(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ドラム部材の装着溝に装着された止め具により抜け止めされるバッキングプレートに対して複数の摩擦係合プレートをピストンにより押圧することで係合する多板摩擦係合要素のピストンストロークを測定するためのストローク測定装置において、
軸心周りに回転可能な回転部材と、
前記回転部材の軸方向に移動自在に配置される押圧部材と、
前記装着溝と係合可能な突起と、前記複数の摩擦係合プレートの前記軸方向における移動を規制可能な移動規制部とを有すると共に、前記軸方向および該軸方向と直交する方向に移動自在に配置される移動規制部材と、
前記回転部材の一方向への回転に伴って、前記複数の摩擦係合プレートを前記ピストンに対して押圧するように前記押圧部材を前記軸方向に移動させる共に該押圧部材を前記複数の摩擦係合プレートから退避させる第1移動機構と、
前記回転部材の前記一方向への回転に伴って、前記移動規制部材を前記ドラム部材に向けて前記軸方向と直交する方向に移動させる第2移動機構と、
前記回転部材の前記一方向への回転に伴って、前記突起が前記ドラム部材の前記装着溝と係合するように前記移動規制部材を前記軸方向に移動させる第3移動機構と、
前記複数の摩擦係合プレートが前記ピストンに対して押し付けられた状態と、前記ピストンにより前記複数の摩擦係合プレートが前記移動規制部材に対して押し付けられた状態との間における前記複数の摩擦係合プレートの移動量を前記ピストンストロークとして測定する測長装置と、
を備えることを特徴とするストローク測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のストローク測定装置によるピストンストロークの測定に際しては、保持アームの係合突部をケースの係止溝に係合させる処理に極めて手間を要する。また、上記従来のストローク測定装置を使用するためには、上記ケースに対して、クラッチの動作には本来要求されない保持アームの係合突部を案内する案内溝を形成しておかなければならない。更に、保持アームの係合突部をケースの係止溝に係合させる処理と、トグル機構の操作とに連続性がないことから、上記従来のストローク測定装置を用いても、ピストンストロークの測定を速やかに実行することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、多板摩擦係合要素のピストンストロークを容易かつ速やかに測定可能とすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるストローク測定装置は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0008】
本発明によるストローク測定装置は、
ドラム部材の装着溝に装着された止め具により抜け止めされるバッキングプレートに対して複数の摩擦係合プレートをピストンにより押圧することで係合する多板摩擦係合要素のピストンストロークを測定するためのストローク測定装置において、
軸心周りに回転可能な回転部材と、
前記回転部材の軸方向に移動自在に配置される押圧部材と、
前記装着溝と係合可能な突起と、前記複数の摩擦係合プレートの前記軸方向における移動を規制可能な移動規制部とを有すると共に、前記軸方向および該軸方向と直交する方向に移動自在に配置される移動規制部材と、
前記回転部材の一方向への回転に伴って、前記複数の摩擦係合プレートを前記ピストンに対して押圧するように前記押圧部材を前記軸方向に移動させる共に該押圧部材を前記複数の摩擦係合プレートから退避させる第1移動機構と、
前記回転部材の前記一方向への回転に伴って、前記移動規制部材を前記ドラム部材に向けて前記軸方向と直交する方向に移動させる第2移動機構と、
前記回転部材の前記一方向への回転に伴って、前記突起が前記ドラム部材の前記装着溝と係合するように前記移動規制部材を前記軸方向に移動させる第3移動機構と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
このストローク測定装置によりピストンストロークを測定するに際しては、まず、移動規制部材の規制部と、押圧部材とがドラム部材の内部で摩擦係合プレートと対向するように、回転部材、押圧部材、移動規制部材、第1、第2および第3移動機構を一体に移動させる。次いで、回転部材を軸心周りに一方向に回転させ、第1移動機構により複数の摩擦係合プレートをピストンに対して押圧するように押圧部材を回転部材の軸方向に移動させると共に押圧部材を複数の摩擦係合プレートから退避させる。また、回転部材を軸心周りに一方向に回転させ、第2移動機構により移動規制部材をドラム部材に向けて回転部材の軸方向と直交する方向に移動させると共に、第3移動機構により移動規制部材を突起がドラム部材の装着溝と係合するように回転部材の軸方向に移動させる。更に、複数の摩擦係合プレートを移動規制部材の移動規制部に対して押圧するようにピストンを移動させる。そして、複数の摩擦係合プレートがピストンに対して押し付けられた状態と、ピストンにより複数の摩擦係合プレートが移動規制部材に対して押し付けられた状態との間における複数の摩擦係合プレートの移動量を測定対象であるピストンストロークとして得る。このように、このストローク測定装置では、回転部材を一方向に回転させる
ことにより、複数の摩擦係合プレートのピストンに対する押し付けおよびその解除と、移動規制部材の突起とドラム部材の装着溝との係合とを完了させることができる。従って、このストローク測定装置によれば、多板摩擦係合要素のピストンストロークを容易かつ速やかに測定することが可能となる。なお、回転部材は、手動で回転させられてもよく、アクチュエータにより回転駆動されてもよい。
【0010】
また、前記第1、第2および第3移動機構は、前記回転部材の一方向への回転に連動して作動するものであってもよい。これにより、回転部材を一方向に回転させていけば、複数の摩擦係合プレートのピストンに対する押し付けおよびその解除と、移動規制部材の突起とドラム部材の装着溝との係合とを完了させることが可能となる。
【0011】
更に、前記第2移動機構は、前記押圧部材が前記複数の摩擦係合プレートを前記ピストンに対して押圧するように前記軸方向に移動する間に、前記移動規制部材を前記ドラム部材に向けて前記軸方向と直交する方向に移動させるように構成されてもよく、前記第3移動機構は、前記押圧部材が前記複数の摩擦係合プレートから退避する間に、前記移動規制部材を前記軸方向に移動させて前記突起と前記装着溝とを係合させるように構成されてもよい。これにより、複数の摩擦係合プレートのピストンに対する押し付けおよびその解除と、移動規制部材の突起とドラム部材の装着溝との係合とを完了させるのに要求される回転部材の軸心周りの回転量をより少なくすることができるので、多板摩擦係合要素のピストンストロークをより速やかに測定することが可能となる。
【0012】
また、前記第1、第2および第3移動機構は、それぞれカムおよびカムフォロワを含むものであってもよい。これにより、回転部材を回転させることにより複数の摩擦係合プレートのピストンに対する押し付けおよびその解除と、移動規制部材の突起とドラム部材の装着溝との係合とを完了させるストローク測定装置をよりコンパクトかつ低コストに構成することが可能となる。
【0013】
更に、前記ストローク測定装置は、前記回転部材により前記軸心周りに回転自在かつ前記軸方向に移動自在に支持されると共に、前記移動規制部材を該軸方向と直交する方向に移動自在に支持する支持部材を更に備えてもよく、前記第1移動機構は、凸面を含む第1カム面を有し、加圧用弾性体を介して前記押圧部材に連結されると共に前記回転部材により前記軸方向に移動自在に支持される第1カム部材と、前記第1カム部材を介して前記支持部材と対向すると共に、前記回転部材と前記軸心周りに一体に回転して前記第1カム面上を転動する第1ローラと、前記第1カム面と前記第1ローラとの接触が維持されるように前記第1カム部材を前記支持部材から離間する方向に付勢する第1弾性体とを含むものであってもよく、前記第2移動機構は、凹面を含む第2カム面を有し、前記回転部材と前記軸心周りに一体に回転する第2カム部材と、前記移動規制部材により回転自在に支持されると共に、前記第2カム部材の回転に伴って前記第2カム面上を転動する第2ローラと、前記第2カム面と前記第2ローラとの接触が維持されるように前記移動規制部材を前記回転部材から離間する方向に付勢する第2弾性体とを含むものであってもよく、前記第3移動機構は、凸面を含む第3カム面を有し、前記支持部材を介して前記第1カム部材と対向すると共に前記回転部材により前記軸方向に移動自在に支持される第3カム部材と、前記第3カム部材を介して前記支持部材と対向すると共に、前記回転部材と前記軸心周りに一体に回転して前記第3カム面上を転動する第3ローラと、前記第3カム面と前記第3ローラとの接触が維持されるように前記第3カム部材を前記支持部材から離間する方向に付勢する第3弾性体とを含むものであってもよい。
【0014】
このストローク測定装置では、回転部材の軸心周りにおける一方向への回転に伴って第1移動機構の第1ローラが第1弾性体の付勢力に抗して第1カム面の凸面に乗り上げることにより、カムフォロワとしての第1カム部材が支持部材に接近するように移動する。そして、押圧部材が複数の摩擦係合プレートの何れかに当接すると、第1カム部材の支持部材側への移動に伴って加圧用弾性体が押圧(圧縮)され、それにより、加圧用弾性体の付勢力により押圧部材を介して複数の摩擦係合プレートをピストンに押し付けることができる。また、第1移動機構の第1ローラが第1カム面の凸面を下ることで、カムフォロワとしての第1カム部材が第1弾性体の付勢力により支持部材から離間するように移動するので、押圧部材を複数の摩擦係合プレートから退避させることができる。更に、回転部材の軸心周りにおける一方向への回転に伴って第2移動機構のカムフォロワとしての第2ローラが第2カム部材の第2カム面(凹面)上を転動することで、移動規制部材は、第2弾性体の付勢力により回転部材から離間するように、すなわちドラム部材に向けて移動する。そして、回転部材の軸心周りにおける一方向への回転に伴って第3移動機構の第3ローラが第3弾性体の付勢力に抗して第3カム面の凸面に乗り上げると、カムフォロワとしての第3カム部材が支持部材に接近するように移動して当該支持部材を回転部材の軸方向に移動させ、それにより、支持部材により支持された移動規制部材の突起がドラム部材の装着溝と係合する。これにより、第1カム部材の第1カム面、第2カム部材の第2カム面および第3カム部材の第3カム面を適正に構成にすることで、押圧部材が軸方向に移動して複数の摩擦係合プレートをピストンに対して押圧する間に、移動規制部材をドラム部材に向けて軸方向と直交する方向に移動させると共に、押圧部材が複数の摩擦係合プレートから退避する間に、移動規制部材を軸方向に移動させて突起と装着溝とを係合させることが可能となる。
【0015】
また、前記ストローク測定装置は、前記複数の摩擦係合プレートが前記ピストンに対して押し付けられた状態と、前記ピストンにより前記複数の摩擦係合プレートが前記移動規制部材に対して押し付けられた状態との間における前記複数の摩擦係合プレートの移動量を前記ピストンストロークとして測定する測長装置を備えてもよい、
【0016】
更に、前記ストローク測定装置は、前記ドラム部材、前記複数の摩擦係合プレートおよび前記ピストンを含む組立体を該ピストンの軸心が鉛直方向に延在するように位置決めするための位置決め部を更に備えてもよく、前記回転部材、前記押圧部材、前記移動規制部材、前記第1、第2および第3移動機構は、前記位置決め部に対して一体に昇降自在に配置されてもよい。これにより、ストローク測定装置をクラッチの組立ラインに配置して多数のクラッチのピストンストロークを連続的に測定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
図1および
図2は、本発明の一実施形態に係るストローク測定装置1を示す概略構成図である。これらの図面に示すストローク測定装置1は、
図3に示すような自動変速機用のクラッチ100のピストンストロークを測定するのに用いられるものである。まず、ストローク測定装置1の適用対象であるクラッチ100について説明する。クラッチ100は、
図3に示すように、図示しない自動変速機の入力軸90に連結(固定)されたクラッチドラム201内に当該クラッチドラム201と一体回転可能に配置されるクラッチドラム(ドラム部材)101と、クラッチドラム101の内周面に形成されたスプラインに嵌合される複数の摩擦係合プレート(相手板)102と、図示しないクラッチハブの外周面に形成されたスプラインに嵌合される複数の摩擦係合プレート(摩擦板)103と、摩擦係合プレート102および103を押圧可能なクラッチピストン104とを含む、いわゆる多板クラッチである。
【0020】
摩擦係合プレート(相手板)102は、両面が平滑に形成された環状部材である。摩擦係合プレート103は、両面に摩擦材が貼着された環状部材である。そして、摩擦係合プレート102および103は、
図3に示すように、交互に配置される。また、クラッチドラム101の内周面に形成されたスプラインには、クラッチピストン104から最も離間して配置される摩擦係合プレート103と対向するようにバッキングプレート110が嵌合される。バッキングプレート110は、クラッチドラム101の内周面に形成された装着溝101a(
図1および
図2参照)に装着されて当該バッキングプレート110よりも
図3中右側に位置するスナップリング(止め具)111により抜け止めされる。
【0021】
クラッチピストン104は、入力軸90の外周面に摺動自在に嵌合され、クラッチドラム101と共に係合側油室105を画成する。また、入力軸90には、クラッチピストン104よりも
図3中右側に位置するようにキャンセルプレート106が固定される。キャンセルプレート106は、クラッチピストン104と共に係合側油室105内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室107を画成し、クラッチピストン104とキャンセルプレート106との間には、スプリングシート108を介してリターンスプリング109が配置される。これにより、係合側油室105内の油圧を高めてクラッチピストン104を移動させ、クラッチドラム101の装着溝101aに装着されたスナップリング111により抜け止めされるバッキングプレート110に対して複数の摩擦係合プレート102,103をクラッチピストン104により押圧することで、クラッチドラム101と図示しないクラッチハブとを連結(係合)させることができる。なお、クラッチドラム201は、クラッチ100の外周側に配置される図示しない他のクラッチを構成するものである。
【0022】
ストローク測定装置1は、
図1および
図2に示すように、入力軸90やクラッチドラム201、バッキングプレート110およびスナップリング111を除いたクラッチ100の構成要素を含む組立体Aを入力軸90やクラッチピストン104の軸心が鉛直方向に延在するように位置決めするための位置決め部2と、軸心周りに回転可能な回転部材3と、回転部材3によって当該回転部材3の軸心周りに回転自在かつ軸方向に移動自在に支持される支持部材4と、位置決め部2に位置決めされた組立体Aの図中最も上側に配置される摩擦係合プレート103に追従可能な測定子5aを有すると共に当該摩擦係合プレート103の移動量を測定可能な複数(本実施形態では、3体)の測長装置5とを含む。なお、組立体Aは、入力軸90にクラッチドラム201を固定すると共に、クラッチドラム201内にクラッチドラム101、複数の摩擦係合プレート102,103、クラッチピストン104、キャンセルプレート106、スプリングシート108、リターンスプリング109を組み付けることにより構成され、バッキングプレート110およびスナップリング111を含まない。
【0023】
回転部材3は、少なくとも
図1中下端が開放された筒状に形成され、図示しない昇降ガイド機構により当該回転部材3の軸方向に昇降自在かつ軸心周りに回転自在に支持される。また、
図2に示すように、回転部材3には、操作レバー3aが連結されている。これにより、操作レバー3aを手動操作して入力軸90が回転部材3の内部に収容されるように当該回転部材3を位置決め部2上の組立体Aに接近させることができる。また、本実施形態のストローク測定装置1は、操作レバー3aを手動操作することにより、回転部材3を軸心周りかつ一方向に90°回転させることができるように構成される。
【0024】
支持部材4は、板状に形成されており、複数(本実施形態では、3個)の押圧部材6を回転部材3の軸方向に移動自在に支持すると共に、複数(本実施形態では、3個)の移動規制部材7を回転部材3の軸方向と直交する方向に移動自在に支持する。各押圧部材6は、
図2に示すように、平坦な先端面を有する棒状に形成されている。また、支持部材4には、それぞれ対応する押圧部材6が挿通される複数(本実施形態では、3個)の貫通孔4aが形成されている。複数の貫通孔4aは、各押圧部材6の先端面が位置決め部2に位置決めされた組立体Aの最も上側に配置される摩擦係合プレート103と当接可能となるように等間隔に(本実施形態では、120°間隔)形成される。
【0025】
各移動規制部材7は、
図2に示すように、組立体Aを構成するクラッチドラム101に形成された装着溝101aと係合可能な突起7aと、位置決め部2に位置決めされた組立体Aの最も上側に配置される摩擦係合プレート103と当接可能な端面を有する移動規制部7bとを有する。また、支持部材4には、上述の複数の貫通孔4aと干渉しないように回転部材3の軸方向と直交する方向(水平方向)に延在するように複数(本実施形態では、3本)のガイド溝が形成されており、各移動規制部材7は、複数のガイド溝の対応する1つにより摺動自在に支持される。上述のように、支持部材4は回転部材3によって当該回転部材3の軸方向に移動自在に支持される。従って、移動規制部材7も、支持部材4と共に回転部材3の軸方向に移動することができる。
【0026】
そして、ストローク測定装置1は、
図2に示すように、回転部材3の一方向への回転に伴って、各押圧部材6を当該回転部材3の軸方向と平行に
図1および
図2中下方に移動させる共に各押圧部材6を
図1および
図2中上方へと退避させる第1移動機構10と、回転部材3の一方向への回転に伴って、各移動規制部材7を組立体Aのクラッチドラム101に向けて回転部材3の軸方向と直交する方向に移動させる第2移動機構20と、回転部材3の一方向への回転に伴って、突起7aがクラッチドラム101の装着溝101aと係合するように各移動規制部材7を回転部材3の軸方向に移動させる第3移動機構30とを更に含む。本実施形態において、第1、第2および第3移動機構10,20,30は、それぞれカムおよびカムフォロワを含むカム機構として構成される。なお、回転部材3は、上述のように位置決め部2に対して昇降自在に構成されることから、各押圧部材6、各移動規制部材7、第1、第2および第3移動機構10,20,30も、位置決め部2に対して回転部材3と一体に昇降することができる。
【0027】
第1移動機構10は、第1カム部材11と、回転部材3の軸心周りに当該回転部材3と一体に回転可能な複数(本実施形態では、3個)の第1ローラ18と、複数(本実施形態では、3個)の第1スプリング(第1弾性体)19とを含む。第1カム部材11は、
図4に示すように、略三角形状の板体として構成されており、回転部材3が挿通される中心孔12を中心に有すると共に、押圧部材6の基端部が挿通される貫通孔13を3つの角部のそれぞれに有する。また、第1カム部材11の表裏面の一方は、平坦面14と、当該平坦面14から突出する複数(本実施形態では、3つ)の凸面15とを含む第1カム面16とされている。複数の凸面15は、中心孔12の軸心を中心とする円周上に等間隔に配置され、それぞれ平坦な頂面15aと当該頂面15aの両側に形成された傾斜面15bとを有する。
【0028】
第1カム部材11は、
図2に示すように、第1カム面16が
図2中上方に位置すると共に第1カム面16とは反対側の面が支持部材4の
図2中上面と対向するように当該支持部材4の
図2中上方に配置され、回転部材3により当該回転部材3の軸方向に移動自在に支持される。更に、第1カム部材11の各貫通孔13には、支持部材4の各貫通孔4aに挿通された押圧部材6の基端部が挿通される。そして、第1カム部材11の第1カム面16とは反対側の面と、各押圧部材6の外周に形成されたスプリング係合部(突起)6aとの間には、圧縮バネである加圧用スプリング(加圧用弾性体)17が配置される。これにより、第1カム部材11は、加圧用スプリング17を介して各押圧部材6に連結される。
【0029】
第1移動機構10を構成する複数の第1ローラ18は、それぞれ回転部材3により当該回転部材3の軸方向と直交する方向に延びる軸周りに回転自在に支持されると共に、第1カム部材11を介して支持部材4と対向して回転部材3の回転に伴って第1カム面16、すなわち対応する凸面15や平坦面14上を転動可能となるように第1カム部材11の
図2中上方に配置される。本実施形態において、各第1ローラ18は、回転部材3が初期位置にある際に互いに隣り合う凸面15の間の平坦面14上に位置し、かつ回転部材3の一方向への回転に伴って凸面15の一方の傾斜面15b上を転動して頂面15aに達すると共に他方の傾斜面15b上を転動して平坦面14に達するように配置される。また、複数の第1スプリング19は、何れも圧縮バネであり、支持部材4と第1カム部材11との間に回転部材3の軸心周りに等間隔に配置されると共に、第1カム面16と各第1ローラ18との接触が維持されるように第1カム部材11を支持部材4から離間する方向に(
図2中上方に)付勢する。本実施形態において、各第1スプリング19の一端は、支持部材4に形成された凹部内に挿入され、それにより支持部材4により支持される。
【0030】
第2移動機構20は、第2カム部材21と、複数(本実施形態では、3個)の第2ローラ28と、複数(本実施形態では、3個)の第2スプリング(第2弾性体)29とを含む。第2カム部材21は、
図5に示すように、略有底円筒状に形成されており、第1移動機構10を構成する複数の第1ローラ18よりも
図2中上方に位置するように回転部材3に同軸に固定される。これにより、第2カム部材21は、回転部材3と一体に回転可能となる。また、第2カム部材21は、回転部材3が挿通される中心孔22を底部の中心に有すると共に、各測長装置5の測定子5aが挿通される孔部23を中心孔22の周囲に有する。更に、第2カム部材21の筒状部の内周面は、複数(本実施形態では、3つ)の凹面25を含む第2カム面26とされている。各凹面25は、第2カム部材21の筒状部の厚みを当該筒状部の周方向において変化させることにより、回転部材の3の回転方向上流側に位置する深さ一定の浅底部と、回転部材の3の回転方向下流側に位置する深さ一定の深底部と、浅底部から深底部に向けて深さが漸増する(筒状部の厚みが漸減する)中間部とを有するように形成される。
【0031】
第2移動機構20を構成する各第2ローラ28は、それぞれ第2カム部材21の対応する凹面25上を転動可能となるように、移動規制部材7の
図2中上端部に回転部材3の軸方向と平行な軸心周りに回転自在に取り付けられる。本実施形態において、各第2ローラ28は、回転部材3が初期位置にある際に対応する凹面25の浅底部に位置し、かつ回転部材3の一方向への回転に伴って凹面25の深底部へと移動するように配置される。また、複数の第2スプリング29は、何れも引張バネであり、支持部材4と各移動規制部材7との間に配置されると共に、それぞれ対応する移動規制部材7を第2カム面26と第2ローラ28との接触が維持されるように回転部材3から離間する方向に付勢する。本実施形態において、各第2スプリング29の一端は、支持部材4に形成されたスプリング支持ブロックに固定され、各第2スプリング29の他端は、連結部材を介して移動規制部材7に連結される。
【0032】
第3移動機構30は、第3カム部材31と、回転部材3の軸心周りに当該回転部材3と一体に回転可能な複数(本実施形態では、2個)の第3ローラ38と、複数(本実施形態では、3個)の第3スプリング(第3弾性体)39とを含む。第3カム部材31は、
図6に示すように、略三角形状のベース部と当該ベース部の表裏面の一方から延出された円筒部とを含み、回転部材3が挿通される中心孔32を中心に有すると共に、貫通孔33をベース部の3つの角部のそれぞれに有する。また、第3カム部材31の円筒部の端面は、平坦面34と、当該平坦面34から突出する複数(本実施形態では、2つ)の凸面35とを含む第3カム面36とされている。複数の凸面35は、中心孔32の軸心を中心とする円周上に等間隔に配置され、それぞれ平坦な頂面35aと当該頂面35aの両側に形成された傾斜面35bとを有する。
図2に示すように、第3カム部材31は、第3カム面36が
図2中下方に位置すると共に第3カム面36とは反対側の面が支持部材4の
図2中下面と対向するように当該支持部材4の
図2中下方に配置され、支持部材4を介して第1カム部材11と対向するように回転部材3により当該回転部材3の軸方向に移動自在に支持される。更に、第3カム部材31の各貫通孔33には、支持部材4の各貫通孔4aに挿通された押圧部材6の先端側部分が挿入される。
【0033】
第3移動機構30を構成する複数の第3ローラ38は、それぞれ回転部材3により当該回転部材3の軸方向と直交する方向に延びる軸周りに回転自在に支持されると共に、第3カム部材31を介して支持部材4と対向して回転部材3の回転に伴って第3カム面36、すなわち対応する凸面35や平坦面34上を転動可能となるように第3カム部材31の
図2中下方に配置される。本実施形態において、各第3ローラ38は、回転部材3が初期位置にある際に対応する平坦面34の一端上に位置し、かつ回転部材3の一方向への回転に伴って平坦部34上を転動すると共に凸面35の一方の傾斜面35b上を転動して頂面35aに達するように配置される。また、複数の第3スプリング39は、何れも圧縮バネであり、支持部材4と第3カム部材31との間に回転部材3の軸心周りに等間隔に配置されると共に、第3カム面36と各第3ローラ38との接触が維持されるように第3カム部材31を支持部材4から離間する方向に(
図2中下方に)付勢する。本実施形態において、各第3スプリング39の一端は、支持部材4に形成された凹部内に挿入され、それにより支持部材4により支持される。
【0034】
図7に、第1、第2および第3移動機構10,20,30のカム線図を示す。上述の第1カム面16を有する第1カム部材11や複数の第1ローラ18等を含む第1移動機構10は、回転部材3および各第1ローラ18の軸心周りの回転角度に対する各押圧部材6の回転部材3の軸方向における変位が
図7(a)に示すものとなるように構成される。すなわち、第1移動機構10は、回転部材3が初期位置(角度=0°)から角度θ1(例えば、20°)だけ回転するまでの間、押圧部材6を移動させず、回転部材3等の回転角度が角度θ1から角度θ2(例えば、50°)まで変化する間に押圧部材6を
図1および
図2中下方に移動させ、回転部材3等の回転角度が角度θ2から角度θ3(例えば、60°)まで変化する間に押圧部材6を移動させず、回転部材3等の回転角度が角度θ3から角度θ4(本実施形態では、90°)まで変化する間に押圧部材6を
図1および
図2中上方に移動させる。
【0035】
また、上述の第2カム面26を有する第2カム部材21や複数の第2ローラ28等を含む第2移動機構20は、回転部材3および第2カム部材21の軸心周りの回転角度に対する各移動規制部材7(突起7a)の回転部材3の軸方向と直交する方向における変位が
図7(b)に示すものとなるように構成される。すなわち、第2移動機構20は、回転部材3が初期位置(角度=0°)から角度θ1(例えば、20°)だけ回転するまでの間、移動規制部材7を移動させず、回転部材3等の回転角度が角度θ1から角度θ2(例えば、50°)まで変化する間に各移動規制部材7を回転部材3から離間するように側方に移動させ(開き)、回転部材3等の回転角度が角度θ2から角度θ4(本実施形態では、90°)まで変化する間に各移動規制部材7を移動させない。これにより、本実施形態の第2移動機構20は、各押圧部材6が回転部材3の軸方向に沿って
図1および
図2中下方に移動する間(各押圧部材6が複数の摩擦係合プレート103をクラッチピストン104に対して押圧するように軸方向に移動する間)に、各移動規制部材7を回転部材3の軸方向と直交する方向に(クラッチドラム101に向けて)移動させることになる。
【0036】
更に、上述の第3カム面36を有する第3カム部材31や複数の第3ローラ38等を含む第3移動機構30は、回転部材3および各第3ローラ38の軸心周りの回転角度に対する各移動規制部材7の回転部材3の軸方向における変位が
図7(c)に示すものとなるように構成される。すなわち、第3移動機構30は、回転部材3が初期位置(角度=0°)から角度θ3(例えば、60°)まで変化する間に各移動規制部材7を移動させず、回転部材3等の回転角度が角度θ3から角度θ4(本実施形態では、90°)まで変化する間に各移動規制部材7を
図1および
図2中上方に移動させる。これにより、本実施形態の第3移動機構30は、各押圧部材6が
図1および
図2中上方へと退避する間(複数の摩擦係合プレート103から退避する間)に、各移動規制部材7を
図1および
図2中上方に(突起7aと装着溝101aとを係合させるように)移動させることになる。
【0037】
複数の測長装置5は、図示しない上述の昇降ガイド機構により回転部材3と一体に昇降可能となるように支持され、各測定子5aの先端面が位置決め部2に位置決めされた組立体Aの最も上側に配置される摩擦係合プレート103と当接可能となり、かつ各測定子5aが複数の押圧部材6および複数の移動規制部材7と干渉しないように等間隔に配置される。また、本実施形態のストローク測定装置1は、
図2に示すように、組立体Aの入力軸90に形成された図示しない油路を介してクラッチドラム101とクラッチピストン104とにより画成される係合側油室105に圧縮空気を供給可能なエア供給装置9を含む。
【0038】
次に、上述のストローク測定装置1によりクラッチ100(組立体A)のピストンストロークを測定する手順について説明する。
【0039】
ストローク測定装置1によりクラッチ100のピストンストロークを測定するに際しては、まず、上述の組立体Aを入力軸90やクラッチピストン104の軸心が鉛直方向に延在するように位置決め部2に位置決め(固定)する。次いで、操作レバー3aを手動操作して、各移動規制部材7の移動規制部7bの端面や各押圧部材6の先端面が組立体Aのクラッチドラム101の内部で最も上側の摩擦係合プレート103と対向するように、回転部材3、各測長装置5、各押圧部材6、各移動規制部材7、第1、第2および第3移動機構10,20,30を位置決め部2に向けて一体に下降させる。
【0040】
ここで、本実施形態のストローク測定装置1には、操作レバー3aにより回転部材3等を位置決め部2に対して下降させた際に、各移動規制部材7の突起7aがクラッチドラム101内で装着溝101aよりも比較的短い距離だけ下側に位置した段階で回転部材3等を停止させる図示しないストッパが設けられている。また、回転部材3等の下降が停止した段階で、各押圧部材6の先端面と最も上側の摩擦係合プレート103との間には、ある程度の間隔が形成される。更に、回転部材3等の下降が停止した段階で、各測定子5aの先端面はクラッチドラム101の内部で最も上側の摩擦係合プレート103と当接し、この状態から複数の摩擦係合プレート103が回転部材3の軸方向に上下動すると、各測定子5aは、当該最も上側の摩擦係合プレート103に追従して上下動する。
【0041】
このように回転部材3等を位置決め部2上の組立体Aに対して下降させた後、操作レバー3aを手動操作して回転部材3を軸心周りかつ一方向に90°回転させる。操作レバー3aの手動操作により回転部材3の軸心周りの回転角度が角度θ1になるまでの間には、
図7(a)から
図7(c)に示すように、各押圧部材6および各移動規制部材7は第1、第2および第3移動機構10,20,30により静止状態に維持される。そして、操作レバー3aの手動操作により回転部材3の回転角度が角度θ1を超えると、
図7(a)に示すように、第1移動機構10により各押圧部材6が下方に移動させられると共に、
図7(b)に示すように、第2移動機構20により各移動規制部材7が回転部材3から離間するようにクラッチドラム101の内周面に向けて移動させられる。
【0042】
すなわち、回転部材3の回転角度が角度θ1から角度θ2まで変化する間には、回転部材3の軸心周りにおける一方向への回転に伴い、
図8に示すように、第1移動機構10の各第1ローラ18が複数の第1スプリング19の付勢力に抗して第1カム面16の凸面15に乗り上げる。これにより、カムフォロワとしての第1カム部材11は、支持部材4に接近するように
図8中下方に移動し、加圧用スプリング17を介して第1カム部材11に連結された各押圧部材6も当該第1カム部材11と共に
図8中下方に移動する。そして、例えば回転部材3の回転角度が角度θ2に近づいた段階で各押圧部材6の先端面がクラッチドラム101内の最も上側の摩擦係合プレート103と当接すると、第1カム部材11の支持部材4側への移動に伴って複数の加圧用スプリング17が押圧(圧縮)され、それにより、複数の加圧用スプリング17の付勢力(例えば、1N程度)により各押圧部材6を介して複数の摩擦係合プレート102,103を完全開放状態(リターンスプリング109により
図8中下方に付勢された状態)にあるクラッチピストン104に押し付けることができる。
【0043】
更に、回転部材3の回転角度が角度θ1から角度θ2まで変化する間には、回転部材3の軸心周りにおける一方向への回転に伴って第2移動機構20のカムフォロワとしての各第2ローラ28が第2カム面26の凹面を転動して中間部を経て深底部に達することで、各移動規制部材7は、第2スプリング29の付勢力により回転部材3から離間するように、すなわちクラッチドラム101の内周面に向けて移動する。また、回転部材3の回転角度が角度θ1から角度θ2まで変化する間、支持部材4は、
図7(c)に示すように、第3移動機構30により静止状態に維持される。従って、各移動規制部材7がクラッチドラム101の内周面に向けて移動することにより、各移動規制部材7の突起7aは、
図8に示すように、装着溝101aよりも下側でクラッチドラム101の内周面に押し付けられる。
【0044】
回転部材3の回転角度が角度θ2になると、
図7(a)に示すように、第1移動機構10により各押圧部材6が静止させられると共に、
図7(b)に示すように、第2移動機構20により各移動規制部材7のクラッチドラム101の内周面に向けた移動が停止させられる。そして、回転部材3の回転角度が角度θ2から角度θ3まで変化する間には、第1移動機構10の各第1ローラ18が第1カム面16の凸面15の平坦な頂面15a上を転動することで、各押圧部材6は、第1移動機構10によって各加圧用スプリング17の付勢力により複数の摩擦係合プレート102,103をクラッチピストン104に押し付けた状態に維持される。なお、本実施形態では、回転部材3の回転角度が角度θ2になって各押圧部材6が静止した際、第1カム部材11と支持部材4との間に僅かな隙間が形成される。
【0045】
また、操作レバー3aの手動操作により回転部材3の回転角度が角度θ3を超えると、
図7(a)に示すように、第1移動機構10により各押圧部材6が複数の摩擦係合プレート102,103から退避するように上方に移動させられると共に、
図7(c)に示すように、第3移動機構30により各移動規制部材7が回転部材の軸方向に沿って上方に移動させられる。すなわち、回転部材3の回転角度が角度θ3から角度θ4まで変化する間には、第1移動機構10の各第1ローラ18が第1カム面16の凸面15を下ることで、カムフォロワとしての第1カム部材11が第1スプリング19の付勢力により支持部材4から離間するように移動する。これにより、各押圧部材6を複数の摩擦係合プレート102,103から退避させることができる。本実施形態において、各押圧部材6すなわち第1カム部材11は、
図7(a)に示すように、回転部材3の回転角度が角度θ4(=90°)になった段階で初期位置へと戻る。
【0046】
更に、回転部材3の回転角度が角度θ3から角度θ4まで変化する間には、回転部材3の軸心周りにおける一方向への回転に伴い、
図9に示すように、第3移動機構30の各第3ローラ38が複数の第3スプリング39の付勢力に抗して第3カム面36の凸面35に乗り上げる。これにより、カムフォロワとしての第3カム部材31は、支持部材4に接近するように
図9中上方に移動し、第3スプリング39を介して第3カム部材31に連結された支持部材4も当該第3カム部材31と共に
図9中上方に移動する。こうして支持部材4が回転部材3の軸方向に沿って上方に移動するのに伴い、当該支持部材4により支持された各移動規制部材7も
図9中上方に移動し、それにより、各移動規制部材7の突起7aとクラッチドラム101の装着溝101aとを係合させることができる。
【0047】
図9に示すように、各移動規制部材7が上方に移動することで、各突起7aの図中上面は、装着溝101aの図中上側の内壁面に押し付けられる。また、本実施形態において、突起7aの回転部材3の軸方向における長さ(厚み)は、スナップリング111の厚みと同一に定められ、各移動規制部材7の移動規制部7bの回転部材3の軸方向における長さH(突起7aの図中下面から移動規制部7bの端面までの長さ)は、バッキングプレート110の標準的な厚みと同一に定められている。これにより、突起7aが装着溝101aと係合した際、各移動規制部材7の移動規制部7bは、バッキングプレート110と同様の機能を果たすことになる。そして、本実施形態では、回転部材3の回転角度が角度θ4になった段階、すなわち回転部材3を軸心周りかつ一方向に90°回転させた段階で、各測長装置5の測定値が値0にリセット(ゼロ点調整)される。すなわち、複数の摩擦係合プレート102,103がクラッチピストン104に対して押し付けられた状態(最も上側の摩擦係合プレート103の位置)がピストンストロークのゼロ点とされる。
【0048】
上述のように操作レバー3aを手動操作して回転部材3等を一方向に90°だけ回転させた後、エア供給装置9を作動させて、組立体Aの入力軸90に形成された図示しない油路を介してクラッチドラム101とクラッチピストン104とにより画成される係合側油室105に圧縮空気を供給する。これにより、クラッチピストン104は、
図10に示すように、複数の摩擦係合プレート102,103を各移動規制部材7の移動規制部7bに対して押圧するように図中上方に移動する。そして、クラッチピストン104の移動が停止した段階で各測長装置5により測定子5aのゼロ点からの移動量を測定し、例えばすべての測定子5aの移動量の平均値、すなわち、複数の摩擦係合プレート102,103がクラッチピストン104に対して押し付けられた状態と、クラッチピストン104により複数の摩擦係合プレート102,103が各移動規制部材7に対して押し付けられた状態との間における複数の摩擦係合プレート102,103の移動量を測定対象であるピストンストロークとして得る。
【0049】
こうしてピストンストロークの測定が完了したならば、操作レバー3aを手動操作して、回転部材3を軸心周りかつそれまでとは逆方向に90°だけ回転させると共に、位置決め部2上の組立体Aから離間させるように回転部材3等を一体に上昇させる。ピストンストロークの測定が完了した組立体Aは、次工程の施工箇所へと搬送される。そして、上述のようにして得られたピストンストロークからクラッチ100について予め設定された本来のピストンストロークを減じた値に一致する厚みのバッキングプレート110が選定され、選定されたバッキングプレート110は、次工程において、スナップリング111と共にクラッチドラム101に組み付けられる。これにより、バッキングプレート110の厚みを調整することで、完成したクラッチ100におけるピストンストロークの個体差を大幅に減らすことが可能となる。
【0050】
以上説明したように、ストローク測定装置1では、回転部材3を軸心周りに一方向に回転させることで、第1移動機構10により複数の摩擦係合プレート102,103をクラッチピストン104に対して押圧するように各押圧部材6を回転部材3の軸方向に移動させると共に各押圧部材6を複数の摩擦係合プレート102,103から退避させることができる。また、回転部材3を軸心周りに一方向に回転させることで、第2移動機構20により各移動規制部材7をクラッチドラム101に向けて回転部材3の軸方向と直交する方向に移動させると共に、第3移動機構30により各移動規制部材7を突起7aがクラッチドラム101の装着溝101aと係合するように回転部材3の軸方向に移動させることできる。すなわち、ストローク測定装置1では、回転部材3を一方向に回転させていけば、第1、第2および第3移動機構10,20,30が回転部材3の一方向への回転に連動して作動し、複数の摩擦係合プレート102,103のクラッチピストン104に対する押し付けおよびその解除と、各移動規制部材7の突起7aとクラッチドラム101の装着溝101aとの係合とを完了させることができる。従って、ストローク測定装置1によれば、多板摩擦係合要素としてのクラッチ100のピストンストロークを容易かつ速やかに測定することが可能となる。
【0051】
また、上記ストローク測定装置1において、第2移動機構20は、各押圧部材6が複数の摩擦係合プレート102,103をクラッチピストン104に対して押圧するように軸方向に移動する間に、各移動規制部材7をクラッチドラム101に向けて軸方向と直交する方向に移動させるように構成される。そして、第3移動機構30は、各押圧部材6が複数の摩擦係合プレート102,103から退避する間に、各移動規制部材7を軸方向に移動させて突起7aと装着溝101aとを係合させるように構成される。これにより、複数の摩擦係合プレート102,103のクラッチピストン104に対する押し付けおよびその解除と、各移動規制部材7の突起7aとクラッチドラム101の装着溝101aとの係合とを完了させるのに要求される回転部材3の軸心周りの回転量をより少なくすることができるので、クラッチ100のピストンストロークをより速やかに測定することが可能となる。
【0052】
更に、上記実施形態において、第1、第2および第3移動機構10,20,30は、それぞれカムおよびカムフォロワを含むものとされる。これにより、回転部材3を回転させることにより複数の摩擦係合プレート102,103のクラッチピストン104に対する押し付けおよびその解除と、各移動規制部材7の突起7aとクラッチドラム101の装着溝101aとの係合とを完了させるストローク測定装置1をよりコンパクトかつ低コストに構成することが可能となる。
【0053】
また、上記ストローク測定装置1は、回転部材3により軸心周りに回転自在かつ軸方向に移動自在に支持されると共に、各移動規制部材7を当該軸方向と直交する方向に移動自在に支持する支持部材4を含む。更に、第1移動機構10は、凸面15を含む第1カム面16を有し、加圧用スプリング17を介して各押圧部材6に連結されると共に回転部材3により軸方向に移動自在に支持される第1カム部材11と、第1カム部材11を介して支持部材4と対向すると共に、回転部材3と軸心周りに一体に回転して第1カム面16上を転動する第1ローラ18と、第1カム面16と第1ローラ18との接触が維持されるように第1カム部材11を支持部材4から離間する方向に付勢する第1スプリング19とを含む。また、第2移動機構20は、凹面25を含む第2カム面26を有し、回転部材3と軸心周りに一体に回転する第2カム部材21と、各移動規制部材7により回転自在に支持されると共に、第2カム部材21の回転に伴って第2カム面26上を転動する第2ローラ28と、第2カム面26と第2ローラ28との接触が維持されるように移動規制部材7を回転部材3から離間する方向に付勢する第2スプリング29とを含む。更に、第3移動機構30は、凸面35を含む第3カム面36を有し、支持部材4を介して第1カム部材11と対向すると共に回転部材3により軸方向に移動自在に支持される第3カム部材31と、第3カム部材31を介して支持部材4と対向すると共に、回転部材3と軸心周りに一体に回転して第3カム面36上を転動する第3ローラ38と、第3カム面36と第3ローラ38との接触が維持されるように第3カム部材31を支持部材4から離間する方向に付勢する第3スプリング39とを含む。
【0054】
これにより、第1カム部材11の第1カム面16、第2カム部材21の第2カム面26および第3カム部材31の第3カム面36を上述のように構成にすることで、各押圧部材6が軸方向に移動して複数の摩擦係合プレート102,103をクラッチピストン104に対して押圧する間に、各移動規制部材7をクラッチドラム101に向けて軸方向と直交する方向に移動させると共に、各押圧部材6が複数の摩擦係合プレート102,103から退避する間に、各移動規制部材7を軸方向に移動させて突起7aと装着溝101aとを係合させることが可能となる。
【0055】
更に、ストローク測定装置1は、クラッチドラム101、複数の摩擦係合プレート102,103およびクラッチピストン104を含む組立体Aをクラッチピストン104の軸心が鉛直方向に延在するように位置決めするための位置決め部2を含み、回転部材3、各押圧部材6、各移動規制部材7、第1、第2および第3移動機構30は、位置決め部2に対して一体に昇降自在に配置される。これにより、ストローク測定装置1をクラッチ100(自動変速機)の組立ラインに配置して多数のクラッチ100のピストンストロークを連続的に測定することが可能となる。
【0056】
なお、上記実施形態において、回転部材3等は手動で昇降および回転させられるが、回転部材3等の位置決め部2に対する昇降および当該回転部材3等の回転駆動はアクチュエータにより自動的に実行されてもよい。更に、ストローク測定装置1の適用対象は、上述のような多板クラッチに限られず、多板ブレーキであってもよいことはいうまでもない。
【0057】
また、上記実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一形態であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、上記実施形態はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。