(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.004%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高靭性高延性高強度熱延鋼板。
鋼素材を加熱し、粗圧延および仕上圧延からなる熱間圧延を施し熱延板としたのち、該熱延板を冷却し、所定の巻取温度で巻き取る熱延鋼板の製造方法であって、前記鋼素材を、質量%で、
C:0.04〜0.15%、 Si:0.01〜0.55%、
Mn:1.0〜3.0%、 P:0.03%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.003〜0.1%、
Nb:0.001%以上0.035%未満、 V:0.001〜0.1%、
Ti:0.001〜0.035%、 N:0.006%以下
を含み、さらに、下記(1)式で定義されるPcmが0.25以下を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材とし、
前記加熱を、加熱温度:1000〜1250℃に加熱する処理とし、
前記仕上圧延を、オーステナイト未再結晶温度域での圧下率が35%以下である圧延とし、
前記仕上圧延の圧延終了温度を、表面温度で(γ→α変態開始温度−70℃)以下ベイナイト変態開始温度以上とし、
前記冷却を、板厚中央部での平均冷却速度で、5〜50℃/sの冷却速度で冷却する処理とし、前記巻取温度を板厚中央部でベイナイト変態開始温度以下350℃以上とし、
圧延方向に展伸したフェライトと低温変態フェライトとからなるフェライト相を主相とし、第二相として面積率で20〜40%のベイナイト相とからなり、前記圧延方向に展伸したフェライトが面積率で10%以上30%未満であり、前記低温変態フェライトのラス間隔が0.2〜1.6μmであり、さらにNb析出物を、Nb換算で全Nb量に対する割合で10〜80%析出させた組織とを有する熱延鋼板とすることを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板の製造方法。
記
Pcm=[%C]+[%Si]/30+([%Mn]+[%Cu]+[%Cr])/20+[%Ni]/60+[%V]/10+[%Mo]/7+5×[%B] ‥‥(1)
ここで、[%M]:元素Mの含有量(質量%)
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.004%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5に記載の高靭性高延性高強度熱延鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー需要の高まりから、天然ガスや原油等の輸送効率を向上するため、ラインパイプには、大径でかつ高圧操業に耐え得る高強度厚肉鋼管が使用されるようになってきた。このような要求に対して、従来から厚板を素材とするUOE鋼管が主に使用されてきた。しかし、最近では、パイプラインの施工コストの低減や、UOE鋼管の供給能力不足などのために、また鋼管の素材コスト低減の要求も強く、UOE鋼管よりも生産性が高くより安価である、熱延鋼板を素材とした電縫鋼管やスパイラル鋼管が、ラインパイプ用として用いられるようになってきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.005〜0.04%、Si:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.1%、Ti:0.001〜0.1%、P:0.03%以下、S:0.005%以下およびN:0.006%以下を含み、かつCu:0.5%以下、Ni:0.5%以下およびMo:0.5%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、Pcmが0.17以下を満足し、かつ全組織中、主相であるベイニティックフェライトの占める割合が95vol%以上である、低温靱性および溶接性に優れた高強度電縫管用熱延鋼帯が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.025%以下、S:0.005%以下、Al:0.005〜0.10%、Nb:0.01〜0.10%、Ti:0.001〜0.05%を含み、かつC、Ti、Nbを([%Ti]+([%Nb]/2))/[%C]<4を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、鋼板表面から板厚方向に1mmの位置における主相であるフェライト相の平均結晶粒径と鋼板の板厚中央位置における主相であるフェライト相の平均結晶粒径との差ΔDが2μm以下で、かつ鋼板表面から板厚方向に1mmの位置における第二相の組織分率(体積%)と鋼板の板厚中央位置における第二相の組織分率(体積%)との差ΔVが2%以下であり、鋼板表面から板厚方向に1mmの位置におけるベイナイト相または焼戻マルテンサイト相の最小ラス間隔が0.1μm以上である組織を有する、低温靭性に優れた厚肉高張力熱延鋼板が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、質量%で、C:0.03〜0.06%、Si:1.0%以下、Mn:1〜2%、Al:0.1%以下、Nb:0.05〜0.08%、V:0.05〜0.15%、Mo:0.10〜0.30%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、ベイナイト相単相で、該ベイナイト相中にNbおよびVの炭窒化物を、NbおよびVの合計量換算で0.06%以上、分散させてなる組織とを有し、引張強さTS:760MPa以上の高強度と破面遷移温度vTrs:−100℃以下の高靭性とを有する、高強度溶接鋼管用高張力熱延鋼板が記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、質量%で、C:0.06〜0.12%、Si:0.01〜1.0%、Mn:1.2〜3.0%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.08%以下、Nb:0.005〜0.07%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.010%以下、O:0.005%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成と、ベイナイトと島状マルテンサイトとの二相組織からなり、該島状マルテンサイトの面積分率が3〜20%でかつ円相当径が3.0μm以下である組織とを有し、一様伸びが7%以上、降伏比が85%以下、さらに250℃以下の温度で30分以下の歪時効処理を施した後においても一様伸びが7%以上かつ降伏比85%以下である、耐歪時効特性に優れた低降伏比高強度高一様伸び鋼板が記載されている。
【0007】
また、特許文献5には、質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.025%以下、S:0.005%以下、Al:0.005〜0.10%、Nb:0.01〜0.10%、Ti:0.001〜0.05%を含み、かつC、Ti、Nbを([%Ti]+([%Nb]/2))/[%C]<4を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材を加熱し、粗圧延と仕上圧延とからなる熱間圧延を施したのち、板厚中心位置の平均冷却速度が10℃/s以上で、かつ板厚中心位置の平均冷却速度と表面から板厚方向に1mmの位置での平均冷却速度との冷却速度差が、80℃/s未満である冷却を、表面から板厚方向に1mmの位置での温度が650℃以下500℃以上の温度域の温度となる一次冷却停止温度まで行う一次加速冷却と、板厚中心位置の平均冷却速度が10℃/s以上で、板厚中心位置の平均冷却速度と表面から板厚方向に1mmの位置での平均冷却速度との冷却速度差が、80℃/s以上である冷却を、板厚中心位置の温度がBFS(℃)=770−300C−70Mn−70Cr−170Mo−40Cu−40Ni−1.5CR(CR:冷却速度(℃/s))以下の二次冷却停止温度まで行う二次加速冷却を施し、該二次加速冷却後に、板厚中心位置の温度でBFS0(℃)=770−300C−70Mn−70Cr−170Mo−40Cu−40Ni以下の巻取温度で巻き取る、強度−延性バランスに優れた厚肉高張力熱延鋼板の製造方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された技術では、焼入れ性の確保のために、Cu、Ni、Moのうちの1種以上を含有することを必須の要件としている。しかし、これらの元素は希少元素で、将来に亘り安定した供給を確保することに問題を残しており、将来の安定生産の妨げになる。また、製造にあたり、特許文献1の実施例に示されるように、圧延終了後の冷却が20℃/s以下と遅い冷却速度となっており、生成されるベイニティックフェライトのラスの粗大化が生じやすく、強度(特に引張強さ)が低下しやすいという問題があった。また、特許文献2に記載された技術では、結晶粒径差を小さくするために、鋼板表面から板厚方向に1mmの位置における冷却速度と鋼板の板厚中央位置における冷却速度の差を少なくする必要があり、厚肉鋼板の場合、実質的に多段冷却などの特殊な冷却技術が必要となる。このため、冷却能力に優れた冷却設備等の更なる配設が必要となるなどの問題があった。
【0010】
ラインパイプ用素材としては、強度、低温靭性に加え、伸び特性が重要となるが、近年の高強度化の進行に伴い、とくに板厚表層域での伸び特性の低下が問題となっている。特許文献3に記載された技術では、TS:760MPa以上と非常に高強度であることから、板厚が厚くなった場合、特に板表層域での硬度が上昇し、伸び特性の悪化が起こりやすいという問題がある。
【0011】
また、特許文献4に記載された技術では、3%以上の島状マルテンサイトを含むことを必須の要件としており、靭性(特にDWTT特性)の低下が起こりやすいうえ、所定の組織を確保するために、実質的に再加熱処理を必要とし、製造工程が複雑になるとともに、再加熱設備等の更なる配設が必要となるなどの問題があった。また、特許文献5に記載された技術では、二段階の冷却を必須の要件としており、同様に、製造工程が複雑になるとともに、冷却能力に優れた冷却設備等の更なる配設が必要となるなどの問題があった。
【0012】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、複雑な工程を経ることなく、また大掛かりな設備改造を行うこともなく、API規格X70〜X80級電縫鋼管用素材として、また、API規格X70〜X80級スパイラル鋼管用として好適な、高強度で低降伏比、高靭性、高延性(優れた伸び特性)を兼備する、高靭性高延性高強度熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、ここでいう「高強度」とは、API規格X70〜X80級鋼管が製造可能な、降伏強さYS:490MPa以上、引張強さTS:630MPa以上を有する場合をいうものとする。また、「低降伏比」とは降伏比が85%以下である場合をいい、また、「高靭性」とは、シャルピー衝撃試験の試験温度:−60℃における吸収エネルギーがE
−60が120J以上、破面遷移温度vTrsが−80℃以下である場合をいい、「高延性(優れた伸び特性)」とは、引張試験における、丸棒引張試験片(6mmφ×標点間距離25mm)で測定された全伸びEl:20%以上である場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、強度、靭性、延性に及ぼす組成と組織の影響について鋭意研究した。その結果、高強度と高靭性を兼備し、低降伏比でさらに優れた延性(伸び特性)を保持させるには、組織をフェライト相を主相とし、ベイナイト相を第二相とする複合組織としたうえで、主相であるフェライト相を、圧延方向に展伸したフェライトと低温変態フェライトとするとともに、Nbの析出割合を適正範囲に調整し、フェライト相の変態強化と析出強化とをバランスよく調整することが重要であることを見出した。低温変態フェライトは、0.2〜1.6μmの範囲の狭いラス間隔を有し、フェライト相を変態強化することができ、さらにNbの析出割合を適正範囲である、Nb全量に対する割合で10〜80%とすることによりフェライト相を析出強化することができる。これらを複合して利用することにより、高強度と高靭性とを兼備できる素地が形成され、さらに、第二相を体積率で20〜40%のベイナイト相とすることにより、85%以下の低降伏比を確保できることを知見した。
【0014】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.01〜0.55%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.003〜0.1%、Nb:0.001%以上0.035%未満、V:0.001〜0.1%、Ti:0.001〜0.035%、N:0.006%以下を含み、
さらに、下記(1)式で定義されるPcmが0.25以下を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、圧延方向に展伸したフェライトと低温変態フェライトとからなるフェライト相を主相とし、第二相として面積率で20〜40%のベイナイト相とからなり、前記圧延方向に展伸したフェライトが面積率で10%以上30%未満であり、前記低温変態フェライトのラス間隔が0.2〜1.6μmであり、さらにNb析出物を、Nb換算で全Nb量に対する割合で10〜80%析出させた組織とを有することを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板。
記
Pcm=[%C]+[%Si]/30+([%Mn]+[%Cu]+[%Cr])/20+[%Ni]/60+[%V]/10+[%Mo]/7+5×[%B] ‥‥(1)
ここで、[%M]:元素Mの含有量(質量%)
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.004%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.005%を含有することを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成がさらに、次
(2)式
Px=701[%C]+85[%Mn] ‥‥(2)
(ここで、[%M]:元素Mの含有量(質量%))
で定義されるPxが181以上
を満足することを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板。
(5)鋼素材を加熱し、粗圧延および仕上圧延からなる熱間圧延を施し熱延板としたのち、該熱延板を冷却し、所定の巻取温度で巻き取る熱延鋼板の製造方法であって、前記鋼素材を、質量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.01〜0.55%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.003〜0.1%、Nb:0.001%以上0.035%未満、V:0.001〜0.1%、Ti:0.001〜0.035%、N:0.006%以下を含み、
さらに、下記(1)式で定義されるPcmが0.25以下を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材とし、前記加熱を、加熱温度:1000〜1250℃に加熱する処理とし、
前記仕上圧延を、オーステナイト未再結晶温度域での圧下率が35%以下である圧延とし、前記仕上圧延の圧延終了温度を、表面温度で(
γ→α変態開始温度−70℃)以下ベイナイト変態
開始温度以上とし、前記冷却を、板厚中央部での平均冷却速度で、5〜50℃/sの冷却速度で冷却する処理とし、前記巻取温度を板厚中央部でベイナイト変態
開始温度以下350℃以上
とし、圧延方向に展伸したフェライトと低温変態フェライトとからなるフェライト相を主相とし、第二相として面積率で20〜40%のベイナイト相とからなり、前記圧延方向に展伸したフェライトが面積率で10%以上30%未満であり、前記低温変態フェライトのラス間隔が0.2〜1.6μmであり、さらにNb析出物を、Nb換算で全Nb量に対する割合で10〜80%析出させた組織とを有する熱延鋼板とすることを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板の製造方法。
記
Pcm=[%C]+[%Si]/30+([%Mn]+[%Cu]+[%Cr])/20+[%Ni]/60+[%V]/10+[%Mo]/7+5×[%B] ‥‥(1)
ここで、[%M]:元素Mの含有量(質量%)
(6)(5)において、前
記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.004%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板の製造方法。
(
7)(5)
または(6)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.005%を含有することを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板の製造方法。
(
8)(5)ないし(
7)のいずれかにおいて、前記組成がさらに、次
(2)式
Px=701[%C]+85[%Mn] ‥‥(2)
(ここで、[%M]:元素Mの含有量(質量%))
で定義されるPxが181以上
を満足する組成であることを特徴とする高靭性高延性高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複雑な工程を経ることなく、また再加熱設備や冷却設備など大掛かりな設備改造を行うこともなく、API規格X70〜X80級の電縫鋼管用またAPI規格X70〜X80級のスパイラル鋼管用の素材として好適な、高強度で低降伏比、高靭性、高延性を兼備する高靭性高延性高強度熱延鋼板を容易に、しかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。なお、本発明になる熱延鋼板は、ラインパイプ、油井管に限らず、土木建築用鋼管等の素材として、広範な使途に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明熱延鋼板の組成限定理由について説明する。なお以下、質量%は単に%で記す。
C:0.04〜0.15%
Cは、ラス間隔を小さくする変態強化、さらにはNb、V、Tiと結合し炭化物として析出する析出強化、を介して鋼板の強度増加に寄与する重要な元素である。所望の強度を確保するためには、0.04%以上の含有を必要とする。一方、0.15%を超えて多量に含有すると板厚表層位置でのラス間隔が極端に狭くなるとともに析出物の過剰な増加により、靭性および延性(伸び特性)が低下する。また、Cの多量含有は、炭素当量を高くし、溶接部の靭性を低下させる。このようなことから、Cは0.04〜0.15%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.06〜0.14%である。
【0017】
Si:0.01〜0.55%
Siは、脱酸剤として作用し、さらに固溶して鋼の強化に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.01%以上の含有を必要とする。また、0.01%未満までのSiの低減は精錬コストの高騰を招く。このようなことからも、Siは0.01%以上に限定した。一方、0.55%を超えて多量に含有すると、Mn-Si系の非金属介在物を形成して溶接部靭性を低下させる。このため、Siは0.01〜0.55%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.45%である。
【0018】
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、γ→α変態点(フェライト変態点)を低下させ、焼入れ性を向上させ、低温変態フェライトの生成を促進する。また、フェライト変態がより低温で起こるようになるため、低温フェライトのラス間隔が小さくなる。このため、強度が上昇する。また、低温で変態するため、フェライト組織が微細となり、靭性が向上する。このように、Mnは、鋼板強度の増加および靭性の向上に寄与する元素である。このような効果を確保するためには、1.0%以上の含有を必要とする。一方、3.0%を超える含有は、鋼板組織でラス間隔を極端に狭くし、延性を低下させるうえ、偏析を助長し、機械的特性のバラツキが発生しやすい等の悪影響を及ぼす。また、多量に含有すると、炭素当量の増加を招き、溶接部靭性を低下させる恐れがある。このため、Mnは1.0〜3.0の範囲に限定した。なお、好ましくは1.45〜2.6%である。
【0019】
P:0.03%以下
Pは、鋼中では不純物として存在し、粒界等に偏析しやすく、靭性低下を招く恐れがあり、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、0.03%以下であれば許容できる。このため、Pは0.03%以下に限定した。なお、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、0.001%以上とすることが好ましい。
【0020】
S:0.01%以下
Sは、鋼中では硫化物系介在物として存在し、鋼板の延性、靭性を低下させる。このため、できるだけ低減することが望ましいが、0.01%以下であれば許容できる。なお、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、0.001%以上とすることが好ましい。
Al:0.003〜0.1%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を確保するためには0.003%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超えて多量に含有すると、アルミナ系介在物の多量生成を招き、溶接部欠陥を多発させる。このため、Alは0.003〜0.1%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.06%である。
【0021】
Nb:0.001%以上0.035%未満
Nbは、炭窒化物を形成し、結晶粒の微細化、鋼の析出強化に有効に寄与する元素であり、このような効果を確保するためには、0.001%以上の含有を必要とする。一方、0.035%以上含有すると、仕上圧延中にフェライト変態が進行しなくなり、所望のフェライト相を主相としベイナイト相を第二相とする複合組織の形成が阻害される。このようなことから、Nbは0.001%以上0.035%未満の範囲に限定した。なお、結晶粒の細粒化効果を確保するためには0.035%未満の含有で十分である。
【0022】
V:0.001〜0.1%
Vは、炭窒化物として析出し析出強化により鋼板の強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.001%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超えて多量に含有すると、溶接性が低下する。このため、Vは0.001〜0.1%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.001〜0.08%である。
【0023】
Ti:0.001〜0.035%
Tiは、窒化物を形成し結晶粒の微細化に有効に寄与し、あるいは炭化物として析出し、析出強化により鋼板強度の増加に寄与する。このような効果を得るためには0.001%以上の含有を必要とする。一方、0.035%を超えて多量に含有すると、γ→α変態点(フェライト変態点)を上昇させ、ラス構造を有するフェライトの生成を困難とする。このため、Tiは0.001〜0.035%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.008〜0.03%である。
【0024】
N:0.006%以下
Nは、不純物として存在し、とくに溶接部の靭性を低下させるため、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、0.006%以下であれば許容できる。このため、Nは0.006%以下に限定した。なお、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、0.001%以上とすることが好ましい。
【0025】
上記した成分が基本の成分であるが、必要に応じて、基本成分に加えてさらに、選択元素として、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.004%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.005%を選択して含有できる。
【0026】
Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.004%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Mo、Cr、Bはいずれも、鋼板の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。
Cuは、γ→α変態を抑制して焼入れ性を向上させ、鋼板強度の増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが望ましい。一方、0.5%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、含有する場合には、Cuは0.5%以下に限定することが好ましい。
Niは、γ→α変態を抑制して焼入れ性を向上させ、鋼板強度の増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが望ましい。一方、0.5%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、含有する場合には、Niは0.5%以下に限定することが好ましい。
【0027】
Moは、γ→α変態を抑制して焼入れ性を向上させ、鋼板強度の増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが望ましい。一方、0.5%を超えて含有すると、焼入れ性が向上しすぎて、とくに表層位置での低温変態フェライトのラス間隔を極端に狭くし、靭性、延性(伸び特性)を低下させる。また、Moの過剰な含有は、マルテンサイトの生成を促進し、母材靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Moは0.5%以下に限定することが好ましい。
【0028】
Crは、焼入れ性を向上させ、鋼板強度を増加させる作用に加えて、微量含有でパーライト変態を遅延させる効果を有し、さらに粒界セメンタイトを低減する作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが望ましい。一方、0.5%を超えて多量に含有すると、焼入れ性が向上しすぎてとくに表層位置での低温変態フェライトのラス間隔を極端に狭くし、靭性、延性(伸び特性)を低下させる。また、Crの多量含有は溶接熱影響部組織を硬化した組織とし、溶接熱影響部靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Crは0.5%以下に限定することが好ましい。
【0029】
Bは、微量の含有で高温でのγ→α変態を抑制し、フェライト相の硬度低下を抑制する作用を有する。このような効果を得るためには、0.0001%以上含有することが望ましい。一方、0.004%を超えて含有すると、溶接熱影響部組織を硬化した組織とする恐れがあり、溶接熱影響部の靭性低下に繋がる。このため、含有する場合にはBは0.004%以下に限定することが好ましい。
【0030】
Ca:0.0001〜0.005%
Caは、Sと結合し、MnSの生成を抑制する作用を介し、靭性向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を確保するためには、0.0001%以上含有することが好ましい。一方、0.005%を超える多量の含有は、Ca系酸化物の多量形成を招き、靭性が低下する。このため、含有する場合には、Caは0.005%以下に限定することが好ましい。
【0031】
上記した成分を上記した範囲で含み、さらに(1)式で定義されるPcmが0.25以下を、および(2)式で定義されるPxが181以上を満足するように、各元素の含有量を調整することが望ましい。
Pcmは次(1)式
Pcm=[%C]+[%Si]/30+([%Mn]+[%Cu]+[%Cr])/20+[%Ni]/60+[%V]/10+[%Mo]/7+5×[%B] ‥‥(1)
ここで、[%M]:元素Mの含有量(質量%)
で定義される。
【0032】
Pcmは、焼入れ性の程度を示す指標であり、0.25を超えて大きくなると、ラス間隔、とくに鋼板の表層位置におけるラス間隔、を過剰に狭くする。このため、靭性と伸び特性(延性)が低下する。このようなことから、Pcmは、0.25以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.23以下である。
また、Pxは、次(2)式
Px=701[%C]+85[%Mn] ‥‥(2)
ここで、[%M]:元素Mの含有量(質量%)
で定義される。Pxは、巻取温度が350℃以上ベイナイト変態点以下の範囲において、低温変態フェライトのラス間隔を制御する指標である。低温変態フェライトのラス間隔を、X80級の強度を確保できる程度のラス間隔とするためには、Px:181以上とすることが好ましい。なお、より好ましくは190以上である。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、Sn:0.01%以下、Mg:0.005%以下が許容できる。
【0033】
次に、本発明高靭性高延性高強度熱延鋼板の組織について説明する。
本発明熱延鋼板は、フェライト相を主相とし、フェライト相に第二相であるベイナイト相が面積率で20〜40%分散した形態を呈する複合組織を有する。なお、ここでいう「主相」とは、当該相の面積率が60%以上である場合をいうものとする。そして、主相であるフェライト相は、圧延方向に展伸したフェライトと低温変態フェライトとからなる。ここでいう「圧延方向に展伸したフェライト」は、圧延方向に伸ばされたフェライトをいう。ここでいう「圧延方向に展伸したフェライト」とはアスペクト比(結晶粒の圧延方向の長さ/結晶粒の板厚方向の長さ)が2.0以上のフェライトをいうものとする。
【0034】
本発明では、主相であるフェライト相にベイナイト相が分散した形態の組織とするため、仕上圧延過程中にγ→α変態を進行させる。このため、生成したフェライトは、仕上圧延により圧延方向に伸ばされて、展伸した形態のフェライトとなる。
また、仕上圧延後の冷却過程でγ→α変態が進行し、低温変態フェライトが生成する。ここでいう「低温変態フェライト」は、透過電子顕微鏡で観察できるラス構造を有し、ラス間隔が0.2〜1.6μmの範囲であるフェライトである。
【0035】
なお、変態したフェライトから周辺のオーステナイト相へはCが拡散し、オーステナイト相のC含有量が高くなる。C含有量が高くなったオーステナイトからは、仕上圧延後の冷却過程中に、ベイナイトが安定して形成される。このようなことから、本発明熱延鋼板は、圧延方向に展伸したフェライトと低温変態フェライトとからなるフェライト相を主相とし、主相中に第二相として面積率で20〜40%のベイナイト相が分散した複合組織を呈する。また、主相のフェライト相は、圧延方向に展伸したフェライトが面積率で10%以上30%未満であり、残部が低温変態フェライトからなる。なお、ここでいう組織の面積率は、第二相であるベイナイト相をも含む組織全体に対するものである。
【0036】
圧延方向に展伸したフェライト:面積率で10%以上30%未満
主相のフェライト相中の圧延方向に展伸したフェライトの割合が大きくなりすぎると、低温変態フェライトの割合が小さくなりすぎ、所望の引張強さを確保できなくなる。また、展伸したフェライトの割合が10%未満では、比較的軟質な展伸したフェライトの割合が少なすぎて、降伏比(YR)が85%を超える。このため、圧延方向に展伸したフェライトは面積率で10%以上30%未満の範囲とする。
【0037】
低温変態フェライトのラス間隔:0.2〜1.6μm
本発明では、低温変態フェライトのラス間隔を狭くすることにより、強度の増加を図っている。しかし、低温変態フェライトのラス間隔が0.2μm未満では、析出強化を併用することなく低温変態フェライトの強度が増加しすぎて、靭性、伸び特性(延性)が低下する。一方、ラス間隔が1.6μmを超えて大きくなると、析出強化を併用しても所望のX80級の高強度を確保できなくなる。このため、低温変態フェライトのラス間隔は0.2〜1.6μmの範囲に限定した。なお、好ましくは0.3〜1.4μmである。
【0038】
なお、ラス間隔は、板厚方向中央部より薄膜用試片を採取し、透過型電子顕微鏡(倍率:20000倍)でラス構造を3視野以上観察し、得られた組織写真についてそれぞれ、ラスに対して垂直方向に線分を引き、ラス間の線分長を求める。得られたラス間隔を算術平均しその値をその鋼板のラス間隔とする。
ベイナイト相の組織分率:面積率で20〜40%
ベイナイト相の組織分率が、面積率で20%未満では引張強さの増加量が少なく、所望の低降伏比(85%以下)を確保することができない。一方、40%を超えると、圧延方向に伸びたベイナイト相が増加するため、靭性が低下する。また、ベイナイト相が40%を超えて多量に形成されると、ベイナイト相の硬さが低下する傾向があり、このため、所望の引張強さ増加量を確保できなくなる。このため、ベイナイト相は、面積率で20〜40%の範囲に限定した。
【0039】
さらに本発明熱延鋼板は、基地中にNb析出物を、Nb換算で全Nb量に対する割合で10〜80%析出させた組織を有する。
Nb析出物:Nb換算で全Nb量に対する割合で10〜80%
析出物となっているNb量の全Nb量に対する割合(Nbの析出割合)が10%未満では、所望の高強度化を達成できないうえ、造管後の機械的特性のバラツキが大きくなる。一方、Nbの析出割合が80%を超えて多量になると、主相であるフェライト相の硬さが高くなり、靭性、伸び特性(延性)が低下する。また、第二相のベイナイト相との硬度差が小さくなるため降伏比が高くなる。このため、析出物となっているNb量(Nbの析出割合)を10〜80%の範囲内となるように調整することとした。なお、Nb析出物量の調整は、冷却停止温度と巻取温度を制御することによった。
【0040】
なお、Nbの析出割合は、つぎのような方法で測定した値を使用するものとする。対象とする鋼板から電解抽出用試験片を採取し、採取した試験片を、電解液(10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニウム−メタノール)中で、低電流電解(約20mA/cm
2)し、得られた抽出残渣をメンブランフィルター(孔径:0.2μmφ)で捕集し、その後、フィルターおよび残渣を圧下し、硫酸、硝酸および過塩素酸の混合融剤を用いて融解し、副生物を塩酸で溶解し、水で一定量に希釈して、ICP発光分析法により残渣中に含まれるNb量を定量する。得られたNb量(析出物となっているNb量)を用いて、全Nb量に対する割合を算出し、Nbの析出割合とする。
【0041】
つぎに、本発明熱延鋼板の製造方法を説明する。
本発明熱延鋼板は、上記した組成の鋼素材(温片又は冷片)を所定の加熱温度に加熱し、粗圧延および仕上圧延からなる熱間圧延を施し熱延板としたのち、該熱延板を所定の冷却速度にて加速冷却し、所定の巻取温度で巻き取る、工程で製造される。
なお、鋼素材の製造方法は特に限定する必要はないが、上記した組成の溶鋼を、転炉等の公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の公知の鋳造方法でスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。なお、連続鋳造法以外に、造塊−分塊圧延法を採用してもなんら問題はない。
【0042】
得られた鋼素材を、加熱温度:1000〜1250℃に加熱する。
加熱温度:1000〜1250℃
加熱温度が1000℃未満では析出強化元素であるNb、V、Tiが十分固溶せず、X70級の強度が確保できない。一方、1250℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化し熱延板の靭性が低下する。このため、鋼素材の加熱温度は1000〜1250℃の範囲の温度に限定した。なお、好ましくは1100〜1200℃である。
【0043】
上記した加熱温度に加熱された鋼素材は、粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延を施される。粗圧延は、鋼素材を所定寸法のシートバーとすることができればよく、その条件はとくに限定する必要はない。粗圧延で得られたシートバーはついで、仕上圧延を施される。
仕上圧延は、仕上圧延終了温度が、表面温度で(フェライト変態点−70℃)以下ベイナイト変態点以上となる圧延とする。なお、仕上圧延では、オーステナイト未再結晶温度域での圧下率を35%以下とすることが好ましい。
【0044】
オーステナイト未再結晶温度域(未再結晶γ域)での圧下率:35%以下
オーステナイト(γ)相の再結晶が遅延するオーステナイト未再結晶温度域で圧延を行うことにより、導入される歪が蓄積され、冷却過程におけるγ/α変態の核生成サイトが増加して、析出するフェライト粒が微細化し、強度及び靭性が向上する。このような効果を得るためには、未再結晶γ域での圧下率を20%以上とすることが望ましい。一方、圧下率:35%を超える未再結晶γ域での圧延を行うと、仕上圧延中に形成されたフェライトが圧延方向に過度に展伸される。このため、低温での衝撃試験においてセパレーションが発生し吸収エネルギーが低下しやすい。このようなことから、オーステナイト未再結晶温度域(未再結晶γ域)での圧下率を35%以下に限定することが好ましい。
【0045】
仕上圧延の圧延終了温度:(フェライト変態点−70℃)以下ベイナイト変態点以上
本発明では、所望の組織を得るために、仕上圧延中にフェライトを生成させる必要がある。そのため、仕上圧延の圧延終了温度を、(フェライト変態点−70℃)以下に限定した。なお、仕上圧延終了温度は、仕上圧延機の出側での鋼板表面温度の測定値である。
仕上圧延終了温度が(フェライト変態点−70℃)を上回ると、仕上圧延中に鋼板内部でのフェライト生成が阻害され、所望の組織が得られない。ベイナイト相の形態は仕上圧延過程でのフェライトの変態割合に左右される。(フェライト変態点−70℃)〜(フェライト変態点)の温度範囲では、展伸フェライトが形成されにくく、固溶炭素量が高いオーステナイトが形成されにくいため、ベイナイト相の引張強さ上昇効果が低下する。一方、仕上圧延終了温度がベイナイト変態点を下回ると生成するフェライト分率が低下し、延性が低下し所望の高延性が確保できなくなり、また降伏比が増加する。このため、仕上圧延終了温度は(フェライト変態点−70℃)以下ベイナイト変態点以上の範囲に限定した。なお、好ましくは700〜790℃である。
【0046】
仕上圧延を終了したのち、熱延板は冷却される。熱間圧延後の冷却は、板厚中央部での冷却速度で、平均で5〜50℃/sの範囲とする。熱間圧延後の冷却は、目標の冷却速度を確保できれば、とくにその手段は問わないが、通常水冷による強制冷却である。
板厚中央部での平均冷却速度:5〜50℃/s
平均冷却速度が板厚中央部で、5℃/s未満では、冷却速度が遅く、Nb炭化物、Nb炭窒化物の析出温度域に長時間滞留する。このため、Nbが析出しやすくなり、Nbの析出割合が高くなり、フェライト相の硬さが高くなって、靭性、伸び特性(延性)が低下する。さらに、フェライト相と硬質第二相であるベイナイト相との強度差が小さくなるため、低降伏比を確保することができなくなる。一方、50℃/sを超えて冷却速度が速くなると、低温変態フェライトの生成する時間がほとんどなくなり、低温変態フェライトの面積率が低下するとともに、ベイナイトの生成が促進され、ベイナイト相の面積率が大きくなる。このため、軟質相であるフェライト相の面積率が小さく、ベイナイト相の面積率の大きい組織となり、低降伏比を確保することができなくなる。このため、仕上圧延終了後の冷却(冷却開始から冷却停止まで)における平均冷却速度を5〜50℃/sの範囲に限定した。好ましくは、10〜40℃/sである。なお、板厚中央部での温度は、実測される鋼板表面温度と水冷条件から、熱伝導−熱伝達計算により求める。
【0047】
なお、上記した平均冷却速度で、鋼板表面温度で360〜530℃の冷却停止温度まで冷却する。冷却停止温度が上記した範囲を外れると、所望の巻取温度で巻き取ることが困難となる。
上記した条件の冷却を停止したのち、巻取温度:350℃以上ベイナイト変態点以下でコイル状に巻き取る。
【0048】
巻取温度:板厚中央温度で350℃以上ベイナイト変態点以下
Nb、V、Ti等の析出強化を有効に利用するため、巻取温度は、板厚中央部での温度で350℃以上とする。一方、巻取温度が板厚中央部での温度でベイナイト変態点を超えると、ベイナイトがほとんど生成しなくなる。ベイナイトはフェライトより硬質なため、ベイナイトが少なくなると強度が低下する。本発明鋼板では、フェライトとベイナイトの硬度差を利用して降伏比を低下させているため、ベイナイトが少なくなると、鋼板の降伏比が高くなる。また、低温変態フェライトのラス間隔が大きくなり、低温変態フェライトの強度が低下する。さらに、粗大なパーライトが生成するため、靭性が低下する。このため、巻取温度は板厚中央部の温度で、350℃以上ベイナイト変態点以下に限定した。なお、好ましくは400〜600℃である。
【0049】
以下、実施例に基づきさらに本発明について説明する。
【実施例】
【0050】
表1に示す組成の連鋳製スラブ(鋼素材)(肉厚:215mm)を出発素材とした。これら鋼素材を、表2に示す加熱温度に加熱したのち、粗圧延と表2に示す条件の仕上圧延とからなる熱間圧延を施し、仕上圧延終了後、表2に示す冷却条件で表2に示す冷却停止温度まで冷却し、表2に示す巻取温度でコイル状に巻取り、表2に示す板厚の熱延鋼板(鋼帯)とした。
【0051】
得られた熱延鋼板から試験片を採取し、組織観察、抽出残渣分析、引張試験、衝撃試験、DWTT試験を実施した。試験方法は次の通りとした。
(1)組織観察
得られた熱延鋼板から圧延方向断面の組織観察用試験片を採取し、該試験片の板厚方向中央部が観察位置となるように研磨、腐食して、走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍または2000倍)を用いて組織を観察し、撮像した。得られた組織写真について画像解析を用いて、組織の種類とその分率(面積率)を求めた。なお、観察した視野数は、組織形態に応じて適宜決定した。なお、低温変態フェライト以外のフェライト結晶粒については、圧延方向の長さと板厚方向の長さを測定し、アスペクト比(結晶粒の圧延方向の長さ/結晶粒の板厚方向の長さ)を求め、2.0以上のものを圧延方向に展伸したフェライトとした。
また、得られた熱延鋼板の板厚表層位置より薄膜用試料を採取し、透過型電子顕微鏡(倍率:20000倍)を用いて組織を各3視野以上で観察し、撮像して、フェライト相中のラス構造の有無を判定し、さらにラス間隔を測定した。なお、ラス間隔は、得られた組織写真についてそれぞれ、ラスに対して垂直方向に線分を引き、ラス間の線分長を求め、得られたラス間隔を算術平均しその値をその熱延鋼板のラス間隔とした。
【0052】
(2)抽出残渣分析
得られた熱延鋼板の板厚中央位置より電解抽出用試験片を採取し、該試験片をマレイン酸系電解液中で電解し、析出物(残渣)を抽出した。抽出された残渣(析出物)中のNb量を、ICP発光分析法により測定して、試験片全量に対する質量%で算出した。得られた抽出された残渣(析出物)中のNb量(質量%)を、全Nb量に対する割合(%)で表示し、Nb析出物量の指標として、Nbの析出割合(%)とした。
なお、使用した電解液の組成は、10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニウム−メタノールとした。また、電解抽出にあたっては、低電流電解(約20mA)とした。
得られた抽出残渣をメンブランフィルター(孔径:0.2μmφ)で捕集し、その後、フィルターおよび残渣を圧下し、硫酸、硝酸および過塩素酸の混合融剤を用いて融解し、副生物を塩酸で溶解し、水で一定量に希釈した。この希釈液をICP発光分析法で分析した。なお、Nbの析出割合が10〜80%の範囲内にある場合を「強度、靭性、伸び特性に好ましいNbの析出割合」と評価した。
【0053】
(3)引張試験
得られた熱延鋼板の板厚中央部から、圧延方向に直交する方向(C方向)が長手方向となるように、引張試験片(平行部長さ:30mm、ゲージ間距離:25mm、ゲージ部径:6mmφ)を採取し、ASTM E8M−04の規定に準拠して、室温で引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、全伸びEl、降伏比)を求めた。
(4)シャルピー衝撃試験
得られた熱延鋼板の板厚中央部から、圧延方向に直交する方向(C方向)が長手方向となるようにVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、試験温度:−60℃での吸収エネルギーvE
−60(J)と破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。なお、各試験温度で用いる試験片は3本とした。vE
−60は、得られた試験片3本の吸収エネルギー値を算術平均した平均値とした。
【0054】
(5)DWTT試験
得られた熱延鋼板から、圧延方向に直交する方向(C方向)が長手方向となるようにDWTT試験片(大きさ:板厚×幅3in.×長さ12in.)を採取し、ASTM E 436の規定に準拠して、DWTT試験を行い、延性破面率が85%となる最低温度(DWTT)を求めた。
なお、DWTTが−30℃以下の場合を高靭性であると評価した。
得られた結果を表3に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
本発明例はいずれも、YS:490MPa以上、TS:630MPa以上の高強度と、85%以下の低降伏比で、かつ、vE
−60:120J以上、vTrs:−80℃以下で、DWTT:−30℃以下の高靭性と、全伸びElが20%以上の高延性とを有する、高靭性高延性高強度熱延鋼板となっている。本発明例の熱延鋼板を用いて製造された電縫鋼管等は優れた変形特性を有することが期待できる。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、強度が低いか、靭性が低下しているか、高降伏比であるか、伸びが低く延性が低下しているか、あるいはそれら全てが低下している。