圧制御装置5を制御する。
【0044】
例えば、ブレーキペダル1が踏まれると、マスタ圧に基づく基礎制動力及び回生制動力が生じる。そして、基礎制動力と回生制動力とだけでは制動力が不足する場合、液圧制御装置5は、弁装置51により流路を絞るとともにポンプ54によりブレーキ液を吐出することで、制御液圧を発生させる。このとき、ブレーキ操作量(ペダルストローク)に対応する全制動力(減速度)を保つために、回生制動力の増減に応じてホイル圧の制御が行われる。つまり、ブレーキECU6は、弁装置51の絞りを制御してホイル圧を制御する。
【0045】
上述の車両用制動装置においては、倍力装置3は、ブレーキペダル1の操作に応じて液圧源7からアシスト室3A内に液圧を供給し、アシスト室3A内を高圧にする。これにより、ブーストピストン331および出力部材32が前進し、マスタピストン21、22がマスタシリンダ20に対して摺動してマスタ室2A内に液圧を発生させる。図8に示すように、アシスト室3A内の液圧Paとブレーキペダル1の操作による踏力Fとの関係において、マスタピストン21、22が制動力増大方向に移動した後続いて停止している増大後停止状態(以下、増モードという)と、マスタピストン21、22が制動力減少方向に移動した後続いて停止している減少後停止状態(以下、減モードという)との間にはヒステリシスが生じる。また、図9に示すように、マスタ室2A内の液圧Pmとブレーキペダル1の操作による踏力Fとの関係において、増モードと減モードとの間にはヒステリシスが生じる。すなわち、アシスト室3A内の液圧Paおよびマスタ室2A内の液圧Pmは、次式(1)で表される関係が成り立つ。よって、本実施形態の車両用制動制御装置では、式(1)に基づいて増モードおよび減モードを判別し、増モードおよび減モードに応じて各種の制動制御を行う。これにより、ピストンが停止している状態から移動するときのヒステリシスを補償することにより、制動力の制御性を高めることができる。
【0046】
Pa=K*Pm・・・(1)
ただし、Kは、所定係数であり、例えば、スプール弁332の反力付与部材Yと当接する小径部分332cの面積や、出力部材32の反力付与部材Yと当接する大径部分32aの面積等で決定される油圧釣り合い比率である。
【0047】
先ず、車両用制動制御装置による増モードおよび減モードの判別動作について、図2のフローチャートを参照して説明する。ステップS1において、運転者によるブレーキペダル1の操作が一定、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STの変動(ST(n)−ST(n−1))が所定閾操作量ΔSTth1未満であるか否かを判断する。運転者によるブレーキペダル1の操作が一定でないときは、ステップS2において、増モードおよび減モードでないと判断し、増モードフラグおよび減モードフラグをオフ(Fr(n)=0,Fd(n)=0)にして処理を終了する。
【0048】
一方、ステップS1において、運転者によるブレーキペダル1の操作が一定であるときは、ステップS3において、マスタ室2A内の液圧Pm(以下、マスタ圧Pmという)がアシスト室3A内の液圧Pa(以下、アシスト圧Paという)の所定係数K倍よりも小さいか否かを判断する。マスタ圧Pmがアシスト圧Paの所定係数K倍よりも大きいときは、減モードであると判断し、ステップS4において、増モードフラグをオフ(Fr(n)=0)、減モードフラグをオン(Fd(n)=1)にして処理を終了する。
【0049】
一方、ステップS3において、マスタ圧Pmがアシスト圧Paの所定係数K倍よりも小さいときは、増モードであると判断し、ステップS5において、増モードフラグをオン(Fr(n)=1)、減モードフラグをオフ(Fd(n)=0)にして処理を終了する。以上の処理により、増モードおよび減モードを判別することができる。
【0050】
次に、運転者がブレーキペダル1を踏み増した場合の車両用制動制御装置による制御動作について、図3のフローチャートを参照して説明する。ステップS11において、運転者によるブレーキペダル1の操作が踏み増し、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STの変動(ST(n)−ST(n−1))が急制動に相当する所定閾操作量ΔSTth2を超えたか否かを判断する。運転者によるブレーキペダル1の操作が踏み増しでないときは、処理を終了する。
【0051】
一方、ステップS11において、運転者によるブレーキペダル1の操作が踏み増しであるときは、ステップS12において、減モードであるか否か、すなわち減モードフラグがオン(Fd(n)=1)であるか否かを判断する。そして、減モードでないときは、ステップS13において、非減モード急制動時の液圧制御装置5の弁装置51に対する指示差圧ΔPi1を算出、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STに応じた要求制動トルクから回生実行トルクを減算して弁装置51に対する指示差圧ΔPi1を求め、処理を終了する。車両用制動制御装置は、算出した指示差圧ΔPi1で液圧制御装置5の弁装置51を制御して車両に制動を掛ける。
【0052】
一方、ステップS12において、減モードであるときは、ステップS14において、減モード急制動時の液圧制御装置5の弁装置51に対する指示差圧ΔPi2を算出、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STに応じた要求制動トルクから回生実行トルクを減算し、所定の差圧Ps(>0)を加算して弁装置51に対する指示差圧ΔPi2を求め、処理を終了する。車両用制動制御装置は、算出した指示差圧ΔPi2で液圧制御装置5の弁装置51を制御して車両に制動を掛ける。
【0053】
以上の処理により、減モード時に運転者がブレーキペダル1を踏み増した場合、液圧制御装置5の弁装置51には所定の差圧Ps分だけ大きい指示差圧ΔPi2が指示されるので、ピストンが停止している状態からマスタ圧増大方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、制動力を増大させる際の制御性を高めることができる。
【0054】
次に、液圧制動から回生制動への高速すり替えを行う場合の車両用制動制御装置による制御動作について、図4のフローチャートを参照して説明する。ステップS21において、液圧制動および回生制動の協調中であるか否かを判断し、液圧制動および回生制動の協調中でない場合は処理を終了する。一方、ステップS21において、液圧制動および回生制動の協調中である場合は、ステップS22において、車両速度VSが高速すり替え速度であるか否か、すなわち所定閾車速Vth1(例えば、10数Km/h)より大きいか否かを判断し、車両速度VSが高速すり替え速度でない場合は処理を終了する。
【0055】
一方、ステップS22において、車両速度VSが高速すり替え速度である場合は、ステップS23において、高速すり替え中であるか否か、すなわち回生実行トルクTRが増加中(TR(n)−TR(n−1)>0)であるか否かを判断し、高速すり替え中でない場合は処理を終了する。一方、ステップS23において、高速すり替え中である場合は、ステップS24において、増モードであるか否か、すなわち増モードフラグがオン(Fr(n)=1)であるか否かを判断する。そして、増モードでないときは、ステップS25において、非増モード高速すり替え時の液圧制御装置5の弁装置51に対する指示差圧ΔPi3を算出、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STに応じた要求制動トルクから回生実行トルクを減算して弁装置51に対する指示差圧ΔPi3を求め、処理を終了する。車両用制動制御装置は、算出した指示差圧ΔPi3で液圧制御装置5の弁装置51を制御して車両に制動を掛ける。
【0056】
一方、ステップS24において、増モードであるときは、ステップS26において、増モード高速すり替え時の液圧制御装置5の弁装置51に対する指示差圧ΔPi4を算出、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STに応じた要求制動トルクから回生実行トルクを減算し、所定の差圧Pt(>0)を減算して弁装置51に対する指示差圧ΔPi4を求め、処理を終了する。車両用制動制御装置は、算出した指示差圧ΔPi4で液圧制御装置5の弁装置51を制御して車両に制動を掛ける。
【0057】
以上の処理により、増モード時に高速すり替えを行う場合、液圧制御装置5の弁装置51にはマスタピストン21、22の後退方向の移動し難さ(戻り難さ)を考慮して所定の差圧Pt分だけ小さい指示差圧ΔPi4、すなわち単位時間当たりの減少幅が大きい指示差圧ΔPi4が指示されるので、ピストンが停止している状態からマスタ圧減少方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、制動力を減少させる際の制御性を高めることができる。
【0058】
次に、回生制動から液圧制動への低速すり替えを行う場合の車両用制動制御装置による制御動作について、図5のフローチャートを参照して説明する。ステップS31において、液圧制動および回生制動の協調中であるか否かを判断し、液圧制動および回生制動の協調中でない場合は処理を終了する。一方、ステップS31において、液圧制動および回生制動の協調中である場合は、ステップS32において、車両速度VSが低速すり替え速度であるか否か、すなわち所定閾車速Vth1(例えば、10数Km/h)に所定速度V1を加算した速度(Vth1+V1)より小さいか否かを判断し、車両速度VSが低速すり替え速度でない場合は処理を終了する。
【0059】
一方、ステップS32において、車両速度VSが低速すり替え速度である場合は、ステップS33において、増モードであるか否か、すなわち増モードフラグがオン(Fr(n)=1)であるか否かを判断する。そして、増モードでないときは、ステップS34において、車両速度VSが所定閾車速Vth1より大きく、所定閾車速Vth1に所定速度V1を加算した速度(Vth1+V1)より小さいか否かを判断する。そして、車両速度VSが所定閾車速Vth1より大きく、所定閾車速Vth1に所定速度V1を加算した速度(Vth1+V1)より小さい場合は、ステップS35において、非増モード低速すり替え時の液圧制御装置5の弁装置51に対する指示差圧ΔPi1(n)を算出、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STに応じた要求制動トルクから回生実行トルクを減算して弁装置51に対する指示差圧ΔPi1(n)を求め、処理を終了する。この場合、算出した指示差圧ΔPi1(n)は一定値(=ΔPi1(n−1))となる。車両用制動制御装置は、算出した指示差圧ΔPi1(n)(=ΔPi1(n−1))で液圧制御装置5の弁装置51を制御して車両に制動を掛ける。
【0060】
一方、ステップS34において、車両速度VSが所定閾車速Vth1より小さい場合は、ステップS36において、非増モード低速すり替え時の液圧制御装置5の弁装置51に対する指示差圧ΔPi2(n)を算出、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STに応じた要求制動トルクから回生実行トルクを減算し、所定の差圧Pv(>0)を加算して弁装置51に対する指示差圧ΔPi2を求め、処理を終了する。この場合、算出した指示差圧ΔPi2(n)の増大勾配は、所定の差圧Pv分となる。車両用制動制御装置は、算出した指示差圧ΔPi2(n)(=ΔPi2(n−1)+Pv)で液圧制御装置5の弁装置51を制御して車両に制動を掛ける。
【0061】
一方、ステップS33において、増モードであるときは、ステップS37において、増モード低速すり替え時の液圧制御装置5の弁装置51に対する指示差圧ΔPi3(n)を算出、すなわちストロークセンサ8のセンサ値STに応じた要求制動トルクから回生実行トルクを減算し、所定の差圧Pw(<Pv)を加算して弁装置51に対する指示差圧ΔPi3(n)を求め、処理を終了する。この場合、算出した指示差圧ΔPi3(n)の増大勾配は、所定の差圧Pw(<Pv)分となり、ステップS36で求めた指示差圧ΔPi2(n)の増大勾配より小さくなる。そして、指示差圧ΔPi3(n)の開始時点は、ステップS36で求めた指示差圧ΔPi2(n)の開始時点より早くなる。車両用制動制御装置は、算出した指示差圧ΔPi3(n)(=ΔPi3(n−1)+Pw)で液圧制御装置5の弁装置51を制御して車両に制動を掛ける。
【0062】
以上の処理により、増モード時に低速すり替えを行う場合、液圧制御装置5の弁装置51には増大勾配を小さくした指示差圧ΔPi3(n)、すなわち単位時間当たりの増大幅が大きい指示差圧ΔPi3(n)が早い時点で指示されるので、マスタシリンダ20内のブレーキ液の急激な減少を抑制することができる。よって、ピストンが停止している状態からマスタ圧増大方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、制動性を増大させる際の制御性を高めることができる。
【0063】
次に、非増モードで低速すり替えを行う場合および増モードで低速すり替えを行う場合の車両用制動制御装置による制御動作について、図6および図7のタイムチャートを参照して説明する。なお、図6および図7において、ブレーキペダル1の操作量が、時点t0から時点t2まで増加し、時点t2以降は所定量に保持されていることを想定している。非増モード時における図6では、時点t0において、プレーキペダル1が踏み込まれると(図6(b))、車両速度がVoから減速し始め(図6(a)の時点t1〜)、回生協調が開始される(図6(c)の時点t1〜)。
【0064】
そして、時点t1から時点t2では、ブレーキペダル1の操作量増加に伴って液圧制動力が増加し、時点t2から時点t3では、車両速度の低下に伴って液圧制動力が減少する(図6(c))。時点t4において車両速度が所定閾車速Vth1より大きく、所定閾車速Vth1に所定速度V1を加算した速度(Vth1+V1)より小さくなると(図6(a))、指示差圧ΔPi1(n)(=ΔPi1(n−1))で液圧制御装置5の弁装置51を制御する。そして、時点t5において車両速度が所定閾車速Vth1より小さくなると(図6(a))、低速すり替えが開始され(図6(c))、指示差圧ΔPi2(n)+Pvで液圧制御装置5の弁装置51を制御してホイルシリンダ4内にブレーキ液が導入される(図6(d))。
【0065】
一方、増モード時における図7では、時点t0から時点t3までは上述の非増モード時と同様であるが、時点t5よりも前の時点t4において低速すり替えが開始され(図7(c))、指示差圧ΔPi3(n)+Pwで液圧制御装置5の弁装置51を制御してホイルシリンダ4内にブレーキ液が導入される(図7(d))。増モード時における指示差圧ΔPi3(n)+Pwは、非増モード時における指示差圧ΔPi2(n)+Pvよりも早い時点t4で指示され、また、Pw<Pvであるため、増モード時における指示差圧ΔPi3(n)+Pwの増大勾配は、非増モード時における指示差圧ΔPi2(n)+Pvの増大勾配より小さくなるので、ブレーキペダル1の吸い込まれを抑制することができる。
【0066】
なお、上述の実施形態では、アシスト室3A内の液圧Paおよびマスタ室2A内の液圧Pmにより増モードおよび減モードを判別する構成としたが、減速度をフィードバックして減速度の大きさにより増モードおよび減モードを推測して判別する構成としてもよい。この構成の場合、液圧源7の液圧を検出する圧力センサ7dおよび液圧発生装置2の液圧を検出する圧力センサ9が不要となる。
【0067】
(他の実施形態)
上記実施形態では、倍力装置3の出力部材32で第1マスタピストン21を駆動する液圧発生装置2を備えた車両用制御装置に本発明を適用した一例について説明したが、本発明は当該車両用制動制御以外にも適用可能である。
例えば本発明は、図10に示すように、第1マスタピストン21を所望の駆動力で制動する駆動部40を有する減圧発生装置30を備えた車両用制動装置に転用可能である。なお、図10において、図1と同一構成部材は同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0068】
この場合、マスタピストン21、22が停止している状態から駆動部40によりマスタピストン21、22をマスタ圧増大方向に駆動するに際して、減少後停止状態が判別されている場合には、増大後停止状態が判別されている場合よりも、駆動部によるマスタ圧増大方向の駆動力を大きくすることが考えられる。こうして、マスタピストン21、22が停止している状態からマスタ圧増大方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、マスタ圧を増大させる際の応答性を高めることができる。
【0069】
また、マスタピストン21、22が停止している状態から駆動部40によりマスタピストン21、22をマスタ圧減少方向に駆動するに際して、増大後停止状態が判別されている場合には、減少後停止状態が判別されている場合よりも、駆動部によるマスタ圧減少方向の駆動力を大きくすることが考えられる。こうして、マスタピストン21、22が停止している状態からマスタ圧減少方向に移動するときのヒステリシスを補償することにより、マスタ圧を減少させる際の応答性を高めることができる。
【0070】
駆動部40としては、マスタピストン21、22の後端面により区画された液圧室の液圧を制御し、当該液圧室の液圧に対応する力でマスタピストンを駆動するものや、マスタピストン21、22を電気モータにより駆動するものが考えられる。
【符号の説明】
【0071】
1:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、 10:ブースタハウジング、 2、30:液圧発生装置、 20:マスタシリンダ、 2A:マスタ室、 21:第1マスタピストン、 22:第2マスタピストン、 3:倍力装置、 3A:アシスト室、 33:調圧部、 4:ホイルシリンダ、 40:駆動部、 5:液圧制御装置、 51:弁装置(電磁弁)、 54:ポンプ、 55:モータ、 56:リザーバ、 6:ブレーキECU、 7:液圧源、 8:ストロークセンサ、 9:圧力センサ、 11:速度センサ、 X:リザーバ、 Y:反力付与部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10