(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015536
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】冷間塑性加工用熱処理型アルミニウム合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20161013BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20161013BHJP
C22F 1/05 20060101ALI20161013BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C21/06
C22F1/05
!C22F1/00 602
!C22F1/00 604
!C22F1/00 624
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 651B
!C22F1/00 673
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 691A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 694A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-85837(P2013-85837)
(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2014-208865(P2014-208865A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】ケイ カツ
(72)【発明者】
【氏名】穴見 敏也
(72)【発明者】
【氏名】松元 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】谷津倉 政仁
【審査官】
鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−317113(JP,A)
【文献】
特開平10−008172(JP,A)
【文献】
特開昭62−199755(JP,A)
【文献】
特開昭59−126761(JP,A)
【文献】
特開平03−180453(JP,A)
【文献】
特開昭63−103046(JP,A)
【文献】
特開2008−163445(JP,A)
【文献】
特開平05−059477(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/046196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.8〜1.3質量%、Cu:0.3〜0.5質量%、Mg:0.6〜1.0質量%、Mn:0.3〜0.5質量%、Cr:0.2〜0.5質量%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、さらに、MnとCrの含有量の比が、Mn/Cr≧0.5である、強度に優れた、冷間鍛造加工後に溶体化処理が施される冷間鍛造加工用アルミニウム合金。
【請求項2】
さらに、Ti、B、Zrのうちいずれか1種以上の元素を、0.002〜0.05質量%含有する、請求項1記載の冷間鍛造加工用アルミニウム合金。
【請求項3】
Feを0.5質量%以下含有する、請求項1又は2記載の冷間鍛造加工用アルミニウム合金。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の前記アルミニウム合金を、300〜550℃で1hr以上保持した後、常温まで徐冷し、その後、一部あるいは全体が断面減少率10〜35%となるように冷間鍛造加工を施し、さらに、450〜550℃で1hr以上保持した後、急冷し、次いで、150〜250℃で1〜6hr保持する、強度に優れたアルミニウム合金冷間鍛造材の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金冷間鍛造材の平均結晶粒径が200μm以下である、請求項4記載のアルミニウム合金冷間鍛造材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度を有する冷間塑性加工用熱処理型アルミニウム合金に関する。特に断面減少率が10〜35%程度の冷間塑性加工を施した後に熱処理する場合に適している。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは、加工性の良い金属であるため、鋳造後、様々な塑性加工により所定形状に成形されて多くの用途で使用されている。アルミニウム製品を塑性加工する場合、製品形状によっては、複数の塑性加工を経て最終形状に成形する。例えば、
図1に示すように、荒塑性加工、中塑性加工、仕上げ塑性加工等により、最終製品形状まで仕上げるのが通常の成形方法である。冷間で塑性加工されたアルミニウム合金は、加工歪(加工硬化)が生じるので、連続して塑性加工する場合に加工歪を除去する焼鈍処理が行われ、また、熱処理型アルミニウム合金は、機械的強度を向上させるため、仕上げ加工後にT6処理(溶体化処理、焼入れ、時効処理)等の調質処理が行われる。
【0003】
このような熱処理により加熱されると、冷間塑性加工されたアルミニウム合金は、塑性加工で蓄積された歪を駆動力として、結晶粒の回復および再結晶が起こり、さらに再結晶組織の部分的な粗大化が生じて、機械的強度を低下させる場合があった。また、粗大化した結晶組織は、表面模様として見栄えが悪くなるので、装飾性の点で視認しやすい部位への使用が敬遠されることもある。特にアルマイト処理を施すと、粗大組織と微細組織との色調の差異が際立つため、材料の使用範囲が制限される。
【0004】
そこで、再結晶組織の粗大化を抑制するために、Mn、Cr等を添加することが行われていた。Mn、Crを添加すると、鋳造時にMn系またはCr系化合物が晶出し、この晶出物が結晶粒界の移動を阻害し、熱処理時における再結晶組織の粗大化を抑制する。この抑制効果は、いわゆる「ピン止め効果」として知られている。本出願人は、特許文献1において、Mn、Crの前記ピン止め効果を適用した鋳造用アルミニウム合金を提案している。また、特許文献2において、Mn、Crの前記の粗大化抑制効果に加えて、鋳造後の溶体化処理を不要とすることにより、再結晶組織の粗大化を抑制したアルミニウム合金冷間鍛造品を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−59477号公報
【特許文献2】特開2009−185388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連続する塑性加工工程においては、荒塑性加工の加工率が最も大きく、後加工工程になるほど寸法精度の要求が高くなるので、断面減少率を小さくして行う必要がある。また、強度を付与するために断面減少率10%程度以上の塑性加工が必要である。そのため、仕上げ塑性加工は、断面減少率が10〜35%程度で行われることが多い。また、熱処理型アルミニウム合金には、T6処理等の熱処理を行うが、この熱処理により機械的強度が向上する一方で塑性加工性が低下するので、仕上げ塑性加工の後に当該熱処理を行うことが一般的である。
【0007】
ところで、冷間塑性加工後の加熱により発生する結晶粒粗大化は、塑性加工の程度によって異なる。断面減少率35%を超える場合は、Mn、Crによるピン止め効果と微細な再結晶粒とが相互に干渉して粒界移動が抑制される結果、再結晶組織の粗大化を抑制することが可能である。断面減少率10%未満の場合は、再結晶を起こす駆動力が小さく、そもそも再結晶組織の粗大化が問題になることが少ない。それに対して、断面減少率が10〜35%程度の場合、微細な再結晶粒がそれほど多くなく、再結晶粒同志の粗大化抑制効果が小さいため、Mn、Crを添加しても、再結晶組織の粗大化が生じる場合があった。
【0008】
結晶粒が粗大化すると外観が美麗でないため、粗大化した表面組織を塗装したり、機械的に切削して除去することが行われているが、余分な処理やコストが生じた。粗大化を回避するため、溶体化処理を行わないで時効処理だけを行うことも可能であるが、必要な強度が得られなかった。
また、近年の省エネによる軽量化の要求が強まる中、より強度の高いアルミニウム合金鍛造品が求められており、熱処理型アルミニウム合金の改良工夫が図られている。しかし、Mn,Cr等のピン止め効果を持つ元素を添加したとしても、断面減少率10〜35%程度で仕上げ塑性加工を行うと、上述した事情により、その後の熱処理によって結晶粒粗大化が起こり、機械的強度が低下する問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、T6処理等の溶体化処理を行う前に、断面減少率10〜35%の冷間塑性加工を行っても、結晶粒の部分的粗大化の抑制が可能であり、高強度の熱処理型アルミニウム合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の冷間塑性加工用熱処理型アルミニウム合金は、その目的を達成するために、Si:0.8〜1.3質量%、Cu:0.3〜0.5重量%、Mg:0.6〜1.0質量%、Mn:0.3〜0.5質量%、Cr:0.2〜0.5質量を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、さらに、MnとCrの含有量の比が、Mn/Cr≧0.5であることを特徴とする。
【0011】
さらに、Ti、B、Zrのうちいずれか1種以上の元素を、0.002〜0.05質量%含有してもよい。また、Feを0.5質量%以下含有してもよい。
本発明のアルミニウム合金は、焼鈍処理、溶体化処理または時効処理による熱処理の前に断面減少率10〜35%の冷間塑性加工が施された部分を有し、かつ、前記熱処理後の平均結晶粒径が、200μm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のアルミニウム合金を、300〜550℃で1hr以上保持した後、常温まで徐冷し、その後、一部あるいは全体が断面減少率10〜35%となるように冷間塑性加工を施し、450〜550℃で1hr以上保持した後、急冷した後、150〜250℃で1〜6hr保持することにより、強度に優れたアルミニウム合金が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷間塑性加工をした後、熱処理をしても再結晶組織の粗大化が抑制されるので、粗大化による機械的強度の低下がなく、高強度のアルミニウム合金が得られる。
本発明のアルミニウム合金は、軽量で高強度という優れた性質を利用して、クランク材等の自転車部材、内燃機関用ピストン、コンプレッサー用ピストン等の自動車部材、釣りリール等のスポーツレジャー用品部材等の用途に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】アルミニウム合金の塑性加工工程を示した図である。
【
図2】本発明の実施例における冷間塑性加工装置と断面減少率を示した図である。
【
図3】本発明の実施例1における試験体の結晶粒組織を示した図である。
【
図4】本発明の実施例1における断面減少率と平均結晶粒径との関係を示した図である。
【
図5】本発明の実施例2における試験体の結晶粒組織を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、ピン止め効果が最適になるようにMnとCrの含有量の比率を調整することによって、断面減少率10〜35%の冷間塑性加工をした後、溶体化処理等の熱処理が行われても結晶粒粗大化を抑制できるとの知見を得た。その結果、アルミニウム合金の成分組成は、Si:0.8〜1.3質量%、Cu:0.3〜0.5重量%、Mg:0.6〜1.0質量%、Mn:0.3〜0.5質量%、Cr:0.2〜0.5質量%を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、さらに、MnとCrの含有量の比が、Mn/Cr≧0.5であることが有効であることを見出した。
以下、本発明のアルミニウム合金の成分、組成、製造条件等を説明する。
【0016】
(Si:0.8〜1.2質量%)
Siは、単体でも機械的強度の向上に寄与するが、Mgと一緒に添加し、時効処理を行うとMg−Si系化合物として析出し、機械的強度を向上させる作用がある。0.8質量%未満では十分な効果が得られない。1.2質量%を超えて添加されると、析出物が粗大化し、粗大化した析出物が破壊の起点となり、機械的強度を低下させる。好ましくは、0.9〜1.0質量%である。
【0017】
(Cu:0.3〜0.5質量%)
Cuは、単体でも機械的強度の向上に寄与するが、時効処理を行うとCu−Al系化合物として析出し、機械的強度を向上させる作用がある。0.3質量%未満では十分な効果が得られない。0.5質量%を超えて添加されると、析出物が粗大化し、粗大化した析出物が破壊の起点となり、機械的強度を低下させる。また、耐食性も低下させる。好ましくは、0.35〜0.45質量%である。
【0018】
(Mg:0.6〜1.0質量%)
Mgは、単体でも機械的強度の向上に寄与するが、前述したようにSiと一緒に添加し、時効処理を行うとMg−Si系化合物として析出し、機械的強度を向上させる作用がある。この効果は、0.6質量未満では十分でない。1.0質量%を超えて添加されると、析出物が粗大化し、粗大化した析出物が破壊の起点となり、機械的強度を低下させる。
【0019】
(Mn:0.3〜0.5質量%)
Mnは、Al−Fe−(Mn,Cr)系化合物として晶出し、溶体化処理時には「ピン止め効果」により結晶粒の粗大化を抑制する作用がある。0.3質量%未満では十分な効果が得られない。0.5質量%を超えると、晶出物が粗大化し、粗大化した晶出物が破壊の起点となり、機械的強度の低下の原因となる。好ましくは、0.35〜0.45質量%である。
【0020】
(Cr:0.2〜0.5質量%)
Crは、Al−Fe−(Mn,Cr)系化合物として晶出し、溶体化処理時には「ピン止め効果」により結晶粒の粗大化を抑制する作用がある。0.2質量%以上では十分な効果が得られない。0.5質量%を超えると、晶出物が粗大化し、粗大化した晶出物が破壊の起点となり、機械的強度の低下の原因となる。好ましくは、0.25〜0.45質量%である。
【0021】
(Mn/Cr≧0.5)
MnとCrは、単体でも結晶粒の粗大化を抑制する作用がある。しかし、MnとCrを同時に添加するとともに、MnとCrの比(Mn/Cr)が0.5以上であると、ピン止め効果が最適となり、溶体化処理前に断面減少率10〜35%の冷間塑性加工をした後、溶体化処理等の熱処理が行われても結晶粒の粗大化を抑制できる。他方、Mn/Cr比が高くなりすぎると、破壊の起点となる粗大な金属間化合物が形成され、機械的強度の低下を招く。好ましくは、0.5〜2.0である。さらに好ましくは、1.1〜1.5である。
【0022】
(Ti、B、Zr:0.002〜0.05質量%)
Ti、B、Zrは、Alとの間で金属間化合物を生成し、鋳造時の結晶粒微細化に寄与する。この作用は、いずれか0.002質量%以上の含有で効果的に発現する。しかし、多量に含有すると、粗大な金属間化合物を形成し、機械的強度の低下の原因となるので、0.05質量%以下とした。
【0023】
(Fe:0.5質量%以下)
Feは、不可避的に混入する不純物である。機械的強度を向上させる作用も有するが、0.5質量%を超えると破壊の起点となる粗大な金属間化合物を形成するので、0.5質量%以下にすることが好ましい。さらに、0.2質量%以下が好ましい。
【0024】
(平均結晶粒径200μm以下)
本発明の「結晶粒径」は、結晶粒の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。平均結晶粒径が200μmを超えると、粗大な結晶粒と微細な結晶粒とが混在する程度が大きくなり、応力が掛かる時の応力集中によって機械的特性が低下する。また、混在組織において粗大結晶と微細結晶との色調差が大きくなるので、美感を損なう。そのため、平均結晶粒径は、200μm以下が好ましい。
【0025】
(焼鈍処理)
本発明の、300〜550℃で1hr以上保持した後、常温まで徐冷する工程は、加工歪を除去して軟化させる焼鈍処理を相当する。保持温度が300℃未満あるいは保持時間が1hr未満では、加工歪の除去が十分でない。550℃を超える温度に保持すると、局部溶融(バーニング)が発生して機械的強度が低下するおそれがある。そのため、保持温度及び保持時間は、300〜550℃で1hr以上が好ましい。また、加熱後の冷却速度が大きいと、歪が生じる又は結晶粒が微細になって軟化しにくいので、2℃/min以下の徐冷が好ましい。
【0026】
(溶体化処理)
本発明の、450〜550℃×1hr以上保持、急冷する工程は、溶体化処理に相当する。この溶体化処理は、450〜550℃で1時間以上保持することにより、鋳造時に生じた晶出物、析出物等の金属間化合物(Mg,Si,Cu等)を母相中に再固溶させる。その後、急冷することにより、再固溶した元素が母相中に過飽和固溶した状態が維持される。この急冷は、1℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却することが好ましい。保持温度が450℃未満あるいは1hr未満では、十分な固溶状態が得られず、550℃を超える温度では、局部溶融(バーニング)が発生し、機械的強度が低下するおそれがある。また、1℃/sより遅い冷却速度で冷却すると、再固溶したMg,Si,Cu等が析出し、十分な過飽和固溶状態を維持できない。
【0027】
(時効処理)
本発明の、150〜250℃×1〜6hr保持する工程は、時効処理に相当する。時効処理は、母相中に過飽和に固溶していたMg,Si,Cuが、Mg−Si系化合物、Al−Cu系化合物として析出し、強度を向上させるものである。保持温度が150℃未満あるいは1hr未満では、析出が十分でなく、必要な機械的強度を得ることができない。250℃を超えた保持温度、あるいは6hrを超える保持時間では、析出した金属間化合物が粗大化して破壊の起点となり、機械的強度が低下するおそれがある。
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
表1に示す合金No.1(本発明合金)、合金No.9(JIS A6151合金)、合金No.10(JISA 6061合金)の組成を有するアルミニウム合金を溶製し、DC鋳造法によって、直径254mm、長さ2000mmのビレットを製造した。得られたビレットを450mmの長さに切断した後、押出加工により直径36mmの中実丸棒に形成した。得られた中実丸棒について、表2に示す条件で焼鈍処理を行った後、
図2(a)に示す鍛造装置により断面減少率(永久歪量に基づく加工率)50%の冷間鍛造加工を施して、18mm厚の板材を形成した。次いで、表2に示す条件で焼鈍処理を行った後、
図2(b)に示す鍛造装置により断面減少率が5%、10%、15%、20%、25%、40%、50%の冷間鍛造加工を施した。その後、断面減少率0%(冷間鍛造無し)を含む冷間鍛造加工材について、表2に示す条件で、溶体化処理、焼入、時効処理からなる一連の熱処理を施した。熱処理が施された冷間鍛造加工材を切断して、長さ150mm、幅50mmの試験体を形成した。
【0029】
得られた試験体について、その表面をマクロエッチング処理した後、結晶粒組織を顕微鏡で観察し、結晶粒の平均粒径(μm)を測定した。平均結晶粒径は切断法により算出して測定した。
図3に結晶粒組織を示し、
図4に平均粒径の測定結果を示す。
【0030】
図3、
図4から明らかなように、合金No.1の本発明合金は、いずれの断面減少率においても、結晶粒の粗大化がほとんど生じていなかった。それに対して、合金No.9(A6151)及び合金No.10(A6061)の比較例合金は、断面減少率15%〜25%の各試験体で再結晶粒の粗大化が明瞭に生じていた。平均粒径は、合金No.9が最大1400μmを超え、また合金No.10が最大700μmを超えていた。断面減少率40%でも粗大化が認められたが、その程度は若干であった。
また、本発明合金は、均一な再結晶微細組織を有しており、その外観が良好であったのに対し、比較例合金は、部分的な粗大化組織が存在し、微細組織との色調差が生じており、その外観の見栄えが損なわれていた。
これら比較例合金において再結晶粒の粗大化が生じた理由としては、本発明合金の組成と比べてMn量が少ないため、粒界移動のピン止め効果が十分でなかったことが挙げられる。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
(実施例2)
表1の合金No.1〜8(本発明合金)、合金No.9〜14(比較例合金)に示す組成を有するアルミニウム合金を用いて、実施例1と同様の条件で、鋳造、押出加工、焼鈍処理、冷間鍛造加工を行い、18mm厚の板材を形成した。次いで、表2に示す条件の焼鈍処理を行った後、
図2(b)に示す鍛造装置により断面減少率20%の冷間鍛造加工を施した。その後、表2に示す条件で、溶体化処理、焼入、時効処理からなる一連の熱処理を施した。熱処理が施された加工材を切断して、長さ150mm、幅50mmの試験体を形成した。
【0034】
得られた試験体について、JIS14B号試験片を作製し、JISZ2241に準拠して引張試験を行い、引張強度(MPa)及び伸び(%)を測定した。また、試験体の表面をマクロエッチング処理し、結晶粒組織を顕微鏡で観察し、結晶粒の平均粒径(μm)を測定した。
図5に結晶粒組織を示し、表3に引張強度、伸び、平均粒径の測定結果を示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3のように、本発明合金の合金No.1〜8は、比較例合金の合金No.9〜14よりも高い引張強度を示した。また、伸びは、従来の合金No.9(A6151)および合金No.10(A6061)と同程度であった。
【0037】
図5の結晶粒組織および表3の平均結晶粒径から明らかなように、本発明合金は、平均結晶粒径が200μm以下の均一な再結晶組織を呈していて、結晶粒の粗大化がほとんど生じていなかった。それに対して、合金No.9〜11の比較例合金は、その平均結晶粒径が200μmを超えており、熱処理により再結晶微細組織で結晶粒粗大化が生じて不均一な組織を形成していた。そのため、比較例合金は、引張試験において粗大化組織近傍で応力集中が起きて引張強度の低下を招いたものと推測される。
また、本発明合金の外観は、良好であったのに対し、比較例合金は、粗大化組織の混在による色調差が生じており、外観の見栄えが損なわれていた。
【0038】
なお、比較例合金No.12〜14は、平均結晶粒径が本発明合金のものと同様に200μm以下の範囲にあるが、本発明合金よりも低い引張強度と伸びを示した。合金No.12〜14は、本発明合金と比べてMnまたはCrを過多に含有しているため、鋳造時にMn系またはCr系の晶出物が形成される傾向にあり、この晶出物は溶体化処理によっても固溶しない。そのため、
図5の合金No.14のミクロ組織に示されるように、熱処理後も再結晶組織内で粗大な金属間化合物として存在し、これが破断の起点となって引張強度が低下したものと推測される。
【0039】
このように、本発明合金は、Mn、Cr等の成分を所定範囲で含有することにより、断面減少率が10〜35%程度の冷間塑性加工を施した後においても、T6処理等の熱処理に起因する再結晶粒の粗大化を抑制できるため、優れた機械的強度を有するアルミニウム合金が得られた。また、部分的に粗大化組織が混在することがなく、均一な再結晶微細組織となるので、良好な外観を呈するものが得られた。