(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、その良好な耐熱性、機械強度、耐溶剤性および耐薬品性から、電気絶縁用塗料や各種基材のコーティング材、摺動部材用塗料(「潤滑塗料」とも称する)のバインダー樹脂として広く用いられている。
【0003】
摺動部材に使用される潤滑塗料としては、ポリアミドイミド樹脂に溶剤、固体潤滑剤、エポキシ樹脂およびフッ素樹脂を配合した組成物が知られている。例えば、ポリアミドイミド樹脂をバインダーにした潤滑塗料用樹脂組成物が特許文献1および特許文献2に開示されている。また、シリコーン変性ポリアミドイミド樹脂をバインダーにした潤滑塗料用樹脂組成物が特許文献3に開示されている。
【0004】
潤滑塗料用樹脂組成物は、それを摺動部材の表面に塗布することで潤滑膜を形成させ、摺動部のなじみやスカッフィングを防止し、摩擦係数を低減させるために用いられている。自動車用摺動部材においては、低燃費化を図る観点から潤滑膜の耐磨耗性の向上やその効果の長期持続性が求められている。それらの要求を満足するためには、潤滑膜のバインダー樹脂が高い機械強度と高い耐熱性を示すことが必要である。ポリアミドイミド樹脂は、その優れた機械強度と耐熱性から、他のバインダー樹脂と比較して有利である。
【0005】
しかしながら、従来使用されているポリアミドイミド樹脂は、非アミド系溶剤への溶解性が低く、アミド系溶剤単独もしくはアミド系溶剤を主たる成分とする非アミド系溶剤との混合溶剤にしか溶解しなかった。従って、ポリアミドイミド樹脂をバインダー樹脂として使用する場合には、アミド系溶剤を主成分とする溶剤を使用する必要があった。
【0006】
アミド系溶剤を主成分とする溶剤を使用した樹脂組成物を摺動部材に塗布する場合、その溶剤の吸湿性が問題となる。即ち、アミド系溶剤を多く含有する樹脂組成物をロールコート転写法やエアスプレー法によって摺動部材に塗布する際に、溶剤の吸湿性が高いと作業中に空気中の水分を吸収しやすく、結果として樹脂組成物中の水分率が高くなる。そうすると、樹脂組成物の溶液粘度が著しく上昇し、塗装条件の変更が必要となる。場合によっては、樹脂が溶解できずに析出するため、その都度、機器を止めて洗浄を行う必要が生じ、著しく作業効率が低下する。
【0007】
かかる問題を克服するために、特許文献4では、ポリアミドイミド樹脂を変性して、吸湿性の低い非アミド系溶剤に溶解させる方法が提案されている。しかし、かかる変性は、アミド系溶剤で重合可能なポリアミドイミド樹脂が本来有している優れた機械強度や耐熱性を損なう傾向がある。従って、変性したポリアミドイミド樹脂を、摺動部材のための潤滑塗料用樹脂組成物として好適に使用することはできなかった。
【0008】
また、非アミド系溶剤のガンマブチロラクトンに可溶で、高い機械強度を示すポリアミドイミドを得る試みもなされている(特許文献5参照)。ガンマブチロラクトンは、ポリアミドイミド樹脂の溶解性が低く、さらには実際の塗料の塗布環境を想定した吸湿しやすい環境下にさらされると樹脂の溶解性が低下する問題がある。つまり、樹脂組成物が密閉されていない状態で薄く広げられた場合に、ガンマブチロラクトンの吸湿による樹脂の溶解性低下が起こり、樹脂のゲル化や不溶化が起こり易い。特許文献5では、それらの問題もある程度考慮されているが、その効果は十分とは言えない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物は、摺動部材用潤滑塗料のために好適に用いることができるものである。なお、本発明のポリアミドイミド樹脂組成物は、ポリアミドイミド樹脂が溶剤(特に重合用溶媒及び保存用溶媒)に溶解した状態であるものを意味する。
【0015】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物は、ポリアミドイミド樹脂の構造中の繰り返し単位の全量を100mol%とした場合、下記式[I]の繰り返し単位を50mol%以上含有するポリアミドイミド樹脂を含み、かつ溶剤としてガンマブチロラクトンを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のポリアミドイミド樹脂の構造中の繰り返し単位に存在する上記の式[I]は、脂肪族や脂環族の構造を含んでいないため、耐熱性や機械的強度を低下することがなく、しかもイソシアネート成分が屈曲した構造をとっている。そのため、ガンマブチロラクトンを含む溶剤に対して優れた溶解性を発現し、かつ溶剤が吸湿しやすい状態であっても長期間溶解状態を保つことが可能である。従って、本発明のポリアミドイミド樹脂は、かかる効果を十分に発揮させるためには、繰り返し単位の全量を100mol%とした場合、式[I]の繰り返し単位を50mol%以上、好ましくは55mol%以上、より好ましくは60mol%以上含有することが必要である。
【0017】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、従来公知の方法で製造することができ、例えば酸成分とイソシアネート成分から製造するイソシアネート法、酸クロライド成分とアミン成分から製造する酸クロライド法、酸成分とアミン成分から製造する直接法などで製造することができる。これらの中では、製造コストの観点からイソシアネート法が好ましい。
【0018】
以下、ポリアミドイミド樹脂の製造法については、代表的にイソシアネート法について述べるが、それぞれ対応するアミンや酸・酸クロライドを用いることで上記の酸クロライド法、直接法でも同様にポリアミドイミド樹脂を製造することができる。
【0019】
イソシアネート法によりポリアミドイミド樹脂を製造する場合、式[I]の構造を得るためには、酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート(TDI)を用いて重合すればよい。ここで、TDIには異性体が存在するが、それはトリレン−2,4−ジイソシアネートであってもトリレン−2,6−ジイソシアネートであってもよく、また、これらの混合物であってもよい。好ましくは、トリレン−2,4−ジイソシアネートがよい。また、本発明の上述の効果を損なわない程度であれば、酸成分としてTMA以外の成分を含んでもよく、またイソシアネート成分としてTDI以外の成分を含んでもよい。式[I]の繰り返し単位を50mol%以上含有させるための方法は、特に限定されない。例えば、酸成分の全量をTMAのみとする場合は、イソシアネート成分の全量を100mol%とすると、イソシアネート成分の50mol%以上にTDIを用いることにより、得られるポリアミドイミド樹脂に式[I]の構造を50mol%以上導入することができる。また、イソシアネート成分の全量をTDIのみとする場合は、酸成分の全量を100mol%とすると、酸成分の50mol%以上にTMAを用いることにより、得られるポリアミドイミド樹脂に式[I]の構造を50mol%以上導入することができる。他の例としては、酸成分の全量を100mol%とした場合に酸成分の80mol%をTMAとし、イソシアネート成分の全量を100mol%とした場合にイソシアネート成分の80mol%をTDIとすると、得られるポリアミドイミド樹脂中の式[I]の構造の導入量は、64mol%となる。これ以外の場合も、同様の方法でポリアミドイミド樹脂中の式[I]の構造の導入量(mol%)を計算することができる。
【0020】
TMA以外の酸成分としては、芳香環を有するポリカルボン酸の酸無水物として、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、1,4−ブタンジオールビスアンヒドロトリメリテート等のアルキレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物等が挙げられ、ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。これらのTMA以外の酸成分は、ポリアミドイミド樹脂のガンマブチロラクトンを含む溶剤への溶解性の発現や、溶剤が吸湿した状態であっても長時間溶解状態を保つという観点から、全酸成分を100mol%とした場合、50mol%未満であることが好ましく、より好ましくは40mol%以下である。
【0021】
酸成分として、既に挙げた芳香環を有するものの他に、脂肪族あるいは脂環族の酸無水物や脂環族あるいは脂肪族のジカルボン酸を用いることができる。例えば、前項で挙げた成分のいずれかを水素添加した酸成分を挙げることができる。また、meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、ヘキサヒドロトリメリット酸無水物、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカ二酸、ドデカン二酸等、および、2−メチルコハク酸など上記ジカルボン酸に炭化水素の置換基を有するもの等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせてもよい。これらのTMA以外の酸成分は、ポリアミドイミド樹脂の耐熱性・機械強度を保つ観点から、全酸成分を100mol%とした場合、50mol%未満であることが好ましく、より好ましくは40mol%以下である。
【0022】
TDI以外のイソシアネート成分としては、芳香環を有するジイソシアネートとして、例えば、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネートおよびその構造異性体、3,3′−ジエチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネートおよびその構造異性体、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,3′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2′−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4′−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4′−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート、3,3′または2,2′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−または2,2′−ジエチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシビフェニル−4,4′−ジイソシアネート等が挙げられる。好ましくは、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(MDI)、3,3′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート(ToDI)がよく、特に好ましくはジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(MDI)である。これらは単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせてもよい。これらのTDI以外のイソシアネート成分は、ポリアミドイミド樹脂のガンマブチロラクトンを含む溶剤への溶解性発現、および溶剤が吸湿しやすい状態であっても長時間溶解状態を保つという観点から、全イソシアネート成分を100mol%とした場合、50mol%未満であることが好ましく、より好ましくは40mol%以下である。
【0023】
イソシアネート成分として、既に挙げた芳香環を有するものの他に、脂肪族もしくは脂環族のものも用いることができ、例えば、前項で挙げた成分のいずれかを水素添加したジイソシアネートを挙げることができる。また、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなども挙げられる。これらのTDI以外のイソシアネート成分は、ポリアミドイミド樹脂の耐熱性・機械強度、ガンマブチロラクトンを含む溶剤への溶解性発現、および溶剤が吸湿しやすい状態であっても長時間溶解状態を保つという観点から、全イソシアネート成分を100mol%とした場合、50mol%未満であることが好ましく、より好ましくは40mol%以下である。
【0024】
本発明のポリアミドイミド樹脂には、得られる樹脂と硬化剤との反応点の数を増やすことを目的として官能基を3個以上有する化合物を共重合することが可能である。かかる化合物として、例えば、トリメシン酸、トリメリット酸等の多官能カルボン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等の水酸基を有するジカルボン酸、5−アミノイソフタル酸等のアミノ基を有するジカルボン酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリグリセリン等の水酸基を3個以上有するもの、トリス(2−アミノエチル)アミン等のアミノ基を3個以上有するものが挙げられる。これらの中では、反応性、溶解性の点から5−ヒドロキシイソフタル酸等の水酸基を有するジカルボン酸、トリス(2−アミノエチル)アミン等のアミノ基を3個以上有するものが好ましい。これらの化合物を共重合する場合は、全酸成分および全イソシアネート成分を各々100mol%とした場合、その合計200mol%に対して20mol%以下であることが好ましい。20mol%を超えると、ポリアミドイミド重合中に分岐が多くなり、ゲル化したり不溶物を生成したりする恐れがある。
【0025】
本発明のポリアミドイミド樹脂には、本発明の効果を損なわない程度に、可とう性を付与する目的で、数平均分子量が500以上の長鎖成分として、末端に官能基を有するアクリロニトリル−ブタジエンゴムやポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ダイマー酸、ポリシロキサンなどを共重合することができる。その場合、ポリアミドイミド樹脂への共重合量が多いと、耐熱性や機械強度などが損なわれる恐れがあるため、これらの成分は、全酸成分および全イソシアネート成分を各々100mol%とした場合、その合計200mol%に対して20mol%以下であることが好ましい。20mol%を超えると、ポリアミドイミド樹脂の耐熱性が低下する恐れがある。
【0026】
本発明のポリアミドイミド樹脂の重合反応は、従来公知のように酸成分およびイソシアネート成分を溶剤中で60℃〜200℃に加熱しながら撹拌することによって行なうことができる。この時、酸成分/イソシアネート成分のmol比率は、90/100〜100/90の範囲であることが好ましい。なお、一般的には、ポリアミドイミド樹脂中の酸成分及びイソシアネート成分の含有量は、重合時の各々の成分の比率と同じである。また、反応を促進するために、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属類、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン等のアミン類やジブチル錫ジラウレート等の触媒を用いることができる。これらの触媒は、少なすぎると触媒効果が得られず、多すぎると副反応が起きる可能性があるため、酸成分もしくはイソシアネート成分のそれぞれのmol数の多い方を100mol%として、0.01〜5mol%を使用することが好ましく、より好ましくは0.1〜3mol%である。
【0027】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、溶剤置換の必要がないため、後述する保存用溶媒中で重合することが好ましいが、保存用溶媒以外の重合用溶媒を用いて重合することもできる。この場合、重合後にポリアミドイミド樹脂組成物が好適なガンマブチロラクトン濃度(全溶剤中60重量%以上)になるようにポリアミドイミド樹脂組成物中の溶媒をガンマブチロラクトンを含む溶媒に置換してもよい。ここで、重合用溶媒とは、ポリアミドイミド樹脂の重合に使用される原料および得られるポリマーを溶解又は分散することができる溶媒であり、後述するポリアミドイミド樹脂組成物を貯蔵するための保存用溶媒とは、使用する段階を異にする。
【0028】
重合用溶媒としては、アミド系溶剤および非アミド系溶剤両方のなかから単独もしくは複数を選択して使用することができる。アミド系溶剤とは骨格中にアミド基を有する溶剤のことであり、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドンなどが例示される。また、非アミド系溶剤とは骨格中にアミド基を有さない溶剤のことであり、ガンマブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン、イソホロンや、その他のアミド系溶剤以外の溶剤が含まれる。
【0029】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、対数粘度が0.2dl/g以上であることが好ましい。この対数粘度の範囲は、ポリアミドイミド樹脂を摺動部材の潤滑塗料として使用する場合に必要な機械強度・密着性を発現させるためのものである。
【0030】
対数粘度は、ポリアミドイミド樹脂の分子量に依存する値であり、その値が大きいとポリアミドイミド樹脂が高分子量であることを示す。ここで、対数粘度が0.2dl/g未満である場合には、摺動部材用の潤滑膜としては皮膜が脆く、摺動部材の使用中に皮膜が剥離または破壊されるおそれがある。対数粘度が大きいほど皮膜の脆さはなくなる。よって、潤滑塗膜の機械強度・密着性を発現させるためには、ポリアミドイミド樹脂として一定以上の対数粘度が必要となる。対数粘度の値に特に上限はないが、高すぎる場合にはそのポリアミドイミド樹脂を用いた潤滑塗料の溶液粘度も高くなり、塗装作業が困難となるおそれがある。よって、対数粘度は2.0dl/g以下がよく、好ましくは1.5dl/g以下、より好ましくは1.0dl/g以下である。
【0031】
本発明のポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度は、200℃以上であることが好ましく、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは250℃以上、最も好ましくは300℃である。上限は現実的には400℃である。ガラス転移温度は、ポリアミドイミド樹脂およびそれを含む潤滑塗膜の耐熱性を示す指標であり、ガラス転移温度が高いほど、樹脂の耐熱性が高い。
【0032】
本発明のポリアミドイミド樹脂の弾性率は、2000MPa以上であることが好ましく、より好ましくは2500MPa以上、さらに好ましくは2700MPa以上である。上限は現実的には10000MPaである。弾性率が低いと、摺動部材に潤滑塗料として使用した場合に磨耗しやすいおそれがある。本発明のポリアミドイミド樹脂の弾性率は、前述の組成の組み合わせにより、調整することができる。
【0033】
本発明の潤滑塗料用ポリアミドイミド樹脂組成物は、上述のように製造された本発明のポリアミドイミド樹脂を保存用溶媒に溶解した状態のものである。従来のポリアミドイミド樹脂は、溶解性に優れるアミド系溶剤を主成分とする溶剤中で重合され保存されてきた。しかしながら、アミド系溶剤は吸湿しやすく、吸湿することでポリアミドイミド樹脂の溶解性が低下する。その結果、ポリアミドイミド樹脂組成物を用いた塗料などの製造・生産・加工工程において、ポリアミドイミド樹脂が不溶化しやすいといった問題があった。ここで、ポリアミドイミド樹脂の重合及び保存に吸湿性の低いガンマブチロラクトンのような非アミド系溶剤を使用すると、ポリアミドイミド樹脂の溶解性が低く、重合や保存が困難であった。また、非アミド系溶剤は、吸湿性は低いが、密閉されていない環境下では徐々に吸湿し、吸湿すると、さらに樹脂の溶解性が低下する。従って、ポリアミドイミド樹脂の有する優れた耐熱性や機械強度を損なわずに非アミド系溶剤への溶解性を発現し、さらに溶剤が吸湿しやすい状態であっても長時間溶解状態を保つことは従来困難であった。
【0034】
そこで、本発明者らは、かかる問題について鋭意検討した結果、式[I]の繰り返し単位を一定量以上有するポリアミドイミド樹脂により、そして同時に保存用溶媒として先に述べたようにガンマブチロラクトンを一定量以上含む溶剤を用いることにより、上述の問題が解決できることを見い出した。
【0035】
先に述べた溶剤の吸湿性の低さを実現するためには、本発明の潤滑塗料用樹脂組成物の保存用溶媒として、前述のようにガンマブチロラクトンを主成分として用いるのが好ましく、特にポリアミドイミド樹脂組成物の全溶剤中のガンマブチロラクトンの割合が60重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0036】
なお、上述の効果を損なわない範囲の量で、ポリアミドイミド樹脂組成物の保存時の溶解状態の安定性や溶剤の乾燥性を向上する目的で、保存用溶媒としてガンマブチロラクトンの他に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、及びキシレン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン類などを用いることができる。これらの中では、ポリアミドイミド樹脂の溶解性の観点からはアミド系溶剤が好ましく、特に好ましくは、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。また、乾燥性向上の観点からはキシレン、トルエン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンが好ましい。
【0037】
本発明の潤滑塗料用ポリアミドイミド樹脂組成物中のポリアミドイミド樹脂の溶解濃度は10〜40重量%が好ましく、さらに好ましくは15〜30重量%である。ポリアミドイミド樹脂の濃度が低いと、樹脂組成物の溶液粘度が低くなりすぎて作業性に劣り、また厚さムラの少ない塗膜を得ることが難しくなる。また、ポリアミドイミド樹脂の濃度が高いと、樹脂組成物の溶液粘度が高くなって作業性に劣る。
【0038】
次に、本発明の潤滑塗料について説明する。本発明のポリアミドイミド樹脂組成物はそのままでも潤滑塗料として使用することができる。また、本発明の潤滑塗料は、本発明のポリアミドイミド樹脂組成物に固体潤滑剤、耐磨耗材、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、及び/またはメラミン化合物等を加え、ボールミルや3本ロールミル、サンドミル等を用いて分散させることで調製することもできる。
【0039】
固体潤滑剤としては、二硫化モリブデンや二硫化タングステンなどの硫化物、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルブチルエーテル、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリブニリデンフルオライド、トリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素化合物、およびグラファイト等が挙げられ、これらは単独で使用しても複数種組み合わせて使用してもよい。
【0040】
固体潤滑剤の配合量は、ポリアミドイミド樹脂100重量%に対して5〜500重量%、好ましくは10〜200重量%である。固体潤滑剤が5重量%未満では、摩擦係数の低減効果及び耐焼付け特性が十分発揮されないことがある。一方、500重量%を越えると、耐磨耗性が不十分になる場合がある。
【0041】
耐磨耗材としては、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、シリカ等が挙げられ、それらは単独もしくは2種以上を使用してもよい。また、その耐磨耗材の粒子径は0.1〜10μmであることが好ましく、その配合量はポリアミドイミド樹脂100重量%に対して5〜500重量%であることが好ましい。耐磨耗材の粒子径が0.1μm未満である場合は、耐磨耗性の向上効果が小さく、また10μmを超えると、潤滑膜から脱落しやすくなる。配合量が5重量%未満である場合は、耐磨耗性向上効果が十分に発揮されず、また500重量%を超えると、摺動相手へのダメージが大きくなり、摩擦係数も大きくなる可能性がある。
【0042】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらを単独で使用しても複数種を組み合わせてよい。
【0043】
イソシアネート化合物としては、デュラネートなどのヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートから合成されるポリイソシアネートなどが挙げられる。このポリイソシアネートの重量平均分子量は500〜9000であることが好ましく、より好ましくは1000〜5000である。
【0044】
メラミン化合物としては、特に制限はないが、具体的には、メラミンにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド等を反応させたメチロール基含有化合物が挙げられる。このメチロール基は、炭素原子数1〜6個のアルコールによりエーテル化されているものが好ましい。
【0045】
ポリアミドイミド樹脂組成物に添加されるエポキシ化合物、イソシアネート化合物、及びメラミン化合物の各配合量は、ポリアミドイミド樹脂100重量%に対して、それぞれ、例えば1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%とすることが好ましい。配合量が1重量%未満では、密着性向上効果はあまり期待できず、40重量%を超えると、ポリアミドイミド樹脂組成物の耐熱性や強度を保持できない可能性がある。
【0046】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲の量で、作業性や耐久性を高める目的で、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤などをさらに加えてもよい。
【0047】
本発明の潤滑塗料は、保存用溶媒に溶解することによって使用に好適な粘度に調整することができる。本発明の潤滑塗料を摺動部材に塗布する方法としては、スプレー法、ロールコート法、ディップ法、スクリーン印刷法などが挙げられ、摺動部材の形状や皮膜の厚みによって塗布方法を選択することができる。本発明の潤滑塗料を塗布された摺動部材は、保存用溶剤の乾燥や塗料の硬化のために熱処理される。
【0048】
本発明の潤滑塗料は、摺動部材の表面に塗布された後、150℃以上、好ましくは150〜380℃で、少なくとも10分間、例えば10〜120分間加熱処理することによって、塗膜層となる。加熱されている間に、潤滑塗料に含まれている溶媒等の揮発成分が蒸散し、また硬化剤が配合されている場合には硬化反応が進行する。このような温度で加熱処理することにより、保存用溶媒が十分に除去でき、塗工される基材等を保護する性能を十分に発揮できる。また、120分以下の加熱時間であれば、塗料に加えた他の添加剤が副反応を起こしたり、塗布した塗料が劣化したりするようなこともない。
【0049】
本発明の摺動部材は、本発明の潤滑塗料から形成された塗膜層を有することを特徴とするものである。塗膜層は、本発明の潤滑塗料を、摺動部位を有する部材の摺動部位表面の少なくとも一部に塗布し、次いで加熱処理することによって形成することができる。得られた塗膜層は、耐熱性、機械強度、密着性に優れることから、本発明の摺動部材は、例えば、自動車のエンジンのピストンやエアコンのコンプレッサー用摺動部材などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の効果を実施例により実証するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の特性値の評価は、以下の方法で行なった。
【0051】
<ポリアミドイミド樹脂のガンマブチロラクトンへの溶解性>
ポリアミドイミド樹脂組成物の製造後、密閉状態で室温で1日間静置した状態でポリアミドイミド樹脂が不溶化したか否かを目視により確認した。樹脂組成物が濁るかもしくは沈殿を生じたものを×、それらの変化が見られず、透明な状態を保ったものを○で表示した。
【0052】
<ポリアミドイミド樹脂の対数粘度>
ポリアミドイミド樹脂組成物を水により再沈殿、濾別、乾燥させたもの(0.50g)を、100mlのN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、この溶液の対数粘度をウベローデ粘度管により30℃で測定した。
【0053】
<ポリアミドイミド樹脂塗膜の作製>
銅箔上にポリアミドイミド樹脂組成物を乾燥後の厚みが10〜20μmとなるよう塗布し、100℃で5分、250℃で60分熱風乾燥させ、その後、第二塩化鉄水溶液に浸漬させることで銅箔を除去し、洗浄・乾燥することでポリアミドイミド樹脂塗膜を得た。得られた樹脂塗膜を用いて、以下のガラス転移温度、および弾性率の測定を行った。
【0054】
<ポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)>
上記のようにして得られた塗膜を、アイテイ計測制御社製動的粘弾性測定装置DVA−220を用いて、周波数110Hz、昇温速度4℃/minで動的粘弾性の測定を行い、その貯蔵弾性率の変曲点からポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を求めた。具体的には、変曲点の前後のチャートについて接線を引き、それらの交点の温度をガラス転移温度とした。
【0055】
<ポリアミドイミド樹脂の弾性率>
上記のようにして得られた塗膜を幅10mm、測定長40mmに調整して、東洋ボールドウイン社製テンシロンを用いて室温25℃において引張速度20mm/分でポリアミドイミド樹脂の弾性率を測定した。
【0056】
<ポリアミドイミド樹脂塗膜の密着性>
鋼板(株式会社パルテック製SPCC−SB)にポリアミドイミド樹脂組成物を乾燥後の厚みが10〜20μmとなるよう塗布し、100℃で5分、250℃で60分熱風乾燥させ、セロハンテープを用いてクロスカット試験(JIS K5600−5−6準拠)によりポリアミドイミド樹脂塗膜の密着性を評価した。目視により剥離部分が確認されたものを×、剥離部分が確認されなかったものを○で表示した。
【0057】
<ポリアミドイミド樹脂組成物の吸湿状態での溶解性>
ポリアミドイミド樹脂組成物をPETフイルム上に溶剤を含んだ状態での厚みが100μmとなるように広げ、25℃、湿度70%環境下で不溶物を生じるまでの時間を計測した。判断基準は以下の通りとした。
・5分未満で、目視により樹脂組成物が濁り、不溶物を生じたものを×
・5分以上10分未満で、目視により樹脂組成物が濁り、不溶物を生じたものを○
・10分後も目視により透明な状態を保ち、不溶物を生じなかったものを◎
【0058】
<ポリアミドイミド樹脂組成測定方法>
表1に記載のポリアミドイミド樹脂組成の測定は次の方法で行った。ポリアミドイミド樹脂100mgをDMSO−d 0.6mlに溶解し、試料を調製した。調製した試料を
1H−NMRで測定した。NMRは、Varian製の400MRを使用した。
【0059】
(実施例1)
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに、酸成分としてのトリメリット酸無水物192g(1モル)、イソシアネート成分としてのトリレン−2,4−ジイソシアネート165.3g(0.95モル)、重合用溶媒としてのガンマブチロラクトン821gを固形分濃度が25重量%(固形分濃度は、原料が反応して脱炭酸した状態における固形分(樹脂分)と溶剤量から計算する)となるように加え、窒素雰囲気下、撹拌しながら130℃で5時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂を重合した。その後、ポリアミドイミド樹脂の溶液を冷却し、ポリアミドイミド樹脂の固形分濃度が20重量%となるようにガンマブチロラクトンで希釈し、実施例1のポリアミドイミド樹脂組成物を得た。実施例1のポリアミドイミド樹脂組成物の詳細を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0060】
(実施例2〜5)
全酸成分を1モルとし、全イソシアネート成分を0.95モルとし、酸成分およびイソシアネート成分を表1の組成に変更した以外は、実施例1と同様の手順で固形分濃度・雰囲気・反応時間などの条件を揃えて実施例2〜5のポリアミドイミド樹脂組成物をそれぞれ作製した。実施例2〜5のポリアミドイミド樹脂組成物の詳細を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0061】
(実施例6)
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに、酸成分としてのトリメリット酸無水物192g(1モル)、イソシアネート成分としてのトリレン−2,4−ジイソシアネート165.3g(0.95モル)、重合用溶媒としてのN−メチル−2−ピロリドン821gを固形分濃度が25重量%となるように加え、窒素雰囲気下、撹拌しながら130℃で5時間反応させ、ポリアミドイミド樹脂を重合した。なお、固形分濃度は、原料が反応して脱炭酸した状態における固形分(樹脂分)と溶剤量から計算した。その後、ポリアミドイミド樹脂の溶液を冷却し、ポリアミドイミド樹脂の固形分濃度が20重量%となるようにN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂組成物中のポリアミドイミド樹脂をアセトンで沈殿・析出させ、溶媒を除去した後、ポリアミドイミド樹脂の固形分濃度が20重量%となるようにガンマブチロラクトンに溶解させ、実施例6のポリアミドイミド樹脂組成物を得た。実施例6のポリアミドイミド樹脂組成物の詳細を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0062】
(実施例7)
実施例1において、希釈時の溶剤組成をガンマブチロラクトンと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンの混合溶剤とした以外は、実施例1と同様の手順で操作を行い、実施例7のポリアミドイミド樹脂組成物を得た。なお、この混合溶剤は、固形分濃度が20重量%の状態での溶剤組成がガンマブチロラクトン:1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン=95:5(重量比)となるように調製した。実施例7のポリアミドイミド樹脂組成物の詳細を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0063】
(実施例8)
実施例1において、イソシアネート成分のトリレン−2,4−ジイソシアネートを、トリレン−2,4−ジイソシアネートとトリレン−2,6−ジイソシアネートの80:20(モル比)の混合物に置き換えた以外は、実施例1と同様の手順で操作を行い、実施例8のポリアミドイミド樹脂組成物を得た。実施例8のポリアミドイミド樹脂組成物の詳細を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0064】
(比較例1〜3)
全酸成分を1モルとし、全イソシアネート成分を0.95モルとし、酸成分およびイソシアネート成分を表1の組成に変更した以外は、実施例1と同様の手順で固形分濃度・雰囲気・反応時間などの条件を揃えて、比較例1〜3のポリアミドイミド樹脂組成物をそれぞれ作製した。比較例1〜3のポリアミドイミド樹脂組成物の詳細を表1に示し、評価結果を表2に示す。なお、比較例1においては、重合を行うことはできたが、希釈して室温に戻すと、樹脂が溶解した透明な状態から濁った状態に変化し、不溶化が確認された。このため、他の特性の分析は行わなかった。表2では分析を行わなかった項目を[−]と記載した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表2の結果から明らかなように、ポリアミドイミド樹脂が式[I]の繰り返し単位を50mol%以上有する実施例1〜5の樹脂組成物は、優れた耐熱性(すなわち高ガラス転移温度)及び機械強度(すなわち高弾性率)を保持しつつ、ガンマブチロラクトンを含む溶剤に対する溶解性を発現し、さらには溶剤が吸湿しやすい状態であっても長時間溶解状態を保つという効果を同時に実現している。実施例6では、重合用溶媒としてアミド系溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンを用いているが、保存用溶媒として非アミド系溶剤であるガンマブチロラクトンを含む溶剤を用いることで、実施例1と同様の効果を発現している。実施例7では、保存用溶媒としてアミド系溶剤である1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを少量含む混合溶剤を用いているが、溶剤が吸湿しやすい状態であっても長時間溶解状態を保っており、実施例1と同様の効果を発現している。実施例8では、式[1]の繰り返し単位を得るための原料として、トリレン−2,4−ジイソシアネートとトリレン−2,6−ジイソシアネートの混合物を使用しているが、実施例1と同様の効果を発現している。
【0068】
一方、ポリアミドイミド樹脂が式[I]の繰り返し単位を有していない比較例1の樹脂組成物は、ガンマブチロラクトンを含む溶剤に溶解しない。ポリアミドイミド樹脂の式[I]の繰り返し単位の割合が極めて少ない比較例2の樹脂組成物は、ガンマブチロラクトンを含む溶剤に溶解はするが、ガラス転移温度や弾性率が劣り、また吸湿状態での溶解性も十分ではない。ポリアミドイミド樹脂の式[I]の繰り返し単位の割合が比較例2より多いが50mol%には満たない比較例3の樹脂組成物は、ガンマブチロラクトンを含む溶剤への溶解性やガラス転移温度・弾性率では十分な特性を示すが、吸湿状態での溶解性が不十分である。
【0069】
以上の結果から、重合用溶媒がアミド系溶剤であっても非アミド系溶剤であっても、保存用溶媒として、また、塗料として使用する場合の溶剤としてガンマブチロラクトンを含む溶剤に溶解させることができることがわかる。また、ガラス転移温度・弾性率・吸湿状態でのガンマブチロラクトンを含む溶剤への溶解性といった特性を満たすためには、式[I]の繰り返し単位を50mol%以上有する必要があることがわかる。