特許第6015366号(P6015366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015366
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】バルブタイミング調整装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-245533(P2012-245533)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-95298(P2014-95298A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】兼子 真
(72)【発明者】
【氏名】竹田 哲馬
(72)【発明者】
【氏名】菅原 岳大
(72)【発明者】
【氏名】今井 剛志
(72)【発明者】
【氏名】田中 武裕
(72)【発明者】
【氏名】安木 佑介
(72)【発明者】
【氏名】大江 修平
【審査官】 山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−177878(JP,A)
【文献】 特開2008−019757(JP,A)
【文献】 特開2001−140663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒(7)を開閉する吸気弁(9)のバルブタイミングを、作動液の圧力により調整するバルブタイミング調整装置において、
前記内燃機関のクランク軸と連動して回転するハウジングロータ(11)と、
前記内燃機関のカム軸(2)と連動して回転し、前記ハウジングロータ内において作動液の圧力を受けることにより、前記ハウジングロータに対する回転位相が変化するベーンロータ(14)と、
主ロック部材(160)及び主ロック孔(162)を有し、前記気筒内のピストン(8)が下死点に到達するよりも遅いタイミングにて前記吸気弁を閉じるための前記回転位相である主ロック位相(Pm)において、前記主ロック部材が前記主ロック孔へ嵌入することにより、前記回転位相をロックする主ロック手段(16)と、
副ロック部材(170)及び副ロック孔(172)を有し、前記主ロック位相よりも進角した前記回転位相である前記副ロック位相(Ps)において、前記副ロック部材が前記副ロック孔へ嵌入することにより、前記回転位相をロックする副ロック手段(17)と、
前記主ロック部材の移動を制御するロック制御手段(18)とを、備え、
前記主ロック部材は、
前記主ロック孔に嵌入する嵌入位置(Li)と、前記主ロック孔から脱出する脱出位置(Le)とに、往復移動し、
前記ロック制御手段は、
制御復原力を発生することにより、前記主ロック部材を前記脱出位置側へ付勢する制御弾性部材(182)と、
停止した前記内燃機関の温度が設定温度(Ts)以上となる間の温間停止状態の前記主ロック位相において、前記嵌入位置側へ前記主ロック部材を付勢するための拡張状態(Se)に変化する一方、停止した前記内燃機関の温度が前記設定温度未満となった後の冷間停止状態の前記主ロック位相において、前記嵌入位置側への前記主ロック部材の付勢を緩和するための収縮状態(Sc)に変化する感温体(183)とを、有し、
前記主ロック手段は、
主復原力を発生することにより、前記主ロック部材を前記嵌入位置側へ付勢する主弾性部材(163)を、有し、
形状記憶材料からなり、前記主ロック部材との間に前記主弾性部材を挟んで配置され、弾性を有することにより、前記嵌入位置側へ前記主ロック部材を付勢するための感温復原力を発生する前記感温体は、
前記温間停止状態において、形状復原により、前記感温復原力を増大させる前記拡張状態へ変化する一方、
前記冷間停止状態において、前記制御復原力の作用により、前記感温復原力を減少させる前記収縮状態へ変化することを特徴とするバルブタイミング調整装置。
【請求項2】
前記主ロック位相及び前記副ロック位相間の前記回転位相において、前記ハウジングロータに対して前記ベーンロータを進角側へ付勢する進角弾性部材(19)を、備えることを特徴とする請求項に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒を開閉する吸気弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置に、関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作動液の圧力により吸気弁のバルブタイミングを調整する液圧式のバルブタイミング調整装置が、広く知られている。一般に液圧式バルブタイミング調整装置は、内燃機関のクランク軸及びカム軸とそれぞれ連動して回転するハウジングロータ及びベーンロータを備えており、ハウジングロータ内においてベーンロータが作動液の圧力を受けることで、それらロータ間の回転位相が変化する。かかる回転位相変化の結果、バルブタイミングが調整されることになる。
【0003】
さて、液圧式バルブタイミング調整装置の一種として特許文献1には、内燃機関において最遅角位相よりも進角した回転位相を中間位相として、当該中間位相へ到達した回転位相を内燃機関の始動時にロックすることが、開示されている。こうしたロック機能によれば、吸気弁を閉じるタイミングが可及的に早くなることで、気筒での実圧縮比が高くなるので、圧縮加熱によって気筒内ガスの温度が上昇し、燃料気化が促進されることになる。故に、例えば極低温等の低温環境下にて停止状態のまま放置された内燃機関の冷間始動時には、始動性を確保できるのである。
【0004】
しかし、吸気弁の閉じタイミングが早い特許文献1の液圧式バルブタイミング調整装置では、気筒での高い実圧縮比に起因して、例えば常温等の比較的高温環境下にある内燃機関の温間始動時に、次の問題を発生するおそれがある。その問題の一つは、ノッキングの発生である。また、別の一つは、アイドルストップシステム乃至はハイブリッドシステムに適用された内燃機関の再始動時、あるいはイグニッションオフによるエンジン停止直後の再始動時に、気筒内ガスの圧縮時温度が高くなり過ぎて点火前に自己着火するプリイグニションを招くことや、圧縮反力が大きいことでクランキング回転の変動が増大して不快な振動乃至は騒音を招くことである。
【0005】
そこで、特許文献2に開示される液圧式バルブタイミング調整装置では、気筒内のピストンが下死点に到達するよりも遅いタイミングにて吸気弁を閉じるための遅角位相と、当該遅角位相よりも進角した中間位相とのうち一方を、内燃機関の始動時に選択している。このような回転位相の選択によれば、内燃機関の温度(以下、「エンジン温度」という)に適した始動を実現することが、可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4161356号公報
【特許文献2】特開2002−256910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2の液圧式バルブタイミング調整装置では、内燃機関の温間始動時に作動液の圧力をハウジングロータ内のベーンロータに与えることで、回転位相のロックではなく調整により、遅角位相を選択している。そのため、作動液の圧力が低下している始動時には、カム軸からの変動トルク作用によってベーンロータがハウジングロータに対する進角側へと相対回転し、回転位相が遅角位相からずれ易くなる。
【0008】
また、特許文献2の液圧式バルブタイミング調整装置では、内燃機関の冷間始動時に中間位相への回転位相変化を変動トルクによって生じさせるため、ハウジングロータ内のベーンロータに圧力を与える作動液がドレンされている。その結果、ロック体に圧力を与える作動液もドレンされるため、当該ロック体がロック解除位置に移動して、中間位相でのロックが困難となってしまう。
【0009】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、エンジン温度に適した始動を実現する液圧式のバルブタイミング調整装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内燃機関の気筒(7)を開閉する吸気弁(9)のバルブタイミングを、作動液の圧力により調整するバルブタイミング調整装置において、内燃機関のクランク軸と連動して回転するハウジングロータ(11)と、内燃機関のカム軸(2)と連動して回転し、ハウジングロータ内において作動液の圧力を受けることにより、ハウジングロータに対する回転位相が変化するベーンロータ(14)と、主ロック部材(160)及び主ロック孔(162)を有し、気筒内のピストン(8)が下死点に到達するよりも遅いタイミングにて吸気弁を閉じるための回転位相である主ロック位相(Pm)において、主ロック部材が主ロック孔へ嵌入することにより、回転位相をロックする主ロック手段(16)と、副ロック部材(170)及び副ロック孔(172)を有し、主ロック位相よりも進角した回転位相である副ロック位相(Ps)において、副ロック部材が副ロック孔へ嵌入することにより、回転位相をロックする副ロック手段(17)と、主ロック部材の移動を制御するロック制御手段(18)とを、備え、主ロック部材は、主ロック孔に嵌入する嵌入位置(Li)と、主ロック孔から脱出する脱出位置(Le)とに、往復移動し、ロック制御手段は、制御復原力を発生することにより、主ロック部材を脱出位置側へ付勢する制御弾性部材(182)と、停止した内燃機関の温度が設定温度(Ts)以上となる間の温間停止状態の主ロック位相において、嵌入位置側へ主ロック部材を付勢するための拡張状態(Se)に変化する一方、停止した内燃機関の温度が設定温度未満となった後の冷間停止状態の主ロック位相において、嵌入位置側への主ロック部材の付勢を緩和するための収縮状態(Sc)に変化する感温体(183)とを、有し、主ロック手段は、主復原力を発生することにより、主ロック部材を前記嵌入位置側へ付勢する主弾性部材(163)を、有し、形状記憶材料からなり、主ロック部材との間に主弾性部材を挟んで配置され、弾性を有することにより、嵌入位置側へ主ロック部材を付勢するための感温復原力を発生する感温体は、温間停止状態において、形状復原により、感温復原力を増大させる拡張状態へ変化する一方、冷間停止状態において、制御復原力の作用により、感温復原力を減少させる収縮状態へ変化することを特徴とする。
【0011】
このような本発明の特徴によると、停止した内燃機関にてエンジン温度が設定温度以上となる間の温間停止状態の主ロック位相では、感温体が拡張状態へと変化することで、主ロック部材が主ロック孔への嵌入位置側に付勢される。これにより主ロック部材は、制御弾性部材からの制御復原力に抗して嵌入位置に移動することで、主ロック位相での回転位相ロックを実現できる。ここで、気筒内ピストンが下死点に到達するよりも遅いタイミングにて吸気弁を閉じる主ロック位相では、内燃機関の次の始動時に、下死点到達後のピストンのリフトアップに応じて気筒内ガスが吸気系に押出されることで、実圧縮比が低下する。故に、設定温度以上での温間停止後となる温間始動時には、主ロック位相での回転位相ロックを維持して、ノッキングやプリイグニション、不快な振動乃至は騒音といった始動不具合(以下、単に「始動不具合」という)の発生を、抑制できる。
【0012】
これに対し、停止した内燃機関にてエンジン温度が設定温度未満となった後の冷間停止状態の主ロック位相では、感温体が収縮状態へと変化することで、主ロック部材に対する嵌入位置側への付勢が緩和される。これにより主ロック部材は、制御弾性部材からの制御復原力を受けて主ロック孔からの脱出位置に移動することで、主ロック位相での回転位相ロックを解除できる。故に、内燃機関の次の始動時には、カム軸からの変動トルク作用によってベーンロータがハウジングロータに対する進角側へと相対回転する。その結果、主ロック位相よりも進角した副ロック位相にまで回転位相が変化すると、副ロック部材が副ロック孔に嵌入して回転位相が副ロック位相にロックされることで、吸気弁を閉じるタイミングが可及的に早くなる。これにより、気筒内ガスの押出し量が減少して、当該ガスの温度が実圧縮比と共に上昇するので、設定温度未満での冷間停止後となる冷間始動時にあっても、着火性を向上させて始動性を確保できる。
【0013】
以上の如き本発明の特徴によれば、エンジン温度に適した始動を実現することが、可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態によるバルブタイミング調整装置の基本構成を示す図であって、図2のI−I線断面図である。
図2図1のII−II線断面図である。
図3図2とは異なる作動状態を示す断面図である。
図4図3のIV−IV線断面図である。
図5図1のバルブタイミング調整装置の一作動状態を示す模式図である。
図6図1のバルブタイミング調整装置の図5とは別の作動状態を示す模式図である。
図7図1のバルブタイミング調整装置の図5,6とは別の作動状態を示す模式図である。
図8図1のバルブタイミング調整装置の図5〜7とは別の作動状態を示す模式図である。
図9図5の要部の拡大図に相当する模式図である。
図10図6の要部の拡大図に相当する模式図である。
図11図8の要部の拡大図に相当する模式図である。
図12図1のバルブタイミング調整装置の特徴を説明するための模式図である。
図13図1のバルブタイミング調整装置の特徴を説明するための特性図である。
図14図5〜11の感温体の特性を示すグラフである。
図15図1のバルブタイミング調整装置に作用する変動トルクについて説明するための特性図である。
図16図1のバルブタイミング調整装置について一作動例を説明するためのグラフである。
図17図1のバルブタイミング調整装置について図16とは別の作動例を説明するためのグラフである。
図18図1のバルブタイミング調整装置について作用効果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両の内燃機関に搭載される。尚、本実施形態において内燃機関の停止及び始動は、エンジンスイッチSWのオフ指令及びオン指令に応じるだけでなく、アイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令及び再始動指令にも応じて、実現される。
【0017】
(基本構成)
まず、バルブタイミング調整装置1の基本構成につき、説明する。バルブタイミング調整装置1は、「作動液の圧力」として作動油の圧力を利用する液圧式であり、機関トルクの伝達によりカム軸2が開閉する「動弁」として吸気弁9(後に詳述する図13参照)のバルブタイミングを調整する。図1〜4に示すようにバルブタイミング調整装置1は、内燃機関にてクランク軸(図示しない)から出力される機関トルクをカム軸2へ伝達する伝達系に設置の回転駆動部10と、当該駆動部10を駆動するために作動油の入出を制御する制御部40とを、備えている。
【0018】
(回転駆動部)
回転駆動部10において金属製のハウジングロータ11は、リアプレート13とフロントプレート15とをシューリング12の軸方向両端部にそれぞれ締結してなる。リアプレート13は、シューリング12側へ向かって開口するロック孔162,172を、円筒孔状に形成している。
【0019】
シューリング12は、円筒状のハウジング本体120、複数のシュー121,122,123及びスプロケット124を有している。図2に示すように各シュー121,122,123は、ハウジング本体120のうち回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から、径方向内側へ突出している。回転方向において隣り合うシュー121,122,123の間には、それぞれ収容室20が形成されている。スプロケット124は、タイミングチェーン(図示しない)を介してクランク軸と連繋する。かかる連繋により内燃機関の回転中は、機関トルクがクランク軸からスプロケット124へと伝達されることで、ハウジングロータ11がクランク軸と連動して一定方向(図2の時計方向)に回転する。
【0020】
図1,2に示すように金属製のベーンロータ14は、ハウジングロータ11内に同軸上に収容されており、軸方向両端部をそれぞれリアプレート13とフロントプレート15とに摺動させる。ベーンロータ14は、円筒状の回転軸140及び複数のベーン141,142,143を有している。回転軸140は、カム軸2に対して同軸上に固定されている。かかる固定によりベーンロータ14は、カム軸2と連動してハウジングロータ11と同一方向(図2の時計方向)に回転可能しつつ、ハウジングロータ11に対して相対回転可能となっている。
【0021】
図2に示すように各ベーン141,142,143は、回転軸140のうち回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出し、それぞれ対応する収容室20に収容されている。各ベーン141,142,143は、対応する収容室20を回転方向に分割することで、作動油が入出する進角室22,23,24及び遅角室26,27,28を、ハウジングロータ11内に区画している。具体的には、シュー121及びベーン141の間には進角室22が形成され、シュー122及びベーン142の間には進角室23が形成され、シュー123及びベーン143の間には進角室24が形成されている。また一方、シュー122及びベーン141の間には遅角室26が形成され、シュー123及びベーン142の間には遅角室27が形成され、シュー121及びベーン143の間には遅角室28が形成されている。
【0022】
図1,2に示すようにベーン141は、回転軸140に対して偏心する円筒状の金属製主ロック部材160を、軸方向に往復移動可能に支持している。それと共にベーン141は、作動油の入出する円環空間状の主ロック解除室161を、主ロック部材160の周りに形成している。図1,5に示すように主ロック部材160は、主ロック解除室161からの作動油排出により、円筒孔状の主ロック孔162へと嵌入する。かかる嵌入により主ロック部材160は、ハウジングロータ11に対するベーンロータ14の回転位相(以下、単に「回転位相」という)を、図2の主ロック位相Pmにロックする。また一方、図6〜8に示すように主ロック部材160は、主ロック解除室161に導入された作動油の圧力を受けること等により、主ロック孔162から脱出する。かかる脱出により主ロック部材160は、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除する。
【0023】
図3,4に示すようにベーン142は、回転軸140に対して偏心する円筒状の金属製副ロック部材170を、軸方向に往復移動可能に支持している。それと共にベーン142は、作動油の入出する円環空間状の副ロック解除室171を、副ロック部材170の周りに形成している。図4,7に示すように副ロック部材170は、副ロック解除室171からの作動油排出により、円筒孔状の副ロック孔172へと嵌入する。かかる嵌入により副ロック部材170は、回転位相を図3の副ロック位相Psにロックする。また一方、図5,6,8に示すように副ロック部材170は、副ロック解除室171に導入された作動油の圧力を受けることで、副ロック孔172から脱出する。かかる脱出により副ロック部材170は、副ロック位相Psにおける回転位相のロックを解除する。
【0024】
以上の回転駆動部10では、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に対して入出される作動油の圧力を、ベーンロータ14がハウジングロータ11内にて受ける。このとき、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、進角室22,23,24への作動油導入且つ遅角室26,27,28からの作動油排出が生じることで、回転位相が進角側へ変化する(例えば、図2から図3への変化)。その結果、バルブタイミングが進角調整される。また一方、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、遅角室26,27,28への作動油導入且つ進角室22,23,24からの作動油排出が生じることで、回転位相が遅角側へ変化する(例えば、図3から図2への変化)。その結果、バルブタイミングが遅角調整される。さらに、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が閉じ込められることで、回転位相の変化が抑制されて、バルブタイミングが略一定に保持される。
【0025】
(制御部)
図1,5〜8に示す制御部40において、主進角通路41は、回転軸140に形成されて進角室22,23,24と連通している。主遅角通路45は、回転軸140に形成されて遅角室26,27,28と連通している。ロック解除通路49は、回転軸140に形成されてロック解除室161,171の双方と連通している。
【0026】
回転軸140に形成される主供給通路50は、供給源としてのポンプ4に搬送通路3を介して連通している。ここでポンプ4は、内燃機関の通常運転中に機関トルクを受けて駆動されるメカポンプであり、当該通常運転中は、ドレンパン5から吸入した作動油を継続して吐出する。また、カム軸2及びその軸受を貫通する搬送通路3は、カム軸2の回転に拘らずに常にポンプ4の吐出口と連通可能となっている。これらのことから、内燃機関がクランキングにより始動して完爆するのに伴って、主供給通路50への作動油の供給が開始される一方、内燃機関が停止するのに伴って当該供給が停止する。
【0027】
副供給通路52は、回転軸140に形成されて主供給通路50から分岐している。副供給通路52は、ポンプ4から供給される作動油を、主供給通路50を通じて受ける。ドレン回収通路54は、回転駆動部10及びカム軸2の外部に設けられている。ドレン回収通路54は、ドレン回収部としてのドレンパン5と共に大気に開放され、当該ドレンパン5へ作動油を排出可能となっている。
【0028】
図1,2に示すように制御弁60は、リニアソレノイド62が発生する駆動力と、付勢部材64が当該駆動力と反対向きに発生する復原力とを利用するスプール弁であり、スリーブ66内のスプール68を軸方向に往復移動させる。スプール68が図5〜7のロック領域Rlへ移動したときには、ポンプ4からの作動油が遅角室26,27,28に導入されると共に、進角室22,23,24及びロック解除室161,171の作動油がドレンパン5に排出される。スプール68が図8の遅角領域Rrへ移動したときには、進角室22,23,24の作動油がドレンパン5に排出されると共に、ポンプ4からの作動油が遅角室26,27,28及びロック解除室161,171に導入される。スプール68が図8の進角領域Raへ移動したときには、遅角室26,27,28の作動油がドレンパン5に排出されると共に、ポンプ4からの作動油が進角室22,23,24及びロック解除室161,171に導入される。スプール68が図8の保持領域Rhへ移動したときには、ポンプ4からの作動油がロック解除室161,171に導入されつつ、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が閉じ込められる。
【0029】
制御回路80は、図1に示すリニアソレノイド62やエンジンスイッチSW、内燃機関の各種電装品等と電気接続されるマイクロコンピュータであり、アイドルストップシステムISSを構成している。制御回路80は、リニアソレノイド62への通電及びアイドルストップを含む内燃機関の運転を、コンピュータプログラムに従い制御する。
【0030】
(主ロック機構)
次に、図1に示すように、主ロック要素160,161,162の組に主弾性部材163及びストッパ164,165を組み合わせてなる「主ロック手段」としての主ロック機構16につき、詳細に説明する。
【0031】
図5に示すように有底円筒状の主ロック部材160は、外周面から円環板状に突出するフランジ部160bを、有している。フランジ部160bは、ベーン141にてリアプレート13側のスプリング受部141aとの間に、主ロック解除室161を形成している。かかる主ロック解除室161の圧力等に応じて主ロック部材160は、リアプレート13側の底端部160aを、主ロック孔162に対して入出させることになる。ここで本実施形態では、図5の如く主ロック部材160が主ロック孔162に底端部160aを嵌入させる位置を嵌入位置Liといい、図6〜8の如く主ロック部材160が主ロック孔162から底端部160aを脱出させる位置を脱出位置Leという。
【0032】
図5に示すように主弾性部材163は、金属製のコイルスプリングであり、ベーン141内に収容されている。主弾性部材163は、後に詳述する可動部材181と、主ロック部材160の底端部160aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の主弾性部材163は、図9〜11の如く主ロック部材160をリアプレート13側へ付勢するように、主復原力Fmを発生する。したがって、図9,10の如く主復原力Fmは、主ロック位相Pmでは主ロック孔162側となる嵌入位置Li側へ向かって、主ロック部材160に作用する。また、主ロック解除室161からの圧力作用により、図11の如く主復原力Fmに抗して主ロック部材160を駆動する駆動力Ffは、脱出位置Le側へ向かって主ロック部材160に作用する。
【0033】
図5に示すように嵌入ストッパ164は、有底円筒孔状を呈する主ロック孔162の底面に、平坦面状に形成されている。嵌入ストッパ164は、嵌入位置Liに移動した主ロック部材160の底端部160aに対して、面接触する。かかる接触により主ロック部材160は、嵌入位置Liに係止される。
【0034】
図6〜8に示すように脱出ストッパ165は、ベーン141にてリアプレート13とは反対側の有底円筒部141bの先端面に、平坦面状に形成されている。脱出ストッパ165は、脱出位置Leに移動した主ロック部材160のフランジ部160bに対して、面接触する。かかる接触により主ロック部材160は、脱出位置Leに係止される。
【0035】
以上の構成下、主ロック孔162への主ロック部材160の嵌入により実現される主ロック位相Pmは、図2,12に示す如き最遅角位相に予設定されている。そして、特に本実施形態の主ロック位相Pmは、図13に示すように、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じるための回転位相に、予設定されている。
【0036】
(ロック制御機構)
次に、図1に示すように、主ロック部材160側に組み付けられる「ロック制御手段」としてのロック制御機構18につき、詳細に説明する。
【0037】
図5に示すようにロック制御機構18は、主ロック部材160の移動を制御するために、可動部材181、制御弾性部材182及び感温体183を有している。
【0038】
金属製の可動部材181は、円環板状に形成され、主ロック部材160の内周側に同軸上に収容されている。可動部材181は、主ロック部材160に嵌挿されることで、軸方向に往復移動可能且つ主ロック部材160に対して相対移動可能となっている。それと共に可動部材181は、図9〜11の如く主復原力Fmを、主弾性部材163からリアプレート13とは反対側へ向かって受ける。尚、可動部材181の内周側空間と、主ロック部材160の内周側空間と、有底円筒部141bの内周側空間とは、図示しない大気通路を通じて大気に開放されている。かかる大気開放により、可動部材181や主ロック部材160の動作時に負荷(外乱)となる空気の圧縮・膨張が、無視できる程度に小さくなっている。
【0039】
図5に示すように制御弾性部材182は、金属製のコイルスプリングであり、ベーン141内にて可動部材181の外周側に同軸上に配置されている。制御弾性部材182は、フランジ部160bとスプリング受部141aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の制御弾性部材182は、図9図11の如く主ロック部材160をリアプレート13とは反対側へ付勢するように、制御復原力Fcを発生する。即ち、制御復原力Fcは、脱出位置Le側へ向かって主ロック部材160に作用する。
【0040】
図5に示すように感温体183は、温度上昇に応じて形状復原する形状記憶材料、例えばニッケル−チタン(Ni−Ti)系合金等により、コイルスプリング状に形成されて弾性を有している。感温体183は、ベーン141内にて主ロック部材160の内周側に同軸上に挿入されている。感温体183は、有底円筒部141bの底面と可動部材181との間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の感温体183は、主ロック部材160との間に挟んだ主弾性部材163及び可動部材181を、リアプレート13側へと付勢するように、図9図11の如く感温復原力Ftを発生する。
【0041】
本実施形態において感温体183は、エンジン温度T(図14参照)に応じて拡縮することで、感温復原力Ftを増減させる。具体的に、設定温度Ts以上のエンジン温度Tでは、図9,11の如く形状復原により拡張変化した拡張状態Seにて、図14の如く感温復原力Ftを設定値Fts以上に増大させる。また一方、設定温度Ts未満のエンジン温度Tにおいて感温体183は、図10の如く圧縮により収縮変化した収縮状態Scにて、図14の如く感温復原力Ftを設定値Fts未満に減少させる。
【0042】
ここで図5,9に示すように、内燃機関の停止及び始動に応じてロック解除通路49からドレンパン5への作動油排出が実現可能な状態下、エンジン温度Tが設定温度Ts以上になると、感温体183が拡張状態Seに変化する。このとき設定値Fts以上に増大する感温復原力Ftと、それに応じた大きさの主復原力Fmとの発生により主ロック部材160は、制御復原力Fcに抗して嵌入位置Li側に付勢される。その結果、嵌入位置Li側へと移動する主ロック部材160は、主ロック位相Pmでは嵌入ストッパ164により係止されることで、嵌入位置Liにて定位可能となっている。
【0043】
一方で図6,10に示すように、内燃機関の停止及び始動に応じてロック解除通路49からドレンパン5への作動油排出が実現可能な状態下、エンジン温度Tが設定温度Ts未満になると、主復原力Fm及び制御復原力Fcの作用により感温体183は、圧縮されて収縮状態Scに変化する。このとき設定値Fts未満に減少する感温復原力Ftと、それに応じた大きさの主復原力Fmとの発生により主ロック部材160は、嵌入位置Li側への付勢を緩和される。その結果、制御復原力Fcを受けて脱出位置Le側へと移動する主ロック部材160は、脱出ストッパ165により係止されることで、脱出位置Leにて定位可能となっている(図7も参照)。
【0044】
さらに図8,11に示すように、内燃機関の通常運転に応じてポンプ4からロック解除通路49への作動油導入が実現可能な状態下、当該通常運転によりエンジン温度Tが設定温度Ts以上になると、感温体183が拡張状態Seに変化する。このとき設定値Fts以上に増大する感温復原力Ftと、それに応じた大きさの主復原力Fmとが発生するが、作動油導入により上昇した駆動力Ffを制御復原力Fcと共に受ける主ロック部材160は、脱出位置Le側へと移動することになる。その結果、主ロック部材160は、脱出ストッパ165により係止されることで、脱出位置Leにて定位可能となっている。
【0045】
尚、以上のロック制御機構18において、図14に示す設定値Ftsは、例えば25.4N等に、また当該値Ftsに対応する設定温度Tsは、例えば40〜60℃の範囲内の温度等に、予設定される。また、図14において符号Xを付した範囲は、感温体183が状態Se,Sc間にて撓む撓み量の可変範囲を示している。
【0046】
(副ロック機構)
次に、図4に示すように、副ロック要素170,171,172の組に副弾性部材173及び制限溝174を組み合わせてなる「副ロック手段」としての副ロック機構17につき、詳細に説明する。
【0047】
図5に示すように副弾性部材173は、金属製のコイルスプリングであり、ベーン142内に収容されている。副弾性部材173は、ベーン142にてリアプレート13とは反対側のスプリング受部142aと、副ロック部材170のスプリング受部170aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態により副弾性部材173は、副ロック部材170をリアプレート13側へ付勢するように、復原力を発生する。したがって、副弾性部材173の復原力は、図7,8に示す副ロック位相Psでは副ロック孔172側へと向かって、副ロック部材170に作用する。また、副ロック解除室171からの圧力作用により副ロック部材170を駆動する力は、副弾性部材173の復原力に抗して副ロック部材170に作用する。
【0048】
図5に示すように制限溝174は、リアプレート13において回転方向に延伸する有底長孔状に、形成されている。この制限溝174の中途部の溝底には、副ロック孔172が開口している。かかる開口構造により、副ロック孔172の回転方向両側にて副ロック部材170が制限溝174に進入するときには、副ロック位相Psを挟む所定の回転位相領域に、回転位相が制限される。また、回転位相が副ロック位相Psに到達することで、制限溝174内の副ロック部材170が副ロック孔172へと嵌入するときには、図7の副ロック位相Psにて回転位相ロックが実現される。
【0049】
以上の構成下、副ロック孔172への副ロック部材170の嵌入により実現される副ロック位相Psは、図3,12に示す如く主ロック位相Pmよりも進角した中間位相に、予設定されている。そして、特に本実施形態の副ロック位相Psは、図13に示すように、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミング乃至はその近傍のタイミングにて吸気弁9を閉じるための回転位相に、予設定されている。
【0050】
(ベーンロータへの変動トルク作用)
次に、カム軸2からベーンロータ14に作用する変動トルクにつき、説明する。
【0051】
内燃機関の回転中は、カム軸2が開閉駆動する吸気弁9からのスプリング反力等に起因して、変動トルクがベーンロータ14に作用する。図15に例示するように変動トルクは、ハウジングロータ11に対する進角側へ作用する負トルクと、ハウジングロータ11に対する遅角側へ作用する正トルクとの間にて、交番変動する。本実施形態の変動トルクについては、カム軸2及びその軸受間のフリクション等に起因して、正トルクのピークトルクが負トルクのピークトルクよりも大きくなっており、それらの平均トルクが正トルク側(遅角側)に偏っている。
【0052】
(ベーンロータの付勢構造)
次に、ベーンロータ14を副ロック位相Psへ向かって付勢するための付勢構造につき、説明する。
【0053】
図1に示す回転駆動部10において各ロータ11,14には、それぞれ係止ピン110,146が設けられている。第一係止ピン110は、フロントプレート15においてシューリング12とは軸方向反対側へ突出する円柱状に、形成されている。第二係止ピン146は、回転軸140においてフロントプレート15と実質平行のアームプレート147から軸方向の当該プレート15側へと突出する円柱状に、形成されている。これら各係止ピン110,146は、ロータ11,14の回転中心線から実質同一距離だけ偏心した箇所に、軸方向では互いにずれて配置されている。
【0054】
フロントプレート15及びアームプレート147の間には、進角弾性部材19が配置されている。進角弾性部材19は、実質同一平面上にて金属素線を巻いた渦巻きスプリングであり、その渦巻き中心がロータ11,14の回転中心線と心合わせされている。進角弾性部材19の内周側端部は、回転軸140の外周部に巻装されている。進角弾性部材19の外周側端部は、U字状に屈曲されて係止部190を形成している。係止部190は、係止ピン110,146のうち回転位相に応じたピンにより、係止可能となっている。
【0055】
以上の構成下、副ロック位相Psよりも遅角側、即ちロック位相Ps,Pmの間に回転位相が変化した状態では、進角弾性部材19の係止部190が第一係止ピン110に係止される。このとき、係止部190から第二係止ピン146が離脱するので、進角弾性部材19がねじり弾性変形して発生する復原力は、ハウジングロータ11に対する進角側の回転トルクとしてベーンロータ14に作用する。即ちベーンロータ14は、進角側の副ロック位相Psへ向かって付勢される。ここで、ロック位相Ps,Pmの間にて進角弾性部材19の復原力は、遅角側に偏った変動トルク(図15参照)の平均値よりも大きくなるように、予設定されている。また一方、副ロック位相Psよりも進角側に回転位相が変化した状態では、係止部190が第二係止ピン146に係止される。このとき、係止部190から第一係止ピン110が離脱するので、進角弾性部材19によるベーンロータ14の付勢作用は制限される。
【0056】
(作動)
次に、装置1の作動を詳細に説明する。
【0057】
(1) 通常運転
始動により完爆した後における内燃機関の通常運転中は、図16,17に示すように、ポンプ4からの作動油供給が内燃機関の回転速度に応じた高い圧力にて継続される。その結果、各ロック解除室161,171に導入される作動油の圧力作用により、各ロック部材160,170がそれぞれロック孔162,172から脱出することで、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックの解除状態が維持される(図8,11)。ここで特に、主ロック位相Pmでのロック解除状態は、感温体183の状態如何に拘らず、主ロック解除室161から主ロック部材160への圧力作用によって維持される。こうした状態下、スプール68の移動位置を領域Rr,Ra,Rhのいずれかに変更することで、バルブタイミングが適宜調整される。
【0058】
(2) 停止・始動
エンジンスイッチSWのオフ指令又はアイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令といった停止指令に応じて、図16,17に示すように通常運転中の内燃機関が停止するときには、燃料カットによって内燃機関を慣性回転状態とする前に、スプール68をロック領域Rlに移動させる。このときポンプ4からの作動油供給は、内燃機関の回転速度に応じた高い圧力で継続される。故に、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが上記(1)と同様の原理で解除されると共に、遅角室26,27,28の作動油圧力により回転位相が最遅角位相としての主ロック位相Pmへ変化する。
【0059】
こうした主ロック位相Pmへの変化後、内燃機関を慣性回転状態とすると、ポンプ4からの作動油の供給圧力は、図16,17に示すように、当該慣性回転の速度に応じて漸次減少する。その結果、各ロック解除室161,171の圧力が消失し、内燃機関が主ロック位相Pmでの停止状態となる。
【0060】
内燃機関の停止中、図16の如くエンジン温度Tが設定温度Ts以上となる間の温間停止状態では、感温体183が拡張状態Seに変化して、感温復原力Ftが設定値Fts以上に増大する。故に、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、制御復原力Fcに抗して付勢されることで、嵌入位置Liに移動する(図5,9)。またこのとき、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(図5)。このような移動及び接触の結果、回転位相が主ロック位相Pmにロックされる。
【0061】
この後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令といった始動指令に応じて、内燃機関のクランキングが設定温度Ts以上で開始される温間始動時には、図16に示すように感温体183が拡張状態Seに維持される。またこのとき、スプール68の移動位置はロック領域Rlに保持され、且つポンプ4からの作動油供給は実質止まった状態となる。これらのことから、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、嵌入位置Liを維持する(図5,9)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(図5)。このような嵌入維持及び接触の結果、回転位相が主ロック位相Pmにロックされた状態で、内燃機関が完爆する。
【0062】
以上に対し、内燃機関の停止中に図17の如くエンジン温度Tが設定温度Ts未満になった後の冷間停止状態では、感温体183が収縮状態Scに変化して、感温復原力Ftが設定値Fts未満に減少する。故に、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、制御復原力Fcに抗した付勢を緩和されるため、脱出位置Leに移動する(図6,10)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(図6)。このような移動及び接触の結果、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除された状態となる。
【0063】
この後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令といった始動指令に応じて、内燃機関のクランキングが設定温度Ts未満で開始される冷間始動時には、図17に示すように感温体183が収縮状態Scに維持される。またこのとき、スプール68の移動位置はロック領域Rlに保持され、且つポンプ4からの作動油供給は実質止まった状態となる。これらのことから、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、脱出位置Leを維持する(図6,10)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触することになる(図6)。
【0064】
このようにして各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除されている冷間始動時のベーンロータ14は、負トルクの作用によってハウジングロータ11に対する進角側へと相対回転することで、主ロック位相Pmから回転位相を進角させる。その結果、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、まず、制限溝174へと進入する。これにより、正トルク作用時のベーンロータ14がハウジングロータ11に対する遅角側へと相対回転しても、主ロック位相Pmへの回転位相の戻りは、図17の如く制限されることになる。
【0065】
さらにこの後、負トルクの作用により回転位相がさらに進角して副ロック位相Psまで変化すると、副ロック解除室171の圧力消失状態で副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172へ嵌入する(図7)。またこのとき、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、脱出位置Leを維持する(図7)。これら嵌入及び脱出維持の結果、図17に示すように回転位相が副ロック位相Psにロックされた状態で、内燃機関が完爆する。
【0066】
(作用効果)
以上説明した装置1によると、停止した内燃機関にてエンジン温度Tが設定温度Ts以上となる間の温間停止状態の主ロック位相Pmでは、感温体183が拡張状態Seへと変化することで、主ロック部材160が主ロック孔162への嵌入位置Li側に付勢される。これにより主ロック部材160は、制御弾性部材182からの制御復原力Fcに抗して嵌入位置Liに移動することで、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを実現できる。ここで、気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じる主ロック位相Pmでは、内燃機関の次の始動時に、下死点到達後のピストン8のリフトアップに応じて気筒7内ガスが吸気系に押出されることで、実圧縮比が低下する(デコンプレッション効果)。故に、設定温度Ts以上での温間停止後となる温間始動時、例えばアイドルストップシステムISSによる再始動が図18の如く頻繁に繰り返される場合でも、主ロック部材160を嵌入位置Liに定位させて主ロック位相Pmでの回転位相ロックを維持することで、始動不具合の発生を抑制できる。
【0067】
これに対し、停止した内燃機関にてエンジン温度Tが設定温度Ts未満になった後の冷間停止状態の主ロック位相Pmでは、感温体183が収縮状態Scへと変化することで、主ロック部材160に対する嵌入位置Li側への付勢が緩和される。これにより主ロック部材160は、制御弾性部材182からの制御復原力Fcを受けて主ロック孔162からの脱出位置Leに移動することで、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除できる。故に、内燃機関の次の始動時には、カム軸2からの変動トルク作用のうち負トルク作用によって、ベーンロータ14がハウジングロータ11に対する進角側へと相対回転する。その結果、主ロック位相Pmよりも進角した副ロック位相Psにまで回転位相が変化すると、副ロック部材170が副ロック孔172に嵌入して回転位相が副ロック位相Psにロックされることで、吸気弁9を閉じるタイミングが可及的に早くなる。これにより、気筒7内ガスの押出し量が減少して、当該ガスの温度が実圧縮比と共に上昇するので、設定温度Ts未満での冷間停止後となる冷間始動時、例えば極低温環境下での車両の長時間放置後の始動時やアイドルストップシステムISSにより一時停止したまま運転終了する場合の再始動時等にあっても、着火性を向上させて始動性を確保できる。
【0068】
以上の如き装置1によれば、エンジン温度Tに適した始動を実現することが、可能となる。
【0069】
ここで、温間停止状態の主ロック位相Pmにて拡張状態Seに変化する感温体183は、嵌入位置Li側へ主ロック部材160を付勢するために弾性によって発生する感温復原力Ftを、増大させる。その結果、主ロック部材160は、制御復原力Fcに抗した嵌入位置Li側へと確実に移動し得るので、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを実現できる。また一方、冷間停止状態の主ロック位相Pmでは、収縮状態Scに変化する感温体183が感温復原力Ftを減少させることで、主ロック部材160に対する嵌入位置Li側への付勢が緩和される。その結果、主ロック部材160は、制御復原力Fcの向きとなる脱出位置Le側へと確実に移動し得るので、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除できる。これらによれば、温間始動時と冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相へ正確に、切替可能となる。
【0070】
また、形状記憶材料からなる感温体183は、温間停止状態の主ロック位相Pmにて拡張状態Seへ変化が形状復原によって確かなものとなる。故に、主ロック部材160に対する嵌入位置Li側への付勢を適時に生じさせて、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを実現できる。また一方、冷間停止状態の主ロック位相Pmにて感温体183は、収縮状態Scへの変化が制御復原力Fcの作用によって確かなものとなる。故に、主ロック部材160に対する付勢を適時に緩和して、主ロック位相での回転位相ロックを解除できる。これらによれば、温間始動時と冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0071】
さらに、形状記憶材料からなる感温体183は、主ロック部材160との間に、主弾性部材163を挟んで配置される。その結果、温間停止状態の主ロック位相Pmでは、主弾性部材163が嵌入位置Li側に主ロック部材160を付勢する主復原力Fmは、拡張状態Seへと形状復原した感温体183にて増大する感温復原力Ftに、応じた大きさとなる。その結果、主ロック部材160は、制御復原力Fcに抗した嵌入位置Li側へと確実に移動し得るので、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを実現できる。また一方、冷間停止状態の主ロック位相Pmでは、制御復原力Fcと共に感温体183ヘと作用することで、当該感温体183を収縮状態Scに変化させる主復原力Fmは、当該感温体183にて減少する感温復原力Ftに、応じた大きさとなる。その結果、主ロック部材160は、制御復原力Fcの向きとなる脱出位置Le側へと確実に移動し得るので、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除できる。これらによれば、温間始動時と冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替につき、信頼性をさらに高めることが可能となる。
【0072】
加えて、主ロック位相Pm及び副ロック位相Ps間の回転位相においてベーンロータ14は、ハウジングロータ11に対する進角側へ進角弾性部材19によって付勢される。故に、内燃機関の冷間始動時に進角弾性部材19の付勢作用を受けるベーンロータ14は、変動トルクの作用も相俟って、ハウジングロータ11に対する回転位相を副ロック位相Psまで素早く変化させ得る。これによれば、冷間始動時の内燃機関において変動トルクを発生させるクランキングの開始から、副ロック位相Psにて回転位相をロックするまでに要する時間を、短縮できるので、特に冷間停止後の冷間始動性につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0073】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0074】
具体的には、上記実施形態の変形例1として、気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも遅いタイミングに吸気弁9を閉じる回転位相となる限りにおいて、最遅角位相よりも進角側の主ロック位相Pmを採用してもよい。また、上記実施形態の変形例2として、ロック部材160,170をハウジングロータ11に支持させる一方、ロック孔162,172をベーンロータ14に形成してもよい。さらに、上記実施形態の変形例3として、コイルスプリング以外の種類の金属製スプリングの他、例えばゴム製部材等を、弾性部材163,173,182に採用してもよい。またさらに、上記実施形態の変形例4として、内燃機関の完爆に伴って又は任意の時に作動油の供給を開始可能な電動ポンプを、ポンプ4に採用してもよい。
【0075】
上記実施形態の変形例5としては、進角弾性部材19を設けない構成を、採用してもよく、この場合、スプール68のロック領域Rlへの移動と内燃機関の慣性回転とを実行する順番を、逆にする。また、上記実施形態の変形例6として、エンジンスイッチSWのオフ指令又はアイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令に応じて内燃機関が停止するときに、回転位相を副ロック位相Psにロックさせた後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令に応じて内燃機関が始動するときに、当該位相Psでの回転位相ロックをそのまま実現させてもよい。さらに、上記実施形態の変形例7として、設定温度Ts以上のエンジン温度Tにおいて拡張状態Seに膨張し且つ設定温度Ts未満のエンジン温度Tにおいて収縮状態Scに収縮するバイメタル等を、感温体183に採用してもよい。またさらに、上記実施形態の変形例8として、感温体183を例えばブロック状等に形成して、感温復原力Ftの代わりに抗力を発生させてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 バルブタイミング調整装置、2 カム軸、7 気筒、8 ピストン、9 吸気弁、11 ハウジングロータ、14 ベーンロータ、16 主ロック機構、17 副ロック機構、18 ロック制御機構、19 進角弾性部材、160 主ロック部材、161 主ロック解除室、162 主ロック孔、163 主弾性部材、164 嵌入ストッパ、165 脱出ストッパ、170 副ロック部材、172 副ロック孔、181 可動部材、182 制御弾性部材、183 感温体、BDC 下死点、Fc 制御復原力、Ff 駆動力、Fm 主復原力、Ft 感温復原力、Le 脱出位置、Li 嵌入位置、Pm 主ロック位相、Ps 副ロック位相、Sc 収縮状態、Se 拡張状態、Ts 設定温度
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