(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁石体の幅方向にその表面から内部に達する溶融部を形成し、当該溶融部を凝固収縮させることにより形成される溶融改質部と、前記凝固収縮する溶融改質部と磁石体の母材との境界部に形成される脆化部と、により前記磁石体に分割起点を形成する工程と、
前記分割起点に沿って磁石体を割断分割して複数の磁石片とする工程と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の界磁極用磁石体の製造方法。
前記磁石体の幅方向にその表面から内部に達する溶融部を形成し、当該溶融部を凝固収縮させることにより形成される溶融改質部と、前記凝固収縮する溶融改質部と磁石体の母材との境界部に形成される脆化部と、により前記磁石体に分割起点を形成する工程と、
前記分割起点に沿って磁石体を割断分割して複数の磁石片とする工程と、
前記複数の磁石片同士を互いに整列させて結合する結合工程と、を備えることを特徴とする請求項2に記載の界磁極用磁石体の製造方法。
前記磁石体の幅方向に形成されると共にその表面から内部に達する溶融部は、連続波レーザ光を磁石体に照射し、分割起点に沿って走査することにより形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の界磁極用磁石体の製造方法。
前記磁石体の幅方向にその表面から内部に達する溶融部を形成し、当該溶融部を凝固収縮させることにより形成される溶融改質部と、前記凝固収縮する溶融改質部と磁石体の母材との境界部に形成される脆化部と、により前記磁石体に分割起点を形成するレーザ加工装置を備える分割起点形成装置と、
前記分割起点に沿って磁石体を割断分割して複数の磁石片とする割断装置と、を備えることを特徴とする請求項7に記載の界磁極用磁石体の製造装置。
前記磁石体の幅方向にその表面から内部に達する溶融部を形成し、当該溶融部を凝固収縮させることにより形成される溶融改質部と、前記凝固収縮する溶融改質部と磁石体の母材との境界部に形成される脆化部と、により前記磁石体に分割起点を形成するレーザ加工装置を備える分割起点形成装置と、
前記分割起点に沿って磁石体を割断分割して複数の磁石片とする割断装置と、
前記複数の磁石片同士を互いに整列させて結合する結合装置と、を備えることを特徴とする請求項8に記載の界磁極用磁石体の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の界磁極用磁石体とその製造方法および製造装置を実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の界磁極用磁石体を配設した回転電機のロータコアの断面図である。
図1(A)はロータ50の縦断面図であり、
図1(B)は、
図1(A)のA−A断面図である。回転電機は、ロータ50の周囲にステータが配置され、ステータにU相、V相、W層からなる三相交流を印加することによって回転磁界を発生させ、ステータの内側に回転可能に支持されるロータ50を回転させるものである。なお、この回転電機は、例えば電動自動車を駆動するモータ・ジェネレータとして用いることができる。
【0012】
ロータ50は、薄板状の電磁鋼板51aを多数積層して構成されたロータコア51と、ロータコア51に挿入された複数の界磁極用磁石体80と、から構成される。ロータコア51は、あらかじめ所定の形状にプレス成形された電磁鋼板51aを複数積層し、積層された電磁鋼板51aを、接着やかしめ等によって一体に形成する。ロータコア51は、界磁極用磁石体80を収容する磁石挿入孔52と、回転軸を固定する軸用孔53と、ロータ50の冷却のための通気孔54と、が形成されている。これら磁石挿入孔52と通気孔54とは、軸用孔53の中心に対して点対称に複数形成されている。なお、本実施形態の磁石挿入孔52は、ロータコア51の周方向に等間隔に配置されるとともに、これら配置された磁石挿入孔52のそれぞれに対して、径方向内側に、ハの字状に二つの磁石挿入孔52が配置されている。
【0013】
界磁極用磁石体80は、
図2に示すように、磁石挿入孔52に挿入可能な所定の形状の磁石体30に形成された後、ロータコア51の軸方向に複数の磁石片31に割断分割する。界磁極用磁石体80は、これら複数の磁石片31の割断面同士を樹脂32により接着して、一列に整列した磁石片31の集合体として元の所定の形状に再構成される。使用される樹脂32は、例えば200℃程度の耐熱性能を備えるものが使用され、隣接する磁石片31同士を電気的に絶縁する。このため、作用する磁界の変動により発生する渦電流を個々の磁石片31内に留めることにより低減させ、渦電流に伴う界磁極用磁石体80の発熱を抑制し、不可逆な熱減磁を防止する。以下では、割断分割前の磁石体に対しては磁石体30とし、磁石片同士を樹脂32により接着して、一列に整列した磁石片31の集合体とした磁石体に対しては磁石体80として、両者を符号により区別する。
【0014】
磁石体30を複数の磁石片31に分割する方法として、研削による方法や、磁石体30に溝等の分割起点を形成してこれを割断するクラッキングによる方法がある。一般的に、クラッキングによる分割が費用面で有利であるので広く用いられており、本実施形態でも、クラッキングにより磁石片31を形成している。
【0015】
次に、磁石体80の製造方法を概略説明する。
図3は、磁石体80の製造工程を示す図である。なお、各工程は、主に作業者が人手により行うか又は産業用ロボット等により自動的に実行される。まず、酸化鉄や希土類、各種元素からなる磁性体の粉末を矩形の型枠に挿入し、これに磁場を印加しながらプレス等によって押し固め、押し固められた材料を真空焼結炉に投入して、所定温度を加えて所定時間焼結し、次いで、薄板状の所望の大きさに切断し、表面を研磨して、薄板状の磁石体30が製造される。
【0016】
次に、製造された磁石体30をクラッキングし、再接合を行う。まず、製造された磁石体30を、所望の大きさの磁石片31に分割するために、分割予定部位ごとの分割起点33を形成する(分割起点形成工程)。本実施形態においては、後述するように、分割予定部位にレーザ加工により磁石体30の幅方向に溶融改質部40を形成することにより、分割起点33を形成する。
【0017】
次に、形成された分割起点33により磁石体30を複数の磁石片31に分割する(クラッキング工程)。クラッキングは、例えば、磁石体30の長手方向において、分割起点33を挟んでその前後位置を支点で支持し、分割起点33がある面とは逆側の面からブレードで曲げ力を加えることにより、分割起点33部分から亀裂を発生させて割断して、磁石片31に分割する(3点曲げ)。
【0018】
次に、分割されたそれぞれの磁石片31を、割断面同士を対面させて積層して、絶縁性の樹脂32により接合する。接合したのち、磁石体80を加熱して樹脂を硬化させる(積層接着・加熱硬化工程)。次に、接合された磁石体80に所定の磁力を印加して、磁石体80に着磁する(着磁工程)。以上のような工程によって、磁石体80が製造される。
【0019】
次ぎに、本実施形態における磁石体30への分割起点33の形成装置および形成方法を詳細に説明する。
【0020】
図4は、分割起点33を形成するレーザ加工装置を示すものである。レーザ加工装置は、図示しないレーザ源としてのレーザ発振機からのレーザ光を伝送用ファイバ11及びコリメートレンズ12を介して導入し、治具に位置決めされた磁石体30の分割起点33に沿って走査しつつ照射するスキャナヘッド10を備える。コリメートレンズ12を通過したレーザ光は平行光に変換されてスキャナヘッド10に導入される。
【0021】
スキャナヘッド10は、レーザ光をX方向にスキャンするガルバノミラー13とY方向にスキャンするガルバノミラー14との2枚で1組のガルバノミラーを備え、これらのミラー13、14は図示しない制御用のモータにより駆動される。レーザ光は、2つのガルバノミラー13、14を経由してそれぞれX−Y方向にスキャンされてf−θレンズ15を通り、磁石体30の分割起点33に沿って走査される。f−θレンズ15は、ガルバノミラー13,14のスキャナーで偏向されたビームをワークとしての磁石体30の平らな像面に集光し、スキャナーの等角運動を等速運動に変換してスキャンさせる。このため、照射されたレーザ光は、磁石体30の表面に対して、X方向に所定ピッチで位置決めされる度にY方向に走査される。
【0022】
本実施形態では、磁石体30の表面から深い部分までレーザ光によるエネルギを届けて表面から深い部分まで溶融させる、所謂「キーホール型の溶融形態」を実現させるものである。このため、本実施形態で使用するレーザ光としては、前述したように、磁石体30の表面から深い部分までエネルギを届けることのできる連続波タイプのレーザ光を使用する。このように、連続波レーザ光を使用することにより、磁石体30に対して表面から深い部分まで溶融させることができ、所謂「キーホール型の溶融形態」を得ることができる。
【0023】
連続波レーザ光としては、例えば、100〜500[W]の連続波タイプのシングルモードファイバーレーザが利用できる。このレーザ光を、磁石体30の表面に照射し、500〜1500[mm/sec]の加工速度で移動させることにより、「キーホール型の溶融形態」を連続的に発生させて、
図5に示すように、溶融改質部40を形成することができる。
【0024】
連続波レーザ光の出力としては、磁石体30に対する溶融現象を発生させるに必要な出力を考慮すると、下限は50[W]程度が望ましく、磁石体30への過度の入熱による影響を避けるためには、上限は500[W]程度が望ましい。このような連続波レーザ光を発生させるレーザ発振器としては、溶融改質部40の幅を狭くする観点から、レーザ加工点の集光スポットサイズが小さい、シングルモードファイバーレーザの適用が最も望ましい。その他の連続波レーザ光を発生させるレーザ発振器としては、マルチモードファイバーレーザやディスクレーザ等の固体レーザも適用可能である。また、連続波レーザの中には、連続波レーザの励起源を断続制御する変調パルス方式等も含まれる。
【0025】
なお、一般に使用されているパルス波レーザ光では、エネルギの照射が不連続であるため、キーホール型の溶融とするためには、高いピーク出力を適用する必要がある。このため、急加熱による材料の突沸により磁石体30の内部に空隙が発生し、また、磁石体30の表面での盛り上がりを避けることができない。これに対して、連続波レーザ光では、材料を突沸させることなく溶融させることが可能であり、
図6に示すように、材料の表面への盛り上がりを抑えながら、溶融改質部を形成することができる。
【0026】
なお、連続波レーザ光であっても、レーザ加工の開始位置では、凝固収縮のメカニズムにより、僅かな盛り上がりが生じる。このレーザ加工の開始位置での僅かな盛り上がりは、レーザ加工の開始位置を磁石体30の縁に形成する面取り部に移動させることにより、その盛り上がりを材料表面よりも低いものとでき、磁石挿入孔52へ挿入する際に支障にならないものとできる。
【0027】
また、パルス波レーザ光では、磁石体30に対する1個1個のパルス光同士の照射位置を重ねつつ少しずつずらしながら、照射するものであるため、実用上のレーザ加工速度は、数[mm/sec]〜50[mm/sec]程度に制約される。これに対して、連続波レーザ光では、パルス波レーザ光のような制約が無く、連続的に照射するものであるため、1500[mm/sec]程度の高速の加工速度でもキーホール型の溶融加工が可能になる。この加工速度は、一般的なレーザ加工に比較して非常に高速であるが、ガルバノミラー13,14を利用したスキャナヘッド10を利用することにより実現させることができる。
【0028】
このような本実施形態の分割起点33では、磁石体30を表面からキーホール型に溶融させるのみであり、溝形成のように材料を除去するものでない。このため、
図6に示すように、磁石体30の表面には、溝加工で発生するようなバリ等の突起が生じることがなく、平滑な面状に形成される。
【0029】
また、分割起点33部位における磁石体30の内部には、溶融部が凝固収縮で体積が小さくなりつつ強固になる溶融改質部40が磁石体30の幅方向に連なって形成される。また、溶融改質部40とその外側の磁石体30を構成する母材との間には、両者の境界に沿って僅かな隙間を伴った脆化部41を形成することができる。この脆化部41は、溶融改質部40が凝固収縮する間に磁石体30の母材との境界で剥離して生ずる亀裂(クラック)を含むものであるため、母材及び溶融改質部40に比較して強度が低下して脆弱となっている。また、脆化部41は溶融改質部40を取囲んで溶融改質部40の最深部まで連続して形成され、非常に薄い層に形成される。また、脆化部41を境界とする溶融改質部40及び母材の各表面は、脆化部41に比較して強固であり、脆化部41に沿って滑らかな面に形成される。
【0030】
次に、磁石体30を複数の磁石片31に分割するクラッキング方法について説明する。本実施形態では、
図7に示すように、脆化領域41を磁石体30の分割起点33として利用するクラッキング方法を採用する。図示するように、3点曲げによるクラッキング方法では、分割起点33を下側に位置させた磁石体30を、分割起点33を挟んでその前後位置に配置した一対の支点16で支持する。そして、分割起点33がある面とは逆側の面からブレード17で曲げ力を加えることにより、磁石体30に折曲げ荷重を加える。磁石体30に折曲げ荷重が加えられると、磁石体30の下側表面に最大引張り応力が発生し、磁石体30の表面側の脆化部41が最も積極的に破壊され、生じる亀裂42が脆化部41に沿って磁石体30の内部に進展し始める。脆化部41は溶融改質部40の最深部まで連続して形成されているため、その後の亀裂42進展方向を定めるガイドの役割を果たし、亀裂42は溶融改質部40の最深部を経て、
図8に示すように、磁石体30の断面方向全体を割断することができる。
【0031】
脆化部41は、非常に薄い層であり、そこに亀裂42を生じさせて磁石体30を割断した場合に、脆化部41自体によるコンタミをほとんど発生させない。また、脆化部41を境界とする溶融改質部40及び磁石体30を構成する母材の境界面も、脆化部41に比較して強固であるため、これら境界面で形成される割断面の表面にも、ほとんどコンタミが生じない。また、この脆化部41は溶融改質部40を取囲む、滑らかで凹凸の少ない面で構成されているので、割断後の磁石片31の割断面も凹凸が少ない滑らかな面に形成される。
【0032】
なお、クランキング方法としては、上記3点曲げ以外の方法によるものであってもよい。例えば、先端側の磁石片31部分を分割起点33より突き出した状態で磁石体30をクランプし、その先端側磁石片31部分を分割起点33から折り曲げたり、ブレード17による曲げ荷重を加えて、クランキングするものであってもよい。
【0033】
次いで、本実施形態における複数の磁石片31の積層接着工程を説明する。
図9に示すように、割断された複数の磁石片31を基準治具21上に間隔を開けて整列させる。次いで、磁石片31間に接着剤32となる樹脂を供給する。この接着剤32は、例えば、エポキシ系の熱硬化型の接着剤を用いる。接着剤32には、割断片間のクリアランスを確保するため、スペーサを配合する。また、スペーサとしては、例えば、ガラスビーズを用いる。供給された樹脂32は、磁石片31の対向する割断面31A間に充填される。
【0034】
次いで、磁石片31の幅方向の両側から整列治具22を図示しないばね力で押し当てると共に厚み方向からも整列治具23をばね力により基準治具21に押し付けた状態で整列させる。次いで、磁石片31の長手方向からばね力で付勢された整列治具24で加圧することにより、樹脂32が対面する割断面の全領域に浸透されて、各磁石片31の割断面同士が接着剤32により互いに接着される。各割断面は凹凸が少なく滑らかな面により形成されているため、接着面として採用することに適しており、また、接着剤による絶縁が良好とできる。
【0035】
次いで、磁石体80を加熱して樹脂32を硬化させる加熱硬化工程が実施され、接合された磁石体80に所定の磁力を印加して、磁石体80に着磁する着磁工程が実行されて、磁石体80に製造される。
【0036】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0037】
(ア)板状の磁石体30を割断する分割起点33を、磁石体30の幅方向にその表面から内部に達する溶融部を形成し、当該溶融部を凝固収縮させることにより形成される溶融改質部40と、凝固収縮する溶融改質部40と磁石体30の母材との境界部に形成される脆化部41と、により形成した。この分割起点33は、磁石体30の材料を除去して溝を形成するものでなく、磁石体30を表面から深部に向かってキーホール型に溶融させて形成するものである。このため、磁石体30の表面には、溝加工で発生するバリのような突起が生じることがなく、平滑な面状に形成される。従って、界磁極用磁石体の寸法精度を良好とすることができ、ロータへの挿入や搬送時等の不具合を抑制することが可能になる。
【0038】
また、この分割起点33から発生させる亀裂42も磁石体30の断面内部に進展させるのみであるため、割断後の磁石片31の表面にも、バリなどの突起は生じない。さらに、脆化部41を境界とする溶融改質部40及び母材の各表面は、脆化部41に比較して強固であり、脆化部41に沿って滑らかな面に形成される。このため、割断された磁石片31の割断面も滑らかで凹凸の少ない面とすることができる。従って、磁石片31同士の接着に当たって磁石片31をずれることなく整列させて結合することができ、接着剤による絶縁を良好とすることができる。
【0039】
また、この脆化部41は、溶融改質部40が凝固収縮する間に磁石体30の母材との境界で剥離して生ずる亀裂(クラック)を含むものであるため、母材及び溶融改質部40に比較して強度が低下して脆弱となっている。このため、分割起点33が形成された面に引張り応力を発生させるよう磁石体30に曲げ荷重を加えると分割起点33の脆化部41が積極的に破壊されて分割起点33として機能させることができる。しかも、脆化部41は溶融改質部40を取囲んで溶融改質部40の最深部まで連続して形成され、非常に薄い層に形成される。このため、磁石体30に発生する亀裂42進展方向を定めるガイドの役割を果たし、亀裂42は溶接改質部の最深部を経て、磁石体30断面全体を割断させることができる。
【0040】
(イ)磁石体30の幅方向にその表面から内部に達する溶融部を形成し、当該溶融部を凝固収縮させることにより形成される溶融改質部40と、凝固収縮する溶融改質部40と磁石体30の母材との境界部に形成される脆化部41と、により磁石体30に分割起点33を形成する工程を備える。そして、その後に分割起点33に沿って磁石体30を割断分割して複数の磁石片31とする工程を備える。脆化部41は、溶融改質部40が凝固収縮する間に磁石体30の母材との境界で剥離して生ずる亀裂(クラック)を含むものであるため、母材及び溶融改質部40に比較して強度が低下して脆弱となっている。このため、分割起点33が形成された面に引張り応力を発生させるよう磁石体30に曲げ荷重を加えると分割起点33の脆化部41が積極的に破壊されて分割起点33として機能させることができる。しかも、脆化部41は溶融改質部40を取囲んで溶融改質部40の最深部まで連続して形成され、非常に薄い層に形成される。このため、磁石体30に発生する亀裂42進展方向を定めるガイドの役割を果たし、亀裂42は溶接改質部の最深部を経て、磁石体30断面全体を割断させることができる。また、脆化部41は、非常に薄い層であり、そこに亀裂42を生じさせて磁石体30を割断した場合に、脆化部41自体によるコンタミをほとんど発生させない。また、脆化部41を境界とする溶融改質部40及び磁石体30を構成する母材の境界面も、脆化部41に比較して強固であるため、これら境界面で形成される割断面の表面にも、ほとんどコンタミが生じない。
【0041】
(ウ)磁石体30の幅方向にその表面から内部に達する溶融部を形成し、当該溶融部を凝固収縮させることにより形成される溶融改質部40と、凝固収縮する溶融改質部40と磁石体30の母材との境界部に形成される脆化部41と、により磁石体30に分割起点33を形成する工程を備える。それに続いて、分割起点33に沿って磁石体30を割断分割して複数の磁石片31とする工程と、複数の磁石片31同士を互いに整列させて結合する結合工程と、を備える。脆化部41を境界とする溶融改質部40及び母材の各表面は、脆化部41に比較して強固であり、脆化部41に沿って滑らかな面に形成される。また、脆化部41は、非常に薄い層であり、そこに亀裂42を生じさせて磁石体30を割断した場合に、脆化部41自体によるコンタミをほとんど発生させない。また、脆化部41を境界とする溶融改質部40及び磁石体30を構成する母材の境界面も、脆化部41に比較して強固であるため、これら境界面で形成される割断面の表面にも、ほとんどコンタミが生じない。このため、割断された磁石片31の割断面も滑らかで凹凸の少ない面とすることができる。従って、磁石片31同士の接着に当たって磁石片31をずれることなく整列させて結合することができ、接着剤による絶縁を良好とすることができる。
【0042】
(エ)磁石体30の幅方向に形成されると共にその表面から内部に達する溶融部は、連続波レーザ光を磁石体30に照射し、分割起点33に沿って走査することにより形成することを特徴とする。磁石体30の材料を除去するものでなく、磁石体30を表面から深部に向かってキーホール型に溶融させて分割起点33を形成するため、磁石体30の表面には、溝加工で発生するようなバリ等の突起が生じることがなく、平滑な面状に形成することができる。また、連続波レーザ光であるため、500〜1500[mm/sec]のレーザ走査速度でレーザ加工が可能であり、加工時間を大幅に短縮できる。その結果、設備投資を抑制できる。
【0043】
(オ)磁石体30の幅方向に形成する分割起点33は、磁石体30の一方の面に平行に複数形成される。そして、磁石体30を割断分割して複数の磁石片31とする工程は、分割起点33を挟んでその前後位置に配置した一対の支点16で磁石体30を支持する。そして、分割起点33がある面とは反対側の面からブレード17で曲げ荷重を加えることにより、分割起点33から亀裂42を発生させて磁石片31に割断分割することを特徴とする。脆化部41は、溶融改質部40が凝固収縮する間に磁石体30の母材との境界で剥離して生ずる亀裂(クラック)を含むものであるため、母材及び溶融改質部40に比較して強度が低下して脆弱となっている。このため、割断時に3点曲げにより、分割起点33が形成された面に引張り応力を発生させるよう磁石体30に曲げ荷重を加えると分割起点33の脆化部41が積極的に破壊されて分割起点33として機能させることができる。しかも、脆化部41は溶融改質部40を取囲んで溶融改質部40の最深部まで連続して形成され、非常に薄い層に形成される。このため、磁石体30に発生する亀裂42進展方向を定めるガイドの役割を果たし、亀裂42は溶接改質部の最深部を経て、磁石体30断面全体を割断させることができる。
【0044】
(カ)磁石体30の幅方向にその表面から内部に達する溶融部を形成し、当該溶融部を凝固収縮させることにより形成される溶融改質部40と、凝固収縮する溶融改質部40と磁石体30の母材との境界部に形成される脆化部41と、により磁石体30に分割起点33を形成する。次いで、分割起点33に沿って磁石体30を割断して複数の磁石片31に分割し、複数の磁石片31同士を互いに整列させて結合して、界磁極用磁石体80を形成した。このため、脆化部41を境界とする溶融改質部40及び母材の各表面は、脆化部41に比較して強固であり、脆化部41に沿って滑らかな面に形成される。また、脆化部41は、非常に薄い層であり、そこに亀裂42を生じさせて磁石体30を割断した場合に、脆化部41自体によるコンタミをほとんど発生させない。また、脆化部41を境界とする溶融改質部40及び磁石体30を構成する母材の境界面も、脆化部41に比較して強固であるため、これら境界面で形成される割断面の表面にも、ほとんどコンタミが生じない。このため、割断された磁石片31の割断面も滑らかで凹凸の少ない面とすることができる。従って、磁石片31同士の接着に当たって磁石片31をずれることなく整列させて結合することができ、接着剤による絶縁を良好とすることができる。結果として、磁石体80の耐熱性能を向上させ且つ寸法精度の高い界磁極用磁石体80を形成することができ、回転電機の出力性能を向上できる。
【0045】
(第2実施形態)
図10及び
図11は、本発明を適用した界磁極用磁石体とその製造方法および製造装置の第2実施形態を示し、
図10は第1実施例の磁石体の断面図、
図11は第2実施例の断面図である。本実施形態においては、磁石体の分割予定位置のブレードが押付けられる側面にも溶融改質部による分割起点を形成した構成を第1実施形態に追加したものである。なお、第1実施形態と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0046】
本実施形態においては、磁石体30の割断時にブレード17が押付けられる面とは反対側の面に、溶融改質部40及び脆化部41よりなる分割起点33を形成するか(第1実施例、
図10)、溝34による分割起点33を形成する(第2実施例、
図11)。そして、
図10及び
図11に示すように、磁石体30の割断時にブレード17が押付けられる側面にも、溶融改質部40及び脆化部41よりなる分割起点33Aを形成する。
【0047】
そして、溶融改質部40及び脆化部41よりなる分割起点33,33Aは、第1実施形態に示すと同様の方法により形成することができる。また、溝34による分割起点33は、磁石体30の表面にレーザ光により溝加工して形成する。レーザ光による溝加工に当たっては、例えば、波長900〜1100[nm]、加工点の集光径φ200[nm]以下、出力3000[W]以下の連続波レーザ光を加工速度4000[mm/s]にて複数回走査して実施する。このような連続波レーザ光による溝加工においては、レーザ光により溶融した材料を連続的に突沸させて飛散させることができ、溝34の縁に生ずるバリの発生を最小限とすることができる。その他の構成は、第1実施形態と同様に構成している。
【0048】
以上の構成の分割起点33,33Aを備える磁石体30においては、各図示するように、3点曲げによるクラッキング方法では、分割起点33、33Aを上下に位置させた磁石体30を、分割起点33を挟んでその前後位置に配置した一対の支点16で支持する。そして、分割起点33Aがある面よりブレード17で曲げ力を加えることにより、磁石体30に折曲げ荷重を加える。磁石体30に折曲げ荷重が加えられると、磁石体30の下側表面に最大引張り応力が発生し、磁石体30の下側の表面側の脆化部41が最も積極的に破壊され、生じる亀裂42が脆化領域41に沿って磁石体30の内部に進展し始める。脆化部41は溶融改質部40の最深部まで連続して形成されているため、その後の亀裂42進展方向を定めるガイドの役割を果たし、亀裂42は溶融改質部40の最深部に向かって亀裂42が進展する。
【0049】
そして、ブレード17が片当たり状態になり、磁石体30に対して捩りの力が働いた場合でも、ブレード17が当接する面に分割起点33Aの溶融改質部40及び脆化部41があることで、ブレード17が当接する溶融改質部40の脇の脆化部41が積極的に割断される。このため、磁石体30の長手方向の他の位置に亀裂割れが進展していくことを防止でき、予定した断面位置で分割可能である。
【0050】
また、ブレード17が当接する面に溶融改質部40による分割起点33Aがあることで、ブレード17が当接する面とは反対面から開始した亀裂42進展の方向をブレード17側の溶融改質部40に向かって定めることが可能になる。結果として、磁石体30の割断が斜めに逸れることなく、予定した断面位置で割断できる。
【0051】
また、ブレード17が当接する面側に溝があると、磁石体30の長手方向への僅かな位置ズレにより、ブレード17が溝内部に嵌ったり、溝の片側のエッジに当たるなど、3点曲げの加圧力を不安定にしてしまう虞がある。しかし、本実施形態では、ブレード17が当接する部位が溝ではなく溶融改質部40を備える分割起点33Aであるため、ブレード17が当たる部分でも、表面が平面状となっており、ブレード17を安定して分割起点33Aに当てることができる。
【0052】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(エ)、(カ)に加えて以下に記載した効果を奏することができる。
【0053】
(キ)磁石体30の幅方向に形成する分割起点33は、磁石体30の両方の面に平行に複数形成される。そして、磁石体30を割断分割して複数の磁石片31とする工程は、一方の面に形成された分割起点33を挟んでその前後位置に配置した一対の支点16で磁石体30を支持する。次いで、他方の面に形成された分割起点33Aからブレード17で曲げ荷重を加えることにより、一方の面の分割起点33から亀裂42を発生させると共に当該亀裂42を他方の面に形成した分割起点33Aに到達させることにより、磁石片31に割断分割することを特徴とする。即ち、ブレード17が当接する面に、溶融改質部40および脆化部41の分割起点33Aがある。このため、ブレード17が磁石体30に対して片当たり状態になり、磁石体30に対して捩りの力が働いた場合でも、ブレード17が当接する面の分割起点33Aの溶融改質部40の脇の脆化部41が積極的に割断される。このため、分割起点33Aに対してその両側の位置に割れ(亀裂42)が進展していくことがなく、予定した位置で磁石体30を分割できる。
【0054】
また、ブレード17が当接する面に分割起点33Aがある。このため、ブレード17が当接する面とは反対側の面から開始した亀裂42進展の方向をブレード17が当接する面の分割起点33Aに向かって定めることが可能になり、割断が斜めに逸れることなく、予定した位置で割断できる。しかも、ブレード17が当接する面には、溝でなく溶融改質部40,脆化部41を含む分割起点33Aであるため、ブレード17が当接する面の平面が維持されており、ブレード17を安定して磁石体30に当てることができる。