(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アクリル系添加剤を含まず、アシル基置換度が下記式(1)〜(3)を満たすセルロースアシレートと、フラノース環又はピラノース環を1〜12個有する糖エステルと、一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと、一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルとを含有し、光学フィルムの厚さが10〜20μmの範囲内であり、幅が1〜4mの範囲内であり、かつ、巻きの長さが5000m以上であることを特徴とする光学フィルムのロール体。
式(1) 1.0≦X≦3.0
式(2) 0≦Y≦1.5
式(3) 2.0≦X+Y≦3.0
(式中、Xはアセチル基置換度を表し、Yはプロピオニル基又はブチリル基置換度を表す)
一般式(I):B−(G−A)n−G−B
(式中、Bは、脂肪族又は芳香族モノカルボン酸残基を表す。Gは、炭素数2〜12のアルキレングリコール残基、炭素数6〜12のアリールグリコール残基又は炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基又は炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表す。nは1以上の整数を表す。)
一般式(II):B−G−B
(式中、Bは、一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと同一の脂肪族又は芳香族モノカルボン酸残基を表す。Gは一般式(I)で表されるポリエステルと同一のアルキレングリコール残基、アリールグリコール残基又はオキシアルキレングリコール残基を表す。)
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の光学フィルムの
ロール体は、アクリル系添加剤を含まず、特定のアシル基置換度を有するセルロースアシレートと、特定のフラノース環又はピラノース環を有する糖エステルと、特定の構造を有するポリエステル及びそれと対の構造を有する多価アルコールエステルを含有し、特定の膜厚となるようにフィルムのガラス転移温度より一定の高い温度範囲で延伸することを特徴とし、かかる構成によって、ヘイズが低く、かつ経時で偏光子の性能を劣化させることのない光学フィルム
のロール体、及び巻きの保管中でブロッキングの発生しにくい光学フィルムの
ロール体が得られる。
【0031】
この特徴は、請求項1から請求項
9までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0032】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、温度23℃、相対湿度55%の環境下で、波長590nmで測定した、面内方向のリターデーション値(Ro)が0〜10nmの範囲内にあり、厚さ方向のリターデーション値(Rt)が−20〜20nmの範囲内にあることが、IPSモード型液晶表示装置に用いる光学フィルムとして好ましい。また、前記糖エステルが、脂肪族アルキル基(AL)又は芳香族アルキル基(AR)の置換基を有し、当該脂肪族アルキル基の数が当該芳香族アルキル基の数より多いことが、高いリターデーション値制御性を付与する効果が得られ、好ましい。
【0033】
さらに、本発明においては、前記一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと前記一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルの含有質量比率が、70:30〜90:10の範囲内であることが好ましい。これにより、相溶性向上の効果がより高められる。70:30よりも後者の比率が高くなると、フィルム作製後の経時で表面にブリードアウトが発生し、90:10よりも後者の比率が
低くなると、相溶性向上効果が見られない。
【0034】
さらに、本発明の実施態様として、紫外線吸収剤を含有することが、液晶表示装置の表面側(視認側)に配置する光学フィルムとして好ましい。
【0035】
また、本発明の光学フィルムの
ロール体は、薄膜で長尺の巻き形状で扱われるために、フィルムの両端部に特定の強度を有するエンボス部を備えることがより好ましい。
【0036】
本発明の偏光
板は、本発明の光学フィルムの
ロール体から繰り出した光学フィルムを、活性エネルギー線硬化性接着剤で偏光子と貼合することが好ましい。当該偏光板はカール特性に優れるため、液晶表示装置に好適に具備され得る。
【0037】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0038】
また、以下本発明の光学フィルム
のロール体を、「本発明の光学フィルム」と記載する場合がある。
【0039】
<本発明の光学フィルムの
ロール体の製造方法の概要>
本発明の光学フィルムの
ロール体の製造方法は、アクリル系添加剤を含まず、アシル基置換度が前記式(1)〜(3)を満たすセルロースアシレートと、フラノース環又はピラノース環を1〜12個有する糖エステルと、一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと、一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルとを含有し、延伸後の厚さが10〜
20μmの範囲内となるように搬送方向と直交する方向に、フィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、(Tg+15)〜(Tg+50)℃の温度範囲で延伸すること
が好ましい。
【0040】
すなわち、本発明の光学フィルムの製造方法は、アクリル系添加剤を含まず、特定のアシル基置換度を有するセルロースアシレートと、特定のフラノース環又はピラノース環を有する糖エステルとを含有する薄膜の光学フィルムの製造方法によってリターデーション値の発現を抑制し、特定の構造を有するポリエステル及びそれと対の構造を有する多価アルコールエステルによって脆性及び材料間の相溶性を向上、かつ前記薄膜となるように、フィルムのガラス転移温度より一定の高い温度範囲でフィルムを延伸することによって、アクリル系添加剤を用いずとも、リターデーション値が小さく、ヘイズが低く、かつ経時で偏光子の性能を劣化(偏光度の低下)させることのない光学フィルムの製造方法が得られるものである。
【0041】
本発明の光学フィルムのガラス転移温度(Tg)は、実用途上、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。Tgが120℃以上であると、加工工程等での光学フィルムの熱変形が抑制される傾向にあり、また当該光学フィルムが偏光板等の保護フィルムとして用いられた場合の熱湿耐性が向上する。
【0042】
本発明でいうアクリル系添加剤とは、光学フィルムに含有させることによって、延伸時に負の位相差を発現し、リターデーション値を低減する効果を有する化合物である。具体的には、国際公開第2008/015911号段落〔0056〕〜〔0087〕に記載のアクリル系ポリマーを例として挙げることができる。
【0043】
本発明の光学フィルムは、当該アクリル系添加剤を実質的に含まない態様であり、「実質的に含まない」とは、含んだとしても1質量%未満、好ましくは0.1質量%未満、さらに好ましくは全く含有しないことである。
【0044】
<セルロースアシレート>
本発明の光学フィルムは、セルロースアシレートを主成分として含有する。主成分とは、当該光学フィルム中のセルロースアシレートの含有比率が、55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上であることをいう。
【0045】
本発明に係るセルロースアシレートは、下記式(1)、(2)及び(3)をともに満たすセルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースアセテートプロピオネート、又はセルロースアセテートブチレートである。式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基又はブチリル基の置換度、若しくはその混合物の置換度である。アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0046】
式(1) 1.0≦X≦3.0
式(2) 0≦Y≦1.5
式(3) 2.0≦X+Y≦3.0
なかでも本発明に係るセルロースアシレートは、セルロース(ジ、トリ)アセテート(Y=0)、及びセルロースアセテートプロピオネート(Y;プロピオニル基、Y>0)が好ましい。セルロース(ジ、トリ)アセテートとしては2.4≦X≦2.95であることが好ましい。セルロースアセテートプロピオネートは、1.0≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦1.5、2.4≦X+Y≦2.95であることが好ましい。
【0047】
上述のアシル基の置換度範囲を満たすセルロース(ジ、トリ)アセテート又はセルロースアセテートプロピオネートを用いることで、リターデーション値の制御がしやすく、機械的強度が高く、かつ環境変動への耐久性に優れた光学フィルムが得られる。
【0048】
また、所望の光学特性を得るために置換度の異なるセルロースアセテートを混合して用いてもよい。異なるセルロースアセテートの混合比は特に限定されず、10:90〜90:10(質量比)の範囲内でありうる。
【0049】
セルロースアシレートの重量平均分子量Mwは、光学フィルムの延伸時の機械的強度を保持する観点から、80000〜300000の範囲内であることが好ましく、120000〜250000の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であると製膜時に延伸によるリターデーションの制御が行いやすい。
【0050】
セルロースアシレートの数平均分子量(Mn)は30000〜150000の範囲が、得られた光学フィルムの機械的強度が高く好ましい。さらに40000〜100000の数平均分子量のセルロースアシレートが好ましく用いられる。
【0051】
セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値は、1.4〜3.0の範囲であることが好ましい。
【0052】
セルロースアシレートの重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0054】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0055】
本発明で用いられるセルロースアシレートの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースアシレートは適宜混合して、あるいは単独で使用することができる。
【0056】
例えば、綿花リンター由来セルロースアシレート:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースアシレート:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースアシレートの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
【0057】
本発明に係るセルロースアシレートは、公知の方法により製造することができる。一般的には、原料のセルロースと所定の有機酸(酢酸、プロピオン酸など)と酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸など)、触媒(硫酸など)と混合して、セルロースをエステル化し、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。トリエステルにおいてはグルコース単位の三個のヒドロキシ基は、有機酸のアシル酸で置換されている。同時に二種類の有機酸を使用すると、混合エステル型のセルロースアシレート、例えばセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートを作製することができる。次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアシル置換度を有するセルロースアシレートを合成する。その後、濾過、沈殿、水洗、脱水、乾燥などの工程を経て、セルロースアシレートが出来上がる。
【0058】
本発明に係るセルロースアシレートは、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて撹拌したときのpHが6〜7の範囲であり、電気伝導度が1〜100μS/cmの範囲であることが好ましい。
【0059】
本発明に係るセルロースアシレートは、具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0060】
〈糖エステル〉
本発明の光学フィルムは、セルロースアシレート以外の糖エステルを含有する。本発明に係る糖エステルとしては、ピラノース環又はフラノース環の少なくとも一種を1個以上12個以下有しその構造のOH基の全て若しくは一部をエステル化した糖エステルである。
【0061】
当該糖エステルとは、フラノース環又はピラノース環の少なくともいずれかを含む化合物であり、単糖であっても、糖構造が2〜12個連結した多糖であってもよい。そして、糖エステルは、糖構造が有するOH基の少なくとも一つがエステル化された化合物が好ましい。糖エステルのエステル化率は、ピラノース環又はフラノース環内に存在するOH基の50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。50%未満では、延伸・乾燥時の熱でフィルムが着色しやすくなる。
【0062】
本発明の光学フィルムは、リターデーション値を制御するために、糖エステルを光学フィルムに対して1〜30質量%の範囲で含有することが好ましく、5〜30質量%の範囲で含有することがより好ましい。
【0063】
糖エステルを構成する糖の例には、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストースなどが含まれる。さらに、糖エステルを構成する糖の例には、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども含まれる。もちろん、糖はこれらに限定されない。糖エステルを構成する糖構造は、特にピラノース環とフラノース環を両方含むことが好ましい。
【0064】
糖エステルを構成する糖の好ましい例は、スクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどであり、更に好ましくは、スクロースである。
【0065】
糖エステルでは、ピラノース環又はフラノース環中のOH基の全て又は一部がエステル化されている。エステル化のためのモノカルボン酸は、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。
【0066】
糖エステルのエステルを構成する好ましい脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸などが含まれる。
【0067】
糖エステルのエステルを構成する好ましい脂環族モノカルボン酸の例には、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体が含まれる。
【0068】
糖エステルのエステルを構成する好ましい芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体が含まれる。より具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸が含まれ;特に安息香酸が好ましい。
【0069】
オリゴ糖のエステル化合物は、本発明における糖エステルとして用いられうる。オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼなどの酵素を作用させて製造されるもので、好ましいオリゴ糖の例には、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
【0070】
糖エステルは、下記一般式(A)で表されるピラノース環又はフラノース環の少なくとも一種を1個以上12個以下縮合した化合物である。一般式(A)におけるR
11〜R
15、R
21〜R
25は、炭素数2〜22のアシル基又は水素原子を、m及びnはそれぞれ0〜12の整数、m+nは1〜12の整数である。
【0072】
R
11〜R
15、R
21〜R
25は、ベンゾイル基、水素原子であることが好ましい。ベンゾイル基は置換基R
26を有していてもよく、例えば置換基として、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、更にこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。オリゴ糖のエステル化合物も、他の糖エステルと同様な方法で製造することができる。
【0073】
本発明に係る糖エステルは、脂肪族アルキル基又は芳香族アルキル基の置換基を有し、脂肪族アルキル基の数をAL、及び芳香族アルキル基の数をARとしたときに、当該脂肪族アルキル基の数が当該芳香族アルキル基の数より多い(AR<AL)ことが、リターデーション値を小さくする効果が高くより好ましい。
【0074】
以下に、本発明に係る糖エステルの具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0083】
本発明に係る糖エステルは、前記糖に、アシル化剤(エステル化剤ともいう、例えば、アセチルクロライドの酸ハロゲン化物、無水酢酸等の無水物)を反応させることによって製造することが可能であり、置換度の分布は、アシル化剤の量、添加タイミング、エステル化反応時間の調節によってなされるが、置換度違いの糖エステルの混合、あるいは純粋に単離した置換度違いの化合物を混合することにより、目的の平均置換度、置換度4以下の成分を調整することができる。
【0084】
(合成例:本発明に係る糖エステルの合成)
【化10】
【0085】
撹拌装置、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸135.6g(0.6モル)、ピリジン284.8g(3.6モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。
【0086】
次に、コルベン内を4×10
2Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。そして、次にトルエン1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液300gを添加し、50℃で30分間撹拌後、静置して、トルエン層を分取した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×10
2Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4及びA−5等の混合物である糖エステル1を得た。
【0087】
得られた混合物を高速液体クロマトグラフィー質量分析(HPLC−MS)で解析したところ、A−1が1.2質量%、A−2が13.2質量%、A−3が14.2質量%、A−4が35.4質量%、A−5等が40.0質量%であった。平均置換度は5.2であった。
【0088】
同様に、無水安息香酸158.2g(0.70モル)、146.9g(0.65モル)、135.6g(0.60モル)、124.3g(0.55モル)と当モルのピリジンとを反応させて、表1記載のような成分の糖エステルを得た。
【0090】
次いで、得られた混合物の一部を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製することで、それぞれ純度100%のA−1、A−2、A−3、A−4及びA−5等を得た。
【0091】
なお、A−5等とは、置換度4以下の全ての成分、つまり置換度4、3、2、1の化合物の混合物であることを意味する。また、平均置換度は、A−5等を置換度4として計算した。
【0092】
本発明においては、ここで作製した方法により所望の平均置換度に近い糖エステル及び単離したA−1〜A−5等を組み合わせ添加することにより、平均置換度を調整した。 <HPLC−MSの測定条件>
1)LC部
装置:日本分光(株)製カラムオーブン(JASCO CO−965)、ディテクター(JASCO UV−970−240nm)、ポンプ(JASCO PU−980)、デガッサー(JASCO DG−980−50)
カラム:Inertsil ODS−3 粒子径5μm 4.6×250mm(ジーエルサイエンス(株)製)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:THF(1%酢酸):H
2O(50:50)
注入量:3μl
2)MS部
装置:LCQ DECA(Thermo Quest(株)製)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
Spray Voltage:5kV
Capillary温度:180℃
Vaporizer温度:450℃
〈一般式(I)で表される構造を有するポリエステル〉
本発明の光学フィルムは、上記糖エステル以外に、下記一般式(I)で表される構造を有するポリエステルを用いる。当該ポリエステルはその可塑的な効果から脆性を改善するために、光学フィルムに対して1〜20質量%の範囲で含有することが好ましく、2〜10質量%の範囲で含有することがより好ましい。
【0093】
一般式(I):B−(G−A)
n−G−B
(式中、Bは、脂肪族又は芳香族モノカルボン酸残基を表す。Gは、炭素数2〜12のアルキレングリコール残基、炭素数6〜12のアリールグリコール残基又は炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基又は炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表す。nは1以上の整数を表す。)
本発明に係るポリエステルは、ジカルボン酸とジオールを反応させて得られる繰り返し単位を含むポリエステルであり、Aはエステル中のカルボン酸残基を表し、Gはアルコール残基を表す。
【0094】
ポリエステルを構成するジカルボン酸は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸であり、好ましくは芳香族ジカルボン酸である。ジカルボン酸は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよい。
【0095】
ポリエステルを構成するジオールは、芳香族ジオール、脂肪族ジオール又は脂環式ジオールであり、好ましくは脂肪族ジオールであり、より好ましくは炭素数1〜4のジオールである。ジオールは、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよい。
【0096】
なかでも、少なくとも芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、炭素数1〜8のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことが好ましく、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸と、炭素数1〜8のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことがより好ましい。
【0097】
ポリエステルの分子の両末端は、封止されていても、封止されていなくてもよいが、温湿度変動に対する光学フィルムのリターデーション変動を低減する観点からは、封止されていることが好ましい。
【0098】
一般式(I)のAを構成するアルキレンジカルボン酸の具体例としては、1,2−エタンジカルボン酸(コハク酸)、1,3−プロパンジカルボン酸(グルタル酸)、1,4−ブタンジカルボン酸(アジピン酸)、1,5−ペンタンジカルボン酸(ピメリン酸)、1,8−オクタンジカルボン酸(セバシン酸)などから誘導される2価の基が含まれる。Aを構成するアルケニレンジカルボン酸の具体例としては、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。Aを構成するアリールジカルボン酸の具体例としては、1,2−ベンゼンジカルボン酸(フタル酸)、1,3−ベンゼンジカルボン酸、1,4−ベンゼンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
【0099】
Aは、一種類であっても、二種類以上が組み合わされてもよい。なかでも、Aは、炭素原子数4〜12のアルキレンジカルボン酸と炭素原子数8〜12のアリールジカルボン酸との組み合わせが好ましい。
【0100】
一般式(I)中のGは、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基、炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基、又は炭素原子数4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基を表す。
【0101】
Gにおける炭素原子数2〜12のアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、及び1,12−オクタデカンジオール等から誘導される2価の基が含まれる。
【0102】
Gにおける炭素原子数6〜12のアリールグリコールから誘導される2価の基の例には、1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)などから誘導される2価の基が含まれる。Gにおける炭素原子数が4〜12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどから誘導される2価の基が含まれる。
【0103】
Gは、一種類であっても、二種類以上が組み合わされてもよい。なかでも、Gは、炭素原子数2〜12のアルキレングリコールであることが好ましい。
【0104】
一般式(I)のBは、芳香環含有モノカルボン酸又は脂肪族モノカルボン酸から誘導される1価の基である。
【0105】
芳香環含有モノカルボン酸から誘導される1価の基における芳香環含有モノカルボン酸は、分子内に芳香環を含有するカルボン酸であり、芳香環がカルボキシ基と直接結合したものだけでなく、芳香環がアルキレン基などを介してカルボキシ基と結合したものも含む。芳香環含有モノカルボン酸から誘導される1価の基の例には、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、フェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸などから誘導される1価の基が含まれる。
【0106】
脂肪族モノカルボン酸から誘導される1価の基の例には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸などから誘導される1価の基が含まれる。なかでも、アルキル部分の炭素原子数が1〜3であるアルキルモノカルボン酸から誘導される1価の基が好ましく、アセチル基(酢酸から誘導される1価の基)がより好ましい。
【0107】
本発明に係るポリエステルの重量平均分子量は、500〜3000の範囲であることが好ましく、600〜2000の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量は前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0108】
以下、一般式(I)で表される構造を有する本発明に係るポリエステルの具体例を示すが、これに限定されるものではない。
【0112】
以下、本発明に係るポリエステルの具体的な合成例について記載する。
【0113】
〈ポリエステルP1〉
エチレングリコール180g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応のエチレングリコールを減圧留去することにより、ポリエステルP1を得た。酸価0.20、数平均分子量450であった。
【0114】
〈ポリエステルP2〉
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸244g、アジピン酸103g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、ポリエステルP2を得た。酸価0.10、数平均分子量450であった。
【0115】
〈ポリエステルP3〉
1,4−ブタンジオール330g、無水フタル酸244g、アジピン酸103g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,4−ブタンジオールを減圧留去することにより、ポリエステルP3を得た。酸価0.50、数平均分子量2000であった。
【0116】
〈ポリエステルP4〉
1,2−プロピレングリコール251g、テレフタル酸354g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、ポリエステルP4を得た。酸価0.10、数平均分子量400であった。
【0117】
〈ポリエステルP5〉
1,2−プロピレングリコール251g、テレフタル酸354g、p−トロイル酸680g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、ポリエステルP5を得た。酸価0.30、数平均分子量400であった。
【0118】
〈ポリエステルP6〉
180gの1,2−プロピレングリコール、292gのアジピン酸、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中200℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、ポリエステルP6を得た。酸価0.10、数平均分子量400であった。
【0119】
〈ポリエステルP7〉
160gのエチレングリコール、292gのアジピン酸、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中200℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応のエチレングリコールを減圧留去することにより、〈ポリエステルP7〉を得た。酸価0.10、数平均分子量1000であった。
【0120】
〈ポリエステルP8〉
エチレングリコール251g、無水フタル酸244g、セバシン酸200g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温する。重合度を観察しながら脱水縮合反応させた。反応終了後200℃で未反応のエチレングリコールを減圧留去することにより、ポリエステルP8を得た。酸価0.50、数平均分子量2000であった。
【0121】
本発明に用係るポリエステルの光学フィルムへの含有量は、好ましくは1〜20質量%の範囲であり、より好ましくは1.5〜15質量%の範囲である。上記範囲内であると、可塑性の付与効果が発現でき、光学フィルムの脆性を改善する効果が得られる。
【0122】
〈一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステル〉
本発明の光学フィルムは、上記糖エステル及びポリエステル以外に、下記一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルを用いることが特徴である。
【0123】
一般式(II):B−G−B
(式中、Bは、一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと同一の脂肪族又は芳香族モノカルボン酸残基を表す。Gは一般式(I)で表されるポリエステルと同一のアルキレングリコール残基、アリールグリコール残基又はオキシアルキレングリコール残基を表す。)
当該一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと同一のB及びGで表される残基を有する一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルを、当該ポリエステルと対になるように用いることで、セルロースアシレート、糖エステル及び当該ポリエステルの三者間の相溶性を向上し、ヘイズ低下に寄与することができる。
【0124】
これは、当該多価アルコールエステルは、一般式(I)のモノマー構造の低分子量成分を有し、かつ分子中に占める極性基(カルボニル)の割合が大きいことや、さらに液状であることから前記三者のエステルの間に入り込んで結着剤(バインダー)的に作用して、相溶性を向上させるものと推測される。
【0125】
一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルは、光学フィルムに対して0.5〜5質量%の範囲で含有することが好ましく、1〜3質量%の範囲で含有することがより好ましく、1〜2質量%の範囲で含有することが特に好ましい。
【0126】
さらに、前記一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと前記一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルの含有質量比率が、70:30〜90:10の範囲内であることが好ましい。一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルの含有質量比率が10〜30の範囲であると、多価アルコールエステルがフィルム表面にブリードアウトしにくく、含有成分同士の相溶性が向上し、ヘイズが低下し好ましい。
【0127】
〈可塑剤〉
本発明の光学フィルムには、上記糖エステル、ポリエステル、及び多価アルコールエステル以外に、分子量が10000以下の公知の可塑剤を効果を阻害しない範囲で用いることもできる。可塑剤として特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系などから選択される。
【0128】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールと、モノカルボン酸とのエステル(アルコールエステル)であり、好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。多価アルコールエステルは、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0129】
脂肪族多価アルコールの好ましい例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、キシリトール等が含まれる。なかでも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールなどが好ましい。
【0130】
モノカルボン酸は、特に制限はなく、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸等でありうる。フィルムの透湿性を高め、かつ揮発しにくくするためには、脂環式モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸は、一種類であってもよいし、二種以上の混合物であってもよい。また、脂肪族多価アルコールに含まれるOH基の全部をエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0131】
脂肪族モノカルボン酸は、炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸であることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数はより好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等が含まれる。なかでも、セルロースアセテートとの相溶性を高めるためには、酢酸、又は酢酸とその他のモノカルボン酸との混合物が好ましい。
【0132】
脂環式モノカルボン酸の例には、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸などが含まれる。
【0133】
芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸;安息香酸のベンゼン環にアルキル基又はアルコキシ基(例えばメトキシ基やエトキシ基)を1〜3個を導入したもの(例えばトルイル酸など);ベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸(例えばビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸など)が含まれ、好ましくは安息香酸である。
【0134】
多価カルボン酸エステルは、2価以上、好ましくは2〜20価の多価カルボン酸と、アルコールとのエステルである。多価カルボン酸は、2〜20価の脂肪族多価カルボン酸であるか、3〜20価の芳香族多価カルボン酸又は3〜20価の脂環式多価カルボン酸であることが好ましい。
【0135】
多価カルボン酸の例には、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸又はその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などが含まれ、フィルムからの揮発を抑制するためには、オキシ多価カルボン酸が好ましい。
【0136】
アルコールの例には、直鎖若しくは側鎖を有する脂肪族飽和アルコール、直鎖若しくは側鎖を有する脂肪族不飽和アルコール、脂環式アルコール又は芳香族アルコールなどが含まれる。脂肪族飽和アルコール又は脂肪族不飽和アルコールの炭素数は、好ましくは1〜32であり、より好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。脂環式アルコールの例には、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどが含まれる。芳香族アルコールの例には、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどが含まれる。
【0137】
多価カルボン酸エステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることがより好ましい。多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、ブリードアウトを抑制する観点では、大きいほうが好ましく;透湿性やセルロースアセテートとの相溶性の観点では、小さいほうが好ましい。
【0138】
多価カルボン酸エステルの例には、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が含まれる。
【0139】
多価カルボン酸エステルは、フタル酸エステルであってもよい。フタル酸エステルの例には、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が含まれる。
【0140】
グリコレートの例には、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が含まれる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類の例には、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が含まれ、好ましくはエチルフタリルエチルグリコレートである。
【0141】
エステル系可塑剤には、脂肪酸エステル、クエン酸エステルやリン酸エステルなどが含まれる。
【0142】
脂肪酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、及びセバシン酸ジブチル等が含まれる。クエン酸エステルの例には、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、及びクエン酸アセチルトリブチル等が含まれる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、及びトリブチルホスフェート等が含まれ、好ましくはトリフェニルホスフェートである。
【0143】
可塑剤の含有量は、セルロースアシレートに対して好ましくは1〜20質量%の範囲であり、より好ましくは1.5〜15質量%の範囲である。可塑剤の含有量が上記範囲内であると、可塑性の付与効果が発現でき、光学フィルムからの可塑剤の耐染みだし性にも優れる。
【0144】
〈紫外線吸収剤〉
本発明の光学フィルムは、液晶表示装置の表面側(視認側)に配置する光学フィルムとして用いる場合に、紫外線吸収剤を含有することが耐光性を向上する観点から好ましい。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐光性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0145】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びベンゾフェノン系紫外線吸収剤である。
【0146】
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン928等のチヌビン類があり、これらはいずれもBASFジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。この中ではハロゲンフリーのものが好ましい。
【0147】
この他、1,3,5トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
【0148】
本発明の光学フィルムは紫外線吸収剤を二種以上含有することが好ましい。
【0149】
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0150】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
【0151】
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースアシレート中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0152】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、光学フィルムの乾燥膜厚が15〜50μmの場合は、光学フィルムに対して0.5〜10質量%の範囲が好ましく、0.6〜4質量%の範囲が更に好ましい。
【0153】
〈酸化防止剤〉
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などが置かれた場合には、光学フィルムの劣化が起こる場合がある。
【0154】
酸化防止剤は、例えば、光学フィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等により光学フィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記光学フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0155】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。
【0156】
特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0157】
これらの化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜1.0%の範囲が好ましく、10〜1000ppmの範囲が更に好ましい。
【0158】
〈微粒子(マット剤)〉
光学フィルムは、表面の滑り性を高めるため、必要に応じて微粒子(マット剤)をさらに含有してもよい。
【0159】
微粒子は、無機微粒子であっても有機微粒子であってもよい。無機微粒子の例には、二酸化ケイ素(シリカ)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムなどが含まれる。なかでも、二酸化ケイ素や酸化ジルコニウムが好ましく、得られるフィルムのヘイズの増大を少なくするためには、より好ましくは二酸化ケイ素である。
【0160】
二酸化ケイ素の微粒子の例には、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600、NAX50(以上日本アエロジル(株)製)、シーホスターKE−P10、KE−P30、KE−P50、KE−P100(以上日本触媒(株)製)などが含まれる。なかでも、アエロジルR972V、NAX50、シーホスターKE−P30などが、得られるフィルムの濁度を低く保ちつつ、摩擦係数を低減させるため特に好ましい。
【0161】
微粒子の一次粒子径は、5〜50nmの範囲であることが好ましく、7〜20nmの範囲であることがより好ましい。一次粒子径が大きいほうが、得られるフィルムの滑り性を高める効果は大きいが、透明性が低下しやすい。そのため、微粒子は、粒子径0.05〜0.3μmの範囲の二次凝集体として含有されていてもよい。微粒子の一次粒子又はその二次凝集体の大きさは、透過型電子顕微鏡にて倍率50〜200万倍で一次粒子又は二次凝集体を観察し、一次粒子又は二次凝集体100個の粒子径の平均値として求めることができる。
【0162】
微粒子の含有量は、セルロースアシレートに対して0.05〜1.0質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜0.8質量%の範囲であることがより好ましい。
【0163】
<光学フィルムの製造方法>
本発明の光学フィルムの製造方法としては、通常のインフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルジョン法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から製膜方法は、溶液流延製膜法と溶融流延製膜法が選択でき、特に溶液流延法であることが、均一な表面を得るために好ましい。
【0164】
〈溶液流延製膜法〉
以下、本発明の光学フィルムを溶液流延法で製造する場合について説明する。
【0165】
本発明の光学フィルムを溶液流延法で製造する場合において、ドープを形成するのに有用な有機溶媒は、セルロースアシレート及びその他の化合物を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
【0166】
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用することができる。
【0167】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ないときは非塩素系有機溶媒系でのセルロースアシレート及びその他の化合物の溶解を促進する役割もある。
【0168】
特に、メチレンクロライド、及び炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、セルロースアシレート及びその他の化合物を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
【0169】
炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
【0170】
以下、本発明の光学フィルムの好ましい製膜方法について説明する。
【0171】
1)溶解工程
セルロースアシレートに対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で当該セルロースアシレート、場合によって、本発明に係る糖エステル、ポリエステル、多価アルコールエステル、及び/又はその他の化合物を撹拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいは該セルロースアシレート溶液に、本発明に係る糖エステル、ポリエステル、多価アルコールエステル、及び/又はその他の化合物溶液を混合して主溶解液であるドープを形成する工程である。
【0172】
セルロースアシレート及び糖エステル、ポリエステル、多価アルコールエステル、及び/又はその他の化合物の溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、又は特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載されている高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
【0173】
ドープ中のセルロースアシレートの濃度は、計15〜45質量%の範囲であることが好ましい。溶解中又は後のドープに化合物を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
【0174】
濾過は捕集粒子径0.5〜5μmで、かつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることが好ましい。
【0175】
この方法では、粒子分散時に残存する凝集物や主ドープ添加時発生する凝集物を、捕集粒子径0.5〜5μmで、かつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることで凝集物だけ除去できる。主ドープでは粒子の濃度も添加液に比べ十分に薄いため、濾過時に凝集物同士がくっついて急激な濾圧上昇することもない。
【0176】
図1は、本発明に好ましい溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程及び乾燥工程の一例を模式的に示した図である。
【0177】
仕込釜41より濾過器44で大きな凝集物を除去し、ストック釜42へ送液する。その後、ストック釜42より主ドープ溶解釜1へ各種添加液を添加する。
【0178】
その後主ドープは主濾過器3にて濾過され、これに紫外線吸収剤添加液が16よりインライン添加される。
【0179】
多くの場合、主ドープには返材が10〜50質量%程度含まれることがある。
【0180】
返材とは、光学フィルム細かく粉砕した物で、光学フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトした光学フィルム原反が使用される。
【0181】
また、ドープ調製に用いられる樹脂の原料としては、あらかじめセルロースアシレート及びその他の化合物などをペレット化したものも、好ましく用いることができる。
【0182】
2)流延工程
ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属ベルト31、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
【0183】
ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、いずれも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0184】
3)溶媒蒸発工程
ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ)を流延用支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させる工程である。
【0185】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/又は支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱方法が、乾燥効率が良く好ましい。また、それらを組み合わせる方法も好ましく用いられる。流延後の支持体上のウェブを40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
【0186】
面品質、透湿性、剥離性の観点から、30〜120秒以内で当該ウェブを支持体から剥離することが好ましい。
【0187】
4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。
【0188】
金属支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10〜40℃の範囲であり、さらに好ましくは11〜30℃の範囲である。
【0189】
なお、剥離する時点での金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により50〜120質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるツレや縦スジが発生しやすいため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。
【0190】
ウェブの残留溶媒量は下記式で定義される。
【0191】
残留溶媒量(%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、140℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0192】
金属支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mの範囲内であるが、剥離の際に皺が入りやすい場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましい。
【0193】
本発明においては、当該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃の範囲内とするのが好ましく、10〜40℃の範囲内がより好ましく、15〜30℃の範囲内とするのが最も好ましい。
【0194】
5)乾燥及び延伸工程
剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したローラーに交互に通して搬送する乾燥装置35、及び/又はクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター延伸装置34を用いて、ウェブを乾燥する。
【0195】
乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。余り急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ねやすい。高温による乾燥は残留溶媒が8質量%以下くらいから行うのがよい。全体を通し、乾燥はおおむね40〜250℃の範囲内で行われる。特に40〜200℃の範囲内で乾燥させることが好ましい。
【0196】
本発明の光学フィルムは、延伸後の膜の厚さが10〜30μmの範囲内となるように搬送方向と直交する方向に、フィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、(Tg+15)〜(Tg+50)℃の温度範囲で延伸することが特徴である。(Tg+15)℃未満の温度では、リターデーションが出やすくなり、また延伸応力が増すためヘイズが高くなる。(Tg+50)℃を超える温度で延伸を行うと、破断が生じたり、平面性が劣化したり、さらにはフィルム自身の着色が強くなるため、偏光板保護フィルムとしての品質(光学特性)を保てない。延伸温度は、(Tg+20)〜(Tg+40)℃の範囲で行うことが好ましい。
【0197】
なお、ここでいうガラス転移温度Tgとは、市販の示差走査熱量測定器を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0198】
具体的な光学フィルムのガラス転移温度Tgの測定方法は、JIS K7121(1987)に従って、セイコーインスツル(株)製の示差走査熱量計DSC220を用いて測定する。
【0199】
光学フィルムサンプルを10mg程度セットし、窒素流量50ml/minの条件下で、20℃/minで室温から250℃まで昇温して10分間保持し(1stスキャン)、次に20℃/minの速度で30℃まで降温して10分間保持し(2ndスキャン)、さらに20℃/minで250℃まで昇温し(3rdスキャン)、DSC曲線を作成し、得られた3rdスキャンのDSC曲線からのガラス転移温度Tgを求めることができる。
【0200】
本発明では、光学フィルムを構成する材料を用いてあらかじめ試験的に作製し、測定した光学フィルムのTgに対して、前記温度範囲で延伸することが好ましい。
【0201】
延伸にテンター延伸装置を用いる場合は、テンターの左右把持手段によってフィルムの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御できる装置を用いることが好ましい。また、テンター工程において、平面性を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。
【0202】
また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
【0203】
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することが、特に好ましい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。延伸倍率は、流延方向と幅手方向を足し合わせて、フィルムの元幅に対して1.1〜4倍、好ましくは、1.2〜3倍の範囲内であることが好ましい。
【0204】
この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
【0205】
・流延方向に延伸→幅手方向に延伸→流延方向に延伸→流延方向に延伸
・幅手方向に延伸→幅手方向に延伸→流延方向に延伸→流延方向に延伸
また、同時二軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を、張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時二軸延伸の好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに元幅に対して1.01〜1.5倍の範囲である。特に好ましくは、リターデーション値を小さくする観点から、幅手方向にフィルム元幅に対して1.01〜1.2倍の範囲で延伸することが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍の範囲である。
【0206】
テンターを行う場合のウェブの残留溶媒量は、テンター開始時に20〜100質量%の範囲であるのが好ましく、かつウェブの残留溶媒量が10質量%以下になるまでテンターを掛けながら乾燥を行うことが好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0207】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0208】
7)エンボス加工工程
本発明の光学フィルムは、膜の厚さが10〜30μmの範囲と薄膜であるため、光学フィルムをロール状に保管するときに巻ずれや光学品質の劣化の懸念があるが、エンボス加工することによって、それらを効果的に防止することができる。
【0209】
エンボス部とは、長尺状フィルムを巻取る前に、巻取られたフィルム同士の裏面と表面が完全に面同士密着するのを防止するために、フィルムに微小の連続した凹凸からなる一定の幅の文様をつけたものである。フィルムの一面(例えば上面)を凸状に突出させた際、当該フィルムの他面(例えば下面)に前記凸状に対応して相対的に凹状が形成される。
これにより、巻取ったフィルム同士が完全に接着して、あるいは、部分的に接着してフィルムの表面の状態に影響を与え、故障を引き起こすのを防ぐ役割を果たす。
【0210】
本発明の光学フィルムの製造方法は、フィルム幅手方向の両端部からフィルム幅手長の5%以内の領域に、高さが1〜20μmの範囲内であるエンボス部を有し、23℃・55%RH下において、当該エンボス部の表面上の直径5mmの円領域に、1kgの荷重を加えた状態で10分間保存した後の当該エンボス部の凸部の高さをDとし、前記荷重を加える前の当該エンボス部の凸部の高さをDoとしたとき、下記式1で定義されるつぶれ耐性率(%)が、両端のエンボス部とも50%以上とすることが好ましい。
【0211】
(式1) つぶれ耐性率(%)=D/Do×100(%)
図2は、光学フィルムのエンボス部近傍の一例を示す断面図である。
図2に示されるように、エンボス部51を構成する凸部51Aの高さD
0は、好ましくは1〜20μmの範囲内であり、より好ましくは2〜15μmの範囲内である。凸部51Aの高さD
0とは、フィルム面F(エンボスが形成されていない部分のフィルム面)から凸部51Aの頂点までの高さをいう。凸部51Aの高さが1μm未満であると、光学フィルム同士が密着しやすいため、好ましくない。一方、凸部51Aの高さが20μmを超えると、ロール体の幅手方向中央部がたわみやすく、光学フィルムとしての平面性が保ちにくい。エンボス部である凸部51Aは、光学フィルムの両端部からフィルム幅長の5%以内の領域に形成されることが、光学フィルムの有効面積を確保する観点から好ましい。
【0212】
凸部51Aの幅wは、0.05〜5mm程度とすることができる。凸部51Aの幅wとは、エンボス部51の断面において、凸部51Aが、フィルム面Fと交わる2点間の距離として表される。凸部51Aと凸部51Aの間隔bは、0.1〜5mmの範囲であることが好ましく、0.5〜2mmの範囲であることがより好ましい。凸部51Aと凸部51Aの間隔bは、エンボス部51の断面において、二つの凸部51Aが、それぞれフィルム面Fと交わる点同士の距離で表される。
【0213】
エンボス部51の幅Wは、光学フィルムの幅に対して0.12〜2.1%の範囲であることが好ましい。具体的には、エンボス部51の幅Wは、光学フィルムの幅の大きさにもよるが、5〜25mmの範囲とし、好ましくは10〜20mmの範囲とする。エンボス部51の幅Wが上記範囲内であれば、光学フィルムとして使用できる面積を確保しやすく、かつ光学フィルム同士の密着を防止することができる。
【0214】
本発明の光学フィルムは、光学フィルムのエンボス部に力が加わっても、エンボス部の凸部がつぶれにくいこと、即ち、エンボス部が、高い強度(高い弾性率)を有することで、巻形状の劣化を抑制することができる。具体的には、以下の方法で測定されるエンボス部の凸部のつぶれ耐性率(%)が、フィルムの左右の両端部において50%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0215】
エンボス部の凸部のつぶれ耐性率(%)は、以下の方法で測定することができる。
図3及び
図4は、エンボス部の凸部のつぶれ耐性率(%)の測定方法の一例を示す部分断面図である。
【0216】
(1)光学フィルム50のエンボス部51を含む領域を切り出して、サンプルフィルム50Aを得る(
図4参照)。そして、サンプルフィルム50Aのエンボス部51の凸部の高さD
0(
図3における、荷重を加える前の凸部の高さD
0)を、厚さ測定機で測定する。厚さ測定機は例えば、定圧厚さ測定機(株式会社テクロックPG−02)を用いることができる。
【0217】
(2)次いで、
図4に示されるように、ステージ52上にサンプルフィルム50Aを配置する。そして、フィルム面に対して垂直に載置された直径5mmの金属製の円筒棒53Aと、その上に配置された分銅53Bとからなる合計1kgの分銅53を載せる。このようにして、エンボス部51の表面上の直径5mmの円領域に1kgの荷重を加えた状態で、23℃・55%RH下において10分間保存する。その後、荷重を除いた(分銅を除いた)ときの、エンボス部51の凸部の高さD(
図3における荷重を加えた後の凸部の高さD)を、厚さ測定機で測定する。
【0218】
(3)前記(1)で測定された荷重を加える前の凸部の高さD
0と、前記(2)で測定された荷重を加えた後の凸部の高さDとを、前記式1に当てはめて、つぶれ耐性率を算出する。
【0219】
測定はエンボス部の場所を任意に変えて10回行い、つぶれ耐性率(%)の平均値を求める。
【0220】
エンボス部の凸部のつぶれ耐性率(%)の調整は特に限定されるものではなく種々な方法を採用することができるが、エンボス加工条件で行うことが好ましい。具体的には、(1)エンボスローラーの表面温度、(2)バックローラーの表面温度、(3)エンボスローラーのローラー径、及び(4)バックローラーの材質のうち二以上を種々組み合わせて調整することができる。なかでも、(1)エンボスローラーの表面温度と、(2)バックローラーの表面温度を調整することが好ましく、さらに(3)エンボスローラー径を調整することがより好ましく、更に(4)バックローラーの材質を選択することが特に好ましい。エンボス部の凸部のつぶれ耐性率を高めるためには、例えば(1)エンボスローラーの表面温度を高くし、かつ(2)バックローラーの表面温度を高くすることが好ましい。
【0221】
7)巻取り工程
ウェブ中の残留溶媒量が2質量%以下となってから光学フィルムとして巻取り機37により巻取る工程であり、残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。特に0.00〜0.10質量%の範囲で巻取ることが好ましい。
【0222】
巻取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
【0223】
本発明の光学フィルムは、長尺フィルムであ
り、具体的には、100m〜10000m程度のものを示し、特に好ましくは巻きの長さが5000m以上の光学フィルムのロール体である。また、フィルムの幅は1〜4mであ
り、1.4〜3mであること
が好ましい。また、本発明の光学フィルムの厚さは、10〜
20μmの範囲であ
る。
【0224】
〈光学フィルムの特性〉
(リターデーション値)
本発明の光学フィルムは、温度23℃、相対湿度55%の環境下で、波長590nmで測定した、下記式(i)により定義される面内方向のリターデーション値(Ro)が0〜10nmの範囲内にあり、下記式(ii)により定義される厚さ方向のリターデーション値(Rt)が−20〜20nmの範囲内にあることが、IPSモード型液晶表示装置に用いる光学フィルムとして好ましい。好ましくは、Roが0〜5nmの範囲内であり、Rtが−10〜10nmの範囲内である。さらに、Rtは−5〜5nmの範囲内であることがより好ましい。
【0225】
式(i):Ro=(n
x−n
y)×d(nm)
式(ii):Rt={(n
x+n
y)/2−n
z}×d(nm)
〔式(i)及び式(ii)において、n
xは、フィルムの面内方向において屈折率が最大になる方向xにおける屈折率を表す。n
yは、フィルムの面内方向において、前記方向xと直交する方向yにおける屈折率を表す。n
zは、フィルムの厚さ方向zにおける屈折率を表す。dは、フィルムの厚さ(nm)を表す。〕
これらのリターデーション値は、自動複屈折計KOBRA−WPR(王子計測機器)を用いて測定することができる。
【0226】
(全ヘイズ)
本発明の光学フィルムは、全ヘイズが、1%未満であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。ヘイズが1%未満であれば、フィルムの透明性の低下が無く、光学フィルムとして十分に機能する。
【0227】
光学フィルムの全ヘイズは、JIS K−7136に準拠して、ヘーズメーターNDH−2000(日本電色工業株式会社製)にて測定することができる。ヘーズメーターの光源は、5V9Wのハロゲン球とし、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)とし得る。ヘイズの測定は、23℃・55%RHの条件下にて行うことができる。
【0228】
本発明の光学フィルムは、一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルを含有することで、フィルムを構成する材料間の相溶性が向上することから、ヘイズ値を上記範囲に低減することが可能である。
【0229】
(全光線透過率)
本発明の光学フィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。また、製膜時のフィルム接触部(冷却ローラー、カレンダーローラー、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材、搬送ローラーなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
【0230】
(表面粗さ)
本発明の光学フィルム表面の算術平均粗さRaは、おおむね1.3〜4.0nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.6〜3.5nmの範囲内である。算術平均粗さRaは、JIS B0601−2001に準じた測定器、例えば、オリンパス(株)製、3Dレーザー顕微鏡LEXT OLS4000や、小坂研究所(株)製、サーフコーダー MODEL SE−3500などを用いて測定することができる。
【0231】
(寸法変化率)
本発明の光学フィルムを、液晶表示装置に具備した場合、使用する環境雰囲気、例えば、高湿環境下での吸湿による寸法変化により、ムラやリターデーション値の変化、及びコントラストの低下や色むらといった問題を発生させないために、本発明の光学フィルムの寸法変化率(%)は、0.5%未満であることが好ましく、更に、0.3%未満であることが好ましく、最も好ましくは0.1%未満である。かかる寸法変化率の範囲を達成するには、セルロースアシレートの種類、分子量、添加剤や可塑剤等の種類や配合量の調整、及び延伸条件の調整を行うことが有効である。
【0232】
(破断伸度)
また、本発明の光学フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向(TD方向又はMD方向)の破断伸度が、4%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。
【0233】
破断伸度の上限は、特に限定されるものではないが、延伸を高延伸率で行うことにより破断伸度は低下する傾向にあり、破断伸度は30%以下であることが好ましく、さらには20%以下であることが好ましい。かかる範囲の破断伸度を達成するには、セルロースアシレートの種類、分子量、添加剤や可塑剤等の種類や配合量を調整することが有効である。
【0234】
<機能性層>
本発明の光学フィルムにはその用途により、帯電防止層、バックコート層、反射防止層、易滑性層、接着層、防眩層、及びバリアー層等の機能性層を設けることができる。
【0235】
<偏光板の製造方法>
本発明の偏光板の製造方法は、本発明の光学フィルムの製造方法により光学フィルムを製造し、該光学フィルムを用いて活性エネルギー線硬化性接着剤により偏光子と貼り合わせることが好ましい。
【0236】
〈偏光子〉
偏光板の主たる構成要素である偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
【0237】
偏光子としては、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行った偏光子が用いられ得る。偏光子の膜厚は5〜30μmの範囲内が好ましく、特に5〜15μmの範囲内であることが好ましい。
【0238】
また、特開2003−248123号公報、及び特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、ケン化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。なかでも、熱水切断温度が66〜73℃の範囲内であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能及び耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
【0239】
また、特開2011−100161号公報、特許第4691205号公報、特許4751481号公報、特許第4804589号公報に記載の方法で、塗布型偏光子を作製し本発明の光学フィルムと貼り合わせて偏光板を作製することも好ましい。
【0240】
〈保護フィルム〉
本発明の偏光板の製造方法においては、本発明の光学フィルムが配置されている面とは反対側の偏光子面に、本発明の光学フィルムと同様に、後述する活性エネルギー線硬化性接着剤を介して保護フィルムが積層されていてもよい。
【0241】
当該保護フィルムは、市販品として入手することができ、例えば、市販のセルロースアシレートフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC5UX、KC4UX、KC8UCR3、KC4SR、KC4BR、KC4CR、KC4DR、KC4FR、KC4KR、KC8UY、KC6UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC2UA、KC4UA、KC6UA、KC2UAH、KC4UAH、KC6UAH、以上コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製)が好ましく用いられる。保護フィルムの厚さは、特に制限されないが、10〜100μm程度とすることができ、好ましくは10〜80μmの範囲であり、より好ましくは10〜60μmの範囲であり、特に好ましくは10〜40μmの範囲である。
【0242】
本発明の光学フィルムと前記偏光子との貼り合わせは、特に限定はなく、当該光学フィルムを鹸化処理した後、完全鹸化型のポリビニルアルコール系接着剤を用いて行うことができるが、偏光板の熱湿度に対する耐久性を向上する観点から、活性エネルギー線硬化性接着剤などを用いて貼り合わせることが好ましい。得られる接着剤層の弾性率が高く、偏光板の変形を抑制しやすい点や外部環境の変動(熱湿度等)に対して耐性が高い点などから、活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて貼合であることが好ましい。
【0243】
偏光板用の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物としては、光ラジカル重合を利用した光ラジカル重合型組成物、光カチオン重合を利用した光カチオン重合型組成物、並びに光ラジカル重合及び光カチオン重合を併用したハイブリッド型組成物が知られている。
【0244】
光ラジカル重合型組成物としては、特開2008−009329号公報に記載のヒドロキシ基やカルボキシ基等の極性基を含有するラジカル重合性化合物及び極性基を含有しないラジカル重合性化合物を特定割合で含む組成物)等が知られている。特に、ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であることが好ましい。ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の好ましい例には、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含まれる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例には、N置換(メタ)アクリルアミド系化合物、(メタ)アクリレート系化合物などが含まれる。(メタ)アクリルアミドは、アクリアミド又はメタクリアミドを意味する。
【0245】
また、光カチオン重合型組成物としては、特開2011−028234号公報に開示されているような、(α)カチオン重合性化合物、(β)光カチオン重合開始剤、(γ)380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤、及び(δ)ナフタレン系光増感助剤の各成分を含有する活性エネルギー線硬化性接着剤組成物が挙げられる。ただし、これ以外の活性エネルギー線硬化性接着剤が用いられてもよい。
【0246】
以下、活性エネルギー線硬化性接着剤を用いた偏光板の製造方法の一例を説明する。偏光板は、(1)光学フィルムの偏光子を接着する面を易接着処理する前処理工程、(2)偏光子と光学フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、下記の活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程、(3)得られた接着剤層を介して偏光子と光学フィルムとを貼り合せる貼合工程、及び4)接着剤層を介して偏光子と光学フィルムとが貼り合わされた状態で接着剤層を硬化させる硬化工程、を含む製造方法によって製造することができる。(1)の前処理工程は、必要に応じて実施すればよい。
【0247】
(前処理工程)
前処理工程では、光学フィルムの、偏光子との接着面に易接着処理を行う。偏光子の両面にそれぞれ光学フィルムを接着させる場合は、それぞれの光学フィルムの、偏光子との接着面に易接着処理を行う。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0248】
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程では、偏光子と光学フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、上記活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する。偏光子又は光学フィルムの表面に直接活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する場合、その塗布方法に特別な限定はない。例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子と光学フィルムの間に、活性エネルギー線硬化性接着剤を流延させた後、ローラー等で加圧して均一に押し広げる方法も利用できる。
【0249】
(貼合工程)
こうして活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した後、貼合工程に供される。この貼合工程では、例えば、先の塗布工程で偏光子の表面に活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した場合、そこに光学フィルムが重ね合わされる。先の塗布工程で光学フィルムの表面に活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した場合は、そこに偏光子が重ね合わされる。また、偏光子と光学フィルムの間に活性エネルギー線硬化性接着剤を流延させた場合は、その状態で偏光子と光学フィルムとが重ね合わされる。偏光子の両面に光学フィルムを接着する場合であって、両面とも活性エネルギー線硬化性接着剤を用いる場合は、偏光子の両面にそれぞれ、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して光学フィルムが重ね合わされる。そして通常は、この状態で両面(偏光子の片面に光学フィルムを重ね合わせた場合は、偏光子側と光学フィルム側、また偏光子の両面に光学フィルムを重ね合わせた場合は、その両面の光学フィルム側)からローラー等で挟んで加圧することになる。ローラーの材質は、金属やゴム等を用いることが可能である。両面に配置されるローラーは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0250】
(硬化工程)
硬化工程では、未硬化の活性エネルギー線硬化性接着剤に活性エネルギー線を照射して、エポキシ化合物やオキセタン化合物を含む接着剤層を硬化させる。それにより、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して重ね合わせた偏光子と光学フィルムとを接着させる。偏光子の片面に光学フィルムを貼合する場合、活性エネルギー線は、偏光子側又は光学フィルム側のいずれから照射してもよい。また、偏光子の両面に光学フィルムを貼合する場合、偏光子の両面にそれぞれ活性エネルギー線硬化性接着剤を介して光学フィルムを重ね合わせた状態で、いずれか一方の光学フィルム側から活性エネルギー線を照射し、両面の活性エネルギー線硬化性接着剤を同時に硬化させるのが有利である。
【0251】
活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、X線、電子線等を用いることができ、取扱いが容易で硬化速度も十分であることから、一般的には、電子線又は紫外線が好ましく用いられる。
【0252】
電子線の照射条件は、前記接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。例えば、電子線照射は、加速電圧が好ましくは5〜300kVの範囲内であり、さらに好ましくは10〜250kVの範囲内である。加速電圧が5kV未満の場合、電子線が接着剤まで届かず硬化不足となるおそれがあり、加速電圧が300kVを超えると、試料を通る浸透力が強すぎて電子線が跳ね返り、光学フィルムや偏光子にダメージを与えるおそれがある。照射線量としては、5〜100kGyの範囲内、さらに好ましくは10〜75kGyの範囲内である。照射線量が5kGy未満の場合は、接着剤が硬化不足となり、100kGyを超えると、光学フィルムや偏光子にダメージを与え、機械的強度の低下や黄変を生じ、所定の光学特性を得ることができない。
【0253】
紫外線の照射条件は、前記接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。紫外線の照射量は積算光量で50〜1500mJ/cm
2の範囲内であることが好ましく、100〜500mJ/cm
2の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0254】
以上のようにして得られた偏光板において、接着剤層の厚さは、特に限定されないが、通常0.01〜10μmの範囲内であり、好ましくは0.5〜5μmの範囲内である。
【0255】
<液晶表示装置の製造方法>
本発明の液晶表示装置の製造方法は、前記本発明の偏光板を用いて当該液晶表示装置を製造することが好ましい。本発明の光学フィルムを具備した当該偏光板は、種々の液晶表示装置に用いることができる。
【0256】
液晶表示装置の場合は、TN(Twisted Nematic)方式、STN(Super Twisted Nematic)方式、IPS(In−Plane Switching)方式、OCB(Optically Compensated Birefringence)方式、VA(Vertical Alignment)方式(MVA;Multi−domain Vertical AlignmentやPVA;Patterned Vertical Alignmentも含む)、HAN(Hybrid Aligned Nematic)方式等に好ましく用いることができる。コントラストを高めるためには、VA(MVA、PVA)方式又はIPS方式が好ましい。
【0257】
本発明の偏光板が用いられた液晶表示装置は、薄膜でかつ偏光板の耐久性が高い光学フィルムが用いられていることから、液晶表示装置の画像ムラ等が発生しづらい。
【0258】
液晶表示装置のパネルに使用されるガラスは0.3〜0.7mmの厚さの範囲が好ましく、さらに、0.3〜0.5mmの範囲が好ましい。本発明の偏光板は温湿度による寸法変化が小さいため、特に、中小型のモバイル電子機器向けに用いられる薄いガラスに対して、好ましく用いられる。
【0259】
偏光板の本発明の光学フィルム側の表面と、液晶セルの少なくとも一方の表面との貼合は、公知の手法により行われ得る。場合によっては、接着層を介して貼合されてもよい。
【0260】
特に、本発明の光学フィルムはリターデーション値が小さいため、IPSモード型液晶表示装置に好適に具備される。
【0261】
これらの液晶表示装置に、本発明の光学フィルムを含む偏光板を具備することで、視野角特性に優れ、液晶表示装置の画像ムラ等がない視認性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
【実施例】
【0262】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0263】
実施例1
<実施例の光学フィルムに用いた材料>
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートA:アセチル基置換度2.80である数平均分子量70000のセルローストリアセテート(表中TACと記載)
セルロースアシレートB:アセチル基置換度2.45である数平均分子量70000のセルロースジアセテート(表中DACと記載)
セルロースアシレートC:アセチル基置換度1.55、プロピオニル基置換度0.9、総アシル基置換度2.45、数平均分子量70000のセルロースアセテートプロピオネート(表中CAPと記載)
(糖エステル)
下記表2に記載の糖を用いて、脂肪族アルキル基(AL)及び芳香族アルキル基(AR)の置換基の種類と置換基数を変化させて、それぞれ糖エステルを前述の方法で合成した。
【0264】
表中、「(AL+ARの置換基数/全OH基数)」とは、糖エステルの置換基である全OH基に対する脂肪族アルキル基(AL)及び芳香族アルキル基(AR)の置換基の合計数を表し、例えば「5/8」とは、8個の置換基中5個がAL及び/又はARの置換基であることを示す。また、例えば5/8と6/8である糖エステルが、50:50の比率で混合している場合は、「5.5/8」のように表す。
【0265】
【表2】
【0266】
(一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと、一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルの組み合わせ)
下記表3及び表4に示すように、一般式(I)で表されるポリエステルにおけるA、G及びBの構造に対して、一般式(II)で表される多価アルコールエステルにおけるG及びBの構造を対になるように変化させて、それぞれポリエステル及びそれと対になる多価アルコールエステルを前述の方法で合成した。表中の質量比率は、一般式(I)で表される構造を有するポリエステルと、一般式(II)で表される構造を有する多価アルコールエステルの光学フィルムに含有される合計質量を100としたときの、それぞれの質量比率である。
【0267】
【表3】
【0268】
【表4】
【0269】
(アクリル系添加剤:比較化合物)
特開2000−128911号公報に記載の重合方法により塊状重合を行った。すなわち、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計、投入口及び還流冷却管を備えたフラスコにモノマーとして下記メチルアクリレート(MMA)を投入し、窒素ガスを導入してフラスコ内を窒素ガスで置換した。
【0270】
チオグリセロール添加後、4時間重合を行い、内容物を室温に戻し、それにベンゾキノン5質量%テトラヒドロフラン溶液20質量部添加し、重合を停止させた。内容物をエバポレーターに移し、80℃で減圧下、テトラヒドロフラン、残存モノマー及び残存チオグリセロールを除去し、GPCを用いて測定した重量平均分子量が1000であるアクリル系添加剤を得た。
【0271】
<光学フィルム1の作製>
(主ドープ1の調製)
下記組成の主ドープを調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルAを撹拌しながら投入し、これを加熱し、撹拌しながら完全に溶解した。
【0272】
セルロースアシレートA 100質量部
表2記載の糖エステル 7質量部
表3記載のポリエステル 4質量部
表3記載の多価アルコールエステル 1質量部
マット剤:R812の12%エタノール分散液(日本アエロジル(株)製) 1.4質量部
メチレンクロライド 430質量部
エタノール 40質量部
更に上記添加剤成分を密閉容器に投入し、撹拌しながら溶解して、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ1を調製した。
【0273】
(光学フィルム1の製膜)
上記調製した主ドープ1を、ベルト流延装置を用い、温度22℃、1.8m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が20%になるまで溶媒を蒸発させ、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上から剥離した。
【0274】
次いで、剥離したドープ1のウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1.6m幅にスリットし、その後、テンター延伸機を用いて、光学フィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、(Tg+20)℃の温度で幅手方向(TD方向)に元幅に対して1.05倍延伸した。この時、テンターによる延伸を開始したときの残留溶媒量は、4%であった。
その後、120℃、140℃の乾燥ゾーンを多数のローラーで搬送させながら乾燥を終了させ、1.3m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm、高さ2.5μmのナーリング加工を施した後、コアに巻取り、本発明の光学フィルム1を作製した。膜厚は20μm、巻きの長さは5000mであった。
【0275】
<光学フィルム2〜12の作製>
それぞれ主ドープを表5に記載の構成で作製し、表5に記載の延伸温度、延伸倍率及び膜厚となるように調整した以外は光学フィルム1と同様にして、光学フィルム2〜12を作製した。
【0276】
【表5】
【0277】
<偏光板1〜12の作製>
上記作製した光学フィルム1〜12を用いて、偏光板1〜12を作製した。
【0278】
(偏光子の作製)
厚さ45μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させた。得られたフィルムを、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g及び水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、さらにヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5g及び水100gからなる45℃の水溶液に浸漬した。得られたフィルムを、延伸温度55℃、延伸倍率5倍の条件で一軸延伸した。この一軸延伸フィルムを、水洗した後、乾燥させて、厚さ15μmの偏光子を得た。
【0279】
(活性エネルギー線硬化性接着剤液の調製:カチオン重合型)
下記の各成分を混合した後、脱泡して、活性エネルギー線硬化性接着剤液を調製した。なお、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートは、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、下記にはトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートの固形分量を表示した。
【0280】
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート 45質量部
エポリードGT−301(ダイセル化学社製の脂環式エポキシ樹脂) 40質量部
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル 15質量部
トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート 2.3質量部
9,10−ジブトキシアントラセン 0.1質量部
1,4−ジエトキシナフタレン 2.0質量部
(偏光板の作製)
下記の方法に従って、偏光板を作製した。
【0281】
まず、保護フィルム1として、KC2UAフィルム(コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製)を準備し、上記調製した活性エネルギー線硬化性接着剤液を、マイクログラビアコーター(グラビアローラー:#300、回転速度140%/ライン速)を用いて、厚さ5μmになるように塗工して活性エネルギー線硬化性接着剤層aを形成した。
【0282】
次いで、上記作製した光学フィルム1に、上記調製した活性エネルギー線硬化性接着剤液を、上記と同様に、厚さ5μmとなるように塗工して活性エネルギー線硬化性接着剤層bを形成した。
【0283】
上記活性エネルギー線硬化性接着剤層a及びbの間に、上記作製したポリビニルアルコール−ヨウ素系の偏光子を配置し、ローラー機で貼合し、保護フィルム1/活性エネルギー線硬化性接着剤層/偏光子/活性エネルギー線硬化性接着剤層/光学フィルム1が積層された積層物を得た。その際に、光学フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が互いに直交になるようにローラー機で貼合した。
【0284】
この積層物の両面側から、電子線を照射して、偏光板1を作製した。
【0285】
ライン速度は20m/min、加速電圧は250kV、照射線量は20kGyとした。
【0286】
光学フィルム1の代わりに光学フィルム2〜12を用いた以外は同様にして、偏光板2〜12を作製した。
【0287】
《光学フィルムの特性値の測定及び偏光板評価》
〈光学フィルムのTgの測定〉
光学フィルムのガラス転移温度Tgの測定方法は、JIS K7121に従って、セイコーインスツル(株)製の示差走査熱量計DSC220を用いて測定した。
【0288】
表5及び表6に記載の光学フィルムを少量試験的に作製し、当該フィルムを10mg程度セットし、窒素流量50ml/minの条件下で、20℃/minで室温から250℃まで昇温して10分間保持し(1stスキャン)、次に20℃/minの速度で30℃まで降温して10分間保持し(2ndスキャン)、さらに20℃/minで250℃まで昇温し(3rdスキャン)、DSC曲線を作成し、得られた3rdスキャンのDSC曲線からのフィルムのガラス転移温度Tgを求めた。
【0289】
〈リターデーション値の測定〉
光学フィルムのリターデーション値は、温度23℃、相対湿度55%の環境下で、波長590nmで、下記式(i)により定義される面内方向のリターデーション値(Ro)及び下記式(ii)により定義される厚さ方向のリターデーション値(Rt)を、自動複屈折計KOBRA−WPR(王子計測機器)を用いて測定した。
【0290】
具体的には、上記作製した光学フィルムを23℃、55%RHの環境下で、590nmの波長において10カ所で3次元の屈折率測定を行い、屈折率n
x、n
y、n
zの平均値を求めた後、下記式に従って面内方向のリターデーション値Ro及び厚さ方向のリターデーション値Rtを算出した。
【0291】
式(i):Ro=(n
x−n
y)×d(nm)
式(ii):Rt={(n
x+n
y)/2−n
z}×d(nm)
〔式(i)及び式(ii)において、n
xは、フィルムの面内方向において屈折率が最大になる方向xにおける屈折率を表す。n
yは、フィルムの面内方向において、前記方向xと直交する方向yにおける屈折率を表す。n
zは、フィルムの厚さ方向zにおける屈折率を表す。dは、フィルムの厚さ(nm)を表す。〕
〈全ヘイズの測定〉
光学フィルムの全ヘイズは、JIS K−7136に準拠して、ヘーズメーターNDH−2000(日本電色工業株式会社製)にて測定した。ヘーズメーターの光源は、5V9Wのハロゲン球とし、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)とし、ヘイズの測定は、23℃・55%RHの条件下にて行った。
【0292】
〈ブリードアウト評価〉
光学フィルムを80℃、90%RHの高温高湿雰囲気下に100時間放置後、フィルム表面にブリードアウトが発生しているかを目視評価した。
【0293】
○:フィルム表面にブリードアウトが全く見られない
△:フィルム表面に部分的なブリードアウトが確認できる
×:フィルム表面に全面的なブリードアウトが確認できる。
【0294】
〈イエローインデックス値YI〉
各光学フィルムについて、日立製作所製の分光光度計U−3200と付属の彩度計算プログラム等を用いて、色の三刺激値X、Y、Zを求め、下式に従ってイエローインデックス値YIを求めた。
【0295】
イエローインデックス値=100(1.28X−1.06Z)/Y
〈偏光板耐久性〉
上記作製した偏光板について23℃55%RHの雰囲気下24時間調湿した試料を、同条件下、先ず平行透過率と直交透過率を測定し、下記式に従って偏光度を算出した。その後各々の偏光板を60℃90%RHの条件下で1000時間の強制劣化後、再度平行透過率と直行透過率を測定し、下記式に従って偏光度を算出した。偏光度変化量を下記式により求めた。
【0296】
偏光度P=((H
0−H
90)/(H
0+H
90))
0.5×100
偏光度変化量=P
0−P
1000
H
0 :平行透過率
H
90 :直交透過率
P
0 :強制劣化前の偏光度
P
1000:強制劣化1000時間後の偏光度
(評価基準)
○:偏光度変化率10%未満
△:偏光度変化率10%以上25%未満
×:偏光度変化率25%以上
以上の評価結果を下記表6に示した。
【0297】
【表6】
【0298】
表6より、本発明の光学フィルム1〜7は、比較例の光学フィルム8〜12に対して、面内方向のリターデーション値Ro及び厚さ方向のリターデーション値Rtが十分に小さく、全ヘイズ及びYIが低く、かつ偏光板耐久性に優れており、総合的に優れた光学フィルムであることが明らかである。また、ブリードアウトにも優れている。
【0299】
実施例2
<光学フィルム13〜15の作製>
実施例1の光学フィルム1〜4の作製に対して、表7に記載の糖エステル、及び表8に記載の一般式(I)及び一般式(II)で表されるエステルを用いて、表9に記載の構成で主ドープをそれぞれ調製し、延伸温度、延伸倍率及び膜厚を調整して、光学フィルム13、14及び15を作製した。紫外線吸収剤であるチヌビン928は、BASFジャパン(株)製を用いた。
【0300】
【表7】
【0301】
【表8】
【0302】
【表9】
【0303】
<偏光板21〜33の作製>
実施例1の光学フィルム1〜4、比較として光学フィルム11及び12、上記作製した光学フィルム13〜15、及びKC2UAフィルム(コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製)と、下記偏光子及び活性エネルギー線硬化型接着剤を用いて、表10の組み合わせで偏光板21〜33を作製した。
【0304】
(偏光子の作製)
偏光子1:平均重合度2400、ケン化度99.9モル%の厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の温水中に60秒間浸漬し膨潤させた。次いで、得られたフィルムを、ヨウ素/ヨウ化カリウム(質量比=0.5/8)の濃度0.3%の水溶液に浸漬し、3.5倍まで延伸させながら染色した。その後、得られたフィルムを、65℃のホウ酸エステル水溶液中で、トータルの延伸倍率が6倍となるように延伸した。その後、得られたフィルムを、40℃のオーブンにて3分間乾燥して、厚さ25μmの偏光子を得た。
【0305】
偏光子2:平均重合度2400、ケン化度99.9モル%の厚さ30μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の温水中に60秒間浸漬し膨潤させた。次いで、得られたフィルムを、ヨウ素/ヨウ化カリウム(質量比=0.5/8)の濃度0.3%の水溶液に浸漬し、3.5倍まで延伸させながら染色した。その後、得られたフィルムを、65℃のホウ酸エステル水溶液中で、トータルの延伸倍率が6倍となるように延伸した。その後、得られたフィルムを、40℃のオーブンにて3分間乾燥して、厚さ10μmの偏光子を得た。
【0306】
偏光子3:特許4751481号の実施例1記載の偏光子(非晶性PET樹脂基材上に塗布されている状態)。偏光子の厚さは3μmに調整した。
【0307】
(活性エネルギー線硬化型接着剤の調製)
〈活性エネルギー線硬化型接着剤1の調製〉
HEAAを50質量部、HEAを50質量部、及びBASFジャパン(株)製IRGACURE819を3質量部混合して、50℃で1時間撹拌し、活性エネルギー線硬化型接着剤を得た。各成分は、以下のとおりである。
【0308】
HEAA:興人製 ヒドロキシエチルアクリルアミド
HEA :興人製 2−ヒドロキシエチルアクリレート
ACMO:興人製 アクリロイルモルホリン
HBA :日本化成製 4−ヒドロキシブチルアクリレート
セロキサイド2021P:ダイセル社製の下記式で表される脂環式エポキシ化合物(エポキシ当量128−140g/eq)
【化14】
【0309】
IRGACURE819:BASFジャパン(株)製 光ラジカル重合開始剤
CPI−101A:サンアプロ社製 光カチオン重合開始剤
UVS−1221:サンアプロ社製 光増感剤
〈活性エネルギー線硬化性接着剤2の調製〉
下記の各成分を混合した後、脱泡して、接着剤液を調製した。なお、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートは、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、下記にはトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートの固形分量を表示した。
【0310】
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート 45質量部
エポリードGT−301(ダイセル化学社製の脂環式エポキシ樹脂) 40質量部
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル 15質量部
トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート 2.3質量部
9,10−ジブトキシアントラセン 0.1質量部
1,4−ジエトキシナフタレン 2.0質量部
(偏光板の作製)
まず、光学フィルム1〜4及び13〜15及びKC2UA(コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製)の表面にコロナ放電処理を施した。コロナ放電処理の条件は、コロナ出力強度2.0kW、ライン速度18m/分とした。次いで、前記フィルムのコロナ放電処理面に、前記のとおり調製した活性線硬化型接着剤1及び2から選んだものを、硬化後の膜厚が0.5μmとなるようにバーコーターで塗工した。前述のとおり作製した偏光子1〜3の両面に前記の接着剤塗工面を貼合して、偏光板保護フィルム(光学フィルム)/偏光子/偏光板保護フィルム(KC2UA)の積層体を得た。この積層体の両面側から、ベルトコンベヤ付き紫外線照射装置(ランプは、フュージョンUVシステムズ社製のDバルブを使用)を用いて、積算光量が750mJ/cm
2となるように紫外線を照射し、接着剤層を硬化させた。
【0311】
なお、偏光子3を使用する場合は、活性線硬化型接着剤を塗布する直前に非晶性PET樹脂基材を剥離した。
【0312】
表10の組み合わせで作製した偏光板21〜33について、以下の評価を実施した。
【0313】
《評価》
〈偏光板カール〉
偏光板を幅手方向35mm、搬送方向1mmに切り取ってカール測定用サンプルを作製した。これを25℃、55%RH雰囲気下で3日間放置した後、カール度の測定を行った。カール度は曲率半径の逆数を表すが、具体的にはJIS−K7619−1988のA法に準じて測定した。カール度に対する評価は以下のとおりである。以下の評価において、○が好ましい。
【0314】
○:0〜5%
△:5〜30%
×:30%〜100%
〈液晶表示装置の画像ムラ〉
(液晶表示装置の作製)
上記作製した偏光板を含む液晶表示装置を作製した。具体的には、日立製IPSモード液晶テレビWooo W32−L7000を準備し、あらかじめ貼合されていたバックライト側の偏光板を剥がし、前記のとおり作製した偏光板を液晶セルのガラス面に貼合した。作製した偏光板の吸収軸が、あらかじめ貼合されていた偏光板の吸収軸と同一方向となるように貼り合わせた液晶表示装置を作製し、以下の方法によって画像ムラを評価した。
【0315】
(画像ムラの評価)
得られた液晶表示装置を、50℃、80%RHのチャンバ内で、72時間放置した。その後、チャンバから液晶表示装置を取り出して、常温で液晶表示装置を黒表示させた状態で、表示画面の4頂点付近の輝度と表示画面中央付近の輝度との差(画像ムラ)を目視観察した。以下の基準で光漏れを評価した。以下の評価において、○か◎が好ましい。
【0316】
◎:画像ムラが全くない
○:非常に細かく注意すると僅かに画像ムラが認められる
△:4頂点のうち1カ所で画像ムラが認められる
×:4頂点のうち3カ所以上で画像ムラが認められる
偏光板の構成及び評価結果を、表10に示す。
【0317】
【表10】
【0318】
表10より、本発明の光学フィルムを用いた偏光板は、偏光板カール及び液晶表示装置画像ムラに優れており、特に本発明の光学フィルムを表面側及び液晶セル側の両方に用いた偏光板は、偏光板カール及び液晶表示装置画像ムラ特性が、優れていることが明らかである。
【0319】
実施例3
本発明の光学フィルム1〜7、13〜15、及び比較例の光学フィルム11、12を作製する過程において、巻きの長さ、及び下記エンボスつぶれ耐性率を、エンボスローラーの表面温度及びバックローラーの表面温度を適宜変化させて、表11のように調整した。
【0320】
(エンボス加工基本条件)
エンボスローラー:
材質:ステンレス製
ローラー径:30cm
表面温度:左右エンボスローラー 180℃
バックローラー:
材質:金属製(ステンレス製)
温度:60℃
フィルムの搬送速度:90m/分
搬送張力:120N/m
エンボスローラーとバックローラーとによるニップ圧:150Pa
(エンボスつぶれ耐性率の測定)
図3及び
図4は、エンボス部の凸部のつぶれ耐性率(%)の測定方法を示す部分断面図である。
【0321】
(1)光学フィルム50のエンボス部51を含む領域を切り出して、サンプルフィルム50Aを得る(
図4参照)。そして、サンプルフィルム50Aのエンボス部51の凸部の高さD
0(
図3における、荷重を加える前の凸部の高さD
0)を、厚さ測定機で測定する。厚さ測定機は、定圧厚さ測定機(株式会社テクロックPG−02)を用いた。
【0322】
(2)次いで、
図4に示されるように、ステージ52上にサンプルフィルム50Aを配置する。そして、フィルム面に対して垂直に載置された直径5mmの金属製の円筒棒53Aと、その上に配置された分銅53Bとからなる合計1kgの分銅53を載せる。このようにして、エンボス部51の表面上の直径5mmの円領域に1kgの荷重を加えた状態で、23℃・55%RH下において10分間保存する。その後、荷重を除いた(分銅を除いた)ときの、エンボス部51の凸部の高さD(
図3における荷重を加えた後の凸部の高さD)を、厚さ測定機で測定する。
【0323】
(3)前記(1)で測定された荷重を加える前の凸部の高さD
0と、前記(2)で測定された荷重を加えた後の凸部の高さDとを、下記式1に当てはめて、つぶれ耐性率を算出した。
【0324】
(式1) つぶれ耐性率(%)=D/D
0×100(%)
測定はエンボス部の場所を任意に変えて10回行い、つぶれ耐性率(%)の平均値を求めた。
【0325】
【表11】
【0326】
本発明の光学フィルムは、薄膜であるにもかかわらず、比較のアクリル系添加剤含有フィルム(11及び12)に対して、ブロッキングに優れた耐性を有している。特にエンボスつぶれ率耐性が50%を超えている水準は、ブロッキングにさらに優れた耐性を有していることが分かる。