特許第6015593号(P6015593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015593凝固スラグ製造装置及び凝固スラグ製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015593
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】凝固スラグ製造装置及び凝固スラグ製造方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 15/02 20060101AFI20161013BHJP
   C21B 3/08 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   F27D15/02 A
   C21B3/08
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-170102(P2013-170102)
(22)【出願日】2013年8月20日
(65)【公開番号】特開2015-40638(P2015-40638A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2015年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】當房 博幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭児
(72)【発明者】
【氏名】桑山 道弘
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−008988(JP,A)
【文献】 特開昭53−129124(JP,A)
【文献】 特開2003−207281(JP,A)
【文献】 特許第5413542(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 15/02
C21B 3/08
C21C 5/28、 5/52
B22D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周回する複数の金属製の鋳型に溶融スラグを流し込んで凝固スラグを連続的に製造する凝固スラグ製造装置であって、
前記鋳型は両面に溶融スラグが流し込まれる凹陥部が形成されており、
前記複数の鋳型を近接させて支持した状態で水平方向に周回移動させる周回移動機構を備え、
該周回移動機構は鋳型が1周回する間に、流し込まれた溶融スラグを前記凹陥部に保持した状態で鋳型を周回方向に移動させ前記溶融スラグを空冷して凝固させる空冷移動部と、前記鋳型を反転させて凝固スラグを排出する反転排出部と、反転した鋳型を反転した状態のままで移動させる移動部とを備え、
該移動部において鋳型の上下両面に冷却水を噴射して、鋳型の表面温度を300℃以下にするように冷却する冷却装置を備え、
前記各鋳型は周回毎に反転されて異なる面の凹陥部に溶融スラグが流し込まれることを特徴とする凝固スラグ製造装置。
【請求項2】
前記冷却装置の冷却水の最終噴射位置の後に水切り用のワイピングノズルを設置したことを特徴とする請求項1に記載の凝固スラグ製造装置。
【請求項3】
前記周回移動機構一周において、前記空冷移動部の占める長さ(角度)を周回軌道全長(全角360度)の1/2(180度)超え、3/4(270度)未満とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の凝固スラグ製造装置。
【請求項4】
前記反転排出部は、前記鋳型を周回方向に向けて回転させることによって鋳型を反転させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の凝固スラグ製造装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の凝固スラグ製造装置を用いて凝固スラグを製造する凝固スラグ製造方法であって、
鋳型の凹陥部に溶融スラグを注入する溶融スラグ注入工程と、溶融スラグが注入された鋳型を周回移動させながら溶融スラグを空冷する空冷工程と、鋳型を反転させて20〜40mmの厚みの板状に凝固した凝固スラグを排出する凝固スラグ排出工程を備えたことを特徴とする凝固スラグ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置1周ごとに溶融状態のスラグ(以下、溶融スラグという)を金属製鋳型内で凝固させて、凝固状態のスラグ(以下、凝固スラグという)を鋳型から排出する装置であって、当該1周ごとの操作を周回させて連続的に行う凝固スラグ製造装置、該凝固スラグ製造装置を用いた凝固スラグ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の精錬工程などで発生する溶融スラグを凝固させるには、高圧の冷却水を溶融スラグに吹き付けて急冷する方法、あるいは、溶融スラグをドライピットやスラグヤードに放置して大気中で徐冷する方法が広く用いられている。
溶融スラグを急冷すると、高圧の冷却水を大量に吹き付けるので、多数の気孔を有する粒径5mm以下の砂状の凝固スラグ(いわゆる水砕スラグ)となる。一方、溶融スラグを土間に流して徐冷すると、厚さが数mとなり、これを破砕して塊状の凝固スラグ(いわゆる徐冷スラグ)とする。
【0003】
近年、凝固スラグの再利用に伴って、砂利等に代わるコンクリート用粗骨材に凝固スラグの適用が図られている。凝固スラグをコンクリート用粗骨材に適用するには、スラグ中の気孔を低減し、スラグ粒径の最大値を20mm程度に調整する必要がある。従って、水砕スラグは、現状のままでは、気孔が多くて粒径が小さいことから、コンクリート用粗骨材には適用できず、一方、徐冷スラグは、数mの大きさの塊を20mm程度の粒径に破砕する時間が多大であって効率的でない。
【0004】
そこで、コンクリート用粗骨材として、気孔が少なく破砕が容易な凝固スラグを得るために、比較的小さい鋳型を用いて溶融スラグを凝固させる技術が種々提案されている。小さい鋳型の中でスラグを凝固させると、水砕スラグより大きくて、かつ、徐冷スラグより小さいサイズを容易に得ることができて、徐冷スラグより破砕の時間を短縮できて20mm程度の所望の凝固スラグを容易に得ることができる。
【0005】
このような小さい鋳型を用いて凝固スラグを製造する装置としては、例えば特許文献1に開示されたスラグの連続凝固装置がある。
特許文献1に開示されたスラグの連続凝固装置は、複数個の金属製鋳型を無端状に連結して直線状一方向に移動させながら、溶融スラグを鋳型に流し込んで凝固させて、凝固スラグを鋳型から連続して排出するというものである。
また、小さい鋳型を用いて凝固スラグを製造する他の例として、例えば特許文献2に記載された鉄冶金滓の処理装置がある。特許文献2の鉄冶金滓の処理装置は、回転テーブルを用いたものであって、個々の鋳造容器内の鋳造面を常に水平位置に維持しながら鋳造容器が曲線の軌道上を連続的に水平移動し、複数回周回して、1周当たり薄くスラグを凝固させ、複数回の周回によって厚くスラグを積層させるものである(特許文献2の第2頁右上欄参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−207281号公報
【特許文献2】特開昭53−32828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のスラグの連続凝固装置は、複数の鋳型を無端状に連結し、無端状の一端側にある鋳型に溶融スラグを流し込んだ後、無端状の他端まで直線的に移動させ、該他端において鋳型を反転させて凝固スラグを鋳型から排出し、反転状態にある鋳型を前記一端側まで直線的に移動させて戻すというものである。
上記のような複数の鋳型を直線的に無端状に連結する装置では、行きの行程と帰りの行程が同じ長さになるため、鋳型に溶融スラグを流し込んで移動させる(行きの行程)時間と、凝固スラグを排出して空の状態で鋳型を移動させる(帰りの行程)時間が同じになる。鋳型に溶融スラグを流し込んで移動させる時間は、溶融スラグを凝固させるのに必要な時間となるため、この時間を基準にして鋳型の連結個数や移動速度が決められることになる。このため、鋳型を反転させた後の移動時間には無駄が生じてしまうことになる。また、移動速度を速くしようとすると、凝固時間を確保するため、鋳型の連結個数を増やすことになって、鋳型を長い距離で中吊りさせる必要があり、装置構造が複雑で設備費が多大となり、駆動する電力など稼働費用も多大となるという問題もある。
【0008】
また、特許文献1に記載のスラグの連続凝固装置では、鋳型の片面側に溶融スラグを流し込んで、鋳型を反転させて凝固スラグを鋳型から排出した後、この溶融スラグを流し込んだ側の片面のみに冷却水を噴射して冷却する方法であるため、鋳型の両面での温度差が大きくなり易く、特に生産性を上げた場合のように鋳型の熱負荷が大きい条件では、長期間にわたる使用によって鋳型が反るように変形し易いという問題があった。
【0009】
特許文献2に記載の鉄冶金滓の処理装置は、鋳造容器(鋳型)を常に水平状態で移動させるものであり、溶滓を早期に凝固させるため1回周回する際の鋳造層の厚みを薄くして、鋳造容器を複数回周回させて鋳造層を多層に積層させて所望する厚みの鋳造層を得る装置である。従って、所望する厚みとなった塊滓を排出する以外は、鋳造容器の凹部を常に上に向けたまま、複数回の周回の間を水平移動させる必要があり、また、溶滓を注いだ鋳造層を早期に凝固させるために空気または蒸気を溶滓の上から吹き付けている。また、鋳造容器の冷却については一切記載がなく、鋳造容器から塊滓を排出した後、鋳造容器はそのままの状態で溶滓を鋳込んでいると思われる。
【0010】
従って、特許文献2の方法および装置を採用すると、複数回の周回を必要とし、その間、鋳造容器は全く強制冷却されないことから、鋳造容器が高温の溶滓の熱により歪んで装置の連続回転が不能になる問題が多々生じる。また、複数回の周回に時間が掛かり、効率良く凝固塊滓を得ることが難しい問題もある。さらに、特許文献2の第1図から凝固した塊滓を周回方向の径方向に傾動させて鋳造容器から排出させるため、周回中心に対して重心がずれて回転装置全体のバランスが崩れ易く、安定して凝固塊滓を得ることが難しくて問題であった。
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、溶融スラグの連続凝固にあたり、気孔の少ない緻密な凝固スラグであって、その後の破砕により容易に所望の20mm程度のスラグ製品が得られる凝固スラグを得やすくて、かつ、鋳型の耐久性が高く、さらには生産効率のよい凝固スラグ製造装置及び該凝固スラグ製造装置を用いた凝固スラグ製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る凝固スラグ製造装置は、周回する複数の金属製の鋳型に溶融スラグを流し込んで凝固スラグを連続的に製造する凝固スラグ製造装置であって、
前記鋳型は両面に溶融スラグが流し込まれる凹陥部が形成されており、前記複数の鋳型を近接させて支持した状態で水平方向に周回移動させる周回移動機構を備え、該周回移動機構は鋳型が1周回する間に、流し込まれた溶融スラグを前記凹陥部に保持した状態で鋳型を周回方向に移動させ前記溶融スラグを空冷して凝固させる空冷移動部と、前記鋳型を反転させて凝固スラグを排出する反転排出部と、反転した鋳型を反転した状態のままで移動させる移動部とを備え、前記各鋳型は周回毎に反転されて異なる面の凹陥部に溶融スラグが流し込まれることを特徴とするものである。
【0013】
(2)また、上記(1)に記載の周回移動機構一周において、前記空冷移動部の占める長さ(角度)を周回軌道全長(全角360度)の1/2(180度)超え、3/4(270度)未満とすることを特徴とするものである。
【0014】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記反転排出部は、前記鋳型を周回方向に向けて回転させることによって鋳型を反転させることを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記移動部において前記鋳型の上下両面に冷媒を噴射して冷却する冷却装置を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、鋳型の表面温度を300℃以下とするように前記鋳型を冷却することを特徴とするものである。
【0017】
(6)本発明に係る凝固スラグ製造方法は、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の凝固スラグ製造装置を用いて凝固スラグを製造する凝固スラグ製造方法であって、
鋳型の凹陥部に溶融スラグを注入する溶融スラグ注入工程と、溶融スラグが注入された鋳型を周回移動させながら溶融スラグを空冷する空冷工程と、鋳型を反転させて20〜40mmの厚みの板状に凝固した溶融スラグを排出する凝固スラグ排出工程を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、溶融スラグが流し込まれる凹陥部を両面に有する複数の鋳型を近接させ支持した状態で水平方向に周回移動させる周回移動機構を備え、該周回移動機構において装置1周の間に、空冷して凝固させる空冷移動部と、鋳型を反転させて凝固スラグを排出する反転排出部と、反転した鋳型を反転した状態のままで移動させる移動部とを備え、前記各鋳型は周回毎に反転されて異なる面の凹陥部に溶融スラグが流し込まれるようにしたことにより、鋳型を直線的に無端状に連結する従来例のように空冷移動行程の長さが限定されず、空冷移動部に続く反転排出部等の各部に必要とされる周回方向長さを除いて、空冷移動部の長さに割り当てることが可能となり、周回行程に無駄な時間が生じなく、その結果、凝固スラグを効率的に製造することができる。
また、溶融スラグが流し込まれる鋳型の面が周回毎に変わるため、鋳型に作用する熱応力を緩和することができ、鋳型の変形を防止することができる。また、鋳型を反転して溶融スラグを排出した後、溶融スラグが流し込まれていた面を反転したままの状態で反対側の面で次の溶融スラグを受けられるようにしたので、鋳型の片面のみで溶融スラグを受け入れる場合に比較して鋳型の冷却時間を長く確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施の形態に係る凝固スラグ製造装置の全体構成を模式的に示す模式図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る凝固スラグ製造装置の鋳型の説明図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る凝固スラグ製造装置における周回移動機構の各部の配置を説明する説明図である。
図4】比較例の凝固スラグ製造装置の全体構成を模式的に示す模式図である。
図5】比較例の凝固スラグ製造装置の鋳型の説明図である。
図6】比較例の凝固スラグ製造装置における周回移動機構の各部の配置を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施の形態に係る凝固スラグ製造装置1(図1)は、周回する複数の金属製の鋳型4に溶融スラグ3を流し込んで凝固スラグ18を連続的に製造する凝固スラグ製造装置であって、鋳型4は両面に溶融スラグ3が流し込まれる凹陥部4aが形成されており、複数の鋳型4を近接させて支持した状態で水平方向に周回移動させる周回移動機構7を備え、周回移動機構7は鋳型4が1周回する間に、流し込まれた溶融スラグ3を凹陥部4aに保持した状態で鋳型4を周回方向に移動させ溶融スラグ3を空冷して凝固させる空冷移動部9と、鋳型4を反転させて凝固スラグ18を排出する反転排出部11と、反転した鋳型4を反転した状態のままで移動させる移動部12とを備え、各鋳型4は周回毎に反転されて異なる面の凹陥部4aに溶融スラグ3が流し込まれることを特徴とするものである。
なお、凝固スラグ製造装置1は、鋳型4に溶融スラグ3を流し込みやすいように、樋22を設置するとよい。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0021】
<鋳型>
鋳型4は、溶融スラグ3が流し込まれる浅底の凹陥部4aを両面に有している。より詳細には、図2に示すように、鋳型5は、ほぼ台形形状の凹陥部4aを有する金属製容器がよい。本実施の形態の鋳型4は、図1に示されるように、複数の鋳型4が円周を形成するように近接させて配置される。そのため、円周状に効率よく配置されるように外周側となる辺部が下底、内周側となる辺部が上底となる略台形をしている。
なお、この例では、鋳型4を円周状に配置するため、鋳型4の形状を平面視で略台形になるようにしているが、周回軌道の形状に合わせて効率的な配置ができる形状に設定すればよい。例えば、周回軌道が矩形状であれば、鋳型4は矩形が好ましい。
【0022】
鋳型4の内壁は底から上に向かって外側に傾斜する傾斜面4bを有するとよい。これは、鋳型4を反転した際に凝固スラグが離型しやすくするためである。
また、鋳型4は、溶融スラグ3を流し込む際に、隣接する鋳型4の隙間に溶融スラグ3が落下することを防止するためのスラグ落下防止部位4cを設けるとよい(図2参照)。
鋳型4の材質は、鋳鋼またはステンレス鋼等の耐熱性に優れた金属からなる。また、鋳型4の厚みは、例えば40mm程度が良い。鋳型4の厚みが薄過ぎると高温のスラグの熱により変形しやすくなり、搬送に支障をきたすことになるため、少なくとも20mm以上にするのが好ましく、逆に、厚くなり過ぎると、重量が増加して、搬送や反転に支障をきたすことにもなりかねないので、80mm以下とするのが好ましい。
【0023】
なお、後述するように凝固スラグをコンクリート粗骨材として使用する場合、凝固スラグの厚みは20〜40mmが好ましい。このような凝固厚みの凝固スラグを製造するには、鋳型4の凹陥部4aの深さは、凝固厚みの3〜5倍程度の60〜200mm程度が好ましい。凝固厚みの3〜5倍程度の深さがあれば、溶融スラグの流量が変動した場合でも、鋳型から溶融スラグが溢れることはなかった。
【0024】
<周回移動機構>
周回移動機構7は、複数の鋳型4を近接状態で円周状に支持して周回移動させるものである。鋳型4を支持する支持機構は特に限定されるものではないが、例えば鋳型4の外周側と内周側に軸部と車輪を設け、該車輪を周回方向に延びるレール上に支持し、車輪を駆動機構によって所定の速度で回転させるようにすればよい。
周回移動機構7は、装置1周の間に、図1及び図3に示すように、周回方向に順に、空冷移動部9と、反転排出部11と、移動部12とを備えている。
以下、周回移動機構7の各部を詳細に説明する。
【0025】
《空冷移動部》
空冷移動部9は、流し込まれた溶融スラグ3を凹陥部4aに保持した状態で鋳型4を周回方向に移動させて溶融スラグ3を空冷して凝固させる部位である。
空冷移動部9は、流し込まれた溶融スラグ3が空冷されて所定の凝固状態になるまでの時間が必要とされるが、本実施の形態の周回移動機構7は、鋳型4を水平方向に周回移動させるようにしているので、鋳型4を直線的に無端状に連結する場合のように、周回移動の半分の行程が溶融スラグ凝固のための空冷移動部9になるというような制約がない。
そのため、空冷移動部9に続く反転排出部11等の各部に必要とされる周回方向長さを除く長さを空冷移動部9に割り当てることも可能となる。これによって、周回行程の中に無駄な時間が生じないようにすることができる。
なお、前記空冷移動部9では、スラグに散水して冷却すると多孔質に凝固して固化したスラグの強度が低下するため、散水を禁止している。
また、空冷移動部9の占める長さ(角度)は、周回軌道全長(全角360度)に占める割合の1/2(180度)超え、3/4(270度)未満とするとよい。
【0026】
《反転排出部》
反転排出部11は、鋳型4をその凹陥部4aが下方に向くように反転させて凝固スラグ18を排出する部位である。
反転排出部11は、図1に示されるように、空冷移動部9の次に配置されるものであり、排出される凝固スラグ18を収容可能なピット19が周回する鋳型4の下方に設けられている。ピット内にスラグを収容するための容器を配置して、スラグを収容、運搬するようにしても良い。
鋳型4を反転させる機構は特に限定されるものではないが、例えば上記の周回移動機構7の説明で述べたように、鋳型4をレール上に車輪を介して軸支持する際に回転可能に支持して、かつ空冷移動部9では鋳型5が回転しないように鋳型4の姿勢を保持する保持部を設けておき、続いて、反転排出部11に鋳型4が来たときに、鋳型4の姿勢が反転するようにガイドするガイド部を設けるようにすればよい。
【0027】
なお、鋳型4の反転方向は、図1に示すように、周回方向に向かって回転させて反転させるようにするのが好ましい。鋳型4を周回方向に回転させて反転させるようにすれば、例えば特許文献2の鋳型4を周回方向の径方向に傾動させる場合のような周回中心に対して重心がずれて回転装置全体のバランスが崩れるといった問題がない。なお、鋳型4の周回方向の回転は順転あるいは逆転のいずれでもよい。
【0028】
《移動部》
移動部12は、反転し凝固スラグを排出した鋳型4を前記反転排出部11で反転した状態のままで、再び前記溶融スラグ3が流し込まれる部位まで移動させる部位である。移動部12には、図1に示すように、鋳型4の上側及び下側から冷媒を噴射して鋳型4を冷却する冷却装置20を設けるのが好ましい。
具体的には、上側及び下側から、ノズル等を用いて冷却水やミストや冷却ガスを反転させた鋳型4に吹き付けるとよいが、効率よく短時間で冷却するには、冷却水を上下双方から噴射して急冷するのがよい。
【0029】
本実施の形態では鋳型4の下面側では冷却水が自然落下するが、上面側では鋳型内に冷却水が溜まるため少量の冷却水で効率良く冷却することが可能である。但し、鋳型4内に冷却水が残留したまま鋳型に再び溶融スラグを流し込むと、凝固したスラグに気孔が多数発生してコンクリート粗骨材として適用できなくなるという問題があり、水蒸気爆発を引き起こす危険性の問題もあるため、上面側の冷却水の制御には注意を払う必要がある。
過剰な溜まり水を生じさせないように鋳型温度に応じて噴射する冷却水量を制御するとともに、鋳型温度を150℃未満に低下させすぎないようにし、かつ乾燥時間、即ち、上面側の冷却水の最終噴射位置からスラグ注入位置までの移動時間をある程度確保することによって、この問題は解消できる。
【0030】
冷却水量を低下させた場合においても、所定の冷却面積と冷却効率を確保する観点から、上面側の冷却水ノズルには気水2流体のミストスプレーノズルを用いることが望ましい。
また、水切り用のワイピングノズルを上面側の冷却水の最終噴射位置の後に設置して送風することにより水切りを行うことが望ましく、空冷用のガスジェットの吹き付けにより水切り及び乾燥を兼ねるようにしても良い。
【0031】
一方、凝固スラグ18に接触していた面は移動部12において下面側になり、吹き付けられた冷却水のほとんどは自然落下して回収された後再利用されるので、冷却水の噴射量は鋳型4の冷却条件を考慮して自由に設定することができる。また、下面側には溶融スラグの流し込み時に冷却水が付着していても問題ないので、図1に示したように、必要に応じて十分な冷却区間(上面側よりも長い冷却区間)を確保するようにできる。なお、溶融スラグを流し込まれる位置において鋳型4の下方に水たまりがあると、仮に溶融スラグが溢れた場合等に水蒸気爆発等が発生する可能性があるため、スラグを流し込む位置において鋳型4に付着していた水が落下しない程度に水切りあるいは乾燥する必要があり、このため必要に応じて上面側と同様に水切り用のワイピングノズルを設けるようにしてもよい。
【0032】
鋳型温度の過渡的な変化に対応して、溶融スラグを流し込む上面側に冷却水が残留しないようにしつつ、鋳型を過不足なく冷却するためには、冷却装置20の上面側及び下面側のそれぞれの配管系統を周回方向に複数に分割して、各配管系統毎に冷却水流量を制御することが望ましい。
【0033】
なお、鋳型4を上側及び下側の両面から冷却することで、片側のみからの冷却に比較すると冷却時間を短くでき、このため全周回長さに対する鋳型冷却の反転移動部13の長さを短くし、その分をスラグ凝固のための空冷移動部9の長さを長くすることができて、空冷移動部9の長さを、周回軌道全長の1/2超えにできるわけである。
【0034】
また、鋳型の片面側のみに凹陥部を有する装置の場合には、再びスラグを流し込むのに鋳型を再反転するための部位を周回軌道中に設ける必要があるが、鋳型の両面に凹陥部を有する本実施の形態では、鋳型を再反転する必要がない。そのため、このような再反転のための部位を鋳型の冷却あるいは空冷移動部として活用できるという利点もある。
【0035】
前述したように、空冷移動部9の長さは溶融スラグ3が所定の状態に凝固するための時間を確保する必要があるため、所定の長さが必要となるが、それ以外の周回長さにおける各部位の長さの割合を少なくできるということは、装置全体を小型化できることになる。その意味で、鋳型4を上下両面から冷却することは、装置全体の小型化に大きく寄与する。
また、鋳型4を上下両面から冷却することで、鋳型4を満遍なく冷却できるので、熱応力によって鋳型4が変形するのを防止できる。またさらに、鋳型4の両面に凹陥部を設けてスラグを流し込むようにしたことから、熱応力が対称にかかるようになったので、熱負荷が大きい場合でも鋳型4の反り変形を防止できるという優れた効果もある。鋳型4の変形は周回移動や反転にとって安定してこれら動作を行う上で重要な問題であり、またスラグ厚みを均一にして空冷移動部9において凝固を完了させつつ生産性を高めるうえでも重要となるので、鋳型4の変形防止は本装置稼働の要である。
【0036】
なお、上述のように鋳型4の冷却は上側及び下側の両面から行うのが好ましいが、本発明では、上側のみ、あるいは下側のみからの片側冷却を排除するものではない。
【0037】
また、図1に示すように、冷却装置20によって冷却した後、所定の距離だけ移動させ、その後に再び溶融スラグを流し込むようにするのが好ましい。この理由は、冷却後に所定距離だけ移動させることで、移動中に冷却時に鋳型4の上面に残留した水分が、鋳型4の残留熱によって蒸発して、完全に除去されるからである。
【0038】
以上のように構成された本実施の形態の凝固スラグ製造装置1を用いて凝固スラグを製造する方法の一例を、凝固スラグ製造装置1の動作と共に説明する。
周回移動機構7を所定の速度で回転させ、装置1周の間に溶融スラグ流入部位にて、周回している鋳型4に溶融スラグ3を流し込み、溶融スラグ3が流し込まれた鋳型4は空冷移動部9を移動し、溶融スラグ3は鋳型4に熱を奪われるとともに空冷されて凝固スラグになる。
反転排出部11に到着した鋳型4は、反転排出部11において周回方向に向けて回転して反転し、凝固スラグ18がピット19に排出される。凝固スラグ18を排出した鋳型4は反転状態で移動部12を移動し、該移動途中において冷却装置20によって冷却される。
移動部12を通過した鋳型4には再びスラグ流入部で溶融スラグ3が流し込まれる。
【0039】
以上のように、本実施の形態においては、複数の鋳型4を近接状態で支持した状態で水平方向に周回移動させる周回移動機構7を備え、該周回移動機構7の装置1周の間、空冷して凝固させる空冷移動部9と、鋳型4をその凹陥部4aが下方に向くように反転させて凝固スラグ18を排出する反転排出部11と、反転した鋳型4を反転した状態のままで移動させる移動部12とを備えたことにより、鋳型を直線的に無端状に連結する従来例のようにスラグ凝固の空冷行程の必要長さによって装置の全周長さが限定されず、空冷移動部9に続く反転排出部11等の各部に必要とされる周回方向長さを除いて空冷移動部9の長さに割り当てることが可能となり、周回行程に無駄な時間が生じない。
また、本実施の形態では、移動部12において鋳型4を上下両面から冷却するようにしているので、鋳型4を効率的に冷却することができ、これによって移動部12の長さを短くできる。更に、鋳型の両面に凹陥部を有する本実施の形態では、溶融スラグを再び流し込むために鋳型を再反転する必要がないため、このための部位を、鋳型の冷却や空冷移動部に活用できるという利点もある。その結果として周回長さを短くでき、装置全体をコンパクトにできる。
【0040】
なお、JIS A5011コンクリート用スラグ骨材-第1部:高炉スラグ骨材に規定される高炉スラグ粗骨材2005の粒径範囲のものを製造するため、スラグの凝固厚みは20〜40mmとした。そのため、凝固厚みが20mm以下では、破砕後の粒度分布が細粒になり、規格を満たさない。
一方、凝固厚みが40mm以上になると、吸水率が高くなり1.5%を超えることと、20mm以下にするために破砕の繰り返しが必要になり5mm未満の細粒が増え歩留が低下することが問題になる。
【実施例】
【0041】
本発明の凝固スラグ製造装置1による作用効果について、具体的な実施例に基づいて説明する。
本実施例においては、鋳型4は平面視台形形状の鋳鋼製で、その厚みを45mmとし、台形外径の上底短辺を0.7m、台形外径の下底短辺の長さを1.0mとし、台形外径の高さを2.7mとした。また、鋳型4の両面の凹陥部4aの深さを100mmとした。
周回移動機構7は、図1に示したものと同様であり、周回搬送する搬送速度は角速度で120度/minとした。
スラグ流入部位において、鋳型4には、1360℃以上1410℃以下の溶融状態の高炉スラグを約2.1t/minで流入させた。溶融スラグの流入速度は、スラグ鍋の形状と傾動角度の変化速度から算出されるスラグの排出速度と等しく、傾動角度を自動制御することにより調節した。
溶融スラグ3が流し込まれた鋳型4は空冷移動部9を126秒間{空冷移動部の長さが全周の70%(252度)}搬送し、溶融スラグ3を鋳型による抜熱及び空冷によって凝固スラグとした。
【0042】
反転排出部11では実施の形態で説明したように、鋳型4を、その支持軸を回転軸として周回方向に回転させて反転させ、凝固スラグ18をピット19に落下させ排出させた。
反転排出部11で反転して凝固スラグ18を排出した鋳型4を、反転した状態のままで移動部12を移動させ、冷却装置20が設置されている部位にて上下両面から冷却水を噴射して急冷した。
凝固スラグ排出直後の反転状態の鋳型4は凝固スラグ18に接触していた表面は300℃超えの高温状態まで上昇したが、反転させたまま冷却水を噴射することによって、鋳型4の表面温度を200℃以下の温度に急冷することができた。
【0043】
一方、鋳型4の背面側(当該周回において溶融スラグを流し込んだ面の反対側)は、移動部12において上面側になり、凝固スラグ排出直後の表面温度が200℃以上に上昇してから冷却水を噴射し、再びスラグを流し込む前の鋳型温度が150℃未満にならないように、凝固スラグ排出直後の表面温度に応じて上面側及び下面側の冷却水量と冷却水を噴射する範囲を調節した。また、上面側の冷却水噴射ノズルの設置区間の後に設置した図示しないワイピングノズルによって空気を吹き付け、鋳型4の上面側の溜まり水を排出した。
冷却後の鋳型4は、再び溶融スラグの流し込み位置まで移動部12を搬送され、この間において水冷時に残留した水分が、鋳型4の残留熱によって蒸発して、完全に除去された。
【0044】
なお、鋳型の温度はスラグを反転して落下させる直前に最も高い温度になるが、そのときに放射温度計で測定した鋳型背面側の表面温度が300℃を超えると、耐力が低下して鋳型4が変形する場合があったので、散水量、散水時間を調節して鋳型4の背面側の表面温度は300℃以下とするのが望ましい。
【0045】
その後、スラグの流し込み位置に周回して戻された鋳型に再び溶融スラグを流し込んだ。以上の工程を1回のスラグ鍋に対して約5周繰り返し、30トンの溶融スラグを連続して処理した。
【0046】
反転した鋳型から落下したスラグをピット19から回収後、凝固厚み測定すると21〜32mmであり、平均厚みは26.2mmであった。
従来実施されていた土間に溶融スラグ3を流して数mの厚みとなる場合に比べて、空冷であっても冷却速度は大きくなり、凝固スラグ18は気孔が少ない緻密な結晶質になっていた。
【0047】
以上のように、凝固スラグ製造装置1によれば、気孔の含有率が極めて低い緻密で高品質な凝固スラグ18を効率よく且つ連続的に得ることができた。
【0048】
次に、実施例と類似の周回機構を有する図4に示した凝固スラグ製造装置2において、図5に示した片面側にのみ凹陥部5aを有する鋳型5に、溶融状態の高炉スラグを流し込んで凝固スラグを製造する比較例について説明する。なお、図4において、図1と同一機能を有する部位には同一の符号を付している。
【0049】
鋳型5に流し込まれた溶融スラグ3は、鋳型5が空冷移動部9を搬送される間に鋳型5による抜熱及び空冷によって凝固した後、反転排出部11で鋳型5を反転させることにより、凝固スラグ18としてピット19に落下して排出された。
凝固スラグ18を排出した鋳型5は、反転状態のまま反転移動部13を搬送され、冷却装置21が設置されている部位にて上下両面から冷却水を噴射して急冷した。
続いて、反転状態の鋳型5は、再反転部15において再反転され、再び元の凹陥部5aが上方を向いた状態に戻された後、再び溶融スラグが流し込まれた。以上の工程を繰り返して溶融スラグを連続して処理した。
【0050】
鋳型5の凹陥部5aを下方に向けている間に下側から噴射される冷却水のほとんどは自然落下するが、付着した水分が凹陥部5aに残留していると再び溶融スラグを流し込む際に問題となる。このため、鋳型5が再反転部15を経て再び溶融スラグが流し込まれる位置まで搬送される間に鋳型5の残留熱によって蒸発するように、再びスラグを流し込む前の鋳型温度が150℃以上とするよう、凝固スラグ排出直後の表面温度に応じて冷却水量と冷却水を噴射する範囲を調節した。
【0051】
前記の実施例と対比すると、実施例と同等の鋳型の冷却及び乾燥の条件としたうえで再反転部15を設けるためには、図6に示したように空冷移動部9を1割程度短縮して全周の64%(230度)とし、空冷移動部9の移動時間を115秒間とする必要があった。このことから、実施例と同等の溶融スラグの流入速度では、反転排出部11において排出したスラグの内部が未凝固となって破面から流れ出し、一定した板状の形状の凝固スラグが得られない場合があったため、溶融スラグの流入速度を2.0t/minに調節し、凝固スラグの平均厚みは25.0mmとなった。前述したように実施例では溶融スラグの流入速度を2.1t/minとしても問題がなかったことから、実施例では比較例に対して約5%の生産性向上が可能であることが分かる。
【0052】
また、同程度の鋳型の冷却条件、即ち、凝固スラグ排出直後の鋳型背面温度を同等にする条件において、3ヶ月使用後の長期間での鋳型の反り変形の程度を比較したところ、実施例では平均反り変形量が比較例に対して約1/3に減少した。実施例では、鋳型の両面に溶融スラグを流し込むことにより、熱応力の非対称性が緩和されて、反り変形が抑制されていると考えられる。
【0053】
なお、上述した実施の形態では、図1に示したように周回方向を右回りにする例を示したが、本発明における周回方向はこれに限られず、空冷移動部、反転排出部、移動部の順に左回りであってもよい。
また、周回の形状についても、円周状でなくても、例えば楕円、矩形等であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 凝固スラグ製造装置(本発明例)
2 凝固スラグ製造装置(比較例)
3 溶融スラグ
4 鋳型(本発明例)
4a 凹陥部
4b 傾斜面
4c スラグ落下防止部位
5 鋳型(比較例)
5a 凹陥部
5b 傾斜面
5c スラグ落下防止部位
7 周回移動機構
9 空冷移動部
11 反転排出部
12 移動部
13 反転移動部
15 再反転部
17 再反転移動部
18 凝固スラグ
19 ピット
20 冷却装置
21 冷却装置
22 樋
図1
図2
図3
図4
図5
図6