(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015325
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】ダイヤモンド多結晶体およびその製造方法、ならびに工具
(51)【国際特許分類】
C01B 31/06 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
C01B31/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-223997(P2012-223997)
(22)【出願日】2012年10月9日
(65)【公開番号】特開2014-76910(P2014-76910A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有元 桂子
(72)【発明者】
【氏名】角谷 均
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−292397(JP,A)
【文献】
特開2008−110891(JP,A)
【文献】
特表2003−502266(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/027470(WO,A1)
【文献】
特開2007−055819(JP,A)
【文献】
特開2009−067609(JP,A)
【文献】
特開2007−099559(JP,A)
【文献】
特開2012−162454(JP,A)
【文献】
特開2002−018267(JP,A)
【文献】
特開2004−039372(JP,A)
【文献】
特開2002−153747(JP,A)
【文献】
特開昭63−307196(JP,A)
【文献】
国際公開第00/078674(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/011019(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
B23P5/00−17/06,23/00−25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド単相構造からなるダイヤモンド多結晶体であって、
前記ダイヤモンド多結晶体の(111)面のX線回折強度I(111)に対する、前記ダイヤモンド多結晶体の(220)面のX線回折強度I(220)の比I(220)/I(111)が0.15以下であり、前記ダイヤモンド多結晶体の結晶粒界における水素濃度は100ppm未満である、ダイヤモンド多結晶体。
【請求項2】
前記ダイヤモンド多結晶体の平均粒径は100nm以下である、請求項1に記載のダイヤモンド多結晶体。
【請求項3】
前記ダイヤモンド多結晶体のヌープ硬度が130GPa以上である、請求項1または2に記載のダイヤモンド多結晶体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイヤモンド多結晶体を備える工具。
【請求項5】
グラファイト状炭素からなり、(002)面に配向性を有する炭素材料を準備する工程と、
前記炭素材料を、圧力15〜30GPa、温度1500〜3000℃の条件下で焼結してダイヤモンドに直接的に変換する工程とを備え、
前記炭素材料は、(002)面のX線回折強度I(002)に対する(110)面のX線回折強度I(110)の比I(110)/I(002)が、0.01以下である、前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項6】
グラファイト状炭素からなり、(002)面に配向性を有する炭素材料を準備する工程と、
前記炭素材料を、圧力15〜30GPa、温度1500〜3000℃の条件下で焼結してダイヤモンドに直接的に変換する工程とを備え、
前記炭素材料は、(002)面のX線回折強度I(002)に対する(110)面のX線回折強度I(110)の比I(110)/I(002)が、0.01以下であり、
前記炭素材料は、熱分解グラファイトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド多結晶体およびその製造方法、ならびに工具に関し、特に、(111)面に配向性を有するダイヤモンド多結晶体およびその製造方法、ならびに工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の切削バイト、ドレッサー、ダイス等の工具、および掘削ビット等を構成する材料としては、劈開性を有さないダイヤモンド多結晶体が用いられている。しかし、ダイヤモンド多結晶体は、一般に焼結助剤や結合剤を用いて作製される。焼結助剤としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の鉄族元素金属、炭酸カルシウム(CaCO
3)等の炭酸塩が用いられる。結合材としては、例えば、炭化珪素(SiC)等のセラミックスが用いられる。
【0003】
焼結助剤を用いて作製されるダイヤモンド多結晶体は、例えば、原料であるダイヤモンドの粉末を、焼結助剤ともに、ダイヤモンドが熱力学的に安定な高圧高温(一般的には、圧力が5〜8GPa程度および温度が1300〜2200℃程度)の条件で、焼結することにより作製される。この場合、得られるダイヤモンド多結晶体には、焼結助剤が含まれる。かかる焼結助剤は、ダイヤモンド多結晶体の硬度や強度などの機械的特性や耐熱性に少なからず影響を与える。
【0004】
また、焼結助剤を酸処理により除去したものや、結合剤として耐熱性のSiCを用いた耐熱性に優れたダイヤモンド焼結体も知られているが、硬度や強度が低く、工具材料として十分な機械的特性(硬度特性や耐摩耗性等)を有していない。
【0005】
一方、焼結助剤を用いずに作製されて焼結助剤を含まない多結晶ダイヤモンドとして気相合成により得られるダイヤモンド多結晶体が挙げられる。しかし、この方法で作製されたダイヤモンド多結晶体は、粒界に水素を含みやすく、さらに粒子間結合力が弱いため、機械的強度が劣る。
【0006】
また、天然に産出するダイヤモンド多結晶体(カーボナード、バラスなど)も知られ、一部掘削ビットとして使用されているが、材質のバラツキが大きく、また産出量も少ないため、工業的にはあまり使用されていない。
【0007】
一部の用途によっては単結晶のダイヤモンドが用いられる。しかし、寸法的、価格的制約から、超精密工具や精密耐摩工具に限られている。さらに、単結晶ダイヤは(111)面に対し強い耐摩耗特性を持つが、単結晶ダイヤモンドの(111)劈開性のために、用途や使用条件に制限があった。
【0008】
これに対し、T.Irifune,H.Sumiya,”New Diamond and Frontier Carbon Technology”,14(2004)p313(非特許文献1)、および角谷,入舩、SEIテクニカルレビュー 165 (2004) p68(非特許文献2)には、高純度高結晶性グラファイトを出発物質として、12GPa以上、2200℃以上の超高圧高温下で間接加熱による直接変換焼結により緻密で高純度なダイヤモンド多結晶体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.Irifune,H.Sumiya,”New Diamond and Frontier Carbon Technology”,14(2004)p313
【非特許文献2】角谷,入舩、SEIテクニカルレビュー 165 (2004) p68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記非特許文献1または2に記載の方法で得られるダイヤモンド多結晶体は、非常に高い硬度を有し、耐摩耗性に優れる。
【0011】
しかしながら、上記非特許文献1または2に記載の方法で得られるダイヤモンド多結晶体は等方性を示すため、ダイヤモンドにおいて特に優れた硬度特性、耐摩耗性を示す(111)面を利用することが困難であった。
【0012】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものである。本発明の主たる目的は、優れた硬度特性および耐摩耗性を示すダイヤモンド多結晶体およびその製造方法、ならびに工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、超高圧高温下において、特定の面に配向性を有する熱分解グラファイト(Pyrolytic Graphite)を直接変換焼結することにより、(111)面が配向面になっているダイヤモンド多結晶体が得られることを見出した。
【0014】
本発明に係るダイヤモンド多結晶体は、ダイヤモンド単相構造からなるダイヤモンド多結晶体であって、ダイヤモンド多結晶体の(111)面のX線回折強度I
(111)に対する、ダイヤモンド多結晶体の(220)面のX線回折強度I
(220)の比I
(220)/I
(111)が0.15以下である。ここで、「ダイヤモンド単相」とは、焼結助剤や結合剤等を含まないことをいう。
【0015】
これにより、本発明のダイヤモンド多結晶体は、(111)面が配向面になっているため、従来のダイヤモンド多結晶体より高硬度とすることができる。
【0016】
上記ダイヤモンド多結晶体の平均粒径は100nm以下である。ここで、「多結晶ダイヤモンドの結晶粒径」とは、走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))や透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope(TEM))等の顕微鏡で直接観察して測定した、多結晶ダイヤモンドを構成する個々の単結晶粒子、すなわち一次粒子の外径(最も長い部分)の平均値をいう。上記ダイヤモンド多結晶体のヌープ硬度は130GPa以上とすることができる。上記ダイヤモンド多結晶体の結晶粒界における水素濃度は、100ppm未満とすることができる。これにより、結晶粒界での結晶粒の滑りを抑制することができ、結晶粒同士の結合を強化することができる。
【0017】
本発明に係る工具は、上記ダイヤモンド多結晶体よりなる。このようにすれば、高硬度で耐摩耗性に優れた工具を実現できる。
【0018】
本発明に係るダイヤモンド多結晶体の製造方法は、グラファイト状炭素からなり、(002)面に配向性を有する炭素材料を準備する工程と、ダイヤモンドが熱力学的に安定する圧力、温度領域にて前記炭素材料を直接的にダイヤモンドに変換する工程とを備える。このようにすれば、本発明に従ったセラミック焼結体を容易に得ることができる。
【0019】
本発明に係るダイヤモンド多結晶体の製造方法は、グラファイト状炭素からなり、(002)面に配向性を有する炭素材料を準備する工程と、炭素材料を、圧力15〜30GPa、温度1500〜3000℃の条件下で焼結してダイヤモンドに直接的に変換する工程とを備える。このようにすれば、本発明に従ったセラミック焼結体を容易に得ることができる。
【0020】
上記炭素材料は、(002)面のX線回折強度I
(002)に対する(110)面のX線回折強度I
(110)の比I
(110)/I
(002)が、0.01以下であるのが好ましい。上記炭素材料は、熱分解グラファイトであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るダイヤモンド多結晶体は、(111)面が配向面になっているため、従来のダイヤモンド多結晶体より高硬度とすることができる。また、本発明に係るダイヤモンド多結晶体は、従来のダイヤモンド多結晶体より高耐摩耗性とすることができる。
【0022】
本発明に係るダイヤモンド多結晶体の製造方法は、(002)面に配向している炭素材料を焼結してダイヤモンドに直接的に変換する工程を備えるため、上記のようなダイヤモンド多結晶体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】実施例1の出発物質のX線回折スペクトルである。
【
図3】実施例1のダイヤモンド多結晶体のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体は、ダイヤモンド単相の多結晶体である。つまり、該ダイヤモンド多結晶体は、実質的にバインダー、焼結助剤、触媒などを含んでいない。このとき、該ダイヤモンド多結晶体の平均粒径は、100nm以下程度である。つまり、本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体は、平均粒径が100nm以下程度である結晶粒同士が互いに強固に直接結合したものであり、緻密で空隙の極めて少ない結晶組織を有している。
【0025】
さらに、本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体は、ダイヤモンド多結晶体の(111)面のX線回折強度I
(111)に対する、ダイヤモンド多結晶体の(220)面のX線回折強度I
(220)の比I
(220)/I
(111)が0.15以下である。つまり、本実施の形態のダイヤモンド多結晶体は、該ダイヤモンド多結晶体に含まれる複数の単結晶ダイヤモンドが[111]方向に配向している面を備える(以下、ダイヤモンド多結晶体において、X線回折強度I
(220)の比I
(220)/I
(111)が0.15以下である面を、[111]方向に配向している面または(111)配向面いう)。
【0026】
後述する実施例より、ダイヤモンド単相からなるダイヤモンド多結晶体の平均粒径が100nm以下であって、上記X線回折強度比I
(220)/I
(111)が0.04〜0.13であるダイヤモンド多結晶体は、(111)配向面における室温でのヌープ硬度が155GPa以上と高硬度であり、さらに(111)配向面の耐摩耗性が優れていることが確認できた。しかし、ダイヤモンド単相からなるダイヤモンド多結晶体の平均粒径が100nm以下であって、上記X線回折強度比I
(220)/I
(111)が0.15以下であれば同様の効果が得られるものと考えられる。
【0027】
次に、本実施の形態のダイヤモンド多結晶体の製造方法について説明する。本実施の形態のダイヤモンド多結晶体の製造方法は、出発物質(炭素原料)として、(002)面が配向面となっている熱分解グラファイト(PG)を準備する工程(S01)と、該熱分解グラファイトを圧力15GPa以上、温度1500℃以上の条件下で焼結してダイヤモンドに直接変換する工程(S02)とを備える。
【0028】
まず、工程(S01)では、(002)面のX線回折強度I
(002)に対する(110)面のX線回折強度I
(110)の比I
(110)/I
(002)が、0.01以下である熱分解グラファイト(PG)を準備する。つまり、本工程(S01)で準備されるPGは、(002)面に配向性を示す。
【0029】
次に、工程(02)では、超高圧高温発生装置を用いて、出発物質である高配向性の熱分解グラファイト(PG)をダイヤモンド多結晶体に変換させると同時に焼結させる。焼結は、圧力15GPa以上、温度1500℃以上の条件下において行われる。これにより、(111)面が配向面になっているダイヤモンド多結晶体を得ることができる。該ダイヤモンド多結晶体は、結合剤、焼結助剤、触媒等を実質的に含まない、ダイヤモンド単相構造からなり、平均粒径が100nm以下程度とすることができる。焼結条件において、圧力および温度の上限値については、ダイヤモンドが熱力学的に安定な値であればよく、実際には使用する超高圧高温発生装置により圧力および温度の上限値は決められる。例えば、工業的に安定製造が可能な上限は、圧力30GP程度、温度3000℃程度である。
【0030】
後述する実施例より、工程(S02)において、圧力16GPa以上、温度2000℃以上程度の焼結条件で、得られたダイヤモンド多結晶体は、(111)配向面を有し、該(111)配向面の室温におけるヌープ硬度は140GPaであることが確認できた。また、該ダイヤモンド多結晶体の(111)配向面は、耐摩耗性に優れていることが確認できた。しかし、圧力15GPa以上程度、かつ1500℃以上程度の焼結条件においても、同様の特性を有するダイヤモンド多結晶体を得ることができると考えられる。
【0031】
以上のように、本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体は、ダイヤモンド単相構造からなり、平均粒径が100nm以下程度である。このため、該ダイヤモンド多結晶体は、結晶粒同士が互いに直接結合し、緻密で空隙の極めて少ない結晶組織を有するため、優れた硬度特性を有するものとなる。さらに本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体は(111)配向面を有するため、ダイヤモンドにおいて特に優れた(111)面の硬度特性および耐摩耗性を利用することができる。そのため、本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体のヌープ硬度は130GPa以上とすることができる。
【0032】
また、本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体は、結晶粒界における水素濃度を100ppm未満とすることにより、結晶粒同士の結合を強化することができる。それにより、多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度を高くすることができる。また、結晶粒の異常成長をも効果的に抑制することができ、結晶粒径のバラツキも低減することができる。
【0033】
さらに、本実施の形態のダイヤモンド多結晶体は、工具に用いることができる。このとき、本実施の形態のダイヤモンド多結晶体において(111)配向面を、被加工材と接し摩耗量が大きい面に向けるように工具を作製することで、耐摩耗性に優れた工具とすることができる。工具としては、例えば、切削工具または耐摩工具の摩耗優勢方向に用いることができる。
図1に、本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体の(111)配向面を切削工具の摩耗量が大きい面に適用した工具の概略図を示す。台金2の所定の領域に、ろう付け層3およびメタライズ層4を介してダイヤモンド多結晶体1が固定されている。このとき、すくい面がより摩耗する工具用途であれば、ダイヤモンド多結晶体1の(111)配向面がすくい面5を構成するように工具を作製することで、送り量(送り速度)が多い切削を行う場合において切削工具寿命を延ばすことが可能である。
【0034】
なお、逃げ面がより摩耗する工具用途であれば、ダイヤモンド多結晶体1の(111)配向面を逃げ面7に向けるように工具を作製してもよい。この場合においても、逃げ面7と被加工材の仕上げ面との摩擦による摩耗量を低減でき、切削工具寿命を延ばすことが可能である。
【0035】
また、本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体の製造方法において、出発物質は、グラファイト状炭素単相構造からなり、(002)面を配向面とする限りにおいて、任意の炭素材料を採用することができる。例えば、CVD法により作製した熱分解グラファイト、圧延処理されたグラファイトシート等を出発物質としてもよい。このようにしても、(111)配向面を有するダイヤモンド多結晶体を作製することができる。
【0036】
なお、本実施の形態に係るダイヤモンド多結晶体の製造方法は、ダイヤモンドが熱力学的に安定する圧力、温度領域にて前記炭素材料を直接的にダイヤモンドに変換する工程の一例として、炭素材料を圧力15GPa以上、温度1500℃以上の条件下で焼結してダイヤモンドに直接的に変換する工程を採用している。
【0037】
次に、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0038】
実施例1,2に係るダイヤモンド多結晶体を以下の方法で作製した。まず、出発物質(炭素原料)として、(002)面に配向性を示す熱分解グラファイトを準備した。
図2に、該熱分解グラファイトをX線回折測定したときの、X線回折スペクトルを示す。
図2の横軸は、回折角2θ(単位:deg)であり、縦軸は回折X線強度を、(002)面のピーク強度で規格化した任意単位で示している。該熱分解グラファイトは、(002)面のX線回折強度I
(002)に対する(110)面のX線回折強度I
(110)の比I
(110)/I
(002)が0であった。その出発物質原料を、超高圧高温発生装置を用いて圧力15〜17GPa、温度2000〜2500℃程度の条件下で20分間保持し、ダイヤモンドに直接変換した。
【0039】
比較例1,2のダイヤモンド多結晶体を以下の方法で作製した。まず、出発物質(炭素材料)として、粉末圧縮およびアニール処理を施すことにより作製されたグラファイトを準備した。該グラファイトは、(002)面のX線回折強度I
(002)に対する(110)面のX線回折強度I
(110)の比I
(110)/I
(002)が0.091であった。その出発物質を、超高圧高温発生装置を用いて圧力15〜17GPa、温度2000〜2500℃程度の条件下において20分間保持し、ダイヤモンドに直接変換した。
【0040】
なお、上記出発物質の配向性を調べるために行ったX線回折は、PHILLIPS社製X線回折装置(X’Pert)を使用した。
【0041】
上記の様にして得られた実施例1,2および比較例1,2のダイヤモンド多結晶体の配向性、硬度、耐摩耗性を下記の手法で測定した。
【0042】
配向性は、上記X線回折装置を用いて評価した。具体的には、X線回折法により得られたダイヤモンド多結晶体の(111)面のX線回折強度I
(111)に対する(220)面のX線回折強度I
(220)の比I
(220)/I
(111)を算出した。
【0043】
硬度は、ダイヤモンド多結晶体おいて(111)配向面における室温のヌープ硬度を測定した。ヌープ硬度の測定には、マイクロヌープ圧子を使用し、試験荷重0.5Nで行った。測定は5回行い、各測定値の中から最小値と最大値を除いた3回の測定値の平均値をダイヤモンド多結晶体の(硬度とした。測定機器はミツトヨ製HM−124を用いた。
【0044】
耐摩耗性は、(111)面に対する摩耗試験によって評価した。摩耗試験は、φ2.0に加工したダイヤモンド多結晶体をメタルボンドダイヤモンド砥石にて荷重2kgf、速度30m/sで摺動させ、ダイヤモンド多結晶体の(111)面を摩耗させ、1時間ごとの摩耗量を比較した。
【0045】
実施例1、2および比較例1、2のダイヤモンド多結晶体のX線回折強度比I
(220)/I
(111)、硬度、耐摩耗性の結果を表1に示す。また、
図3に、実施例1のダイヤモンド多結晶体のX線回折スペクトルを示す。
図3の横軸は、回折角2θ(単位:deg)であり、縦軸は回折X線強度を、(111)面のピーク強度で規格化した任意単位で示している。なお、耐摩耗性は摩耗量が100μmに達した時間で評価し、比較例2のダイヤモンド多結晶体の耐摩耗性を1として、これに対する比率を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、実施例1、2は、X線回折強度I
(220)の比I
(220)/I
(111)が0.04〜0.13であった。さらに、実施例1、2の(111)配向面における室温のヌープ硬度は、155〜180GPaであった。また、
図3を参照して、実施例1のダイヤモンド多結晶体は、(111)面に高い配向性を示している。
【0048】
一方、比較例1、2は、X線回折強度I
(220)の比I
(220)/I
(111)が0.19〜0.23であった。つまり、比較例1、2のダイヤモンド多結晶体は、どの面においても配向しておらず、等方的であった。比較例1、2は等方的なため、無作為に選んだ面に対して室温のヌープ硬度を測定したところ、125〜128GPaであった。
【0049】
さらに、実施例1、2は、比較例2の1.5〜2.1倍長寿命であり、比較例1、2より耐摩耗性に優れていた。つまり、実施例1、2のダイヤモンド多結晶体は(111)配向面を摩耗する面とすることで、比較例1、2のダイヤモンド多結晶体と比べて耐摩耗性が向上していることが確認された。
【0050】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のダイヤモンド多結晶体およびその製造方法、ならびに工具は、一方向の耐摩耗性が要求される工具部材および工具に対し、特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0052】
1ダイヤモンド多結晶体、2 台金、3 ろう付け層、4 メタライズ層、5 すくい面、7 逃げ面。