(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015385
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 11/02 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
C21B11/02
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-260681(P2012-260681)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-105370(P2014-105370A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】岩井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】村井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕司
(72)【発明者】
【氏名】桑原 稔
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−043603(JP,A)
【文献】
特開2013−185192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 11/02,13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪型スクラップ溶解炉において、炉頂部から主たる炉装入原料として鉄系スクラップとコークスとを装入し、炉下部に設けられた複数の羽口から熱風を吹き込み、コークスの燃焼熱で鉄系スクラップを溶解することにより溶銑を製造する方法であって、
前記コークスは、大きい篩目Aと小さい篩目Bである篩目の異なる2段の篩いで篩って得られる、大きい篩目Aの篩下かつ小さい篩目Bの篩上であり、
前記大きい篩目Aは、60mm以下であり、
下記(1)式を満足する粒度のコークスであることを特徴とする竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
A/B≦1.7・・・(1)
【請求項2】
小さい篩目Bが20mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【請求項3】
小さい篩目Bが25mm以上であることを特徴とする請求項2に記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【請求項4】
前記コークスは、篩目の異なる3段以上の篩いで篩って得られる、各区間の粒度のコークスであり、それら各区間の粒度のコークスを別々に竪型スクラップ溶解炉に装入することを特徴とする請求項1に記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竪型スクラップ溶解炉を用い、コークスの燃焼熱により鉄系スクラップを溶解して溶銑を製造する方法であって、特に、溶銑を低コークス比、高生産性で安定的に製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
竪型炉によるスクラップ溶解プロセスとして、キュポラ法がある。このキュポラ法は、炉上部からスクラップとコークスを層状または混合して装入し、炉下部に設けられた複数の羽口から熱風を吹き込み、コークスの燃焼熱でスクラップを溶解することにより溶銑を製造する手法である。
【0003】
キュポラ法では、コークスとして、鋳物用コークスと呼ばれる粒径150mm以上の大径コークスが用いられるが、鋳物用コークスは非常に高価であるため、近年では、小径で安価な高炉用コークスを用いた操業も行われている。
【0004】
高炉用コークスを用いた溶銑製造方法は、鋳物用コークスと比較して低コストであるという利点があるが、一方で、小径であるため比表面積が大きく、炉内で下式に示すソリューションロス反応が起こりやすいという問題がある。このソリューションロス反応は吸熱反応であるため、一般に鋳物用コークスを用いた場合よりもコークス比が高くなる傾向にある。
C+CO
2→2CO
【0005】
竪型スクラップ溶解炉においてコークス比を低下させるためには、ソリューションロス反応量を低減することが重要であり、ソリューションロス反応量を低減する技術として、コークス表面を不活性な物質で被覆する方法(特許文献1)、コークスとスクラップを炉径方向に分離して装入する方法(特許文献2)、コークスと共に耐火レンガ塊を装入する方法(特許文献3)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−13015号公報
【特許文献2】特開平8−67907号公報
【特許文献3】特開2009−52074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3にはそれぞれ以下のような問題がある。
【0008】
まず、特許文献1の方法は、コークス表面を不活性な物質で被覆することにより、ガスとの接触をたちソリューションロス反応を抑制する技術であるが、被覆のための設備を原料搬送系に組み込む必要があり、設備の導入・改造や被覆材の調達にコストがかかるという問題がある。また、被覆材の成分が炉下部で溶銑に溶け込み、溶銑中の不純物濃度が上昇するという問題もある。
【0009】
また、特許文献2の方法は、スクラップとコークスを炉の半径方向に分離して装入し、ガスがコークス層と比較して通気性の高いスクラップ層を優先的に通ることを利用して、コークス層を流れるガス量を減らし、ソリューションロス反応を低減する技術であるが、スクラップとコークスを半径方向に分離して装入するためには、炉頂装入装置の大幅な改造が必要である。また、高温でスクラップが軟化する際に、スペーサーとしてのコークスが存在しないため、融着して通気性の悪化を招く可能性があり、操業が不安定になるという問題もある。
【0010】
また、特許文献3の方法は、コークスと共に耐火レンガ塊を炉内に装入することで炉下部でのコークスの存在割合を減少させ、ソリューションロス反応を低減する技術であるが、耐火レンガ搬送設備を新設する必要がある。また、耐火レンガ塊を装入する分、スクラップやコークスの装入回数、または装入量を減らす必要があるため、生産性の低下が問題となる。また、スラグ量の増加や、スラグ粘性の変化による塩基度調整、溶銑中不純物の増加などの問題もある。さらに、耐火レンガ塊とコークスの粒度に差がある場合には、空隙率が低下し、炉内の通気性の悪化を招くことになる。
【0011】
したがって、本発明の目的は、以上のような問題を解決し、大幅な設備改造を必要とせず、溶銑品質に影響を与えずにコークス比を低減し、さらに通気性も改善して高生産性を実現しうる竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有している
[1]竪型スクラップ溶解炉において、炉頂部から主たる炉装入原料として鉄系スクラップとコークスとを装入し、炉下部に設けられた複数の羽口から熱風を吹き込み、コークスの燃焼熱で鉄系スクラップを溶解することにより溶銑を製造する方法であって、
前記コークスは、大きい篩目Aと小さい篩目Bである篩目の異なる2段の篩いで篩って得られる、大きい篩目Aの篩下かつ小さい篩目Bの篩上であり、
下記(1)式を満足する粒度のコークスであることを特徴とする竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
A/B≦1.7 ・・・ (1)
【0013】
[2]小さい篩目Bが20mm以上であることを特徴とする前記[1]に記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【0014】
[3]小さい篩目Bが25mm以上であることを特徴とする前記[2]に記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【0015】
[4]大きい篩目Aが80mm以下であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【0016】
[5]大きい篩目Aが60mm以下であることを特徴とする前記[4]に記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【0017】
[6]前記コークスは、篩目の異なる3段以上の篩いで篩って得られる、各区間の粒度のコークスであり、それら各区間の粒度のコークスを別々に竪型スクラップ溶解炉に装入することを特徴とする前記[1]に記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、大幅な設備改造を必要とせず、溶銑品質に影響を与えずにコークス比を低減し、さらに通気性も改善して高生産性を実現しうる竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法を提供することができる。
【0019】
すなわち、本発明によれば、竪型スクラップ溶解炉に装入するコークスの粒度をより均一に制御することで、炉下部のコークス充填層における空隙率が上昇し、同領域でのガス流速が低下することにより、ソリューションロス反応が抑制される。ソリューションロス反応は吸熱反応であるため、抑制されることで炉内のエネルギー損失が減り、コークス比を低減することができる。また、空隙率の上昇により炉内通気性が改善し、操業の安定化や生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明で使用する竪型スクラップ溶解炉とその操業形態を示す模式図。
【
図2】篩目比A/Bとソリューションロス反応速度および空隙率の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、竪型スクラップ溶解炉において、装入するコークスの粒度を均一に制御することで、炉下部のコークス充填層の空隙率を上昇させ、ガス流速を低下させることでソリューションロス反応を抑制する溶銑製造方法である。
【0022】
図1は、本発明で使用する竪型スクラップ溶解炉とその操業形態の一例を示す模式図である。
図1に示すように、竪型スクラップ溶解炉1では、炉頂装入口7から鉄系スクラップ2とコークス3を装入し、送風羽口4から送風5を行って、出銑口8から溶銑9を出銑する。なお、
図1中の6は排ガスである。
【0023】
このような竪型スクラップ溶解炉1において、ソリューションロス反応は、主に送風羽口4からコークス充填層上面までの領域において起こる。この領域は、スクラップ2の溶解温度である1500℃以上の領域と一致する。ソリューションロス反応は、1500℃以上では境膜拡散律速であるため、ガス流速が速いほど反応速度も速くなる。また、単位層体積当たりのコークス数が多いほど反応量も多くなる。ガス流速や単位層体積当たりのコークス数は、コークス充填層の空隙率が上昇するほど低下するため、コークス充填層の空隙率を上昇させることでソリューションロス反応を抑制することができる。
【0024】
そこで、本発明においては、大小の篩目A、B(大きな篩目A、小さな篩目B)を用い、篩目比A/B≦1.7を満たすようにして、コークスの篩い分けを行うことで、コークス粒度を均一化し、それによって、コークス充填層の空隙率を上昇させて、ソリューションロス反応を抑制し、コークス比を低減するようにしている。
【0025】
図2に、篩目A、Bの平均値(A+B)/2が40mmとなるように篩目A、Bを調整して篩目比A/Bを変化させ、Aの篩下かつBの篩上のコークスを充填させて、コークス充填層の空隙率(
図2には単に「空隙率」と記載)とソリューションロス反応速度(
図2には単に「反応速度」と記載)を測定した結果を示す。
【0026】
なお、ソリューションロス反応速度は、竪型スクラップ溶解炉1に各A、Bの篩目で篩ったコークス1kgを充填させ、CO
2/N
2(=30/70)混合ガスを用いて反応させたときの重量変化より測定した。
【0027】
図2に示すように、篩目比A/B≦1.7では、コークス充填層の空隙率が急激に上昇し、ソリューションロス反応速度が効果的に抑制されている。すなわち、篩目比A/B≦1.7を満たす篩でコークスの粒度を調整することで(すなわち、大きい篩目Aの篩下かつ小さい篩目Bの篩上となったコークスを装入することで)、竪型スクラップ溶解炉におけるコークス比を低減可能であることが分かる。
【0028】
その際に、本発明で使用するコークスとしては、粒径が大きくソリューションロス反応を起こしにくい鋳物用コークスよりも、粒径が80mm以下でソリューションロス反応を起こしやすい高炉用コークスを用いた場合により効果を発揮する。したがって、大きい篩目Aを80mm以下とすることが好ましい。さらには、大きい篩目Aを60mm以下とすることが一層好ましい。
【0029】
一方、コークスの粒径が小さくなり過ぎると、コークス充填層の空隙率が低下しやすくなるので、小さい篩目Bは20mm以上とすることが好ましい。さらには、小さい篩目Bを25mm以上とすることが一層好ましい。
【0030】
そして、大きい篩目Aの篩下かつ小さい篩目Bの篩上とはならなかった、大きい篩目Aの篩上や小さい篩目Bの篩下は、高炉等で使用することもできるが、篩目の異なる3段以上の篩を用いて、各区間(前後の篩い間)で篩目比A/B≦1.7を満たすように篩い分けしたコークスを、混ざらないよう時間をずらして竪型スクラップ溶解炉に装入することで、竪型スクラップ溶解炉内で全て使用することができ、そのような方法でも、諸粒度の混在したコークスを装入した場合より、コークス比を低減することができる。
【0031】
なお、上記のように、篩目の異なる3段以上の篩を用いる場合は、最大の篩目を80mm以下とすることが好ましい。さらには、最大の篩目を60mm以下とすることが一層好ましい。同じく、最小の篩目を20mm以上とすることが好ましい。さらには、最小の篩目を25mm以上とすることが一層好ましい。
【0032】
このように、コークス比が低減し、コークス充填層の空隙率の上昇により、炉内通気性も改善するため、より小粒径のコークスを使用することができ、それによってコストを低減するという方法もとれる。また、通気余力をいかして生産性向上はもちろんのこと、低品位原料の利用による製造コストの低減も可能である。
【0033】
しかも、本発明は、使用するコークスの篩い分けを行うだけで実施可能であり、篩装置さえ設置すれば、特に既存設備を改造する必要もないため、容易に実施できる。
【実施例】
【0034】
本発明の実施例として、
図1に示した竪型スクラップ溶解炉1を用いて溶銑9を製造した。なお、竪型スクラップ溶解炉1の内径は3.4m、羽口4からストックラインまでの炉高方向距離は8mであった。
【0035】
そして、この実施例では、鉄系スクラップとして、H2を使用した。なお、H2以外のスクラップ(HS、H1、H3、H4)を用いた場合でも、同様の結果が得られた。ちなみに、H1〜H4、HSとは、社団法人日本鉄源協会・鉄スクラップ検収統一規格で規格化されたスクラップ種(ヘビー屑)である。
【0036】
本発明の実施例(実施例1〜3)の操業諸元と実施結果を表1に示す。なお、表1中に記載のtは、生成した溶銑トンを示す。
【0037】
(実施例1)
本発明例1は、篩目40mm、篩目60mmの2段の篩いを用いることで、篩目比A/B≦1.7を満たすようにしたものである。すなわち、本発明例1では、大きい篩目A=60mm、小さな篩目B=40mm(篩目比A/B=1.5)となっている。
【0038】
そして、大きい篩目Aの篩下かつ小さい篩目Bの篩上として得られたコークスを竪型スクラップ溶解炉1に装入した。
【0039】
その結果、本発明例1においては、コークス比が215kg/tとなり、比較例1のように、粒径35〜65mm(篩目比A/B=1.85)と平均粒径が等しく粒度の幅が広いコークスを装入した場合のコークス比223kg/tに比べて、コークス比が8kg低減している。
【0040】
(実施例2)
本発明例2は、篩目60mm、篩目40mm、篩目25mmの3段の篩いを用いて、それぞれの区間について、篩目比A/B≦1.7を満たすようにしたものである。すなわち、本発明例2においては、区間1では、大きい篩目A=60mm、小さな篩目B=40mm(篩目比A/B=1.5)となり、区間2では、大きい篩目A=40mm、小さな篩目B=25mm(篩目比A/B=1.6)となっている。
【0041】
そして、区間1、2ごとに、大きい篩目Aの篩下かつ小さい篩目Bの篩上として得られたコークスを竪型スクラップ溶解炉1に装入した。
【0042】
その結果、本発明例2においては、区間1、2ごとのコークス比が215kg/t、233kg/tで、その平均コークス比が224kg/tとなり、比較例2のように、粒径25〜60mm(篩目比A/B=2.4)のコークスをそのまま装入した場合のコークス比230kg/tに比べて、コークス比が6kg低減している。
【0043】
(実施例3)
本発明例3は、篩目70mm、篩目45mm、篩目30mm、篩目20mmの4段の篩いを用いて、それぞれの区間について、篩目比A/B≦1.7を満たすようにしたものである。すなわち、本発明例3においては、区間1では、大きい篩目A=70mm、小さな篩目B=45mm(篩目比A/B=1.56)となり、区間2では、大きい篩目A=45mm、小さな篩目B=30mm(篩目比A/B=1.5)となり、区間3では、大きい篩目A=30mm、小さな篩目B=20mm(篩目比A/B=1.5)となっている。
【0044】
そして、区間1、2、3ごとに、大きい篩目Aの篩下かつ小さい篩目Bの篩上として得られたコークスを竪型スクラップ溶解炉1に装入した。
【0045】
その結果、本発明例3においては、それぞれコークス比が240kg/t、228kg/t、208kg/tで、その平均コークス比が225kg/tとなり、比較例1のように、粒径20〜70mm(篩目比A/B=3.5)のコークスをそのまま装入した場合のコークス比231kg/tに比べて、コークス比が6kg低減している。
【0046】
【表1】
【符号の説明】
【0047】
1 竪型スクラップ溶解炉
2 鉄系スクラップ
3 コークス
4 送風羽口
5 送風
6 排ガス
7 装入口
8 出銑口
9 溶銑