(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015295
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】電縫溶接管の熱処理方法
(51)【国際特許分類】
B21C 37/08 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
B21C37/08 F
B21C37/08 R
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-211602(P2012-211602)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-65053(P2014-65053A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 周一
(72)【発明者】
【氏名】坂下 重人
(72)【発明者】
【氏名】坪内 進
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−140251(JP,A)
【文献】
特開平04−371523(JP,A)
【文献】
特開昭55−161589(JP,A)
【文献】
特開昭61−231123(JP,A)
【文献】
特開昭61−231122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 37/08,51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電縫鋼管の熱処理方法であって、ビードトリマーの下流側に、複数の誘電子を備えた熱処理装置を配置した電縫鋼管製造ラインにおいて前記熱処理装置によりビード切削後の溶接部を熱処理する際、ビード切削後における溶接部近傍の鋼管外表面温度分布を基にシーム推定位置Pを求めると共に、熱処理後における溶接部近傍の鋼管外表面温度分布を基にシーム推定位置Qを求め、求められたシーム推定位置Pおよびシーム推定位置Qを結ぶ線を用いて鋼管外表面における溶接部の位置を求め、前記熱処理装置の誘電子を前記溶接部を倣うように制御することを特徴とする電縫鋼管の熱処理方法。
【請求項2】
前記電縫鋼管製造ラインにおける電縫溶接後の電縫鋼管の進行方向をZ軸、電縫鋼管の進行方向と鉛直方向をY軸、電縫鋼管の進行方向と水平直角方向をX軸とし、
前記熱処理装置によりビード切削後の溶接部を熱処理する際、
ビード切削後における溶接部近傍の鋼管外表面温度分布を基にシーム推定位置Pを求めると共に、熱処理後における溶接部近傍の鋼管外表面温度分布を基にシーム推定位置Qを求め、
求められたシーム推定位置Pとシーム推定位置Qを結ぶ、XZ平面の線aの上にシームがあるものとして、前記熱処理装置の誘電子を線a上に位置するように制御することを特徴とする請求項1に記載する電縫鋼管の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫溶接管の溶接部を熱処理する際、溶接部近傍の温度分布を利用して求めた溶接部の位置を倣って熱処理する電縫溶接管の熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管の製造において、電縫溶接された溶接部(シーム部、シーム溶接部と記載する場合がある)の位置を検出する技術は、ビード切削の加工精度、溶接部の熱処理品質、および溶接部非破壊検査の精度に影響するため、非常に重要である。
【0003】
特に、ラインパイプ規格において、溶接部性能を向上させることを目的に、内面までの焼きならしが義務付けられているため、溶接後の熱処理を行う際に、溶接部を精度良く検出することは重要である。
【0004】
電縫鋼管の溶接部は、製造プロセス上、管表面に垂直な直線状となり、鋼管の外表面上の溶接部より、管厚方向における溶接部の位置を推定することは比較的容易である。
【0005】
しかし、溶接後の熱処理を行う際に、鋼管の外表面において溶接部の位置を特定することは、溶接ビードが切削されており、溶接部が外観上、鋼管母材部と大きな差異がなく困難で、幾つかの方法が検討提案されている。
【0006】
特許文献1は、電縫管のシーム部検出方法に関し、電縫溶接直後の電縫管周上の温度分布を測定し、溶接による高温部を検出することでシーム部の位置検出を行う方法の場合、溶接後の熱処理工程後においては検出精度が低下することを解決するため、電縫溶接直後において、シーム部の位置検出を行い、その結果により、予め、マーキングを施し、マーキング部と非マーキング部との放射率の違いによりマーキング位置を検出して、当該マーキング位置を基に、熱処理時や熱処理後のシーム部検出を行うことが記載されている。
【0007】
特許文献2は、電縫管のシーム位置検出装置に関し、電縫溶接する際のシーム位置検出を、シーム部を光源により照射しながら、シーム部周辺の反射強度をイメージセンサ等により検出し、得られた反射強度分布を二値化処理して行う装置において、反射強度分布がシーム位置の特定が困難な異常波形とならないように、シーム位置を挟んで左右対称に配置される一対の光源を鋼管断面の水平方向に移動させてその間隔を変化させたり、鋼管に対する軸方向角度および鋼管断面の周方向角度を変えて移動させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平03−264803号公報
【特許文献2】特開平03−158706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載のマーキングされたマークを基にシーム部を検出する方法では、シーム部検出装置により、溶接直後で高温となっているシーム部を検出し、その検出結果をもとにマーキング装置を用いてマーキングを行うため、シーム部検出装置とマーキング装置の両方が必要で設備的負荷が大きい。
【0010】
また、特許文献2記載のビード切削部の反射強度を利用した方法では、ビードの片取りや切削不安定部で切削刃が上下に動いて切削幅が変動するうなりや、ビビリなどで乱されたビード形状に対応することが困難で、設備的負荷が小さく、ビード切削後のシーム部を高精度に検出する方法は確立されていない。
【0011】
そのため、ビード切削後に溶接部を熱処理する際、熱処理装置を溶接部に高精度に倣わせることが困難で、ビード切削後のシーム部に熱処理を確実に施せるよう溶接部周辺を広く熱処理することより熱処理装置から溶接部への入熱量が大きくなり、熱処理コストが上昇していた。
【0012】
そこで、本発明は、ビード切削後と熱処理後における溶接部近傍の鋼管外表面温度分布を用いて、熱処理装置を溶接部に高精度に倣わせ、熱処理コストを低減することが可能な電縫鋼管の熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.電縫鋼管の熱処理方法であって、ビードトリマーの下流側に、複数の誘電子を備えた熱処理装置を配置した電縫鋼管製造ラインにおいて前記熱処理装置によりビード切削後の溶接部を熱処理する際、ビード切削後と、熱処理後における溶接部近傍の鋼管外表面温度分布を基に鋼管外表面における溶接部の位置を求め、前記熱処理装置の誘電子を前記溶接部を倣うように制御することを特徴とする電縫鋼管の熱処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電縫溶接管の溶接部を熱処理する際に必要となる溶接部の位置を、高精度で推定することが可能なため、熱処理装置から溶接部への入熱変動幅が±3mm程度の幅となって入熱能率が向上し、使用エネルギー、又は設備増強を最小限に抑えた厚肉材の工程生産が可能になり、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の原理を説明する図で、(a)は本発明を適用するライン構成を備えた電縫鋼管製造ラインの模式図、(b)は本発明の原理を説明する図。
【
図2】電縫鋼管製造ラインの溶接部熱処理装置前のセンサで計測したシーム溶接部近傍の外表面温度分布を模式的に示す図。
【
図3】電縫鋼管製造ラインの溶接部熱処理装置後のセンサで計測したシーム溶接部近傍の外表面温度分布を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、電縫鋼管の溶接部を、ビード切削した後のシーム部周辺温度分布から求まる溶接部の位置情報より、熱処理後のシーム部周辺温度分布において求めることを特徴とする。以下、説明する。
【0017】
図1は、本発明の原理を説明する図で、(a)は本発明を適用するライン構成を備えた電縫鋼管製造ラインの模式図、(b)は本発明の原理を説明する図を示す。
【0018】
図示した電縫鋼管製造ラインは、電縫溶接時の入熱を最大限に利用して熱処理を行うため、熱延鋼板1をシーム溶接するスクイズロール2、ビードトリマ3、及びビードトリマ3に可能な限り近接して配置する溶接部熱処理装置4で構成される。溶接部熱処理装置4は、複数の誘電子41、冷却装置42を備え、溶接部に焼鈍及びノルマ、焼入れ、焼戻し等の能動的冷却、加熱を行うもので、図は焼入れ焼戻しプロセスを行う場合を示す。以下の説明では、前記ラインにおける電縫溶接後の電縫鋼管の進行方向をZ軸、電縫鋼管の進行方向と鉛直方向をY軸、電縫鋼管の進行方向と水平直角方向をX軸とする固定座標系を用いる。
【0019】
溶接部熱処理装置4は管進行方向に誘導子41が複数設置されており、前記誘導子41は個別に管進行方向と、管進行方向に垂直な円周方向に移動が可能である。ビードトリマ3と溶接部熱処理装置4の間に、溶接部温度分布が計測可能な、例えば放射温度計である、センサ5を配置し、溶接部熱処理装置4の下流側にセンサ5と同じ機能のセンサ6を配置する。センサ5とセンサ6は前記ラインにおける固定座標系のZ軸上に設置する。
【0020】
本発明ではまず、シーム溶接後にビードトリマー3でビード切削した後のシーム溶接部近傍の外表面温度分布をセンサ5で計測する。
図2にセンサ5で計測したシーム溶接部近傍の外表面温度分布を模式的に示す。
【0021】
図において横軸は
図1の固定座標系のX軸上の距離(mm)で、前記ラインにおけるセンサー5のX軸上の位置を原点0とする。(+)の数値はセンサー5からセンサー6をみて、電縫鋼管の進行方向の左側におけるX軸上の距離を、(−)の数値は電縫鋼管の進行方向の右側におけるX軸上の距離を示す。
【0022】
図2に示す外表面温度分布において、外面温度150〜50℃の中から選んだ閾値T(℃)と外表面温度分布曲線とが交わる交点A,Bの中点Pを求め、シーム推定位置Pとする。閾値Tは、温度変化が急激で溶接による加熱領域の端部を特定しやすい外面温度150〜50℃の範囲で、任意の温度に設定する。
【0023】
シーム溶接部でビード切削を行うと高温となったシーム溶接部が削除されるので、外表面温度分布で、極大値C、DとなるX座標軸上の位置がビード切削跡の幅方向両端部の位置となる。
【0024】
次に、ビード切削した後のシーム溶接部近傍を熱処理装置4で熱処理した後の外表面温度分布(以下、熱処理後の外表面温度分布)をセンサ6で計測する。
図3にセンサ6で計測した熱処理後の外表面温度分布を模式的に示す。
【0025】
図3に示す熱処理後の外表面温度分布の両側のそれぞれで最初の極大値をE、Fとし、X軸上に、線分E−F間で、|C−P|:|D−P|=|E−Q|:|F−Q|となるQを求め、シーム推定位置Qとする。極大値C、Dと同様に、極大値E、Fは、これらのX座標軸上の位置がビード切削跡の幅方向両端部の位置に相当する。
【0026】
本発明では、電縫鋼管製造ラインの、Z軸上のセンサ5の位置におけるX軸上のシーム推定位置Pと、Z軸上のセンサ6の位置におけるX軸上のシーム推定位置Qを結ぶ、XZ平面の線(
図1(b)の線a)の上にシームがあるものとして、溶接部熱処理装置4の各誘導子41を当該線上に位置するように制御し、溶接部を倣わせる。
【0027】
Z軸上の位置N(
図1に示す電縫鋼管製造ラインでは誘導子41が5台のため、N=1〜5)における誘導子の場合、ロール芯(Z軸)から線aまでのX方向距離b(N)は、
図1(b)の幾何学的関係(スクイズロール位置をXYZ座標の原点0とする)より(1)式で求まる。
(L(N)−L(P))(Q−P)/(L(Q)−L(P))+P・・・(1)
式において、L(N)、L(P)、L(Q)は位置N,P,QのZ軸上の座標点、P、QはZ軸上の座標点P、QにおけるX方向長さとする。
【0028】
なお、点Qの導出に当っては、完全なトラッキングが行われる前提で絶対距離を用いても良いが、板の波うち起因によるビード切削端部位置の時間的変動が大きいこと、メジャリングのトラッキング誤差から、フィードバックが過度に鋭敏になることを防ぐため、切削部間距離の比を時間的に丸めたものとした。
【0029】
このように、本発明によれば、溶接部の位置を、高精度で推定することが可能なため、熱処理装置から溶接部への入熱変動幅が±3mm程度以内となって入熱能率が向上する。電縫鋼管で最初に溶接された部分がZ軸上のセンサ5を通過してからセンサ6を通過するまでの部分(一般的な電縫鋼管製造ラインで約6mの長さ)は本発明法を適用することができないが、通常、捨て代とされている部分で、熱処理における溶接部の倣い精度は要求されない。
【実施例】
【0030】
図1に示した電縫鋼管製造ラインを用いて、本発明法と従来法によるシーム部の検出を行って、外径と管厚の組み合わせが異なる複数の鋼管を製造した。従来法はセンサ6による熱処理後の外表面温度分布におけるシーム位置を極大値E,Fの中点とした。
【0031】
検出精度の検証は、製造した鋼管の管断面におけるシーム位置左右のA1浸透幅の差を用いた。表1に試験結果を示す。本発明法によれば従来法と比較して、シーム位置左右のA1浸透幅の差が小さく、熱処理装置の誘電子のシーム追従精度が従来法と比較して良好であった。A1浸透幅は、熱処理後に溶接線直角方向に切り出したシーム部のマクロ断面におけるシーム中心から左右それぞれの熱影響部(Ac1変態点以上に加熱された領域でナイタール腐食により現出される)の幅とする。
【0032】
【表1】
【符号の説明】
【0033】
1 熱延鋼板
2 スクイズロール
3 ビードトリマ
4 溶接部熱処理装置
41 誘電子
42 冷却装置
5、6 センサ
a 線
b 距離